説明

癌治療に有効なピラノン誘導体

本発明は、一般式(式中、Xは塩素、臭素又は沃素を表し、R1とR2は各々が互いに独立して水素原子、又は場合によりヒドロキシル、アミノ、エーテル若しくはハロゲン基で置換される1〜20個の炭素原子を含む線状若しくは分枝したアルキル、シクロアルキル若しくはアルキレン基であるか、又はR1とR2は全体で5、6、7又は8員環を形成し、この環は場合により、関係する異性体、エナンチオマー、ジアステレオマーとその混合物を含めヒドロキシル、アミノ、エーテル又はハロゲン基で置換される)のピラノン誘導体に関する。本発明は、それらのピラノン誘導体の調整方法、及び特に癌治療のための治療用途にも関する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般式(I)のピラノン誘導体とその調製法及び特に癌治療への医学的応用を目的とする。本発明はさらに一般式(IV)の中間化合物を目的とする。
【0002】
世界で一千万人が罹患する腫瘍疾患は、心臓血管病に次いで最も死者の多い疾病である。異なる研究分野で近年展開された努力によって、癌治療が大幅に改善された。医用腫瘍学の進歩は大部分が細胞毒性新薬(シスプラチン、タキソイド、イリノテカン、トポテカンなど)が市場に出回ったことによる。現在、放射線治療及び外科に関係があってもなくても、化学療法は多くの癌で優勢な治療となっている。このように、細胞毒性薬を外科手術又は放射線治療の前に投与し、腫瘍の大きさを縮小することができる。細胞毒性薬はまた、この治療に抵抗するすべての癌細胞を除去するために、外科手術あるいは放射線治療後に必要とされることが極めて多い。
【0003】
しかし、新薬の安定的な導入にもかかわらず、癌腫学における化学治療的アプローチは横ばいとなっている。実際、化学療法が西欧社会で最も良く見られる固形腫瘍、即ち乳癌、肺癌、前立腺癌、消化器及び泌尿器腫瘍等に対して苦境に立たされていることを認めざるをえない。化学治療によってしばしば悪性腫瘍の症状を軽減することができるが、治癒させることは稀である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、抗癌剤の薬理学の主たる目的の一つは、最良の治療効果をあげることができる新しい薬剤を絶えず研究することである。抗腫瘍新薬の選定で用いる二つの主たる基準は以下の通りである:
1.化学構造及び作用メカニズムの独創性、
2.実験室での細胞モデル、特に動物モデルの生体内での実験上の抗腫瘍作用。
出願人はこれらの基準のすべてを示す新しいピラノン誘導体化合物を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は一般式(I):
【0006】
【化1】

【0007】
(一般式中、
Xは塩素、臭素又は沃素を表し、
1とR2は各々が互いに独立して水素原子、又は場合によりヒドロキシル、アミノ、エーテル若しくはハロゲン基で置換される1〜20個の炭素原子を含む線状が有利な線状若しくは分枝したアルキル、シクロアルキル若しくはアルキレン基を表し、R1とR2は全体で5、6、7又は8員環を形成し、前記環は場合により、関係する異性体、エナンチオマー、ジアステレオマーとその混合物を含めヒドロキシル、アミノ、エーテル又はハロゲン基で置換される)の化合物を目的とする。
【0008】
1とR2が互いに異なる場合、式(I)の化合物は一個又は複数個の非対称炭素原子を含むことがあり、したがって、エナンチオマー又はジアステレオマーとして存在することがある。式(I)の化合物はさらにシス又はトランス異性体として存在することもある。これらの異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー及びラセミ混合物を含むその混合物が本発明の一部を成す。
【0009】
本発明によれば、R1とR2が1〜15個の炭素原子を含むのが有利であり、1〜10個の炭素原子ではさらに有利であり、1〜5個の炭素原子ではさらに一層有利である。
【0010】
本発明の特定の実施形態では、R1とR2は全体で5、6、7又は8員環を形成し、この環は有利には飽和炭化水素環である。本発明の好ましい特定の実施形態では、R1とR2は全体で5又は6員環の飽和炭化水素環を形成する。
【0011】
本発明の範囲内では、用語を以下のように理解する:
―アルキル基、線状又は分枝した飽和脂肪族基;特に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、3級ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
―シクロアルキル基、環式アルキル基;特に、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
―ハロゲン基、フッ素、塩素、臭素、又は沃素、
―アルキレン基、好ましくは一つ又は二つのエチレンの飽和物を含む線状又は分枝した一又は多不飽和脂肪族基、
―アミノ基、NH2基又は二級若しくは三級アミン群、
―エーテル基、OR’基、R’はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、3級ブチル、ペンチル等のアルキル基である。
【0012】
本発明の目的である式(I)の化合物中、以下のように定義される好ましい化合物を挙げることができる。すなわちXが塩素、臭素又は沃素で、R1とR2が各々互いに独立して水素原子、又は場合によりエーテル若しくはハロゲン基で置換される1〜20個の炭素原子を含む線状が有利である線状若しくは分枝したアルキル若しくはアルキレン基であるか又はR1とR2は全体で5、6、7又は8員環を形成し、この環はエーテル又はハロゲン基で場合により置換される。
【0013】
これらの好ましい化合物の中で、特にXが沃素である式(I)の化合物が好ましい。
【0014】
これらの好ましい化合物の中で、特にR1とR2がそれぞれ互いに独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基である式(I)の化合物が好ましい。
【0015】
本発明によれば、R1とR2が各々メチル基であるか、又はこれらの二つの基の一方がメチル基で、他方が水素原子であることが有利である。
【0016】
本発明によれば、Xが沃素であり、且つR1とR2はそれぞれメチル基か又はこれらの二つの基の一方がメチル基で、他方が水素原子であることが有利である。
【0017】
これらの好ましい後者の化合物の中で、特に、Xが沃素でR1とR2がそれぞれメチル基となるヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノンである式(I)の化合物が好ましい。
【0018】
本発明によれば、式(I)の化合物が異性体E−ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノンであるのがさらに一層有利である。
【0019】
本発明はさらに、式(IV):
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、X、R1及びR2の意味は式(I)の化合物について上で定義した通りである)
のアルデヒドをメチル[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−フォスフィノイル]−アセテートといったフォスフォネートと反応させてHorner−Emmons反応を行い、その後、環化(ラクトン化)を行う一般式(I)の化合物の調製法をも目的とする。
メチル[ビス(2,4−ジフルオロフェニル)−フォスフィノイル]−アセテート、メチルジフェニルフォスフィノイル−アセテート又はCarl Patois及びPhilippe SavignacによるTetrahedron lett., 1991, 32, 1317−1320に記載されるN,N’−ジメチルエチレンジアミンから誘導される環式エチルフォスフィノイル−アセテートといった他のフォスフォネートを本発明の範囲内で使用することができる。
【0022】
本発明によれば、式(IV)の化合物から式(1)の化合物を調製することは炭酸カリウム等の、有利には弱塩基の、塩基及び18−クラウン−6クラウンエーテル等のクラウンエーテルの存在下で行われることが有利である。KN(TMS)2、Bトリトン、NaH、LDA又は2,2,6,6−テトラメチルピペリジンといった他の塩基は、本発明の範囲内で使用することができる。クラウンエーテルが存在することで、塩基と連結して形成される陽イオンを錯形成でき、ラクトン化に必要なZ構成のオレフィンを容易に得ることができる。式(IV)の化合物から式(I)の化合物に移行するこの段階は、好ましくは不活性の雰囲気下でトルエン形無水溶剤内で実行する。
【0023】
一般式(I)の化合物は、以下のスキーム1:
【0024】
【化3】

【0025】
によって合成することができる。
【0026】
本発明の特定の実施形態では、式(IV)の化合物から式(I)の化合物を調製することが以下の工程:
i) まず、式(II)の化合物を水素化アルミニウムリチウムのような還元剤と反応させ、対応する一級アルコール(III)を形成させる工程、次に、
ii) 式(III)の化合物を二酸化マンガンのような酸化剤と反応させ、対応するアルデヒド(IV)を得る工程:
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、
X、R1及びR2の意味は、式(I)の化合物について上記で定義したものであり、Rはメチル又はエチル基のような1〜5個の炭素原子を含む線状アルキル基を表す)に先行する。
【0029】
本発明による使用化合物(II)はシス異性体(Z)の形態が有利である。化合物(II)は、R、R1及びR2は上記に定義したようなアルキルプロピオレート(HC≡C−CO2R)、ケトン(R1COR2)からハロゲン化テトラブチルアンモニウム、塩化メチレン形無水溶剤、さらには四塩化ジルコニウム又は沃化ジエチルアルミニウムのようなLewis酸の存在下で合成することができる。化合物(II)の合成は、好ましくは不活性の雰囲気下で約0℃で行われる。
【0030】
化合物(II)のエステル官能基を還元し対応する一級アルコール(III)を形成する本発明による方法の段階(i)は、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム又は水素化ジイソブチルアルミニウムのような還元剤を用いて行う。この段階(i)は好ましくは常温で不活性雰囲気下でエーテル形無水溶剤内で行う。
【0031】
化合物(III)の一級アルコール官能基を酸化させ、対応するアルデヒド(IV)を形成する本発明による方法の段階(ii)は、二酸化マンガン又はDess−Martinのペルヨージナンのような酸化剤を用いて行う。この段階(ii)は好ましくは常温で不活性雰囲気下で塩化メチレン形無水溶剤内で行う。
【0032】
本発明の特定の実施形態では、一般式(I)の化合物のR1基とR2基がヒドロキシル又はアミノ形の群で置換される場合、これらの群は式(II)の化合物から式(III)、次に(IV)の化合物、さらに式(IV)の化合物から式(I)の化合物へと移行する合成中、保護基によって保護される。
【0033】
本発明での保護基は、一方では合成中にヒドロキシル又はアミンのような反応性官能基を保護し、他方では合成終了時に元のままの反応性官能基を再生できる基を意味する。保護基並びに保護方法及び保護解除方法の例は、Protective groups in Organics Synthesis, Green et at., 第2版(John Wiley & Sons, Inc., New York)に示されている。
【0034】
本発明はさらに一般式(IV):
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、X、R1及びR2の意味は、異性体、エナンチオマー、ジアステレオマーとその混合物を含む式(I)の化合物について上記で定義したものである)の中間化合物も目的としている。
【0037】
1とR2が互いに異なる場合、式(IV)の化合物は一つ又は複数個の非対称炭素原子を含むことがあり、したがってエナンチオマー又はジアステレオマーとして存在することがある。対応する式(I)の化合物は、特にR1もR2も水素原子でない場合、トランス異性体が有利だが、大部分がシス又はトランス異性体として存在できる。特に、R1又はR2が水素原子の場合、式(I)の化合物もシス異性体とトランス異性体の混合物となる。ラセミ混合物を含め、これらの異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー及びその混合物は発明の一部を成す。
【0038】
本発明によれば、化合物(IV)のR1基とR2基は、有利には1〜15個の炭素原子、さらに有利には1〜10個の炭素原子、さらに一層有利には1〜5個の炭素原子を含む。
【0039】
本発明の目的である式(IV)の化合物中、Xが沃素であるとして以下のように定義される好ましい化合物を挙げることができる。
【0040】
本発明によれば、R1とR2は各々メチル基であるか、又はこれらの二つの基の一方がメチル基、そして他方が水素原子であるのが有利である。
【0041】
本発明によれば、Xが沃素であり、且つR1とR2は各々メチル基であるか、又はこれらの二つの基の一方がメチル基、そして他方が水素原子であるのが有利である。
【0042】
これらの好ましい化合物中、特に、Xが沃素でR1とR2がそれぞれメチル基である式(IV)の化合物が好ましい。
【0043】
発明の化合物(I)について、抗腫瘍作用と癌細胞系統に関する細胞毒性作用の決定を可能にする薬理学的試験を実施した。
【0044】
1.試験では異なる組織の癌細胞系統(白血病、乳癌、結腸癌、口唇癌)及び化学抵抗細胞に関する発明の化合物の実験室内での細胞毒性作用を測定した。
発明の化合物(I)は腫瘍細胞が細胞環のG2M段階に分裂するのを阻止し、これらの細胞をアポトーシスで死滅させると思われる。
【0045】
2.発明の化合物(I)の生体内抗腫瘍作用を測定する他の試験を実施した。
発明の化合物のこの抗腫瘍作用は、(nu/nuマウス)ヌードマウスの移植腫瘍(HCT−116のような)で研究した。ヌードマウスは胸腺のない免疫不全のマウスである。
【0046】
したがって、発明の化合物(I)には抗腫瘍作用があり、抗腫瘍作用と癌細胞系統に関する細胞毒性作用を示す薬剤の調製に使用できると思われる。これらの薬剤の用途は治療、特に癌治療である。
【0047】
このように、本発明の目的の一つは式(I)の発明の化合物を含む薬剤である。
【0048】
本発明の別の態様によれば、本発明は有効成分として発明による化合物(I)を含む医薬成分に関する。これらの医薬成分には、特に医薬的に受け入れられる一つ又は複数個の補薬である適切な補薬を持つ発明による化合物(I)の効果的な用量が含まれる。前記の補薬は医薬形態及び望ましい投与方式によって選択される。
【0049】
本発明による医薬成分は、静脈注射で投与するのが有利である。本発明による医薬成分はさらに、次の投与経路で投与することができる。すなわち経口、舌下、皮下、筋肉内、局所、気管内、鼻腔内、皮膚又は直腸である。
【0050】
上記の式(I)の有効成分は、癌治療のために従来の補薬と混合して投与単位型として投与することができる。適切な投与単位型には、錠剤、ゼラチンカプセル、粉末、顆粒及び経口溶液又は懸濁液のような経口型、舌下、口腔、気管及び鼻腔投与型、皮下、筋肉又は静脈投与型並びに直腸投与型が含まれる。局所塗布用にはクリーム、ポマード又はローション内に本発明による化合物が使用される。
【0051】
錠剤として固形成分を調製する場合、主有効成分をゼラチン、澱粉、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアゴム又は同等品といった補薬と混合する。錠剤をスクロース、セルロース誘導体又は他の材料で覆うことができる。錠剤は直接圧縮、乾式顆粒化、湿式顆粒化又は熱溶融といった様々な技術で作ることができる。
【0052】
ゼラチンカプセルの調製は、有効成分を希釈剤と混合し、得た混合剤を柔らかい又は硬いゼラチンカプセルに注いで行う。
【0053】
非経口投与については、水性懸濁液、等張塩溶液又は分散剤及び/若しくは例えば、プロピレングリコール若しくはブチレングリコールのような薬理学的に相容性のある湿化剤を含む無菌で注射可能な溶液を使用することができる。
【0054】
別の態様によれば、本発明は癌を治療するための薬剤の調製に関する発明による式(I)の化合物の使用にも関する。
【0055】
以下の例は本発明を明示している。
【実施例】
【0056】
例1:式(I)の化合物の調製:E−5−ヨードメチレン−6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−ピラン−2−オン
X=I,R1=CH3とR2=CH3
(I)は、Villieras et coll(Taicir Ben Ayed, Jean Villieras, Hassan Ari, Tetrahedron, 2000,56, 805−809)又はP.W. Pare et coll(Han−Xum Wei, Joe J. Gao, Guigen Li, Paul W. Pare, Tetrahedron Lett., 2002, 43, 5677−5680)に記載の方法により、エチルZ−2−(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨードアクリレート(II)から合成した。水素化アルミニウムリチウムによる(II)のエステル官能基の還元から一級アルコール(III)が生じる。二酸化マンガン又はDess−Martinのペルヨージナンによる一級アルコール官能基の酸化はアルデヒド(IV)を生じる。クラウンエーテル18−クラウン−6の存在下で塩基として炭酸カリウムを用いて(IV)をメチル[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−フォスフィノイル]−アセテートと結合させると、化合物(II)から収率50%で希望の沃化ビニル(I)が得られる(スキーム2)。
【0057】
【化6】

【0058】
スキーム2 反応条件:a−LAH、1等量、エーテル、常温(ta)、1時間、75%;b−MnO2、10等量、常温、CH2Cl2、3時間、90%;c−K2CO3、6等量、18−クラウン−6/CH3CN、12等量、トルエン、25℃、1時間、次に−20℃、(IV)1等量、及び(CF3CH2O)2−P(O)−CH2CO2Me、1等量、−20℃〜0℃、次に0℃で30分、74%。
【0059】
1.1. 式(II)の化合物の調製:エチルZ−2−(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨードアクリレート
【0060】
【化7】

【0061】
エチルプロピオレート(19.3mmoles,1.9g又は1.96mL)、硫酸カルシウムで再蒸留したアセトン(24mmoles,1.76mL)、そして不活性雰囲気(アルゴン)下で無水塩化メチレン100mLの溶液の状態の沃化テトラブチルアンモニウム(21.6mmoles,8g)の混合物に、0℃で四塩化ジルコニウム(24mmoles,5.6g)を加える。溶液はアルゴン下で0℃で5時間攪拌する。水(20mL)を加えてから、塩化メチレン(50mLの3倍)で有機生成物を抽出する。乾燥した有機相(MgSO4)は低圧状態で蒸発し、シリカゲル60H Merckでクロマトグラフィーにかける残留物(8.3g)を生じる。CH2Cl2/MeOH 98/2、そして97/3混合物での溶出によって、化合物(II)(1.28g,23%)が得られる。
1H NMR : δ ppm(CDCl3,250MHz) 1.32(3H,t,J=7.1Hz,CH3−CH2),1.39(6H,s,(CH32−C),2.83(1H,s,OH),4.27(2H,q,J=7.1Hz,CH3−CH2),6.77(1H,s,H−3)。
【0062】
式(II)の化合物調製の別の方法
【0063】
【化8】

【0064】
エチルプロピオレート(13mmoles,1.31mL)と、0℃に保たれた不活性雰囲気(アルゴン)下で攪拌されている無水塩化メチレン50mLの溶液の状態の硫酸カルシウムで再蒸留したアセトン(10mmoles,0.733mL)の混合物に、沃化ジエチルアルミニウムのトルエン(12mmoles,12mL)溶液を30分で加える。得た黄色の溶液を0℃で2時間攪拌する。反応は0℃で塩酸2Nをゆっくり加えることで抑制される。
【0065】
水を加えて分離した後、エチルアセテート(50mLの3倍)で有機生成物を抽出する。有機相は低圧で濃縮したMgSO4で乾燥したNaClの飽和溶液で洗浄し、NMRスペクトルが上述した最初の調製法で得た化合物IIのものと同じである黄色の油分(2.04g,69%)を得る。
【0066】
1.2. 式(III)の化合物の調製:E−2(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨード−プロ−2−ペン−1−オール
【0067】
【化9】

【0068】
エチルZ−2−(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨード−アクリレート(II)溶液(4.9mmoles,1.4g)の無水エーテル(30mL)溶液に、水素化アルミニウムリチウム(2.9mmoles,0.112g)を加える。常温で(ta)不活性雰囲気(アルゴン)下で1時間攪拌反応させる。硫酸ナトリウム(30μl)の飽和溶液を添加して余分な水素化アルミニウムリチウムを破壊してから、アルミナの沈殿物をろ過する。乾燥し低圧で蒸発したろ過物(MgSO4)からは、E−2−(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨード−プロ−2−ペン−1−オール(III)(0.9g,75%)の白色残留物が得られる。
1H NMR : δ ppm,CDCl3,250MHz:1.42(6H,s,(CH32−C),4.44(2H,s,CH2OH),6.48(1H,s,H−3)。
【0069】
1.3. 式(IV)の化合物の調製:Z−2(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨードプロペナール
【0070】
【化10】

【0071】
E−2−(1−ヒドロキシ−1−メチルーエチル)−3−ヨード−プロ−2−ペン−1−オール(III)(5.7mmoles、1.4g)の乾燥塩化メチレン(25mL)溶液に、不活性雰囲気下で常温で(ta)二酸化マンガン(10等量、57mmoles、5g)を等分に加える。反応の変化はシリカゲルプレート(CH2Cl2/MeOH97/3溶離液)での分析クロマトグラフィーで追跡する。当初の生成物が消滅してから、混合物をCelite(登録商標)でろ過する。低圧で蒸発したろ過物からは、やや黄色の油分としてZ−2−(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨード−プロペナール(IV)(1.3g,94%)が生じる。
SM ES M m/z 307(M+44),295(M+MeOH),263(M+Na)。
S.M.H.R(SM ES+):C692NaIで計算:262.9545;測定:262.9545
1H NMR : δ ppm,CDCl3,250MHz:1.43(6H,s,(CH32−C),7.97(1H,s,H−3),9.79(1H,s,CHO)。
13C NMR : δ ppm,CDCl3,28.7((CH32−C),74.2(C−OH),101.8(C3−I),149.9(=C2),196.8(CHO)。
IR ν: 1681cm-1(C=O共役),1565cm-1(C=C),1369,1282,1176,1085および963cm-1
【0072】
1.4.式(I)の化合物の調製:E−5−ヨードメチレン−6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−ピラン−2−オン
【0073】
【化11】

【0074】
1.4.1. 18−クラウン−6クラウンエーテルの精製
市販の18−クラウン−6クラウンエーテル25gと乾燥アセトニトリル63mlを500mLのフラスコで加熱し湿気を避けて完全に溶けるまで攪拌する。常温で冷まし、次にフラスコをアイス/アセトンバスに沈める。錯体の白い結晶が沈殿するので、ろ過して集める。これらの吸湿性の結晶をマグネチックスターラーを備えた250mLフラスコに移す。アセトニトリルは温度≦40℃、2〜3時間かけて真空(0.1〜0.5Torr)で蒸発する。25gのクラウンエーテル/CH3CNが得られる。
【0075】
1.4.2. (I)の調製
無水トルエン(54mL)中の炭酸カリウム(32mmoles,4.48g)と18−クラウン−6/CH3CNクラウンエーテル(64.8mmoles,17.1g)の混合物を不活性雰囲気下で25℃で1時間攪拌する。得られた少し濁った溶液は−20℃で冷ます。Z−2−(1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル)−3−ヨード−プロペナール(IV)(5.4mmoles,1.3g)とメチルビス−トリフルオロエチル−フォスフォノ−アセテート(5.4mmoles,1.72g又は1.14mL)を加え、得た混合物を攪拌し0℃まで暖める。混合物はクリーム状の白色となる。不活性雰囲気下で0℃で30分攪拌してから、塩化アンモニウムの溶液を加えて反応を抑制し、エーテルで有機生成物を抽出する。MgSO4で乾燥した有機相は低圧で蒸発すると黄緑色の結晶化した生成物(1.5g)を生じる。ヘプタン/エーテル勾配で行うシリカゲル60Hのカラムでのクロマトグラフィーによって、若干着色して結晶化したE−6−ジメチル−5−ヨードメチレン−5,6−ジヒドロ−ピラン−2−オン(I)(1.06g,74%)が得られる。
SM ES m/z 287 (M+Na)
S.M.H.R. (SM ES+):C892NaIで計算:286.9545;測定:286.9530。
1H NMR : δ ppm,CDCl3,250MHz:1.62(6H,s,(CH32−C),6.1(1H,dd,J=10,J’=2Hz,H−4),6.88(1H,d,J=2Hz,H−9),7.2(1H,d,J=10Hz,H−3),H−9とCH3の間のnOe。
13C NMR : δ ppm,CDCl3,28.9((CH32−C),84.0(C6−O),86.4(C9−I),121.6(=C4H),142.3(C3H=),144.9(C5),163.3(C=O)。
IR ν: 1695cm-1(C=O共役),1560,1394,1290,1176,1115,1089,990cm-1
IESM : 264 M+,m/z 137,127。
UV (EtOH) λnm : 300,logε4.1。
【0076】
例2:発明による化合物(I)の実験室内での生物学的検討
例1で得たヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)の生物学的作用を五つの異なる細胞系統について実験室内で検討した:
―KB(咽頭鼻部の類表皮上皮腫)
―HCT−116(結腸上皮腫)
―K562(骨髄性白血病)
―K562−MDR1(骨髄性白血病;抗ドキソルビシン)
―MCF7−MDR1(乳腺癌;抗ドキソルビシン)。
【0077】
この検討のために選択した細胞は、異なる濃度の培養環境に加えたヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)の存在下で37℃で培養した。実施した実験全体により、試験した化合物の毒性の度合い、細胞サイクルの展開への影響及びアポトーシスによる細胞の死滅を誘導する能力を決定することができた。
【0078】
2.1.細胞毒性の検討
ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)の細胞毒性はKB及びHCT−116細胞に対して評価した。細胞の50%を死滅させるヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノンの濃度(IC50)は96時間の培養後に決定したが、HCT−116細胞で約0.30マイクロモル(図1)あり、KB細胞では約0.45マイクロモル(図2)である。
【0079】
また、用量10-7Mでヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)で処理して24時間経過すると、処理した細胞の形態変化が観察されるのを強調しておかなければならない。事実、細胞は丸い形状から紡錘形となる(図3:用量10-7Mで化合物(I)でのK562細胞の24時間処理参照)。
【0080】
2.2.細胞サイクルの検討
ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)で処理した細胞(K562,K562−MDR1,HCT116,MCF7−MDR1)のフラックスでの血球計算による分析で、この化合物がG2/M段階のすべての系統の細胞分裂を阻止することが判明した。濃度10-7Mで使用するヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)に細胞を24時間晒した後では、この効果は顕著である(図4:白血病細胞K562の細胞サイクルへの(I)の効果参照)。
【0081】
2.3.アポトーシスの検討
ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)がアポトーシスで細胞を死滅させるかどうかを明らかにするため、24時間処理した細胞K562をVアネキシンと沃化プロピジウム(IP)の二重の標識を用いてフラックスで血球計算によって分析した。図5に示した結果は、濃度10-6Mと10-7Mのヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)で細胞K562−MDR1(化学抵抗)を24時間培養すると、アポトーシスが強く誘導される(陽性Vアネキシン/陰性IP細胞)ことを示している。
【0082】
例3:発明による化合物(I)の生体内での生物学的検討
3.1.ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)の単独注射(DMT)及び四回反復注射(DMTT)に関する許容最大用量の決定
生後4〜5週のヌードマウス(Swiss Nu/nu)に、例1によって得たヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)を50mg/kg、66.6mg/kg、100mg/kg、150mg/kg、200mg/kg静脈注射(iv)した。21日間動物の生存と体重を追跡したところ、用量150mg/kgと200mg/kgでは毒性が判明し、これがDMTを100mg/kgにしている。
【0083】
DMTを決定し、ヌードマウスに一回の注射当たり50mg/kg、70mg/kg、90mg/kgの三つの異なる用量でヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)を静脈注射(iv)した。各用量は3日間ごと(0日,3日,6日,9日)4回投与した。21日間の動物の生存、体重及び臨床的兆候の追跡によって、DMTT値を90mg/kg以下に設定することができた。したがって、抗腫瘍作用の評価のために、用量40mg/kg、60mg/kgおよび80mg/kgが選択された。
【0084】
3.2.HCT116移植腫瘍キャリアヌードマウスに静脈投与するヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)の抗腫瘍作用の評価
ヌードマウス内の人間の腫瘍細胞の異種移植は、様々な分子の抗腫瘍作用の評価によく使用されるモデルである。
【0085】
皮下に移植したHCT116腫瘍のキャリアヌードマウスに対し、上記の検討で証明したこの化合物の許容度に応じて選択した三つの異なる用量で(一回の注射当たり40mg/kg、60mg/kg、80mg/kg)、ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)を静脈注射(iv)した。ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)を3日間ごと(0日,3日,6日,9日)4回注射した。二つのグループの対照動物が作成された。最初のグループにはまったく注射をしなかった(ブランク)が、二つ目のグループの動物にはヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)(媒体)を可溶化する溶液を注射した。
【0086】
腫瘍の大きさ(mm3)は週二回ノギスで測定した。腫瘍の成長曲線(図6A)は、2回目の注射から、注射当たり用量80mg/kgのヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)が腫瘍の進行を著しく抑制することを示している。
【0087】
処置開始から21日後に53.5%に達するT/Cパーセンテージ[T/C=(処置したグループの腫瘍の大きさの中央値/対照グループの腫瘍の大きさの中央値)×100]である腫瘍の成長抑制評価パラメータの一つに基づくと、ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)には、NIH(T/C≦42%)の標準による効果的な抗腫瘍薬剤で観察されたものに近い抗腫瘍作用がある。
【0088】
図6Bに示したデータは、ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)には強い毒性がないことを示しており、これはマウスの正常な成長で説明される。事実、処置したマウスの体重は処置後まで均一に増加している。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】HCT−116細胞の結果を示す図
【図2】KB細胞の結果を示す図
【図3】用量10-7Mで化合物(I)でのK562細胞の24時間処理の結果を示す図
【図4】白血病細胞K562の細胞サイクルへの(I)の効果を示す図
【図5】ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノンで細胞K562−MDR1を24時間培養すると、アポトーシスが強く誘導されることを示す図
【図6A】腫瘍の成長曲線を示す図
【図6B】ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノン(I)には強い毒性がないことを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、
Xは塩素、臭素又は沃素を表し、
1とR2は各々が互いに独立して水素原子、又は場合によりヒドロキシル、アミノ、エーテル若しくはハロゲン基で置換される1〜20個の炭素原子を含む線状若しくは分枝したアルキル、シクロアルキル若しくはアルキレン基であるか、又はR1とR2は全体で5、6、7又は8員環を形成し、前記環は場合により、関係する異性体、エナンチオマー、ジアステレオマーとその混合物を含めヒドロキシル、アミノ、エーテル又はハロゲン基で置換される)に対応する化合物。
【請求項2】
Xが塩素、臭素又は沃素で、R1とR2が各々互いに独立して水素原子、又は場合により
エーテル若しくはハロゲン基で置換される1〜20個の炭素原子を含む線状若しくは分枝したアルキル若しくはアルキレン基であるか、又はR1とR2が全体で5、6、7又は8員環を形成し、前記環は場合によりエーテル又はハロゲン基で置換されることを特徴とする請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
Xが沃素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の式(I)の化合物。
【請求項4】
1とR2が各々互いに独立して水素原子、又はメチル、エチル、プロピル若しくはブチル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項5】
1とR2が各々メチル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項6】
ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項7】
異性体E−ヨードメチレン−ジメチル−ジヒドロピラノンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項8】
式(IV):
【化2】

(式中、
X、R1及びR2の意味は請求項1又は2に記載の式(I)の化合物について定義したものである)
のアルデヒドをメチル[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)−フォスフィノイル]−アセテートのようなフォスフォネートと反応させ、Horner−Emmons反応を行い、その後、環化を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の調製法。
【請求項9】
前記式(I)の化合物の調製を炭酸カリウムのような塩基及び18−クラウン−6クラウンエーテルのようなクラウンエーテルの塩基の存在下で行うことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記式(IV)の化合物から前記式(I)の化合物を調製することが以下の工程:
i) まず、式(II)の化合物を水素化アルミニウムリチウムのような還元剤と反応させ、対応する一級アルコール(III)を形成させる工程、次に
ii) 前記式(III)の化合物を二酸化マンガンのような酸化剤と反応させ、対応するアルデヒド(IV)を得る工程:
【化3】

(式中、
X、R1及びR2の意味は、請求項1又は2に記載の式(I)の化合物について定義したものであり、Rはメチル又はエチル基のような1〜5個の炭素原子を含む線状アルキル基である)に先行することを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
式(IV):
【化4】

(式中、
X、R1とR2の意味は、異性体、エナンチオマー、ジアステレオマーとその混合物を含め請求項1又は2に記載の式(I)の化合物について定義したものである)
に対応する化合物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の式(I)の化合物であることを特徴とする薬剤。
【請求項13】
適切な補薬と組み合わせる請求項1〜7のいずれか一項に記載の式(I)の化合物を含むことを特徴とする医薬成分。
【請求項14】
静脈注射で投与されることを特徴とする請求項13に記載の成分。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の癌治療薬剤調製への利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2007−521337(P2007−521337A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548352(P2006−548352)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000084
【国際公開番号】WO2005/073211
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(500470482)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(セーエヌエールエス) (25)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS)
【Fターム(参考)】