説明

病巣組織に対する抗体

次の工程を含む、病巣に対する抗体をコードするポリヌクレオチドの単離方法が提供された。(a)目的とする病巣に浸潤したB細胞を単離する工程、および(b)単離したB細胞から、抗体をコードするポリヌクレオチドを得る工程 病巣としては、癌組織などを示すことができる。B細胞のクローン化に頼ることなく抗体遺伝子を取得できる。その結果、クローン化が難しいヒト由来の抗体をコードする遺伝子を取得することもできる。病巣として癌組織を用い、癌に対する抗体の遺伝子を取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、病巣組織に対する抗体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
癌組織におけるリンパ球の浸潤は広く知られている(文献1/Hurliamnn et al.(1985)Int J Cancer 35:753;文献2/Whiteside et al.(1986)Cancer Immunol Immunother 23:169;文献3/Wolf et al.(1986)Otolaryngol Head Neck Surg 95:142;文献4/Husby et al(1976)J Clin Invest 57:1471;文献5/Vose et al.(1979)Int J Cancer 24:579)。実験的および臨床的なデータは、癌組織におけるリンパ球の浸潤が癌に対する宿主の免疫反応の関与を示唆している(文献5/Rosenberg et al.(1988)New Engl J Med 319:1676;文献6/Van Pel et al.(1995)Immunol Reviews 145:229;文献7/Kreider et al.(1984)Cancer Metastasis Rev 3:53)。
癌に対する宿主の免疫防御システムにおいて、細胞傷害性T細胞(CTL)は直接癌細胞を殺すエフェクター細胞である(文献8/Nobholz and MacDonald(1983)Annu Rev Immunol 1:273)。また、B細胞の最終分化形態であるプラズマ細胞の産生する抗体のうち、いくつかのものは癌細胞と結合する能力を有するのではないかと推察されている(文献9/Roitt et al.(1969)Lancet 2:367;文献10/Borsos(1971)Progress in Immunology:p841.New York,Academic Press;文献11/Kodera and Bean(1975)Int J Cancer 16:579)。
たとえば癌組織に浸潤するB細胞は抗体を発現し、その抗体は癌細胞上の抗原に選択的に結合することが示されている(文献12/Punt et al.(1994)Cancer Immunol Immunother 38:225;文献13/Zhang et al.(1995)Cancer Res 55:3584)。このことは、浸潤B細胞が発現する抗体による癌抗原の同定が可能であることを示している。もしもこのような反応性を有する抗体を得ることができれば、癌の治療および診断に有用である。
癌細胞に結合した抗体は、補体系もしくは抗体依存的な細胞傷害機能を作動することにより癌細胞を破壊する。しかし実際には、癌組織に浸潤したB細胞によって産生された抗体がどのような特異性を有するのか、どのような可変領域のレパートリーを持つのかに関しての報告は少ない。
癌組織に浸潤するB細胞が発現する抗体についての解析が難しい理由の一つとして、浸潤B細胞によって産生される抗体の単離が困難なことを示すことができる。一般に抗体の解析には、抗体産生細胞のクローニングが必要である。抗体産生細胞のクローニングのための手法として、Epstein−Barrウィルス(EBV)によるヒトB細胞の不死化法が知られている。しかしEBV感染によってヒト抗体産生細胞を株化できる確率は非常に低い(文献14/Henderson et al(1977)Virology 76:152;文献15/Aman et al(1984)J Exp Med 159:208)。
マウス抗体の産生細胞株を樹立するために確立されたハイブリドーマ法も、抗体産生細胞のクローン化のための手法の一つである。ハイブリドーマ法は、抗原特異的なB細胞を不死化したミエローマ細胞と融合し、抗体発現細胞を株化する方法である。しかしながら、いまのところヒトB細胞に関しては効率のよい融合パートナー細胞が見つかっていない。マウスのハイブリドーマ細胞の場合に有効なマウスミエローマ細胞をヒトB細胞の融合パートナーとして用いた場合、ヒト染色体の欠落が優先的に起こるためヒトハイブリドーマ細胞の形質は不安定であり、抗体産生株の株化にはつながらない(文献16/Winter and Milstein(1991)Nature 349:293)。このように、現在のところ、ヒト由来の抗体産生細胞を株化することは、技術的に困難である。
更にクローン化された抗体産生細胞と同様の抗原結合活性を持つ抗体を作り出すための組換えDNA技術、すなわち抗体遺伝子のクローニングと組換え抗体蛋白質の調製法が確立されつつある(文献17/Marks et al.(1991)J Mol Biol 222:581;文献18/Larrick et al.(1992)Immunol Reviews 130:69)。抗体遺伝子の可変領域をコードする遺伝子をクローニングすることにより、Fv、scFv、Fab、IgG、あるいはIgMなどの抗体遺伝子を作成することができる(文献19/Skerra et al.(1988)Science 240:293;文献20/Bird et al.(1988)Science 242:423;文献21/Better et al.(1988)Science 240:1041)。最も小さい組換え抗体分子であるscFvは、重鎖可変領域、軽鎖可変領域をリンカーで連結した構造を持っている。
クローン化されたB細胞は、言うまでもなく単一の抗体遺伝子を発現している。したがって、この細胞から軽鎖可変領域および重鎖可変領域をクローニングすれば、B細胞が産生している抗体と同様の活性を有する抗体を再構成することができる。しかし末梢血に存在するB細胞や癌組織に浸潤しているB細胞は、多様な抗体を産生する細胞集団(ポリクローナル)である(文献22/Kotlan et al.(1999)Immunol Lett 65:143;文献23/Hansen et al.(2001)Pro Natl Acad Sci USA 98:12659)。したがって、このような細胞集団から抗体遺伝子をクローニングしヒト抗体として再構成することは容易ではない。
【発明の開示】
本発明はポリクローナルな細胞集団に含まれる抗体産生細胞から、特定の反応性を有する抗体をコードするポリヌクレオチドを取得するための方法の提供を課題とする。
一般に、遺伝子組み換え技術を利用して抗体遺伝子をクローニングするためには、何らかの手法によってクローン化されたB細胞が必要であった。この制約が、たとえば癌組織に浸潤したB細胞が産生する抗体の取得を困難とする原因となっていた。本発明者らは、B細胞のクローン化に頼らず、抗体遺伝子の取得を可能とする方法を探索した。そして、細胞集団から単離された細胞のmRNAが、クローニングソースとして利用できるのではないかと考えた。一般にヒト抗体遺伝子のクローニングに用いられるのは末梢血に含まれるB細胞である。しかし末梢血のB細胞群は多様な反応性を有する抗体を産生するポリクローナルな集団であるため、特定の反応性を有する抗体を選択的に単離する目的には不向きであると考えられた。
マイクロダイセクションとは、組織切片のような不均一な細胞集団で構成された試料から、特定の細胞を切り出して単離するための手法である。たとえば紫外線レーザーで目的とする細胞の周囲を切り取り、細胞を単離するためのシステムが実用化されている。このシステムはレーザーマイクロダイセクション(Laser Microdissection;LMD)システムと呼ばれ、既に市販されている。LMDは、細胞に与える損傷が小さく、しかも目的とする細胞を高い精度で取得することができる技術として普及した。LMDを用いれば、特定の細胞の遺伝子を取得し、その遺伝子をPCRによって増幅することができる。
本発明者らは、癌組織中に浸潤したB細胞であれば、高い確率で癌細胞に対して反応性を有する抗体を産生すること、そして浸潤B細胞をLMDシステムなどを利用して単離することにより、癌細胞に結合する抗体をコードするポリヌクレオチドを効率的に単離することが可能になるのではないかと考えた。そして実際に病巣組織に浸潤したB細胞をクローニングソースとして利用し、抗体をコードするポリヌクレオチドが得られることを明らかにして本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の抗体遺伝子の単離方法、この遺伝子によってコードされる抗体の作製方法、該方法により得られた抗体に関する。
〔1〕以下の工程を含む病巣組織に対する抗体をコードするポリヌクレオチドの単離方法
(a)病巣組織に浸潤しているB細胞を単離する工程、および
(b)単離したB細胞から、抗体をコードするポリヌクレオチドを取得する工程
〔2〕病巣組織が癌組織である〔1〕に記載の方法。
〔3〕(a)病巣組織に浸潤しているB細胞を単離する工程が、病巣組織の切片からB細胞を含む領域を切り出す工程を含む、〔1〕に記載の方法。
〔4〕(b)抗体をコードするポリヌクレオチドを取得する工程が、抗体可変領域をコードする遺伝子を増幅する工程を含む〔1〕に記載の方法。
〔5〕〔1〕に記載の方法によって単離された、抗体をコードするポリヌクレオチド。
〔6〕抗体をコードするポリヌクレオチドが、抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする〔5〕に記載のポリヌクレオチド。
〔7〕〔5〕に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔8〕〔5〕に記載のポリヌクレオチド、または〔7〕に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
〔9〕〔8〕に記載の宿主細胞を培養し、発現産物である抗体を回収する工程を含む抗体の製造方法。
〔10〕〔9〕に記載の方法により製造された抗体。
〔11〕〔5〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる抗体。
〔12〕更に次の工程を含む〔9〕に記載の抗体の製造方法。
(1)〔9〕に記載の方法によって得られた抗体を病巣組織に接触させる工程、
(2)前記病巣組織と抗体との結合を検出する工程、および
(3)前記病巣組織に結合する抗体を選択する工程
本発明は、次の工程を含む、病巣に対する抗体をコードするポリヌクレオチドの単離方法に関する。
(a)病巣に浸潤したB細胞を単離する工程、および
(b)単離したB細胞から、抗体をコードするポリヌクレオチドを得る工程
病巣に浸潤したB細胞は、その病巣に対する抗体を産生している可能性が高い。つまり病巣部分は、その病巣を認識する抗体を産生するB細胞を集積していると言うことができる。したがって、病巣に浸潤した細胞集団から単離されたB細胞に由来する抗体遺伝子は、病巣に対する抗体の産生に有用である。本発明において、病巣に対する抗体とは、病巣を構成する抗原、あるいは病巣が産生する抗原性物質を認識する抗体を言う。このような抗体は、病巣の診断や治療に有用である。また、病巣が自己免疫疾患に起因する場合には、自己免疫疾患のエピトープの解析において重要な情報を与える。
本発明の方法においては、免疫システムによって異物として認識されるあらゆる病巣を利用することができる。たとえば、次のような病巣は、本発明におけるB細胞の取得のための病巣として好ましい。これらの病巣は、自然発生的に生じた病巣と言うことができる。自然発生的に生じた病巣は、当該病巣の治療を目的としてヒトからも得ることができる。
固形癌の病巣
動脈硬化の病巣
炎症性疾患の病巣
感染性病原体によって形成された病巣
自己免疫疾患の病巣
一方本発明においては、人為的に構成された病巣を利用することもできる。たとえば、次のような病巣は、人為的にもたらされた病巣である。人為的にもたらされた病巣は、たとえば免疫動物から得ることができる。人為的な病巣を利用することによって、任意の抗原に対する抗体のポリヌクレオチドを得ることができる。
免疫動物に人為的に移植された異種の細胞や組織
免疫動物に人為的に移植された外来遺伝子を発現する細胞や組織
本発明における好ましい病巣として、癌組織を示すことができる。すなわち本発明は、以下の工程を含む癌細胞に対する抗体をコードするポリヌクレオチドの単離方法に関する。
(a)癌組織に浸潤しているB細胞を単離する工程、および
(b)単離したB細胞から、抗体をコードするポリヌクレオチドを得る工程
本発明における癌組織は、限定されない。具体的には、乳癌組織、肺癌組織、肝臓癌組織、大腸癌組織、膵臓癌組織、あるいは前立腺癌組織などを示すことができる。中でもB細胞の浸潤が多く見られる癌は、本発明における望ましい癌組織である。B細胞の浸潤が多く見られる癌として、乳癌、肺癌、およびメラノーマを示すことができる。癌組織は、外科的な切除により採取される。たとえばバイオプシーによって採取された癌組織を本発明における癌組織として用いることができる。また、外科的な摘出術によって患者から摘出された組織も、癌組織として有用である。これらの組織は、抗体遺伝子の取得のために摘出されたものであっても良いし、あるいは組織病理学的な検査や、外科的な治療を目的として摘出された組織を利用することもできる。
本発明において、癌組織に浸潤しているB細胞を単離する方法は任意である。B細胞の好ましい単離方法として、マイクロダイセクションを示すことができる。マイクロダイセクションは、組織切片から特定の細胞を切り取るための技術である。たとえば、凍結組織切片からLaser Microdissection(LMD)システムを使って、目的の細胞を単離することができる。紫外線レーザーによって組織切片を切り取ることができるシステムが既に市販されている。このシステムを利用すれば、顕微鏡観察下でコンピューターを使って画像中で切り取る領域を指定することにより、組織切片から任意の領域を切り取ることができる。
このとき、標本を顕微鏡で観察し、B細胞が密集している部分を選択すれば、多くのB細胞を単離することができる。あるいはB細胞の密度の低い領域を切り出せば、少ないB細胞を容易に取得できる。実施例に示すように、単一の細胞を取得することさえ可能である。
本発明においては、任意の病理標本からB細胞を単離することができる。たとえば、凍結薄切標本は、本発明における望ましい病理標本である。病理標本として、新鮮な組織のみならず、パラホルムアルデヒド(PFA)等で固定された標本を用いることもできる。したがって、たとえば保存された病理標本から、本発明の方法によって抗体の遺伝子を取得することも可能である。このように、本発明の方法は、幅広いクローニングソースを選択できる。すなわち本発明は、多様な抗体遺伝子を容易に取得できる方法である。
マイクロダイセクションは、PCR法等を利用した、組織中の特定の細胞の遺伝子解析のために利用されているシステムである。しかし、抗体遺伝子の取得のためにマイクロダイセクションを利用した報告は無い。本発明者らは、病巣に浸潤したB細胞の集団が、目的とする反応性を有する抗体を産生している可能性が高い細胞集団として利用できることに着目した。そして更に、このような細胞集団の中から抗体産生細胞を取得してクローニングソースとして利用することにより、抗体遺伝子の取得を可能とした。
より具体的には、顕微鏡観察下での病理解析に基づいて、癌組織に浸潤し抗体を産生するB細胞、あるいはプラズマ細胞を取り出すことができる。B細胞、あるいはプラズマ細胞は、トルイジンブルー等で染色することによって識別することができる。この方法によって、従来の末梢血や癌部・非癌部の混じった組織分画よりB細胞やプラズマ細胞を取り出してくる方法に比べて、はるかに高い確率で癌細胞を認識する抗体の遺伝子を単離することができる。
本発明において、細胞の単離とは、異質な細胞が混在している細胞集団から、B細胞を分離することを言う。本発明における細胞の単離は、抗体遺伝子を有する細胞が抗体遺伝子の混入を伴わない他の細胞と共存する場合を含む。たとえば実施例に示すように、抗体を産生しないことが明らかなキャリア細胞を、抗体産生細胞に加えることができる。キャリア細胞は、目的とするmRNAの抽出を助けるために混合される。つまり、他の細胞が混在している場合であっても、限られた数の抗体産生細胞のみが含まれている場合には、当該抗体産生細胞は単離された状態にあると言うことができる。
本発明において単離するB細胞の数は任意である。具体的には、たとえば1〜1000、通常1〜50、好ましくは20以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは1個の細胞を単離する。
1個の細胞を単離すれば、重鎖と軽鎖の組み合せを維持した状態で抗体遺伝子を取得できる可能性が高まる。機能的な抗体分子を再構成するには、重鎖と軽鎖の組み合せを維持した状態でその遺伝子を取得することは重要な条件である。抗体遺伝子のクローニングにおいて、モノクローナルな抗体産生細胞をクローニングソースに用いることは、重鎖と軽鎖の組み合せを確実に再構成するために必要な条件であった。しかし1個の細胞から取得した抗体遺伝子を使って、反応性の異なる複数の抗体を比較するためには、遺伝子のクローニングを繰り返す必要がある。複数の抗体の比較は、より目的に合った特性を有する抗体を取得するために有効である。
逆に、複数の細胞を単離してクローニングソースとした場合には、取得された抗体遺伝子の重鎖と軽鎖の組み合せを特定することはできない。しかし複数の細胞に由来する抗体遺伝子を同時に取得することができる。つまり、抗体遺伝子のライブラリーを得ることができる。このようなライブラリーから、抗体活性を指標とするスクリーニングによって、目的とする反応性を有する抗体の遺伝子を取得することができる。スクリーニングによって選択された抗体遺伝子の重鎖と軽鎖の組み合せが同一の細胞に由来しているかどうかを確認することはできない。しかし、遺伝子が同一の細胞に由来するかどうかに関わらず、必要な反応性を有する抗体を得ることがきれば目的は達成される。
本発明の方法においては、病巣に浸潤している任意の抗体産生細胞をクローニングソースとして利用することができる。通常、末梢血を循環しているB細胞の分化レベルは多様である。分化の初期には、B細胞はμ鎖を抗原受容体として細胞表面に有する。抗原刺激に基づく分化と活性化を経ることにより、B細胞は成熟しIgG分泌細胞へと分化する。B細胞の分化の最終段階にある細胞はプラズマ細胞(plasma cell;形質細胞)と呼ばれる。プラズマ細胞は、毎秒2000分子のIgGを産生している。したがって、プラズマ細胞を単離すれば、より多くのmRNAが取得できることになる。
病巣に浸潤したB細胞は、一般に分化が進んだ状態にあるものが多く見出される。しかも浸潤B細胞は、病巣に対する抗体を産生している可能性が高い。したがって、病巣から単離されるB細胞をクローニングソースとして利用することによって、抗体の特異性は必然的に病巣に集中する。更に、分化が進んだB細胞、あるいはプラズマ細胞は、抗体遺伝子の発現レベルがきわめて高い状態にある。したがって、このような細胞をクローニングソースとして利用することは、抗体遺伝子を取得できる可能性を高めることにつながる。このように病巣に浸潤したB細胞を利用することによって、比較的少数の細胞を用いながら、高い確率で目的とする抗体遺伝子を取得することが可能となる。
分離されたB細胞から抗体遺伝子を単離するために、抗体遺伝子を増幅することができる。遺伝子の増幅方法は、公知である。たとえば、PCR法は抗体遺伝子の増幅方法として好ましい。以下に、PCR法を利用した抗体遺伝子の単離方法について説明する。
まず単離されたB細胞からmRNAを抽出する。抽出されたmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、cDNAライブラリーを得る。mRNAの抽出やcDNAライブラリーの合成には市販のキットを用いるのが便利である。本発明においては、少数のB細胞に由来するmRNAが利用される。実際には、少数の細胞のみから得られるmRNAは極めて微量なので、それを直接精製すると収率が低い。したがって通常は、抗体遺伝子を含まないことが明らかなキャリアRNAを添加した後に精製される。あるいは一定量のRNAを抽出できる場合には、抗体産生細胞のRNAのみでも効率よく抽出することができる。たとえば10以上、あるいは30以上、好ましくは50以上の抗体産生細胞からのRNA抽出には、キャリアRNAの添加は必要でない場合がある。
得られたcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。抗体遺伝子をPCR法によって増幅するためのプライマーが公知である。たとえば、論文(J.Mol.Biol.(1991)222,581−597)やWebサイト(http://www.mrc−cpe.cam.ac.uk/vbase−ok.php?menu=901)の開示に基づいて、ヒト抗体遺伝子増幅用のプライマーをデザインすることができる。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列となる。したがって、サブクラスが不明のcDNAライブラリーを鋳型とするときには、あらゆる可能性を考慮してPCR法を行う。
具体的には、たとえばヒトIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1〜γ5、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーを利用することができる。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3’側のプライマーにはヒンジ領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5’側のプライマーには、各サブクラスに応じたプライマーを用いることができる。
重鎖と軽鎖の各サブクラスの遺伝子増幅用プライマーによるPCR産物は、それぞれ独立したライブラリーとする。こうして合成されたライブラリーを利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンを再構成することができる。再構成されたイムノグロブリンの、病巣に対する結合活性を指標として、目的とする抗体をスクリーニングすることができる。
たとえば癌組織に対する抗体の取得を目的とするとき、本発明の抗体は癌細胞に結合することが好ましい。抗体の癌細胞への結合は、特異的であることがさらに好ましい。癌に結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングすることができる。
(1)本発明の方法によって得られた抗体を癌細胞に接触させる工程、
(2)前記癌細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)前記癌細胞に結合する抗体を選択する工程
抗体と癌細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、癌の固定標本に対して被験抗体を反応させ、次に抗体を認識する標識抗体を反応させる。洗浄後に固定標本上の標識抗体が検出されたときには、当該被験抗体の癌への結合を証明できる。標識には、ペルオキシダーゼやβ−ガラクトシダーゼ等の酵素活性蛋白質、あるいはFITC等の蛍光物質を利用することができる。抗体の結合活性を評価するための癌組織としては、B細胞を取得した病巣を構成する癌組織そのものであっても良いし、あるいは異なる個体から採取された同じ臓器の癌組織や癌由来の細胞株を用いることもできる。更に、異なる臓器に由来する癌組織や癌由来の細胞株を利用することによって、異なる種類の癌に共通して反応する抗体をスクリーニングすることもできる。
本発明において、抗体の癌組織に対する反応性が、正常組織との反応性と比較して、有意に高いとき、その抗体は癌に特異的に結合する抗体であると言う。本発明の抗体の反応性を比較するには、一般に、同種の組織が用いられる。すなわち、癌組織と当該癌組織が由来する臓器の正常組織との間で、抗体の反応性が比較される。癌組織に対する反応性が確認できる条件下で、正常組織に対する結合活性が検出できないとき、この抗体は、癌組織に対して特異的な反応性を有すると言うことができる。
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法を用いることもできる。上記のように抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリーとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。実施例に記載するように、重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)とすることができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入すれば、scFvを表面に発現するファージを得ることができる。このファージを目的とする抗原と接触させて、抗原に結合したファージを回収すれば、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAを回収することができる。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、目的とする結合活性を有するscFvを濃縮することができる。
本発明において抗体をコードするポリヌクレオチドは、抗体の全長をコードしていてもよいし、あるいは抗体の一部をコードしていてもよい。抗体の一部とは、抗体分子の任意の部分を言う。以下、抗体の一部を示す用語として、抗体断片を用いる場合がある。本発明における好ましい抗体断片は、抗体の相補鎖決定領域(complementarity determination region;CDR)を含む。更に好ましくは、本発明の抗体断片は、可変領域を構成する3つのCDRの全てを含む。
たとえば、抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドは、本発明の抗体断片として好ましい。可変領域をコードするポリヌクレオチドを取得することができれば、定常領域をコードするポリヌクレオチドと連結することによって、完全なイムノグロブリン分子を再構成することができる。抗体の定常領域は、同じクラスの抗体であればほぼ同じ構造を有している。つまり定常領域の構造は抗原結合活性には影響しない。したがって、可変領域の構造を明らかにすることができれば、既に取得されている定常領域との接合によって、その抗体と同様の活性を有する抗体を再構成することができる。
本発明の抗体は、人為的に構造を改変した遺伝子組換え型抗体を含む。たとえばヒトではなくマウスのような異種動物から本発明の方法によって取得された抗体遺伝子は、ヒトの定常領域遺伝子との接合によって、マウス−ヒトキメラ(Chimeric)抗体とすることができる。あるいはマウスのような異種動物の可変領域を構成するCDRを、ヒト可変領域に移植することによって、マウスの可変領域をヒト化するための方法も公知である。
本発明における抗体をコードするポリヌクレオチドは、DNA、RNA、あるいは両者のキメラ分子であることができる。更に、その塩基配列が維持されていれば、PNA等の人工的な構造を含むこともできる。B細胞から単離された抗体をコードする遺伝子の塩基配列に基づいて、同じ塩基配列を有するポリヌクレオチドを合成する方法は公知である。
本発明のポリヌクレオチドは、B細胞から単離された抗体をコードする遺伝子と同一の配列若しくは相同性の高い配列を有することができる。ここで相同性が高いとは、通常70%以上の相同性を有し、好ましくは80%以上の相同性を有し、さらに好ましくは90%以上の相同性を有し、特に好ましくは95%以上の相同性を有することを示す。
本発明は、上記の方法によって得られた抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。本発明のポリヌクレオチドは、任意の発現ベクターに組み込むことができる。発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、抗体発現細胞とすることができる。抗体発現細胞を培養し発現産物を回収すれば、当該遺伝子によってコードされる抗体を取得することができる。以下に、上記の方法によって単離された抗体遺伝子の発現について説明する。
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO,COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9,sf21,Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
また、本発明の方法により得られた抗体は、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し、抗体断片を生成させることによって、抗体断片を得ることができる。または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.,1994,152,2968−2976.、Better,M.& Horwitz,A.H.,Methods in Enzymology,1989,178,476−496,Academic Press,Inc.、Plueckthun,A.& Skerra,A.,Methods in Enzymology,1989,178,476−496,Academic Press,Inc.、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology,1989,121,663−669.、Bird,R.E.et al.,TIBTECH,1991,9,132−137.参照)。
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,1988,85,5879−5883.)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたいずれの抗体由来であってもよい。
V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えば12−19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができる。また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し、宿主により産生させることができる。抗体修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。また抗体に放射性同位元素、化学療法剤、細菌由来トキシン等の細胞傷害性物質、あるいは標識物質などを結合することも可能である。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。
さらに、本発明における抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体は抗原分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位が抗原を認識し、他方の抗原結合部位が放射性物質、化学療法剤、細胞由来トキシン等の細胞障害性物質を認識してもよい。この場合、抗原を発現している細胞に直接細胞障害性物質を作用させ癌細胞に特異的に障害を与え、癌細胞の増殖を抑制することが可能である。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
前記のように発現、産生された抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法により精製することができる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。
抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。
本発明の抗体を製造するための発現系を構築するための手順および宿主に適合した組換えベクターの構築は遺伝子工学の分野において慣用の技術を用いて行うことができる(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Labolatories(1989)等参照)。宿主細胞としては、細菌等の原核生物、並びに、酵母、動物細胞、昆虫細胞及び植物細胞等の真核細胞等、本発明の軽鎖又は軽鎖を含む抗体を発現できる細胞であればいずれも用いることができる。特に、グリコシル化の点から考えると哺乳動物細胞が好ましい。
発現ベクターは、遺伝情報の転写及び翻訳を制御するプロモーター、ターミネーター等のユニットを含む必要がある。例えば、大腸菌等のエシェリシア属の微生物を宿主細胞とする場合、プラスミドベクターとしてpBR、pUC系プラスミドを利用することができlac、trp、tac、trc、λファージPL、PR等に由来するプロモーターが利用可能である。また、ターミネーターとしてはtrpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のものを用いることができる。
枯草菌等のバチルス属の微生物を宿主とする場合については、pUB110系、pC194系等のプラスミドが知られており、場合により遺伝子を染色体にインテグレートすることもできる。プロモーター・ターミネーターとしてapr、npr、amy等由来のものが利用できる。
その他、原核細胞としてはシュードモナス属(例えば、Pseudomonas putida,P.cepacia等;pKT240等のベクター)、ブレビバクテリウム属(例えば、Brevibacterium lactofermentum;pAJ43等)、コリネバクテリウム属(例えば、Corynebacterium glutamicum等;pCS11、pCB101等)、ストレプトコッカス属(pHV1301、pGK1等)、ラクトバチルス属(pAMβ1等)、ロドコッカス属(Rhodococcus rhodochrous等より単離されたプラスミド(J.Gen.Microbiol.138:1003(1992))等)、ストレプトマイセス属(例えば、Streptomyces lividans,S.virginiae等;pIJ486、pKC1064、pUWL−KS等)、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレビシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属(Salmonella typhimurium等)、セラチア属(Serratia marcescans)、シゲレラ属に属する微生物が挙げられる。
真核微生物の発現系としては、Saccharomyces cerevisiaeを宿主とし、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系のプラスミドを用いた系が知られている。また、ADH、GAPDH、PHO、GAL、PGK、ENO等のプロモーター・ターミネーターが利用可能である。その他、クライベロマイセス属(例えば、Kluyveromyces lactis等;2μm系、pKD1系、pGKI1系、KARS系等のプラスミド)、シゾサッカロマイセス属(例えば、Schizosaccharomyces pombe等;pAUR224等)、チゴサッカロマイセス属(例えば、Zygosaccharomyces rouxii等;pSB3、及び、S.cerevisiae由来PHO5プロモーター等)、ハンゼヌラ属(例えば、Hansenula polymorpha等)、ピキア属(例えば、Pichia pastoris等)、カンディダ属(例えば、Candida maltosa,Candida tropicalis,Candida utilis,Candida albicans等)、アスペルギルス属(例えば、Aspergillus oryzae,Aspergillus niger等)、及びトリコデルマ属(例えば、Trichoderma reesei等)等を本発明の発現ベクター系において用いることができる。
その他、植物細胞を宿主として用いることもできる。例えば、綿、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、ダイズ、ペチュニア、及びタバコ等由来の植物細胞を宿主とすることができる。特に良く知られた系としてNicotina tabacum由来の細胞を用いたものが知られており、これをカルス培養すればよい。植物を形質転換する際には、例えば、pMON530等の発現ベクターを用い、該ベクターをAgrobacterium tumefaciens等の細菌に導入する。この細菌をタバコ(例えば、Nicotina tabacum)に感染させると、所望のポリペプチドをタバコの葉等から得ることができる。
カイコ(Bombyx mori)、カ(Aede aegypti,Aedes albopictus)、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)等の昆虫細胞を宿主として用いることも可能である。例えば、カイコを用いる場合、抗体をコードするDNAをバキュロウイルスベクター等に挿入し、該ウイルスをカイコに感染させることによりカイコの体液から目的のポリペプチドを得ることができる(Nature 315:592−594(1985))。
動物細胞を宿主として用いる場合には、例えば、pME18S(Med.immunol.20:27−32(1990))、pEF−BOS(Nucleic Acids Res.18:5322(1990))、pCDM8(Nature 329:840−842(1987)、pRSVneo、pSV2−neo、pcDNAI/Amp(Invitrogen)、pcDNAI、pAMoERC3Sc、pCDM8(Nature 329:840(1987))、pAGE107(Cytotechnology 3:133(1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem.101:1307(1987))、pAMoA、pAS3−3、pCAGGS(Gene 108:193−200(1991))、pBK−CMV、pcDNA3.1(Invirtogen)、pZeoSV(Stratagene)等が発現ベクターとして挙げられる。
プロモーターとしては、サイトメガロウイルスのIE遺伝子のプロモーター及びエンハンサー、SV40の初期プロモーター、RSV、HIV及びMMLV等のレトロウイルスのLTR、メタロチオネインβ−アクチン、伸長因子1、HSP等の動物細胞由来の遺伝子のプロモーター等を挙げることができる。その他、上述のようにウイルスベクターを用いることもできる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、HIV等のDNA及びRNAウイルスが挙げられる。
動物細胞宿主としては、マウス・ミエローマ細胞(例えば、SP2/O、NSO等)、ラット・ミエローマ細胞(例えば、YB2/O等)、マウス・ハイブリドーマ細胞、Nmalwa細胞(KJM−1細胞等も含む)、ヒト胎児腎臓細胞(293細胞等)、ヒト白血病細胞(BALL−1等)、CHO細胞、COS細胞(COS−1、COS−7等)、ハムスター胎児腎臓細胞(BHK等)、マウスセルトリ細胞(TM4等)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76等)、HBT637細胞、HeLa細胞、ウサギ腎臓細胞(MDCK等)、ヒト肝臓細胞(HepG2等)、マウス乳癌細胞(MMTO60562細胞)、TRI細胞、MRC細胞、FS3細胞等がある。
発現ベクターの導入方法としては、宿主及びベクターの種類に依存するが、細胞に抗体をコードするDNAを導入できる方法であれば、いずれも用いることができる。原核細胞へベクターを導入する方法としては、カルシウムイオンを用いる方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:2110(1972))、プロトプラスト法(特開昭63−24829号公報)、エレクトポーレーション法(Gene 17:107(1982);Molecular&General Genetics 168:111(1979))等がある。酵母への導入方法としては、エレクトポレーション法(Methods in Enzymology,194:182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.153:163(1983))等がある。植物細胞についてはAgrobacterium法(Gene 23:315(1983);WO89/05859等)や、超音波処理による方法(WO91/00358)等が知られている。動物細胞へベクターを導入する方法としてはエレクトポレーション(Cytotechnology 3:133(1990))、リン酸カルシウム法(特開平2−227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413(1987);Virology 52:456(1973))、リン酸−カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法等が挙げられる。
上述のようにして取得された形質転換体は、例えば、以下の方法で培養することができる。
形質転換体が原核生物や真核微生物である場合は、培地は該生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等の生育に必要な物質を含有し、形質転換体の効率的な培養を可能にするものであれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。培養は好気的条件、嫌気的条件のいずれで行ってもよく、生育温度、培地のpH、生育時間等の条件は、用いる形質転換体の種類に応じ適宜当業者により決定され得るものである。また、誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターについては、必要に応じてインデューサーを培地に添加すればよい。例えばlacプロモーターを有するベクターは、IPTGの添加によって発現が誘導される。あるいはtrpプロモーターであれば、IAAがインデューサーとして用いられる。
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、培地としてはTNM−FH培地(Pharmingen)、Sf−900 II SFM培地(Life Technologies)、ExCell400及びExCell405(JRH Biosciences)、Grace’s Insect Medium(Nature 195:788(1962))等を用いることができ、必要に応じゲンタマイシン等の抗生物質を添加してもよい。
形質転換体が動物細胞である場合には、一般に使用されているRPMI1640培地(The Journal of American Medical Association 199:519(1967))、EagleのMEM培地(Science 122:501(1952))、DMEM培地(Virology 8:396(1959))、199培地(Proceeding of the Society for the Biological Medicine 73:1(1950))、または、これらの培地にBSA等を添加した培地を使用することができる。培養は通常の条件、例えば、pH6〜8、30〜40℃、5%CO存在下で行うことができる。この際、必要に応じカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
このようにして得られた本発明の抗体は、宿主細胞内、または、シグナル配列を用いて細胞外に分泌させた場合には培地等から単離し、実質的に純粋なポリペプチドとして精製することもできる。本発明の抗体は、一般的にポリペプチドの分離や精製に使用される方法を適宜選択し、必要に応じて組み合せることによって、分離あるいは精製することができる。このような手法としては、クロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈澱、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、再結晶等を示すことができる。クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Charcterization:A Laboratoy Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratoy Course Manual,Harlow and David Lane eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988))。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。また、抗原への結合性を利用して精製することも可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、凍結薄切標本より約200個のプラズマ細胞またはB細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図2は、凍結薄切標本より切り出した約200個のプラズマ細胞またはB細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す写真および図である。図左の電気泳動の結果は、左側から順に分子量マーカー、重鎖可変領域(VH6/7−JHmix)、および軽鎖可変領域(Vκ2−Jκmix)の増幅産物の電気泳動結果である。右のグラフはAgilent2100による泳動時間の測定結果を示す。縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
図3は、凍結薄切標本より切り出した約200個のプラズマ細胞またはB細胞に発現していた抗体遺伝子重鎖可変領域の塩基配列決定し、そのコードするアミノ酸配列に関してClustalXによる多重アライメントを行った結果を示す図である。図中、アライメントの上の行に、保存性の高い位置を示した。保存性の高さを示すために以下の3つの文字’*’,’:’および’.’を用いた。
’*’ 全配列に同一のアミノ酸残基が保存されていた位置
’:’ 全配列に以下に示すいずれかの保存性の高いグループのアミノ酸残基が保存されていた位置
STA,NEQK,NHQK,NDEQ,QHRK,MILV,MILF,HY,FYW
’.’ 全配列に以下に示すいずれかの保存性の低いグループのアミノ酸残基が保存されていた位置
CSA,ATV,SAG,STNK,STPA,SGND,SNDEQK,
NDEQHK,NEQHRK,FVLIM,HFY
図4は、凍結薄切標本より切り出した約200個のプラズマ細胞またはB細胞に発現していた抗体遺伝子κ鎖可変領域の塩基配列決定し、そのコードするアミノ酸配列に関してClustalXによる多重アライメントを行った結果を示す図である。
図5は、凍結薄切標本より5個のプラズマ細胞またはB細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図6は、凍結薄切標本より切り出した5個のプラズマ細胞またはB細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す写真および図である。図左の電気泳動の結果は、左側から順に、それぞれ以下のプライマーセットによる増幅結果を示している。
分子量マーカー、
重鎖可変領域(VH6/7−JHmix)、
軽鎖可変領域(Vκ1−Jκmix)、
軽鎖可変領域(Vκ2−Jκmix)、
軽鎖可変領域(Vκ3−Jκmix)、
軽鎖可変領域(Vκ4/5−Jκmix)、および
軽鎖可変領域(Vκ6−Jκmix)、
右のグラフはAgilent2100による泳動時間の測定結果を示す。縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
図7は、凍結薄切標本より1個のプラズマ細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図8は、凍結薄切標本より切り出した1個のプラズマ細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す図である。図中、縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
図9は、凍結薄切標本より1個のプラズマ細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。左の写真で矢印で示したのが切り取られる細胞である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図10は、凍結薄切標本より切り出した1個のプラズマ細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す図である。図中、縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
図11は、凍結薄切標本より1個のプラズマ細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。左の写真で矢印で示したのが切り取られる細胞である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図12は、凍結薄切標本より切り出した1個のプラズマ細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す写真および図である。図左の電気泳動の結果は、左側から順に、それぞれ以下のプライマーセットによる増幅結果を示している。
分子量マーカー、
重鎖可変領域(VH6/7−JHmix)、
軽鎖可変領域(Vκ1−Jκmix)、
軽鎖可変領域(Vκ2−Jκmix)、
軽鎖可変領域(Vκ3−Jκmix)、
軽鎖可変領域(Vκ4/5−Jκmix)、および
軽鎖可変領域(Vκ6−Jκmix)、
右のグラフはAgilent2100による泳動時間の測定結果を示す。縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
図13は、凍結薄切標本より1個のプラズマ細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。左の写真で矢印で示したのが切り取られる細胞である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図14は、凍結薄切標本より切り出した単一のプラズマ細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す図である。図中、縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
図15は、PFA固定後の凍結薄切標本より1個のプラズマ細胞を切り出した様子を示す写真である。左側が切り出し前(before cut)、右側が切り出し後(after cut)である。左の写真で丸で囲まれた細胞が切り取られる細胞である。右の写真において白く抜けている部分が切り出された部分を示す。
図16は、PFA固定後凍結薄切標本より切り出した1個のプラズマ細胞に発現していた抗体遺伝子をRT−PCR法により増幅し、この増幅産物の一部をAgilent2100を用いた電気泳動により解析した結果を示す図である。図中、縦軸が蛍光強度、横軸が泳動時間(秒)である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] LMDによる癌組織に浸潤する単一B細胞の単離
ヒト新鮮組織(乳癌組織)を適当な大きさに細切後、OCT compound(Tissue−tek)を用いて凍結ブロックを作製した。必要に応じて凍結前にparaformaldehyde−lysine−periodate等の固定液にて固定した。次に各凍結ブロックより薄切標本を作製し、LMD用スライド(松浪硝子株式会社)上に貼り付けた。凍結薄切標本は風乾後acetone等の固定液を用いて固定し、トルイジンブルー(武藤化学薬品株式会社)等の染色を施した。染色後Laser microdissection system(Leica AS−LMD)にて形質細胞を切り出し、回収バッファー(QIAGEN RNeasy Mini Kit添付RLT溶液)に回収した。切り出し前、切り出し後の形質細胞像を図に示した(図1、図5、図7、図9、図11、図13、および図15)。いずれの図においても図の左に切りだし前、右に切りだし後の状態を示した。更に、切り出し前の写真(左)において細胞を特定できる場合には、切り出される細胞を矢印等で示した。
[実施例2] RNA調製およびcDNA合成
LMDにより薄切標本より切り取られた1から約5個のB細胞の懸濁液と抗体遺伝子を発現していない約300細胞のキャリア細胞懸濁液と混合し、この混合液よりRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて製造者の指示に従いトータルRNAを調製した。薄切標本より切り取られた細胞数が50以上の場合には、キャリア細胞を添加せずにトータルRNAの調製を行った。RNA溶出画分35μLすべてを鋳型にSensiscript Reverse Transcriptase(QIAGEN)を用いて製造者の指示に従いcDNAを合成した。cDNA合成反応は80μLスケールで、40ngのオリゴdTプライマー(Promega)、0.8μgのランダムヘキサマー(Invitrogen)を逆転写反応プライマーに用い、37℃で1時間反応させた。合成されたcDNAをすぐにPCR反応に移さない場合には、−80℃にて保存した。
[実施例3] ヒト抗体可変領域のクローニング
ヒト抗体遺伝子可変領域をクローニングするPCRプライマーを文献J.Mol.Biol.(1991)222,581−597およびMedical Research Council(MRC)のWEBサイト″V BASE″(http://wvw.mrc−cpe.cam.ac.uk/vbase−ok.php?menu=901)を参考にデザインした。その塩基配列を以下(配列番号:97〜配列番号:150)に示した。VHおよびJHの頭文字で始まるプライマーは重鎖可変領域をクローニングするプライマーに相当し、VKとJK、VLとJLの頭文字で始まるプライマーはそれぞれ軽鎖κ鎖、軽鎖λ鎖を増幅するためのプライマーに相当する。



重鎖可変領域、κ鎖可変領域、λ鎖可変領域のクローニングを行う目的で、別々にそれぞれの遺伝子サブセットに対するプライマー混合液とTaq DNA polymerase Core Kit(QIAGEN)の組み合わせでPCR増幅を行った。重鎖、κ鎖を増幅するためにそれぞれ5つのプライマー混合液をつくり、このプライマー混合液を用いて10種類の反応液を調製した。混合液におけるプライマーの組み合せを表1に示した。4μLの鋳型cDNAを含む終濃度1x反応緩衝液、1xQ solution(QIAGEN)、0.4mM dNTP、0.4μMのforwardおよびreverse−wardプライマー、2U Taq DNAポリメラーゼを含む反応混合液20μLを調製した。反応混合液をアプライドバイオシステムズPE9700にセットし40サイクルの増幅反応を行った。増幅サイクルは、94℃10秒の変性のあと50℃30秒のアニーリング、72℃30秒の伸長反応からなる。

反応後の生成産物をラボチップDNA7500/Agilent2100を用いて解析した。増幅結果を図に示した(図2、図6、図8、図10、図12、図14、および図16)。増幅産物は、QIAGEN PCR Purification Kitを用いて精製した。PCR反応産物量が少ない場合には、アガロース電気泳動を行い、抗体遺伝子可変領域に相当する分子量領域を切り出し、再増幅した。得られたDNA断片をpGEM−T Easy(Promega)にクローニングし、大腸菌DH5αを形質転換した。組換えプラスミドの挿入配列の塩基配列を決定し、抗体遺伝子が増幅されていることを確認した。決定された塩基配列は配列番号:1〜配列番号:54(重鎖)、および配列番号:55〜配列番号:84(軽鎖)に示した。更に決定されたアミノ酸配列をアライメントした結果を図3および図4に示した。アライメントの結果、本発明の方法によって複数クローンの抗体遺伝子が取得されていることが確認できた。しかし単離された可変領域のアミノ酸配列の種類が多様でないことから、存在していたB細胞は特定の抗原刺激を受けて増殖した細胞群である可能性が高いことが示された。
[実施例4] 一本鎖抗体分子の調製
一本鎖抗体遺伝子作成のためのリンカー配列をMarksらの方法(J.Mol.Biol.(1991)222,581−597)に従って作成した。作成に用いた鋳型DNA配列およびプライマーの塩基配列を以下に示した。PCR増幅によって合成されたリンカー断片をアガロースゲル電気泳動により確認し、この断片を含むバンドを切り出して精製した。

プライマーの塩基配列:


単一のB細胞のmRNAから合成したcDNAを鋳型としてPCR増幅した重鎖可変領域、κ鎖可変領域もしくはλ鎖可変領域、リンカー配列を混ぜ、以下(配列番号:169〜182)に示したプライマーセットを用いてPCRを行った。軽鎖がκ鎖の場合にはVHプライマーとJKプライマーの組み合わせ、軽鎖がλ鎖の場合にはVHプライマーとJLプライマーの組み合わせの反応液を調製した。KOD plus DNA polymerase(TOYOBO)を用いて製造者の指示に従い反応液を調製した。プライマー添加前の7サイクルの94℃15秒の変性および68℃1分の伸長反応を行い、その後プライマーを添加し20サイクルの94℃15秒の変性および68℃1分の伸長反応を行った。


増幅産物をアガロースゲル電気泳動により確認した後、相当する遺伝子断片を含むバンドを切り出して精製した。切り出した断片を制限酵素で切断し、発現ベクターへに挿入した。発現ベクターは、挿入された断片をT7プロモーターの制御下で発現し、かつ組み換え体のC末端にFLAGタグを付加できるようデザインした。得られた発現ベクターで、大腸菌DH5αを形質転換した。発現プラスミドの挿入配列をDNAシーケンシングにより確認し、続いてこの発現プラスミドにより大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
本実施例において構築した一本鎖抗体の塩基配列とその翻訳アミノ酸配列を配列番号:183〜配列番号:188に示した。70−6scFv(配列番号187−188)は単一のB細胞より単離した重鎖(配列番号:93−94)および軽鎖(配列番号:95−96)から作成した一本鎖抗体である。一方、70−5AscFv(配列番号:183−184)、および70−5BscFv(配列番号:185−186)は、5個のB細胞より得られた重鎖と軽鎖を組み合せて作成した一本鎖抗体である。70−5AscFvと70−5BscFvを構成する重鎖の塩基配列およびアミノ酸配列は配列番号:91−92に、また軽鎖が由来する塩基配列およびアミノ酸配列は配列番号:85−88に示した。
組換え一本鎖抗体を、大腸菌培養上清より調製した。対数増殖期にある形質転換細胞に対して30℃、0.5mM isopropyl−β−thiogalactopyranoside添加により組換え抗体の発現を誘導した。終夜培養後、培養液を遠心し培養上清と細胞とを分離した。上清を濾過後、Anti−FLAG M2アフィニティーカラム(Sigma)に供し、組換え蛋白質をカラムに吸着させた。カラムを洗浄後、0.1M Glycine(pH3.5)で組換え蛋白質を溶出した。溶出液をPD10カラム(アマシャムバイオテク)へと供し0.01% Tween20を含むPBSへとすぐに緩衝液を置換した。蛋白質の存在をSDS−PAGE後のクマシー染色もしくは抗FLAG抗体によるウェスタンブロッティングにより確認した。
[実施例3] 免疫染色
癌組織瞬間凍結組織切片を1%パラフォルムアルデヒド・PBS溶液で10分間固定した。内在性のペルオキシダーゼ活性を0.3%過酸化水素水でブロックした。組換え抗体の非特異的な結合が起こらないようにするために、組換え抗体を含む溶液とインキュベーションする前に10%胎児ウシ血清でブロッキングした。1%BSA,0.1% tween−20を含むPBS中に組換え抗体を含む溶液を希釈し、この溶液を組織切片とインキュベーションした。結合した組換え抗体をペルオキシダーゼ共役抗FLAG抗体(FLAG)による過酸化水素水存在下での3,3−diamino−benzidine−tetra hydrochlorideのブラウン色沈殿物変換により検出した。抗体添加前後に、0.1% tween−20を含むPBSを用いて室温5分で3度洗浄した。組織切片はヘマトキシリンでカウンター染色し、マウンティングを行う前にエタノールおよびキシレンを用いて脱水した。抗体染色の陰性対照として組換え抗体添加段階を除いて同様の作業を行った。
【産業上の利用の可能性】
本発明によって、B細胞のクローン化に頼ることなく、病巣に対する抗体をコードするポリヌクレオチドを単離することができる。本発明の方法は、B細胞のクローン化に依存しないため、クローン化が難しいヒトの抗体産生細胞由来の遺伝子も容易に取得できる。
本発明に基づいて、癌組織に浸潤したB細胞から、癌組織を認識する抗体をコードする遺伝子を単離することができる。癌細胞を認識する抗体は、癌の診断や治療において有用である。本発明を利用すれば、ヒトの抗体産生細胞からも容易に抗体遺伝子を取得できる。癌の診断や治療において、癌組織を認識するヒトの抗体遺伝子が取得された意義は大きい。
抗体を利用した癌の診断や治療においては、ヒトへ抗体が投与される。たとえば抗体を用いた癌の診断においては、追跡可能な標識を有する抗体分子が投与され、抗体の局在部分に癌が存在することが示される。癌の治療においては、標的治療(target threrapy)に抗体が利用される。すなわち抗がん剤を結合した抗体が、患者に投与される。ヒト抗体はヒトに投与したときに高い安全性を期待できる。また異種蛋白質として認識されにくいため、血中濃度を長期間に渡って安定に維持することができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【配列表】













































































































































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む病巣組織に対する抗体をコードするポリヌクレオチドの単離方法。
(a)病巣組織に浸潤しているB細胞を単離する工程、および
(b)単離したB細胞から、抗体をコードするポリヌクレオチドを取得する工程
【請求項2】
病巣組織が癌組織である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)病巣組織に浸潤しているB細胞を単離する工程が、病巣組織の切片からB細胞を含む領域を切り出す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(b)抗体をコードするポリヌクレオチドを取得する工程が、抗体可変領域をコードする遺伝子を増幅する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法によって単離された、抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
抗体をコードするポリヌクレオチドが、抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項5に記載のポリヌクレオチド、または請求項7に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の宿主細胞を培養し、発現産物である抗体を回収する工程を含む抗体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により製造された抗体。
【請求項11】
請求項5に記載のポリヌクレオチドによってコードされる抗体。
【請求項12】
更に次の工程を含む請求項9に記載の抗体の製造方法。
(1)請求項9に記載の方法によって得られた抗体を病巣組織に接触させる工程、
(2)前記病巣組織と抗体との結合を検出する工程、および
(3)前記病巣組織に結合する抗体を選択する工程

【国際公開番号】WO2004/048571
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555009(P2004−555009)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014919
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【出願人】(502423691)ファーマロジカルズ・リサーチ プライベート リミテッド (1)
【Fターム(参考)】