説明

発がん性の評価方法

【課題】被検物質が有する発がん性であって、臓器を特定しない広範囲の発がん性を簡便かつ迅速に評価することができる発がん性の評価方法を提供する。
【解決手段】非ヒト動物に被検物質を投与して当該被検物質の発がん性を評価する発がん性の評価方法であって、被検物質を投与した後の前記非ヒト動物の肝臓における複数種の遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された当該発現量を指標として前記被検物質の発がん性を評価する工程とを含み、前記複数種の遺伝子は、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する遺伝子であることを特徴とする発がん性の評価方法が提供される。本発明の発がん性の評価方法によれば、肝臓における当該遺伝子の発現量を調べるだけで、肝臓以外の臓器を含めた広範囲の臓器に対する発がん性を一度に調べることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発がん性の評価方法に関し、さらに詳細には、被検物質が有する発がん性であって、臓器を特定しない広範囲の発がん性を簡便かつ迅速に評価することができる発がん性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者だけでなく比較的若い年齢層においても癌を発症する人が増加傾向にある。発がんは様々な原因により起こりうるが、日常的に摂取している食品の影響が大きな原因の1つと考えられる。このような現状の下、食品添加物等の化学物質の発がん性の有無を事前に検査することは極めて重要である。
【0003】
現在行われている発がん性試験は、げっ歯類にその生涯期間に相当する2年間に渡って被検物質を投与し、各臓器に対する発がん性を肉眼や病理的検査をもって調べる試験が基本である。この発がん性試験には膨大な時間・資源が必要とされる。
【0004】
一方、近年のDNAマイクロアレイ技術の発達によって、大量の遺伝子発現プロファイルを短時間で調べることができるようなってきた。そして、マイクロアレイを用いて被検物質の発がん性を検討している例がある。例えば、特許文献1には、マイクロアレイを用いて選抜された特定の遺伝子の肝臓由来細胞における発現量を指標として、肝臓に対する発がん性(肝臓腫瘍性病変の有無)を検定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−115796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、現在行われている発がん性試験は膨大な時間・資源が必要とし、時間的・資源的ロスが大きい。また一般に、発がん性物質は生体の様々な臓器に対して発がん作用を示し、また、発がん物質ごとに標的臓器が決まっている場合が多い。しかし、被検物質が有する発がん性の標的臓器は事前には分からないので、当該発がん性試験においては全ての臓器について発がんの有無を調査する必要があり、煩雑である。また、発がんの前段階や微小な発がんについては肉眼や病理的検査では検出できないおそれがあり、見逃される可能性がある。
【0006】
特許文献1に開示されている方法によれば、遺伝子の発現量を指標とするので操作が簡便であり、多くのサンプルを同時に処理することができる。しかし、この方法は肝臓に対する発がん性を調べるものであり、肝臓以外の臓器を含めた広範囲の発がん性を調べるものではない。
【0007】
本発明の目的は、被検物質が有する発がん性であって、臓器を特定しない広範囲の発がん性を簡便かつ迅速に評価することができる発がん性の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、様々な投与経路(経口、皮下、腹腔内など)から投与された物質は必ず門脈を介して先ず肝臓に運ばれることに着目し、被検物質を投与したときの肝臓の状態を詳細に調べることで、肝臓以外の臓器に対する発がん性も評価できる可能性があると考えた。そして、被検物質を投与した非ヒト動物の肝臓における遺伝子発現プロファイルを調べることで、肝臓以外の臓器を含めた広範囲の臓器に対する発がん性を調べることができることを見出し、本発明を完成した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
請求項1に記載の発明は、非ヒト動物に被検物質を投与して当該被検物質の発がん性を評価する発がん性の評価方法であって、被検物質を投与した後の前記非ヒト動物の肝臓における複数種の遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された当該発現量を指標として前記被検物質の発がん性を評価する工程とを含み、前記複数種の遺伝子は、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する遺伝子であることを特徴とする発がん性の評価方法である。
【0010】
本発明の発がん性の評価方法は、非ヒト動物に被検物質を投与して当該被検物質の発がん性を評価するものであり、被検物質を投与した後の前記非ヒト動物の肝臓における複数種の遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された当該発現量を指標として前記被検物質の発がん性を評価する工程とを含む。そして、当該複数種の遺伝子は、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に、肝臓においてその発現量が変化する遺伝子である。本発明の発がん性の評価方法においては、遺伝子の発現量を指標として被検物質の発がん性を評価するので、被検物質を非ヒト動物に長期に渡って投与する必要がなく、迅速かつ簡便に発がん性の評価が行える。また、遺伝子の発現量を指標とするので、肉眼や病理的検査では検出できない発がんの前段階等をも検出対象とすることができる。さらに、指標とする遺伝子は複数種であり、当該複数種の遺伝子が肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化するものであるので、肝臓における当該遺伝子の発現量を調べるだけで、肝臓以外の臓器を含めた広範囲の臓器に対する発がん性を一度に調べることができる。
【0011】
ここで、「肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に、肝臓においてその発現量が変化する遺伝子」における「発現量が変化する遺伝子」とは、「発現量が所定の上限値以上に増加する遺伝子、あるいは所定の下限値以下に減少する遺伝子」と換言することができる。すなわち、「発現量の変化」には発現量の増加と減少の両方が含まれる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、下記工程(1)〜(4)を含む手順によって前記複数種の遺伝子を選抜することを特徴とする請求項1に記載の発がん性の評価方法である。
(1)非ヒト動物の複数の群を設定し、一方、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する既知の発がん物質を複数種選定し、各群に対して互いに異なる種類の発がん物質を投与する工程、
(2)投与から所定の時間が経過した後、各群の非ヒト動物から肝臓を摘出する工程、
(3)摘出した肝臓から核酸を単離し、核酸に含まれる各遺伝子の発現量を測定する工程、
(4)測定した発現量を元に、発現量が変化した複数種の遺伝子を選抜する工程。
【0013】
本発明の発がん性の評価方法では、前記複数種の遺伝子、すなわち、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する複数種の遺伝子を、上記(1)〜(4)の工程を含む手順により選抜する。かかる構成により、前記複数種の遺伝子をより確実に選抜することができ、発がん性の評価がより正確に行える。
【0014】
請求項3に記載の発明は、工程(4)において、前記発現量と、既知の発がん性物質に代わって既知の非発がん性物質を用いた陰性対照における各遺伝子の発現量とを比較することにより、前記複数種の遺伝子を選抜することを特徴とする請求項2に記載の発がん性の評価方法である。
【0015】
かかる構成により、前記複数種の遺伝子をさらに確実に選抜することができ、発がん性の評価がさらに正確に行える。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記複数種の遺伝子の発現量を指標とする際に、各遺伝子の重要度に応じた重み付けを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法である。
【0017】
本発明の発がん性の評価方法においては、複数種の遺伝子の各々について重要度に応じた重み付けを行うので、重要度がより高い遺伝子の情報が発がん性の評価結果により大きく反映される。その結果、より正確に被検物質の発がん性を評価することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記複数種の遺伝子の数は100個以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法である。
【0019】
また請求項6に記載の発明は、前記複数種の遺伝子の数は500個以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法である。
【0020】
また請求項7に記載の発明は、前記複数種の遺伝子の数は1000個以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法である。
【0021】
本発明の発がん性の評価方法においては、前記複数種の遺伝子の数が100個以上、好ましくは500個以上、より好ましくは1000個以上であり、多数である。かかる構成により、さらに正確に被検物質の発がん性を評価することができる。
【0022】
前記非ヒト動物はげっ歯類に属するものである構成が推奨される(請求項8)。
【0023】
請求項9に記載の発明は、遺伝子の発現量の測定をmRNA量を測定することによって行なうことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに1項に記載の発がん性の評価方法である。
【0024】
一般に、遺伝子の発現量を評価する場合には、転写レベルと翻訳レベルの2ヶ所で行なうことができる。すなわち、転写レベルで行なう場合には、対応のmRNA量を測定することにより発現量を評価することができ、翻訳レベルで行なう場合には、対応のタンパク質量を測定することにより発現量を評価することができる。そして、本発明の発がん性の評価方法では、mRNA量を測定することにより、前記複数種の遺伝子の発現量を測定する。かかる構成により、被検物質の発がん性をより高感度かつ正確に評価することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の発がん性の評価方法によれば、遺伝子の発現量を指標として被検物質の発がん性を評価するので、被検物質を非ヒト動物に長期に渡って投与する必要がなく、迅速かつ簡便に発がん性の評価が行える。また、遺伝子の発現量を指標とするので、肉眼や病理的検査では検出できない発がんの前段階等をも検出対象とすることができる。さらに、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化(増加または減少)する複数種の遺伝子の発現量を指標とするので、肝臓における当該遺伝子の発現量を調べるだけで、肝臓以外の臓器を含めた広範囲の臓器に対する発がん性を一度に調べることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の発がん性の評価方法は、非ヒト動物に被検物質を投与して当該被検物質の発がん性を評価する発がん性の評価方法であって、被検物質を投与した後の前記非ヒト動物の肝臓における複数種の遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された当該発現量を指標として前記被検物質の発がん性を評価する工程とを含み、前記複数種の遺伝子は、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する遺伝子であることを特徴とする。
【0027】
本発明で用いられる非ヒト動物としては特に限定はないが、好ましい実施形態ではげっ歯類に属するものが用いられる。げっ歯類の例としては、マウス、ラット、モルモット等が挙げられる。
【0028】
非ヒト動物への被検物質の投与方法としては、門脈を経由して肝臓に運ばれるものであれば特に限定はなく、経口、皮下、腹腔内等の経路によって投与することができる。被検物質投与後の非ヒト動物の飼育期間としては、指標とする遺伝子の種類によって適宜選択すればよいが、24時間以内の短時間で終えることも十分可能である。
【0029】
本発明の発がん性の評価方法では、被検物質を投与した後の当該非ヒト動物の肝臓における複数種の遺伝子の発現量を測定する工程を含む。ここで、遺伝子の発現量は、RNAへの転写レベルとタンパク質への翻訳レベルの2つの段階で測定することができるが、好ましい実施形態では、RNAへの転写レベルで測定し、具体的には当該複数種の遺伝子のmRNA量を測定する。この際の測定試料としては、被検物質を投与した後の非ヒト動物から肝臓を摘出し、当該肝臓のホモジネートから抽出した全核酸、全RNA、あるいは全mRNAを含む試料を用いることができる。これらの抽出操作は、生化学分野で通常行われている操作をそのまま採用することができる。
【0030】
測定試料中に含まれる目的の遺伝子のmRNA量を測定する方法としては、対応の遺伝子のmRNAを特異的に定量できる方法であれば特に制限はなく、例えば、DNAマイクロアレイ法、RT−PCR、定量PCR、ノーザンブロット等を用いることができる。1から数十個程度の少数の遺伝子について発現量を調べる場合は、RT−PCR、定量PCR、ノーザンブロット等によっても発現量を調べることができる。しかし、100個、500個、あるいは1000個以上といった多数の遺伝子について発現プロファイルという形で調べる場合には、DNAマイクロアレイ法が特に好ましい。
【0031】
DNAマイクロアレイ法に使用するマイクロアレイ(「DNAチップ」とも呼ぶ)は、用いる非ヒト動物の肝臓における遺伝子の発現を網羅的に解析できるものであれば特に限定はない。マイクロアレイ上のプローブとしては、オリゴヌクレオチドをプローブとしたオリゴヌクレオチドアレイとcDNAをプローブとしたcDNAアレイのいずれも使用することができる。オリゴヌクレオチドアレイとしては、例えば、25mer程度の各種オリゴヌクレオチドをのせた、GeneChip(アフィメトリクス社、登録商標)の各種マイクロアレイが使用可能である。cDNAアレイを使用する場合は、プローブに用いるcDNAとしては、完全長cDNA、EST(Expressed Sequence Tag)のいずれでもよく、それらはプラスミドに挿入した状態でもよいし、PCR等で増幅した断片であってもよい。
【0032】
DNAマイクロアレイ法で遺伝子発現を調べる場合には、測定試料に含まれるmRNA等の核酸を蛍光標識して用いるのが一般的である。そして、各プローブとのハイブリダイズの有無を蛍光強度をもって検出する。ハイブリダイゼーションの条件としては、目的の遺伝子のmRNAが目的のプローブに特異的にハイブリダイズする条件であればよく、例えば、100mM MES,1M ナトリウム塩,20mM EDTA,0.01% Tween20中、45℃にて16時間、の条件が挙げられる。
【0033】
一方、mRNA量の測定方法としてRT−PCRや定量PCRを用いる場合には、それらに使用するプローブやプライマーは、目的の遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズ又は当該遺伝子のmRNAを特異的に増幅できるものであれば何でもよい。例えば、適宜の方法で標識されたプローブ又はプライマーを用いることで、mRNA量を測定することができる。
【0034】
また、タンパク質量の測定によって遺伝子の発現量を測定する場合は、摘出した肝臓の抽出物を測定試料とし、免疫測定、ウエスタンブロッティング、質量分析等の方法で、各遺伝子の翻訳産物を定量すればよい。
【0035】
本発明の発がん性の評価方法において発現量を測定する複数種の遺伝子は、「肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する遺伝子」である。当該の「発現量が変化する遺伝子」は、具体的には「発現量が所定の上限値以上に増加する遺伝子、あるいは所定の下限値以下に減少する遺伝子」である。所定の上限値・下限値の設定は適宜行えばよいが、例えば、平常時における発現量を基準として設定することができる。例えば、上限値を平常値の2倍、下限値を平常値の0.5倍に設定することができる。
【0036】
好ましい実施形態では、下記工程(1)〜(4):
(1)非ヒト動物の複数の群を設定し、一方、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する既知の発がん物質を複数種選定し、各群に対して互いに異なる種類の発がん物質を投与する工程、
(2)投与から所定の時間が経過した後、各群の非ヒト動物から肝臓を摘出する工程、
(3)摘出した肝臓から核酸を単離し、核酸に含まれる各遺伝子の発現量を測定する工程、
(4)測定した発現量を元に、発現量が変化した複数種の遺伝子を選抜する工程、
を含む手順によって上記複数種の遺伝子を選抜する。本実施形態の工程(1)〜(4)における、非ヒト動物の選択、非ヒト動物への発がん物質の投与、肝臓からのmRNA等を含む試料の調製、遺伝子の発現量の測定等は、全て上記した被検物質を投与する場合と同様に行うことができる。
【0037】
本実施形態の工程(4)において、前記発現量と、既知の発がん性物質に代わって既知の非発がん性物質を用いた陰性対照における各遺伝子の発現量とを比較することにより、前記複数種の遺伝子を選抜することができる。具体的には、例えば、所定の上限値・下限値を元に選抜された複数の遺伝子から、既知の非発がん物質を投与した前記陰性対照においてその発現量が同様に増加または減少する遺伝子を除くことにより、本発明で用いる複数種の遺伝子を選抜することができる。
【0038】
好ましい実施形態では、前記複数種の遺伝子の発現量を指標とする際に、各遺伝子の重要度に応じた重み付けを行う。すなわち、重要度が高い遺伝子の情報が発がん性の評価結果により大きく反映されるようにする。
【0039】
本発明の発がん性の評価方法では、肝臓における上記の複数種の遺伝子の発現量を指標として発がん性を評価するが、「指標」の具体例の1つは、遺伝子ごとに基準値を設定し、当該基準値と測定された発現量との比較に基づいて遺伝子ごとに点数を付けることが挙げられる。そして、各遺伝子における点数から総合判断を行い、被検物質の発がん性を評価する。一方、以下に詳述するような「重み付け投票(Weighted Vote)」と「予測スコア(Prediction Score)」を用いる統計学的手法によれば、遺伝子ごとの重み付けが加味されたより正確な発がん性の評価が行える。以下、本手法について説明する。
【0040】
本手法の流れは、既知の発がん物質を用いた複数の遺伝子の選抜(第1段階)、選抜された各遺伝子についての重み付け投票の算出(第2段階)、並びに、算出された各重み付け投票を用いた予測スコアの算出(第3段階)、の3つの段階からなる。
【0041】
(第1段階)
肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する既知の発がん物質を2種以上選定する。このとき、できるだけ多様な臓器に対する発がん性がカバーできるように幅広く選定する方がよい。また、肝臓に対する発がん性を有する発がん性物質を含めてもよい。一方、既知の非発がん性物質を1種以上選定する。
【0042】
各発がん性物質ならびに非発がん性物質の数に相当するマウスの群を設定する。そして、各群のマウスに、選抜した各発がん物質または非発がん物質を投与する。そのまま各群のマウスを飼育する。
【0043】
所定の時間が経過した後、各群のマウスから肝臓を摘出する。さらに各肝臓からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ法にて遺伝子発現プロファイルを調べる。そして、無処置マウスと比較して、発現量が2倍以上増加した遺伝子、及び発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子を選抜する。この遺伝子選抜を、発がん物質を投与した群と非発がん物質を投与した群の両方について行う。
【0044】
次に、発がん物質を投与した群で発現量が増加または減少した遺伝子のうち、非発がん物質を投与した群における発現量と比較して有意に変化した遺伝子を選抜する。これにより、「肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質をマウスに投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する複数の遺伝子」が選抜される。各発がん物質について選抜された各遺伝子の発現量のデータを蓄積し、データベース化しておく。
【0045】
一方、既知の発がん物質または非発がん物質の代わりに被検物質Xを用いて、同様の操作を行う。そして、既知の発がん物質と非発がん物質を用いて選抜された各遺伝子についての発現プロファイルの情報を得る。この操作は発がん物質または非発がん物質を投与する実験と同時並行で行ってもよいし、後日あらためて行ってもよい。
【0046】
(第2段階)
被検物質Xを投与した群において、選抜された各遺伝子について以下の手順で重み付け投票の値を算出する。被検物質Xを投与した群における遺伝子aの重み付け投票Vxaは以下の数式(I)により算出される。
Vxa=Sa{Xa−(Mca+Mnca)/2} (I)
ここで、Xaは被検物質Xを投与した群における遺伝子aの発現量(発現強度)、Mcaは既知の発がん物質を投与した各群における遺伝子aの発現量の平均値、Mncaは既知の非発がん物質を投与した各群における遺伝子aの発現量の平均値である。
【0047】
数式(I)のSaは遺伝子aの発現の重みを付与する係数であり、以下の数式(II)により算出される。
Sa=(Mca−Mnca)/(SDca+SDnca) (II)
ここで、SDcaは既知の発がん物質を投与した各群における遺伝子aの発現量の標準偏差、SDncaは既知の非発がん物質を投与した各群における遺伝子aの発現量の標準偏差である。
【0048】
被検物質Xを投与した群において各遺伝子iについて重み付け投票Vxiの値を算出し、重み付け投票の総和ΣViを算出する。ここで、ΣVi≧1であれば被検物質Xは発がん物質である可能性が高く、一方、ΣVi<1であれば被検物質Xは発がん物質である可能性が低いと判定できる(1次判定)。
【0049】
(第3段階)
被検物質Xの予測スコア(PS)は以下の数式(III)により算出される。
PS={VXc−|VXnc|}/{VXc+|VXnc|} (III)
ここで、VXcは被検物質Xにおいて算出した各々のVのうち正の値であるV(正のV)の合計、VXncは被検物質Xにおいて算出した各々のVのうち負の値であるV(負のV)の合計、|VXnc|はVXncの絶対値である。
数式(III)を用いて被検物質XについてPSの値を算出する。ここで、0<PS≦1であれば被検物質Xは発がん物質の可能性が高く、−1<PS<0であれば被検物質Xは発がん物質の可能性が低いと判定できる(2次判定)。
【0050】
なお、第1段階の既知の発がん性物質と非発がん性物質を用いた遺伝子の選抜操作、並びに当該遺伝子における発現量のデータ取得(データベース作製)操作については毎回行う必要はなく、当該データベースはその後の実験にも利用できる。また、別の発がん性物質を用いた場合の遺伝子発現データを順次蓄積してデータベースを充実させることにより、さらに正確な発がん性評価を行うことができる。
【0051】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
1.発がん物質ならびに非発がん物質の選択
マウスに投与するための発がん物質として、以下に示す8種の物質(CA1〜CA8)を選択した。物質名の後には、発がん物質の略称、誘発される癌の種類(標的臓器)、投与量、並びに、投与方法を示した。
CA1:4−ニトロキノリン−1−オキシド(4-Nitroquinoline-1-oxide);4NQO;膵癌、胃と皮膚に乳頭腫;15mg/kg;皮下投与
CA2:シクロホスファミド(Cyclophosphamide);Cyc;肺腺腫;30mg/kg;強制経口投与
CA3:N,N−ジエチルニトロソアミン(N,N-Diethylnitrosoamine);DEN;胃癌、肺癌;90mg/kg;腹腔内投与
CA4:エチルアクリレート(Ethyl acrylate);Ethyl;前胃扁平上皮癌;200mg/kg;強制経口投与
CA5:N−メチル−N−ニトロウレス(N-methyl-N-nitroures);MNU;リンパ腫、胃乳頭腫;75mg/kg;腹腔内投与
CA6:プロカルバジン(Procarbazine);Pro;肺癌、脾臓血管肉腫;12mg/kg;腹腔内投与
CA7:チオテパ(Thiotepa);Thi;肺腺腫、胃乳頭腫、リンパ腫;2mg/kg;腹腔内投与
CA8:ウレタン(Urethane);UR;肺癌、脾臓血管腫;500mg/kg;腹腔内投与
【0053】
また、マウスに投与するための非発がん物質として、以下の4種の物質(NCA1〜NCA4)を選択した。物質名の後ろには、略称、投与量、並びに、投与方法を示した。
NCA1:α−トコフェロール(α-tocopherol);Toc;10mg/kg;強制経口投与
NCA2:レバミピド(Rebamipide);Reba;30mg/kg;強制経口投与
NCA3:テプレノン(Teprenone);Tep;200mg/kg;強制経口投与
NCA4:キシレン(Xylene);Xyl;1000mg/kg;強制経口投与
【0054】
2.各物質のマウスへの投与と肝臓由来mRNAの調製
7週齢の雄性BALB/cマウスを準備し、1群につき6匹ずつ割り当て、12群に分けた。各群のマウスに対して上記したいずれか1種の発がん物質(CA1〜CA8)または非発がん物質(NCA1〜NCA4)を投与(経口、皮下、または腹腔内)し、各群のマウスの飼育を開始した。飼育開始から3時間経過時ならびに24時間経過時に、各群からマウスを3匹ずつ取り出し、肝臓を摘出した。各肝臓からmRNAを抽出し(n=3)、遺伝子発現解析に供するサンプルとした。
【0055】
3.マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析
Mouse Genome 430−2 Array(アフィメトリクス社)を用い、各サンプルについて遺伝子発現解析を行った。ハイブリダイゼーションの条件としては、100mM MES,1M ナトリウム塩,20mM EDTA,0.01% Tween20中、45℃にて16時間の条件を採用した。データ解析には、GeneChip operating software(GCOS、アフィメトリクス社)を用い、チップ及び遺伝子ごとの正規化処理、ベースライン補正等を行った後、発現強度が100以下の遺伝子を排除し、解析対象の遺伝子をピックアップした(各群につき約20000個)。
【0056】
各群について、解析対象の遺伝子から、未処理マウスにおける発現強度と比較して2.0倍以上あるいは0.5倍以下の発現強度を示した遺伝子を選抜した。発がん物質を投与した群(第1群〜第8群)の投与3時間後における遺伝子の数を第1表に、非発がん物質を投与した群(第9群〜第12群)の投与3時間後における遺伝子の数を第2表に示す。発がん物質を投与した群(第1群〜第8群)の投与24時間後における遺伝子の数を第3表に、非発がん物質を投与した群(第9群〜第12群)の投与24時間後における遺伝子の数を第4表に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
次に、3時間目と24時間目について、発がん物質が投与された群(第1群〜第8群)における遺伝子のうち、非発がん物質が投与された群(第9群〜第12群)における遺伝子の発現強度と比較して有意に変化していた遺伝子をさらに選抜した。その結果、3時間目において遺伝子の発現量が有意に上昇した遺伝子が1247個(遺伝子群A、発現増強遺伝子)、3時間目において遺伝子の発現量が有意に減少した遺伝子が1388個(遺伝子群B、発現抑制遺伝子)、24時間目において遺伝子の発現量が有意に上昇した遺伝子が1319個(遺伝子群C、発現増強遺伝子)、24時間目において遺伝子の発現量が有意に減少した遺伝子が1345個(遺伝子群D、発現抑制遺伝子)選抜された。
【0062】
4.重み付け投票(Weighted Vote)と発がん性の予測スコア(Prediction Score)の算出
上述した数式(I)(II)を用い、投与群ごと(投与した発がん物質ごと)に遺伝子群A〜Dに属する各遺伝子について重み付け投票Vの値を算出した。このとき、各発がん物質を被検物質と仮定したシミュレーションを行うため、数式(I)におけるMca(既知の発がん物質を投与した各群における遺伝子aの発現量の平均値)については、その発がん物質自身の発現量を抜いて計算した(Leave-one-out-cross-validation)。さらに、発がん性物質ごとに、正のVの総和VXc、負のVの総和VXnc、及び全てのVの総和ΣViを算出した。
【0063】
続いて、上述の数式(III)を用い、遺伝子群A〜Dに分けて各発がん物質のPSを算出した。
【0064】
非発がん物質を投与した群についても同様にして、正のVの総和VXc、負のVの総和VXnc、及び全てのVの総和ΣViを算出した。
【0065】
遺伝子群A(3時間目における発現増強遺伝子)についてのVとPSの計算結果を第5表(発がん物質投与群)と第6表(非発がん物質投与群)に示す。遺伝子群B(3時間目における発現抑制遺伝子)の計算結果を第7表(発がん物質投与群)と第8表(非発がん物質投与群)に示す。遺伝子群C(24時間目における発現増強遺伝子)についてのVとPSの計算結果を第9表(発がん物質投与群)と第10表(非発がん物質投与群)に示す。遺伝子群D(24時間目における発現抑制遺伝子)の計算結果を第11表(発がん物質投与群)と第12表(非発がん物質投与群)に示す。表中、「プローブID」はアフィメトリクス社が付与したプローブIDである。なお当該プローブIDに対応するGenBankのアクセッションナンバーは、当業者であれば容易に検索できる。また表中の「V3h 略称」はその略称に相当する物質を投与した群における投与3時間後の各Vの値、「V24h 略称」はその略称に相当する物質を投与した群における投与24時間後の各Vの値を示す。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
【表12】

【0074】
第5表に示すように、遺伝子群Aにおいて、Pro以外の発がん物質を投与した場合に重み付け投票Vの総和ΣViが正の値となった。また第6表に示すように、遺伝子群Aにおいて、いずれの非発がん物質を投与した場合も重み付け投票Vの総和ΣViが負の値となった。一方、第7表に示すように、遺伝子群Bにおいて、いずれの発がん物質を投与した場合も重み付け投票Vの総和ΣViが正の値となった。また、第8表に示すように、遺伝子群Bにおいて、いずれの非発がん物質を投与した場合も重み付け投票Vの総和ΣViが負の値となった。これらの結果は、Vの総和ΣViが正の数である場合に投与した物質が発がん物質の可能性が高いという知見と一致した。
【0075】
第5表に示すように、遺伝子群Aの発現増加遺伝子を指標とした場合、Proを除く発がん物質においてPSの値が0以上の値となった。また第6表に示すように、非発がん物質ではいずれも負の値となった。一方、第7表に示すように、遺伝子群Bの発現抑制遺伝子を指標とした場合、全ての発がん物質においてPSの値が0以上の値となった。また第8表に示すように、非発がん物質ではいずれも負の値となった。以上より、PSの値により被検物質の発がん性を評価できることが示された。
【0076】
第9表に示すように、遺伝子群Cにおいては、発がん物質のうち4NQO、DEN、MNU、またはURを投与した場合に重み付け投票Vの総和ΣViが正の値となった。また第10表に示すように、遺伝子群Cにおいて、いずれの非発がん物質を投与した場合も重み付け投票Vの総和ΣViが負の値となった。一方、第11表に示すように、遺伝子群Dにおいて、発がん物質のうち4NQO、DEN、Pro、またはURを投与した場合に重み付け投票Vの総和ΣViが正の値となった。また、第12表に示すように、遺伝子群Dにおいて、いずれの非発がん物質を投与した場合も重み付け投票Vの総和ΣViが負の値となった。
【0077】
第9表に示すように、遺伝子群Cの発現増加遺伝子を指標とした場合、発がん物質が4NQO、DEN、MNU、またはURの場合においてPSの値が0以上の値となった。また第10表に示すように、非発がん物質ではいずれも負の値となった。一方、第11表に示すように、遺伝子群Dの発現抑制遺伝子を指標とした場合、発がん物質が4NQO、DEN、Pro、またはURの場合においてPSの値が0以上の値となった。また第12表に示すように、非発がん物質ではいずれも負の値となった。
以上のように、遺伝子群C,Dでは一部の発がん物質を投与した場合にのみΣViとPSが正の値となったが、非発がん物質を投与した場合にはいずれもΣViとPSが負の値となっており、1次スクリーニング等の目的には十分に使えるもの考えられた。
【0078】
また、遺伝子群A,B(投与3時間後)と遺伝子群C,D(投与24時間後)とで結果が完全には一致しなかったことから、マウスから肝臓を摘出するタイミングが重要と考えられた。
【0079】
本実施例では、ΣViとPSをいずれも発現増強遺伝子(遺伝子群A,C)と発現抑制遺伝子(遺伝子群B,D)とに区別して算出したが、これらを区別せずにまとめて算出してもよい。すなわち、遺伝子群AとB、並びに、遺伝子群CとDをまとめてΣViとPSを算出してもよい。
【0080】
5.第1表〜第4表の相互比較
第1表(発がん物質投与3時間後)に示した「発現量が2.0倍以上に増加した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(46個)と、第3表(発がん物質投与24時間後)に示した「発現量が2.0倍以上に増加した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(12個)とで共通の遺伝子は、以下の7種であった。当該7種の遺伝子のプローブIDと遺伝子名を示す。
1432517_a_at(nicotinamide N-methyltransferase)
1450788_at(serum amyloid A 1)
1427747_a_at(lipocalin 2)
1419075_s_at(serum amyloid A 1)
1437176_at(expressed sequence AI451557)
1425971_at(reverse transcriptase)
1424850_at(mitogen activated protein kinase kinase kinase 1)
【0081】
第1表(発がん物質投与3時間後)に示した「発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(12個)と、第3表(発がん物質投与24時間後)に示した「発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(6個)とで共通の遺伝子は、以下の2種であった。
1449109_at(suppressor of cytokine signaling 2)
1449463_at(kallikrein 8)
【0082】
第1表(発がん物質投与3時間後)に示した「発現量が2.0倍以上に増加した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(46個)から、第2表(非発がん物質投与3時間後)に示した「発現量が2.0倍以上に増加した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(87個)に属するものを除いた遺伝子は、以下の36種であった。
1434203_at(cDNA sequence BC055107)
1434202_a_at(cDNA sequence BC055107)
1428942_at(metallothionein 2)
1432517_a_at(nicotinamide N-methyltransferase)
1422557_s_at(metallothionein 1)
1418288_at(lipin 1)
1426516_a_at(lipin 1)
1450788_at(serum amyloid A 1)
1453851_a_at(growth arrest and DNA-damage-inducible 45 gamma)
1427747_a_at(lipocalin 2)
1442025_a_at(unknown)
1419075_s_at(serum amyloid A 1)
1445349_at(PREDICTED: hypothetical protein XP_489241 )
1424937_at(RIKEN cDNA 2310076L09 gene)
1439163_at(zinc finger and BTB domain containing 16)
1448830_at(dual specificity phosphatase 1)
1441915_s_at(RIKEN cDNA 2310076L09 gene)
1436555_at(unknown)
1427425_at(RIKEN cDNA 9130208E07 gene)
1418918_at(insulin-like growth factor binding protein 1)
1425745_a_at(transforming, acidic coiled-coil containing protein 2)
1417268_at(CD14 antigen)
1424401_at(aldehyde dehydrogenase 1 family, member L1)
1451557_at(tyrosine aminotransferase)
1423233_at(CCAAT/enhancer binding protein (C/EBP), delta)
1435452_at(transmembrane protein 20)
1420965_a_at(ectodermal-neural cortex 1)
1447905_x_at(nucleoporin 62)
1444139_at(DNA-damage-inducible transcript 4-like)
1421681_at(neuregulin 4)
1416953_at(connective tissue growth factor)
1429728_at(RIKEN cDNA 4930429M06Rik)
1440120_at(Guanine nucleotide binding protein (G protein))
1428306_at(DNA-damage-inducible transcript 4)
1417065_at(early growth response 1)
1456981_at(transmembrane channel-like gene family 7)
【0083】
第1表(発がん物質投与3時間後)に示した「発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(12個)から、第2表(非発がん物質投与3時間後)に示した「発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(39個)に属するものを除いた遺伝子は、以下の8種であった。
1429285_at(serine (or cysteine) peptidase inhibitor, clade A (alpha-1 antiproteinase, antitrypsin), member 9)
1432105_at(sirtuin 5 (silent mating type information regulation 2 homolog) 5 (S. cerevisiae))
1434582_at(DNA segment, Chr 14, ERATO Doi 171, expressed)
1443505_at(PREDICTED: RIKEN cDNA A630076J17 gene [Mus musculus], mRNA sequence)
1449109_at(suppressor of cytokine signaling 2)
1458398_at(RIKEN cDNA 1700027F06 gene)
1449463_at(kallikrein 8)
1434152_at(RIKEN cDNA 2210421G13 gene /// hypothetical protein LOC193676)
【0084】
第3表(発がん物質投与24時間後)に示した「発現量が2.0倍以上に増加した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(12個)から、第4表(非発がん物質投与24時間後)に示した「発現量が2.0倍以上に増加した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(51個)に属するものを除いた遺伝子は、以下の2種であった。
1459913_at(Tumor necrosis factor (ligand) superfamily, member 10 (Tnfsf10), mRNA)
1429949_at(RIKEN cDNA 6530415H11 gene)
【0085】
第3表(発がん物質投与24時間後)に示した「発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(6個)から、第4表(非発がん物質投与24時間後)に示した「発現量が0.5倍以下に減少した遺伝子」のうち「各群に共通」の遺伝子(60個)に属するものを除いた遺伝子は、以下の1種であった。
1449451_at(serine (or cysteine) peptidase inhibitor, clade B (ovalbumin), member 11)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物に被検物質を投与して当該被検物質の発がん性を評価する発がん性の評価方法であって、被検物質を投与した後の前記非ヒト動物の肝臓における複数種の遺伝子の発現量を測定する工程と、測定された当該発現量を指標として前記被検物質の発がん性を評価する工程とを含み、前記複数種の遺伝子は、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する発がん物質を非ヒト動物に投与した場合に肝臓においてその発現量が変化する遺伝子であることを特徴とする発がん性の評価方法。
【請求項2】
下記工程(1)〜(4)を含む手順によって前記複数種の遺伝子を選抜することを特徴とする請求項1に記載の発がん性の評価方法。
(1)非ヒト動物の複数の群を設定し、一方、肝臓以外の臓器に対する発がん性を有する既知の発がん物質を複数種選定し、各群に対して互いに異なる種類の発がん物質を投与する工程、
(2)投与から所定の時間が経過した後、各群の非ヒト動物から肝臓を摘出する工程、
(3)摘出した肝臓から核酸を単離し、核酸に含まれる各遺伝子の発現量を測定する工程、
(4)測定した発現量を元に、発現量が変化した複数種の遺伝子を選抜する工程。
【請求項3】
工程(4)において、前記発現量と、既知の発がん性物質に代わって既知の非発がん性物質を用いた陰性対照における各遺伝子の発現量とを比較することにより、前記複数種の遺伝子を選抜することを特徴とする請求項2に記載の発がん性の評価方法。
【請求項4】
前記複数種の遺伝子の発現量を指標とする際に、各遺伝子の重要度に応じた重み付けを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法。
【請求項5】
前記複数種の遺伝子の数は100個以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法。
【請求項6】
前記複数種の遺伝子の数は500個以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法。
【請求項7】
前記複数種の遺伝子の数は1000個以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発がん性の評価方法。
【請求項8】
前記非ヒト動物はげっ歯類に属するものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに1項に記載の発がん性の評価方法。
【請求項9】
遺伝子の発現量の測定をmRNA量を測定することによって行なうことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに1項に記載の発がん性の評価方法。

【公開番号】特開2008−79552(P2008−79552A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264305(P2006−264305)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 財団法人日本消化器病学会発行「日本消化器病学会雑誌・第103巻臨時増刊号 第48回日本消化器病学会大会抄録集」(平成18年9月10日発行)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【出願人】(596156174)
【Fターム(参考)】