説明

癌を検出するための方法、薬剤、およびキット

本発明は、対象において癌を診断する方法、および癌を有する対象の予後予測を提供する方法に関する。本発明はまた、癌の診断用キットおよび予後予測用キットに関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年4月11日に出願した米国仮特許出願第61/123,761号の恩典を主張する。上記出願の全教示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
悪性細胞の制御されない増殖および拡大を特徴とする疾患の一群である癌は、世界的に見て人の死亡および罹患の大きな原因であり、米国では国家の経済的負担となっている。
【0003】
すべての生細胞と同様に、癌細胞の挙動は多数の異なる遺伝子の発現によって制御される。癌細胞と正常細胞との間で、または2つの異なるタイプの癌細胞の間で差次的に発現する遺伝子は、まとめて、個体における癌の存在を検出するため、腫瘍サブタイプを分類するため、および/または患者の臨床転帰を予測するために用いることのできる遺伝子発現プロファイルを構成する。加えて、これらの遺伝子の産物(例えば、mRNA、タンパク質)は、治療のための潜在的な標的を提供する。
【0004】
癌の治療の成功は、一部に、個体における癌の早期発見および早期診断にかかっている。したがって、様々なタイプの癌を早期に正確に発見および診断するために信頼することのできる遺伝子発現プロファイルの同定が必要である。加えて、多くの異なるタイプの癌に共通しており、したがって癌の存在に関して多数の患者人口をスクリーニングするために用いることのできる遺伝子を含む遺伝子発現プロファイルがさらに必要である。癌に有用な遺伝子発現プロファイルを同定する、より効率的な方法もまた必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、1つの態様において、対象が癌を有するかどうかを診断する方法を包含する。本方法は、対象由来の試料における、癌において過剰発現する遺伝子のサブセットの発現のレベルを検出する段階を含む。本発明に従って、サブセット中の遺伝子は、MELK、PLVAP、TOP2A、NEK2、CDKN3、PRC1、ESM1、PTTG1、TTK、CENPF、RDBP、CCHCR1、DEPDC1、TP5313、CCNB2、CAD、CDC2、HMMR、STMN1、HCAP-G、MDK、RAD54B、ASPM、HMGA1、SNRPC、IGF2BP3、SERPINH1、COL4A1、LARP1、LRRC1、FOXM1、CDC20、UBE2M、DNAJC6、FEN1、ASNS、CHEK1、KIF2C、AURKB、NPEPPS、KIF4A、E2F8、EZH2、ZNF193、ILF3、EHMT2、SF3A2、NPAS2、PSME3、INPPL1、BIRC5、SULT1C1、NSUN5B、HN1、およびNUSAP1として当技術分野で公知である遺伝子の群より選択される。対象由来の試料における遺伝子の該サブセットの発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、該対象が癌を有することが示される。
【0006】
別の態様において、本発明は、対象由来の試料におけるPRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、およびRAD54Bからなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出する段階、ならびに試料中の該遺伝子の発現のレベルを対照と比較する段階を含む、癌を有する対象の予後予測を提供する方法に関する。対象由来の試料におけるPRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、および/またはRAD54Bの発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、予後不良(例えば、転移のリスク増加)が示される。特定の態様において、癌は肝細胞癌、上咽頭癌、または乳癌である。
【0007】
さらなる態様において、本発明は、対象由来の試料におけるCDC2、CCHCR1、およびHMGA1からなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出する段階、ならびに試料中の該遺伝子の発現のレベルを対照と比較する段階を含む、癌を有する対象の予後予測を提供する方法に関する。対象由来の試料におけるCDC2、CCHCR1、および/またはHMGA1の発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、予後不良(例えば、生存期間の短縮)が示される。特定の態様において、癌は肝細胞癌、上咽頭癌、または乳癌である。
【0008】
本発明はまた、1つの態様において、MELK、PLVAP、TOP2A、NEK2、CDKN3、PRC1、ESM1、PTTG1、TTK、CENPF、RDBP、CCHCR1、DEPDC1、TP5313、CCNB2、CAD、CDC2、HMMR、STMN1、HCAP-G、MDK、RAD54B、ASPM、HMGA1、SNRPC、IGF2BP3、SERPINH1、COL4A1、LARP1、LRRC1、FOXM1、CDC20、UBE2M、DNAJC6、FEN1、ASNS、CHEK1、KIF2C、AURKB、NPEPPS、KIF4A、E2F8、EZH2、ZNF193、ILF3、EHMT2、SF3A2、NPAS2、PSME3、INPPL1、BIRC5、SULT1C1、NSUN5B、HN1、およびNUSAP1として当技術分野で公知である遺伝子からなる群より選択される少なくとも約20種の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを含む、対象が癌を有するかどうかを診断するためのキットを提供する。特定の態様において、プローブは、これらの遺伝子のRNA(例えば、mRNA)産物にハイブリダイズする核酸プローブである。別の態様において、プローブは、これらの遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体である。
【0009】
本発明はまた、別の態様において、PRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、およびRAD54Bからなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出し得るプローブを含む、癌を有する対象の予後(例えば、転移のリスク)を判定するためのキットを提供する。
【0010】
さらに別の態様において、本発明はさらに、PRC1、CDC2、CCHCR1、およびHMGA1からなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出し得るプローブを含む、癌を有する対象の予後(例えば、生存率)を判定するためのキットを提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、癌の遺伝子発現プロファイルを決定する方法に関する。本方法は、同一個体(すなわち、対象)に由来する癌性試料および非癌性試料の両方における遺伝子の発現を検出する段階、ならびに癌性試料と非癌性試料との間で差次的に発現する遺伝子を同定する段階を含む。本方法に従って、癌性試料と非癌性試料との間で差次的に発現する遺伝子を、癌の遺伝子発現プロファイル中に含める。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、対象が癌を有するかどうかを診断する方法に関する。本方法は、癌において低発現する遺伝子のサブセットの、対象由来の試料における発現のレベルを検出する段階を含む。本発明に従って、サブセット中の遺伝子は、NAT2、CD5L、CXCL14、VIPR1、CCL14/15、FCN3、CRHBP、GPD1、KCNN2、HGFAC、FOSB、LCAT、MARCO、CYP1A2、FCN2、およびDPTとして当技術分野で公知である遺伝子の群より選択される。遺伝子の該サブセットの対象由来の試料における発現のレベルが対照と比較して減少しているか、または遺伝子の該サブセットが発現していないことによって、該対象が癌を有することが示される。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、NAT2、CD5L、CXCL14、VIPR1、CCL14/15、FCN3、CRHBP、GPD1、KCNN2、HGFAC、FOSB、LCAT、MARCO、CYP1A2、FCN2、およびDPTとして当技術分野で公知である遺伝子からなる群より選択される少なくとも約5種の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを含む、対象が癌を有するかどうかを診断するためのキットを提供する。特定の態様において、プローブは、これらの遺伝子のRNA(例えば、mRNA)産物にハイブリダイズする核酸プローブである。別の態様において、プローブは、これらの遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体である。
【0014】
本発明によって提供される癌の診断方法および予後予測方法、ならびに癌に関するキットは、多くの異なるタイプおよびサブタイプの癌の組織試料を、対応する正常組織試料と区別することができ、かつ複数のタイプの癌の臨床的生存転帰を予測することができる、普遍的遺伝子発現プロファイルまたは共通新生物サインの発見に一部基づく。これまでに報告された癌の多くの遺伝子発現プロファイル(Whitfield ML, et al. Nature Review Cancer 6:99-106 (2006);Rhodes DR, et al. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 101:9309-9314 (2004);図33を参照されたい)は、文献における様々な報告による情報を組み立てることによって決定されたものであり、多くの場合に単一の癌に基づき、かつ/または癌の特定の特徴(例えば、増殖、悪性形質転換)に限定されているが、本明細書に記載する共通新生物サインはこれとは異なり、実験によって決定されたものであり、系統的な研究を用いて癌に関して普遍的であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本特許または出願書類は、カラーで作成された図面を少なくとも1枚含む。カラー図面を伴う本特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な費用の支払いに応じて庁より提供される。
【図1】腫瘍と隣接非腫瘍性組織との間で有意な差次的発現を示す遺伝子を同定するためのアルゴリズムを示すフローチャート図である。
【図2】41種のプローブセットをランダムに選択した場合の、腫瘍と正常組織との間で有意な発現差(p<0.05)を示すアレイ上のプローブセットの密度分布の例を示すグラフである。ランダム選択は10,000回繰り返した。y軸に沿った値は、0.05未満のp値を有する遺伝子の密度を示す。
【図3】記載の癌(左の列)のそれぞれに関して癌を対応する正常組織と区別する、異なるストリンジェンシー(「プローブ選択のストリンジェンシー」という表題の1行目)で選択されたプローブセットの数(「選択されたプローブセットの数」という表題の2行目)についてのp値を示す図表である。0.005未満のp値を示す異なる癌の総数を最終行に記載する。選択ストリンジェンシー12では、最も多くの癌が対応する正常組織と区別された(20例の異なるタイプの癌のうち19例)。p値は2項検定を用いて算出し、選択されたプローブセットがランダムに選択されたプローブセットと比較して、腫瘍とこれに対応する正常組織を区別するようにいかに濃縮されたかを示す。
【図4】18例の対を成す肝細胞癌(HCC)組織試料および隣接非癌性肝組織試料のうち少なくとも12例(ストリンジェンシーレベル12)において有意な差次的発現を示すHCC腫瘍特異的遺伝子のリストである。記載した遺伝子は、HCC組織試料において有意な発現を示すが、隣接する非癌性肝組織試料では有意な発現を示さない。各遺伝子に関して、Affymetrixチップ上の対応するプローブセットのaffymetrix ID番号(AFFY_ID)、遺伝子記号、遺伝子の公知のまたは推定上の機能、およびその遺伝子が選択されたストリンジェンシーレベルを示す。TOP2A、CCHCR1、HMMR、およびCDC2はそれぞれ2種類のプローブセットによって表されるため、59種のプローブセットによって全部で55種の遺伝子が表される。表示のように、遺伝子機能の広範なクラスに陰影を割り当てた。
【図5】18例の対を成すHCC組織試料および隣接非癌性肝組織試料のうち少なくとも12例において有意な差次的発現を示す、非癌性肝組織に特異的な遺伝子のリストである。記載した遺伝子は、非癌性肝組織試料において有意な発現を示すが、隣接するHCC組織試料では有意な発現を示さない。各遺伝子に関して、Affymetrixチップ上の対応するプローブセットのaffymetrix ID番号(AFFY_ID)、遺伝子記号、遺伝子の機能、ならびに18例の対を成すHCC組織試料および隣接非癌性肝組織試料のうち、12以上のストリンジェンシーレベルでその遺伝子の差次的発現を示すものの数(選択のストリンジェンシー)を示す。表示のように、遺伝子機能の広範なクラスに陰影を割り当てた。
【図6】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。図6〜10はそれぞれ、75種のプローブセット中に表される個々の遺伝子の発現強度を示すグラフ15個を含む。18例の対を成す隣接組織試料に由来する非癌性肝組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)、ならびに対応する隣接非癌性肝組織試料と対を成していない82例の付加的なHCC試料(HCC)について発現強度を示す。
【図7】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。図6〜10はそれぞれ、75種のプローブセット中に表される個々の遺伝子の発現強度を示すグラフ15個を含む。18例の対を成す隣接組織試料に由来する非癌性肝組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)、ならびに対応する隣接非癌性肝組織試料と対を成していない82例の付加的なHCC試料(HCC)について発現強度を示す。
【図8】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。図6〜10はそれぞれ、75種のプローブセット中に表される個々の遺伝子の発現強度を示すグラフ15個を含む。18例の対を成す隣接組織試料に由来する非癌性肝組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)、ならびに対応する隣接非癌性肝組織試料と対を成していない82例の付加的なHCC試料(HCC)について発現強度を示す。
【図9】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。図6〜10はそれぞれ、75種のプローブセット中に表される個々の遺伝子の発現強度を示すグラフ15個を含む。18例の対を成す隣接組織試料に由来する非癌性肝組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)、ならびに対応する隣接非癌性肝組織試料と対を成していない82例の付加的なHCC試料(HCC)について発現強度を示す。
【図10】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。図6〜10はそれぞれ、75種のプローブセット中に表される個々の遺伝子の発現強度を示すグラフ15個を含む。18例の対を成す隣接組織試料に由来する非癌性肝組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)、ならびに対応する隣接非癌性肝組織試料と対を成していない82例の付加的なHCC試料(HCC)について発現強度を示す。
【図11】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示す75種のプローブセットのそれぞれの遺伝子発現のt統計量を示す図表である。各遺伝子について、Affymetrixチップ上の対応するプローブセットのaffymetrix ID番号(AffymetrixプローブセットID)、18例の対を成すHCC組織試料と隣接非癌性肝組織試料のうち、ストリンジェンシーレベル12においてその遺伝子の差次的発現を示すものの数および割合(関与試料対(%))、遺伝子記号、MAS 5.0ソフトウェアを用いて測定された、18例の対を成す隣接組織試料に由来する非癌性肝組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)、ならびに82例の付加的なHCC試料(HCC)における遺伝子発現の平均シグナル強度(MAS 5.0シグナル強度)、ならびにPN対PHCC((A)対(B))およびPHCC対HCC((B)対(C))の対応のあるt検定に基づいたp値を示す。
【図12】リアルタイム定量的RT-PCRにより測定した、対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される39種の遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。18例の対を成す隣接組織試料に由来する正常組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)について発現強度を示す。
【図13】リアルタイム定量的RT-PCRにより測定した、対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される39種の遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。18例の対を成す隣接組織試料に由来する正常組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)について発現強度を示す。
【図14】リアルタイム定量的RT-PCRにより測定した、対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される39種の遺伝子の発現強度を示す一連のグラフである。発現強度を示す遺伝子を各グラフの左上隅に示す。18例の対を成す隣接組織試料に由来する正常組織試料(PN)およびHCC組織試料(PHCC)について発現強度を示す。
【図15】対を成すHCC組織と非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセット中に表される55種のHCC特異的遺伝子のIngenuity Pathway解析の結果を記載する。「フォーカス遺伝子」は、提示した遺伝子のうち、表示の主要な機能の同定されたネットワーク中に含まれるものの数を表す。「スコア」は、重要な意味をもたずにIngenuity Pathwayソフトウェアによって作成された。
【図16】59種の腫瘍特異的プローブセットによって表される遺伝子に対して、Ingenuity pathway解析によって割り当てられた生物学的機能(x軸)を示すグラフである。有意水準を、y軸に沿って-log(p値)として表す。閾値ラインを1.301=-log(0.05)に設定する。
【図17】HCC組織(n=100)および非腫瘍性肝組織(n=18)のマイクロアレイデータセットの階層的クラスター解析を示す。図の上部に灰色で強調された試料は、非腫瘍性肝組織である。左側に灰色で強調されたプローブセットは、18対のHCC組織および非腫瘍性肝組織のうち12対において隣接非腫瘍性肝組織に特異的であるプローブセットである(図5を参照されたい)。
【図18】上咽頭癌組織(n=168)および正常上咽頭組織(n=15)のマイクロアレイデータセットの階層的クラスター解析を示す。図の上部に灰色で強調された試料は、非腫瘍性肝組織である。左側に灰色で強調されたプローブセットは、18対のHCC組織および非腫瘍性肝組織のうち12対において隣接非腫瘍性肝組織に特異的であるプローブセットである(図5を参照されたい)。
【図19】乳癌組織(n=232)および正常乳房組織(n=25)のマイクロアレイデータセットの階層的クラスター解析を示す。用いたデータセットは、International Genomics Consortium由来の207例の乳癌試料(表3を参照されたい)を含む。図の上部に灰色で強調された試料は、正常乳房組織である。左側に灰色で強調されたプローブセットは、18対のHCC組織および非腫瘍性肝組織のうち12対において隣接非腫瘍性肝組織に特異的であるプローブセットである(図5を参照されたい)。
【図20】肺癌組織(n=200)および正常肺組織(n=15)のマイクロアレイデータセットの階層的クラスター解析を示す。用いたデータセットは、International Genomics Consortium由来の74例の肺癌試料(表3を参照されたい)、Duke University由来の111例の肺癌試料(表3を参照されたい)、Koo Foundation Sun-Yat-Sen Cancer Center(Taipei, Taiwan)由来の15例の肺癌試料および15例の正常肺組織試料を表す。上部に灰色で強調された試料は、正常肺組織である。左側に灰色で強調されたプローブセットは、18対のHCC組織および非腫瘍性肝組織のうち12対において隣接非腫瘍性肝組織に特異的であるプローブセットである(図5を参照されたい)。
【図21】結腸癌組織(n=161)および正常結腸組織(n=15)のマイクロアレイデータセットの階層的クラスター解析を示す。データセットは、International Genomics Consortium由来の146例の結腸癌試料(表3)、ならびにKoo Foundation Sun-Yat-Sen Cancer Center由来の15例の結腸癌組織試料および15例の正常結腸組織試料を表す。上部に灰色で強調された試料は、正常結腸組織である。左側に灰色で強調されたプローブセットは、18対のHCC組織および非腫瘍性肝組織のうち12対において隣接非腫瘍性肝組織に特異的であるプローブセットである(図5を参照されたい)。
【図22】腎細胞癌組織(n=9)および正常腎臓組織(n=8)のマイクロアレイデータセットの階層的クラスター解析を示す。データセットはBoston Universityから入手した(表3)。上部に灰色で強調された試料は、正常腎臓組織試料である。左側に灰色で強調されたプローブセットは、18対のHCC組織および非腫瘍性肝組織のうち12対において隣接非腫瘍性肝組織に特異的であるプローブセットである(図5を参照されたい)。
【図23A】SCIANTIS(商標) ProSystemデータベースに由来する20例の異なるタイプの癌組織とそれらに対応する正常組織との間で、75種の選択されたプローブセット(図4および5を参照されたい)の遺伝子発現強度を比較する、t統計量結果の階層的クラスター解析を示す。20例の異なるタイプの癌を図の上部に記載する。結果から、図の右端における消化管間質腫瘍(GIST)を除く、試験したすべてのタイプの癌について、高い正のt値を有する59種の腫瘍特異的プローブセットのクラスター、および負のt値を有する16種の正常組織特異的プローブセットのクラスターが明らかになった。灰色はt値+9を表し、白色はt値0を表し、黒色はt値-9を表す。中間値はそれに応じた色である。
【図23B】図23Aに記載したのと同じ、SCIANTIS(商標) Pro Systemに由来する20例の異なるタイプの癌組織およびそれらに対応する正常組織の遺伝子発現データを用いた、ランダムに選択された75種のプローブセットのt統計量結果の階層的クラスター解析を示す。ランダムに選択されたこれらのプローブに関して、無秩序なクラスターパターンが認められる。
【図24】図4および5に記載した75種のプローブセットを用いて、20例の異なるタイプの癌試料およびそれらと対応する正常組織に関してSCIANTIS(商標) Pro Systemデータベースから得られた遺伝子発現データを用いて行ったt検定のソートされたp値を示すグラフである。75種のプローブセットおよび20例のタイプの癌すべてのソートされたp値を、グラフの左側の最低値から右端の最高値に至る線によって示す。対照については、75種のプローブセットをランダムに10,000回選択し、10,000回のランダム選択の結果を統計的に解析し、10,000本の線としてプロットした(一番右側の線の左側に示される)。
【図25】図4および5に記載した、対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセットを用いた、異なる正常な器官および組織に関するGene Expression Omnibus(GEO)データセットに由来する遺伝子発現データの階層的クラスター解析を示す。このデータセット中には、リンパ腫/白血病細胞株12例、および結腸の腺癌2例もまた含まれた。このデータセットは、GEOアクセッション番号:GSE1133の下で収載された。最上位の正常組織/細胞は、骨髄細胞、精巣細胞、扁桃腺、および胎児肝である。残りの正常組織/細胞には、脳、脊髄、副腎、虫垂、心臓、島細胞、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、卵巣、膵臓、下垂体、前立腺、唾液腺、骨格筋、皮膚、胸腺、甲状腺、舌、気管、子宮、全血、および白血球の異なるサブセットという様々な部分が含まれる(強調されず)。
【図26】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセットを用いた、HCC試料100例の遺伝子発現データに関する階層的クラスター解析のヒートマップを示す。HCC試料100例の遺伝子発現プロファイリングデータは、Koo Foundation Sun-Yat-Sen Cancer Centerにおいて作成された。群1は、59種の腫瘍特異的プローブセット(図4を参照されたい)について発現低下を示したHCC試料のクラスターを示し、群2は発現増加を示したものである。正常組織に特異的な16種のプローブセットを、薄い陰影を用いて示す。
【図27】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセットを用いた、NPC試料168例の遺伝子発現データに関する階層的クラスター解析のヒートマップを示す。NPC試料168例の遺伝子発現プロファイリングデータは、Koo Foundation Sun-Yat-Sen Cancer Centerにおいて作成された。群1は、59種の腫瘍特異的プローブセット(図4を参照されたい)について発現低下を示したNPC試料のクラスターを示し、群2は発現増加を示したものである。正常組織に特異的な16種のプローブセットを、薄い陰影を用いて示す。
【図28】75種のプローブセットの中から、Netherlands Cancer Institute(NKI)乳癌データセットに一致し得た遺伝子を用いた、NKI由来の乳癌試料295例の遺伝子発現データに関する階層的クラスター解析のヒートマップを示す。正常組織に特異的なプローブセットを薄い陰影を用いて示す。75種のプローブセット中のいくつかの遺伝子は、NKIの遺伝子発現プロファイリングデータセット中に存在せず、したがって階層的クラスター解析に含めなかった。群1は、腫瘍特異的プローブセットの発現低下を示した乳癌試料を示し、群2は、同じプローブセットの発現増加を示した乳癌試料を示す。試料数を図の上部に示す。75種のプローブセットに一致した遺伝子を左側に示す。正常組織に特異的な遺伝子を薄い陰影を用いて示す。
【図29】図29Aは、階層的クラスター解析によって決定されたHCC患者の2群(図26を参照されたい)の無転移生存曲線を示すグラフである。括弧内の数字は転移の事象を表す。図29Bは、階層的クラスター解析によって決定されたHCC患者の2群(図26を参照されたい)の全生存曲線を示すグラフである。括弧内の数字は死亡の事象を表す。
【図30】図30Aは、階層的クラスター解析によって決定された乳癌患者の2群(図28を参照されたい)の無転移生存曲線を示すグラフである。括弧内の数字は転移の事象を表す。図30Bは、階層的クラスター解析によって決定された乳癌患者の2群(図28を参照されたい)の全生存曲線を示すグラフである。括弧内の数字は死亡の事象を表す。
【図31】図31Aは、階層的クラスター解析によって決定された上咽頭癌(NPC)患者の2群(図27を参照されたい)の無転移生存曲線を示すグラフである。括弧内の数字は転移の事象を表す。図31Bは、階層的クラスター解析によって決定された上咽頭癌(NPC)患者の2群(図27を参照されたい)の全生存曲線を示すグラフである。括弧内の数字は死亡の事象を表す。
【図32】対を成す肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示した75種のプローブセットを用いた、正常精巣および分化度(重要事項を参照されたい)の異なる成人胚細胞腫瘍の階層的クラスタリング解析を示す。右側の薄いバックグラウンドの陰影は、16種の正常組織特異的プローブセットのクラスターを示す。低分化型腫瘍(胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、およびセミノーマ)は高分化型腫瘍(例えば、奇形腫)よりも、腫瘍特異的プローブセットのより高い発現、および正常組織に特異的な16種のプローブセットのより低い発現を示した。
【図33】癌に関する以前に報告された3つの異なる共通サイン(第1欄:Whitfield ML, et al. Nature Review Cancer 6:99-106 (2006);第2欄および第3欄:Rhodes DR, et al. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 101:9309-9314 (2004))と本明細書に記載の共通新生物サイン(第4欄)(実施例1ならびに図4および5を参照されたい)との比較である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で用いる場合、「遺伝子発現」とは、遺伝子中にコードされる情報の遺伝子産物(例えば、RNA、タンパク質)への翻訳を指す。発現する遺伝子には、その後タンパク質に翻訳されるRNA(例えば、mRNA)に転写される遺伝子、およびタンパク質に翻訳されない非コード機能的RNA分子(例えば、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、マイクロRNA、リボザイム)に転写される遺伝子が含まれる。
【0017】
「発現のレベル」、「発現レベル」、または「発現強度」とは、試料または参照標準における、所与の遺伝子によってコードされる1つまたは複数の産物(例えば、mRNA、タンパク質)のレベル(例えば、量)を指す。
【0018】
本明細書で用いる場合、「差次的に発現する」または「差次的発現」とは、2つの試料(例えば、2つの生体試料)間の、または試料と参照標準との間の、遺伝子の発現のレベルの任意の統計的有意差(p<0.05)を指す。2つの試料間の発現の差が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定(例えば、1標本t検定、2標本t検定、ウェルチのt検定)、または当業者に公知である他の統計検定を用いて判定することができる。
【0019】
本明細書で用いる場合、「癌において過剰発現する遺伝子のサブセット」という語句は、それぞれが適切な対照(例えば、非癌性の組織または細胞の試料、参照標準)と比較した癌試料における発現のレベルの上昇または増加を示し、遺伝子発現のレベルの上昇または増加が統計的に有意(p<0.05)である、2種またはそれ以上の遺伝子の組み合わせを指す。対照と比較して癌試料における遺伝子の発現の増加が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定(例えば、1標本t検定、2標本t検定、ウェルチのt検定)、または当業者に公知である他の統計検定を用い判定することができる。癌において過剰発現する遺伝子は、例えば、癌において過剰発現することが公知であるか、または癌において過剰発現するとあらかじめ判定された遺伝子であってよい。
【0020】
本明細書で用いる場合、「癌において低発現する遺伝子のサブセット」という語句は、それぞれが適切な対照(例えば、非癌性の組織または細胞の試料、参照標準)と比較した癌試料における発現のレベルの低下または減少を示し、遺伝子発現のレベルの低下または減少が統計的に有意(p<0.05)である、2種またはそれ以上の遺伝子の組み合わせを指す。いくつかの態様において、遺伝子発現のレベルの低下または減少は、遺伝子発現の完全な欠如、または発現レベルゼロであってよい。対照と比較した癌試料における遺伝子の発現の減少が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定(例えば、1標本t検定、2標本t検定、ウェルチのt検定)、または当業者に公知である他の統計検定を用いて判定することができる。癌において低発現する遺伝子は、例えば、癌において低発現することが公知であるか、または癌において低発現するとあらかじめ判定された遺伝子であってよい。
【0021】
「遺伝子発現プロファイル」または「発現プロファイル」とは、特定の生物活性(例えば、細胞増殖、細胞周期調節、転移)、細胞型、病態(例えば、癌)、細胞分化の状態、または健康状態に関連した発現レベルを有する一組の遺伝子を指す。
【0022】
「共通新生物サイン」または「CNS」とは、多くの異なる一般的な癌と関連した(の診断となる)遺伝子発現プロファイルを指す。
【0023】
本明細書で用いる「腫瘍特異的遺伝子」とは、Affymetrix Microarray Analysis Suite(MAS) 5.0およびDNA Chip Analyzer(dChip)ソフトウェア・アプリケーションの両方によって、癌(例えば、肝細胞癌)組織試料中に「プレゼント(present)」、かつ隣接する非腫瘍組織(例えば、正常肝組織)試料中に「アブセント(absent)」または「マージナル(marginal)」と特徴づけられる発現レベルを有する遺伝子である。
【0024】
本明細書で用いる「非腫瘍組織特異的遺伝子」とは、MAS 5.0およびdChipソフトウェア・アプリケーションの両方によって、癌(例えば、肝細胞癌)組織試料中に「アブセント」または「マージナル」、かつ隣接する非腫瘍組織(例えば、正常肝組織)試料中に「プレゼント」と特徴づけられる発現レベルを有する遺伝子である。
【0025】
本明細書で用いる「ストリンジェンシー」、「ストリンジェンシーフィルター」、または「ストリンジェンシーレベル」という用語は、「プレゼント」対「アブセント」または「マージナル」ステータスを用いて、Affymetrix Microarray Analysis Suite(MAS) 5.0およびDNA Chip Analyzer(dChip)ソフトウェア・アプリケーションの両方により判定して、全部で18例の対を成すHCC組織試料および隣接非腫瘍性肝組織試料のうち、マイクロアレイ発現プロファイリング解析によって特定の遺伝子または遺伝子群の有意な差次的発現を示すものの数に直接対応する数字を指す。したがって、本明細書で用いる「ストリンジェンシー」、「ストリンジェンシーフィルター」、または「ストリンジェンシーレベル」の値は、18という高ストリンジェンシーから1という低ストリンジェンシーまでの範囲に及ぶ。
【0026】
「プローブセット」という用語は、同じ標的遺伝子または遺伝子産物に相補的であるアレイ(例えば、マイクロアレイ)上のプローブを指す。プローブセットは、1種または複数種のプローブからなってよい。
【0027】
本明細書で用いる場合、「試料」という用語は、所与のタイプの癌に関して、試料中に癌細胞が存在する場合と試料中に癌細胞が存在しない場合に発現の差次的レベルを示す遺伝子を発現する生体試料(例えば、組織試料、細胞試料、液体試料)を指す。
【0028】
本明細書で用いる場合、「隣接する試料」、「隣接する組織試料」、「対を成す試料」、または「対を成す組織試料」とは、対象の同じ組織または器官中に存在するか、またはそこから単離された、2つまたはそれ以上の生体試料を指す。
【0029】
本明細書で用いる「オリゴヌクレオチド」という用語は、約5〜約150ヌクレオチド長の核酸分子(例えば、RNA、DNA)を指す。オリゴヌクレオチドは、天然オリゴヌクレオチドであっても、合成オリゴヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチドは、ホスホラミダイト法(Beaucage and Carruthers, Tetrahedron Lett. 22:1859-62, 1981)によって、またはトリエステル法(Matteucci, et al., J. Am. Chem. Soc. 103:3185, 1981)によって、または当技術分野で公知の他の化学的方法によって調製することができる。
【0030】
本明細書で用いる場合、「プローブオリゴヌクレオチド」または「プローブオリゴデオキシヌクレオチド」とは、標的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドを指す。
【0031】
「標的オリゴヌクレオチド」または「標的オリゴデオキシヌクレオチド」とは、(例えば、ハイブリダイゼーションによって)検出しようとする分子を指す。
【0032】
「遠隔転移」とは、元の(すなわち、原発)腫瘍から遠隔臓器または遠隔リンパ節に拡大した癌細胞を指す。
【0033】
本明細書で用いる「検出可能な標識」とは、直接または間接的に特異的に検出することができ、よって検出可能な標識を含む分子を検出可能な標識を含まない分子と区別するために用いることができる任意の部分を指す。
【0034】
「特異的にハイブリダイズする」という語句は、ストリンジェントな条件下における、2つの相補的なヌクレオチド配列(例えば、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせ)の二本鎖での特異的会合を指す。2つの核酸分子の二本鎖での会合は、相補的な塩基対間の水素結合の結果として起こる。
【0035】
「ストリンジェントな条件」または「ストリンジェンシー条件」とは、2つの相補的な核酸分子がハイブリダイズし得る一組の条件を指す。しかしながら、ストリンジェントな条件は、相補的でない2つの核酸分子(70%未満の配列相補性を有する2つの核酸分子)のハイブリダイゼーションを許容しない。
【0036】
本明細書で用いる場合、「低ストリンジェンシー条件」は、例えば、約45℃での6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でのハイブリダイゼーション、およびそれに続く少なくとも50℃での0.2×SSC、0.1% SDS中での2回の洗浄を含む(低ストリンジェンシー条件に関して、洗浄の温度は55℃まで上昇させることができる)。
【0037】
「中程度ストリンジェンシー条件」は、例えば、約45℃での6×SSC中でのハイブリダイゼーション、およびそれに続く60℃での0.2×SSC、0.1% SDS中での1回または複数回の洗浄を含む。
【0038】
本明細書で用いる場合、「高ストリンジェンシー条件」は、例えば、約45℃での6×SSC中でのハイブリダイゼーション、およびそれに続く65℃での0.2×SSC、0.1% SDS中での1回または複数回の洗浄を含む。
【0039】
「超高ストリンジェンシー条件」は、これに限定されないが、65℃での0.5 Mリン酸ナトリウム、7% SDS中でのハイブリダイゼーション、およびそれに続く65℃での0.2×SSC、1% SDSでの1回または複数回の洗浄を含む。
【0040】
本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指し、タンパク質、ペプチド、およびオリゴペプチドを包含する。
【0041】
本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、標的、抗原、またはエピトープに対する親和性を有するポリペプチドを指し、天然抗体および改変抗体の両方を含む。「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、張り合わせ(veneered)抗体、および一本鎖抗体、ならびに抗体の断片(例えば、Fv、Fc、Fd、Fab、Fab'、F(ab')、scFv、scFab、dAb)を包含する。(例えば、Harlow et al., Antibodies A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照されたい)。
【0042】
本明細書で定義する場合、「抗原結合断片」という用語は、1つまたは複数のCDRを含み、かつ単独で抗原決定基に対する親和性を有する抗体の部分を指す。非限定的な例には、Fab断片、F(ab)'2断片、重鎖-軽鎖二量体、および完全な軽鎖または完全な重鎖などの一本鎖構造体が含まれる。
【0043】
本明細書で用いる場合、「特異的に結合する」とは、プローブが非標的タンパク質と結合する際の親和性よりも少なくとも約5倍、好ましくは少なくとも約10倍高い親和性(例えば、結合親和性)で、標的タンパク質(例えば、CNS遺伝子のタンパク質産物)に結合するプローブ(例えば、抗体、アプタマー)を指す。
【0044】
「標的タンパク質」とは、(例えば、検出可能な標識を含むプローブを用いて)検出しようとするタンパク質を指す。
【0045】
本明細書で用いる場合、「対象」とは哺乳動物を指す。したがって「対象」という用語は、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、またはその他のウシ種、ヒツジ種、ウマ種、イヌ種、ネコ種、げっ歯類種、もしくはマウス種を含む。好ましい態様において、対象はヒトである。適切な対象の例には、癌(例えば、HCC)を有するか、またはそれを発症するリスクのあるヒト患者が含まれるが、これに限定されない。
【0046】
特記しない限り、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、当技術分野の(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技法、および生化学の)当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。分子的方法、遺伝学的方法、および生化学的方法(一般的に、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed. (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y、およびAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.を参照されたい)、ならびに化学的方法には、標準的な技法が用いられる。
【0047】
本明細書に記載するように、対を成す肝細胞癌(HCC)組織と正常肝組織との間で差次的に発現する遺伝子を含む遺伝子発現プロファイルは、いくつかの異なるタイプの癌を対応する正常組織と区別することができる共通新生物サイン(「CNS」)として役立ち得る。本明細書に記載するように、55種の遺伝子の共通新生物サインは、6例の主要なタイプの癌、および20例のサブタイプの癌のうちの19例を表す組織試料を、対応する正常組織試料と区別することができた。加えて、CNS中の遺伝子のサブセットは、3例の異なるタイプの癌(HCC、上咽頭癌、および乳癌)に関して、生存期間の短縮または遠隔転移のリスク増加を含む予後不良と関連していた。
【0048】
診断方法および予後予測方法
本発明は、1つの態様において、対象が癌を有するかどうかを診断する方法を包含する。本方法は、癌(例えば、腫瘍)において過剰発現する遺伝子のサブセットの、対象由来の試料における発現のレベルを検出する段階を含む。対象由来の試料における該サブセットの遺伝子の発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、該対象が癌を有することが示される。
【0049】
癌において過剰発現する遺伝子のサブセットは、以下の55種の遺伝子を含む共通新生物サインからの2種またはそれ以上の遺伝子の任意の組み合わせを含み得る:MELK、PLVAP、TOP2A、NEK2、CDKN3、PRC1、ESM1、PTTG1、TTK、CENPF、RDBP、CCHCR1、DEPDC1、TP5313、CCNB2、CAD、CDC2、HMMR、STMN1、HCAP-G、MDK、RAD54B、ASPM、HMGA1、SNRPC、IGF2BP3、SERPINH1、COL4A1、LARP1、LRRC1、FOXM1、CDC20、UBE2M、DNAJC6、FEN1、ASNS、CHEK1、KIF2C、AURKB、NPEPPS、KIF4A、E2F8、EZH2、ZNF193、ILF3、EHMT2、SF3A2、NPAS2、PSME3、INPPL1、BIRC5、SULT1C1、NSUN5B、HN1、およびNUSAP1。HCAP-Gとして当技術分野で知られている遺伝子は、当技術分野でNCAPGとしても知られており、これら2つの遺伝子名は本明細書において互換的に用いられる。
【0050】
異なる癌(例えば、肝細胞癌、上咽頭癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌)では、CNSからの遺伝子の異なるサブセットが過剰発現する可能性が高い。したがって、所与のタイプまたはサブタイプの癌において過剰発現するCNS中の特定の遺伝子および/または遺伝子の数は、別のタイプまたはサブタイプの癌において過剰発現するCNSからの遺伝子および/または遺伝子の数と異なる可能性がある。癌において過剰発現する遺伝子のサブセットは、CNSの2種またはそれ以上の遺伝子から、本明細書に記載するCNSの55種すべての遺伝子を含めた遺伝子まで含み得る。1つの態様において、癌において過剰発現する遺伝子のサブセットは、共通新生物サインの55種すべての遺伝子を含む。別の態様において、癌において過剰発現する遺伝子のサブセットは、CNSの約20種の遺伝子を含む。共通新生物サインの遺伝子のヌクレオチド配列、ならびにそれらのRNAおよびタンパク質産物のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列はそれぞれ報告されており(表1を参照されたい)、当業者は容易に確認することができる。
【0051】
(表1)共通新生物サイン中の遺伝子の遺伝子記号およびGenBank(登録商標)アクセッション番号


【0052】
本明細書に記載する方法を用いて、多くの異なるタイプの癌を診断することができる。特定の態様では、本発明の方法を用いて、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、直腸癌、皮膚癌、胃癌、および甲状腺癌からなる群より選択される癌を診断することができる。本発明の方法を用いて、様々な癌のサブタイプを診断することもできる。そのような癌のサブタイプには、図3に記載する癌のサブタイプが含まれるが、これらに限定されない。好ましい態様において、癌は肝細胞癌である。本明細書において同定された共通新生物サイン中の遺伝子のすべてが、本明細書に記載するすべてのタイプまたはサブタイプの癌と関連した(例えば、の診断指標となる)発現レベルを有するわけではない。したがって、異なるタイプまたはサブタイプの癌は、本明細書において同定されたCNS遺伝子の様々なサブセットを用いて診断することができる。
【0053】
別の態様において、本発明は、CNSの1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出する段階を含む、癌を有する対象の予後予測を提供する方法に関する。本発明に従って、CNS中のある特定の遺伝子の発現(例えば、過剰発現)は予後不良を示す。予後予測は、患者の生存率、転移のリスク、または治療後の再発のリスクについての予後予測であってよいが、これらに限定されない。特定の態様において、予後予測は、肝細胞癌、上咽頭癌、または乳癌を有する患者に対するものである。
【0054】
本明細書に記載するように、癌試料におけるCNS中のある特定の遺伝子の発現(例えば、過剰発現)と患者の予後不良(例えば、生存期間の短縮、転移のリスク増加(例えば、実施例4〜7を参照されたい))との間には、強力な関連性がある。具体的には、肝細胞癌、上咽頭癌、または乳癌を有する対象由来の試料中のPRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、および/またはRAD54Bの発現(例えば、発現上昇)は、遠隔転移のリスク増加と関連している。加えて、肝細胞癌、上咽頭癌、または乳癌を有する対象由来の試料中のCDC2、CCHCR1、および/またはHMGA1の発現(例えば、発現上昇)は、生存期間の短縮と関連している。
【0055】
本発明の診断方法および予後予測方法のために、対象由来の適切な試料における遺伝子発現を評価することができる。適切な試料は、組織試料、生体液試料、細胞(例えば、腫瘍細胞)試料等であってよい。例えば、採血、脊椎穿刺、組織塗沫もしくは掻爬、または組織生検による、対象から試料採取する任意の手段を用いて、試料を採取することができる。したがって試料は、生検標本(例えば、腫瘍、ポリープ、塊(固体、細胞))、吸引物、塗沫標本、または血液試料であってよい。好ましい態様において、試料は血液試料(例えば、血清試料)である。試料は、腫瘍(例えば、癌性増殖)および/もしくは腫瘍細胞を有するか、または腫瘍および/もしくは腫瘍細胞を有すると疑われる器官由来の組織であってよい。例えば、標的部分から全塊(切除生検)または部分塊(切開生検)を除去する手順である直視下生検によって、腫瘍生検材料を採取することができる。あるいは、個々の細胞もしくは細胞のクラスター(例えば、細針吸引(FNA))または組織のコアもしくは断片(コア生検)を得るために、(画像装置を用いて、または用いずに)小切開または穿刺を介して針状の器具を用いて行う手順である経皮的生検により、腫瘍試料を採取することができる。生検試料は、細胞学的に(例えば、塗沫標本)、組織学的に(例えば、凍結切片またはパラフィン切片)、または任意の他の適切な方法(例えば、分子診断的方法)を用いて調べることができる。腫瘍試料は、個体の組織に由来する培養ヒト細胞のインビトロ回収によって得ることもできる。腫瘍細胞は、必要に応じて、急速凍結法または制御凍結法などの、解析可能な条件で試料のタンパク質および/または核酸を保存する適切な保存手段によって、解析するまで保存することができる。必要に応じて、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、またはプロパンジオール・スクロースなどの細胞保護剤の存在下で、凍結を行うことができる。腫瘍試料は、必要に応じて、解析を目的として保存の前または後にプールすることができる。
【0056】
1つの態様では、患者由来の試料における、CNSからの遺伝子のサブセットまたはそれらの遺伝子産物(例えば、mRNA、タンパク質)の発現を検出することにより、癌を診断すること、または患者の予後予測を提供することができる。したがって本方法は、患者由来の試料中の発現を対照と比較することを必要としない。遺伝子発現の有無は、本明細書に記載する方法、または当業者に公知の他の適切なアッセイ法によって確認することができる。
【0057】
遺伝子発現の差(例えば、増加、減少)は、対象由来の試料中の遺伝子の発現のレベルを適切な対照のものと比較することによって判定することができる。適切な対照には、例えば、非新生物組織試料(例えば、癌試料が得られた同じ対象に由来する非新生物組織試料)、非癌性細胞の試料、非転移性癌細胞、非悪性(良性)細胞等、または適切な公知のもしくは決定された参照標準が含まれる。参照標準は、タンパク質またはRNAの発現の典型的な正常範囲もしくは正規化範囲のレベル、または特定のレベル(例えば、発現標準)であってよい。標準は、例えば、ゼロ遺伝子発現レベル、標準細胞株における遺伝子発現レベル、または正常ヒト対照の集団に関してあらかじめ得られた遺伝子発現の平均レベルを含み得る。したがって本方法は、対照試料において、または対照試料と比較して、遺伝子/遺伝子産物の発現を評価することを必要としない。
【0058】
対象由来の試料(例えば、生体試料)中の遺伝子の発現のレベルまたは遺伝子産物(例えば、mRNA、タンパク質)のレベル(例えば、量)を評価するために用いることのできる適切なアッセイ法は、当業者に公知である。例えば、生体試料中のRNA発現レベルを検出するのに適している任意の技法を用いて、試料中のRNA(例えば、mRNA)遺伝子産物のレベルを測定することができる。生体試料由来の細胞中のRNA発現レベルを測定するのに適したいくつかの技法(例えば、ノーザンブロット解析、RT-PCR、インサイチューハイブリダイゼーション)が、当業者に周知である。特定の態様では、ノーザンブロット解析を用いて、少なくとも1種の遺伝子産物のレベルを検出する。例えば、核酸抽出緩衝液の存在下でホモジナイズし、その後遠心分離を行うことによって、細胞から全細胞RNAを精製することができる。核酸を沈殿させ、DNaseによる処理および沈殿によってDNAを除去する。次いで、標準的な技法に従ったアガロースゲル上でのゲル電気泳動によってRNA分子を分離し、ニトロセルロースフィルターに転写する。次に、加熱処理によってRNAをフィルター上に固定化する。特定のRNAの検出および定量は、当該RNAに相補的な、適切に標識されたDNAまたはRNAプローブを用いて達成される。例えば、その全開示内容が参照により組み入れられる、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Chapter 7を参照されたい。
【0059】
ノーザンブロットハイブリダイゼーションに適したプローブには、CNSの遺伝子のRNA(例えば、mRNA)および/またはcDNA配列のヌクレオチド配列に相補的である核酸プローブが含まれる。標識されたDNAおよびRNAプローブの調製方法、ならびにそれらと標的ヌクレオチド配列とのハイブリダイゼーションのための条件は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Chapters 10 and 11に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0060】
例えば、核酸プローブを、例えば3H、32P、33P、14C、もしくは35Sなどの放射性核種;重金属;または標識リガンド(例えば、ビオチン、アビジン、または抗体)に対する特異的結合対メンバーとして機能し得るリガンド、蛍光分子、化学発光分子、酵素等で標識することができる。
【0061】
プローブは、Rigby et al. (1977), J. Mol. Biol. 113:237-251のニックトランスレーション法、またはFienberg et al. (1983), Anal. Biochem. 132:6-13のランダムプライミング法のいずれかにより、比放射能が高くなるまで標識することができ、これらの全開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。後者は、一本鎖DNA鋳型からまたはRNA鋳型から比放射能の高い32P標識プローブを合成する場合に選択される方法である。例えば、ニックトランスレーション法に従って、既存のヌクレオチドを高放射性ヌクレオチドに置換することにより、比放射能が108 cpm/マイクログラムを優に上回る32P標識核酸プローブを調製することが可能である。次に、ハイブリダイズさせたフィルターを写真フィルムに対して露光することにより、ハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィー検出を行うことができる。ハイブリダイズさせたフィルターによって露光された写真フィルムの濃度測定スキャニングにより、遺伝子転写産物レベルの正確な測定値が提供される。別のアプローチを用いて、Amersham Biosciences, Piscataway, NJから入手可能なMolecular Dynamics 400-B 2D Phosphorimagerなどのコンピュータ画像システムによって、遺伝子転写産物レベルを定量することもできる。
【0062】
DNAまたはRNAプローブの放射性核種標識が実用的でない場合には、ランダムプライマー法を用いて、例えばdTTP類似体である5-(N-(N-ビオチニル-イプシロン-アミノカプロイル)-3-アミノアリル)デオキシウリジン三リン酸などの類似体をプローブ分子中に組み入れることができる。ビオチン化されたプローブオリゴヌクレオチドは、アビジン、ストレプトアビジン、および蛍光色素または呈色反応を生じる酵素と結合させた抗体(例えば、抗ビオチン抗体)などのビオチン結合タンパク質との反応によって検出することができる。
【0063】
ノーザンハイブリダイゼーション技法および他のRNAハイブリダイゼーション技法に加えて、インサイチューハイブリダイゼーションの技法を用いて、RNA転写産物のレベルの測定を達成することもできる。この技法は、必要な細胞数がノーザンブロッティング技法よりも少なく、全細胞を顕微鏡カバーグラス上に堆積させる段階、および放射性標識されたまたは別の方法で標識された核酸(例えば、cDNAまたはRNA)プローブを含む溶液で、細胞の核酸内容物をプロービングする段階を伴う。この技法は、対象由来の組織生検試料を解析するのに特に適している。インサイチューハイブリダイゼーション技法の実施については、米国特許第5,427,916号に詳述されており、その全開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。所与の遺伝子産物のインサイチューハイブリダイゼーションに適したプローブは、例えば、本明細書に記載するCNS遺伝子のRNA産物の核酸配列から作製することができる。
【0064】
対象由来の試料中の核酸(例えば、mRNA転写産物)のレベルは、例えばポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)(例えば、直接的PCR、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)、逆転写PCR(RT-PCR))、リガーゼ連鎖反応法、自己持続配列複製法、転写増幅システム、Q-βレプリカーゼ法等などの任意の標準的な核酸増幅技法を用いて評価し、例えば増幅中の核酸の標識、インターカレート化合物/色素への曝露、プローブ等により可視化することもできる。特定の態様において、試料中の遺伝子転写産物の相対数は、遺伝子転写産物(例えば、mRNA)を逆転写した後に、ポリメラーゼ連鎖反応法(例えば、RT-PCR)により逆転写産物を増幅することによって測定する。遺伝子転写産物のレベルは、内部標準、例えば、同一試料中に存在する「ハウスキーピング」遺伝子に由来するmRNAのレベルと比較して定量することができる。内部標準として用いるのに適した「ハウスキーピング」遺伝子には、例えばミオシンまたはグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)が含まれる。定量的RT-PCRの方法およびその変法は、当技術分野の技術の範囲内である。
【0065】
場合によっては、試料中のいくつかの異なる遺伝子産物の発現レベルを同時に測定することが望ましい場合がある。例えば、対象由来の試料中の、本明細書に記載するCNS中の全遺伝子の転写産物の発現レベルを測定することが望ましい場合がある。多くの遺伝子の癌特異的な発現レベルを個々に評価することは、時間を要し、大量の全RNA(各ノーザンブロットにつき少なくとも約20μg)、および放射性同位元素を要するオートラジオグラフィー技法を必要とする。これらの限界を克服するために、一組の遺伝子に特異的である一組のプローブオリゴデオキシオリゴヌクレオチドを含む、マイクロチップ型式(例えば、遺伝子チップ、マイクロアレイ)のオリゴライブラリーを構築することができる。このようなマイクロアレイを用いることで、RNAを逆転写して一組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを作製し、それらをマイクロアレイ上のプローブオリゴデオキシヌクレオチドに対してハイブリダイズさせて、ハイブリダイゼーションプロファイルまたは発現プロファイルを作製することによって、生体試料中の複数のRNA転写産物の発現レベルを測定することができる。次いで、被験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを対照試料のものと比較して、癌試料において発現レベルが変化しているRNAを判定することができる。
【0066】
マイクロアレイは、当技術分野で公知の技法を用いて作製することができる。例えば、適切な長さのプローブオリゴヌクレオチドをC6位で5'-アミン修飾し、市販のマイクロアレイシステム、例えばGeneMachine OmniGrid(商標) 100 MicroarrayerおよびAmersham CodeLink(商標)活性化スライドを用いて印刷することができる。標識プライマーを用いて標的RNAを逆転写することにより、標的RNAに対応する標識cDNAオリゴマーを調製する。第一鎖合成の後、RNA/DNAハイブリッドを変性させてRNA鋳型を分解する。次に、このようにして調製した標識標的cDNAを、例えば25℃で18時間の6×SSPE/30%ホルムアミド、およびその後の37℃で40分間の0.75×TNT中での洗浄といったハイブリダイズ条件下で、マイクロアレイチップにハイブリダイズさせる。固定化されたプローブDNAが試料中の相補的な標的cDNAを認識するアレイ上の位置で、ハイブリダイゼーションが起こる。標識標的cDNAは、結合が起こったアレイ上の正確な位置に印を付け、自動的な検出および定量が可能になる。出力はハイブリダイゼーション事象のリストからなり、特定のcDNA配列の相対的存在量、ひいては患者試料中の対応する遺伝子産物の相対的存在量が示される。1つの態様によれば、標識cDNAオリゴマーは、ビオチン標識プライマーから調製されたビオチン標識cDNAである。次いで、例えばストレプトアビジン-Alexa647コンジュゲートを用いてビオチン含有転写産物を直接検出することによって、マイクロアレイを処理し、慣用的なスキャニング法を利用してスキャンする。アレイ上の各スポットの画像強度は、患者試料中の対応する遺伝子産物の存在量に比例する。
【0067】
特定の試料の「発現プロファイル」または「ハイブリダイゼーションプロファイル」は、本質的にその試料の状態のフィンガープリントである;2つの状態では任意の特定の遺伝子が同様に発現する可能性があるが、多くの遺伝子を同時に評価することにより、細胞の状態に特有である遺伝子発現プロファイルの作製が可能になる。すなわち、正常組織を癌組織と区別することができ、また癌組織内では、異なる予後状態(例えば、良好なまたは不良な長期生存見込み)を判定することができる。異なった状態にある癌組織の発現プロファイルを比較することにより、これらの状態の各々においてどの遺伝子が重要であるかに関する情報(遺伝子の上方制御および下方制御の両方を含む)が得られる。癌組織と正常組織において差次的に発現する配列、および異なる予後結果を生じる差次的発現を同定することにより、多くの方法でこの情報を用いることが可能になる。例えば、特定の治療計画を評価することができる(例えば、化学療法薬が、特定の患者において長期予後を改善するよう作用するかどうかを判定するため)。同様に、患者試料と公知の発現プロファイルを比較することによって、診断を行うまたは確認することができる。さらに、これらの遺伝子発現プロファイル(または個々の遺伝子)によって、乳癌発現プロファイルを抑制する、または予後不良プロファイルをより良好な予後プロファイルに変換する薬物候補のスクリーニングが可能になる。
【0068】
特定の態様では、癌を有する、または癌を有するかもしくは癌を発症するリスクがあると疑われる対象由来の試料からの全RNAを、定量的に逆転写して、試料中のRNAに相補的な一組の標識標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供する。次に、標的オリゴデオキシヌクレオチドを、遺伝子特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズさせて、試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供する。結果は、試料中の遺伝子の発現パターンを表す、試料のハイブリダイゼーションプロファイルである。ハイブリダイゼーションプロファイルは、マイクロアレイ中の遺伝子特異的プローブオリゴヌクレオチドに対する、試料由来の標的オリゴデオキシヌクレオチドの結合によるシグナルを含む。プロファイルは、結合の存在または非存在(シグナル対ゼロシグナル)として記録され得る。より好ましくは、記録されたプロファイルは、各ハイブリダイゼーションによるシグナルの強度を含む。このプロファイルを、正常の、すなわち非癌性の対照試料から作製されたハイブリダイゼーションプロファイルと比較する。シグナルの変化(例えば、増加)は、対象における癌の存在を示す。
【0069】
アレイまたは遺伝子チップ上の遺伝子発現は、適切なアルゴリズム(例えば、統計的アルゴリズム)を用いて評価することができる。マイクロアレイまたは遺伝子チップを用いて遺伝子発現レベルを評価するのに適したソフトウェア・アプリケーションは、当技術分野で公知である。特定の態様では、例えば本明細書の実施例1に記載するように、Affymetrix Microarray Analysis Suite(MAS) 5.0ソフトウェアおよび/またはDNA Chip Analyzer(dChip)ソフトウェアを用いて、マイクロアレイ上の遺伝子発現を評価する。
【0070】
特定の態様では、例えば、Palacios G, et al., New Eng. J. Med. 358: 991-998 (2008)に記載されているように、逆転写、PCR、および平行配列決定を行うことにより、対象の血液(例えば、血漿)または他の体液(例えば、癌細胞を含む血液または他の体液)において、本明細書に記載する55種の腫瘍特異的遺伝子(図4を参照されたい)のいずれかのRNA転写産物の断片を同定し、定量することができる。任意のRNA断片の同一性は、その配列を55種の腫瘍特異的遺伝子のcDNA配列の1つと一致させることによって、決定することができる。55種の腫瘍特異的遺伝子のRNA断片は、55種の腫瘍特異的遺伝子の中からの特定のDNA配列を有する断片が、試料由来の配列決定された全PCR断片の中で検出される頻度に従って、定量することもできる。このアプローチを用いて、癌細胞に関して陽性である対象をスクリーニングし、同定することができる。あるいは、対象由来の血液または生体液試料中に存在する、55種の腫瘍特異的遺伝子のいずれかに対するRNA転写産物の断片の同一性は、例えば、RNA断片の逆転写を行った後に、PCR増幅、およびアレイ(例えば、マイクロアレイ、遺伝子チップ)に対するPCR産物のハイブリダイゼーションを行うことによって、決定および定量することができる。
【0071】
試料中の遺伝子発現を測定するための他の技法もまた、当技術分野の技術の範囲内であり、これには、RNAの転写および分解の速度を測定するための様々な技法が含まれる。
【0072】
CNSの遺伝子の発現のレベルは、対象由来の試料において、該遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルを評価することによって測定することもできる。CNS遺伝子のタンパク質産物を検出する方法には、例えば、フローサイトメトリー(例えば、FACS解析)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、化学発光アッセイ法、放射性免疫測定法、免疫ブロット法(例えば、ウェスタンブロット法)、免疫組織化学法(IHC)、および質量分析法などの免疫学的方法および免疫化学的方法が含まれる。例えば、CNS遺伝子のタンパク質産物に対する抗体を用いて、例えば免疫組織化学法(IHC)により、試料中のタンパク質の存在および/または発現レベルを直接または間接的に測定することができる。例えば、生検材料からパラフィン切片を作製し、スライドに固定し、適切な方法によって1種または複数種の抗体と混合することができる。
【0073】
2つの試料間の、または試料と参照標準との間の遺伝子の発現のレベルの差(例えば、増加、減少)は、適切なアルゴリズムを用いて判定することができ、そのうちのいくつかは当業者に公知である。例えば、癌(例えば、HCC)組織と隣接非腫瘍組織との間で差次的発現(例えば、有意な差次的発現)を示す遺伝子の同定は、本明細書の実施例1および図1に記載するアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0074】
2つの試料間の、または試料と参照標準との間の遺伝子の発現のレベルの統計的有意差(例えば、増加、減少)は、適切な統計検定を用いて判定することができ、そのうちのいくつかは当業者に公知である。特定の態様では、t検定(例えば、1標本t検定、2標本t検定)を使用して、遺伝子発現の差が統計的に有意であるかどうかを判定する。例えば、2標本t検定(例えば、2標本ウェルチのt検定)を用いて、2つの試料間の遺伝子の発現のレベルの統計的有意差を判定することができる。試料と参照法準との間の遺伝子の発現のレベルの統計的有意差は、1標本t検定を用いて判定することができる。遺伝子発現の差を評価するのに有用な他の統計解析には、カイ二乗検定、フィッシャーの直接確率検定、ならびにログランク検定およびウィルコクソン検定(実施例1〜7を参照されたい)が含まれる。
【0075】
キット
本発明はまた、対象が癌を有するかどうかを診断するためのキットを包含する。本発明の診断用キットは、本明細書に記載するCNS(すなわち、MELK、PLVAP、TOP2A、NEK2、CDKN3、PRC1、ESM1、PTTG1、TTK、CENPF、RDBP、CCHCR1、DEPDC1、TP5313、CCNB2、CAD、CDC2、HMMR、STMN1、HCAP-G、MDK、RAD54B、ASPM、HMGA1、SNRPC、IGF2BP3、SERPINH1、COL4A1、LARP1、LRRC1、FOXM1、CDC20、UBE2M、DNAJC6、FEN1、ASNS、CHEK1、KIF2C、AURKB、NPEPPS、KIF4A、E2F8、EZH2、ZNF193、ILF3、EHMT2、SF3A2、NPAS2、PSME3、INPPL1、BIRC5、SULT1C1、NSUN5B、HN1、NUSAP1)の複数の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを含む。例えば、キットは、共通新生物サインの例えば約2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、14種、15種、16種、17種、18種、19種、20種、21種、22種、23種、24種、25種、26種、27種、28種、29種、30種、31種、32種、33種、34種、35種、36種、37種、38種、39種、40種、41種、42種、43種、44種、45種、46種、47種、48種、49種、50種、51種、52種、53種、54種、または55種の遺伝子など、CNSの少なくとも約2種の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを含み得る。1つの態様において、キットは、共通新生物サイン中の55種すべての遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを包含する。特定の態様において、キットは、本明細書に記載するCNSの少なくとも約10種の遺伝子、好ましくは約15種の遺伝子、およびより好ましくは約20種の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを包含する。
【0076】
本発明はまた、癌を有する対象の予後(例えば、転移のリスク、生存率)を判定するためのキットを提供する。1つの態様において、キットは、PRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、およびRAD54Bからなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子、またはそれらの任意の組み合わせの発現のレベルを検出し得るプローブを含む。別の態様において、本発明は、PRC1、CDC2、CCHCR1、およびHMGA1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子、またはそれらの任意の組み合わせの発現のレベルを検出し得るプローブを含む、癌を有する対象の予後を判定するためのキットに関する。
【0077】
本発明の診断用キットおよび予後予測用キットは、試料(例えば、哺乳動物対象由来の生体試料)中のCNS遺伝子の発現を検出するためのプローブ(例えば、核酸プローブ、抗体)を含む。
【0078】
したがって、1つの態様において、キットは、CNS遺伝子のRNA転写産物(例えば、mRNA、hnRNA)に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ、ポリヌクレオチドプローブ)を含む。そのようなプローブは、1つまたは複数の型の化学結合を介して、通常は水素結合形成による相補的塩基対形成を介して、相補配列の標的核酸に結合する(すなわち、ハイブリダイズする)ことができる。本明細書で用いる場合、核酸プローブは、天然塩基(すなわち、A、G、U、C、またはT)または修飾塩基(7-デアザグアノシン、イノシン等)を含み得る。加えて、核酸プローブ中の塩基は、その結合がハイブリダイゼーションを妨げない限り、ホスホジエステル結合以外の結合によって連結することができる。したがってプローブは、構成塩基が、ホスホジエステル結合ではなくペプチド結合によって連結されたペプチド核酸であってもよい。
【0079】
ハイブリダイゼーション反応を行うための手引きは、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見出すことができ、その関連する教示は全体として参照により本明細書に組み入れられる。特異的ハイブリダイゼーションをもたらす適切なハイブリダイゼーション条件は、相同性の領域の長さ、該領域のGC含量、およびハイブリッドの融解温度(「Tm」)によって変わる。したがってハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション溶液および洗浄液の塩含有量、酸性度、および温度の点で異なり得る。少数のミスマッチを含むプローブ核酸と標的核酸との間の相補的ハイブリダイゼーションは、標的核酸の望ましい検出を達成するためにハイブリダイゼーション媒体のストリンジェンシーを下げることによって、適応させることができる。好ましい態様において、本発明のキット中の核酸プローブは、高ストリンジェンシーの条件下で、CNS遺伝子のRNA(例えば、mRNA)転写産物にハイブリダイズし得る。
【0080】
別の態様において、キットは、CNS遺伝子のRNA転写産物または対応するcDNAに特異的にハイブリダイズし得る対のオリゴヌクレオチドプライマーを含む。そのようなプライマーを、任意の標準的な核酸増幅手順(例えばポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、例えばRT-PCR、定量的リアルタイムPCR)において用いて、試料中のRNA転写産物のレベルを測定することができる。本明細書で用いる場合、「プライマー」という用語は、鋳型ポリヌクレオチド配列に相補的であり、プライマー伸長産物の合成開始点として作用し得るオリゴヌクレオチドを指す。1つの態様において、プライマーはポリヌクレオチド配列のセンス鎖に相補的であり、順方向の伸長産物の合成開始点として作用する。別の態様において、プライマーはポリヌクレオチド配列のアンチセンス鎖に相補的であり、逆方向の伸長産物の合成開始点として作用する。プライマーは、精製された制限消化物中に見られるような天然のものであってもよいし、合成によって作製されてもよい。プライマーの適切な長さは、該プライマーの目的とする用途に依存するが、典型的には約5〜約200;約5〜約100;約5〜約75;約5〜50;約10〜約35;約18〜約22ヌクレオチドの範囲である。プライマーは鋳型の正確な配列を反映する必要はないが、プライマー伸長が起こるように、鋳型とハイブリダイズするのに十分に相補的でなければならない。すなわちプライマーは、プライマー伸長を可能にする条件下で該プライマーが鋳型にアニールするように、鋳型のポリヌクレオチド配列に十分に相補的である。
【0081】
別の態様において、本発明のキットは、本明細書に記載するCNSの遺伝子によってコードされるタンパク質と特異的に結合する抗体を含む。そのような抗体プローブは、とりわけ、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、張り合わせ抗体、または一本鎖抗体、および抗体の断片(例えば、Fv、Fc、Fd、Fab、Fab'、F(ab')、scFv、scFab、dAb)であってよい。(例えば、Harlow et al., Antibodies A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照されたい)。本明細書に記載するCNSの遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体は、従来の方法または他の適切な技法によって産生させる、構築する、改変する、および/または単離することができる(例えば、Kohler et al., Nature, 256: 495-497 (1975)、およびEur. J. Immunol. 6: 511-519 (1976);Milstein et al., Nature 266: 550-552 (1977);Koprowski et al.、米国特許第4,172,124号;Harlow, E. and D. Lane, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory: Cold Spring Harbor, NY); Current Protocols In Molecular Biology, Vol. 2 (Supplement 27, Summer '94), Ausubel, F.M. et al., Eds., (John Wiley & Sons: New York, NY), Chapter 11, (1991);Chuntharapai et al. , J. Immunol., 152:1783-1789 (1994);Chuntharapai et al. 米国特許第5,440, 021号を参照されたい)。必要な特異性の抗体を産生させるまたは単離するその他の適切な方法も用いることができ、これには例えば、ライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリー)から組換え抗体もしくは抗体結合断片(例えば、dAb)を選択する方法、またはトランスジェニック動物(例えば、マウス)の免疫化に依存する方法が含まれる。ヒト抗体のレパートリーを産生し得るトランスジェニック動物は当技術分野で周知であり(例えば、Xenomouse(登録商標)(Abgenix, Fremont, CA))、適切な方法を用いて作製することができる(例えば、Jakobovits et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 2551-2555 (1993);Jakobovits et al. , Nature, 362: 255-258 (1993);Lonberg et al.、米国特許第5,545,806号;Surani et al.、米国特許第5,545,807号;Lonberg et al.、WO 97/13852を参照されたい)。
【0082】
本明細書に記載するCNS遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的な抗体が産生されたならば、当技術分野で周知である特異的抗体をスクリーニングおよび単離する方法を用いて、これを容易に同定することができる。例えば、Paul (ed.), Fundamental Immunology, Raven Press, 1993;Getzoff et al., Adv. in Immunol. 43:1-98, 1988;Goding (ed.), Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press Ltd., 1996;Benjamin et al., Ann. Rev. Immunol. 2:67-101, 1984を参照されたい。様々なアッセイ法を利用して、本明細書に記載するCNS遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体を検出することができる。例示的なアッセイ法は、Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane (Eds.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988に詳述されている。そのようなアッセイ法の代表例には、同時免疫電気泳動法、放射免疫測定法、放射性免疫沈降法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ドットブロットまたはウェスタンブロットアッセイ法、阻害または競合アッセイ法、およびサンドイッチアッセイ法が含まれる。
【0083】
本発明の診断用キットおよび予後予測用キット中のプローブは、1種または複数種の標識(例えば、検出可能な標識)に結合させることができる。診断用プローブに適した数多くの標識が当技術分野で公知であり、本明細書に記載する標識のいずれかを含む。本発明の方法において用いるのに適した検出可能な標識には、発色団、フルオロフォア、ハプテン、放射性核種(例えば、3H、125I、131I、32P、33P、35S、14C、51Cr、36Cl、57Co、58Co、59Fe、および75Se)、蛍光消光剤、酵素、酵素基質、アフィニティータグ(例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン等)、質量タグ、電気泳動タグ、および抗体によって認識されるエピトープタグ(例えば、ジゴキシゲニン(DIG)、赤血球凝集素(HA)、myc、FLAG)が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の態様において、標識は、核酸プローブのピリミジン塩基の5位の炭素上に、またはプリン塩基の3デアザ位の炭素上に存在する。
【0084】
特定の態様において、プローブに結合させる標識はフルオロフォアである。適切なフルオロフォアは、これらに限定されないが、Alexa Fluor色素(Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660、およびAlexa Fluor 680)、AMCA、AMCA-S、BODIPY色素(BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BODIPY TR、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665)、CAL色素、カルボキシローダミン6G、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、カスケードブルー、カスケードイエロー、シアニン色素(Cy3、Cy5、Cy3.5、Cy5.5)、ダンシル、ダポキシル、ジアルキルアミノクマリン、4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシ-フルオレセイン、DM-NERF、エオシン、エリスロシン、フルオレセイン、カルボキシ-フルオレセイン(FAM)、ヒドロキシクマリン、IRD色素(IRD40、IRD 700、IRD 800)、JOE、リサミンローダミンB、マリンブルー、メトキシクマリン、ナフトフルオレセイン、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、オイスター色素、パシフィックブルー、PyMPO、ピレン、ローダミン6G、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ロードルグリーン、2',4',5',7'-テトラ-ブロモスルホン-フルオレセイン、テトラメチル-ローダミン(TMR)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、テキサスレッド、およびテキサスレッド-Xを含む蛍光色素として提供され得る。
【0085】
152Euなどの蛍光発光金属または他のランタニド系列のものを用いて、プローブを標識することもできる。これらの金属は、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、テトラアザ-シクロドデカン-四酢酸(DOTA)、またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属キレート基を用いて、抗体分子に付着させることができる。
【0086】
上記の様々な検出可能な部分に加えて、本発明のキット中のプローブはまた、スペクトルにより分離可能な量子ドット、金属ナノ粒子またはナノクラスター等などのその他の型の標識に結合させることもでき、これらは核酸プローブに直接付着させてよい。上記のように、検出可能な部分は、それ自体が直接検出可能である必要はない。例えば、これらは検出される基質に対して作用するものであってもよいし、検出可能となるために修飾を必要とするものであってもよい。
【0087】
インビボ検出のために、直接、または中間官能基を用いることによって、プローブを放射性核種に結合させてもよい。金属カチオンとして存在する放射性同位体を抗体に結合させるために用いられることの多い中間基は、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)またはテトラアザ-シクロドデカン-四酢酸(DOTA)である。このようにして結合させる金属性カチオンの典型的な例は、99Tc 123I、111In、131I、97Ru、67Cu、67Ga、および68Gaである。
【0088】
さらに、常磁性原子を含むNMR造影剤でプローブをタグ化してもよい。NMR造影剤の使用により、NMR技法を用いて、患者における癌の存在および程度のインビボ診断が可能になる。この様式において特に有用な元素は、157Gd、55Mn、162Dy、52Cr、および56Feである。
【0089】
標識プローブの検出は、例えば検出可能な標識が放射性γ放出体である場合には、シンチレーションカウンターによって、または例えば標識が蛍光物質である場合には、蛍光光度計によって達成することができる。酵素標識の場合、検出は、酵素の基質を使用する比色法によって達成することができる。基質の酵素反応の程度を同様に調製した標準と目視比較することによって、検出を達成してもよい。
【0090】
癌の遺伝子発現プロファイルを決定する方法
別の態様において、本発明は、癌の遺伝子発現プロファイルを決定する方法に関する。本方法は、同一個体に由来する癌性試料および非癌性試料(例えば、組織試料)の両方における遺伝子の発現を検出する段階を含む(以下の実施例1を参照されたい)。特定の態様において、同一個体に由来する癌性試料および非癌性試料は、隣接しているかまたは対を成す試料(例えば、隣接しているかまたは対を成す肝細胞癌組織試料および正常肝組織試料)である。試料中の遺伝子の発現は、本明細書に記載する任意の適切な遺伝子発現検出法を用いて検出することができる。さらに、2つの試料(例えば、隣接しているかまたは対を成す癌組織試料および正常組織試料)間の遺伝子発現レベルの差を判定するのに適した方法は、当業者に公知であり、これには例えば本明細書に記載する方法が含まれる。本発明に従って、癌性試料と非癌性試料との間で差次的に発現すると同定される遺伝子を、癌の遺伝子発現プロファイル中に含める。
【0091】
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
【実施例】
【0092】
実施例
実施例1:対を成すHCC組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示す遺伝子の同定
材料および方法
組織試料
治療目的でヒト患者から外科的に切除した新鮮標本から、HCCおよび隣接非腫瘍性肝臓の組織を回収した。これらの標本は、担当病理学者の直接の管理下で回収された。回収された組織は、Tumor Bank of the Koo Foundation Sun Yat-Sen Cancer Center(KF-SYSCC)において、直ちに液体窒素中に保存した。HCC患者18名に由来する対を成す組織試料を、研究のために利用することができた。本研究は施設内審査委員会によって承認され、患者全員から書面によるインフォームドコンセントが得られた。本研究によるHCC患者18名の臨床的特徴を表2にまとめる。
【0093】
(表2)対を成すHCC組織試料および隣接非腫瘍性肝組織試料が回収されたHCC患者18名の臨床データ

【0094】
mRNA転写産物プロファイリング
Trizol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、液体窒素中に凍結した組織から全RNAを単離した。単離したRNAをRNAEasy Miniキット(Qiagenm Valancia, CA)を用いてさらに精製し、Agilent 2100 BioanalyzerにおいてRNA 6000 Nanoアッセイ(Agilent Technologies, Waldbronn, Germany)を用いて、その質を評価した。本研究に用いたRNA試料はすべて、5.7を超えるRNA完全性数(RIN)(8.2±1.0、平均値±SD)を有していた。Affymetrixプロトコールに従って、全RNA 8μgからハイブリダイゼーション標的を調製し、およそ13,000種のヒト遺伝子に関する22,238種のプローブセットを含むAffymetrix U133A GeneChipにハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後直ちに、Affymetrix GeneChip流体ステーション400およびEukGE WS2v4プロトコールを用いて、ハイブリダイズさせたアレイをを自動洗浄および染色に供した。その後、U133A GeneChipをAffymetrix GeneArrayスキャナー2500でスキャンした。
【0095】
マイクロアレイデータのプレゼントコールおよびアブセントコールの判定
Affymetrix Microarray Analysis Suite(MAS) 5.0ソフトウェアを用いて、全18対のHCC組織および隣接非腫瘍肝組織のマイクロアレイデータの存在コールを作成した。存在コール判定のパラメータはすべて、初期設定値であった。各プローブセットを、MAS 5.0により「プレゼント」、「アブセント」、または「マージナル」と判定した。同様に、dChipバージョン2004ソフトウェアを用いて同じマイクロアレイデータを処理して、マイクロアレイ上の各プローブセットについて「プレゼント」、「アブセント」、または「マージナル」を判定した。
【0096】
有意な差次的発現を有するプローブセットの同定
HCC組織と隣接非腫瘍肝組織との間で有意な差次的発現(すなわち、一方の試料(例えば、HCC試料)においては強力であるが、隣接試料(例えば、正常肝臓試料)においてはアブセントまたはマージナルである遺伝子発現)を有する遺伝子を同定するために、抽出および出力を行う言語(Practical Extraction and Report Language:PERL)を用いて記載されたソフトウェアを以下の規則に従って用いた:「腫瘍特異的遺伝子」を、MAS 5.0およびdChipの両方によって、HCCにおいては「プレゼント」とコールされ、かつ隣接非腫瘍肝組織においては「アブセント」または「マージナル」とコールされたプローブセットと定義した。「非腫瘍肝組織特異的遺伝子」を、MAS 5.0およびdChipの両方によって、HCCにおいては「アブセント」または「マージナル」とコールされ、かつ対を成す隣接非腫瘍肝組織においては「プレゼント」とコールされたプローブセットと定義した。同定アルゴリズムを表すフローチャート図を図1に示す。
【0097】
マイクロアレイデータセット
18対のHCC組織および隣接非腫瘍性肝組織から収集したマイクロアレイデータに加えて、同様の方法で回収したHCC組織試料82例および上咽頭癌(NPC)組織試料168例から、さらなるマイクロアレイデータを得た。様々な正常組織および腫瘍組織に関するSCIANTIS(商標) System Pro商用マイクロアレイデータベース(Gene Logic Inc., Gaithersburg, MD)を、検証目的に使用した。商用SCIANTIS(商標)遺伝子発現データセットは、Affymetrix HG-U133 A Genechip技術に基づく。所与のタイプの癌組織または正常組織に関して、各プローブセットの発現強度は、MAS 5.0によって各マイクロアレイの遺伝子発現データを包括的トリム平均が100となるように正規化した後に、コホートの平均シグナル強度+標準偏差として提供された。加えて、公的情報源によるマイクロアレイデータセットもまた、これらの研究に使用した(表3)。
【0098】
(表3)公有マイクロアレイデータセットの情報源

*:Gene Expression Omnibus(GEO)アクセッション名
【0099】
階層的クラスタリング解析
Cluster(バージョン2.11)ソフトウェアを用いることにより、一元配置または二元配置の階層的クラスタリング解析を行い、TreeView(バージョン1.60)ソフトウェアで結果を可視化したが、これらはいずれもLawrence Berkeley National LabおよびDepartment of Molecular and Cellular Biology, Univerisity of California at BerkeleyのMichael B. Eisen, Ph.D.の研究室によって公的使用のために提供されているものである。
【0100】
癌を正常組織と区別するためのプローブセット/遺伝子の選択
癌性組織を非癌性組織と区別し得るプローブセットを選択するのに最適なストリンジェンシーを決定するために、対を成すHCCと隣接非腫瘍性肝組織との間の高度差次的発現のプローブセットを、1〜16の異なる選択ストリンジェンシーにおいて同定した。ストリンジェンシー17ではプローブセットが1種、およびストリンジェンシー18ではプローブセット0種しか存在しないという理由で、ストリンジェンシー17または18は考慮しなかった。これらのプローブセットを、SCIANTIS(商標) System Proマイクロアレイデータベースにおいて利用可能な様々な正常組織および腫瘍組織の遺伝子発現データに適用した。異なるサブタイプのヒト原発癌およびそれらに対応する正常組織のデータセットは、該セットが正常コホートおよび罹患コホートの両方について最低でも8つの試料を含む場合に限り、さらなる統計比較のために選択した。これらの基準を満たす全部で20例の異なるサブタイプの癌および対応する正常組織のデータセットが同定された。SCIANTIS(商標) System Proデータベースにおいて提供されるデータに従って、あるタイプの癌と正常対応物との間で発現の統計的有意差(ウェルチのt検定によってp<0.05)を示した全プローブセット(n=22,283)中の割合(q)、および高度に差次的に発現したプローブセットの数(k)を、異なる選択ストリンジェンシーについて決定した。次に、特定のタイプの癌とこれに対応する正常組織との間で発現の有意差を示す、SCIANTIS(商標)System Proデータベースによる、ランダムに選択されたプローブセットの密度分布[二項式(k、q)]を決定した。ランダムに選択されたプローブセットに基づいて得られた密度分布曲線を用いて、癌をこれと対応する正常組織と区別するためのk個のプローブセットの統計的有意性を判定した。図2は、41種(k)のプローブセットを用いて構築されたそのような密度分布の例を示し、この場合、全プローブセットの52.1%(q)が、SCIANTIS(商標) System Proにより浸潤性乳管癌と正常乳房組織との間で発現の統計的有意差を示す。この例において、HCC組織と隣接正常組織との比較によって同定された41種の非ランダムプローブセットのうち34種が、SCIANTIS(商標) System Proデータベースによるデータに基づき、浸潤性乳管癌と正常乳房組織との間で発現の統計的有意差を示すと仮定すると、ランダムに選択された遺伝子41種のうち、乳癌組織と正常乳房組織との間で統計的に有意な差次的発現を示すものが34種を超える確率は非常に低い(p=8.27×10-6)。このアプローチを用いて、対を成すHCCおよび非腫瘍性肝組織の研究から、異なるストリンジェンシーにおいて選択されたプローブセットについて、ランダムに選択されたプローブセットを用いて比較した際の異なるタイプの癌組織と正常組織を区別する場合のp値を決定した。全20例の異なるタイプの癌のp値を図3にまとめる。p値「0」は、p値が1×10-16未満であることを意味する。
【0101】
普遍的新生物サイン遺伝子の検証
本研究用にSCIANTIS(商標) System Pro市販マイクロアレイデータベースより選択された20例のサブタイプの癌のそれぞれに対して、U133A遺伝子チップ上で利用できる全22,238種のヒトプローブセットについて、正常群と悪性群との間の不等分散を仮定した2標本ウェルチt検定を行った。関連するt統計量およびp値を算出し、これを用いて、ランダムに選択された任意の75種のプローブセットが、本研究において同定された75種の普遍的サインプローブセットよりも小さなp値を与える可能性を評価するための分布曲線を構築した。そのために、ランダムに選択された75種のプローブセットの10,000件のリストを作成し、各リストを、20例の異なるサブタイプの癌のそれぞれに適用した。20例のサブタイプの癌に対する各ランダムリストに関連した1,500のp値を並び替え、それらの順位に対してプロットした。t統計量から作成されたt値の階層的クラスタリング解析もまた、検証目的に使用した。75種のプローブセット、ならびに20例の異なるサブタイプの癌組織およびそれらの正常組織を用いた2つの解析を行った。本研究において普遍的新生物サインとして同定された75種のプローブセットを、20例のサブタイプの癌および正常組織に関して評価した。1500のt値が得られた。階層的クラスタリング解析によって、1500のt値をさらに解析した(図23A)。この解析を、同じ20例の異なるサブタイプの癌および正常組織に対する、ランダムに選択された75種のプローブセットについて繰り返した(図23B)。
【0102】
統計解析
SASソフトウェア(バージョン9.1.3)を用いて、カイ二乗検定、フィッシャーの直接確率検定、t検定、および生存期間解析(ログランク検定およびウィルコクソン検定)を含む統計解析を行った。
【0103】
リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)
TaqMan(商標)リアルタイム定量的逆転写-PCR(qRT-PCR)を用いて、mRNAを定量した。Invitrogen(Carlsbad, CA)によるオリゴ(dT)プライマー1500 ngおよびSuperScript(商標) II逆転写酵素600単位を用いて、製造元の説明書に基づき、最終量60μl中で、各試料について全RNA 8μgからcDNAを合成した。各RT-PCR反応には、製造元の説明書(ABIおよびRoche)に従って、最終量25μl中にcDNA 0.5μlを鋳型として用いた。Applied Biosystems 7900HT Real-Time PCRシステムを用いて、PCR反応を行った。実験に必要なプローブおよび試薬は、Applied Biosystems(ABI)(Foster City, CA)から入手した。リアルタイム定量的RT-PCRに用いたプライマーおよびプローブの配列を表4に記載する。ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)ハウスキーピング遺伝子を、正規化のための内部参照として用いた。試料はすべて、同じ標的mRNAおよび内部参照HPRT mRNAに関して、同じPCRプレート上で2つ組で行った。標的mRNAの相対量を、製造元の説明書(User Bulletin #2, ABI Prism 7700 Sequence Detection System)に従って、比較Ct法により算出した。非腫瘍性肝臓試料を、算出のための比較較正物質として選択した。
【0104】
(表4)リアルタイム定量的RT-PCRに用いたプライマーおよびプローブの配列






【0105】
結果
肝細胞癌組織において特異的に発現する腫瘍特異的遺伝子を同定するため、上記した通りに、18対のHCC組織試料および隣接非腫瘍性肝組織試料について遺伝子発現プロファイルを作成した。このプロファイルが強力な発現を有する遺伝子を含むことを確実にするため、MAS 5.0およびdChipソフトウェアの両方によって有意な差次的発現を示す遺伝子のみを選択した。異なる選択ストリンジェンシーを用いた場合に、18対の試料の中で、肝細胞癌組織と隣接非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示す遺伝子に対応するプローブセットの数を表5に示す。ストリンジェンシーを緩和するにつれて(すなわち、全18例の試料対において、HCC組織と正常組織との間で差次的に発現する遺伝子(高選択ストリンジェンシー18)から、18例の試料対のうち1例において、HCC組織と正常組織との間で差次的に発現する遺伝子(低選択ストリンジェンシー1)まで)、有意な差次的発現を示すプローブセットの数は増加した。
【0106】
(表5)異なるストリンジェンシーにおいて高度に差次的に発現した遺伝子の数

*:選択ストリンジェンシーは13ページ16〜24行目に定義する。
【0107】
癌性組織を非癌性組織と区別し得るプローブセットを選択するのに最適なストリンジェンシーを決定するために、異なる選択ストリンジェンシーを、SCIANTIS(商標) System Proマイクロアレイデータベースにおいて利用可能な様々な正常組織および腫瘍組織の遺伝子発現データセットに適用した。異なるサブタイプのヒト原発癌およびそれらに対応する正常組織のデータセットは、該セットが正常コホートおよび罹患コホートの両方について最低でも8つの試料を含む場合に選択した。これらの基準を満たす全部で20例の異なるサブタイプの癌および対応する正常組織のデータセットが同定された(表6)。
【0108】
(表6)本研究において用いた20例の異なるタイプの癌組織および対応する正常組織のSCIANTIS(商標) System Proデータベースにおける試料数

【0109】
SCIANTIS(商標) System Proデータベースにおいて提供されるデータに従って、あるタイプの癌と正常対応物との間で発現の統計的有意差(ウェルチのt検定によってp<0.05)を示した全プローブセット(n=22,283)中の割合(q)、および高度に差次的に発現したプローブセットの数(k)を、表5に示した18の異なる選択ストリンジェンシーにおいて決定した。18対のうち12対というストリンジェンシーでは、20例の異なる癌サブタイプのうち19例に関して、p値<0.005で、異なる癌組織をそれらそれぞれの正常組織と区別し得る75種のプローブセットが選択されたことが、この系統的な統計解析から明らかになった(図3)。このストリンジェンシーにおいて選択された75種のプローブセットは、HCC組織において特異的に発現する59種のプローブセット、および非腫瘍性肝組織において特異的に発現する16種のプローブセットを含んでいた。4種の遺伝子‐Top2A、CCHCR1、CDC2、およびHMMR‐はそれぞれ2種類のプローブセットによって表されるため、75種のプローブセットは全部で71種の異なる遺伝子を表していた。これらの71種の遺伝子およびそれらの機能を図4および5に記載する。
【0110】
75種のプローブセットによって表される遺伝子の発現強度を、HCC組織および隣接非腫瘍性肝組織から得られたマイクロアレイデータにおいて比較した。対を成すHCC組織試料と隣接非腫瘍性肝組織試料との間で、これらの遺伝子の発現強度はほとんど重複していなかった(図6〜10)。
【0111】
本研究で用いた18例の対を成すHCC試料がこのタイプの癌を十分に代表することを確認するために、82例の付加的なHCC試料において、対を成す隣接非腫瘍性肝組織の非存在下で、75種のプローブセットの遺伝子発現強度を評価した。図6〜10に示したように、75種のプローブセットの遺伝子発現強度は、18例の対を成すHCC試料と82例の対を成さないHCC試料との間で同程度であった。対を成すHCC試料と付加的な対を成さない試料との統計比較から、75種のプローブセットにおいて遺伝子のいずれの発現にも有意差がないこと、および75種のプローブセットのそれぞれについて両群とも同様の平均発現強度を示すことが示された(図11)。
【0112】
これらの75種のプローブセットが、HCC組織と非腫瘍性肝組織との間で有意な差次的発現を示す遺伝子を表したという知見を検証するために、本研究において用いた18例の対を成すHCC組織および非腫瘍性肝組織に由来するRNA試料について、一連のリアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-qPCR)実験を行った。利用可能なRNA試料は、CNS中に表される遺伝子のうち39種を調べるのに十分であった。39種の遺伝子はすべて、信頼性のあるRT-qPCR研究のための、イントロンを越えた適切な3'末端DNA配列を有していた。結果である図12〜14から、マイクロアレイ研究の結果と一致して、これらの39種の遺伝子が高度に差次的に発現することが確認された(図6〜10)。
【0113】
実施例2:癌組織と正常組織との間で有意な差次的発現を示す遺伝子の機能特性
材料および方法
Karlsruhe Institute of TechnologyのBioinformatic HarvesterデータベースおよびIngenuity Pathway Analysisデータベース(Ingenuity(登録商標) Systems)を用いて、実施例1に記載した75種のプローブセットによって表される有意な差次的発現遺伝子の機能注釈を得た。
【0114】
結果
Bioinformatic Harvesterデータベースでは、59種の腫瘍特異的プローブセットによって表される55種の遺伝子が、以下の生物学的機能を有すると指定された:細胞周期/増殖(27種の遺伝子)、遺伝子の転写/発現の調節(9種の遺伝子)、細胞分化(2種の遺伝子)、血管新生(3種の遺伝子)、シグナル伝達(2種の遺伝子)、アポトーシス(2種の遺伝子)、その他(5種の遺伝子)、または未知機能(5種の遺伝子)(図4)。
【0115】
これら55種の遺伝子のうち、47種がIngenuity Pathway Analysisデータベース中に存在することが判明し、32種は細胞周期に、14種は遺伝子発現の調節に、および1種は脂質代謝に関与すると指定された(図15)。細胞周期に関与する32種の遺伝子の中で、17種は癌に関連し、15種はDNAの複製、修復、および/または組換えに関連していた(図15)。Ingenuity解析の結果から、このデータベース中の47種の差次的発現遺伝子は、細胞周期およびDNA複製/修復機能に関連する遺伝子(右側フィッシャーの直接確率検定を用いてp値10-10)、ならびに細胞運動、細胞増殖、および癌に関連する遺伝子に関して高度に濃縮されたことが明らかになった(図16)。
【0116】
非腫瘍性正常肝組織において特異的発現を示した16種のプローブセットは、免疫応答(3種の遺伝子)、糖結合(2種の遺伝子)、薬物代謝(2種の遺伝子)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの結合(1種の遺伝子)、筋収縮/消化(1種の遺伝子)、炭水化物代謝(1種の遺伝子)、脂質/コレステロール代謝(1種の遺伝子)、カリウムイオン輸送(1種の遺伝子)、スカベンジャー受容体活性(1種の遺伝子)、細胞運動性(1種の遺伝子)、細胞周期(1種の遺伝子)、および細胞接着(1種の遺伝子)に関連する機能を含む、様々な機能を有する遺伝子を含むと判定された(図5)。
【0117】
実施例3:新生物組織と正常組織を区別し得る有意な差次的発現を示す遺伝子
材料および方法
実施例1に記載した通りに、階層的クラスタリング解析を行った。
【0118】
結果
実施例1において同定された75種のプローブセットによって表される遺伝子の大半(55種)は腫瘍特異的であり、いずれも新生物の特徴である細胞周期および/または細胞増殖に関与すると同定された(図4、5、および15)。これらの75種のプローブセットが異なるタイプの癌を正常組織と区別することができるかどうかを判定するために、肝細胞癌、上咽頭癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、および結腸癌を含む6例の異なるタイプの主要な癌、ならびにそれらの対応する正常組織からの遺伝子発現プロファイリングデータにおいて、階層的クラスタリング解析を行った。結果から、75種のプローブセットは、本研究において評価した6例すべてのタイプの癌に関して、新生物組織を対応する非新生物正常組織と容易に区別することが示された(図17〜22)。
【0119】
この知見を確認するために、本研究用に選択した20例の異なるサブタイプの癌に関するSCIANTIS(商標)System Proデータベース中のデータセットを用いて、75種のプローブセットのそれぞれについて、癌組織と正常組織における遺伝子発現の統計比較を行った。具体的には、20例すべてのタイプの癌に対して、各遺伝子について2標本ウェルチのt検定を行った。次に、これらの比較から得られたt値を用いて、階層的クラスタリング解析を行った(図23A、B)。すべての腫瘍特異的プローブセットについて高い正のt値が算出されたのに対し、すべての正常組織特異的プローブセットについて負のt値が算出された。
【0120】
任意の所与の癌に関して、腫瘍組織と正常組織との間で有意な差次的発現を示す多数の遺伝子が予測される。この予測と一致して、データセット中のプローブセット(n=22,283)の52%が、浸潤性乳管癌と正常乳房組織との間で遺伝子発現の統計的有意差(すなわち、p値<0.05)を示した。したがって、任意の遺伝子群をランダムに選択することは、腫瘍組織と正常組織との間で差次的に発現するいくつかの遺伝子を含める可能性が高い。そのため、対を成すHCC組織試料と隣接非腫瘍性組織試料との間で差次的に発現すると同定されたプローブセットが、任意にランダムに選択された75種のプローブセットよりも数の上で有意に多いことを保証することが重要である。
【0121】
したがって、75種のプローブセットをランダムに10,000回選択する対照研究を行った。実施例1に記載したように、本研究のために選択した20例の異なるサブタイプの癌組織および対応する正常組織のSCIANTIS(商標)遺伝子発現データセットを用いて、癌組織と正常組織における遺伝子発現強度を、ランダムに選択されたプローブセットにおいて表される各遺伝子について比較した。結果から、本発明者らの研究においてHCC組織とこれに対応する正常組織との間で差次的に発現すると同定された75種のプローブセットによって表される遺伝子は、ランダムに選択された75種のプローブセットの中で、HCC組織とこれに対応する正常組織との間で差次的に発現したものの数を有意に上回ることが実証された(図24)。
【0122】
これらの結果によって、本研究(実施例1を参照されたい)において同定された75種のプローブセットによって表される遺伝子が共通新生物サイン(CNS)を構成し、かつこれらの遺伝子およびそれらの産物(例えば、タンパク質、ペプチド、mRNA)の発現を癌の普遍的マーカーとして用いることができるという結論が支持される。
【0123】
実施例4:75種のプローブセットの発現と細胞増殖との相関関係
材料および方法
階層的クラスタリング
実施例1に記載した通りに、階層的クラスタリング解析を行った。
【0124】
統計解析
SASソフトウェア(バージョン9.1.3)を用いて、カイ二乗検定、フィッシャーの直接確率検定、t検定、および生存期間解析(ログランク検定およびウィルコクソン検定)を含む統計解析を行った。共通新生物サイン中の各腫瘍特異的遺伝子の発現が、時間依存的な全生存率または無遠隔転移生存率といかに相関するかを評価するために、HCC、NPC、または乳癌のデータセットに対してS-plusソフトウェア(バージョン6)を用いて、比例ハザードモデルに基づくコックス回帰分析を行った。
【0125】
結果
共通新生物サイン中の遺伝子の発現が細胞増殖と関連しているのであれば、高い増殖活性を有する異なるタイプの正常な組織および器官において、これらの遺伝子の発現が上昇していることが、階層的クラスター解析から明らかになるはずである。階層的クラスタリング解析のヒートマップから、骨髄(造血器官)、胸腺、子宮、および精巣を含む高度に増殖性の正常な組織および器官において、59種の腫瘍特異的プローブセットによって表される遺伝子の発現が上昇していることが明らかになった(図25)。増殖が休止状態であることが知られている中枢神経系由来の器官および組織は、大部分の腫瘍特異的プローブセットの有意な発現低下を示した(図25)。
【0126】
これらの結果に基づき、59種の腫瘍特異的プローブセット遺伝子の発現がはるかに高い癌は、増殖性がより高く、患者のより大きな腫瘍サイズおよび/またはより進行したTNM病期と相関すると仮定された。この仮説を試験するため、乳癌(n=295)、HCC(n=100)、および上咽頭癌(n=260)において階層的クラスター解析を行った。その理由は、腫瘍サイズおよびTNM病期に関するデータが、これらのタイプの癌で利用できたからである。75種のプローブセットの遺伝子発現に従って、それぞれのタイプの癌を2群に分類した(図26〜28)。一方の群は55種の腫瘍特異的プローブセット遺伝子の高発現を有し、他方の群は低発現を有した(図26〜28)。次に、それぞれのタイプの癌の2群を、腫瘍サイズまたはTNM病期と関連づけた。結果から、59種の腫瘍特異的プローブセットの発現増加が、巨大なHCC腫瘍(腫瘍の直径≧10 cm対≦10 cmの結節型)(p=0.009)、大きな乳癌腫瘍(直径>2cm対≦2 cm)(p=0.0005)、および上咽頭癌のより進行したTNM病期(病期III+IV対病期I+II)(p=0.027)と相関することが示された(表7)。これらすべての知見によって、共通新生物サイン中の59種の腫瘍特異的プローブセットの発現は、新生物組織および正常組織の両方の細胞増殖活性を反映するという結論が支持される。
【0127】
(表7)フィッシャーの直接確率検定による、HCC、NPC、および乳癌の階層的クラスターと異なる臨床パラメータとの相関関係

【0128】
実施例5:生存率と相関する共通新生物サイン遺伝子の発現
材料および方法
階層的クラスタリング
実施例1に記載した通りに、階層的クラスタリング解析を行った。
【0129】
統計解析
実施例4に記載した通りに、統計解析を行った。
【0130】
結果
59種の腫瘍特異的プローブセットによって表される55種の遺伝子の発現増加、および16種の正常組織特異的プローブセットによって表される16種の遺伝子の発現低下を示す腫瘍が、他の腫瘍と比較して生存転帰不良と関連しているかどうかを判定するために、実施例4に記載したのと同じHCC、乳癌、および上咽頭癌の試料を、無遠隔転移生存率および全生存率に関して階層的クラスタリング解析によって分類した(図26〜28)。この解析の結果から、59種の腫瘍特異的プローブセットの発現が増加していたHCC患者および乳癌患者では、それぞれp値0.037および6.9×10-8を有して、全生存率が有意に減少したことが示された(図29および30)。59種の腫瘍特異的プローブセットの発現が増加していた上咽頭癌患者および乳癌患者は、それぞれログランク検定p値0.0038および1.1×10-5を有して、より短い無遠隔転移生存率を示した(図30および31)。これらの結果から、75種のプローブセット遺伝子サイン、そして中でも59種の腫瘍特異的プローブセットが、異なるサブタイプの癌の予後予測価値を有することが示される。
【0131】
特に、肝細胞癌組織と非腫瘍性肝組織との遺伝子発現差によって同定されたこれら75種のプローブセットによって表される遺伝子の発現を用いて、異なる非Affymetrixマイクロアレイプラットフォームを用いて作成された乳癌データセットに基づき、生存率および遠隔転移のリスクに従って乳癌を分類することに成功した(図28および30)。このプラットフォームを越えた適用から、これらの遺伝子が臨床的関連性を有する共通新生物サイン遺伝子を表すことがさらに示唆される。
【0132】
実施例6:腫瘍分化度と相関する共通新生物サイン遺伝子の発現
材料および方法
階層的クラスタリング
実施例1に記載した通りに、階層的クラスタリング解析を行った。
【0133】
統計解析
実施例4に記載した通りに、統計解析を行った。
【0134】
結果
臨床転帰が不良である腫瘍は分化が乏しい場合が多いことが周知である。59種の腫瘍特異的プローブセットによって表される55種の遺伝子の発現増加が、腫瘍低分化と関連しているかどうかを判定するために、分化度の異なる成人男性胚細胞腫瘍において階層的クラスタリング解析を行った。結果から、高度に分化した成熟組織を含むことが知られている「奇形腫」は、59種の腫瘍特異的プローブセットの発現低下および16種の正常組織特異的プローブセットの発現増加と共にクラスター化されることが示された(図32)。対照的に、はるかに分化度の低い胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、およびセミノーマは、59種の腫瘍特異的プローブセットの発現増加および16種の正常組織特異的プローブセットの発現低下と共にクラスター化された(図32)。正常精巣組織は、高増殖性の生殖細胞を含むため、分化度の低い胚細胞腫瘍と共にクラスター化された。
【0135】
HCCおよび乳癌の腫瘍の分化度が、実施例1において同定された75種のプローブセットの遺伝子発現強度に従ってクラスター化されるかどうかを判定するために、統計的相関研究を行った(図26および27)。これらの2つのタイプの癌は、腫瘍分化度データが利用できるという理由で選択した。分化度(すなわち、高分化型、中分化型、および低分化型)と腫瘍サブセットとの相関関係のp値は、75種のプローブセットを用いた階層的クラスタリング解析より決定して、HCCおよび乳癌についてそれぞれ0.007および<0.0001であった(表7)。これらの結果から、59種の腫瘍特異的プローブセットの発現増加は腫瘍分化度の低下と関連していることが示される。
【0136】
実施例7:遠隔転移または生存率と関連する遺伝子の同定
実施例5において考察したように、59種のプローブセットによって表される55種の異なる遺伝子は、3つの非常に異なるタイプの癌において生存率および/または遠隔転移と密接に関連していた(図29〜31)。55種の腫瘍特異的遺伝子のうちどれが、これら3つのタイプの癌の生存率および転移に関与するのかを同定するために、55種の遺伝子の発現強度をHCC、NPC、および乳癌の患者の最初の遠隔転移を起こすまでの期間および死亡までの期間と相関させた。これらの3つのタイプの癌のそれぞれにおいて無遠隔転移生存率または全生存率と有意な関連性(p<0.05)を示した遺伝子を、表8Aおよび8Bに記載する。具体的には、PRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、およびRAD54Bの発現増加が、3つの異なるタイプの癌すべてにおいて遠隔転移のリスク増加と関連しており(表8A)、CDC2、CCHCR1、およびHMGA1の発現増加が、3つの異なるタイプの癌すべてにおいて生存期間の短縮と関連していた(表8B)。これらの結果から、これらの特定の遺伝子が、様々な異なる癌において、遠隔転移および/または生存率の決定において中心的な役割を果たし、遠隔転移の制御および/または生存率の改善の治療標的として役立ち得ることが示唆される。したがって、上記の遺伝子の産物および機能的経路もまた、癌の増殖および転移を制御する新規薬物を開発するための標的として役立ち得る。
【0137】
(表8A)肝細胞癌(HCC)、上咽頭癌(NPC)、および乳癌(BRC)において無遠隔転移生存率と関連する遺伝子

【0138】
(表8B)肝細胞癌(HCC)、上咽頭癌(NPC)、および乳癌(BRC)において全生存率と関連する遺伝子

HCC:肝細胞癌(n=100)
NPC:上咽頭癌(n=168)
BRC:乳癌(n=295)
*:CCHCR1遺伝子およびHMGA1遺伝子は、BRCを調べるために用いたマイクロアレイ中に存在しなかった。
【0139】
本明細書において引用したすべての特許、公開された出願、および参考文献の関連教示は、その全体が参照により組み入れられる。
【0140】
本発明をその態様例を参照して詳細に示し、記載してきたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明において形式および詳細における様々な変更がなされ得ることが当業者によって理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の試料における遺伝子のサブセットの発現のレベルを検出する段階を含む、対象が癌を有するかどうかを診断する方法であって、該サブセット中の遺伝子が:
a) MELK、PLVAP、TOP2A、NEK2、CDKN3、PRC1、ESM1、PTTG1、TTK、CENPF、RDBP、CCHCR1、DEPDC1、TP5313、CCNB2、CAD、CDC2、HMMR、STMN1、HCAP-G、MDK、RAD54B、ASPM、HMGA1、SNRPC、IGF2BP3、SERPINH1、COL4A1、LARP1、LRRC1、FOXM1、CDC20、UBE2M、DNAJC6、FEN1、ASNS、CHEK1、KIF2C、AURKB、NPEPPS、KIF4A、E2F8、EZH2、ZNF193、ILF3、EHMT2、SF3A2、NPAS2、PSME3、INPPL1、BIRC5、SULT1C1、NSUN5B、HN1、およびNUSAP1からなる群より選択され;かつ
b) 該癌において過剰発現し、
対象由来の試料における該サブセットの遺伝子の発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、該対象が該癌を有することが示される、方法。
【請求項2】
サブセットが前記群の少なくとも約20種の遺伝子からなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、直腸癌、皮膚癌、胃癌、および甲状腺癌からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
癌が、肝細胞癌、上咽頭癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、および結腸癌からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
癌が肝細胞癌である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
試料が血液試料である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
対照が非癌性試料である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
非癌性試料が前記対象から得られる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
対照が参照標準である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記サブセット中の遺伝子の発現のレベルが、該遺伝子によってコードされるmRNA分子のレベルを測定することにより前記試料において検出される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
mRNA分子のレベルが逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)を用いて測定される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
癌を有する対象に転移のリスクについての予後予測を提供する方法であって、
a) 対象由来の試料における、PRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、およびRAD54Bからなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出する段階、ならびに
b) 該発現レベルを対照と比較する段階
を含み、対象由来の試料における該1種または複数種の遺伝子の発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、該癌の転移リスク増加という予後が示される、方法。
【請求項14】
対象が、肝細胞癌、上咽頭癌、および乳癌からなる群より選択される癌を有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
転移のリスクが遠隔転移のリスクである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
試料が血液試料である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
対照が非癌性試料である、請求項13記載の方法。
【請求項18】
非癌性試料が前記対象から得られる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
対照が参照標準である、請求項13記載の方法。
【請求項20】
前記1種または複数種の遺伝子の発現のレベルが、該1種または複数種の遺伝子によってコードされるmRNA分子のレベルを測定することにより検出される、請求項13記載の方法。
【請求項21】
mRNA分子のレベルが逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)を用いて測定される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
対象がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項23】
癌を有する対象の生存率についての予後予測を提供する方法であって、
a) 対象由来の試料における、CDC2、CCHCR1、およびHMGA1からなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出する段階、ならびに
b) 該発現レベルを対照と比較する段階
を含み、対象由来の試料における該1種または複数種の遺伝子の発現のレベルが対照と比較して増加していることによって、生存期間の短縮という予後が示される、方法。
【請求項24】
対象が、肝細胞癌、上咽頭癌、および乳癌からなる群より選択される癌を有する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
試料が血液試料である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
対照が非癌性試料である、請求項23記載の方法。
【請求項27】
非癌性試料が前記対象から得られる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
対照が参照標準である、請求項23記載の方法。
【請求項29】
前記1種または複数種の遺伝子の発現のレベルが、該1種または複数種の遺伝子によってコードされるmRNA分子のレベルを測定することにより検出される、請求項23記載の方法。
【請求項30】
mRNA分子のレベルが逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)を用いて測定される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
MELK、PLVAP、TOP2A、NEK2、CDKN3、PRC1、ESM1、PTTG1、TTK、CENPF、RDBP、CCHCR1、DEPDC1、TP5313、CCNB2、CAD、CDC2、HMMR、STMN1、HCAP-G、MDK、RAD54B、ASPM、HMGA1、SNRPC、IGF2BP3、SERPINH1、COL4A1、LARP1、LRRC1、FOXM1、CDC20、UBE2M、DNAJC6、FEN1、ASNS、CHEK1、KIF2C、AURKB、NPEPPS、KIF4A、E2F8、EZH2、ZNF193、ILF3、EHMT2、SF3A2、NPAS2、PSME3、INPPL1、BIRC5、SULT1C1、NSUN5B、HN1、およびNUSAP1からなる群より選択される少なくとも約10種の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを含む、対象が癌を有するかどうかを診断するためのキット。
【請求項32】
プローブが核酸プローブを含む、請求項31記載のキット。
【請求項33】
核酸プローブが前記遺伝子のmRNA転写産物に特異的にハイブリダイズし得る、請求項32記載のキット。
【請求項34】
プローブが、前記遺伝子のタンパク質産物に特異的に結合する抗体プローブを含む、請求項31記載のキット。
【請求項35】
プローブが検出可能な標識を含む、請求項31記載のキット。
【請求項36】
一群のプローブが前記群中の全遺伝子の発現のレベルを検出し得る、請求項31記載のキット。
【請求項37】
PRC1、CENPF、RDBP、CCNB2、およびRAD54Bからなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出し得るプローブを含む、癌を有する対象に該癌の転移のリスクについての予後予測を提供するためのキット。
【請求項38】
プローブが、前記1種または複数種の遺伝子によってコードされるmRNAに特異的にハイブリダイズする核酸プローブである、請求項37記載のキット。
【請求項39】
プローブが、前記1種または複数種の遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体プローブである、請求項37記載のキット。
【請求項40】
プローブが検出可能な標識を含む、請求項37記載のキット。
【請求項41】
CDC2、CCHCR1、およびHMGA1からなる群より選択される1種または複数種の遺伝子の発現のレベルを検出し得るプローブを含む、癌を有する対象の生存率についての予後を判定するためのキット。
【請求項42】
プローブが、前記1種または複数種の遺伝子によってコードされるmRNAに特異的にハイブリダイズする核酸プローブである、請求項41記載のキット。
【請求項43】
プローブが、前記1種または複数種の遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体プローブである、請求項41記載のキット。
【請求項44】
プローブが検出可能な標識を含む、請求項41記載のキット。
【請求項45】
癌の遺伝子発現プロファイルを決定する方法であって、
a) 癌を有する対象由来の癌性試料における遺伝子の発現を検出する段階、
b) 該対象由来の非癌性試料における該遺伝子の発現を検出する段階、
c) 該癌を有する該対象由来の癌性試料と非癌性試料との間で差次的に発現する遺伝子を同定する段階
を含み、それによって該癌の遺伝子発現プロファイルが決定される、方法。
【請求項46】
対象由来の試料における遺伝子のサブセットの発現のレベルを検出する段階を含む、対象が癌を有するかどうかを診断する方法であって、該サブセット中の遺伝子が:
a) NAT2、CD5L、CXCL14、VIPR1、CCL14/15、FCN3、CRHBP、GPD1、KCNN2、HGFAC、FOSB、LCAT、MARCO、CYP1A2、FCN2、およびDPTからなる群より選択され;かつ
b) 該癌において低発現し、
対象由来の試料における該サブセットの遺伝子の発現のレベルが対照と比較して減少していることによって、該対象が該癌を有することが示される、方法。
【請求項47】
癌が、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、直腸癌、皮膚癌、胃癌、および甲状腺癌からなる群より選択される、請求項46記載の方法。
【請求項48】
癌が、肝細胞癌、上咽頭癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、および結腸癌からなる群より選択される、請求項46記載の方法。
【請求項49】
癌が肝細胞癌である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
試料が血液試料である、請求項46記載の方法。
【請求項51】
対照が非癌性試料である、請求項46記載の方法。
【請求項52】
非癌性試料が前記対象から得られる、請求項51記載の方法。
【請求項53】
対照が参照標準である、請求項46記載の方法。
【請求項54】
前記サブセット中の遺伝子の発現のレベルが、該遺伝子によってコードされるmRNA分子のレベルを測定することにより前記試料中で検出される、請求項46記載の方法。
【請求項55】
mRNA分子のレベルが逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)を用いて測定される、請求項54記載の方法。
【請求項56】
対象がヒトである、請求項46記載の方法。
【請求項57】
NAT2、CD5L、CXCL14、VIPR1、CCL14/15、FCN3、CRHBP、GPD1、KCNN2、HGFAC、FOSB、LCAT、MARCO、CYP1A2、FCN2、およびDPTからなる群より選択される少なくとも約5種の遺伝子の発現のレベルを検出し得る一群のプローブを含む、対象が癌を有するかどうかを診断するためのキット。
【請求項58】
プローブが核酸プローブを含む、請求項57記載のキット。
【請求項59】
核酸プローブが前記遺伝子のmRNA転写産物に特異的にハイブリダイズし得る、請求項58記載のキット。
【請求項60】
プローブが、前記遺伝子のタンパク質産物に特異的に結合する抗体プローブを含む、請求項57記載のキット。
【請求項61】
プローブが検出可能な標識を含む、請求項57記載のキット。
【請求項62】
一群のプローブが前記群中の全遺伝子の発現のレベルを検出し得る、請求項57記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図24】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図33A】
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【図33B】
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【公表番号】特表2011−516077(P2011−516077A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503993(P2011−503993)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/002196
【国際公開番号】WO2009/126271
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510250582)チャイナ シンセティック ラバー コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】