説明

疲労検出装置

【課題】
複数個の加速度センサを身体適所に装着することによって、歩行、走行を継続しながら簡単な処理で精度良く疲労検出をなし得る疲労検出装置を提供する。
【解決手段】、
腰に装着される第1の加速度センサ1aと、足に装着される第2の加速度センサ1bで検出される加速度信号を時間順次にデータ記憶部3に記憶し、データ処理部2で、このデータ記憶部3から記憶した加速度信号を読み出し、第1の加速度センサ1aの加速度信号と、これより遅れる第2の加速度センサ1bの加速度信号の時間差を算出し、次に、この算出した時間差と基準時間差とを比較し、基準時間差より算出時間差の方が大なる場合に疲労警告出力を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行・走行中などに疲労の有無を検出し得る疲労検出装置、特に加速度センサを用いた疲労検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、運動・労働などにおける疲労を検出する方法として、医師などが運動・労働の直後に採血を行い、血中乳酸濃度を測定し、疲労の度合いを計測する方法が行われている。
【0003】
また、インピーダンス成分測定手段により、身体部位間のインピーダンスをレジスタンス成分とリアクタンス成分とに分けて測定し、筋肉組成実効長を測定し、生体等価モデルパラメータ演算手段により、レジスタンス成分、リアクタンス成分、筋肉組成実効長に基づいて細胞外液抵抗率及び分布膜容量を含む生体等価モデルパラメータを演算し、筋疲労度判定手段により細胞外液抵抗率及び分布液容量の割合から筋疲労度を判定する方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、所定のm歩分の衝撃値を検出し、検出した衝撃値と所定の閾値と比較して、その比較結果を算出し、m歩分の衝撃値の検出及び比較結果の算出を複数回行い、この複数回の比較結果を積算した比較結果積算値を算出し、この比較結果積算値と所定のオーバユース判別値とに基づいてオーバユースか否かを判別するようにした下肢筋疲労測定装置が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−201877号公報
【特許文献2】特許第3746980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来技術のうち、採血を行う血中乳酸濃度を測定する方法は、採血するのに歩行、走行などを一旦停止せねばならず歩行、走行、作業などを継続しながら測定できないという不便さがある。
【0007】
また、特許文献1に記載の生体インピーダンス測定方法も電極などの身体への装着が必要であり、装置とリード線などを身体に装着すると歩行、走行、作業などの続行は不可能であり、やはり歩行、走行、作業などを停止することなく測定を継続できないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法は、歩行中、走行中も測定出来るが、使用する加速度センサは1個のみであり、その分測定プロセスでの処理が複雑になるという問題がある。
【0009】
この発明は、上記問題点に着目してなされたものであって、複数個の加速度センサを身体適所に装着することによって、歩行、走行を継続しながら簡単な処理で精度良く疲労検出をなし得る疲労検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の疲労検出装置は、移動開始時に基準とされる部位に装着される第1の加速度センサ(1a)と、移動開始時に前記基準となる部位よりも遅れて移動を開始する部位に装着される第2の加速度センサ(1b)と、前記第1と第2の加速度センサで検出される加速度データを時間順次に記憶する加速度データ記憶手段(3)と、前記データ記憶手段に記憶された加速度データにより、前記第1の加速度センサの加速度データより遅れる第2の加速度センサの加速度データの時間差を算出する時間差算出手段(2a)と、この時間差算出手段で演算された時間差と基準時間差とを比較する時間差比較手段(2b)と、この時間差比較手段で前記算出時間差が大と判断された場合に、疲労を示す警告を出力する警告出力手段(2c)と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この発明において、前記第1の加速度センサは、例えば、腰部に装着され、前記第2の加速度センサは右足あるいは左足のいずれかに装着される。
【0012】
また、この発明において、前記時間差は、前記第1の加速度センサの出力の立ち上がり点から前記第2の加速度センサの出力の立ち上がり点について求めるとよい。
【0013】
また、この発明に於いて、前記時間差比較のための基準値は、予め所定の値を設定可能とできる。
【0014】
また、この発明において、 前記時間差比較のための基準値は、求めた複数個の時間差データに基づいて定めたものを使用しても良い。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、所要の加速度センサを複数個身体に装着し、歩行、走行中における加速度センサの波形信号の時間差を求め、その時間差と基準値を比較して疲労の有無を判断するものであり、歩行中、走行中に測定を続けることが出来、さらに簡単な処理で精度良く、疲労の有無を判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る疲労検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態疲労検出装置の加速度センサを歩行者に装着した状態を示す図である。
【図3】同実施形態疲労検出装置における腰部装着の加速度センサと足装着の加速度センサの検出波形例を示す図である。
【図4】同実施形態疲労検出装置における腰部装着の加速度センサと足装着の加速度センサの検出波形の時間差と疲労の関係を説明するための波形図である。
【図5】同実施形態疲労検出装置の処理動作を説明ためのデータ収集ルーチンを示すフロー図である。
【図6】同実施形態疲労検出装置の処理動作を説明するための時間差演算ルーチンを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態により、この発明をさらに詳細に説明する。図1は、この発明の一実施形態疲労検出装置の構成を示すブロック図である。この実施形態疲労検出装置は、加速度センサ1aと、加速度センサ1bと、これら加速度センサ1a,1bからの加速度信号を受けてデータ処理を行うデータ処理部(CPU)2と、データ処理部2に取り込まれたデータ及び演算データを記憶するデータ記憶部3とから構成されている。
【0018】
上記構成部のうちの加速度センサ1aと、データ処理部2と、データ記憶部3は、本体ケース4に収容されており、この本体ケース4は、身体に装着して携帯可能なものである。加速度センサ1bのみ、本体ケース4とは別に構成され、加速度センサ1bからの信号は無線で、あるいはリード線にてデータ処理部2に取り込まれるようになっている。もっとも、加速度センサ1aは、加速度センサ1bと同様、本体ケース4とは、別に設けるものであっても良い。また、身体に装着するのは、無線送信機能を有する加速度センサ1aと加速度センサ1bであって、データ処理部2と、データ記憶部3は、別に設けるCPU(パソコン)で構成されるものであってもよい。
【0019】
この発明の実施形態疲労検出装置の全体構成及び動作を詳細に説明する前に、原理的動作を説明する。一般に人が歩行する際に、先ず重心が前方への移動を意識して前方へ移動を開始する。この重心の前方への移動に応じて一方の足が前へ1歩進めようとして前へ踏み出す。そして、その足が着地すると、今度は重心がまた前方への移動を意識して前方への移動を開始する。この重心の前方への移動に応じて今度は他方の足が前へ1歩進めるようにして、前へ踏み出す。
【0020】
このような重心と足の移動をモデル化して、腰と足に図2に示すように加速度センサ1a,1bを装着し、それぞれの加速度の波形信号を検出すると図3に示すように、腰に装着した加速度センサ1aの信号Saの立ち上がりよりも足に装着した加速度センサ1bの信号Sbの立ち上がりの方が遅れたものとなる。
【0021】
今、歩行者が、疲労のない健常者の場合を想定すると、図4に示すように腰で検出された加速度信号Saと足で検出された加速度信号Sb1の時間差T1は相対的に小さなものとなる。これに対し、歩行者が非常に疲れた状態にある場合は、重心の前方への移動の開始に対し、続く足の前方への踏み出しが遅れ、歩行バランスが保てなくなり、躓き、または転倒を生じる程度になると、この場合、図4に示すように腰で検出された加速度信号Saと足で検出された加速度信号Sb2の時間差T2は、相対的に大きな値となる。
【0022】
なお、加速度センサの波形は、実際には、腰の進行方向の軸(前後)のほか、足を着地した時の振動などで上下方向、左右方向の3成分が含まれ、各成分は複雑な波形になるが、図3、図4に示す加速度センサの波形は、説明を容易にするために、腰の進行方向の軸(前後)の加速度成分のイメージ波形を模式的に示している。
【0023】
ここで、正常時に検出される時間差T1より大で、疲労時に検出される時間差T2よりも小なる基準値Tk(つまりT1<Tk<T2)を設定しておき、歩行時の加速度センサ1aの検出信号Saと加速度センサ1bの検出信号Sbの時間差Tiを求め、この時間差Tiと基準値Tkとを比較することにより、歩行者の疲労の有無を判別することができる。以下で詳説する疲労検出装置は、この原理を採用したものである。
【0024】
次に、実施形態疲労検出装置の処理構成及び動作について詳細に説明する。
データ処理部2は、加速度センサ1a,1bから取り込んだ加速度データをデータ記憶部3に記憶する機能、データ記憶部3に記憶した加速度センサ1a,1bの所定期間におけるデータを読み出し、加速度センサ1aの信号と加速度センサ1bの信号の時間差を算出する機能、算出した時間差と設定された基準値とを比較する機能、比較により検出信号の時間差が基準値より大なる場合に疲労警告信号を出力する機能を備えている。
【0025】
次に、図5、図6に示すフロー図を参照して実施形態疲労検出装置の処理動作を説明する。この実施形態装置の疲労検出モードはキー操作、あるいはスイッチ操作などで設定され動作が開始される。動作が開始されると、先ず図5に示すデータ収集処理に入る。ステップST1において、変数iを0(変数iをクリア)とする。続いてステップST2へ移行する。ステップST2においては、サンプルタイムか否か判定し、サンプルタイムでない場合は、このステップ2に留まり、サンプルタイムが到来するとステップST3へ移行する。
【0026】
ステップST3においては、加速度センサ1aの検出加速度データDaiをデータ記憶部3に記憶する。また、続くステップST4において、ステップST3と同様に加速度センサ1bの検出加速度データDbiをデータ記憶部3に記憶する。これら加速度データDai,Dbiは、時刻情報とともに対で記憶される。つまり、図3に示すような波形データが時間順次に記憶される。次にステップST5へ移行する。
【0027】
ステップST5においては、i≦pか否か判定する。ここでpは、加速度データDai,Dbiのサンプルが数波長期間に及ぶ程度のサンプル値に設定している。ステップST5において、i=0の当初は、判定NOであり、ステップST6へ移行する。ステップST6においては、変数iをインクリメントする(この最初の時点でi=1となる)。そしてステップST2へ戻る。以後、サンプルタイム到来毎に、ステップST2〜ST6の処理を繰り返し、加速度センサ1a,1bからのデータ収集を行う。i=pまでこの処理を繰り返すと、ステップST5の判定がYESとなり、ステップST7へ移行する。
【0028】
ステップST7においては、時間差演算処理ルーチンへの移行指示を出し、自身はステップST1へ戻る。この処理ルーチンでは、上記と同様、加速度センサ1a、1bよりのデータ収集を続行する。
一方、時間差演算の指示を受け、図6に示す処理を開始する。先ず、ステップST11において、データ記憶部3から、加速度センサ1aで検出したデータDaiの波形Danを読み出し、その波形Dan(n=1)の立ち上がり時刻Tan(n=1)を抽出する(図3の信号Sa参照)。次に、ステップST12へ移行する。ステップST12において、データ記憶部3から加速度センサ1bで検出のデータDbiの波形Dbn(n=1)を読み出し、その波形Dbnの立ち上がり時刻Tbn(n=1)を抽出する(図3の信号Sb参照)。続いてステップST13へ移行する。
【0029】
ステップST13においては、加速度センサ1bの波形Dbnの立ち上がり時刻Tbn(n=1)から加速度センサ1aの波形Danの立ち上がり時刻Tan(n=1)を減算し、加速度センサ1aと加速度センサ1bの波形時間差TDn(n=1)を算出し、データ記憶部3に記憶する。そしてステップST14へ移行する。
【0030】
ステップST14においては、波形時間差TDnが基準値Tkより大か否か判定する。基準値Tkより大でない場合は、ステップST15へ移行する。一方基準値Tkより大なる場合は、ステップST17移行する。ステップST15においては、次の波形データが無しか否か判定し、次に、なお波形データがある場合は、判定NOでステップST16へ移行する。 ステップST16においては、変数nをインクリメントする(n=2;波形数)。そしてステップST11へ戻る。ステップST11,ST12において、加速度センサ1a、1bのn=2の各波形の立ち上がり時刻Tan(n=2),Tbn(n=2)を抽出し、さらにステップST13において、波形の時間差TDn(n=2)を算出、記憶する。次にステップST14へ移行し、前回と同様に波形時間差TDn(n=2)が基準値Tkより大か判定する。基準値Tkより大でない場合は、前回同様ステップST15へ移行する。
【0031】
一方、ステップST14において時間差TDn(n=1)が基準値Tkより大と判定された場合は、ステップST17へ移行する。ステップST17においては、TDn(n=1)が基準値Tkより超過であることをデータ記憶部3に記憶する。時間差TDn(n=2)が基準値Tkより大と判定された場合も同様に、その旨がデータ記憶部3に記憶される。ステップST17に続いてステップST15へ移行する。
【0032】
ステップST15においては、上記したように次に時間差を算出すべき波形データが無しか否か判定する。算出すべき波形データが有りの場合は、ステップST16へ移行し、上記したと同様の処理を継続する。一方、次に波形データが無しの場合は、ステップ18へ移行する。
【0033】
ステップST18においては、超過データ数が所定の回数M以上か否か判定する。超過データ数がM以上の場合は、疲労が大であるとし、ステップST19へ移行する。ステップST19においては、疲労警告を出力する。疲労警告は、本体4の表示部に表示する他、音声出力,発光点滅表示などの警告であっても良い。超過データ数がMに満たない場合は、リターンする。
【0034】
なお、上記した実施形態においては、時間差が基準値Tkを超過した回数が所定値Mを越えた場合に疲労警告を出力するようにしているが、時間差が基準値Tkより大なる場合に確実に疲労が大であると言える場合には、時間差が基準値Tkより大と判定した場合に(即M=1で)、疲労警告を出力するようにしてもよい。この疲労警告は、歩行中の本人への伝達のほか、疲労監視システムを構成するCPU等にも伝送可能である。
【0035】
また、上記実施形態において、基準値Tkは、予め所定の値を設定しているが、健常時の状態でデータ収集後、図6に示す時間差演算においてステップST11〜ST13の処理により、複数回の時間差TDnを求め、その平均値を求めてこれに基づいて基準値Tkを定め,しかる後に図6に示す時間差演算処理により、疲労検出処理を実行するようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態において、歩行開始で図5、図6の処理を開始するのに、キー操作あるいはスイッチ操作により行うようにしているが、本発明では、これに限られるものではなく、歩行開始前に電源をONして装置の動作開始で、無条件に図5の処理に入るようにしてもよいし、あるいは、装置の電源オン後、加速度センサ1a,1bの加速度信号データの収集を常におこなうとともに、並行してデータ波形をチェックし、図3に示すようにピークを含む類似の波形信号が所定時間連続することを検出した場合に(これは現在歩行中であると判断し)、その後図5,図6の処理に入るようにしてもよい。
【0037】
さらにまた、上記実施形態においては、腰部装着の加速度センサ1aからの波形信号より足装着の加速度センサ1bの波形信号の遅れ時間差の度合いにより疲労の有無を検出しているが、本発明では、これに限ることなく、手首、腕、肩などにも、適宜加速度センサを装着し、これらと、腰部、足に装着した複数の加速度センサのうちの一つを基準とする加速度センサとし、この加速度センサからの波形信号より、他の部位に装着の加速度センサの波形信号の遅れ時間差を求め、その遅れ時間差の度合いにより、疲労の有無を検出することも出来る。
【符号の説明】
【0038】
1a 腰部装着の加速度センサ
1b 足装着の加速度センサ
2 データ処理部
2a 時間差算出部
2b 時間差比較部
2c 疲労警告出力部
3 データ記憶部
4 本体ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動開始時に基準とされる部位に装着される第1の加速度センサと、
移動開始時に前記基準となる部位よりも遅れて移動を開始する部位に装着される第2の加速度センサと、
前記第1と第2の加速度センサで検出される加速度データを時間順次に記憶する加速度データ記憶手段と、
前記データ記憶手段に記憶された加速度データにより、前記第1の加速度センサの加速度データより遅れる第2の加速度センサの加速度データの時間差を算出する時間差算出手段と、
この時間差算出手段で演算された時間差と基準時間差とを比較する時間差比較手段と、
この時間差比較手段で前記算出時間差が大と判断された場合に、疲労を示す警告を出力する警告出力手段と、
を備えたことを特徴とする疲労検出装置。
【請求項2】
前記第1の加速度センサは、腰部に装着され、前記第2の加速度センサは右足あるいは左足のいずれかに装着されるものであることを特徴とする請求項1記載の疲労検出装置。
【請求項3】
前記時間差は、前記第1の加速度センサの出力の立ち上がり点から前記第2の加速度センサの出力の立ち上がり点について求めるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の疲労検出装置。
【請求項4】
前記時間差比較のための基準値は、予め所定の値を設定可能としたことを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3記載の疲労検出装置。
【請求項5】
前記時間差比較のための基準値は、求めた複数個の時間差データに基づいて定めたものであることを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3記載の疲労検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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