説明

癌治療のための、手術、化学療法または放射線療法と併用した免疫療法におけるMAGEA3−プロテインD融合抗原の使用

腫瘍抗原またはその免疫学的誘導体に基づく免疫療法と、少なくとも1種の別の癌治療法、例えば、化学療法、放射線療法および/または手術、とを含む併用療法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌精巣抗原またはその免疫学的誘導体をベースとする免疫療法と、少なくとも1種の別の癌治療法(例えば、化学療法、放射線療法および/または手術など)とを含む併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる癌/精巣抗原をコードするいくつかの遺伝子ファミリーが同定されている。これらは、精巣以外の正常な組織/細胞には一般に発現されない抗原/タンパク質である。しかし、これらの抗原は、膀胱癌、乳癌、肺癌(特に非小細胞肺癌(NSCLC))、肝臓癌、精上皮癌、黒色腫、および/または頭頚部癌などの特定の癌/腫瘍に特異的に発現すると考えられ、細胞傷害性T細胞によって有利に認識可能である。
【0003】
これまで50を超える癌/精巣抗原が記載されており、それらの多くについて、Tリンパ球により認識される特異的エピトープが同定されている。
【0004】
十分に特性決定されている癌/精巣抗原ファミリーは、MAGEファミリーであり、このファミリーは、12個の密接に関連する以下の遺伝子:MAGE 1、MAGE 2、MAGE 3、MAGE 4、MAGE 5、MAGE 6、MAGE 7、MAGE 8、MAGE 9、MAGE 10、MAGE 11、MAGE 12を含み、これらの遺伝子は、染色体Xに位置し、そのコード配列は、互いに64〜85%の相同性を有する(De Plaen, 1994)。これらは、場合によっては、MAGE A1、MAGE A2、MAGE A3、MAGE A4、MAGE A5、MAGE A6、MAGE A7、MAGE A8、MAGE A9、MAGE A10、MAGE A11、MAGE A12(MAGE Aファミリー)としても知られている。
【0005】
これより関連性は低いが、2つの別のタンパク質群もMAGEファミリーに属している。これらは、MAGE BおよびMAGE C群である。MAGE Bファミリーは、MAGE B1(MAGE Xp1、およびDAM 10としても知られる)、MAGE B2(MAGE Xp2、およびDAM 6としても知られる)、MAGE B3およびMAGE B4を含み、また、MAGE Cファミリーは、現在のところ、MAGE C1とMAGE C2とを含む。
【0006】
一般用語では、MAGE Aタンパク質は、このタンパク質のC末端方向に位置するコア配列シグネチャー(core sequence signature)を含むものとして定義することができる(例えば、MAGE A1 309アミノ酸タンパク質に関して、コアシグネチャーは、アミノ酸195〜279に対応する)。
【0007】
従って、コアシグネチャーのコンセンサスパターンは以下のように表記され、その際、xは任意のアミノ酸を示し、小文字の残基は保存され(保存的変異は可能)、大文字の残基は完全に保存される。
【0008】
コア配列シグネチャー:
【化1】

【0009】
保存的置換は周知であり、一般に、配列アライメントコンピュータープログラムにおいてデフォルトスコアリング行列として設定される。このようなプログラムとして、PAM250(Dayhoft M.O.ら、(1978), “A model of evolutionary changes in proteins”,“Atlas of Protein sequence and structure” 5(3) M.O. Dayhoft(編), 345-352)(National Biomedical Research Foundation、Washington)及びBlosum 62(Steven HenikoftおよびJorja G. Henikoft (1992), “Amino acid substitution matrices from protein blocks”), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (Biochemistry): 10915-10919)などが挙げられる。
【0010】
他の癌/精巣抗原として、LAGE 1およびLAGE 2が挙げられる。
【0011】
WO 94/23031には、MAGE 3が記載されている。また、WO 95/20974には、MAGE 1が記載されている。
【0012】
MAGE 3は、黒色腫、NSCLCおよび頭頚部癌を有する患者の特定の集団において発現すると考えられている。
【0013】
MAGE C1およびC2は、膀胱癌および/または乳癌を有する患者の集団に発現すると考えられている。
【0014】
肺癌は、世界の多くの地域において第1位の死因である。非小細胞肺癌は、肺癌症例の75〜80%を占め、世界で毎年約120万人の新たな症例を計上している[Parkin, 2001;Jemal, 2005]。NSCLCの場合、手術は、治癒が見込める唯一の治療法であるが、残念なことに、診断の時点で根治手術に適するのは、全NSCLC患者の1/3未満にすぎない。NSCLCを完全に切除しても、80%を超える症例において手術時から2年以内に癌が再発する。
【0015】
現時点で、腺癌は、主要な組織学的サブタイプであると思われる。これは、初期発生部位から離れた位置まで癌が広がる傾向がより高い。転移性再発の最も一般的部位は脳であり、これに骨、肺、肝臓および副腎が続く[Feld, 1984;Pairolero 1984, Thomas 1990, Martini 1980]。
【0016】
癌精巣抗原をベースとする癌治療法を開発する研究が進行中であるが、現在までのところ、市場に出た製品はない。
【0017】
癌治療に関して、補助療法とは、術後の化学療法または放射線療法を指す。長年にわたり、術後胸部放射線療法が切除後のNSCLC患者の好ましい補助療法であった。その有望な役割に関する結果が多数の研究およびPORT(術後放射線療法)メタアナリシス[PORTグループ1998]により報告されている。このメタアナリシスから、術後胸部放射線療法は、概して、生存に有害な影響を及ぼしていることがわかった。サブグループ分析は、この悪影響が、IおよびII期疾患の患者において最大であり、また、III期疾患の患者の場合、正または負のいずれの影響についても明白な証拠がないことを示唆した。
【0018】
プラチナをベースとする化学療法の役割が、進行したステージのNSCLC:IV期、手術不可能なIII期(胸部放射線療法を併用)およびIIIA期癌(根治手術の前に実施される場合)において現在確立されている[Spira 2004;Pfister 2004]。近年の試験により、化学療法を補助治療として用いたとき、完全切除後にNSCLC患者の生存を延長する上での化学療法の有望な役割が示唆されている。1995年に発表されたメタアナリシス[NSCLCグループ1995]によれば、第二世代プラチナベースの補助化学療法による、5年生存率における統計的に有意ではない5%の改善が示された。第二および第三世代プラチナベースの補助化学療法の役割に取り組む8つの前向き試験が完了している[Keller 2000、Scagliotti 2003、Arriagada 2004、Waller 2004、Tada 2004、Winton 2005、Strauss 2004、Douillard 2005]。
【0019】
これらの試験のうち3つは、肯定的な結果を有し、補助化学療法による統計的に有意な死亡率の減少を示したのに対し、他の5つの結果は否定的であり、補助化学療法について生存の有益性を全く呈示しなかった。要約すると、データのほとんどが、完全切除されたII期およびIIIA期疾患における最新補助化学療法による肺癌の再発率および死亡率の小幅な減少(5年絶対生存率の4〜15%の改善)を一貫して示している。これらのデータは、特に、CALGB9633研究の最新版[Straussら、ASCO, 2006]を考慮すると、IB期NSCLCに関してさらに議論の余地がある。
【0020】
シクロホスファミド
シクロホスファミド(CY)は、様々な種類の癌を治療するのに用いられる化学療法薬である。この薬剤は、有効な化学療法のために高用量が必要である。高用量のCYにより免疫抑制が起こりうるのに対し、低用量の薬剤では、様々な抗原に対して増強された免疫応答をもたらしうる。
【0021】
また、CYは、調節性T細胞の表現型を有するT細胞の数を減少させることも示唆されている(TregはCD25:CD4+CD25+を構成的に発現する)。
【0022】
調節性T細胞(Treg)は、寛容性の重要な側面を制御し、自然の抗腫瘍免疫応答の欠乏にある役割を果たす。実際、腫瘍関連抗原は自己抗原に由来するため、Tregは、ワクチンに誘導される抗腫瘍免疫応答の不十分な効果に部分的に関与しうる。動物の場合、CD4+CD25+Tregを除去すると、抗腫瘍免疫応答が増強することが示されている。
【0023】
デキサメタゾン
様々な化学療法レジメンを受ける癌患者は、化学療法薬の副作用を軽減するために、その数日前に、抗ヒスタミン薬(5HT3受容体アンタゴニスト)および/またはステロイド/グルココルチコイド(例えば、デキサメタゾン)による前処置を受けることが多い。デキサメタゾンは、制吐薬として、または潜在的なアレルギー反応を低減するために、投与される。
【0024】
デキサメタゾンのようなグルココルチコイドは、リンパ球への影響を介してそのアポトーシスを誘導すると共に、樹状細胞への影響を介してそれらのCCR7発現とリンパ節への遊走能力とを阻害することにより、免疫応答に強力な抑制作用をもたらす(Vizzardelliら、Eur. J. Immunol. 2006 Jun;36(6):1504-15)。
【0025】
切除不可能なIII期NSCLCの治療は困難なままである。標準的療法は、連続的胸部放射線療法を併用した化学療法、またはこれら2種類の療法の同時施行を含むものである。最近では、並行化学/放射線療法の前(誘導療法として)または後(強化療法として)に、化学療法を加えることを含む誘導および強化療法が評価されている。
【0026】
しかし、これは再発率および生存率全体に顕著な影響をもたらさないようである。
【0027】
このように、有意な副作用を伴う厳しい治療レジメンを受けているにもかかわらず平均余命および予後に有意な増加がみられない癌患者、または有効な治療法が存在しない癌患者の大きな集団が依然として存在する。
【0028】
従って、この医療分野では、有効な別の治療法が依然として求められている。
【発明の概要】
【0029】
本発明は、腫瘍抗原またはその免疫原性断片もしくはその融合タンパク質と、体液性応答および/または細胞性応答を刺激するアジュバントのような免疫刺激物質とを含む、治療に有効な量の免疫療法薬を、以下の前、同時および/または後に投与することを含む併用療法を提供する:
i)リンパ節サンプリングまたは完全リンパ節切除(リンパ節切除術)を含むことを特徴とする、癌の一部または全部を除去する手術、および/または
ii)化学療法、および/または
iii)放射線療法。
【0030】
本発明の一実施形態では、前記腫瘍抗原は癌/精巣抗原である。
【0031】
一態様において、本発明は、関連する癌の一部または全部が手術により除去された後の、前記免疫療法組成物の投与を提供する。この態様では、化学療法または放射線療法と同時に免疫療法薬を投与してもよい。あるいは、補助化学療法または放射線療法の後に前記免疫療法薬を投与してもよい。一般に、免疫療法などのあらゆる治療は、手術から8週間以内に開始する。
【0032】
本明細書においてリンパ節サンプリングとは、例えば、癌の近位にあるために、癌/腫瘍に冒されている、または冒されている可能性が高い全てのリンパ節の除去を指すものとする。
【0033】
本発明者らは、経験的観察から、適切であれば、完全リンパ節切除を受けた患者は総合的に、この処置を受けなかった対応の患者より予後(生存および再発率)が良好でありうると考える。
【0034】
本明細書において完全リンパ節切除とは、癌/腫瘍から離れているものであっても、全てのリンパ節の除去を指すものとする。
【0035】
別の態様では、本発明は、例えば癌が手術不可能な場合、化学療法または放射線療法後の前記免疫療法組成物の投与を提供する。
【0036】
あるいは、ある期間(例えば1〜8週間)にわたって化学または放射線療法を開始した後、化学または放射線療法の治療レジメンと、免疫療法組成物の同時投与を行うことができる。
【0037】
一態様において、例えば免疫療法レジメンが維持療法である場合、本発明は、化学療法、その後の放射線療法の治療レジメン、その後の前記免疫療法薬の投与を含む治療レジメン、を含んでいる。
【0038】
あるいは、手術、化学療法および/または放射線療法のような他の治療形態の開始前に免疫療法薬を投与してもよい。これは、腫瘍の収縮または癌の縮小を支援しうることから、例えば、手術による腫瘍/癌の除去が容易になると考えられる。
【0039】
本発明の併用療法は、関連する患者集団の治療の改善をもたらすと考えられる。例えば、投与される化学療法または放射線療法の用量を減少させることにより、患者が被る副作用を軽減することを可能にする。さらに、この療法で治療しなかった患者と比較して、この療法で治療を受けた患者の長期生存および/または予後が改善すると考えられる。
【0040】
さらに、免疫療法を化学療法と併用した場合、化学療法がin vivoでの癌精巣抗原の産生増加を刺激するため、効力が向上した併用治療が達成されうると考えられる。
【0041】
本発明は、例えば、前述した1以上の病期にあるNSCLCなどの癌抗原発現性の癌、または前述した他の癌の1つ(例えば、黒色腫)、を有する患者に有益であることが期待される。特に転移しやすい癌を有する患者には、とりわけ有益でありうる。
【0042】
本発明者らは、組織特異的抗原または癌精巣抗原を発現する癌/腫瘍を有する患者のすべてが、必要に応じて組織特異的抗原または癌精巣抗原を含む関連免疫療法薬を用いた適切な単独療法に対して臨床応答を有するわけではないと考える。さらに、関連単独療法に応答する患者は、特異的遺伝子プロフィールを有しており、これが患者をこの応答に応答しやすくさせているとも考えられる。それでも、免疫療法治療レジメンの開始前に、化学療法薬および/または放射線療法を施すことにより、免疫療法に対しレスポンダーになるよう有利に患者(そうしなければ、免疫療法に対して非レスポンダーである)を誘導することができると考えられる。
【0043】
本明細書における「レスポンダー」は、癌/腫瘍が根絶、縮小もしくは改善されている(混合型レスポンダーまたは部分的レスポンダー)患者、または疾病が進行しないように単純に安定化されている患者を包含する。癌が安定化されているレスポンダーの場合、安定化の期間は、クォリティーオブライフおよび/または患者の平均余命が、治療を受けていない患者と比較して増加するような期間(例えば、6ヵ月を超える安定病状)である。
【0044】
本発明の一実施形態では、非レスポンダーからの腫瘍の遺伝子プロフィールを、前述した免疫療法薬または併用療法による治療に対してレスポンダーに改変するための薬剤の調製における、前記併用療法の使用を提供する。
【0045】
本明細書において第1選択治療とは、患者の癌に関して開始される最初の治療を指すものとする。
【0046】
癌精巣抗原またはその誘導体は、本明細書において免疫療法薬の主要成分を指す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】CD4応答:TC1Mage3治療モデルに対する抗CD25またはシクロホスファミドの影響。
【図2】CD8応答:TC1Mage3治療モデルに対する抗CD25またはシクロホスファミドの影響。
【図3】第0日から第28日までのTC1Mage3細胞(10e5細胞を注射)のin vivo腫瘍増殖。
【図4】デキサメタゾン実験のための実験プロトコルを示す概略図。
【図5】実験20060590:n=3マウス/グループ(個別に処理)。
【図6】実験20060803:n=3マウス/グループ(個別に処理)。
【図7】実験20070129:n=3マウス/グループ(個別に処理)。
【図8】実験20060590:n=3マウス/グループ(個別に処理)。
【図9】実験20060803:n=3マウス/グループ(個別に処理)。
【図10】実験20070129:n=3マウス/グループ(個別に処理)。
【図11】実験20060590:脾臓におけるCD4応答(n=3マウス/グループ(個別に処理))。
【図12】実験20060590:脾臓におけるCD8応答(n=3マウス/グループ(個別に処理))。
【図13】実験20060590:PBLにおけるCD4応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【図14】実験20060590:PBLにおけるCD8応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【図15】実験20060803:脾臓におけるCD4応答(n=3マウス/グループ(個別に処理))。
【図16】実験20060803:脾臓におけるCD8応答(n=3マウス/グループ(個別に処理))。
【図17】実験20060803:PBLにおけるCD4応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【図18】実験20060803:PBLにおけるCD4応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【図19】実験20070129:脾臓におけるCD4応答(n=3マウス/グループ(個別に処理))。
【図20】実験20070129:脾臓におけるCD8応答(n=3マウス/グループ(個別に処理))。
【図21】実験20060129:PBLにおけるCD4応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【図22】実験20070129:PBLにおけるCD8応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【図23】2回目のASCI注射から14日後、および最後のデキサメタゾン注射から18日後の血清学(実験20060590)。
【図24】TC1 MAGE3モデルに対するデキサメタゾンの影響/20070129。
【図25】試験デザイン概要。
【発明を実施するための形態】
【0048】
腫瘍抗原
一態様では、癌精巣抗原は、MAGEファミリー、例えば、MAGE Aファミリー、例えば、MAGE 3由来のものである。
【0049】
一態様では、腫瘍抗原は、以下の群から選択される抗原、またはその免疫原性部分または断片である:WT-1、WT-1F、BAGE、LAGE 1、LAGE 2(NY-ESO-1としても知られる)、SAGE、HAGE、XAGE、PSA、PAP、PSCA、P501S(プロステインとしても知られる)、HASH1、HASH2、クリプト(Cripto)、B726、NY-BR 1.1、P510、MUC-1、プロスターゼ、STEAP、チロシナーゼ、テロメラーゼ、スルビビン、CASB616、P53、および/またはHer-2/neu、SSX-2;SSX-4;SSX-5;NA17;MELAN-A;P790;P835;B305D;B854;CASB618(WO00/53748に記載);CASB7439(WO 01/62778に記載);C1491;C1584;およびC1585。
【0050】
腫瘍または癌精巣抗原は、免疫原性タンパク質、例えば、全長天然タンパク質、またはその化学的もしくは遺伝子的に改変された誘導体として投与することができる。あるいは、前記タンパク質の免疫原性断片、例えば、9〜20個(例:9〜100個)のアミノ酸を含む断片を用いてもよい。
【0051】
腫瘍または癌精巣抗原は、融合タンパク質、例えば、B型肝炎由来のプロテインD(またはその断片)を含む融合タンパク質として投与してもよい。プロテインD由来の免疫学的融合パートナーに関する情報は、WO 91/18926から入手することができる。一実施形態では、プロテインD誘導体は、タンパク質の最初の約1/3、具体的には、概ね最初のN-末端100〜120アミノ酸、例えば、最初の109〜112アミノ酸、さらに具体的には、最初の109アミノ酸(またはその108アミノ酸)を含む。一実施形態では、プロテインD誘導体は、プロテインDのアミノ酸20〜127を含むものでよい。
【0052】
タンパク質を化学的にコンジュゲートしてもよいが、組換え融合タンパク質として発現させるのが好ましく、これにより、非融合タンパク質と比較して、発現系における生産レベルを高めることができる。
【0053】
融合パートナーは、Tヘルパーエピトープ、好ましくは、ヒトにより認識されるTヘルパーエピトープを生じさせるのを補助したり(免疫学的融合パートナー)、天然組換えタンパク質より高い収率でタンパク質を発現するのを補助する(発現エンハンサー)ことができる。融合パートナーは、免疫学的融合パートナーと発現増強パートナーの両方であることが好ましい。
【0054】
一態様では、本発明は、本明細書に記載のプロテインDのN-末端部分を癌精巣抗原またはその免疫原性断片のN-末端に融合させた融合タンパク質を提供する。さらに具体的には、プロテインDと癌精巣抗原のN-末端の融合は、癌精巣抗原が、除去されたプロテインDのC-末端断片を置換するように実施する。このように、プロテインDのN-末端は融合タンパク質のN-末端になる。
【0055】
本発明で用いる本明細書に記載の融合タンパク質に、プロテインDに代えて、またはこれに加えて、別の融合パートナーまたはその断片を含有させてもよく、そのようなものとして、例えば、以下のものが挙げられる:
・インフルエンザウイルス由来の非構造タンパク質であるNS1(血球凝集素);典型的には、N末端の81アミノ酸を用いるが、Tヘルパーエピトープを含んでいれば、別の断片を用いてもよい;
・肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のLYTA;これは、N-アセチル-L-アラニンアミダーゼであるアミダーゼLYTA(lytA遺伝子{Gene, 43 (1986) ページ265-272}によりコードされる)、例えば、残基188〜305のような残基178で開始するC末端に存在するLyta分子の反復部分など、を合成する。
【0056】
そのアミノ末端にC-LYTA断片を含むハイブリッドタンパク質の精製については、Biotechnology: 10, (1992) ページ795-798に記載されている。
【0057】
本発明で用いる融合タンパク質は、アフィニティータグ、例えば、5〜9個(例:6個)のヒスチジン残基を含むヒスチジン尾部を含んでいてもよい。これらの残基は、例えば、プロテインDの末端部分(例:プロテインDのN末端など)に位置してもよいし、および/または癌精巣抗原の末端部分と融合させてもよい。
【0058】
しかし、一般には、ヒシチジン尾部は、癌精巣抗原の末端部分、例えば、癌精巣抗原のC末端に配置する。ヒシチジン尾部は、精製を補助する上で有利である。
【0059】
本発明の一実施形態では、腫瘍抗原はプロテインD-MAGE-3であり、この腫瘍抗原は、概ね、または厳密にプロテインDの最初の127アミノ酸を含み、その際、プロテインDのアミノ酸K-2およびL-3が非関連アミノ酸D-2およびP-3で置換された、該配列に対する1または2つのアミノ酸置換を含んでも、含まなくてもよい。この番号付けは、18aaシグナル配列を含むプロテインDのアミノ酸配列に関するものである。一実施形態では、プロテインD-MAGE-3抗原は、プロテインDの18アミノ酸シグナル配列を含まない。この抗原は、プロテインD配列とMAGE-3配列の前に1または2個のリンカーアミノ酸を含んでいてもよい。この抗原は、さらに、任意のHis尾部、例えば、7-aa His尾部を含んでいてもよい。この実施形態では、上記抗原は、MAGE-3配列とHis尾部との間に1または2個のリンカーアミノ酸を含んでいてもよい。一実施形態では、以下の配列を用いることができる(配列番号1):
【化2】

【0060】
下線=18アミノ酸配列を含むプロテインDの最初の127アミノ酸
下線なし=非関連アミノ酸およびHis尾部
* プロテインD配列内で置換されたAsp-Pro
* クローニング部位を形成するためのaa 128〜129でのMet-Asp
* 442〜443でのGly-Gly
* 7 his尾部
二重下線=MAGE3の断片;MAGE3のアミノ酸3〜314(合計312aas)
免疫療法薬は、1以上の腫瘍特異的または癌精巣抗原、および/または1以上のそのペプチド、および/または1以上のその融合タンパク質の混合物を含んでもよい。
【0061】
あるいは、前記タンパク質またはその免疫原性断片をコードするDNAを含むベクターを投与してもよい。
【0062】
コード化DNAを担持するベクターに対して免疫応答を発生させることにより、免疫応答全体を増強することができる(すなわち、ベクターはそれ自体でアジュバントとして作用している)。
【0063】
免疫療法薬は、例えば、初回追加免疫レジメンとして投与してもよい。
【0064】
アジュバント
免疫療法薬の成分に関して本明細書で用語「アジュバント」を用いるとき、これは、概して、免疫療法薬の主成分に対する患者の免疫応答を増強する作用物質に関するものである。
【0065】
このようなアジュバントは、当分野では周知であり、個別の製剤で投与してもよいし、免疫療法薬の主成分を含む製剤の1成分であってもよい。
【0066】
本発明の一実施形態では、アジュバントは、水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムであっても、これを含んでもよく、あるいは、カルシウム、鉄もしくは亜鉛の塩であっても、アシル化チロシン、もしくはアシル化糖、カチオンもしくはアニオンによる誘導体化多糖またはポリホスファゼン、の不溶性懸濁液であってもよい。本発明の別の実施形態では、アジュバントは、CpG含有オリゴヌクレオチド(例えば、CpGジヌクレオチドがメチル化されていないことを特徴とするオリゴヌクレオチド)であるか、またはこれを含む。このようなオリゴヌクレオチドは、周知であり、例えば、WO 96/02555に記載されている。
【0067】
本発明の製剤において、アジュバント組成物が、優先的にTH1型の免疫応答を誘導することが望ましい場合もある。一実施形態では、本発明で用いるアジュバントは、例えば、モノホスホリルリピドA、好ましくは3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)を、アルミニウム塩と共に含有してもよい。また、CpGオリゴヌクレオチドもTH1応答を優先的に誘導しうる。
【0068】
一実施形態では、本発明は、モノホスホリルリピドAとサポニン誘導体との組合せ、例えば、WO 94/00153に開示されているようなQS21と3D-MPLの組合せ、またはWO 96/33739に開示のようにコレステロールでQS21をクエンチングした低反応原性組成物、を含むアジュバント系を包含しうる。
【0069】
一実施形態では、アジュバント製剤は、WO 95/17210に記載のように、例えば、水中油型エマルション中にQS21、3D-MPLおよびトコフェロールを含有してもよい。
【0070】
別の実施形態では、アジュバント製剤は、水中油型エマルション中、またはリポソーム製剤中に、QS21、3D-MPLおよびCpGもしくはその同等物またはCpRを含有してもよい。
【0071】
一実施形態では、免疫療法薬のアジュバントは、TLR 7、8もしくは9アゴニスト、例えば、TLR 9アゴニストであってもよいし、これを含有するものでもよい。
【0072】
化学療法薬
本発明の併用療法に用いる好適な化学療法薬として、以下のものが挙げられる:
・例えばシスプラチン(例えば、1〜2時間にわたり、例えば、80 mg/m2を静脈内投与)、カルボプラチンもしくはオキサリプラチンなどのプラチンから誘導された、アルキル化剤、
・植物アルカロイド、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン(例えば、30 mg/m2)、ビンデシン、
・テルペノイド、例えば、パクリタキセルまたはドセタキセル、
・フルラシル、
・ゲムシタビン(例えば30分にわたり、例えば1250 mg/m2を静脈内投与)、
・イソフラボンから誘導した治療薬、例えば、フェノキソディオル(phenoxidiol)、および
・上記のうちいずれかの組合せ、例えば、シスプラチンとゲムシタビンまたはビノレルビン。
【0073】
このように、一態様では、化学療法で用いられる化学療法薬は、タキソール、シスプラチン、ゲムシタビン、ビノレルビン、または多重シグナル伝達調節物質(例えば、フェノキソディオル)から選択される。
【0074】
さらに具体的には、ゲムシタビンは、例えば、約30分にわたり1250 mg/m2を静脈内投与することができ;ビノレルビンは、例えば、約30分にわたり30 mg/m2を静脈内投与することができ;また、シスプラチンは、例えば、約1〜2時間にわたり80 mg/m2を静脈内投与することができる。
【0075】
シスプラチンは、例えば、ゲムシタビンまたはビノレルビンのような他の化学療法薬の1つを注入してから約4時間後に投与することができる。
【0076】
本発明で用いる他の好適な化学療法薬として、ダカルバジン(転移性悪性黒色腫および非ホジキンリンパ腫の治療に現在承認されている)、メルファラン(商品名Alkeran)、テモゾロミド、脳腫瘍、非ホジキンリンパ腫、黒色腫および多発性骨髄腫の治療に用いられるカルムスチン、ならびにタモキシフェンが挙げられる。
【0077】
本発明の一実施形態において、化学療法薬はシクロホスファミドである。
【0078】
コルチコステロイド/制吐薬
本発明の一実施形態において、本明細書に記載する方法または組合せは、コルチコステロイドおよび/または制吐薬、例えば、オンダンセトロンもしくはデキサメタゾンをさらに含むか、またはその投与をさらに含む。これらは、必要に応じて、化学療法薬の補助薬として投与してもよい。本発明の一実施形態では、本明細書に記載する方法または組合せは、デキサメタゾンをさらに含むか、またはその投与もしくは含有をさらに含みうる。コルチコステロイドまたは制吐薬、例えばデキサメタゾンは、本明細書に記載の化学療法薬、または本明細書に記載の免疫療法の前、またはこれと同時に投与することができる。
【0079】
一実施形態では、コルチコステロイドまたは制吐薬、例えばデキサメタゾンは、本明細書に記載の免疫療法の8日、7日、6日、5日、4日、3日、2日もしくは1日前、またはこれと同時に投与することができる。一実施形態では、コルチコステロイドまたは制吐薬、例えばデキサメタゾンは、本明細書に記載の化学療法の8日、7日、6日、5日、4日、3日、2日もしくは1日前、またはこれと同時に投与することができる。
【0080】
本発明はまた、癌の一部または全部を除去するための手術(リンパ節サンプリングまたは完全リンパ節切除を含む)後の癌治療のための免疫療法薬の製造における癌精巣抗原またはその免疫原性誘導体の使用も包含し、その際、上記免疫療法薬は、アジュバントを含み、化学療法もしくは放射線療法と同時に、またはその後、随意に投与する。
【0081】
免疫療法薬は、例えば、ワクチン接種で開始するレジメンにおいて:
・手術から約4週間後、または
・化学療法もしくは放射線療法のような第1選択治療が開始もしくは完了してから4週間以内に、
・化学療法と同時に/一緒に
投与することができ、その後3週間毎にさらにワクチン接種を行なう。これを、例えば、10週間以上、例えば、15、16、20週間以上にわたって続けることができる。
【0082】
維持免疫療法は、必要に応じて、例えば、6〜12ヶ月毎に1回以上のワクチン接種を実施して継続することができる。
【0083】
別の態様では、本発明は、化学療法および/または放射線療法後の癌治療のための免疫療法薬の製造における癌精巣抗原またはその免疫原性誘導体の使用を提供し、その際、上記免疫療法薬は、随意に、化学療法薬および/または放射線療法と同時に投与する。
【0084】
さらに別の態様では、本発明は、後に行なう1以上の癌治療の前に用いる、癌治療のための免疫療法薬の製造における癌精巣抗原またはその免疫原性誘導体の使用を提供する。
【0085】
本明細書の関連で「同時に」または「一緒に」とは、2種類の療法を同時に、すなわち、最初の療法(またはその作用)が患者の系にまだ残っている(すなわち、代謝、排泄等されていない)状態で、投与することを意味するものとする。従って、「同時に/一緒に」は、2種以上の療法が、異なる経路により、および/または異なる時間で投与される場合を含む。一実施形態では、用語「同時に」および「一緒に」は、「同日に」または「1または2時間以内に」を意味すると解釈される。一実施形態では、用語「同時に」および「一緒に」は、「30分以内に」を意味すると解釈される。
【0086】
用語「同時に」および「一緒に」は、本明細書全体を通して、必要に応じて随意に互いに置き換え可能である。
【0087】
本発明はまた、本発明の併用療法の様々な成分を含むキットも包含する。
【0088】
本発明はまた、癌の併用療法における癌精巣抗原をベースとする免疫療法(その組成物を含む)の使用も包含する。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
TC1Mage3治療モデルにおける、CD4+CD25+Tregの枯渇、MAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導される免疫応答、ならびにASCIの治療効果、に対するシクロホスファミド(CY)による前処置の影響の評価。
【0090】
実験プロトコル
第0日に、CB6F1雌マウス(n=10/グループ)のグループに10e5 TC1-Mage3細胞を皮下(SC)投与した後、以下:
グループ1:第3、7、11、15日にPBS
グループ2:第3、7、11、15日にMAGE-A3(1μg)/AS 15 ASCI
グループ3:第0日にシクロホスファミド(CY)(2mg、IP)+第3、7、11、15日にPBS
グループ4:CY + MAGE-A3(1μg)/AS15 ASCI
を注射した。
【0091】
読出し
・第3日および第15日に、全血についてFACSによる枯渇の確認
・第0日から第28日までのin vivo腫瘍増殖
・第28日に、脾細胞に対しICS
・第28日に血清学(完了していない)
リンパ球およびTreg数に対するシクロホスファミドの影響
マウスに腹腔内注射した2mgのCYの影響を分析するために、注射から3日および15日後に採血し、リンパ球計数をFACSにより実施した。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0092】
MAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導される免疫応答に対するシクロホスファミドの影響
最後のASCI注射から14日後に、全MAGE-A3配列にわたるMAGE-A3オーバーラップペプチドのプールによる短いin vitro再刺激(2時間)後、フローサイトメトリー(1グループ当たり3プール)を用いて、CD4およびCD8の細胞内サイトカイン染色により、T細胞応答を分析した。
【0093】
図1はCD4応答を示す。
【0094】
- 注:G4プール1とG5プール1の逆転があるようである。
【0095】
- シクロホスファミド自体は、MAGE-A3特異的CD4応答を何ら誘導しなかった。
【0096】
- ASCI注射前に行なったシクロホスファミドの注射は、ASCIにより誘導されたCD4応答を消失させなかった。ASCIの3日前にシクロホスファミドを投与すると、より良好な応答を支持する傾向がある。
【0097】
図2はCD8応答を示す。
【0098】
- 注:G4プール1とG5プール1の逆転があるようである。
【0099】
- シクロホスファミド自体は、MAGE-A3特異的CD8応答を何ら誘導しなかった。
【0100】
- ASCI注射前に行なったシクロホスファミドの注射は、ASCIにより誘導されたCD8応答を消失させなかった。ASCIの3日前にシクロホスファミドを投与すると、より良好な応答を支持する傾向がある。
【0101】
シクロホスファミド:ASCI併用の治療効果
第0日に、マウス10匹のグループに10e5 TC1 MAGE3細胞を注射してチャレンジした。第0日にシクロホスファミドによる前処置を実施または実施せずに、第3、7、11、15日にMAGE-A3 AS15 ASCIを注射する。
【0102】
4週間にわたり個々の腫瘍増殖を追跡し、マウス10匹のグループ毎に平均腫瘍増殖を記録する。
【0103】
図3は、第0日から第28日までのTC1 Mage3細胞(10e5細胞を注射)のin vivo腫瘍増殖を示す。
【0104】
結論:
- PBSを投与した動物の100%が、増殖性腫瘍を発達させる。
【0105】
- MAGE-A3 AS15 ASCIの注射により、腫瘍増殖が減速する。
【0106】
- 腫瘍チャレンジの日に2mgのシクロホスファミドを1回注射すれば、100%の動物において腫瘍拒絶を誘導するのに十分である。
【0107】
- ASCIを併用しても、100%腫瘍拒絶が達成される。
【0108】
[実施例2]
デキサメタゾンを用いた前処置が、MAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導された免疫応答、ならびに、腫瘍チャレンジからマウスを防御するASCIの能力に否定的な影響をもたらすことができるか否かの評価
マウスにおいて3つの実験(実験20060590、20060803、20070129)のシリーズを実施することにより、以下のものに対する各用量(10、20、50mg/kg)のデキサメタゾンの作用を評価した:
- 脾細胞およびPBLの総数および表現型、
- MAGE-A3 + AS15 ASCI+/-デキサメタゾンにより誘導された体液性および細胞性免疫応答に対するデキサメタゾンの影響、および
- ASCI+/-デキサメタゾンが腫瘍チャレンジからマウスを防御する能力
デキサメタゾン注射の計画は、ある程度ヒトの状況を模倣したもので、化学療法のサイクルを3週間おきとし、各サイクルの前にデキサメタゾンを投与する。
【0109】
ASCIは、患者がその化学療法薬を受けているであろう時点でのデキサメタゾン注射後の日に投与する。
【0110】
これらのマウス実験に用いるデキサメタゾンの用量(10〜50mg/kg)は、マウスの免疫系に影響をもたらすことが既に記載されていた。
【0111】
脾細胞および末梢血リンパ球(PBL)の両者への2回目のASCI注射後1、7および/または14日後に免疫応答の分析を実施した。
【0112】
実施した読出しは以下の通りである:
- リンパ球/細胞数(マルチサイザー)、
- 表面マーカー(CD4、CD8、B、NK細胞)の細胞外染色、ならびにフローサイトメトリー(FACS)による分析
- FACSによる細胞内サイトカイン染色(ICS)
- 血清学(ELISA)
- 腫瘍防御
実験プロトコル
実験に応じて、CB6F1マウスのグループは、以下の処置のいずれか1つを受けた(図4参照):
- PBS
- デキサメタゾン20mg/kg
- MAGE-A3(10μg)/AS15(1/10)IM
- MAGE-A3(10μg)/AS15(1/10)IM + デキサメタゾン10mg/kg〜50mg/kg IP
脾臓およびPBLにおけるリンパ球総数に対するデキサメタゾンの影響
2回目のASCI+/-デキサメタゾンの注射から1、7および/または14日後に各グループにおいてリンパ球総数を分析した。
【0113】
3つの実験から得たデータは、用量10〜50mg/kgのデキサメタゾンを受けたマウスの脾臓において、ASCI注射の1日後に検出したリンパ球総数の減少がみられることを示す。この作用は、ASCIから7および14日後に一時的であり、リンパ球数は回復した。
【0114】
PBLでは、データが一致しないため、解釈がより難しいようであるが、PBLの方がリンパ球数の回復は遅く、2回目のASCIから14日後(最後のデキサメタゾンの注射から18日後)では完全ではないと思われる。
【0115】
図5−実験20060590:n=3マウス/グループ(個別に処置)。
【0116】
図6−実験20060803:n=3マウス/グループ(個別に処置)。
【0117】
図7−実験20070129:n=3マウス/グループ(個別に処置)。
【0118】
脾臓における様々な細胞下位集団に対するデキサメタゾンの影響
最後のデキサメタゾン注射後のどの時点(1、7または14日)でも、脾臓またはPBLにおけるCD4-CD8 T細胞、B細胞もしくはNK細胞の相対%に変化はない。リンパ総数に減少はあるが、全ての細胞下位集団が同様に影響を受けている。PBLでも同様のデータが得られる(示していない)。
【0119】
図8−実験20060590:n=3マウス/グループ(個別に処置)。
【0120】
図9−実験20060803:n=3マウス/グループ(個別に処置)。
【0121】
図10−実験20070129:n=3マウス/グループ(個別に処置)。
【0122】
脾臓およびPBLにおけるMAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導されたCD4およびCD8 T細胞応答に対するデキサメタゾンの影響
3つの独立した実験から得たデータから、実験によっていくらか差はあるものの、予想していたのとは反対に、サイトカインを産生するT細胞を誘導するASCIの能力に対するデキサメタゾンの大きな負の影響はないことがわかる。
【0123】
- 3つの実験のうち2つにおいて、デキサメタゾンの存在下でMAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導されたCD4応答は、MAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導された応答よりやや低いか、これと同等である。
【0124】
- 3つの実験のうち2つにおいて、デキサメタゾンの存在下でMAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導されたCD8応答は、反対に、MAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導された応答よりやや高いか、これと同等である。
【0125】
図11:実験20060590:脾臓におけるCD4応答(n=3マウス/グループ(個別に処置))。
【0126】
図12:実験20060590:脾臓におけるCD8応答(n=3マウス/グループ(個別に処置))。
【0127】
図13:実験20060590:PBLにおけるCD4応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【0128】
図14:実験20060590:PBLにおけるCD8応答(1プール/マウス3匹のグループ)。
【0129】
図15:実験20060803:脾臓におけるCD4応答(n=3マウス/グループ(個別に処置))。
【0130】
図16:実験20060803:脾臓におけるCD8応答(n=3マウス/グループ(個別に処置))。
【0131】
図17:実験20060803:PBLにおけるCD4応答(1プール:マウス3匹/グループ)。
【0132】
図18:実験20060803:PBLにおけるCD4応答(1プール:マウス3匹/グループ)。
【0133】
図19:実験20070129:脾臓におけるCD4応答(n=3マウス/グループ(個別に処置))。
【0134】
図20:実験20070129:脾臓におけるCD8応答(n=3マウス/グループ(個別に処置))。
【0135】
図21:実験20060129:PBLにおけるCD4応答(1プール:マウス3匹/グループ)。
【0136】
図22:実験20070129:PBLにおけるCD8応答(1プール:マウス3匹/グループ)。
【0137】
MAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導された抗体応答に対するデキサメタゾンの影響
最後のASCI注射から14日後で、かつ最後のデキサメタゾン注射から18日後に、1つの実験(20060590)において抗体応答を分析した(図23を参照)。
【0138】
データから、デキサメタゾンの存在下でMAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導された抗体力価に明らかな低下がみられることがわかる。
【0139】
これは、PBLにおいて得られた観察結果と一致するものである。リンパ球総数は、脾臓におけるように急速に回復するのではないようである。
【0140】
n=3マウス/グループ(個別に処置)
腫瘍チャレンジからマウスを防御するMAGE-A3 + AS15 ASCIの能力へのデキサメタゾンの影響
デキサメタゾンによる前処置がASCIの抗腫瘍可能性に有害であるか否かを評価するために、マウス11匹の各グループを3週間毎(第7日および第28日)に2回免疫し、各ASCI注射前の週にデキサメタゾンを数回投与する。
【0141】
- グループ1:PBS
- グループ2:MAGE-A3 + AS15 ASCI
- グループ3:デキサメタゾンのみ
- グループ4:MAGE-A3 + AS15 ASCI + デキサメタゾン
最後の免疫から2週間後、MAGE-A3を発現する10e6マウス腫瘍細胞(TC1-MAGE3細胞)で、マウスをチャレンジした。
【0142】
4週間にわたり、週2回それぞれの腫瘍増殖を記録し、マウス11匹からなるグループ毎に平均腫瘍増殖としてデータを表示する。
【0143】
図24に示すように、PBSまたはデキサメタゾンのいずれかのみを投与したマウスはすべて腫瘍を発達させる。
【0144】
- ASCIを受けた腫瘍は、腫瘍チャレンジから部分的に防御される。
【0145】
- 各ASCI注射前にデキサメタゾンで前処置しても、腫瘍防御に大きな影響をもたらさない。これは、誘導された免疫応答に対する影響がないことと一致する。
【0146】
結論:
リンパ球総数および細胞下位集団に対するデキサメタゾンの影響
デキサメタゾンは、免疫動物の脾臓におけるリンパ球総数に一時的な枯渇を引き起こし、これは、特に1種類の細胞(T、B、NK)に影響せずに起こる。
【0147】
脾臓およびPBLにおいてMAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導されたCD4およびCD8 T細胞応答に対するデキサメタゾンの影響
予想したのとは反対に、サイトカインを産生するT細胞を誘導するASCIの能力に対してデキサメタゾンの大きな負の影響はない。
【0148】
- デキサメタゾンの存在下でMAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導されたCD4応答は、MAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導された応答よりやや低いか、またはこれに等しいが、
- CD8応答は、逆に、MAGE-A3 AS15 ASCIにより誘導された応答よりやや高いか、またはこれに等しい。
【0149】
MAGE-A3 + AS15 ASCIにより誘導された抗体応答に対するデキサメタゾンの影響
MAGE-A3 AS15 ASCIの2回の注射後に達成される抗体力価は、デキサメタゾンの存在下では低下する。
【0150】
MAGE-A3 + AS15 ASCIが腫瘍チャレンジからマウスを防御する能力に対するデキサメタゾンの影響
ASCIにより誘導された防御効果は、デキサメタゾンによる前処置後も保存される。
【0151】
全般的結論
以上を考えあわせれば、これらのデータは、抗体応答に対する負の影響がみられるものの、ASCIの注射前に投与した活性用量のデキサメタゾンによる前処置は、以下の理由から問題がないことを示す:
- T細胞応答に負の影響がなく、抗腫瘍効果の主要成分が認められる。さらに、
- ASCIにより誘導された防御効果は、デキサメタゾンによる前処置後も保存される。
【0152】
[実施例3]
MAGE-A3陽性非小細胞肺癌(IB、IIもしくはIII期)の患者に対し、補助化学(放射線)療法を伴うまたは伴わない補助療法として投与されるrec MAGE-A3 + AS15癌免疫療法薬の安全性および免疫原性を評価するために、フェーズI/II試験を行なっている。
【0153】
IB、IIもしくはIII期のMAGE-A3陽性非小細胞肺癌と病理学的に証明された成人患者が参加する。参加基準は、コホートによって異なるが、これにより、各患者の状態および計画治療が、該当するコホートに適切であることを確実にする。
【0154】
以下の3つの異なる集団の患者が参加する:
i)化学療法を受ける予定の、IB、IIもしくはIIIA期腫瘍を切除した患者(コホート1および2に組み入れ);
ii)化学療法を受ける予定のない、IB、IIもしくはIIIA期腫瘍を切除した患者(コホート3に組み入れ);
iii)化学療法および/または放射線療法を受けた後の、切除不可能なIII期腫瘍を有する患者(コホート4に組み入れ)。
【0155】
図25の図に、この試験における4つの治療アームをまとめる。
【0156】
これは、オープン・4アーム・並行グループ研究である。患者は全員同じ免疫療法薬による治療を受けるが、前文に定義したそれぞれの集団から、以下の4つのコホートに編成される:
コホート1:化学療法を受ける予定の、IB、IIもしくはIIIA期腫瘍を切除した患者。これらの患者は、化学療法および免疫療法を並行して受ける。
【0157】
コホート2:化学療法を受ける予定の、IB、IIもしくはIIIA期腫瘍を切除した患者。これらの患者は、まず化学療法を受け、化学療法の完了後に、免疫療法を受ける。
【0158】
コホート3:化学療法を受ける予定のない、IB、IIもしくはIIIA期腫瘍を切除した患者。これらの患者は、免疫療法を受ける。
【0159】
コホート4:化学療法および/または放射線療法を受けた後の、切除不可能なIII期腫瘍を有する患者。これらの患者は、免疫療法を受ける。
【0160】
免疫療法薬による治療は、免疫アジュバント系AS15と組合せた8種の用量の組換え抗原recMAGE-Aを含む。AS15は、リポソーム製剤中に3D-MPL、QS21およびCpGを含む。上記用量は3週間毎に投与するが、コホート1では、患者の化学療法に合うように適合してもよい。
【0161】
化学療法および放射線療法は、標準プラクティスに基づき、以下のように行なう:
- コホート1において、化学療法は、2〜4サイクルのシスプラチン(CDDP、80 mg/m2、1日サイクル)およびビノレルビン(30 mg/m2、1日および8日サイクル)を含む。
【0162】
- コホート2では、通常の処置方法に従って、検査部位にシスプラチンおよびビノレルビンを予め投与しておく。
【0163】
- コホート3では、MAGE-3の投与前または投与中に、化学療法または放射線療法を施さない。
【0164】
- コホート4において、試験前の放射線療法および化学療法は、当該部位の通常の処置方法に従う。
【0165】
この試験(すなわち、MAGE-3投与)中、補助放射線療法は、III期にある患者のみ、コホート1、2および3において許可し、コホート4では禁止する。この試験中の化学療法は、前述したようにコホート1においてのみ許可し、コホート2〜4では禁止する。
【0166】
患者当たりの当該試験の最大合計時間は、コホートに応じて、30〜35週間とする。
【0167】
補助化学療法および放射線療法
コホート1の場合、recMAGE-A3 + AS15 ASCIの投与は、化学療法の各サイクルの8日目に実施する。この日が選択されたのは、通常、各サイクルの最初の日に投与されるコルチコステロイド(制吐治療として)との同時投与を避ける、または患者が病院に1回余計に足を運ぶ必要(すなわち、各サイクルの14日目)をなくすためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌/腫瘍を有する患者に、腫瘍抗原もしくは癌/精巣抗原またはその免疫原性断片、あるいはその融合タンパク質と、アジュバントとを含む、治療に有効な量の免疫療法組成物を、以下の前、同時および/または後に投与することを含む、治療方法:
i)リンパ節サンプリングまたは完全リンパ節切除(リンパ節切除術)を含むことを特徴とする、癌の一部または全部を除去する手術、および/または
ii)化学療法、および/または
iii)放射線療法。
【請求項2】
前記癌/精巣抗原が、MAGE A1、A2、A3、A4、A5、A6、ならびに/またはMAGE C1および/もしくはC2などのMAGEである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌精巣抗原が、MAGE-A3である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記融合タンパク質が、B型インフルエンザ菌由来のプロテインD、またはプロテインDのアミノ酸1〜109、もしくはプロテインDのアミノ酸20〜127、もしくはプロテインDのアミノ酸1〜127を含むその断片をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記融合タンパク質が、MAGE-A3、またはMAGE-A3のアミノ酸3〜314を含むその免疫原性断片を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記手術が、癌の完全切除である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記癌が、黒色腫、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、肺癌、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)、頭頚部癌、精上皮癌および/または肝臓癌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が、黒色腫、NSCLC、膀胱癌、または頭頚部癌である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アジュバントが、CpG含有オリゴヌクレオチドを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アジュバントが、リポソーム製剤の形態である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アジュバントが、3D-MPLおよび/またはQS21を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
免疫療法組成物の投与前、投与と同時および/または投与後に、デキサメタゾンを投与する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記患者は、IB、IIもしくはIIA期腫瘍を切除している、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記患者は、切除不可能なIII期腫瘍を有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
以下:
i)リンパ節サンプリングまたは完全リンパ節切除(リンパ節切除術)を含むことを特徴とする、癌の一部または全部を除去する手術、および/または
ii)化学療法、および/または
iii)放射線療法
の前、同時および/または後に投与する癌/腫瘍を有する患者の治療のための薬剤の調製における、腫瘍抗原もしくは癌/精巣抗原またはその免疫原性断片、あるいはその融合タンパク質と、アジュバントとを含む免疫療法組成物の使用。
【請求項16】
前記癌/精巣抗原が、MAGE A1、A2、A3、A4、A5、A6ならびに/またはMAGE C1および/もしくはC2などのMAGEである、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記癌精巣抗原が、MAGE-A3である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記融合タンパク質が、B型インフルエンザ菌由来のプロテインD、またはプロテインDのアミノ酸1〜109、もしくはプロテインDのアミノ酸20〜127を含むその断片をさらに含む、請求項15〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記融合タンパク質が、MAGE-A3、またはMAGE-A3のアミノ酸3〜314を含むその免疫原性断片を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記手術が、癌の完全切除である、請求項15〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記癌が、黒色腫、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、肺癌、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)、頭頚部癌、精上皮癌および/または肝臓癌である、請求項15〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記癌が、黒色腫、NSCLC、膀胱癌、または頭頚部癌である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記アジュバントが、CpG含有オリゴヌクレオチドを含む、請求項15〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
前記アジュバントが、リポソーム製剤の形態である、請求項15〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記アジュバントが、3D-MPLおよび/またはQS21を含む、請求項15〜24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
免疫療法組成物の投与前、投与と同時および/または投与後に、デキサメタゾンを投与する、請求項15〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記患者は、IB、IIもしくはIIA期腫瘍を切除している、請求項15〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記患者は、切除不可能なIII期腫瘍を有する、請求項15〜27のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2010−515670(P2010−515670A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544419(P2009−544419)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050133
【国際公開番号】WO2008/084040
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】