説明

癌の処置のための化合物および方法

本発明は、a)少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びにb)少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター、並びに場合により薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の処置または予防に使用するために、特に急性骨髄性白血病(AML)の処置または予防に使用するために適した化合物および医薬組成物に関する。
【0002】
発明の背景
急性骨髄性白血病(AML)は、未分化骨髄芽球の無制限な増殖を引き起こす、前駆細胞の突然変異を起源とする不均一な悪性疾患である。AMLは、成人に罹患する最も一般的な急性白血病であり、そしてその発症率は年齢と共に増加する。AMLは比較的稀な疾病であり、米国における癌死亡の約1.2%を占めるが(Jemal et al. (2002) CA Cancer J Clin 52(1):23-47)、その発症率は人口の高齢化に従って増加すると予期される。
【0003】
AML患者では、骨髄は通常、芽球細胞によって高度に浸潤され、その結果、赤血球、血小板および正常な白血球は減少する。AMLの症状としては、疲労、息切れ、容易に挫傷しそして容易に出血すること、および感染リスクの増加が挙げられる。AMLについてのいくつかのリスクファクターが同定されているが、AMLの具体的原因は依然として不明である。AMLは急速に進行し、そして典型的には処置せず放置すれば数週間または数カ月以内に死に至る。AMLの白血病誘発は多段階イベントとして起こる(Gilliland et al. (2004) Hematology Am Soc Hematol Educ Program 80-97)。これらのイベントは2つの群に分類される:第1群は、造血前駆細胞に増殖および/または生存の利点を付与する遺伝子的変化に関わる(例えばRAS、FLT3またはc−KITの突然変異)。第2は、血球分化に影響を及ぼす、最も頻繁には染色体転座によってしかしまた点突然変異(例えばCEBPα、NPM1)によっても誘発される、転写因子(または転写コアクチベーター)の変化に関わる。
【0004】
AMLの処置は、主に、従来の化学療法からなり、そしてもし患者の大半が最初の治療誘導後に寛解しても、彼らの大半は再発する。疾病を伴わない長期の生存を確実にするために設計された、寛解後の処置としては、自己幹細胞救出を伴う高用量化学療法、または同種骨髄移植(BMT)が挙げられる。しかしながら、AML患者の大半を構成する高齢患者はBMTに適格ではない。積極的な治療にも関わらず、患者の僅か20〜30%のみしか、無病生存を長期に享受できない。従って、他の治療法が必要とされる。
【0005】
鉄は、エネルギー代謝および細胞増殖に関与する多くの重要な細胞酵素のための補因子として必要とされ、従って、これは全ての生細胞にとって必須である。種々の研究により、腫瘍細胞がトランスフェリンレセプター(TfR1/CD71)を強く発現し、そして非腫瘍細胞よりも鉄欠乏に対してより感受性が高いことが示された(Faulk et al. (1980) Lancet 2(1):390-92)。
【0006】
本発明者らは、以前に、TfR1のレセプターが細胞表面上に高度に発現されている場合に、このレセプターに強く結合するモノクローナル抗体(A24)を特徴付けた。A24の結合は、リソソーム区画(ここで分解される)へのレセプターの内部移行およびまた鉄欠乏による細胞アポトーシスを誘導する(Moura et al. (2004) Blood 103(5):1838-45, Lepelletier et al. (2007) Cancer Res 67(3):1145-54)。A24は、腫瘍細胞の増殖を特異的に減少させることが示されたが、正常細胞に対してはそうではない。いくつかの研究により、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)およびマンテル細胞リンパ腫(MCL)において白血病/リンパ腫細胞を根絶するA24の効力が示された(Moura et al. (2004) Blood 103(5):1838-45, Lepelletier et al. (2007) Cancer Res 67(3):1145-54)。
【0007】
他の研究により近年、鉄キレート剤もまた、in vitroおよびin vivoにおいて抗増殖特性を有することが実証された。種々の鉄キレート剤の効力が、ヌードマウスにおけるヒト異種移植片において示された(Whitnall et al. (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103(40):14901-6)。
【0008】
ビタミンD3(VD)の抗増殖作用、分化作用およびアポトーシス促進作用が、正常または病的な上皮組織において示された。VDはステロイドスーパーファミリーに属する。VDはその同族レセプター(VDR)と会合して、レチノイドXレセプター(RXR)を有するヘテロ二量体を形成する。その後、この複合体はVD応答エレメント(VDRE)と結合し、それにより遺伝子転写の変化を誘導する。VDはまたMAPキナーゼ(MAPK)経路を活性化して、細胞分化に関与する遺伝子の転写をモデュレーションする。
【0009】
in vitroにおいてVDは、頭部癌、頸部癌、前立腺癌または大腸癌に由来する細胞系譜における、本来の分化細胞に関連した遺伝子の発現を促進する(Akutsu et al (2001) Mol Endocrinol 15(7) :1127-39, Palmer et al. (2003) Cancer Res 63(22) :7799-806)。
【0010】
in vitroにおいて、カルシトリオール(活性型ビタミンD3)は、扁平上皮癌および前立腺腺癌において抗増殖活性を示し、そして古典的な化学療法剤の抗腫瘍活性を増強する(Hershberger et al. (2001) Clin Cancer Res 7(4):1043-51)。
【0011】
前立腺癌において、高用量のカルシトリオールの併用または併用なしで広く使用されている化学療法剤(ドセタキセル)の使用を比較した前向き無作為試験において、患者の生存率はVD/ドセタキセル治療群において増加することが判明した(Beer et al. (2007) J Clin Oncol 25(6):669-74)。しかしながら、ビタミンD3に対する応答は反復処置後に急速に低下し、従って、その効果は期間が限定的である。
【0012】
最後に、何人かの著者は、in vitroにおいて分化剤としてのビタミンD3の効力を示し、そしてAML処置におけるその使用が提案されている(Makashima et al. (1998) Br J Cancer 77(1):33-9)。化学療法(アラシチンまたは6−チオグアニン)と分化剤(ビタミンDおよびレチノイン酸)の併用を26名の患者で1回評価し、50%の寛解が可能となった(完全寛解27%および部分寛解23%)(Ferrero et al. (2004) Haematologica 89(5):619-20)。
【0013】
結論づけると、鉄欠乏およびVDは抗腫瘍療法として試験されたが、前記の薬剤のいずれも、AMLなどの癌に罹患した個体を完全に処置するものとは証明されていない。従って、特にAML処置において新たな展望を提供し得る新たな代替治療法が必要とされる。
【0014】
発明の要約
本発明は、鉄キレート化剤が、特にマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の活性化を通して、ビタミンD3と相乗的に作用するという本発明者らによる予期せぬ所見からもたらされる。この併用は、in vitroのAML芽球において、およびin vivoのマウスに異種移植されたAML腫瘍において効果的であると証明された。本発明者らはまた、併用療法がまた、化学療法に難治性であるAML患者の状態を改善し、そして患者の芽球の細胞分化を誘導することを示した。
【0015】
従って、本発明は、特に癌の予防または処置において使用するための、
a)少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びに
b)MAPK経路の活性化を誘導することのできる少なくとも1つの化合物、特に少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター、
並びに場合により薬学的に許容される担体
を含む医薬組成物に関する。
【0016】
本発明はまた、癌の予防または処置において同時、別々または連続的に使用するための組合せ調製物としての、
a)少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びに
b)MAPK経路の活性化を誘導することのできる少なくとも1つの化合物、特に少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター
を含む製品に関する。
【0017】
本発明はまた、癌の予防または処置を目的とした医薬品の製造のための、少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びにMAPK経路の活性化を誘導することのできる少なくとも1つの化合物、特に少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーターの使用に関する。
【0018】
本発明はまた、予防有効量または治療有効量の少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤およびMAPK経路の活性化を誘導することのできる少なくとも1つの化合物、特に少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)を個体に投与することを含む、個体における癌の予防および/または処置のための方法に関する。
【0019】
発明の詳細な説明
本明細書において定義する「鉄取り込み阻害剤」という表現は、細胞による鉄取り込みを減少または妨げる上で活性である化合物を指す。
【0020】
好ましくは、鉄取り込み阻害剤は、鉄キレート剤およびトランスフェリンレセプター阻害剤からなる群より選択される。
【0021】
本明細書において使用する「鉄キレート剤」または「鉄キレート化化合物」という表現は同義語として使用され、そして鉄に結合する化合物に関する。鉄と結合または鉄と複合体を形成した鉄キレート化化合物は、本明細書において鉄キレートと呼ばれる。
【0022】
好ましくは、鉄キレート化化合物は、二座、三座、四座またはより高次の多座化合物であり得る。二座、三座、四座またはより高次の多座の鉄キレート化化合物は、それぞれ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の別々の結合部位を使用して鉄に結合する化合物を指す。本発明の鉄キレート化化合物としては、鉄の全ての酸化状態(例えば、鉄(−II)状態、鉄(−I)状態、鉄(0)状態、鉄(I)状態、鉄(II)状態(二価鉄)、鉄(III)状態(三価鉄)、鉄(IV)状態(四価鉄)および/または鉄(V)を含む)に結合することのできるキレート化化合物が挙げられる。
【0023】
具体的な二価鉄キレート剤の例としては、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリジン−4−オン(デフェリプロン、DFPまたはフェリプロキス)および2−デオキシ−2−N−カルバモイルメチル−[N’−2’−メチル−3’−ヒドロキシピリジン−4’−オン])−D−グルコピラノース(Feralex-G)が挙げられる。具体的な三価鉄キレート剤の例としては、ピリドキサールイソニコチニルヒドラゾン(PIH)、4,5−ジヒドロ−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(GT56−252)、4,5−ジヒドロ−2−(3’−ヒドロキシピリジン−2’−イル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(デスフェリチオシンまたはDFT)および4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(ICL−670、デフェラシロクス)が挙げられる。鉄キレート剤はまた、遊離酸形、その塩およびその結晶形の置換された3,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾールであり得る(WO97/49395に記載)。具体的な六価鉄キレート剤の例としては、N,N’−ビス(o−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HBED)、N−(5−C3−L(5−アミノペンチル)ヒドロキシカルバモイル)−プロピオンアミド)ペンチル)−3(5−(N−ヒドロキシアセトアミド)−ペンチル)カルバモイル)−プロプリオンヒドロキサム酸(デフェロキサミン、デスフェリオキサミンまたはDFO)およびヒドロキシメチルでんぷんに結合したデフェロキサミン(S−DFO)が挙げられる。DFOのさらなる誘導体としては、DFOの脂肪族、芳香族、コハク酸およびメチルスルホン酸類似体、並びに特に、スルホンアミド−デフェロキサミン、アセトアミド−デフェロキサミン、プロピルアミド−デフェロキサミン、ブチルアミド−デフェロキサミン、ベンゾイルアミド−デフェロキサミン、スクシンアミド−デフェロキサミン、およびメチルスルホンアミド−デフェロキサミンが挙げられる。
【0024】
本発明による鉄キレート剤はまた、シデロホアまたはキセノシデロホアであり得る。シデロホアまたはキセノシデロホアの例としては、ヒドロキサメートおよびポリカルボキシレートが挙げられる。ヒドロキサメートは、N−[δ]−ヒドロキシオルニチン部分を含み、そして一般的に4つの例示的なファミリーにカテゴリー化される。1つのカテゴリーは、ロドトルラ酸を含み、これはN−[δ]−アセチル−L−N[δ]−ヒドロキシオルニチンのジケトピペラジンである。このカテゴリーには、ジメルム酸と命名されたジヒドロキサメートなどの誘導体が含まれる。第2のカテゴリーは、コプロゲンを含み、これはN−[δ]−アシル−N−[δ]−ヒドロキシ−L−オルニチン部分を含む。コプロゲンはまた、線形構造を有するロドトルラ酸のトリヒドロキサメート誘導体と考えられ得る。第3のカテゴリーは、フェリクロムを含み、これは、N−[δ]−アシル−N−[δ]−ヒドロキシオルニチンと、グリシン、セリンまたはアラニンとの組合せのトリペプチドを含む環式ペプチドからなる。第4の例示的カテゴリーは、フシゲンとも呼ばれるフサリニンを含み、これは線形または環式のいずれかのヒドロキサメートであり得る。フサリニンは、無水メバロニン酸によるN−ヒドロキシオルニチンのNアシル化によって特徴付けられる化合物である。ポリカルボキシレートは、リゾフェリンと呼ばれるクエン酸を含むポリカルボキシレートからなる。前記分子は、ジアミノブタンに連結した2つのクエン酸単位を含む。本発明の組成物において鉄キレート剤として有用なシデロフォアの他のカテゴリーとしては、例えば、フェノレート−カテコレートクラスのシデロフォア、ヘミン、および[β]−ケトアルデヒド植物毒素が挙げられる。
【0025】
本発明による鉄キレート剤はまた、チオセミカルバゾン、潜在的な抗新生物活性を有する合成ヘテロ環カルボキシアルデヒドチオセミカルバゾンであるトリアピン(3−アミノピリジン−2−カルボキシアルデヒドチオセミカルバゾン、3AP)、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン類似体、例えばジ−2−ピリジルケトンチオセミカルバゾン(DpT)、ジ−2−ピリジルケトンイソニコチノイルヒドラゾン(PKIH)類似体およびジ−2−ピリジルケトン−4,4−ジメチル−3−チオセミカルバゾン(Dp44mT)であり得る。
【0026】
好ましくは、本発明の鉄キレート剤は、デフェロキサミン、デフェラシロクス、デフェリプロン、トリアピンおよびDp44mTからなる群より選択される。
【0027】
「トランスフェリンレセプター阻害剤」という表現は、トランスフェリンレセプターに結合し、そしてトランスフェリンの定着を阻害もしくは妨げるか、または細胞中へのトランスフェリンレセプター/トランスフェリン複合体の内部移行を阻害もしくは妨げる任意の化合物を指す。
【0028】
トランスフェリンは、鉄の輸送に関与する主要な血漿中タンパク質である。鉄がローディングされたトランスフェリン(Fe−Tf)はその細胞受容体(TfR)に結合し、そして複合体Fe−Tf/TfRは小胞に内部移行する。小胞のpHは酸性化され、これがトランスフェリンによる鉄の遊離を誘導する。その後、レセプターは細胞表面上へとリサイクルされる(Irie et al. (1987) Am J Med Sci 293:103-11)。
【0029】
本発明によるトランスフェリンレセプター阻害剤は、例えば、抗トランスフェリンレセプター抗体、トランスフェリンレセプターに結合する合成または天然配列ペプチド並びに小分子アンタゴニストおよびアプタマー、からなる群より選択され得る。
【0030】
好ましくは、本発明によるトランスフェリンレセプター阻害剤は、抗トランスフェリンレセプター抗体、より好ましくはモノクローナル抗体である。より好ましくは、この抗体は、特にWO2005/111082(Moura et al. (2001) J Exp Med 194(4):417-25), Moura et al. (2004) Blood 103(5):1838-45, Lepelletier et al. (2007) Cancer Res 67(3):1145-54)に記載のA24である(2001年5月10日にCNCM(Collection nationale de Cultures de Microorganismes, 25 rue du Docteur Roux, Paris)に、I−2665番の下に寄託される)。
【0031】
本明細書において使用する「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、そして特に、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ、ヒト化またはヒト抗体、ダイアボディ、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)、およびまた抗体フラグメントを網羅する。抗体フラグメントの例としては、Fv、Fab、F(ab’)、Fab’、dsFv、scFv、sc(Fv)が挙げられる。
【0032】
MAPK経路は、細胞外刺激に応答し、そして遺伝子発現、有糸分裂、分化、および細胞の生存/アポトーシスなどの種々の細胞活性を調節する、セリン/トレオニン特異的プロテインキナーゼであるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)の関与する任意の生物学的経路に関する。MAPK経路は当業者には周知であり、そして特にBrown et al. ((2008) Handb Exp Pharmacol 1186:205-35)またはRaman et al. ((2007) Oncogene 26(22):3100-12)に記載されている。MAPKの例は、Junキナーゼ、p38および細胞外シグナル調節キナーゼであり得る。本明細書において意図するMAPK経路アゴニストは、MAPキナーゼ経路を誘導することができる。本発明によるMAPK経路アゴニストの例は、鉄キレート剤およびビタミンD、その類似体およびビタミンDレセプターモデュレーターであり得る。
【0033】
本明細書において使用する「ビタミンD」という用語は、全ての型のビタミンD、例えばビタミンD1、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンD4(22−ジヒドロエルゴカルシフェロール)およびビタミンD5(シトカルシフェロール)を含む。好ましくは、本発明による「少なくとも1つのビタミンD」はビタミンD3、より好ましくはその活性型のビタミンD3である1α,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールD3(1,25−(OH)D3またはカルシトリオール)である。
【0034】
本明細書において意図する「ビタミンD類似体」または「ビタミンDレセプターモデュレーター」は、ビタミンDレセプター(VDR)に結合することができ、そして好ましくは結合時に細胞分化を誘導することができる。
【0035】
ビタミンD類似体またはビタミンDレセプターモデュレーターがビタミンDレセプターに結合する能力を決定するための試験は当業者に周知である。好ましくは、細胞抽出物上における類似体またはビタミンDレセプターモデュレーターの特異的結合を推定することによってこの能力を評価することができる。例えば、典型的な結合実験において、超音波処理によって得られた可溶性細胞抽出物を、漸増濃度のビタミンD類似体またはビタミンDレセプターモデュレーターと共にインキュベーションする。結合した類似体および遊離の類似体を、ヒドロキシアパタイト法によって分離することができる。1,25−(OH)D3の非存在下において測定した全結合から、過剰の1,25−(OH)D3の存在下において得られた非特異的結合を差し引くことによって特異的結合を計算することができる(Skowronski et al. (1995) Endocrynology 136(1): 20-26)。
【0036】
ビタミンD類似体またはビタミンDレセプターモデュレーターが細胞分化を誘導する能力は、当業者に周知の種々の方法によって測定され得る。例えば、この能力は、Skowronski et al. (前掲書中)に記載のように類似体またはビタミンDレセプターモデュレーターと共にインキュベーションした後の、LNCaP細胞株におけるPSA(細胞分化マーカー)の誘導の測定によって推定され得る。
【0037】
多くのビタミンD類似体が当技術分野の最新技術において周知である。「ビタミンD類似体」という表現は特に、ビタミンD代謝物、ビタミンD誘導体およびビタミンD前駆体を包含し、好ましくはそれはビタミンD3代謝物、ビタミンD3誘導体およびビタミンD3前駆体を包含する。
【0038】
本発明によるビタミンD類似体は、C−24位の周囲における側鎖構造が修飾されたセコステロイド構造を保持し得る。例えば、ビタミンD類似体は、パリカルシトール(19−ノル−1α(OH)2D2)、ILX23−7553(16−エン−23−イン−1α,25(OH)2D3)、OCT(マキサカルシトール、22−オキサ−1α,25(OH)2D3)およびEB1089(セオカルシトール、1α−ジヒドロキシ−22,24−ジエン−24,26,27−トリホモ−ビタミンD3)またはコレカルシフェロールであり得る。
【0039】
より好ましくは、本発明によるビタミンD類似体は、パリカルシトール、OCT、EB1089およびコレカルシフェロールからなる群より選択される。より好ましくはビタミンD類似体はコレカルシフェロールである。
【0040】
本発明によるビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)は好ましくは、例えばUS2008/0200552に記載の化合物のような、VD類似体よりも低カルシウム血症の程度がより低いことが示された非セコステロイド化合物である。より好ましくは、少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)は、LY2108491、LY2109866およびLG190119からなる群より選択される(Ma et al. (2006) J Clin Invest 116(4):892-904, Polek et al (2001) Prostate 49(3):224-33)。
【0041】
「薬学的に許容される担体」という表現は、適宜、哺乳動物、特にヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の望ましくない反応を生じない分子実体および組成物を指す。薬学的に許容される担体または賦形剤は、無毒性の固体の、半固体のまたは液体の充填剤、希釈剤、封入剤または製剤化助剤の任意の種類を指す。
【0042】
本発明による医薬組成物の剤形、投与経路、投与量および投与計画は、処置しようとする状態、病気の重症度、患者の年齢、体重および性別などに依存する。
【0043】
本発明の医薬組成物は、特に、経口投与(好ましくはVDおよび鉄キレート剤の投与のために)、静脈内投与(好ましくはVD、トランスフェリンレセプター阻害剤および鉄キレート剤の投与のために)、皮下投与(好ましくは鉄キレート剤の投与のために)または筋肉内投与(好ましくはVDの投与のために)用に製剤化され得る。
【0044】
好ましくは、本発明による医薬組成物は、ビタミンD3およびモノクローナル抗体A24を含む。また好ましくは、本発明による医薬組成物はビタミンD3およびデフェロキサミンおよび/またはデフェラシロクスを含む。
【0045】
例えば、本発明による少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤は、約0.1〜1000mg/kg(体重)/日または好ましくは約1〜100mg/kg(体重)/日の濃度で投与され得る。好ましくは、デフェラシロクスは、約1〜50mg/kg(体重)/日の濃度で、より好ましくは約10〜30mg/kg(体重)/日の濃度で投与され得る。好ましくは、デフェロキサミンは、約10〜100mg/kg(体重)/日の濃度で、より好ましくは約60〜80mg/kg(体重)/日の濃度で投与され得る。
【0046】
例えば、本発明による少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)は、約0.001〜100g/kg(体重)/日または約0.01〜50g/kg(体重)/日または約0.1〜5g/kg(体重)/日、より好ましくは約0.5g/kg(体重)/日の濃度で投与され得る。
【0047】
前記に定義した、癌を有していた、前記癌を有する、または前記癌を発症しやすい個体に、少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)を投与する前、投与と同時に、またはその投与後に、少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤を投与することができる。少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤および少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)を、第1の結合分子が第2の結合分子と一緒に作用することにより、それ以外の方法で投与した場合よりも増加した利点が得られるような、順序および時間枠内で投与することができる。好ましくは、少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤および少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター(VDRM)は一緒に投与される。
【0048】
本発明による医薬組成物は、癌の予防または処置に使用され得る。好ましくは、癌は造血器悪性腫瘍である。
【0049】
本発明に関連して、「処置または予防」という用語は、このような用語を適用する疾患もしくは状態、またはこのような疾患もしくは状態の1つ以上の症状の逆行、軽減、その進行の阻害、または予防を意味する。特に、疾患の処置は、悪性細胞の数を減少させることからなり得る。最も好ましくは、このような処置により、悪性細胞の完全な枯渇に至る。
【0050】
好ましくは、処置しようとする個体は、癌に罹患したまたは罹患する可能性のあるヒトまたは非ヒト哺乳動物(例えばげっ歯類(マウス、ラット)、ネコ、イヌ、または霊長類)である。好ましくは、個体はヒトである。
【0051】
「癌」および「悪性腫瘍」という用語は、未制御な細胞増殖によって典型的には特徴付けられる哺乳動物における病的状態を指すまたは説明する。より正確には、本発明の使用において、疾病、すなわちビタミンDレセプターを発現する腫瘍は、ビタミンDモデュレーターに応答する可能性が最も高い。さらに、本発明者らは、鉄取り込み阻害剤を使用することによる鉄欠乏は、細胞表面におけるビタミンD受容体の過剰発現によってビタミンDの感受性を回復させるという仮説を立てる。特に、癌は、固体腫瘍または未分化造血骨髄細胞(造血幹細胞)の未制御な増殖を伴い得る。固形腫瘍形成に関連した癌の例としては、乳癌、膀胱癌、子宮/頸癌、食道癌、膵臓癌、大腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、卵巣癌、前立腺癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌および胃癌が挙げられる。
【0052】
好ましくは、本発明による癌または悪性腫瘍は、未分化造血骨髄細胞(造血幹細胞)の未制御な増殖に起因する。
【0053】
本明細書において意図する「造血幹細胞(HSC)」という表現は、例えば、骨髄系統(単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球)、赤血球、巨核球/血小板、およびリンパ系譜(T細胞、B細胞、NK細胞)を含む全ての血球型を生じる、成人多能性幹細胞を指す。
【0054】
本発明による「造血幹細胞悪性腫瘍」または「造血器悪性腫瘍」という表現は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、リンパ性白血病、リンパ腫および骨髄異形成症候群(2001年のWHO分類に定義)を含む。好ましくは、本発明による癌は、骨髄異形成症候群および急性骨髄性白血病からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、非処理細胞(対照)と比較した、A24(A24)、デフェロキサミン(DFO)またはデフェラシロクス(DFX)によって処理されたCD34臍帯血細胞の半固体培養液から得られたマクロファージのコロニー形成単位(CFU−GM)の比を示す。
【図2】図2は、A24およびDFOを用いて72時間かけて処理されたAML患者の芽球におけるCD11bの発現を示す。対照細胞と比較したMFIの増加を計算することによって、得られた値を規準化する。AMLのサブタイプが識別される:黒い記号はM0/M1/M2のAMLサブタイプを示し、一方、白抜きの記号はM4/M5サブタイプを示す。8名の患者から得られた平均値が示されている。
【図3】図3は、A24およびDFOを用いて72時間かけて処理されたAML患者の芽球におけるCD14の発現を示す。対照細胞と比較したMFIの増加を計算することによって、得られた値を規準化する。AMLのサブタイプが識別される:黒い記号はM0/M1/M2のAMLサブタイプを示し、白抜きの記号はM4/M5サブタイプを示す。8名の患者から得られた平均値が示されている。
【図4】図4は、ビタミンD3(VD、250nM)、A24(A24、10μg/ml)、デフェロキサミン(DFO、5μM)またはデフェラシロクス(DFX、3μM)を用いてのHL60細胞の処理後のc−Jun発現の変化を示す。
【図5】図5は、A24(A24、10μg/ml);デフェロキサミン(DFO、5μM);またはデフェラシロクス(DFX、3μM)を用いて48時間かけて処理したHL60細胞におけるc−Fosおよびc−Jun mRNAレベル(定量RT−PCRによって評価し、そしてGAPDH mRNAレベルに規準化)(平均±SEM、n=4)を示す。
【図6】図6は、アネキシンV−FITC(黒色)標識およびアネキシンV−FITC/PI(灰色)標識を使用してフローサイトメトリーによって評価した初期および後期アポトーシス/壊死を示す。HL60細胞を、2μMおよび6μMのJNK阻害剤SP600125(SP)の補充されたまたは補充されていない培地中、A24(10μg/ml)またはデフェロキサミン(DFO、5μM)の存在下または非存在下において培養した(平均±SEM、n=3)。
【図7】図7は、アネキシンV−FITC(黒色)およびアネキシンV−FITC/PI(灰色)を使用してフローサイトメトリーによって評価した初期および後期アポトーシス/壊死を示す。HL60細胞を、0.5μMおよび1μMのp38阻害剤のSB203580(SB)の補充されたまたは補充されていない培地中、A24(A24、10μg/ml)またはデフェロキサミン(DFO、5μM)の存在下または非存在下において培養した(平均±SEM、n=3)。
【図8】図8は、A24(10μg/ml)(連続的な薄い線)を用いて、VD(250nM)(非連続的な薄い線)を用いて、またはVDと鉄キレート化剤との併用(連続的な太い線)で72時間かけて処理したHL60細胞におけるCD14およびCD11bの発現のフローサイトメトリー分析を示す。塗りつぶされているヒストグラムは、対照アイソタイプ標識を示す。
【図9】図9は、DFO(5μM)(連続的な薄い線)を用いて、VD(250nM)(非連続的な薄い線)を用いて、またはVDと鉄キレート化剤との併用(連続的な太い線)で72時間かけて処理したHL60細胞におけるCD14およびCD11bの発現のフローサイトメトリー分析を示す。塗りつぶされているヒストグラムは対照アイソタイプ標識を示す。
【図10】図10は、A24(A24/10μg/ml);デフェロキサミン(DFO/5μM)、またはビタミンD3(VD/250nM)、A24とデフェロキサミン(A24+DFO/10μg/mlおよび5μM)、デフェロキサミンとビタミンD3(VD+DFO/250nMおよび5μM)を用いて6時間かけて処理したHL60細胞におけるVDR転写物のレベルを示す(定量RT−PCRによって評価し、そしてGAPDH mRNAレベルに規準化)。
【図11】図11は、A24(A24/10μg/ml);デフェロキサミン(DFO/5μM)、またはビタミンD3(VD/250nM)、A24とデフェロキサミン(A24+DFO/10μg/mlおよび5μM)、デフェロキサミンとビタミンD3(VD+DFO/250nMおよび5μM)を用いて6時間かけて処理したHL60細胞におけるカテリシジン転写物レベルを示す(定量RT−PCRによって評価し、そしてGAPDH mRNAレベルに規準化)。
【図12】図12は、A24(A24/10μg/ml);デフェロキサミン(DFO/5μM)、またはビタミンD3(VD/250nM)、A24とデフェロキサミン(A24+DFO/10μg/mlおよび5μM)、デフェロキサミンとビタミンD3(VD+DFO/250nMおよび5μM)を用いて6時間かけて処理したHL60細胞におけるCYP24A転写物レベルを示す(定量RT−PCRによって評価し、そしてGAPDH mRNAレベルに規準化)。
【図13】図13は、A24(A24/10μg/ml);デフェロキサミン(DFO/5μM)、またはビタミンD3(VD/250nM)、A24とデフェロキサミン(A24+DFO/10μg/mlおよび5μM)、デフェロキサミンとビタミンD3(VD+DFO/250nMおよび5μM)を用いて16時間かけて処理したHL60細胞におけるc−Jun転写物レベルを示す(定量RT−PCRによって評価し、そしてGAPDH mRNAレベルに規準化)。
【図14】図14は、A24(A24/10μg/ml);デフェロキサミン(DFO/5μM)、またはビタミンD3(VD/250nM)、A24とデフェロキサミン(A24+DFO/10μg/mlおよび5μM)、デフェロキサミンとビタミンD3(VD+DFO/250nMおよび5μM)を用いて16時間かけて処理したHL60細胞におけるc−Fos転写物レベルを示す(定量RT−PCRによって評価し、そしてGAPDH mRNAレベルに規準化)。
【図15】図15は、ビヒクル(対照、n=12)を用いて注射されたマウスと比較して、デフェロキサミン(DFO、n=14)(20mg/日、5〜7回/週のDFO)、デフェロキサミンとビタミンD3(1μg、1週間に2回のVD、および20mg/日、5〜7回/週のDFO)(DFO+VD、n=13)を用いて注射された異種移植マウスにおいて25日目に測定した腫瘍サイズを示す。個々の腫瘍をプロットする。
【0056】
実施例
方法
臨床試料および細胞株
AML患者および健康ドナーからの末梢血細胞を、彼らの書面によるインフォームドコンセントが得られた後に分析した(さらなる情報については付録の表2を参照されたい)。末梢血を、処置投与前の初回の診断時に回収した。単球細胞を、フィコール・ハイパック(PAA laboratories)密度遠心分離によって分離し、そして15%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone)、100ng/mlの幹細胞因子(SCF)、10ng/mlのインターロイキン3(IL−3)および25ng/mlのFLT3−L(全てR&D Systemsから購入)の補充されたIMDM培地(Invitrogen)中に再懸濁した。HL60およびU937細胞株は、J.M. Cayuela (Saint-Louis Hospital, Paris)からの親切な贈り物であった。細胞を、5%FCSおよび抗生物質の補充されたRPMI−1640培地(Invitrogen)中で培養した。
【0057】
【表1】

【0058】
細胞の処理および増殖についてのアッセイ
デフェラシロクスは、ノバルティスによって提供された。VP16、DFO、VDおよびFeClを、シグマ・アルドリッチから購入した。mAb A24を、記載のように産生および精製した(Moura et al. (2001) J Exp Med 194:417-25)。JNK(SP600125)、ERK(PD98059)およびp38(SB203580)MAPKの阻害剤は全て、Santa-Cruz Biotechnologyから購入した。
【0059】
増殖アッセイのために、HL60細胞株を、5%FCSを含むRPMI−1640培地中に再懸濁し、そして患者の芽球を、15%BIT 9500(Stem Cell Technologies)を含むIMDM培地中に再懸濁した。細胞を、3枚の96ウェル組織培養プレート(Falcon)に1ウェルあたり2.5×10個加えた。増殖を、記載のように測定した(Lepelletier et al. ((2007) Cancer Res 67:1145-1154)。
【0060】
細胞遺伝学的分析
蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を、第8染色体(pZ8.4)および第12染色体(pBR12)(対照として使用する)についての特異的セントロメアプローブと共に標準的なプロトコールを使用して実施した。
【0061】
RNA単離、リアルタイム定量PCRおよびトランスクリプトーム分析
全RNAを、Nucleospin RNA II (Macherey-Nagel)を使用して抽出した。DNAse処理後、一本鎖cDNAを、スーパースクリプトII逆転写酵素(Invitrogen)を使用して合成した。定量リアルタイムPCRを、Chromo-IV PCR System (MJ Research)を用いて実施し、そしてPCR産物を、SybrGreen Technology (Jumpstart mastermix, Sigma Aldrich)を使用して定量した。リアルタイム定量PCRの結果を、デルタデルタCt法(Livak et al. (2001) Methods 25:402-408)を使用して解釈した。使用するプライマー配列の完全なリストは、付録のデータの章の表4において入手可能である。
【0062】
マイクロアレイのために、アジレント社44K全ヒトゲノム(G4112A)の長い(60bp)オリゴヌクレオチドマイクロアレイおよび二色分析法を使用し、処理した試料からのプローブおよびリファレンスRNAからのプローブを、シアニン5およびシアニン3を用いて別々に標識した。これらのマイクロアレイは、44,290個のフィーチャー(feature)を有し、その中の41,000個の明確に異なるオリゴヌクレオチドは、そのアクセッションナンバーによって定義される33,715個の配列に属する。直接比較するために、各々の処理した試料からのcRNAを、シアニン3(Cy3)−シチジン三リン酸(CTP)を用いて標識し、そして非処理のHL60RNAリファレンスプールを、シアニン5(Cy5)−CTPを用いて標識した。逆転写、リニア増幅、cRNA標識および精製を、アジレント社リニア増幅キットを用いて実施した。マイクロアレイデータを、主にリゾルバ(Resolver)ソフトウェア(Rosetta Inpharmatics)を用いて分析した。全てのデータをフィルターにかけて、両方の色について50任意単位よりも下の低強度の値を削除した。
【0063】
腫瘍異種移植片
腫瘍確立の予防のために、5×10個のHL60細胞を、マトリゲルと混合し(1:1、V/V)、そして8〜10週令の雌の無胸腺ヌードマウスに皮下注射した。その後、マウスに、A24(40mg/kg、1日目に1回)、DFO(20mg/日、1週間に5〜7回)、VD(1μg、1週間に2回)またはビヒクル対照としてのPBSを25日間の間に腹腔内注射した。腫瘍の増殖を、Lepelletier et al. ((2007) Cancer Res 67:1145-1154)に記載のように測定した。
【0064】
免疫組織化学
パラフィンブロックからの3mmの連続切片を、キシレン中で脱パラフィン処理し、そして一連の段階的なアルコール中で水和させた。染色を、Lab Vision社の免疫組織化学Autostainer(Lab Vision Corporation, Fremont, CA)を使用して、CD14、CD11b(シグマ・アルドリッチ、1:200)、p−ERKおよびp−Jun(Cell Signaling、1:1000)に対する一次抗体、その後、ビオチニル化抗Igおよびストレプトアビジン−ペルオキシダーゼを用いて実施し、そしてDAB(0.05%)および0.003%Hを含むPBS中で発色させた。画像を、IM50ソフトウェアを使用してデジタルカメラ(DFC320, Leica)およびLeica顕微鏡(DM−2000)で得た。
【0065】
統計分析
データを、平均±SEMとして表現する。統計分析を、GraphPadPrism 5ソフトウェアを用いて実施した。スチューデントt検定を使用して2つの群を比較し、多群比較を、一元配置ANOVA検定、その後、post-hoc分析(Bonferroni検定)を使用して行なった。クラスカル・ウォリス検定、続いてダンのポスト検定を、ノンパラメトリック比較(指定されている場合)のために使用した。腫瘍を有さない動物曲線の比較のために、ログランク検定を使用した。結果は、0.05未満()、0.01未満(**)または0.001未満(***)のP値を統計学的有意と考えた。
【0066】
結果
実施例1:鉄欠乏は、細胞分化に関連した遺伝子の発現に影響を与える
前記の鉄キレート化治療アプローチの抗腫瘍作用に関与する分子機序は依然として完全に解明されていない。これらの機序を新たに洞察するために、鉄キレート剤(デフェロキサミン(DFO)およびデフェラシロクス(DFX))およびTfR1障害(mAb A24)の両方によって影響を受ける遺伝子を同定した。理論は、この戦略によって無関係の遺伝子を選択する可能性が減少するだろうというものであった。これらの研究は、細胞株モデル(HL60)に焦点を当て、AML患者の発癌に関与するいくつかの遺伝子事象に関連したデータの不均一性を回避した。回収したデータの分析により、105個の遺伝子が3つの異なる薬剤によってモデュレーションされたことが明らかとなった。これらの遺伝子の中で、いくつかは細胞分化に関連していた。特に、鉄欠乏剤によって、単球または活性化マクロファージのマーカーはアップレギュレーションされ(SERPINB8、ITGB2、TREML2、ITGAM)、顆粒球分化のマーカーはダウンレギュレーションされた(ELA2、PRTN3、CLC、AZU)。
【0067】
実施例2:鉄恒常性は顆粒球−単球への分化において役割を果たす
初代造血前駆細胞における鉄欠乏の効果を試験した。鉄欠乏剤(鉄キレート剤のように直接的に、または抗TfR mAb A24の使用によって間接的に)の存在下または非存在下における初代CD34細胞(多能性サイトカインと共に)の半固体培養により、CFU−Mのコロニー数が増加しCFU−Gが減失したが、このことは、造血前駆細胞からのキレート化鉄が、顆粒球系統よりも単球系統の方への傾倒を誘導したが(図1)、コロニーの総数は変化させなかったことを示唆する。液体培養では、鉄欠乏は、臍帯血細胞の増殖に影響を与えなかったが、単球系統へのその傾倒をモデュレーションした。同様に、単球系統に特異的な転写因子であるHOXA10、EGR1およびMafBの一貫したアップレギュレーションがみられた。培養の細胞学的評価により、鉄の少ない培養において単球細胞数が増強したことを確認した。従って、骨髄ニッチにおいて、鉄の利用可能性は、造血前駆細胞から骨髄単球への分化の転帰か、顆粒球への分化の転帰かを決定する因子であり得る。
【0068】
実施例3:鉄欠乏は白血病細胞の分化を誘導する
鉄欠乏による、AML細胞の分化の遮断無効化能力を試験した。AML細胞株において、A24mAb、DFOおよびDFXによる鉄欠乏によって、単球マーカーCD14およびCD11b(これは単球分化剤であるビタミンD3(VD)によって誘導される)が誘導された。細胞表面マーカーの誘導は、単球の特徴的な細胞学的改変を伴った。鉄欠乏により、細胞質の拡大、細胞質の好塩基球増加症の減少およびアズール顆粒の減少が誘導された。分化マーカー発現のアップレギュレーションは、培養液に過剰の可溶性鉄を補充した場合に消失し、このことは単球分化プログラムの第1の起源が、細胞の鉄利用可能性に依存することを確認する。
【0069】
次に、AML患者からの細胞も、鉄欠乏で分化を誘導させ得るかどうかを調査した。種々のAMLサブタイプからの新鮮なAML芽球を、診断時に単離し(研究に使用した患者のサブタイプおよび生物学的パラメーターの完全なリストを表1に列挙する)、そしてmAb A24およびDFOの存在下において培養した。CD14およびCD11bマーカー発現は、培養により一貫してアップレギュレーションされ、このことにより、種々のAMLサブタイプからの芽球は、分化停止に至るその発癌事象は異質であったとしても、鉄欠乏に基づいた分化療法に感受性であることが示された(図2および図3)。in vitroにおける治療量域研究により、分化が細胞増殖停止およびアポトーシスを伴うことを示された。
【0070】
実施例4:鉄欠乏によって誘導されるJUNキナーゼ経路
VDおよび鉄キレート化剤によって誘導される遺伝子のパターンを(目的変数なしの分析を用いて)比較することによって、モデュレーションされた遺伝子間の高度の類似性を見出した。鉄欠乏によってモデュレーションされた105個中30個の遺伝子が、VDにより改変された遺伝子と共通した。この所見は、両方の分化アプローチ間の類似の可能性を強調する。VDおよび鉄キレート化剤の両方が、単球マーカー(SERPINB8、ITGB2、TREML2、ITGAM)をアップレギュレーションし、そして好中球マーカー(ELA2、PRTN3、CLC、AZU)をダウンレギュレーションした。JUNキナーゼ経路(JNK)は、単球分化に関与する主要なMAPK経路であり、そしてVDによって誘導されることが以前に示されている(Wang et al; (2003) J Cell Biochem 89:1087-1101)。効果的に、c−Jun遺伝子はVDによって誘導されたが、また鉄欠乏によっても誘導された(図4)。さらに、c−Fosおよびc−Junをコードする転写物も、両方の処理によってアップレギュレーションされた(図5)。その特異的阻害剤であるSP600125によるJNKの阻害は、A24またはDFOを伴う鉄によって誘導される分化を消失させた。MAPK経路(細胞外シグナル調節キナーゼERK、JNKおよびp38)は頻繁に収束してシグナル伝達を増幅する(Johnson et al. (2002) Science 298:1911-1912, Lopez-Bregami et al. (2007) Cancer Cell 11:447-460)。これに一致して、鉄キレート化剤は、その分子エフェクターのリン酸化によって証明されるような、MAPK関連ERKおよびp38の経路の活性化を誘導したことが判明した。さらに、ERKおよびp38経路の選択的阻害は、鉄欠乏によって誘導される細胞分化を遮断した。しかしながら、JNKおよびp38の阻害剤(図6および図7)は、鉄欠乏によって誘導される細胞アポトーシスを妨げたが、ERKの阻害剤は妨げなかった。
【0071】
実施例5:鉄キレート化剤とビタミンD3の併用は、AML芽球分化に対して相乗作用を及ぼす
次に、鉄キレート化剤とVDの併用が相乗作用を及ぼし得るかどうかを調べた。キレート剤とVDの併用は、単球細胞分化マーカーのアップレギュレーションを劇的に増加させた(図8および図9)。これは、単球細胞分化に関与するVDR遺伝子転写のアップレギュレーション(図10)によって説明され得る(Himes et al; (2006) J Immunol 176:2219-2228, Wang et al. (2003) J Cell Biochem 89:1087-1101)。上昇したVDR遺伝子発現の生理学的関連性は、その下流のターゲット遺伝子であるカテリシジン(1000倍増加)(図11)およびCYP24A(6000倍増加)(図12)の転写の急激な増加によって証明された。観察された相乗作用はJNK経路の活性化にも起因する。なぜなら、c−Jun遺伝子およびc−Fos遺伝子が、鉄キレート化とVDの併用によって顕著にアップレギュレーションされたからである(図13および図14)。さらに、VDを鉄欠乏と併用すると、JNKのリン酸化は増加した。これらの著名な改変は、処理細胞における形態学的変化を伴った。それ故、鉄欠乏とVDなどの分化剤との両方の併用は、その抗白血病特性を維持しつつ、併用療法における副作用を減少させ得る。
【0072】
実施例6:鉄キレート化とビタミンD3の併用は、in vivoのマウス腫瘍異種移植片モデルにおいて相乗作用を及ぼす
分化療法の効力を、in vivoのマウス腫瘍異種移植片モデルにおいてさらに評価した。VDとDFO療法の組合せは、マウスにおける腫瘍の増殖を有意に減少させた(図15)。減少した腫瘍増殖は、腫瘍細胞のアポトーシス、細胞分化の特徴、およびMAPKリン酸化(ERKおよびJNK)を伴った。
【0073】
実施例7:鉄キレート剤とビタミンD3の併用は、1名のAML患者において芽球分化を誘導した
鉄キレート剤とVDの効力を1名のAML患者において評価した。69歳の男性は、最近、骨髄異形成症候群(MDS)から急性骨髄性白血病への転換を示した。高用量の化学療法後、患者には依然として芽球無形成はなかった。診断から7月後、芽球が血液中に再度出現し、そして鉄キレート剤(デフェラシロクス1g/日)およびVD(4000UI/日)を用いての処置を開始した。この組合せ療法は好中球数の増加を伴ったが、高カルシウム血症は誘導しなかった。重要なことには、組合せ処置は、MGG血液塗抹標本上で観察されたように芽球から単球系統への分化を誘導した。この観察は細胞選別、その後の細胞遺伝学的分析によってさらに確認され、ここでは元の芽球トリソミーが、未成熟細胞から誘導された成熟単球には見出されたが、リンパ球およびNK細胞には見出されなかった。それ故、鉄恒常性は、正常な状況および病的な状況の両方における細胞分化の制御において重要な役割を果たす。鉄の少ない環境においてはBM細胞は単球へと分化する傾向にあり、そしてAMLからの芽球は鉄キレート剤の存在下において分化し得る。ゲノムスクリーニングにより、細胞分化に関連した遺伝子が、鉄欠乏によってターゲティングされそしてこれはVDと高度に共有されている(30%の類似性)ことが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びに
b)少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター、
並びに場合により薬学的に許容される担体
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤が、鉄キレート剤およびトランスフェリンレセプター阻害剤からなる群より選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
鉄キレート剤が、デフェロキサミン、デフェラシロクス、デフェリプロン、トリアピンおよびDp44mTからなる群より選択される、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
トランスフェリンレセプター阻害剤が、抗トランスフェリンレセプター抗体である、請求項2または3記載の医薬組成物。
【請求項5】
抗トランスフェリンレセプター抗体が、モノクローナル抗体A24である、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのビタミンDが、ビタミンD3である、請求項1〜5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
少なくとも1つのビタミンD類似体が、コレカルシフェロール、パリカルシトリオール、OCTおよびEB1089からなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーターが、LY2108491、LY2109866およびLG190119からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項9】
− ビタミンD3、および
− モノクローナル抗体A24
を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
− ビタミンD3、並びに
− デフェロキサミンおよび/またはデフェラシロクス
を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項11】
癌の予防または処置において使用するための、請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項12】
癌が、造血器悪性腫瘍である、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
癌が、骨髄異形成症候群および急性骨髄性白血病からなる群より選択される、請求項11または12記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項11〜13に定義した癌の予防または処置において使用するための、請求項1〜5に定義した少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びに、請求項6、7および8に定義した少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター。
【請求項15】
請求項11〜13に定義した癌の予防または処置において同時、別々または連続的に使用するための組合せ調製物としての、
a)請求項1〜5に定義した少なくとも1つの鉄取り込み阻害剤、並びに
b)請求項6、7および8に定義した少なくとも1つのビタミンDおよび/または少なくとも1つのその類似体および/または少なくとも1つのビタミンDレセプターモデュレーター
を含む製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−532925(P2012−532925A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520110(P2012−520110)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054210
【国際公開番号】WO2011/007208
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】