説明

癌の治療における多剤耐性を抑制するための、P−糖タンパク質170を標的とする治療ワクチン

本発明は、適した投与条件下で抗P-170抗体の誘導を可能にするための、第1に担体を、第2に、抗原性構造として、P-170タンパク質の細胞外ループに由来する少なくとも1つのペプチドのアミノ酸配列の全体または一部を含む結合物を含む免疫原性組成物であって、各ペプチドがC12〜C24の炭素鎖を含むいくつかの脂肪酸分子と化合している免疫原性組成物に関する。
本発明は、多剤耐性を治療するための手段を規定するための、前記組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ある種の患者において癌の治療中に出現する多剤耐性(多面的耐性または多剤耐性)を治療するために有用な新規薬剤の探索および開発の文脈の範囲に入る。
【0002】
本発明は、特に、癌に対する治療の過程で多剤耐性を来した患者において、この耐性を軽減またはさらに無効化することを目標として免疫応答を誘導するために用いうる薬剤について詳述する。本発明はまた、多剤耐性の出現を予防するためのこのような薬剤にも関する。
【0003】
本発明は、この点に関して、第1に担体を、第2に、ペプチド領域とC12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸の分子との間の共有結合によって形成される結合物を含む組成物であって、前記ペプチド部分がP-170タンパク質の細胞外ループの少なくとも1つに由来するような組成物に関する。この免疫原性組成物は、適した条件下で投与され、抗P-170抗体の誘導を可能にする。
【0004】
本発明はまた、薬学的に許容される担体、例えばリポソームと組み合わせられた結合物に基づく上記の組成物を用いる、免疫処置の方法にも関する。本発明は特に、その実施が、患者に投与される化学療法の段階の前、それと同時、またはその後に行われる、免疫処置の方法に関する。
【0005】
最終的に、本発明は、抗癌薬によって治療される癌に罹患した患者に出現する多剤耐性のインビボ治療のための、または適宜、このような多剤耐性の予防のための、本発明による組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0006】
技術の現状
癌細胞株が化学療法薬、特に癌の治療のために用いられる薬剤に対する耐性を獲得する、多剤耐性(MDR)という現象は、1970年代の終わりに示された。多剤耐性は、患者の治療のために用いられる化学療法薬に対して、これらの薬剤が異なる構造および特異性を有する場合の、多面的耐性を特徴とする。癌細胞の多面的耐性を選択または誘導しうる薬剤としては、コルヒチン、アドリアマイシン、アクチノマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびミトキサントロンが挙げられる。表現型の観点からは、多剤耐性は、細胞毒性薬の細胞内蓄積の減少、細胞の生理的変化、および細胞膜におけるP-糖タンパク質(これはP-gpタンパク質またはP-170タンパク質とも呼ばれる)の過剰発現を特徴とする(Van der Bliek et al. 1988. Gene 71(2): 401-411、Thiebaut et al. 1987 Proc. Natl. Acad. Sci. 84(21): 7735-7738、Endicott et al. 1989 Annu. Rev. Biochem. 58: 137-171)。P-170タンパク質は、細胞の外への薬剤の能動的な流れ(これは能動的流出とも呼ばれる)を担っており、この現象はATP消費に依存する。P-170タンパク質による認識、および、P-170タンパク質によって媒介される、処理細胞からの多様な構造および機能を有する多岐にわたる化学物質の排出は、このタンパク質の機能のうち最も未解明な面の一つであり続けている。交差耐性の対象となる薬剤間に共通の構造的特徴が示されていないため、P-170タンパク質の影響を受けずに排出されると考えられる薬剤の開発が想定されるには至っていない。
【0007】
化学療法薬に対する腫瘍の多剤耐性は、癌医学における中心的な問題となっている。補助療法の伸展はみられるが、薬剤耐性という問題は、さらに優れた治癒率を得るための障害であり続けている。腫瘍細胞が治療の開始時から化学療法に反応しない場合があることも知られている。このデノボ多剤耐性は、いくつかのタイプの固形腫瘍では残念ながらよくみられる。さらに、腫瘍が初めのうちは化学療法に反応するが、その後、概ね短期間のうちに治療に対する耐性が生じるという形で現れる、獲得耐性という現象も観察されうる。
【0008】
抗癌療法は、さらに効果を高めるために、P-170タンパク質によって媒介される細胞外への薬剤の流出を阻止し、それによって多剤耐性を回避させることができる、無効化薬(reverting agent)とも呼ばれる多剤耐性調節薬(multidrug resistance-modulating agent)と併用されている。ベラパミル、キニーネおよびシクロスポリンといった既存の無効化薬は、P-170タンパク質の流出活性を阻害するのに必要な用量で用いられた場合、患者が許容することができない毒性を引き起こす。例えば、ベラパミルに関しては、治癒量で投与された場合、低血圧、心不整脈およびうっ血性心不全といった機能障害が患者に出現するために、癌無効化療法における限界が直ちに示されており、これは同時に毒性に関する限界量ということになる(Miller et al. 1991. J Clin Oncol 9(1): 17-24)。
【0009】
さらに近年では、デクスベラパミル、PSC 833(シクロスポリン誘導体)、ごく最近にはLaboratoires Servier社のS9788といった類似体が、多剤耐性の克服を目標とする臨床試験の対象となっている。しかし、これらの新規な無効化薬に関しては、前の世代の無効化薬について報告されているものと同等の、使用に関する限界が経験されている。事実、トリアジンアミノピペリジン誘導体の1つであるS9788(6-[4-[2,2-ジ-(4-フルオロフェニル)エチルアミノ]-1-ピペリジニル]-N,N'-ジ-2-プロペニル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン)を用いた多剤耐性の治療に関する治験では、心毒性、心室性不整脈およびトルサード-ド-ポワンといった現象の出現により、この製品の使用の限界が明らかになっている(Stupp et al. 1998. Ann Oncol 9(11): 1233-1242)。この結果からみて、新規のものでも従来のものでも、無効化薬を用いて多剤耐性現象を抑えることは、化学療法に対して治療抵抗性となった患者に対する治療量が毒性閾値と等しいため、困難である。
【0010】
患者に出現した多剤耐性を治療することを目的とする、免疫療法、特にモノクローナル抗体の使用も想定されている。これは最初に、モノクローナル抗体MRK16を用いて、卵巣癌における腫瘍の形成を抑制する目的で試験が行われた(Tsuruo. 1989. Cancer Treat Res 48: 1811-1816)。さらに最近では、多剤耐性の治療におけるモノクローナル免疫療法が、Mechetner and Roninsonにより、さらに徹底的に検討された(1992. Proc Natl Acad Sci USA vol.89 pp.5824-5828)。実際に、ヒトP-糖タンパク質の細胞外エピトープを標的とするモノクローナル抗体UIC2を得た上で、抗癌薬に耐性のある細胞株に対するインビトロ試験が行われた。それにより、モノクローナル抗体UIC2のインビトロでの阻害効果は、ベラパミルを最大臨床用量(3μM)で用いた場合のものと同程度であることが示された。抗P-170モノクローナル抗体は、P-170タンパク質のATPアーゼ活性を阻害すること、および医薬製品とP-170タンパク質との結合を阻害することによってその効果を発揮する。
【0011】
患者へのモノクローナル抗体の注射に基づく適切な免疫療法は、それが腫瘍の残存耐性細胞を排除しうる限り、ある程度の利点がある可能性がある。しかし、抗体の特異性、毒性、有効性および作用機序に関する知見が不足しているため、このアプローチを、P-170タンパク質の過剰発現に起因する多剤耐性を克服するために用いることは制約される。特に、抗マウス抗体または抗ウサギ抗体の免疫応答に関係した副作用、およびモノクローナル抗体のヒト化が行われていないことに関係した障害が、モノクローナル免疫療法では克服されていない。
【発明の開示】
【0012】
発明の簡単な説明
このため、本発明の目標は、多剤耐性の既知の治療法の欠点を、少なくとも部分的には改善することを目的とする、癌における多剤耐性に対する、すでに利用しうる治療に代わる代替的な戦略を提案することである。本発明は、この点に関して、P-糖タンパク質(P-170タンパク質)に対して特異的なポリクローナル自己抗体の誘導に基づく免疫療法を提案する。この免疫療法は、P-170タンパク質の細胞外ループの少なくとも1つに由来するペプチドを含む結合物が、その抗原性能力の発現を許容または促進する形態で提示および投与された場合、ならびに特にそれらが薬学的に許容される担体と組み合わせられた場合に、患者において抗体を誘導するという、その抗原性能力を利用して得られる。特に、抗体は、ヒトP-170に対して誘導される自己抗体である。
【0013】
このため、本発明は特に、適した投与条件下で抗P-170抗体の誘導を可能にする、第1に担体を、第2に、抗原性構造として、P-170タンパク質の細胞外ループに由来する少なくとも1つのペプチドのアミノ酸配列の全体または一部を含む結合物を含む免疫原性組成物であって、各ペプチドがC12〜C24の炭素鎖を含む少なくとも2つの脂肪酸分子と組み合わされている免疫原性組成物に関する。
【0014】
本発明者らは、驚いたことに、しかも予想外のことに、本発明に記載した免疫原性組成物による免疫処置を受け、癌細胞の接種後に化学療法治療計画を受けたマウスでは、生存期間の77%の向上が観察されることを示した。
【0015】
これらの結果は、多剤耐性の治療において観察されている最も優れた既発表の結果が、別の物質を投与されたマウスで生存期間が49%向上することが記載された同じ癌モデルであることからみて、極めて有望である(Pierre et al. 1992. Invest New Drug. 10: 137-148)。加えて、Yang et al.(1999. BBRC. 266: 167-173)は、同じ細胞株を用いた場合、ビンクリスチンおよびシクロスポリンAを投与されたマウスにおける生存期間の向上は35%に過ぎないことを観察している。
【0016】
発明の態様
P-糖タンパク質またはP-170タンパク質は、Juliano and Ling(1976. Biochim Biophys Acta 455(1): 152-162)によって同定された170kDaの膜結合型ホスホ糖タンパク質である。マウスP-170タンパク質は、2つの同等な要素を形成する1276アミノ酸からなる。この分子の疎水性ドメインには1から12までの番号が付されており、これらは化学療法薬の流出に関与している。マウスP-170タンパク質の細胞外ループ1、2および4は、顕著な細胞外配置を有し、これらが抗原性を持つ可能性が示唆されるという理由から選択されている。同様に、ヒトP-170タンパク質(Chen et al. 1986 Cell. 47(3): 381-389)は、それぞれが6つの膜貫通性ヘリカルドメインおよび1つのヌクレオチド結合部位を含むという2つの相同なドメインからなる1280アミノ酸タンパク質である。これらの膜貫通ドメインの疎水性領域は細胞外ループを形成し、これらは細胞の外側からのP-170タンパク質の認識のための断片であると考えられている。ヒトP-170タンパク質の細胞外ループ1、4および6も、特に顕著に細胞外位置にあるために高い抗原性能力を有するものとして選択されている。
【0017】
本発明の文脈で用いられる免疫療法は、癌化学療法に対して、化学療法薬の治療効果が現れるようになることを付け加える。
【0018】
本発明の文脈における通常の意味によれば、「癌」は、2つの主な特徴によって定義される:外部シグナルによって調節されない細胞の成長および増殖、ならびに組織に浸潤し、それとともに必要に応じて、遠隔部位に定着することによって転移を形成する能力。
【0019】
これらの特徴は、癌細胞に固有の特性、すなわち、それらの核型およびゲノムの不安定性、無秩序な増殖、新たな表現型の獲得に伴う転移能力、さらには前記細胞における癌遺伝子の活性化および脱抑制などの結果である。このため、「癌」という語は、本発明の文脈において、以上の特徴を有し、特に原発性腫瘍および/または転移性腫瘍(二次腫瘍)の発達に向けて伸展する、細胞の成長または増殖のあらゆる段階のことを意味するものと解釈される。
【0020】
さらに、本発明の目的において、「多剤耐性に対する治療」という表現は、多剤耐性に対して、その結果を限定するため、死亡を避けるため、さらに好ましくは、抗癌医薬製品に対する感受性を再び確立させるために立ち向かうことを意図した、すべての治療行為のことを意味するものと解釈される。この点に関して、多剤耐性に対する治療の目標は、理想的には、化学療法に対する感受性のある細胞表現型への完全復帰を誘導することにより、多剤耐性を治癒させることに向けられる。しかし、この復帰は部分的であってもよい:この場合にはその結果として、多剤耐性の治療は、患者の長期的な寛解を可能にする緩和的なものとなると考えられる。また、多剤耐性に対する治療は、その予防能力により、患者におけるデノボ性または獲得性の多剤耐性の出現を予防することを可能にすることによっても特徴づけられる。
【0021】
本発明はこのため、特に、第1に担体を、第2に、抗原性構造として、P-170タンパク質の細胞外ループに由来する少なくとも1つのペプチドのアミノ酸配列の全体または一部を含む結合物を含む免疫原性組成物であって、適した投与条件下で抗P-170抗体の誘導が可能となるように、各ペプチドがC12〜C24の炭素鎖を含む少なくとも2つの脂肪酸分子と化合している免疫原性組成物に関する。
【0022】
本発明の文脈において、免疫原性組成物はまた、癌に罹患した患者に出現する多剤耐性を無効化させるための抗P-170抗体の誘導も可能にする。
【0023】
1つの好ましい態様において、本結合物は、P-170タンパク質の少なくとも2つの細胞外ループ、好ましくは少なくとも3つの細胞外ループのアミノ酸配列の全体または一部を含む。
【0024】
「結合物」という表現は、本発明によれば、脂質-ペプチド混合分子を形成させるための、C12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸分子と本発明に記載のアミノ酸配列との間の共有結合によって形成された試薬に相当する。このペプチド配列は、特に固相合成によって得られ、分子の脂質領域を構成する脂肪酸分子と共有結合している。
【0025】
本発明の目的において、P-170タンパク質からの「派生ペプチド(derived peptide)」という用語は、P-170タンパク質の各細胞外ループを構成するアミノ酸配列の全体または一部のことを表す。前記「派生ペプチド」は、その由来となった細胞外ループの少なくとも1つのエピトープを有する。細胞外ループに由来するペプチドは、5個〜50個のアミノ酸残基を有することが好都合であり、好ましくは5個〜40個または10個〜30個、さらに好都合には10個〜25個の残基を有する。以下のものはこの定義の文脈に含まれる:(1)アミノ酸配列が、その由来となった細胞外ループの対応する配列と同一であるペプチド、または(2)アミノ酸配列が、その由来となった細胞外ループの配列に比して改変されており、前記改変が1つまたは複数の残基の、挿入、欠失または置換、特に保存的置換による点変異からなることが可能であるペプチドであって、ただし、そのように形成されたペプチドが依然としてP-170タンパク質のエピトープを保持しているペプチド。特に、許容される変異は、本発明の組成物中に含められた時に改変ペプチドのコンフォメーションを乱さない変異である。これは、改変ペプチドが、本発明による組成物中に配合された時に抗体を誘導する能力によって検証することができる。
【0026】
本発明のペプチドは、好ましくは、化学合成により、特に本明細書で後述する方法を用いて得られる。
【0027】
本発明の文脈において、P-糖タンパク質(またはP-170タンパク質)の「細胞外ループ」という表現は、このタンパク質のエピトープを保有する配列として選択しうるような、細胞外配置、または細胞外環境との有効なつながりを有する、P-170タンパク質の各アミノ酸配列を表す。
【0028】
本発明の文脈で用いられる合成ペプチドを構成するアミノ酸配列は、それ自体が抗原性であってもよく、またはそれが、アミノ酸配列のコンフォメーションをそのペプチドの由来となった細胞外ループに対応するものに保つようなコンフォメーション中、もしくは形成されるペプチドに対して適した投与条件下で抗体の産生を誘導する能力を付与する程度に十分に類似したコンフォメーション中にある場合に、抗原性であってもよい。抗体の産生を誘導する能力は、例えば、本発明の状況において、または任意の他の手段によって調製されたペプチドによる免疫処置を受けたマウスで検証しうる。すなわち、本発明のペプチドは、形成された組成物に対してその免疫原性能力が付与されるように、免疫原性組成物中に、そのペプチドの由来となったループの細胞外部分のコンフォメーションが再現されるような、または前記コンフォメーションに類似しているような、三次元コンフォメーションを有することが好都合である。ペプチドの適切な提示は、それと免疫原性組成物の他の構成要素との会合によって生じることが好都合である。
【0029】
抗体の産生を誘導するこの能力は、特に、本発明のペプチドが、適した担体、特にリポソームと組み合わされた結合物の形態中にあるように合成または改変されている場合に得られる。
【0030】
本発明による結合物は、免疫原性組成物中の担体によって保持される抗原性構造に対応する。本発明の文脈において、「抗原性構造」という表現は、抗原/抗体複合体を形成するように、抗体と反応しうる分子のことを表す。このため、免疫原性組成物の前記「抗原性構造」は、ある所定の抗原に対して特異的な抗体の形成に対応する現象を誘導する能力を有してもよく、有していなくてもよい。
【0031】
実施例として、これらの結合物は、マウスP-170タンパク質の細胞外ループ1(mpp1)に由来するペプチド、および細胞外ループ2(mpp2)または4(mpp4)のうち少なくとも1つに由来するペプチドを含み、これらは配列、分子質量、および以下に述べる実験プロトコールに従った合成後の純度に関して表Iの通りに特徴づけられている。
【0032】
(表I)

【0033】
マウスP-170タンパク質の細胞外ループ1、2および4に由来するペプチドの分子質量の算出値および観測値は、質量分析法による分析、つまり:
-分子質量の算出値に関しては[M+H+]、
-分子質量の測定値に関してはMALDI-TOFおよびPDMS-TOF、すなわち
(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間法)
(プラズマ脱離質量分析法-飛行時間法)によって得た。
【0034】
さらに、アミノ酸配列は、アミノ酸の予想数および取得数(予想値/取得数)を検証することを目的とする、110℃の6N HCI/フェノール中でのアリコートの加水分解によっても分析される:
mpp 1、A(2/1.5)、D(5/4.4)、E(5/6.6)、F(1/0.6)、G(4/3.4)、1(4/3.6)、K(4/4.0)、L(3/3.5)、M(1/0.7)、P(2/1.8)、T(4/3.0)、S(8/7.4)。
mpp 2、A(2/2.3)、D(1/1.2)、E(2/2.4)、F(1/1.0)、G(2/2.1)、K(6/6.0)、L(2/2.1)、S(1/0.9)、V(1/1.0)、Y(1/1.0)。
mpp 4、D(5/5.0)、E(3/3.1)、G(2/2.0)、K(4/3.7)、S(1/0.9)、R(2/1.9)。
【0035】
本発明の特に好都合な1つの態様によれば、結合物は、ヒトP-170タンパク質の細胞外ループ1(hpp1)(hpp:ヒトパルミトイルペプチド)に由来するペプチド、および細胞外ループ4(hpp4)および6(hpp6)のうち少なくとも1つに由来するペプチドを含む。したがって、この結合物のペプチドは、細胞外ループ1(hpp1)と4(hpp4)とに由来する、または細胞外ループ1(hpp1)と6(hpp6)とに由来する、アミノ酸配列を含む。
【0036】
好ましくは、免疫原性組成物の結合物は、ヒトP-170タンパク質の3つのループ1(hpp1)、4(hpp4)および6(hpp6)に由来するペプチドを含む。
【0037】
P-170タンパク質のループ1が47アミノ酸長であることから、このループに由来するペプチドは、グリコシル化部位での切断によって得られる、3つの断片に分割された前記ループ1から派生しうる。この3つの派生ペプチドは、合成を行いうる以下の3つの結合物、hpp1a、hpp1bおよびhpp1cを生成する元となる。また別のペプチドが、1つまたは複数のエピトープを含む、これらの3種のペプチドの断片であってもよい。このため、その結果として、本発明による結合物は、グリコシル化部位での前記ループ1の切断に起因する3種のペプチドに対応する、ヒトP-170タンパク質の細胞外ループ1に由来するペプチドの全体または一部を含む。
【0038】
結合物のペプチド配列は、本発明による免疫原性組成物、特にリポソームと組み合わせたものを調製する目的にそのまま用いることができる。これらの結合物のペプチドはそれぞれ以下のアミノ酸配列:

および/またはそれらの組み合わせより選択される。
【0039】
細胞外ループ1に関しては、同一の組成物中に3種のペプチド1a、1bおよび1cを用いることが好都合であると考えられる。または、ペプチド1aおよび1b、または1aおよび1c、または1bおよび1cとを用いることも考えられる。
【0040】
表IIは、ヒトP-170タンパク質の細胞外ループ1、4および6に対応する、結合物のアミノ酸配列をまとめている。派生ペプチドの配列に対応するアミノ酸配列は大文字であり、一方、小文字は、脂肪酸分子が結合する対象となる付加アミノ酸に対応する。
【0041】
表IIに記載されたペプチドの配列、分子質量および純度は、表Iのペプチドに対する、上記の技法によって管理することができる。
【0042】
細胞外ループに由来するペプチドは、合成後のHPLCクロマトグラフィーによる測定で、純度が90%と等しいかそれを上回ることが好都合であり、さらに91%〜98%であることが好都合である。
【0043】
(表II)

【0044】
本発明の文脈においては、細胞外ループの配列に対応するアミノ酸配列(大文字で表示されたもの)を、特にその末端で、脂肪酸残基が結合する対象となるアミノ酸残基(図示されたペプチドの後に小さな大文字で表示されたもの)を用いて、伸長させることができる。アミノ酸配列および脂肪酸分子を結合させた、本発明のさまざまな結合物の配列が、この形式で以下の表に示されている。
【0045】
好都合なこととして、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、C22、C23またはC24炭素鎖を含む脂肪酸分子は、C16パルミチン酸分子であることが好ましい。C12〜C24の脂肪酸分子の炭素鎖は直鎖状または分枝状である。脂肪酸分子は直鎖状の炭素鎖を有することが好ましい。他方において、脂肪酸分子は、ペプチド合成中、特に強酸の存在下での脱保護の最終段階における反応不適合性のため、一価不飽和でも多価不飽和でもないものがよい。
【0046】
好ましくは、各結合物はC12〜C24の炭素鎖を含む少なくとも4つの脂肪酸分子を含み、脂肪酸分子はペプチドのN末端およびC末端にも分布していることが好ましい。脂肪酸によっては、アミノ酸配列の内部を含む、他の分布も想定される。これらのペプチドは同じく脂肪酸分子と共有結合している。
【0047】
好ましくは、結合物中のペプチドはそれぞれ、4つのパルミチン酸分子と結合している;したがって、これらはテトラパルミトイル化されている。
【0048】
2つのパルミチン酸分子がペプチドのN末端と結合し、2つのパルミチン酸分子がC末端と結合していることが好ましい。
【0049】
好ましくは、表IIにも示されているように、結合物のペプチドの細胞外ループのアミノ酸配列は、C12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸分子との化合が可能となるように、1つまたは複数のアミノ酸残基のN末端および/またはC末端の位置で伸長している。
【0050】
前記ペプチドと前記脂肪酸との化合は、N末端位置に限定して、またはC末端位置に限定して行われる。結合物におけるペプチドと脂肪酸との化合は、特にテトラパルミトイル化された配列が生じるように、ペプチド配列のN末端およびC末端の位置で行われることが好都合である。
【0051】
代替的または累積的に、脂肪酸をペプチド配列中の内部残基と化合させることも想定しうる。
【0052】
また、本発明において定義した結合物が、さらに1つまたは複数のPEG分子を含んでもよい。
【0053】
「PEG化(pegylation)」、すなわち、抗原として用いるペプチドの免疫原性/免疫原的な性質を高めるために、PEG分子をペプチドと共有結合させることに本質をおく工程は、当業者に周知の技法である(2002. Adv Drug Deliv Rev. 54(4): 459-476)。
【0054】
この工程は、特に、ペプチド配列の接近性(accessibility)を高め、このようにして抗原の提示性を高めることが可能である。
【0055】
一般に、ペプチド配列が長いほど、PEGの分子数は大きい。
【0056】
1〜8000までのPEG分子を、本発明に記載した結合物のペプチドの細胞外ループのアミノ酸配列のN末端および/またはC末端位置に存在するリジン(K)残基と結び付けることが好都合である。各ペプチドは、C12〜C24の炭素鎖を含む少なくとも2つの脂肪酸分子、または、これらの抗原性複合体をリポソームの脂質二重層中に再構成することを可能とするためにそれぞれがホスファチジルエタノールアミン分子と結合している、少なくとも2つのポリエチレングリコール鎖(1-8000)と共有結合している。適した投与条件下で、これらの抗原は、アジュバント-リポソーム中において、抗P-170抗体の誘導を再構成する。
【0057】
本発明の文脈において、免疫原性組成物の「担体」という表現は、免疫系への抗原性構造の輸送をもたらす任意の作用因子のことを表す。特に、本発明による担体は、リポソーム、細菌膜タンパク質髄膜炎菌(Neissera meningitides)OMPCまたは大腸菌(Escherichia coli)TraTなどの細菌膜タンパク質、腸内細菌Ompタンパク質、ナノ粒子、ミセル、金粒子、ミクロビーズおよびビロソームからなる。
【0058】
本発明の免疫原性組成物を上述した結合物から形成するためには、本発明の組成物中の結合物を防止するためにリポソームを担体として選択することが好都合である。
【0059】
前記結合物をリポソームの表面に提示させることが好都合である。
【0060】
本発明の目的において、「リポソーム」という用語は、エピトープを保有し、P-糖タンパク質(P-170)の細胞外ループに由来するペプチドが免疫系の細胞に対して確実に提示されるようにする、リン脂質の1つまたは複数の層からなる人工的な球状粒子を意味すると解釈される。
【0061】
本発明による組成物は、好都合には、結合物およびリポソームを1/10〜1/1000のモル比で、好ましくは1/50〜1/500で含み、さらに好都合には1/250のモル比で含む。
【0062】
リポソームは、ジミリストイルホスファチジルコリン(DPMC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)およびコレステロールを、それぞれ0.9:0.1:0.7のモル比で混合することによって調製されることが好都合である。以上に用いられる製品は、エンドトキシン、プリオンまたはウイルスの混入の恐れを避けるために合成由来であることが好ましい。例えば、DMPCおよびDMPGリン脂質は合成由来であり(Avanti Polar Lipids USA)、純度98%のコレステロールは動物由来である。同じく合成由来であり、免疫応答を増大させることが知られているモノホスホリルリピドA(MPLA)(Fries et al. 1992. Proc Natl Acad Sci 89(1): 358-362)を、リン脂質1μmol当たり40μgの濃度でリポソームに添加して、検討した。
【0063】
本発明による組成物はまた、少なくとも1つのアジュバントをも含む。「アジュバント」という用語は、本発明の文脈において、免疫応答の非特異的な刺激を可能にし、抗原性構造の抗原性を高める製品のことを表す。アジュバントは、食細胞を抗原性構造の沈着部位に動員し、免疫系の刺激が延長されるように抗原のより緩徐な放出を確実に行わせることによって作用すると考えられる。
【0064】
特に、本免疫原性組成物に用いられるアジュバントは、ミョウバン、リン酸カルシウム、インターロイキン1、モノホスホリルリピドA(MPLA)、ならびに/またはタンパク質および多糖のマイクロカプセルからなる群より選択される。ミョウバンを本発明の状況に用いることが好都合である。
【0065】
このような免疫原性組成物は、溶液もしくは注射用懸濁液の形態として、または、以下に述べるように、本組成物を利用するためのキット環境において、注入の前に溶解するのに適した固体形態として調製される。
【0066】
本発明はまた、P-170タンパク質の少なくとも1つの細胞外ループに由来し、記載したような免疫原性組成物中に用いられた場合に抗P-170抗体を誘導する、ペプチドにも関する。これらのペプチドはそれぞれ、以下のアミノ酸配列より選択される:

【0067】
上記のペプチドをコードする、核酸の、すなわちDNAまたはRNAの配列も本発明に含まれる。
【0068】
本発明は、考察して以上に定義した免疫原性組成物それ自体だけではなく、この組成物を調製するための方法にも関する。
【0069】
以下の実験結果は、特定のペプチドとわずか2つのパルミチン酸分子との化合では、免疫原性応答の発現を引き起こさない場合があることを示している。このことは、形成される結合物に対して免疫応答の誘導のために必要なコンフォメーションを付与する目的には、脂肪酸を選択する必要性があることを反映している。
【0070】
本発明による結合物、特にそのペプチド領域の合成も特に注目される。実際、Tosi et al.による以前の研究(1995)は、mpp1のペプチド配列(これは結合物の中でも最も長く、43アミノ酸である)では、免疫応答を得ることができないことを示している。この観察所見に関する説明または作業仮説がないことから、本発明者らは、本発明の状況において、極めて正確なペプチド合成が必須な役割を果たすことを明らかにした。これにより、本発明者らは、早期停止反応への関与を回避することによって、特定のアミノ酸のより効果的な生産を可能にする、改良された合成法を開発し、それが特に免疫反応性mpp1配列を得ることを可能にすることを示した。したがって、本発明による結合物は、Boc/ベンジル戦略による固体支持体合成により、本発明の免疫原性組成物を生産するための適した形態として得ることができる。
【0071】
このため、好適な例として、実施例の項に述べたように、マウスP-170の細胞外ループ1、2および4の配列に対応するペプチドを、Applied Biosystems 430Aペプチド合成装置を利用して、tert-ブチルオキシカルボニル/ベンジルまたはBoc/ベンジル戦略を用い、および(N-[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)(ジメチルアミノ)メチレン]-N-メチルメタン-アミニウムヘキサフルオロリン酸N-オキシドによるインサイチュー活性化を用いて合成した。
【0072】
ペプチドの合成は、ペプチド合成装置、例えばApplied Biosystem 430A合成装置により、(13,14)-tert-ブチルオキシカルボニル/ベンジルを用い、(N-[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)(ジメチルアミノ)メチレン]-N-メチルメタンアミニウムヘキサフルオロリン酸N-オキシドによるインサイチュー活性化を用いて行うことができる(Scholzer M. et al Science 1992, 256(5054): 221-225)。
【0073】
この方法によれば、結合物の合成は、Boc/ベンジル戦略に従った固体支持体上での結合物のペプチドの細胞外ループのアミノ酸配列の合成、それに続く、C12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸の分子との化合を可能にするための、1つまたは複数のアミノ酸残基によるN末端および/またはC末端位置の伸長、さらにその後の、C12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸との結合を目的とする、N末端およびC末端のリジンのアミン官能基の脱保護からなる段階に基づく。最終段階は、無水フッ化水素酸などの強酸による、樹脂などの固体支持体上に合成された結合物の切断である。
【0074】
この改良された合成法は、早期停止反応への関与を回避することにより、特定のアミノ酸のより効果的な生産を可能にする。
【0075】
前記ペプチドと脂肪酸との化合は、N末端位置またはC末端位置のいずれにおいて行うこともできる。
【0076】
結合物におけるペプチドと脂肪酸との化合は、特にテトラパルミトイル化された配列が生じるように、ペプチド配列のN末端およびC末端の位置で行われることが好都合である。
【0077】
代替的または累積的に、脂肪酸をペプチド配列中の内部残基と化合させることを想定することもできる。
【0078】
免疫原性組成物の各ペプチドは、1つまたは複数のPEG分子により、複数の脂肪酸分子と化合させることができる。
【0079】
得られた結合物は、続いてリポソームの表面に提示される。
【0080】
任意には、ひとたびそれらを合成した上で、結合物を、例えばRP-HPLCまたは逆相高速液体クロマトグラフィーにより、精製する。この精製の段階は、クロマトグラフィー上のピークの広がりおよび溶解性の問題をもたらす脂質鎖の存在下では、細心の注意を要する。ペプチドの伸長時における、形成された不純物からの予想される生成物の単離は困難な場合があり、収率が低い可能性もある。さらに、脂肪酸がC末端位置にある限り、精製は難しい可能性がある。実際、この場合には、所望の生成物に加えて不純物も、クロマトグラフィーでの障害の原因となる親油性部分を保有する。さらに、この戦略は、合成の最後に、強い媒質中での切断および脱保護の段階を必要とするため、この処理によって親油性部分の選択が制約される(Deprez et al. 1996. Vaccine 14(5): 375-382;Stober et al.(1997) Bioorg. Med. Chem. 5(1): 75-83)。
【0081】
得られた結合物のリポソームの表面での提示は、その後に機械的に得られる。具体的には、リポソームと混合された結合物は、リポソームのリン脂質膜中に、それらの脂質二重鎖によって、厳密に収まる。
【0082】
本発明はまた、この組成物を本発明による免疫処置の方法に用いることにも関する。
【0083】
本発明はしたがって、本発明による免疫原性組成物の、特に注射による、1回目の投与、および、前記組成物のブースト投与(または追加免疫)、例えば、2回の逐次的な注射を含む、免疫処置の方法に関する。同一の抗原に複数回曝露させるブースト注射は、強い二次免疫応答を誘導する。免疫系に対する、P-170タンパク質の細胞外ループに由来するペプチドの反復曝露は、免疫記憶を誘導し、高い抗体価を有するその後の急速な二次応答も誘導する。
【0084】
さらに特定的には、本免疫処置法において、ヒトにおける注入は1カ月の間隔をおいて行われる。
【0085】
1つの態様によれば、本発明による組成物による免疫処置は、患者に対して投与される抗癌治療と同時に行うこともでき、その前に行うこともできる。
【0086】
好ましくは、免疫処置は、患者における多剤耐性表現型を予防するとともにその出現を見込んで、化学療法治療の前に行われる。この治療計画は、癌の診断および伸展が、治癒的な治療(化学療法)を診断日から少なくとも30日間遅らせることを可能にする場合には、化学療法治療と同時に行われる免疫処置よりも好ましいと考えられる。癌の後期の治療が、本発明の組成物による免疫処置の方法が用いられることを妨げるというわけではない。実際、抗癌治療と前記免疫原性組成物による免疫処置との同時の組み合わせは、それでも、多剤耐性表現型の出現に対して治癒的または緩和的な効果を有する抗P-170自己抗体の産生に向けての免疫応答を誘導する。本組成物による免疫処置の治癒的効果は、多剤耐性表現型の無効化によって例示されている。本発明の文脈において、多剤耐性表現型の「無効化」という表現は、多剤耐性表現型から「化学療法に対する感受性のある」表現型への変化のことを表す。
【0087】
本発明の目的において、「化学療法」「抗癌性」または「化学療法薬」という用語は、細胞毒性薬剤に基づく、原発性腫瘍または二次腫瘍に対するあらゆる治癒的または緩和的な治療のことを指す。化学療法は一般に、複数サイクルの治療を必要とする。
【0088】
化学療法治療の前に行われる免疫処置の方法の状況では、本発明による組成物の1回目の注射の実施は、化学療法治療の開始よりも少なくとも60日前、好ましくは63日前および67日前に行われる。
【0089】
本発明による組成物は、局所的、全身的(経口的、経鼻的および他の粘膜経路を介して)および/もしくは非経口的(静脈内、皮下、筋肉内または腹腔内)に、またはこれらの経路の組み合わせによって投与することができ、多剤耐性に対する防御免疫応答を効果的に誘導することができる。本組成物は、以上の種々の経路を介した容易な投与が可能になるように製剤化される。特に、二次的な化合物(湿潤剤、乳化剤または緩衝剤)の選択は、選択される投与様式によって指定される。
【0090】
免疫処置は、ヒトおよびマウスにおいて、それぞれ筋肉内および腹腔内投与によって行われることが好都合である。
【0091】
本発明の主題の一つは、本発明による結合物のペプチドと特異的に結合する、ヒトまたはマウスP-170に対して誘導される抗体、特に自己抗体の提供にも関する。
【0092】
この抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、IgG1、IgG2およびIgG3アイソタイプならびにIgGMを含む群より選択される。特に、Ig2抗体はサブタイプ2aまたは2bのものであってよい。
【0093】
本発明はまた、癌に罹患した患者に出現する多剤耐性の無効化を目的とする、第1に担体を、第2に、抗mpp1抗体の誘導を可能にするP-170タンパク質の細胞外ループ1に由来する少なくとも1つのペプチドを含む結合物を含む免疫原性組成物であって、各ペプチドがC12〜C24の炭素鎖を含むいくつかの脂肪酸分子と化合しており、前記結合物がP-170タンパク質の細胞外ループ1のコンフォメーションの全体または一部を呈する免疫原性組成物にも関する。
【0094】
この組成物は、ヒトP-170タンパク質をコードするMDR1遺伝子を発現する固形腫瘍の治療のために特に適している。
【0095】
本発明はまた、癌に罹患した患者に出現する多剤耐性の治療および/または予防を意図したワクチンを生産するために、本発明による免疫原性組成物を用いることにも関する。想定される癌には、腎癌、肝癌、結腸癌、腸の癌、前立腺癌、乳癌、膀胱癌、脳悪性腫瘍、血液癌(白血病)および/または髄組織の悪性腫瘍(骨髄腫)が考えられる。これはまた、ヒトP-170タンパク質をコードするMDR1遺伝子を発現する固形腫瘍であってもよい。免疫原性組成物の使用を、抗癌治療と組み合わせて行ってもよい。
【0096】
特に、臨床試験のI/II相において、固形腫瘍、特にヒトP-170タンパク質をコードするMDR1遺伝子を発現する癌、例えば腎癌、肝癌、結腸癌、腸の癌、前立腺癌、乳癌、膀胱癌、脳悪性腫瘍、血液癌(白血病)および/または髄組織の悪性腫瘍(骨髄腫)を有する患者に、本ワクチンを用いることを想定している。この臨床試験のために選択される患者は、免疫抑制状態でなく、標準的な治療に対する耐容性があるという基準に基づいて選択されると考えられる。これらの試験と並行して、薬力学試験および耐容性試験をこれらの同じ患者で行うことが考えられる。
【0097】
最終的に、本発明による組成物を、ヒトにおける多剤耐性表現型の無効化の割合を臨床的に評価する目的で、多剤耐性を自発的に発現している患者に直接用いることも考えられる。
【0098】
本発明はまた、癌、特に腎臓、肝臓、結腸、腸、前立腺、乳房、膀胱、脳、血液(白血病)および/または髄組織(骨髄腫)が冒される癌(悪性腫瘍)に罹患した患者に出現する多剤耐性の治療および/または予防の方法であって、記載したような免疫原性組成物の投与を含む方法も含む。
【0099】
記載したような治療によって特に標的となる癌は、ヒトP-170タンパク質をコードするMDR1遺伝子を発現する固形腫瘍である。
【0100】
最終的に、免疫原性組成物を利用するためのキットであって、本発明による免疫原性組成物、ならびに任意に試薬および/または使用のための指示書を含むキットも想定されている。
【0101】
実施例
I-1 ペプチド領域とC12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸分子との間の共有結合によって形成される結合物の調製
ペプチドの合成は、ペプチド合成装置、例えばApplied Biosystem 430A合成装置により、(13,14)-tert-ブチルオキシカルボニル/ベンジルを用い、(N-[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)(ジメチルアミノ)メチレン]-N-メチルメタンアミニウムヘキサフルオロリン酸N-オキシドによるインサイチュー活性化を用いて行うことができ(Scholzer M. et al Science 1992, 256(5054): 221-225)、続いてそれらをペプチド1分子当たり4つのパルミチン分子と共有結合させることができる(図1)。
【0102】
特定のアミノ酸の早期停止反応への関与を回避することにより、それらのより効果的な生産を可能にする改良された合成法を開発した。これはmpp1の場合には、その長さ(43アミノ酸)の点から特に好都合である。マウスペプチドmpp1、mpp2およびmpp4を特に合成し、合成の結果(ペプチド配列、分子質量および純度の分析)を以上の表1に記録したが、各ペプチドは、酸による全加水分解後にアミノ酸分析によりその配列に関して、質量分析法によりその分子質量に関して、さらにHPLCによりその純度に関して管理した。
【0103】
この方法によれば、結合物の合成は、所望のペプチド配列を樹脂上に作製し、続いて、それらをC12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸と結合させるために、N末端およびC末端リジンのアミン官能基を脱保護することに基づく。最終段階は、無水フッ化水素酸による切断である。結合物はBoc/ベンジル戦略を用いて得た。最適なアプローチは、ペプチド配列を固相上に作製し、続いて活性化された脂肪酸を選択的に脱保護されたアミン(またはチオール)官能基に結合させることにある。脂肪酸がN末端に導入される場合、ペプチドはいかなる特定の官能基配置も必要としない。これに対して、C末端位置における脂肪酸の導入は、一般に、リジン側鎖のε-アミノ官能基に対して行われる。Boc/ベンジル戦略では、ペプチドの合成過程でBoc-L-Lys(Fmoc)-OHアミノ酸を導入することが必要である。全配列を作製したところで、アミノ官能基を脱保護し、続いて、C12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸によってアシル化する。結合物は最終的に脱保護され、強酸である無水フッ化水素酸の存在下で樹脂から切断される(図2)。
【0104】
I-2 C12〜C24の炭素鎖を含む2つまたは4つの脂肪酸と結合したペプチドの免疫原性の程度の評価
本発明による結合物の免疫原性の程度をさらに解明するために、2種類の結合物を作製して試験を行った。第1のタイプの結合物は、マウスP-170タンパク質の細胞外ループに由来するペプチドが、ペプチド1分子当たり4つの、C12〜C24の炭素鎖を含む脂肪酸分子と共有結合した合成配列に相当する。第2のタイプの結合物は、2つの脂肪酸分子のみと結合したペプチドから構成される。この試験は、ジパルミトイル化およびテトラパルミトイル化された結合物という具体例によって示されている。
【0105】
表IIIは、マウスP-170タンパク質のループ1、2および4に対応するジパルミトイル化およびテトラパルミトイル化された結合物の配列、さらにドットブロット法による抗体の検出によって測定したそれらの免疫原性能力、ならびに蛍光単位による抗体価を示している。2つのパルミチル残基を有する結合物を含むリポソームを投与されたマウスは、マウスP-170タンパク質のループ4に対応するmpp'4を例外として、免疫応答を示さないことが観察された。しかし、この結合物によって誘導された抗体価は、mpp4、すなわち、同じ配列を4つのパルミチル残基と結合させたものによって誘導された抗体価の4分の1であった。mpp4結合物およびmpp2結合物は、抗体価が400蛍光単位の領域にある免疫応答を生じさせる。第1のペプチド合成の文脈では、ペプチド合成によって生じうる最も長いアミノ酸配列に対応するmpp1結合物の注入後に、抗体は全く検出されなかった。実際に、このループの合成は、多くの化学的停止または化学的再架橋が起こる可能性があるため、極めて困難でしかも長きにわたり、これらはこの第1のペプチドのバッチで免疫応答が生じなかったことの説明となる可能性がある。このため、動物の免疫処置試験に向けて、ペプチドの、特にループ1のさらなる合成を行った。
【0106】
これらの結果からみて、ペプチドの各分子を、C12〜C24の炭素鎖を含む4つの脂肪酸分子と結合させるモデルは、本発明による免疫原性組成物中のリポソーム膜に組み入れられた前記結合物の免疫原性能力を強化する(図1)。したがって、N末端およびC末端での疎水性相互作用によって誘導される三次構造は、実質的かつ特異的な体液性免疫応答の誘導に役割を果たす。これらの疎水性タイプの相互作用は、P-170タンパク質の細胞外ループの天然の構造と同等な三次構造であると定義されるループ型コンフォメーションを作り出す程度に十分に強い。この「天然」コンフォメーションは、ペプチド分子1つ当たり4つのC12〜C24脂肪酸残基が結合した結合物の場合には、担体の表面に、好ましくはリポソームの表面に安定的に露出される。疎水性相互作用が2分の1に低下すると、本発明による結合物の抗原能力のほぼ完全な阻害が起こる「天然の」構造を得るには不十分であると考えられる。
【0107】
(表III)

【0108】
I-3 ワクチンの調製
調製した免疫原性組成物は以下のものを含む:
Lp1:結合物、リポソーム(DPMC、DPMG、コレステロール)
Lp2:リポソーム(DPMC、DPMG、コレステロール)
Lp3:リポソーム(DPMC、DPMG、コレステロール)、MPLA、結合物
Lp4:結合物。
【0109】
リポソームはその表面に3種の結合物mpp1、mpp2およびmpp3を提示し、これにはモル比で1:250のリン脂質が添加されている。この配合物のホモジネート化を可能にする有機溶媒を気化によって除去し、その結果得られる薄膜を、滅菌PBS pH=7.4で水和させた後に、リン脂質最終濃度4mMに調整する。最後に、懸濁液中にあるリポソームを、免疫処置の時点で、滅菌ミョウバン(Pasteur Merieux)と一定の容積比で混合する。したがって、動物に注入されるワクチン調製物は、ミョウバンを免疫化のためのアジュバントとして含む、製剤の形態にある免疫原性組成物Lp1、Lp2、Lp3およびLp4に対応し、このミョウバンはワクチンの吸収時間を延長させることもできる。
【0110】
I-4 動物
試験は、C57B1/6雌およびDBA/2雄(Charles River Laboratories)の交雑によって得た6週〜10週齡の雌性B6D2F1マウスに対して行った。実験に用いるマウスの体重は19g〜22gの範囲とした。免疫処置の7日〜12日後に血液試料をマウスの後眼窩静脈洞から採取した。
【0111】
I-5 免疫処置プロトコール
マウスに対する免疫処置は、2週間間隔で3回、ワクチン組成物200μlの腹腔内注射によって行った。この実験プロトコールは、9匹のB6D2F1マウスの群(Iffa Credo, L'Arbresle, France)に対して、4種の調製物に関して行われる。
【0112】
免疫処置によって誘導される種々の免疫グロブリンのドットブロットによる定量のために、追加免疫の1日前および最後の注射から15日後に、血液100μlを、各マウスの後眼窩静脈洞から採取した。続いて、各血液試料を遠心し、単離された血清を定量のために用いた。
【0113】
I-6 抗癌薬
ドキソルビシン(Dox)(Sigma)およびビンブラスチン(VLB)が、固形腫瘍の誘導および免疫処置後の化学療法のインビボモデル用のプロトコールにおける抗癌薬として用いられる。
【0114】
ドキソルビシンはアントラサイクリン系の主要な細胞分裂抑制性抗腫瘍薬であり、このため、多くの腫瘍の治療に単独または併用により広く用いられている。ドキソルビシンの主な作用機序はDNAトポイソメラーゼIIの阻害によると考えられている。しかし、すべての抗癌薬製品と同じように、ドキソルビシンには副作用、特に血液系、消化器系および炎症型のもの、とりわけ心毒性があり、このために化学療法治療におけるその使用が制約されている。ドキソルビシン溶液は、本実験では10-3mol/lの濃度で用いられる。
【0115】
ビンブラスチンは、細胞有糸分裂を分裂中期で遮断する薬剤として治療法によく用いられるビンカアルカロイドであり、このことから紡錘体毒とも呼ばれている。このため、ビンブラスチンは急速に分裂する細胞を優先的に治癒させる;これはこのため、精巣癌およびカポジ肉腫の治療に特に適している。しかし、ビンブラスチンには多くのさまざまな毒性発現がみられ、その主なものは血液毒性である。なお、本発明の実験的試験では、ビンブラスチン溶液は10-2mol/lの濃度で用いられる。
【0116】
I-7 固形腫瘍誘導のインビボモデル
マウス黒色腫から派生し、ドキソルビシンに対する耐性の点から選ばれているB16R細胞株を、本発明において固形腫瘍の発達のために選択した。B16R細胞をインビトロで培養し、指数増殖期に収集し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後に、それらを皮下注射によってマウスの後側腹部に投与する。注入容積は、0.85%NaCl中に1.10個のB16R細胞を含む懸濁液50μlとする(Candido KA et al. Cancer Res 2001, 61(1): 228-236)。マウスは癌細胞の接種後22日〜24日の期間以内に平均サイズ2.0g±1.2gの黒色腫を生じる。
【0117】
腫瘍の発達により、B16R株がドキソルビシンによる化学療法治療に対して耐性であることが確かめられた。その結果として、前出の実験条件は、同じくドキソルビシンに対して耐性であるマウスP388R細胞(MDR特性に関する基準細胞として特徴づけられ、用いられているマウスリンパ系腫瘍細胞―Kohls WD. et al. Cancer Res 1986 Sep, 46(9): 4352-6)から固形腫瘍を誘導するためのモデルとしても役立てられた。
【0118】
試験対象の化学療法に対する耐性を示すという条件を満たせば、他の腫瘍細胞を用いることもできる。
【0119】
I-8 免疫処置後の化学療法に関するプロトコール
ビンブラスチンおよびドキソルビシンという2種の抗癌薬を用いる化学療法のプロトコールを、図3に記載したように設定した。Lp1およびLp2のワクチン調製物による予備免疫処置を受けたマウスの化学療法治療を、10個のP388R癌細胞の皮下注射(第0日)の1日後に開始し、ドキソルビシンの用量5.5mg/kgでの毎週の注射(第1日、10日および22日)およびそれに続いて交互に行うビンブラスチンの用量2.5mg/kgでの注射(第4日および第14日)によって行った。この期間中、食物の摂取、水の摂取およびマウスの体重、同じくその生存に関して記録した。P388R細胞の注射前に、抗P170抗体の定量およびその活性のモニタリングを目的として、免疫処置後15日〜45日の期間にわたってマウス血清の試料を採取した。
【0120】
I-9 ドットブロット法による免疫応答の分析
抗原性分子として働く本発明による結合物をPBS中に希釈したものを、まず室温でニトロセルロース膜に付着させる。30分後に、これらの抗原性分子をPBS-5%脱脂乳を含む溶液3mlでブロックする。この膜を洗浄しないまま、1%脱脂乳および0.1%tween 20を含む2mlのPBS中に同じ容積比であらかじめ希釈したマウス血清24μlとともに、室温で2時間インキュベートする。前記マウス血清は3回目の免疫処置後15日〜45日の期間中に採取した。PBS-1%脱脂乳-0.1%tween 20中で3回洗浄した後に、膜を逐次1/3000に希釈したペルオキシダーゼ抗マウス二次抗体を含む3mlのPBS-1%脱脂乳-0.1%tween 20中にて室温で1時間インキュベートし、続いて2回洗浄した後に、3mlのPBS-1%脱脂乳-0.1%tween 20中でインキュベートする。続いて膜をPBSのみの中で10分間洗浄し、500μlのPBS中にて4℃の冷蔵庫内に一晩保った。化学発光性ペルオキシダーゼ基質(ECL(商標)キット、AMERSHAM Pharmacie Biotech)を膜の表面に付着させ(0.125ml/cm2)、1分間そのままにした後に、膜から水分を除去し、2枚のSaran(登録商標)フィルムの間の「冷」カセット内に置く。膜を直ちにオートラジオグラフィーによって露光させ、ペルオキシダーゼによるルミノールの酸化反応によって生じる放出光を、シグナルの強度に応じて数分間から1時間にわたる種々の時間にわたり、KODAK X-OMATフィルム上に集める。抗体価は以上のシステムに適した密度計を用いて評価する。化学発光反応の感度は、誘導される抗体を、この実験条件下で0.2ng/mlで評価した場合に検出する閾値を有する。
【0121】
上記のワクチン調製物による免疫処置を受けたマウスにおけるインビボでの免疫応答を評価するための実験に関するプロトコールには、抗mpp1抗体、抗mpp2抗体および抗mpp4抗体を用い、さらにIg(M、G3、G2a、G2b、G1)特異的抗マウス二次抗体も用いる。
【0122】
I-10 ワクチン調製物による免疫処置を受けたB6D2F1マウスにおけるインビボ免疫応答
対照ワクチンLp2による免疫処置を受けたB6D2F1マウスの免疫応答はIgM抗体が大多数を占める。IgM抗体の濃度は、MPLAの存在に起因するポリクローナル非特異型の免疫応答を反映して、3回の免疫処置の経過を通じて一定に保たれる。IgM抗体に関する値は、Lp1ワクチンによる免疫処置を受けたマウスの血清中に認められたものから差し引かれる(図4)。
【0123】
ワクチン調製物Lp4による免疫処置を受けたマウスは、1回目の免疫処置後に、抗mpp1、抗mpp2および抗mpp3 IgM抗体を示す。このIgM抗体の量は減少して、3回目の免疫処置の後には消失し、そのためにIgG1抗体を主とする免疫応答が出現する(図5)。
【0124】
Lp3ワクチンによるマウスの免疫処置は、1回目の注射後にIgM抗体の発現を誘導する。IgM抗体価は2回目の免疫処置後に低下し、その期間中に免疫応答は主としてIgG2b抗体応答となる。3回目の注射後に、IgG1抗体価は最大となる;さらに、この免疫応答は3種の結合物に対して陽性となり、そのうちmpp2結合物が最も免疫原性が高い(図6)。
【0125】
Lp1ワクチン調製物によるマウスの免疫処置は、主として、P-170タンパク質の細胞外ループ1、2および4を標的とするIgM抗体の優勢な出現を誘導する。IgM抗体の量は2回目および3回目の免疫処置の経過を通じて減少し、そのために主としてIgG抗mpp2抗体による応答が現れる。IgG3、IgG2aおよびIgG2b抗体価は基礎値よりも約2〜3倍高く、IgG1抗体価は5倍高い(図7)。
【0126】
IgG1抗体の量を比較することにより、mpp2結合物の免疫原性はmpp1結合物およびmpp4結合物のそれぞれ2.6倍および2倍の強さであることが認められる。さらに、Lp1ワクチン調製物は、全体的な免疫応答、すなわち、細胞外ループ1、2および4のそれぞれに対応するアイソタイプ(IgM、G3、G2a、G2b、G1)を総合したものを、最も強く誘導することが注目される。
【0127】
mpp1結合物によって誘導される抗体価は、mpp2結合物およびmpp4結合物の場合に検出される抗体価の値に対して有意かつ同等であり、これはTosi et al.によって観察された結果とは異なる(1995. Biochemical and biophysical research communications 212(2): 494-500)。
【0128】
Lp1ワクチン調製物が最も優れた免疫原性能力を有することを明らかにした後に、それが無害であることを最後の免疫処置から18カ月の期間にわたって確かめた。免疫処置を受けたマウスは、Lp2対照ワクチンによる免疫処置を受けたマウスと比較して、体重に関して有意な変化を示さなかった。さらに、Lp1ワクチン調製物による免疫処置を受けた動物における行動上の変化、例えば覚醒性および食欲に関するものも観察されなかった。その上、Lp1ワクチン調製物による免疫処置を受けたマウスP-170タンパク質を自然下で発現する臓器(脾臓、肝臓、腎臓、副腎、膵臓、卵巣、心臓および肺)の組織病理学的分析からも、誘発毒性および/または自己免疫性がないことが示された。詳細には、腹腔内位置または臓器(肝臓、膵臓、脾臓および卵巣)の周辺部に観察されたわずかな病変は、免疫原性組成物中にミョウバンを使用したことのみが原因とされた。観察された病変を誘発する作用因子を調べるための補足的な分析により、この結果が確かめられた。
【0129】
I-11 Lp1ワクチン調製物による免疫処置に伴う抗化学療法耐性活性のインビボ評価
Lp1およびLp2(対照)ワクチン調製物による免疫処置を受けたマウスにおける多剤耐性表現型の伸展に関するインビボ試験を、固形腫瘍の誘導後に化学療法治療計画を行うというプロトコールに従って開始した。抗癌治療は癌細胞の接種1日後に開始される。
【0130】
P388R細胞を免疫処置マウスに注入する前に、Lp1ワクチン調製物による免疫処置を受けたマウスの血清中の抗体価を測定した:血清のそれぞれ100%、40%および80%が抗mpp1、2および4 IgG1型抗体を示し、平均値は0.3、0.21および0.33μg/mlであった(1Uは0.2μg/mlに対応する)。
【0131】
Lp1およびLp2ワクチンによる免疫処置を受けたマウスの生存期間を時間の関数として表した(図8)。
【0132】
グラフによって表された結果は、Lp1による免疫処置を受けたマウス群に関する平均生存期間が39日であり、一方、Lp2調製物による免疫処置を受けた群ではそれが22日であったことを示している。このことから、Lp1ワクチン調製物による免疫処置を予防的な様式で受けたマウスは、対照に比して平均生存期間が77%向上したことを示す。
【0133】
Lp2群では、マウス1匹に関して、70日間という生存期間が観察された。
【0134】
生存期間のこの77%の向上は、このような化学療法治療が、耐性癌細胞の注射時点から開始して22日間のみ投与された場合であっても観察される。現在では、生存率が抗癌薬の投与終了時点から始まって低下することが観察されている;このことから、化学療法治療を、後者のみが治癒効果を有することを知った上で継続するならば、本発明による組成物による免疫処置を受けた患者で得られた自己抗体の場合とは異なり、完全な無効化が観察されると考えられる。
【0135】
これらの結果は、多剤耐性の治療に関して得られている最も優れた既発表の結果が、S9788を用量100mg/kg/日で投与されたマウスで生存期間が49%向上することが記載された同じ癌モデルであることからみて、極めて有望である(Pierre et al. 1992. Invest New Drug. 10: 137-148)。さらに、Yang et al.(1999. BBRC. 266: 167-173)は、同じ細胞株を用いて、ビンクリスチンおよびシクロスポリンAを投与されたマウスにおける生存期間の向上は35%であることを観察している。他の著者らも、トランス-フルペンチキソール(trans-flupenthixol)などのある種の無効化薬は、癌細胞の浸潤能力の増大により、死亡を早める恐れがあることを示している。
【0136】
この生存期間の向上は、それらが接種を受けて間もなく、癌細胞が臨床的に観察される程度を上回る耐性を獲得するという、治療の有効性に関する実験的なマウス癌モデルが強く求められていることから、なおさら喜ばしい。この観察所見は、癌細胞が注入されて間もない時点で無効化薬が活性を有することを意味する;なお、これらの薬剤は一般に、治療中に徐々に到達する細胞毒性濃度で活性を発揮することに注意を要する。
【0137】
Lp1ワクチン調製物による免疫処置は、マウスにおいて、化学療法に対するインビボでの耐性を急速かつ持続的な様式で抑制しうる、活性のある自己抗体の形成を誘導する。したがって、Lp1ワクチンによる免疫処置は、化学療法耐性を迅速に抑制し、化学療法治療に対して抵抗性となった患者におけるインビボでの抗癌薬の活性を再び生じさせることが可能である。補足的な実験の過程において、Lp1調製物による免疫処置を受けたマウスにおける流血中自己抗体は、細胞毒性がなく、自己免疫性病変の発生を生じず、癌細胞の浸潤能力を高めることもなかった。
【0138】
以上の説明は、特にマウスP-170タンパク質のペプチドを用いている。しかし、記載されたプロトコールは、任意の他のペプチドの合成、特にヒトP-170タンパク質に関して上述したものに対しても、同様な様式で通常通りに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
本発明を以下の図面によって例示するが、本発明がそれらによって限定されることはない:
【図1】マウスP-170タンパク質の細胞外断片に対応する合成ペプチドが、ペプチド1分子当たり4つのパルミチン酸(C16)分子と結合したものの表示。
【図2】固体支持体上にペプチドを合成するためのBoc/ベンジル戦略の図式表示。
【図3】免疫処置およびマウスへのP388R細胞の注入後の化学療法に関するプロトコール
【図4】Lp2による免疫処置を受けたマウスの血清における、免疫処置の回数(1回目、2回目、3回目の注入)の関数としての抗体価の表示。抗mppl抗体、抗mpp2抗体および抗mpp4抗体を定量し、種々のアイソタイプをlg(M、G3、G2a、G2b、G1)特異的な抗マウス二次抗体のそれぞれを用いて検出した。各ヒストグラムは、免疫処置の12日後に採血した5件のマウス血清で得られた値の平均を表している。1単位は0.2μg Ig/mlに対応する。
【図5】Lp4による免疫処置を受けたマウスの血清における、免疫処置の回数(1回目、2回目、3回目の注入)の関数としての抗体価の表示。抗mppl抗体、抗mpp2抗体および抗mpp4抗体を定量し、種々のアイソタイプをlg(M、G3、G2a、G2b、G1)特異的な抗マウス二次抗体のそれぞれを用いて検出した。各ヒストグラムは、免疫処置の12日後に採血した5件のマウス血清で得られた値の平均を表している。1単位は0.2μg Ig/mlに対応する。
【図6】Lp3による免疫処置を受けたマウスの血清における、免疫処置の回数(1回目、2回目、3回目の注入)の関数としての抗体価の表示。抗mppl抗体、抗mpp2抗体および抗mpp4抗体を定量し、種々のアイソタイプをlg(M、G3、G2a、G2b、G1)特異的な抗マウス二次抗体のそれぞれを用いて検出した。各ヒストグラムは、免疫処置の12日後に採血した5件のマウス血清で得られた値の平均を表している。1単位は0.2μg Ig/mlに対応する。
【図7】Lp1による免疫処置を受けたマウスの血清における、免疫処置の回数(1回目、2回目、3回目の注入)の関数としての抗体価の表示。抗mppl抗体、抗mpp2抗体および抗mpp4抗体を定量し、種々のアイソタイプをlg(M、G3、G2a、G2b、G1)特異的な抗マウス二次抗体のそれぞれを用いて検出した。各ヒストグラムは、免疫処置の12日後に採血した5件のマウス血清で得られた値の平均を表している。1単位は0.2μg Ig/mlに対応する。
【図8】Lp1およびLp2による免疫処置を受けたマウスの生存期間。時間0の時点で、10個の化学療法耐性P388R細胞を接種した。第1日、10日および22日の時点で、5.5mg/kgのドキソルビシンを注入し、第4日および14日の時点で、2.5mg/kgのビンブラスチンを注入した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適した投与条件下で抗P-170抗体の誘導を可能にするための、第1に担体を、第2に、抗原性構造として、P-170タンパク質の細胞外ループに由来する少なくとも1つのペプチドのアミノ酸配列の全体または一部を含む結合物(conjugate)を含む免疫原性組成物であって、各ペプチドがC12〜C24の炭素鎖を含む少なくとも2つの脂肪酸分子と化合している免疫原性組成物。
【請求項2】
癌に罹患した患者に出現する多剤耐性の無効化(reversion)のための抗P-170抗体の誘導を可能にする、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
結合物がP-170タンパク質の少なくとも2つの細胞外ループのアミノ酸配列の全体または一部を含む、請求項1および2記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
結合物がP-170タンパク質の少なくとも3つの細胞外ループのアミノ酸配列の全体または一部を含む、請求項1および2記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
結合物がヒトP-170タンパク質の細胞外ループ1、4および6に由来するペプチドより選択されるアミノ酸配列の全体または一部を含み、該結合物がヒト抗P-170(抗hpp)抗体の誘導を可能にする、請求項1〜4のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
結合物が、ヒトP-170タンパク質のループ1に由来する、該細胞外ループ1のグリコシル化部位での切断によって生じる3種のペプチド1a、1bおよび1cに対応するペプチドのアミノ酸配列の全体または一部を含む、請求項5記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
結合物がマウスP-170タンパク質の細胞外ループ1、2および4に由来するペプチドより選択されるアミノ酸配列の全体または一部を含み、該結合物がマウス抗P-170(抗mpp)抗体の誘導を可能にする、請求項1〜4のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
結合物のペプチドのアミノ酸配列の全体または一部がそれぞれ、以下のアミノ酸配列:

および/またはそれらの組み合わせ、
より選択される、請求項1〜6のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
各結合物が、C12〜C24の炭素鎖を含む4つの脂肪酸分子を含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
脂肪酸の分子が一価不飽和および/または多価不飽和形態では提供されない、請求項9記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
結合物がテトラパルミトイル化されている、請求項1〜10のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
結合物が1つまたは複数のPEG分子をも含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
結合物を提示するために選択される担体が、リポソーム、細菌膜タンパク質、腸内細菌Ompタンパク質、ナノ粒子、ミセル、金粒子、ミクロビーズおよびビロソームからなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
選択される担体がリポソームからなる、請求項13記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
結合物およびリポソームが1/10〜1/1000のモル比、好ましくは1/250のモル比にある、請求項14記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
リポソームが好ましくは、リン脂質ジミリストイルホスファチジルコリン(DPMC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DPMG)およびコレステロールを混合することによって得られる、請求項14および15記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
DPMC、DPMGおよびコレステロールの混合物が0.9:0.1:0.7の比率にある、請求項16記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
少なくとも1つのアジュバントをも含む、請求項1〜17のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
アジュバントが、ミョウバン、リン酸カルシウム、インターロイキン1、モノホスホリルリピドA(MPLA)ならびに/またはタンパク質および多糖のマイクロカプセルからなる群より選択される、請求項18記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
アジュバントが好ましくはミョウバンである、請求項19記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
P-170タンパク質の少なくとも1つの細胞外ループに由来し、抗P-170抗体の誘導を可能にするペプチドであって、以下のアミノ酸配列よりそれぞれ選択されるペプチド:

【請求項22】
請求項1〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物を調製するための方法であって、以下の段階を含む方法:
a)Boc/ベンジル戦略に従って、固体支持体上に結合物のペプチドの細胞外ループのアミノ酸配列を合成する段階、
b)N末端および/またはC末端位置にある結合物のペプチドを、脂肪酸分子との化合を可能にするために、1つまたは複数のアミノ酸残基によって伸長させる段階、
c)N末端およびC末端のリジンのアミン官能基を、それらを脂肪酸と結合させるために脱保護する段階、
d)固体支持体上に合成された結合物を強酸によって切断する段階、
e)および任意に、結合物を精製する段階。
【請求項23】
請求項22記載の免疫原性組成物を調製するための方法であって、ペプチドと脂肪酸分子との化合が、N末端および/またはC末端位置での化合に代わる選択肢として、ペプチド配列の内部アミノ酸残基との化合を含む方法。
【請求項24】
固体支持体が樹脂である、請求項22および23記載の免疫原性組成物を調製するための方法。
【請求項25】
さらに、各ペプチドが1つまたは複数のPEG分子によって複数の脂肪酸分子と化合している、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物を調製するための方法。
【請求項26】
得られた結合物が続いてリポソームの表面に提示される、請求項22〜25のいずれか一項記載の免疫原性組成物を調製するための方法。
【請求項27】
請求項1〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物の1回目の投与、および該免疫原性組成物の追加免疫投与を含む、免疫処置の方法。
【請求項28】
投与の方法が抗癌治療と同時に、またはそれよりも前に用いられる、請求項27記載の免疫処置の方法。
【請求項29】
請求項21記載の結合物のペプチドと特異的に結合する、ヒトまたはマウスのP-170に対して誘導される抗体。
【請求項30】
ポリクローナル抗体である、請求項29記載の抗体。
【請求項31】
モノクローナル抗体である、請求項29記載の抗体。
【請求項32】
アイソタイプIgG1、IgG2およびIgG3ならびにIgGMを含む群より選択される、請求項29〜31のいずれか一項記載の抗体。
【請求項33】
Ig2抗体がサブタイプ2aまたは2bのものである、請求項32記載の抗体。
【請求項34】
癌に罹患した患者に出現する多剤耐性の治療および/または予防を意図したワクチンを生産するための、請求項1〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項35】
癌が腎臓、肝臓、結腸、腸、前立腺、乳房、膀胱、脳、血液(白血病)および/または髄組織(骨髄腫)を冒す、請求項34記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項36】
癌が、ヒトP-170タンパク質をコードするMDR1遺伝子を発現する固形腫瘍である、請求項34記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項37】
抗癌治療と組み合わされる、請求項1〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項38】
癌に罹患した患者に出現する多剤耐性の治療および/または予防の方法であって、請求項1〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物の投与を含む方法。
【請求項39】
癌が腎臓、肝臓、結腸、腸、前立腺、乳房、膀胱、脳、血液(白血病)および/または髄組織(骨髄腫)を冒す、請求項38記載の治療および/または予防の方法。
【請求項40】
癌が、ヒトP-170タンパク質をコードするMDR1遺伝子を発現する固形腫瘍である、請求項38記載の治療および/または予防の方法。
【請求項41】
免疫原性組成物を利用するためのキットであって、請求項1〜20のいずれか一項記載の免疫原性組成物、ならびに任意に、試薬および/または使用のための指示書を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−528650(P2006−528650A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521498(P2006−521498)
【出願日】平成16年7月25日(2004.7.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008330
【国際公開番号】WO2005/014036
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506027491)エーシー イミューン ソシエテ アノニム (14)
【Fターム(参考)】