説明

異方導電性シートおよび異方導電性シートの製造方法

【課題】回路基板の検査を繰り返し行っても、被検査電極と接続される導電路形成部の突出部が局所的に潰れて亀裂を生ずることがなく、耐久性に優れた異方導電性シートおよび異方導電性シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】それぞれ厚み方向に伸びる複数の貫通孔が形成された弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体と、前記複数の貫通孔内に形成され、弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成部と、を有する異方導電性シートであって、前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質が、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質よりも荷重変形し難い弾性高分子物質からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回路装置の被検査電極と電気的に接続して被検査電極の導通検査を行うのに用いられる異方導電性シートおよび異方導電性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異方導電性シートは、厚み方向にのみ導電性を示すもの、または厚み方向に加圧されたときに厚み方向にのみ導電性を示す加圧導電性の導電路形成部を有するものであり、ハンダ付けあるいは機械的嵌合などの手段を用いずにコンパクトな電気的接続を達成することが可能であること、機械的な衝撃やひずみを吸収してソフトな接続が可能であることなどの特長を有するものである。
【0003】
このような特長を有する異方導電性シートは、例えば電子計算機、電子式デジタル時計、電子カメラ、コンピューターキーボードなどの分野において、回路装置、例えばプリント回路基板とリードレスチップキャリアー、液晶パネルなどとの相互間の電気的な接続を達成するためのコネクターとして好適であるため広く用いられている。
【0004】
また、プリント回路基板や半導体集積回路などの回路装置の電気的検査においては、例えば検査対象である回路装置の一面に形成された被検査電極と、検査用回路基板の表面に形成された検査用電極との電気的な接続を達成するために、回路装置の電極領域と、検査用回路基板の検査用電極領域との間に、コネクターとして異方導電性シートを介在させている。
【0005】
従来、このような異方導電性シートとして種々の構造のものが知られており、例えば特許文献1には、金属粒子をシート中に均一に分散して得られる異方導電性シート(以下、これを「分散型異方導電性シート」という。)が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、導電性粒子をシート中に不均一に分布させることにより、厚み方向に伸びる多数の導電路形成部と、これらを相互に絶縁する絶縁部とが形成されてなる異方導電性シート(以下、これを「偏在型異方導電性シート」という。)が開示されている。
【0007】
さらに図7に示した偏在型異方導電性シート100においては、導電路形成部102の表面が、絶縁部104よりも上下方向に突出した突出部106,106を有するものが開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0008】
上記したような異方導電性シートのうち、特に偏在型異方導電性シートは、接続すべき回路装置の電極パターンと対応するパターンに従って導電路形成部が形成されているため、分散型異方導電性シートに比べて接続すべき電極の配列ピッチ、すなわち隣接する電極の中心間距離が小さい回路装置などに対しても、電極間の電気的接続を高い信頼性で達成することができる。
【特許文献1】特開昭51−93393号公報
【特許文献2】特開昭53−147772号公報
【特許文献3】特開昭61−250906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような偏在型異方導電性シート100は、図8に示したように回路装置の被検査電極と接続する際において、その厚み方向(図8においては矢印で示した上下方向)より繰り返し力が加わると、導電路形成部102の絶縁部104よりも上下方向に突出した突出部106,106が潰れてしまい、回路基板の導通検査を繰り返し行うに従って、この潰れた突出部106に亀裂が生じたり、亀裂部分より導電性粒子108が飛び出してしまうなどの不具合が生ずる場合があった。
【0010】
本発明は、このような現状に鑑み、回路基板の被検査電極の導通検査を繰り返し行っても、被検査電極と接続される導電路形成部の突出部が局所的に潰れて亀裂を生ずることがなく、耐久性に優れた異方導電性シートおよび異方導電性シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述したような従来技術における課題および目的を達成するために発明されたものであって、本発明の異方導電性シートは、
それぞれ厚み方向に伸びる複数の貫通孔が形成された弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体と、
前記複数の貫通孔内に形成され、弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成部と、
を有する異方導電性シートであって、
前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質が、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質よりも荷重変形し難い弾性高分子物質からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の異方導電性シートの製造方法は、
弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体の両面にそれぞれ薄膜層が形成された積層体を準備する工程と、
前記積層体に、それぞれ厚み方向に伸びる複数の貫通孔を形成する工程と、
前記積層体の複数の貫通孔内に、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質よりも荷重変形し難い弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成用材料を充填する工程と、
前記積層体の厚み方向に導電性材料が磁場配向されてなる導電路形成部を形成する工程と、
前記積層体の絶縁性シート体の両面に形成されたそれぞれの薄膜層を除去する工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
このように、導電路形成部を形成する弾性高分子物質が、絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質よりも荷重変形し難い弾性高分子物質からなる異方導電性シートであれば、回路基板の検査時に導電路形成部の厚み方向に力が加えられた際に、導電路形成部が全体的に変形することとなるため、従来のように突出部が局所的に変形して亀裂を生ずるような不具合が発生せず、繰り返しの検査使用が可能な耐久性を得ることができる。
【0014】
また、異方導電性シートの耐久性が向上するため、被検査電極の検査にかかるコストを従来よりも抑えることができる。
なお、弾性高分子物質の荷重変形のし難さを判断するための指標としては、JIS K 6253(ISO 7619)に規定されるデュロメータ硬さや国際ゴム硬さ(IRHD)、あるいは弾性率などが上げられ、何れを用いても良いが、本発明では一般的に用いられているデュロメータ硬さを指標として採用する。
【0015】
このような指標を用いて導電路形成部と絶縁性シート体の荷重変形のし難さを得るようにすれば、導電路形成部と絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質の最適条件を確実に得ることができる。
【0016】
また、本発明の異方導電性シートは、
前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さを1としたとき、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さが0.99以下、好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の異方導電性シートの製造方法は、
前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さを1としたとき、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さが0.99以下、好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下であることを特徴とする。
【0018】
このように導電路形成部を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さを1としたとき、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さが0.99以下、好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下であれば、回路基板の被検査電極の導通検査時に導電路形成部の厚み方向に力が加わった際、導電路形成部が全体的に変形することとなるため、導通検査に使用可能な回数を従来よりも大幅に向上させることができる。
【0019】
また、本発明の異方導電性シートは、
前記弾性高分子物質が、シリコーンゴムであることを特徴とする。
また、本発明の異方導電性シートの製造方法は、
前記弾性高分子物質が、シリコーンゴムであることを特徴とする。
【0020】
このように弾性高分子物質がシリコーンゴムであれば、約−40℃から約150℃という非常に広い温度範囲での使用が可能となり、また、繰り返し使用による耐久性、成形加工性、電気特性などが良好であるため、回路基板の被検査電極の導通検査に好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明の異方導電性シートは、
前記異方導電性シートは、周縁部に支持体が配設されてなることを特徴とする。
また、本発明の異方導電性シートの製造方法は、
弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体の両面にそれぞれ薄膜層が形成された積層体を準備する工程において、
前記絶縁性シート体の周縁部に、支持体を配設する工程を含むことを特徴とする。
【0022】
このように異方導電性シートの周縁部に支持体が配設されていれば、支持体によって回路基板と異方導電性シートとの位置決めを良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、導電路形成部が絶縁部よりも荷重変形し難い弾性高分子物質から形成されているため、回路基板の検査を繰り返し行っても、被検査電極と接続される導電路形成部の突出部が局所的に潰れて亀裂を生ずることがなく、耐久性に優れた異方導電性シートおよび異方導電性シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の異方導電性シートの実施例における構成を示す概略断面図、図2は、本発明の異方導電性シートにおいて、周縁部に支持体を配設した構成を示す概略断面図、図3および図4は、本発明の異方導電性シートの製造方法における工程図、図5は、支持体を有する積層体の概略断面図、図6は、本発明の異方導電性シートを繰り返し使用した後の状態を示す概略断面図である。
【0025】
本発明の異方導電性シートおよび異方導電性シートの製造方法は、例えば回路装置の被検査電極と電気的に接続し、これにより被検査電極の導通検査を行うために用いられるものである。
【0026】
<異方導電性シート10>
図1に示したように、本発明の異方導電性シート10は、それぞれの厚み方向に伸びる複数の貫通孔22が形成された弾性高分子物質18よりなる絶縁性シート体20と、複数の貫通孔22内に形成され、上記した絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質18とは異なる弾性高分子物質12であって、この弾性高分子物質12中に導電性材料として導電性粒子14が含有されてなる導電路形成部16と、から構成されており、導電路形成部16は、絶縁性シート体20の面よりも上下方向に突出した突出部23,23をそれぞれに有している。
【0027】
特に導電路形成部16を形成する弾性高分子物質12は、絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質18よりも荷重変形し難い物質が用いられており、両者は変形の度合いが異なるように構成されている。
【0028】
このような弾性高分子物質12,18としては、架橋構造を有する耐熱性の高分子物質が好ましい。かかる架橋高分子物質を得るために用いることができる硬化性の高分子物質形成材料としては、種々のものを用いることができ、その具体例としては、シリコーンゴム、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムなどの共役ジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物、スチレン−ブタジエン−ジエンブロック共重合体ゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合体などのブロック共重合体ゴムおよびこれらの水素添加物、クロロプレン、ウレタンゴム、ポリエステル系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、軟質液状エポキシゴムなどが挙げられる。これらの中では、使用可能温度範囲、成形加工性および電気特性の観点から、シリコーンゴムが好ましい。
【0029】
シリコーンゴムとしては、液状シリコーンゴムを架橋または縮合したものが好ましい。液状シリコーンゴムは、縮合型のもの、付加型のもの、ビニル基やヒドロキシル基を含有するものなどのいずれであってもよい。具体的には、ジメチルシリコーン生ゴム、メチルビニルシリコーン生ゴム、メチルフェニルビニルシリコーン生ゴムなどを挙げることができる。
【0030】
このような弾性高分子物質12,18について、荷重変形の度合いを判断する指標としては、例えば弾性高分子物質12,18の硬化後におけるデュロメータ硬さ(JISK6253に準拠した方法による測定)、弾性率、厚み幅などを挙げることができる。
【0031】
ここでデュロメータ硬さを指標とした場合には、導電路形成部16を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さを1としたとき、絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さが通常は0.99以下、好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下であることが望ましい。
【0032】
さらに、導電路形成部16の突出部23,23の局所的変形を抑制するために、絶縁性シート体20の厚みを制御することが好ましい。具体的には、導電路形成部16の厚み幅T1を100としたとき、絶縁性シート体20の厚み幅T2が好ましくは95〜5、より好ましくは85〜15、さらに好ましくは75〜25であることが望ましい。絶縁性シート体20が薄すぎても導電路形成部16の位置精度を確保し難くなるなど問題が生じることがある。
【0033】
なお、本明細書では、弾性高分子物質12,18の変形の度合いを判断する指標としてデュロメータ硬さを例に挙げているが、特に限定されるものではなく、要は絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質18と、導電路形成部16を形成する弾性高分子物質12とが確実に特定できれば、如何なる指標を用いても良いものである。
【0034】
このような導電路形成部16を形成する弾性高分子物質12内には、導電性粒子14が導電路形成部16の厚み方向に並ぶように配向された状態で含有されており、この導電性粒子14の連鎖により導電路形成部16の厚み方向に導電路が形成される。
【0035】
このような導電性粒子14としては、後述する製造方法によって導電路形成用材料30中において、導電性粒子14を容易に移動させることができる観点から、磁性を示すものを用いることが好ましい。
【0036】
磁性を示す導電性粒子14の具体例としては、鉄、ニッケル、コバルトなどの磁性を示す金属の粒子もしくはこれらの合金の粒子またはこれらの金属を含有する粒子、またはこれらの粒子を芯粒子とし、この芯粒子の表面に金、銀、パラジウム、ロジウムなどの導電性の良好な金属のメッキを施したもの、あるいは非磁性金属粒子もしくはガラスビーズなどの無機物質粒子またはポリマー粒子を芯粒子とし、この芯粒子の表面にニッケル、コバルトなどの導電性磁性体のメッキを施したもの、あるいは芯粒子に導電性磁性体および導電性の良好な金属の両方を被覆したものなどが挙げられる。
【0037】
また芯粒子の表面に下地メッキを行って下地メッキ層を形成した後、当該下地メッキ層の表面に導電性の良好な金属のメッキを施して被覆層を形成してもよく、被覆層は複数の金属層によって形成してもよい。
【0038】
これらの中では、ニッケル粒子を芯粒子とし、その表面に金や銀などの導電性の良好な金属のメッキを施したものを用いることが好ましい。
芯粒子の表面に導電性金属を被覆する手段としては特に限定されるものではないが、例えば無電解メッキにより行うことができる。
【0039】
導電性粒子14として、芯粒子の表面に導電性金属が被覆されてなるものを用いる場合には、良好な導電性が得られる観点から、粒子表面における導電性金属の被覆率(芯粒子の表面積に対する導電性金属の被覆面積の割合)が40%以上であることが好ましく、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは47〜95%である。
【0040】
また、導電性金属の被覆量は、芯粒子の2.5〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは3〜45重量%、さらに好ましくは3.5〜40重量%、特に好ましくは5〜30重量%である。
【0041】
また、導電性粒子14の粒子径は、1〜500μmであることが好ましく、より好ましくは2〜400μm、さらに好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μmである。
【0042】
また、導電性粒子14の粒子径分布(Dw/Dn)は、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜4である。
このような条件を満足する導電性粒子14を用いることにより、得られる異方導電性シート10は加圧変形が容易なものとなり、また異方導電性シート10における導電路形成部16において導電性粒子14間に十分な電気的接触が得られる。
【0043】
また、導電性粒子14の形状は特に限定されるものではないが、導電路形成用材料30中に容易に分散させることができる点で、球状のもの、星形状のもの、あるいはこれらが凝集した2次粒子による塊状のものであることが好ましい。
【0044】
さらに、導電性粒子14の含水率は5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。
また、導電性粒子14の表面がシランカップリング剤などのカップリング剤で処理されたものを適宜用いることができる。導電性粒子14の表面がカップリング剤で処理されることにより、導電性粒子14と弾性高分子物質12との接着性が高くなり、その結果、得られる異方導電性シート10は、繰り返しの使用における耐久性が高いものとなる。
【0045】
カップリング剤の使用量は、導電性粒子14の導電性に影響を与えない範囲で適宜選択されるが、導電性粒子14の表面におけるカップリング剤の被覆率(導電性芯粒子の表面積に対するカップリング剤の被覆面積の割合)が5%以上となる量であることが好ましく、より好ましくは上記被覆率が7〜100%、さらに好ましくは10〜100%、特に好ましくは20〜100%となる量である。
【0046】
導電性粒子14の導電路形成用材料30に対する含有割合は、体積分率で10〜60%、好ましくは15〜50%となる割合で用いられることが好ましい。この割合が10%未満の場合には、十分に電気抵抗値の小さい導電路形成部16が得られないことがある。
【0047】
一方、この割合が60%を超える場合には、得られる導電路形成部16は脆弱なものとなり易く、導電路形成部16として必要な弾性が得られないことがある。
後述する導電路形成用材料30中には、必要に応じて、通常のシリカ粉、コロイダルシリカ、エアロゲルシリカ、アルミナなどの無機充填材を含有させることができる。このような無機充填材を含有させることにより、得られる導電路形成用材料30のチクソトロピー性が確保され、その粘度が高くなり、しかも導電性粒子14の分散安定性が向上するとともに、硬化処理されて得られる導電路形成部16の強度が高くなる。
【0048】
このような無機充填材の使用量は特に限定されるものではないが、あまり多量に使用すると、後述する製造方法において、磁場による導電性粒子14の移動が大きく阻害されるため好ましくない。
【0049】
なお、導電路形成部16の厚み幅T1は、5μm〜10000μmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜5000μm、さらに好ましくは30μm〜2000μmである。
【0050】
一方、絶縁性シート体20の厚み幅T2は、1μm〜9500μmであることが好ましく、より好ましくは2μm〜4750μm、さらに好ましくは5μm〜1900μmである。
【0051】
この異方導電性シート10を形成する絶縁性シート体20は、各々の貫通孔22が形成されるべき導電路形成部16のパターンに対応するパターンに従って形成された露光用マスクを用い、この露光用マスクを介してレーザー光を照射することによって、形成されてなるものである。
【0052】
絶縁性シート体20における各々の貫通孔22は、絶縁性シート体20の一面および他面に対して垂直に伸びる柱状の内部空間を形成する形状を有し、互いに独立した状態、すなわち貫通孔22内に形成される導電路形成部16同士に十分な絶縁性が確保されるよう離間した状態とされている。
【0053】
なお、図2に示したように上述した異方導電性シート10は、その周縁部に支持体24が配設されても良い。支持体24を構成する材質については特に限定されるものではないが、弾性高分子物質18からなる絶縁性シート体20を確実に保持できるよう、ある程度の形状保持性を有するものを用いることが好ましく、例えば金属やプラスチックを用いることが好ましい。
【0054】
金属としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、チタンまたはこれらの合金もしくは合金鋼を用いることができる。
また、プラスチックとしては、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂またはこれらの樹脂にガラス繊維やフィラーを配合した組成物を用いることができる。
【0055】
このように、本発明の異方導電性シート10は、上記したような材質からなるものであって、特に導電路形成部16を形成する弾性高分子物質12が、絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質18よりも荷重変形し難い弾性高分子物質からなるものであるから、回路基板の導通検査を繰り返し行っても、被検査電極と接続される導電路形成部16の突出部23,23が局所的に潰れて亀裂を生ずることがなく、耐久性に優れている。
このため、異方導電性シート10を、従来よりも長く使用することが可能であるため、被検査電極の導通検査に要するコストを抑えることができる。
【0056】
<異方導電性シート10の製造方法>
次に、異方導電性シート10の製造方法について説明する。
【0057】
先ず、図3(a)に示したように、弾性高分子物質18からなる絶縁性シート体20と、この絶縁性シート体20の一方側面および他方側面に薄膜層26,26がそれぞれに形成された積層体28を用意する。なお、薄膜層26としては例えば絶縁フィルムを用いることができる。
【0058】
次いで、この積層体28の一面に接するように露光用マスク(図示せず)を配置する。この露光用マスクには、後述する複数の貫通孔22に合わせた位置に予め透光用孔(図示せず)が形成されており、この透光用孔を介してレーザー光を照射することにより、図3(b)に示したように、積層体28のそれぞれの厚み方向に伸びる複数の貫通孔22が形成される。
【0059】
なおレーザー光としては、例えば炭酸ガスパルスレーザーなどを利用することができる。また具体的なレーザー光の照射条件は、絶縁性シート体20を構成する弾性高分子物質18の種類、厚み幅T2およびその他の構成条件を考慮して適宜選択することができる。
【0060】
次いで、図3(c)に示したように、積層体28の一面に、導電路形成用材料30を塗布することにより、積層体28における貫通孔22の各々の内部に導電路形成用材料30を充填する。
【0061】
なお、このとき充填される導電路形成用材料30は、絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質18よりも荷重変形し難い弾性高分子物質12中に導電性粒子14が含有されてなるものである。導電路形成用材料30を塗布する手段としては、例えばスクリーン印刷などの印刷法による手段を用いることができる。
【0062】
また、導電路形成用材料30の塗布は、内部空間が例えば1×10-3atm以下、好ましくは1×10-4〜1×10-5atmの減圧雰囲気に調整されたチャンバー(図示せず)内において、導電路形成用材料30を、印刷用マスクを用いて塗布し、その後チャンバー内の雰囲気圧を上昇させて例えば常圧にすることにより、複数の貫通孔22内に導電路形成用材料30を充填することが好ましい。
【0063】
このような方法であれば、チャンバー内の雰囲気圧を上昇させることによって、雰囲気圧と積層体28における貫通孔22内の圧力との圧力差により、導電路形成用材料30を貫通孔22内に高密度に充填することができる。このため、この後の工程で得られる導電路形成部16中に気泡が生ずることを効果的に防止することができる。
【0064】
次いで、図4(a)に示したように、貫通孔22内に導電路形成用材料30が充填された積層体28を、上型32と下型34からなる金型の間に配設する。
そして図4(b)に示したように、この上型32と下型34にそれぞれに設けられた一対の電磁石36,38を作動させることにより、導電路形成用材料30の厚み方向に平行磁場を作用させ、これにより導電路形成用材料30中に分散されていた導電性粒子14を導電路形成用材料30の厚み方向に配向させる。
【0065】
そして、この状態で導電路形成用材料30の硬化処理を行うことにより、積層体28の各々の貫通孔22内に一体的に設けられた導電路形成部16が形成される。
なお、導電路形成用材料30の硬化処理は、平行磁場を作用させたままの状態で行うこともできるが、平行磁場の作用を停止させた後に行うこともできる。
【0066】
導電路形成用材料30に作用される平行磁場の強度は、例えば平均で0.1〜3T(テスラ)となる大きさが好ましい。
導電路形成用材料30の硬化処理は、使用される材料によって適宜選定されるが、例えば、貫通孔22内に導電路形成用材料30が充填された積層体28を、所定の押圧力で加圧した状態で加熱することで行うことができる。
【0067】
このような方法により導電路形成用材料30の硬化処理を行う場合には、電磁石36,38にヒーター(図示せず)を設ければよい。
具体的な加圧条件、加熱温度および加熱時間は、導電路形成用材料30を構成する弾性高分子物質12の種類、導電性粒子14の移動に要する時間などを考慮して適宜選定される。
【0068】
次いで、図4(c)に示したように、金型内より積層体28を取り出し、積層体28の薄膜層26,26を剥離除去する。
これにより、図1に示したように、導電路形成部16が絶縁性シート体20よりも上下に突出した突出部23,23を有する本発明の異方導電性シート10を得ることができる。
【0069】
なお、図2に示した異方導電性シート10のように、周縁部に支持体24を有する異方導電性シート10を製造する場合には、例えば図3(a)の工程で用意する積層体28の替わりに、図5に示した積層体28のように、予め絶縁性シート体20の周縁部に支持体24が配設された状態の積層体28を用いるようにすれば良い。
【0070】
この場合には、例えば絶縁性シート体製造用の型内の所定位置に支持体24を配設し、この状態で型内に弾性高分子物質18からなるペーストを塗布し、これを硬化させることで、支持体24が周縁部に配設されてなる絶縁性シート体20を得るようにすれば良い。
【0071】
そして、図3(b)〜図4(c)と同様な製造工程を経ることにより、図2に示したような支持体24を周縁部に配設してなる異方導電性シート10を得ることができる。
なお、本発明の異方導電性シート10は、上記した製造方法に限定されるものではなく、例えば本製造方法では、図3(a)に示したように薄膜層26,26に絶縁フィルムを用いた場合を例に挙げて説明したが、他にも易エッチング性の金属メッキ(例えば銅メッキ)を薄膜層26,26とするなど、種々の変更を加えることができるものである。
【0072】
なお、薄膜層26,26を金属メッキで形成した場合には、図4(c)の工程の替わりに、積層体28をエッチング液に浸すことで薄膜層26,26を除去するようにすれば良い。
【0073】
このように、本発明の異方導電性シート10は、本発明の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能なものである。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]
絶縁性シート体20の製造:
液状シリコーンゴムとして信越化学工業社製:KE−1950−10(A/B)(硬化後のデュロメータA硬さ13のもの)を用意し、これを硬化処理して厚み幅T2が100μm、寸法が12mm×10mmの絶縁性シート体20を得た。
【0076】
導電路形成用材料30の調製:
液状シリコーンゴムとして信越化学工業社製:KE−1950−70(A/B)(硬化後のデュロメータA硬さ70のもの)を用意し、この中に表面に金メッキした平均粒径が20μmのニッケル粒子14を含有させた導電路形成用材料30を得た。
【0077】
上記した絶縁性シート体20と導電路形成用材料30を用い、図3〜図4に示した製造工程を経て、導電路形成部16が短辺の中心線上に0.5mm間隔で一列に10個並んだ異方導電性シート10を得た。
【0078】
なお、得られた異方導電性シート10における導電路形成部16は直径300μm、厚み幅T1が170μmの円柱状であった。
この異方導電性シート10を、異方導電性シート10の各導電路形成部16が回路装置の被検査電極と接続されるように位置決めし、各導電路形成部16にそれぞれ30gの荷重がかかるように調整して繰り返し荷重をかけ、所定回数の荷重をかけた後に異方導電性シート10を取り出して導電路形成部16の抵抗値を測定、また導電路形成部16の突出部23の高さ測定をした。測定は全10点の導電路形成部16について実施し、その平均を測定結果とした。
【0079】
なお、抵抗値は30gの荷重をかけた状態で測定した。また、突出部23の高さは、荷重をかけない状態で、コムス株式会社製3次元形状測定システム:MAP−3Dを用いて測定した。
【0080】
測定結果は表1に示した通りである。
【0081】
【表1】

実施例1の測定結果からすれば、異方導電性シート10の抵抗値は、初期値から50000回経過後に至るまで殆ど変化がなかった。
【0082】
また突出部23の高さについても、初期値から50000回に至るまで殆ど変化がなく、50000回の繰り返し荷重検査に実施例1の異方導電性シート10が使用可能であることが確認できた。
【0083】
繰り返し荷重50000回後の異方導電性シート10の縦断面の様子は、図6に示したように導電路形成部16の全体が絶縁性シート体20側へ多少膨出して太鼓型に変形していたが、突出部23,23は殆ど変形しておらず、繰り返し荷重によって厚み方向から受ける圧力は、導電路形成部16全体で受けていることが確認された。
【0084】
[比較例1]
絶縁性シート体20および導電路形成用材料30に用いられる液状シリコーンゴムを、両者とも同じく信越化学工業社製:KE−1950−70(A/B)(硬化後のデュロメータA硬さ70のもの)とし異方導電性シート10を得たこと以外は、実施例1と同様にして導通検査を行った。
【0085】
測定結果は表1に示した通りである。
比較例1の測定結果からすれば、異方導電性シート10の抵抗値は、100回以降急激に増加し、50000回には抵抗測定できなかった。
【0086】
また突出部23の高さについては、100回以降急激に減少し、50000回の時には、突出部23は殆ど高さを有しておらず、亀裂や潰れが生じていることが確認された。また、導電路形成部16の縦断面を観察したところ、絶縁性シート体20に接している導電路形成部16は殆ど変形しておらず、突出部23,23のみが潰れていることが確認された。
【0087】
すなわち、繰り返し荷重50000回後の異方導電性シート10の様子は、図8に示した図と同様に導電路形成部16の突出部23,23のみが部分的にひずんでおり、繰り返しの荷重によって厚み方向から受ける圧力が突出部23,23に集中してしまっていることが確認された。
【0088】
以上、実施例1と比較例1との対比により、本発明の異方導電性シート10のように、導電路形成部16を形成する弾性高分子物質12を、絶縁性シート体20を形成する弾性高分子物質18よりも荷重変形し難い弾性高分子物質から形成すれば、回路基板の被検査電極の導通検査を繰り返し行っても、被検査電極と接続される導電路形成部16の突出部23,23が局所的に潰れて亀裂を生ずることがなく、耐久性に優れていることが立証された。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、本発明の異方導電性シートの実施例における構成を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の異方導電性シートにおいて、周縁部に支持体を配設した構成を示す概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の異方導電性シートの製造方法における工程図であって、図3(a)は積層体を準備する工程図、図3(b)は積層体に貫通孔を形成する工程図、図3(c)は貫通孔内に弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成用材料を充填する工程図である。
【図4】図4は、本発明の異方導電性シートの製造方法における工程図であって、図4(a)は積層体を金型内に配設する工程図、図4(b)は積層体の厚み方向に導電性材料を磁場配向させる工程図、図4(c)は磁場配向された積層体より薄膜層を除去して異方導電性シートを得る工程図である。
【図5】図5は支持体を有する積層体の概略断面図である。
【図6】図6は、本発明の異方導電性シートを繰り返し使用した後の状態を示す概略断面図である。
【図7】図7は、従来の偏在型異方導電性シートの構成を示す概略断面図である。
【図8】図8は、従来の偏在型異方導電性シートを繰り返し使用した後の状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0090】
10・・・異方導電性シート
12・・・弾性高分子物質
14・・・導電性粒子
16・・・導電路形成部
18・・・弾性高分子物質
20・・・絶縁性シート体
22・・・貫通孔
23・・・突出部
24・・・支持体
26・・・薄膜層
28・・・積層体
30・・・導電路形成用材料
32・・・上型
34・・・下型
36・・・電磁石
38・・・電磁石
T1・・導電路形成部の厚み幅
T2・・絶縁性シート体の厚み幅
100・・・偏在型異方導電性シート
102・・・導電路形成部
104・・・絶縁部
106・・・突出部
108・・・導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ厚み方向に伸びる複数の貫通孔が形成された弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体と、
前記複数の貫通孔内に形成され、弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成部と、
を有する異方導電性シートであって、
前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質が、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質よりも荷重変形し難い弾性高分子物質からなることを特徴とする異方導電性シート。
【請求項2】
前記弾性高分子物質の荷重変形のし難さを判断するための指標が、デュロメータ硬さであることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性シート。
【請求項3】
前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さを1としたとき、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さが0.99以下であることを特徴とする請求項2に記載の異方導電性シート。
【請求項4】
前記弾性高分子物質が、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の異方導電性シート。
【請求項5】
前記異方導電性シートは、周縁部に支持体が配設されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の異方導電性シート。
【請求項6】
弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体の両面にそれぞれ薄膜層が形成された積層体を準備する工程と、
前記積層体に、それぞれ厚み方向に伸びる複数の貫通孔を形成する工程と、
前記積層体の複数の貫通孔内に、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質よりも荷重変形し難い弾性高分子物質中に導電性材料が含有されてなる導電路形成用材料を充填する工程と、
前記積層体の厚み方向に導電性材料が磁場配向されてなる導電路形成部を形成する工程と、
前記積層体の絶縁性シート体の両面に形成されたそれぞれの薄膜層を除去する工程と、
を有することを特徴とする異方導電性シートの製造方法。
【請求項7】
前記弾性高分子物質の荷重変形のし難さを判断するための指標が、デュロメータ硬さであることを特徴とする請求項6に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項8】
前記導電路形成部を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さを1としたとき、前記絶縁性シート体を形成する弾性高分子物質の硬化後におけるデュロメータ硬さが0.99以下であることを特徴とする請求項7に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項9】
前記弾性高分子物質が、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項10】
弾性高分子物質よりなる絶縁性シート体の両面にそれぞれ薄膜層が形成された積層体を準備する工程において、
前記絶縁性シート体の周縁部に、支持体を配設する工程を含むことを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−259415(P2009−259415A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103819(P2008−103819)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】