説明

癌の検出に使用するための、約12317残基〜約16254残基の間のミトコンドリアDNAの欠失

本発明は、癌の予測、診断および測定のための方法に関する。方法は、生物学的試料を得るステップ、試料におけるミトコンドリアDNA異常を測定するステップ、参照値とmtDNA異常のレベルとを比較するステップを含む。本発明の方法は、新たな治療薬および治療方法を検査するのに有効であり、予防措置または治療措置に対する被験者の反応をモニタリングするのに役立つ可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本願は、2007年11月9日に出願されたUS特許出願番号61/002,637の優先権主張出願であり、当該出願の内容は、参照により本願に含まれる。
【0002】
本発明は、ミトコンドリアゲノミクス分野に関する。具体的には、本発明は、ヒトミトコンドリアゲノムの変異の検出、および癌の指標としてのそれらの使用に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
(診断ツールとしてのミトコンドリアDNA)
ミトコンドリアDNA(mtDNA)配列のダイナミクスは、重要な診断ツールである。mtDNA内の変異は、多くの場合、発病の事前的指標であり、核の変異を伴う場合が多い。mtDNA内の変異は、以下のもののバイオマーカーとして機能する。すなわち、疾病(例えば、喫煙および受動喫煙を原因とする組織損傷および癌などの疾病であるが、これらに限定されない)(Lee et al., 1998; Wei, 1998);20歳位から始まり、その後増加するミトコンドリアゲノム突然変異の蓄積による加齢(von Wurmb, 1998);突然変異、または、発癌物質、突然変異原、紫外線への曝露によって発症する転移性疾患(Birch-Machin, 2000);変形性関節症、心疾患、アルツハイマー症、パーキンソン病(Shoffner et al., 1993; Sherratt et al., 1997;Zhang et al, 1998);加齢による難聴(Seidman et al., 1997);視神経の変性および不整脈(Brown et al., 1997; Wallace et al., 1988);慢性進行性外眼筋麻痺(Taniike et al., 1992);アテローム性動脈硬化(Bogliolo et al., 1999);甲状腺乳頭癌および甲状腺腫瘍(Yeh et al., 2000);およびその他(例えば、Naviaux, 1997; ChinneryおよびTurnbull, 1999)。
【0004】
ミトコンドリアゲノムの特定部位における変異が、特定の疾病をもたらす可能性がある。例えば、4216、4217および4917の位置での変異は、レーベル遺伝性視神経症(LHON)と関連がある(Mitochondrial Research Society; Huoponen (2001); MitoMap)。ユビキノールシトクロムcレダクターゼ(錯体III)欠失症を患っている5人の患者のうちの5人において、15452の位置における変異が見出された(Valnot et al.1999)。
【0005】
具体的には、これらの変異または変性は、点突然変異(転位、転換)、欠失(1塩基〜数千塩基)、逆位、重複(1塩基〜数千塩基)、組換えおよび挿入(1塩基〜数千塩基)を含む。加えて、特定塩基対の変性、欠失またはそれらの組み合わせが、早期の前立腺癌、皮膚癌および肺癌、ならびに加齢に関連すること(例えばPolyak et al., 1998)、早期老化、発癌性物質への曝露に関連すること(Lee et al., 1998)などがわかっている。
【0006】
(前立腺癌)
前立腺癌は、前立腺上皮に由来する可能性が最も高い固形癌と診断されることが多い(Huang et al. 1999)。1997年、約1000万人のアメリカ人男性が、その有無により前立腺癌を検知する前立腺特異抗原(PSA)の検査を受けた(Woodwell, 1999)。実際、初期の直腸指診(DRE)の検査を受けた男性の数は、より多い。同年、3100万人の男性がDREを受けた(Woodwell, 1999)。さらに、アメリカ合衆国において前立腺癌と新たに診断された年間の件数は、179,000件と推定される(Landis et al., 1999)。カナダ人男性の中では、前立腺癌は、癌の診断数および癌によって死亡する原因の第2位を占める。1997年、前立腺癌は、カナダ人男性の中で新たに癌と診断された件数のうちの、19,800件を占めた(28%)(National Cancer Institute of Canada)。49歳以上の全男性のうち、30〜40%が何らかの癌性前立腺細胞を有しており、そのうち20〜25%の男性が、臨床的に有意な形態の前立腺癌をもつと推測される(SpringNet - CE Connection, internet, www.springnet.com/ce/j803a.htm)。前立腺癌は、内生要因および外生要因の両方、すなわち、社会経済状況、食事、地理、ホルモン失調、家系、および遺伝子構成を含む広範な組織学的性質を示す(Konishi et al. 1997; Hayward et al. 1998)。特定のmtDNA変性が前立腺癌に関連付けられてきたが、前立腺癌の検出のためのさらなるマーカーが必要である。
【0007】
(乳癌)
乳癌は、乳腺組織の癌であり、癌による死亡原因の第5位を占める。2005年、乳癌によって全世界で502,000人が亡くなった(癌死亡者の7%、全死亡者の1%近く)(世界保健機構 Cancer Fact Sheet No. 297)。世界の女性の中で、乳癌が最も一般的な癌であり、癌による死因の第1位を占める(世界保健機構 Cancer Fact Sheet No. 297)。例えばParrella et al.などは、特定のmtDNA変性が乳癌をもたらすとしたが(Cancer Research: 61, 2001)、乳癌の検出のためにさらなるマーカーが必要である。
【0008】
上記背景技術の情報は、本発明に関連し得ると出願人が考える周知の情報を提供することを目的とする。よって、下記情報のうちのいずれかが本発明に対する先行技術を構成することを認めるものではなく、そのように解釈されるべきではない。
【0009】
〔発明の要約〕
本発明は、癌の検出に使用するミトコンドリアDNA変異に関する。本発明の一形態によれば、個体における癌の検出方法は、
a)個体から生物学的試料を得るステップ;
b)上記試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ;
c)上記試料において、ヒトmtDNAゲノムの約12317残基〜約16254残基の間にmtDNA配列の欠失を有するmtDNAの量を定量するステップ、および
d)少なくとも1つの周知の参照値と、欠失を有する試料におけるmtDNAの量とを比較するステップ、を含む。
【0010】
本発明の別の形態によれば、癌の進行に関する個体の測定方法は、
a)生物学的試料を得るステップ;
b)上記試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ;
c)上記試料において、ヒトmtDNAゲノムの約12317残基〜約16254残基の間にmtDNA配列の欠失を有するmtDNAの量を定量するステップ、および、
d)一定期間にわたってa)〜c)のステップを繰り返すステップを含み、一定期間を経た後の欠失の増加レベルが癌の指標である。
【0011】
本発明の別の形態によると、個体における癌の検出方法は、
a)個体から生物学的試料を得るステップ;
b)上記試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ;
c)上記試料において配列番号1または配列番号2に記載の配列に対応する配列を有するmtDNAの量を定量するステップ;および、
d)上記試料において配列番号1または配列番号2に対応するmtDNAの量と、少なくとも1つの周知の参照値とを比較するステップを含む。
【0012】
本発明の別の形態によると、
a)1つ以上の生物学的試料を収集するための材料;および、
b)mtDNA欠失の検出に適したプライマーおよび試薬を含む、本発明の方法を実施するための診断キットを提供する。
【0013】
〔図面の簡単な説明〕
添付の図面の参照、および下記詳細な説明から、本発明の上記および他の特徴が明らかとなるであろう。
【0014】
図1は、実施例1のサイクル閾値(cycle threshhold)を示すグラフである。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態の特異性および感度を示すROC曲線である。
【0016】
図3は、実施例2に関するサイクル閾値を示すグラフである。
【0017】
図4は、本発明の別の実施形態の特異性および感度を示すROC曲線である。
【0018】
図5は、4kbの欠失の検出に有効なプライマーの設計および配列を示す概略図である。
【0019】
図6は、本発明の別の実施形態の特異性および感度を示すROC曲線である。
【0020】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、癌の予測、診断および検査方法を提供する。当該方法は、1つ以上の生物学的試料を得るステップと、試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと、試料内のミトコンドリア変異の量を測定するステップと、参照値と試料内の変異の量とを比較するステップとを含む。即ち、方法は、発病を検知する、および個体が癌になる傾向を評価するための総合的ツールを提供する。本方法によって、経時的に個体の危険因子を測定することができ、および/または、治療薬および治療計画への患者の反応を測定することができる。
【0021】
〔定義〕
特段別に定義されない限りは、本願に使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者が共通に理解する意味を有する。
【0022】
本願にて使用するとき、「約」という用語は、言及した値から妥当な範囲の偏差があることを意図する。本願において提供されたあらゆる既定値は、具体的に示されているか否かに関わらず、このような偏差が常に有するものと解釈されるものである。
【0023】
本願にて定義するとき、「生物学的試料」とは、mtDNAが得られる細胞を含む組織または体液を意図する。例えば、生物学的試料を、乳房組織または前立腺組織などの組織、または血液、唾液、脳脊髄液、喀痰、尿、粘膜、滑液、腹水、羊水などから抽出することができる。生物学的試料は、外科検体(surgical specimen)または生検検体(biopsy specimen)であってもよい。生物学的試料は、供給源から得られたものをそのまま使用してもよいし、または、前処理を行ってその特性を変更したものであってもよい。したがって、血清、破壊細胞からプラズマまたは血清を調製する、固形原料から液体、希釈粘液、濾液、濃縮液、不活性化干渉要素、添加試薬などを調整することによって、使用前に生物学的試料に前処理を施すことができる。
【0024】
本願において、「サイクル閾値」(CT)という用語は、リアルタイムPCRを用いた目的物の増幅が、蛍光シグナルなどの信号によって示されるときに、バックグラウンドを超えて上昇する点である。CTは、検査される配列の量に反比例する。
【0025】
本願において、「診断」とは、疾病の診断または管理における要素として、変異または変異の組み合わせが存在するか否かを使用することを意図する。変異の検出は、疾病の診断における1つのステップであり得る。
【0026】
本願において、「欠失」とは、mtDNAの連続した配列から、mtDNAの或る領域が除去されることを意図する。欠失は、1塩基〜数千塩基、またはそれ以上の塩基の大きさに及ぶ。
【0027】
本願において、「ミトコンドリアDNA」または「mtDNA」とは、ミトコンドリア内に存在するDNAである。
【0028】
本願において、「変異」は、ミトコンドリアDNA内における、野生型配列からのあらゆる修飾または変化を含む。例えば、点突然変異、転位、挿入、転換、転座、欠失、逆位、重複、組み換え、またはその組み合わせを含むが、これらに限定されない。配列の修飾または変化は、一塩基の変化から、DNA断片全体の追加または除去までひろく含むものである。
【0029】
本願において、「感度」とは、本発明の方法を用いて得られる陽性な結果の割合(真陽性率)を意図する。
【0030】
本願において、「特異性」は、本発明を用いて得られる偽陽性な結果の割合(偽陽性率)を意図する。
【0031】
「治療」および「処置」は、本願において互いに交換可能に使用され、被験者の状態を改善させることを意図して行われる診療行為を意図する。改善は、主観的または客観的であってよく、病状の緩和、疾病の進行の抑制、または病状を変化させることに関する。したがって、治療および処置という用語は、最も広義に使用され、様々な段階での疾病の防止(予防)、緩和、低減、治癒を含む。被験者の状態の悪化を防ぐことも本用語に含まれる。治療/処置を必要とする被験者は、疾病に既に罹患しているもの、および、疾病の進行の傾向もしくは危険性があるもの、疾病の予防を行うものを含む。
【0032】
〔癌の予測、診断および測定のための分析〕
(ミトコンドリアの変異を検出するためのアッセイ)
ミトコンドリアDNA(mtDNA)ダイナミクスは、重要な診断ツールである。mtDNA内の変異は、発症の事前的な指標であることが多く、発病に関する危険因子を示すバイオマーカーとして機能する。本願において説明するように、生物学的試料内のミトコンドリアDNAの異常のレベルを測定することによって、1つ以上の癌の存在を検出することが可能であるとともに、1つ以上の癌が患者に及ぼす潜在的リスクまたは素因を特定することが可能である。さらに、定期的にmtDNAを測定することによって、健康管理の専門家に、経時的に患者の進行を測定するリアルタイム定量測定ツール、および/または、治療推奨の評価としてのツールを提供することができ、癌予防または治療における有効性の測定が可能になる。
【0033】
したがって、本発明は、1つ以上の生物学的試料を得るステップ、該試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ、および該試料内のmtDNA異常の量を定量し、参照値と異常レベルとを比較することによって、ミトコンドリアの変異に関して該試料を分析するステップを含む、癌の予測、診断および測定方法を提供する。参照値は、当該方法が癌の予測、診断または測定のいずれを目的としているかに基づくものであることは、当業者には自明であろう。したがって、参照値は、1つ以上の周知の非癌性である生物学的試料、1つ以上の周知の癌性である生物学的試料、および/または、経時的に取られた1つ以上の生物学的試料、から採取されたmtDNAに関連していてもよい。これらの参照値は、1つ以上の生物学的試料から採取されたmtDNAデータとの比較に使用され、このとき、例えば参照試料と比較される生物学的試料における欠失が同量である、または増加しているとき、癌の兆候または癌の発病を示す。あるいは、経時的な欠失レベルの増加が癌の発病を示す。
【0034】
本発明の形態によれば、癌の予測、測定および診断方法は、1つ以上のミトコンドリアの変異を検出および測定するための分析を含む。本発明の一実施形態によれば、変異は、mtDNAの欠失である。本発明の別の実施形態によれば、変異は、3926bpのmtDNAの欠失である(本願において、「4kb欠失」または「4kb配列」と称する)。さらなる別の実施形態によれば、変異は、配列番号1または配列番号2に記載された配列を有するmtDNAの欠失である。環状形態である場合に、配列番号1と配列番号2とに違いはない。
【0035】
4kb欠失は、ヒトmtDNAゲノムの約12317番目のヌクレオチドから16254番目のヌクレオチドの範囲内で発生するものである。本願では、ヒトmtDNAゲノムを配列番号3と示す(Genbank accession no. AC_000021)。4kbの欠失は、大きさ12bpの直接隣接する反復を特徴とし、当該反復は、12317〜12328の位置、および16243〜16254の位置に配置される。反復配列は、5'-TGCAACTCCAAA-3'である。したがって、本発明の一実施形態によれば、上記変異は、ヒトmtDNAゲノムにおける約12317残基〜約16254残基の欠失である。
【0036】
発明者らは、後述する実施例にて示すように、当該欠失が癌、特に前立腺癌および乳癌に関連していることを発見した。したがって、当該欠失が正確なバイオマーカーを提供し、少なくともこれらの組織における癌の検出、診断または測定に有益な手段を提供する。
【0037】
欠失の結果、2つの欠失モノマーが生成される。1つは4kbの大きさ(小サブリモン(small sublimon))であり、もう1つは約12.5kbの大きさ(大サブリモン(large sublimon))である。それぞれ4kbまたは12.5kbの配列である小サブリモンまたは大サブリモンの存在を特定することによって、欠失の発生を検出してもよい。
【0038】
実施例において、ミトコンドリアの変異を測定する方法の一例を挙げる。試料からのmtDNAの抽出は、好適な公知の方法にて行っても良い。mtDNAの抽出後、ミトコンドリアゲノムの全領域または特定の領域を増幅させる。このmtDNAの抽出は、公知のまたは、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., John Wiley & Sons, New York, 2007)に記載されたようなミトコンドリアゲノムの配列解析(sequencing)を含んでいてもよい。同様に、当業者に周知の好適な技術から、mtDNA内の変異の存在を検出する方法を選択することができる。例えば、mtDNAの分析は、mtDNAの配列解析、PCRによる増幅、サザンブロット法、ノーザンブロット法、ウェスタンサウスウェスタンブロット法、変性HPLC、マイクロアレイ、バイオチップまたは遺伝子チップを使用したハイブダイゼーション、分子マーカー分析、バイオセンサ、融解温度プロファイリング、のいずれか、またはこれらを組み合わせて含んでいてもよい。
【0039】
ミトコンドリアDNAの配列解析を行うために好適な手段を使用してもよい。配列解析の前に、PCRによってmtDNAを増幅させることが好ましい。PCR法は周知技術であり、Mullis and Faloona, 1987, Methods Enzymol., 155: 335に記載されているように実施してもよい。PCRによって得られたものを、直接配列解析してもよく、またはベクター中にてクローンを作成し、当該ベクターを、その後、バクテリアの宿主内に導入する。DNA配列解析法は、例えば次に挙げる文献に記載されている。Brumley, R. L. Jr. and Smith, L.M., 1991, Rapid DNA sequencing by horizontal ultrathin gel electrophoresis, Nucleic Acids Res. 19:4121-4126 および、Luckey, J.A., et al, 1993, High speed DNA sequencing by capillary gel electrophoresis, Methods Enzymol. 218: 154-172。PCRとmtDNAの配列解析とを組み合わせた使用について、例えば次に挙げる文献に記載されている。Hopgood, R., et al, 1992, Strategies for automated sequencing of human mtDNA directly from PCR products, Biotechniques 13:82-92、および、Tanaka, M. et al, 1996, Automated sequencing of mtDNA, Methods Enzymol. 264: 407-421。
【0040】
下記の実施例にて示すように、リアルタイム定量PCR法を、4kbの欠失の有無の検出およびそれを測定するための好適な手段として挙げることができるが、当業者にとって他の方法も周知であり、上述したように利用することができる。さらに、Bio-Rad's Bioplex(TM)システムおよび、サスペンジョンアレイ技術を用いて、欠失の測定を実行することができる。一般的に、当該方法は、何らかのの周知の方法を使用した配列の増幅および測定を必要とする。
【0041】
下記プライマーは、4kbの欠失の検出に使用されるプライマーの例である。
【0042】
4フォワード(ヒトmtDNAゲノムの塩基12313-12328/16255-16267に結合)
5'-TTGGTGCAACTCCAAAGCCACCCCTCACC-3' (配列番号4);
4リバース(ヒトmtDNAゲノムの塩基16391-16409に結合)
5'-AGGATGGTGGTCAAGGGAC-3' (配列番号5)。
【0043】
本発明の一実施形態では、4kbの欠失の存在を明示する標的部位を増幅するために、一対の増幅プライマーを使用する。本実施形態では、一対の増幅プライマーのうちの1つは、4kb配列の欠失が起こり、mtDNAが環状mtDNA分子として再形成された後で、mtDNA領域の結合された部位と重複する(たとえば、mtDNAゲノムの12328と16255との間における結合)。したがって、4kbの部位が欠失する場合に限って、重複したプライマーの伸長が生じる。図5は、プライマーの設計および配列を示す概略図である(すなわち、配列番号4)。
【0044】
本発明の別の実施形態では、欠失した4kbの配列に関連する標的部位を増幅するために一対の増幅プライマーを使用する。欠失した4kbの配列は、欠失後、環状mtDNA分子として再形成されてもよい。本実施形態では、一対の増幅プライマーのうちの1つが、4kbの配列の末端の再結合部位に重複する。したがって、試料内で検出される4kbの分子の量の増大が、癌の指標である。
【0045】
本発明のさらなる実施形態では、欠失の切断点が不明であるので、プライマー位置について2つの可能性が生じる。本実施形態では、2つの個別のフォワードプライマーは、欠失する4kbの配列に関連する標的部位を増幅させるように設計されていてもよい。下記プライマーは、本願において4kbの欠失の検出に使用され得るプライマーの例である。
【0046】
(フォワードプライマー)
プライマーA(ヒトmtDNAゲノムの塩基12313-12328/16255-16267に結合)
5'-TTGGTGCAACTCCAAAGCCACCCCTCACC-3'(配列番号4);
プライマーB(ヒトmtDNAゲノムの塩基12302-12316に結合)
5'- CCCAAAAATTTTGGTGCAACTCCAAAGCCAC-3'(配列番号6)。
【0047】
(リバースプライマー)
プライマーC(ヒトmtDNAゲノムの塩基16391-16409に結合)
5'-AGGATGGTGGTCAAGGGAC-3'(配列番号5)。
【0048】
当業者であればわかるように、フォワードプライマーAまたはBは、リバースプライマーCとともに使用され、qPCR分析において有益なPCR産物を生成する。
【0049】
(生物学的試料)
本発明は、1つ以上の生物学的試料の獲得および採取を含む診断テストを提供する。本発明では、生物学的試料は、mtDNAが得られる細胞を含む組織または体液を指す。例えば、生物学的試料は下記から得られる組織であるが、これらに限定されるものではない。例えば、乳房、前立腺、神経、筋肉、心臓、腹、結腸細胞などの組織。または、生物学的試料は、例えば、血液、唾液、脳脊髄液、喀痰、尿、粘膜、滑液、腹水、羊水などから得てもよい。生物学的試料は、癌性または非癌性の組織から得られてもよく、外科検体または生検検体であってもよい。
【0050】
生物学的試料は、供給源から得られたものをそのまま使用してもよいし、または、前処理を行って性質を修正した試料を使用してもよい。したがって、血液からの血清やプラズマの調整、細胞の破壊、固形原料からの液体の調整、粘液の希釈、液体のろ過、液体の上蒸留、液体の濃縮、妨害成分の不活性化、試薬の添加などの前処理を使用前に生物学的試料に施すことができる。
【0051】
当業者であれば、1回につき、1つ以上の試料タイプを分析することができることがわかる(すなわち、1つ以上の癌の検出)。さらに、経時的に試料を採取することが必要な場合には、例えば経時的な危険因子の測定または癌の測定のために、既定の試料を単独または、検査期間中に採取された他の試料と共に診断してもよい。この点に関して、生物学的試料を、1回のみ採取してもよいし、または隔週で1回、1ヶ月に1回、半年に1回、または1年に1回採取してもよい。
【0052】
当業者であれば、ミトコンドリアのDNA標的が、核酸標的よりもはるかに豊富であり(約1000倍多い)、核酸では極端に低い収量しか得られないような量の試料でも、本発明においては、好適に採用できることが理解できよう。
【0053】
〔癌の予測、診断および観察への応用〕
(癌の診断および観察)
殆どのタイプの組織および年齢層における癌の罹患には、癌の存在を検出するだけでなく、疾病の発病、進行および転移を予防することを意図した予防措置および治療の成功および適否を測定するツールが必要である。1つ以上の個々の生物学的試料におけるミトコンドリアのDNA欠失のレベルを測定することによって、危険因子、癌、および/または疾病のステージの初期診断を行うことができる。
【0054】
例えば初期段階にて癌を検出したり、あらゆる組織学的異常が発生する前に癌を検出するために、本発明のシステムおよび方法を使用することができる。さらに、隔週に1回、1ヶ月に1回、半年に1回、または1年に1回など定期的に試料検査を行うことによって、健康管理の専門家に、経時的に疾患の進行を測定するリアルタイム定量モニタリングツール、および/または、癌予防または治療における有効性を測定するための治療推奨の評価としてのツールを提供することができる。
【0055】
次に実施例を挙げる。本発明のある実施形態によれば、本発明は、前立腺癌および乳癌における潜在的な悪性腫瘍への前癌状態、新生組織形成の有無、および進行を検出するために使用されてもよい。ある形態では、本発明は、癌の検出、診断および/または観察のための4kbのmtDNAの欠失の検出および測定を含む。本方法では、生物学的試料(例えば生体組織、または尿、前立腺マッサージ体液(prostate massage fluid)などの体液)からmtDNAを抽出する。抽出されたmtDNAを検査し、試料における4kbの欠失レベル(すなわち量)を測定する。本願において実行される検査では、癌をもつ被験者から得られた試料における欠失レベルは、癌をもたない被験者から得られた試料と比べて、上昇していることがわかった。下記に示す情報およびデータに基づき、本発明者らは、ヒトmtDNAにおける4kbの欠失レベルの上昇が癌の指標であると結論づけた。
【0056】
別の実施形態では、個体から例えば前立腺組織、前立腺マッサージ体液、尿または乳房組織などを得て、経時的に(例えば数年間)検査をし、癌の発症または進行を測定する。4kbの欠失のレベルの経時的な上昇は、癌の発症および進行の指標となり得る。
【0057】
当業者であれば、ミトコンドリアのDNA標的の測定のために、個体に由来する1つ以上の生物学的試料を分析することによって、医療従事者に治療方針の有効性を測定する手段を提供できることがわかる。当業者であれば、医療従事者がmtDNA分析を用いることによって、低質な食事および運動不足などの生活習慣、または周知の発癌性物質(タバコ、汚染物質など)への曝露を招く活動などを特定できる(そして生活習慣について推奨できる)ことがわかる。
【0058】
本発明の別の形態は、生検試料(例えば前立腺癌、または乳癌)から癌生検テストの結果の適否を判定する方法であって、生検試料から非癌性組織を得るステップ、および無病組織における4kbのmtDNAの欠失の量を検出および測定するステップとを有する方法を提供する。
【0059】
(癌に対する遺伝的素因の測定)
1つ以上の癌の各リスクに対する評価を十分に行うために、医療従事者は、患者の危険因子の理解および伝達を可能にする情報をできるだけ多く得る必要がある。mtDNA異常のレベルの測定に本願を利用することは、癌に対する個体の感受性を評価するだけでなく、より積極的な観察および治療措置を必要とする可能性がある、より大きいリスクをもつ患者を特定するツールとしても有用である。
【0060】
この点につき、下記に、癌を患った被験者から得られた試料と癌を患っていない被験者から得られた試料間における、4kbの欠失を有するmtDNAの量の違いを示す様々な例を挙げる。4kbの欠失の量は、癌を患った被験者から得られた試料の方が高いことがわかった。既知の癌細胞から得られた試料、および/または既知の非癌細胞から得られた試料における4kbの欠失の量を比較して、測定を行った。
【0061】
このようにして、発明者らは、1つ以上の癌に対する個体の傾向を特定する上で生物学的試料のスクリーニングが有益であると結論付けた。したがって、本発明の一実施形態によれば、1つ以上の生物学的試料から癌について複数人をスクリーニングする方法であって、1つ以上の試料を得るステップと、該試料における4kbのmtDNAの欠失レベルを検出および測定するステップとを含む、方法を提供する。本発明の特定の実施形態によれば、体液または組織試料から前立腺癌または乳癌について複数人をスクリーニングする方法であって、体液または組織試料を得るステップと、体液または組織試料における4kbのmtDNAの欠失レベルを検出および測定するステップとを含む、方法を提供する。
【0062】
加齢に伴って4kbのmtDNAの欠失が蓄積すると、中年以上の男性または中年以上の女性において、それぞれ高い確率で前立腺癌または乳癌等にかかりやすくなる。同様に、個体の食生活、運動習慣および周知の発癌性物質への曝露に基づく特定の生活習慣が、4kbのmtDNAの欠失の蓄積に関連している可能性もある。したがって、本発明の一形態によれば、経時的に、1つ以上の生物学的試料、例えば、限定するものではないが、乳房組織および前立腺組織、または前立腺マッサージ体液、尿などの体液における4kbの欠失の量を測定することよって定期的に癌スクリーニングを行う構成である方法を提供する。
【0063】
(治療薬の評価)
癌治療に使用する可能性のある治療薬のスクリーニング、または、当該薬の治療効果の測定に本発明の方法を使用してもよい。本願において例示された癌に関連する様々なバイオマーカーを測定するために本発明の方法を使用してもよい。どの時間点でも生物学的試料のDNA損傷レベルを評価できるので、個体の健康について、情報量が多いスクリーニングテストを個々に構築することができる。また、既存および新たな治療薬および治療方法の安全性および有効性の評価を行うことができる。さらに、被験者の健康状態の根底を為す具体的な遺伝子的変化を特定することによって、特定の治療薬または治療方法が患者に効くかどうか、およびどの程度効くかを容易に診断できると考えられる。
【0064】
(キット)
本発明は、臨床環境にて使用するための診断/スクリーニングキットを提供する。当該キットは、1つ以上のサンプリング手段を含むだけでなく、mtDNAの異常の特定に必要な他の材料をも含む。
【0065】
キットは、診断分析を行うために必要な緩衝剤、塩、検出試薬などの試薬を含んでいてもよい。生物学的試料の隔離および/または治療のための緩衝剤および溶液などの他の成分がキットに含まれていてもよい。キットにおける1つ以上の成分は、凍結乾燥されていてもよく、キットは、凍結乾燥成分の再構成に適した試薬をさらに含んでいてもよい。
【0066】
適宜、キットが、反応槽、混合槽、および検査試料の調製を促進する他の要素を含んでいてもよい。キットは、使用説明書を有していてもよく、紙媒体、またはディスク、CD、DVDなどのコンピュータ読み取り可能な媒体であってもよい。
【0067】
本発明の別の形態では、癌診断を行うキットがmtDNAの抽出手段、プライマー、試薬、および使用説明書を有する。
【0068】
本発明の別の形態では、例えば前立腺癌または乳癌などの癌診断のためのキットが、mtDNAの抽出手段、配列番号4および配列番号5に挙げられる核酸配列を有するプライマー、試薬および使用説明書を有する。
【0069】
本発明の別の形態では、例えば前立腺癌または乳癌などの癌診断のためのキットが、mtDNAの抽出手段、配列番号6および配列番号5に挙げられる核酸配列を有するプライマー、試薬および使用説明書を有する。
【0070】
本願に記載された発明をよりよく理解するために、下記の実施例について説明する。これらの実施例は、本発明の例示を目的としており、いかなる場合も本発明の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。
【0071】
〔実施例〕
(実施例1:ヒトmtDNAにおける4kbの欠失と前立腺癌との関連)
前立腺癌と診断された5人の患者、および、針生検処置(needle biopsy procedure)を受けて前立腺悪性腫瘍が検出されなかった5人から、尿試料を採取した。前立腺細胞の採取を助ける直腸指針(DRE)を行った後で、これらの試料を採取した。
【0072】
複数の試料を受け取ると直ちに、5mlずつを除去し、2mlの試料を14,000xgにて遠心分離して沈殿物を形成させた。上澄液は除去して廃棄した。
【0073】
200ulのリン酸緩衝生理食塩水中に沈殿物を再縣濁させた。再縣濁した沈殿物および尿試料全体を、製造者の指示に従って、QiaAMP DNA Mini Kit (Qiagen P/N 51304)を用いてDNA抽出処理にかけた。そして、NanoDrop ND-1000分光光度計を用いて、得られたDNA抽出物を測定し、0.1ng/ulの濃度に調製した。
【0074】
下記に従って、4kbの欠失に特異的なプライマーを用いて、リアルタイム定量PCRによって試料を分析した。
【0075】
1X iQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad product no. 170-8880)。
【0076】
100nmolのフォワードプライマー(5'- TTGGTGCAACTCCAAAGCCACCCCTCACC -3')(配列番号4)。
【0077】
100nmolのリバースプライマー(5'- AGGATGGTGGTCAAGGGAC -3')(配列番号5)。
【0078】
25ul反応液中の1ngのテンプレートDNA。
【0079】
下記のプロトコールに従って、Opticon 2 DNA Engine(Bio-Rad Canada)において反応サイクルをおこなった。つまり、
1.95℃にて3分間
2.95℃にて30秒間
3.69℃にて30秒間
4.72℃にて30秒間
5.プレート読み出し
6.ステップ2〜5を44回繰り返す
7.72℃にて10分間
8.50℃から105℃までの溶解曲線、1℃毎に読み出し、3秒間維持
9.10℃に保つ。
【0080】
(結果)
尿沈殿物から得られた結果は、観測平均サイクル閾値または有効なカットオフポイントにおいて大きな違いはなかった。しかし、尿全体の試料から得られた結果には、大きな違いが見られた。
【0081】
表1および表2、ならびに図1は、前立腺悪性組織を有する被験者から得られた尿試料、および危険率有意水準0.04の良性組織を有する被験者から得られた尿試料の平均CTスコアにおける違いを示す。
【0082】
表1:CTスコアの平均値:尿試料
【0083】
【表1】

表2:平均CTスコアの有意性試験
独立試料検査
【0084】
【表2】

表3および4、ならびに図2は、36.255のカットオフサイクル閾値を使用するとき、前立腺癌の分析の感度が86%、特異性が86%であることを示す。
【0085】
図2は、尿を検査した場合の、前立腺癌のマーカーとしての4kb mtDNAの欠失の特異性および感度を示す受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic:ROC)曲線である。36.255のカットオフCTを使用して上記結果を得た。上記CTでのマーカーの感度は86%であり、特異性は86%である。
【0086】
表3に、36.255のカットオフCTの測定結果を示す。表3に記載された結果は、36.255のカットオフCTが最も高い感度および特異性を提供することを示す。
【0087】
検査の精度は、前立腺癌を有している群と有していない群とをどれだけ正確に分けられるかによって決まる。ROC曲線の下の領域を用いて、精度を測定する。表4は、本実施例における、曲線の下の領域の算出を示す。
【0088】
表3:特異性および感度の測定
【0089】
【表3】

a−最小カットオフ値は、最小測定検査値−1であり、最大カットオフ値は、最大測定検査値+1である。他のカットオフ値の全てが、2つの連続した検査測定値(two consecutive ordered observed test values)の平均である。
【0090】
表4:ROC曲線の下の領域を示す結果
【0091】
【表4】

【0092】
〔実施例2:ヒトmtDNAにおける4kb欠失と乳癌との関連〕
悪性腫瘍を有する10人、良性乳房疾患を有する、または何の異常もない10人の計20人の乳房組織試料を採取した。これらの試料を、ホルマリン固定パラフィン包埋し、製造者のプロトコールに従って、QiaAMP DNA Mini Kit (Qiagen P/N 51304)を用いて抽出するために、それぞれ20ミクロンの部位を個々の試料チューブ内に切断した。Nanodrop ND−1000を用いてDNAを測定し、2ng/ulの濃度に調整した。
【0093】
下記に従って、リアルタイム定量PCRを用いて4kbの欠失に特異的なプライマーとともに試料を分析した。
【0094】
X iQ SYBR Green Supermix (Bio-Rad product no. 170-8880)
175 nmolのフォワードプライマー(5'- TTGGTGCAACTCCAAAGCCACCCCTCACC -3') (配列番号4)
175 nmolのリバースプライマー(5'- AGGATGGTGGTCAAGGGAC -3') (配列番号5)
25ulの反応液中の20 ngのテンプレートDNA
下記の手法に従って、Opticon 2 DNA Engine(Bio-Rad Canada)において反応液をサイクルさせた。
【0095】
1.95℃にて3分間
2.95℃にて30秒間
3.70℃にて30秒間
4.72℃にて30秒間
5.プレート読み出し
6.ステップ2〜5を44回繰り返す
7.72℃にて10分間
8.50℃から105℃までの溶解曲線、1℃毎に読み出し、3秒間維持
9.10℃に保つ。
【0096】
表5および6、ならびに図3は、悪性の乳房組織を有する被験者からの乳房組織試料、および0.065レベルの良性の乳房組織を有する被験者からの試料についての平均CT値における違いを示す。
【0097】
表5:CTスコアの平均値:乳房組織試料
【0098】
【表5】

表6:平均CTスコアの有意性試験
【0099】
【表6】

表7および8、ならびに図4は、19.845のカットオフサイクル閾値を使用する場合に、乳癌分析の感度が78%、特異性が78%であることを示す。
【0100】
図4は、乳房組織を検査した場合の、乳癌のマーカーとしての4kbのmtDNAの欠失の特異性および感度を示すROC曲線である。19.845のカットオフCTを使用して上記結果を得た。上記CTでのマーカーの感度は78%であり、特異性は78%である。
【0101】
表7に、19.845のカットオフCTの測定結果を示す。表7に記載された結果は、19.845のカットオフCTが最も高い感度および特異性を提供することを示す。
【0102】
検査の精度は、乳癌を有している群と有していない群とをどれだけ正確に分けられるかによって決まる。ROC曲線の下の領域を用いて精度を測定する。表8は、本例における曲線の下の領域の算出を示す。
【0103】
表7:特異性および感度の測定
【0104】
【表7】

a−最小カットオフ値は、最小測定検査値−1であり、最大カットオフ値は、最大測定検査値+1である。他のカットオフ値の全てが、2つの連続した検査測定値の平均である。
【0105】
表8:ROC曲線の下の領域を示す結果
【0106】
【表8】

【0107】
〔実施例3:針生検試料を用いた、ヒトmtDNAにおける4kb欠失と前立腺癌との関連〕
前立腺癌を有しない9人、および前立腺癌を有する10人の計19人から前立腺針生検試料を得た。針生検組織は、臨床診断では標準的であるホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)とした。各生検の10ミクロン部位を直接遠心分離管の中に入れ、QiaAMP DNA Mini Kit (Qiagen, p/n 51306)を用いてDNAを抽出した。NanoDrop ND-1000分光光度計を用いて260nmの吸光度に基づいてDNA抽出物を測定した。収率は、347ngから750ngの範囲内であった。これらの試料を2ng/ulまで希釈し、表9および下記に従って増幅反応を行った。
【0108】
表9:増幅反応のための試薬および濃度
【0109】
【表9】

ヌクレアーゼを含まない水を25ul体積の最終反応物に加えた。DNA Engine Chromo4 Real Time PCR Instrument (Bio-Rad Laboratories)において、下記サイクル条件にしたがって、増幅を実行した:
1.95℃にて3分間
2.その後下記3から5を45サイクル
3.95℃にて30秒間
4.69℃にて30秒間
5.72℃にて30秒間
6.プレート読み出し
そのあと、
7.72℃にて10分間
8.50℃から105℃までの溶解曲線、1℃毎に読み出し、3秒間維持
9.4℃に保つ。
【0110】
表10に示された結果は、前立腺癌を有しているヒトのCT値が、前立腺癌を有していないヒトよりも低く、前立腺組織における4kbの欠失のレベルが高いことを示している。前立腺癌を有している患者の平均CT値は30.7であり、一方、前立腺癌を有していない患者の平均CT値は36.4である。この5.7のCT差は、前立腺癌を有している群での4kbの欠失レベルが前立腺癌を有していない群の4kbの欠失レベルの100倍に相当する。
【0111】
表10:患者の診断および関連するCTスコア
【0112】
【表10】

表11および12は、正常な前立腺組織および悪性の前立腺組織を有する患者から得られた前立腺組織試料の平均CTスコアにおける違いを示す。
【0113】
表11:CTスコアの平均値:前立腺針生検組織
【0114】
【表11】

表12:平均CTスコアの有意性試験
【0115】
【表12】

表13および図6は、32.65のカットオフサイクル閾値CTを使用する場合に、これらの患者を正確に診断する感度が80%、特異性が67%であることを示す。
【0116】
表13:特異度および感度の測定
【0117】
【表13】

特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、当業者にとっては、添付の請求項に述べられている本発明の本質および範囲から逸脱することなく、様々な変形が可能であることが明らかである。当業者にとって明らかである当該変形の全てが、下記請求項の範囲内に含まれるものとする。本願に引用された全ての文献は、参照することによって本願に組み込まれている。
【0118】
〔先行文献〕
Birch-Machin MA, Online Conference Report (Sunburnt DNA), International Congress of Biochemistry and Molecular Biology, New Scientist, 2000(a)
Birch-Machin MA, Taylor RW, Cochran B, Ackrell BAC, Tumbull DM. Ann Neurol 48: 330-335, 2000(b)
Birch-Machin, M.A. (2000). Mitochondria and skin disease. Clin Exp Dermatol, 25, 141-6.
Brown, M.D., et al., Am J. Humn Genet, 60: 381-387, 1997
Bogliolo, M, et al., Mutagenesis, 14: 77-82, 1999
Chinnery PF and Turnbull DM., Lancet 354 (supplement 1): 17-21, 1999
Huoponen, Kirsi, Leber hereditary optic neuropathy: clinical and molecular genetic findings, Neurogenetics (2001) 3: 119-125.
Hayward SW, Grossfeld GD, Tlsty TD, Cunha GR., Int J Oncol 13:35-47, 1998
Huang GM, Ng WL, Farkas J, He L, Liang HA, Gordon D, Hood R., Genomics 59(2):178-86,1999
Konishi N, Cho M, Yamamoto K, Hiasa Y. Pathol. Int. 47:735-747,1997
Landis SH, Murray T, Bolden S, Wingo PA. Cancer J. Clin. 49:8-31
Lee HC, Lu CY, Fahn HJ, Wei YHu. Federation of European Biochemical Societies, 441:292-296,1998
Mitochondrial Research Society http://www.mitoresearch.org/diseases.html.
MITOMAP: A human mt genome database (www.gen.emory.edu/mitomap.html)
Naviaux, RK., Mitochondrial Disease- Primary Care Physican's Guide. Psy-Ed. Corp D/B/A Exceptional Parents Guide: 3-10, 1997
Parrella P, Xiao Y, Fliss M, Sanchez-Cespedes M, Mazzarelli P, Rinaldi M, Nicol T, Gabrielson E, Cuomo C, Cohen D, Pandit S, Spencer M, Rabitti C, Fazio VM, Sidransky D: Detection of mitochondrial DNA mutations in primary breast cancer and fine-needle aspirates. Cancer Res 2001, 61:7623-7626
Polyak Y, et al., Nature Genet. 20 (3):291-293, 1998
Seidman, M.D. et al., Arch. Otolaryngol Head Neck Surg., 123: 1039-1045, 1997
Sherrat EJ, Thomas AW, Alcolado JC., Clin. Sci. 92:225-235,1997
Shoffner JM, Brown MD, Torroni A, Lott MT, Cabell MF, Mirra SS, Beal MF, Yang C, Gearing M, Salvo R, Watts RL, Juncos JL, Hansen LA, Crain BJ, Fayad M, Reckford CL, and Wallace DC., Genomics 17: 171-184, 1993
SpringNet - CE Connection: Screening, Diagnosis: Improving Primary Care Outcomes. Website: http://www.springnet.com/ce/j803a.htm
Taniike, M. et al., BioChem BioPhys Res Comun, 186: 47-53, 1992
Valnot, Isabelle, et al., A mitochondrial cytochrome b mutation but no mutations of nuclearly encoded subunits in ubiquinol cytochrome c reductase (complex III) deficiency, Human Genetics (1999) 104: 460-466
von Wurmb, N, Oehmichen, M, Meissner, C., Mutat Res. 422:247-254, 1998
Wallace et al., Mitochondiral DNA MUtatio Assoicated with Leber's Hereditary Optic Neuropathy, Science, 1427-1429
Wei YH. Proceedings of the Nat. Sci. Council of the Republic of China April 22(2):5567, 1998
Woodwell DA. National Ambulatory Medical Care Survey: 1997 Summary. Advance data from vital and health statistics; no. 305. Hyattsville, Maryland: National Center for Health Statistics. 1999
Yeh, J.J., et al., Oncogene Journal, 19: 2060-2066, 2000
Zhang et al., Multiple mitochondiral DNA deletions in an elderly human individual, FEBS Lett, 297, 34-38 1992
Zhang, C., et al., BioChem. BioPhys. Res. Comun., 195: 1104-1110, 1993
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施例1のサイクル閾値(cycle threshhold)を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態の特異性および感度を示すROC曲線である。
【図3】実施例2に関するサイクル閾値を示すグラフである。
【図4】本発明の別の実施形態の特異性および感度を示すROC曲線である。
【図5】4kbの欠失の検出に有効なプライマーの設計および配列を示す概略図である。
【図6】本発明の別の実施形態の特異性および感度を示すROC曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における癌の検出方法であって、
a)上記個体から生物学的試料を得るステップ;
b)上記試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ;
c)上記試料において、ヒトmtDNAゲノムの約12317残基〜約16254残基の間にmtDNA配列の欠失を有するmtDNAの量を定量するステップ、および
d)欠失を有する上記試料におけるmtDNAの量を、少なくとも1つの既知の参照値と比較するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
上記欠失が、配列番号1または配列番号2に記載された配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記少なくとも1つの参照値が、既知の非癌性である組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における欠失の量である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記参照試料と比較して上記生物学的試料における欠失の量が上昇していることが癌の指標である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記欠失を有する上記試料におけるmtDNAの量を、既知の癌性組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における欠失の量とを比較するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記少なくとも1つの既知の参照値が、既知の癌性である組織または体液からのmtDNAの参照試料における上記欠失の量である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記生物学的試料における欠失が、上記参照試料と比較して類似のレベルであることが癌の指標である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記欠失を有する上記試料におけるmtDNAの量を、既知の非癌性である組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における欠失の量と比較するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記定量するステップは、リアルタイムPCRを用いて行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記欠失を定量するステップが、まず、上記欠失の指標となるmtDNAの標的部位を増幅させること、および当該増幅された標的部位の上記量を測定すること、を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
配列番号4に相当する配列をもつPCRプライマーが、上記標的部位を増幅させる一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記癌が前立腺癌である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記癌が乳癌である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記生物学的試料が、生体組織または体液である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記生物学的試料が、乳房組織、前立腺組織および尿からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記参照値がサイクル閾値である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
a)生物学的試料を得るステップ;
b)上記試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ;
c)上記試料において、ヒトmtDNAゲノムの約12317残基〜約16254残基の間にmtDNA配列の欠失を有するmtDNAの量を定量するステップ、および
d)一定期間にわたって、a)〜c)のステップを繰り返すステップ
を含む、癌の進行に関する個体の測定方法であって、
上記一定期間を経た後の欠失の増加レベルが癌の指標である、方法。
【請求項18】
上記欠失が配列番号1または配列番号2に記載された配列を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
a)上記欠失を有する上記試料におけるmtDNAの量を、既知の非癌性である組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における欠失の量と比較するステップ;および、
b)上記欠失を有する上記試料におけるmtDNAの量を、既知の癌性である組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における欠失の量と比較するステップ
からなる群から選択される少なくとも1つのステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
上記欠失を定量するステップが、上記欠失の指標となるmtDNAの標的部位を増幅させること、および当該増幅された標的部位の量を測定すること、を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
上記定量するステップは、リアルタイムPCRを用いて行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
配列番号2に相当する配列をもつPCRプライマーが、上記標的部位を増幅させる一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
上記癌が前立腺癌である、請求項17〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
上記癌が乳癌である、請求項17〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
上記生物学的試料が生体組織または体液である、請求項17〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
上記生物学的試料が、乳房組織、前立腺組織および尿からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
上記標的部位の増幅が一対の増幅プライマーを用いて行われ、当該一対の増幅プライマーのうちの1つは、上記欠失の反対端のスプライス結合部位と重複する、請求項10または20に記載の方法。
【請求項28】
個体における癌の検出方法であって、
a)上記個体から生物学的試料を得るステップ;
b)上記試料からミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップ;
c)上記試料において、上記配列番号1または配列番号2に記載の配列に対応する配列を有するmtDNAの量を定量するステップ;および
d)上記試料において、配列番号1または配列番号2に対応するmtDNAの量を、少なくとも1つの既知の参照値と比較するステップを含む方法。
【請求項29】
上記少なくとも1つの既知の参照値が、既知の非癌性である組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における配列番号1または配列番号2に対応する配列の量である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
上記少なくとも1つの既知の参照値が、既知の癌性組織または体液から得られたmtDNAの参照試料における配列番号1または配列番号2に対応する配列の量である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
上記定量するステップは、リアルタイムPCRを用いて行われる、請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
上記欠失を定量するステップが、まず、上記欠失の指標となるmtDNAの標的部位を増幅させること、および当該増幅された標的部位の上記量を測定すること、を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
上記標的部位の増幅に使用される一対のPCRプライマーのうちの一つが、上記配列が再び環化した後で、配列番号1または配列番号2に対応する上記配列である再結合部位と重複する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
上記癌が前立腺癌である、請求項28〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
上記癌が乳癌である、28〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
上記生物学的試料が生体組織または体液である、請求項28〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
上記生物学的試料が、乳房組織、前立腺組織、および尿からなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
上記参照値がサイクル閾値である、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
a)1つ以上の生物学的試料を収集する材料;および
b)mtDNAの欠失の検出に適したプライマーおよび試薬を含む、請求項1〜38のいずれか1項に記載の方法を実施するための診断キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2011−502487(P2011−502487A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532390(P2010−532390)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001956
【国際公開番号】WO2009/059414
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(510100508)ミトミクス インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】GENESIS GENOMICS INC.
【住所又は居所原語表記】Suite 1000,290 Munro Street,Thunder Bay,Ontario P7A 7T1
【Fターム(参考)】