説明

疲労のバイオマーカーおよびその利用

【課題】客観的かつ簡便な疲労の診断および評価を可能にするバイオマーカー、および該バイオマーカーを用いた疲労の診断技術を開発する。
【解決手段】生体サンプル中のグルコース、クエン酸、cis−アコニット酸の、健常者の測定値に対する被験者の測定値の比率を算出し、グルコースの比率、クエン酸の比率、cis−アコニット酸の比率を疲労の評価および/または判定に用いる。同様に、イソクエン酸の比率を算出し、上記3つの比率と併せて疲労の評価および/または判定に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労を評価するバイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた疲労の評価および診断に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国における疫学調査によれば、一般大衆の約60%が疲労を自覚しており、その半数以上が6ヶ月以上続く疲労(すなわち慢性疲労)に悩まされている。また、慢性疲労を感じている人の約半数が、仕事または学業の能率低下を訴えている。このような慢性疲労による経済的損失は1兆2千億円にも上るとされている。さらに、慢性疲労を感じている人の中には、強い疲労感を主症状とする、未だ原因が十分解明されていない慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)の患者も含まれている。
【0003】
これまでの疲労診断の多くは、患者の主観に基づくものであるため、疲労を客観的に診断するための指標の確立が望まれている。特許文献1には、免疫力低下の原因の1つとして挙げられているウイルス感染に着目し、ウイルス感染を疲労度の指標として評価する技術が開示されている。非特許文献1には、疲労を加速度脈波によって客観的に測定/評価する試みが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−330263号公報(公開日:2007年12月27日)
【特許文献2】特開平9−77688号公報(公開日:1997年3月25日)
【特許文献3】特開平9−59161号公報(公開日:1997年3月4日)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「疲労の生理学的計測:加速度脈波」 山口浩二ら、医学のあゆみ 特集「最新・疲労の科学−日本発:抗疲労・抗過労への提言」 Vol.228, No.6, 646-653 (2009)
【非特許文献2】「疲労の生化学的バイオマーカー」 梶本修身、医学のあゆみ 特集「最新・疲労の科学−日本発:抗疲労・抗過労への提言」 Vol.228 No.6, 659-663 (2009)
【非特許文献3】「Mental and physical fatigue-related biochemical alterations」 Nozaki S. et al. Nutrition 25,51-57 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体内には、恒常性(ホメオスタシス)を維持させるメカニズム、すなわち乱れたホメオスタシスを回復させようとするメカニズムが、本来備わっている。生体が本来有しているメカニズムに則して疲労を客観的に評価する技術の開発が望まれている。具体的には、生体サンプルに含まれる化学物質の濃度に基づいて、生体情報を数値化または定量化し得る生体指標(バイオマーカー)の同定が期待されている。
【0007】
特許文献1記載の技術は、被験者の体液を採取し、体液中のヒトヘルペスウイルスの量を測定し、疲労度との関係を評価している。しかし、この技術は、ヒト(宿主)に感染したウイルスの挙動を観察するものであり、ヒトにおける疲労のメカニズムを反映したバイオマーカーを測定するものではない。そのため、特許文献1記載の技術では、個々の被験者の疲労状態を評価したり、治療法または予防法を提供したりすることができない。また、非特許文献1記載の技術は、非侵襲的に実施され得るという利点があるが、特殊な機器による指尖容積脈波の測定、および特殊な原理に基づくデータ処理が必要であり、汎用性に乏しい。さらに、非特許文献2には、血液、唾液、尿にて評価し得る、疲労の生化学的マーカー候補が列挙されており、これらの因子が、疲労および疲労感と関連深い旨が記載されている。また、非特許文献3には、種々の生体サンプルにおけるいくつかの因子が、精神的疲労および肉体的疲労に関連してその量を変動させることが記載されている。しかし、非特許文献2および3に記載の因子には、一時的な負荷による疲労を反映したものが多く、特に、日常生活の中で長期間持続している疲労の診断および評価はまだ実現されていない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、客観的かつ簡便な疲労の診断および評価を可能にするバイオマーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる第1の疲労評価方法は、(1)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値(第1の測定値)の、第1の基準値に対する第1の比率を得る工程、(2)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値(第2の測定値)の、第2の基準値に対する第2の比率を得る工程、(3)被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値(第3の測定値)の、第3の基準値に対する第3の比率を得る工程、(4)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値(第4の測定値)の、第4の基準値に対する第4の比率を得る工程、(5)被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値(第5の測定値)の、第5の基準値に対する第5の比率を得る工程、(6)被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度の測定値(第6の測定値)の、第6の基準値に対する第6の比率を得る工程、および、(7)被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度の測定値(第7の測定値)の、第7の基準値に対する第7の比率を得る工程、からなる群より選択される少なくとも2つの工程を包含することを特徴としている。
【0010】
慢性疲労症候群の診断において、診断されるまでの測定項目の多さ、長期間にわたる観察(測定)時間、経済的な負担、医師の判断基準の個人差などが問題となる。上記構成を有することによって、本発明にかかる方法は、生体サンプル中の特定の代謝物を測定することのみによって客観的な診断を下すためのデータを提供し得るので、疲労についての、迅速かつ低コストな、そして客観的な診断を可能にする。すなわち、本発明にかかる方法は、疲労の診断基準または判定基準を提供する方法でもあり得る。また、グルコース、クエン酸およびcis−アコニット酸はエネルギー産生に深く関係しているので、本発明にかかる方法は、疲労全般(慢性疲労、蓄積疲労、慢性疲労症候群を含む。)の診断にも利用可能である。
【0011】
本明細書中にて使用される場合、用語「生体サンプル」は、被験体から採取された任意の組織(血液等の体液を含む。)または細胞が意図され、これらから調製された組織切片または細胞溶解物もまた生体サンプルに包含され得る。本発明に用いるに好ましい生体サンプルとしては、血液、唾液、尿、間質液、汗、およびこれらからの調製物(例えば、血清、血漿など)などが挙げられるがこれらに限定されない。なお、サンプル取得の第一段階として組織または細胞をヒト被験体から直接取り出す工程は、医師によるものであり、本発明の範囲外である。また、本発明の方法によって得られた結果を用いて、疲労(慢性疲労、蓄積疲労、慢性疲労症候群を含む。)であるか否かの判定を医師が下す工程もまた、本発明の範囲外である。
【0012】
本明細書中にて使用される場合、第1〜第7の基準値は、それぞれ、複数の健常者から得た生体サンプル中の平均グルコース濃度、平均クエン酸濃度、平均cis−アコニット酸濃度、平均イソクエン酸濃度、平均コハク酸濃度、平均リンゴ酸濃度、および平均乳酸濃度であることが好ましいが、平均値に限定されず、二項分布等から得られる最頻値であってもよい。なお、第1〜第7の基準値は、予め規定された値であっても、被験者からのサンプリングと同時に健常者のサンプリングを行い、得られた生体サンプル中の各代謝物質の濃度に基づいて算出された値であってもよい。また、第1〜第7の基準値は、第1〜第7の測定値を得る際に用いた測定方法と同一の測定方法によって得られることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる第1の疲労評価方法は、上記少なくとも2つの工程によって得られた少なくとも2つの比率において、少なくとも一対を比較する工程をさらに包含してもよく、好ましくは、本発明にかかる第1の疲労評価方法は、上記(1)〜(5)の工程からなる群より選択される少なくとも2つの工程を包含している。少なくとも一対を比較する工程における比較は、2つの値の差を得ても、比率を得てもよい。
【0014】
1つの局面において、本発明にかかる第1の疲労評価方法は、(a)第1の比率と第2の比率とを比較する工程、(b)第2の比率と第3の比率とを比較する工程、および(c)第1の比率と第3の比率とを比較する工程、の少なくとも1つをさらに包含し、(I)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(II)第2の比率が第3の比率よりも大きい、および(III)第1の比率が第3の比率よりも大きい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。
【0015】
さらなる局面において、(d)第1の比率と第4の比率とを比較する工程、(e)第2の比率と第4の比率とを比較する工程、および(f)第3の比率と第4の比率とを比較する工程、の少なくとも1つをさらに包含し、(IV)第1の比率が第4の比率よりも大きい、(V)第2の比率が第4の比率よりも大きい、(VI)第4の比率が第3の比率よりも大きい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。上記(4)の工程を包含する場合、本発明にかかる第1の疲労評価方法は、上記(5)の工程をさらに包含することが好ましく、この場合、本発明にかかる疲労評価方法は、(g)第1の比率と第5の比率とを比較する工程、(h)第2の比率と第5の比率とを比較する工程、(i)第3の比率と第5の比率とを比較する工程、および(j)第4の比率と第5の比率とを比較する工程の少なくとも1つをさらに包含し、(VII)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(VIII)第2の比率が第4の比率よりも大きい、(IX)第5の比率が第4の比率よりも大きい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。
【0016】
コハク酸もまた、グルコース、クエン酸およびcis−アコニット酸と同様にエネルギー産生に深く関係しているので、疲労全般の診断にも利用可能である。cis−アコニット酸は不安定であるのでサンプル中の濃度の測定が容易でないが、サンプル中のコハク酸の濃度を用いれば本発明の実行をより簡便に行うことができる。
【0017】
上記(a)〜(j)の工程において比率が得られる場合は、本発明にかかる第1の疲労評価方法は、得られた比率の少なくとも1つを用いて、判別分析、Partial Least Square、Support Vector Machine等の分析を行う工程をさらに包含してもよい。また、(6)および(7)によって得られた第6の比率および第7の比率は、上述した第1〜第5の比率と同様に用いられ得る。リンゴ酸および乳酸もまた、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸およびコハク酸と同様にエネルギー産生に深く関係しているので、疲労全般の診断にも利用可能である。
【0018】
上記構成を有することによって、本発明にかかる方法は、慢性疲労についての客観的な診断を迅速かつ低コストにて提供し得る。さらに、本発明による診断結果が病態そのものを表すため、本発明を用いれば治療方針を立てることも可能である。すなわち、本発明を用いれば、被験者が疲労状態にあるのか否かだけでなく、慢性疲労に陥っているのか否か、さらには、患者が慢性疲労症候群に属するか否か、を判定する(あるいは、判定するためのデータを提供する)ことができる。
【0019】
本発明にかかる第2の疲労評価方法は、上記(2)〜(7)の工程からなる群より選択される少なくとも1つの工程を包含することを特徴としている。本発明にかかる第2の疲労評価方法は、第2の比率〜第7の比率について、得られた比率を該比率に対応する参照値と比較する工程をさらに包含してもよく、具体的には、上記工程(2)〜(7)に対応して、(k)第2の比率を該比率に対応する参照値と比較する工程、(l)第3の比率を該比率に対応する参照値と比較する工程、(m)第4の比率を該比率に対応する参照値と比較する工程、(n)第5の比率を該比率に対応する参照値と比較する工程、(o)第6の比率を該比率に対応する参照値と比較する工程、および(p)第7の比率を該比率に対応する参照値と比較する工程、の少なくとも1つをさらに包含してもよい。なお、参照値は、測定値を用いた決定木数理モデルに基づく解析によって得た閾値と、基準値との比率として得られるものであり、具体的には、(閾値/基準値)×100(%)として算出される値である。この場合、上記工程(k)〜(p)に対応して、(X)第2の比率が、第2の比率に対応する参照値よりも小さい、(XI)第3の比率が、第3の比率に対応する参照値よりも小さい、(XII)第4の比率が、第4の比率に対応する参照値よりも小さい、(XIII)第5の比率が、第5の比率に対応する参照値よりも小さい、(XIV)第6の比率が、第6の比率に対応する参照値よりも小さい、(XV)第7の比率が、第7の比率に対応する参照値よりも小さい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含することが好ましい。
【0020】
医師は、上記(X)〜(XV)の少なくとも1つの条件が成立する場合に、上記生体サンプルを提供した被験者が慢性疲労症候群に属する可能性があると判定することができる。
【0021】
また、後述する疲労評価システムでは、判定部が同様の判定を行うことができる。なお、本発明にかかる第2の疲労評価方法は、第1の測定値と第1の基準値との間で実質的な差異がない(すなわち、上記工程(1)で得られた第1の比率が実質的に1に等しい)場合に用いられることが好ましい。本明細書中において、上記工程(1)を用いることなく第1の測定値と第1の基準値との間で実質的な差異がないと客観的に判断することもまた、上記工程(1)を用いて第1の比率が実質的に1に等しいと判断することに包含される。
【0022】
1つの局面において、本発明にかかる第2の疲労評価方法は、第3の比率を得る工程、第4の比率を得る工程、および、第5の比率を得る工程の少なくとも1つを包含することが好ましい。図3および5に示すように、第3〜第5の比率は、健常者と慢性疲労症候群患者との間で明らかに差異がある。また、後述する実施例に示すように、cis−アコニット酸、イソクエン酸およびコハク酸は、単独であっても、被験者が慢性疲労症候群患者であるか否かを、95%の確率で判定するマーカーとなり得る。これらの中で、コハク酸がマーカーとして最も好ましく、次いで、イソクエン酸、cis−アコニット酸の順に好ましい。すなわち、本発明にかかる第2の疲労評価方法において、第5の比率を得る工程が好ましく、第4の比率を得る工程が第5の比率を得る工程に引き続いて行われることがより好ましく、第3の比率を得る工程が第4の比率を得る工程に引き続いて行われることが最も好ましい。
【0023】
また、本発明にかかる疲労評価方法は、(1’)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値と第1の閾値とを比較する工程、(2’)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値と第2の閾値とを比較する工程、(3’)被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値と第3の閾値とを比較する工程、(4’)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値と第4の閾値とを比較する工程、(5’)被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値と第5の閾値とを比較する工程、(6’)被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度の測定値の第6の閾値とを比較する工程、および(7’)被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度の測定値の第7の閾値とを比較する工程、の少なくとも1つを包含することを特徴としており、好ましくは、上記(3’)〜(5’)の工程の少なくとも1つを包含し、少なくとも(5’)の工程を包含することがより好ましく、(5’)の工程の次に(4’)の工程を行うことがより好ましく、引き続いて(3’)の工程を行うことがさらに好ましい。本実施形態にかかる疲労評価方法は、(1’)〜(7’)において、測定値が対応する閾値よりも小さいという条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよく、被験者が慢性疲労症候群であるか否かを95%以上の確率で判定し得る観点から、(3’)〜(5’)において、測定値が対応する閾値よりも小さいという条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含することが好ましい。この場合、少なくとも1つがそれぞれに対応する閾値よりも小さいという条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。医師は、上記条件の少なくとも1つが成立する場合に、上記生体サンプルを提供した被験者が慢性疲労症候群に属する可能性があると判定することができる。また、後述する疲労評価システムでは、判定部が同様の判定を行うことができる。
【0024】
本発明にかかる第3の疲労評価方法は、基準値を用いずに、被験者から得た生体サンプル中の、第1の測定値〜第5の測定値からなる群より選択される少なくとも2つにおいて、少なくとも一対の比率を得る工程を包含することを特徴としている。上記得られた少なくとも一対の比率を、判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machineの分析に供する工程をさらに包含することが好ましい。本発明にかかる疲労評価方法は、例えば、被験者から得た生体サンプル中の、第2の測定値の第1の測定値に対する比率、第3の測定値の第1の測定値に対する比率、第3の測定値の第2の測定値に対する比率、第4の測定値の第1の測定値に対する比率、第4の測定値の第2の測定値に対する比率、および第4の測定値の第3の測定値に対する比率の少なくとも1つを用いて分析を行うことが好ましく、上記構成を有することによって、本発明にかかる方法は、90%以上の正確さで慢性疲労症候群患者を判別することができる。また、例えば、被験者から得た生体サンプル中の、第2の測定値の第1の測定値に対する比率、第4の測定値の第1の測定値に対する比率、第4の測定値の第2の測定値に対する比率、第5の測定値の第1の測定値に対する比率、第5の測定値の第2の測定値に対する比率、および第5の測定値の第3の測定値に対する比率の少なくとも1つを用いて分析を行うことがより好ましく、上記構成を有することによって、本発明にかかる方法は、90%以上の正確さと95%以上の感受性/特異性で慢性疲労症候群患者を判別することができる。
【0025】
なお、本発明において、生体サンプル中のグルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸および乳酸の濃度を測定する工程(第1〜第7の測定値を得る工程)は必須ではなく、得られるべき「測定値」は、本発明の実行者が自ら取得および/または算出しても、第三者によって取得および/または算出された値が、本発明の実行者に提供されてもよい。
【0026】
本発明にかかる第1のキットは、疲労を評価するために、コハク酸濃度を測定するための第5の試薬を備えていることを特徴としている。本発明にかかる第1のキットは、イソクエン酸濃度を測定するための第4の試薬をさらに備えていてもよく、さらに、グルコース濃度を測定するための第1の試薬、クエン酸濃度を測定するための第2の試薬、cis−アコニット酸濃度を測定するための第3の試薬、リンゴ酸濃度を測定するための第6の試薬、および、乳酸濃度を測定するための第7の試薬からなる群より選択される試薬の少なくとも1つを備えていてもよい。本発明にかかるキットは、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸および乳酸の濃度の各々の基準値が表示された指示書をさらに備えていることが好ましい。
【0027】
本発明にかかる第2のキットは、疲労を評価するために、第5の比率を示す第5呈示部を備えていることを特徴としている。本発明にかかる第2のキットは、第4の比率を示す第4呈示部をさらに備えていてもよく、さらに、第1の比率を示す第1呈示部、第2の比率を示す第2呈示部、第3の比率を示す第3呈示部、第6の比率を示す第6呈示部、および、第7の比率を示す第7呈示部からなる群より選択される呈示部の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0028】
上記構成を有することによって、本発明にかかるキットは、実際の医療現場にて簡便に使用することができるので、より速く、安く、客観的な、疲労の評価方法および慢性疲労症候群の診断方法を提供し得る。
【0029】
本発明にかかる第1の疲労評価システムは、第1〜第7の測定値からなる群より選択される少なくとも2つの測定値を受容する測定値受容部、第1〜第7の基準値からなる群より選択される少なくとも2つの基準値を格納した基準値格納部、測定値受容部からの測定値と基準値格納部からの基準値を受け取って、疲労を評価するための情報を生成する演算部、および、演算部からの評価情報を受け取って、疲労を評価する評価部、を備えており、上記演算部が、第1の比率〜第7の比率からなる群より選択される少なくとも2つの比率を算出することを特徴としている。
【0030】
本発明にかかる第1の疲労評価システムは、上記演算部が、上記少なくとも2つの比率において、少なくとも一対の比較を実行してもよい。好ましくは、本発明にかかる第1の疲労評価システムは、上記測定値受容部が、第1〜5の測定値からなる群より選択される少なくとも2つの測定値を受容し、上記基準値格納部が、第1〜第5の基準値からなる群より選択される少なくとも2つの基準値を格納し、上記演算部が、第1の比率〜第5の比率からなる群より選択される少なくとも2つの比率をさらに算出し、上記少なくとも2つの比率において、少なくとも一対の比較を実行する。上記少なくとも一対の比較は、2つの値の差を得るものであっても、比率を得るものであってもよい。例えば、本発明にかかる第1の疲労評価システムにおいて、評価部は、(I)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(II)第2の比率が第3の比率よりも大きい、(III)第1の比率が第3の比率よりも大きい、(IV)第1の比率が第4の比率よりも大きい、(V)第2の比率が第4の比率よりも大きい、(VI)第4の比率が第3の比率よりも大きい、(VII)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(VIII)第2の比率が第4の比率よりも大きい、(IX)第5の比率が第4の比率よりも大きい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定することが好ましい。上記少なくとも一対の比較において比率が得られる場合は、上記演算部は、得られた比率に基づいて、判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machineの分析を実行してもよい。また、得られた第6の比率および第7の比率は、上述した第1〜第5の比率と同様に、本発明にかかる第1の疲労評価システムにて処理され得る。
【0031】
本発明にかかる第2の疲労評価システムは、上記演算部が、第1の比率を算出するとともに、第2〜第7の比率からなる群より選択される少なくとも1つの比率を算出することを特徴としている。本発明にかかる第2の疲労評価システムは、上記基準値格納部が、第2の比率〜第7の比率に対応する参照値からなる群より選択される少なくとも1つの参照値を格納していてもよく、この場合、上記演算部が、該基準値格納部からの該参照値を受け取って、算出された比率と該比率に対応する参照値との比較を実行することが好ましい。なお、参照値は、測定値を用いた決定木数理モデルに基づく解析によって得た閾値と、基準値との比率として得られるものであり、具体的には、(閾値/基準値)×100(%)として算出される値である。この場合、上記評価部は、第2の比率が、第2の比率に対応する参照値よりも小さい、第3の比率が、第3の比率に対応する参照値よりも小さい、第4の比率が、第4の比率に対応する参照値よりも小さい、第5の比率が、第5の比率に対応する参照値よりも小さい、第6の比率が、第6の比率に対応する参照値よりも小さい、第7の比率が、第7の比率に対応する参照値よりも小さい、の少なくとも1つの条件が成立した場合に、上記生体サンプルを提供した被験者が慢性疲労症候群に属すると判定する。好ましくは、本発明にかかる第2の疲労評価システムは、上記演算部が、第3の比率〜第5の比率の少なくとも1つを算出する。この場合、上記演算部が、上記第4の比率に引き続いて上記第5の比率を算出することが好ましく、上記第5の比率に引き続いて上記第3の比率を算出することがより好ましい。また、本発明にかかる第2の疲労評価システムは、上記判定部が、第1の比率が実質的に1であるか否かを判定することが好ましい。上記構成を有することによって、本発明にかかるシステムは、90%以上の正確さと95%以上の感受性/特異性で慢性疲労症候群患者を判別することができる。
【0032】
また、本発明にかかる疲労評価システムは、上記演算部が、第1〜第7の測定値と第1〜第7の測定値の各々に対応する閾値とを比較することを特徴としている。本発明にかかる疲労評価システムは、上記基準値格納部が、第1〜第7の測定値の各々に対応する閾値からなる群より選択される少なくとも1つの閾値を格納していてもよく、この場合、上記演算部が、該基準値格納部からの該閾値を受け取って、測定値と該測定値に対応する閾値との比較を実行することが好ましい。特に、第3〜第5の測定値についての比較を実行することが好ましく、第5の測定値についての比較を優先して行うことがより好ましく、次いで第4の測定値についての比較を行い、さらに第3の測定値についての比較を行うことがなお好ましい。上記判定部は、被験者が慢性疲労症候群であるか否かを95%以上の確率で判定し得る観点から、(3’)〜(5’)において、測定値が対応する閾値よりも小さいという条件が成立するか否かを判定することが好ましい。この場合、少なくとも1つがそれぞれに対応する閾値よりも小さいという条件を満たした場合に、上記生体サンプルを提供した被験者が慢性疲労症候群に属すると判定する。
【0033】
本発明にかかる第3の疲労評価システムは、第1〜第5の測定値からなる群より選択される少なくとも2つの測定値を受容する測定値受容部、測定値受容部からの測定値を受け取って、疲労を評価するための情報を生成する演算部、および、演算部からの評価情報を受け取って、疲労を評価する評価部、を備えており、上記演算部が、該少なくとも2つの測定値において、少なくとも一対の比較を実行して、少なくとも一対の比率を得ることを特徴としている。本発明にかかる第3の疲労評価システムにおいて、上記演算部は、上記得られた少なくとも一対の比率に基づいて、判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machineの分析を実行することが好ましい。上記構成を有することによって、本発明にかかるシステムは、90%以上の正確さで判別することができる。
【0034】
好ましい局面において、本発明にかかる第3の疲労評価システムは、被験者から得た生体サンプル中の、第3、第4および第5の測定値の少なくとも1つを用いて疲労の評価を行う。本発明にかかる疲労評価システムは、第3、第4および第5の測定値の少なくとも1つを受容する測定値受容部、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度およびコハク酸濃度のそれぞれに対応する第3、第4および第5の基準値の少なくとも1つを格納した基準値格納部、測定値受容部からの測定値と基準値格納部からの基準値を受け取って、疲労を評価するための情報を生成する演算部、および、演算部からの評価情報を受け取って、疲労を評価する評価部、を備えており、演算部が、第3の比率、第4の比率、および第5の比率の少なくとも1つを算出する。この場合、演算部が、第5の比率を算出することが好ましく、第5の比率に引き続いて第4の比率を算出することがより好ましく、さらに、第4の比率に引き続いて第3の比率を算出することが最も好ましい。本発明にかかる第3の疲労評価システムにおいて、上記基準値格納部は、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度およびコハク酸濃度のそれぞれに対応する参照値の少なくとも1つを格納していてもよく、この場合、上記演算部が、該基準値格納部からの該参照値を受け取って、算出した比率と該比率に対応する参照値との比較を実行することが好ましい。また、上記演算部は、例えば、第3の比率、第4の比率および第5の比率の少なくとも1つを用いた分析を行ってもよい。
【0035】
本発明にかかる疲労評価システムは、グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度、および乳酸濃度のそれぞれを測定する第1〜第7の測定部をさらに備えてもよく、この場合、第1〜第7の測定部にて得られた値が測定値受容部に入力される。
【0036】
上記構成を有することによって、本発明にかかるシステムは、従来公知の簡便な技術によって取得され得る測定値を独自の手順に従って処理するので、従来得ることができなかった客観的かつ信憑性の高い判定結果を、迅速かつ低コストにて提示することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、疲労の評価および慢性疲労症候群の診断を客観的かつ簡便に行うことを可能にする。本発明はさらに、疲労の治療に有用な技術を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】健常者および慢性疲労症候群(CFS)の患者の血漿中に含まれている種々の代謝物の濃度を示す図である。
【図2】解糖系およびクエン酸回路を形成する代謝物について、代謝物と代謝物との相関、および代謝物とパフォーマンス・ステイタス(PS)との相関を調べた結果を示す図である。
【図3】健常者および慢性疲労症候群(CFS)の各患者の血漿中に含まれている、候補物質の量の結果を示す図である。健常者のそれぞれの候補物質の量の平均値を100とし、その比率で示した。
【図4】健常者および慢性疲労症候群(CFS)の各患者の血漿中に含まれている、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸およびイソクエン酸について、それぞれの比率を3軸上に示した図である。
【図5】健常者および慢性疲労症候群(CFS)の各患者の血漿中に含まれている、候補物質の量の結果を示す図である。健常者のそれぞれの候補物質の量の平均値を100とし、その比率で示した。
【図6】健常者および慢性疲労症候群(CFS)の各患者の血漿中に含まれている、グルコース、クエン酸、イソクエン酸およびコハク酸について、それぞれの比率を3軸上に示した図である。
【図7】血漿サンプル中の代謝物質の測定値を含めた全てのパラメータを用いてランダムフォレスト(Random Forest)プログラムを実行した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
〔1〕疲労
現在、疲労・倦怠感を主症状として医療機関へ訪れる患者の数は、痛みを主症状とする患者の数に次いで2番目に多い。しかしながら、疲労を客観的に評価する方法は、これまでに開発されていない。疲労感および倦怠感は、ヒトが日常的に経験する感覚であり、生体のホメオスタシスの乱れを知らせる重要な生体シグナルである。しかし、疲労感はあくまでも主観的なものであり、疲労度を客観的に示すものではない。乳酸が疲労の原因物質であると考えられた時期もあるが、乳酸レベルの変動は、運動の指標になり得るが、疲労状態の指標にはならないということもわかってきている。さらに、疲労に効果的な治療法も見出されておらず、抗疲労成分として、カフェインやタウリン、アスコルビン酸などが知られているに過ぎない。
【0040】
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、「慢性疲労症候群」という、原因不明の強い疲労を呈する疾患を1988年に報告してから、そのメカニズムの解明、バイオマーカーの探索、および治療予防法の開発を中心とした、種々の研究がなされてきた。しかし、慢性疲労症候群の発症メカニズムは未だ解明されておらず、客観的バイオマーカーについても開発されていない。現在においても、CDCが1994年に発表した、症状および身体所見の基準を用いて慢性疲労症候群の診断がなされている。
【0041】
一方、これまでに、ウイルス活性化または自律神経異常を指標とした疲労バイオマーカーが提案されている。しかし、これらはヒトの疲労の原因やそのメカニズムに則したものではないため、疲労(特に慢性疲労、慢性疲労症候群)に特異的なバイオマーカーとはいいがたい。さらに、これらは、ホメオスタシスの維持/回復のメカニズムの間接的な指標であっても直接的な指標ではないため、具体的な治療法の提供にまで発展させることは試行錯誤が必要である。
【0042】
疲労負荷モデル動物において、血中アミノ酸量の変動(特に分枝鎖アミノ酸量の増加)が見出された。そこで、本発明者らは、疲労患者の血液を用いて同様の検査を行ったが、同様の結果は見出せなかった。この結果を検証するために、本発明者らは、種々の代謝物を網羅的に解析することができるメタボローム解析を、慢性疲労症候群患者の血漿を用いて行った。しかし、上述した分枝鎖アミノ酸に関しては、健常者と慢性疲労症候群患者との間において量的な差異を見出せなかった。
【0043】
また、モデル動物を用いた研究において、肝臓や筋肉組織のATPの減少、脳内サイトカインの活性化などが、これまでに示されているが、このような知見をヒトにおける診断および/または治療に適用することは、倫理的な観点から困難である。このようにモデル動物から得られた知見は、まだまだ疲労患者に適用することができず、疲労の原因や疲労が生成される機序は未だ解明されていない。
【0044】
〔2〕本発明のバイオマーカー
本発明者らは、健常者および慢性疲労症候群の患者の血漿における代謝物の変動をさらに解析し、得られた測定値に対してさらに独自の手法を組み合わせることによって、疲労のバイオマーカーを見出し、本発明を完成するに至った。
【0045】
後述する実施例に示すように、本発明にかかるバイオマーカーは、生体サンプル中のグルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、cis−アコニット酸、リンゴ酸、および乳酸の濃度に基づくものである。近年、種々のサンプルを、種々の項目について網羅的に解析する技術が開発されている。本発明者らが採用したメタボローム解析もまたその一つである。ただし、図1に示すように、生体サンプル中の濃度が被験者のものと健常者のものとの間で有意に異なる化合物(代謝物)は多く存在し、上記のうちの少なくとも2種(必要に応じて全種類)の選択を明確に動機付ける知見は、当該分野に存在しない。本発明者らは、生体サンプル中の濃度が被験者のものと健常者のものとの間で有意に異なる代謝物を、PSと有意な相関を示すものに絞り込み、さらに種々の数理モデル解析手法に供した。このような手順を行うこともまた、本発明者ら独自の観点である。なお、パス解析に供する化合物として、メタボローム解析から得られたもの以外にグルコースを選択したこと、およびグルコースと他の代謝物とを関連付けたこともまた、本発明者ら独自の観点である。さらに、上記代謝物質を用いた場合(すなわち、少なくとも2つのバイオマーカーを用いた場合)、90%を超える正確さで健常者と慢性疲労症候群の患者とを識別し得るという、格別優れた結果を提供する。
【0046】
なお、クエン酸を疲労と関連付ける報告がこれまでになされている(例えば、特許文献2および3参照)。しかし、いずれの報告に基づいても当業者は本発明に想到し得ない。
【0047】
本発明においては、生体サンプル中の代謝産物(グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸)の、健常者の測定値に対する被験者の測定値の比率を算出し、いずれか1つの代謝産物の比率と他の代謝産物の1つの比率との差がバイオマーカーとして用いられる。例えば、本発明において、被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度(測定値M)と、グルコースに関する基準値(第1の基準値B)との比(第1の比率R)を算出し、被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度(測定値M)と、クエン酸に関する基準値(第2の基準値B)との比(第2の比率R)を算出し、被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度(測定値M)と、cis−アコニット酸に関する基準値(第3の基準値B)との比(第3の比率R)を算出し、これらR〜Rを比較することによって、本発明のバイオマーカーが得られる。
【0048】
第1実施形態において、本発明のバイオマーカーは、RとRとの差Q、RとRとの差Qであり得る。
【0049】
バイオマーカーQ=R−R
バイオマーカーQ=R−R
として得られたバイオマーカーQおよびQの少なくとも一方が正(Q>0またはQ>0)の場合に、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーQおよびQのいずれもが負(Q<0かつQ<0)の場合に、「疲労なし」と評価される。なお、生体サンプル中のイソクエン酸の、健常者の測定値に対する被験者の測定値の比率を算出し、イソクエン酸の比率とcis−アコニット酸の比率との差がバイオマーカーとして用いられてもよい。すなわち、被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度(測定値M)と、イソクエン酸に関する基準値(第4の基準値B)との比(第4の比率R)を算出し、これらに基づいて、
バイオマーカーQ=R−R
として得られたバイオマーカーQも、バイオマーカーQおよびQとともに用いられてもよく、この場合、バイオマーカーQ〜Qの少なくとも一つが正(Q>0、Q>0またはQ>0)の場合に、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーQ〜Qのいずれもが負(Q<0かつQ<0かつQ<0)の場合に、「疲労なし」と評価される。
【0050】
このような実施形態は、後述する実施例(例えば、図3)にて実証されている。ここで、バイオマーカーQ〜Qと同様に、
バイオマーカーQ=R−R
バイオマーカーQ=R−R
バイオマーカーQ=R−R
もまた、本発明のバイオマーカーであり、バイオマーカーQ〜Qと同様に疲労の評価に用いられ得ることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0051】
cis−アコニット酸は不安定であるのでサンプル中の濃度の測定が容易でない。このような場合には、グルコース、クエン酸およびイソクエン酸とともにコハク酸を用いればよい。コハク酸もまた、グルコース、クエン酸およびcis−アコニット酸と同様にエネルギー産生に深く関係している。サンプル中のコハク酸の濃度を用いれば本発明の実行をより簡便に行うことができる。すなわち、第1実施形態において、被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度(測定値M)と、グルコースに関する基準値(第1の基準値B)との比(第1の比率R)を算出し、被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度(測定値M)と、クエン酸に関する基準値(第2のB)との比(第2の比率R)を算出し、被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度(測定値M)と、イソクエン酸に関する基準値(第4の基準値B)との比(第4の比率R)を算出し、被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度(測定値M)と、コハク酸に関する基準値(第5の基準値B)との比(第5の比率R)を算出し、これらR,R,RおよびRを比較することによって、本発明のバイオマーカーを得ることが好ましい。この場合、本実施形態のバイオマーカーは、RとRとの差Q1a、RとRとの差Q2a、RとRとの差Q3aであり得る。
【0052】
バイオマーカーQ1a=R−R
バイオマーカーQ2a=R−R
バイオマーカーQ3a=R−R
として得られたバイオマーカーの少なくとも1つが正(Q1a>0、Q2a>0またはQ3a>0)の場合に、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーのいずれもが負(Q1a<0かつQ2a<0かつQ3a<0)の場合に、「疲労なし」と評価される。
【0053】
このような実施形態は、後述する実施例(例えば、図5)にて実証されている。ここで、バイオマーカーQ1a、Q2a,Q3aと同様に、
バイオマーカーQ4a=R−R
バイオマーカーQ5a=R−R
バイオマーカーQ6a=R−R
もまた、本発明のバイオマーカーであり、バイオマーカーQ、Q2a,Q3aと同様に疲労の評価に用いられ得ることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0054】
被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値と基準値との間で実質的な差異がない場合(すなわちR≒1)、R〜Rがバイオマーカーとなり得る。また、被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度(測定値M)と、リンゴ酸に関する基準値(第6の基準値B)との比(第6の比率R)を算出し、被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度(測定値M)と、乳酸に関する基準値(第7の基準値B)との比(第7の比率R)を算出し、これらR〜RをR〜Rとともに用いてもよい。すなわち、第2実施形態において、本発明のバイオマーカーは、R〜Rでもあり得る。本発明のさらなるバイオマーカーは、
バイオマーカーQ=第2の比率R
バイオマーカーQ=第3の比率R
バイオマーカーQ=第4の比率R
バイオマーカーQ10=第5の比率R
バイオマーカーQ11=第6の比率R
バイオマーカーQ12=第7の比率R
として提供される。バイオマーカー(Q〜Q12)は、決定木数理モデルにより解析された結果、何れも90%以上の感受性と特異性を示している。後述する実施例に示すように、図7に挙げた項目を用いて解析した場合は、バイオマーカーQ〜Q12の少なくとも1つが条件(R<79.1%、R<69.3%、R<66.0%、R<66.6%、R<83.7%、およびR<74.3%)を満たした場合、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーQ〜Q12の全てが上記の条件を満たさない場合、「疲労なし」と評価される。
【0055】
後述する実施例にて示すように、cis−アコニット酸、イソクエン酸およびコハク酸は、健常者と患者とを区別する際に、他の因子と組み合わせることなく単独で利用可能である。このような非常に優れた機能は、当業者が予測し得ない、格別顕著なものである。
【0056】
上述したバイオマーカーによって得られた知見に基づけば、生体サンプル中のグルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸およびコハク酸の濃度の測定値自体もまた、疲労の診断基準/判定基準(例えば、疲労を診断または判定するためのデータ)を提供し得、被験者から得た生体サンプル中の代謝産物の濃度の測定値M〜Mもまたバイオマーカーとなり得る。すなわち、本発明のさらなるバイオマーカーは、
バイオマーカーQ7a=第2の測定値M
バイオマーカーQ8a=第3の測定値M
バイオマーカーQ9a=第4の測定値M
バイオマーカーQ10a=第5の測定値M
バイオマーカーQ11a=第6の測定値M
バイオマーカーQ12a=第7の測定値M
として提供される。バイオマーカー(Q7a〜Q12a)は、決定木数理モデルにより解析された結果、何れも90%以上の感受性と特異性を示している。特に、Q8a〜Q10aが好ましく、バイオマーカーQ8a〜Q10aの少なくとも1つがそれぞれに対応する閾値よりも小さいという条件を満たした場合、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーQ8a〜Q10aの全てが上記の条件を満たさない場合、「疲労なし」と評価されてもよい。バイオマーカーQ8a〜Q10aは、Q9aが優先して用いられることが好ましく、次いでQ8aが用いられ、さらにQ10aが用いられることが好ましい。これによって、被験者が慢性疲労症候群であるか否かを95%以上の確率で判定し得る。
【0057】
後述する実施例にて示すように、cis−アコニット酸、イソクエン酸およびコハク酸は、健常者と患者とを区別する際に、他の因子と組み合わせることなく単独で利用可能である。このような非常に優れた機能は、当業者が予測し得ない、格別顕著なものである。
【0058】
またさらに、本発明において、被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度(測定値M)と、クエン酸濃度(測定値M)と、cis−アコニット酸濃度(測定値M)と、イソクエン酸濃度(測定値M)と、コハク酸濃度(測定値M)とを比較することによって、本発明のバイオマーカーが得られる。第3実施形態において、本発明のバイオマーカーは、
バイオマーカーQ13=M/M
バイオマーカーQ14=M/M
バイオマーカーQ15=M/M
バイオマーカーQ16=M/M
バイオマーカーQ17=M/M
バイオマーカーQ18=M/M
として提供され、同様に用いられ得る。このような実施形態は、後述する実施例(例えば、図4)にて実証されている。図4に示すような、それぞれを3軸上に示した場合に、正常群と慢性疲労症候群とを差別化し得る。例えば、後述する実施例にて示すように、Q13〜Q15を用いて、
(a*Q13+b*Q14+c*Q15)+d ・・・(A)
の数値a,b,c,dを判別分析によって演算したところ、90%以上の正確さで慢性疲労症候群患者を判別し得た。ここで、d>0の場合が正常群を示し、d<0の場合が慢性疲労症候群を示す。また、判別分析の代りにPartial Least Square、Support Vector Machine等の分析を行った場合であっても、同様の結果を得られた。
【0059】
また、本実施形態において、イソクエン酸を、グルコース、クエン酸およびコハク酸とともに用いた場合、本発明のバイオマーカーは、
バイオマーカーQ13a=M/M
バイオマーカーQ14a=M/M
バイオマーカーQ15a=M/M
バイオマーカーQ16a=M/M
バイオマーカーQ17a=M/M
バイオマーカーQ18a=M/M
として同様に提供されかつ用いられ、図6に示すような、それぞれを3軸上に示した場合に、正常群と慢性疲労症候群とを差別化し得る。例えば、後述する実施例にて示すように、Q13a〜Q15aを用いて、
(a*Q13a+b*Q14a+c*Q15a)+d ・・・(A’)
の数値a,b,c,dを判別分析によって演算したところ、90%以上の正確さと95%以上の感受性/特異性で慢性疲労症候群患者を判別し得た。ここで、d>0の場合が正常群を示し、d<0の場合が慢性疲労症候群を示す。また、判別分析の代りにPartial Least Square、Support Vector Machine等の分析を行った場合であっても、同様の結果を得られた。
【0060】
なお、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸およびコハク酸が、健常者と患者とを区別する際に非常に有用な因子であることは、本発明を完成することによって十分に裏付けられた事実である。すなわち、これまでに知られていた知見に基づいて、健常者と患者との区別に利用可能な因子であることを見出すことは、当業者が容易になし得ることではなかった。
【0061】
このように、本発明のバイオマーカーは、客観的かつ簡便な、疲労の評価および診断を可能にする。さらに、本発明のバイオマーカーを用いれば、慢性疲労症候群の診断法および治療法を開発し得る。
【0062】
〔3〕本発明のバイオマーカーの利用
本発明は、上述したバイオマーカーに基づいた、疲労を評価するための方法、キットおよびシステムを提供する。
【0063】
〔3−1〕疲労評価方法
上述した第1実施形態におけるバイオマーカーQ〜Qのうち少なくとも2つ(またはバイオマーカーQ1a〜Q6aのうち少なくとも2つ)を用いることによって、被験者の疲労状態を評価することができる。例えば、バイオマーカーQおよびQ
=第1の比率R−第2の比率R
=第2の比率R−第3の比率R
として提供され、「疲労あり」の評価は
>0またはQ>0
として提供され、「疲労なし」の評価は
<0かつQ<0
として提供されるので、
=M/B
=M/B
=M/B
として得られた第1〜第3の比率(R〜R)に基づいてQおよびQを算出することによって、被験者の疲労状態が評価され得る。なお、QおよびQは少なくとも一方が正であればよいので、一方を算出するだけで被験者の疲労状態が評価され得る場合がある。すなわち、RとRを比較するか、またはRとRを比較するだけで、被験者の疲労状態が評価され得る場合がある。
【0064】
このような観点から、一実施形態において、本発明にかかる疲労評価方法は、(1)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値の、第1の基準値に対する第1の比率を得る工程、(2)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率を得る工程、および(3)被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率を得る工程、を包含し、第1の比率と第2の比率とを比較する工程、および第2の比率と第3の比率とを比較する工程の少なくとも一方をさらに包含することを特徴としている。本実施形態にかかる疲労評価方法は、(I)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(II)第2の比率が第3の比率よりも大きい、および(III)第1の比率が第3の比率よりも大きい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。
【0065】
なお、本発明にかかる疲労評価方法を用いることにより、疲労を評価し、治療法を提案し得るだけでなく、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)の判断基準を提供することができるので、疲労の状態であるか否かの診断が容易になる。すなわち、本発明にかかる疲労評価方法は、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)の診断基準または判定基準を提供する方法(例えば、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)を診断または判定するためのデータを取得する方法)でもあり得る。
【0066】
上述したように、バイオマーカーQもまた、被験者の疲労状態を評価するために有用である。バイオマーカーQ
バイオマーカーQ=第4の比率R−第3の比率R
として提供され、バイオマーカーQおよびQと組み合わせた「疲労あり」の評価は
>0、Q>0、またはQ>0
として提供され、バイオマーカーQおよびQと組み合わせた「疲労なし」の評価は
<0かつQ<0かつQ<0
として提供されるので、
=M/B
として得られた第4の比率(R)とすでに得られている第3の比率(R)とに基づいて算出したQを用いることによって、QおよびQを用いる場合と同様に、被験者の疲労状態が評価され得る。すなわち、本発明にかかる疲労評価方法は、(4)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率を得る工程をさらに包含してもよく、この場合、第1の比率と第4の比率とを比較する工程、第2の比率と第4の比率とを比較する工程、および、第3の比率と第4の比率とを比較する工程、の少なくとも1つをさらに包含することが好ましく、例えば、第2の比率の、第1の比率に対する比率、第3の比率の、第2の比率に対する比率、および第4の比率の、第3の比率に対する比率の少なくとも1つを用いて、判別分析、Partial Least Square、Support Vector Machine等の分析を行う工程をさらに包含することがより好ましい。
【0067】
本実施形態においてイソクエン酸に関する第4の比率Rが用いられる場合、上述したように、グルコースに関する第1の比率R、クエン酸に関する第2の比率R、およびコハク酸に関する第5の比率Rとともに用いられることが好ましい。すなわち、
バイオマーカーQ1a=第1の比率R−第2の比率R
バイオマーカーQ2a=第2の比率R−第4の比率R
バイオマーカーQ3a=第5の比率R−第4の比率R
として提供され、この場合の「疲労あり」の評価は
1a>0、Q2a>0、およびQ3a>0の中、少なくとも一つを満たすこと、
として提供され、「疲労なし」の評価は
1a<0かつQ2a<0かつQ3a<0
として提供されるので、
=M/B
=M/B
=M/B
=M/B
として得られた第1、第2、第4および第5の比率(R、R、RおよびR)に基づいてQ1a〜Q3aを算出することによって、被験者の疲労状態が評価され得る。なお、Q1a〜Q3aもまた少なくとも1つが正であればよいので、いずれか1つを算出するだけで被験者の疲労状態が評価され得る場合がある。
【0068】
このような観点から、好ましい実施形態において、本発明にかかる疲労評価方法は、(1)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値の、第1の基準値に対する第1の比率を得る工程、(2)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率を得る工程、(3)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率を得る工程、(4)被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率を得る工程、を少なくとも2つ包含し、第1の比率と第2の比率とを比較する工程、第2の比率と第4の比率とを比較する工程、および第4の比率と第5の比率とを比較する工程の少なくとも1つをさらに包含することを特徴としている。本実施形態にかかる疲労評価方法は、(I)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(II)第2の比率が第3の比率よりも大きい、(III)第4の比率が第3の比率よりも大きい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよく、(IV)第1の比率が第2の比率よりも大きい、(V)第2の比率が第4の比率よりも大きい、(VI)第4の比率が第5の比率よりも小さい、の少なくとも1つの条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。
【0069】
また、上述した第2実施形態におけるバイオマーカーQ〜Q12を用いることによって、慢性疲労症候群であるか否かを評価(診断または判定)することができる。上述したように、バイオマーカーQ〜Q12は、決定木数理モデルにより解析された結果、何れも90%以上の感受性と特異性を示している。被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値が基準値と実質的に等しい場合に、後述する実施例に示すように、図7に挙げた項目を用いて解析した場合は、バイオマーカーQ〜Q12の少なくとも1つが条件(R<79.1%、R<69.3%、R<66.0%、R<66.6%、R<83.7%、およびR<74.3%)を満たした場合、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーQ21〜Q26の全てが上記の条件を満たさない場合、「疲労なし」と評価される。
【0070】
このような観点から、好ましい実施形態において、本発明にかかる疲労評価方法は、(1)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値と、第1の基準値とを比較する工程を包含し、(2)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率を得る工程、(3)被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率を得る工程、(4)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率を得る工程、(5)被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率を得る工程、(6)被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度の測定値の、第6の基準値に対する第6の比率を得る工程、および(7)被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度の測定値の、第7の基準値に対する第7の比率を得る工程、の少なくとも1つをさらに包含することを特徴としている。工程(1)において、グルコース濃度の測定値と第1の基準値との間で実質的な差異がない場合に、本実施形態にかかる疲労評価方法は、(2)〜(7)において得られた比率が所定の割合よりも小さいという条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。なお、後述する実施例に示すように、図7に挙げた項目を用いて解析した場合は、上記所定の割合は、(2)〜(7)についてそれぞれ79.1%、69.3%、66.0%、66.6%、83.7%および74.3%である。これによって、被験者が慢性疲労症候群であるか否かを95%以上の確率で判定し得る。
【0071】
さらに、上述したバイオマーカーQ7a〜Q12aを用いることによって、慢性疲労症候群であるか否かを評価(診断または判定)することができる。上述したように、バイオマーカーQ7a〜Q12aは、決定木数理モデルにより解析された結果、何れも90%以上の感受性と特異性を示している。特に、Q8a〜Q10aを用いることが好ましく、バイオマーカーQ8a〜Q10aの少なくとも1つがそれぞれに対応する閾値よりも小さいという条件を満たした場合、「疲労あり」と評価され、バイオマーカーQ8a〜Q10aの全てが上記の条件を満たさない場合、「疲労なし」と評価されてもよい。
【0072】
このような観点から、好ましい実施形態において、本発明にかかる疲労評価方法は、(1’)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値と、第1の閾値とを比較する工程を包含し、(2’)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値と、第2の閾値とを比較する工程、(3’)被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値と、第3の閾値とを比較する工程、(4’)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値と、第4の閾値とを比較する工程、(5’)被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値と、第5の閾値とを比較する工程、(6’)被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度の測定値の、第6の閾値とを比較する工程、および(7’)被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度の測定値の、第7の閾値とを比較する工程、の少なくとも1つをさらに包含することを特徴としており、好ましくは、上記(3’)〜(5’)の工程の少なくとも1つを包含し、少なくとも(5’)の工程を包含することがより好ましく、(5’)の工程の次に(4’)の工程を行うことがより好ましく、引き続いて(3’)の工程を行うことがさらに好ましい。本実施形態にかかる疲労評価方法は、(1’)〜(7’)において、測定値が対応する閾値よりも小さいという条件が成立するか否かを判定する工程をさらに包含してもよい。これによって、被験者が慢性疲労症候群であるか否かを95%以上の確率で判定し得る。
【0073】
また、上述した第3実施形態におけるバイオマーカーQ13〜Q18の少なくとも1つ(またはバイオマーカーQ13a〜Q18aのうち少なくとも1つ)を用いて、判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machine等の分析を行うことによって、基準値を用いることなく、慢性疲労症候群であるか否かを評価(診断または判定)することができる。例えば、バイオマーカーQ13〜Q18のいずれか3つ(例えば、Q13〜Q15)を判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machine等の分析に供することによって、より高度な判別を行い得る。特に、代表的な判別解析を行い、上述したように、式(B)
(a*M/M+b*M/M+c*M/M)+d ・・・(B)
にM〜Mの全てを入力して得られた結果に基づいて慢性疲労症候群であるか否かを判定することが好ましい。また、バイオマーカーQ13a〜Q18aのいずれか3つ(例えば、Q13a〜Q15a)を判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machine等の分析に供することによって、より高度な判別を行い得る。特に、代表的な判別解析を行い、上述したように、式(B’)
(a*M2a/M1a+b*M4a/M2a+c*M5a/M4a)+d ・・・(B’)
にM1a、M2a、M4aおよびM5aの全てを入力して得られた結果に基づいて慢性疲労症候群であるか否かを判定することが好ましい。
【0074】
このような観点から、好ましい実施形態において、本発明にかかる疲労評価方法は、(1)被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値を得る工程、(2)被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値を得る工程、(3)被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値を得る工程、(4)被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値を得る工程、および(5)被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値を得る工程、を少なくとも3つ包含することを特徴としており、得られた測定値を分析する工程をさらに包含することが好ましい。
【0075】
本発明にかかる疲労評価方法を、本発明のバイオマーカーの第1実施形態および第2実施形態に従って説明したが、本発明にかかる疲労評価方法はこれらに限定されず、例えば、基準値を用いずに、被験者から得た生体サンプル中の、グルコース濃度の測定値、クエン酸濃度の測定値、および、cis−アコニット酸濃度の測定値(必要に応じて、イソクエン酸濃度の測定値、リンゴ酸濃度の測定値、および乳酸濃度の測定値)を用いて疲労を評価する方法や、被験者から得た生体サンプル中の測定値と、それぞれの基準値とを比較して疲労を評価する方法もまた、本発明にかかる疲労評価方法の範囲内であることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0076】
本発明にかかる疲労評価方法は、被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度、クエン酸濃度およびcis−アコニット酸濃度を測定する工程をさらに包含してもよく、必要に応じて、イソクエン酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度を測定する工程をさらに包含してもよい。すなわち、本発明にかかる疲労評価方法は、予め測定されたグルコース濃度、クエン酸濃度およびcis−アコニット酸濃度(および必要に応じてイソクエン酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度)に基づいて実行されてもよく、グルコース濃度、クエン酸濃度およびcis−アコニット酸濃度(および必要に応じてイソクエン酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度)を被験者から得た生体サンプルから測定する段階から開始されてもよい。
【0077】
本発明にかかる疲労評価方法において、第1〜第3の基準値が、それぞれ、複数の健常者から得た生体サンプル中の平均グルコース濃度、平均クエン酸濃度および平均cis−アコニット酸濃度であることが好ましいが、平均値に限定されず、二項分布等から得られる最頻値であってもよい。もちろん、第4〜第7の基準値についてもまた、複数の健常者から得た生体サンプル中の平均イソクエン酸濃度、平均コハク酸濃度、平均リンゴ酸濃度および平均乳酸濃度であることが好ましいが、平均値に限定されず、二項分布等から得られる最頻値であってもよい。また、これらの値は、予め規定された値であっても、被験者からのサンプリングと同時に健常者のサンプリングを行い、得られた生体サンプル中の各代謝物質の濃度に基づいて算出された値であってもよい。
【0078】
本発明を実行するに際し、生体サンプル中の代謝物質の濃度(グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度)を測定する必要がある。当該分野において、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸または乳酸を基質とする酵素反応がよく知られている。このことは、このような技術を用いた測定キットが市販されていることからも明らかである。すなわち、当業者は、このような種々の技術を任意に利用して、生体サンプル中の代謝物質の濃度測定を首尾よく行い得る。
【0079】
〔3−2〕疲労評価キット
上述したような疲労評価方法を実施するために用いられる試薬を併せ持つキットもまた、本発明の範囲内である。すなわち、本発明にかかる第1のキットは、疲労を評価するために、コハク酸濃度を測定するための第5の試薬を備えていることを特徴としており、必要に応じて、イソクエン酸濃度を測定するための第4の試薬をさらに備えていてもよく、さらに、グルコース濃度を測定するための第1の試薬、クエン酸濃度を測定するための第2の試薬、cis−アコニット酸濃度を測定するための第3の試薬、リンゴ酸濃度を測定するための第6の試薬、および、乳酸濃度を測定するための第7の試薬からなる群より選択される試薬の少なくとも1つをさらに備えていてもよい。
【0080】
第1のキットは、コハク酸の濃度の基準値が表示された指示書をさらに備えていることが好ましく、必要に応じて、該指示書には、イソクエン酸、さらにはcis−アコニット酸、なおさらにはグルコース、クエン酸、リンゴ酸および乳酸の濃度の基準値が表示されていてもよい。
【0081】
当該分野において、当該分野において、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸または乳酸を基質とする酵素反応がよく知られている。すなわち、当業者は、このような種々の技術を任意に利用して、生体サンプル中の濃度測定を首尾よく行い得る。例えば、第1の試薬は、グルコースを基質とする酵素Glucose oxidase,peroxidaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬として酸化還元反応によって発色するもの(例えばo−Dianisidine)が本発明のキットに備えられていればよく、第2の試薬は、クエン酸を基質とする酵素Citrate Lyase,Malic dehydrogenaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬としてβ−NADHが本発明のキットに備えられていることが好ましく、第3の試薬は、cis−アコニット酸を基質とする酵素Aconitase,Citrate Lyaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬としてβ−NADH,phenylhydrazineが本発明のキットに備えられていることが好ましく、第4の試薬は、イソクエン酸を基質とする酵素Isocitrate Lyaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬としてphenylhydrazineが本発明のキットに備えられていることが好ましい。さらに、第5の試薬は、コハク酸を基質とする酵素Succinyl CoA Synthetase、Pyruvate Kinase、Lactate Dehydrogenaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬としてβ−NADHが本発明のキットに備えられていることが好ましく、第6の試薬は、リンゴ酸を基質とする酵素Malate Dehydrogenaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬としてNAD+が本発明のキットに備えられていることが好ましく、第7の試薬は、乳酸を基質とする酵素Lactate Dehydrogenase、Glutamic Pyruvic Transaminaseであってもよく、その場合、好適な発色試薬としてNAD+が本発明のキットに備えられていることが好ましい。
【0082】
また、上述したような疲労評価方法によって得られるバイオマーカーQ〜Qを、目視にて検出する構成を有するキットもまた、本発明の範囲内である。すなわち、本発明にかかる第2のキットは、疲労を評価するために、第5の比率を示す第5呈示部を備えていることを特徴としており、第4の比率を示す第4呈示部をさらに備えていてもよく、さらに、第1の比率を示す第1呈示部、第2の比率を示す第2呈示部、第3の比率を示す第3呈示部、第6の比率を示す第6呈示部、および、第7の比率を示す第7呈示部からなる群より選択される呈示部の少なくとも1つ、をさらに備えていてもよい。本発明にかかる第2のキットは、第1〜第7呈示部がそれぞれ設けられた別個の部材を備えていてもよく、第1〜第7呈示部の全て設けられた単一部材を備えていてもよい。
【0083】
第2のキットにおける第1〜第7呈示部はそれぞれ、測定値に応じて目視可能な色調を呈示する構成を有していることが好ましく、呈示された色調と比較されるべき参照が記載された指示書をさらに備えていることが好ましい。第1呈示部ではRに基づいて第1色Cが呈示され、第2呈示部ではRに基づいて第2色Cが呈示され、CおよびCならびに参照を比較することによって、バイオマーカーQ(すなわち、CとCとの差異に基づく値)を得ることができる。また、第3呈示部ではRに基づいて第3色Cが呈示され、CおよびCならびに参照を比較することによって、バイオマーカーQ(すなわち、CとCとの差異に基づく値)を得ることができる。このように、本発明にかかる第2のキットを用いて得られたバイオマーカー(QおよびQ)を利用して、被験者の疲労状態を評価することができる。また、必要に応じて、第4呈示部ではRに基づいて第4色Cが呈示され、CおよびCならびに参照を比較することによって、バイオマーカーQ(すなわち、CとCとの差異に基づく値)を得ることができるので、バイオマーカーQをバイオマーカーQおよびバイオマーカーQとともに利用することもできる。本願明細書を読んだ当業者は、第5呈示部〜第7呈示部を同様に設けて利用することができる。このような第1〜第7呈示部には、グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸を基質とした酵素を利用した酵素−発色法を利用することができる。
【0084】
本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図されるが、組成物としての一物質中に材料を含有している形態もまた、用語「キット」に包含される。キットは、各材料を使用するための指示書を備えていることが好ましい。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であり得、溶液形態の場合は容器中に内包されていてもよい。本発明に係るキットは、その複数の構成要素を同一の容器に混合して備えていても別々の容器に備えていてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明に係るキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本発明に係るキットは、生体サンプルを採取するために必要な器具および試薬を備えていてもよい。また、本発明に係るキットは、生体サンプルから目的の調製物を調製するために必要な器具および試薬を備えていてもよい。
【0085】
上記構成を有することによって、本発明にかかるキットは、実際の医療現場にて簡便に使用することができるので、疲労をより速く、安く、客観的な診断を提供し得る。
【0086】
なお、本発明にかかるキットを用いれば、疲労を評価し、治療法を提案し得るだけでなく、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)の判断基準を提供することができるので、疲労の状態であるか否かの診断が容易になる。すなわち、本発明にかかるキットは、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)の診断基準または判定基準を提供するためのキット(例えば、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)を診断または判定するためのデータを取得するためのキット)でもあり得る。
【0087】
〔3−3〕疲労評価システム
上述したような疲労評価方法を実行するために用いられるシステムもまた、本発明の範囲内である。下記実施形態では、本発明に係る疲労評価システムを構成する各部材が、「CPUなどの演算手段がROMやRAMなどの記録媒体に格納されたプログラムコードを実行することによって実現される機能ブロックである」場合を例にして説明するが、同様の処理を行うハードウェアによって実現してもよい。また、処理の一部を行うハードウェアと、当該ハードウェアの制御や残余の処理を行うプログラムコードを実行する上記演算手段とを組み合わせて実現することもできる。さらに、上記各部材のうち、ハードウェアとして説明した部材であっても、処理の一部を行うハードウェアと、当該ハードウェアの制御や残余の処理を行うプログラムコードを実行する上記演算手段とを組み合わせて実現することもできる。なお、上記演算手段は、単体であってもよいし、装置内部のバスや種々の通信路を介して接続された複数の演算手段が共同してプログラムコードを実行してもよい。
【0088】
本発明にかかる疲労評価システムは、その機能ブロックとして、測定部11、格納部12、CPU13、および表示部14を備えている。測定部11は、グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度を測定する測定部11a〜11gとしての機能を有しており、格納部12は、グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度の測定値M〜Mを受容する測定値受容部12a、およびグルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度の基準値B〜Bを格納した基準値格納部12bとしての機能を有しており、CPU13は、疲労を評価するための情報を生成する演算部13a、および演算部13aからの評価情報を受け取って疲労を評価する評価部13bとしての機能を有しており、表示部14は、評価部13bによる評価結果を表示する評価結果表示部14としての機能を有している。なお、この機能ブロックは、CPU13が格納部12に格納されたプログラムを実行し、図示しない入出力回路などの周辺回路を制御することによって実現される。
【0089】
第1実施形態にかかる疲労評価システムでは、グルコースについて以下のステップ11〜16が実行される。測定部11aがサンプル中のグルコース濃度を測定し、グルコース濃度測定値Mを取得する(S11)。測定部11aが、取得したグルコース濃度測定値Mを測定値受容部12aへ出力する(S12)。演算部13aが、測定値受容部12aに格納されたグルコース濃度測定値Mを読み出す(S13)。また、演算部13aが、基準値格納部12bに格納されたグルコース濃度基準値(第1の基準値)Bを読み出す(S14)。演算部13aが、MのBに対する比率(第1の比率)Rを算出する(S15)。演算部13aが、第1の比率Rを評価部13bへ出力する(S16)。
【0090】
第1実施形態にかかる疲労評価システムでは、クエン酸について、上記ステップ11〜16にそれぞれ対応するステップ21〜26が実行されて、演算部13aが、第2の比率Rを評価部13bへ出力し、cis−アコニット酸について、上記ステップ11〜16にそれぞれ対応するステップ31〜36が実行されて、演算部13aが、第3の比率Rを評価部13bへ出力し、イソクエン酸について、上記ステップ11〜16にそれぞれ対応するステップ41〜46が実行されて、演算部13aが、第4の比率Rを評価部13bへ出力する。
【0091】
続いて、評価部13bは、演算部13aによって出力された第1〜第4の比率R〜Rを受け取り、第1の比率Rを第2の比率Rとを比較する(S51)。評価部13bは、第1の比率Rが第2の比率Rよりも大きい(R>R)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S52)。評価部13bは、第1の比率Rが第2の比率Rよりも小さい(R<R)と判定した場合に、第2の比率Rを第3の比率Rとを比較する(S53)。評価部13bは、第2の比率Rが第3の比率Rよりも大きい(R>R)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S54)。評価部13bは、第2の比率Rが第3の比率Rよりも小さい(R<R)と判定した場合に、第3の比率Rを第4の比率Rとを比較する(S55)。評価部13bは、第4の比率Rが第3の比率Rよりも大きい(R>R)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S56)。評価部13bは、第4の比率Rが第3の比率Rよりも小さい(R<R)と判定した場合に、「疲労なし」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S57)。
【0092】
このような第1実施形態においては、ステップ41〜46が実行されてもされなくてもよく、Rが疲労の評価に用いられなくてもよい。この場合、ステップ54の後に、評価部13bは、第2の比率Rが第3の比率Rよりも小さい(R<R)と判定した場合に、「疲労なし」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力すればよい(S58)。
【0093】
上述したステップ51〜58については、RとRとの比較を優先的に行う態様を例に挙げて説明したが、RとRとの比較、あるいはRとRとの比較を優先的に行ってもよい。また、4つのステップ群(すなわち、ステップ11〜16、ステップ21〜26、ステップ31〜36、およびステップ41〜46)が同時に実行されることによって、R〜Rの全てが取得されている場合を例に説明したが、R〜Rの取得は同時に行われなくてもよい。また、グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度およびイソクエン酸濃度を例に挙げて本実施形態を説明したが、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度を用いる場合も同様の処理が行われる。
【0094】
本発明にかかる疲労評価システムにおいて、R〜Rの差を用いて疲労を評価するよりもむしろ以下の処理が優先して実行されてもよい(第2実施形態)。第2実施形態において、格納部12は、測定値受容部12a、基準値格納部12b、ならびにグルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度の参照値t〜tを格納した参照値格納部12cとしての機能を有している。演算部13aは、第1の比率Rを評価部13bへ出力する(S16)とともに、測定値受容部12cに格納されたグルコース濃度の参照値(第1の参照値)tを読み出して、評価部13bへ出力する(S116)。評価部13bは、第1の比率Rおよび第1の参照値tを受け取り、両者を比較する(S150)。評価部13bは、第1の比率Rが第1の参照値tとほぼ等しい(R≒t)と判定した場合に、引き続いて、評価部13bは、第5の比率Rおよび第5の参照値tを受け取り、両者を比較する(S151)。評価部13bは、第5の比率Rが第5の参照値tよりも小さい(R<t)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S152)。評価部13bは、第5の比率Rが第5の参照値tよりも大きい(R≧t)と判定した場合に、引き続いて、評価部13bは、第4の比率Rおよび第4の参照値tを受け取り、両者を比較する(S153)。評価部13bは、第4の比率Rが第4の参照値tよりも小さい(R<t)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S154)。評価部13bは、第4の比率Rが第4の参照値tよりも大きい(R≧t)と判定した場合に、引き続いて、評価部13bは、第3の比率Rおよび第3の参照値tを受け取り、両者を比較する(S155)。評価部13bは、第3の比率Rが第3の参照値tよりも小さい(R<t)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S156)。評価部13bは、第3の比率Rが第3の参照値tよりも大きい(R≧t)と判定した場合に、「疲労なし」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する(S157)。コハク酸濃度、イソクエン酸濃度およびcis−アコニット酸濃度を例に挙げて本実施形態を説明したが、グルコース濃度、クエン酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度をさらに用いる場合も同様の処理が行われる。もちろん、確率の高いcis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度および/またはコハク酸濃度のみに基づいて疲労が評価され得る。
【0095】
本発明にかかる疲労評価システムにおいて、以下の処理が優先して実行されてもよい。本実施形態において、格納部12は、測定値受容部12a、基準値格納部12b、ならびにグルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度の閾値T〜Tを格納した閾値格納部12dとしての機能を有している。演算部13aは、第5の測定値Mを評価部13bへ出力するとともに、測定値受容部12dに格納されたコハク酸濃度の閾値(第5の閾値)Tを読み出して、評価部13bへ出力する。評価部13bは、第5の測定値Mおよび第5の閾値Tを受け取り、両者を比較する。評価部13bは、第5の測定値Mが第5の閾値Tよりも小さい(M<T)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する。評価部13bは、第5の測定値Mが第5の閾値Tよりも大きい(M≧T)と判定した場合に、引き続いて、評価部13bは、第4の測定値Mおよび第4の閾値Tを受け取り、両者を比較する。評価部13bは、第4の測定値Mが第4の閾値Tよりも小さい(M<T)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する。評価部13bは、第4の測定値Mが第4の閾値Tよりも大きい(M≧T)と判定した場合に、引き続いて、評価部13bは、第3の測定値Mおよび第3の閾値Tを受け取り、両者を比較する。評価部13bは、第3の測定値Mが第3の閾値Tよりも小さい(M<T)と判定した場合に、「疲労あり」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する。評価部13bは、第3の測定値Mが第3の閾値Tよりも大きい(M≧T)と判定した場合に、「疲労なし」と評価して、その評価結果を評価結果表示部14へ出力する。
【0096】
また、基準値格納部12bが存在しない場合、あるいは基準値格納部12bに第1〜7の基準値B〜Bが格納されていない場合もまた、本発明にかかる疲労評価システムは、疲労の有無を評価し得る(第3実施形態)。演算部13aは測定値受容部12aに格納された測定値M〜Mを読み出すとともに評価部13bへ出力する。演算部13aは測定値受容部12aに格納された測定値M〜Mを読み出すとともに評価部13bへ出力する。続いて、評価部13bは、演算部13aによって出力された第1〜第7の測定値M〜Mを受け取り、M〜M7の大小を比較する(S61)。例えば、評価部13bは、受け取ったM〜Mから得られるM/M、M/M、M/M、M/M、M/M、M/Mの値を再度演算部13aへ出力する(S62)。演算部13aでは、例えば、入力されたM/M、M/M、M/Mの値を用いた分析(例えば、判別分析、Partial Least Square、Support Vector Machine等)を実行する(S63)。演算部13aから出力された分析結果を受容した評価部13bは、カットオフ値に基づいて慢性疲労症候群患者であるか否かの判別結果を評価結果表示部14へ出力する(S64)。グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度およびイソクエン酸濃度を例に挙げて本実施形態を説明したが、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度をさらに用いる場合も同様の処理が行われる。
【0097】
グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度を測定部11が測定し、測定部11にて得られた値が測定値受容部12aに入力される態様を用いて、本発明を説明したが、予め取得されたグルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度が、直接測定値受容部12aに入力される態様であってもよく、この場合は、本発明にかかる疲労評価システムは、測定部11を備えていなくてもよい。
【0098】
なお、本発明にかかるシステムを用いれば、疲労を評価し、治療法を提案し得るだけでなく、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)の判断基準を提供することができるので、疲労の状態であるか否かの診断が容易になる。すなわち、本発明にかかるシステムは、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)の診断基準または判定基準を提供するためのシステム(例えば、疲労(慢性疲労、慢性疲労症候群を含む。)を診断または判定するためのデータを取得するためのシステム)でもあり得る。
【0099】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0100】
健常者20名(男女比=1:1、平均年齢=36.10歳;大阪市立大学附属病院から提供)、慢性疲労症候群20名(男女比=1:1、平均年齢=36.15歳;大阪市立大学附属病院から提供)を対象とした。血漿中の代謝物の測定には、キャピラリー電気泳動−質量分析器が用いられた。血糖値の測定には、Glucose analysis kit II(Biovision)を用いた。統計解析には、SPSS 17.0およびAmos 18.0を用いた有意差検定、相関検定、およびパス解析を採用した。
【0101】
健常者および慢性疲労症候群(CFS)の患者から採取した血液から血漿サンプルを調製した。前処理した血漿サンプル中の代謝物質の測定を、慶応義塾大学先端生命科学研究所に依頼した。その結果、分岐鎖アミノ酸を含む代謝物の大多数において、健常者とCFS患者との間に量的な差異を見出せなかったが、いくつかの代謝物の量が、CFS患者群にて有意に低下していることを見出した。図1には、健常者とCFS患者との間に量的な差異が見られた、解糖系およびクエン酸回路を形成する代謝物を挙げた。
【0102】
次いで、疲労の有無に対応して血漿中の量が有意に変動した代謝物質と、パフォーマンス・ステイタス(PS)と相関を調べた。PSは、疲労の主観的重症度の尺度であり、数値が高いほど重症であることを示す。結果を図2に示す。調べた代謝物質のうちのいくつかが、PSと有意な相関を示すことがわかった。
【0103】
さらに、疲労の有無に基づいて血漿中における量が有意に変動し、かつPSと有意な相関を示した代謝物質について、因果関係を予想するパス解析にて詳細に解析した。なお、これまでの結果に基づいてCFSの患者における解糖系およびクエン酸回路に異常が生じていることを推測し、同一サンプルにおける血糖値を別途測定し、同様にパス解析に供した。その結果、調べた代謝物のうちの3種類(グルコース、クエン酸、cis−アコニット酸)の血漿中の量に基づいてCFS患者を健常者と識別し得ることがわかった(図3)。図3は、健常者とCFS患者との間での代謝物の比較を示す。図中、健常者における平均値を100としている。また、さらにもう1種類(イソクエン酸)の血漿中の量を用いれば、CFS患者を健常者とより判別しやすくなることがわかった(図3)。
【0104】
また、判別分析に基づいて、これらの代謝物の測定値を用いて、クエン酸/グルコース比率、cis−アコニット酸/クエン酸比率、イソクエン酸/cis−アコニット酸比率を3軸にて同時に評価することによって、正常群と慢性疲労症候群患者をほぼ完全に分けることに成功した(図4)。図3に示されたクエン酸/グルコースの勾配およびcis−アコニット酸/クエン酸の勾配と比較して、イソクエン酸/cis−アコニット酸の勾配が緩やかであることから、正常群と慢性疲労症候群患者との判別には、イソクエン酸が他の3つの代謝物よりも重要でないかもしれないと考えられたが、図4に示された結果は、このような予測を大きく超えていた。なお、この解析は、判別分析だけでなくPartial Least Square、Support Vector Machineなどを用いた場合であっても、90%以上の正確さでCFS患者を判別し得ることがわかった(データは示さず)。
【0105】
さらなる代謝物についても調べたところ、コハク酸もまた、血漿中の量に基づいてCFS患者を健常者と識別するに有用であることがわかった(図5)。cis−アコニット酸は不安定であるのでサンプル中の濃度の測定が容易でないが、サンプル中のコハク酸の濃度を用いれば本発明の実行をより簡便に行うことができる。また、判別分析の結果、クエン酸/グルコース比率、イソクエン酸/クエン酸比率、コハク酸/イソクエン酸比率を3軸にて同時に評価することによって、正常群と慢性疲労症候群患者をほぼ完全に分けることに成功した(図6)。なお、この解析もまた、判別分析だけでなくPartial Least Square、Support Vector Machineなどを用いた場合であっても、90%以上の正確さでCFS患者を判別し得ることがわかった(データは示さず)。
【0106】
血漿サンプル中の代謝物質の測定値を解析ソフトR(フリーソフト、バージョン2.11.1)に入力してランダムフォレスト(Random Forest)プログラムを実行した。Random Forestは識別、回帰、クラスタリングに用いられるアルゴリズムである。図7に示すように、健常者と慢性疲労患者とを分類する際に、複数の測定項目の中で、イソクエン酸、コハク酸およびCis−アコニット酸が非常に重要であること、そして、イソクエン酸、コハク酸およびCis−アコニット酸のいずれかの1つを測定することによって被験者が慢性疲労症候群であるか否かを判定し得ることがわかった。
【0107】
血漿サンプル中の代謝物質(図7に挙げた化合物)の測定値を解析ソフトRに入力して樹木モデル(tree-based model)プログラムを実行した。このプログラムは、決定理論の分野において、計画を立案して目標に到達するために用いられる。表1に示すように、健常者と慢性疲労患者とを分類する際に、複数の測定項目の中で、コハク酸が最も重要な因子であること、そして、コハク酸測定値が閾値T2(14.56μM)よりも低くなると、被験者が慢性疲労症候群であると95%の確率で判定し得ることがわかった。次いで、コハク酸測定値を除く残りの測定値を解析ソフトRに入力して樹木モデルプログラムを実行した。その結果、表1に示すように、健常者と慢性疲労患者とを分類する際に、コハク酸を除く複数の測定項目の中で、イソクエン酸が最も重要な因子であること、そして、イソクエン酸測定値が閾値T1(7.46μM)よりも低くなると、被験者が慢性疲労症候群であると95%の確率で判定し得ることがわかった。さらに、コハク酸測定値およびイソクエン酸測定値を除く残りの測定値を解析ソフトRに入力して樹木モデルプログラムを実行した。
その結果、表1に示すように、健常者と慢性疲労患者とを分類する際に、コハク酸およびイソクエン酸を除く複数の測定項目の中で、cis−アコニット酸が最も重要な因子であること、そして、cis−アコニット酸測定値が閾値T3(10.66μM)よりも低くなると、被験者が慢性疲労症候群であると95%の確率で判定し得ることがわかった。
【0108】
コハク酸測定値、イソクエン酸測定値およびcis−アコニット酸測定値を除く残りの測定値を解析ソフトRに入力して樹木モデルプログラムを実行した場合は、被験者が慢性疲労症候群であると判定する確率が80%を下回った。リンゴ酸をグルタミン酸およびイソロイシンとともに測定することによって、被験者が慢性疲労症候群であると判定し得る確率が95%以上になり、乳酸をクエン酸およびクレアチンとともに測定することによって、被験者が慢性疲労症候群であると判定し得る確率が95%以上になる。しかし、複数の物質の血漿中の量を測定することが必要になるので、あまり好ましくないといえる。
【0109】
このように、被験者の血漿中のイソクエン酸、コハク酸およびcis−アコニット酸のいずれか1つを測定することによって、被験者が慢性疲労症候群であると95%の確率で判定し得ることがわかった。特に、コハク酸が最も重要であり、次いで、イソクエン酸、cis−アコニット酸の順に重要であるので、単一の代謝物を用いて慢性疲労症候群の判定を行う場合は、コハク酸の測定を行うことが最も好ましく、複数の代謝物を用いて慢性疲労症候群の判定を行う場合は、コハク酸、イソクエン酸の順、あるいはコハク酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸の順に測定を行うことが最も好ましい。
【0110】
なお、測定値を得る方法が異なることによって算出される閾値が異なる可能性がある。この可能性を考慮して、t1、t2、t3のいずれかが最小値よりも小さいという条件を満たす場合に慢性疲労症候群であると判定することが好ましい。なお、本実施例におけるt1〜t3はそれぞれ、被験者からのイソクエン酸、コハク酸およびcis−アコニット酸の測定値と、イソクエン酸、コハク酸およびcis−アコニット酸の健常者の平均値との比率(%)を示す。また、参照値は「t=(閾値T/健常者の平均値)×100%」によって得られる値であり、本実施例にて用いた解析対象化合物および解析ソフトウエアにおいて、イソクエン酸、コハク酸およびcis−アコニット酸に関する参照値はそれぞれ66.0%、66.6%および69.3%である。
【0111】
【表1】

【0112】
本発明を用いれば、簡便なキットでの疲労診断が可能になる。さらに、本発明を用いた診断結果に基づいて、効果的な治療法を見出す可能性がある。例えば、強い疲労感や長期にわたる疲労感を訴える患者に対して、本発明を適用することによって、疲労度の客観的評価ができ、さらには慢性疲労症候群か否かの判別ができる。本発明による疲労度の評価は、疲労に関する高度な知識を必要としないので、一般の医療施設においても実施可能である。また、本発明を用いれば、生体内のエネルギー(ATP)産生代謝系のどの部分に異常があるかを推測することができるので、患者の生活指導に活かせるだけでなく、原因と考えられる代謝系を促進する食薬、あるいは代謝異常下であってもエネルギー産生を促進できる食薬を提供することが可能となる。
【0113】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明を用いれば、疲労の評価および診断を客観的かつ簡便に行うことが可能となる。本発明はさらに、疲労の治療に有用な技術を提供し得る。疲労は、非常に重大な健康問題であるので、疲労の評価、診断および治療が実現することは、あらゆる産業にわたって大いに貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の測定値の、第1の基準値に対する第1の比率を得る工程、
被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率を得る工程、
被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率を得る工程、
被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率を得る工程、
被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率を得る工程、
被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度の測定値の、第6の基準値に対する第6の比率を得る工程、および
被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度の測定値の、第7の基準値に対する第7の比率を得る工程
からなる群より選択される少なくとも2つの工程を包含する、疲労を評価する方法。
【請求項2】
上記少なくとも2つの工程によって得られた少なくとも2つの比率において、少なくとも一対を比較する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第1の比率を得る工程、上記第2の比率を得る工程、上記第3の比率を得る工程、上記第4の比率を得る工程、および上記第5の比率を得る工程からなる群より選択される少なくとも2つの工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1の比率を得る工程、ならびに、第2の比率を得る工程〜第7の比率を得る工程からなる群より選択される少なくとも1つの工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第2の比率〜第7の比率について、得られた比率を該比率に対応する閾値と比較する工程をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第3の比率を得る工程〜第5の比率を得る工程の少なくとも1つを包含する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
上記第4の比率を得る工程が、上記第5の比率を得る工程に引き続いて行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記第3の比率を得る工程が、第4の比率を得る工程に引き続いて行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1の比率が実質的に1である場合に行われる、請求項4〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
被験者から得た生体サンプル中のグルコース濃度の第1の測定値と第1の閾値とを比較する工程、
被験者から得た生体サンプル中のクエン酸濃度の第2の測定値と第2の閾値とを比較する工程、
被験者から得た生体サンプル中のcis−アコニット酸濃度の第3の測定値と第3の閾値とを比較する工程、
被験者から得た生体サンプル中のイソクエン酸濃度の第4の測定値と第4の閾値とを比較する工程、
被験者から得た生体サンプル中のコハク酸濃度の第5の測定値と第5の閾値とを比較する工程、
被験者から得た生体サンプル中のリンゴ酸濃度の第6の測定値の第6の閾値とを比較する工程、および
被験者から得た生体サンプル中の乳酸濃度の第7の測定値の第7の閾値とを比較する工程
の少なくとも1つを包含する、疲労を評価する方法。
【請求項11】
第3の測定値と第3の閾値とを比較する工程、
第4の測定値と第4の閾値とを比較する工程、および
第5の測定値と第5の閾値とを比較する工程
の少なくとも1つを包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記第4の測定値と第4の閾値とを比較する工程が、上記第5の測定値と第5の閾値とを比較する工程に引き続いて行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記第3の測定値と第3の閾値とを比較する工程が、第5の測定値と第5の閾値とを比較する工程に引き続いて行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
被験者から得た生体サンプル中の、グルコース濃度の測定値、クエン酸濃度の測定値、cis−アコニット酸濃度の測定値、イソクエン酸濃度の測定値、およびコハク酸濃度の測定値からなる群より選択される少なくとも2つにおいて、少なくとも一対の比率を得る工程を包含する、疲労を評価する方法。
【請求項15】
上記得られた少なくとも一対の比率を、判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machineの分析に供する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
コハク酸濃度を測定するための第5の試薬を備えている、疲労を評価するためのキット。
【請求項17】
イソクエン酸濃度を測定するための第4の試薬をさらに備えている、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
グルコース濃度を測定するための第1の試薬、
クエン酸濃度を測定するための第2の試薬、
cis−アコニット酸濃度を測定するための第3の試薬、
リンゴ酸濃度を測定するための第6の試薬、および
乳酸濃度を測定するための第7の試薬
の少なくとも1つをさらに備えている、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
コハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率を示す第5呈示部を備えている、疲労を評価するためのキット。
【請求項20】
イソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率を示す第4呈示部をさらに備えている、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
グルコース濃度の測定値の、第1の基準値に対する第1の比率を示す第1呈示部、
クエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率を示す第2呈示部、
cis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率を示す第3呈示部、
リンゴ酸濃度の測定値の、第6の基準値に対する第6の比率を示す第6呈示部、および
乳酸濃度の測定値の、第7の基準値に対する第7の比率を示す第7呈示部
の少なくとも1つをさらに備えている、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度の測定値からなる群より選択される少なくとも2つの測定値を受容する測定値受容部、
グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度のそれぞれに対応する第1〜第7の基準値からなる群より選択される少なくとも2つの基準値を格納した基準値格納部、
測定値受容部からの測定値と基準値格納部からの基準値を受け取って、疲労を評価するための情報を生成する演算部、および
演算部からの評価情報を受け取って、疲労を評価する評価部
を備えた疲労評価システムであって、
演算部が、
グルコース濃度の測定値の、第1の基準値に対する第1の比率、
クエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率、
cis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率、
イソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率、
コハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率、
リンゴ酸濃度の測定値の、第6の基準値に対する第6の比率、および
乳酸濃度の測定値の、第7の基準値に対する第7の比率
からなる群より選択される少なくとも2つの比率を算出する、疲労評価システム。
【請求項23】
上記演算部が、上記少なくとも2つの比率において、少なくとも一対の比較を実行する、請求項22に記載の疲労評価システム。
【請求項24】
上記測定値受容部が、グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度およびコハク酸濃度の測定値からなる群より選択される少なくとも2つの測定値を受容し、
上記基準値格納部が、グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度およびコハク酸濃度のそれぞれに対応する第1〜第5の基準値からなる群より選択される少なくとも2つの基準値を格納し、
上記演算部が、
グルコース濃度の測定値の、第1の基準値に対する第1の比率、
クエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率、
cis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率、
イソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率、および
コハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率
からなる群より選択される少なくとも2つの比率をさらに算出し、
上記少なくとも2つの比率において、少なくとも一対の比較を実行する、請求項23に記載の疲労評価システム。
【請求項25】
上記演算部が、第1の比率を算出するとともに、
クエン酸濃度の測定値の、第2の基準値に対する第2の比率、
cis−アコニット酸濃度の測定値の、第3の基準値に対する第3の比率、
イソクエン酸濃度の測定値の、第4の基準値に対する第4の比率、
コハク酸濃度の測定値の、第5の基準値に対する第5の比率、
リンゴ酸濃度の測定値の、第6の基準値に対する第6の比率、および
乳酸濃度の測定値の、第7の基準値に対する第7の比率
からなる群より選択される少なくとも1つの比率を算出する、請求項24に記載の疲労評価システム。
【請求項26】
上記基準値格納部が、第2の比率〜第7の比率に対応する閾値からなる群より選択される少なくとも1つの閾値を格納しており、
上記演算部が、該基準値格納部からの該閾値を受け取って、算出された比率と該比率に対応する閾値との比較を実行する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
上記演算部が、第3の比率〜第5の比率の少なくとも1つを算出する、請求項25または26に記載の疲労評価システム。
【請求項28】
上記演算部が、上記第4の比率に引き続いて上記第5の比率を算出する、請求項27に記載の疲労評価システム。
【請求項29】
上記演算部が、上記第5の比率に引き続いて上記第3の比率を算出する、請求項28に記載の疲労評価システム。
【請求項30】
上記判定部が、第1の比率が実質的に1であるか否かを判定する、請求項25〜29のいずれか1項に記載の疲労評価システム。
【請求項31】
グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度の測定値からなる群より選択される少なくとも1つの測定値を受容する測定値受容部、
グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度、イソクエン酸濃度、コハク酸濃度、リンゴ酸濃度および乳酸濃度のそれぞれに対応する第1〜第7の閾値からなる群より選択される少なくとも1つの閾値を格納した閾値格納部、
測定値受容部からの測定値と閾値格納部からの閾値を受け取って、疲労を評価するための情報を生成する演算部、および
演算部からの評価情報を受け取って、疲労を評価する評価部
を備えた疲労評価システムであって、
演算部が、
グルコース濃度の測定値と第1の閾値との第1の比較、
クエン酸濃度の測定値と第2の閾値との第2の比較、
cis−アコニット酸濃度の測定値と第3の閾値との第3の比較、
イソクエン酸濃度の測定値と第4の閾値との第4の比較、
コハク酸濃度の測定値と第5の閾値との第5の比較、
リンゴ酸濃度の測定値と第6の閾値との第6の比較、および
乳酸濃度の測定値と第7の閾値との第7の比較
からなる群より選択される少なくとも1つを実行する、疲労評価システム。
【請求項32】
上記第3〜第5の比較からなる群より選択される少なくとも1つを実行する、請求項31に記載の疲労評価システム。
【請求項33】
上記第4の比較が、上記第5の比較に引き続いて行われる、請求項32に記載の疲労評価システム。
【請求項34】
上記第3の比較が、第5の比較に引き続いて行われる、請求項33に記載の疲労評価システム。
【請求項35】
グルコース濃度、クエン酸濃度、cis−アコニット酸濃度の測定値、イソクエン酸濃度の測定値、およびコハク酸濃度の測定値からなる群より選択される少なくとも2つの測定値を受容する測定値受容部、
測定値受容部からの測定値を受け取って、疲労を評価するための情報を生成する演算部、および
演算部からの評価情報を受け取って、疲労を評価する評価部
を備えた疲労評価システムであって、
上記演算部が、該少なくとも2つの測定値において、少なくとも一対の比較を実行して、少なくとも一対の比率を得る、疲労評価システム。
【請求項36】
上記演算部が、上記得られた少なくとも一対の比率に基づいて、判別分析、Partial Least Square、またはSupport Vector Machineの分析を実行する、請求項35に記載の疲労評価システム。
【請求項37】
グルコース濃度、クエン酸濃度およびcis−アコニット酸濃度のそれぞれを測定する第1〜第3の測定部、ならびに、必要に応じて、イソクエン酸濃度を測定する第4の測定部、コハク酸濃度を測定する第5の測定部、リンゴ酸濃度を測定する第6の測定部、および乳酸濃度を測定する第7の測定部をさらに備え、
第1〜第7の測定部にて得られた値が測定値受容部に入力される、請求項22〜36の何れか1項に記載の疲労評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−24555(P2012−24555A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34875(P2011−34875)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究(戦略的創造研究推進事業、「鉄および鉄補欠分子族の動態調節とその破綻」)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(500210855)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】