説明

疲労特性に優れる低温ろう材

【課題】アルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材のように熱膨張率が異なる部材同士を接合する際に用いることができ、しかも超塑性現象を利用することなく、疲労特性を改善することができる疲労特性に優れる低温ろう材を提供することを課題とする。
【解決手段】質量%で、Al:3.5〜13%、Cu:1〜3.5%、Si:0.4〜2.0%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物である低温ろう材であって、CuとSiの合計含有量が、質量%で1.8〜4.3%の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DBA(Direct Brazing Aluminum)等のアルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材のように熱膨張率が異なる部材同士を接合する際に接合材として用いる低温接合が可能な疲労特性に優れる低温ろう材に関するもの、特に、整流ダイオード、パワートランジスタ、サイリスタ等のパワーデバイスに用いられるアルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材を接合する際に接合材として用いる疲労特性に優れる低温ろう材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置で制御する電力は、年々大電力化する傾向にあり、半導体装置の発熱量は増大している。このような実情から、最近は、パワーデバイス等の半導体で発生する熱を冷却により低下させる放熱特性の向上に関する技術開発ニーズが高まっている状況である。
【0003】
例えば、自動車等に用いる車載電力制御用インバータでは、半導体チップIGBT(Integrated Gate Bipolar Transistor)を、AlNセラミックス片の表裏面にアルミニウム合金板を貼り付けた積層チップであるDBA(Direct Brazing Aluminium)を介して、水冷式のアルミニウム合金製冷却器に取り付けるという方策がなされていた。
【0004】
すなわち、半導体チップIGBTを、AlNセラミックス片を間に設けた積層チップDBAを介して、水冷式のアルミニウム合金製冷却器に取り付けることで、AlNセラミックス片により電気的絶縁性を確保しつつ、水冷式のアルミニウム合金製冷却器による冷却で放熱特性の向上が図られていた。
【0005】
このような車載電力制御用インバータにおいて、AlNセラミックス片の表裏面にアルミニウム合金板を貼り付けたDBAと、アルミニウム合金製冷却器の接合では、接合面が共にアルミニウム合金面となることから、接合材として接合面と同じアルミニウム合金系のろう材が用いられていた。そのようなアルミニウム合金系のろう材の代表例としてAl−Si系のろう材を挙げることができる。
【0006】
しかしながら、このAl−Si系のろう材のろう付け接合温度は600℃を超える高温で、接合熱処理エネルギーの消費量が多大であるため、より接合温度が低いアルミニウム合金系のろう材としてZn−Al系の低温ろう材を用いることが考えられるが、このようなZn−Al系合金の一例が特許文献1で提案されている。
【0007】
このZn−Al系合金については、合金組成の規格が実際に定められてはいるが、このような規格に合致するZn−Al系ろう材であっても、そのろう材を用いて形成される接合層は延性に乏しく、温度変化や機械的なストレスによって接合層に亀裂が入ることが多いという問題がある。
【0008】
その問題を解決することを目的として、金属組成、また、その金属組成に加えて熱履歴を、適宜調整することで、著しく高い延性を発揮する超塑性現象を利用して接合対象物を接合するZn−Al共晶系合金接合材に関する技術が特許文献2として提案されている。しかしながら、この特許文献2の記載によると、接合温度を下げることができるZn−Al系合金の超塑性現象が得られる金属組成、および熱履歴の制御範囲は非常に狭く、実用的に超塑性現象を発現させることは非常に困難であると考えられる。
【0009】
また、自動車等に用いる車載電力制御用インバータの半導体装置は、制御のオンオフ、自動車等の発進停止、並びに寒冷地域から熱帯地域までの温度条件といった様々な条件に対応する必要があり、また、放熱板と冷却板、更にその両者を接合するろう材間の熱膨張率の差に起因する応力サイクルを受けるため、ろう材の疲労特性も重要な因子となると考えられるが、疲労特性について検討されたことがないというのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−293930号公報
【特許文献2】特開2009−113050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、アルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材のように熱膨張率が異なる部材同士を接合する際に用いることができ、しかも超塑性現象を利用することなく、疲労特性を改善することができる疲労特性に優れる低温ろう材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る低温ろう材は、質量%で、Al:3.5〜13%、Cu:1〜3.5%、Si:0.4〜2.0%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物である低温ろう材であって、CuとSiの合計含有量が、質量%で1.8〜4.3%の範囲であることを特徴とする疲労特性に優れる低温ろう材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、アルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材のように熱膨張率が異なる部材同士を接合する際に用いることができ、しかも超塑性現象を利用することなく、疲労特性を改善することができる疲労特性に優れる低温ろう材を得ることができる。
【0014】
また、低温ろう材であるため、冷却器を形成するアルミニウム材が溶融してしまう可能性がなく、且つ、接合後のハンダ付けにも影響を及ぼすことのない低い接合温度でも、アルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材を接合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、半導体装置に用いられるDBA等のアルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材とを接合するにあたり、ろう付けによる接合時に、冷却器を形成するアルミニウム合金が溶融してしまう可能性がなく、且つ、後工程におけるDBA等のアルミニウム・セラミックス複合体とパワー半導体を接合する200〜300℃でのはんだ接合時に、再溶融することのない程度の低い接合温度で、アルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材を接合することができ、更には、疲労特性を向上することができるろう材を見出すために、鋭意研究を重ねた。
【0016】
まず、本発明者らは、ろう材である以上、凝固組織を圧延のような塑性変形をもって壊す処理はできないと考え、凝固組織はそのままで疲労特性を向上することができる方策を検討した。その検討の結果、超塑性のように積極的にろう材を変形させて疲労特性を確保するのではなく、ろう材の凝固組織の高強度化を指向することで疲労特性を向上させる方がより現実的な方策であると考えた。
【0017】
その結果、Zn−Al系の低温ろう材を採用し、軟質のαAl相の強度を引き上げた上で、共晶Zn−Al組織を適切に分配することが有効であり、αAl相の高強度化には固溶強化作用を有するCu並びにSiの添加が有効であるとの結論に達した。更に検討を重ねた結果、そのZn−Al系の低温ろう材の成分組成、特にCuとSiの含有量を適切な範囲とすることで、所望の効果を達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0018】
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。尚、本発明で述べるアルミニウム材とは、アルミニウム合金材、純アルミニウム材の両方を示す。
【0019】
アルミニウム・セラミックス複合体とアルミニウム材の接合に用いるろう材として、Zn−Al系の低温ろう材を採用した理由は、その共晶温度が382℃と理想的な温度であるからである。このZn−Al系ろう材の融点(固液共存温度)は、他のろう材、例えば、Al−Si系ろう材と比べて低温である。
【0020】
本発明では、Zn−Al系の低温ろう材の成分組成を規定するが、以下にその理由を説明する。尚、以下の説明で用いる%は全て質量%を示す。
【0021】
Al:3.5〜13%
Alは、本発明のろう材の主成分であるZnに添加することで、ろう材のろう付け温度を引き下げることができる元素である。その添加量が3.5%のときに共晶組織が得られ最も融点が低くなるが、Alの添加量は3.5〜13%の範囲とする必要がある。ろう材の高強度化を達成する上で、αAl相の晶出物を分散させることが極めて重要であるが、Alの添加量が3.5%未満であると、αAl相の晶出物に代わり、硬くてもろい初晶のZn相晶出物が生成されてしまうため、十分な疲労特性を得ることができなくなってしまう。一方、Alの添加量が13%を超えると、αAl相の体積分率が増大することとなり、疲労特性が低下してしまう。尚、Alの添加量の好ましい下限は5%、好ましい上限は10%である。
【0022】
Cu:1〜3.5%
Cuは、αAl相に固溶してそのαAl相の強度を向上させることにより疲労特性の向上に寄与する元素である。Cuの添加量が1%以上であれば、疲労特性を向上させる効果を発現することができる。しかしながら、3.5%を超えて添加しても、それ以上はαAl相に固溶することができず疲労特性を向上させる効果が飽和してしまう。従って、Cuの添加量は1〜3.5%とする。
【0023】
Si:0.4〜2.0%
SiもCuと同様に、αAl相に固溶してそのαAl相の強度を向上させることにより疲労特性の向上に寄与する元素である。Siの添加量が0.4%以上であれば、疲労特性を向上させる効果を発現することができる。しかしながら、2.0%を超えて添加しても、それ以上はαAl相に固溶することができず疲労特性を向上させる効果が飽和してしまう。従って、Siの添加量は0.4〜2.0%とする。尚、疲労特性を十分に確保するためには、好ましくは0.5%以上添加する必要がある。
【0024】
1.8%≦(Cu+Si)≦4.3%
先にCuとSiの添加量の範囲を説明したが、CuとSiは同時に添加することで疲労特性を向上させる効果を発現し、夫々単独の添加では疲労特性を向上させる効果は発現しない。その理由は十分に解明されてはいないが、CuとSiを合計で、1.8〜4.3%添加することで疲労特性を向上させる効果を発現する。尚、CuとSiの合計添加量の好ましい範囲は、2.2〜4.3%である。
【0025】
以上説明した低温ろう材を用いたろう付けに際して、ろう材とアルミニウム材等の反応を促進するために、フラックスを用いることが有効であるが、本発明の低温ろう材の溶融温度は380〜500℃であるため、この温度範囲(380〜500℃)に融点があるCsF−AlF系共晶系フラックスを用いてろう付け作業を行うことが有効である。
【0026】
尚、前記フラックスを加えたろう材により形成されるろう付け接合層の厚みは、冷却器の冷却能に影響を及ぼさないようにするために出来る限り薄くすることが好ましい。その冷却器の冷却能に悪影響を及ぼさない最大厚は0.2mmである。しかしながら、ある程度のろう付け層の厚みがなければ、接合に不具合を生じるので、ろう付け層の厚みは0.02mm以上でなければならない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0028】
本実施例では、まず、大気溶融により、表1に示す成分組成(残部はZnおよび不可避的不純物)のZn−Al系合金を溶解鋳造し、その鋳塊に適宜、圧延、焼鈍を繰り返すことで、厚みが0.1mmのろう材シートを作製した。
【0029】
このろう材シートとCsF−AlF系共晶系フラックスを用いることで、DBA(Direct Brazing Aluminum)とアルミニウム合金材をろう付け接合した。このろう付け接合は、接合面にCsF−AlF系共晶系フラックスを5g/m塗布し、前記ろう材シートを用いて、気圧:10MPaのチャンバー内で、470℃に2分間加熱することで実施した。
【0030】
DBAとアルミニウム合金材のろう付け接合に用いた、DBAのサイズは30mm×35mm×1.5mmtであり、二枚の1000系純アルミニウム材(30mm×35mm×0.4mmt)の間に、AlN板(30mm×35mm×0.7mmt)を挟んで形成されている。また、アルミニウム合金材は3003系アルミニウム合金材であり、そのサイズは40mm×50mm×2mmtである。
【0031】
ろう付け接合を終えた各試料を用い疲労試験を実施した。この疲労試験は、−40℃と105℃の温度環境に夫々5分毎さらす熱サイクルを3000回実施し、その試験前後のろう付け接合層の接合面積率を超音波顕微鏡で確認する試験であり、熱サイクル疲労に伴う接合面の剥離状況を評価の対象とした。疲労試験によりろう付け接合層の剥離が進行するが、試験前後の初期接合面積率と最終接合面積率が共に90%以上であるものを合格とした。試験結果を表1に示す。
【0032】
No.1〜12は全て発明例である。No.1はAlの添加量が下限に近い発明例、No.2はAlの添加量が上限に近い発明例であり、No.3はAlの添加量が好ましい下限内の発明例、No.4はAlの添加量が好ましい上限内の発明例である。
【0033】
また、No.5はCuの添加量が下限に近い発明例、No.6はCuの添加量が上限値の発明例であり、No.7はSiの添加量が下限値の発明例、No.8はSiの添加量が上限値の発明例、No.9はSiの添加量が好ましい下限内の発明例である。
【0034】
また、No.10はCuとSiの合計添加量が下限値の発明例、No.11はCuとSiの合計添加量が上限値の発明例、No.12はCuとSiの合計添加量が好ましい下限内の発明例である。
【0035】
表1に示す試験結果によると、これら発明例は全て試験前後の初期接合面積率と最終接合面積率が共に90%以上であり合格であった。また、Alの添加量が好ましい上下限内のNo.3とNo.4、Siの添加量が好ましい下限内のNo.9、CuとSiの合計添加量が好ましい下限内(CuとSiの含有量も本発明で規定する範囲の略中間値)のNo.12は、全て試験前後の初期接合面積率と最終接合面積率が共に96%以上で、特に優れた試験結果を得ることができた。
【0036】
一方、No.13〜23は全て比較例である。No.13はCuとSiが添加されていない単純なZn−Al合金でなるろう材を用いた比較例、No.14はAlの添加量が下限未満の比較例、No.15はAlの添加量が上限を超える比較例である。
【0037】
また、No.16はCuの添加量が下限未満の比較例、No.17はCuの添加量が上限を超える比較例であり、No.18はSiの添加量が下限未満の比較例、No.19はSiの添加量が上限を超える比較例である。
【0038】
また、No.20はCuとSiの合計添加量が下限未満の比較例、No.21はCuとSiの合計添加量が上限を超える比較例であり、No.22はSiが添加されずCu単独添加の比較例、No.23はCuが添加されずSi単独添加の比較例である。
【0039】
表1に示す試験結果によると、これら比較例は全て試験後の最終接合面積率が90%未満であり剥離の状況が激しく不合格であった。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Al:3.5〜13%、Cu:1〜3.5%、Si:0.4〜2.0%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物である低温ろう材であって、
CuとSiの合計含有量が、質量%で1.8〜4.3%の範囲である疲労特性に優れる低温ろう材。

【公開番号】特開2011−230163(P2011−230163A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103068(P2010−103068)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)