説明

疎水性コーティングおよびそのプロセス

【課題】疎水性または超疎水性を付与する疎水性または超疎水性コーティングを提供する。
【解決手段】疎水性コーティング100は、エラストマーポリマーを含むポリマーマトリクス110と、ポリマーマトリクス110内に分散された複数のナノフィラー120と、を含む。各ナノフィラー120は、金属酸化物コア上にシリカシェルを有するコア−シェル構造を備え、シリカシェルは疎水性部分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般には複合コーティングに関し、より詳細には、疎水性コーティングおよびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水疎水性表面およびその製造は、金属成分に対する腐食抑制領域において、衣類のための化学剤および生物剤保護の領域において、および他の多くの用途に対し、大きな好機を有する。
【0003】
より高い疎水性があると、超疎水性の表面およびコーティングは、特有の性質、例えば、汚染防止、固着防止および自浄化を備えたいわゆる「ハスの葉効果(ロータス効果)」を有する。これらの特性は、船のための生物付着防止塗料、アンテナおよび窓のための雪の固着防止、自動車のための自浄フロントガラス、金属精錬、汚れにくい布地、防汚建築用コーティングなどを含む多くの用途に対し望ましい。
【0004】
疎水性または超疎水性の表面およびコーティングの作製のためにフィラー材料がしばしば使用される。例えば、カーボンナノチューブは、その顕著な機械的特性、ならびに他の特有の特性、例えば導電率および耐化学性のために、フィラー材料として使用されるのに大きな関心が寄せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−092046号公報
【特許文献2】特開平10−031355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、他のフィラー材料もまた、疎水性および/または超疎水性を付与するために複合コーティング材中に組み入れることが望ましい場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による疎水性コーティングは、エラストマーポリマーを含むポリマーマトリクスと、ポリマーマトリクス内に分散された複数のナノフィラーと、を含み、各ナノフィラーは、金属酸化物コア上にシリカシェルを有するコア−シェル構造を備え、シリカシェルは疎水性部分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】例示的な疎水性コーティングの一部の概略図である。
【図1A】例示的なナノフィラーの概略図である。
【図1B】例示的なナノフィラーの概略図である。
【図2】コーティング組成物から疎水性コーティングを形成するための例示的な方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図のいくつかの細部は簡略化されており、厳密な構造的な正確さ、細部、および尺度を維持するよりも、実施形態の理解を容易にするように描かれていることに注意すべきである。
【0010】
例示的な実施形態は、疎水性コーティングのための材料および方法を提供する。疎水性コーティングは、1つまたは複数のエラストマーポリマー類を含むポリマーマトリクス中に分散されたナノフィラーを含むことができる。ナノフィラーは金属酸化物コア上にシリカシェルを有するコア−シェル構造を含むことができる。シリカシェルはそれに付着した1つまたは複数の疎水性部分を含むことができる。疎水性コーティングを形成するための例示的な方法はコーティング組成物を基材に適用する工程を含むことができる。開示した疎水性コーティングは、コア−シェルナノフィラーの組み入れにより、改善された表面疎水性、機械的ロバスト性、および/または導電率を有することができる。
【0011】
図1は、本発明の教示の様々な実施形態による、例示的な疎水性コーティング100の一部を示す。図1で示したコーティング100は、一般化された概略図を示し、他の成分/フィラー/粒子を添加することができ、または既存の成分/フィラー/粒子を除去し、もしくは変更することができることは当業者には容易に明らかとなるはずである。
【0012】
本明細書で使用されるように、「疎水性コーティング」という用語は、水接触角が約90°以上である表面濡れ性を有するコーティングを示す。典型的には、疎水性表面上では、例えば、直径2mmの水滴が玉のようになるが、基材を適度に傾斜させても表面から流れ落ちることはない。表面を傾斜させるにつれ、液滴の下方側での濡れ角は増加するが、液滴の上方側の濡れ角は減少する。前進(下り)界面は固体表面の次の増分に進めるのが困難であり、後退する(上り)界面はその少しの固体表面を解き放つことが困難であるので、液滴は静止し、または定位置に固定される傾向がある。疎水性表面は、前進接触角と後退接触角との間で大きなヒステリシスを有する(典型的には20°以上)ものとして説明されている。
【0013】
図1に示されるように、例示的な疎水性コーティング100は、ポリマーマトリクス110内に分散された複数のナノフィラー120を含むことができる。
【0014】
本明細書で使用されるように、別記しない限り、「ナノフィラー」という用語は、金属酸化物コア上に、またはその周りにシリカシェルを有するコア−シェル構造を含むフィラー材料を示す。図1のナノフィラー120はこのようにコア−シェルナノフィラーとすることができる。実施形態では、「ナノフィラー」のシリカシェルは疎水性部分を含むことができる。「ナノフィラー」120はこのように疎水性ナノフィラーとすることができる。
【0015】
様々な実施形態では、ナノフィラー120は、例えば、約1nmから約1000nm(1μm)のサイズを有することができる。様々な実施形態では、ナノフィラー120は約1nmから約100nmまで、または約20nmから約50nmまでの範囲のサイズを有することができる。サイズの範囲は、特定の適用の特別な使用または構造によって、変動する可能性があることに注意すべきである。
【0016】
本明細書で使用されるように、平均粒子サイズは、フィラー粒子の形状に基づくナノフィラーの任意の特性寸法の平均サイズ、例えば、当業者に公知の重量によるメジアン粒径(d50)を示す。例えば、平均粒子サイズは、実質的に球状のナノフィラーの直径または不規則形状の粒子に対する公称直径の観点から与えることができる。
【0017】
さらに、粒子の形状は、いかなる様式でも制限されない。様々な実施形態では、ナノフィラー120は、例えば、ナノスフェア、ナノチューブ、ナノファイバ、ナノシャフト、ナノピラー、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノニードル、ナノウィスカーの形態、および/またはそれらの様々な機能化および誘導フィブリル形態とすることができ、糸、ヤーン、織物などの例示的な形態を有するナノファイバが含まれる。そのようなナノフィラー120は、同じまたは異なるポリマーマトリクス内で、円形、楕円、正方形、自形などを含む様々な断面形状をとることができる。
【0018】
図1A、図1Bは、さらに、本発明の教示の様々な実施形態による図1の疎水性コーティング100のために使用される開示したナノフィラー120A,120Bに対する例示的な断面を示す。図示されるように、ナノフィラー120A,120Bはそれぞれ、金属酸化物コア125A,125Bを取り囲むシリカシェル128A,128Bを含むことができる。
【0019】
シリカシェル128,128A,128Bは、例えばシリカ(SiO)、シリコーン(RSiO)、および/または多面体オリゴマーシルセスキオキサン(polyhedral oligomeric silsequioxane(POSS、RSiO1.5))から製造することができ、ここで、Rは約1から約18の炭素原子、もしくは約4から約8の炭素原子を有するアルキル、または約6から約24の炭素原子、もしくは約6から約16の炭素原子を有するアリールである。シリカシェル128,128A,128Bは、総ナノフィラー120の約5から約40重量%、場合によっては、ナノフィラー120,120A,120Bの約10から約30重量%、もしくは約15から約20重量%の量で存在することができる。
【0020】
一般に、シリカは表面上のシラノール(>Si−OH)基のために親水性である。これらのシラノール基は、化学的に様々な試薬と反応し、シリカを疎水性とする可能性がある。例えば、図1−図1Bにおいて示したナノフィラー120のシリカシェル128は化学的に活性である可能性があり、シラザン、フルオロシラン、ポリシロキサン、アルキルまたはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない疎水性部分を用いて共有結合により修飾することができる。
【0021】
特定のシラザン例としては、下記構造/式で表される、ヘキサメチルジシラザン(1,1,1−トリメチル−N−(トリメチルシリル)−シラナミン)、2,2,4,4,6,6−ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,3−ジエチル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジフェニルジシラザン、および/または、1,3−ジメチル−1,1,3,3−テトラフェニルジシラザンが挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
特定のフルオロシラン例としては、C13CHCHOSi(OCH、C17CHCHOSi(OCHCH、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0024】
特定のポリシロキサン例としては、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリフェニルシクロトリシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0025】
実施形態では、図1−図1Bで示したシリカシェル128はまた、例えば、イオン結合、水素結合、またはファンデルワールス結合により疎水性部分と物理的に結合させることができる。
【0026】
金属酸化物コア125A,125Bは、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ二酸化チタン、アンチモンドープ酸化スズ、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、同様にドープした酸化物類、および/または他の適した公知の酸化物類を含むが、それらに限定されない金属酸化物を、例えば、ナノフィラー120,120A,120Bの約60から約95重量%、約70から約90重量%、または約80から約85重量%の量で含むことができる。
【0027】
様々な実施形態では、コア−シェルナノフィラー120は、例えば、エボニックインダストリーズ(EVONIK Industries)(ドイツのフランクフルト)から市販されている。市販のナノフィラーの例としては、例えば、約40から約70m/gのB.E.T.表面積(比表面積)を有し、85%の二酸化チタンコアおよび、1,1,1−トリメチル−N−(トリメチルシリル)−シラナミンで疎水的に修飾されている15%のシリカシェルを有するエボニックインダストリーズ由来の製品VP STX80が挙げられる。
【0028】
様々な実施形態では、疎水性コーティング100は、コア−シェルナノフィラー120を、総コーティングの約1から約80重量%までの範囲の量で含むことができる。別の実施例では、コア−シェルナノフィラー120は疎水性コーティング100の約20から約70重量%の量で、または、場合によっては、総コーティングの約30から約60重量%の量で存在することができる。
【0029】
図1に戻ると、疎水性コーティング100はまた、1つまたは複数のエラストマーポリマー類、例えば、フルオロエラストマー類、サーモエラストマー類、ポリパーフルオロエーテルエラストマー類、シリコーンエラストマー類、または他の架橋材料を含むポリマーマトリクスを含有することができる。様々な実施形態では、1つまたは複数の架橋ポリマー類は半軟質および/または溶融であり、ナノフィラーと混合させることができる。
【0030】
様々な実施形態では、ポリマーマトリクス110は硬化部位モノマー(硬化剤)および、例えば、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマー繰り返しユニットを有するフルオロエラストマーを含むことができる。
【0031】
実施形態では、ポリマーマトリクス110のためのフルオロエラストマー類としては、例えば、i)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンのコポリマー類、ii)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンのターポリマー類、およびiii)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよび硬化部位モノマー(キュアサイトモノマー)のテトラポリマー類が挙げられる。
【0032】
市販のフルオロエラストマー類としては、例えば、バイトン(VITON(登録商標))A(ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびフッ化ビニリデン(VDFまたはVF2)のコポリマー類)、バイトンB(テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のターポリマー類)、およびバイトンGF(TFE、VF2、HFPおよび硬化部位モノマーのテトラポリマー類)、ならびにバイトンE、バイトンE60C、バイトンE45、バイトンE430、バイトンB910、バイトンB50、バイトンGHおよびバイトンGFが挙げられる。バイトンの名称は、E.I.デュポン・ド・ヌムール社(DuPont de Nemours, Inc.)(デラウエア州ウィルミントン)の商標である。
【0033】
他の市販のフルオロエラストマー類としては、例えば、ダイネオン(DYNEON)(商標)フルオロエラストマー類、およびスリーエム・カンパニー(3M Company)(ミネソタ州ツーハーバーズ)から入手可能なアフラス(AFLAS(登録商標))(すなわち、ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン)、ならびにソルバリーソレキシス(Solvary Solexis)(イタリアボッラーテMI)から入手可能なFor−60KIR(登録商標)、For−LHF(登録商標)、NM(登録商標)、For−THF(登録商標)、For−TFS(登録商標)、TH(登録商標)、およびTN505(登録商標)として識別されるテクノフロン(Technoflon)類が挙げられる。
【0034】
1つの実施形態では、ポリマーマトリクス110は、ビスフェノール化合物、ジアミノ化合物、アミノフェノール化合物、アミノ−シロキサン化合物、アミノ−シラン、フェノール−シラン化合物またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない、有効な硬化剤と架橋されたフッ化ビニリデン含有フルオロエラストマーを含むことができる。例示的なビスフェノール硬化剤としては、E.I.デュポン・ド・ヌムール社から入手可能なバイトン キュラティブ(Curative)No.50(VC−50)が挙げられる。キュラティブVC−50は架橋剤としてビスフェノール−AFおよび促進剤としてジフェニルベンジルホスホニウムクロリドを含むことができる。ビスフェノール−AFは4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールとしても公知である。
【0035】
特定の実施形態では、ポリマーマトリクスとしては、35モル%のフッ化ビニリデン(VF2)と、34モル%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)と、29モル%のテトラフルオロエチレン(TFE)と、2%の硬化部位モノマーとを含むバイトンGF(E.I.デュポン・ド・ヌムール社)が挙げられる。硬化部位モノマーは、例えば、4−ブロモパーフルオロブテン−1,1,1−ジヒドロ−4−ブロモパーフルオロブテン−1,3−ブロモパーフルオロプロペン−1,1,1−ジヒドロ−3−ブロモパーフルオロプロペン−1とすることができ、これもまた、E.I.デュポン・ド・ヌムール社(デラウエア州ウィルミントン)から入手可能である。
【0036】
様々な実施形態では、疎水性コーティング100はさらに、他のフィラー(図示せず)、例えば無機粒子を開示したポリマーマトリクス内に含むことができる。様々な実施形態では、無機粒子は、金属酸化物類、非金属酸化物類、および金属類からなる群より選択することができる。具体的には、金属酸化物類としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銅、五酸化アンチモン、および酸化スズインジウムが挙げられる。非金属酸化物類としては、例えば、窒化ホウ素、および炭化ケイ素(SiC)が挙げられる。金属類としては、例えば、ニッケル、銅、銀、金、亜鉛、および鉄が挙げられる。様々な実施形態では、当業者に公知の他の添加物を、ダイアモンド含有コーティング複合物中に含ませることができる。
【0037】
様々な実施形態において、開示したナノフィラー120を組み入れると、ポリマーマトリクス110を所望の特性、例えば、表面疎水性、機械的ロバスト性、導電率、などを有するものとすることができる。
【0038】
いかなる特別な理論にも縛られるものではないが、疎水性コア−シェルナノフィラーを組み入れると、ある表面形態を生成させ、形成されたコーティング材を疎水性にすることができると考えられる。さらに、疎水性コア−シェルナノフィラーは複合コーティング材内のフィラーの表面張力を低下させることができる。
【0039】
開示したナノフィラーを組み込まずに、ポリマーマトリクスのみ(例えば、バイトンのみ)の場合と比べ、開示したコーティング材は、例えば、約105°以上、場合によっては約105°から約150°までの範囲の水接触角を有する、より疎水性の表面を有することができる。特定の実施形態では、疎水性コーティング材は、少なくとも約150°の水接触角を有する超疎水性となり得る。
【0040】
様々な例示的な実施形態では、コア−シェルナノフィラー120は疎水性コーティング100中に、総コーティングの少なくとも30重量%の量で存在することができ、そのため、疎水性コーティング100は少なくとも約150°の水接触角を有する超疎水性とすることができる。
【0041】
様々な実施形態では、疎水性コーティング100は、ナノフィラー120を含んでいないポリマーマトリクス110のみ(例えば、バイトンのみ)の場合と比較して、改善された硬度などの改善された機械的特性を有することができる。硬度は一般に、例えば、当業者に公知の、ロックウェル硬度試験、ブリネル硬度試験、ヴィッカース硬度試験、ヌープ硬度試験および鉛筆硬度試験により測定することができる。様々な実施形態では、疎水性コーティング100は、鉛筆硬度試験により測定すると約1H以上の硬度を有することができる。場合によっては、疎水性コーティング100の硬度は約1Hから約4Hまでの範囲、または約2Hから約3Hまでの範囲とすることができる。
【0042】
様々な実施形態では、疎水性コーティング100は増加した導電率、すなわち、減少した電気抵抗率を有することができる。例えば、疎水性コーティング100は約1016Ω/sq未満の表面抵抗率を有することができる。別の実施例では、疎水性コーティング100の表面抵抗率は、約10Ω/sqから約1015Ω/sqまで、または約10Ω/sqから約1012Ω/sqまでの範囲とすることができる。
【0043】
図2は本発明の教示の様々な実施形態による、開示した疎水性コーティングを形成するための例示的な方法を示す。例示的な方法200は、下記で一連の行為または事象として説明し、記載するが、本発明はそのような行為または事象の説明した順序に制限されないことは認識されるであろう。例えば、本発明の教示によれば、いくつかの行為は、本明細書で説明および/または記載したものとは別の他の行為または事象と異なる順序で、および/または同時におきてもよい。さらに、説明した工程全てが、本発明の教示による方法を実行するのに必要とされなくてもよい。
【0044】
図2の202では、コーティング組成物は、疎水性コア−シェルナノフィラーと、1つまたは複数のエラストマーポリマー類と、および/または対応する硬化剤と、必要に応じて、当業者に公知の無機フィラー粒子または界面活性剤とを分散させるために、有効な溶媒を含むように調製することができる。
【0045】
有効な溶媒としては、水または、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない、有機溶媒が挙げられる。適した分散物を形成することができる他の溶媒は本明細書の実施形態の範囲内に入る可能性がある。
【0046】
ある実施形態では、コーティング組成物は開示した疎水性コア−シェルナノフィラー、バイトンなどのフルオロエラストマー類、ならびに関連する硬化剤、例えばビスフェノール硬化剤VC−50、および、必要に応じて、MgOなどの無機フィラーをMIBKなどの有機溶媒中に含むことができる。
【0047】
図2の204では、コーティング組成物は基材に適用させることができる。コーティング組成物を基材上に適用するためには様々なコーティング技術を使用することができる。本明細書で使用されるように、「コーティング技術」という用語は、分散物またはコーティング組成物を材料または表面に適用、形成、または堆積するための技術またはプロセスを示す。そのため、「コーティング」または「コーティング技術」という用語は、特に限定されず、浸漬コーティング、塗装、刷毛塗り、ローラ塗装、たんぼずり、噴霧コーティング、スピンコーティング、鋳造、リングコーティング、モールドコーティング、押出コーティングまたは流し塗りを使用することができる。例えば、ギャップコーティングを使用して、平坦基材、例えばベルトまたはプレートを被覆することができ、一方、流し塗りを使用して円筒基材、例えばドラムまたはロールを被覆することができる。被覆した物品はその後、様々な構造を有するように成形することができる。
【0048】
様々な実施形態では、コーティングプロセスのために使用される基材としては、広範囲にわたる材料、例えば、金属類、金属合金類、ゴム類、ガラス、セラミック類、プラスチック類、または織物類が挙げられる。別の実施例では、使用される金属類としては、アルミニウム、陽極酸化アルミニウム、鋼、ニッケル、銅、およびそれらの混合物が挙げられ、一方、使用されるプラスチック類としては、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミドおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0049】
図2の206では、基材上でのコーティング組成物の適用後、適用したコーティング組成物を、例えば、約150℃から約300℃までの範囲の高温で凝固させることができる。例えば、凝固プロセスとしては、乾燥プロセス、および/または、場合によっては、硬化プロセスが挙げられ、疎水性コーティングが形成される。
【0050】
いくつかの実施形態では、適用したコーティング組成物の有効な溶媒は、硬化プロセス前に部分的にまたは完全に蒸発させることができる。例えば、溶媒を最初に、約2時間以上室温で蒸発させることができる。他の蒸発時間および温度は、本明細書の実施形態の範囲内とすることができる。蒸発後、コーティング組成物を硬化させることができる。
【0051】
様々な実施形態では、硬化プロセスは使用するポリマー(類)および硬化剤(類)により決定することができ、例えば、段階的硬化プロセスが挙げられる。例示的な硬化プロセスは、例えば約260℃以下の低温での段階的硬化とすることができる。例示的な実施形態では、コートしたコーティング組成物を約149℃の対流式オーブンに約2時間入れることができ、温度を約177℃まで上昇させることができ、さらに2時間硬化を実施することができ、温度を約204℃まで上昇させることができ、コーティングをさらにその温度で約2時間硬化させることができ、最後に、オーブン温度を約232℃まで上昇させることができ、コーティングをさらに6時間硬化させることができる。他の硬化スケジュールが可能である。当業者に公知の硬化スケジュールは本明細書の実施形態の範囲内とすることができる。
【0052】
様々な実施形態では、コーティングプロセスのために使用される基材は、疎水性コーティングの最終形成後に除去しても、しなくてもよい。
【0053】
下記実施例は本発明の教示およびその好都合な特性の例示であり、本開示または特許請求の範囲をいかなる意味においても制限するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0054】
<実施例1> 疎水性コーティング組成物および疎水性コーティングの調製
エボニックインダストリーズから市販されているコア−シェルフィラーVP STX801(B.E.T.表面積=40〜70m/g)と、バイトンGFとを、ビスフェノール硬化剤VC50(デラウエア州ウィルミントンのデュポン・ド・ヌムール社から入手可能なバイトン キュラティブNo.50)、バイトンGFの約2%と共に、メチルイソブチルケトン(MIBK)の有機溶媒中で、2−mmステンレスショットを用いて200rpmで18時間、ミリングすることにより調製した。様々な重量負荷をコーティング組成物のポリマバイトンGFおよびコア−シェルフィラーに対して使用した。
【0055】
20μmのナイロン布を通して濾過した後、均一なナノコーティング組成物が得られ、その後、リングコーティングプロセスにより例示的なアルミニウムドラム上にコートした。
【0056】
コーティング組成物のコーティングプロセス後、硬化プロセスを約49℃で約2時間、約177℃で約2時間、その後約204℃で約2時間、その後、後硬化のために約232℃で約6時間、の傾斜(ランプ:ramp)温度で実施した。結果として、20μmの厚さのナノ複合膜コーティングが各コーティング組成物に対して得られた。
【0057】
比較のために、バイトンGFのみのコーティングもまた、同様に、コア−シェルフィラーVP STX801を組み入れずに調製した。
【0058】
<実施例2> 疎水性コーティングの特性
表1は、コア−シェルフィラーを含まないバイトンポリマー、およびバイトンポリマー(70重量%または60重量%)と、コア−シェルフィラーVP STX801(30重量%または40重量%)とを含む複合材料の水接触角および表面抵抗率を比較したものである。
【0059】
水接触角は約23℃の周囲温度で、脱イオン水を用いて、接触角システム(Contact Angle System)OCA機器(モデルOCA15、データフィジクスインスツルメンツ(Dataphysics Instruments)ゲーエムベーハー、ドイツのフィルダーシュタット)により測定した。少なくとも10の測定を実施し、表1に示すように、平均した。
【0060】
表面抵抗率は約23℃の温度、約65%の周囲湿度で測定した。4〜6の測定を、形成した各複合コーティング材の様々なスポットで、ハイレジスティビティメーター(High Resistivity Meter)(日本の三菱化学(株)(Mitsubishi Chemical CORP.)由来のヒレスタ−アップ(Hiresta-Up)MCP−HT450)を用いて実施した。平均した結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
示されているように、疎水性コア−シェルナノフィラーを組み入れると、得られたコーティング材の接触角が増加した。さらに、バイトン/コア−シェルナノフィラーを含むコーティング複合材料は、バイトンのみのコーティング材よりも、より導電性であった。一例として、40%のナノフィラーを含む得られたコーティング材は、150°にほぼ等しい接触角および約10Ω/sqを超える表面抵抗率を有した。
【符号の説明】
【0063】
100 疎水性コーティング、110 ポリマーマトリクス、120,120A,120B ナノフィラー、125A,125B 金属酸化物コア、128A,128B シリカシェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーポリマーを含むポリマーマトリクスと、
前記ポリマーマトリクス内に分散された複数のナノフィラーと、
を含み、
各ナノフィラーは、金属酸化物コア上にシリカシェルを有するコア−シェル構造を備え、前記シリカシェルは疎水性部分を含む、疎水性コーティング。
【請求項2】
前記シリカシェルの前記疎水性部分は、シラザン、フルオロシラン、ポリシロキサン、アルキル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、
前記シラザンは、1,1,1−トリメチル−N−(トリメチルシリル)−シラナミン(ヘキサメチルジシラザン)、2,2,4,4,6,6−ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,3−ジエチル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジフェニルジシラザン、1,3−ジメチル−1,1,3,3−テトラフェニルジシラザン、およびそれらの混合物からなる群より選択され、
前記フルオロシランは、C13CHCHOSi(OCH、C17CHCHOSi(OCHCH、およびそれらの混合物からなる群より選択され、
前記ポリシロキサンは2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリフェニルシクロトリシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、およびそれらの混合物からなる群より選択され、
前記アルキルは約1から約18の炭素原子を有する、請求項1記載の疎水性コーティング。
【請求項3】
前記シリカシェルは、シリカ(SiO)、シリコーン(RSiO)、多面体オリゴマーシルセキオキサン(POSS、RSiO1.5)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含み、
前記Rが、約1から約18の炭素原子を有するアルキル、約6から約24の炭素原子を有するアリール、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載の疎水性コーティング。
【請求項4】
1つまたは複数のフルオロエラストマー類を含むフルオロエラストマーマトリクスと、
前記フルオロエラストマーマトリクス内に、前記フルオロエラストマーマトリクスを超疎水性とする量で分散された複数のナノフィラーと、
を含み、
各ナノフィラーは、金属酸化物コア上にシリカシェルを有するコア−シェル構造を備え、前記シリカシェルは疎水性部分を含む、超疎水性コーティング。
【請求項5】
コーティング材を製造するための方法であって、
基材を準備する工程と、
エラストマーポリマーと、有機溶媒中の複数のナノフィラーと、を含むコーティング組成物を形成する工程であって、各ナノフィラーは、金属酸化物コア上にシリカシェルを有し、前記シリカシェルは疎水性部分を含む、工程と、
前記コーティング組成物を前記基材に適用する工程と、
前記適用したコーティング組成物を凝固させ、疎水性コーティングを形成する工程と、
を含む、方法。

【図1】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−280887(P2010−280887A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123862(P2010−123862)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】