説明

癒着防止膜

【課題】
本発明は、柔軟性に富み、より多くの症例に対して適用可能な癒着防止膜の提供を課題とするものである。
【解決手段】
本発明は、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の癒着防止層と、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材を備え、前記癒着防止層に不織布が埋設されてなる癒着防止膜を提供する。上記癒着防止膜は、さらに別の視点から見れば、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材と、該基材の表面及び該基材における生分解性高分子糸間に、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物が存在してなる癒着防止膜と言える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の外科手術においては、患部の切除、および損傷部位の修復等を行うことが多い。このような外科手術、特に肺、心臓、肝臓、脳、消化器官及び胆嚢などの各種臓器を対象とする場合には、その切断面や欠損部などに、該臓器の組織を覆っている膜状物を補填または補綴しなければ、その臓器の根本的な機能を損なう場合が多い。これらの処置を不完全に行うと、臓器の機能不全により死亡するか、もしくは生命の危機を逃れたとしても、予後が大変悪くなる傾向が良く観うけられる。またこれらの補綴、補填部位での縫合固定が不良であると、該処置を行った臓器自身の機能はかろうじて維持できたとしても、これらの臓器から滲出または漏出した体液、消化液、内容物などにより感染したり、他臓器への攻撃、浸食を引き起こして生命の危機を招くこともある。
【0003】
また、これら補綴または補填した膜状物と臓器との癒着が高頻度に発生するケースがある。その結果として、経時的に臓器の機能不全を誘発する事もある。このような各種の問題点を解決する目的で、臓器または該臓器の組織を覆う膜状物または癒着防止膜が、様々な材料により開発されている。
【0004】
癒着防止膜の市販品としては、科研製薬社販売のセプラフィルム(登録商標)がある。当該製品に関連するであろう特許文献として、特許文献1が挙げられる。この市販品は、腹部又は骨盤腔の手術後の癒着を防止するための医療機器である。
【0005】
また、心臓手術後の際に切除された漿膜(心膜)の再生に好適な癒着防止膜を本出願人は特許出願している(特許文献2〜4)。この癒着防止膜は、漿膜(心膜)が周辺の臓器(心臓や肺)に癒着することを防止するだけではなく、心臓手術のために切除された漿膜(心膜)を再生させる効果もある。
【0006】
しかし、これらの癒着防止膜は、比較的硬い膜であるため、例えば、腸膜等の円筒状の器官や体内に埋め込まれる医療機器に関連する癒着を防止するために、当該癒着防止膜を撓ませて使用することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−277579号公報
【特許文献2】特開2003−245341号公報
【特許文献3】特開2003−235955号公報
【特許文献4】国際公開2005/094915号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、柔軟性に富み、より多くの症例に対して適用可能な癒着防止膜の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の癒着防止層と、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材を備え、前記癒着防止層に不織布が埋設されてなる癒着防止膜を提供する。
【0010】
上記癒着防止膜は、さらに別の視点から見れば、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材と、該基材の表面及び該基材における生分解性高分子糸間に、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物が存在してなる癒着防止膜と言える。
【0011】
上記癒着防止膜は、製造方法により表現するとするならば、1−1)生分解性高分子の糸で構成されてなる基材を難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液に浸漬、又は、1−2)生分解性高分子の糸で構成されてなる基材に難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液を塗布し、2)乾燥することにより製造された癒着防止膜と言える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の癒着防止膜は、柔軟性に富むので、撓ませて使用する場合に特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
【0014】
「癒着防止膜」とは、ある切除又は損傷した生体組織若しくは器官(以下、損傷組織等と省略する)が、当該損傷組織等の周囲に配置されてなる他の生体内の組織、器官若しくは体内に留置された医療器具に癒着することを防止するための膜をいう。
【0015】
癒着防止膜は、少なくとも癒着防止効果を奏する高分子材料で構成されてなる。以下、このような高分子材料を「癒着防止性高分子」と称する。癒着防止性高分子としては、例えば、一般的な多糖類として、アミロース、アミロペクチン、イヌリン、デキストラン、デキストリン、ペクチン、アルギン酸及びカルボキシメチルセルロース等が、グリコサミノグリカン類として、ヒアルロン酸、アルギン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラト硫酸及びヘパリン等が、2糖類として、トレハロース等が、アルコール類として、グリセリン等が、合成高分子類として、ポリエチレングリコール等が、ポリアミノ酸として、ポリグルタミン酸等が挙げられる。特に、材料費が比較的安価である観点から、ヒアルロン酸が望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0016】
癒着防止膜は、癒着防止性高分子のみを用いただけでは癒着防止効果を持続させることは困難である。このため、上記癒着防止性高分子に難生分解性高分子を混合して、癒着防止効果を持続させる。「難生分解性高分子」とは、生分解性高分子であって、その分解速度が上記癒着防止性高分子よりも遅い高分子をいう。難生分解性高分子としては、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、セルロース類、キチン及びキトサン等が挙げられる。特に、上述の癒着防止性高分子との親和性(相溶性)が高い観点から、コラーゲンが望ましい。
【0017】
「コラーゲン」とは、動物の結合組織を構成する主要タンパク質成分をいい、分子の主鎖構造が、(Gly−X−Y)、(Gly−Pro−X)及び(Gly−Pro−Hyp)で構成されるものをいう。ここで、X及びYは、グリシン、プロリン及びヒドロキシプロリン以外の天然若しくは非天然アミノ酸である。
【0018】
また、コラーゲンのタイプについては、I型、II型及びIII型などが挙げられる。特に、取り扱いが容易である観点から、I型及びIII型が好ましいが、これに限定されるものではない。また、本発明におけるコラーゲンは、熱変性コラーゲンであるゼラチンを含むが、細胞接着性があるという観点からコラーゲンであることが好ましい。
【0019】
コラーゲンは、生体組織からの抽出、化学的ポリペプチド合成及び組み替えDNA法などにより製造される。本発明出願当時では、製造コストの観点から、生体組織からの抽出により得られたものが好ましい。また、生体組織の由来は、例えば、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ネズミ、鳥類、魚類及びヒトなどが挙げられる。また、前記生体組織としては、上記に列挙した動物の皮膚、腱、骨、軟骨及び臓器などが挙げられる。これらの選択は当業者が適宜行うことができるものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
さらに、コラーゲンは、工業的な製造を容易とする観点から、溶媒に溶解できるよう処理が施されたコラーゲンを選択することが好ましい。例えば、酵素可溶化コラーゲン、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン及び中性可溶化コラーゲンなどの可溶化コラーゲンが挙げられる。特に取り扱いが容易である観点から、酸可溶化コラーゲンが好ましい。さらに、生体内埋殖時の安全性の観点から、抗原決定基であるテロペプチドの除去処理が施されているアテロコラーゲンであることが好ましい。
【0021】
ところで、上記難生分解性高分子の中には、細胞付着性という癒着防止とは相反する特性を有するものがある。このような相反する特性がある中、癒着防止効果を持続させるためには、癒着防止性高分子と難生分解性高分子との混合比(重量)を、3:7〜7:3とする事が望ましい。
【0022】
以上に説明した癒着防止性高分子と難生分解性高分子との混合物で癒着防止をする層が形成される。以下、この層を癒着防止層と称する。しかし、癒着防止層のみでは医療機器として十分な強度を有さない。このため、癒着防止層内には、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材が埋設される。
【0023】
基材は、生分解性高分子の糸で形成されたものであればよく、主に織布及び不織布が挙げられる。特に、製造コストが安価である観点から、不織布が望ましい。不織布に関しては後述する。
【0024】
基材を形成する生分解性高分子としては、例えば、グリコサミノグリカン類(ヒアルロン酸、アルギン酸、ヘパラン硫酸及びコンドロイチン硫酸等)、ポリペプチド(ポリグルタミン酸及びポリリジン等)、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、セルロース類、キチン、キトサン、ヘパリン並びにトレハロース等が挙げられる。尚、生分解性高分子は、上記難生分解性高分子よりも広い概念であることは言うまでもない。特に、上述の癒着防止性高分子や難生分解性高分子との親和性(相溶性)が高い観点から、コラーゲンが望ましい。
【0025】
本発明において「糸」は、単糸(モノフィラメント)及び縒糸(マルチフィラメント)の総称とする。基材を構成する糸は、強度が著しく低い場合を除いては、単糸でよい。
【0026】
単糸は、例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法及び溶融紡糸法などにより製造されたものが挙げられる。例えば、生分解性高分子がコラーゲンである場合は、製造が容易であり、製造コストが安価である観点から、湿式紡糸法で製造されたものが好ましい。
【0027】
湿式紡糸法は、例えば、生体分解性高分子の水溶液を、ギアポンプ、ディスペンサー及び各種押し出し装置などを用いて、凝固浴槽に吐出すること(紡糸)により行われる。均一な紡糸を行うためには脈動が少なく安定して溶液を定量吐出する観点から、ディスペンサーが好ましい。また、吐出するノズルの口径は、紡糸された糸の強度が高くなる観点から、約10〜200μm、好ましくは約50〜150μmである。さらに水溶液の濃度は、単糸の強度の観点から、約0.1〜20重量%、好ましくは約1〜10重量%である。
【0028】
湿式紡糸法で用いる凝固浴の溶媒は、生分解性高分子を凝固させる溶媒、懸濁液、乳濁液及び溶液であれば特に限定されるものではない。例えば、生分解性高分子としてコラーゲンを用いる場合、無機塩類水溶液、無機塩類含有有機溶媒、アルコール類及びケトン類などが挙げられる。無機塩類水溶液としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムなどの水溶液が挙げられる。また、これらの無機塩類をアルコール類又はアセトン類に溶解若しくは分散させた液を用いてもよい。アルコール類は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アミルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール及びエチレングリコールなどが挙げられる。ケトン類としてはアセトン及びメチルエチルケトンなどが挙げられる。これらの中でも、紡糸した糸の強度が高くなる観点から、エタノール、及び、塩化ナトリウムのエタノール分散溶液を用いることが好ましい。
【0029】
紡糸した糸は、凝固浴槽から引き上げたのち、乾燥工程を経て、単糸として成型される。ここで、乾燥工程はコラーゲンが熱変性せず、かつ単糸が破断しない程度の条件で行う。その条件としては、例えば、コラーゲン水溶液をエタノールの凝固浴槽に吐出して紡糸する場合、紡糸速度(巻き速度又は引き上げ速度)約10〜10,000m/min、湿度約50%以下、温度43℃以下の条件で、空気を送風する又は自然乾燥する方法が挙げられる。
【0030】
以上の方法により成型された単糸は、その単糸の強度が著しく低い場合、縒糸とすることもできる。縒糸は、縒糸製造機等により製造することができるため、本発明はこれらの縒糸製造技術に限定されるものではない。
【0031】
以上の方法により得られた糸は、基材に形成される。基材の態様は、織布又は不織布が主に例示される。「織布」とは、糸を織ることにより形成された布をいい、一方で「不織布」とは、糸を熱・機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせる事で形成された布をいう。単糸の強度が高い場合、又は、縒糸にして強度を高くした場合は、織布に加工することは可能であるが、上述の生分解性高分子の物性的な問題上、織布に形成することは困難な場合が多い。このような場合は、基材として不織布の態様を選択してもよい。
【0032】
不織布は、上述の湿式紡糸において、凝固浴槽内において吐出された糸状物を直接不織布に形成する方法でも可能ではあるが、形成された不織布の強度が高い観点から、特許第3966045号に開示される方法により製造することが望ましい。具体的には、一定の回転軸のもとに回転する板状部材に、可溶化されたコラーゲン溶液を紡糸原液として紡糸されたコラーゲン糸状物を平行に巻き取り層(第1の層)を形成させ、該層を形成する糸状物の配列方向と角度をなすようにコラーゲン糸状物を平行に巻き取り、さらに層(第2の層)を形成させる方法である。尚、当該特許公報(特許第3966045号)に開示されている装置を用いてもよいが、不織布の製造効率が向上する観点から、特開2008−106387号公報、特開2008−169519号公報又は特開2008−169520号公報に開示される装置を用いるのが好ましい。
【0033】
上記方法で得られた不織布は、その材料がコラーゲンである場合、必要によりさらに種々公知の物理的または化学的架橋処理を施すこともできる。架橋処理を施すタイミングは、特に限定されるものではない。例えば、架橋処理を施した糸状物で前記不織布を形成しても良いし、前記不織布を形成した後各種架橋処理を施しても良い。また、2種以上の架橋処理を併用しても良く、その際、処理の順序は問わない。この架橋処理により、生体内に移植された際に分解・吸収される時間を、未架橋の場合に比較して飛躍的に遅延させることが可能となり、また物理的強度も向上する。したがって、不織布を生体の欠損部を補填または補綴する場合に、組織の再生を完了するまでの期間、体内で必要な膜強度を維持することが可能となる。
【0034】
架橋の方法は、物理的架橋方法及び化学的架橋方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。物理的架橋方法しては、例えば、γ線照射、紫外線照射、電子線照射、プラズマ照射、熱脱水反応による架橋処理(熱脱水架橋)などが挙げられ、化学的架橋方法としては、例えば、ジアルデヒド、ポリアルデヒドなどのアルデヒド類、エポキシ類、カルボジイミド類、イソシアネート類などとの反応、タンニン処理、クロム処理などが挙げられる。作業が容易である観点から熱脱水架橋が好ましい。
【0035】
以上に説明した生分解性高分子の糸で構成されてなる基材は、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の癒着防止層に埋設されてなる。「埋設」とは、本発明の癒着防止膜の表面の6〜8割、好ましくは9割以上、さらに好ましくは全てが癒着防止層である状態をいう。別の視点から見れば、「埋設」とは、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材と、該基材の表面及び該基材における生分解性高分子糸間に、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物が存在してなる状態をいう。
【0036】
上記癒着防止膜は、例えば、1−1)生分解性高分子の糸で構成されてなる基材を難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液に浸漬、又は、1−2)生分解性高分子の糸で構成されてなる基材に難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液を塗布し、2)乾燥することにより製造された癒着防止膜と言える。
【0037】
基材を、難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液に浸漬する場合、当該溶液の濃度は、例えば、0.1〜2.0重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%とすればよい。
尚、基材は不織布であり、かつ中抜きの方形枠体に生分解性高分子糸を巻き取ることにより得られるものである場合は、不織布を中抜きの方形枠体ごと難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液に浸漬する方法が、製法が極めて簡便となるため、好ましい実施態様と言える。当該実施態様においてより好ましい態様として、浸漬時には溶液を撹拌する方法が挙げられ、更に好ましくは不織布を中抜きの方形枠体自体を撹拌子として溶液を撹拌する方法が挙げられる。これらの実施態様は、基材内への溶液の浸透を効率よく行うことができる。
【0038】
一方、生分解性高分子の糸で構成されてなる基材に難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液を塗布する場合、当該溶液の濃度は、例えば、0.1〜2.0重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%とすればよい。尚、本発明においては、塗布にスプレー噴霧も含まれるものとする。また、溶液を塗布した後に溶液を塗布した面を押圧する方法は、基材内への溶液の浸透を効率よく行うことができるため、好ましい態様と言える。
【0039】
また、これら浸漬又は塗布後に基材に難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液がより浸透する処理することが好ましい。このような方法としては、減圧環境下で静置及び超音波処理する方法が挙げられる。
【0040】
いずれにせよ、上記浸漬又は塗布の操作により得られた中間物は、乾燥する。乾燥は、凍結乾燥法及び乾燥機を使用する方法の他、いわゆる自然乾燥であってもよいので、本発明は乾燥の技術に限定されるものではない。また、乾燥は、生分解性高分子又は難生分解性高分子のいずれかがコラーゲンである場合は、熱脱水架橋処理を伴ったものであってもよい。
【0041】
以上により説明された本発明の癒着防止膜は、外科手術後の一般的な癒着防止に使用されるものであり、癒着を望まない組織又は器官の間に介在させて補填又は補綴する。補填又は補綴は、一方の組織又は器官であれば十分であるが、特に限定されるものではない。本発明の癒着防止膜は、とりわけ柔軟性に富むため、とりわけ消化器系や複雑な形状の医療機器に関連する癒着を防止するのに好適に使用される。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例が説明される。本実施例は、本発明の一実施形態であり、本発明が実施例に記載された態様に限定されないことは言うまでもない。
【0043】
[実施例1]
(1)コラーゲン単糸の作製
ブタ由来I・III型混合コラーゲン粉末(日本ハム株式会社製、SOFDタイプ、Lot No.0102226)を注射用蒸留水に溶解し、7重量%に調製した。そして、この7重量%コラーゲン水溶液を充填したシリンジ(EFD社製 Disposable Barrels/Pistons 、55cc)に充填し、シリンジに装着した針より該コラーゲン水溶液を空気圧により吐出した。この際シリンジに装着の針は、EFD社製 Ultra Dispensing Tips (27G、ID :φ0.21 mm)を使用した。吐出した7重量 %コラーゲン水溶液は脱水され糸状になったのち、エタノール槽から引き上げられた。エタノール槽から引き上げられたコラーゲン糸状物を、エタノール槽とは完全に分離独立した第2のエタノール槽に室温で約30秒間、浸漬し、さらに凝固を施した。続いて、第2のエタノール槽から引き上げられたコラーゲン単糸を得た。
【0044】
(2)コラーゲン不織布の作製
上記(1)で第2のエタノール槽から引き上げられた単糸は、続いて、特開2008−106387号公報に開示された装置を用いて、1辺15cm、厚さ5mmの方形の板状部材を15rpmで回転させることにより、方形の板状部材に巻き取った。方形の板状部材の直前には、方形の板状部材に均等にコラーゲン単糸を巻き取っていくためにコラーゲン単糸の水平位置を周期的に移動させる機構が備え付けられており、その往復速度は1.5mm/秒とした(糸状物は約6mmの間隔で巻き取られる)。装置は、500回巻き取るたびに板状部材の回転軸を90度方向転換させるように設定しておき、500回の巻き取りを6回繰り返し(合計巻き取り数3000回)、方形の板状部材の両面にコラーゲン単糸の層を有するコラーゲン巻き取り物を得た。次にこのコラーゲン巻き取り物を、常温で4時間自然乾燥し、巻き取り物の端部に沿って砕断した。そして、この破断した物を、バキュームドライオーブン(EYELA社製;VOS-300VD型)と油回転真空ポンプ(ULVAC社製;GCD135-XA型)を用いて135℃、減圧下(1Torr以下)で24時間熱脱水架橋反応を行うことにより、コラーゲン不織布を得た。
【0045】
(3)癒着防止膜の製造
上記(2)にて作製されたコラーゲン不織布を、濃度1.0重量%、重量混合比1:1で調製したコラーゲン・ヒアルロン酸水溶液で満遍なく塗布した後、前記と同様のバキュームドライオーブンを用いて110℃、減圧下(1Torr以下)で24時間熱脱水架橋反応を伴う乾燥を行うことで、本発明の癒着防止膜を得た。
【0046】
[実施例2]
(1)コラーゲン単糸の作製
ブタ由来I・III型混合コラーゲン粉末(日本ハム株式会社製、SOFDタイプ、Lot No.0102226)を注射用蒸留水に溶解し、7重量%に調製した。そして、この7重量%コラーゲン水溶液を充填したシリンジ(EFD社製 Disposable Barrels/Pistons 、55cc)に充填し、シリンジに装着した針より該コラーゲン水溶液を空気圧により吐出した。この際シリンジに装着の針は、EFD社製 Ultra Dispensing Tips (27G、ID :φ0.21 mm)を使用した。吐出した7重量 %コラーゲン水溶液は脱水され糸状になったのち、エタノール槽から引き上げられた。エタノール槽から引き上げられたコラーゲン糸状物を、エタノール槽とは完全に分離独立した第2のエタノール槽に室温で約30秒間、浸漬し、さらに凝固を施した。続いて、第2のエタノール槽から引き上げられたコラーゲン単糸を得た。
【0047】
(2)コラーゲン不織布の作製
上記(1)で第2のエタノール槽から引き上げられた単糸は、続いて、特開2008−106387号公報に開示された装置を用いて、1辺15cm、厚さ5mmの方形の板状部材を15rpmで回転させることにより、方形の板状部材に巻き取った。方形の板状部材の直前には、方形の板状部材に均等にコラーゲン単糸を巻き取っていくためにコラーゲン単糸の水平位置を周期的に移動させる機構が備え付けられており、その往復速度は1.5mm/秒とした(糸状物は約6mmの間隔で巻き取られる)。装置は、500回巻き取るたびに板状部材の回転軸を90度方向転換させるように設定しておき、500回の巻き取りを6回繰り返し(合計巻き取り数3000回)、方形の板状部材の両面にコラーゲン単糸の層を有するコラーゲン巻き取り物を得た。さらに、この巻き取り物を方形の板状部材に取り付けたままバキュームドライオーブン(EYELA社製;VOS-300VD型)と油回転真空ポンプ(ULVAC社製;GCD135-XA型)を用いて135℃、減圧下(1Torr以下)で24時間熱脱水架橋反応を行うことにより、コラーゲン不織布を得た。
【0048】
(3)癒着防止膜の製造
上記(2)にて作製されたコラーゲン不織布を方形の板状部材に取り付けたまま、濃度1.0重量%、重量混合比1:1で調製したコラーゲン・ヒアルロン酸水溶液中に浸漬させ後、前記と同様のバキュームドライオーブンを用いて110℃、減圧下(1Torr以下)で24時間熱脱水架橋反応を伴う乾燥を行うことで、本発明の癒着防止膜を得た。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の癒着防止膜は、従来の癒着防止膜には柔軟性を有する。従って、撓ませて使用することができるため、より多くの症例に対して適用可能な癒着防止膜の提供を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癒着を防止するための膜であって、
難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物を含む癒着防止層と、
生分解性高分子の糸で構成されてなる基材を備え、
前記癒着防止層に基材が埋設されてなる癒着防止膜。
【請求項2】
癒着を防止するための膜であって、
生分解性高分子の糸で構成されてなる基材と、
該基材の表面及び該基材における生分解性高分子糸間に、
難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物が存在してなる癒着防止膜。
【請求項3】
癒着を防止するための膜であって、
1−1)生分解性高分子の糸で構成されてなる基材を難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液に浸漬、
又は、1−2)生分解性高分子の糸で構成されてなる基材に難生分解性高分子及び癒着防止性高分子の混合物の溶液を塗布し、
2)乾燥することにより製造された請求項1又は2に記載の癒着防止膜。
【請求項4】
基材が、織布又は不織布である請求項1〜3いずれか1に記載の癒着防止膜。
【請求項5】
生分解性高分子が、グリコサミノグリカン類、ポリペプチド、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、セルロース類、キチン、キトサン、ヘパリン及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1である請求項1〜3いずれか1に記載の癒着防止膜。
【請求項6】
難生分解性高分子が、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、セルロース類、キチン及びキトサンからなる群より選択される少なくとも1である請求項1〜3いずれか1に記載の癒着防止膜。
【請求項7】
癒着防止性高分子が、アミロース、アミロペクチン、イヌリン、デキストラン、デキストリン、ペクチン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラト硫酸、ヘパリン等、トレハロース等、グリセリン、ポリエチレングリコール及びポリグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1である請求項1〜3いずれか1に記載の癒着防止膜。

【公開番号】特開2010−279574(P2010−279574A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135661(P2009−135661)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】