説明

症例データベースシステム

【課題】実在の患者の特定を回避して該患者の臨床的に意味のある情報を利用できるようにした症例データベースシステムの提供。
【解決手段】実在の患者の医療的に意味のある情報を含むデータが格納される症例データベースと、インターネットを介して症例データベースに格納される前記情報を参照する端末とを備えた症例データベースシステムにおいて、
前記端末は、少なくとも患者IDを含む前記患者の個人情報からその個人とは特定できない非特定情報へ実質的に非可逆に変換する手段を備え、
前記症例データベースは前記変換手段によって変換された非特定情報に対する症例を格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインターネットに接続されて用いられる症例データベースシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
このような症例データベースシステムは、インターネットを介して医療的に意味のある情報を含むデータが格納される症例データベースを備え、該インターネットを介して症例データベースに格納される前記情報を利用できるようになっている。
【0003】
診療にあっては、医用画像、臨床検査情報、あるいは既往歴等に基づいた総合的な判断によって診断を行う必要がある。そして、その診断の際に、その支援情報として過去の典型的な症例が有効となることはいうまでもない。また、一方、医師の教育、医療の研究において、画像検査の典型的な症例を扱うことも極めて有効となる。
【0004】
このことから、前記症例データベースに格納される情報としては、過去の典型的な症例の画像や所見を纏めたティチングファイルあるいは実際のカルテが利用されている。
【0005】
このように、診断の際の参考として過去のレポート等からなる診断情報を利用する技術として下記特許文献1あるいは特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2002−63280号公報
【特許文献2】特開平5−101122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した症例データベースシステムにあっては次に示す不都合があることを否めない。
【0007】
まず、利用する情報としてテーチングファイルの場合、それは典型的な画像とその所見を主として教科書的に収集したものであることから、総合的な臨床経過を認識し得ないという不都合がある。
【0008】
また、利用する情報としてレポートあるいは画像の場合、その臨床情報から患者個人を特定する情報を削除することで作成している。このため、データの更新に対応できないことはもちろんのこと、それが理由となって、診断がある程度まとまってからでないと、症例の追加ができないという不都合がある。
【0009】
さらに、近年における個人情報保護法の施行、あるいはプライバシー意識の高まりに応じ、情報漏洩に対するセキュリティの向上の要求が充分に満足されていない不都合がある。
【0010】
本発明の目的は、実在の患者の特定を回避して該患者の臨床的に意味のある情報を利用できるようにした症例データベースシステムを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、実在の患者の臨床的に意味のある情報の更新にともなって、該患者の特性を回避して更新された情報を利用できるようにした症例データベースシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0013】
(1)本発明による症例データベースシステムは、たとえば、実在の患者の医療的に意味のある情報を含むデータが格納される症例データベースと、インターネットを介して症例データベースに格納される前記情報を参照する端末とを備えた症例データベースシステムにおいて、
前記端末は、少なくとも患者IDを含む前記患者の個人情報からその個人とは特定できない非特定情報へ実質的に非可逆に変換する手段を備え、
前記症例データベースは前記変換手段によって変換された非特定情報に対する症例を格納することを特徴とする。
【0014】
(2)本発明による症例データベースシステムは、たとえば、(1)の構成を前提とし、実在の患者の医療的に意味のある情報に更新があった場合、それを検知して前記患者情報変換手段に更新情報を送信する診療更新情報送信手段を備えることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明は以上の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した症例データベースシステムによれば、実在の患者の特定を回避して該患者の臨床的に意味のある情報を利用できるようになる。
【0017】
このように構成した症例データベースシステムによれば、実在の患者の臨床的に意味のある情報の更新にともなって、該患者の特性を回避して更新された情報を利用できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明による症例データベースシステムの実施例を図面を用いて説明をする。
【0019】
図1(a)は、本発明による症例データベースシステムの一実施例を示す構成図で、該症例データベースシステムをたとえば院内ネットワークに適用させた場合を示す説明図である。
【0020】
図1(a)において、まず、実在の患者の医療情報を扱った電子カルテ(またはHIS/RIS)等の患者情報および診療情報を保持する電子カルテサーバ1、診断画像等を保持するサーバであるPACS2、たとえばX線撮影装置等の画像診断機器からなるモダリティ3、画像を読影する読影レポーティングシステム4、そして臨床検査システム5があり、これらは院内ネットワーク6を介して相互に情報のやり取りがなされるようになっている。
【0021】
また、この実施例では、該院内ネットワーク6に患者情報変換手段7を介して仮想患者カルテサーバ8が接続されている。
【0022】
該仮想患者カルテサーバ8は、たとえば前記読影レポーティングシステム4からの実在する患者の読影レポートを、前記患者情報変換手段7によって、少なくとも、該患者IDを変更しさらに該患者名を削除した状態で、管理するように構成されている。なお、前記患者情報変換手段7は、院内ネットワーク6上のゲートウェイとして機能し、前記読影レポートの患者情報を、該読影レポートが生成されるたび毎にリアルタイムに変換するようになっている。
【0023】
これによって、該仮想患者カルテサーバ8には、実在の患者とは関連づけることのできない患者、すなわち実在することのない患者(以下、この明細書では仮想患者と称する)として、その患者情報を管理するようになっている。
【0024】
そして、この実施例では、患者IDの変更は、該患者IDをたとえばハッシュ関数を用いて一意なハッシュ値に置き換えることによって行われている。すなわち、前記仮想患者カルテサーバ8における症例データベース9に格納される患者情報を特定するための仮想患者IDとして前記ハッシュ値がそのまま使用されることになる
ここで、ハッシュ関数とはドキュメントや数字などの文字列の羅列から一定長のデータに要約するための関数・手順をいい、ハッシュ値とは該ハッシュ関数を通して出力される値をいう。ハッシュ関数はいわゆる一方向関数と称され、生成データから原文を推定すことは不可能とされ、仮想電子カルテ側からの実在患者の医療情報は参照できない状態となる。
【0025】
図1(a)に示すように、患者情報変換手段7の入力前における前記読影レポート10において、たとえば、その患者IDは「0471314151」、患者名は「日立めぢ子」であり、所見および診断名等が示される情報とともに、これら所見および診断名の根拠となるX線撮影像等が含まれている。
【0026】
これに対し、該患者情報変換手段7から出力された読影レポート11にあっては、所見および診断名等が示される情報およびX線撮影像等は前記読影レポートの内容と同一となっているが、その患者IDは「302c……6016」、患者名は削除されたものとなっている。ここで、前記「302c……6016」はハッシュ値である。
【0027】
すなわち、変更部のみを取り出して示した図1(b)に示すように、患者ID「0471314151」、患者名「日立めぢ子」が、それぞれ、患者ID「302c……6010」、患者名「NULL(無)」と変更されている。
【0028】
なお、前記「302c……6010」に示すハッシュ値の正確な標記は図2(b)に示す通りである。
【0029】
図2は、実在患者の電子カルテに属する患者情報あるいは読影レポートを仮想患者の電子カルテ上に登録する場合の例を詳細に示した説明図である。
【0030】
図2において、まず、実在患者の電子カルテの内容は、図中右側に示しており、その患者情報として、患者のID:xxxxxが、患者名:AAが記されている。そして、該患者の読影レポートのステータスが、一次読影、二次読影と進むにつれて診断名が「肺がんをうたがう」から「肺がん」に変化している。すなわち、一次読影における読影レポートには、患者のID:xxxxxが、診断名として「肺がんをうたがう」が記されており、また、二次読影における読影レポートには、患者のID:xxxxxが、診断名として「肺がん」が記されている。
【0031】
患者情報変換手段による変換の内容は、図中真中に示しており、前記患者情報において、そのIDをxxxxxからzzzzzzへ変換させ、患者名AAを削除している。また、一次読影における読影レポートおよび二次読影における読影レポートにおける各IDをxxxxxからzzzzzzへ変換させている。
【0032】
仮想患者の電子カルテの内容は、図中左側に示しており、その登録された患者情報として、患者のID:zzzzzzが記され、患者名は記されていないようになっている。登録された一次読影における読影レポートには、患者のID:zzzzzzが、診断名として「肺がんをうたがう」が記されており、また、登録された二次読影における読影レポートには、患者のID:zzzzzzが、診断名として「肺がん」が記されている。
【0033】
なお、仮想患者の電子カルテ上では、それぞれの読影レポートをそのまま関連付けて登録できるので、仮想患者の電子カルテがリアルタイムに更新できるようになっている。これにより、前記X線撮影像等の診療情報をそのつど最新の情報に更新できるため、診断に誤りがあった場合でも速やかに対応ができるとともに、情報の信頼性を向上させることができる。
【0034】
さらに、従前にあって、診断が固まってからでないとその情報を症例データベースに登録できなかったが、上述したようにリアルタイムで更新ができるようになることから、たとえば全ての実在患者の診療情報を前記症例データベース9に登録することができるようになる。
【0035】
図3(a)は、実在患者情報に示される各情報のうち仮想患者情報において変更される情報を示した説明図である。
【0036】
図3(a)において、実在患者情報31は、図中右側に示しており、その情報項目としては、実在患者(xxxxx)、性別(女性)、生年月日(1966年10月15日生)、主訴(胃が痛い。重い。下痢と便秘が繰り返す)、既往歴(胃潰瘍:22歳、結核:25歳、脂肪肝:35歳〜現在、片頭痛:18歳〜現在)、家族歴(祖父(父方):死亡(81歳)・脳出血、祖母(父方):死亡(90歳)・胃がん、祖父(母方):死亡(45歳)・事故、祖母(母方):死亡(63歳)・肺がん、父:死亡(62歳)・胃がん、母:74歳・高血圧、兄:45歳・脂肪肝)、喫煙傾向(なし)、飲酒傾向(有(1合/日))、アレルギー(花粉症)等が揚げられている。
【0037】
これに対し、仮想患者情報32は、図中左側に示しており、変更した情報項目は、仮想患者(zzzzzz)、生年月日(1966年4月1日生)、家族歴のうち各人の年齢部分となっており、他はそのままとなっている。
【0038】
患者のIDの他に生年月日および家族歴のうち各人の年齢を変更しているのは、これらの事項が実在患者をある程度推定される可能性を有するからである。このため、生年月日のうち月日に当たる情報をたとえば予め設定している日付に置き換えて該情報をぼかしている。また、同様に、家族歴の家族の年齢も個人を特定できないようにぼかしている。
【0039】
そして、実在患者情報31が変更されることなくそのまま仮想患者情報32とした項目は、上述した不都合がなく、むしろ症例データベースとして臨床的に意味ある情報でありそのまま仮想患者のカルテに反映させるようにしている。
【0040】
なお、上述したように特定された項目の内容の変更は、図3(b)に示すように、患者のデータ構成を示すマスタ33を前記患者情報変換手段7に備えさせ、このマスタ33の項目(たとえば生年月日等)毎に、実在患者情報をそのまま移行させるか、あるいは変更させるかを定義させることによって行っている。
【0041】
図4は、実在患者の電子カルテから診療情報更新を検出し、その更新のあった情報の項目を前記患者変換手段に送信する手段の一実施例を示した構成図である。
【0042】
図4において、まず、前記モダリティ3あるいは読影レポーティングシステム4等から情報が入力される診療更新情報送信手段40を備え、この診療更新情報送信手段40からの情報は前記患者情報変換手段7に出力されるようになっている。
【0043】
該診療更新情報送信手段40には、前記モダリティ3あるいは読影レポーティングシステム4等からの情報を登録する診療情報登録手段41を有する。一方、診療情報更新検出手段42を備え、この診療情報更新検出手段42は、前記診療情報登録手段41の登録内容を監視するとともに診療情報更新を検出するようになっている。また、診療情報送信手段43を備え、この診療情報送信手段43は、該診療情報更新検出手段42が前記診療情報登録手段41における診療情報更新をした場合に該診療情報更新検出手段42から送信指示が与えられ、これにより、更新のあった情報の項目を前記診療情報登録手段41から取得し、さらに前記患者情報変換手段7に送信するようになっている。そして、患者情報変換手段7は、仮想患者の電子カルテにおいて該当する項目を更新させるように動作するようになっている。
【0044】
上述したように、患者情報変換手段7は、院内ネットワーク6上のゲートウェイとして機能し、実在の患者の電子カルテ上の情報はたとえば読影レポートの生成のたび毎にリアルタイムに変換されるとともに、仮想患者の電子カルテ上の情報もリアルタイムに変換させることができる。
【0045】
図5は、上述した症例データベース9を施設外に設置し、該症例出データベース9を複数の施設で共有できる場合の構成の一実施例を示した構成図である。
【0046】
図5において、まず、インターネット6Aを介して、症例データベース9、施設A、施設B、施設Cとの間で相互の通信ができるようになっている。前記施設Aにはその施設A用のカルテ50Aが登録されその更新は患者情報変化手段7Aを介して送信されるようになっている。前記施設Bにはその施設B用のカルテ50Bが登録されその更新は患者情報変化手段7Bを介して送信されるようになっている。前記施設Cにはその施設C用のカルテ50Cが登録されその更新は患者情報変化手段7Cを介して送信されるようになっている。
【0047】
この場合、実在の患者の患者IDは施設名(たとえば施設A)と該施設内のIDを少なくとも含むように設定し、この患者IDをハッシュ関数によって得られるハッシュ値を仮想の患者の患者IDとするようにしている。
【0048】
通常、患者IDは施設毎にユニークであり、患者情報を共有する場合、該患者IDの衝突が発生してしまう場合があるが、上述のように、施設名を含む患者IDを構成することによって、このような不都合を解消することができる。
【0049】
上述した実施例では、実在の患者の患者IDの変更はたとえばハッシュ関数を用いて一意なハッシュ値に置き換えることによって行われたものである。しかし、必ずしもこの関数を用いて行うことに限定されることはない。他の関数を用いたとしてもセキリュティが確保されれば本発明の目的が達成できるからである。
【0050】
上述した各実施例はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施例での効果を単独であるいは相乗して奏することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による症例データベースシステムの一実施例を示す構成図である。
【図2】本発明において、実在患者の電子カルテに属する患者情報あるいは読影レポートを仮想患者の電子カルテ上に登録する場合の例を詳細に示した説明図である。
【図3】本発明において、実在患者情報に示される各情報のうち仮想患者情報において変更される情報を示した説明図である。
【図4】本発明において、実在患者の電子カルテから診療情報更新を検出し、その更新のあった情報の項目を前記患者変換手段に送信する手段の一実施例を示した構成図である。
【図5】本発明において、症例データベースを施設外に設置し、該症例出データベースを複数の施設で共有できる場合の構成の一実施例を示した構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1……電子カルテサーバ、2……PACS、3……モダリティ、4……読影レポーティングシステム、5……臨床検査システム、6……院内ネットワーク、6A……インターネット、7、7A、7B、7C……患者情報変換手段、8……仮想患者カルテサーバ、9……症例データベース、31……実在患者情報、32……仮想患者情報、33……マスタ、40……診療更新情報送信手段、41……診療情報登録手段、42……診療情報更新検出手段、43……診療情報送信手段、50A……施設Aカルテ、50B……施設Bカルテ、50C……施設Cカルテ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実在の患者の医療的に意味のある情報を含むデータが格納される症例データベースと、インターネットを介して症例データベースに格納される前記情報を参照する端末とを備えた症例データベースシステムにおいて、
前記端末は、少なくとも患者IDを含む前記患者の個人情報からその個人とは特定できない非特定情報へ実質的に非可逆に変換する手段を備え、
前記症例データベースは前記変換手段によって変換された非特定情報に対する症例を格納することを特徴とする症例データベースシステム。
【請求項2】
実在の患者の医療的に意味のある情報に更新があった場合、それを検知して前記患者情報変換手段に更新情報を送信する診療更新情報送信手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の症例データベースシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−108021(P2008−108021A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289477(P2006−289477)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】