説明

発光分析装置

【課題】放電室1内の領域Aや放電室1の底部隅の放電室1と集塵用皿6の狭いすき間の空気は置換するのに時間がかかる上に、またそのため多量の放電用ガスを必要とする。結果的に分析時間が長引き分析費が増大する。
【解決手段】直線状の放電用ガス導入路4を放電室1の中心から偏位した位置を通る直線方向に設置し、さらに前記ガス導入路4を放電室1の内周面底側に接して設置することによって放電用ガスを放電室1内で渦巻き状に旋回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形の放電室に放電用ガスを導入し、スパーク放電によって試料を励起し発光させて試料の分析を行う発光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光分析装置は、試料に含有する元素を励起して、紫外や可視域においてその元素原子から発する固有の波長の光強度を測定し、元素の定性あるいは定量分析を行うもので、試料を励起して発光させる発光部と、発光を各波長に分光する分光部と、各線スペクトル強度を検出する検出器、および前記検出器の出力から定性分析または定量分析を行う測定部を備えている(特許文献1参照)。
【0003】
図4(a)縦断面図および(b)水平断面図は従来の発光部を示す図で、電極2が垂設された放電室1とステージ7に設けられた開孔9上に配設された試料8が示されている。発光部すなわち放電室1内で、たとえば試料8と電極2間でスパーク放電が行われると試料8中の元素原子を気化させ励起させる。励起した原子が励起レベルからより低いエネルギーレベルに遷移する時に、各元素原子に固有の波長を持つ光を輻射し、図示されていない検出器が各波長における輻射光強度に比例した電気信号を出力する。測定部では、分光器の波長情報と検出器の出力から試料の定性分析を行い、また、検出器の出力と標準試料の元素濃度の関係から求めた検量線を用いて定量分析が行われる。
【0004】
上述のとおり試料の発光は、試料と発光電極の間でスパーク放電を生ぜしめることによって行われるが、この際発光分析による正確な分析値を求めるために、放電室1内の空気を完全に不活性な放電用ガスに置換してから分析を行う必要がある。そのため図4に示すとおり、放電用ガス(白抜き矢印で示す、以下同じ)を開口部3を経由し放電室1の側面から、電極2を垂設した円筒形の放電室1の中心軸に向かって導入し、放電室1内の空気とともに、その対角位置の放電室1の側面に設けられたガス排出路5を経由して放出する。
【0005】
同様に放電室1の下部に滞留する空気の除去を目的に、ガス導入路10を経由し、電極2を垂設した円筒形の放電室1の中心軸に向かって導入された放電用ガスは、開口部3を経由してきたガスと一緒にガス排出路5を経由して放出する。
【0006】
その際放電用ガスの流れから遠く離れた放電室1内の領域Aの空気は、気体の粘性により放電用ガスの流れに牽引されて放電室1の外に放出され、最終的に放電室1は放電用ガスに置換される。なお、開口部3はスパーク放電によって発生した輻射光(図中矢印および破線)を放電室1から図示されていない外部の検出器まで取り出す通路を兼ねている。
【0007】
試料8の発光は、放電用ガスに置換された放電室1内において、試料8と電極2の間でスパーク放電を生ぜしめることによって行われるが、この際試料8の表面から蒸散した試料の蒸気は、周囲の大気あるいは雰囲気ガスによって急激に冷却されて再凝集し、その一部は発光部内の構成部品の表面に付着する。
【0008】
また、放電の熱によって試料8の表面で溶融した試料が放電の衝撃で飛沫となって近傍の部材に付着したり、塵となって落下し集塵用皿6に集積し、これらの付着物は以後の分析における測定値の精度を低下させる大きな原因となる。これらの付着物はワイヤブラシなどによって各分析ごと、あるいは数回または数十回の分析ごとに手動または自動で除去される。同様の理由により集塵用皿6を取り外してその中に集積した塵も廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−332587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の従来技術には次の問題がある。放電用ガスを電極2を垂設した円筒形の放電室1の中心軸に向かって導入するため、そのガスの流れは放電室1の中心を通る直径線上となり、その流れから遠く離れた放電室1内の領域Aや放電室1の底部隅の放電室1と集塵用皿6の狭いすき間の空気は置換するのに時間がかかる上に、またそのため多量の放電用ガスを必要とする。結果的に分析時間が長引き分析費が増大する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、円筒形の放電室に放電用ガスを導入し、スパーク放電によって試料を励起し発光させて試料の分析を行う発光分析装置において、直線状の放電用ガス導入路を前記放電室の中心から偏位した位置を通る直線方向に設置したものである。さらに前記ガス導入路を前記放電室内周面に接するとともに前記放電室内周面底側に設置し、また前記ガス導入路を複数個設置したものである。したがって放電用ガスを放電室内で渦巻き状に旋回させやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
放電用ガスを直線状の放電用ガス導入路を経由して放電室の中心から偏位した位置を通る直線方向に導入することにより、放電用ガスを放電室内で渦巻き状に旋回させ、さらに前記ガス導入路を放電室の内周面底側に設置することにより、放電室の底部隅の放電室と集塵用皿のすき間に滞留している空気が排除される。また気体の粘性により、放電室の中心部に存在する空気も、放電用ガスの渦巻き状の流れに牽引されて渦巻き状の回転運動を始め、その回転運動による遠心力により中心部の空気は外側に広がり、最終的に放電用ガスとともにガス排出路から外部に放出される。
【0013】
また、直線状の開口部3より導入される放電用ガスの流れから遠く離れた放電室内の領域Aの空気は、ガス導入路より導入され渦巻き状に旋回しながら上部に移動する放電用ガスに巻き込まれてガス排出路から放出される。
【0014】
これにより放電用ガスの消費を抑え、放電室内の空気をすばやく放電用ガスに置換することができるため正確な分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかわる実施例1を示す図で、放電室ならびにガス流路を縦方向および水平方向に断面し、且つガスの流れを示す断面図である。
【図2】本発明にかかわる発光分析装置全体の構成を示す概念図である。ただし、図1に示す本発明にかかわる放電室部分の詳細は本図において省略している。
【図3】本発明にかかわる実施例2を示す図で、放電室ならびにガス流路を縦方向および水平方向に断面し、且つガスの流れを示す断面図である。
【図4】従来の実施例を示す図で、放電室ならびにガス流路を縦方向および水平方向に断面し、且つガスの流れを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2は本発明にかかわる発光分析装置全体の構成を示す概念図である。図示例では金属などの固体試料の分析に一般的に使用される、凹面回折格子を波長分散素子とした多波長分光器と、スパーク放電による発光光源を組み合わせた発光分析装置の例が示されている。
【0017】
放電室1には、試料8およびこれに対向する電極2がそれぞれの保持機構によって着脱自在に装着されており、これら保持機構を介して、それぞれ電源14の一方の出力端子に接続されている。電源14は、測定時に試料8と電極2の間に電圧を印加し、両者間にスパーク放電を開始させ、所定の電圧・電流にて所定の時間放電を継続させる。この時、試料8表面の放電部位は、放電電流によって急激に加熱され蒸発する。気化した試料8の成分元素はさらにスパーク中で励起され、元素固有の波長の輝線スペクトルを有する光を発する。放電の発光部位と分光器12の入口スリット23の中間に集光レンズ11が設けられ、放電の発光が集光レンズ11によって入口スリット23上に収斂・結像される。
【0018】
図2に示すとおり、分光器12の入口スリット23の中心と回折格子13の中心とを結ぶ直線が、放電発光点と集光レンズ11の中心とを結ぶ直線の延長線と合致するように、放電室1と分光器12が互いに係着されている。また、分光器12内のすべての光学素子は、物理的変形を最小限に抑えられるように設計・加工され、分光器12内に固定されている。分光器12の光学系の配置は、一般にパッシェン・ルンゲ・マウンティングと呼ばれ、回折格子13の反射面がひとつの仮想円(ローランド円と呼ばれる)の一部分をなすように配設され、このローランド円の円周上に入口スリット23およびすべての出口スリット19、20、21、22が連設されている。
【0019】
この配置においては、入口スリット23からの拡散光は、回折格子13の略全面を照射した後、波長に応じて異なった回折角で反射され、波長に応じてローランド円上の異なった点に入口スリット23の像を結ぶ。したがって出口スリット19、20、21、22は、ローランド円上の測定対象元素の輝線波長に対応する位置に固定され、その波長の光のみを通過させる。各出口スリット19、20、21、22の背後には、光電子増倍管によって代表される検出器15、16、17、18が配設され、各出口スリットを通過した光強度を検出する。検出器15、16、17、18の出力は、発光分析装置の測光部(図示せず)に伝送され、定性・定量分析が行われる。
【0020】
本発明は、上記発光分析装置において、円筒形の放電室に放電用ガスを導入し、スパーク放電によって試料を励起し発光させて試料の分析を行う発光分析装置において、直線状の放電用ガス導入路を前記放電室の中心から偏位した位置を通る直線方向に設置し、さらに前記ガス導入路を前記放電室内周面に接するとともに前記放電室内周面底側に設置する構造である。
【実施例1】
【0021】
実施例1を図1に示す。図1(a)縦断面図および(b)水平断面図に示すとおり、放電ガスを導入するガス導入路4が、円筒形の放電室1の内周面に接するとともに前記放電室1の内周面底側に設置される。
【0022】
直線状のガス導入路4を経由して導入された放電用ガスは、放電室1内で渦巻き状に旋回し、放電室1の底部隅の放電室1と集塵用皿6のすき間に滞留する空気を押し出しガス排出路5から外部に放出される。また放電室1の中心部に存在する空気は、気体の粘性により、放電用ガスに牽引されて渦巻き状の運動を始め、その回転運動の遠心力により外方に広がり、最終的に放電用ガスと一緒にガス排出路5から外部に放出される。
【0023】
また、直線状の開口部3より導入される放電用ガスの流れから遠く離れた放電室1内の領域Aの空気は、ガス導入路4より導入され渦巻き状に旋回しながら上部に移動する放電用ガスに巻き込まれてガス排出路5から放出される。
【0024】
これにより放電用ガスの消費を抑え、放電室1内の空気を迅速に放電用ガスに置換することができ、正確な分析が可能となる。
【0025】
図1(a)縦断面図および(b)水平断面図において、電極2が垂設された放電室1とステージ7に設けられた開孔9上に配設された試料8が示されている。放電室1内で、試料8と電極2間でスパーク放電が行われると試料8中の元素原子を気化させ励起させる。励起した原子が励起レベルからより低いエネルギーレベルに遷移する時に、各元素原子に固有の波長を持つ光を輻射し、図示されていない検出器が各波長における輻射光強度に比例した電気信号を出力する。測定部では、分光器の波長情報と検出器の出力から試料の定性分析を行い、また、検出器の出力と標準試料の元素濃度の関係から求めた検量線を用いて定量分析が行われる。
【実施例2】
【0026】
実施例2を図3に示す。図3(a)縦断面図および(b)水平断面図に示すとおり実施例2は実施例1の構成に対して、直線状のガス導入路4を回転対称位置にもう一箇所配置したものである。放電用ガスを放電室1内に渦巻き状に導入して内部に滞留する空気を廃棄する効果を高めるため、直線状のガス導入路を回転対称位置に一箇所追加設置したものである。この図ではガス導入路を2箇所としたが、ガス導入路の数は3箇所以上であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
少量の放電用ガスで放電室内の空気を効率よく排気し、放電用ガスへの置換を迅速に行うことができる。
【符号の説明】
【0028】
1 放電室
2 電極
3 開口部
4 ガス導入路
5 ガス排出路
6 集塵用皿
7 ステージ
8 試料
9 開孔
10 ガス導入路
11 集光レンズ
12 分光器
13 回折格子
14 電源
15、16、17、18 検出器
19、20、21、22 出口スリット
23 入口スリット
A 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の放電室に放電用ガスを導入し、スパーク放電によって試料を励起し発光させて試料の分析を行う発光分析装置において、直線状の放電用ガス導入路を前記放電室の中心から偏位した位置を通る直線方向に設置したことを特徴とする発光分析装置。
【請求項2】
前記放電用ガス導入路を前記放電室の内周面に接する方向に設置したことを特徴とする請求項1記載の発光分析装置。
【請求項3】
前記放電用ガス導入路を前記放電室内周面底側に設置したことを特徴とする請求項2記載の発光分析装置。
【請求項4】
前記放電用ガス導入路を、複数の回転対称位置に設置したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の発光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127974(P2011−127974A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285622(P2009−285622)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】