説明

疲労亀裂の検出・進展抑制方法及び構造体

【課題】比較的初期の段階においても目視により容易に疲労亀裂を検出し、かつ亀裂の進展を抑制することが可能であり、しかも施工後も安定して機能を果たし、かつ視認性の向上した疲労亀裂検出・進展抑制方法を提供する。
【解決手段】流動性を有する疲労亀裂検出・進展抑制剤を金属製基材の表面上に塗布し、さらに該疲労亀裂検出・進展抑制剤層の表面に薄膜被覆を形成することのできるプライマー樹脂組成物を塗布し薄膜被覆を形成させることにより多層被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属よりなる基材表面上に発生する疲労亀裂を検出し、かつ進展を抑制する方法であって、ペースト状の流動体である疲労亀裂検出・進展抑制剤及び表面固定化処理材料を用いる疲労亀裂検出・進展抑制方法及び同構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、静的な破壊応力よりはるかに小さな応力であっても、その応力を金属に繰返し加えることによって微小亀裂(疲労亀裂)
が発生する金属の疲労現象が知られている。この疲労亀裂が発生した部分に、さらに、応力を繰返し加えることによって、疲労亀裂は進展し、ひいては金属の破断に繋がる。一方、現在の社会において、金属はいたるところに使われている。そのため、疲労亀裂の早期検出、及び、疲労亀裂の進展の抑制は、大変重要な課題となっている。
【0003】
図3は、疲労亀裂の発生及び進展を説明するための図である。図3の(A)に示すように、繰返し応力による疲労損傷の蓄積によって、金属表面に微小亀裂が発生する。また、図3の(B)に示すように、引張り荷重が加えられることにより亀裂が開口し、図3の(C)に示すように、引張り荷重の除去により亀裂が閉口する。さらに、図3の(D)に示すように、再び引張り荷重が加えられることにより亀裂が開口する。このように、亀裂の開閉を繰り返すことにより亀裂が進展する。ここで、図3の(A)及び(C)に示すように、引張り荷重が加えられていない場合には、亀裂がほぼ閉口していることが多いため、目視による亀裂の検出が困難であるという問題がある。
【0004】
関連する技術として、下記の特許文献1には、外観は黒色不透明で表面は粗面で様々な形状をした立体物を対象に、部位も方向もランダムに発生するクラックを、量産ラインで使用可能な、高速、高感度、非破壊で検出する亀裂検出方法について述べられている。
【0005】
この亀裂検出方法によれば、亀裂にアセトンやベンゼン等の揮発性溶媒を浸透させ、表面を乾燥させた試料を密封容器の中に静置して、試料の表面を沿って流れるヘリウムや窒素等のキャリアガスに、気化することにより混入した揮発性溶媒の濃度を検出することにより、亀裂が存在することを簡単に検出することができる。
【0006】
しかしながら、この亀裂検出方法においては、亀裂が存在することを検出した場合でも、試料の亀裂が存在する場所までは検出することができない。また、密封容器が必要であるので、船や飛行機等の大型な試料については検出が困難である。したがって、試料の亀裂が存在する場所を検出するためには、従来と同様に、超音波探傷法、渦流探傷法、磁気探傷法、染色探傷法等の技術を用いる必要がある。
【0007】
また、下記の特許文献2には、染色探傷法のように経験者を必要とせず、未経験者でも傷の有無を容易に判別できる上、染色探傷法のように、染色浸透剤や現像剤の塗布、洗浄液による洗浄を行う必要がなく、液体の塗布、検査後は液体の自然蒸発を待てばよい亀裂検出方法について述べられている。
【0008】
この亀裂検出方法によれば、亀裂に水やエチルアルコール等の液体を浸透させ、表面を乾燥させた物体の表面を、温度センサやアルコールセンサを用いて走査し、亀裂内部に残っている液体の蒸気の濃度を検出することにより、亀裂の存在を検出することができる。
【0009】
しかしながら、センサが感知するのは、センサに極めて近い範囲の蒸気であるので、この亀裂検出方法においては、物体表面に沿って物体全体を走査する必要があり、船や飛行機等の大型な物体に対しては、多くの走査時間がかかる。
【0010】
これらの技術を改善するため、本願発明者らは特許文献3に記載の方法による亀裂検出・進展抑制方法を案出した。この方法は疲労亀裂検出・進展抑制機能を有するペーストを母材上に塗布することにより、疲労亀裂が生じた部位に亀裂面で研削された母材の粉末が移動して色彩変化が顕れることにより、目視のみで容易に初期段階の疲労亀裂を検出することができ、なおかつ疲労亀裂の進展を抑制することができるというものである。
【0011】
しかしながらこの技術では、母材の表面上に塗布された疲労亀裂検出・進展抑制ペーストは適度の流動性を有した材料である必要があり、他の物体との接触等の外的要因によって除去される可能性がある。
【0012】
【特許文献1】特開平8−29410号公報
【特許文献2】特開昭56−12552号公報
【特許文献3】特開2005−28462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は上記の点に鑑み、比較的初期の段階においても目視により容易に疲労亀裂を検出し、かつ亀裂の進展を抑制することが可能であり、しかも施工後も安定して機能を果たし、かつ視認性の向上した疲労亀裂検出・進展抑制方法及び同構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの課題を解決するため、本発明に係る疲労亀裂検出・進展抑制方法は、流動性を有する疲労亀裂検出・進展抑制剤を金属製基材の表面上に塗布し、さらに該疲労亀裂検出・進展抑制剤層の表面に薄膜被覆を形成することのできるプライマー樹脂組成物を塗布し薄膜被覆とすることにより多層被膜を形成し、該多層被膜全体としては形状を保持したまま該疲労亀裂検出・進展抑制剤層の内部は流動性を有するという特徴を具備する。
【0015】
本発明に係る疲労亀裂検出・進展抑制方法において用いられる、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤の典型例は、シリコーンオイルを含むグリース及び金属製の基材の硬度以上の硬度を有する金属又は金属酸化物の微粒子の混合物からなるものであり、前記プライマー樹脂組成物の典型例はアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂およびブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種からなるものである。
【0016】
本発明に係る疲労亀裂検出・進展抑制方法は、前記多層被膜表面にさらに硬化性樹脂組成物を被覆し、多層被膜表面をより強固に固定することが好ましい。
【0017】
本発明に係る疲労亀裂検出・進展抑制方法において用いられる、前記硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物の硬度は、JIS−K−6253に規定されるデュロメータ硬さでD55以上であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る疲労亀裂検出・進展抑制方法において用いられる、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤に含まれる金属又は金属酸化物の微粒子は、粒径が5〜40μmであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る疲労亀裂検出・進展抑制方法において用いられる、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤の色は、基材となる金属の研削粉の色と異なる色であることが好ましい。
【0020】
また本発明の構造体は、金属製基材の表面に発生する疲労亀裂を検出しかつその進展を抑制することのできる被覆構造体であり、金属製基材の表面に、金属又は金属酸化物の微粒子を含有するペースト状流動体層及び該流動体層を覆うように設けたフィルム形成性樹脂組成物の被膜を有するという特徴を具備する。
【0021】
本発明の構造体においてフィルム形成性樹脂組成物の被膜は、ペースト状流動体層に直接接しているプライマー樹脂組成物の薄膜被覆層とその上に設けた硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物層とからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により比較的初期の段階の疲労亀裂を、より高い視認性で容易に検出することができ、また疲労亀裂の進展を抑制することができるようになる。さらに本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法は施工後も安定してその機能を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において対象とする金属製の基材は、応力が繰り返し加えられることによって亀裂が発生する可能性のある基材であれば、どのような基材も対象とすることができる。その具体例としては、高圧電線等の鉄塔、道路、橋梁、輸送・工作機械、船舶等の金属部材、特にそれらの金属部材の溶接個所を挙げることができる。特に溶接個所は比較的疲労亀裂が発生しやすくまた疲労亀裂が発生する個所の面積が比較的狭いことから本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法を適用するのに適している。尚、金属製の基材の表面に防錆塗料等の塗料が塗布されている場合にはそのまま本発明に供することができる。
【0024】
本発明ではこのような金属製基材の表面上に疲労亀裂検出・進展抑制剤を塗布する。疲労亀裂検出・進展抑制剤としては、ペースト状流動体であって、疲労亀裂検出・進展抑制剤として機能するものであれば特に制限はないが、シリコーンオイルを含むグリース及び金属製の基材の硬度以上の硬度を有する金属又は金属酸化物の微粒子の混合物からなるものが好ましい。
【0025】
以下、この好ましい態様を例に、さらに詳しく説明する。
まず、シリコーンオイルを含むグリース及び金属製の基材の硬度以上の硬度を有する金属又は金属酸化物の微粒子の混合物からなる疲労亀裂検出・進展抑制剤を用意する。ここでシリコーンオイルを含むグリースとしては、JIS−K2220に規定の混和稠度が100〜500の範囲のもの、より好ましくは200〜350のものを用いることが望ましい。稠度が100より小さいと流動性が大きくなり過ぎ、施工後に垂れるなどして良好に機能を発現することができない。稠度が500より大きいと、粘稠性が大きくなり過ぎ施工時の作業性が低下する。また、このグリースとしては動粘度が10〜300センチストークス、より好ましくは50〜150センチストークスであるシリコーンオイルよりなるシリコーングリースであることが望ましい。
【0026】
金属製の基材の硬度以上の硬度を有する金属又は金属酸化物の微粒子としては、鉄粉、アルミ粉、アルミナ粉、ベンガラ、コバルト粉、ニッケル粉、銅粉、酸化銅粉等を用いることができるが、その粒径が5〜40μmであることが望ましく、より好ましくは10〜30μmであることが望ましい。粒径が5μmより小さいと、該微粒子が金属製基材を研削する作用が小さいため疲労亀裂の検出機能が劣り、40μmより大きいと初期の疲労亀裂内部に滲入し辛くなるため初期疲労亀裂の検出機能が低下する。また、硬度としては例えば母材が200程度のビッカース硬度を有する金属である場合には、微細粒として、ビッカース硬度が200以上の材料を使用する。
【0027】
さらには疲労亀裂の検出精度を高めるために、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤の色は基材の亀裂面で研削された金属の粉末の色と異なる色であることが望ましい。亀裂面で研削された金属の粉末は、黒色を呈することが多いため、前記グリース及び前記金属又は金属酸化物の微粒子の混合物からなる疲労亀裂検出・進展抑制剤の色が白色であると、白色と黒色のコントラストにより色彩の変化が生じ、亀裂の位置および長さ等が容易に視認できる。
【0028】
次に前記疲労亀裂検出・進展抑制剤を金属製の基材表面に塗布する。このとき該疲労亀裂検出・進展抑制剤の塗布厚は0.01〜10mmの範囲にあることが望ましく、より好ましくは0.1〜1.5mmの範囲にあることが望ましい。塗布厚が0.01mmより小さいと、疲労亀裂検出・進展抑制剤が疲労亀裂の内部まで滲入し辛くなり、また10mmより大きいと基材金属の研削粉が被膜層表面に到達し辛くなりそれぞれ疲労亀裂検出機能が低下する。
【0029】
続いて前記金属製の基材表面に塗布した疲労亀裂検出・進展抑制剤の表面に、さらに薄膜被覆を形成することのできるプライマー樹脂組成物を塗布し該薄膜被覆層とすることにより多層被膜を形成する。ここで、前記プライマー樹脂組成物としては本発明において機能を果たすものであれば種類は問わないが、疲労亀裂検出・進展抑制剤に前記シリコーンオイルを含むグリース及び金属製の基材の硬度以上の硬度を有する金属又は金属酸化物の微粒子の混合物からなる疲労亀裂検出・進展抑制剤を用いる場合、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなるプライマー樹脂組成物という組み合わせが最適である。
【0030】
なお、本発明において好適なプライマー樹脂組成物としては、バインダー成分中に前記の樹脂のうち何れか少なくとも1種類が含まれているものであれば特に限定されないが、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤に対する接着性の点から重量平均分子量が1000〜150000の範囲にある速硬化性の樹脂組成物が望ましい。また、亀裂検出における視認性の必要から、多量の充填剤等を含むことによって透明性が損なわれてはならない。
【0031】
プライマー樹脂組成物の塗布方法としては、本発明の機能を阻害するものでなければどのような方法でも用いることができるが、流動性の疲労亀裂検出・進展抑制剤層を攪乱しない方法が望ましい。好ましくはエアゾールやスプレーガンによるスプレー塗布がより望ましい方法である。なお、該硬化性プライマーは前記疲労亀裂検出・進展抑制剤を塗布した領域よりやや広め、即ち疲労亀裂検出・進展抑制剤と下地となる基材双方に跨る範囲に塗布することが好ましい。これは、シリコーングリースを主成分とした疲労亀裂検出・進展抑制剤上にのみ硬化性プライマーを塗布した場合、接着性の低さから硬化性プライマーが経時で脱落することを防ぐためである。また、塗布厚としては特に制限はないが、前記の疲労亀裂検出・進展抑制剤層を保護できる膜厚として1〜20μm程度の厚さであればよい。
【0032】
本発明においてはさらに、前記多層被膜表面にさらに硬化性樹脂組成物を被覆し、多層被膜表面をより強固に固定することが好ましい。この場合、硬化性樹脂組成物は多層被膜の全面積を覆うように広い面積に塗布する。
【0033】
前記のような構成を取ることで、該多層被膜は表面が硬い被膜により覆われていることにより、疲労亀裂により生じた金属基材の微粉末は多層被膜表面から吹き出すことなく、前記の硬質な硬化性樹脂組成物の被膜層の下を平面方向に広がることにより拡散し、結果発色する領域が拡大することで視認性が著しく向上する。このように疲労亀裂検出時の視認性の向上は、前記硬化性樹脂組成物被膜層がある程度の硬度を有することにより達成でき、その硬度としてはJIS−K−6253に規定されるデュロメーター硬さでD55以上あればよい。
【0034】
該硬化性樹脂組成物に好ましく用いることのできる材料としては、前記多層被膜表面を強固に固定するものであれば特に限定はないが、前記のプライマー樹脂組成物に対する接着性の点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる硬化性樹脂組成物であることが好ましく、さらには硬化物の硬度調整の容易さから、硬化性エポキシ樹脂組成物であることがより好ましい。
【0035】
一般にエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂の分子量に小さいものを選択すると硬化物の硬度は低下し、分子量に大きいものを選択すると硬化物の硬度は増大する。あるいは、該樹脂組成物中に可塑剤や希釈剤などを加えることにより、容易に硬化物の硬度を調整することができる。
【0036】
また、塗布時の作業性及び塗布後の塗膜形成時の形状保持性の点から該硬化性樹脂組成物は揺変性を有していることが望ましく、好ましくはTI値が1.0〜12、特には2.5〜10の範囲にあることがより望ましい。ここでいうTI値とは、B型粘度計の2回転/分で測定したときの値と20回転/分のときの値との比を示す。該硬化性樹脂組成物のTI値が2.5より小さい値であると形状保持性が小さすぎるため塗膜形成時に一定の厚みを持った塗膜を形成することができず、TI値が10より大きくなると流動性が小さすぎるため塗布することが難しく平坦な塗膜が形成できず、また塗布時に多層被膜中の疲労亀裂検出・進展抑制剤層を攪乱してしまう。
【0037】
図1は、本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法(硬化物の表面硬度がD33であるウレタン樹脂よりなる硬化性樹脂組成物層を被覆した構成)を行ったときに認められる、疲労亀裂を検出した様子を示す一例を示す。
図2は、本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法(硬化物の表面硬度がD88であるエポキシ樹脂よりなる硬化性樹脂組成物層を被覆した構成)を行ったときに認められる、疲労亀裂を検出した様子を示す一例を示す。
後者の方が疲労亀裂が拡大して視認できる点で疲労亀裂の検出が一層容易である。
【0038】
次に本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例及び比較例にて使用した材料、条件などは以下の通り。
・試験片;JIS SM490A鋼製の厚さ5mmの平板試験片中央部に長さ10mm×幅0.3mmの切欠きを設けたものを使用。
・疲労亀裂検出・進展抑制剤(イ);アルミナ粉/シリコーンオイルより成るシリコーングリースの混合物を使用し、厚さが1mmになるよう試験片に塗布した。
・硬化性プライマー組成物(ロ);表1に記載の組成物を使用し、膜厚が20μm以下になるよう、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤を塗布した領域よりややはみ出す程度の範囲に均等にエアゾールで塗布した。
・硬化性樹脂組成物(ハ);表1に記載の組成物を使用し、前記多層薄膜の脇にスペーサで土手を設けて膜厚が1mmになるよう流し込み塗布した。
・試験機;電気・油圧サーボ式疲労試験機(島津サーボパルサー、動的容量10tonf)を使用し、0〜3.7tonfの完全片振り繰り返し引張り荷重、繰り返し周波数=4.2Hzの荷重条件で試験片に荷重を加えた。
・発色確認繰り返し数;上記試験条件にて試験を行い、初期疲労亀裂の発生により試験片表面に基剤金属粉が析出したのを視認できるようになるまでの荷重繰り返し数。
・破断繰り返し数;上記試験条件にて試験を行い、試験片が破断したときの荷重繰り返し数。
・保存性;疲労亀裂検出・進展抑制剤層を含む多層被膜を−40℃及び80℃にて30日間保存した結果、該疲労亀裂検出・進展抑制剤層の硬化などの変質や多層被膜中に分離及び著しい変色が生じないものを合格(○)とし、それ以外を不合格(×)とした。
・視認性;析出した基材金属粉を目視により容易に視認できたものを良(○)とし、やや見辛いが何とか視認できたものをやや不良(△)、まったく視認できなかったものを不良(×)とした。
・発色形態;目視で確認を行い、析出した基剤金属粉が図1のように線状に表れたものを「線状」、図2のように多層薄膜平面上に広がって表れたものを「面状」と記した。
【0040】
上記の材料、条件により疲労亀裂検出・進展抑制試験を行った結果を表1及び表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
*表中記載の説明
・アルミナ粉A;平均粒径15.2μm
・アルミナ粉B;平均粒径47.3μm
・アルミナ粉C;平均粒径3.0μm
・シリコーングリース;動粘度100センチストークスのシリコーンオイルとリチウム石鹸よりなる混和稠度250の白色グリース
・アクリル樹脂;溶剤揮散型アクリル樹脂組成物 Mw1000〜10000
・ウレタン樹脂;二液混合型ウレタン樹脂組成物 Mw20000〜150000
・エポキシ樹脂A;ビスフェノールAジグリシジルエーテル、アミン系硬化剤よりなり、硬化物の表面硬度がD88
・エポキシ樹脂B;ビスフェノールAジグリシジルエーテル、アミン系硬化剤、脂肪族ジグリシジルエーテル系反応性希釈剤よりなり、硬化物の表面硬度がD37
・シリコーン樹脂;常温一液硬化型縮合シリコーン樹脂組成物
・ウレタン樹脂B;ウレタン樹脂を主成分とするバインダを揮発性溶剤に溶解させた黄色のワニス、硬化物の表面硬度がD33
・基材A;試験片をそのまま使用
・基材B;試験片表面をフタル酸樹脂系塗料でコートしたもの
【0044】
表1に示したように、本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法を用いることにより、従来知られていた疲労亀裂検出・進展抑制剤と同様の進展抑制効果を発揮することができ、なおかつ従来の疲労亀裂検出・進展抑制剤の欠点であった保存性を向上させることができた。また、特定の硬度を有する硬化性樹脂組成物を用いて該疲労亀裂検出・進展抑制剤を含む多層薄膜表面に硬化被膜を形成することで、疲労亀裂の検出時における視認性を高めるという作用を新たに付与することができた。これは、前記疲労亀裂検出・進展抑制剤で研削された基材金属粉が表面上に析出してくる過程において、多層薄膜表面に硬質な被膜がない場合は該金属粉がそのまま表面から吹き出してきたのに対して、硬質な被膜がある場合は該金属粉が硬質被膜で覆われた表層の上に浮上することができず、該表層の下を横方向に進むことにより金属粉が平面的に広がり、その結果視認性が高まるものであると推察される。さらに、本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法は、基材として用いられる金属の表面が樹脂塗料によりコートされているものに対しても有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
道路、橋梁、輸送・工作機械、船舶等の金属部材において起こりうる疲労亀裂を早期に検出でき、また疲労亀裂を起こした金属に対して延命機能を付与することのできる機能性材料として産業上の幅広い分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法を行ったときに認められる、疲労亀裂を検出した様子を示す一例である。
【図2】本発明の疲労亀裂検出・進展抑制方法を行ったときに認められる、疲労亀裂を検出した様子を示す一例である。
【図3】疲労亀裂の発生及び進展現象を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材の表面に発生する疲労亀裂を検出し、かつ進展を抑制する方法であって、ペースト状流動体である疲労亀裂検出・進展抑制剤を金属製基材の表面上に塗布し、さらに該疲労亀裂検出・進展抑制剤の表面に薄膜被覆を形成することのできるプライマー樹脂組成物を塗布し薄膜被覆とすることにより多層被膜を形成させ、該多層被膜全体としては形状を保持したまま該疲労亀裂検出・進展抑制剤の内部は流動性を有することを特徴とする疲労亀裂検出・進展抑制方法。
【請求項2】
前記疲労亀裂検出・進展抑制剤がシリコーンオイルを含むグリースと金属製の基材の硬度以上の硬度を有する金属又は金属酸化物の微粒子との混合物からなるものであり、前記プライマー樹脂組成物がアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1に記載の疲労亀裂検出・進展抑制方法。
【請求項3】
前記多層被膜表面にさらに硬化性樹脂組成物よりなる被覆を施し、多層被膜表面をより強固に固定する請求項1又は2に記載の疲労亀裂検出・進展抑制方法。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物の硬度が、JIS−K−6253に規定されるデュロメータ硬さでD55以上である請求項3に記載の疲労亀裂検出・進展抑制方法。
【請求項5】
前記疲労亀裂検出・進展抑制方法において用いられる、疲労亀裂検出・進展抑制剤に含まれる金属又は金属酸化物の微粒子の粒径が5〜40μmである請求項2〜4のいずれか1項に記載の疲労亀裂検出・進展抑制方法。
【請求項6】
前記疲労亀裂検出・進展抑制剤の色が、基材を構成する金属から得た研削粉の色と異なる色である請求項1〜5のいずれか1項に記載の疲労亀裂検出・進展抑制方法。
【請求項7】
金属製の基材の表面に、金属または金属酸化物の微粒子を含有するペースト状流動体層及び該流動体層を覆うよう設けた薄膜被覆形成性樹脂組成物の被膜を有することを特徴とする金属製基材の表面に発生する疲労亀裂を検出しかつその進展を抑制することのできる被覆構造体。
【請求項8】
薄膜被覆形成性樹脂組成物の被膜が、ペースト状流動体層に直接接しているプライマー樹脂組成物の薄膜被覆層とその上に設けた硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物層とからなる請求項7に記載の被覆構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−214254(P2009−214254A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62289(P2008−62289)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】