説明

病原細菌ならびに真菌に対して抗菌作用を示すバチルス・アミロリケファシエンスを有効成分とする生物的防除剤

【課題】天然クルマエビの腸内細菌から、養殖エビの病原細菌・真菌などによる病気を防止もしくは予防することができ、持続的な効果が期待できる、宿主であるエビに有益な微生物製剤を提供する。
【解決手段】病原細菌および真菌の両方に対して抗菌作用を示す、甲殻類から分離したバチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、とりわけ、D1754株(NITE P-623)、D1768株(NITE P-624)、D2092株(NITE P-625)、D2977株(NITE P-626)よりなる群から選ばれる、同バチルス・アミロリケファシエンス;該バチルス・アミロリケファシエンスの少なくとも1菌株以上を有効成分として含有する生物的防除剤;および該生物的防除剤を含有する飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然に生息する甲殻類の腸管内から分離した、病原細菌と真菌の両方に対して抗菌活性を示すバチルス属細菌に関する。さらに詳細には、本発明は、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)を主成分とする生物的防除剤ならびにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の漁獲量の減少から、水産養殖への期待が高まっている。水産養殖が一大産業として発展するに伴って、ウイルスや細菌、真菌による疾病が多発し、甚大な被害をもたらしている。特に、細菌性疾病ではビブリオ感染症、真菌性疾病ではフザリウム感染症による経済的被害が大きい。これら多発する病気の原因は、経済的な理由から生産性を追求するあまり、エビ飼育密度を増加させた結果、過剰なストレスを与えたことである。ストレスにより、エビ本来が持つ生体防御能が低下し、病原体に容易に感染・発症し大量死を招いている。疾病の中には日和見感染も多く認められる。病気による大量死の抑制や治療を目的として、抗生物質や合成抗菌剤などの動物用医薬品や、化学物質などの薬剤が用いられる。しかしながら、病気の治療に用いる抗生物質の継続的な使用が抗生物質耐性菌を発生させ、さらに被害を大きくさせており、社会問題となっている。また、使用した薬剤が魚介類に残留することは、公衆衛生上の問題が生じてくる。近年の消費者の食の安全志向から、生産者が薬剤の使用を控える方向にあり、これに代わる安心・安全な病気対策が求められてきた。また、薬剤などの効果は一時的であり、持続的に作用が期待できる手段が望まれていた。
【0003】
一方、薬剤の代替手段として、免疫機能を増強する免疫賦活剤などが広く用いられている。近年、「治療よりも予防」の考えが浸透し、健全な魚介類を養殖する目的で、乳酸菌など多くの微生物および微生物製剤が販売されている。
【0004】
生物的防除法といわれる、有用微生物を使用して有害微生物の生育を抑制する方法がある。農業分野では微生物農薬として世界中で用いられ、化学農薬の代替防除法として広く知られている。微生物農薬には、いくつかのバチルス属細菌が登録されている。
【0005】
バチルス属細菌は、動物への整腸作用や成長促進作用等が報告されており、ヒト、畜産、農業に広く使われている。水産養殖においてもバチルス属細菌については、いくつかの報告例がある。特許文献1には、バチルス・チューリンジェンシスとバチルス・プミルスによる免疫賦活、感染症予防および抗ストレス効果のある薬剤が開示されている。また、特許文献2には、バチルス・プミルスまたはバチルス・レンタスを含有する魚介類の感染症予防・治療剤が開示されている。さらに特許文献3には、バチルス・リケニホルミスを含む水産動物飼料が報告されている。
【0006】
上記のような各種バチルス属細菌の使用例があるものの、バチルス・アミロリケファシエンスについては、水産用生物的防除剤として使用した場合の効果や影響は報告されていなかった。すなわち、バチルス・アミロリケファシエンスを生物的防除剤として、感染症の防止・予防に利用することについてはこれまで検討されたことはない。また、バチルス属細菌として宿主であるエビ由来のものを用いた実例はなく、温度やpHなど陸上生物とは生息環境が異なる海洋や甲殻類腸内環境下で、人畜由来の有用細菌がエビに有益に働いているとは言い難く、事実、養殖現場において、その効果が認められている微生物製剤は皆無であるのが現状であった。このため、宿主にとって有益な効果をもたらす微生物の開発が早急に求められていた。
【特許文献1】特開2000−103740号公報
【特許文献2】特開2000−336035号公報
【特許文献3】特表2006−524997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、抗生物質などの薬剤で病気を抑制するのではなく、薬剤に代わる健全な養殖を実現するために代替手段が求められている。しかしながら、現在、水産養殖で用いられている微生物製剤の有効成分は、ヒトや家畜、発酵食品由来の微生物を転用したものがほとんどである。通常、哺乳類の腸内環境は嫌気度が高くかつ腸内温度が40℃近くである。一方、クルマエビを始めとする甲殻類の腸内環境は、腸の長さが短いため嫌気度が比較的低いと考えられており、また腸内温度は周囲の環境に依存している。これらの理由から、エビの腸管内と全く異なる環境由来のバチルス属細菌が定着・増殖し、宿主であるエビに有益な作用を及ぼしている確証はなく、水産養殖において、効果のある製品が皆無であることが実情である。
【0008】
また、既知の微生物製剤は、病原細菌および病原真菌のいずれかの抑制を目的としたものであり、病原細菌と病原真菌の両方を抑制する微生物製剤は皆無であった。
【0009】
本発明は、天然クルマエビの腸内細菌から、養殖エビの病原細菌・真菌などによる病気を防止もしくは予防することができ、持続的な効果が期待できる、宿主であるエビに有益な微生物製剤を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するため、本発明者らは天然環境に生息するクルマエビの腸やその内容物から腸内細菌を分離し、その中からバチルス属細菌を単離したところ、これらエビの腸管由来のバチルス属細菌、特にバチルス・アミロリケファシエンス、とりわけ、バチルス・アミロリケファシエンスD1754株(NITE P-623)、バチルス・アミロリケファシエンスD1768株(NITE P-624)、バチルス・アミロリケファシエンスD2092株(NITE P-625)、およびバチルス・アミロリケファシエンスD2977株(NITE P-626)が、エビの健康を脅かす病原細菌と病原真菌との両者の生育を抑制する効果を有し、またストレス軽減効果を有する性状を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ビブリオ病などの細菌病ならびにフザリウム感染症などのカビ病をともに抑制する効果を持ったバチルス・アミロリケファシエンス、および当該バチルス・アミロリケファシエンスを有効成分として含有する生物的防除剤を提供する。
【0012】
本発明はまた、バチルス・アミロリケファシエンスを有効成分とする生物的防除剤を含有する動物又は水産魚介類用の飼料をも提供する。
【0013】
さらに、本発明は、バチルス・アミロリケファシエンスを有効成分とする生物的防除剤を用いた、動物又は水産魚介類用の感染症の防止・予防を行う手段を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるバチルス・アミロリケファシエンスは、(1)宿主であるエビの消化管から分離された菌株であること、(2)病原細菌と病原真菌との両者に対してともに抗菌活性を有すること、および(3)ストレス軽減効果を有すること、などの点で従来の微生物製剤よりも優れており、抗生物質や合成抗菌剤などの薬剤、塩素剤などの化学品の使用量を減らし、人畜に安全な生物的防除剤や配合飼料として、生活や畜水産などあらゆる分野で用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のバチルス・アミロリケファシエンスは、寒天平板分離法により、天然クルマエビの腸管から分離することができる。すなわち、天然クルマエビの表面を70%エタノールで消毒したのちに、消化管を無菌的に摘出する。消化管としては、食道、胃、中腸腺、中腸、後腸などを用いることができるが、腸内細菌数が多い中腸を利用するのが好ましい。摘出した中腸を腸管と内容物に分け、それぞれを10倍量の滅菌海水で希釈する。希釈した試料液を100μlずつ、普通寒天培地(日水製薬)やMarin Agar培地(DIFCO)などに塗布する。用いる培地は、浸透圧を合わせるため、海水で作製する。培養には、好気培養および嫌気培養ともに実施できる。好気培養の場合は、27℃に設定したインキュベーターで2〜3日間培養する。一方、嫌気培養は、アネロパックシステム(三菱ガス化学)を用い、嫌気状態で7日間培養する。培養終了後、出現したコロニーを単離する。単離を確認するために、分離に用いた培地で再培養を行う。
【0016】
単離した株は、(1)グラム染色が陽性であること、(2)芽胞を形成すること、を確認したのち、糖の資化性を調査する。糖の資化性を調べるためには、API50CHB(ビオメリュー)を培地として、基質プレートとしてAP50CHを用いる。48時間後、得られたプロファイルをapiweb(ビオメリュー)に入力し、菌株の同定を行う。さらに、16S rRNA遺伝子の一部の塩基配列の決定を行い、DNAデータベース(BLAST)に登録されている既知の細菌の16S rRNA遺伝子と比較し、菌種の同定を行う。また、望ましくは、標準菌株とDNA-DNAハイブリダイゼーションを行い、70%以上の相同性を確認したのちに菌種を同定するのがよい。バチルス・アミロリケファシエンスと同定された株を液体培養し、対数増殖期の状態にある培養液に10%(v/v)となるようにグリセロールを添加したのちに、-80℃で保存する。
【0017】
本発明のバチルス・アミロリケファシエンスの菌株は特に限定されないが、特にバチルス・アミロリケファシエンスD1754株(NITE P-623)、バチルス・アミロリケファシエンスD1768株(NITE P-624)、バチルス・アミロリケファシエンスD2092株(NITE P-625)、およびバチルス・アミロリケファシエンスD2977株(NITE P-626)が優れた効果を示すため好ましい。生物的防除剤として用いる場合にも上記のような菌株を用いることが好ましい。
【0018】
これら本発明による好ましいバチルス・アミロリケファシエンス株である、バチルス・アミロリケファシエンスD1754株(受託番号:NITE P-623)、バチルス・アミロリケファシエンスD1768株(受託番号:NITE P-624)、バチルス・アミロリケファシエンスD2092株(受託番号:NITE P-625)、およびバチルス・アミロリケファシエンスD2977株(受託番号:NITE P-626)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)に2008年8月8日に寄託してある。
【0019】
また、これら菌株の変異株を用いることもできる。変異株の取得方法としては、上記菌株が自然変異したものに加えて、人為的に突然変異等を起こす方法がある。具体的には、菌株培養時に紫外線処理をして突然変異を誘発する方法、N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)などの変異誘起剤を用いて処理する方法がある。また、形質転換や細胞融合などの方法で外来遺伝子を導入し、望ましい形質を持つ菌株を育種することもできる。本発明においては、得られた変異株のうち、芽胞形成能を欠損していない変異株を用いることが望ましい。
【0020】
本発明のバチルス・アミロリケファシエンスを培養するには、微生物の培養に通常使用される、炭素源、窒素源、無機塩類等を含む液体培地または固体培地等を用いることができる。培養に用いる培地成分も特に制限されず、炭素源としてグルコース、ガラクトース、ラクトース、アラビノース、マンノース、シュークロース、デンプン、デンプン分解物などの糖類、クエン酸などの有機酸類、グリセリンなどのアルコール類を、窒素源としては、ペプトン、肉エキス、カゼイン加水分解物、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムを挙げることができる。また、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄などの無機塩類、麦芽エキスや酵母エキス等を用いることができる。更に必要に応じて、ビタミン、アミノ酸、消泡剤、界面活性剤などを添加することもできる。また、おがくず、小麦ふすま、コーンスティープリカー、豆腐粕および糖蜜などの安価な資材を利用してもよい。
【0021】
本発明の生物的防除剤に用いるバチルス・アミロリケファシエンスを液体培養するときは、振とう培養、静置培養やジャーファーメンターを用いることができる。芽胞形成開始時には、激しい酸素消費が認められるので、十分に曝気するのが望ましい。培養温度は10〜50℃で行うことができるが、好ましくは20〜40℃で培養するのがよい。培養時間は、半日から1週間であることが好ましい。
【0022】
また、上記の培地成分に寒天やゼラチンなどを加えた固体培養を行うこともできる。適切な培養基材にバチルス・アミロリケファシエンスを接種したのち培養する。培養温度は10〜50℃で行うことができるが、好ましくは20〜40℃で培養するのがよい。得られた培養物を、回収するもしくは、そのまま粉体にするか、水や界面活性剤などを含む分散媒で洗浄して、菌体を回収することができる。また、上記以外の培養基材としては、豆腐粕などが利用できる。
【0023】
本発明の生物的防除剤は、熱や乾燥に耐性のある芽胞状態であることが望ましい。生物的防除剤の形態は、芽胞状態であれば、液体や粉体などの剤形を問わないが、乾燥状態であれば保存性が向上する。
【0024】
液体であれば、培養後の培養物をそのまま利用することもできるし、減圧濃縮することもできる。また、遠心分離による集菌や密度勾配遠心法、二相分離法などを行い、高濃度に芽胞を分離回収することができる。各種分散媒で芽胞を分散した芽胞懸濁液を用いてもよい。
【0025】
液剤を製造する際に、芽胞や芽胞を含む培養物に、必要に応じて、保存性や安定性の向上を目的とした物質を追加することもできる。例えば、pH調整剤、保存剤、抗酸化剤、安定化剤、緩衝剤などを添加することができる。また、雑菌の増殖を防ぐために、エタノール等のアルコール類の添加、有機酸などを加えpHを酸性にすることもできる。
【0026】
粉剤であれば、芽胞を含む培養物や芽胞懸濁液もしくは回収した芽胞を乾燥させる必要がある。芽胞の乾燥方法としては、自然乾燥や凍結乾燥、スプレードライなどで生菌のまま粉末化することができる。この際、スキムミルク等の保護剤を用いることが望ましい。
【0027】
粉剤であれば、製剤化のために増量剤などの任意の物質を添加することができる。例えば、賦形剤として、炭酸カルシウム、乳糖、デキストリン、小麦粉、澱粉、セルロースなどを使用し、成型や増量、希釈をしてもよい。
【0028】
また、有効成分であるバチルス・アミロリケファシエンスを増殖させるため、アミノ酸、有機酸、ビタミン、酵母エキスなどの栄養成分を生物的防除剤に含めることができる。
【0029】
本発明の生物的防除剤の有効成分である、バチルス・アミロリケファシエンスは、生菌であっても死菌やその菌体成分であってもよい。
【0030】
本発明の生物的防除剤を飼料に添加・混合して、感染症の防止・予防のための配合飼料を製造することができる。この場合、生物的防除剤の添加量は、与える動物種、体重、年齢、性別、使用目的、他の飼料成分などにより、調整することができる。特に制限されないが、通常は飼料に対して、菌体の終濃度が1×105〜1×1010cfu/gとなるように添加するのが好ましい。飼料とは、通常使用できるものであれば任意のものでよく、配合飼料、カプセル飼料、生餌などが挙げられる。
【0031】
本発明の生物的防除剤を配合飼料に混合する場合、(1)配合飼料の作製の過程で添加する、もしくは(2)水、油、卵白などの添着剤を用い、成形した配合飼料に添着コーティングさせることもできる。
【0032】
本発明の生物的防除剤を配合飼料に混合して使用する場合、魚類や貝類などの水産動物に与えるのが望ましく、中でも甲殻類に用いることが最も好ましいが、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類など、動物種を特に限定することなく使用することもできる。
【0033】
本発明の生物的防除剤をエビ養殖に使用する場合、エビ養成期に飼料に混合または添着させたのち投与、または養成池に直接散布することで、バチルス・アミロリケファシエンスを投与することができる。防除の持続性の点から、生菌を与えることが望ましい。
【0034】
また、必要に応じて製剤時または投与、散布時に、バチルス・アミロリケファシエンスの生育を阻害しない範囲において、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)などの他のバチルス属細菌やラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)などの乳酸菌その他の微生物と混合して使用することもできる。
【0035】
本発明の生物的防除剤は、特に、エビの腸管が未発達な幼生期に投与することが望ましい。エビの幼生は、ゾエア期から餌を取り始めるため、エビの腸内細菌叢はゾエア期以降に形成される。腸内細菌叢は周囲の海水の細菌叢に大きく影響を受けるため、口器形成が始まるゾエア期からバチルス・アミロリケファシエンスを投与し、バチルス・アミロリケファシエンスを主体とする腸内細菌叢を形成することが望ましい。投与方法として、(1)エビの幼生タンクに直接投与する、(2)回収した幼生を高濃度のバチルス・アミロリケファシエンス液に浸漬する、(3)幼生用配合飼料にバチルス・アミロリケファシエンス液を噴霧し投与する、(4)バチルス・アミロリケファシエンスを混合または添着させた配合飼料を投与する、(5)初期生物飼料となる、アルテミアやワムシなどの動物ブランクトンにバチルス・アミロリケファシエンスを取り込ませ、富裕化したのちに投与する(Bioencapsulation)などがある。特に、Bioencapsulation法は、(1)アルテミアやワムシの培養槽はエビ幼生養成タンクと異なり小さいため、無駄なく高濃度のバチルス・アミロリケファシエンスを取り込ませることができる、(2)バチルス・アミロリケファシエンスを取り込んだアルテミアなどの生物飼料をエビ幼生に投与することで、効率よくバチルス・アミロリケファシエンスを経口投与できる、などの利点がある。
【0036】
また、エビの種苗の輸送時に用いることもできる。国内のエビ養殖業者は、エビ種苗業者または種苗センターなどから、種苗を入手していることが多い。このため、種苗の輸送時に用いるビニール袋などの容器に予めバチルス・アミロリケファシエンスを添加することで、輸送中に効率よくバチルス・アミロリケファシエンスを投与できる。
【0037】
本発明のバチルス属細菌は、動物種を問わず使用できるが、生態が類似している、クルマエビの同類の甲殻類に使用することが好ましい。特にクルマエビ科のエビ、例えば、ブルーシュリンプ(Litopenaeus stylirostris)、ホワイトシュリンプ(Litopenaeus vannamei)、タイショウエビ(Fenneropenaeus chinensis)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、バナナシュリンプ(Fenneropenaeus merguiensis)、レッドテールシュリンプ(Fenneropenaeus penicillatus)、ウシエビ(Penaeus monodon)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、フトミゾエビ(Melicertus latisulcatus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)などが最も好ましい。
【0038】
使用する際には、本発明のバチルス・アミロリケファシエンスから選ばれる1種類又は2種類以上の菌株の組み合わせで用いるのがよい。さらに、本発明の生物的防除剤は、ビタミン、消化酵素、免疫賦活剤、生菌剤、死菌剤、界面活性剤、各種分散剤、賦形剤などを併用して用いることも可能である。
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実証例に限定されるものではない。
実施例1:バチルス・アミロリケファシエンスの抗菌活性
1.5%NaClを添加したブレインハートインヒュージョン(BHI)寒天培地を培養シャーレで作製した。試験に用いた細菌はビブリオ・ペナエイシダ(Vibrio penaeicida)、ビブリオ・ニグリプルクリチュード(V. nigripulchritudo)、ビブリオ・ハーベイ(V. harveyi)、およびフォトバクテリウム・ダムセラエ(Photobacterium damselae)であった。試験対象となる細菌の培養液を、1.5%NaClを添加したブレインハートインヒュージョン(BHI)寒天培地に混釈した。バチルス・アミロリケファシエンスの供試菌株、または標準菌株NBRC15535を、菌を塗布済みのプレートに接種した。27℃に設定したインキュベーター内で2〜7日間培養し、接種した菌のコロニーの周囲にできた生育阻止円の大きさにより、抗菌活性を判定した。
【0040】
表1に、天然クルマエビから分離したバチルス・アミロリケファシエンス菌株の抗菌活性の結果を示した。標準菌株にほとんど抗菌活性が認められないのに対し、多くの分離菌株がエビ病原細菌に対して抗菌活性を示した。
【0041】
表1:各種エビ病原細菌に対する天然クルマエビから分離したバチルス・アミロリケファシエンスの抗菌活性
【表1】

【0042】
実施例2:バチルス・アミロリケファシエンスの培養上清の抗菌活性
1.5%NaClを添加したブレインハートインヒュージョン(BHI)液体培地に、バチルス・アミロリケファシエンス供試菌株を接種し、37℃に設定したインキュベーター内で72時間培養した。遠心分離したのち、培養上清を0.22μmのメンブレンフィルターでろ過した。ビブリオ・ペナエイシダ、ビブリオ・ニグリプルクリチュード、ビブリオ・ハーベイ、およびフォトバクテリウム・ダムセラエを同様にOD=0.1になるまで培養した。この培養液100μlとバチルス・アミロリケファシエンス供試菌株の培養上清100μlを等量混合した。測定には、96穴マイクロプレートを用い、27℃に設定したマイクロプレートリーダーで1時間おきに吸光度を測定した。12時間観察し、対象となる病原細菌の吸光度の増加により、培養上清の抗菌活性を判定した。対象となる病原細菌の培養後のO.D.を0%(抑制できていない)、培地のみを100%(完全に抑制)とし、相対値を求めた。
【0043】
実施例1の結果、有効であった菌株について、培養上清の抗菌活性を調査した。その結果を表2に示す。D1754, D1768, D2092, およびD2977が各種病原細菌に対して特に有効であることがわかった。
【0044】
表2:各種エビ病原細菌に対するバチルス・アミロリケファシエンス菌株の培養上清の抗菌活性
【表2】

【0045】
実施例3:バチルス・アミロリケファシエンスの抗カビ活性
ポテトデキストロース寒天培地(PDA)を培養シャーレで作製した。海洋由来の菌株用には、1.0%NaClを添加したPDAを使用した。試験に用いた真菌はフザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、フザリウム・モニリフォルメ(F. moniliforme)、フザリウム・インカルナツム(F. incarnatum)であった。試験対象となる真菌の分生子をコンラージ棒を用いて一面に塗布した。一定時間乾燥したのちに、コルクボーラーで穴(直径8mm)をあけた。バチルス・アミロリケファシエンスの供試菌株、または標準菌株NBRC15535の培養液または胞子液を穴に50μl加えた。27℃に設定したインキュベーター内で7〜10日間培養し、培養液または胞子液を加えた穴の周囲にできた生育阻止円の大きさにより、抗菌活性を調べた。
【0046】
表3に抗カビ活性の結果を示した。今回使用したすべての菌株が標準菌株よりも、各種病原真菌に対する抗カビ活性が高いことが明らかとなった。
【0047】
表3:各種エビ病原真菌(フザリウム属)に対する天然クルマエビから分離したバチルス・アミロリケファシエンスの抗カビ活性
【表3】

【0048】
実施例4:バチルス・アミロリケファシエンスのマウスへの経口急性毒性試験
バチルス・アミロリケファシエンスD1754株、D1768株、D2092株、D2977株の芽胞懸濁液を、滅菌水で1.0×109cfu/mlとなるように調整した。1週間馴化させたマウス(ICR系、5週令、雄)に芽胞液を0.1mlずつ胃ゾンデによる強制投与を行った。対照区は、芽胞を懸濁するのに用いた滅菌水を同様に投与した。それぞれ5匹ずつ使用した。投与したのち、マウスの状態、体重の増減、行動異常、死亡の有無を14日間観察した。
【0049】
その結果、D1754株、D1768株、D2092株、D2977株を投与したマウスは、滅菌水を投与したマウスと同様に、健康状態がよく、体重の推移も問題なかった。投与後の行動異常も認められなかった。観察期間中、死亡個体は認められなかった。これらの結果から、供試菌株は、マウスに毒性を示さないことが証明できた。
【0050】
実施例5:バチルス・アミロリケファシエンスの魚類急性試験
試験に用いるヒメダカを2週間馴化させた。脱塩素した水道水5リットルを加えた水槽に、D1754株、D1768株、D2092株、D2977株の芽胞の終濃度が106, 107, 108cfu/mlとなるように調整した。各区10尾ずつヒメダカを入れた。対照区は、芽胞を懸濁するのに用いた滅菌水を同様に投与した。試験期間中、水温は23℃±1℃で無給餌とした。投与したのち、24時間毎に、遊泳行動、呼吸機能、体色の異常の有無を観察するとともに、死亡数の測定を行った。投与後96時間まで観察を行った。
【0051】
試験期間中、いずれの試験区においても、各株を投与したヒメダカに、遊泳行動、呼吸機能、体色の異常が認められず、死亡個体もなかった。対照区も同様であった。これらの結果から、供試菌株は、ヒメダカに対し毒性を示さないことが証明できた。
【0052】
実施例6:バチルス・アミロリケファシエンスによるストレス軽減効果
海水6リットルを加えた円形飼育水槽(直径30cm、高さ15cm)にクルマエビ幼生(体重:平均0.6g)15尾を入れた。供試バチルス菌株の芽胞懸濁液を終濃度105cfu/mlとなるように5日間毎日添加した。添加を開始して6日後に、試験水槽にホルマリンを終濃度500ppmとなるように投与した。投与後1時間おきの死亡数を記録した。12時間後の生残個体数から供試菌のストレス耐性効果を評価した。
【0053】
その結果、D1754, D1768, D2977投与区が標準菌株区よりも生残率が高く、ストレス軽減効果が認められた(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、バチルス属細菌の中でも納豆菌と並んで安全性が高く、しかも宿主である甲殻類から分離・選抜した、抗菌・抗カビ作用を示しストレス軽減効果を有するバチルス・アミロリケファシエンスを提供できる。本発明のバチルス・アミロリケファシエンスは、抗生物質や合成抗菌剤などの薬剤、塩素剤などの化学品の使用量を減らし、人畜に安全な生物的防除剤や配合飼料として、生活や畜水産などあらゆる分野で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】バチルス・アミロリケファシエンスの投与後、ホルマリンストレスを負荷したクルマエビの12時間後の生残率を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原細菌および真菌の両方に対して抗菌作用を示す、甲殻類から分離したバチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)。
【請求項2】
バチルス・アミロリケファシエンスD1754株(NITE P-623)、バチルス・アミロリケファシエンスD1768株(NITE P-624)、バチルス・アミロリケファシエンスD2092株(NITE P-625)、バチルス・アミロリケファシエンスD2977株(NITE P-626)よりなる群から選ばれる、請求項1に記載のバチルス・アミロリケファシエンス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバチルス・アミロリケファシエンスの少なくとも1菌株以上を有効成分として含有する生物的防除剤。
【請求項4】
ストレス軽減効果も併せ持つ、請求項3に記載の生物的防除剤。
【請求項5】
請求項3または4に記載の生物的防除剤を含有する飼料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−51247(P2010−51247A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220075(P2008−220075)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(596018735)株式会社九州メディカル (2)
【Fターム(参考)】