説明

異種板材のスポット溶接方法及びその装置

【課題】本発明は、異種板材のスポット溶接方法及びその装置において、確実に適正量の金属間化合物が各ワークで生成できるように設定することで、安定的な接合強度を得ることができるスポット溶接方法及びその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】S7で、電極間抵抗変化量Δrが溶融抵抗判断基準値ΔRアルミ溶融より大きく変化(具体例では低下)したか、を判断する。大きく変化したと判断した場合(YES判断)には、S8に移行する。
S8では、接合条件制御を行なう。この接合条件制御では、電流値を低下させることで、被溶接部の発熱量を低下させて、金属間化合物間の生成量を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異種板材のスポット溶接方法に関し、特に、アルミニウム合金と鋼材とを電気抵抗溶接により溶接するスポット溶接方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム合金と鋼材との溶接方法としては、アルミニウム合金材を摩擦攪拌して接合する摩擦攪拌接合が知られている。
しかし、自動車の車体等を溶接する場合には、一般に電気抵抗によるスポット溶接が主として用いられるため、アルミニウム合金と鋼材とを接合する場合には、別途、サブラインを設けなければならず、生産性が悪化するという問題がある。
【0003】
そこで、アルミニウム合金と鋼材との溶接においても、電気抵抗によるスポット溶接を行なうことができるように、様々な研究がなされている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、スポット溶接の際、アルミニウム合金と鋼材の間に生成されるアルミニウムと鉄の化合物等で構成される金属間化合物を適正な量に抑えることで、接合強度を高める接合方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−289452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうしたアルミニウム合金板と鋼板とを電気抵抗スポット溶接する方法を、量産ラインで採用する場合には、安定的な接合強度を確保することが求められる。
【0006】
この点、前述の特許文献1では、様々な溶接条件で何度も試行することで、金属間化合物の適正な量を生成できる最適な溶接条件を見出し、この最適な溶接条件で溶接を行なうことで、金属間化合物を適正に発生させる旨が記載されている。
【0007】
しかし、こうした方法を採用した場合には、現実にスポット溶接したワークにおいて、実際に所望の量の金属間化合物を生成できたか否かについて判断することは困難であり、安定的な接合強度が確保できるか否かは不明であった。
【0008】
そこで、本発明は、異種板材のスポット溶接方法及びその装置において、確実に適正量の金属間化合物が各ワークで生成できるように設定することで、安定的な接合強度を得ることができるスポット溶接方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の異種板材のスポット溶接方法は、アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて電気抵抗スポット溶接する方法において、アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせて、一対の電極を前記アルミニウム合金板と前記鋼板とに当接させて通電し、アルミニウム合金板の被溶接部の溶融開始を検出手段で検出した時に、溶接条件を調整することで、該被溶接部の発熱量を低下させて、溶接境界部の金属間化合物の生成を調整する溶接条件制御を行なうスポット溶接方法である。
【0010】
上記構成によれば、アルミニウム合金板の被溶接部の溶融開始を検出した時点で、被溶接部の発熱量を低下させることで、金属間化合物の生成量を抑えることができる。
すなわち、アルミニウム合金板の被溶接部が溶融を開始すると同時に、溶接境界部に生成される金属間化合物も生成が開始されるため、この被溶接部の発熱量を低下させることで、金属間化合物の成長も抑えることができるのである。
このため、各ワーク毎に、確実に金属間化合物の生成量を調整することができ、確実に金属間化合物の生成量を適正な量に抑えることができる。
なお、この金属間化合物の適正な量は、例えば、化合物厚さ1〜13μmの範囲であり、この範囲内に金属間化合物を生成することで、アルミニウム合金と鋼材との間の接合強度を高めることができる。
【0011】
この発明の異種板材のスポット溶接装置は、アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて電気抵抗スポット溶接する装置において、アルミニウム合金板と鋼板とに当接して通電する一対の電極と、前記アルミニウム合金板の被溶接部の溶融開始を検出する溶融開始検出手段と、該溶融開始検出手段で溶融を検出した時に、溶融条件を調整して被溶接部の発熱量を低下させ、溶接境界部の金属間化合物の生成を調整する溶接条件制御手段とを備えたものである。
【0012】
上記構成によれば、溶融開始検出手段でアルミニウム合金板の被溶接部の溶融開始を検出した時に、溶接条件制御手段によって被溶接部の発熱量を低下させることで、金属間化合物の生成量を抑えることができる。
すなわち、アルミニウム合金板の被溶接部が溶融を開始すると同時に、溶接境界部に生成される金属間化合物も生成が開始されるため、溶接条件制御手段で、この被溶接部の発熱量を低下させることで、金属間化合物の成長も抑えることができるのである。
このため、各ワーク毎に、確実に金属間化合物の生成量を調整することができ、確実に、金属間化合物の生成量を適正な量に抑えることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記溶融開始検出手段は、溶接時の電気抵抗値の変化によって溶融開始を検出するものである。
上記構成によれば、アルミニウム合金板の被溶接部が溶融を開始する場合には、電気抵抗値が変動するため、このことを利用してアルミニウム合金板の被溶接部の溶融を検出することになる。
このため、電気抵抗値の変化量を検出しているだけで、金属間化合物の発生時点を検出することができ、適切に金属間化合物の生成量を抑えることができる。
よって、簡易且つ簡便に、金属間化合物の生成開始を検出することができ、スポット溶接の生産性を高めることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記溶融開始検出手段は、溶接時の一対の電極の加圧力の変化によって溶融開始を検出するものである。
上記構成によれば、アルミニウム合金板の被溶接部が溶融を開始する場合には、電極の加圧力が変動するため、このことを利用して、アルミニウム合金板の被溶接部の溶融を検出することになる。
このため、一対の電極の加圧力の変化量を検出しているだけで、金属間化合物の発生時点を検出することができ、適切に金属間化合物の生成量を抑えることができる。
よって、簡易且つ簡便に、金属間化合物の生成開始を検出することができ、スポット溶接の生産性を高めることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記溶接条件制御手段は、溶接時の電流値又は電圧値を調整して溶接条件を制御するものである。
上記構成によれば、溶接時の電流値又は電圧値を調整することで、アルミニウム合金板の被溶接部の発熱量を低下させて、金属間化合物の生成量を低下させることができる。
よって、制御することが容易である電流値又は電圧値を調整するだけで、適切に金属間化合物の生成量を抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、各ワーク毎に、確実に金属間化合物の生成量を調整することができ、確実に金属間化合物の生成量を適正な量に抑えることができる。
よって、異種板材のスポット溶接方法及びその装置において、確実に適正量の金属間化合物が各ワークで生成できるため、安定的な接合強度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は本発明の異種板材のスポット溶接を行なう溶接機の全体模式図である。このスポット溶接を行なう電気抵抗スポット溶接装置Mは、溶接ガン1を装備したロボット2と、このロボット2を駆動制御するロボットコントローラー3と、溶接ガン1でスポット接合する際に金属板材を重ね合わせた状態で位置決め保持する位置決め治具(図示略)とを備えている。
また、スポット溶接に必要な電流を発生する電源装置4と、この電源装置4の電流を制御して溶接ガン1に供給すると共にロボットコントローラー3を制御する制御装置5と、を備えている。
【0018】
そして、この電気抵抗スポット溶接装置Mは、いわゆる交流型の溶接機であり、溶接ガン1の先端に取り付けられる電極は、第一電極6と第二電極7との一対の電極で構成される。
なお、その他の構成要素については、周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0019】
図2は、この実施形態のシステム原理を示した模式図である。
図2に示すように、この実施形態では、一般的な電気抵抗スポット溶接と同様に、アルミニウム合金板8と鋼板9を重ねた二枚の板材を、第一電極6と第二電極7の一対の電極で加圧して、電源(制御装置5)から供給される電流で通電を行ない、スポット溶接を行なっている。
【0020】
さらに、この実施形態では、第一電極6と第二電極7の間に、電気抵抗測定手段10を設けることで、一対の電極6,7間の電気抵抗値を測定しており、この電気抵抗値が変動した場合等には、電源(制御装置5)に対して制御信号を送信するように構成している。
【0021】
このように構成することで、アルミニウム合金板8と鋼板9との間の被溶接部の電気抵抗値が変動した場合には、即座に電流値を変更できるようにしている。
【0022】
次に、図3の制御フローチャートにより、本実施形態のスポット溶接の制御方法について説明する。
まず、S1で、溶接情報を制御装置に入力する。具体的には、溶接する材質、板厚、重ね枚数、電極形状等の情報を入力する。これにより、溶接するワークや電極等によって変化する溶接条件を、より正確に算出できるようにしている。
【0023】
次に、S2で、材料データベースからデータ情報を入力する。この材料データベースは、これまでに行った溶接作業のデータの蓄積等によって構成されており、この材料データベースから取得されたデータ情報を反映して溶接条件を算出することで、より精度よく溶接条件を算出できるようにしている。
【0024】
そして、S3において、溶接条件を算出する。この溶接条件では、基本電流値、基本通電時間、後述する溶融抵抗判断基準値(ΔRアルミ溶融)、チリ発生抵抗判断基準値(ΔRチリ発生)等の条件を算出している。
【0025】
次に、S4で、溶接ガン1を駆動して、アルミニウム合金板8と鋼板9を重ねた板材を一対の電極6,7で加圧する。
そして、S5で、一対の電極6,7の間で通電を行なう。この通電の電流値は、S3で求めた基本電流値である。この基本電流値は、アルミニウム合金が電流を通過しやすく放熱しやすい材料であるため、比較的高い値(例えば11kA程度)に設定している。
【0026】
その後、S6で、電極間抵抗の変化を測定する。ここで、この電極間抵抗の変化を測定するのは、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融開始を検出するためである。
【0027】
すなわち、図4に示すように、電極間の抵抗値は、通電を行なうと徐々に降下する。
このとき、アルミニウム合金板8の被溶接部が溶融を開始した時は、電極6,7間の抵抗値が通電初期値から所定量降下した時点で溶融開始と判定することができる。この所定量を溶融抵抗判断基準値ΔRアルミ溶融と設定して、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融開始を検出することができる。
なお、図4に示す電極間の抵抗値特性は、板厚1.2mmの6000系アルミニウム合金板に、板厚0.8mmのZn−Fe合金メッキ軟鋼板と板厚1.2mmの980MPa級高張力鋼板とを重ねた2枚を重ね合わせ、交流型溶接機で一対の電極の加圧力を300kgfとし、11kAの電流値で溶接したものである。この抵抗値の特性は、溶接される材料が変わっても、通電に伴って徐々に降下する傾向は同じであるものの、この降下特性は、溶接される材料、板厚、溶接条件によって変化する。
【0028】
次に、S7で、電極間抵抗変化量Δrが溶融抵抗判断基準値ΔRアルミ溶融より大きく変化(具体例では低下)したか、を判断する。すなわち、溶融開始点の抵抗値が低下するポイントを、溶融抵抗判断基準値ΔRアルミ溶融によって検出するのである。なお、この溶融抵抗判断基準値ΔRアルミ溶融は、前述したように、溶接情報と材料データベースによって変動する値である。
【0029】
このS7で、大きく変化したと判断しない場合(NO判断)には、S5に戻り、そのまま、基本電流値で通電を続ける。
【0030】
一方、大きく変化したと判断した場合(YES判断)には、S8に移行する。
このS8では、接合条件制御を行なう。この接合条件制御とは、被溶接部の発熱量を低下させることで、アルミニウム合金板8と鋼板9との溶接境界部に生成される金属間化合物の生成量を抑える制御である。
【0031】
具体的には、図5に示すグラフのように、溶融開始点において、基本電流値から電流値を低減させて、基本電流値よりも低い目標電流値で制御することで、被溶接部の発熱量を低下させる制御を行なう。
このように、被溶接部の発熱量を低下させることで、被溶接部に隣接して生成される金属間化合物の成長を遅らせて、金属間化合物の生成量の増加を防ぐようにしている。
【0032】
次に、S9で、目標通電時間を設定する。この目標通電時間は、接合強度を最大限に高めつつ、チリの発生を防ぐ程度に設定された通電時間である。この目標通電時間も、前述したように溶接情報と材料データベースで変動する値である。
【0033】
そして、S10で、電極間抵抗変化量Δrがチリ発生抵抗判断基準値ΔRチリ発生より大きく変化(具体例では低下)したか、を判断する。なお、このチリ発生抵抗判断基準値ΔRチリ発生も、前述したように、溶接情報と材料データベースによって変動する値である。
【0034】
このS10で、大きく変化したと判断した場合(YES判定)には、S11に移行して、そのワークが溶接不良であると判断する。
すなわち、S10で、電極間抵抗変化量Δrがチリ発生抵抗判断基準値ΔRチリ発生より大きく変化した場合には、被溶接部の状態に変動が生じた場合であることが推測されるため、チリが発生したものと推定して、溶接が不良であると判定するのである。
【0035】
一方、S10で、大きく変化したと判断しない場合(NO判定)には、S12に移行して、目標通電時間を経過したか否かを判断する。目標通電時間を経過していない場合(NO判定)は、再度S10に戻り、チリ発生抵抗判断基準値ΔRチリ発生の判断を行い、目標通電時間を経過している場合(YES判定)は、S13に移行する。
【0036】
そして、S13で、通電が終わり溶接が完了する。ここで溶接が完了したものが、良好な溶接状態を得ている。
【0037】
最後に、S14で、溶接不良の場合(S11)も、溶接良好の場合(S13)も共に、各データの保管、管理を行い、次回のスポット溶接の際の制御フローに反映するデータを取り込む。
以上のステップを経て、今回のスポット溶接を終了する。
【0038】
図6は、本実施形態によって良好な溶接状態が得られた溶接部の断面詳細図である。
図6で、最上位層にアルミニウム合金板8を示し、最下位層に鋼板9を示している。また、アルミニウム合金板8の下側層には、溶接によって形成されるアルミニウム側ナゲットAN(溶融部)を示している。このアルミニウム側ナゲットANは、均等に広い範囲で拡がっている。
【0039】
このように、アルミニウム側ナゲットAN(溶融部)が広い範囲に均等に拡がっていることは、被溶接部の溶融スピードが比較的遅かったことを表しており、アルミニウム側ナゲットANが、ゆっくりと溶融したことが分かる。
【0040】
そして、この溶融スピードに同様にゆっくりと生成された金属間化合物X1も、鋼板9とアルミニウム合金板8との間の溶接境界部に、薄く広く拡がっており、化合物厚さhも1〜13μmの範囲に抑えられている。
このように、金属間化合物X1の化合物厚さhが1〜13μmの範囲の薄い範囲に抑えられていることで、この溶接部では、より高い接合強度を得ることができる。
【0041】
次に、このように構成した本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態のスポット溶接方法及びその装置は、アルミニウム合金板8と鋼板9とを重ね合わせて、一対の電極6,7をアルミニウム合金板8と鋼板9とに当接させて通電し、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融開始を、抵抗値の変化量で検出し、この検出した際に、電流値を低減することで、この被溶接部の発熱量を低下させて、アルミニウム合金板8と鋼板9の間の溶接境界部の金属間化合物X1の生成を抑制している。
【0042】
これにより、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融開始を検出した時に、被溶接部の発熱量を低下させることで、金属間化合物X1の生成量を抑えることができる。
すなわち、アルミニウム合金板8の被溶接部が溶融を開始すると同時に、溶接境界部に生成される金属間化合物X1も、生成が開始されるため、この被溶接部の発熱量を低下させることで、金属間化合物X1の成長も抑えることができるのである。
このため、各ワーク毎に、確実に金属間化合物X1の生成量を調整することができ、確実に金属間化合物X1の生成量を適正な量に抑えることができる。
よって、異種板材(8,9)のスポット溶接方法及びその装置において、確実に適正量の金属間化合物X1が各ワークで生成できるため、安定的な接合強度を得ることができる。
【0043】
また、この実施形態では、特に、被溶接部の溶融開始を、抵抗値の変化量で検出している。
これは、アルミニウム合金板8の被溶接部が溶融を開始する場合に、抵抗値が変化することを利用して、溶融を検出しているのである。
このため、抵抗値の変化量を検出しているだけで、金属間化合物の発生時点を検出することができる。
よって、簡易且つ簡便に、金属間化合物X1の生成開始を検出することができ、スポット溶接の生産性を高めることができる。
【0044】
また、この実施形態では、溶接時の電流値を低減して溶接条件を制御している。
これにより、通電する電流量が低減することで、アルミニウム合金板8の被溶接部の発熱量が低下して、金属間化合物X1の生成量を抑えることができる。
よって、制御することが容易な電流値を調整するだけで、適切に金属間化合物X1の生成量を抑えることができる。
【0045】
次に、第二実施形態について、図7、図8により説明する。図7は本実施形態の制御方法を示した制御フローチャートであり、図8は電極間の加圧力の変化とアルミニウム合金板の被溶接部の温度との関係を示したグラフである。
【0046】
この実施形態は、電極間の加圧力の変化によって、被溶接部の溶融開始を検出するものである。例えば、溶接ガン1(図1参照)のサーボモータ(図示せず)の加圧力の変化状態を測定することで、電極6,7間の加圧力変化を検出すること等が考えられる。具体的な溶接機は、前述の実施形態と同様であるため、図示しない。
【0047】
この実施形態の制御方法は、図7に示す制御フローによって行なう。前述の実施形態と同一のステップについては、同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態では、S26の電極間加圧力変化を測定するステップと、S27の電極間加圧力変化量Δpが溶融加圧力判断基準値ΔPアルミ溶融よりも大きいかを判断するステップと、S30の電極間加圧力変化量Δpがチリ発生加圧力判断基準値ΔPチリ発生よりも大きいかを判断するステップと、が前述の実施形態と異なる。
【0048】
まず、S26の電極間加圧力変化を測定するステップでは、一対の電極6,7間の加圧力の変化を測定する。ここで、この加圧力の変化を測定するのは、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融状態を検出するためである。
【0049】
すなわち、図8に示すように、電極間の加圧力は、高い値で所定期間維持された後、溶融開始点で低下して、低い値で維持されるという特性を有する。
このことから、この実施形態では、この加圧力の変化と被溶融部の溶融開始の関係を利用して、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融開始点を検出しているのである。
【0050】
そして、S27のステップでは、電極間加圧力変化量Δpが溶融加圧力判断基準値ΔPアルミ溶融よりも大きい(具体例では低下)かについて判断している。このステップでは、溶融開始点である加圧力が低下するポイントを、溶融加圧力判断基準値ΔPアルミ溶融によって検出している。なお、この溶融加圧力判断基準値ΔPアルミ溶融も、溶接情報と材料データベースによって変動する。
【0051】
また、S30のステップでも、電極間加圧力変化量Δpがチリ発生加圧力判断基準値ΔPチリ発生よりも大きい(具体例では低下)かについて判断している。このステップでは、チリ発生点である加圧力が低下するポイントを、チリ発生加圧力判断基準値ΔPチリ発生によって検出している。なお、この溶融加圧力判断基準値ΔPチリ発生も、溶接情報と材料データベースによって変動する。
【0052】
以上のような制御フローによって、この実施形態でも、金属間化合物を適正に生成した溶接部を構成することができる。
【0053】
このように、この実施形態では、溶接時の一対の電極5,6間の加圧力の変化によって、アルミニウム合金板8の被溶接部の溶融開始を検出するように構成している。
これにより、一対の電極5,6の加圧力の変化量を検出しているだけで、金属間化合物X1の発生時点を検出することができ、適切に金属間化合物X1の生成量を抑えることができる。
よって、簡易且つ簡便に、金属間化合物X1の生成開始を検出することができ、スポット溶接の生産性を高めることができる。
【0054】
図9は、第三実施形態の電圧値の変化を示したグラフである。
この第三実施形態は、電圧値を管理することで、溶接条件を変更する溶接機を前提としたものである。
【0055】
この実施形態では、図9に示すように、溶融開始点において、基本電圧値から電圧値を低減させて、基本電圧値よりも低い目標電圧値で制御することで、アルミニウム合金板8の被溶接部の発熱量を低下させる制御を行なう。
このように制御を行なうことで、この場合も金属間化合物X1を適正に生成した溶接部を構成することができる。
【0056】
よって、この実施形態でも、制御することが容易である電圧値を調整するだけで、適切に金属間化合物の生成量を抑えることができる。
【0057】
以上、この発明の構成と前述の実施形態との対応において、
この発明の溶融開始検出手段は、実施形態の制御装置5及び制御フローS7,S27に対応し、
以下、同様に、
溶接条件制御手段は、制御装置5及び制御フローS8に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる異種板材のスポット溶接方法に適用する実施形態を含むものである。
例えば、鋼板二枚とアルミニウム合金板一枚を接合する場合や、高張力鋼板一枚と、軟鋼板一枚と、アルミニウム合金板一枚とを接合する場合などに用いてもよい。また、溶接機も、交流型の溶接機だけでなく、直流型の溶接機で採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】異種板材のスポット溶接を行なう溶接機の全体模式図。
【図2】実施形態のシステム原理を示した模式図。
【図3】実施形態の制御フローチャート。
【図4】電極間抵抗の変化特性を示したグラフ。
【図5】溶接条件制御を行なう際の電流値の変化を示したグラフ。
【図6】良好な溶接状態が得られた溶接部の断面詳細図。
【図7】第二実施形態の制御フローチャート。
【図8】電極間の加圧力の変化とアルミニウム合金板の被溶接部の温度との関係を示したグラフ。
【図9】第三実施形態の電圧値の変化を示したグラフ。
【符号の説明】
【0059】
1…溶接ガン
5…制御装置
6…第一電極
7…第二電極
8…アルミニウム合金板
9…鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて電気抵抗スポット溶接する方法において、
アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせて、
一対の電極を前記アルミニウム合金板と前記鋼板とに当接させて通電し、
前記アルミニウム合金板の被溶接部の溶融開始を検出手段で検出した時に、溶接条件を調整することで、該被溶接部の発熱量を低下させて、溶接境界部の金属間化合物の生成を調整する溶接条件制御を行なう
異種板材のスポット溶接方法。
【請求項2】
アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて電気抵抗スポット溶接する装置において、
アルミニウム合金板と鋼板とに当接して通電する一対の電極と、
前記アルミニウム合金板の被溶接部の溶融開始を検出する溶融開始検出手段と、
該溶融開始検出手段で溶融を検出した時に、溶融条件を調整して被溶接部の発熱量を低下させ、溶接境界部の金属間化合物の生成を調整する溶接条件制御手段とを備えた
異種板材のスポット溶接装置。
【請求項3】
前記溶融開始検出手段は、溶接時の電気抵抗値の変化によって溶融開始を検出する
請求項2記載の異種板材のスポット溶接装置。
【請求項4】
前記溶融開始検出手段は、溶接時の一対の電極の加圧力の変化によって溶融開始を検出する
請求項2記載の異種板材のスポット溶接装置。
【請求項5】
前記溶接条件制御手段は、溶接時の電流値又は電圧値を調整して溶接条件を制御する
請求項2〜4いずれか記載の異種板材のスポット溶接装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−226467(P2009−226467A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77254(P2008−77254)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)