説明

発がん予防剤

【課題】新生児に投与することにより、将来の癌発生を抑制することが可能な癌予防剤を提供する。
【解決手段】前記の新生児投与用癌予防剤は、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを有効成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新生児に投与する発がん予防剤に関する。本発明の新生児投与用癌予防剤は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、健康食品(好ましくは機能性食品)又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。なお、前記食品には飲料が含まれる。更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。
【背景技術】
【0002】
マツタケ[Tricholoma matsutake (S. Ito & Imai) Sing.]には種々の生理活性物質が含まれていることが知られており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、マツタケに含有される各種の抗腫瘍性物質が開示されている。前記特許文献1には、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水又は希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、及びエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示されている。また、前記特許文献2には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量=10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0003】
また、本発明者(及びその共同研究者)は、マツタケ又はその抽出物が、種々の生理活性、例えば、免疫増強活性(特許文献3)、ストレス負荷回復促進活性(特許文献4)、癌予防効果(特許文献5)、並びに病原性微生物に対する感染予防及び治療効果(特許文献6)を有することを既に見出している。
【0004】
しかしながら、これらのいずれの文献にも、マツタケ由来の各種生理活性物質、又はマツタケ若しくはその抽出物を新生児に投与することの開示も示唆もなく、また、新生児期に投与することにより、非新生児期に投与した場合と比較して、より効率的に癌発生を抑制することができることの開示も示唆もない。
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号明細書
【特許文献3】国際公開第01/49308号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/30440号パンフレット
【特許文献5】特開2004−210695号公報
【特許文献6】特開2004−210694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、マツタケについて、既に知られている前記生理活性以外の更に別の生理活性を鋭意探索したところ、マツタケ抽出物を新生児期に投与することにより、癌(特には大腸癌)の発生を抑制することが可能であることを新たに見出した。また、本発明者は、マツタケ抽出物だけでなく、ラクトフェリンにも同様の癌発生抑制効果があることも見出した。
【0006】
先述したとおり、本発明者は、マツタケが癌予防効果を有することを既に見出している(特許文献5)。しかしながら、前記特許文献5には、この癌予防効果が、7週齢ラット(実験開始時)を用いて、活性成分添加飼料を8週間にわたって摂取させた実験系で確認したものであり、非新生児期(成育期)に活性成分を複数回摂取させて得られる効果であることが開示されている(特許文献5の実施例2参照)。それに対して、今回新たに見出した癌発生抑制活性は、後述の実施例に具体的データを示すとおり、新生児期におけるわずか1回の投与により、癌の発生を抑制することが可能であり、この点から、先に見出した癌予防効果とは全く別の生理活性であることは明らかである。
【0007】
また、非新生児期に投与することにより癌予防効果を示すことが知られている物質であっても、新生児期に投与しても癌発生の抑制効果が認められない物質が多数知られており[例えば、リポ多糖(lipopolysaccharide;LPS);Proceedings of the American Association for Cancer Research, Vol. 44, 1299-1300, 2003〕、この点からも、本発明者が見出した新規の癌発生抑制活性は、先に見出した癌予防効果とは全く別の生理活性であることは明らかである。
【0008】
従って、本発明の課題は、新生児に投与することにより、将来の癌発生を抑制することが可能な癌予防剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明による、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを有効成分として含有する、新生児投与用の癌予防剤により解決することができる。
また、本発明は、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを有効成分として含有する、新生児投与用の癌予防用食品に関する。
【0010】
本発明の新生児投与用癌予防剤又は癌予防用食品の好ましい態様によれば、前記マツタケがマツタケFERM BP−7304株である。
本発明の新生児投与用癌予防剤又は癌予防用食品の別の好ましい態様によれば、前記マツタケが菌糸体、培養物、又は子実体である。
本発明の新生児投与用癌予防剤又は癌予防用食品の更に別の好ましい態様によれば、前記マツタケ抽出物が、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、マツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケの熱水抽出液及び/若しくはアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分である。
本発明の新生児投与用癌予防剤又は癌予防用食品の更に別の好ましい態様によれば、ラクトフェリンがウシ・ラクトフェリン(例えば、ウシ成熟乳由来)である。
本発明の新生児投与用癌予防剤又は癌予防用食品の更に別の好ましい態様によれば、前記癌が大腸癌である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新生児に投与することにより、将来の癌発生を抑制することが可能である。また、その投与回数も、非新生児用癌予防剤と比較して、遙かに少ない回数(例えば、1回)でその抑制効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の新生児投与用癌予防剤は、有効成分として、マツタケ[例えば、マツタケの菌糸体、培養物(Broth)、又は子実体]若しくはその抽出物、又はラクトフェリンの少なくとも1つを含有する。本発明において有効成分として用いることのできる各種成分について以下に詳述するが、本発明の新生児投与用癌予防剤は、これらの各種有効成分を単独で、あるいは、適宜組み合わせて含有することができる。
【0013】
本発明における有効成分である前記マツタケとしては、あるいは、前記マツタケ抽出物を調製するのに用いるマツタケとしては、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体(すなわち、培養菌糸体)、培養物(Broth)、若しくは子実体を挙げることができる。癌発生抑制作用を強く示す活性成分を含む点で、マツタケFERM BP−7304株[Tricholoma matsutake (S. Ito & Imai) Sing. CM6271]を用いることが好ましい。
【0014】
マツタケFERM BP−7304株(国際公開第02/30440号パンフレット)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に平成12年9月14日より寄託しているものである。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより、菌糸体継代株を得たものであり、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で維持している。
【0015】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分として用いることのできるマツタケの菌糸体としては、培養により得られる菌糸体を使用する場合には、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち、培養菌糸体)と培地との混合物から適当な除去手段(例えば、濾過)により培地を除去しただけの状態で使用することもできるし、あるいは、培地を除去した後の菌糸体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。また、天然の菌糸体を使用する場合には、例えば、天然の菌糸体をそのまま使用することもできるし、あるいは、天然の菌糸体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0016】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分として用いることのできるマツタケの培養物(Broth)としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち、培養菌糸体)と培地との混合物の状態でそのまま使用することもできるし、あるいは、前記混合物から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した培養物(Broth)乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記培養物(Broth)乾燥物を粉砕した培養物(Broth)乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0017】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分として用いることのできるマツタケの子実体としては、例えば、天然の子実体又は培養により得られる子実体をそのままで、あるいは、前記子実体を破砕した状態で使用することもできるし、あるいは、前記子実体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した子実体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記子実体乾燥物を粉砕した子実体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0018】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分として用いることのできるマツタケの抽出物としては、例えば、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、マツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケの熱水抽出液及び/若しくはアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を挙げることができる。
【0019】
マツタケの熱水抽出液は、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体(すなわち、培養菌糸体)、培養物(Broth)、若しくは子実体を、熱水で抽出することにより得ることができる。
熱水抽出に用いる熱水の温度は、マツタケに含有されるストレス負荷回復促進作用を示す成分が、熱水抽出液中に充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、60〜100℃であることが好ましく、80〜98℃であることがより好ましい。
【0020】
菌糸体又は子実体を熱水抽出に用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、マツタケの状態(すなわち、子実体、菌糸体、又は培養物のいずれの状態であるか、あるいは、破砕物又は粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常、1〜6時間であり、2〜3時間であることが好ましい。
【0021】
得られた熱水抽出液は、不溶物が混在する状態で、そのまま、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは、不溶物を除去してから、あるいは、不溶物を除去し、更に、抽出液中の低分子画分を除去してから、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることもできる。例えば、不溶物が混在する熱水抽出液を遠心分離することにより不溶物を除去し、得られる上清のみを、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることができる。あるいは、不溶物が混在する熱水抽出液を遠心分離して得られる前記上清を透析し、低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることができる。更には、熱水抽出液(例えば、不純物が混在する熱水抽出液、前記熱水抽出液を遠心分離して得られる上清、あるいは、前記上清の透析物などを含む)から、適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した乾燥体の状態で、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることができる。
【0022】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分である、マツタケのアルカリ溶液抽出液又はその乾燥体の製法は、例えば、先に説明した、マツタケの熱水抽出液の製造方法に準じた方法により実施することができる。すなわち、熱水の代わりにアルカリ溶液を用いること以外は、マツタケの熱水抽出液の前記製造方法と同様の方法により、調製することができる。例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体(すなわち、培養菌糸体)、培養物(Broth)、若しくは子実体を、アルカリ溶液で抽出することにより得ることができる。
【0023】
アルカリ溶液抽出に用いるアルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。前記アルカリ溶液のpHは、8〜13であることが好ましく、9〜12であることがより好ましい。アルカリ溶液抽出は、0〜30℃で実施することが好ましく、0〜25℃で実施することがより好ましい。得られたアルカリ溶液抽出液は、中和処理を実施してから、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは、中和処理を実施することなく、そのまま、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることもできる。
【0024】
マツタケのアルカリ溶液による抽出は、熱水抽出を実施した後のマツタケ残渣(例えば、菌糸体残渣、培養物残渣、又は子実体残渣、好ましくは菌糸体残渣又は子実体残渣)を用いて実施することもできる。従って、本明細書における「マツタケのアルカリ溶液抽出液」には、熱水抽出を実施した後のマツタケ残渣のアルカリ溶液抽出液も含まれる。
また、マツタケの熱水抽出は、アルカリ溶液抽出を実施した後のマツタケ残渣(例えば、菌糸体残渣、培養物残渣、又は子実体残渣、好ましくは菌糸体残渣又は子実体残渣)を用いて実施することもできる。従って、本明細書における「マツタケの熱水抽出液」には、アルカリ溶液抽出を実施した後のマツタケ残渣の熱水抽出液も含まれる。
【0025】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分である、マツタケの熱水抽出液及び/又はアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、マツタケの熱水抽出液若しくはアルカリ溶液抽出液、又はマツタケの熱水抽出液とアルカリ溶液抽出液との混合抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させた後(以下、陰イオン交換樹脂吸着工程と称する)、適当な溶離液により吸着画分を溶出する(以下、溶出工程と称する)ことにより、得ることができる。また、マツタケの熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、マツタケのアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分とを混合することによっても得ることができる。
【0026】
陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることのできる陰イオン交換樹脂としては、公知の陰イオン交換樹脂を用いることができ、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)セルロース又はトリエチルアンモニオエチル(TEAE)セルロースを挙げることができる。
溶出工程に用いる溶離液は、陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる陰イオン交換樹脂の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、塩化ナトリウム水溶液などを挙げることができる。
溶出工程により溶出される画分は、そのまま、本発明の新生児投与用癌予防剤の有効成分として用いることができるが、通常、溶離液に由来する塩を含有するので、それを除去するために、更に透析を実施することが好ましい。
【0027】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分として用いることのできるラクトフェリンは、哺乳動物の主として乳汁中に存在する鉄結合性の糖タンパク質である(Lonnerdal B, Ad Exp Med Biol, 2004; 554: 11-25)。分子量は、例えば、ヒトラクトフェリンで88kDa、ウシラクトフェリンで86kDaである。本発明で用いることのできるラクトフェリンとしては、任意の哺乳動物由来のラクトフェリンを用いることができ、例えば、ヒト、ウシ、ヤギ、又はヒツジ由来、好ましくはヒト又はウシ由来のラクトフェリン(例えば、ウシ成熟乳由来ラクトフェリン)を用いることができる。
【0028】
前記のとおり、ラクトフェリンは乳汁中に含まれるため、母乳を摂取する新生児は、少量ではあるが、日常的にラクトフェリンを経口摂取している。本発明においてラクトフェリンを有効成分として用いる場合には、母乳から通常摂取されるラクトフェリン量より多い量のラクトフェリンを用いることが好ましく、1回の投与量として、母乳からの一日当たり摂取量の2〜100倍量のラクトフェリンを用いることがより好ましい。例えば、ラットの場合の投与量は、好ましくは約10mg/kg〜500mg/kgである。
【0029】
本発明の新生児投与用癌予防剤における有効成分である、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンは、新生児期にある動物[好ましくは哺乳動物(特にはヒト)]に投与することにより、癌発生抑制作用を示す。
従って、本発明における有効成分である、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンは、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、癌予防又は癌発生抑制が必要な対象に、新生児期において、有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンは、新生児投与用癌予防剤、新生児投与用の癌予防用医薬組成物、新生児投与用の癌予防用機能性食品、あるいは、新生児投与用の癌予防用オーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0030】
本発明の新生児投与用癌予防剤による予防の対象となる癌としては、例えば、大腸癌(結腸・直腸癌)、肺癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病などを挙げることができ、大腸癌が好ましい。
【0031】
本発明を適用することのできる前記動物には、ヒト、及び非ヒト動物が含まれる。本明細書において、「非ヒト動物」とは、ヒトを除く動物を意味し、これに限定されるものではないが、例えば、飼育動物などを挙げることができる。
【0032】
前記飼育動物とは、食用、愛玩用、又は実験用などの目的を問わず、一般に人間が飼育することの可能な動物を意味し、例えば、哺乳動物(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ハムスター、フェレット、又はラットなど)、鳥類[例えば、ニワトリ(例えば、ブロイラー又は産卵鶏)、ウズラ、ガチョウ、又はアヒルなど]、又は養殖水生動物[例えば、海水魚(例えば、ウナギ、ブリ、ハマチ、ヒラメ、ギンザケ、クロダイ、マアジ、シマアジ、トラフグ、又はマダイなど)、淡水魚(例えば、コイ、アユ、イワナ、又はニジマスなど)、甲殻類(例えば、クルマエビ、ウシエビ、又はテナガエビなど)、又は貝類(例えば、カキ又はホタテ貝など)]などを挙げることができる。
【0033】
本発明においては、有効成分であるマツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを、新生児期にある動物に投与する。ヒトの新生児期とは、一般に、誕生直後から1箇月までの期間であり、非ヒト動物の新生児期は、前記のヒトの新生児期に相当する時期であり、個々の非ヒト動物において適宜決定することができる。例えば、ヒトを除く哺乳動物においては、これに限定されるわけではないが、免疫系未成熟期は、例えば、マウスやラットでは生後48時間以内であり、ウシやブタでは生後から3箇月までの期間である。
【0034】
本発明の新生児投与用癌予防剤の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0035】
これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0036】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
また、本発明の新生児投与用癌予防剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の新生児投与用癌予防剤をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療又は予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0037】
本発明の新生児投与用癌予防剤は、これに限定されるものではないが、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
【0038】
本発明の新生児投与用癌予防剤を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。例えば、ヒトの場合、1日1回、連日投与することが好ましい。
【0039】
また、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料を含む)、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。
食品には、(1)栄養素としての働き(第一次機能)、(2)人間の五感に訴える働き(第2次機能)の他に、(3)人間の健康、身体能力、又は心理状態に好ましい影響を与える働き(第3次機能)、例えば、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統を調節して、健康の維持や健康の回復に好ましい効果を及ぼす働きがあることが知られている。本明細書において「健康食品」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品を意味し、「機能性食品」とは、前記「健康食品」の中でも、前記の種々の生体調節機能(すなわち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品を意味する。
【0040】
更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを、添加剤(例えば、食品添加剤)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤等に添加することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
《実施例1:マツタケFERM BP−7304株の混合抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の調製》
マツタケFERM BP−7304株菌糸体を、滅菌処理した培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH6.0)3.5tの入った7t容培養タンクに接種し、25℃で攪拌しながら4週間培養を行った。得られた培養物を濾布濾過し、菌糸体を分離した後、蒸留水で充分に洗浄した。
【0043】
得られた菌糸体の一部(約1kg)に精製水30Lを加えて、98℃の湯浴中で3時間攪拌抽出した。冷却後、遠心分離(8000rpm、30分間)を行い、上清A1を得た。残渣に精製水30Lを加えて、同一条件下で、再度、抽出及び遠心操作を行い、上清A2を得た。
続いて、上清A2を得た後の残渣に、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液20Lを加え、25℃で1時間抽出した。遠心分離を行い、上清B1を得た。残渣に、1.0mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、同一条件で、再度、抽出及び遠心操作を行い、上清B2を得た。
得られた上清B1及び上清B2を合わせた後、1.0mol/L塩酸にて、pHを7.0に調整した(以下、上清Bと称する)。
【0044】
上清A1、上清A2、及び上清Bを合わせて得られた混合液(以下、抽出混合液Mと称する)を透析チューブ(分画分子量3500)に入れ、流水中で48時間透析した。透析膜内液を回収し、凍結乾燥機で乾燥し、白色の粉末(約70g)を得た。
得られた粉末の一部を50mmol/Lトリス緩衝液(pH7.0)500mLに溶解し、予め前記緩衝液で平衡化させておいたジエチルアミノエチルセファセル(DEAE Sephacel;ファルマシア)を充填したカラムを通過させ、素通り画分(非吸着画分)M1を除いた後、カラムを前記トリス塩酸緩衝液で充分に洗浄した後、0.5mol/L塩化ナトリウム含有50mmol/Lトリス緩衝液(pH7.0)をアプライし、溶出画分(吸着画分)M2を得た。
得られたM2画分を、4℃にて注射用蒸留水で48時間透析した後、透析膜内液を凍結乾燥して粉末を得た。菌糸体(乾燥重量)に対するM2画分の収量は13%であった。
【0045】
《実施例2:吸着画分M2及びラクトフェリンの大腸前癌病変の抑制効果の評価》
雌性及び雄性のF344ラット(日本チャールズリバー社)を交配及び出産させた後、出生マウスのうち、雄性のものを実験に供した。
【0046】
「新生児期処置群」として、生後48時間以内(新生児期)の雄性F344ラットを10匹ずつ3群[M2画分投与群、ラクトフェリン投与群、生理食塩水投与群(対照)]に分け、生理食塩水に溶解したM2画分(100mg/kg)、生理食塩水に溶解したウシラクトフェリン[Sigma-Aldrich(東京);100mg/kg]、あるいは、生理食塩水0.05mLを1回経口投与した。
【0047】
比較用の「成育期処置群」として、生後7週目の雄性F344ラットを10匹ずつ3群[M2画分投与群、ラクトフェリン投与群、生理食塩水投与群(対照)]に分け、生理食塩水に溶解したM2画分(100mg/kg)、生理食塩水に溶解したウシラクトフェリン(100mg/kg)、あるいは、生理食塩水0.05mLを1回経口投与した。なお、ラットにおいては、母乳から摂取されるラクトフェリン量は約0.002〜0.035mg/日である。
【0048】
発癌剤処置は、以下の手順で実施した。すなわち、前記新生児期処置群及び成育期処置群の各ラットに、アゾキシメタン(Sigma-Aldrich;以下、AOMと略称する)を15mg/kg/回で、生後8週目から毎週1回、計3回皮下注射した。最終注射から5週後にと殺し、結腸を取り出し、メチルグリーン染色を施して、前癌病変であるACF(aberrant crypt foci)数を測定した。
【0049】
結果を表1に示す。表1における「抑制率(%)」は、下記式で算出した値である。
X(%)={(Ac−At)/Ac}×100
[式中、Xは抑制率であり、Acは生理食塩水投与群のACF数であり、Atは検体(ラクトフェリン又はM2画分)投与群のACF数である]
また、表1における記号「*」は、生理食塩水投与群に対して、p<0.05であることを示す。
【0050】
表1に示すとおり、大腸前癌病変(ACF数)の抑制率は、ラクトフェリン又はM2画分を新生児期に1回投与した実験群では、それぞれ、41%又は44%であった.一方、成育期投与群では、ACF数は、いずれの場合も12%であり、抑制効果は殆ど認められなかった。
【0051】
【表1】

【0052】
《実施例3:新生児期1回投与と成育期反復投与の併用効果》
本実施例では、新生児期1回投与と成育期反復投与との併用効果を検討した。新生児期1回投与、並びに、大腸前癌病変誘導及びその評価は、実施例2と同じ条件で実施した。また、成育期反復投与は、AOM処置1週間前から実験終了前日まで、ラクトフェリン[ウシ乳由来;和光純薬(大阪)]又はM2画分(実施例1で調製)を、土曜日及び日曜日を除き、1日1回、連日強制経口投与により、実施した。
【0053】
実験群は、以下のとおりであり、1群は6匹からなり、合計84匹を使用した。
1)無処置対照群(AOM非処置)
2)新生児期生理食塩水投与・成育期生理食塩水投与群
3)新生児期M2(50mg/kg)投与・成育期生理食塩水投与群
4)新生児期M2(100mg/kg)投与・成育期生理食塩水投与群
5)新生児期生理食塩水投与・成育期M2(10mg/kg)投与群
6)新生児期生理食塩水投与・成育期M2(50mg/kg)投与群
7)新生児期M2(50mg/kg)投与・成育期M2(10mg/kg)投与群
8)新生児期M2(100mg/kg)投与・成育期M2(50mg/kg)投与群
9)新生児期ラクトフェリン(50mg/kg)投与・成育期生理食塩水投与群
10)新生児期ラクトフェリン(100mg/kg)投与・成育期生理食塩水投与群
11)新生児期生理食塩水投与・成育期ラクトフェリン (10mg/kg)投与群
12)新生児期生理食塩水投与・成育期ラクトフェリン (50mg/kg)投与群
13)新生児期ラクトフェリン (50mg/kg)投与・成育期ラクトフェリン(10mg/kg)投与群
14)新生児期ラクトフェリン(100mg/kg)投与・成育期ラクトフェリン(50mg/kg)投与群
【0054】
結果を表2に示す。表2の「ACF抑制率」欄における記号a、b、c、及びdは、それぞれ、p < 0.01(対 2群)、p < 0.05(対 2群)、p < 0.05(対 4群及び6群)、及びp < 0.05(対 10群及び12群)であることを示す。M2及びラクトフェリンのいずれも、新生児期1回投与と成育期の頻回投与の併用により、ACFの抑制は増強された。
【0055】
【表2】

【0056】
《実施例4:新生児期投与の胸腺T細胞サブセットに及ぼす影響》
新生児期の薬剤(カワラタケ菌糸体から抽出したタンパク質結合多糖体PSK)処置が、成育マウス胸腺に作用し、胸腺中の未成熟のCD4・CD8T細胞数を減少させ、CD4・CD8T細胞数及びCD4・CD8T細胞数を増加させること等から、新生児期処置の効果発現メカニズムとして、胸腺の成熟促進が関与していることが示唆されている(Matsunaga K et al., Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention, 2000, 9:1313-1322)。そこで、本発明においても、新生児期処置の効果発現に胸腺が関与しているか否かについて検討した。
【0057】
生後48時間以内の雄性F344ラットに、M2若しくはラクトフェリン(100mg/kg量)、又は生理食塩水(50μL)を1回経口投与し、ラットが8週齢になったところで、と殺して胸腺を摘出した。RPMI1640培地中でピンセットを用いて組織をほぐし、200メッシュ金網を通して、単細胞懸濁液を調製した。この細胞液を一部サンプリングして、所定濃度のFITC(fluorescein isothiocyanate)標識マウス抗ラットCD90モノクローナル抗体(クローン名OX-7;BD Pharmingen, 米国CA州)、FITC標識マウス抗ラットCD8aモノクローナル抗体(クローン名G28;BD Pharmingen)、又はPE(R-Phycoerythrin)標識マウス抗ラットCD4モノクローナル抗体(クローン名OX-35;BD Pharmingen)と共に、4℃で1時間反応させた後、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、蛍光活性化セルソーター[Facs Calibur(Becton Dickinson、米国CA州)]を用いて陽性細胞数を測定した。
【0058】
結果を表3に示す。表3に示すように、新生児期M2又はラクトフェリン処置により、成育マウスのCD4・CD8T細胞数は減少傾向に、CD4・CD8T細胞数及びCD4・CD8T細胞数は増加傾向にあった。すなわち、これらの物質が、新生児期に活発に働いている胸腺に作用して、その成熟を促進することが示唆された。
【0059】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の新生児投与用癌予防剤は、癌予防の用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを有効成分として含有する、新生児投与用の癌予防剤。
【請求項2】
前記マツタケが、マツタケFERM BP−7304株である、請求項1に記載の新生児投与用の癌予防剤。
【請求項3】
前記マツタケが、菌糸体、培養物、又は子実体である、請求項1又は2に記載の新生児投与用の癌予防剤。
【請求項4】
前記マツタケ抽出物が、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、マツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケの熱水抽出液及び/若しくはアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の新生児投与用の癌予防剤。
【請求項5】
前記ラクトフェリンが、ウシ・ラクトフェリンである、請求項1に記載の新生児投与用の癌予防剤。
【請求項6】
前記癌が大腸癌である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の新生児投与用の癌予防剤。
【請求項7】
マツタケ若しくはその抽出物、又はラクトフェリンを有効成分として含有する、新生児投与用の癌予防用食品。

【公開番号】特開2006−232719(P2006−232719A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48879(P2005−48879)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月1日 日本癌学会主催の「第63回 日本癌学会学術総会」において文書をもって発表
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】