説明

癌の検出に使用するための3.4kbのミトコンドリアDNA欠失

被験サンプルのミトコンドリアDNA(mtDNA)における3.4キロベースの欠失を定量することにより、前立腺癌又は乳癌を検出する方法を記載する。この欠失は、ミトコンドリアゲノムのヌクレオチド10744〜14124の間に位置する。非癌性前立腺組織及び乳房組織における欠失の量と比較した欠失の量の増大は、それぞれ前立腺癌及び乳癌であることを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年4月18日出願の米国仮出願第60/672,016号、2005年9月29日出願の第60/721,522号及び2006年4月7日出願の第60/789,872号の優先権を主張する、2006年4月18日出願のPCT出願番号PCT/CA2006/000652の一部継続出願である。これらの出願の全開示を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
発明の分野
本発明はミトコンドリアゲノミックスの分野に関する。特に本発明は、ミトコンドリアゲノムにおける3.4kbの欠失、及びその癌の指標としての用途に関する。
【背景技術】
【0003】
診断ツールとしてのミトコンドリアDNA(mtDNA)
mtDNA配列ダイナミクスは重要な診断ツールである。mtDNA中の突然変異は、多くの場合に疾患発症の予備的指標であり、多くの場合に核の突然変異と関連しており、疾患に特に関連するバイオマーカーとして機能するが、そうした疾患としては次のものが挙げられるがこれらに限らない。すなわち、喫煙および副流煙への曝露からの組織損傷および癌(Lee ら, 1998;Wei, 1998);20歳前後から始まりその後増大するミトコンドリアゲノム突然変異の蓄積に基づく長寿(von Wurmb, 1998);突然変異、または発癌性物質、変異原性物質、紫外線放射への曝露により引き起こされる転移性疾患(Birch-Machin, 2000);変形性関節症;心血管疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病(Shoffner ら, 1993;Sherratt ら, 1997;Zhangら, 1998);老化に伴う聴力損失(Seidman ら, 1997);視神経変性および不整脈(Brown ら, 1997;Wallaceら, 1988);慢性進行性外眼筋麻痺(Taniikeら, 1992);アテローム硬化症(Boglioloら, 1999);甲状腺乳頭状癌および甲状腺腫瘍(Yehら, 2000);並びにその他の疾患(例えばNaviaux, 1997;Chinnery and Turnbull, 1999)。
【0004】
ミトコンドリアゲノムの特定の部位における突然変異は、特定の疾患と関連しうる。例えば、4216、4217および4917位における突然変異はレーバー遺伝性視神経萎縮(LHON)と関連している(Mitochondrial Research Society;Huoponen (2001);MitoMap)。15452位における突然変異は、5/5患者において、ユビキノールシトクロームcレダクターゼ(複合体III)不全と関連することが見出された(Valnotら1999)。
【0005】
具体的には、こうした変異又は改変としては、点突然変異(トランジション、トランスバージョン)、欠失(1〜数千の塩基)、逆位、重複(1〜数千の塩基)、組換えおよび挿入(1〜数千の塩基)が挙げられる。さらに、特定の塩基対の改変、欠失またはその組み合わせは、前立腺癌、皮膚癌および肺癌の早期発症、ならびに老化(例えばPolyakら, 1998)、早期老化、発癌性物質への曝露(Leeら, 1998)などと関連していることがわかっている。
【0006】
前立腺癌
前立腺癌は高頻度に診断される固形癌であり、ほとんどの場合、前立腺上皮を起源とする(Huangら 1999)。1997年には、ほぼ1千万人の米国人男性が、前立腺特異抗原(PSA)(その存在は前立腺癌を示唆する)についてスクリーニングされた(Woodwell, 1999)。実に、このことは、より多くの数の男性が初期直腸指診(DRE)によりスクリーニングされることを示す。同じ年に、3千百万人の男性がDREを受けた(Woodwell, 1999)。その上、合衆国における新たに前立腺癌と診断される年間症例数は179,000と推定される(Landisら, 1999)。前立腺癌は、カナダ人男性において2番目に多く診断される癌であり、2番目に多い癌死亡率の原因である。1997年に前立腺癌は、カナダ人男性の新たに診断される癌の19,800を占めた(28%)(National Cancer Institute of Canada)。四十九歳(49)を超える全ての男性の30%〜40%が何らかの癌性の前立腺細胞を有するものの、こうした男性のわずか20%〜25%が臨床的に顕在化した形態の前立腺癌を有すると推定されている(SpringNet - CE Connection, internet, www.springnet.com/ce/j803a.htm)。前立腺癌は広範な組織学的挙動を示し、それは内因性および外因性の因子の両方、すなわち社会経済的状況、食事、地理学的、ホルモン失調、家族歴および遺伝的構成に関係する(Konishiら 1997;Haywardら 1998)。特定のmRNA改変が前立腺癌と以前から関連性があるとされていたが、前立腺癌の検出用の別のマーカーが必要とされていた。
【0007】
3.4kbのmtDNA欠失及び前立腺癌の検出
本出願人の係属中のPCT出願(公開番号WO/06/111029号、その全内容を参照により本明細書に組み入れる)において、mtDNAの3379 bpセグメントの欠失が前立腺組織の全長ミトコンドリアゲノム増幅によって同定された。この3379 bpの欠失(3.4kb欠失と称する)は、ミトコンドリアゲノムのヌクレオチド10744〜14124の間に位置することが決定された。この欠失の検出は、組織サンプルを試験した場合に前立腺癌の診断に用いることができることが決定された。
【0008】
3.4kb欠失は、mtDNAゲノムから次の遺伝子の全部または一部を除くものである:(i)NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4L、(ii)NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4、(iii)NADHデヒドロゲナーゼサブユニット5、(iv)tRNAヒスチジン、(v)tRNAセリン2、および(vi)tRNAロイシン2。
【0009】
乳癌
乳癌は、腺乳房組織の癌であり、5番目に多い癌の死因である。2005年には、全世界で乳癌により502,000人が死亡した(癌死因の7%;全死因の約1%)(World Health Organization Cancer Fact Sheet No. 297)。世界中の女性において、乳癌が最も多い癌であり、最も多い癌の死因である(World Health Organization Cancer Fact Sheet No. 297)。特定のmtDNA改変が、例えばParrella et al.(Cancer Research: 61, 2001)において以前から乳癌と関連するとされているが、乳癌検出用のさらなるマーカーが必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
一実施形態において、本発明は、個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、少なくとも一つの既知の基準値と比較するステップと
を含む方法を提供する。
【0011】
一実施形態において、本発明は、個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の非癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップと
を含み、生体サンプル中の欠失の量が基準サンプルと比較して多いことが、癌であることを示す、上記方法を提供する。
【0012】
一実施形態において、本発明は、個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップと
を含み、生体サンプル中の欠失のレベルが基準サンプルと比較して同様であることが、癌であることを示す、
上記方法を提供する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、個体を癌の発症についてモニタリングする方法であって、
a)生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからmtDNAを抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)ステップa)からc)をある期間にわたり繰り返すステップと
を含み、
e)ある期間にわたる欠失レベルの増加が癌であることを示す、上記方法を提供する。
【0014】
一実施形態において、本発明は、個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)配列番号1に示される配列に相当する配列を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)配列番号1に相当するサンプル中のmtDNAの量を、少なくとも一つの既知の基準値と比較するステップと
を含む方法を提供する。
【0015】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら例示目的で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】3.4kb欠失の検出のために有用なプライマーの設計と配列を示す概略図である。
【図2】3.4kb研究における悪性の参加者と症状のある良性の参加者との間のサイクル閾値の比較を示すグラフである。
【図3】実施例1に関連したサイクル閾値を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態の特異性及び感度を説明するROC曲線を示す。
【図5】本発明の別の実施形態の特異性及び感度を説明するROC曲線を示す。
【図6】乳癌と関連する3.4kb mtDNA欠失のレベルに関するリアルタイムPCRデータを示す。
【図7】本発明の別の実施形態の特異性及び感度を説明するROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において用いる「サイクル閾値」(CT)は、リアルタイムPCRを用いた標的増幅がバックグラウンドよりも高くなる点であり、これは蛍光シグナルのようなシグナルにより示される。CTは、調査対象の配列の量と反比例する。
【0018】
本明細書において定義する「感度」は、本発明の方法を用いて得られる真陽性結果の割合(真陽性率)を意味する。
【0019】
本明細書において定義する「特異性」は、本発明の方法を用いて得られる偽陽性結果の割合(偽陽性率)を意味する。
【0020】
本発明の一実施形態において、3.4kb mtDNA欠失の検出及び定量による癌のモニタリング及び診断のための方法を提供する。例えば本発明は、前癌状態、新生物の存在、並びに前立腺癌及び乳癌の潜在的な悪性度に向けた進行を検出するために用いることができる。一態様において、本発明は、癌の検出、診断及び/又はモニタリングのための、3.4kb mtDNA欠失(配列番号1)の検出及び定量に関する。本方法において、mtDNAを生体サンプル(例えば生体組織、又は生体液、例えば尿、前立腺マッサージ液など)から抽出する。次に抽出したmtDNAを、サンプル中の3.4kb欠失のレベル(すなわち量)を判定するために試験する。本発明者により実施された研究においては、検出レベルは、癌を有しない被験者から採取されたサンプルと比較した場合に、癌を有する被験者から採取されたサンプル中で上昇していることがわかった。以下に提供する情報及びデータに基づいて、本発明者はmtDNA中の高レベルの3.4kb欠失は癌の指標となると結論付けた。
【0021】
PCT WO/06/111029号に開示されているように、3.4kb欠失はmtDNAゲノムのおよそヌクレオチド10744〜14124にわたっている。mtDNAゲノムは、配列番号8(Genbankアクセッション番号AC_000021)に示すとおりである。本発明者は、以下の実施例に示すように、この欠失が、癌、特に前立腺癌及び乳癌に関連していることも決定した。従って、かかる欠失は正確なバイオマーカーを提供し、従って少なくともこれらの組織における癌の検出、診断又はモニタリングのための重要なツールを提供する。
【0022】
この欠失は、2つの欠失モノマーを生成するものであり、1つは3.4kbサイズ(小サブリモン)であり、1つは約12.6kbサイズ(大サブリモン)である。この欠失の発生は、小サブリモンの存在を同定することにより、又は3.4kb配列が大サブリモンから欠失したことを判定することにより検出することができる。
【0023】
上述したように、この欠失は約3379bpであり、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4L、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4、NADHデヒドロゲナーゼサブユニット5、tRNAヒスチジン、tRNAセリン2、およびtRNAロイシン2をコードする遺伝子を含む。
【0024】
一実施形態において、サンプル、例えば前立腺組織、前立腺マッサージ液、尿、乳房組織のサンプルを個体から得て、一定期間(例えば数年)にわたり試験して、癌の発生又は進行をモニタリングする。経時的な3.4kb欠失のレベルの上昇は、癌の開始又は進行の指標となりうる。
【0025】
3.4kb mtDNA欠失の加齢関連蓄積により、個体が、例えば前立腺癌又は乳癌に罹患しやすくなり、これはそれぞれ中高年の男性及び中高年の女性において多く見られる。本発明の一態様においては、体組織(乳房組織など)又は体液(前立腺マッサージ液若しくは尿など)における3.4kb欠失の量を経時的にモニタリングすることにより定期的な癌スクリーニングを行うことができる方法を提供する。
【0026】
本発明のシステムおよび方法は、癌を、早期段階に、および何らかの組織学的異常が見られる前に、検出するために使用することができる。例えば、本発明のシステム及び方法は、乳房組織における前新形成を検出するために使用することができる。
【0027】
以下のプライマー配列が3.4kb欠失の検出のために好ましい:
3.4フォワード(mtDNAゲノムの10729-10743塩基/14125-14139塩基に結合する)5’-TAGACTACGTACATACTAACCCTACTCCTA-3’(配列番号2);
3.4リバース(mtDNAゲノムの14361-14379塩基に結合する)5’-GAGGTAGGATTGGTGCTGT-3’(配列番号3)。
【0028】
本発明の一実施形態において、増幅プライマー対を使用して、3.4kb欠失の存在の指標となる標的領域を増幅する。この実施形態において、増幅プライマー対の一方は、3.4kb配列の欠失が発生した後のmtDNAのスプライシングされる領域と重複している(すなわち、mtDNAゲノムの10743と14125の間の位置でスプライシングされる)。従って、重複プライマーの伸張は、3.4kb部分が欠失した場合にのみ起こりうる。
【0029】
本発明の別の実施形態において、増幅プライマー対を使用して、欠失される3.4kb配列と関連する標的領域を増幅する。欠失時に欠失される3.4kb配列は、環状mtDNA分子を再形成しうる。この実施形態では、増幅プライマー対の一方は、3.4kb配列の末端の再連結部位と重複する。従って、サンプル中で検出される3.4kb分子の量の増大は、癌の指標である。以下のプライマー対は、欠失される3.4kb核酸の検出のために好ましい:
フォワード 14115/10755 5'-CCCACTCATCACCTAAACCTAC-3' (配列番号9)
リバース 10980R 5'-GGTAGGAGTCAGGTAGTTAG-3' (配列番号10)。
【0030】
本発明の一態様において、mtDNAの抽出のための手段、配列番号2及び3又は配列番号9及び10に示される核酸配列を有するプライマー、試薬、並びに説明書を含む、癌(例えば前立腺癌又は乳癌)の診断用キットを提供する。
【0031】
本発明の別の態様は、生検サンプルからの癌生検試験(例えば前立腺癌又は乳癌)の存在を確認又は否定するための方法であって、生検サンプルから非癌性組織を得るステップと、該非癌性組織における3.4kb mtDNA欠失の量を検出及び定量するステップとを含む方法を提供する。
【0032】
本発明の一実施形態は、体液サンプルから前立腺癌又は乳癌について個体をスクリーニングする方法であって、体液サンプルを得るステップと、該体液における3.4kb mtDNA欠失のレベルを検出及び定量するステップとを含む方法を提供する。
【0033】
以下の実施例に記載するようなリアルタイム定量PCR法が、3.4kb欠失の存在又は不在を検出及び定量するための好ましい手段であるが、当業者に周知の他の方法を用いることも可能である。例えば、欠失の定量は、Bio-Rad社のBioplexTMシステム及びサスペンジョンアレイ技術を用いて行うことができる。一般的に、この方法は任意の公知の方法を用いて配列を増幅及び定量することを要する。
【0034】
以下に示す実施例は、この欠失が前立腺組織における前立腺癌の検出に使用できるだけではなく、他の生体サンプル、例えば前立腺マッサージ液、尿及び乳房組織における癌の存在の検出にも使用できることを説明している。これらの実施例における知見に基づいて、3.4kb mtDNA欠失を癌のためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0035】
示した種々の実施例は、癌を有する被験者から得られたサンプルと、癌を有しない被験者から得られたサンプルとの間での3.4kb欠失を有するmtDNAの量の差を説明している。3.4kb欠失の量は、癌を有する被験者から得られたサンプル中で上昇している。この決定は、被検サンプルにおける3.4kb欠失の量と、既知の癌細胞及び/又は既知の非癌性細胞に由来する量とを比較することにより行った。
【実施例1】
【0036】
前立腺組織のmtDNAにおける3.4kb欠失
約3.4キロベース(kb)の欠失は、新鮮な凍結前立腺組織の全長ミトコンドリアゲノム増幅によって同定された。線形回帰法を用いることにより、この欠失の大きさは、3000塩基対(bp)〜3500 bpと推定された。2つの可能性ある候補欠失、すなわち9574〜12972における3397 bp欠失、および10744〜14124における3379 bp欠失が、MitomapTM(Brandon, M. C., Lott, M. T., Nguyen, K. C., Spolim, S., Navathe, S. B., Baldi, P. & Wallace, D. C. MITOMAP: a human mitochondiral genome database--2004 update. Nucleic Acid Research 33 (Database Issue):D611-613, 2005;www.mitomap.org)を用いることにより同定された。2つの欠失のうちのいずれが前立腺癌と関連するのかを決定するために、欠失接合部にまたがるフォワードプライマーを2つの候補それぞれについて作製し、それによりプライマーが欠失に隣接する反復領域よりも遠くまで伸長することを保証した。図1は、プライマー(すなわち配列番号2)の設計と配列を示す概略図である。10744〜14124における3379 bp欠失(3.4kb欠失と呼ぶ)に対応する増幅産物(アンプリコン)についての陽性の増幅結果が得られた。
【0037】
上述のとおり、3.4kb欠失は、次の遺伝子の全部または一部を除くものである:(i)NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4L、(ii)NADHデヒドロゲナーゼサブユニット4、(iii)NADHデヒドロゲナーゼサブユニット5、(iv)tRNAヒスチジン、(v)tRNAセリン2、および(vi)tRNAロイシン2。
【0038】
この3.4kb欠失は、33の新鮮な凍結前立腺サンプルの91%に存在することが決定された。特異的欠失プライマーを用いて、ホルマリン固定組織を検査し、n値を増加させた。
【0039】
本調査者らはレーザー捕捉顕微解剖法により顕微解剖された32の組織サンプルからの、および組織学的に正常な前立腺の12の針生検材料からのミトコンドリアゲノム全体を配列決定した。これらの各サンプルからの保存された組織切片を次の研究に用いた。1〜2の連続切片を各サンプルから取り出した。DNAは、各サンプルから顕微解剖としてではなく全体として抽出した。したがって各サンプルは腺の前立腺組織ならびにストロマの前立腺組織の混合物からなるものであった。この抽出は、Qiagen社の QIAampTM DNA Mini Kit(カタログ番号51304)を用いて行った。抽出後に、サンプルをNano-DropTM分光光度計を用いて定量し、その後濃度を2ng/ulへと正規化した。各サンプルは、20ng 投入DNAおよびiQTM SYBR Green SupermixTMキット(Bio-Rad Laboratories Inc.)を用いて増幅した。反応は、Opticon(登録商標) 2 二色リアルタイムPCRシステム(MJ Research)を用いて行った。
【0040】
図2に示すように、悪性前立腺サンプルと症状はあるものの良性の前立腺サンプルとの間では、サイクル閾値に、および拡大解釈して、欠失の量に、明らかな差異が観察された。悪性サンプルは、良性サンプルよりも常に早いサイクル閾値を示した。
【実施例2】
【0041】
3.4kb 欠失盲検検査−サイクル閾値の比較
追加の21の前立腺組織サンプルを選択したが、そのうちの10は良性であり11は悪性であった。病理学的状態は、資格のある病理学者が行う針生検により決定された。サンプルを盲検化して、本調査者らがこの検査を行うときにサンプルの病理学的状態を知らないようにした。本調査者らは、サイクル閾値を調べることにより、症例の81%において正しい病理学的状態を予測することができた。4つの正しくなかった予測のうち、2つは良性と判定された悪性サンプルであり、2つは悪性と判定された良性サンプルであった。後者の症例において臨床医が2人の個体の追跡臨床情報を要求し、それを用いてこの2人の個体がこの調査に使用された針生検結果の後に前立腺癌と診断されたかを調べた。元は良性サンプルをもたらすがこの研究により悪性腫瘍を有すると予測された個体の1人は、その後悪性サンプルをもたらした。その結果として、偽陽性のうちの1つは真の陽性となった。したがって、病理学的状態は、この調査において検査された86%の症例において正しく予測された。この研究の最終的な陽性的中率(PPV、ここでPPV=真の陽性/(真の陽性+偽陽性))は91%であり、そして陰性的中率(NPV、ここでNPV=真の陰性/(真の陰性+偽陰性))は80%であった。
【実施例3】
【0042】
3.4kb欠失研究−方法(n=76)
この研究では76の前立腺組織サンプルを3.4kb欠失について検査した。すべての組織サンプルをホルマリン固定し、25が悪性、12が正常、および39が良性前立腺疾患を有すると組織学的に示された。後者の群ついては半分以上が過形成を有した。すべての標本は、調査者の組織アーカイブから得られた針生検材料であった。
【0043】
前立腺標本
各スライドについて、テープリフトを、Arcturus Bioscience Inc.社からのPrep-Strips(カタログ番号LCM0207)を用いて行った。このことにより、DNA抽出前にスライドからあらゆる粒状物質または非付着性組織を除去することができた。組織がスライド上にある状態で、スライドをPBS(リン酸緩衝生理食塩水溶液)で洗浄して、可能な限り固定剤を除去した。スライド上の1〜2針生検切片を、個別に包装された滅菌外科用カミソリ刃を用いて擦り取り、滅菌マイクロ遠心分離チューブに入れた。次に、製造者の説明書に従ってQIAamp(登録商標) DNA Mini Kit(Qiagen社、カタログ番号51304)を用いて、DNAを単離し精製した。品質保証チェックポイントとしての陰性抽出対照を、スライド抽出物と並行して処理した。DNAの合計濃度と各サンプルについての純度比を分光光度法(Nano-DropTM ND-1000)により測定し、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)のために2ng/μlの希釈物を調製した。
【0044】
プライマー(オリゴヌクレオチド)
精製オリゴヌクレオチドプライマーは、Invitrogen社(California, USA)により化学的に合成した。プライマーの配列および増幅されるPCR産物の期待される大きさを表1に示した。さらに、mtDNA欠失のためのPCR分析には、陽性対照(突然変異mtDNAを有することの知られている供給源からのDNA)も追加した。TNF(腫瘍壊死因子)を除き、各プライマーセットをミトコンドリア非含有rho 0 細胞株に対して確認し、偽遺伝子の共増幅の不在を確認した。
【表1】

【0045】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
各サンプルに対して、3つの別のPCRを行った。各反応は、25μl合計体積であり、鋳型DNA、1対のプライマー(12sまたは3.4欠失またはTNF用プライマー)、iQTM SYBR Green SupermixTMキット(カタログ番号170-8882, Bio-Rad Laboratories Inc.社)および蒸留脱イオン水(ddH2O)を含むものであった。TNF(腫瘍壊死因子)用は単一コピーの核遺伝子プライマーを含み、12s用は総ミトコンドリアゲノムプライマーを含むものであった。鋳型DNA、プライマー、および反応バッファーの体積と濃度を以下に記載する。
【表2】

【0046】
各増幅産物についてのサイクリングパラメータを表3に示す。
【表3】

【0047】
熱サイクリング、リアルタイム検出および反応の分析は、Intuitive Opticon MonitorTM ソフトウェア(MJ Research Inc.)を備えたDNA Engine Opticon(登録商標) 2 Continuous Fluorescence Detection Systemを用いて行った。DNA定量のためには、標準曲線法を利用した。1セットの連続希釈(106, 105, 104, 103, 102, 101)を、3種の精製PCR生成鋳型(すなわち1つの産物は3.4欠失について、1つの産物は12s プライマーについて、および1つの産物はTNFについて)に対して行った。ここから、3種の異なる標準曲線が作成され、それらは、総mtDNAのコピー数(12s 増幅産物−総ミトコンドリアゲノムプライマー)、3.4kb欠失を有するmtDNAまたは総核DNAの量(TNF−単一コピー核遺伝子プライマー)を示した。次にサンプルCTを標準のそれと比較することにより、サンプルのCT値をDNAコピー数に変換することができる。3.4欠失は、それが37サイクル以内に検出されなかったときには、存在しないまたは低レベルであるとみなされた。
【0048】
悪性腫瘍の判定は、正規化サンプル中に存在する3.4kb欠失の量に基づき、これはサイクル閾値の位置により示される。この位置は、絶対的(25サイクルより多くしかし35サイクルより少ないなど)であってもよく、またはより多くの場合には、存在する総ミトコンドリアDNA(12s増幅産物により示される)と3.4kb欠失との比であってもよい。これは総ミトコンドリアDNAの百分率として表すことができる。細胞の数(TNF増幅産物により表される)を組み入れて、良性および悪性組織の間の差を精緻化することもできる。
【0049】
こうしたサンプルの分析を自動化するために、バイオインフォマティックスのツールを用いた。こうした分析に考慮される3つの変数は、腫瘍壊死因子(TNF)のサイクル閾値 CT、その特定のプライマー部位を含むミトコンドリアの全種、および対象の欠失を有するミトコンドリアである。
【0050】
クラスター分析
データが類似しておりその範囲が小さいことから、クラスタリングは正規化せず、対数関数も使用しなかった。
【0051】
図3は、データの実際の動きと傾向を示す。X軸は患者番号であり、Y軸はリアルタイムPCRから得られたサイクル閾値である。
【0052】
サイクル閾値が高ければ高いほど、存在する欠失の量は少ないことに注目することは重要である。
【0053】
図3に示される主要な一般的傾向は、欠失、総、およびTNFという変数の間の差/比率に基づくものである。欠失は、良性/正常サンプルでは低い〜不在であり(右側)、異常良性および悪性サンプルでは増加する(左側)。異常良性および悪性サンプルは、欠失とTNFのサイクル閾値比に基づき、互いに識別されるようになる。
【0054】
管理学習
管理学習は、システムが既知サンプルについて結果を予測しようとすることに基づく。データの半分を用いて教育を行い、残り半分を用いてアルゴリズムを試した。管理学習は、自身の予測を標的回答と比較して、自身の間違いから「学習」する。しかし、予測された結果がデータの実際の結果よりも高いまたは低い場合には、エラーをシステムに戻して伝え、重みを適切に調節する。
データセット: 5%〜35% -良性
35%〜65% - 過形成
65%〜95% - 悪性
人工ニューラルネットワーク(ANN)アルゴリズム(下に図式的に示す):
データセットの半分をANNの教育に使用
残り半分を正確性を比較するために使用
正確性=期待データセットを得られたデータセットと比較→86.6%

【0055】
人工ニューラルネットワーク(ANN)を用いた欠失データの管理学習
3つの分類:
良性
過形成
悪性
【0056】
リアルタイムPCR サイクル閾値 CTに基づいて各分類のための3つの変数を用いる:
腫瘍壊死因子(TNF)- 核コピー対照
総ミトコンドリア-ミトコンドリアコピー対照
欠失 −欠失状態のミトコンドリア
【0057】
結果:
データセットの半分を用いてANNを教育し、残り半分を用いて正確性を比較する。
3つの分類の正確性= 86.6%
陽性的中率(PPV);
良性から悪性= 88.2%
陰性的中率(NPV)
良性から悪性= 76.5%
【実施例4】
【0058】
乳癌に関連するmtDNAの3.4kb欠失
悪性及び良性の乳房組織からの18のサンプル(悪性9及び良性9)を、上述の3.4kb欠失の存在について試験した。サンプルは、従来の組織病理学的分析を使用して、悪性又は良性と分類した。
【0059】
DNAは、QIAamp(登録商標)DNA Mini Kit(Qiagen、カタログ番号51304)を使用し、製造業者の仕様書に従ってサンプルから単離及び精製した。
【0060】
精製オリゴヌクレオチドプライマーは、Invitrogen(California、USA)によって化学的に合成した。プライマーの配列及び増幅されるPCR産物の予測サイズは、上の表1に列挙してある。
【0061】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
各サンプルに対して、三つの異なるPCRを実施した。各反応物は、25μlの総体積であり、鋳型DNA、一対のプライマー(12s又は3.4欠失又はTNF)、iQ(商標)SYBR Green Supermixキット(カタログ番号170-8882、Bio-Rad Laboratories Inc.)、及び蒸留脱イオン水(ddH2O)を含んでいた。TNF(腫瘍壊死因子)は、単一コピー核遺伝子プライマーを含んでおり、12sは、総ミトコンドリアゲノムプライマーを含んでいた。鋳型DNA、プライマー、及び反応緩衝液の体積及び濃度を、以下に示す:
【表4】

【0062】
各アンプリコンについてのサイクリングパラメータを、表5に示す。
【表5】

【0063】
反応の熱サイクリングリアルタイム検出及び分析は、Intuitive Opticon Monitor(商標)ソフトウェア(MJ Research Inc.)を備えたDNA Engine Opticon(登録商標)2連続蛍光検出システム(2 Continuous Fluorescence Detection System)を使用して実施した。DNA定量のために、標準曲線法を利用した。三つの精製されたPCR産生鋳型(一つは3.4欠失の産物、一つは12sプライマーの産物、一つはTNFの産物)の一連の連続希釈(106、105、104、103、102、101)を実施した。これにより、総mtDNA(12sアンプリコン-総ミトコンドリアゲノムプライマー)、3.4欠失、又は総核DNA(TNF-単一コピー核遺伝子プライマー)のコピー数を示す、三つの異なる標準曲線を作成した。次いで、サンプルCTを標準のものと比較することによって、サンプルのCT値をDNAコピー数に変換した。
【0064】
悪性腫瘍の決定は、サイクル閾値の位置によって示される、標準化されたサンプル中に存在する3.4kb欠失の量に基づくものであった。この位置は、25サイクル超で30サイクル未満の場合のように、絶対的であり得る、あるいは、より可能性のあるのは、12sアンプリコンによって示される存在する総ミトコンドリアDNAと、3.4kb欠失との比であり得る。これは、総ミトコンドリアDNAに対する割合として表すことができる。
【0065】
これらのサンプルの分析を自動化するために、バイオインフォマティクスツールを利用した。これらの分析のために考慮される三つの変数は、腫瘍壊死因子(TNF)と、特定のプライマー部位を含有する全種のミトコンドリアと、当該の欠失を有するミトコンドリアの、サイクル閾値CTであった。
【0066】
表6及び図7は、悪性組織と良性組織からのサンプルについての平均CTスコアの差を示す。悪性組織の平均CTが27.8533であったのに対して、正常組織の平均CT値は30.5889であり、これによって、悪性の乳房組織では、正常な乳房組織と比較した場合に、3.4kb欠失を有するmtDNAの量に差があることが例示された。
【表6】

【0067】
図8は、乳房組織を試験する場合の乳癌用マーカーとしての3.4kb mtDNA欠失の特異性及び感度を説明するROC曲線である。このCTでのマーカーの感度が77.8%であるのに対し、特異性は77.8%であった。
【0068】
表7は、試験の正確さの尺度としての、本実施例についての曲線下面積の計算を示す。
【表7】

【0069】
29.1900のカットオフCTの決定を、下の表8に示す。表8に示す結果は、29.1900のカットオフCTが、それぞれ78%及び78%の、最も高い感度及び特異性をもたらしたことを示す。
【表8】

【実施例5】
【0070】
前立腺癌の組織学的徴候のない個体からの液体と比較した、前立腺癌を有する個体の前立腺マッサージ液における3.4kb欠失
40の前立腺マッサージ液サンプルを、前立腺癌とその後診断された患者、又は前立腺針生検手順後に前立腺癌の組織学的徴候を示さなかった患者から、泌尿器科医によって収集した。このサンプルを、IsoCode Card(商標)(Schleicher&Shuell)上に置き、乾燥させ、次いで、製造業者のプロトコルに従って抽出した。DNA抽出物はすべて、NanoDrop(商標)ND-1000分光光度計を使用して定量し、DNA濃度を2ng/μlに標準化した。次いで、各サンプルを、以下のパラメータに従って増幅した:
25μl反応物中、
1X iQ SYBR Green Supermix(商標)(Bio-Rad P/N 170-8880)
150nmolフォワードプライマー
(5'-TAGACTACGTACATACTAACCCTACTCCTA-3')(配列番号2)
150nmolリバースプライマー
(5'-GAGGTAGGATTGGTGCTGT-3')(配列番号3)
20ng鋳型DNA。
【0071】
以下のプロトコルに従ってOpticon(商標)2 DNA Engine(Bio-Rad Canada)で反応サイクルを行った:
1. 95℃3分間
2. 95℃30秒間
3. 66℃30秒間
4. 72℃30秒間
5. プレート読み取り
6. ステップ2〜5を44回繰り返す
7. 72℃10分間
8. 50℃から105℃までの融解曲線、1℃ごとに読み取り、3秒間保持
9. 10℃保持
【0072】
【表9】

【0073】
表9及び10は、良性のサンプル群と悪性のサンプル群について得られた平均CT値の間の有意差(p=0.005)を示す。
【表10】

【0074】
図5は、前立腺マッサージ液を試験する場合の前立腺癌用マーカーとしての3.4kb mtDNA欠失の特異性及び感度を説明する、受信者動作特性(ROC)曲線である。これらの結果は、37.3683のカットオフCTを使用して得られた。このCTでのマーカーの感度は87%であるのに対し、特異性は64%である。
【0075】
試験の精度は、その試験が、試験される群を、前立腺癌を有する群と有しない群に、どの程度十分に分けるかに依存する。精度は、ROC曲線下の面積によって測定される。表11は、本実施例のための曲線下面積の計算を示す。
【表11】

【0076】
【表12】

【0077】
37.3683のカットオフCTの決定は、上の表12に示す。表12に示す結果は、37.3683のカットオフCTが、最も高い感度及び特異性をもたらしたことを説明する。
【実施例6】
【0078】
前立腺癌の組織学的徴候のない個体からの液体と比較した、前立腺癌を有する個体の尿における3.4kb欠失
尿サンプルを、前立腺癌と診断された5人の患者、及び、針生検手順を受けたが前立腺悪性腫瘍を検出することができなかった5人の患者から収集した。前立腺細胞の収集を容易にするために、直腸診(DRE)後に、これらのサンプルを収集した。
【0079】
サンプルの受け取り後、5mlアリコートを取り出し、次いで2mlを14,000×gで遠心分離し、ペレットを形成した。上清を除去し、廃棄した。ペレットを、200μlリン酸緩衝生理食塩溶液に再懸濁した。再懸濁されたペレットと完全な尿サンプルの両方に、製造業者の指示に従ってQiaAMP(商標)DNA Mini Kit(Qiagen P/N 51304)を使用するDNA抽出手順を行った。次いで、得られたDNA抽出物を、NanoDrop(商標)ND-1000分光光度計を使用して定量し、0.1ng/μlの濃度に標準化した。
【0080】
サンプルを、以下に従って、3.4kb欠失に特異的なプライマーを用いて、定量的リアルタイムPCRによって分析した:
25μl反応物中、
1X iQ SYBR Green Supermix(商標)(Bio-Rad P/N 170-8880)
100nmolフォワードプライマー(5'-TAGACTACGTACATACTAACCCTACTCCTA-3')(配列番号2)
100nmolリバースプライマー(5'-GAGGTAGGATTGGTGCTGT-3')(配列番号3)
1ng鋳型DNA。
【0081】
以下のプロトコルに従ってOpticon(商標)2 DNA Engine(Bio-Rad Canada)で反応サイクルを行った:
1. 95℃3分間
2. 95℃30秒間
3. 69℃30秒間
4. 72℃30秒間
5. プレート読み取り
6. ステップ2〜5を44回繰り返す
7. 72℃10分間
8. 50℃から105℃までの融解曲線、1℃ごとに読み取り、3秒間保持
9. 10℃保持
【0082】
【表13】

【0083】
表13及び14は、良性のサンプル群と悪性のサンプル群について得られた平均CT値の間の有意差(p=0.005)を示す。
【表14】

【0084】
図6は、尿を試験する場合の前立腺癌用マーカーとしての3.4kb mtDNA欠失の特異性及び感度を説明する、受信者動作特性(ROC)曲線である。これらの結果は、31.575のカットオフCTを使用して得られた。このCTでのマーカーの感度は80%であるのに対し、特異性は100%である。
【0085】
31.575のカットオフCTの決定を、表15に示す。表15に示す結果は、31.575のカットオフCTが、最も高い感度及び特異性をもたらしたことを示す。
【表15】

【実施例7】
【0086】
前立腺の悪性及び良性の組織における、再環化された3.4kb欠失配列の検出
この実施例では、サンプル中の再環化された3.4kb欠失mtDNA分子の量を、前立腺癌の指標として試験した。上述の通り、3.4kb配列は、欠失後に、環状のmtDNA分子として再形成される可能性がある。欠失した3.4kb mtDNAサブリモン(sublimon)からの標的領域の増幅を、プライマー対(配列番号9及び10)を使用して実施した。フォワードプライマー(配列番号9)は、3.4kbの配列の末端の再連結部位と重複する。
【0087】
前立腺組織は、ホルマリン固定パラフィン包埋前立腺組織針生検であった。
【0088】
この実施例のために使用される試薬設定は、以下の通りであった:
25μl反応体積中、
250nmol各プライマー
12.5μlの2×反応混合物、
20ng(2ng/μlを10μl)鋳型。
【0089】
サイクリングパラメータは、以下の通りであった:
1. 摂氏95度3分間
2. 摂氏95度30秒間
3. 摂氏62度30秒間
4. 摂氏72度30秒間
5. プレート読み取り
6. ステップ2〜5を44回繰り返す
7. 72度10分間
8. 50から100度までの融解曲線、3秒間、1℃ごとに読み取り
9. 4度保持。
【0090】
欠失した3.4kb mtDNAサブリモンからの標的領域の増幅を、プライマー対(配列番号9及び10)を使用して実施した。
【0091】
下の表16は、悪性及び良性の前立腺組織から得られたmtDNAにおいて欠失した実際の3.4kbの検出のために実施される試験の概要を提供する。30.0のCTスコアを使用すると、悪性と良性の組織の明らかな識別が可能であった。したがって、サンプル中に存在する3.4kb分子の量の増加は、癌であることを示した。
【表16】

【0092】
本発明をいくつかの特定の実施形態を参照して説明したが、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、その種々の改変が当業者には明らかであろう。
【0093】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、少なくとも一つの既知の基準値と比較するステップと
を含む方法。
【請求項2】
欠失が、配列番号1に示される配列に相当する核酸配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つの既知の基準値が、既知の非癌性の組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも一つの既知の基準値が、既知の癌性の組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
定量ステップが、リアルタイムPCRを使用して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
欠失の定量が、欠失を示すmtDNAの標的領域を最初に増幅し、増幅された標的領域の量を定量することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
配列番号2に相当する配列を有するPCRプライマーが、標的領域を増幅するための一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
癌が乳癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
生体サンプルが体組織又は体液である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
生体サンプルが、乳房組織、前立腺組織、前立腺マッサージ液、及び尿からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
基準値がサイクル閾値である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の非癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップと
を含み、生体サンプル中の欠失の量が基準サンプルと比較して多いことが、癌であることを示す、上記方法。
【請求項14】
欠失が、配列番号1に示される配列に相当する核酸配列を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
欠失の定量が、欠失を示すmtDNAの標的領域を増幅し、増幅された標的領域の量を定量することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
配列番号2に相当する配列を有するPCRプライマーが、標的領域を増幅するための一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
定量ステップが、リアルタイムPCRを使用して行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
癌が前立腺癌である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
癌が乳癌である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
生体サンプルが体組織又は体液である、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
生体サンプルが、乳房組織、前立腺組織、前立腺マッサージ液、及び尿からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップと
を含み、生体サンプル中の欠失のレベルが基準サンプルと比較して同様であることが、癌であることを示す、上記方法。
【請求項24】
欠失が、配列番号1に示される配列に相当する核酸配列を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の非癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
欠失の定量が、欠失を示すmtDNAの標的領域を増幅し、増幅された標的領域の量を定量することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
配列番号2に相当する配列を有するPCRプライマーが、標的領域を増幅するための一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
定量ステップが、リアルタイムPCRを使用して行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
癌が前立腺癌である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
癌が乳癌である、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
生体サンプルが、体組織又は体液である、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
生体サンプルが、乳房組織、前立腺組織、前立腺マッサージ液、及び尿からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
個体を癌の発症についてモニタリングする方法であって、
a)生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからmtDNAを抽出するステップと;
c)mtDNAゲノムの10743番目の残基から14125番目の残基までの核酸配列に欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)ステップa)からc)をある期間にわたり繰り返すステップと
を含み、
e)ある期間にわたる欠失レベルの増加が癌であることを示す、上記方法。
【請求項34】
欠失が、配列番号1に示される配列に相当する核酸配列を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
(a)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の非癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップ、及び(b)欠失を有するサンプル中のmtDNAの量を、既知の癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の欠失の量と比較するステップからなる群から選択される少なくとも一つのステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
欠失の定量が、欠失を示すmtDNAの標的領域を増幅し、増幅された標的領域の量を定量することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
定量ステップが、リアルタイムPCRを使用して行われる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
配列番号2に相当する配列を有するPCRプライマーが、標的領域を増幅するための一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
癌が前立腺癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
癌が乳癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
生体サンプルが、体組織又は体液である、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
生体サンプルが、乳房組織、前立腺組織、前立腺マッサージ液、及び尿からなる群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
標的領域の増幅が、一対の増幅プライマーを使用して実施され、その増幅プライマー対のうちの一つが、欠失の反対側のスプライス連結領域と重複する、請求項6、16、又は26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
個体における癌の検出方法であって、
a)個体から生体サンプルを得るステップと;
b)該サンプルからミトコンドリアDNA(mtDNA)を抽出するステップと;
c)配列番号1に示される配列に相当する配列を有するサンプル中のmtDNAの量を定量するステップと;
d)配列番号1に相当するサンプル中のmtDNAの量を、少なくとも一つの既知の基準値と比較するステップと
を含む方法。
【請求項45】
少なくとも一つの既知の基準値が、既知の非癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の配列番号1に相当する配列の量である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
少なくとも一つの既知の基準値が、既知の癌性組織又は体液由来のmtDNAの基準サンプル中の配列番号1に相当する配列の量である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
定量ステップが、リアルタイムPCRを使用して行われる、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
欠失の定量が、欠失を示すmtDNAの標的領域を最初に増幅し、増幅された標的領域の量を定量することを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
標的領域の増幅に使用される一対のPCRプライマーのうちの一つが、配列番号1に相当する配列の、配列が再環化された後の再連結部位と重複する、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
配列番号9に相当する配列を有するPCRプライマーが、標的領域を増幅するための一対の増幅プライマーの一部として使用される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
癌が前立腺癌である、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
癌が乳癌である、請求項44に記載の方法。
【請求項52】
生体サンプルが、体組織又は体液である、請求項44に記載の方法。
【請求項53】
生体サンプルが、乳房組織、前立腺組織、前立腺マッサージ液、及び尿からなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
基準値がサイクル閾値である、請求項47に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−539908(P2010−539908A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526114(P2010−526114)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001711
【国際公開番号】WO2009/039601
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(507343316)ミトミクス インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】