説明

異方性色素膜用組成物、異方性色素膜及び偏光素子

【課題】 保存安定性の高い組成物が高く、塗布膜のスジやムラ等を生じない製膜性の高い組成物、およびスジやムラ等のない均一かつ光学特性の劣化がない塗布膜である異方性色素膜および該異方性色素膜を用いた偏光素子を提供することを課題とする。
【解決手段】二色性色素と、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤と、溶剤とを含有することを特徴とする異方性色素膜用組成物、これを用いて形成された異方性色素膜、及びこれを用いた偏光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性色素膜用組成物、これを用いて形成されてなる異方性色素膜、及び偏光素子に関する。特に、調光素子や液晶素子、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の表示素子に具備される偏光膜等に有用で、保存安定性に優れた新規な異方性色素膜用組成物及び、これを用いて形成されてなる異方性色素膜、及び偏光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレー(LCD)では、表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLEDにおいても外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。従来、これらの偏光板に代表される偏光素子の偏光膜にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために偏光膜に使用した場合、その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。また、その消光色が深い青になり、全可視スペクトル領域にわたって理想的な無彩色偏光板とは言えなかった。
【0003】
そのため、有機系の色素を二色性物質に使用する偏光膜などの異方性色素膜が検討されている。その方法の1つとして、最近では、非特許文献1〜2に記載の様に、ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機色素分子の分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させる方法が検討されている。この方法は、二色性色素及び溶剤を含む組成物の基板上への積載(塗布)工程、該溶剤の除去及び該色素の基板上での配向工程を含むプロセスからなる。この方法の場合、該色素分子の分子間相互作用などにより色素を配向させて偏光膜とするため、各工程の操作条件を適宜制御する必要があり、また、このプロセスに適した二色性色素及び溶剤を含む組成物を選択する必要がある。
【0004】
ところで、これまで、二色性色素及び溶剤を含む組成物を保存しておくと固形分を生じてしまうという問題点があった。組成物中に固形分が生じると、該組成物を塗布した際にスジやムラ等を起こし、塗布膜が乱れ、均一な塗布膜を得ることができなかった。
また、該組成物を用いて形成した異方性色素膜を保存しておくと、原因不明の欠陥を生じることがあった。この欠陥が原因と考えられる光学特性の低下が問題となっていた。
【非特許文献1】Dreyer,J.F., Phys. and Colloid Chem., 1948, 52, 808., "TheFixing of Molecular Orientation"
【非特許文献2】Dreyer,J.F., Journal de Physique, 1969, 4, 114., "LightPolarization From Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、異方性色素膜を製造するための二色性色素及び溶剤を含む組成物において、保存期間中に組成物中に固形分を生じさせず、保存安定性の高い組成物を提供することを課題とする。また、固形分を原因とする塗布膜のスジやムラ等を生じない製膜性の高い組成物、およびスジやムラ等のない均一でかつ光学特性の劣化がない塗布膜である異方性色素膜および該異方性色素膜を備えた偏光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、保存期間中に生じる組成物中の固形分は、カビあるいはバクテリアが原因であることを見出し、組成物中に防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤を含有することによって、保存安定性が高く、組成物中のカビやバクテリアの発生を防ぎ、その結果、塗布膜の乱れを防ぎ、光学特性の劣化のない塗布膜を得ることが可能であることを見いだした。
【0007】
また、異方性色素膜を保存すると生じる欠陥もまた、異方性色素膜中に存在するカビやバクテリアの発生が原因であることがわかった。そこで、異方性色素膜中に該薬剤を含有させることによって、欠陥等の発生や光学特性の低下のない異方性色素膜を得ることができることがわかり、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、二色性色素と、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤と、溶剤とを含有することを特徴とする異方性色素膜用組成物、これを用いて形成されてなる異方性色素膜、二色性色素及び防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤を含有する異方性色素膜、及び該異方性色素膜を備えた偏光素子、に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の異方性色素膜用組成物は、その製造および輸送、保管におけるカビやバクテリアの発生が抑止され、その結果、保存安定性、成膜性が良好であるとの効果を有する。又、該組成物を用いて形成された色素膜及び該色素膜を有する偏光素子は、組成物の成膜性が良好である結果、異物に起因した点欠陥による光漏れ等がなく、良好な品質の色素膜及び偏光素子となる。
【0009】
さらに、本発明の異方性色素膜用組成物を用いて形成された異方性色素膜は防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤が異方性色素膜中で析出、相分離することに起因した点欠陥がないことを特徴とした良質の色素膜及び偏光素子となる。
また、該薬剤を含有する本発明の異方性色素膜は、保存期間中に発生するカビやバクテリアを抑えることができるため、カビやバクテリアを原因とする欠陥を防止し、光学特性の劣化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明の異方性色素膜用組成物は、二色性色素と、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤と、溶剤とを含有する。本発明でいう異方性色素膜とは、色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。従って、本発明の異方性色素膜用組成物は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。又、本発明の異方性色素膜用組成物は、湿式製膜法により異方性色素膜を形成する際に使用される。
【0011】
以下、組成物について詳細に説明する。
本発明における二色性色素とは、色素分子の遷移モーメント方向の吸収とその軸から直交した軸の吸収の強度が異なる色素を意味し、二色性を有する色素である限り特に限定されないが、異方性色素膜としての変調機能の点から、下記式で示される二色比が、通常2以上、好ましくは5以上である。
【0012】
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:色素膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:色素膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
二色性色素としては、代表的には縮合多環系およびアゾ系色素等が挙げられ、更に、米国特許第2,400,877号明細書、Dreyer,J.F., Phys. And Colloid Chem.,1948, 52,808., “The Fixingof Molecular Orientation”、Dreyer,J.F., Journal de Physique,1969,4,114.,“Light Polarization From Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals”、およびJ.Lydon, “Chromonics” in “Handbook of Liquid Crystals Vol.2B:Low Molecular Weight Liquid Crystals II”,D.Demus, J.Goodby, G.W.Gray, H.W.Spiessm V.Vill ed., Willey-VCH, P.981-1007,(1998)などに記載の色素を使用することが出来る。
【0013】
また、色素は通常、溶解性の点から水溶性の色素であり、得られる異方性色素膜の特性の点からアゾ系色素、特にジスアゾ色素及びトリスアゾ色素であることが好ましく、中でも下記式(2−1)で表されるトリスアゾ色素或いは下記式(2−2)で表されるジスアゾ色素であることが好ましい。
Ar1−N=N−Ar2−N=N−Ar3−N=N−Ar4 ・・・(2−1)
Ar1−N=N−Ar2−N=N−Ar4 ・・・(2−2)
式中、Ar1及びAr4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素環基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。
【0014】
芳香族炭化水素環基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、2価の芳香族炭化水素環基としては、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。また、芳香族複素環基としてはピリジル基、キノリル基等が挙げられ、二価の芳香族複素環基としては5,8−キノリン−ジイル基等が挙げられる。
尚、式(2−1)及び式(2−2)の色素は、水溶性であることが好ましいことから、Ar1〜Ar4の少なくとも何れかの基が遊離酸の形でスルホ基を有することが好ましい。スルホ基以外の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基等が挙げられ、アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、通常1〜6程度である。これらの基は、更に置換基を有していても良い。該置換基としては、前記と同様にアルキル基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基等である。
【0015】
尚、本発明で使用される二色性色素がスルホ基を有する場合には、遊離酸型のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。また、本発明で用いる色素は塩型をとらない遊離の状態で、その分子量が通常200以上、特に300以上で、通常1500以下、特に1200以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明で用いられる二色性色素は、組成物中に、単独で含むことができるが、2以上の色素を含んでいても良い。
本発明の二色性色素の、異方性色素膜用組成物中の含有量は、色素の溶解性やリオトロピック液晶状態などの会合状態の形成濃度にも依存するが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であり、一方、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。
【0017】
本発明で言う防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤とは、カビの発生・生育・増殖を抑制する防カビ能、微生物を死滅される殺菌能、微生物の発生・生育・増殖を抑制する抗菌能の少なくともいずれかの機能を有する薬剤であればいずれでもよく、公知の防カビ剤、殺菌剤、抗菌剤が使用できる。ただし、異方性色素膜の光学特性を低下させないものであることが好ましい。本発明に用いられる防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤としては、例えば、従来の2,4,4′−トリクロロ−2′−ヒドロキシジフェニルなどのフェノール系、二酸化塩素などの塩素系、ヨウ素などのヨウ素系、塩化ベンザルコニウムなどの第4級アンモニウム塩系等が挙げられる。
【0018】
又、1,2−benzisothiazoline−3−oneを有効成分とするものとして、Proxel BDN、Proxel BD20、Proxel GXL、Proxel LV、Proxel XL、Proxel XL2、Proxel Ultra10(以上、Avecia社製 商品名)、polyhexametylene biguanide hydrochlorideを有効成分とするものとして、 Proxel IB、(Avecia社製 商品名)、Dithio−2,2‘−bis(benzmethylamide)を有効成分とするものとしてDensil P(Avecia社製 商品名)等も挙げられる。
また、下記式(1)で表される化合物も有効であり、特に極微量で抗菌効果を示すことから特に好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Xは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。)
Xで示されるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、該アルキル基は置換基を有するアルキル基であるのが好ましい。該アルキル基の置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、フェニルアミノ基、ハロフェニルアミノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、モルフォリノ基、ピペリジノ基、ピロリジノ基、カルバモイルオキシ基、もしくはイソチアゾロニル基が挙げられる。又、該ハロゲン原子及び該ハロフェニル基におけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が、該アルコキシ基及び該アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基としては、炭素数1〜6の直鎖状あるいは分岐鎖状のアルコキシ基が、アリールオキシ基のアリール基としては、フェニル基あるいはメチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されたフェニル基が、夫々好ましい。
【0021】
Xで示されるシクロアルキル基としては、炭素数5〜7のシクロアルキル基が挙げられ、中でも、シクロヘキシル基が好ましい。又、シクロアルキル基の置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
Xで示される芳香族炭化水素環基としては、フェニル基が好ましく、芳香族炭化水素環基は置換基を有するのが好ましい。芳香族炭化水素環基の置換基としては、ニトロ基、アルキル基またはアルコキシカルボニル基が好ましい。該アルキル基としては、低級アルキル基が好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。又、該アルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。
【0022】
Xで示される基は、上記の中でも、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基又はモルフォリノ基で置換された炭素数1〜6のアルキル基;炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基;又はハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基で置換された芳香族炭化水素環基であることが好ましい。
1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表すが、ハロゲン原子としては塩素原子又は臭素原子が好ましく、アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。中でも、R1は、水素原子またはハロゲン原子であること が更に好ましく、水素原子であることが特に好ましい。又、R2は、ハロゲン原子であることが好ましい。
【0023】
尚、本発明においては、置換基を有していてもよいとは、置換基を1以上有していてもよいことを意味する。又、アルキル基及び置換基のアルキル基に相当する部分の炭素数が3以上の場合、直鎖状あるいは分岐鎖状のいずれでも良い。
前記式(1)で表される化合物の代表的具体例を以下に示す。
No. 化合物名
1. 2−クロロメチル−5−クロロ−3−イソチアゾロン
2. 2−シアノメチル−5−クロロ−3−イソチアゾロン
3. 2−ヒドロキシメチル−5−クロロ−3−イソチアゾロン
4. 2−(3−メチルシクロヘキシル)−3−イソチアゾロン
5. 2−(4−クロロフェニル)−4,5−ジクロロ−3−イソチアゾロン
6. 2−(4−エチルフェニル)−3−イソチアゾロン
7. 2−(4−ニトロフェニル)−5−クロロ−3−イソチアゾロン
8. 2−クロロメチル−3−イソチアゾロン
9. 2−メトキシフェニル−4−メチル−5−クロロ−3−イソチアゾロン
10. 2−モルフォリノメチル−5−クロロ−3−イソチアゾロン
これらの化合物は、例えば特開平2−278号公報等を参考に合成することが可能であるが、商品名:トリバクトラン(ヘキスト社製)等の市販品を利用することも可能である。
【0024】
また、本発明の防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤は、これを単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
抗菌剤の異方性色素膜用組成物中の含有量は、本発明の効果が得られ、かつ以下で述べる湿式成膜法により異方性色素膜を作製した際に、色素と相分離するなど偏在して析出しない範囲で選択され、通常0.01重量%以上、好ましくは0.001重量%以上であり、一方、通常0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下である。
【0025】
この範囲を下回ると、異方性色素膜用組成物が充分な防カビ、抗菌または殺菌効果を有さず、この範囲を上回ると異方性色素膜用組成物中で薬剤が析出したり、異方性色素膜を成膜した際に相分離が生じる恐れがあるため、点欠陥や光散乱などの光学的欠陥を生じさせる恐れがある。また、本発明の異方性色素膜用組成物を用いて形成されてなる異方性色素膜は、好ましくは二色比が2以上であり、さらに好ましくは5以上である。
【0026】
尚、本発明の組成物においては、前記式(1)の化合物と共にN−ヒドロキシ−1,2−オキサゾリジンを併用することができる。
本発明における溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等の単独又は二種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0027】
本発明の異方性色素膜用組成物は、配向を低下させない程度に二色性色素以外の公知の色素を含有していてもよい。
配合用として好ましい色素の例としては、例えばC.I.Direct Yellow
12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.Direct Yell
ow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79,、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct Red 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0028】
かかる色素の配合により、各種の色相を有する異方性色素膜を製造することができる。
又、異方性色素膜用組成物を基材へ塗布する場合の基材への濡れ性、塗布性を向上させるため、本発明の組成物は、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を含有することができる。
【0029】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能である。その含有量は、通常0.05重量%以上、0.5重量%以下程度である。
本発明の異方性色素膜用組成物を用いて異方性色素膜を形成する場合、湿式成膜法が採用される。即ち、常法に従い、二色性色素、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤及び溶剤を含有する本発明組成物を調製後、ガラス板などの各種基材に塗布し、色素を配向、積層して得る方法などの公知の方法が挙げられる。
【0030】
基材として、ガラスやトリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等が挙げられる。また、この基材表面には、二色性色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」 丸善株式会社、平成12年10月30日発行、226ページから239ページなどに記載の公知の方法等により、配向処理層を施していても良い。
【0031】
湿式成膜法としては、原崎勇次著 「コーティング方式」 槇書店、1979年10月30日発行、3ページ(表1−2)および6ページから154ページに記載の各コータ方式や市村國宏監修 「分子協調材料の創製と応用」 株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行、118ページから149ページなどに記載の公知の方法や、例えば、あらかじめ配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法などで塗布することが挙げられる。
【0032】
基板への組成物の塗布時の温度は、好ましくは0℃以上、80℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。又、塗布された組成物の乾燥時の温度は、好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
前記の方法等で基材上に異方性色素膜を形成する場合、通常乾燥後の膜厚で、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、好ましくは50μm以下、更に好ましくは1μm以下である。
【0033】
このように湿式成膜法で形成された異方性色素膜は通常機械的強度が低いので、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜などが挙げられる。保護層は、塗布やラミネーションなどにより積層して形成される。
【0034】
また、本発明をLCDやOLEDなどの各種の表示素子に偏光フィルター等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板などに直接色素膜を形成したり、色素膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材に用いることができる。
本発明においては、上記本発明の異方性色素膜用組成物を用いて湿式成膜法により、異方性色素膜を形成することが好ましい。しかし、異方性色素膜自身のカビなどを防止するためには、本発明の異方性色素膜用組成物を用いて湿式成膜法により異方性色素膜を形成する方法に限らず、異方性色素膜中に防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤を含有していればよい。該異方性色素膜は、二色比が通常2以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。
その方法としては、異方性色素膜用組成物を用いて湿式成膜法により異方性色素膜を形成する以外にも、例えば、異方性色素膜を形成した後に、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤をスプレー法、ディッピング法などを用いて該色素膜に含有、付着させてもよい。
【0035】
異方性色素膜中の防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤の含有量は、通常0.3重量%以上、好ましくは3重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
また、本発明の異方性色素膜は、二色性色素及び防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤が相溶もしくは1000nm以下の相分離状態にあることを特徴とする。二色性色素及び防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤が相溶もしくは1000nm以下の相分離状態であることにより、光散乱性の欠陥や偏光解消性の欠陥などのない膜が得られる。
【0036】
尚、相溶もしくは1000nm以下の相分離状態であるとは、異方性色素膜中に異なる光学定数の領域が偏在しないことであり、目視や光学顕微鏡などにより光散乱性や偏光解消性の有無を調べることにより確認することができる。
本発明の偏光素子は、上述した本発明の異方性色素膜を用いたものであるが、異方性色素膜のみからなる偏光素子であってもよいし、基板上に異方性色素膜を有する偏光素子であってもよい。基板上に異方性色素膜を有する偏光素子は、基板も含めて偏光素子とよぶ。
【0037】
本発明の異方性色素膜を基板上に形成して偏光素子として使用する場合、形成された異方性色素膜そのものを使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0038】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特許第2841377号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報などに記載された処理
を施したりすることにより形成することができる。
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開 2002-169025号公報や特開 2003-29030 号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0039】
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【0040】
本発明の色素を用いた異方性色素膜は、ガラスなどの高耐熱性基材上に直接形成することが可能であり、高耐熱性の偏光素子を得ることができるという点から、液晶ディスプレーや有機ELディスプレーだけでなく液晶プロジェクタや車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途に好適に使用することができる。
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例1から4および比較例1から3において、保存性試験及び色素配向膜基板の評価は以下の通り行った。
<保存性試験>
実施例及び比較例で得られた組成物を、テフロン(登録商標)容器に密閉して、60℃で2ヶ月保存し、保存後の組成物を目視観察した。
<色素配向膜基板の評価>
上記保存試験の条件で保存した実施例及び比較例の組成物を、表面にスクリーン印刷法によるポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×150mm、厚さ1.1mm、ポリイミド膜:膜厚約800nmのポリイミド配向膜を予め布でラビング処理を施したもの)にバーコーター(テスター産業社製、番手No.3)で塗布し、自然乾燥させた。
【0042】
この色素配向膜基板を2枚のヨウ素系偏光フィルム(3M社製、HN−32、偏光軸を直交となるように重ね合わせたもの)に一方の偏光軸と色素配向膜の配向軸が直交となるように挟み、ライトボックス上で白抜けなどの点欠陥の有無を目視観察した。さらに、偏光子と検光子を直交させた偏光顕微鏡(ニコン社製エクリプスE600、対物レンズ100倍)で観察し、相分離など光散乱の原因となる欠陥の有無を観察した。
(実施例1)
水95部に、下記構造式を有する色素のリチウム塩を15部、ノニオン系界面活性剤エマルゲン109P(花王(株)社製)を0.2部、抗菌機能を有する薬剤(以下、抗菌剤という)として2−クロロメチル−5−クロロ−3−イソチアゾロン(前記No.1)を0.035部加え、撹拌溶解後濾過して色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
【0043】
該組成物に、代表的な菌としてPseudomonas aeruginose、Staphylococus aureus、Escherichiacoli、Candida albicans及びAspergillus nigerを植菌し、25℃で3日間培養した。このときの菌数を平板希釈法により測定し、結果を表1に記す。
【0044】
【化3】

【0045】
尚、該組成物をスライドガラス上に滴下し、偏光顕微鏡下において乾燥過程を観察したところリオトロピック液晶状態をとることが確認された。
また、該組成物は、保存性試験の結果、沈降物や浮遊物は認められず、保存安定性は良好であった。
更に、上記保存試験の条件で保存した該組成物を用いて、色素配向膜基板の評価を行ったところ、組成物に起因した点欠陥や相分離による光漏れ、散乱はなく、配向性は良好であった。
(比較例1)
実施例1の組成物において、抗菌剤を用いない以外は実施例1と同様にして異方性色素膜用組成物を調製し、これに実施例1と同様に菌を植菌して25℃で3日間培養した。このときの菌数を平板希釈法により測定した結果を表1に記す。
【0046】
また、該組成物は、保存性試験の結果、沈降物や浮遊物が認められた。
更に、上記保存試験の条件で保存した該組成物を用いて、色素配向膜基板の評価を行ったところ、組成物中に含まれる異物に起因した点欠陥による光漏れや散乱が観察され、抗菌剤を添加しない場合には異方性色素膜の品質を大きく損なうことが判った。
(実施例2)
水90部に、下記構造式を有する色素のリチウム塩を10部、ノニオン系界面活性剤エマルゲン109P(花王(株)社製)を0.2部、抗菌剤としてトリバクトラン(商品名:ヘキスト社製)を0.025部加え、撹拌溶解後濾過して色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。該組成物に実施例1と同様に菌を植菌して25℃で3日間培養した。このときの菌数を平板希釈法により測定した結果を表1に記す。
【0047】
【化4】

【0048】
また、該組成物は、保存性試験の結果、沈降物や浮遊物は認められず、保存安定性は良好であった。
更に、上記保存試験の条件で保存した該組成物を用いて、色素配向膜基板の評価を行ったところ、組成物に起因した点欠陥や相分離による光漏れ、散乱はなく、配向性は良好であった。
(比較例2)
実施例2の組成物において、抗菌剤を用いない以外は実施例2と同様にして異方性色素膜用組成物を調製し、該組成物に実施例2と同様に菌を植菌して25℃で3日間培養した。このときの菌数を平板希釈法により測定した結果を表1に記す。
【0049】
又、該組成物は、保存性試験の結果、沈降物や浮遊物が認められた。
更に、上記保存試験の条件で保存した該組成物を用いて、色素配向膜基板の評価を行ったところ、組成物中に含まれる異物に起因したスジ斑が観察され、抗菌剤を添加しない場合には異方性色素膜の品質を大きく損なうことが判った。
(実施例3)
実施例2において色素水溶液(異方性色素膜用色素組成物)の組成を水85部に下記構造式を有する色素のリチウム塩を15部、ノニオン系界面活性剤エマルゲン109P(花王(株)社製)を0.2部、抗菌剤としてProxel XL2(商品名:Avecia社製、1,2−benzisothiazoline−3−oneを有効成分とする抗菌剤)を0.3部加え、撹拌溶解後濾過して組成物を調製した。このものに実施例1と同様に菌を植菌して25℃で3日間培養した。このときの菌数を平板希釈法により測定した結果を表1に記す。
【0050】
【化5】

【0051】
また、該組成物は、保存性試験の結果、沈降物や浮遊物は認められず、保存安定性は良好であった。
(比較例3)
実施例3の組成物において、抗菌剤を用いない以外は実施例3と同様にして異方性色素膜用組成物を調整し、このものに実施例1と同様に菌を植菌して25℃で3日間培養した。このときの菌数を平板希釈法により測定した結果を表1に記す。
又、該組成物液は、保存性試験の結果、沈降物や浮遊物が認められた。
(実施例4)
水79部に、下記構造のアゾ色素のリチウム塩を20部、下記構造のアントラキノン色素のナトリウム塩を1部、抗菌剤として商品名:Proxel GXL(Avecia社製、1,2−benzisothiazoline−3−one を有効成分とする抗菌剤)を0.3部加え、撹拌溶解後濾過して組成物を調製した。該組成物は、実施例1と同様の方法により保存性試験を行った結果、沈降物や浮遊物は認められなかった。
【0052】
一方、実施例1と同様の方法によりガラス基材上にポリイミドのラビング配向膜が形成されたガラス製基板を準備し、この基板上に前記色素水溶液をギャップ5μmの4面アプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過率(Tz)および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過率(Ty)をヨウ素系偏光素子が入射光学系に配された分光光度計で測定した。可視光領域の各波長での各透過率(Tz,Ty)を図1に示す。また、各波長における二色比:D=-log(Tz/100)/-log(Ty/100)を図2に示す。
本発明の異方性色素膜は、400nmから700nmの広帯域で二色比10以上の高い光学吸収異方性を有しており、可視光における最大二色比は40以上であった。よって、高い分子配向度の膜であると推測される。
【0053】
【化6】

【0054】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例4で得られた異方性色素膜の可視光領域の各波長での各透過率(Tz,Ty)
【図2】実施例4で得られた異方性色素膜の各波長における二色比:D=-log(Tz/100)/-log(Ty/100)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性色素と、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤と、溶剤とを含有することを特徴とする異方性色素膜用組成物。
【請求項2】
該組成物を用いて形成されてなる異方性色素膜の二色比が2以上となる、請求項1に記載の異方性色素膜用組成物。
【請求項3】
防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の異方性色素膜用組成物。
【化1】

(式中、Xは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表し、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。)
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の異方性色素膜用組成物を用いて形成されてなる異方性色素膜。
【請求項5】
二色性色素と、防カビ、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤とを含有することを特徴とする、異方性色素膜。
【請求項6】
二色比が2以上であることを特徴とする、請求項5に記載の異方性色素膜。
【請求項7】
該薬剤が、相溶または1000nm以下の相分離状態にあることを特徴とする、請求項4ないし6のいずれか一項に記載の異方性色素膜。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか一項に記載の異方性色素膜を備えた偏光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−285219(P2006−285219A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55087(P2006−55087)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】