説明

病原性生物の多重分析検出

本発明は、病原体の予め決定された群からの病原性生物の同定のための方法であって、(i)少なくとも部分的に精製された核酸を含む臨床試料を単離する工程、(ii)上記臨床検体の少なくとも第1アリコートを、1つの反応容器内で以下の工程を含む少なくとも1回の増幅および検出反応に供する工程、(iia)前記の病原体の予め決定された群のいくつかまたは全てのメンバーから予め選択された核酸配列の領域を増幅することができる少なくとも第1のセットの増幅プライマーを使用する増幅工程、
(iib)上記の病原体の群の全てのメンバーから上記の予め選択された核酸配列の領域を共に特異的に検出することができる少なくとも2、3または複数のハイブリダイゼーション試薬を使用する検出工程であって、予め選択された温度で前記の各ハイブリダイゼーション試薬のハイブリダイゼーションをモニタリングする工程であって、上記ハイブリダイゼーションが、試料中に存在する前記病原体の少なくとも属の指標である工程、およびハイブリダイゼーションの温度依存をモニタリングする工程であって、上記温度依存が、前記病原体の少なくとも種の指標である工程を含む工程、ならびに、(iii)上記増幅及び検出反応が上記の病原体の予め選択された群の特異的なメンバーの存在の指標であるかどうかを決定する工程を含む、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、病原性微生物の検出の技術分野に関する。より具体的には、本発明は、病原性生物からの特異的な核酸配列の増幅および検出による、臨床材料中の病原性生物によって引き起こされる感染の検出の分野に関する。
【0002】
背景技術
病原性細菌による感染は、特に、敗血症を引き起こすものとなると、主に病院の集中治療室(ICU)で起こり、深刻である。患者が感染している細菌はほとんどの場合において不明であり、症状からは決定することができない。各々の細菌に、特異的な抗生物質の投与を用いた異なった治療が必要である。現在、日常的に行われる診断において、病原性細菌、特に、グラム陽性細菌は、存在する場合、血液または他の体液の試料を、細菌を培養することに供する工程を含む方法を使用して、検出されている。この培養物は、約3日の間、細菌の増殖に好ましい条件で維持される。この間に、細菌の数、したがってそれらの核酸が増大する。その後、培養培地が溶解に供される。溶解混合物は、二次的な生化学的分析または免疫学的分析のための試料として使用される。病原性細菌による試料の何らかの感染についての明確な結果に達するまでには、この方法全体に少なくともおよそ4日を要する。病原性細菌による感染は、感染者にとっては非常に深刻な問題である。感染の第1日目のうちに、治療、好ましくは、特定の感染細菌に特に作用する適切な抗生物質の投与による治療が開始されなければならない。そうでなければ、感染者は感染によりあまりに大きな影響を受けすぎて、感染についての明確な結果に達する前に死亡してしまう場合がある。一方で、全身性の事象を妨げるための数種の広範な抗生物質の同時の投与は、患者が衰弱してしまわないように避けなければならない。したがって、該方法は、日常的に行われるICUでの診断として満足できるものではない。
【0003】
特異的なハイブリダイゼーションプローブを用いる核酸に基づくハイブリダイゼーションによる、病原性細菌または病原性真菌のような病原性生物の同定は、当該分野においてすでに長い間知られている。たとえば、欧州特許第0131052号には、特定の種または特定の群の生物のリボソームリボ核酸(rRNA)配列が培養培地から直接検出される方法およびプローブが開示されている。リボソームの標的配列の検出は、これらの配列が生体内で増幅され、これによりそれぞれのアッセイで高い感度が得られるという事実から、特に有用である。
【0004】
病原性生物の核酸配列に基づく検出の改良は、PCR技術の有効性により獲得された。カンジダ属およびアスペルギルス属のような病原性真菌の検出については、たとえば、国際公開番号WO97/07238に、全ての型の真菌のリボソーム18S rDNA配列を増幅するための一般的なプライマーを使用し、その後、真菌種特異的プローブとハイブリダイズさせる方法が開示されている。
【0005】
リボソームの遺伝子配列の分析のための代替的方法として、16S rRNA遺伝子と23S rRNA遺伝子との間に存在しているITS-1領域のような、非コード配列だが転写されるリボソームスペーサーDNA配列が、いくつかの病原性生物の検出および同定に使用されている(たとえば、欧州特許第0452596号を参照)。
【0006】
別の状況では、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の群が、対立遺伝子特異的増幅手法(Klausegger,A.ら、J. Clin. Microbiol. 37(1999)464-466)と類似する標的依存性増幅によって識別されている。これらの16S rDNA配列に基づけば、Klauseggerらによって調べられた種は、全ての調べられたグラム陰性細菌が特定のヌクレオチド位置にG残基を含むのに対して、全ての調べられたグラム陽性細菌は上記のヌクレオチド位置に必ずC残基を含むという点で、16S rRNA遺伝子のある所定の位置で異なる。したがって、識別用の相補的な3'末端C残基または相補的なG残基のいずれかを有する適切なプライマーをそれぞれ使用することにより、グラム陽性配列またはグラム陰性配列のいずれかの起源のDNAの増幅が生じる。
【0007】
動的リアルタイムPCRの有効性がさらに進歩した。この種のアッセイでは、PCR産物の形成がPCRの各サイクルにおいてモニタリングされる。増幅は通常、増幅反応の間に蛍光シグナルをモニタリングするためのさらなる検出手段を有するサーモサイクラーで測定される。典型的な例は、Roche Diagnostics LightCycler(登録商標)(カタログ番号20110468)である。LightCycler(登録商標)ならびに現在市販されている他のリアルタイムPCR装置では、増幅産物は、標的核酸に結合した場合に蛍光シグナルを放射するだけの蛍光標識ハイブリダイゼーションプローブによって検出されるか、または特定の場合においては、二本鎖DNAに結合する蛍光色素によっても検出される。定義されたシグナル閾値は分析される全ての反応について決定され、この閾値に達するために必要なサイクル数(Cp)が、標的核酸について、ならびに標準またはハウスキーピング遺伝子のような参照核酸についても決定される。標的分子の絶対的または相対的なコピー数は、標的核酸および参照核酸について得られたCp値に基づいて決定することができる(Roche Diagnostics LightCycler(登録商標)操作マニュアル(カタログ番号20110468))。
【0008】
増幅されたDNAの検出のためには種々の形式がある:
【0009】
a)DNA結合色素形式
二本鎖の増幅産物の量は、通常、分析される試料中にもともと存在している核酸の量より多いので、適切な波長で励起させると、二本鎖DNAに結合している場合にのみ増強された蛍光を示す、二本鎖DNAに特異的な色素を使用することができる。かかる方法は、欧州特許第0512334号に記載されている。好ましくは、PCR反応の効率には影響を与えない、たとえば、SYBR(登録商標)Green Iのような色素だけが使用される。
【0010】
当該分野で知られている他の全ての形式には、標的核酸に結合した場合に蛍光を放射するだけの、蛍光標識ハイブリダイゼーションプローブの適切な設計が必要である。
【0011】
b)TaqMan(登録商標)プローブ
一本鎖のハイブリダイゼーションプローブは2つの成分で標識される。第1の成分、いわゆる蛍光剤が適切な波長の光で励起させられると、吸収されたエネルギーが、蛍光共鳴エネルギー転移の原理にしたがって第2の成分、いわゆる消光剤に転移させられる。PCR反応のアニーリング工程の間に、ハイブリダイゼーションプローブは標的DNAに結合し、ポリメラーゼ、たとえば、Taqポリメラーゼの5'-3'-エキソヌクレアーゼ活性によって、伸長期の間に分解される。結果として、励起させられた蛍光成分と消光剤は互いに空間的に離され、これにより第1の成分の蛍光放射を測定することができる(欧州特許第0543942号および米国特許第5,210,015号)。
【0012】
c)分子ビーコン
これらのハイブリダイゼーションプローブもまた、第1の成分と消光剤とで標識され、好ましくは、標識は、少なくとも部分的に自己相補的であるプローブの異なる末端に配置される。プローブの二次構造の結果として、両方の成分は溶液中で空間的に接近している。標的核酸へのハイブリダイゼーションの後、両方の成分は互いに離れ、その結果、適切な波長の光で励起させた後、第1の成分の蛍光放射を測定することができる(米国特許第5,118,801号)。
【0013】
d)FRETハイブリダイゼーションプローブ
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)ハイブリダイゼーションプローブ試験形式は、全ての種の相同ハイブリダイゼーションアッセイに特に有用である(Matthews,J.A.およびKricka,L.J.,Anal Biochem 169(1988)1-25)。これは、同時に使用され、(増幅された)標的核酸の同じ鎖の隣接する部位に相補的である2つの一本鎖ハイブリダイゼーションプローブによって特徴付けられる。両方のプローブが別々の蛍光成分で標識される。適切な波長の光で励起させると、第1の成分は吸収したエネルギーを、蛍光共鳴エネルギー転移の原理にしたがって第2の成分へと転移させ、その結果、第2の成分の蛍光放射が、両方のハイブリダイゼーションプローブが検出される標的分子の隣接している位置に結合している場合にのみ測定され得る。
【0014】
標的配列にアニーリングすると、ハイブリダイゼーションプローブは、頭と尾を突き合わせた状態で互いに極めて接近して存在しなければならない。通常、第1のプローブの標識された3'末端と、標識された5'末端または第2のプローブとの間のギャップは可能な限り小さい、すなわち、1〜5塩基である。これにより、FRETドナー化合物とFRETアクセプター化合物とが非常に接近することができ、典型的には10〜100オングストロームである。詳細は周知であり、たとえば、欧州特許第0070687号に開示されている。
【0015】
FRETアクセプター成分の蛍光の増大をモニタリングする代わりに、ハイブリダイゼーション事象の定量的測定として、FRETドナー成分の蛍光の減少をモニタリングすることもまた可能である。
【0016】
具体的には、増幅された標的DNAを検出するために、FRETハイブリダイゼーションプローブ形式をリアルタイムPCRにおいて使用することができる。当該分野で公知であるリアルタイムPCRの全ての検出形式の中でも、FRETハイブリダイゼーションプローブ形式は高感度であり、正確であり、確実であることが証明されている(国際公開番号WO97/46707;同WO97/46712;同WO97/46714)。なお、適切なFRETハイブリダイゼーションプローブ配列の設計は、検出される標的核酸配列の特別な性質によって制限される場合もある。
【0017】
2つのFRETハイブリダイゼーションプローブを使用する代わりに、蛍光標識プライマーを使用すること、および1種類だけの標識オリゴヌクレオチドプローブを使用することも可能である(Bernard,P.S.ら、Anal.Biochem. 255(1998)101-7)。これに関しては、プライマーをFRETドナー化合物またはFRETアクセプター化合物で標識するかどうかを、適宜選択することができる。
【0018】
FRETハイブリダイゼーションプローブ(FRET-HybprobeまたはFRETプローブとも呼ばれる)もまた、融解曲線分析に使用することができる(国際公開番号WO97/46707;同WO97/46712;同WO97/46714)。かかるアッセイでは、標的核酸が、最初に適切な増幅プライマーを用いた通常のPCR反応で増幅される。ハイブリダイゼーションプローブは増幅反応の間にすでに存在していてもよく、またはその後に加えられてもよい。PCR反応の完了後、試料の温度が構成的に上昇させられる。ハイブリダイゼーションプローブが標的DNAに結合している限りは、蛍光が検出される。融解温度では、ハイブリダイゼーションプローブがそれらの標的から遊離し、蛍光シグナルがバックグラウンドのレベルにまで直ちに下がる。この低下を、適切な蛍光対温度−時間プロットでモニタリングし、その結果、一次導関数のネガティブを計算することができる。次いで、得られたかかる関数の最大に対応する温度値が、FRETハイブリダイゼーションプローブの上記の対についての決定された融解温度として採用される。
【0019】
標的核酸内での点突然変異または多形は、標的核酸とFRETプローブとの間で100%未満の相補性を生じ、これにより融解温度の低下が生じる。これにより、その後に、プールの異なるメンバーを、融解曲線分析を行うことにより識別し得るが、FRET-Hybprobeハイブリダイゼーションにより配列バリアントのプールの一般的な検出が可能である。FRETハイブリダイゼーションプローブの代わりに、分子ビーコンが融解曲線分析に使用される場合もある。
【0020】
リアルタイムPCRおよび相同リアルタイムPCR融解曲線分析の有効性については、特定の型の種または株の識別が、SybrGreen(登録商標)Iのような二本鎖DNA結合色素、あるいは、異なるが類似している標的配列にハイブリダイズする特別に設計されたハイブリダイゼーションプローブのいずれかを使用することで可能になった。
【0021】
第1の場合では、生じた二本鎖PCR産物の融解温度を決定しなければならない。さらに、この方法は適用が限られている。なぜなら、重要ではない配列のバリエーションによって微妙な融解温度の差が生じるだけなので、差を効率よくモニタリングすることができないからである。成功例が、Woo, T. H.,ら、J. Microbiol. Methods 35(1999)23-30によって開示されており、彼らは、種々のレプトスピラ種のDNAを起源とする非特異的増幅産物からLeptospira biflexa株を識別するために、Leptospira biflexaの16S rDNA配列の増幅、その後にSybrGreen(登録商標)IをDNA結合色素として使用して融解曲線分析を行った。
【0022】
あるいは、ハイブリダイゼーションプローブを、プローブ/標的核酸のハイブリッドの融解温度が決定されるような方法で使用することもできる。たとえば、Espy, M. J.,ら、J. Clin. Microbiol. 38(2000)795-799は、単純ヘルペスの配列を増幅し、その後にFRETハイブリダイゼーションプローブを使用して分析して、HSV I遺伝子型とHSV II遺伝子型とを区別することによる、単純ヘルペス感染の診断を開示している。
【0023】
さらに、国際公開番号WO01/48237は、種々の病原性の種を検出するために増幅と温度依存ハイブリダイゼーションとの関連を一般的に示唆している。しかし、国際公開番号WO01/48237は、病原性生物の排他的な検出が可能であり、いかなる非病原性生物も検出しない方法または条件については何ら教示してはいない。
【0024】
さらに、特定の細菌種の生体外での増幅、その後の上記細菌の検出を含む現在使用されている方法は、至急診断することが必要とされる場合、たとえば、ICUでは有用ではない。なぜなら、各々の細菌について増幅反応と検出反応とを行わなければならないからである。これには、多量の試料体積、たとえば、血液をそれぞれの患者から採取することが必要である。ICUでは、重症の感染患者から多量の試料を得ることはできない。
【0025】
したがって、目的の該当する病原性生物をできる限り少量で検出するために特に適用できる方法を提供することが、当該分野で必要とされている。具体的には、全ての該当する病原性グラム陽性細菌を検出することができるが、同時に類似している非病原性のグラム陽性細菌は検出しない方法が当該分野で必要とされている。特に、どの病原性の属および/または種が試料中に存在するのかを決定することが必要とされている。
【0026】
発明の簡潔な説明
上記で開示された課題は、本出願に開示され、請求される方法および化合物によって解決される。
【0027】
一般に、本発明は、病原体の予め決定された群からの病原性生物の同定のための方法であって、
a)少なくとも部分的に精製された核酸を含む臨床試料を単離する工程、
b)上記臨床検体の少なくとも第1アリコートを、1つの反応容器内で以下の工程を含む少なくとも1回の増幅および検出反応に供する工程:
ba)前記の病原体の予め決定された群のいくつかまたは全てのメンバーから予め選択された核酸配列の領域を増幅することができる少なくとも第1のセットの増幅プライマーを使用する増幅工程、
bb)上記の病原体の群の全てのメンバーから上記の予め選択された核酸配列の領域を共に特異的に検出することができる少なくとも2、3または複数のハイブリダイゼーション試薬を使用する検出工程であって、
bba)予め選択された温度で前記の各ハイブリダイゼーション試薬のハイブリダイゼーションをモニタリングする工程であって、上記ハイブリダイゼーションが、試料中に存在する前記病原体の少なくとも属の指標である工程、および
bbb)ハイブリダイゼーションの温度依存をモニタリングする工程であって、上記温度依存が、前記病原体の少なくとも種の指標である工程
を含む工程、
を含む、方法に関する。
【0028】
本発明はまた、上記に開示された方法を行うために適切な組成物に関する。
【0029】
さらに、本発明は、上記に開示された方法を行うために適切なキットに関する。
【0030】
発明の詳細な説明
本発明は、病原性生物の感染の診断に特に適切な方法および化合物を提供する。これに関して、患者が感染を有していると疑われる場合には、本発明は、上記病原性生物の種を決定するための手段を提供する。さらに、本発明による新規の方法は、特に、LightCycler(登録商標)システムのようなリアルタイムPCR技術と組み合わせられた場合に、敗血症を引き起こす感染性因子の迅速な診断を可能にする。このような迅速な診断は多くの臨床環境において極めて重要である。
【0031】
したがって、本発明は、一般に、病原体の予め決定された群からの病原性生物の同定のための方法であって、
a)少なくとも部分的に精製された核酸を含む臨床試料を単離する工程、
b)上記臨床検体の少なくとも第1アリコートを、1つの反応容器内で以下の工程を含む少なくとも1回の増幅および検出反応に供する工程:
ba)前記の病原体の予め決定された群のいくつかまたは全てのメンバーから予め選択された核酸配列の領域を増幅することができる少なくとも第1のセットの増幅プライマーを使用する増幅工程、
bb)上記の病原体の群の全てのメンバーから上記の予め選択された核酸配列の領域を共に特異的に検出することができる少なくとも2、3または複数のハイブリダイゼーション試薬を使用する検出工程であって、
bba)予め選択された温度で前記の各ハイブリダイゼーション試薬のハイブリダイゼーションをモニタリングする工程であって、上記ハイブリダイゼーションが、試料中に存在する前記病原体の少なくとも属の指標である工程、および
bbb)ハイブリダイゼーションの温度依存をモニタリングする工程であって、上記温度依存が、前記病原体の少なくとも種の指標である工程
を含む工程、
を含む、方法に関する。
【0032】
請求される方法の種々の工程の定義とは無関係に、工程a)、b)、およびc)は好ましくは、順に連続して行われる。さらなる工程を、各工程の前、2つの工程の間、または各工程の後に行うこともできる。
【0033】
本発明の方法の出発材料は、病原性生物を含むと疑われる臨床試料である。このような臨床試料の例は、全血、血清、血しょう、および脳脊髄液である。出発材料はヒトに起源することが好ましい。
【0034】
工程a)は常に最初に行われ、当該分野で任意の公知の方法にしたがって行うことができる。本明細書では、「臨床材料」は、患者から得られ得る任意の種類の細胞性または非細胞性材料を含む試料に由来する材料、即ち体液またはさらに組織と理解される。好ましくは、臨床材料は、全血、血清、血漿、または脳脊髄液のいずれかに由来する。
【0035】
具体的には、核酸は、もともとの試料中に存在しているタンパク質および糖とは分離される。当該分野で公知の任意の精製方法を、本発明の状況において使用することができる。しかしながら、好ましくは、分析される全DNAの本質的に全体的な精製を生じる方法が適用される。少なくとも、精製は、さらに実質的に希釈することなく、試料のアリコート中の核酸配列をPCRのような生体外での増幅においてうまく増幅することができる程度にまで行われる必要がある。精製においては、ポリメラーゼを阻害するあらゆる化合物が核酸から除去される。
【0036】
増幅は、インビトロ方法、好ましくはPCR(EP 201184)を用いて行われる。以下において、PCRに言及がなされるが、他のインビトロ増幅方法も適切であることが理解される。
【0037】
工程b)は、異成分を含まない(heterogenous)実施形態または異成分を含む(homogenous)実施形態の両方を含む。異成分を含まない実施形態において、増幅工程ba)は、最初に行われる。続いて、任意にさらなる検出試薬を補充する工程を含んで、工程bb)が行われる。
【0038】
異成分を含む(homogenous)実施形態において、増幅及び検出工程の両方に関する試薬は、好ましくは増幅工程ba)の開始に先立って試料に既に添加される。いくつかの場合において、工程ba)及び工程bba)は、平行して行われうる。即ち、ハイブリダイゼーションのモニタリングが、好ましくは実行される各サーモサイクルの間または各サーモサイクル後、または少なくともいくつかのサーモサイクル後にリアルタイムで行われる。この場合、前記工程bba)の予め選択された温度は、たいてい、PCRサーモサイクルプロトコルのアニーリング温度と同一であるかまたは非常によく似ている。
【0039】
工程bba)及びbbb)は、たいてい、初めにハイブリダイゼーション事象自身を予め選択された温度でモニターする方法で共に行われる。次に、プローブ/標的ハイブリッドが溶解されている温度を決定するために、温度を構成的に上昇させる。換言すれば、融解曲線分析が行われる。
【0040】
増幅反応の間に既にリアルタイムでハイブリダイゼーションがモニターされる場合、予め選択された温度でハイブリダイゼーションシグナルを見出すことが可能でないならば、融解曲線分析の実行は、省略され得る。
【0041】
本発明の文脈において、上記で使用された特定の用語は以下のように定義される。
【0042】
用語「病原性生物の同定」は、病原性生物の予め決定された群またはサブグループに含まれる種の中の特定の種または株または分離株が試料中に存在するかどうかを決定するための方法を記載するために使用される。同定による産出物または同定の結果は、種の名称である。これにより、続いて、選択的な抗生物質での治療の適切な選択が可能になる。
【0043】
用語「病原性生物の予め決定された群」は、特定の作業のための目的である病原性生物から構成される病原性生物の予め決定された群を記載するために使用される。好ましくは、病原性生物の予め決定された群は、所定の臨床環境下において臨床的に関連している全ての病原性生物の群であり得、増幅されるそれぞれのゲノム配列は当該分野で実質的に公知である。
【0044】
たとえば、そのような予め決定された群には、2種類以上の属の臨床的に関連しているメンバーが含まれる場合がある。あるいは、特定の属の全ての既知の臨床的に関連しているメンバーが、このような予め決定された群を構成する場合もある。あるいは、特定の種の全ての既知の臨床的に関連しているメンバーまたは株または分離株が、このような予め決定された群を構成する場合もある。予め決定された群にはまた、他の属または種に由来する株と混合された、異なる属の分類学上のサブグループが含まれる場合もある。
【0045】
用語「特異的」は、対象が特定の、および定義された結果についてのみに関する、対象の特徴(たとえば、方法、工程、または試薬において)を記載するために使用される。たとえば、特定の種の検出のための方法が、他の種ではなくこの種だけが検出される場合に特異的であるとみなされる。標的とのプローブの特異的なハイブリダイゼーションは、プローブと標的との間でのみ生じ、他の核酸との間では生じないハイブリダイゼーションである。換言すれば、本発明は、他の公知の、属または種の非病原性メンバーは決して検出されないにも関わらず、前記属または前記種の全ての病原性メンバーの選択的検出を可能にする。
【0046】
本文脈においては、本発明の方法全体が、生物の同定に関して実質的に特異的であることが好ましい。予め決定された群またはサブグループのメンバーではない生物は同定されないことが好ましい。なぜなら、試薬を用いて行われる工程は、その群には属さない生物を検出しないように調整されるからである。このことは、方法全体の1つ1つの工程が特異的であることを必ずしも意味するものではないが、そうであることもありえる。たとえば、増幅プライマーが同定される生物に特異的ではないように選択される(そのようなプライマーを同定されない生物の核酸を増幅するために使用することができる)場合には、工程ba)は非特異的であり得る。その結果、方法全体の特異性は、特異的である検出工程、たとえば、工程bbb)の1つ以上の部分を選択することによって達成することができる。例として、本発明には、工程bba)では予め決定された群のメンバーの核酸との、さらには試料中または/および工程ba)で増幅された非標的核酸とのハイブリダイゼーション試薬のハイブリダイゼーションにより陽性のシグナルが生じるが、工程bbb)において温度依存をモニターすることによって、非標的核酸の実体とは無関係に、予め決定された群のメンバーの種の実態のみが証明される実施形態が含まれる。
【0047】
当該分野で公知の方法と比較した主な利点としては、第1に、本発明により、細菌属または種の病原性のメンバーの選択的な同定が可能になり、一方、上記属または上記種の他の既知の非病原性のメンバーは同定されない。
【0048】
分析される臨床材料が新規のわずかに異なる標的配列を有している新規のこれまでには知られていない株を含む場合には、本発明の新規の方法により、擬陽性または擬陰性のいずれかの結果を時おり生じることに注意することが重要である。未知の非病原性生物が増幅され、検出される場合には、工程bba)の結果が擬陽性になる。さらにこの場合には、擬陽性の結果は請求される方法の工程bbb)で、すなわち、ハイブリダイゼーションの温度依存をモニターする間に検出され得る。この場合、既知の病原性生物の温度依存と工程bbb)の温度依存との比較は、生物が予め決定された群の種には属さないこと、すなわち、工程c)の結果が陰性であることを示す。未知の病原性生物が増幅も検出もされない場合は、結果は擬陰性である。さらに、これまでに本発明者らによって行われた臨床分離株についての全ての研究によれば、これらの場合は非常に稀であり、加えて、当該分野で公知の任意の他の類似の方法によって回避することもできない。
【0049】
用語「病原性生物の予め決定されたサブグループ」は、病原性生物の予め決定された群の一部または全体を記載するために使用される。好ましくは、予め決定されたサブグループは、全ての病原性生物のごく小さい部分であり、さらに好ましくは、主に病院において発生する病原体である。群およびサブグループのメンバーは1つの属から選択することができるが、異なる属から選択することもできる。予め決定された群が全ての病原性および臨床的に関連している属のメンバーによって示される場合は、それぞれのサブグループには特定の種の全てのそれぞれの病原性メンバーが含まれる場合がある。同様に、上記の予め決定された群が特定の種の全ての臨床的に関連しているメンバーから構成される場合には、サブグループが特異的な株の全てのメンバーから構成される場合もある。
【0050】
用語「増幅および検出反応」は、核酸配列のプールから1種以上の標的配列を増幅するための1以上の「増幅工程」と、増幅産物の実体を明らかにするための1以上の「検出工程」とを含む、任意の種類のインビトロでの方法を意味するものとする。
【0051】
用語「増幅工程」は、DNAを含む試料からの核酸の増幅反応のための正方向プライマーと逆方向プライマーとを使用して、標的配列(もし臨床材料中に存在する場合には)を増幅する1の反応または一連の反応を意味するものとする。上記増幅工程の特異性は、選択された群に依存し、そして使用するプライマーの特異性によって支配される。好ましくは、増幅は、熱安定性DNAポリメラーゼを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得られる。1つの実施形態では、増幅は通常、細菌について特異的である;すなわち、ウイルスは実質的な量には増幅されない。
【0052】
好ましくは、増幅工程は、サブグループのメンバーについて特異的である。好ましい実施形態では、増幅は、同定される種が属している属に特異的である。
【0053】
用語「検出工程」は、標的核酸に対するハイブリダイゼーション試薬のハイブリダイゼーションの温度依存をモニターすることを含む、適切なハイブリダイゼーション試薬とのハイブリダイゼーションによって増幅産物が検出されることを意味するものとする。増幅および検出は、必ずしも別々である必要はなく、連続して行われる必要もなく、同時に行うことが可能である。
【0054】
用語「予め選択された核酸配列の領域」は、増幅され、検出されることが意図される全ての生物のDNA中に存在する明確な標的核酸の領域を意味するものとする。実施形態によっては、種々の生物の配列の間にいくつかの配列のバリエーションが存在する場合がある。言い換えると、増幅されるものは、常に、それぞれの生物の同じ遺伝子または同じ相同配列である。
【0055】
予め選択された核酸配列領域が検出されるべき標的生物のゲノム中に複数のコピーで存在する場合が、有利であることが証明されている。例えば、かかる複数コピーの核酸配列領域は、5s RNA遺伝子、16S rRNA遺伝子および23S rRNA遺伝子などのリボソームRNAをコードする遺伝子、および数種の型のtRNAをコードする遺伝子によって表される。その他の優れた、予め選択された核酸配列領域は、rDNA遺伝子クラスターの転写領域および非転写スペーサー領域である。
【0056】
これに関して、予め選択された核酸配列領域が、16S rRNA遺伝子のコピーと23S rRNA遺伝子のコピーとの間(ITS-1領域)に常に位置する内部転写スペーサー領域Iに対応する場合が、特に有利であることが発明者により証明されている。この領域は、進化的に保存されている配列および超可変的な配列を含み、そのため属および種に特異的なプライマーならびにプローブの両方を柔軟に設計することができる。病原性真菌などの真核生物において、18s rDNAと26s rDNAとの間に相似した転写スペーサー領域が存在する。
【0057】
さらに好ましくは、予め選択された核酸配列の領域には、増幅される生物の16S/23Sまたは18s/26sスペーサー領域に由来する少なくとも20、なおさらに好ましくは40を超える連続する核酸塩基の部分が含まれる。この領域には、進化の過程で保存されてきた、さらには超可変の配列が含まれる。これにより、属および種特異的プライマーおよびプローブの両方を自由に設計することができる。この領域は、核酸上のプライマー結合部位によって定義される領域に含まれる。
【0058】
用語「病原性」は、ヒトがその細菌に感染した場合に、細菌がヒトの健康状態に影響を与え得ることを意味している。特に、本発明は、敗血症を引き起こす細菌および真菌の同定に関する。
【0059】
用語「増幅プライマーのセット」は、当然、少なくとも2つの(伸張可能な)オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド誘導体、すなわち、標的核酸の第一鎖に結合する少なくとも1つの(正方向)プライマーと、増幅される標的配列の反対方向の鎖に結合する少なくとも1つの第2(逆方向)プライマーを意味するものとする。さらに、プライマーの位置は、それぞれのプライマーの温度依存の伸張により、もう一方のプライマーがハイブリダイズできるプライマー結合部位を含む伸張産物を生じるように設計される。
【0060】
ほとんどの場合は、1つの正方向プライマーと1つの逆方向プライマーから構成される2つの増幅プライマーの対を使用することで十分である。しかし、時として、同定される種々の病原体の種々の配列のプライマー結合部位の配列中にいくつかの小さな配列の変異が存在する場合もある。したがって、1つの正方向プライマーと1つの逆方向プライマーを使用するだけでは全てのメンバーの配列を増幅することができない場合がある。そのような場合には、増幅プライマーのセットは、1つ、2つ、もしくはそれ以上の正方向プライマー、および/または1、2、もしくはそれ以上の逆方向プライマーから構成される場合がある。これらのプライマーは類似しており、相同配列に結合するが、1つ、2つ、3つ、またはいくつかの1ヌクレオチド−、2ヌクレオチド−、または3ヌクレオチドの置換、欠失、または付加によって互いに異なる。
【0061】
さらに、種々の予め選択された核酸配列の領域を増幅することができる2つ、3つ、または複数のセットの増幅プライマーが使用される場合もまた、本発明の範囲内である。この場合には、上記の種々の予め選択された核酸配列は、配列に関して必ずしも互いに関係している必要はない。さらに、種々の予め選択された核酸配列の領域が少なくとも部分的にまたはほとんど完全に重複している場合もまた、本発明の範囲内である。
【0062】
一般的には、増幅プライマーの設計は、増幅される病原性細菌の予め選択された標的核酸配列の領域に関して入手することができる配列情報、ならびに、増幅されてはならないそれらの生物の相同配列に関して入手することができる配列情報に基づいて行うことができる。より正確には、増幅プライマーのセット(単数または複数)は、病原性生物の選択された予め決定された群の全ての標的核酸配列に関する相補性が最大となり、一方、全ての他の選択されていない生物、すなわち、予め決定された群には属さないかまたは病原性ではない生物の核酸配列に関する配列相補性が最小となるように選択される。
【0063】
用語「ハイブリダイゼーション試薬」は、予め選択された核酸配列の領域内での工程bb)の増幅の産物、すなわち、アンプリコン(単数または複数)の少なくとも一つの鎖にハイブリダイズできる試薬を記載するために使用される。この試薬には、1つ以上のプローブが含まれ、これは、一本鎖であるか、またはハイブリダイゼーションの前に一本鎖にされることが好ましい。好ましくは、この試薬は、通常、二本鎖の増幅された標的核酸の一つの鎖にハイブリダイズできる1つまたは2つの核酸を含む、一本鎖の核酸ハイブリダイゼーションプローブシステムである。検出形式の型によっては、ハイブリダイゼーション試薬が検出可能な部分で適切に標識されている場合がほとんどの場合において有利であり、その結果、上記標識の検出により、アンプリコン/ハイブリダイゼーション試薬のハイブリッドを検出することができる。
【0064】
好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーション試薬は、ハイブリダイゼーションが市販されているリアルタイムPCR装置で検出できるように、蛍光部分で標識される。このために有用な試薬は、増幅されたDNAの検出のための種々の形式を記載している上記の文献において開示されている。
【0065】
ハイブリダイゼーション試薬は、簡単な場合には、オリゴヌクレオチドプローブでもよい。たとえば、分子ビーコン形式(米国特許第5,118,801号)を用いてもよい。あるいは、適切な一本鎖標識オリゴヌクレオチドを使用することも可能である(国際公開番号WO02/14555)これらの参考文献は、試薬および検出プロセスに関するそれらの内容を組み入れるために引用される。
【0066】
さらに好ましくは、ハイブリダイゼーション試薬は、上記に開示されているような(国際公開番号WO97/46707;同WO97/46712;同WO97/46714)FRET-Hybprobe検出形式に従ってそれらが互いに作用することができるように適切に標識された、2つの隣接してハイブリダイズするオリゴヌクレオチドから構成される。
【0067】
さらに好ましくは、ハイブリダイゼーション試薬は、上記に開示されているような(国際公開番号WO97/46707;同WO97/46712;同WO97/46714)FRET-Hybprobe検出形式に従ってそれらが互いに作用することができるように適切に標識された、2つの隣接してハイブリダイズするオリゴヌクレオチドから構成される。多くの場合、ハイブリダイゼーション試薬が単一のオリゴヌクレオチドから構成されているか、またはFRETハイブプローブ(hybprobe)形式の場合、ドナープローブおよびアクセプタープローブとして共に作用するオリゴヌクレオチド対から構成されていれば充分である。さらに、他の場合、検出される必要のある種々の真菌病原性細菌の標的配列には、多くの他の配列変異が存在し得る。従って、1つのオリゴヌクレオチドのみをプローブとして使用して、またはFRETオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブの1対のみを使用して、全てのメンバーの配列を検出することは不可能であるかもしれない。
【0068】
これらの場合、ハイブリダイゼーション試薬は、1、2またはそれ以上のハイブリダイゼーションプローブから構成され得る。これらは類似しており、相同配列に結合するが、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の1ヌクレオチド−、2ヌクレオチド−、または3ヌクレオチドの置換、欠失、または付加によって互いに異なる。ハイブリダイゼーション試薬がFRETハイブリダイゼーションプローブの1対である場合、該ハイブリダイゼーション試薬は1、2、3、もしくはそれ以上のFRETドナーオリゴヌクレオチドプローブおよび/または1、2、3、もしくはそれ以上のアクセプターオリゴヌクレオチドプローブで構成され得る。この場合、全てのドナープローブは類似し得るが、1ヌクレオチド−、2ヌクレオチド−、または3ヌクレオチドの置換、欠失、または付加によって互いに異なる。同様に、全てのアクセプタープローブは類似し、1ヌクレオチド−、2ヌクレオチド−、または3ヌクレオチドの置換、欠失、または付加によって互いに異なる。
【0069】
1のハイブリダイゼーション試薬を使用する態様に加えて、本発明はまた、2、3、4または複数のハイブリダイゼーション試薬を使用する態様にも関することが強く明示される。その場合、ハイブリダイゼーション試薬のそれぞれが、検出され得る異なる実体、例えば、異なる蛍光化合物で標識されるならば、異なるハイブリダイゼーションシグナルの区別をすることができる。ハイブリダイゼーション標的配列は互いに関連する必要性はない。更に、標的配列が少なくとも部分的にまたはほぼ完全に重複する場合もまた、本発明の範囲内である。
【0070】
FRETハイブプローブ(hybprobe)形式に基づいて複数のハイブリダイゼーション試薬を使用する場合、単一の励起源のみが利用可能であり得る。そのため、FRETハイブリダイゼーションプローブの各対について、共通のFRETドナー色素および異なるアクセプター色素を有することが好ましい。例えば、LC-Red 640 (Roche Applied Science), LC-Red 705 (Roche Applied Science), Cy5もしくはCy5.5 (Amersham) などの多数のFRETアクセプター色素との相互作用が可能であるフルオレセインまたはフルオレセイン誘導体は、一般的なFRETドナー色素として使用され得る。特定の態様はFRETハイブリダイゼーションプローブ形式に基づいた方法に関し、ここで複数のハイブリダイゼーション試薬のそれぞれは同一の配列および同一の標識(例えばフルオレセインなど)を有する同一のFRETドナープローブを含み、ここで、ハイブリダイゼーションプローブのそれぞれは、様々なフルオロフォア(fluorophor)でそれぞれ標識された様々なアクセプタープローブを含む。
【0071】
さらに、本文脈においては、用語「FRET対」は、FRETプロセスを作成するようにともに作用する蛍光標識の対として定義される。すなわち、これはFRETドナー部分とFRETアクセプター部分から構成される。
【0072】
増幅プライマーのセットの設計と同様に、ハイブリダイゼーション試薬または複数のハイブリダイゼーション試薬の設計もまた、増幅され検出される予め選択された標的核酸配列に関して入手することができる全ての配列情報、ならびに、検出されるべきでない病原性生物の相同配列に関して入手することができる全ての配列情報に基づいて行うことができる。より正確には、ハイブリダイゼーション試薬(単数または複数)の配列は、病原性生物の選択された予め決定された群の全ての標的核酸配列に関する配列相補性が最大となり、一方、全ての他の選択されていない生物の全ての相同核酸配列に関する配列相補性が最小となるように選択される。
【0073】
さらに、ハイブリダイゼーション試薬の設計には、ハイブリダイゼーションの温度依存をモニターすることに基づいていくつかの標的配列のバリエーションを識別することが可能であることを考慮する必要がある。本発明には、種々の病原性生物を起源とする種々の標的配列変異体に対するハイブリダイゼーション試薬のハイブリダイゼーションのための種々の融解温度が必要である。したがって、本発明のハイブリダイゼーション試薬の配列は、種々のハイブリダイゼーション試薬/標的配列のハイブリッドの計算された融解温度(当該分野で公知の方法によって計算される)が、互いに少なくとも2℃、好ましくは4℃、最も好ましくは少なくとも6℃異なるように設計される。
【0074】
まとめると、本発明は、特定の予め決定された群に属している特定のサブグループの属の全ての病原性のメンバーを検出することを特徴とする、サブグループ、好ましくは、属特異的ハイブリダイゼーション試薬の設計の可能性を提供する。あるいは、特定の予め決定された群に属している特定の種の全ての病原性株の検出が可能である、種または株特異的ハイブリダイゼーション試薬を設計することができる。
【0075】
用語「ハイブリダイゼーションの温度依存をモニタリングすること」とは、標的核酸と共に形成されているハイブリダイゼーション複合体から、プローブが解離する融解温度が決定されることを意味する。ハイブリッドの融解温度(Tm)は、ハイブリダイゼーション対温度シグナルのプロットの一次導関数が最大に達する温度として定義される。Tmは、鎖の相補性によって変化するハイブリッドの性質である。
【0076】
この文脈では、ハイブリッドの融解温度(Tm)が実際の標的核酸配列自体とは無関係にいくつかの要因、たとえば、塩濃度、プローブの長さおよびGC含量によって変化することに注意することが重要である。なおさらに、融解温度は不適合の数、すなわち、プローブと標的配列との間の相補性の程度に強く依存する。結果として、種々の融解温度が、異なる種の異なる株、または異なる属の異なる種において見られ得る標的配列の異なるバリアントについて得られる。従って、適切なプローブの設計を用いることにより、1つの型のハイブリダイゼーション試薬を、ハイブリダイゼーションの温度依存をモニターすることにより、予め選択された生物の群の全てのメンバーの検出、および上記メンバーの識別の両方に使用することができる。
【0077】
ハイブリダイゼーションの温度依存が融解曲線分析により決定される場合が、特に有利であることが証明されている。さらに正確には、増幅反応後、PCR産物(ハイブリダイゼーション試薬の存在下で)が第1の温度、たとえば、90〜100℃で変性させられ、その後、第2の温度にまで冷却される。上記第2の温度は、PCRプロトコールのアニーリング温度より低いかまたは類似している。その後、温度は0.01〜10℃/sの間、好ましくは、0.1〜2℃/s、最も好ましくは、0.1〜0.5℃/sの速度で上昇させられる。
【0078】
用語「少なくとも属の指標である」は、ハイブリダイゼーションシグナルが工程bba)で生じた場合に、特定の属の病原性生物が、それぞれ、患者から回収された試料中に存在する可能性があることを工程c)において結論付けることができることを意味するものとする。増幅プライマーのセット(単数または複数)の設計(たとえば、配列)によって、さらには、ハイブリダイゼーション試薬(単数または複数)の設計によっては、異なるハイブリダイゼーション試薬のシグナルから得られるハイブリダイゼーションシグナルが、さらに、検出される病原性生物の種についての指標である場合もある。好ましくは、工程bba)によって決定されるハイブリダイゼーションシグナルは、予め決定された群のメンバーの1つの存在についての疑いのない指標であるが、どのメンバーが存在するのかを知ることを、必ずしも直接可能にするものではない。
【0079】
用語「少なくとも種についての指標である」は、工程bbb)でモニターされたハイブリダイゼーションの温度依存のモニタリングの結果に基づいて、どの病原性の種が臨床試料中に存在するかを、工程c)において疑いなく結論付けることができることを意味するものとする。増幅プライマーのセット(単数または複数)の設計およびハイブリダイゼーション試薬(単数または複数)の設計に応じて、ハイブリダイゼーションの温度依存をモニターすることによって得られたデータが、それぞれの病原性生物の種、またさらには特定の株の実体についての指標となる。試料が標的配列と類似しているかまたはそれと同一である非標的配列を含み得る場合であっても、これらは増幅されない。なぜなら、これらのプライマーは非標的領域を増幅するには適切ではないからである。
【0080】
まとめると、本発明は、プライマー対の1つまたはいくつかの適切なセットを使用する最初の増幅工程において、目的の全ての病原性生物の配列が増幅され、続いて、適切なハイブリダイゼーション試薬によって検出される、病原性生物の同定のための方法を提供する。適切なプライマーおよびプローブの設計のおかげで、非病原性の細菌生物の配列は増幅されないか、または検出されないか、または増幅されるが検出されないかのいずれかである。異なるハイブリダイゼーション試薬を用いたハイブリダイゼーションが生じる場合には、これは、少なくとも感染因子の属についての指標となる。
【0081】
続いて、温度依存の蛍光のモニターが、たとえば、試料の温度を連続的に上昇させ、標的核酸とハイブリダイゼーション試薬との間で融解が生じる温度を決定する形式で行われる。モニターされた融解温度は、少なくとも種についての指標となるか、またさらには、もとの試料中に存在しているそれぞれの病原体の亜種または株についての指標となる。
【0082】
本文脈において、ハイブリッドの融解温度(Tm)は、当該分野における通常通りに規定される、すなわち、ハイブリダイゼーション対温度のプロットの一次導関数が最大に達する温度として規定される。Tmは、鎖の相補性に依存するハイブリッドの性質である。
【0083】
感染の検出のために十分な感度を得るために、本発明の方法の工程aには、通常、もともとの試料から核酸を少なくとも部分的に精製することが含まれる。単離される核酸はRNAまたはDNAまたはそれらの混合物のいずれかであり得る。本発明の最も好ましい実施形態は病原性生物の最終的な同定に細菌DNAを使用するので、臨床材料がRNAを含むことは必要ではない。したがって、臨床試料からRNAを部分的に、またはさらに完全に排他的に単離する必要はない。陽性対照を用いてシグナルを入手することが必要である場合には、臨床試料からのDNAの単離で十分であり完璧であるはずである。
【0084】
工程a)の結果物は、通常は、もともとの臨床試料に由来する核酸と、さらに、緩衝液のような単離工程の間に添加されたさらなる試薬を含む流体である。工程b)では、臨床試料またはその一部が1回以上の増幅反応に供される。増幅および検出反応には、1回以上の工程が含まれ得る。増幅反応および検出反応のいずれもが当該分野で公知である。増幅は、生体外での方法、好ましくはPCR(欧州特許第0201184号)を使用して行われる。以下ではPCRについて言及するが、他の生体外での方法もまた適切であることが理解される。増幅反応の結果は、一方のプライマーの5'末端位置から他方のプライマーの5'末端位置にまで達する配列を大部分が有している、多量の上記プライマーの伸張産物の生産である。生産されたこれらの核酸は、通常「アンプリコン」と呼ばれる。
【0085】
臨床材料中に存在している可能性がある阻害性の残留成分による擬陰性の結果を回避するため、および定量の目的のためには、内部対照の鋳型を加えれば特に効果的であることが証明されている。通常は、上記の対照鋳型は、検出される標的核酸配列の増幅に使用される増幅プライマーの少なくとも1つのセットに相補的なプライマー結合部位を有している既知の配列を含む。結果として、上記増幅プライマーのセットは対照鋳型の上記の選択された配列の増幅をプライミングすることができる。特に定量についての内部標準の使用の詳細は、欧州特許第0497784号に開示されている。
【0086】
本発明の方法は、10から100μlの間の容量の臨床材料のアリコートを使用して行われる場合が効果的であると証明されている。したがって、本発明の方法は、全血または血清のような臨床試料がごく少量しか入手できない場合にも、十分な感度をもって行うことができる。
【0087】
なお、最後に、本発明の方法または当該分野で公知の任意の他の方法の結果は、臨床材料中に存在するヒトのゲノムDNAの高いバックグラウンドによって影響を受ける場合がある。この場合は、国際公開番号WO01/94634に記載されている予備増幅工程を行うことができる。この工程は、ヒト以外のDNA配列が選択的に増幅されることを特徴とする。
【0088】
工程b)について既に上記したように、本発明は、広い範囲の病原性生物を検出するために、少なくとも第1および第2の、または、あるいは、第1、第2および第3、または更には第1、第2、第3および第4のハイブリダイゼーション試薬を使用する態様に関する。好ましくは、ハイブリダイゼーション試薬のそれぞれは、異なる標識、優先的には蛍光標識を所有する。従って、本発明によれば、多様なアプローチの一種において、工程ba)間に全てのハイブリダイゼーション試薬が既に存在し得るため、1つの反応容器内の多数の病原性細菌の検出が可能となる。
【0089】
臨床材料中に存在している可能性がある阻害性の残留成分による擬陰性の結果を回避するためには、内部対照の鋳型を加えれば特に効果的であることが証明されている。通常は、上記の対照鋳型は、検出される標的核酸配列の増幅に使用される増幅プライマーの少なくとも1つのセットに相補的なプライマー結合部位を有している選択された配列を含む。結果として、上記増幅プライマーのセットはまた、対照鋳型の上記の選択された配列の増幅をプライミングすることができる。
【0090】
工程b)については、異成分を含まない(heterogenous)実施形態および異成分を含む(homogenous)実施形態のいずれの可能性も存在する。異成分を含まない実施形態では、工程ba)に必要な試薬が最初に添加され、増幅工程ba)が最初に行われる。続いて、必要に応じて別の検出試薬が補充されて、工程bb)が行われる。
【0091】
増幅工程ba)の後に、反応混合物が少なくとも2つ、3つ、4つ、またはいくつかの小さなアリコートに分けられることを特徴とする、異成分を含まない蟻酸の使用が有効であり得る場合もある。その後、工程bb)が、少なくとも同じ数の異なるハイブリダイゼーション試薬を用いて、それぞれが異なる反応容器内で行われる。
【0092】
異成分を含まない実施形態よりもさらに好ましい異成分を含む実施形態では、増幅工程と検出工程の両方の試薬が、増幅工程ba)の開始前に試料に添加される。場合によっては、工程ba)と工程bba)が同時に行われる、すなわち、ハイブリダイゼーションのモニターが増幅の間に、PCRの場合には、熱サイクルの間、または熱サイクルのそれぞれを行った後、または少なくとも数回の熱サイクルの後に、行われる場合もある。この場合、好ましくは、上記の工程bba)の予め選択される温度は、通常はPCRの熱サイクルプロトコールのアニーリング温度と同じであるか、またはこれに非常に近い。アニーリング温度は、ハイブリダイゼーション試薬(たとえば、プローブ)がその標的(すなわち、増幅される核酸、または/および以前の伸張反応において形成されたアンプリコン)にハイブリダイズする温度である。ハイブリダイゼーションの十分な特異性を得るために(すなわち、標的の配列を優先して検出するために)、アニーリング温度は、プローブが標的核酸(単数または複数)に優先的にアニーリング/ハイブリダイズするが、同定されない生物の核酸にはしないように選択される。核酸に対するプローブのハイブリダイゼーションの選択性に影響を与えるための手段は広く知られている(長さ、GC含量、および相補性の程度)。
【0093】
本発明によれば、増幅工程ba)と検出工程bb)は、1つ以上のハイブリダイゼーション試薬が増幅工程の間に反応混合物中にすでに存在していることを特徴とする、異成分を含むアッセイ形式で続けて行われることが好ましい。言い換えると、増幅工程ba)と検出工程bb)は、同じ反応容器内で行われ、そしてこれらの工程の間にさらなる試薬は添加されない。
【0094】
工程bba)は、ハイブリダイズしたハイブリダイゼーション試薬のシグナルが測定され、特に、LightCyclerについての種々の方法について上記に概説したように、従来の相同核酸ハイブリダイゼーションとして行われる工程である。
【0095】
工程bba)とbbb)は、最初にハイブリダイゼーション事象自体が予め選択された第1の温度でモニターされる様式で、一緒に行われることが好ましい。その後、温度は、少なくともハイブリダイゼーション試薬を含むハイブリッドが解離する温度にまで連続的に上昇させられる。言い換えれば、ハイブリッドについての融解曲線分析が行われる。
【0096】
モニター工程bbb)は、好ましくは、温度依存によって検出することができるレベルにまで、存在する任意の標的配列を増幅させるために十分な回数のCpが行われた後に、行われる。これは、通常は、プローブのハイブリダイゼーションを通じて検出することができる核酸の量と一致している、すなわち、測定された工程bba)において明らかな陽性のシグナルが存在すると直ちに、工程bbb)を行うことができる。Cpは好ましくは、20から50の間である。
【0097】
ハイブリダイゼーションが増幅反応の間にモニターされる(「リアルタイム」とも呼ばれる)場合は、予め選択された温度ではハイブリダイゼーションシグナルを見ることができない限りにおいて、融解曲線分析を行うことは省略することができる場合がある。
【0098】
工程c)には、工程bb)の間に得られる結果を解釈することが含まれる。これは、得られた結果の解釈によって手作業で行われ得る。好ましくは、結果は、グラム陽性細菌が試料中に存在するかどうか、およびどのグラム陽性細菌が試料中に存在するか、したがって、どのグラム陽性細菌が感染の原因であり得るかを明確に指し示す出力をするコンピュータープログラムを使用して分析される。
【0099】
解釈は、工程bba)および工程bbb)で得られたシグナルと、陽性対照による既知の値との相関関係に基づく。陽性対照の使用もまた、先行技術から一般的に知られている。陽性対照は、試料中に、または人工的に調製された対照試料中に存在することがわかっている核酸である。たとえば、予め選択された温度でのプローブのハイブリダイゼーションの特異性を使用して、工程ba)でプライマーによって増幅することができ、上記のグラム陽性病原性生物のサブグループに属するいずれかの核酸が試料中に存在するかどうかを決定することができる。陽性シグナル(陰性対照を上回る)は、たとえ上記種の実体を上記工程bba)から決定されなくても、上記のサブグループに属する種が存在していることの指標である(工程bba)。
【0100】
ハイブリダイゼーションの温度依存は、試料中に存在する種の同定のために使用される。この工程により、その一般的な存在が工程bba)によって決定される上記生物が、上記サブグループのどの種に属するかが決定される。たとえば、その融解温度は、特定の種の核酸の指標である。したがって、実際の試料中に予め決定された種が存在することを、標的のハイブリダイゼーション試薬とのハイブリッドの融解温度に達した際のシグナルの変化の出現によって確認することができる。
【0101】
本発明はまた、少なくとも第一のセットの増幅プライマーおよび少なくとも2つ、3つまたは多数のハイブリダイゼーション試薬を含み、
−該少なくとも第一のセットの増幅プライマーが、予め選択された核酸配列領域を、予め決められた群の病原体のいくつかまたは全てのメンバーから増幅し得、かつ
−該少なくとも2つ、3つまたは多数のハイブリダイゼーション試薬がともに、予め選択された核酸配列領域を、予め決められた群の病原体の全てのメンバーから特異的に検出し得、ここで
−予め選択された温度での該ハイブリダイゼーション試薬のそれぞれのハイブリダイゼーションが、試料中に存在する病原体の、少なくとも属の指標となり、かつ
−温度依存が、該病原体の、少なくとも種の指標となる
ことを特徴とする組成物にも関する。
【0102】
さらに、本発明のかかる組成物は、以下のリスト:
−ポリメラーゼ連鎖反応に適用できる緩衝液、
−デオキシヌクレオシド三リン酸
−鋳型依存性DNAポリメラーゼ、好ましくは温度安定性、
から選択される化合物および試薬の1つもしくは数個、または好ましくは全てを含み得る。
【0103】
かかる組成物は、例えば臨床標本由来であり得、本発明の方法のいずれかに供され得る、少なくとも部分的に精製された核酸をさらに含み得る。
【0104】
さらに別の側面において、本発明は、少なくとも第一のセットの増幅プライマーおよび少なくとも2つ、3つ、または多数のハイブリダイゼーション試薬を含み、
−該少なくとも第一のセットの増幅プライマーが、予め選択された核酸配列領域を、予め決められた群の病原体のいくつかまたは全てのメンバーから増幅し得、かつ
−該少なくとも2つ、3つまたは多数のハイブリダイゼーション試薬がともに、予め選択された核酸配列領域を、予め決められた群の病原体の全てのメンバーから特異的に検出し得、ここで
−予め選択された温度での該ハイブリダイゼーション試薬のそれぞれのハイブリダイゼーションが試料中に存在する病原体の、少なくとも属の指標となり、かつ
−該ハイブリダイゼーションの温度依存が、該病原体の、少なくとも種の指標となる
ことを特徴とするキットに関する。
【0105】
さらに、本発明のかかるキットは、以下のリスト:
−ポリメラーゼ連鎖反応に適用できる緩衝液
−デオキシヌクレオシド三リン酸
−鋳型依存性DNAポリメラーゼ、好ましくは温度安定性
から選択される他の1つまたは数種の化合物および試薬を、それぞれ別々に、または組み合わせて含めてもよい。かかるキットは、例えば臨床標本由来であり得、本発明の方法のいずれかに供され得る、少なくとも部分的に精製された核酸をさらに含み得る。かかるキット(hit)はまた、任意の標的核酸の検出に用いられるのと同じプライマーおよびプローブを用いて増幅および検出され得る内部対照DNAも含み得る。
【0106】
上記に開示した成分のそれぞれは、1つの保存容器内で保存することができる。さらに、同じ容器内で保存するために成分を任意で組み合わせることもまた可能である。
【0107】
さらに、このようなキットには、請求される方法によって得られたデータの定性的または定量的分析のためにコンピュータープログラムを媒介するコンパクトディスクのような、ソフトウェアツールも含まれてもよい。
【0108】
既知のアッセイによっては1つの特定の種または株についての情報しか提供できない(試料中の特定の生物の存在の検出のための従来の方法)が、本発明の試薬は、2つ以上の種の潜在的な同定に適切であり、そのために使用され、同時にそれらのいずれかが存在しているかどうか(どの生物であるかにはかかわりなく)を示す点で、従来技術の細菌アッセイとは異なる。
【0109】
上述のように、病原体の、少なくとも属の指標である増幅依存性シグナルをモニターすることと、ハイブリダイゼーションの温度依存をモニターすることの組み合わせによって、広範な、目的の病原性生物を、同時に検出および同定できるようになる。
【0110】
ある特定の態様において、本発明によって、予め決められた群の病原性グラム陽性細菌の検出および同定が可能になり、該群は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、溶血性連鎖球菌(Staphylococcus haemolyticus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactine)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、エンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)、糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)を含む。
【0111】
第二の特定の態様において、本発明によって、予め決められた群の病原性グラム陰性細菌の検出および同定が可能になり、該群は大腸菌(Escherichia coli)、肺炎杆菌(Klebsiella pneumoniae)、霊菌(Serratia marcescens)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanii)、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)を含む。
【0112】
第三の特定の態様において、本発明によって、予め決められた群の病原性真菌の検出および同定が可能になり、該群はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・クルセイ(Candida crusei)、カンジダ・グラブラータ(Candia glabrata)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)を含む。
【0113】
好ましくは、上述の該群は、他のいかなる種も含まない。
【0114】
本発明の工程a)の後に、第一および第二のアリコートがそれぞれ2つの異なる反応容器中で、互いに独立して工程b)およびc)の増幅および検出反応に供される場合もまた、本発明の範囲内である。
【0115】
例えば、第一のアリコートは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、溶血性連鎖球菌(Staphylococcus haemolytics)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactine)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、エンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)および糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)等の病原性グラム陽性細菌の検出および同定に用いられ得る。第二のアリコートは、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎杆菌(Klebsiella pneumoniae)、霊菌(Serratia marcescens)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanii)およびステノトロフォモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)等の病原性グラム陰性細菌の検出および同定に用いられ得る。
【0116】
さらに、本発明の方法の工程a)の後に、第一および第二および第三のアリコートを、3つの異なる反応容器中で互いに独立してそれぞれ工程b)およびc)の増幅および検出反応に供する場合も、本発明の範囲内である。第一および第二のアリコートが、関連性のある全ての病原性グラム陽性細菌、およびグラム陰性細菌の検出および同定のためにそれぞれ用いられる場合、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candia tropicalis)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・クルセイ(Candida crusei)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)等の真菌性病原体の検出および同定に第三のアリコートが用いられる。
【0117】
上述の臨床標本の2つまたは3つの異なるアリコートの分析を平行して同じ器械で実施することは、便利で、かつ時間の節約になる。したがって、異なる増幅および検出反応の増幅工程が同じサーモサイクルプロフィールで行われる場合は、大いに好ましい。換言すれば、各増幅は、同一のアニーリング、伸長および変性時間および温度パラメータを用いて行われるべきである。
【0118】
さらに、本発明のキットは、異なるアリコートにおける臨床標本の平行した分析に有用な試薬の組み合わせからなり得る。かかるキットは、少なくとも(at)第一、第二および任意に第三のセットの増幅プライマーおよび少なくとも2つ、3つまたは多数のハイブリダイゼーション試薬の少なくとも(at)第一、第二および任意に第三のセットを含み、それぞれ
−該セットの増幅プライマーのそれぞれは、予め選択された核酸配列領域を、予め決められた群の病原体のいくつかまたは全てのメンバーから増幅し得、かつ
−少なくとも2つ、3つまたは多数のハイブリダイゼーション試薬の該セットのそれぞれがともに、予め選択された核酸配列領域を、予め決められた群の病原菌の全てのメンバーから特異的に検出し得、ここで
−予め選択された温度での該ハイブリダイゼーション試薬のそれぞれのハイブリダイゼーションが、試料中に存在する病原体の、少なくとも属の指標となり、かつ
−該ハイブリダイゼーションの温度依存が、該病原体の、少なくとも種の指標となる
ことを特徴とする。
【0119】
本発明の理解を助けるために、以下の例、参考文献および配列表が提供され、その真の範囲は添付された特許請求の範囲に示される。本発明の趣旨から逸脱すること無しに、示される手順において修正がなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0120】
本発明の理解を助けるために、以下の例、参考文献、配列表および図面が提供され、その真の範囲は添付された特許請求の範囲に示される。本発明の趣旨から逸脱すること無しに、示される手順において修正がなされ得ることが理解される。
【0121】
試料
18s rRNA遺伝子と23sRNA遺伝子との間にITS-1領域を含む、糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来の103、102および10コピーのプラスミドDNAを2連で、5μgヒトゲノムDNAバックグラウンドありまたはなしのいずれかで部分的に分析した。内部対照プラスミドを、完全なマスターミックス(上を参照)に加えた。
【0122】
ハードウェア/ソフトウェア
LightCyclerTM機器(Roche Diagnostics GmbH, Germany)を用いた。市販品として入手可能な機器は、ローターが100μlキャピラリーを保持するのに適合するよう改変された。前記の機器の蛍光計は、3フォトハイブリッド(photohybrid)の代わりに4フォトハイブリッドから成り、蛍光発光が、610 nm、640 nm、670 nm、および705 nmで検出され得るように改変された。
【0123】
試薬
本明細書中に示される全てのオリゴヌクレオチドは化学合成によって調製した。標識を攻撃するための試薬は、Roche Diagnostics GmbH (LightCycler Red 640 NHS Ester カタログ番号2015161; LightCycler Red 705 Phosphoramidite カタログ番号2157594; LightCycler Fluorescein (以下「F」と省略) CPG カタログ番号3113906)から購入することができる。それらの試薬の使用はBiochemica No.1 (2001), p.8-13に記載される。Cy5-NHSエステルは、要求に応じてAmershamから入手され得る。LC-Red 610-NHSエステルは610 nmで最大発光を有し、米国特許第5,750,409号に開示されるように、蛍光色素を用いた標準的なプロトコールに従って合成された。
【0124】
全ての試薬は、検出対象の生物による汚染についてチェックされる必要がある。それらの生物およびそれらを起源とする核酸を含まない試薬のみが最適な感受性を導くことができる。
【0125】
FastStartポリメラーゼおよびFastStart Masterは、一般的に、LightCycler-FastStart-DNA Master Hybridization Probes Kit (Roche Diagnostics GmbH カタログ番号2239272)で推奨されているように使用される。
【0126】
16sと23s rDNAとの間のITS-1領域に対する以下の表のプライマーおよびプローブを用いた。
【0127】

【0128】
これらのヌクレオチドを用いて、次の通りに反応混合物を調製した:
【0129】


【0130】
方法
以下のサーモサイクルおよび融解温度プロフィールを用いてLightCyclerの実施を行った:
【0131】


【0132】
結果
結果を次の表にまとめる。表におけるCp値(サイクル数)は、二次導関数モードを用いて表し、陽性増幅標識が検出できた。
【0133】

【0134】
上の表からわかるように、この複合の実験内で、糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のいずれかのITS-1領域を含む10コピーのプラスミドDNAが検出され得、一方で表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に関しては100コピーが検出可能であった。
【0135】
ヒトバックグラウンドDNA存在下で、10コピーの黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が検出され得、一方で糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に関しては、1,000コピーが検出可能であった。
【0136】
さらに、かつヒトバックグラウンドDNAの有無に関わらず、糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)およびエンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)の増幅は、融解曲線分析によって、610 nmチャネルにおいて互いに区別できた。
【0137】
糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)に関して57.5℃のTmがモニターされ、一方でエンテロコッカス・ヘシュウム(Enterococcus faecium)に関して53,5℃のTmがモニターされた。
【0138】
同様に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の増幅は、得られた2つの融解ピークの間の融解温度による融解曲線分析によって、640 nmチャネルにおいて互いに区別できた。
【0139】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に関して、54℃のTmが得られ、一方で表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に関しては、45℃のTMが得られた。
【0140】
文献一覧
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EP 0 070 687
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EP 0 543 942
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Woo,T.H.ら、J.Microbiol.Methods 35(1999)23-30

【配列表】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原体の予め決定された群からの病原性生物の同定のための方法であって、
a)臨床試料由来の核酸を少なくとも部分的に精製する工程、
b)ba)前記病原体の予め決定された群のいくつかまたは全てのメンバーから予め選択された核酸配列領域を増幅することができる増幅プライマーの少なくとも第1セットを用いた増幅工程、
bb)以下の工程を含む、少なくとも2、3または複数のハイブリダイゼーション試薬を用いた検出工程、ここで、前記試薬は共に前記病原体の群の全メンバーから予め選択された核酸配列領域を特異的に検出することができる、
bba)予め選択された温度で前記ハイブリダイゼーション試薬の各々のハイブリダイゼーションをモニターする工程、ここで、前記ハイブリダイゼーションは、試料中に存在する前記病原体の少なくとも属の指標である、
bbb)ハイブリダイゼーションの温度依存をモニターし、ここで、前記温度依存は、前記病原体の少なくとも種の指標である、前記の増幅及び検出反応が前記の病原体の予め選択された群の特異的なメンバーの存在の指標であるかどうかを決定する工程、
を含む、前記臨床検体の少なくとも第1アリコートを1つの反応容器内において、少なくとも1つの増幅および検出反応に供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
第1、および第2アリコートの各々が、2つの異なる反応容器内において互いに独立して増幅及び検出反応に供される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1、第2および第3アリコートの各々が、2つの異なる反応容器内において互いに独立して増幅及び検出反応に供される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらなるハイブリダイゼーション試薬が、内部対照の検出のために使用される請求項1〜3記載の方法。
【請求項5】
1つの増幅及び検出反応において、グラム陽性病原性生物が独占的に同定され、別の増幅及び検出反応において、グラム陰性病原性生物が独占的に同定される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
第3の増幅及び検出反応において、真菌性病原体が独占的に同定される、請求項3及び5記載の方法。
【請求項7】
各増幅工程が同じサーモサイクルプロフィールを用いて行われる、請求項2〜6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも増幅プライマーの第1セット及び少なくとも2、3又は複数のハイブリダイゼーション試薬を含み、
−前記の少なくとも増幅プライマーの第1セットが、病原体の予め決定された群のいくつか又は全メンバーから予め選択された核酸配列領域を増幅することができ、
−前記の少なくとも2、3又は複数のハイブリダイゼーション試薬が共に、病原体の予め決定された群の全メンバーから予め選択された核酸配列領域を特異的に検出することができ、ここで、
−予め選択された温度における前記のハイブリダイゼーション試薬の各々のハイブリダイゼーションが、試料中に存在する病原体の少なくとも属の指標であり、
−前記ハイブリダイゼーションの温度依存が、前記病原体の少なくとも種の指標である
ことに特徴付けられる組成物。
【請求項9】
少なくとも増幅プライマーの第1セット及び少なくとも2、3又は複数のハイブリダイゼーション試薬を含み、
−前記の少なくとも増幅プライマーの第1セットが、病原体の予め決定された群のいくつか又は全メンバーから予め選択された核酸配列領域を増幅することができ、
−前記の少なくとも2、3又は複数のハイブリダイゼーション試薬が共に、病原体の予め決定された群の全メンバーから予め選択された核酸配列領域を特異的に検出することができ、ここで、
−予め選択された温度における前記のハイブリダイゼーション試薬の各々のハイブリダイゼーションが、試料中に存在する病原体の少なくとも属の指標であり、
−前記ハイブリダイゼーションの温度依存が、前記病原体の少なくとも種の指標である
ことに特徴付けられるキット。


【公表番号】特表2006−508694(P2006−508694A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502306(P2005−502306)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013530
【国際公開番号】WO2004/053155
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】