説明

異方性光散乱フィルム用樹脂組成物及び異方性光散乱フィルム

【課題】
本発明は、散乱特性に異方性(前方か後方か、及び入射角度の依存性)を有し、縦横の散乱範囲に係る散乱特性までも制御することが容易であると共に、観察位置によって表示光の色が変化しない異方性光散乱フィルムを得るための組成物において、熱可塑性樹脂の耐熱性、耐久性を向上させることを目的とする。
【解決手段】
異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に従来用いていた熱可塑性樹脂の代わりに、「水酸基を有し、該水酸基をラジカル重合性基で修飾した熱可塑性樹脂(以下では、修飾熱可塑性樹脂とする。)」を用いたところ、この修飾熱可塑性樹脂中のラジカル重合性基が、定着露光により、ラジカル重合性基を有する化合物と架橋反応することを見出した。そして、このため、この修飾熱可塑性樹脂を用いた異方性光散乱フィルムは、従来よりも架橋密度が上昇し、課題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の入射角度に応じて散乱性が異なる(或いは、入射角度選択性を持つ)と共に、光散乱特性に異方性を有する光散乱フィルム用組成物および異方性光散乱フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
反射型液晶表示装置や透過型液晶表示装置のなどの光を利用する表示装置では、観察の際の視野角を確保する(すなわち、表示装置の前面には、明るく表示画像を見せる)ことや、表示画面の全面にわたって均一な明るさで表示画面を見えるようにする目的で、装置の前面に光拡散フィルムを配置することが行われている。従来の光散乱フィルムとしては、表面をマット状に加工した樹脂フィルムや、内部に拡散材を包含した樹脂フィルムなどが用いられている。
【0003】
従来のマット状に加工した樹脂フィルムや内部に拡散材を含有するフィルムの場合、入射光の入射角度に依存した散乱性の変化といった機能を持たせることは原理上困難であり、現実的にそのような機能は持ち合わせていない。
【0004】
また、内部に拡散材を包含した光散乱フィルムにおいても、散乱性を制御するために拡散材の屈折率や大きさ、形状等を制御する試みも為されているが、技術的に難易度が高く、実用上十分であるとは言えないのが現状である。
【0005】
従って、上記の光散乱フィルムでは、散乱性の入射角度依存性がなく、光散乱の異方性も無いかもしくは少ないため、表示装置に使用した際に、不必要な散乱光が生じ、結果として表示の明るさやコントラストの低下或いは表示画像のぼけをまねくという問題点がある。
【0006】
光散乱に異方性を持つ散乱板としてホログラムを用いた透過型液晶表示装置に係る提案として、特許文献1が公知である。上記提案は、バックライトを有する液晶表示装置からの出射表示光を散乱させるものであり、散乱板としてホログラムを採用しているため、散乱特性に異方性を持たせることも容易であり、縦と横の散乱特性も制御することも可能である。しかしながら、屈折率の異なる部分が規則的に等間隔に形成されていることから、必然的に分光(波長分散)を伴ってしまうため、観察する視点を移動することに応じて表示光の色が変化して視覚されることになる。
【0007】
上記のような色差の問題を生じない異方性光散乱フィルムとして特許文献2及び特許文献3が公知である。特許文献2では、フィルム内部に屈折率の異なる部分を、不規則な形状・厚さで分布させることにより、屈折率の異なる濃淡模様を形成する。さらに、屈折率の濃淡模様部分が、フィルムの厚さ方向に対して傾斜させることにより、散乱特性に異方性を持たせ、縦横の散乱範囲に係る散乱特性までも制御することが容易であると共に、観察位置によって表示光の色が変化しない異方性散乱体と液晶表示装置を提供できる。
【0008】
また、特許文献3は、熱可塑性樹脂とラジカル重合性基を有する化合物からなる感光性樹脂組成物を用いている。熱可塑性樹脂は屈折率が低く、屈折率の高いラジカル重合性化合物と組みあわせ異方性光散乱フィルムを形成する手法が有効である。この熱可塑性樹脂とラジカル重合性基を有する化合物の屈折率に差を持たせることで、露光の有無により屈折率の異なる箇所が生じ、屈折率の濃淡模様ができる。さらに、屈折率の濃淡模様部分が、不特定の間隔で形成され、フィルムの厚さ方向に対して傾斜させることにより、散乱特性に異方性を持たせ、縦横の散乱範囲に係る散乱特性までも制御することが容易であると共に、観察位置によって表示光の色が変化しない異方性散乱体と液晶表示装置を提供できる。
【0009】
ところで、異方性光散乱フィルムを液晶ディスプレイ等に適用するに場合、異方性光散乱フィルムには、高温、高湿条件下で変質して異方性を失うことのない高い耐久性、耐熱性が要求される。しかし、従来の熱可塑性樹脂を用いて形成した異方性光散乱フィルムは、加熱により軟化し、屈折率の濃淡部分が不分明となり光散乱の異方性を消失する問題があった。このため、高熱、高湿条件に耐えうる異方性光散乱フィルムを作製するために、耐久性、耐熱性に優れた異方性光散乱フィルム用樹脂組成物が求められていた。
【特許文献1】特開平9−152602号公報
【特許文献2】特開平2000−171619号公報
【特許文献3】特願2004−204263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、散乱特性に異方性(前方か後方か、及び入射角度の依存性)を有し、縦横の散乱範囲に係る散乱特性までも制御することが容易であると共に、観察位置によって表示光の色が変化しない異方性光散乱フィルムを得るための熱可塑性樹脂組成物において、該熱可塑性樹脂組成物の耐熱性、耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ところで、本発明者の検討によると、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に従来用いていた熱可塑性樹脂の代わりに、水酸基を含む熱可塑性樹脂に、ラジカル重合性基を有する修飾剤を反応させ、該水酸基をラジカル重合性基で修飾した熱可塑性樹脂(以下では、修飾熱可塑性樹脂とする。)を用いたところ、この修飾熱可塑性樹脂中のラジカル重合性基が、定着露光により、ラジカル重合性基を有する化合物と架橋反応することを見出した。このため、この修飾熱可塑性樹脂を用いた異方性光散乱フィルムは、従来よりも架橋密度が上昇することを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、請求項1に記載の発明は、少なくとも、(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂と、
(B)ラジカル重合性基を有する化合物と、
(C)化学放射線によってラジカル種を発生する光重合開始剤と、を含み、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂の屈折率と、(B)ラジカル重合性基を有する化合物の屈折率が異なることを特徴とする異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、(D)分子内に少なくともひとつのカチオン重合性基を有する化合物と、(E)化学放射線あるいは熱によってカチオン種を発生する重合開始剤と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記(B)ラジカル重合性基を有する化合物が、標準環境温度・圧力において液体であり、かつ1気圧における沸点が100℃以上であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記(B)ラジカル重合性基を有する化合物と、
前記(A)水酸基を有し、該水酸基にラジカル重合性を有する修飾剤が導入された熱可塑性樹脂との屈折率差が0.01以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、(F)増感色素を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、未修飾の水酸基を含み、かつ、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂のうち、ラジカル重合性を有する修飾剤を導入された水酸基の割合が、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入前の熱可塑性樹脂の水酸基量に対し、
0.5mol%〜95mol%の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型フェノキシ樹脂構造を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、前記ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型フェノキシ樹脂の重量平均分子量が10,000から100,000であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0020】
請求項9に記載の発明は、前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールの何れかから選択される化合物構造を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0021】
請求項10に記載の発明は、前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、水酸基を有する熱可塑性樹脂の該水酸基に、イソシアネート基含有ビニル化合物、酸無水物基含有ビニル化合物、酸ハロゲン化物基含有ビニル化合物から選択される修飾剤を導入してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0022】
請求項11に記載の発明は、前記(D)分子内に少なくともひとつのカチオン重合性基を有する化合物が、オキシラン環を有する化合物、オキセタン環を有する化合物、ビニルエーテル化合物から選ばれる少なくともひとつあるいは数種の化合物からなることを特徴とする請求項2〜10のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物である。
【0023】
請求項12に記載の発明は、屈折率の異なる部分を不規則な厚さのストライプ形状で分布させてなり、かつ、その屈折率の異なるストライプの向きが、フィルムの厚さ方向に対して傾斜して層状に分布している構造を有する異方性光散乱フィルムにおいて、
前記異方性光散乱フィルムが請求項1〜11のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用組成物を用いて形成されることを特徴とする異方性光散乱フィルムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物の架橋密度が従来よりも向上させることができた。このため、観察位置によって表示光の色が変化しない異方性光散乱フィルムにおいて、従来よりも耐熱性、耐久性に優れた異方性光散乱フィルムを提供することができた。
【0025】
また、本発明の異方性光散乱フィルム組成物を用いて形成した異方性光散乱フィルムは、所定角度で入射する光に対しては光散乱が生じ、逆にそれとは垂直な光に対しては透明フィルムとして機能した。つまり、光散乱性に入射角度選択性を有し散乱性を要する光と散乱性が不要な光をそのフィルムへの入射角度により分離することができた。このため、本発明の異方性光散乱フィルムを用いることで、液晶表示装置などのディスプレイ光に不必要な散乱を生じることなく表示の明るさや細かさ、コントラストを向上させ、表示像のぼけを軽減させることができた。さらに、本発明の異方性光散乱フィルムは、熱により上記の光散乱機能を低下させることなく、優れた光散乱機能を維持する効果を奏した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は、屈折率の異なる部分が不規則な形状・厚さで分布して、屈折率の高低(同図では、白と黒で表現する)からなる濃淡模様が形成された異方性光散乱フィルム1の一例を示す説明図であり、左が平面図、右が断面図である。
【0027】
図1、平面図から分かるように、屈折率の異なる部分の形状は横長である。また、図1、断面図から分かるように、屈折率の異なる部分はフィルムの厚さ方向に対して傾斜した層状に分布した構造である。
【0028】
本発明の異方性光散乱フィルムの光学特性について説明する。屈折率の異なる部分が層状に分布した上記層の傾斜方向に沿った角度(フィルムの垂線から角度θをなす図1断面図の矢印2の方向)の入射光は、異方性光散乱フィルムを透過する際に光散乱が生じる(図1断面図参照)。そして、層の傾斜方向に対して垂直な角度(図の矢印3の方向)で入射した光は、異方性光散乱フィルムで散乱されずに出射する(図1、断面図参照)。このため、異方性光散乱フィルムに入射した光は、入射角度によって散乱の可否が決まる。
【0029】
図2は、本発明の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物を用いて作製した異方性光散乱フィルム1の入射角度依存性の一例を示すグラフである。図中実線で示すように、ある特定入射角度範囲(図では0度から60度)の光に対してはヘイズ値が80以上あり、逆にそれとは対称な入射角度(図では-60度から0度)の光に対してのヘイズ値は20以下になっており、これが本明細書中で言う光散乱フィルムの入射角度依存性(散乱の異方性)を示す。
【0030】
以下、本発明の異方性光散乱フィルムを作製する手段について述べる。本発明の異方性光散乱フィルムは光学的な露光手段により作製することができる。図3はランダムマスクパターンを利用して作製する光学系の一例を示す説明図である。UV光源6から出た紫外光はコリメート光学系7により平行光8とし、マスク原版9を照射する。
【0031】
マスク原版9のUV照射側とは反対の面には感光材料5を密着して配置する。感光材料5には異方性光散乱フィルム用樹脂組成物を用いる。本発明は、この異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に係るものである。詳細については後述する。続いて、マスク原版9のパターンを感光材料5に露光照射する。この際、図示のようにUV平行光8とマスク原版9は所定角度αだけ傾いて配置されているため、パターン露光は感光材料5中で、所定角度傾いてなされることになる。この角度が、異方性光散乱性フィルム中の屈折率の異なる部分の傾斜角度(すなわち、入射角度依存性の散乱角度θ)に相当することになるので、前記角度は用途に応じて0から60度程度の範囲内で適宜選択する。
【0032】
図4は、図1に示す構造の異方性光散乱性フィルムを、スペックルパターンを利用して作製する光学系の一例を示す説明図である。レーザー光源13から出たレーザー光14ですりガラス15を照射する。すりガラス15のレーザー照射側とは反対の面には所定距離Fをおいて感光材料5を配置し、すりガラス15で透過散乱したレーザー光が作り出す複雑な干渉パターンであるスペックルパターンを感光材料5に露光照射される。
【0033】
この際、図示のようにすりガラス10と感光材料5は所定角度αだけ傾いて配置されているため、スペックルパターンは感光材料中で、所定角度傾いて露光されることになる。この角度が、異方性光散乱性フィルム中の屈折率の異なる部分の傾き(すなわち、入射角度依存性の散乱ピーク角度θ)に相当することになるので、前記角度は用途に応じて0から60度程度の範囲内で適宜選択する。
【0034】
記録に使用するレーザ光源は、アルゴンイオンレーザーの514.5nm、488nm、457.9nm、363.5nm又は357.1nmの波長のうち、感光材料の感度に応じて適宜選択して使用する事ができる。またアルゴンイオンレーザー以外でもコヒーレント性の良いレーザー光源であれば仕様可能で、例えばヘリウムネオンレーザーやクリプトンイオンレーザー、532nm、355nmを発振可能な半導体レーザーなどが使用できる。
【0035】
基材としては、ガラス基板、シリコン基板、銅板、有機高分子フィルム等が挙げられる。有機高分子フィルムとしては、例えば、ポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、セロハン又はセルロイド等からなる合成樹脂フィルムが挙げられる。塗布装置としては、公知の塗布装置が使用でき、例えば、スピンコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイコーター、グラビアコーター及びコンマコーター等が挙げられる。
【0036】
基材上に塗布した場合の乾燥温度としては、20℃以上が好ましく、また150℃未満が好ましい。乾燥時間は、30秒以上が好ましく、さらに好ましくは5分以下である。
【0037】
続いて、前述した本発明の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物について詳細に説明する。異方性光散乱フィルム用樹脂組成物には、ベースとして熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を用いることができるが、本発明では熱可塑性樹脂を採用する。この理由を以下に詳述する。
【0038】
一般的に、熱可塑性樹脂とは、加熱により反応が起こることなく軟化して塑性を示し、冷却と加熱を繰り返した場合、塑性が可逆的に保たれる樹脂である。また、一般的に熱可塑性樹脂は、他の樹脂と比べ柔軟性に富んでいる。そこで、例えば屈折率の低い熱可塑性樹脂を低屈折率部分とし、ラジカル重合性基を有する化合物を高屈折率部分として、これらの樹脂組成物をパターン露光した際、柔軟な熱可塑性樹脂中をラジカル重合性基を有する化合物がスムーズに移動し、高屈折率部分と低屈折率部分の屈折率差の大きい濃淡が明瞭に形成される。このため、異方性光散乱フィルムの特定入射角における入射光の光散乱性が向上する効果を奏する。さらに、熱可塑性樹脂は柔軟であるため作製した異方性光散乱フィルムの取扱いが容易である利点もある。
【0039】
さらに、本発明の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物は、バインダー樹脂に、通常の熱可塑性樹脂ではなく、修飾熱可塑性樹脂を用いることで、異方性光散乱フィルムの耐熱性、耐久性を向上させることができる。この修飾熱可塑性樹脂にラジカル重合性基を有する化合物と、光重合開始剤を加え、露光による濃淡部の形成を可能とする。前記ラジカル系とカチオン重合性基を有する化合物及びカチオン発生剤を必要に応じて混合して、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物としてもよい。また、これらの異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に増感剤を加え、露光感度を向上させることができる。さらに、これらの異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に、架橋剤を添加すると、架橋密度が向上し、耐久性、耐熱性をより改進させることができる。この他、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物には、必要に応じて、重合禁止剤、無機微粒子等公知の添加剤や公知の溶剤を含有させてもよい。
【0040】
また、上述したように、本発明の組成物で作製した異方性光散乱フィルムの内部は、屈折率の異なる部分が不規則な形状・厚さで分布することにより屈折率の高低からなる濃淡模様が形成されている。この屈折率の差異が小さすぎると散乱性が悪くなり、逆に大きすぎるとどのような角度で光が入射しても光散乱が生じてしまうことから、異方性光散乱フィルムの濃淡部分に適切な屈折率差を与えることが、入射角度に依存性する光散乱性に対して重要である。そして、異方性光散乱フィルム内部の濃淡の屈折率差は、修飾熱可塑性樹脂組成物と、ラジカル重合性基を有する化合物の屈折率の差に依存する。その屈折率差が大きいほど光の散乱する度合い、いわゆるヘイズが大きくなる。そこで、修飾熱可塑性樹脂と、ラジカル重合性基を有する化合物の屈折率差が0.01以上であることが好ましい。
【0041】
また、異方性光散乱フィルムの濃淡部分の屈折率差は、作製方法や記録材料等により制限を受けるため、前記の屈折率差が大きい場合は異方性光散乱フィルムの膜厚を薄くし、前記の屈折率差が小さい場合は異方性光散乱フィルムの膜厚を厚くすることで、異方性光散乱性フィルムの異方性光散乱を調節することが望ましい。
【0042】
以下に、本発明の修飾熱可塑性樹脂について説明する。本発明の修飾熱可塑性樹脂は、定着露光時に、該修飾熱可塑性樹脂のラジカル重合性基部分が官能基として作用し、ラジカル重合性基を有する化合物と架橋反応する。このため、異方性光散乱フィルムの耐久性、耐熱性を向上させるものである。修飾熱可塑性樹脂は、水酸基を有する熱可塑性樹脂の該水酸基に、ラジカル重合性を有する修飾剤を導入して得ることができる。
【0043】
前記水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、水酸基を有するオリゴマーもしくはポリマーであれば、特に限定されない。一例として、ポリアミド、ポリエステル並びに水酸基を有するビニル重合体、あるいは各種アクリレート、メタクリレートの共重合体、フェノール樹脂、クレゾール樹脂等を挙げることができるが、特にビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型フェノキシ樹脂、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールを用いることが好ましい。前記水酸基を有する熱可塑性樹脂の重量平均分子量としては、通常、500〜100,000を用い、好ましくは700〜50,000、特に好ましくは1,000〜30,000のものを用いる。また、ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いた場合、10,000から100,000の重量平均分子量の樹脂を用いることが好ましい。
【0044】
ラジカル重合性基を有する修飾剤は、水酸基と反応しうる官能基を有する化合物を用いることができる。一例として、イソシアネート基、酸無水物基、酸ハロゲン化物基、ビニルエーテル基、プロペニルエーテル基を有する化合物が挙げられる。特にイソシアネート基を有する化合物、酸無水物基を有する化合物、酸ハロゲン化物基を有する化合物が、反応性などの観点から特に好ましい。このイソシアネート基は水酸基と反応することでウレタン結合を形成し、一方、酸無水物基、酸ハロゲン化物基は水酸基と反応してエステル結合を形成する。そして、水酸基と反応可能なラジカル重合性基を有する修飾剤の一例として、イソシアネート基含有ビニル系モノマー、酸無水物基含有ビニル系モノマー、酸ハロゲン化物基含有ビニルモノマー等が挙げられる。イソシアネート基含有ビニル系モノマーとしては、炭素数4〜50(好ましくは4〜20)のイソシアネート化合物(例えば、スチリルイソシアネート、イソシアナートエチル(メタ)アクリレートなど)が挙げられる。酸無水物基含有ビニル系モノマーとしては、炭素数4〜50(好ましくは4〜20)の酸無水物(例えば、無水(メタ)アクリル酸など)が挙げられる。酸ハロゲン化物基含有ビニル系モノマーとしては、酸ハロゲン化物基を含有する炭化水素(炭素数4〜50(好ましくは4〜20))(例えば、(メタ)アクリロイルクロライドなど)が挙げられる。特に、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基含有ビニル系モノマーを用いることが望ましい。
【0045】
上記の水酸基を有する熱可塑性樹脂に、ラジカル重合性基を有する修飾剤を導入して、修飾熱可塑性樹脂を得ることができる。導入反応の一例として、水酸基を有する熱可塑性樹脂とラジカル重合性基を有する修飾剤を無溶剤あるいは溶剤に溶解させ、必要に応じて加熱、反応触媒添加を行うことが挙げられる。この際に用いる溶剤はエステル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ケトン、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート及びブチルアセテート等を用いることができ、特にケトン及びエステルを用いることが望ましい。加熱する際の温度としては、反応の進行しやすさに応じて適宜決定されるが、通常反応温度は50℃以上、90℃以下であり、反応時間は1〜6時間である。
【0046】
前記導入反応に用いる反応触媒としては、反応させる官能基に応じて適宜設定する。ラジカル重合性基を有する修飾剤が、イソシアネート基含有ビニル系モノマーの場合、金属触媒、アミン系触媒などが使用できる。金属触媒を用いる場合、錫系触媒(例えば、トリメチル錫ラウレート、トリメチル錫ヒドロキシド、ジメチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート及びジブチル錫マレエート等);鉛系触媒(例えば、オレイン酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉛、ナフテン酸鉛及びオクテン酸鉛等);等が挙げられる。その他の金属触媒としては、例えばナフテン酸コバルト等が挙げられる。アミン系触媒を用いる場合、3級アミン(例えば、トリエチルアミン等);ジアミン(例えば、トリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルヘキシレンジアミン等);モルホリン(例えば、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等);アルカノールアミン(例えば、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等);1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン;アミン炭酸塩および有機酸塩(例えば、ジメチルアミノエチルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、ジメチルアミノプロピルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、ジエチルアミノプロピルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、ジブチルアミノエチルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、ジメチルアミノオクチルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、ジプロピルアミノプロピルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、2−(1−アジリジニル)エチルアミンの炭酸塩及び有機酸塩、並びに4−(1−ピペリジニル)−2−ヘキシルアミンの炭酸塩及び有機酸塩等);等が挙げられる。ラジカル重合性基を有する修飾剤が酸無水物基含有ビニル系モノマー、酸ハロゲン化物基含有ビニル系モノマーの場合、上記金属触媒等を使用することができる。
【0047】
修飾熱可塑性樹脂のうち、導入前の水酸基に対する、ラジカル重合性基を有する修飾剤により修飾された水酸基の割合の好ましい範囲は、0.5mol%〜95mol%である。より好ましくは3mol%〜90mol、さらに特に好ましくは5mol%〜85mol%である。修飾の割合が0.5mol%以下であると架橋密度が低くなり耐久性が低下してしまう。また、95mol%以上であると修飾剤とラジカル重合性基を有する化合物がパターン露光時に反応しやすくなることから、ラジカル重合性基を有する化合物の拡散移動、つまり屈折率差が付き難くなり散乱性が低下してしまう。
【0048】
続いて、本発明に係るラジカル重合性基を有する化合物について説明する。ラジカル重合性基を有する化合物は、本発明の修飾熱可塑性樹脂と露光により架橋するものである。また、本発明の修飾熱可塑性樹脂と屈折率差をもつことにより、異方性光散乱フィルムに光散乱機能を付与するものである。このため、ラジカル重合性基を有する化合物と修飾熱可塑性樹脂の屈折率差は0.01以上であることが好ましい。ラジカル重合性基を有する化合物は、分子内に1個以上の重合性エチレン性二重結合を有し、化学放射線によりラジカルを発生する開始剤の存在下、高分子化または架橋反応する化合物を用いることができ、一例として、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基或いはアリル基など重合性エチレン性二重結合を有する化合物を挙げることができる。また、具体的には、ポリエステルアクリレート、ポリオールポリアクリレート、変性ポリオールポリアクリレート、イソシアヌル酸骨格のポリアクリレート、メラミナクリレート、ヒダントイン骨格のポリアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ビスフェノールA型ジアクリレートなどの多官能アクリレート、或いはこれらアクリレートに対応するメタクリレート類、メチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、トリブロモフェニルアクリレート、トリブロモフェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェニルカルビトールアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、アクリロイルオキシエチルサクシネート、アクリロイルオキシエチルフタレート及びこれらに対応するメタクリレート類、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル等のビニル化合物等あるいはこれらの混合物を揚げることができる。上市されているラジカル重合性基を有する化合物の商品名として、例えば、アロニックスM−101、M−208、M−210、M−240、M−305、M−400(いずれも東亞合成製)等が挙げられる。
【0049】
ラジカル重合性基を有する化合物は、標準環境温度・圧力において液体であることが望ましい。これは、ラジカル重合性基を有する化合物が標準環境温度・圧力において液体であると、ラジカル重合性基を有する化合物の拡散が促進され、異方性光散乱フィルムに十分な散乱性を付与されるためである。一方、ラジカル重合性基を有する化合物が、標準環境温度・圧力において固体であると、ラジカル重合性基を有する化合物の拡散移動が不十分となる可能性がある。また、1気圧における沸点が100℃以上であることが望ましい。ラジカル重合性基の沸点が1気圧で100℃以下であると、乾燥および加熱工程において蒸発、飛散する問題が生じやすくなる。
【0050】
異方性光散乱フィルム用樹脂組成物におけるラジカル重合性基を有する化合物の含有量は、修飾熱可塑性樹脂100重量部に対し、10から300重量部が好ましい。
【0051】
本発明に係る光重合開始剤は、化学放射線によってラジカル種を発生し、修飾熱可塑性樹脂とラジカル重合性基を有する化合物の架橋反応を開始させるものである。係る光重合開始剤の一例として、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルフォルメート、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3−ジメチルアミノ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、アントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、tert−ブチルアントラキノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−クロロチオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ジイソプロピルチオキサントン、ミヒラーズケトン、ベンジル、2,4,6−(トリハロメチル)トリアジン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾリル二量体、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9ーアクリジニル)ヘプタン、1,5−ビス(9−アクリジニル)ペンタン、1,3−ビス(9−アクリジニル)プロパン、ジメチルベンジルケタール、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、トリブロモメチルフェニルスルホン及び2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等が挙げられる。上市されている光ラジカル重合開始剤の商品名の一例として、“イルガキュアー907”、“イルガキュアー369”(いずれもチバ・スペシャリティケミカルズ製)等が挙げられる。
【0052】
異方性光散乱フィルム用樹脂組成物における光重合開始剤の配合量(重量%)は、ラジカル重合性基を有する化合物100重量部に対し、0.1から20重量部が好ましく、さらに好ましくは0.5から15重量部である。配合量が0.1重量部以下であると異方性光散乱フィルムを作製するのに十分な感度が得られず、一方、20重量部以上であると開始剤による着色、保存安定性の低下の問題が発生する。
【0053】
増感色素は前記光重合開始剤の露光によるラジカル種の発生を増感させ、露光による架橋反応の効率を向上させるものである。増感色素としては、シアニンまたはメロシアニン誘導体、クマリン誘導体、カルコン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、アズレニウム誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体などの有機染料化合物が使用できる。その他に「色素ハンドブック」(大河原信他編 講談社1986年)、「機能性色素の化学」(大河原信他編、シーエムシー 1981年)、「特殊機能材料」(池森忠三郎他編 シーエムシー 1986年)に記載されている色素及び増感剤を用いることが出来る。また、ニトロ化合物(例えば、アントラキノン、1,2−ナフトキノン、1,4−ナフトキノン,ベンズアントロン、p,p’−テトラメチルジアミノベンゾフェノン、クロラニル等のカルボニル化合物、ニトロベンゼン、p−ジニトロベンゼン及び2−ニトロフルオレン等)、芳香族炭化水素(例えば、アントラセン及びクリセン等)、硫黄化合物(例えば、ジフェニルジスルフィド等)及び窒素化合物(例えば、ニトロアニリン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、5−ニトロ−2−アミノトルエン及びテトラシアノエチレン等)等が用いられる。なお、これらに限定されるものではなく、その他の可視域の光に対して吸収を示す色素及び増感剤であれば用いることが出来る。これらは必要に応じて任意の比率で二種以上を用いてもかまわない。
【0054】
カチオン重合性基を有する化合物は分子内に少なくともひとつのカチオン重合性基を有しており、ラジカル重合性基を有する化合物と異方性光散乱フィルム用樹脂組成物として併用する場合、カチオン重合性基を有する化合物は露光後の加熱時に液体であることが望ましい。カチオン重合性基を有する化合物は露光後の加熱時に液体であると、ラジカル重合性を有する化合物の拡散移動を起き易くなり、可塑剤的な役割を果たすためである。また、前記のようにカチオン系とラジカル系を併用する場合、ラジカル重合性を有する化合物の屈折率が修飾熱可塑性樹脂よりも高い場合は、カチオン重合性基を有する化合物に屈折率が低い化合物を用い、ラジカル重合性を有する化合物の屈折率が修飾熱可塑性樹脂よりも低い場合は、カチオン重合性基を有する化合物に屈折率の高い化合物を適宜選択すると、異方性光散乱フィルムの散乱性に悪影響を与えない。
【0055】
カチオン重合性基を有する化合物の一例として、オキシラン環を有する化合物、オキセタン環を有する化合物、ビニルエーテル化合物を用いることが出来る。
【0056】
前記オキシラン環を有する化合物として好ましいものは、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物の(ポリ)グリシジルエーテル等が挙げられる。その代表例としては、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、(ジ、トリ、ポリ)エチレングリコールのジグリシジルエーテル、(ジ、トリ、ポリ)プロピレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。その他にも、1,2,5,6−ジエポキシ−4,7−メタノペルヒドロインデン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−3’,4’−エポキシ−1,3−ジオキサン−5−スピロシクロヘキサン、1,2−エチレンジオキシ−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメタン)、4’,5’−エポキシ−2’−メチルシクロヘキシルメチル−4,5−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレングリコール−ビス(3,4−エポキシキクロヘキサンカルボキシレート)、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、1,2,7,8−ジエポキシオクタンあるいは、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、グリシジルフェニルエーテル、p−ブロモフェニルグリシジルエーテル、グリシジル−1 −ナフチルエーテル、グリシジル−2−ナフチルエーテル、グリシジルインダリルエーテル、ベンゾチアゾリルグリシジルエーテル、ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル化合物、フェノキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、p−ブロモフェノキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、p−トリルエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ナフトキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートのようなエポキシ基あるいはエポキシシクロヘキシル基を有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0057】
前記オキセタン環を有する化合物として好ましいものは、トリメチレンオキサイド、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(p−トリルメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ナフトキシメチル)オキセタン、3,3’−ビス(フェノキシメチル)オキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン等が挙げられる。
【0058】
前記ビニルエーテル化合物として好ましいものは、ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニルイソアミルエーテル、ビニル−n−オクタデシルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンメタノールジビニルエーテル、トリメチロールメタントリビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、p−トリルビニルエーテル、p−メトキシフェニルビニルエーテル、ナフチルビニルエーテル、ビス(4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(4−ビニロキシブチル)イソフタレート等のビニルエーテル化合物が挙げられるがこの限りではない。
【0059】
本発明のカチオン発生剤としては、光によりカチオン種を発生するものと熱によりカチオン種を発生するものを用いることができる。本発明において用いられる化学放射線によってカチオン種を発生する重合開始剤としては、J.Photochem.Sci.Technol.,2,283(1987).に記載される化合物、具体的には鉄アレーン錯体、トリハロゲノメチル置換s−トリアジン、スルフォニウム塩、ジアゾニウム塩、フォスフォニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩、ヨードニウム塩等が挙げられる。また、ヨードニウム塩としては、Macromolecules、10、1307(1977).に記載の化合物、例えば、ジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、フェニル(p−アニシル)ヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウムなどのヨードニウムのクロリド、ブロミド、あるいはホウフッ化塩、ヘキサフルオロフォスフェート塩、ヘキサフルオロアルセネート塩、芳香族スルホン酸塩等や、ジフェニルフェナシルスルホニウム(n−ブチル)トリフェニルボレート等のスルホニウム有機ホウ素錯体類を挙げることが出来る。
【0060】
本発明において用いられる熱によってカチオン種を発生するカチオン発生剤は、常温、常圧の通常条件で活性を示さず、外部刺激である熱により開始種を発生するいわゆる潜在性熱重合開始剤であり、カチオン重合が可能な化合物であれば異類のエポキシ化合物同士や、エポキシとビニルエーテル化合物等の異種の重合も可能である。熱によってカチオン種を発生するカチオン発生剤の一例として、ジアルキルアリルスルホニウム類、シクロアルキルアリルスルホニウム類、アルキルジアリールスルフォニウム類、ジアルキルアリールスルホニウム類、トリアリールスルホニウム類、ベンジルピリジニウム類、ベンジルアンモニウム類、ベンジルトリアリールホスホニウム類のテトラフルオロボレート塩、ヘキサフルオロフォスフェート塩、ヘキサフルホロアルセネート塩、テトラフルオロアンチモネート塩等、以下に示す化合物を挙げることが出来るが、この限りではない。
【0061】
【化1】

(式中R1 、R2 は同一または異なる置換または非置換の脂肪族基でR1 、R2は環を形成してもよい。Aは一般式[I]、[II]表される基である。)
【化2】

(Ra −Rd は、水素原子または、置換または非置換の脂肪族基であり、Ra −Rd のうち少なくとも1 個は非置換の脂肪族基である。また、Re −Rg は置換または非置換の脂肪族基である。R3 は水酸基、メトキシ基、エトキシ基、tert−ブトキシ基、メトキシカルボニル基、アセトキシ基、ベンジルオキシ基、ベンゾイル基、ジメチルアミノ基から選ばれたひとつである。R4 、R5 は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1 −C4 のアルキル基のいずれかを示す。R6 、R8 は、水素原子、メチル基、メトキシ基、ハロゲン原子のいずれかであり、R7 はC1 −C4 のアルキル基のいずれかを示す。C9は、水素原子、シアノ基、ニトロ基のいずれかである。R10−R12は、アルキル基、アルケニル基(水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、アルカノイルオキシ基で置換されていてもよい)、またはフェニル基(アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基で置換されていてもよい)で表される基である。)
【0062】
異方性光散乱フィルム用樹脂組成物におけるカチオン発生剤の配合量(重量%)は、カチオン重合性基を有する化合物100重量部に対し、0.1から50重量部が好ましく、さらに好ましくは0.5から30重量部である。配合量が0.1重量部以下であると異方性光散乱フィルムを作製するのに十分な感度が得られず、一方、30重量部以上であると開始剤による着色、保存安定性の低下の問題が発生する。
【0063】
異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に用いる架橋剤は、熱可塑性樹脂を架橋し、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物の耐熱性、耐久性をさらに向上させるものである。係る架橋剤として、メラミン樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート化合物を用いることができる。これらの架橋剤は熱を加えることで水酸基との反応が進行することが知られている。さらに酸触媒が存在することで、反応が加速される。
【0064】
前記メラミン樹脂またはメラミン化合物は、加熱することにより、水酸基を有する熱可塑性樹脂のヒドロキシ基と、メラミン誘導体のメチロール基あるいはメトキシメチル基との間の脱水あるいは脱アルコール縮合反応を起こしてエーテル結合を生成する。このため、水酸基を有する熱可塑性樹脂の水酸基(水酸基を有する熱可塑性樹脂にラジカル重合性基を有する化合物を導入し、修飾熱可塑性樹脂を得た場合においては、水酸基を有する熱可塑性樹脂の水酸基のうち、ラジカル重合性基を有する修飾剤で修飾を受けなかった水酸基)をメラミン誘導体にて架橋反応をさせることが可能となり、異方性散乱フィルムの耐久性、耐熱性を向上させることができる。このようなメラミン誘導体としては、メチロール基あるいはメトキシメチル基を有している化合物であればよい。このメラミン誘導体の中でも、溶解性、特に、溶剤に対する溶解性が大きいほど好ましい。具体的には、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、あるいはジメトキシメチルメラミン、トリメトキシメチルメラミン、テトラメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン化合物、またはこれらの化合物とホルムアルデヒド等反応させることにより得られるメラミン樹脂が挙げられる。
【0065】
前記フェノール樹脂は、メラミン樹脂の場合と同様に熱を加えることにより、フェノール樹脂の末端のメチロール基と、水酸基を有する熱可塑性樹脂のヒドロキシ基との間で脱水反応してエーテル結合を生成して架橋することとなる。
【0066】
本発明におけるフェノール樹脂は、下記一般式(3)に示される構造単位で表すことができ、特に限定するものではないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール化合物とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド化合物とを縮合させることにより、容易に得ることができる。
【0067】
【化3】

(式中、mは0以上の数(二量体以上の混合物)であることを表し、Rは水素、メチル基を表す)
【0068】
前記イソシアネート化合物は、メラミン樹脂の場合と同様に熱を加えることにより、イソシアネート基と、水酸基を有する熱可塑性樹脂のヒドロキシ基と反応してウレタン結合を生成して架橋することとなる。イソシアネート化合物としては、2官能型ジイソシアネート化合物が好ましく、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよび変性品、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。2官能型ジイソシアネートであるため、両末端が水酸基を有する熱可塑性樹脂のヒドロキシ基と反応することにより架橋反応が進行することとなる。
【0069】
架橋剤の量は、ラジカル重合性基を有する修飾剤により修飾する前の熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.5から50重量部、好ましくは1から30重量部である。
【0070】
増感色素を用いる場合、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物における増感色素の配合量は、光重合開始剤100重量部に対して、0.1から100重量部が好ましく、さらに好ましくは、0.5から80重量部である。使用量は、感光層膜厚と該膜厚の光学濃度によって制限を受ける。すなわち、光学濃度が2を越えない範囲で使用することが好ましい。
【0071】
前記重合禁止剤の一例として、ジフェニルヒドラジル、トリ−p−ニトルフェニルメチル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、ニトロベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド及び塩化銅(II)等を用いることができる。
【0072】
重合禁止剤を使用する場合、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物に重合禁止剤の配合量は、修飾熱可塑性樹脂、ラジカル重合性を有する化合物、光重合開始剤の合計重量を100としたときに、0.01から5.0重量部の範囲となることが好ましく、さらに好ましくは0.1から2.0重量部である。
【0073】
前記溶剤としては、上述の修飾熱可塑性樹脂の製造に使用される溶剤に挙げたものと同様のものを使用できる。溶剤を使用する場合、溶剤の配合量は、特に限定されないが、異方性光散乱フィルム用樹脂組成物の全重量100重量部に対して、通常50から1,000重量部が好ましく、さらに好ましくは70から900重量部である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、部は重量部を意味する。
【0075】
<修飾熱可塑性樹脂Aの製造>
三口フラスコに、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(Inchem Corp製、商品名PKHH、重量平均分子量52,000)20部、2−ブタノン80部を仕込み、均一に溶解するまで攪拌した。BHT0.05部、2−イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工(株)製、商品名カレンズMOI)10部を加え、60℃まで加熱した。触媒としてジブチルスズラウレート0.2部を加え60℃で、3時間反応させた。その後、2−ブタノンで樹脂濃度が20重量%となるように希釈し、目的の変性フェノキシ樹脂の2−ブタノン溶液を得た。
【0076】
<修飾熱可塑性樹脂Bの製造>
三口フラスコに、ブチラール樹脂(電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#3000−K、平均重合度800)20部、2−ブタノン80部を仕込み、均一に溶解するまで攪拌した。BHT0.05部、イソシアナートエチルメタクリレート10部を加え、60℃まで加熱した。触媒としてジブチルスズラウレート0.2部を加え60℃で、3時間反応させた。その後、2−ブタノンで樹脂濃度が20重量%となるように希釈し、目的の変性ブチラール樹脂の2−ブタノン溶液を得た。
【0077】
<修飾熱可塑性樹脂Cの製造>
三口フラスコに、アセタール樹脂(積水化学工業(株)製、商品名エスレックBX−1)20部、2−ブタノン80部を仕込み、均一に溶解するまで攪拌した。BHT0.05部、メタクリルクロライド10部を加え、60℃まで加熱した。触媒としてトリエチルアミン0.2部を加え60℃で、3時間反応させた。その後、2−ブタノンで樹脂濃度が20重量%となるように希釈し、目的の変性アセタール樹脂の2−ブタノン溶液を得た。
【0078】
<実施例1>
修飾熱可塑性樹脂Aで作製した変性フェノキシ樹脂溶液100部、ポリプロピレングリコールジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−220)100部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。当該感光液をTACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD−80 厚み80μm)に、膜厚が約30μmになるようにドクターブレードで塗布、乾燥し記録用媒体とした。
【0079】
光源としてアルゴンレーザー(363.5nm)のレンズを用いて広げた光ですりガラス15を介して、記録材料面から露光し(α=30゜、50mJ/cm2)、120℃で5分間加熱後、高圧水銀灯で記録用媒体を全面照射することで定着して、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた該フィルムの厚みは29μmであった。
【0080】
評価は、島津製作所(株)製の分光光度計を用い各角度で透過率(波長範囲;400−600nm)を測定した。この全波長平均透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0081】
<実施例2>
修飾熱可塑性樹脂Bで作製した変性ブチラール樹脂溶液100部、フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)100部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。前記以外は実施例1と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは28μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0082】
<実施例3>
修飾熱可塑性樹脂Cで作製した変性アセタール樹脂溶液100部、フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)100部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。前記以外は実施例1と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0083】
<実施例4>
ポリプロピレングリコールジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−220)の代わりにペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−305)を使う以外は実施例1と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは28μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0084】
<実施例5>
フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)の代わりにイソシアヌール酸EO変性ジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−215)を使う以外は実施例2と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは29μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0085】
<実施例6>
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)の代わりに2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF(株)製、商品名LucirineTPO)を使う以外は実施例1と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは30μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0086】
<実施例7>
修飾熱可塑性樹脂Aで作製した変性フェノキシ樹脂溶液100部、ポリプロピレングリコールジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−220)50部、フェニルグリシジルエーテル50部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE250)5.0部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。実施例1と同様にして記録用媒体を作製し、光源としてアルゴンレーザー(363.5nm)のレンズを用いて広げた光ですりガラス15を介して、記録材料面から露光し(α=30゜、50mJ/cm2)、高圧水銀灯で100mJ全面照射後、120℃で5分間加熱し、高圧水銀灯で記録用媒体を全面照射することで定着して、異方性光散乱性フィルムを得た。異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは23μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0087】
<実施例8>
修飾熱可塑性樹脂Bで作製した変性ブチラール樹脂溶液100部、フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)50部、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名セロキサイド2021P)50部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE250)5.0部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。前記以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは23μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0088】
<実施例9>
修飾熱可塑性樹脂Cで作製した変性アセタール樹脂溶液100部、フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)50部、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名セロキサイド2021P)50部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE250)5.0部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。前記以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは23μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0089】
<実施例10>
フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)の代わりにイソシアヌール酸EO変性ジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−215)を用い、TACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD-80 厚み80μm)に乾燥膜厚が約30μmとなるように塗布、乾燥した。前記以外は実施例8と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。
さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0090】
<実施例11>
フェニルグリシジルエーテルの代わりに1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(東亞合成(株)製、商品名OXT−121)を用い、TACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD-80 厚み80μm)に乾燥膜厚が約30μmとなるように塗布、乾燥した。前記以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0091】
<実施例12>
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名セロキサイド2021P)の代わりに3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(東亞合成(株)製、商品名OXT−101)を用い、TACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD-80 厚み80μm)に乾燥膜厚が約30μmとなるように塗布、乾燥した。前記以外は実施例8と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0092】
<実施例13>
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)の代わりに2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF(株)製、商品名LucirineTPO)を使う以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは30μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0093】
<実施例14>
(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE250)の代わりにアルキルジアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(三新化学工業(株)製、商品名SI−100L)を使う以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは30μmであった。各角度での全波長透過率の測定結果を表1に示す。さらに、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後の結果を表2に示す。表2に示すとおり、耐熱テスト後においても異方性光散乱フィルムの透過率の変化は見られなかった。
【0094】
【表1】

【表2】

【0095】
<比較例1>
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(Inchem Corp製、商品名PKHH、重量平均分子量52,000)100部、ポリプロピレングリコールジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−220)100部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。当該感光液をTACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD−80 厚み80μm)に、膜厚が約30μmになるようにドクターブレードで塗布、乾燥し記録用媒体とした。前記以外は実施例1と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。しかしながら、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後に散乱異方性が低下してしまった。耐熱テスト前後の結果を表3、表4に示す。
【0096】
<比較例2>
ブチラール樹脂(電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#3000−K)100部、フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)100部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。当該感光液をTACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD−80 厚み80μm)に、膜厚が約30μmになるようにドクターブレードで塗布、乾燥し記録用媒体とした。前記以外は実施例1と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは29μmであった。しかしながら、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後に散乱異方性が低下してしまった。耐熱テスト前後の結果を表3、表4に示す。
【0097】
<比較例3>
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(Inchem Corp製、商品名PKHH、重量平均分子量52,000)100部、ポリプロピレングリコールジアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−220)50部、フェニルグリシジルエーテル50部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE250)5.0部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。当該感光液をTACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD-80 厚み80μm)に、膜厚が約30μmになるようにドクターブレードで塗布、乾燥し記録用媒体とした。前記以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。しかしながら、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後に散乱異方性が低下してしまった。耐熱テスト前後の結果を表3、表4に示す。
【0098】
<比較例4>
ブチラール樹脂(電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#3000−K)100部、フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名ライトアクリレートPO−A)50部、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名セロキサイド2021P)50部、および1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE184)10部、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(チバスペシャリティケミカルズ(株)製、商品名IRGACURE250)5.0部を2−ブタノン100部に混合溶解したものを感光液とした。当該感光液をTACフィルム(富士写真フィルム(株)製 商品名フジタックTD-80 厚み80μm)に、膜厚が約30μmになるようにドクターブレードで塗布、乾燥し記録用媒体とした。前記以外は実施例7と同様にして操作し、異方性光散乱性フィルムを得た。得られた当該フィルムの厚みは31μmであった。しかしながら、該光異方性散乱フィルムの光学特性は80℃、500時間の耐熱テスト後に散乱異方性が低下してしまった。耐熱テスト前後の結果を表3、表4に示す。
【0099】
【表3】

【表4】

【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の光散乱フィルムを示す説明図であり、左が平面図、右が断面図である。
【図2】本発明の光散乱フィルムの持つ入射角度依存性の一例を示すグラフである。
【図3】図1に示す構造の光散乱フィルムを、マスクパターンを利用して作製する光学系の一例を示す説明図である。
【図4】図1に示す構造の光散乱フィルムを、スペックルパターンを利用して作製する光学系の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0101】
1…光散乱フィルム
2…散乱方向から入射する照明光
3…透過方向から入射する照明光
4…実測したヘイズ値のプロット
5…感光材料
6…UV光源
7…コリーメート光学系
8…平行光
9…マスク原版
10…ガラス基板
11…クロムパターン
12…光ファイバー
13…レーザー光源
14…レーザー光
15…すりガラス
16…ビームエキスパンダー
17…コリメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂と、
(B)ラジカル重合性基を有する化合物と、
(C)化学放射線によってラジカル種を発生する光重合開始剤と、を含み、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂の屈折率と、(B)ラジカル重合性基を有する化合物の屈折率が異なることを特徴とする異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項2】
(D)分子内に少なくともひとつのカチオン重合性基を有する化合物と、
(E)化学放射線あるいは熱によってカチオン種を発生する重合開始剤と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ラジカル重合性基を有する化合物が、標準環境温度・圧力において液体であり、
かつ1気圧における沸点が100℃以上であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)ラジカル重合性基を有する化合物と、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂との屈折率差が0.01以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
(F)増感色素を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、未修飾の水酸基を含み、かつ、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂のうち、ラジカル重合性を有する修飾剤を導入された水酸基の割合が、
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入前の熱可塑性樹脂の水酸基量に対し、
0.5mol%〜95mol%の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型フェノキシ樹脂構造を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項8】
前記ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型フェノキシ樹脂構造部分の重量平均分子量が10,000から100,000であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項9】
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールの何れかから選択される化合物構造を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項10】
前記(A)ラジカル重合性を有する修飾剤を水酸基に導入した構造を含む熱可塑性樹脂が、水酸基を有する熱可塑性樹脂の該水酸基に、イソシアネート基含有ビニル化合物、酸無水物基含有ビニル化合物、酸ハロゲン化物基含有ビニル化合物から選択される修飾剤を導入してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項11】
前記(D)分子内に少なくともひとつのカチオン重合性基を有する化合物が、オキシラン環を有する化合物、オキセタン環を有する化合物、ビニルエーテル化合物から選ばれる少なくともひとつあるいは数種の化合物からなることを特徴とする請求項2〜10のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用樹脂組成物。
【請求項12】
屈折率の異なる部分を不規則な厚さのストライプ形状で分布させてなり、かつ、その屈折率の異なるストライプの向きが、フィルムの厚さ方向に対して傾斜して層状に分布している構造を有する異方性光散乱フィルムにおいて、
前記異方性光散乱フィルムが請求項1〜11のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム用組成物を用いて形成されることを特徴とする異方性光散乱フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−322965(P2006−322965A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143612(P2005−143612)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】