説明

疎水性シリカ粒子粉末及びその製造法並びに該疎水性シリカ粒子粉末を用いたゴム組成物

【課題】 本発明は、優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、ゴム組成物中への分散性に優れる疎水性シリカ粒子粉末及びその製造法を提供する。
【解決手段】 優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、ゴム組成物中への分散性に優れる疎水性シリカ粒子粉末は、シリカ粒子粉末にスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤とを添加し、混合攪拌してシリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤によって被覆した後、高級脂肪酸を添加し、混合攪拌して上記被覆物表面に高級脂肪酸を付着させる疎水性シリカ粒子粉末の製造法において、全処理工程を乾式で行うと共に、あらかじめ、上記シリカ粒子粉末の水分量を調湿しておくと共に、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸付着後の無機粒子粉末を120〜210℃の温度範囲で加熱処理することで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、処理前と処理後の無機粒子粉末のBET比表面積値の変化が少ない疎水性シリカ粒子粉末及びその製造法並びに該疎水性シリカ粒子粉末を配合したゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化に対する要求はますます高まっており、タイヤの転がり抵抗を低減することが強く求められている。転がり抵抗は、タイヤのトレッド等に使用されるゴム組成物の発熱性と関係しており、ゴム組成物のヒステリシスロスを低減すること、すなわち、損失係数(tanδ)を低く抑えることが、低燃費化には効果的であることが知られている。また、タイヤのトレッド用ゴム組成物においては、低燃費に加え、安全性の面から湿潤路面での制動性能や操縦安定性の向上、更には耐摩耗性及び破壊特性に優れることが求められている。
【0003】
低燃費性と湿潤路面での制動性能や操縦安定性とを両立させたタイヤトレッド用の各種ゴム組成物を得ることを目的として、これまで一般的に用いられてきた補強用充填材であるカーボンブラックに替えてシリカが用いられている。
【0004】
しかしながら、タイヤトレッド用のゴム組成物に一般的に用いられている湿式法によるシリカは親水性を有するため、疎水性のゴム成分とは親和性が低く、ゴム中へシリカを混合すると分散不良を生じやすいため、押出しなどの加工性に劣ると共に、補強性が十分に得られず、ゴム組成物の耐摩耗性及び破壊特性が低下してしまうという欠点を有している。また、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあるため、ゴム中へのシリカの分散には長い混練時間を要するなど、タイヤを製造する上で大きな問題となっている。
【0005】
更に、湿式法によるシリカは粒子表面が酸性であることから、ゴム組成物に配合されている塩基性の加硫促進剤を吸着するためゴム組成物の加硫が充分に行われず、弾性率が上がらないため、乾燥路面における操縦安定性が十分ではないという欠点を有している。
【0006】
上記欠点を改良することを目的として、あらかじめアルコキシシラン又は硫黄含有シランカップリング剤等により疎水化処理されたシリカをゴム組成物に配合する方法(特許文献1乃至特許文献6)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−248116号公報
【特許文献2】特開平9−12922号公報
【特許文献3】特開2001−354805号公報
【特許文献4】特開2007−169559号公報
【特許文献5】特開2008−106205号公報
【特許文献6】特開2008−143725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前出特許文献1乃至特許文献4には、有機ケイ素化合物や硫黄含有有機ケイ素化合物により表面処理されたシリカ粒子粉末をゴム組成物に配合する方法が記載されているが、いずれも高級脂肪酸による被覆処理については考慮されておらず、後出比較例に示す通り、有機ケイ素化合物処理のみでは十分な疎水性及び流動性改善効果を得ることができないため、ゴム組成物中への分散も不十分なものとなる。
【0009】
また、前述特許文献5及び特許文献6には、シリカ粒子粉末を疎水化する方法として、シラン化合物や脂肪酸、脂肪酸金属塩等の疎水化剤とを湿式又は乾式混合する方法が記載されているが、これらの方法によると、処理前と処理後の無機粒子粉末のBET比表面積値の変化が大きく、疎水化処理をすることで処理後の無機粒子粉末のBET比表面積値は大きく減少してしまい、表面積を維持した(表面積が大きい)粒子の設計が困難となるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、ゴム組成物中への分散性に優れた疎水性シリカを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0012】
即ち、本発明は、シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている平均粒子径0.01〜0.3μmのシリカ粒子粉末からなることを特徴とする疎水性シリカ粒子粉末である(本発明1)。
【0013】
また、本発明は、BET比表面積値が90m/g以上であることを特徴とする本発明1の疎水性シリカ粒子粉末である(本発明2)。
【0014】
また、本発明は、粉体pH値が7.0以上であることを特徴とする本発明1又は本発明2の疎水性シリカ粒子粉末である(本発明3)。
【0015】
また、本発明は、メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上であることを特徴とする本発明1乃至本発明3のいずれかの疎水性シリカ粒子粉末である(本発明4)。
【0016】
また、本発明は、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸による被覆処理前と処理後のシリカ粒子粉末のBET比表面積値の変化率が56%以下であることを特徴とする本発明1乃至本発明4のいずれかの疎水性シリカ粒子粉末である(本発明5)。
【0017】
また、本発明は、処理前のシリカ粒子粉末の流動性指数に対して10以上高い流動性指数を有することを特徴とする本発明1乃至本発明5のいずれかの疎水性シリカ粒子粉末である(本発明6)。
【0018】
また、本発明は、シリカ粒子粉末にスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤とを添加し、混合攪拌してシリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤によって被覆した後、高級脂肪酸を添加し、混合攪拌して上記被覆物表面に高級脂肪酸を付着させる疎水性シリカ粒子粉末の製造法において、全処理工程を乾式で行うと共に、あらかじめ、上記シリカ粒子粉末の水分量を添加するスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の加水分解に必要な水分量の1〜10倍の範囲に調整しておくと共に、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸付着後の無機粒子粉末を120〜210℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とする本発明1乃至本発明6のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末の製造法である(本発明7)。
【0019】
また、本発明は、本発明1乃至本発明6のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末を用いたことを特徴とするゴム組成物である(本発明8)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末は、優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、ゴム組成物中への分散性に優れることから、タイヤトレッド用ゴム組成物をはじめとして、各種ゴム組成物用充填剤として好適である。
【0021】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の製造法は、処理前と処理後の無機粒子粉末のBET比表面積値の変化が少ないと共に、全工程の処理を乾式で行うためにCOD排出等の問題も生じないため、環境にも配慮した疎水性シリカ粒子粉末の製造法として好適である。
【0022】
本発明に係るゴム組成物は、補強用充填剤として上述の本発明に係る疎水性無機粒子粉末を用いることにより、加工性が改善されると共に、耐摩耗性を損なうことなく転がり抵抗特性と湿潤路面での制動性能を改善することができるゴム組成物として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0024】
まず、本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末について述べる。
【0025】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末は、シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されているシリカ粒子粉末からなる。
【0026】
本発明におけるシリカ粒子粉末としては、沈降シリカ(ホワイトカーボン)、シリカゲル、シリカゾル(コロイダルシリカ)等の湿式法シリカ及びヒュームドシリカ等の乾式法シリカ等を用いることができる。得られるゴム組成物の補強効果を考慮すれば、湿式法によるシリカが好ましく、より好ましくは沈降シリカである。
【0027】
シリカ粒子粉末の粒子形状は、球状、粒状、不定形、針状及び板状等のいずれの形状であってもよい。得られる疎水性シリカ粒子粉末の流動性及びゴム組成物中における分散性を考慮すれば、球状粒子又は粒状粒子が好ましい。
【0028】
本発明におけるシリカ粒子粉末は、平均粒子径0.001〜0.3μm、BET比表面積値1.0〜500m/g、粉体pH値は通常7未満であり、メタノールウェッタビリティによる疎水化度は通常0〜40%である。
【0029】
本発明におけるスルフィドシランとしては、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(メチルジエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(メチルジメトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(2−(トリエトキシシリル)エチル)ジスルフィド、ビス(2−(トリメトキシシリル)エチル)ジスルフィド、ビス(2−(メチルジエトキシシリル)エチル)ジスルフィド、ビス(2−(メチルジメトキシシリル)エチル)ジスルフィド、並びにこれらの化合物のジスルフィドを、トリスルフィド及びテトラスルフィドに置き換えた化合物等が挙げられる。
【0030】
本発明におけるアミノ系シランカップリング剤としては、3―アミノプロピルトリエトキシシラン、3―アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
本発明における高級脂肪酸としては、炭素数12以上の飽和又は不飽和脂肪酸を用いることができる。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、n−オクタコサン酸、メリシン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、n−ノナデカン酸、n−ヘンエイコサン酸、トリコサン酸、ペンタコサン酸、ノナコサン酸、オレイン酸、リノール酸、イソステアリン酸等が挙げられる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。ハンドリング性を考慮すれば、常温において固体であることが好ましい。また、表面被覆処理の均一性を考慮すれば、高級脂肪酸の融点は90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。更に、得られる無機粒子粉末の流動性及び疎水性向上効果を考慮すれば、炭素数はより多い方が好ましい。
【0032】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の平均粒子径は、0.01〜0.3μmであり、好ましくは0.01〜0.25μmである。平均粒子径が0.01μm未満の場合には、粒子の微細化による分子間力の増大により、ゴム組成物中における分散が困難となる。
【0033】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末のBET比表面積値は、90〜250m/gが好ましく、より好ましくは95〜200m/gである。BET比表面積値が90m/g未満の場合には、ゴム組成物の補強効果が得られにくくなるため好ましくない。BET比表面積が250m/gを超える場合には、粒子の微細化による分子間力の増大によりゴム組成物中における分散が困難となる。
【0034】
また、本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の処理前と処理後のBET比表面積値の変化率は56%以下であることが好ましく、より好ましくは54%以下、更により好ましくは52%である。
【0035】
また、本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の粉体pH値は、7.0以上であることが好ましく、より好ましくは7.2以上である。通常、シリカ粒子粉末は粉体pH値が7.0未満の酸性領域にあり、ゴム組成物に配合されている塩基性の加硫促進剤を吸着するためゴム組成物の加硫が充分に行われず、弾性率が上がらないという欠点を有しているが、本発明に係るシリカ粒子粉末は、粉体pH値を中性から塩基性にすることにより、前述の欠点を改良することが可能である。
【0036】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末のメタノールウェッタビリティ(MW)による疎水化度は60%以上であり、好ましくは65%以上である。メタノールウェッタビリティ(MW)による疎水化度が60%未満の場合には、シリカ粒子粉末の疎水性が十分とはいえず、ゴム組成物中へ配合した場合、ゴムをはじめとするゴム組成物中に配合される有機物とのなじみが悪く均一な分散が困難となる。
【0037】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の流動性は、未処理のシリカ粒子粉末に対して5以上、好ましくは10以上向上する。
【0038】
次に、本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の製造法について述べる。
【0039】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末は、シリカ粒子粉末にスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤とを添加し、混合攪拌してシリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤とによって被覆した後、高級脂肪酸を添加し、混合攪拌して上記被覆物表面に高級脂肪酸を付着させる疎水性シリカ粒子粉末の製造法において、全処理工程を乾式で行うと共に、あらかじめ、上記シリカ粒子粉末の水分量を、添加するスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の加水分解に必要な水分量の1〜10倍の範囲に調整しておくと共に、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸付着後の無機粒子粉末を120〜210℃の温度範囲で加熱処理することによって得ることができる。
【0040】
シリカ粒子粉末の水分量は、添加するスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の加水分解に必要な水分量の1〜10倍であり、好ましくは1〜8倍、より好ましくは1〜6倍の範囲に調整しておくことが好ましい。水分量の調整は、常法に従い、加熱もしくは加湿により行えばよい。
【0041】
スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆処理は、スルフィドシランを添加混合した後アミノ系シランカップリング剤を添加混合してもよいし、アミノ系シランカップリング剤を添加混合した後スルフィドシランを添加混合してもよい。また、スルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤を同時に添加混合してもよい。シリカ粒子表面への高級脂肪酸の付着効果を考慮すれば、スルフィドシランを添加混合した後、アミノ系シランカップリング剤を添加混合する順が好ましい。
【0042】
スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆量は、シリカ粒子粉末のBET比表面積値とスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の最小被覆面積(m/g)から求めた、シリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤が一層被覆するために必要な量の5〜100%であることが好ましく、より好ましくは7〜100%である。スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆量を前記範囲とすることで、効果的にシリカ粒子粉末の粒子表面に高級脂肪酸の被覆層を付着・形成することができる。
【0043】
高級脂肪酸の被覆量は、シリカ粒子粉末の粒子表面を被覆しているアミノ系シランカップリング剤の有機官能基1molに対して0.3〜3.0molであることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.8molである。高級脂肪酸の被覆量がシリカ粒子粉末の粒子表面を被覆しているアミノ系シランカップリング剤の有機官能基1molに対して3.0molを超える場合には、ゴム組成物中に分散させた際に、アミノ系シランカップリング剤によってシリカ粒子表面に強固に付着させることができなかった高級脂肪酸が脱離しやすくなるため好ましくない。また、高級脂肪酸の被覆量がシリカ粒子粉末の粒子表面を被覆しているアミノ系シランカップリング剤の有機官能基1molに対して0.3mol未満の場合には、十分な流動性及び疎水性を有する疎水性シリカ粒子粉末を得ることが困難となる。
【0044】
シリカ粒子粉末の粒子表面へのスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆、及び、該被覆表面への高級脂肪酸の被覆処理は、シリカ粒子粉末とスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤とを機械的に混合攪拌したり、シリカ粒子粉末にスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤成分を噴霧しながら機械的に混合攪拌したりすればよい。また、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸を均一にシリカ粒子の粒子表面に被覆するためには、シリカ粒子粉末の凝集をあらかじめ粉砕機を用いて解きほぐしておくことが好ましい。
【0045】
シリカ粒子粉末の粒子表面へのスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤による被覆、及び、該被覆表面への高級脂肪酸の被覆処理は、粉体層にせん断力を加えることのできる装置を用いることが好ましく、殊に、せん断、へらなで及び圧縮が同時に行える装置、例えば、ホイール型混練機、ボール型混練機、ブレード型混練機、ロール型混練機を用いることができ、本発明の実施にあたっては、ホイール型混練機及びボール型混練機がより効果的に使用できる。
【0046】
前記ホイール型混練機としては、エッジランナー(「ミックスマラー」、「シンプソンミル」、「サンドミル」と同義語である)、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、コナーミル、リングマラー等があり、好ましくはエッジランナー、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、リングマラーであり、より好ましくはエッジランナーである。前記ボール型混練機としては、振動ミル、回転ミル、サンドグラインダ等があり、好ましくは振動ミルである。前記ブレード型混練機としては、バーチカルグラニュレーター、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、ナウターミキサー等がある。前記ロール型混練機としては、エクストルーダー等がある。
【0047】
なお、前述のスルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸による処理を行ったシリカ粒子粉末を、特開2008−143725号記載の高速せん断ミル(具体的には、ハイブリダイザー、ノビルタ等)を用いて処理を行った場合、処理粒子が変色・変質するため好ましくない。
【0048】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末は、高級脂肪酸の混合・攪拌後、120〜210℃の温度範囲で30分〜3時間加熱処理することによって得ることができる。加熱処理温度は、好ましくは150〜200℃であり、加熱処理時間は好ましくは1〜3時間である。加熱処理温度が210℃を超える場合には、シリカ粒子粉末が変色・変質する可能性があるため好ましくない。また、120℃未満の場合には、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸をシリカ粒子粉末の粒子表面に効果的に固着することが困難となる。なお、加熱処理は、乾燥機等を用いて常法に従って行えばよい。
【0049】
次に、本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末を添加したゴム組成物について述べる。
【0050】
本発明に係るゴム組成物中における疎水性シリカ粒子粉末の配合割合は、ゴム成分100重量部に対して10〜200重量部の範囲で使用することができ、ゴム組成物のハンドリング性を考慮すれば、好ましくは15〜150重量部、更に好ましくは20〜100重量部である。
【0051】
本発明に係るゴム組成物における構成基材としては、疎水性シリカ粒子粉末と周知のゴムとともに、必要により、ゴム組成物において通常使用される加硫剤、加硫促進剤、カップリング剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤、カーボンブラック等の各種添加剤が配合される。
【0052】
ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム及びその混合物等を使用することができる。ゴムの主成分として、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムを含むことが好ましい。また、これらはそれぞれ単独もしくは2種以上混合して用いることができる。
【0053】
本発明に係るゴム組成物は、上記ゴム及び疎水性シリカとともに、必要により各種添加剤とをバンバリーミキサー、ミキシングロール、インテンシブミキサー、押し出し機、ニーダー等を用いて従来の方法で混練りすることにより得ることができる。また、該ゴム組成物をタイヤに用いる場合、常法に従い、例えば120〜200℃で加硫成形することにより、各種タイヤのゴム部分(トレッドゴムやサイドウォールゴム等)に用いることができる。
【0054】
本発明に係るゴム組成物は、トレッドゴムやサイドウォールゴム等のタイヤの部材、ベルトやプライのトッピングゴム、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種ゴム組成物に用いることができる。
【実施例】
【0055】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0056】
シリカ粒子粉末及び疎水性シリカ粒子粉末の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いて写真撮影を行い、そこに示された粒子350個の粒子径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0057】
比表面積値はBET法により測定した値で示した。
【0058】
BET比表面積値の変化率は、処理前と処理後の粒子粉末の比表面積値を上記BET法により測定し、下記数1に従って算出した値である。
【0059】
<数1>
BET比表面積値の変化率(%)=((BET(B)−BET(A))/BET(B))×100
BET(B):スルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤処理前のシリカ粒子粉末のBET比表面積値
BET(A):処理後のシリカ粒子粉末のBET比表面積値
【0060】
シリカ粒子粉末の水分(%)は、カールフィッシャー法により測定した値で示した。
【0061】
シリカ粒子粉末の粒子表面に被覆されているスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸の被覆量は、「堀場金属炭素・硫黄分析装置EMIA−2200型」(株式会社堀場製作所製)を用いて硫黄量並びに炭素量を測定することにより求めた。
【0062】
粉体pH値は、試料5gを300mlの三角フラスコに秤り取り、煮沸した純水100mlを加え、加熱して煮沸状態を約5分間保持した後、栓をして常温まで放冷し、減量に相当する水を加えて再び栓をして1分間振り混ぜ、5分間静置した後、得られた上澄み液のpHをJIS Z 8802−7に従って測定し、得られた値を粉体pH値とした。疎水性の試料の場合は、エタノールを5〜10mL添加して試料粉体をエタノールでぬらした後、煮沸した純水100mlを加え、加熱して煮沸状態を約5分間保持した後、栓をして常温まで放冷し、減量に相当する水を加えて再び栓をして1分間振り混ぜ、5分間静置した後、得られた上澄み液のpHをJIS Z 8802−7に従って測定し、得られた値を粉体pH値とした。
【0063】
シリカ粒子粉末及び疎水性シリカ粒子粉末の疎水化度は、メタノールウェッタビリティ法(MW法)により、次の様な手順で測定して求めた。あらかじめ、所定のメタノール濃度(5vol%きざみ)となるようメタノールと水の混合用液を作製しておく。それぞれの濃度のメタノール溶液50mlを100mlのビーカーに入れ、試料粉末0.2gを添加する。次に、マグネチックスターラーで攪拌し、試料粉末全量が沈降したメタノール溶液と沈降しなかったメタノール溶液の濃度から、メタノールウェッタビリティ値を求めた。
【0064】
シリカ粒子粉末及び疎水性シリカ粒子粉末の流動性は、「パウダテスタ」(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、安息角(度)、圧縮度(%)、スパチュラ角(度)、凝集度の各粉体特性値を測定し、該各測定値を同一基準の数値に置き換えた各々の指数を求め、各々の指数を合計した流動性指数で示した。流動性指数が100に近いほど、流動性が優れていることを意味する。
【0065】
ゴム組成物中への疎水性シリカ粒子粉末の分散性は、後述する処法によって作製したゴム組成物表面における未分散の凝集粒子の個数を目視により判定し、5段階で評価した。5が最も分散状態が良いことを示す。
1: 1cm当たりに50個以上
2: 1cm当たりに10個以上50個未満
3: 1cm当たりに5個以上10個未満
4: 1cm当たりに1個以上5個未満
5: 未分散物認められず
【0066】
未加硫ゴム組成物のムーニー粘度は、ムーニー粘度計を用い、JIS K 6300に準じて、100℃にて予熱1分、4分間経過後のゴム組成物のムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定し後出比較例1のゴム組成物の値を100として指数で示した。なお、ムーニー粘度の指数が小さいほど、加工性に優れていることを示す。
【0067】
ゴム組成物の耐摩耗性は、ランボーン摩耗試験機を用いて、荷重40N、温度20℃、スリップ率20%の条件下、JIS K 6264に従って摩耗損失量を測定し、後出比較例1のゴム組成物の値を100として下記数1に従って摩耗損失量を指数として示した。なお、摩耗損失量の指数が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0068】
<数1>
ランボーン摩耗指数=(比較例1の摩耗損失量)/(各ゴム組成物の摩耗損失量)×100
【0069】
ゴム組成物の引張り強さは、JIS K 6301に従って測定を行った。引張強さが大きい程、耐破壊性が良好であることを示す。
【0070】
ゴム組成物の損失正接(tanδ)は、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を用いて、温度60℃、歪み5%、周波数15Hzで損失正接(tanδ)を測定し、後出比較例1のゴム組成物の値を100として下記数2に従って損失正接を指数として示した。なお、損失正接指数が小さい程、発熱しにくく、低発熱性に優れることを示す。
【0071】
<数2>
損失正接指数=(各ゴム組成物の損失正接)/(比較例1の損失正接)×100
【0072】
次に、実施例及び比較例を示す。
【0073】
実施例1−1<疎水性シリカ粒子粉末の製造>
シリカ粒子1(粒子形状:粒状、平均粒子径:15nm、BET比表面積値:203.8m/g、粉体pH値:6.1、流動性:57、疎水化度(メタノールウェッタビリティ)(MW):0%)8.0kgを90℃に予熱した攪拌混合造粒機「バーチカルグラニュレーター VG−100型」(製品名、株式会社パウレック製)に投入し、20分間撹拌を行い、粒子の凝集を軽く解きほぐすと共に、水分量を4.0%に調整した。
【0074】
次いで、処理剤A(種類:ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、最小被覆面積:330m/g、処理剤A 1gの加水分解に必要な水分量:0.20g/g)640gを、上記シリカ粒子粉末に添加し、30分間混合攪拌を行った。このときの処理剤Aによる処理量は7.39重量%であった。
【0075】
次いで、処理剤C(種類:3−アミノプロピルトリエトキシシラン、最小被覆面積:354m/g、処理剤A 1gの加水分解に必要な水分量:0.24g/g)120gを、上記処理剤A処理シリカ粒子粉末に添加し、30分間混合攪拌を行った。このときの処理剤Cによる処理量は1.35重量%であり、処理剤A及び処理剤Cによるシリカ粒子1の表面被覆率は14.0%であった。
【0076】
次いで、高級脂肪酸A(種類:ステアリン酸、融点:69.6℃)400gを、上記処理剤A及び処理剤Cで被覆されたシリカ粒子1に添加し、60分間混合攪拌を行った後、乾燥機を用いて180℃で60分間加熱処理を行い、実施例1−1の疎水性シリカ粒子粉末を得た。このときの高級脂肪酸による処理量は4.37重量%であり、処理剤C(アミノ系シランカップリング剤)の有機官能基1molに対する高級脂肪酸の被覆量は2.59molであった。
【0077】
得られた疎水性シリカ粒子粉末の平均粒子径は15.7nm、BET比表面積値は108.2m/g、粉体pH値は7.4、流動性は75、疎水化度(メタノールウェッタビリティ)(MW)は70%であり、処理前と処理後のBET比表面積値の変化率は46.9%であった。
【0078】
<実施例2−1:ゴム組成物の製造>
硫黄及び加硫促進剤以外を下記に示す配合割合にて常法に従ってバンバリーミキサーに投入し、135℃で5分間混合混練して混練物を得た。
【0079】
スチレン−ブタジエン共重合体 70.0重量部
天然ゴム 30.0重量部
疎水性シリカ粒子粉末 40.0重量部
酸化亜鉛 3.0重量部
カップリング剤 1.5重量部
(ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド)
ステアリン酸 2.0重量部
老化防止剤 1.0重量部
ワックス 1.0重量部
硫黄 1.5重量部
加硫促進剤 1.5重量部
【0080】
次いで、上記混練物を練りロール機に移し、硫黄及び加硫促進剤を添加して50℃で5分間混合混練して未加硫ゴム組成物を得た。
【0081】
得られたゴム組成物を160℃で20分間プレス加硫して試験片(147mm×147mm×2mm)を作製し、各種試験を行った。
【0082】
得られたゴム組成物の分散性は5、ムーニー粘度指数は94、耐摩耗性指数は110、引張強さは23.3MPa、損失正接指数は78であった。
【0083】
前記実施例1−1に従って、疎水性シリカ粒子粉末を製造した。各製造条件及び得られた疎水性シリカ粒子粉末の諸特性を示す。
【0084】
シリカ粒子1及び2
シリカ粒子粉末として、表1に示す特性を有するシリカ粒子粉末を準備した。
【0085】
【表1】

【0086】
処理剤A〜D:
スルフィドシランとして表2に示す諸特性を有する処理剤A及び処理剤Bを、アミノ系シランカップリング剤として処理剤C及び処理剤Dを用意した。
【0087】
【表2】

【0088】
高級脂肪酸A〜C:
高級脂肪酸として表3に示す諸特性を有する高級脂肪酸を用意した。
【0089】
【表3】

【0090】
実施例1−2〜1−4、比較例1−1〜1−4
シリカ粒子粉末の種類、調湿による水分量、処理剤の種類及び添加量、高級脂肪酸の種類及び添加量、加熱処理温度及び時間の処理条件を種々変化させた以外は、前記実施例1−1と同様にして疎水性シリカ粒子粉末を得た。
【0091】
このときの製造条件を表4に、得られた疎水性シリカ粒子粉末の諸特性を表5に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
実施例2−2〜2−4、比較例2−1〜2−5
充填材の種類を種々変化させた以外は、前記実施例2−1と同様にしてゴム組成物を得た。
【0095】
このときの製造条件及び得られたゴム組成物の諸特性を表6に示す。
【0096】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末は、優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、ゴム組成物中への分散性に優れることから、タイヤトレッド用ゴム組成物をはじめとして、各種ゴム組成物用充填剤として好適である。
【0098】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末の製造法は、処理前と処理後の無機粒子粉末のBET比表面積値の変化が少ないと共に、全工程の処理を乾式で行うためにCOD排出等の問題も生じないため、環境にも配慮した疎水性シリカ粒子粉末の製造法として好適である。
【0099】
本発明に係るゴム組成物は、補強用充填剤として上述の本発明に係る疎水性無機粒子粉末を用いることにより、加工性が改善されると共に、耐摩耗性を損なうことなく転がり抵抗特性と湿潤路面での制動性能を改善することができるゴム組成物として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている平均粒子径0.01〜0.3μmのシリカ粒子粉末からなることを特徴とする疎水性シリカ粒子粉末。
【請求項2】
BET比表面積値が90m/g以上である請求項1記載の疎水性シリカ粒子粉末。
【請求項3】
粉体pH値が7.0以上である請求項1又は請求項2記載の疎水性シリカ粒子粉末。
【請求項4】
メタノールウェッタビリティによる疎水化度が60%以上である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末。
【請求項5】
スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸による被覆処理前と処理後のシリカ粒子粉末のBET比表面積値の変化率が56%以下である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末。
【請求項6】
処理前のシリカ粒子粉末の流動性指数に対して10以上高い流動性指数を有する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末。
【請求項7】
シリカ粒子粉末にスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤とを添加し、混合攪拌してシリカ粒子粉末の粒子表面をスルフィドシランとアミノ系シランカップリング剤によって被覆した後、高級脂肪酸を添加し、混合攪拌して上記被覆物表面に高級脂肪酸を付着させる疎水性シリカ粒子粉末の製造法において、全処理工程を乾式で行うと共に、あらかじめ、上記シリカ粒子粉末の水分量を添加するスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤の加水分解に必要な水分量の1〜10倍の範囲に調整しておくと共に、スルフィドシラン、アミノ系シランカップリング剤及び高級脂肪酸付着後の無機粒子粉末を120〜210℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末の製造法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末を用いたゴム組成物。


【公開番号】特開2012−31306(P2012−31306A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172784(P2010−172784)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】