説明

癒着防止材料

【課題】従来技術においては困難であった癒着防止効果を示す所望の性質を満たす癒着防止材料を得ること。
【解決手段】遺伝子組み換えゼラチンより作製されることを特徴とする癒着防止材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組み換えゼラチンを用いた癒着防止材料に関する。
【背景技術】
【0002】
手術後の臓器間の癒着は程度の差はあれ、ほとんどの手術で起こり、しばしば再手術を必要とする。さらに重篤な場合は死にまで至らしめる。従って、外科医師は手術後の臓器間の癒着を防止できる癒着防止材料の開発を求めている。癒着は組織修復の過程で生成されるコラーゲン繊維により引き起こされる。特に、炎症や血液が多く存在する部分で頻発する。すなわち、炎症細胞が血液から生成されるフィブリンを足場として繊維形成されることにより癒着が起こる。
【0003】
癒着防止効果を示す方法論としては大きく、1.抗炎症剤の投与、2.臓器間の物理的な隔離が行われている。前者に対しては、副作用として通常の組織修復の過程を阻害する効果もあるため、現在のところ癒着防止を狙った処置としては後者の臓器間の物理的な隔離が主流である。
【0004】
臓器間の物理的隔離を狙った癒着防止材料として求められる性質としては、1.非炎症性である、2.細胞非接着性である、3.適度な生体内分解性(通常1週間から1ヶ月程度)、4.適度な組織接着性(材料が臓器から剥がれない程度)、5.適度な操作性が挙げられる。
【0005】
これまで、Seprafilm(カルボキシメチルセルロース−ヒアルロン酸ナトリウム)やInterceed(ポリテトラフルオロエチレン)等が上市されている。しかしながらこれらの製品も癒着防止材料として要求される性質を完全に満たしているとはいえない。すなわち、前者では、適度な組織接着性や操作性(濡れた際にフィルムが術者の手にこびりついて扱いづらい)が、後者では生体内分解性に問題がある。特に、心臓血管外科領域では、術後に漏出する血液を排出するチューブを塞ぐ恐れがあるため、使用することができないのが現状である。
【0006】
上記の問題点を解決するべく、ゼラチンを用いた癒着防止膜が開示されている。(特許文献1)しかし、この材料は天然ゼラチンから構成されているため、上記1〜3の課題を
精密に設計することはできなかった。また、上記の癒着防止膜はゼラチンが熱架橋されているため、タンパク質分子が切断されてしまい、所望の効果を発揮できない可能性がある。
【0007】
近年、遺伝子工学の手法の目覚しい進歩により、大腸菌や酵母に遺伝子を導入することによるタンパク質の合成が行われている。該手法により、種々の遺伝子組替えコラーゲン様タンパク質が合成(例えばEP0926543B、WO02/052342、EP1063565B、WO2004085473、EU1014176A2、米国特許第6,992,172号)されているが、これらを癒着防止材料へ応用した試みはない。
【0008】
【特許文献1】特開2007−44080号公報
【特許文献2】EP0926543B
【特許文献3】WO02/052342
【特許文献4】EP1063565B
【特許文献5】WO2004/085473
【特許文献6】EU1014176A2
【特許文献7】米国特許第6,992,172号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術においては困難であった癒着防止効果を示す所望の性質を満たす癒着防止材料を得ることを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遺伝子組み換えゼラチンを癒着防止材料の要素材料として用いることによって、効果的な癒着防止材料の設計が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、遺伝子組み換えゼラチンより作製されることを特徴とする癒着防止材料が提供される。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは、天然のコラーゲンのアミノ酸配列との相同性が80%以上である。
【0012】
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が10 KDa以上90 KDa以下である。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは、天然コラーゲンの部分配列の繰り返しである。
【0013】
好ましくは、該材料は薬剤を含んでいる。
好ましくは、該薬剤は、抗炎症剤、抗菌剤、抗生剤、又は抗癒着剤である。
好ましくは、該薬剤は抗炎症剤である。
【0014】
好ましくは、該薬剤はサイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、又は核酸である。
好ましくは、該薬剤は、塩基性繊維芽細胞増殖因子、酸性繊維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、又は肝細胞増殖因子である。
【0015】
好ましくは、有機フッ素化合物を用いて該薬剤が封入されている。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは架橋されている。
好ましくは、該架橋は、アルデヒド類、縮合剤、又は酵素による架橋である。
【発明の効果】
【0016】
本発明を実施することにより、(1)細胞の接着性の制御、(2)生体内分解性の設計、(5)強度の制御、および(6)組織接着性の設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンとしては、例えばEP1014176A2、US6992172に記載のものを用いることができるがこれらに限定されるものではない。また、該遺伝子組み換えゼラチンは部分的に加水分解されていてもよい。該ゼラチンは生体由来のコラーゲンの配列とのアミノ酸同一性が40%であればよく、より好ましくは50%以上である。より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。ここで言うコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれであっても構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、およびV型である。より好ましくは、I型、II型、III型である。別の形態によると、該コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウス、ラットである。より好ましくはヒトである。好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは、天然コラーゲンの部分配列の繰り返しである。繰り返し回数は特に限定はないが、実際的には1-10回である。より好ましくは1-6回である。その際に、天然コラーゲンの部分配列を部分的に換えても良い。部分配列の変更は好ましくは20%以下である。より好ましくは10%以下である。さらに好ましくは5%以下である。
【0018】
該遺伝子組み換えゼラチンの等電点は特に限定はないが、好ましくは4-10である。
【0019】
遺伝子組み換えゼラチンは、好ましくはコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である。より好ましくは2.5 KDa以上95KDa以下である。より好ましくは5 KDa以上90 KDa以上である。最も好ましくは、10 KDa以上90KDa以下である。コラーゲンに特徴的なGXY部分とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。X,Yであらわされるアミノ酸はイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%〜45%を占める。
【0020】
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンはプロコラーゲンおよびプロコラーゲンを有さない。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは天然コラーゲンをコードする核酸により調製された実質的に純粋なコラーゲン用材料である。
【0021】
再生医療におけるマトリックス材料として必要とされる性質は、損傷部位、損傷の度合い、使用する細胞、遺伝子や薬物の種類等の数多くのファクターにより大きく異なる。一般には1.適度な細胞接着性、2.薬物や遺伝子との親和性、3.生体適合性、4.生体内分解性、5.適度な力学強度(バルク、ミクロ)、6.適度な表面および内部の構造(バルク、ミクロ)、7.非感染性、を所望の性質とすることが求められる。
【0022】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは当然生体適合性や非感染性には優れている。
また、本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは天然のものに比して均一であり、配列が決定されているので、強度、分解性においても後述の架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0023】
一般にポリペプチドにおいて、細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列が知られている(例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7(1990年)527頁)。この中で、接着する細胞の種類が多いという点で、アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、及びHAV配列の配列が好ましく、さらに好ましくはRGD配列、YIGSR配列、PDSGR配列、LGTIPG配列、IKVAV配列及びHAV配列、特に好ましくはRGD配列、IKVAV配列及びHAV配列である。この最小アミノ酸配列の含有量は、細胞接着・増殖性の観点から、1分子中3〜50個が好ましく、さらに好ましくは4〜30個、特に好ましくは5〜20個である。本発明の遺伝子組替えゼラチンにおいてはこれらの配列を制御して発現させることにより、所望の細胞接着性を得ることができる。
【0024】
組織の修復した後は癒着防止材料が分解除去されることが望ましい。生体内での材料の分解時間に特に限定はないが、実質的には3日以上から2ヶ月以内である。好ましくは1週間以上1ヶ月以内である。
【0025】
該遺伝子組み換えゼラチンの配列相同性の高い天然コラーゲンの種類は、本発明を実施可能である限りは特に既定はない。一般に、必要とされる配列の種類は治療部位により大きく異なる。すなわち、それぞれの組織に必要なコラーゲンの配列に近いものが望ましい。例えば、軟骨を治療する場合はII型コラーゲンの配列であることが望ましい。血管であれば、外膜はI型、内膜はIV型であることが望ましい。
【0026】
該遺伝子組み換えゼラチン単独では性能が不十分である場合は、他の材料と混合や複合化を行っても構わない。例えば、種類の異なる遺伝子組み換えゼラチンや他の生体高分子や合成高分子と混合しても構わない。生体高分子としては、多糖、ポリペプチド、タンパク質、核酸、抗体等があげられる。好ましくは、多糖、ポリペプチド、タンパク質である。多糖、ポリペプチド、タンパク質としては例えば、ヒアルロン酸やヘパリンに代表されるグリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ポリ−γ―グルタミン酸、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブロイン、カゼインが挙げられる。さらにこれらは必要に応じて部分的に化学修飾を施されていても構わない。例えば、ヒアルロン酸エチルエステル、ヒアルロン酸ベンジルエステルを用いても良い。
【0027】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは用途に応じて、化学的に修飾することができる。化学的な修飾としては、遺伝子組み換えゼラチンの側鎖のカルボキシル基やアミノ基への低分子化合物あるいは各種高分子(生体高分子(糖、タンパク質)、合成高分子、ポリアミド)の導入や、遺伝子組み換えゼラチン間の架橋が挙げられる。該遺伝子組み換えゼラチンへの低分子化合物の導入としては、例えばカルボジイミド系の縮合剤が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる架橋剤は本発明を実施可能である限りは特に限定はなく、化学架橋剤でも酵素でもよい。化学架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、シアナミドなどが挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドである。遺伝子組み換えゼラチンの架橋の別の形態として、光や熱等の刺激により反応性する官能基を導入した遺伝子組み換えゼラチンに該刺激を加えることで架橋しても良い。例えば、遺伝子組み換えゼラチンにフェニルアジド基やシンナミル基を導入した光反応性遺伝子組み換えゼラチンに光照射して架橋することが挙げられる。また、遺伝子組み換えゼラチンにビニル基を導入し、ラジカル発生基と共存させて重合、架橋することが挙げられる。
【0029】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、遺伝子組み換えゼラチン鎖間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼおよびラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、ヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、 Haematologic Technologies, Inc.社)などが挙げられる。
【0030】
遺伝子組み換えゼラチンの架橋には生体高分子の溶液と架橋剤を混合する過程とそれらの均一溶液の反応する過程の2つの過程を有する。
【0031】
本発明において生体高分子を架橋剤で処理する際の混合温度は、溶液を均一に攪拌できる限り特に限定されないが、好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは0℃〜30℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃〜15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0032】
生体高分子と架橋剤を攪拌した後は温度を上昇させることができる。反応温度としては架橋が進行する限りは特に限定はないが、生体高分子の変性や分解を考慮すると実質的には0℃〜60℃であり、より好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃から15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0033】
本発明により得られる架橋した遺伝子組み換えゼラチンからなる構造物の形態は特に規定はないが、例えばスポンジ、フィルム、不織布、ファイバー(チューブ)、粒子などが挙げられる。形状はいずれの形状でも適用可能であるが、例えば角錐、円錐、角柱、円柱、球、紡錘状の構造物および任意の型により作成した構造物が挙げられる。好ましくは、角柱、円柱、紡錘状の構造物および任意の型により作成した構造物である。より好ましくは、角錐、円錐、角柱、円柱である。最も好ましくは角柱、円柱である。
【0034】
該構造物の大きさは特に限定されないが、スポンジ、不織布であれば好ましくは500 cm四方以下である。好ましくは100 cm以下である。特に好ましくは50 cm以下である。最も好ましくは10 cm以下である。ファイバー(チューブ)であれば、ファイバーまたはチューブの直径(または一辺)は1 nm以上10 cm以下である。好ましくは1 nm以上1 cm以下である。より好ましくは1 nm以上100 μmである。特に好ましくは1 nm以上1μm以下である。最も好ましくは1 nm以上10 nm以下である。また、長さは特に限定されるものではないが、好ましくは10 μm以上100 m以下である。より好ましくは100 μm以上10 m以下である。さらに好ましくは1 mm以上1 m以下である。最も好ましくは1 cm以上30 cm以下である。粒子であれば、好ましくは1 nmから1 mm、より好ましくは10 nmから200 μm、さらに好ましくは50 nmから100 μm、特に好ましくは100 nmから10μmである。
【0035】
構造物の厚さについては特に限定されないが、好ましくは1 nm以上である。より好ましくは、10 nm以上である。より好ましくは100 nm以上である。より好ましくは1 μm以上である。さらに好ましくは10 μm以上である。最も好ましくは100 μm以上5cm以下である。
【0036】
該遺伝子組み換えゼラチンはその他の合成高分子との混合物としても利用することができる。該合成高分子としては、特に限定はないが、より好ましくはウレタン結合、エステル結合、エーテル結合、およびカーボネート結合を有する高分子、またはビニル重合体、およびそれらの共重合体である。好ましくは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの共重合体、ポリ(ε―カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)、ポリメチレンカーボネート、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ベンジルエステル、ヒアルロン酸エチルエステル、アセチルセルロース、セグメント化ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチレンカーボネート、グリセロール、ポリエチレングリコール、セルロース、アセチルセルロースである。
【0037】
該合成高分子の分子量は特に限定することはないが、実質的には1KDa以上10MDa以下である。好ましくは5 KDa以上500 KDa以下である。最も好ましくは10 KDa以上100 KDa以下である。さらに、該合成高分子は架橋および化学修飾が施されていても構わない。
【0038】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンには、必要に応じて添加剤を加えても良い。添加剤の例としては、薬剤、色素剤、柔軟剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、香料、pH調整剤が挙げられる。
【0039】
薬剤の具体例としては、抗炎症剤、抗菌剤、抗生剤、及び抗癒着剤が挙げられる。特に好ましくは抗炎症剤である。抗炎症剤としては、ステロイド系、非ステロイド系のいずれを用いても構わない。抗炎症剤の例としては、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、フェナチセン、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム、ピロキシカム、フェノプロフェンカルシウム、イブプロフェン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフルニサル、リン酸デキサメタゾンナトリウムが挙げられる。
【0040】
通常は抗炎症剤が好ましいが、場合によっては、組織修復を手助けする薬剤を封入しても効果がある。組織修復を手助けする薬剤としては、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、又は核酸が挙げられる。
【0041】
サイトカイン、ホルモン、ポリペプチドの具体例としては、塩基性繊維芽細胞増殖因子、酸性繊維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、又は肝細胞増殖因子などを挙げることができる。
別の薬剤として、フィブリンを分解する酵素(例えば、プラスミン)を封入しても良い。
以上、具体的な薬剤を列挙したが、本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンを使用する限りは上記に挙げる薬剤に限定されることはない。
【0042】
本発明の癒着防止材料は、遺伝子組み換えゼラチンと溶媒と所望により薬剤とを含む溶液を塗布してフィルムを形成することによって作製することができる。上記フィルムを作製する際に使用する溶媒は、水、または有機フッ素化合物であることが好ましく、有機フッ素化合物であることがさらに好ましい。溶媒は、より好ましくは炭素数1から8の有機フッ素化合物であり、さらに好ましくは炭素数1から6の有機フッ素化合物であり、さらに好ましくは炭素数1から3の有機フッ素化合物である。溶媒は、特に好ましくは、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、またはペンタフルオロプロピオン酸である。
また、別の形態として、遺伝子組み換えゼラチンを用いた構造体を作製し、該構造体を薬剤を含む溶液に浸漬させることにより薬剤を封入してもよい。該溶液の溶媒として、水、有機フッ素化合物であることが好ましく、有機フッ素化合物であることがさらに好ましい。溶媒は、より好ましくは炭素数1から8の有機フッ素化合物であり、さらに好ましくは炭素数1から6の有機フッ素化合物であり、さらに好ましくは炭素数1から3の有機フッ素化合物である。溶媒は、特に好ましくは、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、またはペンタフルオロプロピオン酸である。
【0043】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1: 遺伝子組み換えゼラチンの合成
性質の異なる遺伝子組み換えゼラチンを先行例に従って合成した(EP-A-0926453、EP-A-1014176、WO01/34646)。配列の一例を以下に示す。
【0045】
名称:HU4(配列番号1)
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【0046】
実施例2:ゼラチン架橋フィルムの作製
遺伝子組み換えゼラチン(HU4)または酸処理ゼラチン、およびグルタルアルデヒドを含む水溶液(ゼラチン濃度:5%、グルタルアルデヒド:0.4%)を100μmの厚さに塗布し、一晩静置した。該架橋フィルムを5 mMグリシン溶液に浸漬し、一晩静置した。さらに、ミリQ 水に浸漬して一晩静置した後、凍結乾燥することで架橋ゼラチンフィルムを得た。
【0047】
実施例3:架橋ゼラチンフィルムの細胞接着性
実施例3にて作製したフィルムを円形に切り抜き(直径=12 mm)、12穴細胞培養皿に置いた。該フィルム上にウシ繊維芽細胞を播種し(細胞密度:2.0 x 104 cells/mL、1 mL)、インキュベーター内にて培養した。3時間、1日、3日後の細胞を位相差顕微鏡にて観察すると、HU4フィルムでは細胞は接着せず、酸処理ゼラチン表面には細胞の接着を認めた。HU4フィルムは細胞非接着性フィルムとして作用できると言える。
【0048】
実施例4:HU4フィルムの癒着防止効果
ラット盲腸癒着防止モデルを用いて(Feritl. Steril. 1994, 61, 219-235.)、HU4架橋フィルムの癒着防止効果を調べた。盲腸表面をガーゼにて損傷した損傷盲腸にHU4架橋フィルム(3 cm x 3 cm)を貼り付けた。該フィルムは損傷部位に強く接着した。1週間後、該ラットを開腹し、癒着の有無を調べたところ、コントロールとしたフィルムを貼らない盲腸が周辺組織との強い癒着を認め、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液を塗布した盲腸、ヒアルロン酸ゲルを貼った盲腸、ポリ乳酸フィルムを貼った盲腸では中程度の癒着を、認めたのに対し、該ゼラチンフィルムを貼り付けた表面は癒着を認めない、あるいは大幅な癒着軽減を認めた。さらに、2ヵ月後に損傷部位を観察したところ、埋植したフィルムは分解された。すなわち、該フィルムは接着性に優れた癒着防止材料として利用可能といえる。
【0049】
該フィルムを作成時に抗炎症剤(リン酸デキサメタゾンナトリウム)を封入したゼラチンフィルムでは未封入のフィルムより大きな癒着防止効果を認めた。
【0050】
実施例4:HU4フィルムの胸部領域への応用の可能性
HU4フィルムおよびSeprafilmをラット盲腸に貼り付け、ラット腹部をPBSにより浸した。HU4フィルムは膨潤は少なく、フィルムはチューブ方向に引っ張られることなく組織に留置できた。一方、Seprafilmは膨潤し、チューブの開口部にフィルムが引き込まれた。すなわち、HU4フィルムは体内の空洞部からの体液の抜き取りが必要な場合に有効であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組み換えゼラチンより作製されることを特徴とする癒着防止材料。
【請求項2】
該遺伝子組み換えゼラチンが、天然のコラーゲンのアミノ酸配列との相同性が80%以上である、請求項1に記載の癒着防止材料。
【請求項3】
該遺伝子組み換えゼラチンがコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である、請求項1又は2に記載の癒着防止材料。
【請求項4】
該遺伝子組み換えゼラチンがコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が10 KDa以上90 KDa以下である、請求項1又は2に記載の癒着防止材料。
【請求項5】
該遺伝子組み換えゼラチンが天然コラーゲンの部分配列の繰り返しである、請求項1から4の何れかに記載の癒着防止材料。
【請求項6】
該材料が薬剤を含んでいる、請求項1から5の何れかに記載の癒着防止材料。
【請求項7】
該薬剤が、抗炎症剤、抗菌剤、抗生剤、又は抗癒着剤である、請求項6に記載の癒着防止材料。
【請求項8】
該薬剤が抗炎症剤である、請求項6又は7に記載の癒着防止材料。
【請求項9】
該薬剤がサイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、又は核酸である、請求項6から8の何れかに記載の癒着防止材料。
【請求項10】
該薬剤が、塩基性繊維芽細胞増殖因子、酸性繊維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、又は肝細胞増殖因子である、請求項6から9の何れかに記載の癒着防止材料。
【請求項11】
有機フッ素化合物を用いて該薬剤を封入した、請求項1から10の何れかに記載の癒着防止材料。
【請求項12】
該遺伝子組み換えゼラチンが架橋されている、請求項1から11の何れかに記載の癒着防止材料。
【請求項13】
該架橋が、アルデヒド類、縮合剤、又は酵素による架橋である、請求項12に記載の癒着防止材料。

【公開番号】特開2008−284257(P2008−284257A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133641(P2007−133641)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】