説明

異常監視システムおよび異常監視方法

【課題】電動機で駆動される設備の初期の異常を高精度かつ簡易に検知することができる異常監視システム等を提供すること。
【解決手段】統計的監視指標化処理部275は、事前に設備の正常動作時の電動機のトルク電流実績と、速度実績と、移動量実績の時系列データを取得し、トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、移動量実績値との相関関係の平均的挙動を求める。一方、統計的監視指標化処理部375は、操業時において設備から得られるトルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、移動量実績値との相関関係について、前記設備の正常動作時の相関関係の平均的挙動からの外れ度を算出する。判定処理部377は、算出された外れ度をもとに設備の異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント設備等の監視対象から得られる時系列データをもとに、監視対象の異常を検知する異常監視システムおよび異常監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼製品の製造プラント等で多くを占める、電動機(モータ)で駆動される設備の状態監視では、一般に、その監視対象の設備から得られる信号データに対して適当な上下限を設定することで監視対象の設備の異常を検知している。
【0003】
たとえば、特許文献1には、電動機の位置指令値と位置実績値、速度指令値と速度実績値の差異信号から確率密度関数を演算し、演算された確率密度関数と予め設定された閾値(上下限)との対比を行うことで電動機の異常を検知して、監視対象の設備の異常を検知することが記載されている。また、特許文献2には、電動機の負荷が一定の定常状態において、電動機の電流値を予め設定された上下限と対比させ、電流値の変動が発生することで電動機と負荷との間の減速機の異常を検知することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−158031号公報
【特許文献2】特開2006−102889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電動機で駆動される設備では、異常の初期段階では速度や位置の信号データに目立った異常が見られない場合が多い。したがって特許文献1の方法では、初期の異常を捉えにくく、速度や位置の信号データに異常が出現するタイミングでは手遅れになりやすい。また、特許文献2の方法によれば、異常の初期段階でのトルク電流の変化は上下限を設定しても捉えにくい。加えて、鉄鋼製品の製造プラントのように多数の設備で構成される場合に、個々の設備について適切な上下限を設定しなければならず、マンパワーやコストが過大になる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電動機で駆動される設備の初期の異常を高精度かつ簡易に検知することができる異常監視システムおよび異常監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る異常監視システムは、電動機で駆動される設備から得られる時系列データをもとに監視対象の前記設備の異常を検知する異常監視システムであって、事前に設備の正常動作時の前記電動機のトルク電流実績と、速度実績と、移動量実績の時系列データを取得して、前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値との相関関係の平均的挙動を求める正常時平均的挙動取得手段と、操業時において前記設備から得られる前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値との相関関係について、前記設備の正常動作時の相関関係の平均的挙動からの外れ度を算出する操業時外れ度算出手段と、前記操業時外れ度算出手段が算出した前記外れ度をもとに前記設備の異常を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る異常監視システムは、上記の発明において、前記正常時平均的挙動取得手段は、前記設備の正常動作時の前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値とによって定まる3次元空間内の1点を正常パターンとし、複数の正常パターンに対して主成分分析を行って前記正常パターンの主成分の変換係数を取得し、前記操業時外れ度算出手段は、操業時の前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値とによって定まる3次元空間内の点を操業時パターンとし、前記正常パターンの主成分の変換係数をもとに前記操業時パターンの主成分を算出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る異常監視システムは、上記の発明において、前記正常時平均的挙動取得手段は、前記正常パターンの主成分の寄与率を算出して主要な主成分をさらに決定し、前記判定手段は、前記操業時パターンの主成分のうちの前記主要な主成分以外の外れ成分をもとに前記外れ度を算出し、該外れ度が所定値以上の場合に前記監視対象を異常と判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る異常監視方法は、電動機で駆動される設備から得られる時系列データをもとに監視対象の前記設備の異常を検知する異常監視方法であって、事前に設備の正常動作時の前記電動機のトルク電流実績と、速度実績と、移動量実績の時系列データを取得して、前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値との相関関係の平均的挙動を求める正常時平均的挙動取得工程と、操業時において前記設備から得られる前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移量動実績値との相関関係について、前記設備の正常動作時の相関関係の平均的挙動からの外れ度を算出する操業時外れ度算出工程と、前記操業時外れ度算出工程で算出された前記外れ度をもとに前記設備の異常を判定する判定工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄鋼製品の製造プラント等で多くを占める電動機で駆動される設備の初期の異常を高精度かつ簡易に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本実施の形態の異常監視システムの監視対象設備の構成を説明する模式図である。
【図2】図2は、本実施の形態の異常監視システムが行う状態監視の原理を説明するための説明図である。
【図3】図3は、本実施の形態の異常監視システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る監視指標作成処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本実施の形態に係る異常監視処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、正常時の移動量実績、速度実績、トルク電流実績の各時系列データを例示する図である。
【図7】図7は、正常時における負荷トルクのばらつき分布を例示する図である。
【図8】図8は、正常時の速度実績の1回積分値、トルク電流実績の2回積分値の各データと移動量実績値との関係を例示する図である。
【図9】図9は、異常時の移動量実績、速度実績、トルク電流実績の各時系列データを例示する図である。
【図10】図10は、異常時の速度実績の1回積分値、トルク電流実績の2回積分値の各データと移動量実績値との関係を例示する図である。
【図11】図11は、本実施の形態に係る異常監視処理により得られる判定結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の異常監視システムおよび異常監視方法を実施するための一形態について説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0014】
本実施の形態の異常監視システムは、電動機で駆動される設備、例えば、電動機により鉄鋼製品を所定の位置まで搬送し、製造過程での処理を施すための位置決めする設備を監視対象とし、この監視対象の設備(以下、対象設備)の状態監視を行って異常を検知するものである。
【0015】
まず、本実施の形態の異常監視システムが行う状態監視の原理について説明する。図1は、電動機による負荷の制御を説明するための説明図である。図1に示すように、電動機11は、トルク電流によりモータトルクを発生させ、設備12を所定の位置へ移動させる。その際に電動機11は、負荷である設備12の位置を指定する情報が与えられると、位置制御部13が指定位置へ移動させるための基準となる速度の情報を生成して速度制御部14に出力し、速度制御部14がその速度で設備12を移動させるための基準となるトルク電流の情報を生成して電流制御部15に出力し、電流制御部15が所定のトルク電流を生成して電動機11に出力することで設備12を駆動する。また、電動機11にセンサーが配設され、センサーのトルク電流検出部16が電動機11のトルク電流の実績値を検出する。センサーの位置検出部17が電動機11の位置(移動量)の実績値を検出して位置制御部13にフィードバックし、センサーの速度検出部18が電動機11の速度の実績値を検出して速度制御部14にフィードバックする。これらセンサーにより検出される位置(移動量)および速度の実績値の時系列データと、電動機11に入力されるトルク電流の実績値の時系列データとは、データ収集部19に記録される。
【0016】
このような対象設備の電動機11と設備12について、力学上の以下の式(1),(2)が成り立つことが知られている。
【数1】

【0017】
この式(1),(2)からわかるように、粘性摩擦係数項(式(1)右辺第2項)を無視できる場合、かつ、負荷項(式(1)の右辺第3項)が0の場合には、モータトルクTを2回積分した値は、回転角θに相当する移動量に比例する。したがって、モータトルクTに比例するトルク電流を2回積分した値は、移動量に比例する。同様に、速度を1回積分した値は、移動量に比例する。このことから、本発明に係る異常監視システムは、正常時のトルク電流の実績値の2回積分値と、速度の実績値の1回積分値と、移動量の実績値との3値間の相関関係に基づいて、異常の発生を早期に検知するものである。すなわち、正常時の上記3値の相関関係の平均的挙動に基づいて、その外れ度を監視することにより異常を検知する。実際には、粘性摩擦係数項や負荷項は0ではないが、正常時には一定の範囲内に収まるため、外れ度の大きさで異常を検知できる。とくに本実施の形態においては、図2に例示するように、外れ度の監視によく知られた主成分分析の手法を適用する。すなわち、正常時の上記3値を3次元空間内の1点として表すと、各点P21は3次元空間において楕円状に分布する。これに対し、異常時には上記3値で表される点P22は、正常時の点の主成分(楕円の長軸)に直交する外れ成分が増加して、楕円状の分布から外れる。そこで、平均的挙動として主成分に基づいてT統計量を算出し、外れ度として主成分に垂直な方向の成分の残差に基づいてQ統計量を算出し、これらを監視することで実現する。
【0018】
なお、図1では電動機11についての位置および速度を検出しているが、設備12についての位置および速度にも同様に本発明を適用できる。その場合には、センサーを設備12に配設する。
【0019】
図3は、本実施の形態の異常監視システムの全体構成の一例を示すブロック図である。この異常監視システム1は、図3に示すように、オフライン指標作成システム2と、オンライン診断システム3と、時系列DB4と、監視指標DB5とを含み、互いにデータの送受が可能に接続されて構成されている。なお、時系列DB4および監視指標DB5は、オフライン指標作成システム2またはオンライン診断システム3が備える記憶部23,33に保存された構成としてもよい。
【0020】
オフライン指標作成システム2は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータを用いて実現され、入力部21と、表示部22と、記憶部23と、各部を制御する制御部25とを含む。
【0021】
入力部21は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の各種入力装置によって実現されるものであり、操作入力に応じた入力信号を制御部25に出力する。表示部22は、LCDやELディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現されるものであり、制御部25から入力される表示信号をもとに各種画面を表示する。
【0022】
記憶部23は、更新記憶可能なフラッシュメモリ等のROMやRAMといった各種ICメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、CD−ROM等の情報記憶媒体およびその読取装置等によって実現されるものである。この記憶部23には、オフライン指標作成システム2を動作させ、このオフライン指標作成システム2が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等が予め保存され、あるいは処理の都度一時的に保存される。
【0023】
制御部25は、CPU等で実現され、入力部21から入力される入力信号、記憶部23に保存されるプログラムやデータ等をもとに、オフライン指標作成システム2を構成する各部への指示やデータの転送等を行ってオフライン指標作成システム2の動作を制御する。この制御部25は、監視指標作成処理部27を含む。
【0024】
監視指標作成処理部27は、オンライン診断システム3が行う対象設備の状態監視に用いられる監視指標を作成する処理(監視指標作成処理)を行う機能部であり、過去の操業時に対象設備から得られた時系列データを用いて対象設備の正常な動作状態を指標化する。この監視指標作成処理部27は、時系列切出処理部271と、演算処理部273と、正常時平均的挙動取得手段としての統計的監視指標化処理部275とを含む。
【0025】
オンライン診断システム3は、オフライン指標作成システム2と同様に、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータを用いて実現され、入力部31と、表示部32と、記憶部33と、各部を制御する制御部35とを含む。
【0026】
入力部31は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の各種入力装置によって実現されるものであり、操作入力に応じた入力信号を制御部35に出力する。表示部32は、LCDやELディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現されるものであり、制御部35から入力される表示信号をもとに各種画面を表示する。
【0027】
記憶部33は、更新記憶可能なフラッシュメモリ等のROMやRAMといった各種ICメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、CD−ROM等の情報記憶媒体およびその読取装置等によって実現されるものである。この記憶部33には、オンライン診断システム3を動作させ、このオンライン診断システム3が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等が予め保存され、あるいは処理の都度一時的に保存される。
【0028】
制御部35は、CPU等で実現され、入力部31から入力される入力信号、記憶部33に保存されるプログラムやデータ等をもとに、オンライン診断システム3を構成する各部への指示やデータの転送等を行ってオンライン診断システム3の動作を制御する。この制御部35は、異常監視処理部37を含む。
【0029】
異常監視処理部37は、対象設備の状態をオンライン(リアルタイム)で監視し、対象設備の異常を検知する処理(異常監視処理)を行う機能部であり、対象設備から得られる時系列データを用いて対象設備の状態監視を行って異常を検知する。この異常監視処理部37は、時系列切出処理部371と、演算処理部373と、操業時外れ度算出手段としての統計的監視指標化処理部375と、判定手段としての判定処理部377とを含む。
【0030】
時系列DB4には、過去の操業時に対象設備から取得した時系列データが保存される。また、監視指標DB5には、オフライン指標作成システム2において監視指標作成処理部27が対象設備の正常な動作状態を指標化した監視指標が保存される。
【0031】
次に、異常監視システム1が行う具体的な処理手順について説明する。図4は、オフライン指標作成システム2が行う監視指標作成処理の処理手順を示すフローチャートである。また、図5は、オンライン診断システム3が行う異常監視処理の処理手順を示すフローチャートである。異常監視システム1は、オフライン指標作成システム2が図4の処理手順に従って監視指標作成処理を行い、オンライン診断システム3が図5の処理手順に従って異常監視処理を行うことで異常監視方法を実施する。なお、ここで説明する処理は、監視指標作成処理を実現するためのプログラムをオフライン指標作成システム2の記憶部23に保存しておき、オフライン指標作成システム2がこのプログラムを読み出して実行するとともに、異常監視処理を実現するためのプログラムをオンライン診断システム3の記憶部33に保存しておき、オンライン診断システム3がこのプログラムを読み出して実行することで実現できる。
【0032】
オフライン指標作成システム2が行う監視指標作成処理では、図4に示すように、先ず、制御部25において、監視指標作成処理部27の時系列切出処理部271が、時系列DB4を参照し、過去の操業時に対象設備から得られた移動量実績、速度実績、トルク電流実績の3種の時系列データのそれぞれについて、正常操業時(対象設備の正常動作時)に得られた時系列データを読み出す(ステップS101)。そして、時系列切出処理部271は、ステップS101で読み出した正常操業時における3種の時系列データのそれぞれから、移動開始から一定時間のデータを切り出す(ステップS102)。本実施の形態では、移動開始トリガー信号を基準にして、予め設定した時間長のデータを時系列データのそれぞれから切り出す。
【0033】
ここで図6に、正常時の3種の時系列データを例示する。図6では、移動量実績として電動機11の角度の実績値(以下、電動機角度実績)を示し、速度実績として電動機11の角速度の実績値(以下、電動機角速度実績)を示し、トルク電流実績に相当する物理量として、トルク電流に比例する(トルク電流から算出される)モータトルクの実績値(以下、トルク実績)を示す。上記3種の実績値のそれぞれを縦軸に、時間を横軸にして、35の正常事例について移動開始時間を合わせて重畳表示したものである。
【0034】
この図6によれば、電動機角度実績の時系列データと、電動機角速度実績の時系列データは、それぞれ35例についてパターンがほぼ一致していることがわかる。一方、トルク実績の時系列データは、35例のパターンにバラつきがあることがわかる。
【0035】
このトルク実績のばらつきは負荷トルクのばらつきによる。負荷トルクは負荷を動かすためのトルクである。図7に、正常時における負荷トルクのばらつき分布を例示する。図7からわかるように、正常時の負荷トルクにはばらつきがあるため、モータトルク、すなわちトルク電流実績にもばらつきが生じる。このことから、トルク電流実績のみの監視による異常の検知は困難であることがわかる。
【0036】
次に、ステップS103の処理では、演算処理部273が、ステップS102で切り出した速度実績の時系列データに対して1回積分する処理を施し、トルク電流実績の時系列データに対して2回積分する処理を施す。その後、移動量実績、速度実績の1回積分、トルク電流実績の2回積分の各時系列データのそれぞれに対し、以後の監視の前処理として正規化処理を行う。なお、ステップS103の正規化処理は、以後の処理を3種の時系列データそれぞれの最大値の大小に影響されることなく行うためのものである。
【0037】
ここで図8に、正常時の速度実績の1回積分値、トルク電流実績の2回積分値の各データと移動量実績値との関係を例示する。図8の各データは図6の35の正常事例の各時系列データに基づく移動量実績(電動機角度実績)値、速度実績(電動機角速度実績)の1回積分実績値、トルク電流実績(トルク実績)の2回積分値のそれぞれを縦軸に、移動量実績(角度実績)値を横軸にして、正常時の35例について重畳表示したものである。この図8によれば、電動機角度実績値、電動機角速度実績の1回積分値、トルク電流実績(トルク実績)の2回積分値は、互いに相関があることがわかる。
【0038】
続いて、ステップS104の処理では、統計的監視指標化処理部275が、正常時平均的挙動取得工程として、ステップS103での正規化処理後の3種の時系列データをそれぞれ所定数サンプリングし、対応する3種のデータを取得する。そして、ステップS105の処理では、統計的監視指標化処理部275は、ステップS104で取得した3種のデータを3次元空間内の点として表した複数の正常パターンの主成分分析を行う。
【0039】
例えば、本実施の形態では、図2に示した3次元空間において楕円状に分布する各点P21によって表される複数の正常パターンについて公知の主成分分析を行う。この主成分分析では、各正常パターンのサンプリングデータを用い、主成分毎の固有ベクトルを求めて各主成分の変換係数を取得し、主成分の式を取得する。次いで、累積寄与率が予め設定される閾値(例えば0.8)以上となる主要な主成分である上位の主成分の成分数Rを決定する。なお、成分数Rを決定する閾値は、固定値としてもよいし、ユーザ操作に従って可変に設定することとしてもよく、適宜設定してよい。ここで決定した上位R個の主成分(第1主成分〜第R主成分)によって、正常パターンを特徴付ける主要な特性が決定される。一方、第R+1主成分より下位の主成分である外れ成分(残差)は、正常パターンの特性を決定する際の寄与度が低い。
【0040】
このような主成分分析は以下のように数式で表現できる。分析対象のデータ行列を次式(3)とする。
【数2】

ただし、Nはサンプリングデータ数、Pはデータ項目数(本実施の形態では3)である。また、採用する主成分数をR、UとVを直交行列として、データ行列Xの特異値分解を次式(4)のように表すこととする。
【数3】

このとき、主成分Vの主成分得点Tは、次式(5)のように表せる。
【数4】

また、主成分と直交する残差は、次式(6)のように表せる。
【数5】

これらの式(5)(6)に基づいて、平均的挙動を示す指標としてのT統計量は、次式(7)のように表される。
【数6】

また、外れ度を示す指標としてのQ統計量は、次式(8)のように表せる。
【数7】

【0041】
以上のようにして主成分分析を行い、正常パターンの主成分の変換係数によって表される主成分の式(主成分V)および上位の主成分の成分数Rを取得したならば、ステップS106の処理では、統計的監視指標化処理部275は、取得した主成分の式(主成分V)および主成分の成分数Rを対象設備の正常な動作状態を指標化した監視指標として監視指標DB5に保存する。
【0042】
また、オンライン診断システム3が行う異常監視処理では、図5に示すように、先ず、制御部35の異常監視処理部37において、時系列切出処理部371が、操業中に対象設備から得られた移動量実績、速度実績、トルク電流実績の3種の時系列データを入力し(ステップS201)、入力された3種の時系列データのそれぞれから、移動開始から一定時間のデータを切り出す(ステップS202)。ここでの処理は図4のステップS101と同様に、移動開始トリガー信号を基準にして、予め設定した時間長のデータを時系列データのそれぞれから切り出す。切り出された3種のデータは、記憶部33に一時保存する。その後、ステップS203の処理では、演算処理部373が、ステップS202で切り出した速度実績の時系列データに対して1回積分する処理を施し、トルク電流実績の時系列データに対して2回積分する処理を施す。その後、移動量実績、速度実績の1回積分、トルク電流実績の2回積分の各時系列データのそれぞれに対し、前処理として正規化処理を行う。
【0043】
ここで、図9に操業時に異常が発生した場合(異常時)の移動量実績、速度実績、トルク電流実績の3種の時系列データを例示する。図9は、3の異常事例について、移動量実績(電動機角度実績)、速度実績(電動機角速度実績)、トルク電流実績(トルク実績)の時系列データを、図6の35の正常事例の各時系列データに移動開始時間を合わせて重畳表示したものである。この図9によれば、電動機角度実績の時系列データと、電動機角速度実績の時系列データは、異常時のパターンも正常時のパターンとほとんど差異が認められない。一方、トルク実績の時系列データは、正常時と異常時のS/N比は1.6であり、トルク実績、すなわちトルク電流の監視だけでは異常初期段階での検出は困難であることがわかる。
【0044】
また、図10に異常時の速度実績の1回積分値、トルク実績の2回積分値の各データと移動量実績値との関係を例示する。図10の各データは図9の3の異常事例の各時系列データに基づく移動量実績(電動機角度実績)値、速度実績(電動機角速度実績)の1回積分値、トルク電流実績(トルク実績)の2回積分値のそれぞれのデータを、図8の35の正常事例のデータに重畳表示したものである。この図10によれば、正常時、異常時ともに電動機角度実績値、電動機角速度実績の1回積分値、トルク実績の2回積分値は、互いに相関があること、また図10の点線で囲まれる部分に示されるように、異常時にはトルク実績の2回積分値が正常時のそれより大きく外れることがわかる。
【0045】
続いて、ステップS204の処理では、統計的監視指標化処理部375が、監視指標DB5を参照し、対象設備の監視指標、すなわち、正常パターンの主成分の変換係数によって表される主成分の式(主成分V)および主成分の成分数Rを読み出す。続いて、ステップS205の処理では、統計的監視指標化処理部375は、操業時外れ度算出工程として、ステップS203での正規化処理後の3種の時系列データを所定数ずつサンプリングし、対応する3種のデータを取得する。そして、ステップS206の処理では、統計的監視指標化処理部375は、ステップS205で取得した3種のデータを3次元空間内の点として表した操業時パターンにステップS204で読み出した主成分の式(主成分V)を適用することで、操業時パターン、すなわちステップS205で取得したサンプリングデータのR個の主成分およびこのR個の主成分より下位の主成分である外れ成分(残差)を算出する。
【0046】
その後、ステップS207の処理では、判定処理部377が、判定工程として、主成分のT統計量を算出して平均的挙動を示す指標とするとともに、外れ成分のQ統計量を算出して主成分の外れ度を示す指標とし、この平均的挙動と外れ度とをもとに対象設備の異常を判定する。例えば、判定処理部377は、予め設定される閾値を用いて外れ度を閾値処理することで外れ度の大小を判定する。そして、判定処理部377は、外れ度が大きい場合に、対象設備の動作状態を異常と判定する。
【0047】
図11に、本実施の形態の異常監視処理により得られる判定結果を例示する。図11の横軸は時系列データのサンプリング回数、縦軸はそれぞれ平均的挙動を示す指標(T統計量)、外れ度を示す指標(Q統計量)を示す。図中の各ピークが1回の移動を示す。図11の点線で囲まれる部分に示されるように、外れ度が所定の閾値を越えてトルク電流実績(トルク実績)が異常と判定された場合には、平均的挙動も正常時より大きくなることがわかる。ただし、外れ度の方がより大きく外れ、平均的挙動だけで異常を判定することは難しいことがわかる。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態では、正常時のトルク電流の実績値の2回積分値と、速度の実績値の1回積分値と、移動量の実績値との3値間の相関関係について、正常時の上記3値の相関関係の平均的挙動に基づいて、その外れ度を監視することにより異常を検知することとした。外れ度の監視には、よく知られた主成分分析の手法を適用し、平均的挙動として主成分に基づいてT統計量を算出し、外れ度として主成分に垂直な方向の成分の残差に基づいてQ統計量を算出することで異常を判定することとした。
【0049】
本実施の形態によれば、異常の初期段階でも、電動機で駆動される設備の異常を高精度かつ簡易に検知することができる。
【0050】
なお、本実施の形態では、鉄鋼製品の製造プラントのプラント設備を監視対象として異常を検知する場合について説明したが、鉄鋼製品の製造プラントに限らず、各種製品の製造プラント設備等の所望の監視対象から得られる時系列データをもとに、その異常を検知する場合に同様に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明の異常監視システムおよび異常監視方法は、監視対象の種類等を意識することなく汎用的に適用し、かつその異常を高精度に検知するのに適している。
【符号の説明】
【0052】
1 異常監視システム
2 オフライン指標作成システム
21 入力部
22 表示部
23 記憶部
25 制御部
27 監視指標作成処理部
271 時系列切出処理部
273 演算処理部
275 統計的監視指標化処理部
3 オンライン診断システム
31 入力部
32 表示部
33 記憶部
35 制御部
37 異常監視処理部
371 時系列切出処理部
373 演算処理部
375 統計的監視指標化処理部
377 判定処理部
4 時系列DB
5 監視指標DB
11 電動機
12 設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機で駆動される設備から得られる時系列データをもとに監視対象の前記設備の異常を検知する異常監視システムであって、
事前に設備の正常動作時の前記電動機のトルク電流実績と、速度実績と、移動量実績の時系列データを取得して、前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値との相関関係の平均的挙動を求める正常時平均的挙動取得手段と、
操業時において前記設備から得られる前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値との相関関係について、前記設備の正常動作時の相関関係の平均的挙動からの外れ度を算出する操業時外れ度算出手段と、
前記操業時外れ度算出手段が算出した前記外れ度をもとに前記設備の異常を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする異常監視システム。
【請求項2】
前記正常時平均的挙動取得手段は、前記設備の正常動作時の前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値とによって定まる3次元空間内の1点を正常パターンとし、複数の正常パターンに対して主成分分析を行って前記正常パターンの主成分の変換係数を取得し、
前記操業時外れ度算出手段は、操業時の前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値とによって定まる3次元空間内の点を操業時パターンとし、前記正常パターンの主成分の変換係数をもとに前記操業時パターンの主成分を算出することを特徴とする請求項1に記載の異常監視システム。
【請求項3】
前記正常時平均的挙動取得手段は、前記正常パターンの主成分の寄与率を算出して主要な主成分をさらに決定し、
前記判定手段は、前記操業時パターンの主成分のうちの前記主要な主成分以外の外れ成分をもとに前記外れ度を算出し、該外れ度が所定値以上の場合に前記監視対象を異常と判定することを特徴とする請求項1または2に記載の異常監視システム。
【請求項4】
電動機で駆動される設備から得られる時系列データをもとに監視対象の前記設備の異常を検知する異常監視方法であって、
事前に設備の正常動作時の前記電動機のトルク電流実績と、速度実績と、移動量実績の時系列データを取得して、前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移動量実績値との相関関係の平均的挙動を求める正常時平均的挙動取得工程と、
操業時において前記設備から得られる前記トルク電流実績を2回積分した電流実績2回積分値と、前記速度実績を1回積分した速度実績1回積分値と、前記移量動実績値との相関関係について、前記設備の正常動作時の相関関係の平均的挙動からの外れ度を算出する操業時外れ度算出工程と、
前記操業時外れ度算出工程で算出された前記外れ度をもとに前記設備の異常を判定する判定工程と、
を含むことを特徴とする異常監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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