癌治療のための抗体およびグルココルチコイドの組み合わせ
【課題】癌性疾患に対する免疫刺激性の抗体を用いた治療におけるサイトカインの非特異的な放出に起因する望ましくない副作用を低減または除去する薬剤の提供。
【解決手段】胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および消化器間質腫瘍(GIST)からなる群より選択される癌性疾患の治療に使用されるモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の免疫刺激性の抗体において、グルココルチコイドの使用に関するものであり、または、少なくとも一の免疫刺激性の抗体および少なくとも一のグルココルチコイドを含んでいる薬学的組成物。
【解決手段】胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および消化器間質腫瘍(GIST)からなる群より選択される癌性疾患の治療に使用されるモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の免疫刺激性の抗体において、グルココルチコイドの使用に関するものであり、または、少なくとも一の免疫刺激性の抗体および少なくとも一のグルココルチコイドを含んでいる薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、免疫刺激性の抗体を用いた疾患の治療におけるサイトカインの非特異的な放出に起因する望ましくない副作用を低減または除去する薬剤の製造のためのグルココルチコイドの使用に関するものであり、また、少なくとも一の免疫刺激性の抗体および少なくとも一のグルココルチコイドを含んでいる薬学的組成物に関するものである。
【0002】
免疫療法処置は、これまでのところ、困難を伴ってしか、または不十分にしか制御することができないが、疾患、特に癌および感染症の治療において増大する役割を果たしている。これに関し、免疫刺激性の薬剤としての抗体の使用が好んでなされている(Glennie and Johnson (2000) Immunology Today 21(8): 403-410を参照されたい)。このようなタイプの免疫刺激性の抗体の有効性は、特に、所定の抗原との特異的な結合の可能性次第である。しかしながら、従来の免疫刺激性の抗体を用いた癌および感染症のような疾患の治療に関する大きな問題は、そのようなタイプの抗体の使用によって引き起こされる深刻な副作用である。上記に関して、深い倦怠感、嘔吐、アレルギー反応、低血圧、頻脈、高熱および致命的な循環障害または臓器不全さえもが、特に、主にSIRS(全身性炎症反応症候群)に起因して観察されている。
【0003】
これらの免疫刺激性の抗体の激しい副作用は、多くの場合において、該抗体によって引き起こされるサイトカインの非特異的な放出に関係しており、それは、報告されている臨床上の副作用の大きい部分についての原因となっている。サイトカインの放出の程度は、免疫刺激性の抗体の使用量および使用速度に依存しており、それぞれの免疫刺激性の抗体の臨床上の許容量を制限する。
【0004】
グルココルチコイドは、古くから、高い効果を有する抗炎症性および免疫抑制作用性の物質として知られている。グルココルチコイドの免疫抑制作用における一つの機構は、そのサイトカインの転写を弱める働きである(例えば、Blotta et al. (1997) J. Immunol.158: 5589 to 5595; Ballow and Nelson (1997) JAMA 278 (22), Chapter 24: 2008 to 2017を参照されたい)。近年では、グルココルチコイドの免疫抑制作用の研究が、特に、T細胞の形成およびその機能について、さらなる進展がなされている(現在の概略は、例えば、Ashwell and Vacchio (2000) Annu. Rev. Immunol. 18: 309 to 345)。効果的な免疫抑制療法の開発において、特に(急性の)移植の拒絶反応を防ぐことに関して、グルココルチコイドの、さらなる免疫抑制剤との組み合わせての使用が、好んでなされている。例えば、ハーベリンら(Herbelin et al.、Transplantation (2000) 68 (5): 616 to 622)らは、グルココルチコイドの事前投与を伴っており、該グルココルチコイドによってTNF−α、IL−2およびIFN−γの産生が低減することに起因する、抗CD3抗体OKT3を用いた急性免疫抑制療法の改善を報告している。しかしながら、現在の技術水準において、抗体療法、例えば、三官能性の抗体(trAB)を用いた療法により、患者の免疫系を刺激することに関して、グルココルチコイドを使用することは、まったく知られていない。さらに言えば、従来、グルココルチコイドが用いられているのは、免疫抑制が治療上の目的である場合である。
【0005】
したがって、本発明の基本的な目的は、免疫系を刺激するように働く抗体の副作用を最も広範囲に有効に緩和するための新規システムを提供することである。
【0006】
上記目的は、請求項において特徴付けられた本発明の実施形態によって達成される。
【0007】
特に、本発明によって、一またはそれ以上のグルココルチコイドの使用が、一またはそれ以上の抗体を用いた疾患の治療におけるサイトカインの非特異的な放出を低減させるための薬剤の製造のために提供される。
【0008】
疾患、特に癌の症例における、免疫刺激のための抗体療法に関しての、グルココルチコイドの今までにない適用は、所定の特異性を有する免疫刺激性の抗体とグルココルチコイドとの組み合わせが、該所定の抗原をターゲットにした該免疫刺激性の抗体の作用が損なわれることなしに、免疫学的な細胞による非特異的なサイトカインの放出の低減をもたらすという驚くべき事実に基づくものである。特に、免疫刺激(例えば、腫瘍細胞に対するもの)のための抗体の使用に関して、抗体とグルココルチコイドとの組み合わせは、結果的な免疫作用の調節をもたらす;すなわち、所定の抗原をターゲットとする抗体の作用は、概ね変化せず、一方、上述の非特異的なサイトカインの放出のような、上記ターゲットとする抗原への結合とは無関係な免疫刺激性の抗体の使用において生じる、非特異的な効果は顕著に低減される。
【0009】
グルココルチコイド(すなわち、一またはそれ以上の)と、一またはそれ以上の免疫刺激性の抗体の組み合わせによれば、技術水準において知られている免疫刺激療法に比べて、免疫療法のための抗体の可能性、特に、臨床への適用性を大幅に広げるいくつかの利点が現れる:
1.サイトカインの上記放出を低減することにより、同じ投与量において、特異的な作用(すなわち、ターゲットとする抗原に対するもの)を概ね変化させなくとも、望ましくない副作用(上に列挙したような)は非常にわずかに生じるのみである。
【0010】
2.上記望ましくない副作用を低減することにより、使用されるべき上記抗体の投与量を増加させることができる。その結果として、グルココルチコイドとの組み合わせによれば、上記抗体の投与量を増加させることにより、作用の多大な増強が可能である。
【0011】
3.驚くべきことに、本発明に従って使用されるグルココルチコイドは、サイトカインの非特異的な(全身的な)放出のみを低減させ、ターゲットとなる抗原への結合とは無関係である。したがって、サイトカインの放出は、抗原結合部位(例えば、腫瘍細胞の結合および意図的な破壊の部位)においてのみ生じる。したがって、上述の、新たに可能となったより多くの投与量に加えて、この効果により、全身的に放出されたサイトカインの影響を受けることなしに、免疫刺激性の抗体の作用が、上記抗原結合部位に集中する。
【0012】
本発明の意義において、用語「抗体」は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体を含んでおり、結合型または可溶型として存在し得、また、これらの抗体の断片も含まれる。また、本発明に係る抗体の断片に加えて、本発明に係る抗体はまた、他の(タンパク質)構成要素との融合タンパク質のような組換え体として存在し得る。そのような断片、または融合タンパク質の構成要素としての本発明に係る抗体の断片は、典型的には、酵素による切断の方法、タンパク質合成の方法、または当業者に慣用されている組換え技術によって、生産される。本発明に係る最も好適な抗体は、三官能性の抗体(trAB)である。
【0013】
本発明に係るキメラ抗体は、さまざまな動物種由来の、さまざまな構成要素を含んでいる分子である(例えば、マウスモノクローナル抗体由来の可変領域、およびヒト免疫グロブリン由来の定常領域を示している抗体)。キメラ抗体は、一方では、使用の際の免疫原性を低減させるために、他方では、生産時の収量を高めるために好適に使用される;例えば、マウスモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞株から高収量に生産されるが、ヒトにおいて、高い免疫原性を招く。そのため、ヒト/マウスキメラ抗体が好適に使用される。マウスモノクローナル抗体の超可変相補性決定領域(CDR)が、ヒト抗体の残りの部分とともに自抗体中に組合されているモノクローナル抗体は、さらに好適である。キメラ抗体およびその製造方法は公知である(Cabilly et al., Proc. Natl. Sci. USA 81: 3273-3277 (1984); Morrison et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 81:6851-6855 (1984); Boulianneet al. Nature 312: 643-646 (1984); Cabilly et al., EP-A-125 023; Neuberger et al., Nature 314: 268-270 (1985); Taniguchi et al., EP-A-171 496; Morrionet al., EP-A-173 494; Neuberger et al., WO 86/01533; Kudo et al., EP-A-184 187;Sahagan et al., J. Immunol. 137: 1066-1074 (1986); Robinson et al., WO 87/02671; Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 84: 3439-3443 (1987); Sun et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 84: 214218 (1987); Better et al., Science 240: 1041-1043 (1988) and Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, supra.)。これらの引用された参照文献は、開示の補助として、本発明に組み込まれる。
【0014】
本発明の意義において、表現「免疫刺激性の抗体」または「免疫治療用の抗体」は、それぞれの抗体が、その抗原特異性によって、それぞれの疾患の治療の範囲において望まれる、患者の免疫系の刺激(賦活)を引き起こす、または補助することを意味する。
【0015】
とりわけ、本発明の意義において、免疫刺激性の抗体は、T細胞の活性化を誘導する。このことに関する特に有利な点は、細胞傷害性T細胞(CTL、細胞傷害性Tリンパ球、いわゆるキラーT細胞)の活性化である。しかし、免疫刺激性の抗体は、例えば、ヘルパーT細胞、補助細胞(マクロファージ)、樹状細胞、B細胞、またはナチュラルキラー細胞(NK細胞)を介して生じる抗体媒介効果もまた包含している。
【0016】
特に好適な免疫刺激性の抗体は、多重特異性、特に二重特異性、および/または多官能性、特に三官能性である。特に、二重特異性抗体について、例えば、scFv分子(いわゆる単鎖抗体)、二量体等の、組換え技術により生産された、組換え抗体分子が後述される。二重特異性抗体および免疫複合体が、例えば、van Spriel et al. (2000) Immunol. Today 21: 391-397に示されている。二重特異性抗体は、当然、公知のハイブリドーマ技術によってもまた生産され得る。多価の二重特異性抗体の断片を製造するための方法は、当業者において知られており、例えば、Tomlinson and Holliger (2000) Meth. Enzymol.326: 461ffに記載されている。特に好適な二重特異性抗体の例は、そのFc部位、すなわち、抗原への結合に直接的に関与しない抗体の部位に、免疫補助細胞が結合し得る、三官能性の二重特異性抗体である。
【0017】
本発明に係る好適な免疫刺激性の二重特異性抗体は、例えば腫瘍細胞のような傷害すべき細胞上の抗原に対する少なくとも一の特異性と、CDマーカーに対する少なくとも一の特異性を示すものである。そのようなタイプの免疫刺激性の二重特異性抗体のCDマーカーは、好ましくはTリンパ球上に発現され、したがって、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択される。上記二重特異性抗体のT細胞への特異性は、結果的に、一方では、特異的な様式で、T細胞を集める。免疫刺激性の活性な抗体の、好適な第2の特異性は、免疫系によって排除されるべき細胞上に、可能な限り特異的に発現している抗原に対するものである。癌細胞の場合、それはいわゆる腫瘍抗原、すなわち腫瘍細胞の表面に発現しているペプチドまたはポリペプチドである。癌細胞に対して免疫刺激性の様式で活性である抗体の好ましい腫瘍抗原は、例えば、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA(CD10)、MHCII、CD44v3、CD44v6、CD117、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原である(Jager (2001) J. Clin. Pathol. 54(9): 669-674; Jager (2002) Curr. Opin. Immunol. 14(2): 178-182も参照されたい)。
【0018】
この文脈において得に好ましいのは、上述したように、一またはそれ以上の補助細胞への結合部位をFc部位に有する、二重特異性抗体の変異体である。このタイプの抗体は、例えば腫瘍細胞のような除去すべき細胞、およびT細胞を集めるだけではなく、同時に、単球またはマクロファージのような補助細胞も集めて、これにより、「三細胞の複合体」を形成する。第3の細胞結合の相手を集めることにより、除去すべき細胞の食細胞が開始される。またこれは、ひいては、除去すべき細胞上に発現している単離された抗原だけではなく、患者の体内において、可能な限りの変異を伴って存在している除去すべき細胞、特に腫瘍細胞に対して該患者を免疫する結果としてのポリクローナルな免疫反応の発生に必要である。特に、本発明に従った免疫刺激の様式において活性な三官能性の二重特異性抗体の好適な特に実施形態が、例えば、抗EpCAM×抗CD3、または抗HER2/neu×抗CD3の特異性を伴って与えられる。
【0019】
本発明に従って使用されるグルココルチコイドは、特に限定されるものではなく、天然に生成したもの、例えばハイドロコルチゾン(コルチゾル)もしくはコルチゾン、または合成されたものであり得る。生物学的な半減期(短期間活性である、中期間活性である、および長期間活性である)についての選択にかんしても何の制限も存在しない。本発明に従って使用される合成グルココルチコイドは、例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシド(budenoside)であるが、これらに限られない。
【0020】
本発明に係る特に好適なグルココルチコイドは、グルココルチコイドデキサメタゾンである。デキサメタゾンは、合成グルココルチコイドであり、その半減期は36時間から54時間に達し、これは長期間活性なグルココルチコイドに属する。従って、継続的なグルココルチコイドの作用が必須な処置のために特に好適である。デキサメタゾンは、投与されると、70〜80%の割合でアルブミンに結合する。そのため、遊離した活性のグルココルチコイドの割合は20〜30%である。デキサメタゾンは、天然の副腎皮質ホルモンコルチゾンの約30倍強力な作用を有しており、わずかに鉱質コルチコイド作用作用を有しており、わずかな保水作用および保塩作用を有している。他の多くの適用のなかでも、心不全または心臓肥大を伴う患者への適用が特に好適である。さらに治療上重要なことは、デキサメタゾンの強力な消炎作用および免疫抑制(抗アレルギー)作用である。また、静脈注射後数分の内に、最大の血漿中濃度が得られるという事実も利点である。
【0021】
グルココルチコイド(または数種のグルココルチコイド)とともに用いられる本発明に係る免疫治療用の抗体(または数種の抗体)を用いて治療され得る癌性の疾患の例として、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、気管支癌(全組織型)、リンパ腫、肉腫、非小細胞肺癌、芽細胞腫、消化器間質腫瘍(GIST)等を挙げることができる。
【0022】
本発明に従った、免疫刺激性の抗体およびグルココルチコイドの投与方法については、何の制約もない。したがって、上記グルココルチコイドおよび上記抗体は、腹腔内に、全身的に(静脈内に、または動脈内に)、筋肉内に、皮内に、皮下に、腫瘍内に、または所定の組織に、もしくは所定の組織を介して選択的に、投与され得る。また当然、グルココルチコイドは、特に、経口で投与され得、軟膏、ジェル、またはその他の投与に好適な形態であり得る。投与は、皮膚上への投与であってもよい。所定の組織への、もしくは所定の組織を介しての選択的な投与の例としては、(免疫学的組織としての)骨髄を介しての投与、またはそれぞれの組織に供給を行う血管(動脈)への超選択的カテーテルを介しての投与を挙げることができる。カテーテルによるそのようなタイプの投与の具体的な例としては、肝臓への選択的な投与、または肝臓を介しての全身的な投与のための肝動脈(A.hepatica)へのカテーテル手段が挙げられる。組織特異的な投与のさらなる例としては、門脈を介した肝臓への投与、腎動脈を介した腎臓への投与、脳腫瘍の場合のくも膜下構内への投与、腸間膜を介した結腸領域への投与、腹腔動脈および上腸間膜動脈を介しての膵臓への投与、および対応する動脈を介しての手足の腫瘍への投与がある。その上さらに、腫瘍への直接的な投与も効果的であり得る。もちろん、本発明に係る、免疫刺激性の抗体、およびグルココルチコイドの使用に当たっては、これらの活性の組成物の投与は、同様の方法で、または異なった方法で実施される;例えば、抗体は選択的に肝臓へ、グルココルチコイドは、例えば静脈内投与により全身的に行うことができる。
【0023】
グルココルチコイドは、例えば、免疫刺激剤として働く抗体に対して、同時に、別個に、または時期をずらして投与され得る。したがって、グルココルチコイドは、上記抗体に対して、時間的に前、後、または同時に投与され得る。特に好適な実施形態によれば、グルココルチコイドおよび免疫刺激性の抗体は、おおよそ同時に投与される。
【0024】
本発明のさらなる目的は、癌性の疾患、腫瘍性の疾患の治療または予防に関する、少なくとも一の、上述したような免疫刺激性の、または免疫治療用の抗体、および少なくとも一の、上述したようなグルココルチコイドを、同時に、別個に、または時期をずらして投与されるために組合わせて調製された形態に含んでいる製品である。癌性の疾患は、例えば、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および/または消化器間質腫瘍(GIST)を含んでいる。
【0025】
本発明に係る製品の成分である、少なくとも一の、上述したような免疫刺激性の、または免疫治療用の抗体(第1成分)、および少なくとも一の、上述したようなグルココルチコイド(第2成分)は、それらの目標とする使用のために機能的に統合されている。上記製品の成分は、互いに独立には、上述したような、本発明に係る有利な作用を生み出し得ない。したがって、第1成分および第2成分(同時に、別個に、または時期をずらした投与)の空間的な分離にもかかわらず、本発明の実施は、新規な組み合わせの形態として得られるものであり、技術水準において記載されたものではない。
【0026】
本発明に係る製品は、方法、治療法、疾患の治療および/もしくは予防方法、または本発明に係る混合された治療法において採用し得るすべての成分、物質、および実施形態を含むものである。
【0027】
本発明のさらなる目的は、少なくとも一の、上述したような免疫刺激性の、または免疫治療用の抗体、および少なくとも一の、上述したようなグルココルチコイドを含んでいる薬学的組成物に関するものである。本発明に係る薬学的組成物は、特に、上に列挙したような疾患を治療するために好適である。本発明に係る薬学的組成物の薬学的に活性な成分は、詳細に後述するような、一またはそれ以上の担体および/または補助物質を結合されて存在していてもよい。
【0028】
すなわち、本発明は、少なくとも一つの免疫刺激性の抗体と、少なくとも一つのグルココルチコイドと、任意に一つまたはそれ以上の薬学的に適合可能な担体および/または補助薬を含んでいる、薬学的組成物に関する。好ましくは、上記グルココルチコイドは、合成グルココルチコイドであり、例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシドからなる群より選択されるものである。
【0029】
上記薬学的組成物の好ましい実施形態において、上記抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の抗体である。好ましくは、上記抗体は、二重特異性であり、個々が、腫瘍抗原およびCDマーカーに対して少なくとも一つの特異性を示すものである。例えば、上記CDマーカーは、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択される。例えば、上記腫瘍抗原は、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原からなる群より選択される。
【0030】
上記薬学的組成物の好ましい実施形態において、上記抗体は、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性の抗体である。
【0031】
本発明に係る薬学的組成物は、好ましくは、癌性の疾患および腫瘍性の疾患からなる群より選択される疾患を治療するための薬学的組成物である。例えば、上記癌性の疾患は、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、および芽細胞腫からなる群より選択される。
【0032】
本発明に係る薬学的組成物、またはグルココルチコイドの本発明に係る使用において、グルココルチコイドおよび抗体は、好適な処方により有利に作られる。そのようなタイプの処方は、当業者に知られており、治療または免疫刺激の態様で働く物質に加えて、一またはそれ以上の薬学的に適合可能な担体および/または薬学的に適合可能な賦形剤を含んでいる。好適な処方、およびそのようなタイプの処方の製造のための適切な方法は、たとえば、文献”Remington's Pharmaceutical Sciences”(Mack Pub. Co., Easton, PA, 1980)に開示されており、該文献の全内容は、本発明の開示の一部分として組み込まれる。非経口での投与のために、滅菌水、滅菌された食塩水、ポリアルキレングリコール、水和ナフタリン、および特に、生体適合性のラクチド高分子、例えば、ラクチド/グリコリド共重合体、またはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体が担体物質として考慮される。本発明に係る薬学的組成物は、金属イオンとの複合化、または、例えばポリ乳酸塩、ポリグリコール酸、ハイドロジェルのような高分子化合物の特定の調製物の中もしくは上に、もしくはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層小胞、多層小胞、赤血球断片、芽球上に物質を含ませるために、充填物質、ラクトース、マンニトールのような物質、例えばポリエチレングリコールのような高分子と、本発明に係る免疫刺激性の抗体との共有結合のための物質を含み得る。上記薬学的組成物のそれぞれの実施形態は、例えば、可溶性、安定性、生物学的利用性、または分解性のような物理的特性に従って選択される。本発明に係る活性物質成分の制御されたまたは定常な放出は、親油性の沈殿(例えば、脂肪酸、ろう、または油脂)を主とする処方を含んでいる。本発明の範囲には、本発明に係る薬学的組成物または薬剤の被覆は、薬学的に活性な物質を含む。つまり、高分子によって被覆することがまた開示されている(例えば、ポリオキサマー、またはポリオキサミン)。その上、本発明に係る薬学的に活性な物質または組成物は、例えば、プロテアーゼ阻害剤、または浸透性増強剤のような保護被覆を有し得る。好適な担体は、典型的には、水性の担体物質であり、注射用水(WFI)、またはリン酸塩、クエン酸塩、HEPES,または酢酸等によって緩衝された水であり、pHは、典型的には5.0〜8.0(好ましくは6.5〜7.5)に調整される。上記担体または上記賦形剤は、付加的に、選択的に、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、または他の例えば溶液を等張性にする物質のような塩成分を含んでいる。上記担体または上記賦形剤はさらに、上述した成分に加えて、ヒト血清アルブミン(HSA)、ポリソルベート50、砂糖、またはアミノ酸等の付加的な成分を含み得る。
【0033】
本発明に係る薬剤、製品、または薬学的組成物の投与方法は、対処すべき疾患のタイプ、適切な時期、制御すべき抗原、ならびに、患者の体重、年齢、および性別に依存する。
【0034】
本発明に係る処方の活性成分の濃度は、広い範囲に変化し得る。抗体の本発明に係る投与量は、約1μgから約1mgまで変動する。一方、グルココルチコイドは、一般に、約1mgから約1000mgの範囲で投与され、特に約1mgから約100mgの範囲で投与される。
【0035】
本発明によれば、さらに、上述したような免疫刺激性の抗体および少なくとも一のグルココルチコイドを患者、特に人間の患者に投与することを含む、上述した疾患の治療方法が提供される。これに関して、免疫刺激性の抗体より前の、または同時の、グルココルチコイドの事前投与または同時投与が好ましい。当然、本発明によれば、いくつかの免疫刺激性の抗体およびいくつかのグルココルチコイドが任意の組合わせて用いられ得る。
【0036】
本発明のさらなる目的は、すくなくとも一の上述したような免疫刺激性または免疫治療用の抗体、および少なくとも一の上述したようなグルココルチコイドを含んでおり、該すくなくとも一の上述したような免疫刺激性または免疫治療用の抗体、および該少なくとも一の上述したようなグルココルチコイドは、互いに分離されているキットに関するものである。
【0037】
本発明の好適な実施形態は、癌性の疾患、腫瘍性の疾患の治療または予防のためのキットの使用に関する。癌性の疾患は、例えば、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、非小細胞肺癌、芽細胞腫、および/または消化器間質腫瘍を含んでいる。
【0038】
図面は以下の通りである:
図1は、EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いて刺激を行った後、およびEpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いずに刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【0039】
図1Aのy軸は、濃度単位pg/mlのIL−6の放出を示しており、x軸は、PBMCの各刺激を示している。刺激されないPBMC(「PBMC」バー)は、コントロールを示す。このグラフにおいて、Eはそれぞれ、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する、100μg/mlの三官能性二重特異性抗体(trifuntional bispecific antibody)を示している。特定の濃度μg/mlを有するデキサメタゾンは、「Dexa」と示されている。図1Aによる実験では、PBMCからのIL−6の放出は、EpCAM陽性癌細胞(=標的細胞)と接触させずに刺激を行った後に調査した。EpCAM陽性癌細胞を用いずに行う刺激は、抗原結合に非依存的なサイトカインの非特異的な放出に対応している。放出は、PBMCの全身性(totality)により、全身的に生じる。図1Aに示されているように、デキサメタゾンは、IL−6の放出を濃度依存的に低下させる。濃度1μg/mlの場合、IL−6の放出はほぼ完全に抑制される。従って、全身的なIL−6の放出によって生じる副作用は、十分に高容量のデキサメタゾンを投与することによって、ほぼ完全に抑制されるはずである。
【0040】
図1Bは、図1Aと対応する図であって、EpCAM陽性癌細胞(HCT8の濃度は、5×104細胞/ml)と接触させて刺激を行った後における、PBMCからのIL−6の放出を示している。EpCAM陽性癌細胞を用いた刺激の手順は、PBMCの抗原結合部位からのIL−6の放出状況と対応している。従って、この実験的な構成において測定されるIL−6は、望ましくない副作用を後に引き起こすことのない、今回用いられている抗体の特異的(すなわち標的)作用と対応している。IL−6は、特異的な免疫反応に直接関連する免疫細胞のみから放出される。従って、絶対的に高い放出(図1Bのy軸の目盛り、および図1Aのy軸の目盛りを参照されたい)は、高度な副作用の兆候として評価されるべきではないが、抗原結合部位における特異的な免疫学的作用として説明される。免疫刺激性の抗体(immunostimulatingantibody)をグルココルチコイドと共に臨床的に用いた場合、特異的な作用に直接関連する少量のPBMCから、多量のIL−6が放出される。しかし、PBMCの全身性によるインターロイキンの非特異的放出によって(図1A参照)、副作用が生じる。図1Bから明らかであるように、デキサメタゾンの濃度が1μg/mlである場合、IL−6の放出は確かに低下するが、デキサメタゾンを投与せずに、EpCAM陽性癌細胞を用いずに抗体刺激を行った場合に観察される全身的な放出を遥かに上回る(図1A参照)。従って、免疫刺激性の抗体とデキサメタゾンとを組み合わせて投与した場合、非特異的なIL−6の放出が大幅に抑制されるが、免疫刺激性の抗体の標的とする作用(targeted action)は顕著なままである。
【0041】
図1Cは、上述の図1Aおよび図1Bに従って、HCT8細胞(標的細胞)を用いて刺激を行った後と、HCT8細胞(標的細胞)を用いずに刺激を行った後とにおけるIL−6の放出をパーセンテージ比較した図を示している。y軸には、デキサメタゾンを同時使用しない場合の値(=100 %)に対する、IL−6の放出が示されている。左手のバーはそれぞれ、HCT8を用いずに刺激を行った場合の値を示しており、右手のバーはそれぞれ、HCT8細胞を用いて刺激を行った後の結果を示している。デキサメタゾンの投与量が0.1μg/mlから1μg/mlまでの間において、HCT8細胞の非存在下においてPBMCを刺激した後のIL−6分泌が、HCT8細胞の存在化における刺激したときに対して乖離する:1μg/mlのデキサメタゾンを投与して刺激を行った場合、特異的(すなわちEpCAM陽性癌細胞の結合によって生じる)作用に関連したIL−6の放出が維持される。これとは対照的に、抗原結合(この場合は、HCT8細胞におけるEpCAM結合)に非依存的なIL−6の非特異的分泌が大幅に低下、あるいは消失する。
【0042】
図2は、EpCAM陽性癌細胞を用いずに、およびEpCAM陽性癌細胞の存在下において、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性の二重特異性抗体を用いて刺激を行った後における、腫瘍壊死因子α(TNF−α)の放出結果を示している。
【0043】
図2Aは、上述の図1A(IL−6の放出を示す)と同様の方法によって、EpCAM陽性癌細胞と接触させずに刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。TNF−α濃度は、y軸においてpg/mlで示されている。この標的細胞を用いない刺激は、図1Aに照らして既に説明したように、抗体/抗原間の相互作用とは非依存的に生ずるサイトカインの全身的かつ非特異的放出と対応している。この全身的なTNF−αの放出は、PBMC集団(PBMC population)によってもたらされる。デキサメタゾンは、TNF−αの放出を濃度依存的に低下させる。既に濃度0.1μg/mlにおいて、TNF−αの大幅な放出が生じている。この低下は、グルココルチコイドを投与せずに抗体刺激を行った場合におけるTNF−α放出の約5分の1に達する。グルココルチコイド濃度が1μg/mlおよびこれ以上である場合、TNF−αの放出が完全に抑制される。
【0044】
図2Bは、図1Bと同様の図であって、EpCAM陽性癌細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。この図でもまた、TNF−α濃度は、y軸においてpg/mlで示されている。残りの目盛りは、図1Bと同様である。EpCAM陽性癌細胞を標的細胞として用いて行う刺激は、この実験的な構成において行われたものだが、抗原結合部位におけるPBMCからのTNF−α放出の状況と対応している。従って、この実験において測定されるTNF−α濃度は、大部分が、抗体の特異的(標的)作用に帰するものであり、望ましくない副作用を結果的に引き起こすことがない。EpCAM陽性癌細胞に接触させて刺激を行った場合は、標的細胞に接触させずに刺激を行った場合と比較して、絶対的に高いTNF−αの放出値が測定される。しかしこの原因は、図1Bに示すIL−6の放出に関連して既に説明したように、抗体/抗原間の相互作用部位における特異的な免疫学的作用にある。また、この場合において、1μg/mlまたはこれ以上の濃度のグルココルチコイドデキサメタゾンを投与してTNF−αの放出を調査すると、特異的TNF−αの放出量の明確な低下が観察されるが、しかし放出量はまだ顕著である。
【0045】
図2Cは、図1Cと同様の図であって、HCT8標的細胞を用いずに刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ左側のバー)と、HCT8標的細胞を用いて刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ右側のバー)とのパーセンテージ比較を示している。100 %値は、デキサメタゾンを同時投与しない場合のTNF−αの放出と対応している。アプリケーション(application)については、図1Cを参照されたい。TNF−αに関しては、デキサメタゾン投与量が0.1μg/mlから1μg/mlまでの間において、標的細胞による刺激が行われていないサイトカイン分泌の、標的細胞と接触させて刺激を行った場合に対する乖離が観察される。デキサメタゾン濃度が1μg/mlである場合、(EpCAM陽性癌細胞の結合により)特異的な作用に関連したTNF−αの放出が維持される(グルココルチコイドを同時添加しない場合の抗体刺激に対して、サイトカインの放出が60 %以上)。これとは対照的に、デキサメタゾンを0.1μg/ml添加した場合、抗原結合(HCT8細胞におけるEpCAM結合)に非依存的に生じるTNF−αの非特異的な分泌が、デキサメタゾンを添加せずに抗体刺激を行った場合に測定された値の少なくとも20%まで低下する。1mg/mlのデキサメタゾンを投与した場合、TNF−αの非特異的放出は完全に消失する。
【0046】
図3は、上述の図1および図2と対応するさらなる図であって、標的細胞(EpCAM陽性癌細胞)と接触させていない二重特異性抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用いて刺激を行った後におけるPBMCからのインターフェロン−γ(IFN−γ)の放出と、標的細胞(EpCAM陽性癌細胞)と接触させた二重特異性抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用いて刺激を行った後におけるPBMCからのインターフェロン−γ(IFN−γ)の放出とに関する結果を示している。IFN−γは、(TNF−αと同様に)TH11−特異的(Tヘルパー細胞1型特異的)サイトカインであって、さらにT細胞媒介抗原特異的な標的細胞破壊のマーカーである。IFN−γは、抗原に対して刺激を行った後、活性化された特異的T−リンパ球によって分泌される。従ってIFN−γは、標的細胞と同時接触させていない抗体を用いて刺激を行った場合は発生しない。なぜなら、この場合、標的とされる抗原/抗体間の相互作用に基づいて刺激が行われないからである。
【0047】
図3Aは、図1Aおよび図2A(y軸は、濃度単位pg/mlのIFN−γを示す)と同様の図であって、上述の期待を確認するものである。刺激が行われない場合、IFN−γの放出はEpCAM陽性癌細胞(HCT8)との接触なしに起こる。
【0048】
図3Bは、EpCAM陽性癌細胞(HCT8)と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのIFN−γの放出を示している。標的細胞(HTC8)と接触させた二重特異性抗体を用いてPBMCを刺激した場合、IFN−γが顕著に放出される。このIFN−γの顕著な放出は、グルココルチコイドを添加しなかった場合は、6000pg/ml以上に達する。デキサメタゾンを0.01μg/mlの同時投与した場合、IFN−γの放出はやや増加する(7000pg/ml以上)。デキサメタゾン濃度が0.1μg/mlの場合、IFN−γの放出は3000pg/ml未満に低下するが、それでもやはり顕著である。
【0049】
図3Cは、図1Cおよび図2Cと同様の方法によって、HCT8標的細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出(ここではIFN−γ)と、HCT8標的細胞と接触させていない抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出とのパーセンテージ比較を示している。
【0050】
図4は、濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。図4A〜図4Eの各例において、y軸には、活性マーカー(図4Aおよび4CではCD25、図4Bでおよび4DではCD69、図4EではHLA−DR)の発現したCD3/CD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)またはCD3/CD8陽性Tリンパ球(キラーT細胞)の割合比をプロットしている。測定はFACS解析により行った。図4A〜Eにおける左側のバーは、ぞれぞれ、HCT8標的細胞(濃度5×104cells/ml)に接触しない刺激の結果を示しており、右側のバーは、ぞれぞれ、HCT8標的細胞に接触する場合の測定値を示している。三官能性二重特異性抗体の刺激がHCT8標的細胞への接触による場合、すなわち標的抗原の結合に特異的な刺激と一致する場合、図4A〜4Eにおいて変化することのない高い測定値が示すように、T細胞活性はデキサメタソンによる影響を受けない。
【0051】
図5は、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定結果を示す図であり、蛍光標識したHCT8腫瘍細胞を用いた2時間の細胞傷害性試験により測定した。図5A〜5Dにおいて、HCT8に対する特異的な細胞傷害性のパーセンテージは標的細胞に対するエフェクター細胞(E/T)の比率としてプロットされており、上記細胞傷害性試験は、標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が40:1、20:1、10:1、5:1および2.5:1の場合を各例として実施している。各試験において、HCT8細胞なしの抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する100μg/mlの三官能性二重特異性抗体(E)を用いた刺激は、HCT8細胞の存在下でも行われ(E+HCT8)、また、デキサメタソン(濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、1.0μg/ml、または10.0μg/ml)の付加的な投与を、HCT8細胞に接触しない状態(E+μg/ml Dexa)、およびHCT8細胞に接触する状態(E+μg/ml dexa+HCT8)において受けた。
【0052】
図5Aは、特異的な細胞傷害性のパーセンテージにおける濃度0.01mg/mlのデキサメタソンの影響を示している。デキサメタソンなしのPBMCと比べて、同図では、グルココルチコイドのおかげで、特異的な細胞傷害性のパーセンテージに抑制が生じていない。
【0053】
図5Bは、濃度0.1μg/mlのデキサメタソンの影響に関する対応する測定の結果を示している。このデキサメタソン濃度では、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの抑制に約50ポイントの差異が生じている。この点について、HCT8細胞が存在している場合と、存在していない場合との刺激には明確な差異が生じていない。
【0054】
図5Cは、濃度1μg/mlのデキサメタソンを用いた比較測定の結果を示している。図5Cの例においてもまた、特異的な細胞傷害性のパーセンテージに明確な差異が生じている。PBMCがHCT8細胞の存在に影響されている場合、グルココルチコイドの濃度が0.1μg/ml(図5B参照)の場合において立証されたものとほぼ同じレベルである。標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が20:1の場合には、HCT8のない場合においてPBMCの特異的な細胞傷害性のパーセンテージの抑制がより一層大きくなっている。
【0055】
図5Dは、濃度10μg/mlのデキサメタソンの場合の対応する測定の結果を示している。HCT8細胞の存在するPBMCの刺激の場合において、このデキサメタソン濃度における特異的な細胞傷害性のパーセンテージは、デキサメタソン濃度が0.1μg/mlおよび1μg/ml(図5Bおよび5C参照)の場合に確立した値とほぼ一致している。標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が20:1の場合には、30%の細胞傷害性が生じており、標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が2倍になると細胞傷害性は、60%となる。その一方で、HCT8の存在しないPBMCの刺激の場合においては、より低いデキサメタソンの濃度に対して細胞傷害性の値がさらに減少する。
【0056】
図5A〜5Dに示した結果に関して、デキサメタソンは、0.01μg/mlの濃度では、刺激されたPBMCの細胞傷害性について影響を与えていない。刺激中におけるHCT8の存在の有無に関わらず、0.1μg/mlの濃度から細胞傷害性がはっきりと減少する。デキサメタソンの濃度を上記の3つの範囲(0.1μg/ml〜10μg/ml)とし、標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が40:1であり、HCT8が存在する条件における刺激の場合には、具体的な細胞傷害性の割合はデキサメタソンなしで測定した細胞傷害性の40%〜60%のレベルを維持する。したがって、標的細胞(T)に対するエフェクター細胞(E)の比率が一致する場合、広い濃度範囲内におけるグルココルチコイドの添加において、HCT8細胞の存在下において刺激したPBMCの細胞傷害性の差異は、一定に維持される。一方で、細胞傷害性は、HCT8の存在しないPBMCの刺激の後、デキサメタソン濃度に依存してさらに減少する。
【0057】
図6は、化学療法抵抗性の胃癌の患者の治療における免疫学的なパラメータの検査値を示す図である。本発明に基づけば、免疫活性化剤として、三官能性であり、腫瘍細胞に対して二重特異性を有する抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用い、免疫療法による副作用の抑制のためにグルココルチコイド(デキサメタソン)を用いる。図6A〜6Eのy軸におおける測定値は、それぞれ特殊化したユニットにおける各例としてプロットされている。経過日における治療作用はx軸に示されている。この点について、Eは上記の免疫活性化抗体の投与を投与量(μg)腹腔内と併せて示している。また、Dexは投与されるデキサメタソンの投与量(mg)皮下を示している。
【0058】
図6Aは、白血球濃度(g/l)(黒いひし形)および血清CRP濃度(mg/dl)(黒い四角形)の曲線を示す図である。day0およびday4におけるはじめの2回の抗体投与は、グルココルチコイドを添加投与することなく行われている。この治療条件において、特に「急性期タンパク」CRPの血清濃度が40mg/dlに上昇している。抗体の投与量を500μgに上昇するとともに、デキサメタソンを添加投与する治療のさらなる作用において、CRP血清レベルは通常値に戻る。本発明に係る組み合わせ治療における白血球濃度もまた、20g/l以下を維持する。健康な成人の通常値は、4g/lから11g/lの間を変動している。白血球数の増加の観測もまた、所望の免疫活性の発現である。
【0059】
図6Bは、特異の血球数中におけるリンパ球の割合比の曲線を示す図である。治療の初期段階での抗体のみの治療の場合、および免疫治療用の抗体の投与量をさらに増加すると共にデキサメタソンを添加投与する場合の双方において観測した変動は、期待通りである。特に、本発明において、抗体とグルココルチコイドとの組み合わせ投与の終了に向かうにつれて、測定値は、ほぼ健康な成人の通常値(20%〜30%がリンパ球)の範囲内の状態となっている。
【0060】
図6Cは、IL−2受容体の血清濃度の曲線を示している。当初は免疫活性化抗体の投与量腹腔内を100μgにまで増加し、デキサメタソンの添加投与量を約5.5ng/mlとしているため、値は治療の開始時点において、約1ng/mlから約2ng/mlに上昇している。しかし、三官能性であり、二重特異性抗体の投与量をさらに増加させ、同時にグルココルチコイドの同時投与する投与量を10mg皮下としているにもかからわず、IL−2受容体の濃度は治療の終了時点に向かって再度低下し、1ng/ml以下となる。
【0061】
図6Dは、胃癌の患者において測定した血清中TNF−α濃度(pg/ml)の曲線を示している。TNF−αは、細胞免疫活性の発現と同様に、免疫療法の抗体の投与量を10μgから500μgに増加する治療により上昇している。抗体のみを少量投与した場合には50pg/ml以下の値であるが、200μgまたは500μg腹腔内の二重特異性抗体に加えて10mg皮下のデキサメタソンを投与した場合には、いずれの例においても約200pg/mlとなる。したがって、グルココルチコイドを投与することにより、副作用を抑制し、免疫療法の抗体の投与量をより一層増加することができる。本発明において、優れた細胞特異性免疫活性は、治療またはグルココルチコイドの使用の過程において観測される。
【0062】
図6Eは、治療をx軸にプロットした場合の胃癌患者の血清中IL−6濃度(pg/ml)の曲線を示している。デキサメタソンを同時に投与しない免疫活性化抗体の1回目および2回目の投与(day0およびday4)後、IL−6濃度は、それぞれ、約300pg/mlおよびほぼ1000pg/ml弱にまで明らかに増加する。抗体およびグルココルチコイドの1回目の混合投与(day9における抗体100μg腹腔内+デキサメタソン40mg皮下)の後でもまた、IL−6濃度は、最大値である約1200pg/mlにまで急速に上昇している。しかし、IL濃度は、瞬時に元の値に戻る。そして、抗体を500μg腹腔内(同時にデキサメタソン10mg皮下を投与)に増加したとしても低い値を維持し続ける。
【0063】
胃癌患者において立証された免疫学的なパラメータの値は、TNF−α濃度の上昇が示すように、特異的な抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体にデキサメタソンを足した組み合わせ治療によって、細胞特異性免疫活性が明らかに生じることを示している。その他のパラメータはすべて、グルココルチコイドの投与によって、抗体の投与量の著しい増加の下でも概ね一定となっている。この点について、測定した免疫学的パラメータは、TNF−αを除いていずれも腫瘍細胞における抗体性作用を示していないが、免疫学的な副作用となるということも注意すべきである。特に、抗体の投与量を非常に増加しているにもかかわらず、デキサメタソンを同時に投与することによって、SIRS(全身性炎症反応症候群)の兆候はみられない。SIRSは、高い投与量での抗体治療、特に免疫活性化治療におけるサイトカインの激しい全身からの放出により引き起こされる炎症性の症候群であり、臓器不全を引き起こす可能性があり、致命的な結果となることさえある。本発明に係る組み合わせ治療によって、化学療法抵抗性胃癌の患者において観測した免疫学的なパラメータは、いかなるタイプの深刻な副作用のいずれの兆候も示していない。
【0064】
図7は、すい臓値および肝臓値における、化学療法抵抗性胃癌患者の治療の上述した副作用の存在を示す図である。
【0065】
図7Aは、すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼ(黒いひし形)およびリパーゼ(黒い四角形)の血清濃度(U/l)曲線を示している。本発明に係る組み合わせ治療において、免疫活性化抗体の投与量を非常に増加させているにもかかわらず、好ましくない副作用の兆候として生じるすい臓パラメータの異常な増加はみられない(健康な成人の通常値は、α−アミラーゼ<120U/lであり、リパーゼ<190U/lである)。
【0066】
図7Bは、上述した胃癌患者の治療の下での肝臓特異性酵素であるアルカリ性ホスファターゼ(AP;黒いひし形)、γ−グルタミル転移酵素(γ−GT;黒い四角形)、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT;黒い三角形)、およびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT;x)の血清濃度(U/l)に対応する曲線である。測定した酵素の血清濃度のレファレンスレンジ(reference range)は、それぞれ以下の通りである:APは40〜190U/l、γ−GTは4〜18U/l、GOTは5〜15U/l、GPTは5〜19U/l。抗体/グルココルチコイド組み合わせ治療の開始時点(day10からday13)では、肝臓酵素の血清濃度の単純増加が生じている(特には、AP)。しかし、短時間で通常値に戻る。したがって、肝臓特異性酵素の濃度の場合においてもまた、デキサメタソンを同時に投与することによって、免疫活性化抗体の投与の増加と一致する、好ましくない副作用の兆候として生じる増加はみられない。
【0067】
図7Cは、胃癌患者の治療の過程における作用としてさらなる肝臓パラメータであるビリルビンの合計濃度(mg/dl)を示す図である。30μgから100μgまで免疫活性化抗体の投与量を増加した後のビリルビンの急速な増加は別として、投与量のさらなる増加を行った場合であっても、この肝臓パラメータは1mg/dl以下のレファレンスレンジに位置している。したがって、デキサメタソンを投与した場合において二重特異性抗体の投与量を非常に多量としているにもかかわらず、ビリルビンには好ましくない副作用を示すことを立証する増加がみられない。これに関連して、デキサメタソンと免疫活性抗体とを同時に投与する治療において、患者がどのような深刻な臨床副作用も示さないことが立証される。
【0068】
抗体(特異性抗Ep−CAM×抗CD3である三官能性二重特異性抗体)およびデキサメタソンを用いた本発明に係る免疫治療のために、さらなる患者を従事させた。腺癌および肝臓に転移した女性患者の事象である。抗体の投与は、肝動脈(A.heptatica dextra)における選択カテーテルを通して行われた。図8は、治療の作用として免疫学的なパラメータの資料を再度示す図である。パラメータの図解は、上記の図6に関する説明おいてなされている。
【0069】
図8Aは、白血球数およびCRP血清濃度の曲線を示しており、図8Bは、治療過程の作用における特異の血球数中のリンパ球の割合比を示している。図8Cは、IL−2受容体濃度の曲線であり、図8Dは、TNF受容体p75およびTNF受容体p55をプロットしたものであり、そして図8Eは、本発明に係る組み合わせ治療の下でのIL−6濃度の曲線を示している。治療によって、デキサメタソンの投与にもかからわらず、可溶IL−2受容体(図8C)ならびにTNF受容体p75およびp55(図8D)において全体的な上昇が生じており、腫瘍細胞に対する所望の免疫活性が示されている。同時に、抗体の投与量を1μgから40μgに増加することによって、例えば40まで増加した場合には、白血球、血清CRP、リンパ球の割合比において深刻な増加が生じておらず、またIL−6の全身からの放出の深刻な増加についても生じていない(図8A、8Bおよび8E参照)。
【0070】
すい臓特異的および肝臓特異的な実験値もまた、本発明に係る上記した免疫活性化抗体とともにグルココルチコイドを投与する治療を受けた肝臓に転移した腺癌に苦しむ女性患者において決定された。研究の結果を図9に示す。プロットは、上記の胃癌患者の場合における図7に関する説明おいてなされている。
【0071】
図9Aは、すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼおよびリパーゼの血清濃度(U/l)曲線を再度示している。x軸には、治療の作用を示している。すい臓値は、治療全体においてレファレンスレンジの範囲内であった。
【0072】
図9Bは、肝臓特異性酵素であるAP、γ−GT、GOT、およびGPT(同様にU/l)に一致するプロットを示している。抗体の投与量を5μgから40μgに増加された場合におけるAPの上昇は、200U/lから始まり、約700U/lであることを確かに示している。同様に、γ−GTおよびGPTの濃度は投与量の増加によって、それぞれ、100以下から400U/l弱および150U/l弱にまで上昇している。しかし、この肝臓特性酵素の濃度の上昇は、心配されている副作用を示すものではなく、治療の終了まで増加は、完全に反対となる。そして、どのようなときも患者において臨床問題は生じていない。ところで、これはビリルビン濃度の曲線もまた適用される。図9Cには、治療過程の作用およびさらなる肝臓特異性実験パラメータが示されている。5μgの抗体投与の場合における0.5mg/dlから、40μgの抗体投与の場合における3〜3.5mg/dlまで、ビリルビンの合計濃度の上昇は、患者の肝臓において治療による深刻な副作用を示していない。この点において、患者の肝臓値、特には肝臓特異性酵素が既存の肝臓の転移によって上昇していることを同じく心に留めておく必要がある。
【0073】
図10は、細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示す。図10Aから図10Cは、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。一方、図10Dは、6人の胃癌患者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。上記試験では、10ng/ml、100ng/ml、および1000ng/mlの各種の濃度において、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体によって刺激がなされた。用いられたそれぞれの抗体の濃度は、図10Aおよび図10Bにおいて特定されている。PBMCの濃度は、106細胞/mlとなる。HCT8細胞の濃度は、5×104細胞/mlとなる。各試験では、刺激は、抗体を用いて、HCT8なしで(PBMC+AK)、HCT8細胞の存在下で(PBMC+AK+HCT8)、および濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、1.0μg/mlのデキサメタソンの付加的な投与を受けて(それぞれPBMC+AK+0.01、0.1、および1)行われた。y軸は、細胞傷害性のパーセンテージを示しており、x軸は、それぞれのPBMCの試験を示している。刺激されていないPBMCはコントロールを示す(PBMC)。
【0074】
図10Aは、濃度10ng/mlの抗体の場合の対応する測定の結果を示す。HCT8と接触され、デキサメタゾンを投与された、刺激されたPBMCの場合、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの抑制は、約15ポイント生じた(約55%から41%へ)。この抑制は、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。上記パーセンテージの抑制は、HCT8との接触がある場合の方が、HCT8との接触がない試験に比べてより明確に示された。そこでは、抑制はたった5ポイントしか生じなかった。
【0075】
図10Bは、濃度100ng/mlの抗体の場合の測定結果を示す。HCT8標的細胞との接触を伴う刺激されたPBMCの場合、デキサメタゾンの付加的な投与がなされた場合、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの明らかな抑制が30ポイントに達するまで生じた(約78%から50%へ)。この抑制は、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。これに対して、HCT8との接触を伴わない、デキサメタゾンが投与された刺激されたPBCMの場合は、細胞傷害性について、約10ポイントの、わずかな抑制しか生じなかった。この抑制も同様に、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。
【0076】
図10Cは、濃度1000ng/mlの抗体の場合の対応する測定結果を示す。細胞傷害性の抑制は、デキサメタゾンにより起こるが、これは、濃度100ng/mlの抗体を用いた場合(図10B)に比べて、全体を通して小さいことが判明した。HCT8標的細胞との接触を伴う刺激されたPBMCの場合、デキサメタゾンの付加的な投与がなされた場合、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの明らかな抑制が20ポイントに達するまで生じた(約85%から67%へ)。この抑制は、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。HCT8との接触を伴わない、デキサメタゾンが投与された刺激されたPBCMの試験では、約2ポイントの、最小限の抑制しか生じなかった。この抑制も同様に、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。
【0077】
図10Dは、胃癌を有する腫瘍患者の場合の対応する平均値の測定を示す。これらの測定は、濃度100ng/mlの抗体により実施された。同様に、デキサメタゾンの投与下において、細胞傷害性のパーセンテージの明らかな抑制が約27ポイント生じた(約78%から51%へ)。HCT8細胞との接触とともに刺激された場合、上記抑制は大きくなることが明らかとなった。この結果は、図10B(健康な被験者)に示されるような抗体の濃度の観点に匹敵する。このような比較から、健康な被験者および腫瘍患者の両方において、グルココルチコイドデキサメタゾンの投与により、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの明確な抑制が生じる。
【0078】
図11〜13は、健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフである。y軸には、各サイトカインのpg/mlでの濃度が示されており、x軸には、PBMCのそれぞれの刺激試験が示されている。添加されたデキサメタゾンのそれぞれの濃度は、μg/mlで、”0.01”、”0.1”および”1”と記載されている。刺激されていないPBMCの値がコントロールとして同様に示されている(”PBMC”)。
【0079】
EpCAM陽性細胞との接触なしでのPBMCの刺激は、抗原との結合(抗体/抗原相互作用)に無関係な、サイトカインの非特異的な放出に対応する(図1〜3も同様)。各サイトカインの放出は、PBMCによって全身的に行われる。EpCAM陽性細胞との接触ありでのPBMCの刺激は、抗原結合部位でのPBMCの直接的なそれぞれのサイトカインの放出に対応する。各サイトカインの放出は、ラストネーム付きの実験的な試験によって測定された。したがって、望ましくない副作用(全身性の放出)を構成せずに使用し得る抗体の特異的な(標的の)作用に対応する。各サイトカインは、この場合、特異的な免疫反応に直接的に関与する免疫細胞からのみ放出される。
【0080】
図11は、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。IL−10については、免疫抑制性のサイトカインの問題があった。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−10の放出が減少することが認識された。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。
【0081】
図12は、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、炎症性サイトカインIL−6の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−6の放出の明確な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−6の放出は、本発明に適合するように、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0082】
図13は、TNF−αの放出の結果を示す。TNF−αは、IFN−γと同様に、細胞性免疫のサイトカインである。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、TNF−αの放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。TNF−αの放出の減少は、予測されるように、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。HCT8との同時接触がないとき(全身性放出、副作用)、デキサメタゾンの濃度が0.1μg/mlから、TNF−αの放出が、HCT8との接触あり(特異的作用)に比べてより大きく減少した。また、HCT8と接触する場合のTNF−αの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、本発明に適合するように、副作用は、特異的な作用に比べて、より大きく減少する。
【0083】
図14〜16は、腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフである。実験的な試験(濃度、物質、および使用細胞)は、図11〜13に示される試験に対応する。同じサイトカインの放出が同様に測定された。これにより、健康な被験者の結果(図11〜13)が、腫瘍患者の結果(図14〜16)と比較され得る。同様に、グラフのy軸およびx軸は、図11〜13に対応する。また、HCT8との接触なし(図1〜3;11〜13)でのPBMCの刺激は、抗原との結合に無関係な、サイトカインの非特異的な放出に対応する。各サイトカインの放出は、PBMCによって全身的に行われる。HCT8との接触ありでのPBMCの刺激は、抗原結合部位でのPBMCの直接的なそれぞれのサイトカインの放出に対応する。各サイトカインの放出は、ラストネーム付きの実験的な試験によって測定された。したがって、望ましくない副作用(全身性の放出)を構成せずに使用し得る抗体の特異的な(標的の)作用に対応する。各サイトカインは、この場合、特異的な免疫反応に直接的に関与する免疫細胞からのみ放出される。
【0084】
図14は、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−10の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−10の放出の減少は、HCT8との同時刺激がない場合、より穏やかになる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−10の放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0085】
図15は、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。図14と同様に、抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−6の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−6の放出の急峻な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−6の放出は、本発明に適合するように、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0086】
図16は、TNF−αの放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、TNF−αの放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。TNF−αの放出の減少は、予測されるように、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのTNF−αの放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0087】
一方では、健康な被験者を用い(図11〜13)、他方では腫瘍患者を用いた(図14〜16)抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体によりなされたサイトカインの放出の結果の考察において、健康な被験者に対する場合に対応する腫瘍患者の場合において、グルココルチコイドデキサメタゾンは、非特異的な全身性のサイトカインの放出(副作用;HCT8との接触なし)に対して、特異的な作用(EpCAMおよびCD−3に対する)よりも、本発明に適合するように、大きな効果を有していた。その結果として、本発明に適合するように、副作用は大幅に低減された。
【0088】
図17〜18は、健康な被験者における、HER2/neu陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、モノクローナルな単特異性抗体ハーセプチン(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフである。y軸には、各サイトカインのpg/mlでの濃度が示されており、x軸には、PBMCのそれぞれの刺激試験が示されている。添加されたデキサメタゾンのそれぞれの濃度は、μg/mlで、”0.01”、”0.1”および”1”と記載されている。刺激されていないPBMCの値がコントロールとして同様に示されている(”PBMC”)。
【0089】
図17は、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−6の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−6の放出の急激な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、さらに大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−6の放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0090】
図18は、TNF−αの放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、TNF−αの放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。TNF−αの放出の急激な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、さらに大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのTNF−αの放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0091】
さまざまな抗体によるPBMCの刺激における様々なサイトカインの放出の結果の考察において、
(i)図11〜16の実験的試験:抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体による刺激;
(ii)図17〜18の実験的試験:単特異性モノクローナル抗体ハーセプチンによる刺激
上記両抗体は、それらの異なる作用機構にもかかわらず、さまざまなサイトカインの放出について、健康な披験者および腫瘍の患者の両方に対して、実質的に同様の効果を示したことに留意されたい。
【0092】
図19は、デキサメタソン(濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、および1.0μg/ml)の同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体を用いた106細胞/mlでのT細胞活性化に関する測定結果を示すグラフである。ヘルパーT細胞上の表面マーカーCD3/CD4/CD25およびCD3/CD8/HLADRの測定が表されている。これに関し、CD3/CD3は、ヘルパーTリンパ球を示し、CD25との組合わせで、それらの細胞の活性マーカーとなる。CD3/CD8は細胞傷害性Tリンパ球を示し、HLADRとの組合わせで、それらの細胞の活性マーカーとなる。y軸は、活性マーカー(CD25およびHLADR)が発現しているCD3/CD4(ヘルパーT細胞)およびCD3/CD8(キラーT細胞)陽性Tリンパ球のパーセンテージ分画を示している。x軸は、それぞれのPBMC刺激試験を、HCT8標的細胞(5×104細胞/ml)との接触を伴うか否か、デキサメタゾンのさまざまな濃度での投与を伴うか否かとともに、左半分のコラムには、CD3/CD4/CD25の測定に関して、右半分のコラムには、CD3/CD8/HLADRの測定に関して、示されている。上記測定はFACS解析により行われた。図19の下表には、それぞれの刺激試験の測定値(パーセンテージ)が記載されている。HCT8標的細胞との接触を受けた三官能性二重特異性による刺激(この刺激は、標的抗原と結合した特異的な刺激に対応する)の場合、デキサメタゾンは、T細胞活性化に影響しないことが認識される。これは、図19の下表における変化しない高い値により立証される。
【0093】
下記の実施例は、本発明を制限することなく、さらに詳述するものである。
【0094】
(実施例1)
(末梢血単核球(PBMC)の抽出)
フィコール(比重1.068g/cm3)上での遠心分離により、健康なボランティアの末梢血から単核球を抽出した。この目的のために、ヘパリン処理された静脈血を、フィコール上に層形成して、2000rpmで20分間の遠心分離を行った。遠心分離後、フィコール層の上にある単核球の層をピペットで回収し、PBSで洗浄した。
【0095】
(PBMCの刺激)
刺激を行うために、上記PBMCが1×106/ml濃度で用いられた。PBMCの上記刺激は、特異性が抗EpCAM×抗CD3で100μg/ml濃度の、または特異性が抗HER2/neu×抗CD3で1mg/ml濃度の、インタクトな三官能性二重特異性抗体(trifunctional bispecificantibody)を用いてなされた。上記刺激は、37℃で24時間行われた。上記刺激は、それぞれのサンプルについて、腫瘍細胞が存在しない状態、または1ml当たり5×104のHCT8腫瘍細胞(ATCC由来;EpCAM陽性)の存在下で行った。合成グルココルチコイドのデキサメサソン(Jenapharmより取得)について、グルココルチコイドなしでの刺激試験、ならびに、グルココルチコイドを0.01、0.1、1および10μg/ml用いた試験が行われた。
【0096】
(サイトカインの定量)
上記刺激後、上清中のサイトカインIL−6、IL−10、TNF−α、およびIFN−γ濃度の定量が、24穴プレート上においてELISA法によって各々測定された。各々に対して、測定を2回行った。ELISA法は、R&D System製造のスタンダードキットを用いて、取扱説明書通りに行った。
【0097】
(結果)
(IL−6の放出)
IL−6は、免疫反応が生じると直接的に免疫学的エフェクター細胞及び抗原提示細胞から分泌されるサイトカインである。血清中におけるサイトカインとしてのIL−6の臨床的意義は、炎症または免疫反応が生じた後、数時間分泌され、また、該免疫反応の程度と、その分泌量とには関連性がある。本実施例において、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)を接触させ、同時に0.01〜10μg/mlのデキサメサソンを添加した場合、図1Bに示すように、上清内に、5000pg/mlを上回る量のIL−6の放出が確認された。この放出は、EpCAM特異的抗体の免疫反応に関係するとともに、所望の免疫反応を示すものである。このようなIL−6の多量放出は、特異的な抗原抗体反応に直接的に寄与したわずかな免疫細胞によるものである。
【0098】
対照として、抗体をHCT8腫瘍細胞と接触させなかった場合のPBMCの刺激をみてみると、9000pg/mlを上回る量のIL−6の放出が認められた(図1A)。この放出は、所望の特異的反応とは無関係な多数のPBMCによる、全身的な免疫促進抗体の臨床的応用の場合に生じるものである。この全身的なIL−6の放出により、体内に非常に多量のIL−6が生成されることになり、結局、SIRSにも至る副作用をもたらすことになる。
【0099】
本発明は、グルココルチコイド(本実施例ではデキサメサソン)と抗体との組み合わせにより、デキサメサソンが、免疫刺激性の抗体に起因する、臨床的な副作用を引き起こす非特異的放出IL−6を、完全に抑制することを見出した。また、同時に、本発明によれば、EpCAM陽性腫瘍細胞を用いた刺激後にみられ、ひいては免疫刺激性の抗体の所望の特異的反応と関連する、IL−6の放出を維持することができる。
【0100】
(TNF−αの放出)
TNF−αは、標的細胞(ここではHCT8腫瘍細胞)の免疫的破壊が起きた場合に免疫学的エフェクター細胞(ここではPBMC)によって分泌されるTH1サイトカインである。腫瘍細胞を用いない場合の非特異的刺激と比較すれば、本実施例の場合は、特定の抗原(EpCAM)を有した腫瘍細胞の存在下において三官能性二重特異性抗体によって刺激した後に測定したところ、TNF−α量がおおよそ3倍増加した(図2A及び図2B)。TNF−α濃度における上記した明確な増加は、腫瘍細胞の免疫的破壊の過程における、PBMCによる、腫瘍細胞依存性の放出に起因している。仮に、本発明に沿って、三官能性二重特異性抗体がグルココルチコイド(本実施例ではデキサメサソン)と組み合わされたら、非特異的な影響によるTNF−α放出を低減させることができ、もし、グルココルチコイド濃度が比較的高ければ、TNF−α放出を完全に抑制することができる。このように、本発明によれば、グルココルチコイドを用いることにより、TNF−αの非特異的放出に起因する臨床的な副作用を大幅に抑制もしくは完全に無くすことが可能となる。サイトカインの非特異的放出と比較すれば、デキサメサソンを添加することによって、抗原依存の、標的細胞特異的なTNF−αの放出は、完全が維持することが可能となる。
【0101】
(IFN−γの放出)
IFN−γもまた、TH1サイトカインである。更には、IFN−γは、抗原に対しての刺激後の活性化された特異的Tリンパ球によって分泌されるものであり、T細胞介在型の抗原特異的な標的細胞破壊のためのマーカーとして用いられる。従って、IFN−γは、HCT8標的細胞の非存在下での三官能性二重特異性抗体を用いたPBMCの刺激後に分泌されるわけではない。なぜなら、この場合は非特異的な刺激のみが起こり、抗原に対して直接的なものではないからである(図3A)。HCT8細胞の存在下での刺激の過程では、抗体による、EpCAMに対する刺激によって、IFN−γの有意な放出がみられた。本実施例では、グルココルチコイド濃度が1μg/mlを下回っている場合は、この標的細胞に特異的なIFN−γ放出が、実質的に維持される。
【0102】
(実施例2)
抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体を用いて刺激を行うT細胞活性化におけるグルココルチコイドの影響を調べるために、実施例1で説明した刺激実験を行った。そして、T細胞特異的活性マーカーCD25、CD69、HLA−DRをそれぞれ、CD3+/CD4+、CD3+/CD8+、Tリンパ球の場合に用いて測定した。
【0103】
(FACS解析)
FACS解析は、Becton Dickinson製のFACSCaliburを用いることによって行った。必須特異性であるFITC−、PE−、APC−標識化抗体によって適切に刺激されたPBMCは、標識化される。
【0104】
(結果)
図4A〜図4Eからわかるように、二重特異性の三官能性抗体による刺激の場合は、グルココルチコイドであるデキサメサソンによる、T細胞の活性化への影響は無いと言える。
【0105】
(実施例3)
次に、T細胞毒性に関するグルココルチコイドの影響について、細胞傷害性試験を用いて調べた。PBMC抽出物およびそれらの刺激されたものを用いて、実施例1で説明した試験が行われた。
【0106】
(細胞傷害性試験)
CECF−AM色素を使用した蛍光テストによって、細胞傷害性を調べた。テストは、Kolber et al. (1988) J.Immunol.Meth. 108:255-264に記載の2時間リリース術を用いて行った。
【0107】
(結果)
図5A及び図5Bからわかるように、三官能性二重特異性抗体によって生じる、刺激されたPBMCの細胞傷害性に関するデキサメサソンの影響は、以下のようにまとめることができる。デキサメサソンが0.01mg/mlである場合は、促進PBMCの細胞傷害性に関して、デキサメサソンの影響は無いといえる。刺激中にHCT8腫瘍細胞が有るか無いかに関わらず、濃度0.1μg/mlから細胞傷害性の顕著な低下がみられた。HCT8存在下での刺激の場合は、効果細胞と標的細胞とが40:1で、デキサメサソンの濃度が0.1μg/ml〜10μg/mlであると、細胞毒性の割合は、高いレベルで一定に維持される。PBMCの刺激中に標的細胞が存在しない場合は、デキサメサソンの濃度に応じて、細胞傷害性の割合は更に減少する。
【0108】
実施例1〜3のインビトロデータによれば、次のようにまとめることができる。それは、グルココルチコイドと免疫刺激性の抗体との組み合わせを通じて、所望の抗原特異的免疫反応(実施例1)や、T細胞活性化(実施例2)や、刺激された細胞の細胞傷害性(実施例3)を低減させることなく、サイトカインの非特異的な放出を低減させることができる。デキサメサソンの濃度が0.1μg/ml〜1μg/mlの間では、非特異的な放出を大幅に削減、もしくは完全に無くすことができる。比較として、このデキサメサソンの濃度範囲内での、インビトロの、腫瘍細胞抗原EpCAMに対する直接的な免疫活性は、大きくは影響しない。
【0109】
(実施例4)
胃癌(腹膜癌症;pT3 pN2 M1)の患者(46歳男性)に対して、抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体と、グルココルチコイドとを用いた本発明の免疫治療を施した。治療は、西暦2000年の胃切除術後、腫瘍に対して行われた数々の効果の無い化学治療の後に行われた。患者は、腹水の症状を示していた。腹水内の腫瘍細胞の検査を行った結果、強いEpCAM発現(EpCAM+++)が得られた。抗体は腹腔内(i.p.)に投与され、毎回、6時間から10時間かけて投与された。
【0110】
まず、治療の初期では、抗体を、グルココルチコイドと組み合わせることなく、比較的少量、患者に投与した。これらの2つの単独療法実験後、抗体の量を明らかに増やして、これと同時にデキサメサソンを投与した。下記の表は、治療の経過をまとめたものであり、副作用についても示している。
【0111】
【表1】
【0112】
表1からわかるように、免疫促進抗体を用いた単独治療の過程において10mg〜30mgの量の場合は、患者は強い副作用に悩まされた。具体的には、嘔吐、腹痛、倦怠感、高熱である。しかしながら、抗体が、デキサメサソンと共に用いられた場合は、その量を500mg腹腔内に増やしても、発熱や他の副作用は現れなかった。また、免疫的検査パラメータは、腫瘍細胞に特異的で直接的な抗体の強い免疫促進反応を示していた(図6)。本発明に係る組み合わせ治療下においては、肝臓の値及び膵臓の値に特に目立ったものはなかった(図7)。本発明に係る治療を終えた後、腹水内から悪性腫瘍細胞を完全に消滅させることができた。
【0113】
(実施例5)
次に、腺癌(シグマpT3 pN2 M1)で、汎発性の肝転移(diffuse hepatic metastasis)である女性患者(68歳)に対して、抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体と、グルココルチコイドのデキサメサソンとを用いた免疫治療を施した。肝転移細胞の80%がEpCAM陽性であった。本発明の治療の過程で、抗体の投与は、組織(本実施例の場合は肝臓内)へ選択的に投与することができたり、または(肝臓への散布の後)全身に投与できる一例である肝動脈(A. hepatica dextra)を経由した選択的なカテーテルを経由して行われた。デキサメサソンの投与は、免疫促進抗体の投与に先駆けて、前投与として行われた。
【0114】
上記した治療過程について、表2にまとめた。
【0115】
【表2】
【0116】
本発明のように、三官能性二重特異性抗体とグルココルチコイドとを組み合わせることによって、一時的に発熱があった。しかしながら、最高温度から遅くとも10時間以内で平熱に戻った。治療の間に、抗体の量を40倍(1μgから40μg)も増やしたにもかかわらず、量を増やしたことに対する免疫促進抗体の副作用の増大はみられず、これは、デキサメサソンの投与によるものであるといえる。デキサメサソンの投与による抗体の免疫促進反応への目立った悪影響はなかった。これは、全身を介した可溶性IL−2レセプターや、TNFレセプターp55・p75の上昇によって実証されている(図8)。比較として、抗体に対して、デキサメサソンの量を40倍にしても、目立った副作用はみられなかった。このことは、膵臓や肝臓に特異的な検査パラメータによっても確認された。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1A】EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いずに刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【図1B】EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いて刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【図1C】EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いて刺激を行った後、およびEpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いずに刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【図2A】EpCAM陽性癌細胞と接触させずに刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。
【図2B】EpCAM陽性癌細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。
【図2C】HCT8標的細胞を用いずに刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ左側のバー)と、HCT8標的細胞を用いて刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ右側のバー)とのパーセンテージ比較を示している。
【図3A】標的細胞(EpCAM陽性癌細胞)と接触させていない二重特異性抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用いて刺激を行った後におけるPBMCからのインターフェロン−γ(IFN−γ)の放出を示している。
【図3B】EpCAM陽性癌細胞(HCT8)と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのIFN−γの放出を示している。
【図3C】HCT8標的細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出(ここではIFN−γ)と、HCT8標的細胞と接触させていない抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出とのパーセンテージ比較を示している。
【図4A】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4B】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4C】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4D】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4E】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図5A】特異的な細胞傷害性のパーセンテージにおける濃度0.01mg/mlのデキサメタソンの影響を示している。
【図5B】濃度0.1μg/mlのデキサメタソンの影響に関する対応する測定の結果を示している。
【図5C】濃度1μg/mlのデキサメタソンを用いた比較測定の結果を示している。
【図5D】濃度10μg/mlのデキサメタソンの場合の対応する測定の結果を示している。
【図6A】白血球濃度(g/l)(黒いひし形)および血清CRP濃度(mg/dl)(黒い四角形)の曲線を示す図である。
【図6B】特異の血球数中におけるリンパ球の割合比の曲線を示す図である。
【図6C】IL−2受容体の血清濃度の曲線を示している。
【図6D】胃癌の患者において測定した血清中TNF−α濃度(pg/ml)の曲線を示している。
【図6E】治療をx軸にプロットした場合の胃癌患者の血清中IL−6濃度(pg/ml)の曲線を示している。
【図7A】すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼ(黒いひし形)およびリパーゼ(黒い四角形)の血清濃度(U/l)曲線を示している。
【図7B】胃癌患者の治療の下での肝臓特異性酵素であるアルカリ性ホスファターゼ(AP;黒いひし形)、γ−グルタミル転移酵素(γ−GT;黒い四角形)、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT;黒い三角形)、およびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT;x)の血清濃度(U/l)に対応する曲線である。
【図7C】胃癌患者の治療の過程における作用としてさらなる肝臓パラメータであるビリルビンの合計濃度(mg/dl)を示す図である。
【図8A】白血球数およびCRP血清濃度の曲線を示している。
【図8B】治療過程の作用における特異の血球数中のリンパ球の割合比を示している。
【図8C】IL−2受容体濃度の曲線である。
【図8D】TNF受容体p75およびTNF受容体p55をプロットしたものである。
【図8E】本発明に係る組み合わせ治療の下でのIL−6濃度の曲線を示している。
【図9A】すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼおよびリパーゼの血清濃度(U/l)曲線を再度示している。
【図9B】肝臓特異性酵素であるAP、γ−GT、GOT、およびGPT(同様にU/l)に一致するプロットを示している。
【図9C】治療過程の作用およびさらなる肝臓特異性実験パラメータが示されている。
【図10A】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度10ng/mlの抗体の場合の対応する測定の結果を示す。
【図10B】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度100ng/mlの抗体の場合の測定結果を示す。
【図10C】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度1000ng/mlの抗体の場合の対応する測定結果を示す。
【図10D】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、6人の胃癌患者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度100ng/mlの抗体の場合に対応する測定結果を示す。
【図11】健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。
【図12】健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。
【図13】健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、TNF−αの放出の結果を示す。
【図14】腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。
【図15】腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。
【図16】腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、TNF−αの放出の結果を示す。
【図17】健康な被験者における、HER2/neu陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、モノクローナルな単特異性抗体ハーセプチン(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。
【図18】健康な被験者における、HER2/neu陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、モノクローナルな単特異性抗体ハーセプチン(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、TNF−αの放出の結果を示す。
【図19】デキサメタソン(濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、および1.0μg/ml)の同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体を用いた106細胞/mlでのT細胞活性化に関する測定結果を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、免疫刺激性の抗体を用いた疾患の治療におけるサイトカインの非特異的な放出に起因する望ましくない副作用を低減または除去する薬剤の製造のためのグルココルチコイドの使用に関するものであり、また、少なくとも一の免疫刺激性の抗体および少なくとも一のグルココルチコイドを含んでいる薬学的組成物に関するものである。
【0002】
免疫療法処置は、これまでのところ、困難を伴ってしか、または不十分にしか制御することができないが、疾患、特に癌および感染症の治療において増大する役割を果たしている。これに関し、免疫刺激性の薬剤としての抗体の使用が好んでなされている(Glennie and Johnson (2000) Immunology Today 21(8): 403-410を参照されたい)。このようなタイプの免疫刺激性の抗体の有効性は、特に、所定の抗原との特異的な結合の可能性次第である。しかしながら、従来の免疫刺激性の抗体を用いた癌および感染症のような疾患の治療に関する大きな問題は、そのようなタイプの抗体の使用によって引き起こされる深刻な副作用である。上記に関して、深い倦怠感、嘔吐、アレルギー反応、低血圧、頻脈、高熱および致命的な循環障害または臓器不全さえもが、特に、主にSIRS(全身性炎症反応症候群)に起因して観察されている。
【0003】
これらの免疫刺激性の抗体の激しい副作用は、多くの場合において、該抗体によって引き起こされるサイトカインの非特異的な放出に関係しており、それは、報告されている臨床上の副作用の大きい部分についての原因となっている。サイトカインの放出の程度は、免疫刺激性の抗体の使用量および使用速度に依存しており、それぞれの免疫刺激性の抗体の臨床上の許容量を制限する。
【0004】
グルココルチコイドは、古くから、高い効果を有する抗炎症性および免疫抑制作用性の物質として知られている。グルココルチコイドの免疫抑制作用における一つの機構は、そのサイトカインの転写を弱める働きである(例えば、Blotta et al. (1997) J. Immunol.158: 5589 to 5595; Ballow and Nelson (1997) JAMA 278 (22), Chapter 24: 2008 to 2017を参照されたい)。近年では、グルココルチコイドの免疫抑制作用の研究が、特に、T細胞の形成およびその機能について、さらなる進展がなされている(現在の概略は、例えば、Ashwell and Vacchio (2000) Annu. Rev. Immunol. 18: 309 to 345)。効果的な免疫抑制療法の開発において、特に(急性の)移植の拒絶反応を防ぐことに関して、グルココルチコイドの、さらなる免疫抑制剤との組み合わせての使用が、好んでなされている。例えば、ハーベリンら(Herbelin et al.、Transplantation (2000) 68 (5): 616 to 622)らは、グルココルチコイドの事前投与を伴っており、該グルココルチコイドによってTNF−α、IL−2およびIFN−γの産生が低減することに起因する、抗CD3抗体OKT3を用いた急性免疫抑制療法の改善を報告している。しかしながら、現在の技術水準において、抗体療法、例えば、三官能性の抗体(trAB)を用いた療法により、患者の免疫系を刺激することに関して、グルココルチコイドを使用することは、まったく知られていない。さらに言えば、従来、グルココルチコイドが用いられているのは、免疫抑制が治療上の目的である場合である。
【0005】
したがって、本発明の基本的な目的は、免疫系を刺激するように働く抗体の副作用を最も広範囲に有効に緩和するための新規システムを提供することである。
【0006】
上記目的は、請求項において特徴付けられた本発明の実施形態によって達成される。
【0007】
特に、本発明によって、一またはそれ以上のグルココルチコイドの使用が、一またはそれ以上の抗体を用いた疾患の治療におけるサイトカインの非特異的な放出を低減させるための薬剤の製造のために提供される。
【0008】
疾患、特に癌の症例における、免疫刺激のための抗体療法に関しての、グルココルチコイドの今までにない適用は、所定の特異性を有する免疫刺激性の抗体とグルココルチコイドとの組み合わせが、該所定の抗原をターゲットにした該免疫刺激性の抗体の作用が損なわれることなしに、免疫学的な細胞による非特異的なサイトカインの放出の低減をもたらすという驚くべき事実に基づくものである。特に、免疫刺激(例えば、腫瘍細胞に対するもの)のための抗体の使用に関して、抗体とグルココルチコイドとの組み合わせは、結果的な免疫作用の調節をもたらす;すなわち、所定の抗原をターゲットとする抗体の作用は、概ね変化せず、一方、上述の非特異的なサイトカインの放出のような、上記ターゲットとする抗原への結合とは無関係な免疫刺激性の抗体の使用において生じる、非特異的な効果は顕著に低減される。
【0009】
グルココルチコイド(すなわち、一またはそれ以上の)と、一またはそれ以上の免疫刺激性の抗体の組み合わせによれば、技術水準において知られている免疫刺激療法に比べて、免疫療法のための抗体の可能性、特に、臨床への適用性を大幅に広げるいくつかの利点が現れる:
1.サイトカインの上記放出を低減することにより、同じ投与量において、特異的な作用(すなわち、ターゲットとする抗原に対するもの)を概ね変化させなくとも、望ましくない副作用(上に列挙したような)は非常にわずかに生じるのみである。
【0010】
2.上記望ましくない副作用を低減することにより、使用されるべき上記抗体の投与量を増加させることができる。その結果として、グルココルチコイドとの組み合わせによれば、上記抗体の投与量を増加させることにより、作用の多大な増強が可能である。
【0011】
3.驚くべきことに、本発明に従って使用されるグルココルチコイドは、サイトカインの非特異的な(全身的な)放出のみを低減させ、ターゲットとなる抗原への結合とは無関係である。したがって、サイトカインの放出は、抗原結合部位(例えば、腫瘍細胞の結合および意図的な破壊の部位)においてのみ生じる。したがって、上述の、新たに可能となったより多くの投与量に加えて、この効果により、全身的に放出されたサイトカインの影響を受けることなしに、免疫刺激性の抗体の作用が、上記抗原結合部位に集中する。
【0012】
本発明の意義において、用語「抗体」は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体を含んでおり、結合型または可溶型として存在し得、また、これらの抗体の断片も含まれる。また、本発明に係る抗体の断片に加えて、本発明に係る抗体はまた、他の(タンパク質)構成要素との融合タンパク質のような組換え体として存在し得る。そのような断片、または融合タンパク質の構成要素としての本発明に係る抗体の断片は、典型的には、酵素による切断の方法、タンパク質合成の方法、または当業者に慣用されている組換え技術によって、生産される。本発明に係る最も好適な抗体は、三官能性の抗体(trAB)である。
【0013】
本発明に係るキメラ抗体は、さまざまな動物種由来の、さまざまな構成要素を含んでいる分子である(例えば、マウスモノクローナル抗体由来の可変領域、およびヒト免疫グロブリン由来の定常領域を示している抗体)。キメラ抗体は、一方では、使用の際の免疫原性を低減させるために、他方では、生産時の収量を高めるために好適に使用される;例えば、マウスモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞株から高収量に生産されるが、ヒトにおいて、高い免疫原性を招く。そのため、ヒト/マウスキメラ抗体が好適に使用される。マウスモノクローナル抗体の超可変相補性決定領域(CDR)が、ヒト抗体の残りの部分とともに自抗体中に組合されているモノクローナル抗体は、さらに好適である。キメラ抗体およびその製造方法は公知である(Cabilly et al., Proc. Natl. Sci. USA 81: 3273-3277 (1984); Morrison et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 81:6851-6855 (1984); Boulianneet al. Nature 312: 643-646 (1984); Cabilly et al., EP-A-125 023; Neuberger et al., Nature 314: 268-270 (1985); Taniguchi et al., EP-A-171 496; Morrionet al., EP-A-173 494; Neuberger et al., WO 86/01533; Kudo et al., EP-A-184 187;Sahagan et al., J. Immunol. 137: 1066-1074 (1986); Robinson et al., WO 87/02671; Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 84: 3439-3443 (1987); Sun et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 84: 214218 (1987); Better et al., Science 240: 1041-1043 (1988) and Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, supra.)。これらの引用された参照文献は、開示の補助として、本発明に組み込まれる。
【0014】
本発明の意義において、表現「免疫刺激性の抗体」または「免疫治療用の抗体」は、それぞれの抗体が、その抗原特異性によって、それぞれの疾患の治療の範囲において望まれる、患者の免疫系の刺激(賦活)を引き起こす、または補助することを意味する。
【0015】
とりわけ、本発明の意義において、免疫刺激性の抗体は、T細胞の活性化を誘導する。このことに関する特に有利な点は、細胞傷害性T細胞(CTL、細胞傷害性Tリンパ球、いわゆるキラーT細胞)の活性化である。しかし、免疫刺激性の抗体は、例えば、ヘルパーT細胞、補助細胞(マクロファージ)、樹状細胞、B細胞、またはナチュラルキラー細胞(NK細胞)を介して生じる抗体媒介効果もまた包含している。
【0016】
特に好適な免疫刺激性の抗体は、多重特異性、特に二重特異性、および/または多官能性、特に三官能性である。特に、二重特異性抗体について、例えば、scFv分子(いわゆる単鎖抗体)、二量体等の、組換え技術により生産された、組換え抗体分子が後述される。二重特異性抗体および免疫複合体が、例えば、van Spriel et al. (2000) Immunol. Today 21: 391-397に示されている。二重特異性抗体は、当然、公知のハイブリドーマ技術によってもまた生産され得る。多価の二重特異性抗体の断片を製造するための方法は、当業者において知られており、例えば、Tomlinson and Holliger (2000) Meth. Enzymol.326: 461ffに記載されている。特に好適な二重特異性抗体の例は、そのFc部位、すなわち、抗原への結合に直接的に関与しない抗体の部位に、免疫補助細胞が結合し得る、三官能性の二重特異性抗体である。
【0017】
本発明に係る好適な免疫刺激性の二重特異性抗体は、例えば腫瘍細胞のような傷害すべき細胞上の抗原に対する少なくとも一の特異性と、CDマーカーに対する少なくとも一の特異性を示すものである。そのようなタイプの免疫刺激性の二重特異性抗体のCDマーカーは、好ましくはTリンパ球上に発現され、したがって、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択される。上記二重特異性抗体のT細胞への特異性は、結果的に、一方では、特異的な様式で、T細胞を集める。免疫刺激性の活性な抗体の、好適な第2の特異性は、免疫系によって排除されるべき細胞上に、可能な限り特異的に発現している抗原に対するものである。癌細胞の場合、それはいわゆる腫瘍抗原、すなわち腫瘍細胞の表面に発現しているペプチドまたはポリペプチドである。癌細胞に対して免疫刺激性の様式で活性である抗体の好ましい腫瘍抗原は、例えば、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA(CD10)、MHCII、CD44v3、CD44v6、CD117、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原である(Jager (2001) J. Clin. Pathol. 54(9): 669-674; Jager (2002) Curr. Opin. Immunol. 14(2): 178-182も参照されたい)。
【0018】
この文脈において得に好ましいのは、上述したように、一またはそれ以上の補助細胞への結合部位をFc部位に有する、二重特異性抗体の変異体である。このタイプの抗体は、例えば腫瘍細胞のような除去すべき細胞、およびT細胞を集めるだけではなく、同時に、単球またはマクロファージのような補助細胞も集めて、これにより、「三細胞の複合体」を形成する。第3の細胞結合の相手を集めることにより、除去すべき細胞の食細胞が開始される。またこれは、ひいては、除去すべき細胞上に発現している単離された抗原だけではなく、患者の体内において、可能な限りの変異を伴って存在している除去すべき細胞、特に腫瘍細胞に対して該患者を免疫する結果としてのポリクローナルな免疫反応の発生に必要である。特に、本発明に従った免疫刺激の様式において活性な三官能性の二重特異性抗体の好適な特に実施形態が、例えば、抗EpCAM×抗CD3、または抗HER2/neu×抗CD3の特異性を伴って与えられる。
【0019】
本発明に従って使用されるグルココルチコイドは、特に限定されるものではなく、天然に生成したもの、例えばハイドロコルチゾン(コルチゾル)もしくはコルチゾン、または合成されたものであり得る。生物学的な半減期(短期間活性である、中期間活性である、および長期間活性である)についての選択にかんしても何の制限も存在しない。本発明に従って使用される合成グルココルチコイドは、例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシド(budenoside)であるが、これらに限られない。
【0020】
本発明に係る特に好適なグルココルチコイドは、グルココルチコイドデキサメタゾンである。デキサメタゾンは、合成グルココルチコイドであり、その半減期は36時間から54時間に達し、これは長期間活性なグルココルチコイドに属する。従って、継続的なグルココルチコイドの作用が必須な処置のために特に好適である。デキサメタゾンは、投与されると、70〜80%の割合でアルブミンに結合する。そのため、遊離した活性のグルココルチコイドの割合は20〜30%である。デキサメタゾンは、天然の副腎皮質ホルモンコルチゾンの約30倍強力な作用を有しており、わずかに鉱質コルチコイド作用作用を有しており、わずかな保水作用および保塩作用を有している。他の多くの適用のなかでも、心不全または心臓肥大を伴う患者への適用が特に好適である。さらに治療上重要なことは、デキサメタゾンの強力な消炎作用および免疫抑制(抗アレルギー)作用である。また、静脈注射後数分の内に、最大の血漿中濃度が得られるという事実も利点である。
【0021】
グルココルチコイド(または数種のグルココルチコイド)とともに用いられる本発明に係る免疫治療用の抗体(または数種の抗体)を用いて治療され得る癌性の疾患の例として、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、気管支癌(全組織型)、リンパ腫、肉腫、非小細胞肺癌、芽細胞腫、消化器間質腫瘍(GIST)等を挙げることができる。
【0022】
本発明に従った、免疫刺激性の抗体およびグルココルチコイドの投与方法については、何の制約もない。したがって、上記グルココルチコイドおよび上記抗体は、腹腔内に、全身的に(静脈内に、または動脈内に)、筋肉内に、皮内に、皮下に、腫瘍内に、または所定の組織に、もしくは所定の組織を介して選択的に、投与され得る。また当然、グルココルチコイドは、特に、経口で投与され得、軟膏、ジェル、またはその他の投与に好適な形態であり得る。投与は、皮膚上への投与であってもよい。所定の組織への、もしくは所定の組織を介しての選択的な投与の例としては、(免疫学的組織としての)骨髄を介しての投与、またはそれぞれの組織に供給を行う血管(動脈)への超選択的カテーテルを介しての投与を挙げることができる。カテーテルによるそのようなタイプの投与の具体的な例としては、肝臓への選択的な投与、または肝臓を介しての全身的な投与のための肝動脈(A.hepatica)へのカテーテル手段が挙げられる。組織特異的な投与のさらなる例としては、門脈を介した肝臓への投与、腎動脈を介した腎臓への投与、脳腫瘍の場合のくも膜下構内への投与、腸間膜を介した結腸領域への投与、腹腔動脈および上腸間膜動脈を介しての膵臓への投与、および対応する動脈を介しての手足の腫瘍への投与がある。その上さらに、腫瘍への直接的な投与も効果的であり得る。もちろん、本発明に係る、免疫刺激性の抗体、およびグルココルチコイドの使用に当たっては、これらの活性の組成物の投与は、同様の方法で、または異なった方法で実施される;例えば、抗体は選択的に肝臓へ、グルココルチコイドは、例えば静脈内投与により全身的に行うことができる。
【0023】
グルココルチコイドは、例えば、免疫刺激剤として働く抗体に対して、同時に、別個に、または時期をずらして投与され得る。したがって、グルココルチコイドは、上記抗体に対して、時間的に前、後、または同時に投与され得る。特に好適な実施形態によれば、グルココルチコイドおよび免疫刺激性の抗体は、おおよそ同時に投与される。
【0024】
本発明のさらなる目的は、癌性の疾患、腫瘍性の疾患の治療または予防に関する、少なくとも一の、上述したような免疫刺激性の、または免疫治療用の抗体、および少なくとも一の、上述したようなグルココルチコイドを、同時に、別個に、または時期をずらして投与されるために組合わせて調製された形態に含んでいる製品である。癌性の疾患は、例えば、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および/または消化器間質腫瘍(GIST)を含んでいる。
【0025】
本発明に係る製品の成分である、少なくとも一の、上述したような免疫刺激性の、または免疫治療用の抗体(第1成分)、および少なくとも一の、上述したようなグルココルチコイド(第2成分)は、それらの目標とする使用のために機能的に統合されている。上記製品の成分は、互いに独立には、上述したような、本発明に係る有利な作用を生み出し得ない。したがって、第1成分および第2成分(同時に、別個に、または時期をずらした投与)の空間的な分離にもかかわらず、本発明の実施は、新規な組み合わせの形態として得られるものであり、技術水準において記載されたものではない。
【0026】
本発明に係る製品は、方法、治療法、疾患の治療および/もしくは予防方法、または本発明に係る混合された治療法において採用し得るすべての成分、物質、および実施形態を含むものである。
【0027】
本発明のさらなる目的は、少なくとも一の、上述したような免疫刺激性の、または免疫治療用の抗体、および少なくとも一の、上述したようなグルココルチコイドを含んでいる薬学的組成物に関するものである。本発明に係る薬学的組成物は、特に、上に列挙したような疾患を治療するために好適である。本発明に係る薬学的組成物の薬学的に活性な成分は、詳細に後述するような、一またはそれ以上の担体および/または補助物質を結合されて存在していてもよい。
【0028】
すなわち、本発明は、少なくとも一つの免疫刺激性の抗体と、少なくとも一つのグルココルチコイドと、任意に一つまたはそれ以上の薬学的に適合可能な担体および/または補助薬を含んでいる、薬学的組成物に関する。好ましくは、上記グルココルチコイドは、合成グルココルチコイドであり、例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシドからなる群より選択されるものである。
【0029】
上記薬学的組成物の好ましい実施形態において、上記抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の抗体である。好ましくは、上記抗体は、二重特異性であり、個々が、腫瘍抗原およびCDマーカーに対して少なくとも一つの特異性を示すものである。例えば、上記CDマーカーは、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択される。例えば、上記腫瘍抗原は、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原からなる群より選択される。
【0030】
上記薬学的組成物の好ましい実施形態において、上記抗体は、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性の抗体である。
【0031】
本発明に係る薬学的組成物は、好ましくは、癌性の疾患および腫瘍性の疾患からなる群より選択される疾患を治療するための薬学的組成物である。例えば、上記癌性の疾患は、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、および芽細胞腫からなる群より選択される。
【0032】
本発明に係る薬学的組成物、またはグルココルチコイドの本発明に係る使用において、グルココルチコイドおよび抗体は、好適な処方により有利に作られる。そのようなタイプの処方は、当業者に知られており、治療または免疫刺激の態様で働く物質に加えて、一またはそれ以上の薬学的に適合可能な担体および/または薬学的に適合可能な賦形剤を含んでいる。好適な処方、およびそのようなタイプの処方の製造のための適切な方法は、たとえば、文献”Remington's Pharmaceutical Sciences”(Mack Pub. Co., Easton, PA, 1980)に開示されており、該文献の全内容は、本発明の開示の一部分として組み込まれる。非経口での投与のために、滅菌水、滅菌された食塩水、ポリアルキレングリコール、水和ナフタリン、および特に、生体適合性のラクチド高分子、例えば、ラクチド/グリコリド共重合体、またはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体が担体物質として考慮される。本発明に係る薬学的組成物は、金属イオンとの複合化、または、例えばポリ乳酸塩、ポリグリコール酸、ハイドロジェルのような高分子化合物の特定の調製物の中もしくは上に、もしくはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層小胞、多層小胞、赤血球断片、芽球上に物質を含ませるために、充填物質、ラクトース、マンニトールのような物質、例えばポリエチレングリコールのような高分子と、本発明に係る免疫刺激性の抗体との共有結合のための物質を含み得る。上記薬学的組成物のそれぞれの実施形態は、例えば、可溶性、安定性、生物学的利用性、または分解性のような物理的特性に従って選択される。本発明に係る活性物質成分の制御されたまたは定常な放出は、親油性の沈殿(例えば、脂肪酸、ろう、または油脂)を主とする処方を含んでいる。本発明の範囲には、本発明に係る薬学的組成物または薬剤の被覆は、薬学的に活性な物質を含む。つまり、高分子によって被覆することがまた開示されている(例えば、ポリオキサマー、またはポリオキサミン)。その上、本発明に係る薬学的に活性な物質または組成物は、例えば、プロテアーゼ阻害剤、または浸透性増強剤のような保護被覆を有し得る。好適な担体は、典型的には、水性の担体物質であり、注射用水(WFI)、またはリン酸塩、クエン酸塩、HEPES,または酢酸等によって緩衝された水であり、pHは、典型的には5.0〜8.0(好ましくは6.5〜7.5)に調整される。上記担体または上記賦形剤は、付加的に、選択的に、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、または他の例えば溶液を等張性にする物質のような塩成分を含んでいる。上記担体または上記賦形剤はさらに、上述した成分に加えて、ヒト血清アルブミン(HSA)、ポリソルベート50、砂糖、またはアミノ酸等の付加的な成分を含み得る。
【0033】
本発明に係る薬剤、製品、または薬学的組成物の投与方法は、対処すべき疾患のタイプ、適切な時期、制御すべき抗原、ならびに、患者の体重、年齢、および性別に依存する。
【0034】
本発明に係る処方の活性成分の濃度は、広い範囲に変化し得る。抗体の本発明に係る投与量は、約1μgから約1mgまで変動する。一方、グルココルチコイドは、一般に、約1mgから約1000mgの範囲で投与され、特に約1mgから約100mgの範囲で投与される。
【0035】
本発明によれば、さらに、上述したような免疫刺激性の抗体および少なくとも一のグルココルチコイドを患者、特に人間の患者に投与することを含む、上述した疾患の治療方法が提供される。これに関して、免疫刺激性の抗体より前の、または同時の、グルココルチコイドの事前投与または同時投与が好ましい。当然、本発明によれば、いくつかの免疫刺激性の抗体およびいくつかのグルココルチコイドが任意の組合わせて用いられ得る。
【0036】
本発明のさらなる目的は、すくなくとも一の上述したような免疫刺激性または免疫治療用の抗体、および少なくとも一の上述したようなグルココルチコイドを含んでおり、該すくなくとも一の上述したような免疫刺激性または免疫治療用の抗体、および該少なくとも一の上述したようなグルココルチコイドは、互いに分離されているキットに関するものである。
【0037】
本発明の好適な実施形態は、癌性の疾患、腫瘍性の疾患の治療または予防のためのキットの使用に関する。癌性の疾患は、例えば、胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、非小細胞肺癌、芽細胞腫、および/または消化器間質腫瘍を含んでいる。
【0038】
図面は以下の通りである:
図1は、EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いて刺激を行った後、およびEpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いずに刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【0039】
図1Aのy軸は、濃度単位pg/mlのIL−6の放出を示しており、x軸は、PBMCの各刺激を示している。刺激されないPBMC(「PBMC」バー)は、コントロールを示す。このグラフにおいて、Eはそれぞれ、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する、100μg/mlの三官能性二重特異性抗体(trifuntional bispecific antibody)を示している。特定の濃度μg/mlを有するデキサメタゾンは、「Dexa」と示されている。図1Aによる実験では、PBMCからのIL−6の放出は、EpCAM陽性癌細胞(=標的細胞)と接触させずに刺激を行った後に調査した。EpCAM陽性癌細胞を用いずに行う刺激は、抗原結合に非依存的なサイトカインの非特異的な放出に対応している。放出は、PBMCの全身性(totality)により、全身的に生じる。図1Aに示されているように、デキサメタゾンは、IL−6の放出を濃度依存的に低下させる。濃度1μg/mlの場合、IL−6の放出はほぼ完全に抑制される。従って、全身的なIL−6の放出によって生じる副作用は、十分に高容量のデキサメタゾンを投与することによって、ほぼ完全に抑制されるはずである。
【0040】
図1Bは、図1Aと対応する図であって、EpCAM陽性癌細胞(HCT8の濃度は、5×104細胞/ml)と接触させて刺激を行った後における、PBMCからのIL−6の放出を示している。EpCAM陽性癌細胞を用いた刺激の手順は、PBMCの抗原結合部位からのIL−6の放出状況と対応している。従って、この実験的な構成において測定されるIL−6は、望ましくない副作用を後に引き起こすことのない、今回用いられている抗体の特異的(すなわち標的)作用と対応している。IL−6は、特異的な免疫反応に直接関連する免疫細胞のみから放出される。従って、絶対的に高い放出(図1Bのy軸の目盛り、および図1Aのy軸の目盛りを参照されたい)は、高度な副作用の兆候として評価されるべきではないが、抗原結合部位における特異的な免疫学的作用として説明される。免疫刺激性の抗体(immunostimulatingantibody)をグルココルチコイドと共に臨床的に用いた場合、特異的な作用に直接関連する少量のPBMCから、多量のIL−6が放出される。しかし、PBMCの全身性によるインターロイキンの非特異的放出によって(図1A参照)、副作用が生じる。図1Bから明らかであるように、デキサメタゾンの濃度が1μg/mlである場合、IL−6の放出は確かに低下するが、デキサメタゾンを投与せずに、EpCAM陽性癌細胞を用いずに抗体刺激を行った場合に観察される全身的な放出を遥かに上回る(図1A参照)。従って、免疫刺激性の抗体とデキサメタゾンとを組み合わせて投与した場合、非特異的なIL−6の放出が大幅に抑制されるが、免疫刺激性の抗体の標的とする作用(targeted action)は顕著なままである。
【0041】
図1Cは、上述の図1Aおよび図1Bに従って、HCT8細胞(標的細胞)を用いて刺激を行った後と、HCT8細胞(標的細胞)を用いずに刺激を行った後とにおけるIL−6の放出をパーセンテージ比較した図を示している。y軸には、デキサメタゾンを同時使用しない場合の値(=100 %)に対する、IL−6の放出が示されている。左手のバーはそれぞれ、HCT8を用いずに刺激を行った場合の値を示しており、右手のバーはそれぞれ、HCT8細胞を用いて刺激を行った後の結果を示している。デキサメタゾンの投与量が0.1μg/mlから1μg/mlまでの間において、HCT8細胞の非存在下においてPBMCを刺激した後のIL−6分泌が、HCT8細胞の存在化における刺激したときに対して乖離する:1μg/mlのデキサメタゾンを投与して刺激を行った場合、特異的(すなわちEpCAM陽性癌細胞の結合によって生じる)作用に関連したIL−6の放出が維持される。これとは対照的に、抗原結合(この場合は、HCT8細胞におけるEpCAM結合)に非依存的なIL−6の非特異的分泌が大幅に低下、あるいは消失する。
【0042】
図2は、EpCAM陽性癌細胞を用いずに、およびEpCAM陽性癌細胞の存在下において、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性の二重特異性抗体を用いて刺激を行った後における、腫瘍壊死因子α(TNF−α)の放出結果を示している。
【0043】
図2Aは、上述の図1A(IL−6の放出を示す)と同様の方法によって、EpCAM陽性癌細胞と接触させずに刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。TNF−α濃度は、y軸においてpg/mlで示されている。この標的細胞を用いない刺激は、図1Aに照らして既に説明したように、抗体/抗原間の相互作用とは非依存的に生ずるサイトカインの全身的かつ非特異的放出と対応している。この全身的なTNF−αの放出は、PBMC集団(PBMC population)によってもたらされる。デキサメタゾンは、TNF−αの放出を濃度依存的に低下させる。既に濃度0.1μg/mlにおいて、TNF−αの大幅な放出が生じている。この低下は、グルココルチコイドを投与せずに抗体刺激を行った場合におけるTNF−α放出の約5分の1に達する。グルココルチコイド濃度が1μg/mlおよびこれ以上である場合、TNF−αの放出が完全に抑制される。
【0044】
図2Bは、図1Bと同様の図であって、EpCAM陽性癌細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。この図でもまた、TNF−α濃度は、y軸においてpg/mlで示されている。残りの目盛りは、図1Bと同様である。EpCAM陽性癌細胞を標的細胞として用いて行う刺激は、この実験的な構成において行われたものだが、抗原結合部位におけるPBMCからのTNF−α放出の状況と対応している。従って、この実験において測定されるTNF−α濃度は、大部分が、抗体の特異的(標的)作用に帰するものであり、望ましくない副作用を結果的に引き起こすことがない。EpCAM陽性癌細胞に接触させて刺激を行った場合は、標的細胞に接触させずに刺激を行った場合と比較して、絶対的に高いTNF−αの放出値が測定される。しかしこの原因は、図1Bに示すIL−6の放出に関連して既に説明したように、抗体/抗原間の相互作用部位における特異的な免疫学的作用にある。また、この場合において、1μg/mlまたはこれ以上の濃度のグルココルチコイドデキサメタゾンを投与してTNF−αの放出を調査すると、特異的TNF−αの放出量の明確な低下が観察されるが、しかし放出量はまだ顕著である。
【0045】
図2Cは、図1Cと同様の図であって、HCT8標的細胞を用いずに刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ左側のバー)と、HCT8標的細胞を用いて刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ右側のバー)とのパーセンテージ比較を示している。100 %値は、デキサメタゾンを同時投与しない場合のTNF−αの放出と対応している。アプリケーション(application)については、図1Cを参照されたい。TNF−αに関しては、デキサメタゾン投与量が0.1μg/mlから1μg/mlまでの間において、標的細胞による刺激が行われていないサイトカイン分泌の、標的細胞と接触させて刺激を行った場合に対する乖離が観察される。デキサメタゾン濃度が1μg/mlである場合、(EpCAM陽性癌細胞の結合により)特異的な作用に関連したTNF−αの放出が維持される(グルココルチコイドを同時添加しない場合の抗体刺激に対して、サイトカインの放出が60 %以上)。これとは対照的に、デキサメタゾンを0.1μg/ml添加した場合、抗原結合(HCT8細胞におけるEpCAM結合)に非依存的に生じるTNF−αの非特異的な分泌が、デキサメタゾンを添加せずに抗体刺激を行った場合に測定された値の少なくとも20%まで低下する。1mg/mlのデキサメタゾンを投与した場合、TNF−αの非特異的放出は完全に消失する。
【0046】
図3は、上述の図1および図2と対応するさらなる図であって、標的細胞(EpCAM陽性癌細胞)と接触させていない二重特異性抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用いて刺激を行った後におけるPBMCからのインターフェロン−γ(IFN−γ)の放出と、標的細胞(EpCAM陽性癌細胞)と接触させた二重特異性抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用いて刺激を行った後におけるPBMCからのインターフェロン−γ(IFN−γ)の放出とに関する結果を示している。IFN−γは、(TNF−αと同様に)TH11−特異的(Tヘルパー細胞1型特異的)サイトカインであって、さらにT細胞媒介抗原特異的な標的細胞破壊のマーカーである。IFN−γは、抗原に対して刺激を行った後、活性化された特異的T−リンパ球によって分泌される。従ってIFN−γは、標的細胞と同時接触させていない抗体を用いて刺激を行った場合は発生しない。なぜなら、この場合、標的とされる抗原/抗体間の相互作用に基づいて刺激が行われないからである。
【0047】
図3Aは、図1Aおよび図2A(y軸は、濃度単位pg/mlのIFN−γを示す)と同様の図であって、上述の期待を確認するものである。刺激が行われない場合、IFN−γの放出はEpCAM陽性癌細胞(HCT8)との接触なしに起こる。
【0048】
図3Bは、EpCAM陽性癌細胞(HCT8)と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのIFN−γの放出を示している。標的細胞(HTC8)と接触させた二重特異性抗体を用いてPBMCを刺激した場合、IFN−γが顕著に放出される。このIFN−γの顕著な放出は、グルココルチコイドを添加しなかった場合は、6000pg/ml以上に達する。デキサメタゾンを0.01μg/mlの同時投与した場合、IFN−γの放出はやや増加する(7000pg/ml以上)。デキサメタゾン濃度が0.1μg/mlの場合、IFN−γの放出は3000pg/ml未満に低下するが、それでもやはり顕著である。
【0049】
図3Cは、図1Cおよび図2Cと同様の方法によって、HCT8標的細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出(ここではIFN−γ)と、HCT8標的細胞と接触させていない抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出とのパーセンテージ比較を示している。
【0050】
図4は、濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。図4A〜図4Eの各例において、y軸には、活性マーカー(図4Aおよび4CではCD25、図4Bでおよび4DではCD69、図4EではHLA−DR)の発現したCD3/CD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)またはCD3/CD8陽性Tリンパ球(キラーT細胞)の割合比をプロットしている。測定はFACS解析により行った。図4A〜Eにおける左側のバーは、ぞれぞれ、HCT8標的細胞(濃度5×104cells/ml)に接触しない刺激の結果を示しており、右側のバーは、ぞれぞれ、HCT8標的細胞に接触する場合の測定値を示している。三官能性二重特異性抗体の刺激がHCT8標的細胞への接触による場合、すなわち標的抗原の結合に特異的な刺激と一致する場合、図4A〜4Eにおいて変化することのない高い測定値が示すように、T細胞活性はデキサメタソンによる影響を受けない。
【0051】
図5は、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定結果を示す図であり、蛍光標識したHCT8腫瘍細胞を用いた2時間の細胞傷害性試験により測定した。図5A〜5Dにおいて、HCT8に対する特異的な細胞傷害性のパーセンテージは標的細胞に対するエフェクター細胞(E/T)の比率としてプロットされており、上記細胞傷害性試験は、標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が40:1、20:1、10:1、5:1および2.5:1の場合を各例として実施している。各試験において、HCT8細胞なしの抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する100μg/mlの三官能性二重特異性抗体(E)を用いた刺激は、HCT8細胞の存在下でも行われ(E+HCT8)、また、デキサメタソン(濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、1.0μg/ml、または10.0μg/ml)の付加的な投与を、HCT8細胞に接触しない状態(E+μg/ml Dexa)、およびHCT8細胞に接触する状態(E+μg/ml dexa+HCT8)において受けた。
【0052】
図5Aは、特異的な細胞傷害性のパーセンテージにおける濃度0.01mg/mlのデキサメタソンの影響を示している。デキサメタソンなしのPBMCと比べて、同図では、グルココルチコイドのおかげで、特異的な細胞傷害性のパーセンテージに抑制が生じていない。
【0053】
図5Bは、濃度0.1μg/mlのデキサメタソンの影響に関する対応する測定の結果を示している。このデキサメタソン濃度では、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの抑制に約50ポイントの差異が生じている。この点について、HCT8細胞が存在している場合と、存在していない場合との刺激には明確な差異が生じていない。
【0054】
図5Cは、濃度1μg/mlのデキサメタソンを用いた比較測定の結果を示している。図5Cの例においてもまた、特異的な細胞傷害性のパーセンテージに明確な差異が生じている。PBMCがHCT8細胞の存在に影響されている場合、グルココルチコイドの濃度が0.1μg/ml(図5B参照)の場合において立証されたものとほぼ同じレベルである。標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が20:1の場合には、HCT8のない場合においてPBMCの特異的な細胞傷害性のパーセンテージの抑制がより一層大きくなっている。
【0055】
図5Dは、濃度10μg/mlのデキサメタソンの場合の対応する測定の結果を示している。HCT8細胞の存在するPBMCの刺激の場合において、このデキサメタソン濃度における特異的な細胞傷害性のパーセンテージは、デキサメタソン濃度が0.1μg/mlおよび1μg/ml(図5Bおよび5C参照)の場合に確立した値とほぼ一致している。標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が20:1の場合には、30%の細胞傷害性が生じており、標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が2倍になると細胞傷害性は、60%となる。その一方で、HCT8の存在しないPBMCの刺激の場合においては、より低いデキサメタソンの濃度に対して細胞傷害性の値がさらに減少する。
【0056】
図5A〜5Dに示した結果に関して、デキサメタソンは、0.01μg/mlの濃度では、刺激されたPBMCの細胞傷害性について影響を与えていない。刺激中におけるHCT8の存在の有無に関わらず、0.1μg/mlの濃度から細胞傷害性がはっきりと減少する。デキサメタソンの濃度を上記の3つの範囲(0.1μg/ml〜10μg/ml)とし、標的細胞に対するエフェクター細胞の比率が40:1であり、HCT8が存在する条件における刺激の場合には、具体的な細胞傷害性の割合はデキサメタソンなしで測定した細胞傷害性の40%〜60%のレベルを維持する。したがって、標的細胞(T)に対するエフェクター細胞(E)の比率が一致する場合、広い濃度範囲内におけるグルココルチコイドの添加において、HCT8細胞の存在下において刺激したPBMCの細胞傷害性の差異は、一定に維持される。一方で、細胞傷害性は、HCT8の存在しないPBMCの刺激の後、デキサメタソン濃度に依存してさらに減少する。
【0057】
図6は、化学療法抵抗性の胃癌の患者の治療における免疫学的なパラメータの検査値を示す図である。本発明に基づけば、免疫活性化剤として、三官能性であり、腫瘍細胞に対して二重特異性を有する抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用い、免疫療法による副作用の抑制のためにグルココルチコイド(デキサメタソン)を用いる。図6A〜6Eのy軸におおける測定値は、それぞれ特殊化したユニットにおける各例としてプロットされている。経過日における治療作用はx軸に示されている。この点について、Eは上記の免疫活性化抗体の投与を投与量(μg)腹腔内と併せて示している。また、Dexは投与されるデキサメタソンの投与量(mg)皮下を示している。
【0058】
図6Aは、白血球濃度(g/l)(黒いひし形)および血清CRP濃度(mg/dl)(黒い四角形)の曲線を示す図である。day0およびday4におけるはじめの2回の抗体投与は、グルココルチコイドを添加投与することなく行われている。この治療条件において、特に「急性期タンパク」CRPの血清濃度が40mg/dlに上昇している。抗体の投与量を500μgに上昇するとともに、デキサメタソンを添加投与する治療のさらなる作用において、CRP血清レベルは通常値に戻る。本発明に係る組み合わせ治療における白血球濃度もまた、20g/l以下を維持する。健康な成人の通常値は、4g/lから11g/lの間を変動している。白血球数の増加の観測もまた、所望の免疫活性の発現である。
【0059】
図6Bは、特異の血球数中におけるリンパ球の割合比の曲線を示す図である。治療の初期段階での抗体のみの治療の場合、および免疫治療用の抗体の投与量をさらに増加すると共にデキサメタソンを添加投与する場合の双方において観測した変動は、期待通りである。特に、本発明において、抗体とグルココルチコイドとの組み合わせ投与の終了に向かうにつれて、測定値は、ほぼ健康な成人の通常値(20%〜30%がリンパ球)の範囲内の状態となっている。
【0060】
図6Cは、IL−2受容体の血清濃度の曲線を示している。当初は免疫活性化抗体の投与量腹腔内を100μgにまで増加し、デキサメタソンの添加投与量を約5.5ng/mlとしているため、値は治療の開始時点において、約1ng/mlから約2ng/mlに上昇している。しかし、三官能性であり、二重特異性抗体の投与量をさらに増加させ、同時にグルココルチコイドの同時投与する投与量を10mg皮下としているにもかからわず、IL−2受容体の濃度は治療の終了時点に向かって再度低下し、1ng/ml以下となる。
【0061】
図6Dは、胃癌の患者において測定した血清中TNF−α濃度(pg/ml)の曲線を示している。TNF−αは、細胞免疫活性の発現と同様に、免疫療法の抗体の投与量を10μgから500μgに増加する治療により上昇している。抗体のみを少量投与した場合には50pg/ml以下の値であるが、200μgまたは500μg腹腔内の二重特異性抗体に加えて10mg皮下のデキサメタソンを投与した場合には、いずれの例においても約200pg/mlとなる。したがって、グルココルチコイドを投与することにより、副作用を抑制し、免疫療法の抗体の投与量をより一層増加することができる。本発明において、優れた細胞特異性免疫活性は、治療またはグルココルチコイドの使用の過程において観測される。
【0062】
図6Eは、治療をx軸にプロットした場合の胃癌患者の血清中IL−6濃度(pg/ml)の曲線を示している。デキサメタソンを同時に投与しない免疫活性化抗体の1回目および2回目の投与(day0およびday4)後、IL−6濃度は、それぞれ、約300pg/mlおよびほぼ1000pg/ml弱にまで明らかに増加する。抗体およびグルココルチコイドの1回目の混合投与(day9における抗体100μg腹腔内+デキサメタソン40mg皮下)の後でもまた、IL−6濃度は、最大値である約1200pg/mlにまで急速に上昇している。しかし、IL濃度は、瞬時に元の値に戻る。そして、抗体を500μg腹腔内(同時にデキサメタソン10mg皮下を投与)に増加したとしても低い値を維持し続ける。
【0063】
胃癌患者において立証された免疫学的なパラメータの値は、TNF−α濃度の上昇が示すように、特異的な抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体にデキサメタソンを足した組み合わせ治療によって、細胞特異性免疫活性が明らかに生じることを示している。その他のパラメータはすべて、グルココルチコイドの投与によって、抗体の投与量の著しい増加の下でも概ね一定となっている。この点について、測定した免疫学的パラメータは、TNF−αを除いていずれも腫瘍細胞における抗体性作用を示していないが、免疫学的な副作用となるということも注意すべきである。特に、抗体の投与量を非常に増加しているにもかかわらず、デキサメタソンを同時に投与することによって、SIRS(全身性炎症反応症候群)の兆候はみられない。SIRSは、高い投与量での抗体治療、特に免疫活性化治療におけるサイトカインの激しい全身からの放出により引き起こされる炎症性の症候群であり、臓器不全を引き起こす可能性があり、致命的な結果となることさえある。本発明に係る組み合わせ治療によって、化学療法抵抗性胃癌の患者において観測した免疫学的なパラメータは、いかなるタイプの深刻な副作用のいずれの兆候も示していない。
【0064】
図7は、すい臓値および肝臓値における、化学療法抵抗性胃癌患者の治療の上述した副作用の存在を示す図である。
【0065】
図7Aは、すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼ(黒いひし形)およびリパーゼ(黒い四角形)の血清濃度(U/l)曲線を示している。本発明に係る組み合わせ治療において、免疫活性化抗体の投与量を非常に増加させているにもかかわらず、好ましくない副作用の兆候として生じるすい臓パラメータの異常な増加はみられない(健康な成人の通常値は、α−アミラーゼ<120U/lであり、リパーゼ<190U/lである)。
【0066】
図7Bは、上述した胃癌患者の治療の下での肝臓特異性酵素であるアルカリ性ホスファターゼ(AP;黒いひし形)、γ−グルタミル転移酵素(γ−GT;黒い四角形)、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT;黒い三角形)、およびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT;x)の血清濃度(U/l)に対応する曲線である。測定した酵素の血清濃度のレファレンスレンジ(reference range)は、それぞれ以下の通りである:APは40〜190U/l、γ−GTは4〜18U/l、GOTは5〜15U/l、GPTは5〜19U/l。抗体/グルココルチコイド組み合わせ治療の開始時点(day10からday13)では、肝臓酵素の血清濃度の単純増加が生じている(特には、AP)。しかし、短時間で通常値に戻る。したがって、肝臓特異性酵素の濃度の場合においてもまた、デキサメタソンを同時に投与することによって、免疫活性化抗体の投与の増加と一致する、好ましくない副作用の兆候として生じる増加はみられない。
【0067】
図7Cは、胃癌患者の治療の過程における作用としてさらなる肝臓パラメータであるビリルビンの合計濃度(mg/dl)を示す図である。30μgから100μgまで免疫活性化抗体の投与量を増加した後のビリルビンの急速な増加は別として、投与量のさらなる増加を行った場合であっても、この肝臓パラメータは1mg/dl以下のレファレンスレンジに位置している。したがって、デキサメタソンを投与した場合において二重特異性抗体の投与量を非常に多量としているにもかかわらず、ビリルビンには好ましくない副作用を示すことを立証する増加がみられない。これに関連して、デキサメタソンと免疫活性抗体とを同時に投与する治療において、患者がどのような深刻な臨床副作用も示さないことが立証される。
【0068】
抗体(特異性抗Ep−CAM×抗CD3である三官能性二重特異性抗体)およびデキサメタソンを用いた本発明に係る免疫治療のために、さらなる患者を従事させた。腺癌および肝臓に転移した女性患者の事象である。抗体の投与は、肝動脈(A.heptatica dextra)における選択カテーテルを通して行われた。図8は、治療の作用として免疫学的なパラメータの資料を再度示す図である。パラメータの図解は、上記の図6に関する説明おいてなされている。
【0069】
図8Aは、白血球数およびCRP血清濃度の曲線を示しており、図8Bは、治療過程の作用における特異の血球数中のリンパ球の割合比を示している。図8Cは、IL−2受容体濃度の曲線であり、図8Dは、TNF受容体p75およびTNF受容体p55をプロットしたものであり、そして図8Eは、本発明に係る組み合わせ治療の下でのIL−6濃度の曲線を示している。治療によって、デキサメタソンの投与にもかからわらず、可溶IL−2受容体(図8C)ならびにTNF受容体p75およびp55(図8D)において全体的な上昇が生じており、腫瘍細胞に対する所望の免疫活性が示されている。同時に、抗体の投与量を1μgから40μgに増加することによって、例えば40まで増加した場合には、白血球、血清CRP、リンパ球の割合比において深刻な増加が生じておらず、またIL−6の全身からの放出の深刻な増加についても生じていない(図8A、8Bおよび8E参照)。
【0070】
すい臓特異的および肝臓特異的な実験値もまた、本発明に係る上記した免疫活性化抗体とともにグルココルチコイドを投与する治療を受けた肝臓に転移した腺癌に苦しむ女性患者において決定された。研究の結果を図9に示す。プロットは、上記の胃癌患者の場合における図7に関する説明おいてなされている。
【0071】
図9Aは、すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼおよびリパーゼの血清濃度(U/l)曲線を再度示している。x軸には、治療の作用を示している。すい臓値は、治療全体においてレファレンスレンジの範囲内であった。
【0072】
図9Bは、肝臓特異性酵素であるAP、γ−GT、GOT、およびGPT(同様にU/l)に一致するプロットを示している。抗体の投与量を5μgから40μgに増加された場合におけるAPの上昇は、200U/lから始まり、約700U/lであることを確かに示している。同様に、γ−GTおよびGPTの濃度は投与量の増加によって、それぞれ、100以下から400U/l弱および150U/l弱にまで上昇している。しかし、この肝臓特性酵素の濃度の上昇は、心配されている副作用を示すものではなく、治療の終了まで増加は、完全に反対となる。そして、どのようなときも患者において臨床問題は生じていない。ところで、これはビリルビン濃度の曲線もまた適用される。図9Cには、治療過程の作用およびさらなる肝臓特異性実験パラメータが示されている。5μgの抗体投与の場合における0.5mg/dlから、40μgの抗体投与の場合における3〜3.5mg/dlまで、ビリルビンの合計濃度の上昇は、患者の肝臓において治療による深刻な副作用を示していない。この点において、患者の肝臓値、特には肝臓特異性酵素が既存の肝臓の転移によって上昇していることを同じく心に留めておく必要がある。
【0073】
図10は、細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示す。図10Aから図10Cは、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。一方、図10Dは、6人の胃癌患者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。上記試験では、10ng/ml、100ng/ml、および1000ng/mlの各種の濃度において、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体によって刺激がなされた。用いられたそれぞれの抗体の濃度は、図10Aおよび図10Bにおいて特定されている。PBMCの濃度は、106細胞/mlとなる。HCT8細胞の濃度は、5×104細胞/mlとなる。各試験では、刺激は、抗体を用いて、HCT8なしで(PBMC+AK)、HCT8細胞の存在下で(PBMC+AK+HCT8)、および濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、1.0μg/mlのデキサメタソンの付加的な投与を受けて(それぞれPBMC+AK+0.01、0.1、および1)行われた。y軸は、細胞傷害性のパーセンテージを示しており、x軸は、それぞれのPBMCの試験を示している。刺激されていないPBMCはコントロールを示す(PBMC)。
【0074】
図10Aは、濃度10ng/mlの抗体の場合の対応する測定の結果を示す。HCT8と接触され、デキサメタゾンを投与された、刺激されたPBMCの場合、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの抑制は、約15ポイント生じた(約55%から41%へ)。この抑制は、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。上記パーセンテージの抑制は、HCT8との接触がある場合の方が、HCT8との接触がない試験に比べてより明確に示された。そこでは、抑制はたった5ポイントしか生じなかった。
【0075】
図10Bは、濃度100ng/mlの抗体の場合の測定結果を示す。HCT8標的細胞との接触を伴う刺激されたPBMCの場合、デキサメタゾンの付加的な投与がなされた場合、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの明らかな抑制が30ポイントに達するまで生じた(約78%から50%へ)。この抑制は、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。これに対して、HCT8との接触を伴わない、デキサメタゾンが投与された刺激されたPBCMの場合は、細胞傷害性について、約10ポイントの、わずかな抑制しか生じなかった。この抑制も同様に、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。
【0076】
図10Cは、濃度1000ng/mlの抗体の場合の対応する測定結果を示す。細胞傷害性の抑制は、デキサメタゾンにより起こるが、これは、濃度100ng/mlの抗体を用いた場合(図10B)に比べて、全体を通して小さいことが判明した。HCT8標的細胞との接触を伴う刺激されたPBMCの場合、デキサメタゾンの付加的な投与がなされた場合、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの明らかな抑制が20ポイントに達するまで生じた(約85%から67%へ)。この抑制は、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。HCT8との接触を伴わない、デキサメタゾンが投与された刺激されたPBCMの試験では、約2ポイントの、最小限の抑制しか生じなかった。この抑制も同様に、デキサメタゾンの濃度の上昇に伴い増加する。
【0077】
図10Dは、胃癌を有する腫瘍患者の場合の対応する平均値の測定を示す。これらの測定は、濃度100ng/mlの抗体により実施された。同様に、デキサメタゾンの投与下において、細胞傷害性のパーセンテージの明らかな抑制が約27ポイント生じた(約78%から51%へ)。HCT8細胞との接触とともに刺激された場合、上記抑制は大きくなることが明らかとなった。この結果は、図10B(健康な被験者)に示されるような抗体の濃度の観点に匹敵する。このような比較から、健康な被験者および腫瘍患者の両方において、グルココルチコイドデキサメタゾンの投与により、特異的な細胞傷害性のパーセンテージの明確な抑制が生じる。
【0078】
図11〜13は、健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフである。y軸には、各サイトカインのpg/mlでの濃度が示されており、x軸には、PBMCのそれぞれの刺激試験が示されている。添加されたデキサメタゾンのそれぞれの濃度は、μg/mlで、”0.01”、”0.1”および”1”と記載されている。刺激されていないPBMCの値がコントロールとして同様に示されている(”PBMC”)。
【0079】
EpCAM陽性細胞との接触なしでのPBMCの刺激は、抗原との結合(抗体/抗原相互作用)に無関係な、サイトカインの非特異的な放出に対応する(図1〜3も同様)。各サイトカインの放出は、PBMCによって全身的に行われる。EpCAM陽性細胞との接触ありでのPBMCの刺激は、抗原結合部位でのPBMCの直接的なそれぞれのサイトカインの放出に対応する。各サイトカインの放出は、ラストネーム付きの実験的な試験によって測定された。したがって、望ましくない副作用(全身性の放出)を構成せずに使用し得る抗体の特異的な(標的の)作用に対応する。各サイトカインは、この場合、特異的な免疫反応に直接的に関与する免疫細胞からのみ放出される。
【0080】
図11は、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。IL−10については、免疫抑制性のサイトカインの問題があった。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−10の放出が減少することが認識された。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。
【0081】
図12は、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、炎症性サイトカインIL−6の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−6の放出の明確な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−6の放出は、本発明に適合するように、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0082】
図13は、TNF−αの放出の結果を示す。TNF−αは、IFN−γと同様に、細胞性免疫のサイトカインである。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、TNF−αの放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。TNF−αの放出の減少は、予測されるように、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。HCT8との同時接触がないとき(全身性放出、副作用)、デキサメタゾンの濃度が0.1μg/mlから、TNF−αの放出が、HCT8との接触あり(特異的作用)に比べてより大きく減少した。また、HCT8と接触する場合のTNF−αの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、本発明に適合するように、副作用は、特異的な作用に比べて、より大きく減少する。
【0083】
図14〜16は、腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフである。実験的な試験(濃度、物質、および使用細胞)は、図11〜13に示される試験に対応する。同じサイトカインの放出が同様に測定された。これにより、健康な被験者の結果(図11〜13)が、腫瘍患者の結果(図14〜16)と比較され得る。同様に、グラフのy軸およびx軸は、図11〜13に対応する。また、HCT8との接触なし(図1〜3;11〜13)でのPBMCの刺激は、抗原との結合に無関係な、サイトカインの非特異的な放出に対応する。各サイトカインの放出は、PBMCによって全身的に行われる。HCT8との接触ありでのPBMCの刺激は、抗原結合部位でのPBMCの直接的なそれぞれのサイトカインの放出に対応する。各サイトカインの放出は、ラストネーム付きの実験的な試験によって測定された。したがって、望ましくない副作用(全身性の放出)を構成せずに使用し得る抗体の特異的な(標的の)作用に対応する。各サイトカインは、この場合、特異的な免疫反応に直接的に関与する免疫細胞からのみ放出される。
【0084】
図14は、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−10の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−10の放出の減少は、HCT8との同時刺激がない場合、より穏やかになる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−10の放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0085】
図15は、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。図14と同様に、抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−6の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−6の放出の急峻な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−6の放出は、本発明に適合するように、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0086】
図16は、TNF−αの放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、TNF−αの放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。TNF−αの放出の減少は、予測されるように、HCT8との同時刺激がない場合、より大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのTNF−αの放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0087】
一方では、健康な被験者を用い(図11〜13)、他方では腫瘍患者を用いた(図14〜16)抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体によりなされたサイトカインの放出の結果の考察において、健康な被験者に対する場合に対応する腫瘍患者の場合において、グルココルチコイドデキサメタゾンは、非特異的な全身性のサイトカインの放出(副作用;HCT8との接触なし)に対して、特異的な作用(EpCAMおよびCD−3に対する)よりも、本発明に適合するように、大きな効果を有していた。その結果として、本発明に適合するように、副作用は大幅に低減された。
【0088】
図17〜18は、健康な被験者における、HER2/neu陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、モノクローナルな単特異性抗体ハーセプチン(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフである。y軸には、各サイトカインのpg/mlでの濃度が示されており、x軸には、PBMCのそれぞれの刺激試験が示されている。添加されたデキサメタゾンのそれぞれの濃度は、μg/mlで、”0.01”、”0.1”および”1”と記載されている。刺激されていないPBMCの値がコントロールとして同様に示されている(”PBMC”)。
【0089】
図17は、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、IL−6の放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。IL−6の放出の急激な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、さらに大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのIL−6の放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0090】
図18は、TNF−αの放出の結果を示す。抗体による刺激およびデキサメタゾンの投与の場合、TNF−αの放出は減少する。デキサメタゾンの濃度がより高まると、上記減少がより大きくなる。TNF−αの放出の急激な減少は、HCT8との同時刺激がない場合、さらに大きくなる。また、HCT8と接触する場合のサイトカインの絶対的に高い放出は、高められた副作用(全身性のサイトカインの放出)の兆候ではなく、抗原結合部位における特異的な免疫反応によって生じる。したがって、HCTとの接触なし(副作用)でのTNF−αの放出は、HCT8との接触あり(特異的作用)の場合に比べて、デキサメタゾンの濃度が上昇するに伴い、より大きく顕著に減少する。すなわち、とても強い特異的作用が存在している(抗原結合部位におけるサイトカインの放出)。
【0091】
さまざまな抗体によるPBMCの刺激における様々なサイトカインの放出の結果の考察において、
(i)図11〜16の実験的試験:抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体による刺激;
(ii)図17〜18の実験的試験:単特異性モノクローナル抗体ハーセプチンによる刺激
上記両抗体は、それらの異なる作用機構にもかかわらず、さまざまなサイトカインの放出について、健康な披験者および腫瘍の患者の両方に対して、実質的に同様の効果を示したことに留意されたい。
【0092】
図19は、デキサメタソン(濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、および1.0μg/ml)の同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体を用いた106細胞/mlでのT細胞活性化に関する測定結果を示すグラフである。ヘルパーT細胞上の表面マーカーCD3/CD4/CD25およびCD3/CD8/HLADRの測定が表されている。これに関し、CD3/CD3は、ヘルパーTリンパ球を示し、CD25との組合わせで、それらの細胞の活性マーカーとなる。CD3/CD8は細胞傷害性Tリンパ球を示し、HLADRとの組合わせで、それらの細胞の活性マーカーとなる。y軸は、活性マーカー(CD25およびHLADR)が発現しているCD3/CD4(ヘルパーT細胞)およびCD3/CD8(キラーT細胞)陽性Tリンパ球のパーセンテージ分画を示している。x軸は、それぞれのPBMC刺激試験を、HCT8標的細胞(5×104細胞/ml)との接触を伴うか否か、デキサメタゾンのさまざまな濃度での投与を伴うか否かとともに、左半分のコラムには、CD3/CD4/CD25の測定に関して、右半分のコラムには、CD3/CD8/HLADRの測定に関して、示されている。上記測定はFACS解析により行われた。図19の下表には、それぞれの刺激試験の測定値(パーセンテージ)が記載されている。HCT8標的細胞との接触を受けた三官能性二重特異性による刺激(この刺激は、標的抗原と結合した特異的な刺激に対応する)の場合、デキサメタゾンは、T細胞活性化に影響しないことが認識される。これは、図19の下表における変化しない高い値により立証される。
【0093】
下記の実施例は、本発明を制限することなく、さらに詳述するものである。
【0094】
(実施例1)
(末梢血単核球(PBMC)の抽出)
フィコール(比重1.068g/cm3)上での遠心分離により、健康なボランティアの末梢血から単核球を抽出した。この目的のために、ヘパリン処理された静脈血を、フィコール上に層形成して、2000rpmで20分間の遠心分離を行った。遠心分離後、フィコール層の上にある単核球の層をピペットで回収し、PBSで洗浄した。
【0095】
(PBMCの刺激)
刺激を行うために、上記PBMCが1×106/ml濃度で用いられた。PBMCの上記刺激は、特異性が抗EpCAM×抗CD3で100μg/ml濃度の、または特異性が抗HER2/neu×抗CD3で1mg/ml濃度の、インタクトな三官能性二重特異性抗体(trifunctional bispecificantibody)を用いてなされた。上記刺激は、37℃で24時間行われた。上記刺激は、それぞれのサンプルについて、腫瘍細胞が存在しない状態、または1ml当たり5×104のHCT8腫瘍細胞(ATCC由来;EpCAM陽性)の存在下で行った。合成グルココルチコイドのデキサメサソン(Jenapharmより取得)について、グルココルチコイドなしでの刺激試験、ならびに、グルココルチコイドを0.01、0.1、1および10μg/ml用いた試験が行われた。
【0096】
(サイトカインの定量)
上記刺激後、上清中のサイトカインIL−6、IL−10、TNF−α、およびIFN−γ濃度の定量が、24穴プレート上においてELISA法によって各々測定された。各々に対して、測定を2回行った。ELISA法は、R&D System製造のスタンダードキットを用いて、取扱説明書通りに行った。
【0097】
(結果)
(IL−6の放出)
IL−6は、免疫反応が生じると直接的に免疫学的エフェクター細胞及び抗原提示細胞から分泌されるサイトカインである。血清中におけるサイトカインとしてのIL−6の臨床的意義は、炎症または免疫反応が生じた後、数時間分泌され、また、該免疫反応の程度と、その分泌量とには関連性がある。本実施例において、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)を接触させ、同時に0.01〜10μg/mlのデキサメサソンを添加した場合、図1Bに示すように、上清内に、5000pg/mlを上回る量のIL−6の放出が確認された。この放出は、EpCAM特異的抗体の免疫反応に関係するとともに、所望の免疫反応を示すものである。このようなIL−6の多量放出は、特異的な抗原抗体反応に直接的に寄与したわずかな免疫細胞によるものである。
【0098】
対照として、抗体をHCT8腫瘍細胞と接触させなかった場合のPBMCの刺激をみてみると、9000pg/mlを上回る量のIL−6の放出が認められた(図1A)。この放出は、所望の特異的反応とは無関係な多数のPBMCによる、全身的な免疫促進抗体の臨床的応用の場合に生じるものである。この全身的なIL−6の放出により、体内に非常に多量のIL−6が生成されることになり、結局、SIRSにも至る副作用をもたらすことになる。
【0099】
本発明は、グルココルチコイド(本実施例ではデキサメサソン)と抗体との組み合わせにより、デキサメサソンが、免疫刺激性の抗体に起因する、臨床的な副作用を引き起こす非特異的放出IL−6を、完全に抑制することを見出した。また、同時に、本発明によれば、EpCAM陽性腫瘍細胞を用いた刺激後にみられ、ひいては免疫刺激性の抗体の所望の特異的反応と関連する、IL−6の放出を維持することができる。
【0100】
(TNF−αの放出)
TNF−αは、標的細胞(ここではHCT8腫瘍細胞)の免疫的破壊が起きた場合に免疫学的エフェクター細胞(ここではPBMC)によって分泌されるTH1サイトカインである。腫瘍細胞を用いない場合の非特異的刺激と比較すれば、本実施例の場合は、特定の抗原(EpCAM)を有した腫瘍細胞の存在下において三官能性二重特異性抗体によって刺激した後に測定したところ、TNF−α量がおおよそ3倍増加した(図2A及び図2B)。TNF−α濃度における上記した明確な増加は、腫瘍細胞の免疫的破壊の過程における、PBMCによる、腫瘍細胞依存性の放出に起因している。仮に、本発明に沿って、三官能性二重特異性抗体がグルココルチコイド(本実施例ではデキサメサソン)と組み合わされたら、非特異的な影響によるTNF−α放出を低減させることができ、もし、グルココルチコイド濃度が比較的高ければ、TNF−α放出を完全に抑制することができる。このように、本発明によれば、グルココルチコイドを用いることにより、TNF−αの非特異的放出に起因する臨床的な副作用を大幅に抑制もしくは完全に無くすことが可能となる。サイトカインの非特異的放出と比較すれば、デキサメサソンを添加することによって、抗原依存の、標的細胞特異的なTNF−αの放出は、完全が維持することが可能となる。
【0101】
(IFN−γの放出)
IFN−γもまた、TH1サイトカインである。更には、IFN−γは、抗原に対しての刺激後の活性化された特異的Tリンパ球によって分泌されるものであり、T細胞介在型の抗原特異的な標的細胞破壊のためのマーカーとして用いられる。従って、IFN−γは、HCT8標的細胞の非存在下での三官能性二重特異性抗体を用いたPBMCの刺激後に分泌されるわけではない。なぜなら、この場合は非特異的な刺激のみが起こり、抗原に対して直接的なものではないからである(図3A)。HCT8細胞の存在下での刺激の過程では、抗体による、EpCAMに対する刺激によって、IFN−γの有意な放出がみられた。本実施例では、グルココルチコイド濃度が1μg/mlを下回っている場合は、この標的細胞に特異的なIFN−γ放出が、実質的に維持される。
【0102】
(実施例2)
抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体を用いて刺激を行うT細胞活性化におけるグルココルチコイドの影響を調べるために、実施例1で説明した刺激実験を行った。そして、T細胞特異的活性マーカーCD25、CD69、HLA−DRをそれぞれ、CD3+/CD4+、CD3+/CD8+、Tリンパ球の場合に用いて測定した。
【0103】
(FACS解析)
FACS解析は、Becton Dickinson製のFACSCaliburを用いることによって行った。必須特異性であるFITC−、PE−、APC−標識化抗体によって適切に刺激されたPBMCは、標識化される。
【0104】
(結果)
図4A〜図4Eからわかるように、二重特異性の三官能性抗体による刺激の場合は、グルココルチコイドであるデキサメサソンによる、T細胞の活性化への影響は無いと言える。
【0105】
(実施例3)
次に、T細胞毒性に関するグルココルチコイドの影響について、細胞傷害性試験を用いて調べた。PBMC抽出物およびそれらの刺激されたものを用いて、実施例1で説明した試験が行われた。
【0106】
(細胞傷害性試験)
CECF−AM色素を使用した蛍光テストによって、細胞傷害性を調べた。テストは、Kolber et al. (1988) J.Immunol.Meth. 108:255-264に記載の2時間リリース術を用いて行った。
【0107】
(結果)
図5A及び図5Bからわかるように、三官能性二重特異性抗体によって生じる、刺激されたPBMCの細胞傷害性に関するデキサメサソンの影響は、以下のようにまとめることができる。デキサメサソンが0.01mg/mlである場合は、促進PBMCの細胞傷害性に関して、デキサメサソンの影響は無いといえる。刺激中にHCT8腫瘍細胞が有るか無いかに関わらず、濃度0.1μg/mlから細胞傷害性の顕著な低下がみられた。HCT8存在下での刺激の場合は、効果細胞と標的細胞とが40:1で、デキサメサソンの濃度が0.1μg/ml〜10μg/mlであると、細胞毒性の割合は、高いレベルで一定に維持される。PBMCの刺激中に標的細胞が存在しない場合は、デキサメサソンの濃度に応じて、細胞傷害性の割合は更に減少する。
【0108】
実施例1〜3のインビトロデータによれば、次のようにまとめることができる。それは、グルココルチコイドと免疫刺激性の抗体との組み合わせを通じて、所望の抗原特異的免疫反応(実施例1)や、T細胞活性化(実施例2)や、刺激された細胞の細胞傷害性(実施例3)を低減させることなく、サイトカインの非特異的な放出を低減させることができる。デキサメサソンの濃度が0.1μg/ml〜1μg/mlの間では、非特異的な放出を大幅に削減、もしくは完全に無くすことができる。比較として、このデキサメサソンの濃度範囲内での、インビトロの、腫瘍細胞抗原EpCAMに対する直接的な免疫活性は、大きくは影響しない。
【0109】
(実施例4)
胃癌(腹膜癌症;pT3 pN2 M1)の患者(46歳男性)に対して、抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体と、グルココルチコイドとを用いた本発明の免疫治療を施した。治療は、西暦2000年の胃切除術後、腫瘍に対して行われた数々の効果の無い化学治療の後に行われた。患者は、腹水の症状を示していた。腹水内の腫瘍細胞の検査を行った結果、強いEpCAM発現(EpCAM+++)が得られた。抗体は腹腔内(i.p.)に投与され、毎回、6時間から10時間かけて投与された。
【0110】
まず、治療の初期では、抗体を、グルココルチコイドと組み合わせることなく、比較的少量、患者に投与した。これらの2つの単独療法実験後、抗体の量を明らかに増やして、これと同時にデキサメサソンを投与した。下記の表は、治療の経過をまとめたものであり、副作用についても示している。
【0111】
【表1】
【0112】
表1からわかるように、免疫促進抗体を用いた単独治療の過程において10mg〜30mgの量の場合は、患者は強い副作用に悩まされた。具体的には、嘔吐、腹痛、倦怠感、高熱である。しかしながら、抗体が、デキサメサソンと共に用いられた場合は、その量を500mg腹腔内に増やしても、発熱や他の副作用は現れなかった。また、免疫的検査パラメータは、腫瘍細胞に特異的で直接的な抗体の強い免疫促進反応を示していた(図6)。本発明に係る組み合わせ治療下においては、肝臓の値及び膵臓の値に特に目立ったものはなかった(図7)。本発明に係る治療を終えた後、腹水内から悪性腫瘍細胞を完全に消滅させることができた。
【0113】
(実施例5)
次に、腺癌(シグマpT3 pN2 M1)で、汎発性の肝転移(diffuse hepatic metastasis)である女性患者(68歳)に対して、抗EpCAM×抗CD3の三官能性二重特異性抗体と、グルココルチコイドのデキサメサソンとを用いた免疫治療を施した。肝転移細胞の80%がEpCAM陽性であった。本発明の治療の過程で、抗体の投与は、組織(本実施例の場合は肝臓内)へ選択的に投与することができたり、または(肝臓への散布の後)全身に投与できる一例である肝動脈(A. hepatica dextra)を経由した選択的なカテーテルを経由して行われた。デキサメサソンの投与は、免疫促進抗体の投与に先駆けて、前投与として行われた。
【0114】
上記した治療過程について、表2にまとめた。
【0115】
【表2】
【0116】
本発明のように、三官能性二重特異性抗体とグルココルチコイドとを組み合わせることによって、一時的に発熱があった。しかしながら、最高温度から遅くとも10時間以内で平熱に戻った。治療の間に、抗体の量を40倍(1μgから40μg)も増やしたにもかかわらず、量を増やしたことに対する免疫促進抗体の副作用の増大はみられず、これは、デキサメサソンの投与によるものであるといえる。デキサメサソンの投与による抗体の免疫促進反応への目立った悪影響はなかった。これは、全身を介した可溶性IL−2レセプターや、TNFレセプターp55・p75の上昇によって実証されている(図8)。比較として、抗体に対して、デキサメサソンの量を40倍にしても、目立った副作用はみられなかった。このことは、膵臓や肝臓に特異的な検査パラメータによっても確認された。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1A】EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いずに刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【図1B】EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いて刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【図1C】EpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いて刺激を行った後、およびEpCAM陽性癌細胞(濃度5×104細胞/ml)を用いずに刺激を行った後における、末梢血単核球(PBMC)(濃度106細胞/ml)によるインターロイキン−6(IL−6)の放出を示すグラフである。
【図2A】EpCAM陽性癌細胞と接触させずに刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。
【図2B】EpCAM陽性癌細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのTNF−αの放出を示している。
【図2C】HCT8標的細胞を用いずに刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ左側のバー)と、HCT8標的細胞を用いて刺激を行った後におけるTNF−αの放出(それぞれ右側のバー)とのパーセンテージ比較を示している。
【図3A】標的細胞(EpCAM陽性癌細胞)と接触させていない二重特異性抗体(抗EpCAM×抗CD3)を用いて刺激を行った後におけるPBMCからのインターフェロン−γ(IFN−γ)の放出を示している。
【図3B】EpCAM陽性癌細胞(HCT8)と接触させた抗体を用いて刺激を行った後における、PBMCからのIFN−γの放出を示している。
【図3C】HCT8標的細胞と接触させた抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出(ここではIFN−γ)と、HCT8標的細胞と接触させていない抗体を用いて刺激を行った後におけるサイトカインの放出とのパーセンテージ比較を示している。
【図4A】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4B】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4C】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4D】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図4E】濃度0.01、0.1、1および1μg/mlのデキサメタソンの同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体(濃度106cells/ml)によるT細胞活性化に関する実験の結果を示したグラフである。
【図5A】特異的な細胞傷害性のパーセンテージにおける濃度0.01mg/mlのデキサメタソンの影響を示している。
【図5B】濃度0.1μg/mlのデキサメタソンの影響に関する対応する測定の結果を示している。
【図5C】濃度1μg/mlのデキサメタソンを用いた比較測定の結果を示している。
【図5D】濃度10μg/mlのデキサメタソンの場合の対応する測定の結果を示している。
【図6A】白血球濃度(g/l)(黒いひし形)および血清CRP濃度(mg/dl)(黒い四角形)の曲線を示す図である。
【図6B】特異の血球数中におけるリンパ球の割合比の曲線を示す図である。
【図6C】IL−2受容体の血清濃度の曲線を示している。
【図6D】胃癌の患者において測定した血清中TNF−α濃度(pg/ml)の曲線を示している。
【図6E】治療をx軸にプロットした場合の胃癌患者の血清中IL−6濃度(pg/ml)の曲線を示している。
【図7A】すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼ(黒いひし形)およびリパーゼ(黒い四角形)の血清濃度(U/l)曲線を示している。
【図7B】胃癌患者の治療の下での肝臓特異性酵素であるアルカリ性ホスファターゼ(AP;黒いひし形)、γ−グルタミル転移酵素(γ−GT;黒い四角形)、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT;黒い三角形)、およびグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT;x)の血清濃度(U/l)に対応する曲線である。
【図7C】胃癌患者の治療の過程における作用としてさらなる肝臓パラメータであるビリルビンの合計濃度(mg/dl)を示す図である。
【図8A】白血球数およびCRP血清濃度の曲線を示している。
【図8B】治療過程の作用における特異の血球数中のリンパ球の割合比を示している。
【図8C】IL−2受容体濃度の曲線である。
【図8D】TNF受容体p75およびTNF受容体p55をプロットしたものである。
【図8E】本発明に係る組み合わせ治療の下でのIL−6濃度の曲線を示している。
【図9A】すい臓特異性酵素であるα−アミラーゼおよびリパーゼの血清濃度(U/l)曲線を再度示している。
【図9B】肝臓特異性酵素であるAP、γ−GT、GOT、およびGPT(同様にU/l)に一致するプロットを示している。
【図9C】治療過程の作用およびさらなる肝臓特異性実験パラメータが示されている。
【図10A】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度10ng/mlの抗体の場合の対応する測定の結果を示す。
【図10B】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度100ng/mlの抗体の場合の測定結果を示す。
【図10C】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、3人の健康な被験者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度1000ng/mlの抗体の場合の対応する測定結果を示す。
【図10D】細胞傷害性試験における、蛍光標識されたHCT8腫瘍細胞を用いた特異的な細胞傷害性のパーセンテージの測定の結果を表すグラフを示し、6人の胃癌患者それぞれに対して行われた測定結果の平均値を表す。なお、濃度100ng/mlの抗体の場合に対応する測定結果を示す。
【図11】健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。
【図12】健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。
【図13】健康な被験者における、EpCAM陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、抗EpCAM×抗CD3の特異性の三官能性二重特異性抗体(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、TNF−αの放出の結果を示す。
【図14】腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−10(IL−10)の放出の結果を示す。
【図15】腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。
【図16】腫瘍患者における、PBMCからのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、TNF−αの放出の結果を示す。
【図17】健康な被験者における、HER2/neu陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、モノクローナルな単特異性抗体ハーセプチン(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、インターロイキン−6(IL−6)の放出の結果を示す。
【図18】健康な被験者における、HER2/neu陽性腫瘍細胞(HCT8)(濃度5×104細胞/ml)なし、または存在下で、モノクローナルな単特異性抗体ハーセプチン(AK)(濃度1mg/ml)による刺激後の、PBMC(濃度106細胞/ml)からのさまざまなサイトカインの放出の結果を示すグラフであり、TNF−αの放出の結果を示す。
【図19】デキサメタソン(濃度0.01μg/ml、0.1μg/ml、および1.0μg/ml)の同時投与の影響下での、抗EpCAM×抗CD3の特異性を有する三官能性二重特異性抗体を用いた106細胞/mlでのT細胞活性化に関する測定結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一またはそれ以上の免疫刺激性の抗体、特に三官能性の抗体(trAB)を用いた疾患の治療における非特異的なサイトカインの放出を低減させるための薬剤を製造するための、一またはそれ以上のグルココルチコイドの使用。
【請求項2】
上記グルココルチコイドが合成グルココルチコイドであることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記合成グルココルチコイドが、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシドからなる群より選択されることを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
上記疾患が癌性の疾患および腫瘍性の疾患からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の使用。
【請求項5】
上記癌性の疾患が胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および消化器間質腫瘍(GIST)からなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
上記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の抗体であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の使用。
【請求項7】
上記抗体は、二重特異性であり、個々が、腫瘍抗原およびCDマーカーに対して少なくとも一の特異性を示すことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
上記CDマーカーがCD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択されることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
上記腫瘍抗原が、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、CD117、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原からなる群より選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
上記抗体が抗EpCAM×抗CD3、または抗HER2/neu×抗CD3の特異性を有する三官能性の抗体であることを特徴とする請求項7〜9の何れか一項に記載の使用。
【請求項11】
上記抗体および/または上記グルココルチコイドが、腹腔内、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腫瘍内、または所定の組織に選択的に投与されることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の使用。
【請求項12】
上記所定の組織への選択的な投与が、組織の供給血管へのカテーテルを介して行われることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
肝臓への上記投与が、肝動脈へのカテーテルを介して行われることを特徴とする請求項12に記載の使用。
【請求項14】
上記グルココルチコイドおよび上記抗体が同時に投与されることを特徴とする請求項1〜13の何れか一項に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも一の免疫刺激性の抗体と、
少なくとも一のグルココルチコイドと、を備えており、
上記少なくとも一の免疫刺激性の抗体と、上記少なくとも一のグルココルチコイドとが互いに分離されていることを特徴とするキット。
【請求項16】
上記グルココルチコイドが合成グルココルチコイドであることを特徴とする請求項15に記載のキット。
【請求項17】
上記合成グルココルチコイドが、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシドからなる群より選択されることを特徴とする請求項16に記載のキット。
【請求項18】
上記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の抗体であることを特徴とする請求項15〜17の何れか一項に記載のキット。
【請求項19】
上記抗体は、二重特異性であり、個々が、腫瘍抗原およびCDマーカーに対して少なくとも一の特異性を示すことを特徴とする請求項18に記載のキット。
【請求項20】
上記CDマーカーがCD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択されることを特徴とする請求項19に記載のキット。
【請求項21】
上記腫瘍抗原が、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原からなる群より選択されることを特徴とする請求項19または20に記載のキット。
【請求項22】
上記抗体が、抗EpCAM×抗CD3、または抗HER2/neu×抗CD3の特異性を有する三官能性の抗体であることを特徴とする請求項19〜21の何れか一項に記載のキット。
【請求項23】
上記疾患が癌性の疾患および腫瘍性の疾患からなる群より選択されることを特徴とする請求項15〜22の何れか一項に記載のキット。
【請求項24】
上記癌性の疾患が胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および消化器間質腫瘍(GIST)からなる群より選択されることを特徴とする請求項23に記載のキット。
【請求項1】
一またはそれ以上の免疫刺激性の抗体、特に三官能性の抗体(trAB)を用いた疾患の治療における非特異的なサイトカインの放出を低減させるための薬剤を製造するための、一またはそれ以上のグルココルチコイドの使用。
【請求項2】
上記グルココルチコイドが合成グルココルチコイドであることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記合成グルココルチコイドが、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシドからなる群より選択されることを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
上記疾患が癌性の疾患および腫瘍性の疾患からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の使用。
【請求項5】
上記癌性の疾患が胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および消化器間質腫瘍(GIST)からなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
上記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の抗体であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の使用。
【請求項7】
上記抗体は、二重特異性であり、個々が、腫瘍抗原およびCDマーカーに対して少なくとも一の特異性を示すことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
上記CDマーカーがCD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択されることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
上記腫瘍抗原が、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、CD117、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原からなる群より選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
上記抗体が抗EpCAM×抗CD3、または抗HER2/neu×抗CD3の特異性を有する三官能性の抗体であることを特徴とする請求項7〜9の何れか一項に記載の使用。
【請求項11】
上記抗体および/または上記グルココルチコイドが、腹腔内、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腫瘍内、または所定の組織に選択的に投与されることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の使用。
【請求項12】
上記所定の組織への選択的な投与が、組織の供給血管へのカテーテルを介して行われることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
肝臓への上記投与が、肝動脈へのカテーテルを介して行われることを特徴とする請求項12に記載の使用。
【請求項14】
上記グルココルチコイドおよび上記抗体が同時に投与されることを特徴とする請求項1〜13の何れか一項に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも一の免疫刺激性の抗体と、
少なくとも一のグルココルチコイドと、を備えており、
上記少なくとも一の免疫刺激性の抗体と、上記少なくとも一のグルココルチコイドとが互いに分離されていることを特徴とするキット。
【請求項16】
上記グルココルチコイドが合成グルココルチコイドであることを特徴とする請求項15に記載のキット。
【請求項17】
上記合成グルココルチコイドが、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コリチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン、およびブデノシドからなる群より選択されることを特徴とする請求項16に記載のキット。
【請求項18】
上記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、および/または多官能性の抗体であることを特徴とする請求項15〜17の何れか一項に記載のキット。
【請求項19】
上記抗体は、二重特異性であり、個々が、腫瘍抗原およびCDマーカーに対して少なくとも一の特異性を示すことを特徴とする請求項18に記載のキット。
【請求項20】
上記CDマーカーがCD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28およびCD44からなる群より選択されることを特徴とする請求項19に記載のキット。
【請求項21】
上記腫瘍抗原が、EpCAM、HER2/neu、HER3/neu、G250、CEA、MAGE、VEGF、GD3、EGFR、αVβ3−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD33、CD40、CD41、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、ガングリオシドGD2、GD3、C215、9.2.27抗体の抗原、NE150抗体の抗原、およびCA125抗体の抗原からなる群より選択されることを特徴とする請求項19または20に記載のキット。
【請求項22】
上記抗体が、抗EpCAM×抗CD3、または抗HER2/neu×抗CD3の特異性を有する三官能性の抗体であることを特徴とする請求項19〜21の何れか一項に記載のキット。
【請求項23】
上記疾患が癌性の疾患および腫瘍性の疾患からなる群より選択されることを特徴とする請求項15〜22の何れか一項に記載のキット。
【請求項24】
上記癌性の疾患が胃癌、腺癌、悪性黒色腫、結腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌、肝細胞癌、全組織型の気管支癌、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、および消化器間質腫瘍(GIST)からなる群より選択されることを特徴とする請求項23に記載のキット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
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【図6A】
【図6B】
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【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
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【図9A】
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【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−254994(P2012−254994A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163157(P2012−163157)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2008−508080(P2008−508080)の分割
【原出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(308013388)トリオン ファーマ ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】TRION PHARMA GMBH
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Ring 193a,80807 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2008−508080(P2008−508080)の分割
【原出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(308013388)トリオン ファーマ ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】TRION PHARMA GMBH
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Ring 193a,80807 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】
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