説明

癌の抑制方法

本発明は、p53癌抑制遺伝子またはp53タンパク質を活性化させて核に局在化させることを特徴とする癌の抑制方法、及びp53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性を促進する物質を含む医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、p53癌抑制遺伝子またはp53タンパク質を活性化させてp53タンパク質を核に局在化させる方法に関する。また、本発明は、p53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性化を促進する物質を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
シノビオリンは、リウマチ患者由来滑膜細胞で過剰発現している膜タンパク質として発見された新規タンパク質である(WO02/052007)。そして、遺伝子改変動物を用いた研究により、シノビオリンは関節リウマチの発症に必須の分子であることが判明した。
タンパク質構造予測システムにより、シノビオリンはRING fingerモチーフを有することが示唆されている。このモチーフはタンパク質のユビキチン化に重要な役割を果たすE3ユビキチンライゲースという酵素に多く見出されているが、実際、シオビオリンがE3ユビキチンライゲースの特徴のひとつである自己ユビキチン化活性を有することが証明されている(WO02/052007)。
ところで、p53遺伝子は、第17染色体p13に位置しており、癌細胞の発生及び増殖においてきわめて重要な癌抑制遺伝子である。p53タンパク質は、DNA上の特異的塩基配列[5’−(A/T)GPyPyPy−3’)]を認識し、waf1/cip1、GADD45、BAX等の特定の遺伝子の転写活性化を促す。また、(i)その他の多くの遺伝子の転写を抑制すること、(ii)SV40ラージT抗原、アデノウイルスEIBタンパク質、パピローマウイルスE6などのウイルス性癌遺伝子、あるいはmdm2等の細胞性癌遺伝子と結合すること、(iii)ミスマッチを含むDNAと特異的に結合すること等の生理機能が知られている。
従って、癌の抑制物質を見出すには、p53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の機能を制御する分子を解析することが重要である。
【発明の開示】
本発明は、p53癌抑制遺伝子またはp53タンパク質の活性化を促進する方法、及びp53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性化を促進する医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、シノビオリンホモノックアウト動物を詳細に解析したところ、野生型に比し、アポトーシスを起こしている細胞が多数観察され、また、アポトーシスの誘導に深く関与しているp53タンパク質が核内に局在し、強く発現していることが判明した。そして、シノビオリンの機能を阻害することにより、p53癌抑制遺伝子または53癌抑制タンパク質が活性化されて癌細胞の増殖が阻止されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)p53癌抑制遺伝子の活性化又はp53タンパク質の活性を促進する物質を含む医薬組成物。
(2)p53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性化を促進する物質が、シノビオリンの発現及び/又は機能阻害物質である(1)記載の医薬組成物。
(3)シノビオリンの発現及び/又は機能阻害物質が、シノビオリンをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAである(2)記載の医薬組成物。
(4)シノビオリンをコードする遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列を含むものである(3)記載の医薬組成物。
(5)siRNAが、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである(3)記載の医薬組成物。
(6)癌を治療するための(1)〜(5)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(7)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とするp53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性化方法。
(8)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とするp53タンパク質の核への局在化方法。
(9)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してp53タンパク質を核に局在化させることを特徴とする癌の抑制方法。
(10)核に局在化したp53タンパク質に、さらに放射線照射又は紫外線照射を行うことを特徴とする請求項9記載の方法。
(11)核に局在化したp53タンパク質を含む細胞に、さらに抗癌剤を接触させ、又は当該細胞の周囲の脈管に塞栓を施すことを特徴とする請求項9記載の方法。
(12)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、p53タンパク質のアミノ酸残基の一部をリン酸化する方法。
(13)アミノ酸残基の一部が、第15番目のセリン残基である(12)記載の方法。
(14)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、リン酸化酵素の活性化方法。
(15)リン酸化酵素がATM若しくはATR又はこれらと同様の活性を持つ酵素等である(14)記載の方法。
(16)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することによりp53タンパク質を活性化し、活性化されたp53タンパク質によりp21タンパク質の発現を誘導する方法。
(17)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してp53タンパク質にp21タンパク質の発現を誘導させることを特徴とする癌の抑制方法。
(18)シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、p53タンパク質のユビキチン化を阻害する方法。
(19)シノビオリンの発現阻害が、シノビオリンをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAによるものである(7)〜(18)のいずれか1項に記載の方法。
(20)シノビオリンの機能阻害が、シノビオリンのp53タンパク質への結合機能阻害である(7)〜(18)のいずれか1項に記載の方法。
(21)シノビオリンをコードする遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列を含むものである(19)記載の方法。
(22)siRNAが、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである(19)記載の方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、シノビオリンホモノックアウトマウス胎仔線維芽細胞(MEFs)における免疫組織染色の結果を示す写真である。
図2は、syno−/−のembryoにおける抗p53抗体による免疫組織染色の結果を示す写真である。
図3は、p53に関するウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図4は、syno−/−のMEF培養細胞におけるp53のリン酸化部位を同定した結果を示す写真である。
図5は、シノビオリンに対するsiRNA処理によって亢進したSer15のリン酸化がカフェイン添加によりどのように影響するかを調べたウェスタンブロッティングの写真である。
図6は、シノビオリンに対するsiRNA処理による、p53及びp21の発現が高まることを示すウェスタンブロッティングの写真である。
図7は、フローサイトメーターによる細胞周期の観察結果を示す図である。
図8は、Tissue arrayを、抗シノビオリン抗体(10Da)を用いて免疫染色した結果を示す写真である。
図9は、Tissue arrayを、抗シノビオリン抗体(10Da)を用いて免疫染色した結果を示す写真である。
図10は、GFP野生型p53を導入した細胞におけるp53の局在を観察した写真である。
図11は、GFP野生型p53及びFLAG野生型シノビオリンを強発現させて、400倍希釈一次抗体α−FLAG抗体、200倍希釈二次抗体α−マウスIgG−TRITC又は1μM DAPIで核を染色し、p53の局在を観察した写真である。
図12は、GFP野生型p53及びFLAGシノビオリンC307Sを強発現させて、400倍希釈一次抗体α−FLAG抗体、200倍希釈二次抗体α−マウスIgG−TRITC又は1μM DAPIで核を染色し、p53の局在を観察した写真である。
図13は、MBP−Synoviolin dTM−HisによるGST−p53のin vitroユビキチン化反応を示す写真である。
図14は、シノビオリンRNAiによるRA滑膜細胞でのp53mRNA量を示すグラフである。
図15は、作製したp53結合ドメイン欠失体の概略図、及び結合アッセイを行った結果を示す図である。
図16は、p53結合ドメイン欠失体と35S−p53についてGSTプルダウンアッセイを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してp53(p53癌抑制遺伝子またはp53タンパク質を意味する)を核に局在化及び活性化させることにより、癌を抑制することを特徴とする。本発明は、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害すると、リン酸化酵素によりp53がリン酸化されてp53が活性化し、そしてサイクリン依存性リン酸化酵素阻害剤であるp21の発現が高まり、その結果、癌細胞のG1期からS期への移行が妨げられることにより癌の発生又は増殖を抑制するという知見ならびにシノビオリンがそのユビキチンリガーゼを介してp53の発現を抑制するという知見に基づき完成されたものである。
1.p53の活性化
(1)シノビオリンの発現及び/又は機能の阻害とp53の活性化
正常細胞を紫外線等にさらすと、細胞内のp53が活性化して、その結果細胞増殖が阻止されることから、p53の濃度を上昇させることにより、癌細胞の増殖を止めることができる。つまり、p53が機能しない場合は、癌細胞の増殖が止められず、癌が進行することになる。事実、p53は正常な個体の細胞にはほとんど見られないが、癌患者由来の細胞の約半数においてはこのp53の欠損変異が起こっている。また、このような変異が起こっていない場合でも、p53の制御機構に何らかの変異が生じて癌抑制機能が失われている。したがって、癌の進行を抑えるにはp53を有効に機能させることが必要である。
本発明においては、p53の活性化を癌治療の有効な方法の一つとするため、シノビオリンの機能に着目した。そして、シノビオリンホモノックアウト動物を作製し、詳細に解析したところ、野生型に比してアポトーシスを起こしている細胞が多数観察された。すなわち、シノビオリンの機能を阻害すると、アポトーシスに深く関与しているp53の活性化が促進され、シノビオリンの機能阻害が癌抑制につながることを見出した。
ここで、「シノビオリンの発現」とは、シノビオリンをコードする遺伝子の転写及び翻訳が生じること、又はこれらの転写・翻訳によりシノビオリンタンパク質が生成されることを意味する。また、「シノビオリンの機能」とは、p53の活性化を抑制することを意味し、上記シノビオリンの機能には、シノビオリンがp53と結合する機能およびp53をユビキチン化する機能も含まれる。従って、「シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する」とは、野生型シノビオリン遺伝子又はタンパク質の量、機能又は活性と比較して、その量、機能又は活性を低下又は消失させることをいう。上記「阻害」には、機能と発現の両者を阻害すること、及びどちらか一方を阻害することのいずれも含まれる。
シノビオリンはp53のユビキチン化を促進するため、シノビオリンとp53との結合を阻害することにより、p53のユビキチン化を阻害することができ、p53のユビキチン化を阻害すれば、p53は活性化され、ひいては癌の抑制につながるといえる。
なお、アポトーシスとは、細胞が自ら引き起こすプログラムされた細胞死を意味し、細胞核の染色体凝集、細胞核の断片化、細胞表面微絨毛の消失、細胞質の凝集、カスパーゼの活性化、ミトコンドリア膜電位の消失等を特徴とする。細胞に上記特徴が生じたときに、アポトーシスが引き起こされたと判断する。
本発明において、胎児胚におけるp53の免疫染色を行うと、シノビオリンホモノックアウトマウス胎児胚では全身においてp53が強く発現する。また、シノビオリンホモノックアウトマウス胎児胚から単離した胎仔線維芽細胞(MEFs)も、野生型から単離したものに比して強く発現しており、しかもp53は核内に強く局在する。この核局在は野生型ではまったく観察されない。また、シノビオリンとp53を強発現させると、p53は細胞質内にシノビオリンと共局在する。このことは、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することにより、p53を核内へ移行させることができることを意味する。さらに、シノビオリンホモノックアウトマウス胎仔MEFsでは、高い放射線感受性又は紫外線感受性を示す。従って、本発明において、癌細胞中のシノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してp53を癌細胞の核に移行させた後に、p53に対して放射線照射又は紫外線照射を行うと、癌細胞の増殖を効果的に抑制することができる。放射線照射手段は、特に限定されるものではないが、例えばγ線を1〜10Gy照射することができる。また、紫外線照射は、紫外線(波長100〜400nm、好ましくは290〜400nm)を、適当な紫外線照射装置(フナコシ社、デルマレイ社、キーエンス社製等)を用いて照射することができる。
さらに、本発明は、核に局在化したp53を含む細胞(特に癌細胞)に、さらに抗癌剤を接触させることにより、効率良く癌を抑制することが可能である。あるいは、上記核に局在化したp53を含む癌細胞の周囲の脈管(例えば血管又はリンパ管)に塞栓を施すことで、癌を抑制することもできる。
「抗癌剤」には、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、白金錯化合物、分子標的治療薬などが含まれる。これらの抗癌剤の具体例として以下のものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
<アルキル化剤>
マスタード系:シクロホスファミド(エンドキサン)、メルファラン等
アジリジン系:チオテパ等
アルキルスルホン系:ブスルファン等
ニトロソ尿素系:ニムスチン、ロムスチン等
<代謝拮抗薬>
葉酸誘導体:メトトレキセート等
プリン誘導体:メルカプトプリン、アザチオプリン等
ピリミジン誘導体:5−フルオロウラシル、テガフール、カルモフール等
<微小管阻害薬>
ビンカアルカロイド:ビンクリスチン、ビンブラスチン等
タキサン:パクリタキセル、ドセタキセル等
<ホルモン類似薬>
タモキシフェン、エストロゲン等
<白金錯化合物>
シスプラチン、カルボプラチン等
<分子標的治療薬>
イマニチブ、リツキシマブ、ゲフィニチブ等
抗癌剤を癌細胞に接触させるための方法は、p53が核に局在化した細胞が含まれる細胞又は組織(癌細胞又は癌組織)に、抗癌剤を添加する方法、あるいは担癌患者又は担癌動物に抗癌剤を投与する方法などが採用される。この場合の抗癌剤の処理量は、特に限定されるものではないが、添加する場合には100pM〜100μM、好ましくは1nM〜10μMである。動物体内に投与するときは、例えば抗癌剤としてエンドキサンを使用するときは、0.1〜100mg/kg/day、好ましくは2〜25mg/kg/dayである。エンドキサン以外の抗癌剤についても、当業者は投与量又は添加量を適宜設定することができる。
核に局在化したp53を含む癌細胞の周囲の脈管に塞栓を施すには、p53が核に局在化した癌細胞が含まれる細胞集団又は組織の周囲の血管に血栓を形成させてもよく、血管又はリンパ管については脂肪による塞栓、空気やガスによる塞栓を形成させてもよい。
(2)シノビオリンの発現及び/又は機能阻害によるp53のリン酸化促進と活性化
さらに、本発明においては、p53のアミノ酸残基の一部をリン酸化することによりp53を活性化させることを特徴とする。p53の活性化につながるリン酸化の対象となるアミノ酸残基は、p53のアミノ酸配列のうちセリン残基であることが好ましく、第15番目のセリン残基(Ser15)がさらに好ましい。
p53のSer15がリン酸化されると、p53の発現が高まり、転写活性が亢進し、その結果転写産物が増加する。このp53のSer15のリン酸化には、ATM(ataxia−telangiectasia mutated)、ATR(ataxia−telangiectasia related)、等のリン酸化酵素が深く関与している。ATMは、ヒトの常染色体性劣性遺伝疾患である毛細血管拡張性運動失調症の原因タンパク質であり、DNAの損傷を感知して癌抑制遺伝子p53をリン酸化することで細胞の増殖をコントロールする機能を有する。ATRは、ATMのファミリーの一つであるが、広範囲にわたる化学療法薬、紫外線の照射、あるいはタンパクリン酸化酵素の抑制により誘導され、かつ、ATMが関与しないp53の活性化に関与するリン酸化酵素である。
ATM及びATRは、カフェインによりその機能が阻害されることが知られているが、本発明においては、シノビオリンの発現及び/又は機能の阻害実験にカフェインを用いることにより、シノビオリンがATM及びATR活性化を調節していることが判明した。
すなわち、カフェイン非存在下において、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害するとp53が活性化される。一方、カフェイン存在下でシノビオリンの発現及び/又は機能を阻害すると、p53の活性化は抑制される。また、カフェインによりATM及びATRの活性(p53のリン酸化)が阻害されることは知られている。
カフェインによりATM及びATRの活性を阻害することにより、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してもp53は活性化されないことから、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害すると、ATM及びATRが活性化されてp53の活性化を誘導するというメカニズムが考えられる。そうすると、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することによりこれらのリン酸化酵素活性が高められるといえる。従って、本発明は、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することにより、リン酸化酵素の活性化を促進することを特徴とする。ATM及びATRと同様の活性を有する酵素等(P53をリン酸化する酵素等)は、DNA−PK又はGSK3β等でも良い。
p53のSer15がリン酸化されることにより発現が誘導される物質としては、p21というタンパク質が知られている。p21は、サイクリン依存性リン酸化酵素(CDK)活性の阻害剤として機能し、CDK活性を阻害することにより、細胞周期の調節を担うタンパク質である。CDKは、細胞周期の抑制の要となり、そのパートナーであるサイクリンタンパク質と共に機能し、例えば、細胞の休止状態であるG1期からDNAの複製期であるS期へのスムーズな移行を司る。癌細胞において、p53が活性化されると、CDK阻害剤であるp21の発現が高まるため、癌細胞のG1期からS期への移行が妨げられることにより癌が抑制される。従って、本発明は、上記のように、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害させることにより、p53の活性化を高めてp21の発現を誘導させ、CDKの阻害を起こすことにより癌を抑制することを特徴とする。
(3)p53のユビキチン化の阻害と安定化
シノビオリンは、p53をユビキチン化する。ユビキチン化とは、タンパク質の分解マーカー分子であるユビキチンによるタンパク質の翻訳後の修飾反応をいう。このユビキチン化の生理的意義は、プロテオソーム系のタンパク質分解機構へ送られるためのタグ修飾として、従来認識されていた。そして、その後の研究により、現時点でのユビキチン化の意義は、タンパク質機能を制御する可逆的タンパク質修飾システムとして位置づけられている。
ユビキチン化は、具体的には、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンリガーゼ(E3)などの酵素が協同したカスケード反応を繰り返すことにより、基質となるタンパク質にユビキチン分子を枝状に結合させてポリユビキチン鎖を形成する過程をいう。このポリユビキチン鎖は、ユビキチン分子内の48番目のリシン残基のε−アミノ基を介して形成され、268プロテアソームへの分解シグナルとなり、標的タンパク質を分解に導く。
本発明は、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することによりp53を活性化させることを特徴とし、このようなp53の活性化は、上記p53のリン酸化機構とは別に、p53のユビキチン化が阻害されるという機構に着目したものである。
(4)シノビオリンとp53の結合部位の決定
シノビオリンのp53結合ドメインは、例えば、シノビオリンのアミノ酸配列のうち、ある領域を欠失させた、p53結合ドメイン欠失体を数種類作製して、35S−p53についてGSTプルダウンアッセイを行うことにより決定することができる。具体的には、上記のシノビオリンのp53結合ドメイン欠失体をGST−融合タンパク質として大腸菌等で発現させて、35S−p53タンパク質とのタンパク質−タンパク質間結合をGSTプルダウンアッセイ法により確認する。
これにより、シノビオリンにおけるp53結合ドメインは、シノビオリンタンパク質に含まれるアミノ酸配列(配列番号2)の第236から270番目までの35アミノ酸残基であることが判明した。
前記の通り、シノビオリンはp53のユビキチン化を促進する。従って、シノビオリンの機能の一つであるp53への結合機能を阻害することにより、p53のユビキチン化が阻害され、p53が活性化される。p53との結合に関与するシノビオリンタンパク質の領域は、好ましくはシノビオリンのアミノ酸配列の第236から270番目の領域である。従って、主に上記領域を、結合阻害のための標的領域として選択することが好ましい。シノビオリンとp53との結合を阻害するためには、例えばシノビオリンに対するアンタゴニスト(低分子化合物、ペプチド等)を作用させ、バインディングアッセイ、イーストツーハイブリッド法又はユビキチン化活性測定法により評価することができる。あるいは、シノビオリンの上記第236から270番目の領域を認識する抗体をシノビオリンと反応させることもでき、これらの方法により、シノビオリンとp53との結合が阻害される。
2.シノビオリン発現及び/又は機能阻害並びに活性阻害
p53を活性化するためには、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する方法が採用される。
シノビオリンの発現及び/又は機能阻害には、特に限定されるものではないが、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができる。シノビオリン遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
RNAiとは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
(a)シノビオリンをコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。例えば、ヒトの場合では、GenBank Accession number AB024690(配列番号1)の任意の領域を候補にすることができる。
(b)選択した領域から、AA始まる配列を選択し、その配列の長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。その配列のGC含量は、例えば40〜60%となるものを選択するとよい。具体的には、配列番号1に示される塩基配列のうち、以下の塩基配列から選ばれる少なくとも1つの配列を含むDNAをsiRNAの標的配列として使用することができる。特に、(i)(配列番号3)、(ii)(配列番号4)、(vi)(配列番号8)、(vii)(配列番号9)、(viii)(配列番号10)を標的とすることが好ましい。


siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本のRNAをアニールする方法などを採用することができる。
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNAとは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
shRNAは、その一部がステムループを構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるシノビオリン遺伝子(配列番号1)の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
3.医薬組成物
本発明において作製されたshRNA、siRNAは、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する物質であり、p53を活性化させる医薬組成物(特に癌の遺伝子治療剤)として使用することができる。
本発明の医薬組成物を癌の遺伝子治療剤として使用する場合は、適用部位は特に限定されず、脳腫瘍、舌癌、咽頭癌、肺癌、乳癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、肝癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、皮膚癌、各種白血病(例えば急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫)、等を対象として適用される。上記癌は、原発巣であっても、転移したものであっても、他の疾患と併発したものであってもよい。
本発明の医薬組成物を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の医薬組成物を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
また、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAやshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等に全身投与する。脳等に局所投与することもできる。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合の投与量は1日1回あたり10〜1013個程度であり、1週〜8週間隔で投与される。
siRNA又はshRNAを目的の組織又は器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えばアデノエクスプレス:クローンテック社)を用いることもできる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
MEF培養細胞におけるp53の活性化の検討
シノビオリンホモノックアウトマウス(syno−/−)胎児線維芽細胞(MEFs)におけるp53をウェスタンブロッティングにより検出し、さらに細胞を免疫組織染色により確認した。
すなわち、免疫染色法は、MEFsを常法に従いスライドガラス上に固定し、抗p53抗体(マウスモノクローナル抗体BD:Becton,Dickinson社)を用いて免疫染色を行った。3%牛血清アルブミン(BSA)で30分ブロッキングを行った標本に、0.3%BSAで希釈した抗p53抗体(BD:10μg/ml)を室温で60分免疫反応させた。反応後の標本をPBSで洗浄後、TRITC標識抗マウスIgG抗体(Dako社)を2次抗体として免疫反応させた。抗p53抗体に免疫反応する抗原の確認は、蛍光顕微鏡で行った。
その結果、野生型に比し、syno−/−のMEF培養細胞ではp53の活性化を起こしている細胞が多数確認された(図1、「MEF−/−」のパネル)。
【実施例2】
syno−/−マウスにおけるp53活性化の検討
syno−/−マウスにおけるp53活性化の検討を、embryoを用い免疫染色により行った。
すなわち、syno−/−の胎仔における免疫染色は、常法に従い組織をスライドガラス上に固定し、ベクタステインABCキット(VECTOR社)を用いて行った。ブロッキング試薬で30分ブロッキングした標本に対して、5μg/mlに希釈した抗p53抗体FL393を室温で60分間免疫反応させた。反応後の標本をPBSで洗浄し、HRP標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として免疫反応させた。抗p53抗体に免疫反応する抗原は、HRP活性に基づく3,3’−ジアミノベンジジン四塩酸塩の発色により確認した。対比染色としてメチルグリーン染色を行った。
この結果、syno−/−のembryoにおけるp53が活性化していることが確認された(図2)。
【実施例3】
p53に対するシノビオリンの効果
syno−/−のMEF培養細胞におけるp53をウェスタンブロッティングにより検出した。
すなわち、各種細胞を細胞破砕液(50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、1%NP40、1mM PMSF、0.1%sodium dodecyl sulfate(SDS)、2μg/ml Leupeptin、2μg/ml Aprotinin、2μg/ml Pepstatin)を用いて細胞破砕画分を調製した。その後、SDSポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)により細胞破砕画分を分離した。SDS−PAGE後、細胞由来タンパク質は、エレクトロブロッティング法によりニトロセルロース(NC)膜に転写した。このNC膜に対し、5%スキムミルクを加えたTris buffered saline(TBS)で室温、1時間ブロッキングした後、抗p53抗体c−terminal aa;195−393またはFL393を5%スキムミルクを加えたTBSで希釈して室温、1時間免疫反応させた。反応後のNC膜を0.1%Tween20/TBSで洗浄し、horse radish peroxidase(HRP)標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として室温、1時間免疫反応させ、0.1%Tween20/TBSで洗浄し、HRP活性を検出することにより目的抗原を検出した。HRP活性の検出にはECLキット(Amersham社)を用いた(Clinical Chemistry.25,p1531,1979)。
その結果、ウェスタンブロッティングによりsyno−/−のMEF培養細胞におけるp53発現量が増加していることが確認された(図3)。
【実施例4】
syno−/−のMEF培養細胞におけるp53のリン酸化部位の同定
本実施例においては、抗p53抗体を用いたウェスタンブロッティングによりp53のリン酸化部位の同定を行った。
すなわち、p53(配列番号17)の異なるセリン残基のリン酸化を認識する4種の抗リン酸化p53モノクローナル抗体(Phospho−p53(ser15)、Phospho−p53(ser20)、Phospho−p53(ser37)およびPhospho−p53(ser46);Becton,Dickinson社)を用いて、MEF細胞の蛋白質をSDS−PAGEで分離し、ウェスタンブロッティング法を行った。ウェスタンブロッティング法の操作は、一次抗体として抗リン酸化p53モノクローナル抗体を、そして標識抗体として抗マウスIgGヒツジ−HRPを用いる他は実施例3に記載のとおりである。
その結果、syno−/−のMEF培養細胞において、p53のアミノ酸配列(配列番号17)中、第15番目のセリン残基のリン酸化が顕著であった(図4)。図4において、左上のパネルが、第15番目のセリン残基がリン酸化されたものである。53kDa付近のバンドが顕著に濃く表れている。
【実施例5】
Ser15のリン酸化亢進のメカニズムの解明
細胞株として野生型のp53を発現していることが確認されているRKO(ヒト大腸がん由来細胞株)を60mmプレートに1.0x10細胞/プレート/2mLで細胞を播種し、Oligofectamineを用いてGFPおよびシノビオリンに対するsiRNAをトランスフェクトした後、72時間後にSer15のリン酸化に重要なATM(ataxia−telangiectasia mutated)およびATR(ATM and Rad3 related)の阻害剤であるカフェイン(10mM)を添加し、リン酸化Ser15−p53に対する抗体Phospho−p53(ser15)を用いてウェスタンブロッティングを行った。
その結果、シノビオリンに対するsiRNAによって亢進したSer15のリン酸化はカフェイン添加(添加後12時間、24時間)により、完全に阻害された(図5)。よって、シノビオリンは通常、ATMおよびATRの機能を阻害することで、p53の抑制をしていることが示された。
【実施例6】
p53により誘導されるp21の発現にシノビオリンが及ぼす影響
RKO細胞をシノビオリンに対するsiRNA処理し、p53の転写産物であるp21の発現の変化をウェスタンブロッティングで検討した。
すなわち、抗p21ポリクローナル抗体(Santa Cruz社)を用いて、細胞株として野生型のp53を発現していることが確認されているRKO(ヒト大腸がん由来細胞株)を60mmプレートに1.0x10細胞/プレート/2mLで細胞を播種し、Oligofectamineを用いてGFPおよびシノビオリンに対するsiRNAをトランスフェクトした後、72時間後の蛋白質をSDS−PAGEで分離し、ウェスタンブロッティング法を行った。ウェスタンブロッティング法の操作は、一次抗体として抗p21ポリクローナル抗体を、そして標識抗体として抗マウスIgGヒツジ−HRPを用いる他は実施例3に記載のとおりである。
その結果、シノビオリンに対するsiRNA処理によって、p53の発現が高まると同時に、p21の発現も増加した。この効果は72時間で明確に示された(図6)。
【実施例7】
シノビオリン発現阻害によるp53関連タンパク質の発現、細胞周期への影響等の検討
本実施例においては、滑膜細胞におけるシノビオリンを、RNAi効果により阻害した際のp53関連タンパク質の発現、細胞周期への影響の検討を行った。
RA滑膜細胞を10cmディッシュに9.0x10細胞で播種し、シノビオリンsiRNA(最終濃度25nM)をトランスフェクトした後、フローサイトメーターにより細胞周期を観察した。その結果、siRNA 25nM(No.589)では、G0/G1期における細胞周期の遅延が見られた(図7)。
siRNAとしてはh589を用いた。
なお、h589とは、以下のセンス鎖及びアンチセンス鎖ををアニールさせた2本鎖RNAを意味する。

【実施例8】
癌組織におけるシノビオリンの発現の検討
Tissue array(CHEMICON社:10 common human cancer tissue with normal human tissue)を、抗シノビオリン抗体(10Da)を用いて免疫染色した。
免疫染色に使用した抗体濃度は8μg/mlであり、使用したキットはシンプルステインMAX(M)である。
その結果、正常組織でのシノビオリンの発現は、大腸、腎、肺、卵巣、精巣、皮膚及び乳腺で認められたのに対し、神経及びリンパ節では認められなかった。また、各腫瘍組織においてシノビオリンの発現が確認され、特に、発現が明らかに亢進していると判断された組織は、神経・リンパ節であった(図8及び図9)。
【実施例9】
培養細胞中でシノビオリン及びp53を共発現させた場合の各々の局在への影響
3種類のプラスミド、GFP−p53、FLAG−synoviolin、およびFLAG−synoviolin C307S(ユビキチン(Ub)化活性なし)をSaos2細胞に導入した。
各プラスミドは、以下の通りである。
GFP−p53:Green fluorescence proteinと野生型p53のフュージョン蛋白発現
FLAG−synoviolin:FLAGタグつき野生型シノビオリン発現
FLAG−synoviolin C307S(ユビキチン(Ub)化活性なし):FLAGタグつき失活型シノビオリン発現
fuGENE6(Roche)によるトランスフェクション処理して24時間後に10%ホルマリンで固定し、400倍希釈一次抗体α−FLAG抗体、200倍希釈二次抗体α−mouse IgG−TRITC、1μM DAPIで核を染色して、その局在を観察した。
その結果、野生型p53は強発現させると核に局在することが観察された(図10)。野生型シノビオリンは強発現すると細胞質(特に核周辺)に局在した。また、野生型p53と野生型シノビオリンを強発現させると、本来核に局在するp53が核周辺に細かいドット状に分布し、シノビオリンと共局在していることが観察された(図11)。野生型p53とシノビオリンC307S mutantを強発現させると、p53が細胞質内に大きなドットを形成し、シノビオリンと共局在していることが観察された(図12)。
以上のことから、シノビオリンとp53は一定条件下で共局在することが示された。ユビキチン化活性の有無でその局在の形態が変化することが考えられる。
【実施例10】
MBP−Synoviolin dam−HisによるGST−p53のin vitroユビキチン化の検討
シノビオリンの細胞内における増減によりp53の細胞内タンパク質量の変動が観察されており、シノビオリンによるp53の制御が示唆されている。そこで、シノビオリンが直接p53をユビキチン化(Ub)するか否かを調べるために、GST−p53およびMBP−Synoviolin dTM−Hisを用いてin vitro Ub化反応の検討を行った。
GST−p53:N末端側にGSTを融合させたp53を大腸菌内で発現させ、それを生成して得た画分。
MBP−Synoviolin dTM−His:N末端側にMBP,C末端側にHisタグを融合させたシノビオリンを大腸菌内で発現させ、それを精製して得た画分。
pGEX/p53を保持した大腸菌(BL21)を500mlのLB培地で培養し、IPTGによる誘導後(1mM、30℃、6h)、培養液より0.5%NP−40を含む緩衝液を用いて大腸菌抽出液を調製した。
大腸菌抽出液よりGST−p53をGSH−セファロース樹脂を用いて0.1%NP−40存在下で精製した。その透析後の試料を用いて、MBP−Synoviolin dTM−Hisおよび他のin vitro Ub化反応に用いる組成物(ATP、PK−His−HA−Ub、yeast E1、His−UbcH5c)を組み合わせて反応を行った(図13)。反応後、タンパク質を7.5%SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜上に転写して抗p53抗体(FL393あるいはDO−1)により膜上のp53タンパク質を検出した。また、GST−p53の添加量を変化させて同様の反応および検出を行った。
その結果、GST−p53精製画分およびMBP−Synoviolin dTM−Hisを含む全ての組成物を添加した場合に、約90kDaの位置を中心としてp53由来のラダー状のシグナルが観察された(図13)。また、それらのシグナルは、GST−p53の添加量に依存して増強した。これらの結果から、シノビオリンが直接p53のユビキチン化に関与していると言える。従って、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することにより、p53のユビキチン化を抑制できることが示された。
【実施例11】
RNAi下におけるシノビオリン、p53 mRNA量の検討
本実施例では、シノビオリンRNAi条件下において、シノビオリン及び関連遺伝子について、経時的にmRNA量の変化を検討することでシノビオリンが細胞周期、アポトーシスなどへ及ぼす影響を検討した。
RA滑膜細胞を30000cells/10cmディッシュで播種し、定法に従い25nM siRNA(No.589)をトランスフェクションし、細胞培養4日間の間、経時的に細胞を回収し、mRNAを得た。1μgのmRNAをテンプレートとし、ランダムプライマーを用いて逆転写PCRを行い、cDNAを得た。得られたcDNAについて、ABI TaqMan Gene expression assay(GEX)を用いて、定量を行った。対照遺伝子を18S rRNAとしてmRNA量を算出した。
GEX試薬ターゲットアッセイNo.(アッセイID)は、シノビオリンがHs00381211_m1、TP53がHs00153340_m1である。
その結果、シノビオリンsiRNA存在下では、シノビオリンmRNA量が減少するが、p53のmRNA量は変化していないことが確認された(図14)。
【実施例12】
シノビオリンのp53結合ドメインの決定
GST−Synoviolinとp53がIn vitroプルダウンアッセイで結合し、それにはシノビオリンタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)の第236から270番目までの35アミノ酸残基が必要十分である。
そこで、本実施例では、さらに、シノビオリンがp53に結合するために必要なドメインを同定するために、図15に示すように、シノビオリンのp53結合ドメイン欠失体を作製して、35S−p53について以下の通りGSTプルダウンアッセイを行った(図16)。
100μLのCompetent cell(BL−21株)を1μLの各GSTタンパク質をコードしたプラスミドで形質転換した。各GSTタンパク質とプラスミドの名前は以下のとおりであった。
GSTタンパク質:プラスミド
GST:pGEX−6P−1(Pharmacia Biotech)
GST−SynoΔTM236−617:pGEX−5−1/SΔTM
GST−SynoΔTM236−270:p6−3
GST−SynoΔTM271−617:pST490
4mLのLB−Amp+に接種し、37℃で一晩培養した。翌日Pre−cultureのOD600を測定し、15mlのLB−Amp+にOD600=3.0相当を接種した(終濃度≒0.2)。25℃恒温槽で約2hr培養し、OD600=0.6〜0.8になったことを確認した後、恒温槽に氷を加えて20℃に冷却し、培養容器を10分つけて20℃まで冷却した。0.1M IPTGを15μL(終濃度=0.1mM、通常の1/1000)、1mM ZnClを150μL(終濃度=10μM)加えて、20℃で4hr震盪培養しGSTタンパク質の発現を誘導した。誘導後、遠心して細胞を回収した(5000rpm、5min、4℃)。1ml PBS(−)に細胞を再懸濁し、エッペンドルフチューブに移し、細胞を回収した(14000rpm、1min、4℃)。上清を全て吸い取った後、500μLのPBS(−)/Z(PBS(−)/10μM ZnCl)に再懸濁し、液体窒素で凍結、−20℃で保存した。翌日−20℃のサンプルを37℃の恒温槽に10minつけて融かし、次に氷水中につけて0℃まで冷却した。以下のプロテアーゼ阻害剤を混合し、1サンプルあたり6.5μL加えた。
100mM PMSF(Final 1mM) 20μl
Aprotinin(Final 0.1%) 2μl
0.5mg/ml PepstatinA(Final 0.5μg/ml)2μl
1mg/ml Leupeptin(Final 1μg/ml) 2μl
各サンプルを超音波破砕した(Power Level 7、15秒、3回)。一回ごとに氷水中に30秒つけて冷却した。次に500μLの2x GST Buffer/Z(2%TritonX−100、720mM NaCl、1x PBS(−)、10μM ZnCl、10mM β−Mercaptoethaol、2mM PMSF、0.1%aprotinin)を加え混合後、さらに超音波破砕した(Power Level 7、15秒、1回)。破砕した液を14000rpm 30min 4℃で遠心した。この間に1mlの1x PBS(−)で200μLの80%−slurry Glutathione Sepharoseビーズを3回洗い、160μLの1x PBS(−)を加え、50%−slurryに調整した。遠心後の上清1mlに80μLの50%−slurry Glutathione Sepharoseビーズを加え、4℃で2hr RotationしてGSTタンパク質をビーズに結合させた。1mLの1x GST−Buffer/Z(1%TritonX−100、360mM NaCl、0.5x PBS(−)、5μM ZnCl、5mM β−mercaptoethanol、1mM PMSF、0.05%aprotinin)で4回ビーズを洗った。遠心は2000rpm、1min、4℃で行った。残った上清を全てきれいに吸いとった後、60μLの1x GST−Buffer/Zを加え、合計100μLにした。このうち10μLを等量の2x SDS Sample Bufferと混ぜ、100℃、5min、ヒートブロックで熱し、10μLずつ10%ゲルにApplyした。同時に0.25〜4μgのBSAもApplyした。泳動(150V50min)、CBB染色(未使用のもので30min)、脱色(1hrを2回)、グリセロール水(30〜60min)、(ゲル乾(80℃、1hr)して、GSTタンパク質の発現、回収効率をチェックした。翌日、35S−p53のIn vitro Translationを行った。まず、以下の試薬を混合した。
TNT Reticulocyte Lysate(−80°C) 25μL
TNT Reticulocyte Buffer(−80°C) 2μL
Amino Acids Mixture(−Met)(−80°C) 1μL
DEPC−treated Water 15μL
RNase Inhibitor(培養室−20°C) 1μL
TNT polymerase(培養室−20゜C) 1μL
35S−Met 4μL
Plasmid (p53・HA) 1μL
Total 50μL
30℃恒温槽で1.5〜2.5hr保温し、In vitro Translationした。この間にG−25カラムのふたを緩めて軽く遠心(2500rpm、1min、4℃)し、100μLのPull−down Buffer V(20mM HEPES pH7.9、150mM NaCl、0.2%Triton X−100)を乗せてさらに遠心し、カラムを洗った。このカラムにIn vitro Translation溶液を50μL全量乗せて遠心した(2500rpm、1min、4℃)。さらに200μLのPull−down Buffer Vを乗せて、再度遠心した(2500rpm、1min、4℃)。これをIn vitro Translation Product(IvTL)として用いた。そのうち4μLを、16μLのMilli−Q、20μLの2x SDS Bufferと混ぜ、On put 10%とした。30μgのGSTタンパクが結合したビーズを含んだ1mlのPull−down Buffer Vに120μLのIvTLを加え、4℃で1hr Rotationした。遠心(10000rpm、1min、4℃)した後、上清を370μLずつGST、各GST−Synoviolinビーズを含んだ1mlのPull−down Buffer Vに加え、4℃で1hr Rotationした。このビーズを1mlのPull−down Buffer Vで4回洗った。この時上清は必ず100μLぐらい残し、ビーズを吸い取らないようにした。遠心は2500rpm、1min、4℃で行った。上清を吸いとった後、40μLの1x SDS Sample Bufferを加えて、Pull−downサンプルとした。On put 10%とPull−downサンプルを100℃で5min、熱し、−20℃で保存した。翌日サンプルを37℃の恒温槽で10min温め、10μLずつ10%ゲルにApplyした。泳動(150V50min)、CBB染色(30min)、脱色(1hr x 2)、グリセロール水(30〜60min)、ゲル乾(80℃、1hr)した後、IP Plateに露光させた。14時間後、露光したIP PlateをBASで読み取り、ImageGaugeで定量した。またC.B.B.染色したゲルはフィルムスキャナーで読み取った。
その結果、p53結合ドメイン欠失体は結合活性をほぼ完全に失っていた。また、図15から、p53結合ドメインは236から270アミノ酸の35アミノ酸の一ヶ所のみであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明により、p53癌抑制遺伝子の活性を促進する物質が提供される。この物質は、p53を活性化してp53を核に移行させることができるため、癌の治療用医薬組成物として有用である。本発明において、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することにより、癌の治療が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号17:合成オリゴヌクレオチド(DNA/RNA混合物)
配列番号18:合成オリゴヌクレオチド(DNA/RNA混合物)
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
p53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性を促進する物質を含む医薬組成物。
【請求項2】
p53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性化を促進する物質が、シノビオリンの発現及び/又は機能阻害物質である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
シノビオリンの発現及び/又は機能阻害物質が、シノビオリンをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAである請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
シノビオリンをコードする遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列を含むものである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
siRNAが、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項6】
癌を治療するための請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とするp53癌抑制遺伝子又はp53タンパク質の活性化方法。
【請求項8】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とするp53タンパク質の核への局在化方法。
【請求項9】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してp53タンパク質を核に局在化させることを特徴とする癌の抑制方法。
【請求項10】
核に局在化したp53タンパク質に、さらに放射線照射又は紫外線照射を行うことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
核に局在化したp53タンパク質を含む細胞に、さらに抗癌剤を接触させ、又は当該細胞の周囲の脈管に塞栓を施すことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、p53タンパク質のアミノ酸残基の一部をリン酸化する方法。
【請求項13】
アミノ酸残基の一部が、第15番目のセリン残基である請求項12記載の方法。
【請求項14】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、リン酸化酵素の活性化方法。
【請求項15】
リン酸化酵素がATM若しくはATR又はこれらと同様の活性をもつ酵素等である請求項14記載の方法。
【請求項16】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することによりp53タンパク質を活性化し、活性化されたp53タンパク質によりp21タンパク質の発現を誘導する方法。
【請求項17】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害してp53タンパク質にp21タンパク質の発現を誘導させることを特徴とする癌の抑制方法。
【請求項18】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、p53タンパク質を活性化する方法。
【請求項19】
シノビオリンの発現阻害が、シノビオリンをコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAによるものである請求項7〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
シノビオリンの機能阻害が、シノビオリンのp53タンパク質への結合機能阻害および/又はユビキチン化阻害である請求項7〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
シノビオリンをコードする遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列を含むものである請求項19記載の方法。
【請求項22】
siRNAが、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである請求項19記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/061001
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516545(P2005−516545)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019800
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(301050902)株式会社ロコモジェン (15)
【Fターム(参考)】