説明

病態生理学的症状の体外検出及び識別方法

本発明は、サンプル核酸を用い、病態生理学的症状の体外検出及び/若しくは区別並びに/又は進行観察方法に関する。これは、複数のポリヌクレオチドを用いた遺伝子活性の測定、少なくとも1つの内部参照遺伝子の遺伝子活性の測定及び測定され標準化された多重遺伝子バイオマーカーの遺伝子活性から、病態生理学的症状を表す指標値の作成
を含める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の病態生理学的症状の体外検出及び/若しくは識別並びに/又は進行観察方法;請求項4に記載の多重測定法を作り出すための、少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを形成する複数のポリヌクレオチド及び/若しくはその遺伝子座並びに/又はその転写物の使用;請求項11に記載の測定法を作り出すための、少なくとも1つのポリヌクレオチド及び/若しくはその遺伝子座並びに/又はその転写物の使用、及び請求項14に記載の方法を実施するためのキットに関する.
【0002】
特に本発明は、敗血症や敗血症型疾患などの病態生理学的症状のある患者の診断支援方法であって、体外診断多変量指標測定法「In Vitro Diagnostic Multivariate Index Assay (IVDMIA)」と同様の特徴を有する方法を作り出すための、少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーの遺伝子活性の検出のためのポリヌクレオチドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
敗血症(血液中毒)は生体全体に影響を及ぼす致死的な感染症である。敗血症は高い死亡率に結びつき、次第に多く発生するようになり、またいかなる年齢の人であっても侵される。敗血症は、高性能の医薬がある多くの地域の医学の進歩を危うくし、医療資源の大部分を使い果たす。重篤な敗血症による死亡率は、過去何十年にわたって決定的には改善しなかった。血液培養(約1880年)の導入後過去2つの革新的な跳躍は、60年以上前の抗生剤の導入と、約50年前の集中治療医学の開始である。現代において同じように決定的な治療法の進歩を実現するためには、新たな診断法が必要である。
【0004】
敗血症は感染性病原菌が原因となる。敗血症に対する専門的な治療はまだ存在しないので、治療が成功するかどうかは、主に、原因となる感染と成功裏に戦うこと並びに集中治療の質に依存する。生存のために決定的なことは、感染性病原菌とさらにうまく戦う抗生剤の適時な投与である(Kumar et. al., (2006) Crit Care Med 34: 1589-1596)。しかしながら敗血症の診断法がないと、治療の開始と適切な抗生剤の選択に遅れが生じる。血液培養する現行手法による敗血症病原菌の同定が成功するのは敗血症症例の25%未満に過ぎず、病原菌同定についても2〜3日後に分かるに過ぎないので、抗生剤又は抗真菌剤(真菌に対する物質)の初期の選択は、「予測」すなわち推測して行わざるを得ない。この選択は、20〜30%の症例で誤っている。
【0005】
さらに治療を遅らせる原因は、疾患症状と検査値の解釈の誤りにある。敗血症診断を簡素化し、迅速化する改良された診断法は、敗血症死亡率を大幅に減少させることができ、また治療期間を短縮することができる。専門的な医療会社は、北米及び欧州の集中治療医への聞き取り調査において、過去の敗血症診断の欠点を確認している(Marshall et. al., (2003) Crit Care Med. 31:
1560-1567)。自助主導的「社団法人ドイツ敗血症支援(Deutsche
Sepsis Hilfe e.V.)」並びにドイツ敗血症協会は、この欠点に対して遺憾の意を表している。
【0006】
分子診断学の分野から市場性のある体外診断法を開発する過程において、米国食品医薬品局(FDA)によりガイドライン草稿が2007年7月26日に発行された。このガイドラインは、開発と承認プロセスについての推奨、定義及びヒントを提供している。さらに、新しい部類の体外診断多変量指標測定法「In Vitro Diagnostic Multivariate Index Assay (IVDMIA)」に対する仕様が提案されている。この測定法の特徴は下記の通りである。
1)指標、スコア又は分類の形式でのそれぞれの患者特異的出力値を得るための解釈ステップを用いた、いくつかのそれぞれの値の組み合わせ。この値は、疾患の被害対策、治療又は予防に対する診断意見に利用することができる。
2)得られた結果は、測定データそのものに関して、いかなる結果も与えない測定値に由来する。したがって、結果がエンドユーザーによって確認又は複製されることはあり得ない。
3)結論として、検査結果の解釈のためには、ユーザーにすべての情報を提供することが必要である。
【0007】
本発明は特に、症状及び/又は診断課題に特異的な多重遺伝子バイオマーカーを調製するための遺伝子及び/又は遺伝子断片、並びにそれらの使用に関する。
本発明はさらに、ハイブリダイゼーション又は複製方法のための、標識遺伝子に由来するPCRプライマー及びプローブに関する。
【0008】
既に述べたように、敗血症は、現代の集中治療医学において最も難しい臨床像のひとつであり、臨床医師にとって、治療のみならず診断も課題となっている。
集中治療患者の病態生理学的な理解と対症療法の進歩にもかかわらず、全身性炎症反応症候群(SIRS)や敗血症などの一般的な炎症疾患は、集中治療室の患者に頻繁に起こる疾患であり、死亡率が無視できない程度になる一因となっている(Marshall et. al., (2003) Crit Care Med 31, 1560-1567;
Alberti et al., (2003) Am J Respir Crit Care Med 168,
77-84)。死亡率は、SIRSでおよそ20%、敗血症でおよそ40%であり、多臓器機能不全への進行は70〜80%にも達する(Brun-Buisson et al., (1995) JAMA
274, 968-974; Le-Gall et al., (1995) JAMA 273, 644-650; Brun-Buisson et al., (2003)
Intensive Care Med 29, 1464-1471)。死亡率及び致死率に対するSIRSと敗血症の寄与には、学際的な臨床医学的重要性がある。それは、これらの疾患が多くの医学領域(例えば外傷学、脳神経外科、心肺外科、内蔵外科、移植医学、血液学/腫瘍学など)における最も進歩した治療法による治療の成功をますます危うくし、SIRSと敗血症の疾患リスクの増大を例外なく招くためである。これは敗血症の頻度が連続的に上昇することからも分かり、1979年から1987年の間に139%の増加が記録された。すなわち、入院患者10万人当たり73.6症例から176症例へと増加した(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 1990)。したがって多くの重篤疾患患者の死亡率及び致死率の減少は、予防及び治療の同時進歩並びに特に敗血症と重篤な敗血症の認識及び進行の観察と結びついている。
【0009】
敗血症という用語の意味合いは時の経過とともにかなり変化した。感染又は感染の差し迫った疑いは、今日においても敗血症の最新定義の必須部分を形成する。しかしながら炎症性宿主反応の枠組みにおいて、感染位置から離れた臓器の機能不全の記述には特に考慮が払われる。国際文献において、1992年からの「米国胸部専門医学会/米国集中治療医学会コンセンサス会議(ACCP/SCCM)」のコンセンサス会議基準で、敗血症の用語の定義について広範な承認が得られた(Bone
et al., (1992) Chest 101, 1656-1662)。これらの基準に基づけば、「全身性炎症反応症候群(SIRS)」、「敗血症」、「重篤な敗血症」及び「敗血症ショック」として臨床的に定義された重症度は区別されている。ここでSIRSは、非感染性刺激への炎症系の全身性反応として定義される。この点については、下記の臨床基準の少なくとも2つが満たされなければならない:すなわち、38℃超の発熱若しくは36℃未満の低体温、12 g/L超の白血球増多若しくは4 g/L未満の白血球減少、又は分類ヘモグラムにおける左シフト、90/分を超える心拍数、20呼吸/分を超える頻呼吸若しくは4.3 kPa未満のPaCO2(動脈血酸素分圧)である。この定義によると、感度は高いが特異性は低い。これは、一般にすべての集中治療患者は少なくとも短期間でSIRS基準を満たすという、集中治療医学が懸念する点に対して、ほとんど役に立たない。
【0010】
敗血症は、SIRS基準が満たされ、かつ感染が原因であるか又は少なくともその可能性が高いことが示される臨床症状と定義される。感染は、病原菌又は潜在的に病原性の生物が、通常は無菌の組織へ侵入することによって引き起こされる病理過程と定義される。身体がこの感染を原発部位の範囲内にとどめることに成功しない限り、病原菌又はその毒素は、感染部位から離れた臓器又は体組織に炎症を誘発する。快方に向かうには、緊急の集中治療処置、著効する抗生剤の投与、及び感染病巣の外科的治療が必要である。重篤な敗血症は、さらに臓器機能不全が存在することが特徴である。頻繁な臓器機能不全には、自覚状態の変化、乏尿、乳酸アシドーシス、又は90 mmHg未満の収縮期血圧若しくは初期値から40 mmHgを超える血圧低下をともなう敗血症誘発低血圧がある。そのような低血圧がクリスタロイド及び/又はコロイドの投与では緩和されず、また、患者がカテコールアミンをさらに必要とするようになる場合、それは敗血症性ショックと呼ばれる。後者はすべての敗血症患者のおよそ20%であることが突き止められている。
【0011】
Boneら(1992)によるコンセンサス基準は敗血症の特異的定義に合致しないことは、多くの医療専門家の間で合意されている。そのため、欧州集中治療医学会(ESICM)により実施された調査では、質問された医師の71%は、豊富な臨床経験にもかかわらず敗血症の診断に自信がないことを認めていることが示された(Poeze et al., 2003)。統一された専門用語を施行する試みは、臨床診療においてさまざまに受け入れられることがわかった。特に敗血症の病態生理学の理解が進んだことにより、さまざまな専門家が以前の定義の対応する修正について調査した。敗血症、重篤な敗血症及び敗血症ショックの定義が承認され、臨床医や研究者にとって有益であるとして評価された。それでもなお、敗血症の診断基準は、感染を防ぐ臨床面の良さを十分に発揮させるため大幅に拡大された。さらに2001年国際敗血症会議では、敗血症の記述に対して、素因、感染、免疫反応(反応)及び臓器機能不全の基準から成る新たな概念(PIROと呼ばれる)が提案された(Levy et al., (2003)
Intensive Care Med 29, 530-538)。PIROの頭字語(Opal et al., (2005) Clin Invest 35, 387-292)を持つSIRS/敗血症の新たな定義にもかかわらず、1992年からのACCP/SCCMコンセンサス会議基準は、患者分類についての多くの研究において今もなお使用されている(Bone et al., 1992)。
【0012】
SIRSと敗血症を診断するためにいくつかの方法が開発されており、これらは3グループに分類することができる。
第1のグループにはAPACHE、SAPS及びSIRSなどのスコア方式が含まれ、これは生理学的指標の多様性に基づいて患者を分類することができる。いくつかの研究において、APACHE IIスコアの診断潜在力が明らかにされたが、他の研究では、APACHE IIとSAPS IIは、敗血症とSIRSを識別することができないことが示された(Carrigan et al., (2004) Clin Chem 50, 1301-1314)。
【0013】
第2のグループには、血漿及び血清から検出されるタンパク質マーカーが含まれる。例えば、CA125、S100B、コペプチン(copeptin)、グリシン-N-アシルトランスフェラーゼ(GNAT)、プロタキキニン及び/又はその断片、アルドース1-エピメラーゼ(ムタロターゼ)、Chp、カルバモイルリン酸シンテターゼ1、LASP-1(Brahms
Diagnostika社、ドイツ)、IL-1 Ra、MCP-1、MPIF-1、TNF-R1、MIG、BLC、HVEM、IL-15、MCP-2、M-CSF、MIP-3b、MMP-9、PARC、ST-2;IL-6、sIL-2R、CD141、MMP-9、EGF、ENA-78、EOT、Gro-β、IL-1β、レプチン(leptin)、MIF、MIP-1α、OSM、プロテインC、P-セレクチン、並びにHCC4(Molecular Staging社、米国)又はCD 14 抗原、アルカリホスファターゼ及びインター−α−トリプシンインヒビター(持田製薬株式会社、日本)のタンパク質上のリポ多糖結合部位がある。特許権のあるバイオマーカーが数多くあるにもかかわらず、日常の診療業務に受け入れられたものはほんのわずかである。これらの中で、プロカルシトニン(PCT、Brahms社)及びC反応性タンパク質(CRP、イーライリリー社)が、SIRSの感染原因及び非感染原因を識別する上で最も適したマーカーであると思われる。
【0014】
プロカルシトニンは116個のアミノ酸からなるペプチドであり、炎症反応において役割を果たす。このマーカーは新たな感染マーカーとして、集中治療室で徐々に使用されるようになった(Sponholz et al., (2006) Critical Care 10, R145)。このマーカーは感染マーカーであると考えられ、敗血症の重症度を決定するのに役立っており、例えば心臓手術患者において、感染合併症と非感染合併症を識別する(Sponholz et al., (2006) Critical Care 10, R145)ための絶対値より重要である数値データ力学を有する。バイオマーカーとしてPCTが広く受け入れられたにもかかわらず、国際的調査において、敗血症マーカーであるPCTが達成した感度と特異性は今もなお不十分であること、特に非細菌性SIRSと全身性細菌性SIRSすなわち敗血症を区別するには不十分であることが証明された(Ruokonen et al., (1999) Eur J Clin Microbiol Infect Dis 18, 283-285;
Suprin et al. (2000) Intensive Care Med 26, 1232-1238; Ruokonen et al.,(2002)
Acta Anaesthesiol Scand 46, 398-404; Tang et al., (2007) Lancet Infect Dis 7,
210-217)。Tangと同僚による18の試験に関するメタ分析では、PCTはSIRSと敗血症を区別するにはあまり適していないことが示された(Tang et al., (2007) Lancet Infect Dis 7, 210-217)。さらにこの著者らは、PCTは診断の正確性が非常に低く、オッズ比(OR)は7.79であることを強調した。この著者らは、一般に25未満のORは有意ではなく、25〜100は参考となり、100を超える場合は精度が高いと述べている(Tang et al., (2007)
Lancet Infect Dis 7, 210-217)。
【0015】
C反応性タンパク質(CRP)は224個のアミノ酸からなるタンパク質であり、炎症反応において作用する。CRPの測定は疾患の進行や選択した治療の効果を監視するのに役立つ。
いくつかの報告において、集中治療医学の領域では、PCTは診断マーカーとしてCRPより適していると記述された(Sponholz et al., (2006) Critical Care 10, R145; Kofoed et al., (2007)
Critical Care 11, R38)。さらに、非感染SIRSと感染SIRSの区別及び細菌感染とウイルス感染の区別に対して、PCTはCRPより適していると考えられている(Simon et al., (2004) Clin
Infec Dis 39, 206-217)。
【0016】
第3のグループには、トランスクリプトームレベルで同定されるバイオマーカー又はプロファイルが含まれる。これらの分子パラメータは、分子炎症性/免疫性宿主反応との相関を、敗血症の重症度とだけではなく患者の予後に関する報告ともよく相関させることができると言われている。さまざまな科学団体や民間組織は、敗血症の生存患者と非生存患者の相違を同定するため、例えばリポ多糖のような細菌細胞壁成分による血中サイトカイン濃度変化などのバイオマーカー(Mathiak et al., (2003) Int J Mol Med 11, 41-44(非特許文献1))、又は血液サンプルにおける遺伝子発現プロファイルの使用(Pachot et al., (2006) Immunol Lett 106, 63-71(非特許文献2))についての調査に現在苦心している。遺伝子発現プロファイル又は分類指標は、敗血症の重症度の決定(国際公開第2004/087949号パンフレット(特許文献1))、局所感染と全身感染の区別(未公開の独国特許出願10 2007 036 678.9号明細書(特許文献2))、感染源の同定(国際公開第
2007/124820号パンフレット(特許文献3))又はいくつかの病因と病原菌に関連した特徴とを区別するための遺伝子発現特性の同定(Ramilo et al., (2007) Blood 109, 2066-2077(非特許文献3))に適している。Boneら(1992)によるコンセンサス基準や現在利用できるタンパク質マーカーの特異性と感度が不十分なこと、また血液を培養することにより感染の原因を検知するのに時間が必要であることのために、疾患の複雑性を正当に取り扱う新たな方法に対する差し迫った需要がある。それぞれの遺伝子及び/又は分類指標と名付けられた遺伝子の組み合わせを用いる多くの遺伝子発現調査や、スコア及び/又は指標(国際公開第03/084388号パンフレット(特許文献4);米国特許第6,960,439号明細書(特許文献5))を導き出すための統計的手法についての多数の記述は、先行技術中に見出すことができる。
【0017】
最近では、複雑な疾患につての意味のある記述は、複数のパラメータによってのみ可能であるという結果に対する合意がある。
患者に対するリスク評価及び薬の使用や治療におけるレスポンダーの識別のため、分子的記号はますます臨床診断に導入されるようになり、特に従来のバイオマーカーを用いては見つけることができない複雑な疾患の場合に導入されている。以下に列挙するものは、現在の状況と遺伝子発現診断の応用分野を強調するものである。
【0018】
1)マンマプリント(MammaPrint、Agendia社、オランダ)と呼ばれている70個の遺伝子を含むマイクロアレイに基づく記号は、乳癌を患っている女性における再発リスクと転移に関する予後を知らせる。これは、その後の遠隔転移リスクが高いか低いかを分類することができるかどうかと、化学療法が有益かどうかについての研究である。これらの検査がFDAにより承認されたことで、IVDMIA(体外診断多変量指標測定法)と呼ばれる新たなクラスの診断検査に対するガイドラインが作成された。マンマプリント記号は、製造会社の研究所で測定し、算出される。
【0019】
2)オンコタイプDX‐マルチジェンアッセイ(Oncotype DX –Multigen Assay、Genomic Health社、米国)を用いて、女性患者における乳癌再発の可能性を評価するため、また女性患者の化学療法への反応を調べるため、ホルムアルデヒド固定組織サンプルが使用される。21個の遺伝子が「再発スコア」へ組み合わされる。測定は、TaqMan-PCR技術を用いて、会社の施設で行われる
【0020】
3)XDx社(米国)によるアロマップ(AlloMap)遺伝子発現検査は、心臓移植患者において、1年以内におよそ30%の患者に生じる可能性のある拒絶反応を監視するために利用される。これまでは、診断のために数個の生検が必要であった。検査は、11個のqPCR測定(さらに9個の対照と基準がある)に基づいており、製造会社の施設でTaqMan技術(ホフマン・ラ・ロシュ社)を使用することにより行われる。サンプル物質は血液である。移植後2ヶ月には測定結果は信頼でき、次の80日間は拒絶反応のないことが予測される。
【0021】
これらの検査に共通する点は、診断に関し取り組むべき課題として、結果が得られるまで数日間の検査期間を要することである。一方、敗血症の兆候に対する診断検査では、情報は1作業日以内に得られなければならない。
遺伝子発現プロファイルを使用するいくつかのものは、先行技術として知られている。
Pachotと同僚は、敗血症ショック患者の進行を評価するための発現記号の有用性を実証した。ここで分子の差は、生存者における機能的免疫系の回復を反映することが見出された。敗血症ショックの診断後1日以内では、自然免疫系の機能を有する28個のマーカー遺伝子によって、免疫麻痺は可逆的であり、そのため患者が生存するかどうかが高い感度(100%)と特異性(88%)をもって示される。しかしながら、この研究では健常者プロファイルを作成するには患者群が小さすぎ(38例)、この一連のデータの独立した一連のデータによる検証は、これまでのところ行われていない。先行技術には、遺伝子発現マーカーの同定(Tang et al., (2007) Am J Respir Crit Care Med 176, 676-684(非特許文献4))や、全身感染を確認する遺伝子発現プロファイル(Johnson et al., (2007) Ann Surg 245, 611-621(非特許文献5))に関する多数の研究が含まれている。
【0022】
Tangと同僚は 特定の血液細胞集団‐好中球で、SIRS患者と敗血症患者を区別することのできる特徴を調査した(Tang et al., (2007)
Am J Respir Crit Care Med 176, 676-684(非特許文献4))。この細胞集団から得られた50個のマーカーは、全身感染への免疫反応を表し、また病態生理学及び関連するシグナル経路に関する新たな洞察を可能にするのに十分である。
【0023】
敗血症の患者と敗血症ではない患者の分類は、高い確実性をもって成功する(訓練データ集合セット及び検査データ集合において、陽性予測値(PPV)がそれぞれ88%及び91%)。しかしながら臨床診断への適用性は、この特徴が、血中において他の血液細胞型からのシグナルと重ね合わされるという事実により限定されていた。適用性については、この血液細胞集団の調製には複雑さが伴っている。それでもなお、結果を実際に応用することの意義をこの研究において公表することは、患者の選択が非常に不均一であったため制限された。この研究には非常に異なる随伴病、例えば11〜16%の腫瘍疾患を示す患者が含まれていた。又は、この研究では、非常に異なる治療的処置(例えば昇圧剤治療が27〜64%)を受けさせていた。これらは遺伝子発現プロファイルに大きく影響した。
【0024】
Johnsonと同僚は、分子変化を手段とする臨床診断の48時間前には、敗血症の特徴を測定できる可能性がある外傷患者群について記述する(Johnson
et al., (2007) Ann Surg 245, 611-621(非特許文献5))。外傷患者は数日にわたって検査された。何人かの患者は敗血症を発症した。非感染性SIRS患者を前敗血症患者と比較した。459個の転写物から同定された特徴は、免疫反応マーカー及び炎症マーカーから成る。サンプル物質は全血であり、分析はマイクロアレイ上で行われる。この特徴を、敗血症患者又は前敗血症患者の他のグループへも拡大することができるかどうかは明らかではない。この特徴の分類及び診断上の有用性については記述されなかった。
先行技術の中にはさらに他の特徴、例えば感染に対する宿主反応についての記述がある。
異なる病原菌に対する宿主反応の特異性は、以前にいくつかの実験系で研究された。しかしながらこれらの研究のどれも、遺伝子発現プロファイル及び/又は敗血症患者の特徴を含んでいない。
【0025】
Feezorと同僚の目的は、グラム陰性感染とグラム陽性感染の差異を同定することであった(Feezor et al., (2004) J Immunol 172, 7103-7109(非特許文献6))。ドナー3名の血液サンプルが、生体外で、大腸菌のリポ多糖及び熱で不活化した黄色ブドウ球菌で刺激された。遺伝子発現に関する研究が、マイクロアレイ技術を用いて行われた。研究グループは、黄色ブドウ球菌刺激後に発現が増加した遺伝子とリポ多糖刺激後に発現が減少した遺伝子の両方を見出し、またリポ多糖処理後の発現が熱不活化黄色ブドウ球菌の添加後より高い遺伝子を見出した。同時に、多くの遺伝子が、グラム陽性刺激とグラム陰性刺激によって同程度に発現増加した。これは、例えばサイトカインのTNF-α, IL-1β及びIL-6については当てはまる。残念なことに、その公表文献では異なって発現する遺伝子は名称で特定されなかったので、他の結果と間接的な比較ができるのみであった。遺伝子発現に加えて、Feezorらはいくつかのサイトカインの血漿中濃度を調べた。この場合、遺伝子発現データは必ずしも血漿中濃度と相関しなかった。しかしながら遺伝子発現では、タンパク質合成において転写後調節を受けるメッセンジャーRNA(mRNA)量が測定されており、これにより観察される相違が説明され得る。
【0026】
この話題に関連する最も興味深い公表論文は、Ramiloが率いるテキサス研究グループによって公表された(Ramilo et al.,
(2007) Blood 109, 2066-2077(非特許文献7))。ここでもまたヒト血液細胞について遺伝子発現研究が行われ、種々の病原菌に対する分子的な宿主反応の相違が明らかになった。この目的のために、急性気道障害、尿路疾患、細菌血、局所膿瘍、骨・関節感染、髄膜炎などの小児急性感染患者が検査された。マイクロアレイ実験は、それぞれ大腸菌と黄色ブドウ球菌が感染した10名の患者の末梢血単核細胞から単離されたRNAサンプルを用いて行われた。病原菌の同定は、血液培養を用いて行われた。訓練データ集合を介して、30個の遺伝子が同定され、これを使用して高い精度で原因病原菌の診断がされた。
【0027】
先行技術には、数多くの公表された研究とそれらに記述された個々の特徴が見出されるにもかかわらず、これらのどれも敗血症及び/又は敗血症型疾患に関する診断に言及していない。これらの公表文献のどれも、本発明の信頼性、精度及び頑健性を提示するものではない。これらの研究は、科学的観点より「最良」の多重遺伝子バイオマーカー(分類指標)の同定に焦点が絞られているが、本発明のように、具体的な臨床的問題(Simon et al., (2005) J Clin Oncol 23, 7332-7341(非特許文献8))に対する最適な多重遺伝子バイオマーカーに焦点を合わせたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】国際公開第2004/087949号パンフレット
【特許文献2】独国特許出願10 2007 036 678.9号明細書
【特許文献3】国際公開第 2007/124820号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/084388号パンフレット
【特許文献5】米国特許第6,960,439号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Mathiak et al., (2003) Int J Mol Med 11, 41-44
【非特許文献2】Pachot et al., (2006)Immunol Lett 106, 63-71
【非特許文献3】Ramilo et al., (2007)Blood 109, 2066-2077
【非特許文献4】Tang et al., (2007)Am J Respir Crit Care Med 176, 676-684
【非特許文献5】Johnson et al., (2007)Ann Surg 245, 611-621
【非特許文献6】Feezor et al., (2004)J Immunol 172, 7103-7109
【非特許文献7】Ramilo et al., (2007)Blood 109, 2066-2077
【非特許文献8】Simon et al., (2005)J Clin Oncol 23, 7332-7341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、病態生理学的症状、例えば敗血症に関する迅速で信頼性のある記載を可能にする検査システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の目的は、方法に関して、請求項1の特徴により達成される。
本発明の目的は、使用に関して、請求項4及び11の特徴により達成される。
本発明の目的は、同様に、請求項14に基づくキットにより達成される。
【0032】
一般的形態において、本発明は下記の要素を含むシステムに関する:
(1)遺伝子活性マーカーセット、
(2)全血中における遺伝子活性マーカーの正規化のための内部標準としての参照遺伝子、
(3)主としてリアルタイムPCR若しくは他の増幅方法又はハイブリダイゼーション法による検出、
(4)遺伝子活性マーカーの個々の結果を一般的な数値、指標又はスコアへ変換するアルゴリズムの使用、
(5)この数値の、対応する段階的な等級での表示、
(6)早期の検証実験を介した、意図する用途に合致したキャリブレーション、すなわち等級分け。
【0033】
本システムは、感染性多臓器不全と非感染性多臓器不全の区別といった病態の確定に関する課題に対する解決法を提供し、さらに、病態の確定に関連した他の応用と課題に対する解決法をも提供する。
【0034】
具体的には、本発明は、SIRS、敗血症及びこれらの重症度;敗血症型疾患;敗血症ショック;感染/非感染性多臓器不全;敗血症における生存確率;感染病巣;特定の治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダー;病態生理学的症状の原因、特にグラム陽性細菌及び/又はグラム陰性細菌による感染の分類;及び、
下記のステップを含む方法:
(a)患者由来の試料からサンプル核酸の単離、
(b)患者の病態生理学的症状の検出及び/若しくは区別並びに/又は進行に特有の少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを形成するため、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群より選ばれる複数のポリヌクレオチドを用いた遺伝子活性の測定、
(c)少なくとも1つの内部参照遺伝子の遺伝子活性を測定することによる、(b)に基づいて測定された遺伝子活性の関連付け、特に正規化、
(d)それぞれに測定されて標準化された多重遺伝子バイオマーカーの遺伝子活性から、病態生理学的症状を表示する指標値の作成;
からなる群より選ばれる病態生理学的症状の体外検出及び/若しくは識別並びに/又は進行観察方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、分類遺伝子数に依存したLDAの分類誤差の進展を示す;(a)5〜200遺伝子使用時の分類誤差、(b)8〜20遺伝子についての詳細。
【図2】図2は、スコア(a)及び訓練データ集合に関するスコア分布(b)を示す。
【図3】図3は、多重遺伝子バイオマーカーの質を、それぞれ従来の単分子バイオマーカーであるPCT及びCRP並びにこれらの組み合わせと(LDAによって)比較した図である。
【図4】図4は、バイオマーカー値の分布を臨床診断の関数として示す図である;(a)多重遺伝子バイオマーカースコア、(b)PCT、CRP及び白血球。
【図5−1】と
【図5−2】図5−1と図5−2は、3名の患者のスコアの進展を示す(灰色領域は敗血症診断日を示す)。
【図6】図6は、外部収集施設の発現データに関するスコア分布を示す。
【図7】図7は、マイクロアレイ設計図と3つの複製の概略図である。
【図8】図8は、マイクロアレイ上に表されたシグナル経路の表示である。
【図9】図9は、qPCR実行例を示す(マーカーEPC1)。
【図10】図10は、12のマーカーに対して作成されたスコア及び4領域への分類の概略図である;分類結果はこのスケールに投影される。
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】図11−1と図11−2と図11−3は、作成されたスコア及び4領域への分類の概略図である;分類結果はこのスケールに投影される。
【図12】図12は、患者群間の発現差の表示である:31名の患者サンプル(19名は敗血症、12名はSIRSと診断)から作成されたマーカーのボックスプロット;説明文は用いられた遺伝子記号を説明する。
【図13】図13は、グラム陽性感染とグラム陰性感染を区別するためのバイオマーカー候補であるCDKN1C(SEQ ID NO: 104)に関する、正規化されたリアルタイムPCRデータのボックスプロットを示す。
【図14】図14は、グラム陽性感染とグラム陰性感染を区別するためのバイオマーカー候補であるCTSLに関する、正規化されたリアルタイムPCRデータのボックスプロットを示す。
【図15】図15は、グラム陽性感染とグラム陰性感染を区別するためのバイオマーカー候補であるMETTL7B(SEQ ID NO: 145)に関する、正規化されたリアルタイムPCRデータのボックスプロットを示す。
【図16】図16は、SEQ ID NO: 207を持つ非翻訳領域マーカーに対するボックスプロットを示す;y軸に関して、リアルタイム増幅中の平均Ct値が示される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
好ましい方法において、少なくとも1つの参照遺伝子はハウスキーピング遺伝子であり、具体的には、このハウスキーピング遺伝子は、SEQ ID NO: 676〜SEQ ID NO: 686及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群のポリヌクレオチドより選ばれる。
好ましい方法において、遺伝子座、mRNA前駆体及び/若しくはmRNAのセンス及び/若しくはアンチセンス、低分子RNA、特に細胞質低分子RNA(scRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、マイクロRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、非翻訳RNA(ncRNA)又は転位因子がポリヌクレオチド配列として使用される。
【0037】
指標は、好ましくは、(対角、線形、二次)判別分析、サポートベクターマシン、一般化部分最小二乗法、k最近傍法、ランダムフォレストのような自動及び静的学習分野から、例えば観察分類法などの統計的手法を用いて決定される。線形判別分析については、例えば下式を用いることができる。
【数1】

【0038】
さらに本発明は、患者に病態生理学的症状が存在するのかどうかの評価並びに/又は病態生理学的症状の重症度及び/若しくは進行度の測定を助けるものとしての多重測定法を作り出すために、少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを形成するための、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群より選ばれる複数のポリヌクレオチドの使用に関する。
好ましい方法において、多重遺伝子バイオマーカーはいくつかのポリヌクレオチド配列、具体的には遺伝子配列の組み合わせであり、その遺伝子活性は、解釈機能を用いて、指標又はスコアの分類及び/又は形成を行うのに使用される。
【0039】
本発明の目的に関して、酵素的方法、具体的には増幅方法、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、さらに好ましくはリアルタイムPCRにより、及び/又はハイブリダイゼーション、具体的にはマイクロアレイ上でのハイブリダイゼーションにより遺伝子活性が検出される場合に、本発明が有利であることが見出された。
多重遺伝子バイオマーカーに含まれるポリヌクレオチド配列の発現差異シグナルは遺伝子活性の検出中に生じるが、このシグナルは、病態生理学的症状、進行及び/又は治療監視と有利かつ明確に関係している。
それぞれの測定された遺伝子活性から、対応するキャリブレーション後に指標が通常形成されるが、この指標は、病態生理学的症状、特に敗血症又は敗血症型疾患の重症度及び/又は進行度の評価基準である。
この指標又はスコアは、解釈を容易にするため目盛り上に表示され、治療医師に迅速な診断支援を提供することができる。
【0040】
本発明の有利な実施態様において、得られた遺伝子活性データは、少なくとも1つの病態生理学的症状及び/若しくは診断上の課題を記述するため、並びに/又は診断目的及び/若しくは患者データ管理システムを助けるものとして、ソフトウェアを作成することに使用される。
遺伝子活性データを提示するため、特定の遺伝子座、mRNA前駆体及び/若しくはmRNAのセンス及び/若しくはアンチセンス、低分子RNA、特にscRNA、snoRNA、マイクロRNA、siRNA、dsRNA、ncRNA又は転位因子、遺伝子及び/若しくは遺伝子断片であって、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669のポリヌクレオチド配列と少なくとも約10%、特には約20%、好ましくは約50%、特に好ましくは約80%の配列相同性を示すものが有利に使用される。
【0041】
さらに本発明は、ある病態生理学的症状が患者に存在するかどうかを評価するための測定を行うため、並びに/又は病態生理学的症状の重症度及び/若しくは進行度を測定するため、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 152及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群より選ばれる少なくとも1つのポリヌクレオチドの使用に関する。
病態生理学的症状は、好ましくは、SIRS、敗血症及びこれらの重症度;敗血症型疾患;敗血症ショック;感染/非感染多臓器不全;局所/全身感染;病態生理学的症状、特に敗血症の改善/悪化、特定の治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダー;感染病巣;病態生理学的症状の原因、特にグラム陽性及び/又はグラム陰性による分類からなる群より選ばれる。
本発明によれば、サンプルである核酸は、RNA、具体的には全RNA若しくはmRNA、又はDNA、具体的には相補DNA(cDNA)であることが好ましい。
【0042】
さらに本発明は、SEQ
ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669のプール及び/若しくはそれらの遺伝子座、並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片、並びに/又はこれらに対するプライマー及び/若しくはプローブ並びに/又はアンチセンスヌクレオチド、SIRS、敗血症、及びこれらの重症度;敗血症型疾患;敗血症ショック;感染/非感染性多臓器不全;敗血症における生存確率;局所/全身性感染;特定の治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダー;感染病巣;病態生理学的症状の原因、特にグラム陽性細菌又はグラム陰性細菌による感染の分類からなる群より選ばれる1つ及び網羅的な疾患のうちの、患者の病態生理学的症状に特異的な多重遺伝子バイオマーカーから選ばれる、複数のポリヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを含む本発明の方法を実施するためのキットに関する。
【0043】
前記キットのポリヌクレオチド配列は、好ましくは、遺伝子座、mRNA前駆体及び/若しくはmRNAのセンス及び/若しくはアンチセンス鎖、低分子RNA、特にscRNA、snoRNA、マイクロRNA、siRNA、dsRNA、ncRNA又は転位因子を含む。
表11及び16に示される配列番号を持つポリヌクレオチド配列は、好ましくは、SIRSと敗血症又は感染性多臓器不全と非感染性多臓器不全を区別する多重遺伝子バイオマーカーとして利用される。表20及び21に示される配列番号を持つポリヌクレオチド配列は、好ましくは、病態生理学的症状の原因の区別のための、特にグラム陽性細菌及び/又はグラム陰性細菌による分類のための多重遺伝子バイオマーカーとして利用される。
【0044】
統合システム(体外診断多変量指標測定法、IVDMIA)の一部として、本発明は、SIRSである又は敗血症の可能性がある患者において、可能性がある感染性合併症を評価することができる。このシステムは、診断補助として医師が使える解釈可能な指標での患者の選択及び患者の遺伝子発現シグナルの測定を含む。
このシステムは、SEQ
ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片、並びにハウスキーピング遺伝子から選ばれる定義された配列群について、測定された遺伝子発現データを組み合わせる。本発明の好ましい実施態様において、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669のポリヌクレオチド配列又はハウスキーピング遺伝子と少なくとも約10%、特には約20%、好ましくは約50%、特に好ましくは約80%の配列相同性を示す特定の遺伝子及び/又は遺伝子断片が、遺伝子活性データの作成に用いられる。
【0045】
表32は、種々の臨床問題に重要な、高度に関連する配列プールを示す。
表8、11及び16は、前記のシステムに統合する場合、SIRSと敗血症の区別に必須の配列の好ましい選択を示す。
高度に関連する配列プールからの配列の選択は、臨床上の課題によって決まる。
【0046】
本出願人は、疾患を確定及び/若しくは区別するため、又は明確な診断上の課題に対する回答を提供するため、多数の配列プールを利用する方法を開発した。実施例は下記の特許明細書で見ることができる:SIRS、敗血症及び敗血症型疾患の区別(国際公開第2004/087949号パンフレット;同第2005/083115号パンフレット)、敗血症における疾患進行予測のための策定基準(国際公開第05/106020号パンフレット)、多臓器不全の非感染性原因と感染性原因の識別(国際公開第2006/042581号パンフレット)、感染性/非感染性多臓器不全患者の遺伝子発現プロファイルの体外分類(国際公開第2006/100203号パンフレット)、原因不明熱の局所原因の決定(国際公開第2007/144105号パンフレット)、局所感染と全身感染の区別のための遺伝子活性検出用ポリヌクレオチド(独国特許出願10 2007 036 678.9号明細書)。
【0047】
本発明は、1つ及び/又はいくつかのモジュールにおいて、体外診断多変量指標測定法(IVDMIA)の特徴を示す多重遺伝子バイオマーカーを調製するためのポリヌクレオチド配列、方法、さらにはキットに関する。
【0048】
定義
本発明の目的のために、下記の定義を用いる:
症状:Bone ら(Bone et al., (1992) Chest 101, 1656-1662)及びPIRO概念(Levy et al., (2003) Intensive Care Med 29, 530-538)において定義される、「全身性炎症反応症候群(SIRS)」、「敗血症」、「重篤な敗血症」及び「敗血症ショック」の臨床的に定義された重症度。
多臓器不全:多臓器不全と呼ぶものは、同時に又は急速に一時的に連続して生じている、2以上の生命維持に必要な臓器系の障害である。多臓器不全症候群(MODS)が、初期臓器不全としてMOF(多臓器不全)に先行する(Zeni et al., (1997) Crit Care Med 25, 1095-1100)。多臓器不全という用語は、今日では慢性的に持続する臓器不全を除き、2以上の臓器が同時に又は連続して機能不全を示す場合に用いられる。MOFの予後は、関わった臓器系の数と密接に関連している。臓器不全の場合の死亡率は、初めの24時間以内で22%、7日後で41%である。3つの臓器系が不全となった場合、死亡率は第1日で80%、4日後には100%に上がる(Knaus et al., (1985) Ann Surg 202, 658-693)。
MODS及びMOFの発生についての1つの重要な病理学的機序は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の進行である(Bone et al., 1992)。MODS及びMOFの原因には、感染性型と非感染性型の両方がある。
【0049】
原因不明熱:原因不明熱(FUO)は、臨床的に、3週間を超える期間にわたって、温度が38.8℃より高く、1週間の検査期間後も原因の明確な診断が得られない熱として定義される。原因に応じて4種類のFUOが示された:古典的、院内感染、免疫不全又はHIV関連の原因によるFUOである(Roth and Basello, (2003) Am Fam Phys
68, 2223-2228)。FTOはまた「まれな疾患としてまれな表現型のあるかなり知られた疾患」として報告された(Amin and Kauffman, (2003) Postgrad med 114, 69-75)。
感染は、術後熱のある患者の10%のみに認められる(Pile et al., (2006) Clev Clin J
Med 73 (supp.1), 62-66)。ほとんどの場合、患者の熱は手術後4日以内に正常に戻る。それにもかかわらず、ある患者は術後5日以後に感染し、その場合の12%は肺炎である。同様にPileと同僚は、手術後2日で生じる熱が、尿路感染及び/若しくは腹部内感染(腹膜炎)、肺炎、又は静脈内カテーテルにより引き起こされる感染などである可能性が高いことを報告している。
【0050】
診断課題:患者の治療にとって重要である臨床的に関連した課題、例えば:疾患の進行の予測、治療監視、感染巣、生存機会、素因など。
全身性感染は、病原菌が血流を通って生体全体に広がった感染である。
SIRS:全身性炎症反応症候群:Bone(Bone et al., 1992)及びLevy(Levy et al., 2003)によれば、全身性、炎症性及び非感染性の患者の症状である。
敗血症:Bone(Bone et al., 1992)及びLevy(Levy et al., 2003)によれば、全身性、炎症性及び感染性の患者の症状である。
体液:本発明が意図するものの範囲内で、体液とはヒトを含む哺乳動物の任意の体液であると理解される。
【0051】
遺伝子:遺伝子とは、生物学的に活性のあるリボ核酸(RNA)及びRNA産生を活性化又は不活性化する調節エレメントを産生するための基本情報を含むデオキシリボ核酸(DNA)上の部分である。本発明が意図するものの範囲内で、遺伝子はさらに、導き出された任意のDNA配列、部分配列及び合成類似体(例えばペプチド核酸(PNA))であると理解される。従ってRNAレベルでの遺伝子発現の測定に関する本発明の記述は、ある制限を構成するものではなく、応用例を構成するものである。
【0052】
遺伝子座:遺伝子座とはゲノムにおける遺伝子の位置である。ゲノムがいくつかの染色体から成る場合には、遺伝子座は遺伝子がある染色体内の位置をいう。この遺伝子のさまざまな発現体又は変異体は対立遺伝子と呼ばれ、すべてが染色体すなわち遺伝子座上の同じ位置にある。従って遺伝子座という用語には、一方においては特定の遺伝子産物に対する純粋な遺伝情報が含まれ、他方では、遺伝子座での遺伝子によって任意の機能状況にある任意の調節DNA部分及び任意の付加DNA配列が含まれる。後者は、遺伝子座の5’及び/又は3’末端のごく近傍(1 Kb)だが外側に位置する配列領域につながっている。遺伝子座の特定は、その遺伝子座に由来するRNA主要産物の登録番号及び/又はRefSeq IDを通じて行われる。
【0053】
遺伝子活性:遺伝子活性とは、転写される遺伝子及び/又は翻訳産物を生成する遺伝子の能力の程度であると理解される。
遺伝子発現:遺伝子の生成過程及び/又は遺伝子型の表現型への発現。
多重遺伝子バイオマーカー:その遺伝子活性が、解釈機能によって、組み合わされた全体としての結果(例えば分類及び/又は指標)を形成するような、いくつかの遺伝子配列の組み合わせ。この結果は、症状及び/又は診断課題に特異的である。
ハイブリダイゼーション条件:当業者によく知られており、自由分子と結合分子の熱力学的平衡の達成に影響し得る物理的及び化学的なパラメータ。最適なハイブリダイゼーション条件のために、プローブ分子とサンプル分子の接触時間、ハイブリダイゼーション緩衝液中のカチオン濃度、温度、容量及びハイブリダイズする分子の濃度や濃度比を相互に調和させなければならない。
【0054】
増幅条件:核酸の形を持つ出発物質の再生産を可能にする、定常的又は周期的に変化する反応条件。反応混合物中には、出発物質の相補領域に付着することができる短いオリゴヌクレオチドと同じように、生成させる核酸のためのそれぞれの成分(デオキシヌクレオチド)の他に、ポリメラーゼと呼ばれる核酸合成酵素が存在している。当業者にはよく知られているが、カチオン濃度、pH値、容量及びそれぞれの反応ステップの時間と温度は、増幅の進行に重要である。
プライマー:本発明においてプライマーと呼ばれるものは、例えばDNAポリメラーゼなどの核酸複製酵素のための出発点としての役目を果たすオリゴヌクレオチドである。プライマーは、DNAのみならずRNAでも作成される(Primer3;例えば、MITの http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi
を参照)。
プローブ:本出願においてプローブとは、分子標識(例えば蛍光標識、特にスコーピオン(Scorpion、登録商標)、分子ビーコン、副溝結合プローブ、TaqMan(登録商標)プローブ、同位体標識など)を備えてもよく、また、標的DNA分子及び/又は標的RNA分子の配列特異的な検出に用いられる核酸断片(DNA又はRNA)である。
【0055】
PCR:PCRとは、英語表現である「Polymerase Chain Reaction」の略号である。ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)は、DNA依存的DNAポリメラーゼを用いて、生体外の試験管内でDNAを複製する方法である。PCRは、特に本発明に基づけば、着目したDNA鎖の短い一部(約3000塩基対まで)を複製するために用いられる。DNA鎖は、遺伝子若しくは遺伝子のごく一部、又は非翻訳領域DNA配列であってもよい。当業者は、多くのPCR法は先行技術として知られ、PCR法のすべては「PCR」の表現に含まれることを十分理解している。これは特に「リアルタイムPCR」(さらに以下の説明を参照)について当てはまる。
PCRプライマー:PCRは一般的に2本のプライマーを必要とするが、これは、複製されるべき領域が両側で限定される2本のそれぞれの一本鎖DNAに関して、DNA合成のための出発点を固定するためである。このようなプライマーは当業者によく知られており、例えばウェブサイトである「Primer3」;MITの
http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi を参照することができる。
転写物:本発明の目的に対して、転写物とは、DNA鋳型を用いて産生される任意のRNA産物であると理解される。
【0056】
低分子RNA:一般的な低分子RNA。しかしながら、このグループの代表となるものに特に限定するものではない。
(a)scRNA(細胞質低分子RNA)は、真核生物の細胞質中にあるいくつかの低分子RNA分子のひとつである。
(b)snRNA(低分子核内RNA)は、細胞核にのみ存在する多くの低分子RNA種のひとつである。snRNAのあるものは、スプライシング又は他のRNAプロセシング反応に関与する。
(c)低分子非タンパク質コードRNAは、いわゆる核小体低分子RNA(snoRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)及び低分子二本鎖RNA(dsRNA)を含み、遺伝子発現を多様なレベルで可能にするが、多様なレベルにはクロマチン構造、RNA編集、RNA安定性、翻訳、及び、場合により転写とスプライシングも含まれる。一般的に、これらのRNAは、タンパク質コード転写物を含むより長い一次転写物であるイントロンとエクソンから、複数の経路を介してプロセシングされる。ヒトゲノムのおよそ1.2%だけがタンパク質をコードするが、それにもかかわらず大部分は転写される。実際のところ、哺乳動物やヒトで見いだされる転写物のおよそ98%は、タンパク質コード遺伝子のイントロンや非タンパク質コード遺伝子のエクソンとイントロンといった非タンパク質コードRNA(ncRNA)で構成されており、タンパク質コード遺伝子のアンチセンス又はこれらが重複したものを多く含む。核小体低分子RNA(snoRNA)は、標的RNAにおいてヌクレオチドの配列特異的な修飾を調節している。ここでは2種類の修飾が生じており、すなわち、2'‐O‐リボースメチル化と偽ウリジル化であり、これらは、一方ではボックスC/D−snoRNAと呼ばれ、他方ではボックスH/ACA snoRNAと呼ばれる2つの大きなsnoRNAファミリーによって調節されている。そのようなsnoRNAは、およそ60から300ヌクレオチドの長さを示す。miRNA(マイクロRNA)とsiRNA(低分子干渉RNA)は同じくらいのより低分子のRNAであり、一般的に21個から25個のヌクレオチドを含む。miRNAは内在性の低分子ヘアピン前駆体構造に由来し、通常、翻訳抑制の標的として、類似しているが同一ではない配列を持つ他の遺伝子座を利用する。
siRNAは、しばしば外因性の起源であるより長い二本鎖RNA又は長鎖ヘアピンから生じる。siRNAは、通常、同一の遺伝子座又はゲノム中の他の位置にある相同配列を標的とし、そこでいわゆる遺伝子抑制とも、またRNAiともいわれる現象に関与する。しかしながら、miRNAとsiRNAとの境界は流動的である。
(d)さらに「低分子RNA」の表現は、いわゆる転移因子(TE)、特にレトロエレメントを含んでもよい。これらは本発明の目的に対して「低分子RNA」の表現で理解される。
【0057】
RefSeq ID:この記号表示はNCBIデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov)中の項目と関連している。このデータベースは、ゲノム情報の非冗長参照基準を提供する。このゲノム情報には、染色体、mRNA、RNA及びタンパク質が含まれる。それぞれのRefSeq IDは、生物に天然に存在しているそれぞれの分子を表している。RefSeqを表している生物学的配列はGenBank項目(NCBI)に由来するが、情報要素を編集したものである。これらの情報要素は、DNA、RNA及びタンパク質レベルに関する一次調査が起源である。
登録番号:登録番号(accession number)は、当業者には知られているNCBI‐GenBankのなかのポリヌクレオチドの項目番号を表す。このデータベースで、RefSeq
IDやあまり特徴付けられていない冗長配列が項目として管理されており、これらには公衆がアクセス可能である(www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/index.html)。
【0058】
略語
AUC:濃度曲線下面積
CRP:C反応性タンパク質
CV: 交差検定
DLDA:対角線形判別分析(分類法)
GPLS :一般化部分最小二乗法(分類法)
IQR:四分位範囲間(百分位数の75%と25%の間の間隔)
kNN:k最近傍法(分類法)
LDA:線形判別分析(分類法)
MAD:中央値 の絶対偏差の中央値(正規化法)
NPV:陰性適中率(正しい陰性結果の割合)
PCT:プロカルシトニン
PPV:陽性適中率(正しい陽性結果の割合)
RF: ランダムフォレスト(分類法)
ROC:受信者動作特性(分類結果の表現地図)
感度(Sensitivity):あらかじめ定められた疾患(感染性SIRS又は敗血症)のある群における正しい結果の割合
特異性(Specificity):あらかじめ定められた疾患(非感染性SIRS)のない群における正しい結果の割合
SVM:サポートベクターマシン(分類法)
【0059】
実際には、迅速な診断にはリアルタイム増幅法が好ましい方法であることが見出された。その基礎は、本発明の重要性を視野に入れて簡潔に要約するが、当業者にはよく知られている。
配列決定、マイクロアレイに基づく方法、NASBAなどの当業者に周知の他の方法も同様に可能である。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、試験管内でより迅速に、核酸の最小限の出発量で特異的な配列領域の増幅を可能にし、分析又はさらに処理できるだけの核酸が得られるようにする。二本鎖DNA分子を熱により融解(変性)させた後、一本鎖DNA分子をデオキシリボヌクレオチドの酵素触媒重合の鋳型として用い、再び二本鎖DNA分子が形成される。ここでプライマーと呼ばれるオリゴデオキシリボヌクレオチドは、標的DNAの所々にある相補的配列とハイブリダイズし、重合の開始剤として機能することにより複製すべき配列部分を規定する。生成物の指数関数的な生成過程はさまざまな因子によって制限されている。PCRの過程では、生成物の生成は最終的にはゼロとなり、PCR生成物の総量はプラトー値となる。
例えば適切なPCRプライマーは、SEQ ID NO: 687〜SEQ ID NO: 742の配列を含むプライマーである。しかしながら、本発明を実施するために多様な追加的なプライマーを使用することができることは、当業者には周知である。
【0060】
分子生物学的方法の領域にPCRが導入されて以来、実際的に非常に数多くの技術改良がなされた。現在PCRは、分子生物学及び分子医学においてもっとも重要な方法のひとつである。今日では、PCRは非常に幅広いテーマで使用されており、例えば、ウイルス又は病原菌の検出、配列決定、血縁証明、転写プロファイルの編集、及び核酸の定量において使用されている(Valasek and Repa, (2005) Advan Physiol Educ 29, 151-159; Klein, (2002)
Trends Mol Med 8, 257-260)。PCRを用いて、生物の核酸全体のいかなる配列領域であっても、容易にクローン化することが可能になってきている。開発された多数の改良PCRは、意図的な又は無作為なDNA配列の改変や、その形態ではこれまでに存在していなかったより大きな配列連続の合成でさえも可能にする。
この古典的方法は、DNAの高感度の検出や、逆転写(RT)によりRNAの定性的検出でさえも可能にする(Wong et al., (2005) Biotechniques 39, 1-11; Bustin (2002) J Mol
Endicronol 29, 23-29)。この方法がさらに発展したもののひとつがリアルタイムPCRであり、1991年に初めて導入され、定性的記載に加えて定量も可能にしている。
定量PCR(qPCR)とも呼ばれるリアルタイムPCRは、リアルタイムで核酸を検出し、定量する方法である(Nolan et al., (2006) Nat Protoc 1, 1559-1582)。分子生物学においては、リアルタイムPCRは、ここ数年確立された標準技術の一部分となっている。
【0061】
PCR以外でも増幅中の検出はすでに行われている。蛍光標識プローブ‐蛍光体(fluorophore)に基づいて、増幅をリアルタイムで追跡することができる。すべての反応サイクルで蛍光PCR生成物が増加し、そのため光誘起蛍光発光強度が増加する。蛍光増加と新たに合成されたPCR生成物量は広い範囲で比例するので、得られたデータから鋳型の出発量を決定することができる。もはや増幅産物をゲル電気泳動により分離する必要はない。直ちに結果が得られ、明らかに時間節約となる。反応は密閉容器中で進行し、PCR開始後はもはやピペッティングは必要ないので、汚染の危険性は最小限にまで減少する。使用される蛍光体は、サイバーグリーン(SYBRGreen)などの核酸結合蛍光色素か、又はTaq-Manプローブ、ライトサイクラー(LightCycler)プローブ、分子ビーコン(Molecular Beacons)などの配列特異的蛍光プローブである(Kubista et al., (2006) Mol Aspects Med 27, 95-125)。サイバーグリーンは、いったんその分子が二本鎖DNAに結合すると、蛍光が強く増加する色素である。この費用対効果の優れた溶液は、異なるプライマー対を用いていくつかの反応を並行して行うのに適している。サイバーグリーンは配列非特異的に、また多重測定を行うことが不可能な状態でどんな二本鎖DNAにも結合するため、低い特異性が欠点である。PCR終了後であっても、融解曲線分析により標的生成物と非特異的DNAを識別することは可能である:ヌクレオチド長と組成に依存して、すべてのDNA二本鎖を、その融解温度として特有の温度で2本の一本鎖に分解する。特異的PCR生成物の二本鎖DNAは、非特異的に生成したプライマー二量体より高い融解温度を有するので、温度を上昇させて蛍光を減少させることにより識別が可能である。
【0062】
その一方、蛍光に基づくプローブによる検出は非常に特異的であるが、コスト高である。TaqMan方式の場合、PCRバッチは、PCRプライマーに加えて、消光剤(quencher)及びレポーター色素を含有する配列特異的TaqManハイブリダイゼーションプローブを含む。このプローブは、プライマー間に置かれた配列に相補的である。自由溶液中で蛍光は、消光剤が物理的に近接することにより抑制される。FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)方式によれば、励起された蛍光体の蛍光発光を消光剤が吸収する。しかしながら、このプローブが標的配列とハイブリダイズすると、プローブはTaq‐ポリメラーゼによるPCRの間に加水分解され、レポーター色素が消光剤から物理的に距離のあるところに置かれるので、励起により検出可能な蛍光が放射される。ライトサイクラー方式の場合、PCRバッチは、PCRプライマーに加えて、2本の蛍光標識プローブ(供与及び受容蛍光色素)を含む。外部から測定可能な蛍光シグナルは、2本のプローブが特異的標的配列とすぐ近接してハイブリダイズすることでのみ生じる。その後の融解曲線分析の枠組みにおいて、個々の点変異の存在と型をハイブリダイゼーション領域内で検出することができる。他の例には分子ビーコンがある。これらのオリゴヌクレオチドは、5’及び3’末端に非結合条件でハイブリダイズし、ヘアピン構造を形成する2つの相補的配列を含む。このようにして、両末端に局在するレポーター蛍光体と消光剤はすぐ近接して位置する。この2つの色素は、プローブが鋳型に結合した場合、お互いから物理的にのみ取り除かれ、その結果、励起後に再び蛍光が測定できる。スコーピオン及びサンライズプライマー(Sunrise Primer)は、配列特異的プローブのための2つのさらなる修飾の構成要素となる(Whitcombe et al,. (1999) Nat Biotechnol 17, 904-907)。
【0063】
鋳型の定量測定は、絶対的又は相対的定量によって行うことができる。絶対的定量において測定は、さまざまな程度に希釈したプラスミドDNAなどの外部標準を用いて行われる。一方、相対的定量では、基準としてハウスキーピング遺伝子又は参照遺伝子といわれる遺伝子が使用される(Huggett et al., (2005) Genes Immun 6, 279-284)。これらの参照遺伝子の発現は一定であるので、参照遺伝子は異なる発現の分析を標準化するオプションを提供する。ハウスキーピング遺伝子の選択は、実験ごとに個々に行わなければならない。本発明については、SEQ ID NO: 676〜SEQ ID NO: 686の配列を持つハウスキーピング遺伝子が好適に使用される。
【0064】
得られた実験データは、装置の内部ソフトウェアを用いて評価される。グラフ表示のため、測定された蛍光強度はサイクル数に関して表示される。このようにして得られた曲線は、さらに3つの領域に分割される。第1段階すなわち反応の開始時では、背景ノイズがまだ優勢であり、PCR生成物のシグナルはまだ検出することができない。第2段階は指数増殖期に相当する。この部分では、すべての反応ステップでDNA鋳型が2倍になる。評価に際して非常に重要なものは、検出可能な蛍光が現れ、増幅の指数増殖期が始まるサイクルである。この閾値サイクル(threshold cycle、CT)数又は通過点は、存在する標的DNAの出発量を算出する基礎を与える。絶対的定量において、ソフトウェアはこのようにしてさまざまの参照希釈の通過点を測定し、計算された標準曲線を用いて鋳型量を定量している。最終段階では、反応は最終的にプラトーに達する。
【0065】
定量PCRは、臨床研究における遺伝子発現調査のための重要な手段である。mRNAを正確に定量できる可能性により、新規活性物質の探索において、細胞に対する特定因子の作用を分析することができ、さまざまな細胞型において前駆細胞の分化を観察することができ、又は感染への反応として、宿主細胞における遺伝子発現を追跡することができる。野生型細胞と癌細胞のRNAレベルでの比較により、細胞培養において、癌の発生に決定的な影響を持つ遺伝子の同定が可能になる。所定の検査診断法において、リアルタイムPCRは、ウイルス及び細菌の定性的及び定量的検出の大部分に採用されている。日常的臨床診療において、特に集中治療医学の領域において、医師は迅速で明確な調査結果を必要とする。リアルタイムPCRに基づいて、結果を即日であっても届ける検査を行うことが可能になった。これが敗血症の臨床診断法が格段に進歩した基礎となっている。
本発明において記載するPCR法の改良技術とは別に、検出に先行する標的配列の複製に対して、NASBA若しくはSDAなどの等温増幅法と呼ばれる方法又は他の改良技術などを使用することもできる。
【0066】
多重遺伝子バイオマーカー配列を選択する好適な方法は下記のステップを含む:
(a)極限群アプローチに基づく患者選択;
(b)少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーの作出;
(c)最終多重遺伝子バイオマーカーの決定。
【0067】
「体外診断多変量指標測定法」に類似する検査の好適な方法は下記のステップを含む:
(a)患者由来の試料からサンプル核酸の単離;
(b)症状及び/又は診断課題に特異的な、少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーの配列を用いた遺伝子活性の検出;
(c)(b)に基づいて測定された遺伝子活性を正規化するため、少なくとも1つの内部参照遺伝子の遺伝子活性の検出;
(d)症状及び/又は診断課題に特異的な指標を導き出すため、(c)で正規化した遺伝子活性に対する解釈機能の使用。
技術的参照として、例えばSEQ ID NO: 670〜SEQ ID NO: 675の配列を持つ対照遺伝子の遺伝子活性が適切に測定される。
【0068】
さらに本発明の好ましい実施態様は、遺伝子活性がハイブリダイゼーション法により測定される使用、特に、少なくとも1つのマイクロアレイ上で測定される使用にある。マイクロアレイの長所は、増幅法に比べてより高いバイオチップ上の情報密度にある。例えば、単回検査でいくつかの課題を同時に検査するため、1つのマイクロアレイ上に数百のプローブを備えることが容易にできる。
発明によって得られた遺伝子活性データは、さらに電子処理のためにも、例えば患者の電子医療ファイルへの記録のためにも使用される。
【0069】
本発明の他の実施態様は、組換え型又は合成的に製造された特異的核酸配列及び部分配列の、敗血症測定法における多重遺伝子バイオマーカーとしての単独若しくは部分量での使用並びに/若しくはSIRS及び敗血症の予防及び治療のための活性成分スクリーニングにおける効果と毒性の評価並びに/若しくは治療用調製物及び治療用調製物として意図された物質若しくは物質の混合物の製造のための使用にある。
本発明の方法(アレイ技術及び/又は増幅方法)に対して、サンプルは次のものより選ばれる:組織、体液、特に血液、血清、血漿、尿、唾液又は細胞若しくは細胞成分;又はこれらの混合物。
サンプル、特に細胞サンプルは、細胞内容物を遊離させるため、溶解処理することが好ましい。
【0070】
この目的を達成するために開示されるものは、血液及び血液細胞並びにこれらに由来するプローブから得られ、多重遺伝子バイオマーカーの作成に使用することができるSEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669のポリヌクレオチド配列である(表32参照)。
表11及び16は、例示として、感染症状と非感染症状の区別のための多重遺伝子バイオマーカーの配列選択を示し、また表20及び21は、例示として、グラム陽性感染とグラム陰性感染の区別のための多重遺伝子バイオマーカーの配列選択を示す。
当業者は、請求項に記載された本発明のそれぞれの特徴は、任意に制限なく組み合わすことができることを認識している。
【0071】
分類法
学習理論は、統計、データ分析、及び人工知能の分野で決定的に重要であり、エンジニアリング科学において多数の応用がある。分類法は、主に2つの異なるタスクに用いられている:すなわち、これまでは未知のクラスの区別(教師なし学習、クラス発見)と、特定のデータ/サンプル/これまでに定義されたクラスの患者の関連付けである(Golub et al., (1999) Science 286, 531-537)。
クラス予測において、データ/サンプル/患者が使用されるが、これらは、群間の差異を反映する分析方法(分類アルゴリズム)を開発するため、これまでに存在している又は定義されたクラス/群(訓練データ集合と呼ばれる)とすでに関連付けられていたものである。独立したサンプル(検査データ集合と呼ばれる)は、分類規則の区別品質の評価に用いられた。手続き方法は下記のステップにさらに分割することができる:
(1)検出すべき群の特性プロファイルを得るため、理想的なデータ/サンプル/患者セットを定義する。
(2)次に、各群を2つの等価量、すなわち訓練データ集合と検査データ集合を形成するように分割する。
(3)訓練データ集合のプロファイルは、理想的には、群間の極大差を反映するデータを含む。
(4)群間の差は、隔たりの適切な評価基準を用いて定量化され、またアルゴリズムを用いて評価される。このアルゴリズムは、正しいクラスを最高の特異性と感度を持つデータに帰属させる分類規則につながる。教師なし学習の分野からのそのようなアルゴリズムの代表は、判別分析(DA)、ランダムフォレスト(RF)、一般化部分最小二乗法(GPLS)、サポートベクターマシン(SVM)、又はk最近傍法(kNN)である。
(5)最後に、分類規則の品質を検査データ集合で検査する。
【0072】
定義
判別分析(DA):線形判別分析において、線形判別関数が得られ、さらに二次判別関数が二次判別分析(QDA)において得られる。判別関数は、共分散行列及び群平均により確定される。二次判別分析は、共分散行列が群間で変動するという追加的な仮定のもとにある(Hastie et al., (2001) The Elements of Statistical Learning)。
ランダムフォレスト(RF):ランダムフォレストを用いる分類は、決定木の組み合わせに基づく(Breiman, (2001)
Machine Learning 45, 5-32)。アルゴリズムはおよそ以下のように進む:
(1)交換して取り出すことによる訓練データ集合の選択(out-of-bagデータ)。
(2)決定木の各結節で、無作為に変数を選択する。これらの変数を、訓練データ集合の最良の分類をクラスに算出するために使用する。
(3)いったん決定木のすべてが形成されたら、個々の決定木のクラス帰属を1つのクラス帰属に集約する。
一般化部分最小二乗法(GPLS):一般化部分最小二乗法(Ding and Gentleman, (2004)
Bioconductor Project Working Papers. Paper 5)は、重回帰モデルの非常に順応性のある一般化したものである。その高度な順応性のため、この方法は、分類法が役に立たない多くの状況で利用することができる。
サポートベクターマシン(SVM):サポートベクターマシン分類指標は、一般化された線形分類指標である。入力データは高次元空間に位置付けられ、この空間に最適分離(最高)平面が構築される。高次元空間において線形であるこれらの境界は、入力データの空間において非線形境界に変換される(Vapnik, (1999) The Nature of Statistical Learning Theory. Springer,
New York)。
k最近傍法(kNN):k最近傍法において、(患者の)所見のクラス関連性は、近隣に存在するk最近傍を経て決定される。一般則として近隣はユークリッド距離を用いて決定され、次にクラス関連性が多数決により決定される。
【0073】
下記は、本発明の方法を実施する方法の一般概念を記述する。ここで当業者とって、他の患者群及び/又は他の課題を調査すべき場合には、統計的手法の小規模な改変が必要であることは周知である。訓練データ集合及び検査データ集合を生成するため、異なる統計的手法(判別分析及び/又はランダムフォレストなど)及び戦略(単純及び多重相互検証、無作為ブートストラップサンプルなど)が用いられる。
【0074】
マイクロアレイ発現データに基づき、敗血症のような感染性合併症を反映する多重遺伝子バイオマーカーのための方法が開発される。このバイオマーカー及び関連する指標値は「スコア」とも呼ばれ、全身性感染の診断を改善する「体外診断多変量指標測定法(IVDMIA)」(FDAガイドライン、(2003)
http://www.fda.gov/cdrh/oivd/guidance/1610.pdf)の基礎を形成する。この方法に由来する分類規則は、従来のバイオマーカーであるプロカルシトニンと比較して感度と特異性が向上し、特にSIRS患者と敗血症患者の区別を可能にするが、この課題に限定されるものではない。
【0075】
このような多重遺伝子バイオマーカーの開発には下記のステップが必要である:
第1ステップ:訓練データ集合
特定の遺伝子の遺伝子発現と調査された疾患との相互関係を明らかにするため、どの遺伝子発現が最も明確に疾患の存在又は非存在を表すかについての母集団(コホート)が定義される。感染性合併症の診断において、通常、敗血症患者(感染性)と無菌SIRSと呼ばれる疾患に罹患した患者(非感染性)が試験に含まれる。関連するRNAサンプルの収集と選択の計画は、この決定に従って定められる。選ばれたサンプルから、遺伝子発現プロファイルが適当なプラットフォーム上で測定され、前処理され、また品質管理にかけられる。系統的測定誤差が修正され、異常値は除外される。
第2ステップ:遺伝子の事前選択
遺伝子の事前選択は、測定された遺伝子の小集団のみが群区別に寄与するため、マイクロアレイデータに基づき正式な分類指標を生成することに対して重要なステップである。ほとんどの分類法も遺伝子選択を必要とする。正確な遺伝子選択は、あり得る最大限の単純性を持つ分類法を構成させ、また訓練データへの過度の適合(過度の一致)を回避させる。分類遺伝子の事前選択に対して、統計的推定閾値、群間最低受容距離などの適当な選別オプションが設定される。このような条件を満たす唯一の遺伝子について分類が検討される。
第3ステップ:分類法
さまざまな分類法が、区別すべき病態生理学的症状に関する分離可能性について検証される。この目的のために、相互検証法が用いられる。最小の分類誤差を有する分類法が、この過程において一緒に測定される最小必要数の遺伝子とともに選択される。過度の適合を回避するため、遺伝子数はいつも訓練データ集合におけるサンプル数より少ないことが、合理的な規則であることが見出された。
【0076】
患者選択
患者選択は訓練データ集合の組み立てにおいて重要である。本発明の枠組みにおける予備調査では、訓練データ集合において約75%、また検査データ集合において約65%の感度がとりあえず達成された。しかしながらこの比較的低い分類品質は、分類指標の最適化が不十分であることのみならず、敗血症患者の正確な選別が不十分であることにより説明され得る。従って、腹膜炎後の敗血症患者は、「VAP」(人工呼吸器関連肺炎)後の敗血症患者より正確に、より頻繁に分類される。実際に、そのような感染性合併症が腹膜炎後に存在する。一方VAPの場合、実際の感染をコロニー形成から区別することは難しい(Mayhall, (2001)
Emerging Infection Disease CDC 7(2))。
【0077】
患者選択の質の評価において、極限群と呼ばれる原理が有用である。したがって調査は、調査された効果を可能な限り明確に位置付ける患者群のみを検討する。ここで選択された任意のサンプルは、実際に存在する多くの効果(例えば疾患頻度)が無視される理想的な事例を表す。Liuによって、マイクロアレイに基づく分類指標の訓練データ集合のために、極限群を形成することが提案された(Liu et al., (2005) Bioinformatics 21, 3377-3384)。癌患者の生存率分析の例により、たとえ訓練データ集合が、すべての患者(平均生存期間の患者)が考慮される通常の場合より少ないプロファイル(患者)で作り出されたとしても、極限群(短期間で死亡する患者対長期間生存する患者)の使用は、分類遺伝子の高い事前選択性と高い分類品質もたらすことが示された。
【0078】
以下において、どの程度まで患者選択が、感染合併症の診断に対する多重遺伝子バイオマーカーの生成に影響するのかについて議論される。出願人による1つの調査において、大手術後に敗血症を発症した患者が検査された。敗血症診断第1日に得られたサンプルが、手術後第1日に得られたサンプルと比較された。ここで、かなりの程度に異なって発現した遺伝子は、混合された効果をまさに反映している;感染性合併症は、手術ストレスまたは術後療法からの回復などの効果によって目立たなくなっている。上記した探索研究において、敗血症と臨床診断(必ずしも微生物学的に確認されるとは限らない)された患者が訓練集団に含まれたことが、2つの調査群(敗血症群と対照群)の混合につながり、感度が低下した。米国特許出願第20060246495号明細書の実施例において、敗血症の臨床診断は、敗血症群の選択に用いられた。さらに疾患重症度は、敗血症患者群とSIRS患者対照群との間で考慮されなかった。これが、質の悪い分類及び分類アルゴリズムへの依存の理由である可能性がある。Johnsonによる研究(Johnson et al., (2007) Ann
Surgery 245, 611-621)において、外傷後の患者が、感染性合併症のある群と感染のない群の2群に分割された。この研究の長所は、この2群の患者は、併存疾患と前治療にほとんど差を示さなかったことである。しかしながら、事前選択はすべての敗血症患者に対して代表的ではなく、本発明で示された、異なる背景(他のリスク群に対する)を持つ患者への敗血症関連遺伝子発現パターンの一般化は、自明ではない。一般的に、異なるリスク群を含む調査は、異なる分類指標の形成を必要とすることを前提としなければならない。Tangによる研究(Tang et al., (2007) Lancet Infect
Dis 7, 210-217)において、極限群の原理は、訓練データ集合のなかの微生物学的に確認された敗血症診断患者のみを考慮することにより、間接的に適用された。しかしながら、サンプル収集計画は、結果的により小さな対照群(サンプルの3分の1、44の中から14)となった。それ故、訓練データ集合で特異性は77%となり、独立した検査データ集合(より現実の状態にある)では60%に過ぎなかった。SIRS研究室調査及びTangによる調査(Tang et al., (2007) Lancet Infect Dis 7, 210-217)において、患者群の記述は、他の影響因子を明らかにしている。それは、感染病巣に関して不均一である敗血症群は釣り合っていないが、感染病巣の異なる群は異なって表されることを示している。実際、集中治療室(ICU)における症例の大多数は、肺(約45〜50%)又は腹部(約25%)が敗血症の診断において感染病巣であった。これらの患者群は、多くの他の病巣がわずかに現れているのみで、調査において過剰に表されている。同様に、特に術後患者及び外傷患者が対照群において表され、また他のリスク群は、それぞれの患者によってのみ表される。代表的な分析は、すべての調査において、選択された患者群は感染性合併症を明確に示さず、これは分類が不適切であることを説明するのに役立つ可能性がある。同様に、感染性合併症の場合、群分けにより患者群の選択において影響因子の全体を考慮することはほとんど不可能であることが明らかになった。この理由のため、訓練データ集合に対する患者選択について、下記の方法が提案されている。
【0079】
(本発明の材料と方法に関する一般情報)
患者選択法
代表的な無作為のサンプル選択は、記載された方法において最も重要であった。敗血症又は最良であると示された対照下位群の2つのそれぞれから、感染があることが診断上微生物学的に確認又は排除された患者が、訓練データ集合に組み込まれた。このようにして、極限群の原理が主効果(感染対非感染)のみならず、最も重要な影響量(母集団の層別化)の制御にも適用される。この選択法の有利な点は、最も一般的なリスク又は疾患群に対する分類指標の生成が最初であることである。さらに、少数だがかなり異なる下位群についての全身感染を反映する分類指標は、他の患者群へ適用できることが期待される。訓練データの選択は、以下のように行われた。敗血症リスクが疑われる400名の集中治療室患者が、2年半の期間内に出願人の患者データベースに組み込まれ、全入院期間にわたり関連する臨床データが詳細に文書化された。RNAサンプルは、およそ7〜14敗血症関連日にわたり集められた。PIRO概念(Levy et al., 2003)の近似において、下記の基準に従って、患者が後ろ向きに階層ごとに分けられた:(i) どの兆候により集中治療室への移送となったか(術後合併症、外傷又は多発性外傷、敗血症の急性の疑い)、(ii) 感染合併症と診断され、なにが感染病巣であったか、(iii) 生物反応はなんであったか(存在するSIRS基準の数、ショック療法、PCT及びCRP値)、(iv) 疾患重症度はなにか(SOFA、MODSスコア)。データベース調査により、感染合併症(敗血症)の場合、特に肺炎(40%)及び腹膜炎(23%)後の患者が試験に含まれることが示された。感染のない場合、特に(多発性)外傷(9%)及びバイパス手術(20%)後の患者が含まれた。このデータは、ドイツ敗血症会社の疫学調査と一致しており、集めたサンプルは代表的なものであると評価された。これらのグループの患者データは、独立して二人の医師によって診察され(ACCP/SCCM, (1992); Levy et al., (2003) Intensive Care Med 29,
530-538; Calandra and Cohen, (2005) Critical Care Med 33, 1538-48に準じて)、最終的な患者選択が決定された。微生物学的に確定診断された46名の患者が2つの敗血症群から選択され、敗血症の初日が確定された。重症度基準の分類により、この日に患者は重症敗血症又は敗血症ショックと診断された。患者の平均SOFA値は10に達しており、急性臓器不全の合計は3.59であり、感染の兆候のない患者は2つのリスクグループ(心肺バイパス術及び/又は外傷後)から選択され、そして敗血症群に類似した重症度になる初日が決定された。このようにして、105名の患者が一次的に試験に組み込まれた;関連するマイクロアレイ実験の品質管理後、群は遺伝子発現測定について質の良い96名の患者に限定された。選択された患者について、重要な臨床的指標及び検査値のリストを表1に例示するが、これらに限定するものではない。
【0080】
【表1】

【0081】
分類指標の作成
分類指標を作成するに際し、下記のステップを実行した:
(ステップ1:品質管理)専門知識に基づいて確認された患者群からの事前選択に基づき、関連遺伝子発現データは、非典型的なハイブリダイゼーション結果を排除するためさまざまな相似解析に付され(Buneß et al., (2005) Bioinformatics 21, 554-556)、それにより最終的な訓練データ行列を作成した。
(ステップ2:データの正規化又は前処理)バックグラウンド補正及び正規化についてのさまざまな方法を比較した。分散安定化変換を含む方法が最良であると分かった(Rocke and Durbin, (2001) J Comput Biol 8, 557-569)。最良の正規化方法は、ボックス・コックス(Box and Cox, (1964) J Roy Stat Soc B 26, 211-252)による正規化後の中央値及びMAD標準化であった。すなわち、その長所は、特に、それぞれのプロファイルの正規化(例えばHuber(Huber et al., (2003) Stat Appl in Genetics and Mol Biology 2 (1),
Article 3)に準ずる全データ行列の正規化と比較したもの)がブートストラップに対して意図的に使用されることである。
(ステップ3:フィルター)フィルターは最良の分類指標遺伝子を同定するために用いられた。フィルターは下記のステップから構成された:
(i) 考慮される陽性平均シグナル強度を持つ転写物で、最小の変動係数を持つ特定数の転写物の選択。(ii) この後、これらの転写物について感染対非感染を比較するため、ウイルコクソン検定を行った。転写物はp値により配列され、p値が0.001以下であるすべての転写物は同等とみなし、感染群と非感染群の間の距離によって配列された。2群間の距離は、ホッジス・レーマン推定量(Hollander and Wolfe, (1973) Nonparametric statistical inference. New
York: John Wiley & Sons)により決定した。
(ステップ4:分類)選択された転写物の最良のものは分類に用いられた。分類ステップにおいて、さまざまな線形及び非線形法(Hastie et al., (2001) The Elements of Statistical Learning)(DLDA, LDA, RF, GPLS, SVM及びkNN)が相互に比較された。
(ステップ5:内部検証)分類の質を評価するため、交差検定を数回(20回や1000回でも)繰り返す10倍交差検定を用いた。
(ステップ6:転写物の選択)分類指標のための転写物の最終的な選択は、ブートストラップを用いて行われた。統計学において、ブートストラップは、単に1つの無作為サンプルx = (x(1), ..., x(n)) に基づいて、統計値が繰り返し計算される再サンプリング法である。このためのBブートストラップ無作為サンプルx(b) = (x*(1), ..., x*(n)),
b = 1, ..., Bが、最も単純な場合について、所定の無作為サンプルからそれぞれn回置換により値を取り出すことにより作成される(Efron, (1979) Ann Statistics 7, 1-26)。
【0082】
このようにして、それぞれの課題に対して適切な特定のブートストラップ無作為サンプルが元の訓練データ集合より取り出され、上記の記載に従って、これらの無作為サンプルのそれぞれについて最適転写物が決定された。最終的な分類指標は、いくつもの繰り返し(例えば500回の繰り返し)において最も多く選択された転写物を含む。
【0083】
最終的な分類指標の決定
遺伝子数に関する分類結果の依存性の評価は、BakerとKramer(Baker
and Kramer, (2006) BMC Bioinformatics 7, 407)による結果、すなわち、5、10、25、40及び50個の遺伝子についての結果にはほとんど差がなかったことを裏付ける。図1には、線形判別分析(LDA)に対する分類誤差が示されている。約12個の特徴で曲線が最小限に達するので、この遺伝子数により得られた結果がこれ以降示された。さまざまな分類法の結果は、10倍交差検定の20回繰り返しにより得られ、これを表2にまとめた。
【0084】
【表2】

【0085】
表2から分かるように、推定感度は95%の範囲内であり、推定特異性はDLDAを除き、90%以上の範囲内である。LDA及びSVMによる結果が最も見込みがある。これらの分類法の両方において、顕著に誤った患者の分類はごくわずかしかなく、多くても5%の誤分類率が達成された。SVMの高度な複雑性及びSVM分類指標の最適化の結果としてもたらされる計算コスト、並びにLDAに基づく分類指標の優れた生物学的解釈可能性のため、出願人はLDAに基づく分類指標の作成を決定した。LDAに由来する分類規則はスコアに変換された。96名の患者の例示群に対するスコアは図2に示される。10を超える値は、感染(すなわち敗血症)が大いにあり得ることを示す。+10と−10の間の値は、若干の敗血症リスクがあることを示す。−10未満の値は、感染の可能性がきわめて低いことを示す。
【0086】
要約すれば下記の図式に至る:分類指標作成プロセスは群選択の有利性を示す:分類遺伝子の見積り数は小さく、訓練データへの過度の適合(過度の一致)がありそうにない。それぞれの分類法は少ししか違わない。(対角線形判別分析(DLDA)は分類の質が最も劣っており、遺伝子間の相関性はDLDAでは考慮されないので情報喪失が生じるという事実により説明することができる分類法である)。遺伝子数が増加しても結果は改善されない。これらの事実は、群が訓練データ集合においてうまく分離されること、すなわち群は明確な距離を示すことの表れである。
【0087】
本発明は以下において、実施例を通してまたこの記述の一部を形成する配列プロトコールに言及することにより、より詳細に説明されるが、本発明を制限するものではない。
【0088】
結果
本発明による多重遺伝子バイオマーカーの質を、従来のバイオマーカーであるPCT及びCRPと比較した。これは、訓練データ集合に対する関連するROCを算出する目的のためである(図3)。AUC(濃度曲線下面積)として得られるもの:AUC(PCT)= 0.326、AUC(CRP)= 0.656、AUC(PCT及びCRP)= 0.940、AUC(多重遺伝子バイオマーカー)= 0.997。これらのROC曲線は、多重遺伝子バイオマーカーに対して、非常に高い感度を同様の高い特性で明確に示す。分類遺伝子の特異的選択により、多重遺伝子バイオマーカーは、従来のマーカーであるPCTとCRPより分類の質が優れており、極限群の原理に従って明確な差を示す訓練データについてもそうであった。
【0089】
次のステップにおいて、訓練データ集合には使用されない出願人の患者データベースの遺伝子発現データが分類に供された。図4aは、臨床診断に基づいたスコア値の分布を示す。比較のため、同じデータ集合についてのPCT値及びCRP値の分布を図4bに示す。指数値又はスコアは臨床診断と適合するが、特にPCT分布は、重症SIRSがむしろ敗血症として評価されることを示し、合併症のない敗血症はどちらかといえば非感染性として評価されることを示している。特異性のない分布は、CRPマーカーとWBC(白血球数)で示される。
【0090】
本発明の多重遺伝子バイオマーカーの質及び本発明の方法が、外部収集施設の追加の患者の発現データを用いて調べられた。ここでも、臨床評価と分子生物学的評価は症例の90%が一致した。
最後に、図5−2と図5−2は個々の患者の疾患経過におけるスコア曲線を示す。ここでも本発明の多重遺伝子バイオマーカーは、臨床診断を反映する。
検証解析は、その発現プロファイルが訓練データ集合に表されていない、出願人の患者データベースの患者プロファイルを含めるために行われた。敗血症診断の代表的な基準がないため、独立した検査データ集合が階層化された下位群で調べられ、患者プロファイルは、疾患重症度(図4参照)に従って集められ分類された。合併症のないSIRSの患者は、実際にほぼ例外なく非感染性として評価された。重症SIRS(さらに多臓器機能不全(MOD)があるSIRS)は、大部分は感染性ではないと評価された。合併症のない敗血症の患者は、大部分は全身性感染として分類された。感染性合併症は、重症敗血症又は敗血症ショックの患者の間で最も頻繁に確認された。この知見は、独立した施設で集められ診断された患者群について確認することができた(図6)。
【0091】
本発明のさらなる長所及び特徴は、実施例の記述及び図面に由来する。
【実施例1】
【0092】
敗血症/SIRSの識別
多重遺伝子バイオマーカーを決定するための方法を開示することが意図される。本方法に由来する分類規則は、SIRS患者と敗血症患者の識別を可能にする。他の分類規則は、感染性の肺炎と腹膜炎の病巣を識別することができる。
【0093】
(実験方法)
非敗血症患者及び敗血症患者の血液の全ゲノム遺伝子発現において、年齢、共存疾患及び薬物治療による患者の不均一性に関係なく、敗血症患者群間の分子的な差異を反映する転写物が同定された。分類がうまく行くのに必要なバイオマーカー数は、検査する患者群に依存して変動する。
不均一な群では、非常によく特徴付けられた群よりさらに多くのバイオマーカーを分析する必要があることが推測される。臨床診断の最高の頑健性を目的として、重要なバイオマーカーのプールから始める。診断課題に応じてバイオマーカーが選択され、分類法はさまざまな技術的遺伝子発現プラットフォームで最適化される。バイオマーカー候補の潜在力は、2つの例を参照することにより明らかになる:
(a)マイクロアレイ上で、SIRS患者と敗血症患者との間で異なる遺伝子発現の測定。
(b)マイクロアレイ上で作成され、選択されたオリゴヌクレオチドの遺伝子発現シグナルによるSIRS患者と敗血症患者の分類。
【0094】
(a)に関して:
使用されたアレイの特徴
(1)スポッティング技術により作成されたオリゴヌクレオチドマイクロアレイ。
(2)484の遺伝子特異的オリゴヌクレオチドは、3回反復して適用される。
(3)そのうち344のオリゴヌクレオチドは、遺伝子発現バイオマーカーに向けられる。
(4)84のオリゴヌクレオチドは、対照(陰性及び陽性)に向けられる。
(5)56のオリゴヌクレオチドは、参照遺伝子に向けられる。
【0095】
図7は、着目した敗血症マイクロアレイの概略図である。エポキシ‐シラン化ガラス担体(Nexterion、E−スライド、ドイツ連邦共和国)上にスポットし、それぞれの遺伝子特異的オリゴヌクレオチドは3回描かれる。3つの同一の下位アレイは、患者サンプルとハイブリダイズされる。マーカー特異的オリゴヌクレオチドに加えて、対照プローブ(全体のサンプル調製及びハイブリダイゼーション過程の監視をする)もアレイ上に描かれた。
【0096】
使用されたバイオマーカーの生物学的妥当性
アレイ用のマーカー遺伝子は、図8に示されるように、ヒト細胞のシグナル経路や関連する機能性との関係が非常に重要である。免疫・炎症プロセスや、さらに敗血症への高い関連性が存在する。敗血症アレイに関するバイオマーカー集合の知識ベースの分析に関して、同定されたマーカーの機能的背景を明確に示すため、ソフトウェアのインジェニュイティー・パスウェイ・アナリシス(Ingenuity Pathway Analysis)(Ingenuity System、米国、www.ingenuity.com)を使用した。完全に公衆が利用できる、遺伝子及び遺伝子産物に関する知識ベータベースに基づいて、マーカーは、生理学的・病理学的プロセスに関連性を持つ機能的ネットワークに統合された。マーカーの免疫・炎症プロセスへの関わりは非常に重要であり、マーカーは、機能的側面において、敗血症との密接な関係を推測させる。その結果、バイオマーカーの基本的な前提条件である生物学的妥当性が存在する。
【0097】
評価のための患者群
集中治療室(ICU)における症例の大多数は、肺(約45〜50%)及び腹部(約25%)が敗血症診断における感染病巣である。従って、多重遺伝子バイオマーカー開発の枠組みにおいて、それぞれ肺炎及び腹膜炎の患者が選択された。SIRSの場合、ICUのSIRS患者の大部分である心臓病患者が選ばれた。このようにして、12名の重症肺炎患者、18名の重症腹膜炎患者及び19名の重症SIRS心臓病患者(OP:心肺バイパス術)が特定された。分析のため、これらの患者のそれぞれの診断初日が選ばれた。次の表3で、分類指標の検証のための患者群が敗血症アレイ上に示された。
【0098】
【表3】


【0099】
ハイブリダイゼーション
患者血液からの4 μgのトータルRNAを、cDNAの入った30 μlの反応容量中で逆転写(スーパースクリプトII、インビトロジェン(Invitrogen)、米国)により転写した。プライマーとして、ポリdTプライマー(18 mer)を用いた。アミノアリル‐dUTP(AA-dUTP)を反応中へ加え、AA-dUTP によりmRNA鎖中のdTTP量の80%を置換した(表4)。
【0100】
【表4】

【0101】
すべてのサンプルは、42℃で2時間インキュベートする。当該2時間後、生成したmRNA/cDNA二本鎖はアルカリ加水分解により一本鎖cDNAとした(それぞれに20 μlの0.5
M EDTA(pH 8.0)とそれぞれに20 μlの1 N NaOHを添加し、65℃、30分のインキュベーション時間で行う)。一本鎖cDNAの中和のため、それぞれに50 μlの1 M Tris-HCl(pH 7.4)を加えた。その後、すべてのサンプルは400 μlのRNase‐フリー水と混合し、マイクロコン(Microcon)YM-30カラム(アミコン(AMICON)、米国)により精製する。このために、すべてのサンプルは、11000×g、10分間で遠心分離するカラムにそれぞれ入れる。450 μlのRNase‐フリー水で2回洗浄し、中間にある11000×g、10分間の遠心分離ステップ後、カラムを転倒し、新しい1.5 ml容の反応容器上に置き、15000×g、3分間で遠心分離した。溶出液として、約20〜40 μlの容量の精製された一本鎖cDNAが得られ、スピードバック(Speedvac)で乾固させる。
【0102】
蛍光色素によるcDNAの標識
ハイブリダイゼーションシグナルの検出のため、蛍光色素を使用する。分析のため、ディオミクス(Dyomics)による蛍光色素を使用した(製造者:ディオミクス社、イエナ、ドイツ連邦共和国)。DY-647(Cy5誘導体)はN-ヒドロキシサクシニミドエステルの形態で購入し、蛍光標識に使用する。色素の化学的結合は、挿入されたAA-dUTPで生じる。
cDNAは10 μlの水に溶解し、2本の試験管にそれぞれ5 μlで分割した。溶解したサンプルは、42℃で5分間インキュベートする。次に、3
μlの炭酸水素緩衝液をそれぞれのサンプルに添加する。蛍光色素はDMSO(製造者:シグマ‐アルドリッチ(SIGMA-Aldrich)、ドイツ連邦共和国)に溶解する。75 μgの色素を各サンプルに使用する。
この光感受性反応は暗所1時間で行う。この後、サンプルは30 μlの最終容量まで水で満たす。サンプルはそれぞれ、80 μlの水及び100 μlの膜結合溶液とともにピペットで吸引吐出混合し、プロメガ(Promega)キット(プロメガウィザード(Promega Wizard)‐SVゲル及びPCRクリーンナップ(CleanUP)システム、プロメガ、米国)を用いて、製造者の仕様書に従い精製する。
【0103】
最終ステップにおいて、カラムは16000×gで1分間、乾固するまで遠心分離し、50 μlの水で2回溶出する(10000×gでそれぞれ1分間)。次に、それぞれのサンプルは、10 μlのCot-1-DNA(インビトロジェン、米国)及び400 μlの水と混合する。標識サンプルの濃縮は、マイクロコンYM-30により行った(10000×g、10分間の遠心分離)。カラムは転倒させ、新しい試験管上に置き、15000×g、3分間で遠心分離した。cDNA/Cot-1-DNA混合物の容量は32 μlに設定する。蛍光標識cDNA/Cot-1-DNA混合物(32
μl)は58 μlのハイブリダイゼーション混合液(表5)と混合する。
98℃、3分間の変性後、混合物は、テカン(TECAN)ハイブリダイゼーションオートマトン(HS-400、製造者テカン、オーストリア)のハイブリダイゼーションチャンバーにピペットで入れる。ホルムアミドはハイブリッドの融解温度を下げ、良好なハイブリダイゼーションを可能にする。ガラススライド上での生体分子の濡れ性は、10%SDSの添加により改善する。酵母t-RNA/ポリ‐A混合物は、非特異的結合と背景ノイズを防止する。結果的に、ポリ(A)は標識cDNAのポリ(T)末端に結合し、酵母t-RNAは非特異的配列をブロックする。
【0104】
【表5】

【0105】
ハイブリダイゼーション工程のプログラムは下記の表6に示される。
【0106】
【表6】

【0107】
最初に、アレイをハイブリダイゼーション溶液で洗浄後、サンプルとともにインキュベートする。この過程は、テカン装置HS-400のハイブリダイゼーションチャンバーで、アレイ表面をハイブリダイゼーション溶液で一定の撹拌をしながら、42℃の温度で10時間行われる。最後に、3回の自動化ステップで、アレイを洗浄し乾燥させる。
10時間後、非結合分子は、その後の洗浄ステップにより、マイクロアレイから除去する。仕上がったアレイは、評価のためにスキャンする必要がある(アキソンB(AxonB)スキャナー、GenePixソフトウェア、アキソンテクノロジー(Axon Technologies)、米国)。得られたgprファイルは、生物統計的に評価される。
【0108】
評価
データ分析は、www.r-project.orgで入手できるフリーソフトウェアRプロジェクト(R Project)バージョン2.6.1で行った。
(1)生データの品質管理:
専門知識に基づき確認された46名の患者の事前選択について、非典型的なハイブリダイゼーション結果を排除するため(Buneß
et al., 2005)、関連する遺伝子発現データは、さまざまな類似する分析に供された。
(2)データの正規化:
バックグラウンド補正及び正規化のさまざまな方法を比較した。分散安定化変換を含む方法が最良であると分かった(Rocke and Durbin, 2001)。ボックス・コックス(Box and
Cox, 1964)による正規化と、それに続く中央値及びMAD標準化が、最良の正規化方法であることが分かった。その長所、すなわち個々のプロファイルの正規化(例えばHuber(Huber et al., 2003)に準ずる全データ行列の正規化と比較したもの)は、特にブートストラップに対して特異的に使用されることである。
(3)群の統計的比較
調べた転写物の発現値は、感染状態(感染対非感染)に従って、ウイルコクソンの順位和検定により比較した。転写物は得られたp値に従って昇順に配列されたが、すべての転写物はp値が0.001以下であったので同等とみなされ、感染群と非感染群の間の距離によって配列された。2群間の距離はホッジス・レーマン推定量により決定した。
(4)分類
感染状態に従って、分類試験において患者群を最適に分離することができる14の転写物が、表7より選択された。線形判別分析(Hastie et al., 2001)が最良の分類方法として選ばれた(すなわち、単純交差検定において最小の分類誤差を生む方法)。この機能のため、ソフトウェアRのMASSパケットからのldaが使用された。p = 14の遺伝子マーカーに対して、下記式で定義される判別関数fLD の重み(w0, …, wp)は、引き続いてそれぞれ1サンプルを除外することにより、正規化発現データから算出された。
【数1】

このサンプルは後で分類されるが、そのためにサンプルのct値が上記式の(x1, …, xp)に挿入された。判別関数の重さは、機能の陽性値が感染合併症のある群との関連を意味するように、また機能の陰性値が感染合併症のない群との関連を意味するように計算された。すべてのサンプルから計算された線形判別分析の重みは、表7に要約される。
【0109】
(b)に関して:
分類結果
使用された発現シグナルは、上記のデータ集合に由来する。分類において、96%の感度と95%の特異性が単純交差検定で達成された。これは、96%の誤差率に相当し、すなわち、2サンプルの誤分類に相当する。関連する判別関数の重さは、表7に要約される。
【0110】
【表7】

【0111】
表8は、マイクロアレイ上で測定した、患者群における異なる遺伝子発現を示す。
【0112】
【表8】


















【実施例2】
【0113】
リアルタイムPCRによるSIRS患者と敗血症患者の同定のための分類指標の設定
遺伝子発現の測定
肺炎及び腹膜炎の患者を、典型的な敗血症の代表例として、また重大な心臓手術(心肺バイパス術、CPB)を受けたSIRS患者の場合、これらの患者が集中治療室におけるSIRS患者の大多数である(表9参照)として、それぞれ選択した。患者は、イエナ大学病院の医師団により、後ろ向きに確認された。
トータルRNAは患者の血液より単離され、cDNAに転写された。cDNAは、分析において鋳型として使用した。
【0114】
【表9】

【0115】
分類のためのマーカー(表10参照)は、バイオマーカープール(実施例1参照)から選ばれ、診断された敗血症の有無に関する患者群において、非常に異なる遺伝子発現を示した。
遺伝子発現の定量に対して、さまざまな方法が利用できる。遺伝子発現の相対的定量は、例えばキャリブレーターとの関係において、標的転写物の存在量に関する表明になる。キャリブレーターは、定常的に発現する遺伝子(参照遺伝子又はハウスキーピング遺伝子と呼ばれる)の発現値から決定される基準値でよい。そのような参照遺伝子はそれぞれの生物及び組織に特異的であり、それぞれの調査において注意して選ばなければならない。敗血症患者及び対照患者の全血からの遺伝子発現プロファイルから始めて、変動が最小の最も安定な遺伝子が選ばれ、正規化のための定量PCRに使用された。
【0116】
【表10】

【0117】
表11は、リアルタイムPCRに使用したプライマー及びそれらのSeqIDのリストである。この表にはたくさんある可能性の1つしか示していないが、それぞれの標的配列に対して、いくつかのプライマーの組み合わせが可能である。
【0118】
【表11】


【0119】
(実験の実行)
血液の採取とRNAの単離
患者の全血は、PAXGeneキットを用いて製造者(キアゲン(Qiagen))の仕様書に従い、集中治療室で患者から採取し、そのRNAを単離した。
逆転写
各患者サンプルからの4 μgのトータルRNAを、20 μlのバッチ(ファーメンタス(Fermentas)の10 mM dNTP混合液1 μl及び0.5 μg/μlのオリゴ(dT)プライマー1 μlを含む)中で、逆転写酵素スーパースクリプトII(インビトロジェン)により相補的DNA(cDNA)に転写した。続いてRNAは、アルカリ加水分解により除去した。反応バッチは精製しなかったが、水で50 μlとした。
【0120】
リアルタイムPCR
インビトロジェン社のプラチナサイバーグリーン定量PCRスーパーミックス‐UDGキットを用いた。患者のcDNAは、水で1:100に希釈し、このそれぞれ1 μlをPCRに利用した。各マーカーについて、31名の患者すべてと鋳型のない対照(NTC)のあるPCRプレート(バイオラド(BIORAD))に、ピペットで3通りに加えた。
PCRバッチプロウェル(10 μl)
2 μl 鋳型cDNA(1:100希釈)
1 μl フォワードプライマー(10 mM)
1 μl リバースプライマー(10 mM)
1 μl フルオレセイン参照色素
5 μl プラチナサイバーグリーン定量PCRスーパーミックス‐UDG
鋳型のないマスターミックスを調製し、PCRプレートに9 μlの一定分量を順次添加し、これらのそれぞれに患者のcDNAをピペットで添加した。
次のPCRプログラムは下記のように構成した。
95℃ 2分間(ポリメラーゼの活性化)
(以下を40回繰り返し)
95℃ 10秒間(変性)
58℃ 15秒間(付加)
72℃ 20秒間(伸長)
(以下を41回繰り返し)
55℃、95℃ 10秒間
(融解曲線の作成、各ステップ後、初期温度は1℃ずつ増加する)
【0121】
関連する評価ソフトウェアを付帯するバイオラド社のiQ(登録商標)5マルチカラーリアルタイムPCR検出システムを用いた。このような定量PCRの実行結果は図9に示される。評価ソフトウェアが、18個のマーカーと5個のハウスキーパーの各自に対する代表例を作成するのに使用され、これより対応するCt値が導き出された。Ct値は、曲線の直線的上昇領域において、プログラムにより自動的に算出される。EPC1の例では、Ct値は、敗血症患者について25.08〜27.71の範囲であり、SIRS患者について28.08〜35.91の範囲であった。
【0122】
データ分析
データ分析は、www.r-project.orgで入手できるフリーソフトウェアRプロジェクト(R Project)バージョン2.6.1で行った。
データ前処理
測定された発現シグナルはエクセルフォーマットで保管し、3回測定により平均化した。15個の欠落データのあるマーカーMON2並びに、それぞれ13個及び1個の欠落データのある患者6065及び8111は、分析より排除した。従って、訓練データ集合は、18個の感染サンプル(62%)と11個の非感染サンプル(38%)を含んだ。正規化に関して、測定した5個のハウスキーパー遺伝子より、最も安定した3個のハウスキーパー遺伝子を決定した。次に、各患者のマーカー遺伝子より、選ばれた3個のハウスキーパー遺伝子の平均値を差し引いた。
【0123】
分類
分離の質に従って遺伝子マーカーを配列するため、ウイルコクソンの順位和検定を行い、感染合併症の有無がある患者群を比較した。この後、p < 0.001である遺伝子をホッジス・レーマン推定量に従って配列し、残りの遺伝子は相応のp値に従って配列した。
分類に対して、単純交差検定のある線形判別分析(Hastie et al., 2001)を用いた。計算は、RライブラリーMASSからの関数ldaを使用して行った。pマーカーに対して、下記式で定義される判別関数fLD の重み(w0, …,
wp)は、引き続いてそれぞれ1サンプルを除外することにより、訓練データより算出された。
【数1】

このサンプルは、上記式のxi に挿入されたサンプルのct値により、後で分類される。判別関数の重さは、機能の陽性値が感染合併症のある群への帰属を意味するように、また機能の陰性値が感染合併症のない群への帰属を意味するように計算された。分類手順は、マーカー数の増大に対して繰り返された。
次に、すべての訓練データに対して方法手順が実行され、2つの追加的な独立したサンプルが分類された。マーカー数の増大に対する線形判別関数の重み並びに独立サンプル790及び933に対する関連スコア値(灰色で影付けした値を図12中に図示した)は、表12に要約した。
【0124】
(結果)
分類においてまず最良の2つのマーカーを使用し、その後、次のマーカーを段階的に加えた。単純交差検定では、ほとんどすべての症例についてサンプルの誤分類はなかった。13、14及び17個のマーカーを用いたときにのみ、単純交差検定で1例の非感染サンプルが誤って分類された。従って、訓練データ集合に対して、100%の感度と91%の特異性が達成された。
【0125】
独立サンプルの933と790の両方とも、問題なく正しく分類された。非感染サンプル933の正しい分類(すなわち陰性スコア値)のためには、2個以上のマーカーが必要であった。感染サンプル790について陽性スコア値(表12参照)を得るためには、6個以上のマーカーが必要であった。分類は、14個を超えるマーカーを用いると不安定になった。図10において、サンプル933及び790について12個のマーカーによる分類のスコア値が示されている。これは、得られたスコア値と4領域への分類についての概略図である。算出スコアが6.5より高い場合、95%の確率で敗血症(感染性)の患者である。スコアが‐6.5未満である場合、患者が敗血症でない(非感染性)確率は、同様に95%である。このスケール上で、12個のマーカーについての分類結果は、分類データ集合に依存しない2つの検査サンプルに投影された。サンプル933のスコア値は−36.58と推測され、患者は非感染性として分類され、サンプル790のスコア値は7.44と推測され、感染性として分類された。
【0126】
実験では高品質の発現シグナルが得られ、そのため、関連データ行列は分類指標の設定に使用することができた。測定されたシグナルを用いて、訓練データを、感染性合併症に従って、実質的には完全に分離することができた。同様に、2つの独立検査データ項目が、正しく分類された。訓練及び検査データ集合における強固な質の分類のため、6〜14個の分類マーカーが必要であった。
【0127】
表13aは、定量PCR分析からの生データ(Ct値)を示し、表13bは、マーカー数の増大と独立したサンプル790及び933に対する関連スコア値についての線形判別関数の重みを示す。
【0128】
【表12】

【0129】
【表13a】


【0130】
【表13b】

【実施例3】
【0131】
従来のPCRを用いた、SIRS患者と敗血症患者の同定のための分類指標の作成
遺伝子発現の測定
肺炎及び腹膜炎の患者を、典型的な敗血症の代表例として、また深刻な心臓手術(心肺バイパス術、CPB)を受けたSIRS患者の場合、これらの患者が集中治療室におけるSIRS患者の大多数である(表14参照)として選択した。
トータルRNAは患者の血液より単離され、cDNAに転写された。cDNAは、分析において鋳型として使用した。
【0132】
【表14】

【0133】
分類のためのマーカーは、バイオマーカープール(実施例1参照)から選ばれ、敗血症の有無を診断された患者群において、非常に異なる遺伝子発現を示した。
表15には、分類に使用した遺伝子発現マーカーの遺伝子産物のリストとそれらの説明を含む。表16は、PCRに使用したプライマーと関連するSeqIDのリストである。いくつかのプライマーの組み合わせが、それぞれの標的配列について可能である;表は多数の可能性の中の1つを示しているに過ぎない。
【0134】
【表15】

【0135】
【表16】

【0136】
(実験の実行)
血液の採取とRNAの単離
患者の全血は、PAXGeneキットを用いて製造者(キアゲン)の仕様書に従い、集中治療室で採取し、そのRNAを単離した。
逆転写
各患者サンプルからの4 μgのトータルRNAを、20 μlのバッチ(ファーメンタス(Fermentas)の10 mM dNTP混合液1 μl及び0.5 μg/μlのオリゴ(dT)プライマー1 μlを含む)中で、逆転写酵素スーパースクリプトII(インビトロジェン)により、相補的DNA(cDNA)に転写した。続いてRNAは、アルカリ加水分解により除去した。反応バッチは精製しなかったが、水で50 μlとした。
【0137】
PCR
患者のcDNAは、水で1:500希釈(又は、SNAPC、EPC1、KIAA0146及びMON2の4マーカーについては1:50希釈)し、それぞれ1 μlをPCRに利用した。各マーカーについて、1枚のPCRプレート(96ウェル、Nerbe
Plus)に、31名の患者すべてと鋳型のない対照(NTC)とともに、ピペットで3通りにして加えた。
ウェルあたりのPCRバッチ(13 μl)
1 μl 鋳型cDNA、1:500希釈又は1:50希釈
0.5 μl フォワードプライマー、10 mM
0.5 μl リバースプライマー、10 mM
1.3 μl 10×バッファー I
0.05 μl アキュプライム(Accuprime)Taqポリメラーゼ
9.7 μl 水
鋳型のないマスターミックスを調製し、PCRプレートに12 μlの一定分量を順次添加し、これらのそれぞれに、患者のcDNAをピペットで添加した(PCR反応バッチの組成を参照)。
【0138】
次のPCRプログラムは下記のように構成した:
94℃ 2分間(ポリメラーゼの活性化)
94℃ 30秒間(変性)
55℃ 30秒間(付加)
68℃ 30秒間(伸長)
(変性、付加及び伸長のステップは32又は38回繰り返し)
68℃ 2分間(最終伸長)
エッペンドルフ(Eppendorf)社のマスターサイクラーグラジエント(Mastercycler Gradient)を使用した。
【0139】
PCR産物の検出
1.1倍のサイバーグリーン溶液を調製した。このために、100 μlの100×サイバーグリーンストック溶液(BMA(BioWhittaker Molecular Applications)社による10,000×サイバーグリーンストック溶液から調製した)を8.9 mlの水にピペットで入れ、混合したPCR後、この溶液90 μlをそれぞれ各PCRバッチに添加し、次いで、この混合液をブラックプレート(96ウェル、グライナー(Greiner))に移した。このプレートは、蛍光測定装置(テカンGENios)により、励起波長485 nm/発光波長535 nmで測定した。
【0140】
データ分析
データ分析は、www.r-project.orgで入手できるフリーソフトウェアRプロジェクト(R Project)バージョン2.6.1で行った。
データ前処理
測定された発現シグナル(表16参照)はエクセルフォーマットで保管し、3回測定により平均化し、各マーカーに関してNTC値を差し引いた。15個の欠落値のある患者6065は、分析より排除した。それぞれの欠落値はkNNアルゴリズム(Rライブラリーpamrからの機能pamr.knnimputeを用いた)により置き換えた。平均シグナルは対数(log-2)変換した。正規化のためには、3個のハウスキーパー遺伝子の平均値を、各患者の関連マーカー遺伝子から差し引いた。
【0141】
分類
分離の質に従って遺伝子マーカーを配列するため、ウイルコクソンの順位和検定を行い、感染合併症の有無がある患者群を比較した。これに従って、p < 0.001である遺伝子をホッジ‐レーマン推定量に従って配列し、残りの遺伝子は相応のp値に従って配列した。
分類に対して、線形判別分析(Hastie et al., 2001)を用いた(計算のために、RパケットMASSにおける関数ldaを使用した)。pマーカーについての線形判別関数fLD の推定重み(w0, w1,
…, wp)は表17にまとめた。値(w1, …, wp)を持つ測定に対して、関連スコアは下記式に従って計算した。
【数1】

機能の陽性値は、感染合併症のある群への帰属という結果となり、また機能の陰性値は、感染合併症のない群への帰属という結果となった。
最初のステップで、訓練データ集合の分離可能性が単純交差検定により調べられた。次に、2つの独立したサンプルが分類され、2つの調べられた患者群(患者933及び790)のそれぞれが分類された。このために、生測定シグナルは訓練データと同様に前処理された。
【0142】
(結果)
遺伝子の配列と関連する値は図11−1と図11−2と図11−3に要約する。群間の発現差:31個の患者サンプル(敗血症と診断されたものが19、SIRSと診断されたものが12)から取り出した15個のマーカーのボックスプロットが示されている。ボックスプロットを用いて、群あたりのCt値の分布を、遺伝子ごとに示した。これらのCt値は、患者のcDNAについてのリアルタイムPCR(バイオラドIQ5)により患者サンプルごとに作成され、3つの参照遺伝子のCt値により正規化された。x軸に関して、p値とウイルコクソン順位和検定のホッジ‐レーマン推定量が示される。分類において、単純交差検定1により100%の感度と83%の特異性が得られた。これは2例の非感染性サンプルの誤分類に相当する。
【0143】
2つの独立サンプルの両方とも、正しく分類された。図12は、得られたスコア値と4領域への細分化についての概略図である。算出スコアが6.5より高い場合、95%の確率で敗血症の患者である。スコアが‐6.5未満である場合、患者が敗血症でない確率は、同様に95%である。分類結果は、このスケール上に投影された。サンプル933のスコア値は−38.7と推測され、患者は非感染性として分類され、サンプル790のスコア値は9.1と推測され、感染性として分類された。
表18aは、テカンGENiosでのサイバーグリーンによる蛍光測定の生データを含む。表18bは、独立患者サンプルの生データ並びに遺伝子名及びSeqIDへのその帰属に関する説明を示す。
【0144】
【表17】

【0145】
【表18a】

【0146】
【表18b】

【実施例4】
【0147】
病原菌の型‐グラム陽性対グラム陰性‐グラム陰性及びグラム陽性敗血症病原菌を持つ敗血症患者における異なる遺伝子発現と、診断用途のバイオマーカー候補の同定と部分的検証
マイクロアレイプラットフォーム上での全ゲノム遺伝子発現分析により、グラム陰性及びグラム陽性細菌による感染がある敗血症患者において、異なった強度で発現されるバイオマーカーが同定された。114個のマーカーの含むこのバイオマーカーリストから始まって、3つのマーカーに関して、遺伝子発現における差が定量PCRを用いて示すことができることが明らかにされた。この3つのマーカーに対して、遺伝子特異的プライマーが同定され、それらの遺伝子活性が定量PCRを用いて測定された。
【0148】
(遺伝子発現の測定)
患者群の選択
グラム陰性及びグラム陽性感染と確認(血液培養による同定)された患者群が、包括的な患者データベースより選択された。調査のために選ばれたすべての患者は、重度の敗血症又は敗血症ショックを患っていた。ほとんどの場合、敗血症は、肺炎(肺の炎症)又は気管気管支炎(気管支炎)に由来していた(表19参照)。
これらの患者は、イルミナ(Illumina)プラットフォーム(www.Illumina.com)上で、全ゲノム遺伝子発現調査において分析された。
【0149】
【表19】

【0150】
イルミナプラットフォーム上での遺伝子発現分析の実行
イルミナのサンプル調製に対して、アンビオン(Ambion、米国)の「イルミナTotalPrep RNA増幅キット」を、キットに含まれる仕様書に従って使用した。ハイブリダイゼーションの調製は、「イルミナ遺伝子発現システム」を用いて行った。
下記は、それぞれのステップについての原理的な記述である。
(1)逆転写(ファーストストランド(First strand)cDNA合成)
50〜500 ngのRNAを微小遠心管に入れ、ヌクレアーゼ‐フリー水で11 μlとする。
以下の反応ミックスをピペットに取る:
T7オリゴ(dT)プライマー(1 μl)、10×ファーストストランドバッファー(2 μl)、 dNTPミックス(4 μl)、RNaseインヒビター(1 μl)、アレイスクリプト(Array Script)(1 μl)。
9 μlの当該ミックスを、前記RNAサンプルに加え、42℃で2時間インキュベートする。T7オリゴ(dT)ヌクレオチドは、mRNAの3’末端のポリAオーバーハングに相補的に付着し、mRNAはアレイスクリプトを用いてその配列に依存することなく、cDNAに転写される。2時間のインキュベーション後、反応管を再度氷中に置く。
(2)イルミナ:セカンドストランド(Second strand)cDNA合成
以下の反応ミックスを氷上で調製する:
ヌクレアーゼ‐フリー水(63 μl)、10×セカンドストランドバッファー(10 μl)、dNTPミックス(4 μl)、DNAポリメラーゼ(2 μl)、RNase
H(1 μl)。
80 μlの当該セカンドストランドcDNA反応ミックスをサンプルに加えた後、サーモサイクラーで16℃、2時間インキュベーションする。DNAポリメラーゼによるセカンドストランド合成中、RNAは同時にRNase Hにより分解される。
(3)試験管内転写(IVT、cRNA合成用)
以下の反応ミックスを室温で調製する:
T7 10×反応バッファー(2.5 μl)、T7酵素ミックス(2.5 μl)、ビオチンNTPミックス(2.5 μl)。
当該調製されたミックスをサンプルに加え、14時間インキュベートする。T7酵素ixはT7 RNAポリメラーゼを含むが、この酵素は高度にプロモーター特異的RNAポリメラーゼであり、DNA鋳型を必要とする。逆転写に使用されるT7オリゴ(dT)ヌクレオチドはT7プロモーター配列を含むが、これがT7 RNAポリメラーゼにより認識される。ビオチン化UTPを含むcRNA鎖(= アンチセンスRNA)が合成される。従って、試験管内転写は、同時に増幅と標識ステップである。インキュベーション後、75 μlのヌクレアーゼ−フリー水を添加する。
【0151】
精製
セカンドストランドcDNA合成後、RNA、プライマー、酵素及び塩を除去する精製ステップが続く。試験管内転写後の別の精製ステップでは、酵素、塩及び非結合ヌクレオチドが除去される。
精製は、cDNA又はcRNAフィルターカートリッジによって行われ、核酸はcDNA又はcRNA結合バッファーにより前記カートリッジに結合する。洗浄バッファーの添加後、フィルターカートリッジは遠心乾固させ、核酸は、新しい反応管へRNase−フリー水により溶出させる。
【0152】
ハイブリダイゼーション
遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブについてのcRNAのハイブリダイゼーションは、支持体であるビーズチップに並べられた、いわゆるビーズアレイで行われる。必要なバッファー、溶液及びハイブリダイゼーションチャンバーは、ビーズ−チップキット(Human WG-6 BeadChip-kit、イルミナ、www.illumina.com)の形態で製造者により供給される。
1.5 μlのそれぞれのcRNAサンプルは、RNase−フリー水により10 μlとする。20 μlのGEX-HYB溶液をサンプルに添加する。200 μlのGEX-HYBでハイブリダイゼーションチャンバーの加湿バッファー容器を満たし、ビーズチップ(Human WG-6 BeadChip、イルミナ、www.illumina.com)をハイブリダイゼーションチャンバーに置く。30 μlのサンプルをアレイのサンプル穴に入れる。ハイブリダイゼーションチャンバーを注意深く閉じ、サンプルを58℃で16〜20時間インキュベートする。
【0153】
ビーズチップはE1BC洗浄溶液中に浸漬し、高温バッファー中、55℃で洗浄する。その後、室温でのE1BC溶液による洗浄ステップ、エタノール洗浄ステップ及びE1BCによる別の洗浄ステップが続く。この後、ブロッキングステップがBlock E1バッファーにより行われ、またBlock E1+ストレプトアビジン−Cy3を用いる標識ステップが行われ、ここでは、蛍光標識ストレプトアビジンがcRNA のビオチン化ヌクレオチドに結合する。洗浄はE1BCバッファーを用いてもう一度行い、その後、ビーズチップを遠心し(500 rpm、2分間)乾固させる。続いて、ビーズチップをビーズアレイリーダー(イルミナBeadstation 500、www.illumina.com)によりスキャンすることができる。
【0154】
マイクロアレイデータの評価
ビーズチップは、蛍光光度法的にビーズアレイリーダーを用いて読み取る。スキャナーは0.8 μmの分解能を有し、アレイに置かれた48687のビーズタイプのそれぞれの蛍光が、少なくとも9ピクセルで測定される。それぞれのビーズタイプは、少なくとも5×冗長性で存在する。イルミナにより提供されるプログラムBead Studio 2.0により、ビーズタイプの蛍光値は平均化され、「平均シグナル」として出力される。ヒト遺伝子転写物に対するプローブとして役立つビーズに加えて、陰性対照として振る舞うビーズタイプもある。これらの配列は、ヒトゲノムからの転写物とはハイブリダイズしない。
【0155】
これらの対照ビーズは、それぞれの平均シグナルから差し引かれるバックグラウンド信号を測定するために用いられる。さらに、各シグナルビーズタイプのp値検出のための陰性対照が決められ、真のシグナルであるのかどうか又は測定された強度がバックグラウンドに相当するものなのかどうかという情報を与える。さらなる分析のため、10のアレイの中の少なくとも1つが、0.01未満のp値検出に至るようなビーズタイプのみが使用される。
【0156】
系統的な測定誤差の補正のため、データ処理プログラムBead Studio 2.0(イルミナ ビーズステーション500の要素)により提案された三次スプラインによる正規化が選ばれた。推奨(MAQCコンソーシアム、2006年)によれば、以下の補正ステップがさらに加えられた。データは、統計ソフトウェア(http://www.r.project.org)によりさらに処理された。さらなる分析のために選ばれたビーズタイプのすべてから、最小平均シグナル値が決定される。この最小値は、それぞれの平均シグナルから差し引かれ、最小平均シグナルは値0と想定される。さらに、対数を底2にする前に、定数16が各平均シグナルに加えられる。対数にした後、最小平均シグナルは値4を得る。同時に、平均シグナルは、負の値を想定することから防がれる。
【0157】
グラム陽性サンプルとグラム陰性サンプルの発現データを比較した場合、発現値の比は「倍変化」として示される。この値は、1つのサンプル中の転写物が、どんな因子によって他のサンプル中より異なって発現されるのかを示す。対数倍変化を得るため、両群の正規化データの平均値の差を作成する。ここで、グラム陰性に比較したグラム陽性の倍変化が示される:
log2倍変化
= 平均値(正規化データ(グラム陽性))− 平均値(正規化データ(グラム陰性))
log2倍変化 = log2(グラム陽性/グラム陰性)
【0158】
図2は、理論的な倍変化を得るため、対数倍変化によって累乗されている。理論倍変化が1未満の値を想定した場合、倍変化は、理論的倍変化の陰性逆数から生じる。逆の場合、倍変化は、理論的倍変化に一致する:
理論倍変化 = 2
log2倍変化 = 2 log2(グラム陽性/グラム陰性)= グラム陽性/グラム陰性、
倍変化:理論的倍変化 < 1 であれば、倍変化 = −1/理論倍変化、そうでなければ、
倍変化 = 理論倍変化。
【0159】
陽性倍変化は、対応する遺伝子が、グラム陰性感染の場合よりグラム陽性感染の場合の方がより強く発現することを意味している。
それぞれのビーズタイプに対し、さらに、t-検定及びウイルコクソン検定に関するp値が計算される。検定の帰無仮説が正しいという前提のもと、p値は、偶然に生じた測定値の確率を示す。この確率が所定の限界より小さい場合、差は無作為ではないと見なされる。
【0160】
表20には、同定されたバイオマーカーが示される:
【0161】
【表20】






【0162】
このリストからの3個のマーカーの遺伝子活性が、異なる方法によりデータを再現するため、同一の患者のcDNAに関して、定量PCRを用いて測定された。
3個のマーカーと、リアルタイムPCRによる定量のための代表的なプライマーペアを表21に示す。さらに、相対的定量のため、それぞれの組織において発現が一定している、いわゆる参照遺伝子を用いる。この実験に使用された参照遺伝子も示している。
【0163】
【表21】

【0164】
(実験の実行)
血液の採取とRNAの単離
患者の全血は、PAXGeneキットを用いて製造者(キアゲン)の仕様書に従い、集中治療室で採取した。全血採取後、PAXGene血液RNAキットを用いて製造者(キアゲン)の仕様書に従い、サンプルのトータルRNAを単離した。
逆転写
各患者サンプルからの300 ngのトータルRNAを、20 μlのバッチ中で、逆転写酵素スーパースクリプトII(インビトロジェン)により、相補的DNA(cDNA)に転写した。次にRNAを、アルカリ加水分解によりバッチより除去した。続いて反応バッチを、マイクロコンカラムを用いて精製した。
【0165】
リアルタイムPCR
インビトロジェン社のプラチナサイバーグリーン定量PCRスーパーミックス‐UDGキットを用いた。10 μlバッチに対し、下記の成分をピペットで入れた:
5 μl プラチナサイバーグリーン定量PCRスーパーミックス‐UDG、2×
1 μl フォワードプライマー(10 pmol/μl)
1 μl リバースプライマー(10 pmol/μl)
1 μl フルオレセイン(0.5μM)
1 μl RNase−フリー水
1 μl 鋳型cDNA(6.67 ng/μl)
【0166】
次のPCRプログラムは下記のように構成した:
50℃ 2分間(ウラシル−DNAグリコシラーゼとインキュベーション)
95℃ 2分間(ポリメラーゼの活性化)
95℃ 10秒間(変性)
55℃ 15秒間(アニーリング)
(変性、アニーリング及び伸長のステップは40回繰り返し)
72℃ 20秒間(伸長)
50℃〜95℃ 10秒間(41回繰り返し)
(融解曲線の作成、各ステップ後、初期温度は1℃ずつ増加する)
関連する評価ソフトウェアを付帯するバイオラド社のiQ(登録商標)5マルチカラーリアルタイムPCR検出システムを用いた。
【0167】
(結果)
リアルタイムPCRのCt値は、Vandesompeleの方法(Vandesompele et al., (2002) Genome Biology 3, research0034.1-0034.11)に準じて正規化した。Vandesompeleの正規化に関して、最初は、各標的に対して相対量Rを計算する(関心のある遺伝子及び参照遺伝子):
R = E min(Ct)−Ct
効率Eに対して、理想的な値2を挿入する。効率は、すべての遺伝子サンプル及びそれぞれの患者サンプルからの最小のCt値との差を乗ずる。正規化因子NFは、参照遺伝子(Ref)の相対量Rの幾何平均を用いて計算する:
【数2】

正規化因子に対して、3つの参照遺伝子の積から3乗根が取り出される。正規化データ得るため、相対量Rの商と正規化因子が作成される:
【数3】

【0168】
この関係において、図13は、グラム陽性及びグラム陰性感染のある敗血症患者について、遺伝子CDKN1Cの異なる発現を示す。ボックスプロットにより、5名の患者のそれぞれについて平均正規化Ct値が示されている。これらの値は、患者cDNAについて、リアルタイムPCRにより測定された。
図14は、グラム陽性及びグラム陰性感染のある敗血症患者について、遺伝子CTSLの異なる発現を示す。ボックスプロットにより、5名の患者のそれぞれについて平均正規化Ct値が示されている。これらの値は、患者cDNAについて、リアルタイムPCRにより測定された。
図15は、グラム陽性及びグラム陰性感染のある敗血症患者について、遺伝子METTL7Bの異なる発現を示す。ボックスプロットにより、5名の患者のそれぞれについて平均正規化Ct値が示されている。これらの値は、患者cDNAについて、リアルタイムPCRにより測定された。
表22は、マーカーCDKN1C(SeqID 104)に対する定量PCR分析からの生データ(Ct値、3通りからの平均値)を示す。
表23は、マーカーCDKN1C(SeqID 104)に対する定量PCR分析から、Vandesompele(Vandesompele et al., 2002)に従って正規化した生データを含む。
表24は、マーカーCTSL(SeqID 149)に対する定量PCR分析からの生データ(Ct値、3通りからの平均値)を含む。
表25は、マーカーCTSL(SeqID 149)に対する定量PCR分析から、Vandesompele(Vandesompele et al., 2002)に従って正規化した生データを示す。
表26は、マーカーMETTL7B(SeqID 145)に対する定量PCR分析からの生データ(Ct値、3通りからの平均値)を含む。
表27は、マーカーMETTL7B(SeqID 145)に対する定量PCR分析から、Vandesompele(Vandesompele et al., 2002)に従って正規化した生データを示す。
【0169】
【表22】

【0170】
【表23】

【0171】
【表24】

【0172】
【表25】

【0173】
【表26】

【0174】
【表27】

【0175】
結果の有意性
続いて、結果が有意であるかどうかを、ウイルコクソン検定により調べた。提案された帰無仮説では、遺伝子発現に関して2つの群には有意な差はないことが示された。帰無仮説は、3つの標的すべてについて誤りであることが証明された。従って、CDKN1C(SeqID 104)、CTSL(SeqID 149)及びMETTL7B(SeqID
145)の発現に関して、グラム陽性敗血症とグラム陰性敗血症の間の差は偶然ではないことについて、95%の確率がある。
【0176】
倍変化
多くの数の値について、x倍変化を相互に比較するため、まず、各群の幾何平均をVandesompeleに準じて正規化した値から作成した。遺伝子発現の倍変化またはx倍変化は、Vandesompeleに準じて正規化した、比較すべき群のCt値の商から計算される。PCRの効率は、正規化の中の計算において既に含まれており、この段階では排除する。
患者の倍変化は下記のようにして計算する:
【数4】

PCR分析では、3つの調べられた標的すべてが、マイクロアレイ評価の場合と同じ傾向で倍変化(グラム陽性対グラム陰性)を示した。ここで、イルミナを用いて大きな倍変化が得られた標的METTL7Bは、PCR分析においても最高値を取ることは明白である。
【0177】
表28は、病院の責任で検証され、分析に含まれた患者の医学パラメータを示す。
【0178】
【表28】


【実施例5】
【0179】
非コードRNA−リアルタイムPCRによる、SIRS患者と敗血症患者におけるタンパク質コード機能のない転写物(いわゆる非コードRNA)の異なる遺伝子発現
(遺伝子発現の測定)
肺炎のある患者5名を敗血症の代表例として選び、SIRSの場合、深刻な心臓手術(心肺バイパス術、CPB)を受けた患者5名を、集中治療室におけるSIRS患者の大多数であるとして選択した。患者は、イエナ大学病院の医師団により、診断が後ろ向きに検証された。
トータルRNAは患者の血液より単離され、cDNAに転写された。cDNAは、分析において鋳型として使用した。
【0180】
【表29】

【0181】
SeqID 207(登録番号、AA868082)を持つ非コードRNAに対するマーカーは、上記に示されたバイオマーカーのリストの一部である。
表30は、SeqID
207を持つ非コードマーカーの、リアルタイムPCRにおける増幅用プライマーペアの例を示す。患者10名(敗血症患者5名、SIRS患者5名)が調べられた。
【0182】
【表30】

【0183】
(実験の実行)
血液の採取とRNAの単離
患者の全血は、PAXGeneキットを用いて製造者(キアゲン)の仕様書に従い、集中治療室で採取し、そのRNAを単離した。
逆転写
各患者サンプルからの4 μgのトータルRNAを、20 μlのバッチ(10 mM dNTP混合液及び2 μMの遺伝子特異的プライマー(SeqID 207))中で、逆転写酵素スーパースクリプトII(インビトロジェン)により相補的DNA(cDNA)に転写し、続いてRNAを、アルカリ加水分解によりバッチより除去した。反応バッチはマイクロコンカラムにより精製した;溶出されたcDNAはスピードバック(SpeedVac)で乾固させ、次に、50 μlの水を加えた。
【0184】
リアルタイムPCR
インビトロジェン社のプラチナサイバーグリーン定量PCRスーパーミックス‐UDGキットを用いた。患者のcDNAは、水で1:100に希釈し、このそれぞれ2 μlをPCRに用いた。すべてのバッチは、ピペットで3通りにして加えた。
PCRバッチプロウェル(10 μl)
2μl 鋳型cDNA、1:100希釈
1μl フォワードプライマー、10 mM
1μl リバースプライマー、10 mM
1μl フルオレセイン、参照色素
5μl プラチナサイバーグリーン定量PCRスーパーミックス‐UDG、2×
鋳型のないマスターミックスを調製し、PCRプレートに8 μlの一定分量を順次添加し、これらのそれぞれに患者のcDNAをピペットで添加した。
次のPCRプログラムは下記のように構成した:
50℃ 2分間(ウラシル−DNAグリコシラーゼとインキュベーション)
95℃ 2分間(ポリメラーゼの活性化)
95℃ 10秒間(変性)
55℃ 15秒間(アニーリング)
72℃ 20秒間(伸長)
(変性、アニーリング及び伸長のステップは40回繰り返し)
50℃〜95℃ 10秒間(41回繰り返し)
(融解曲線の作成、各ステップ後、初期温度は1℃ずつ増加する)
関連する評価ソフトウェアを付帯するバイオラド社のiQ(登録商標)5マルチカラーリアルタイムPCR検出システムを用いた。
【0185】
(結果)
リアルタイム分析により測定した発現シグナルは、エクセルフォーマットで保管し、3回測定により平均化した。結果は下記の表31に示す。
【0186】
【表31】

【0187】
図16は、10名の患者サンプル(5名は敗血症と診断、5名はSIRSと診断)から作成された、SeqID 207を持つ非コードマーカーに対するボックスプロットを示す。y軸に関して、リアルタイム増幅中の平均Ct値を示す。敗血症患者とSIRS患者の明確な分離が認められる。
次の表32は、配列プロトコール番号及びそれぞれのポリヌクレオチドと、公衆が利用できる登録番号との間の関係を規定する。
【0188】
【表32】









【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIRS、敗血症、及びこれらの重症度;敗血症型疾患;敗血症ショック;感染/非感染性多臓器不全;敗血症における生存確率;感染病巣;特定の治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダー;病態生理学的症状の原因、特にグラム陽性細菌及び/又はグラム陰性細菌による感染の分類からなる群より選ばれる病態生理学的症状の体外検出及び/若しくは識別並びに/又は進行観察方法であって、下記のステップを含む方法:
(a)患者由来の試料からサンプル核酸の単離、
(b)患者の病態生理学的症状の検出及び/若しくは区別並びに/又は進行に特有の少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを形成するため、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群より選ばれる複数のポリヌクレオチドを用いた遺伝子活性の測定、
(c)少なくとも1つの内部参照遺伝子の遺伝子活性を測定することによる、(b)に基づいて測定された遺伝子活性の関連付け、特に正規化、
(d)それぞれの測定され標準化された多重遺伝子バイオマーカーの遺伝子活性から、病態生理学的症状を表示する指標値の作成。
【請求項2】
少なくとも1つの参照遺伝子はハウスキーピング遺伝子であり、具体的には、SEQ ID NO: 676〜SEQ ID NO: 686及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群のポリヌクレオチドより選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遺伝子発現プロファイルの検出のために遺伝子座、mRNA前駆体及び/若しくはmRNAのセンス及び/若しくはアンチセンス、低分子RNA、特に細胞質低分子RNA(scRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、マイクロRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、非翻訳RNA(ncRNA)又は転位因子がポリヌクレオチド配列として使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
患者に病態生理学的症状が存在するのかどうかの評価、並びに/又は病態生理学的症状の重症度及び/若しくは進行度の測定を助けるものとしての多重測定法を作り出すため、少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを形成するための、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群より選ばれる複数のポリヌクレオチドの使用。
【請求項5】
多重遺伝子バイオマーカーはいくつかのポリヌクレオチド配列、具体的には遺伝子配列の組み合わせであり、その遺伝子活性は、解釈機能を用いて、指標又はスコアの分類及び/又は形成を行うのに使用されることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
酵素的方法、具体的には増幅方法、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、さらに好ましくはリアルタイムPCRにより、及び/又はハイブリダイゼーション、具体的にはマイクロアレイ上でのハイブリダイゼーションにより、遺伝子活性が検出されることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の使用。
【請求項7】
それぞれの測定された遺伝子活性から、対応するキャリブレーション後に通常は指標が形成されるが、この指標は、病態生理学的症状、特に敗血症又は敗血症型疾患の重症度及び/又は進行度の評価基準であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
この指標は、解釈を容易にするため目盛り上に表示されることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
得られた遺伝子活性データは、少なくとも1つの病態生理学的症状及び/若しくは診断上の課題を記述するため、並びに/又は診断目的及び/若しくは患者データ管理システムを助けるものとして、ソフトウェアを作成することに使用されることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
遺伝子活性データを提示するため、特定の遺伝子座、mRNA前駆体及び/若しくはmRNAのセンス及び/若しくはアンチセンス、低分子RNA、特にscRNA、snoRNA、マイクロRNA、siRNA、dsRNA、ncRNA又は転位因子、遺伝子及び/若しくは遺伝子断片であって、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 669のポリヌクレオチド配列と少なくとも約10%、特には約20%、好ましくは約50%、特に好ましくは約80%の配列相同性を示すものが有利に使用されることを特徴とする請求項4〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
ある病態生理学的症状が患者に存在するかどうかを評価するための測定を行うため、並びに/又は病態生理学的症状の重症度及び/若しくは進行度を測定するため、SEQ ID NO: 1〜SEQ ID NO: 152及び/若しくはそれらの遺伝子座並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片からなる群より選ばれる少なくとも1つのポリヌクレオチドの使用。
【請求項12】
病態生理学的症状は、好ましくは、SIRS、敗血症及びこれらの重症度;敗血症型疾患;敗血症ショック;感染/非感染多臓器不全;局所/全身感染;病態生理学的症状、特に敗血症の改善/悪化、特定の治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダー;感染病巣;病態生理学的症状の原因、特にグラム陽性及び/又はグラム陰性による分類からなる群より選ばれることを特徴とする請求項4〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
サンプルである核酸は、RNA、具体的には全RNA若しくはmRNA、又はDNA、具体的には相補DNA(cDNA)であることが好ましいことを特徴とする請求項4〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
SEQ ID
NO: 1〜SEQ ID NO: 669のプール及び/若しくはそれらの遺伝子座、並びに/又はそれらの転写物及び/若しくはその断片、並びに/又はこれらに対するプライマー及び/若しくはプローブ並びに/又はアンチセンスヌクレオチド、SIRS、敗血症、及びこれらの重症度;敗血症型疾患;敗血症ショック;感染/非感染性多臓器不全;敗血症における生存確率;局所/全身性感染;特定の治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダー;感染病巣;病態生理学的症状の原因、特にグラム陽性細菌又はグラム陰性細菌による感染の分類からなる群より選ばれる1つ及び網羅的な疾患のうちの、患者の病態生理学的症状に特異的な多重遺伝子バイオマーカーから選ばれる、複数のポリヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの多重遺伝子バイオマーカーを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項15】
前記キットのポリヌクレオチド配列は、好ましくは、遺伝子座、mRNA前駆体及び/若しくはmRNAのセンス及び/若しくはアンチセンス鎖、低分子RNA、特にscRNA、snoRNA、マイクロRNA、siRNA、dsRNA、ncRNA又は転位因子を含むことを特徴とする請求項14に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2011−517401(P2011−517401A)
【公表日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500171(P2011−500171)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053042
【国際公開番号】WO2009/115478
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(507123305)エスアイアールエス‐ラブ ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】