説明

発光性フィルム

【課題】発光性イオン液体の高温での発光効率を向上させる。
【解決手段】環状ホスファゼン構造を含むカチオンを有するイオン液体を樹脂に配合してフィルムとする。前記イオン液体は、下記一般式(I):
(NPR12n ・・・ (I)
[式中、R1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR1は、下記一般式(II):
−N+23- ・・・ (II)
(式中、R2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素で、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよく;X-は一価のアニオンを表す)で表されるイオン性置換基であり;nは3〜6を表す]で表されることが好ましく、前記樹脂としては、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性フィルム、特には、イオン液体と樹脂とを含み、高温での発光効率に優れた発光性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1992年のWilkesらの報告以来、常温で液体であり、イオン伝導性に優れた物質として、イオン液体が注目を集めている。該イオン液体は、カチオンとアニオンが静電気的引力で結合しており、イオンキャリア数が非常に多く、更には粘度も比較的低いため、イオンの移動度が常温でも高く、従って、イオン伝導性が非常に高いという特性を有する。また、イオン液体は、カチオンとアニオンのみで構成されているため、沸点が高く(300℃超)、液体状態を保持できる温度範囲が非常に広い。更に、該イオン液体は、蒸気圧が殆どないため、引火性が低く、熱的安定性も非常に優れている(非特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、昨今、発光性のイオン液体も報告されており(非特許文献3参照)、かかるイオン液体は、種々の用途に適用できる可能性が有る。更に、特開2010−6758号公報(特許文献1)、特開2010−6765号公報(特許文献2)には、従来の発光性イオン液体に比べて、高温での発光収率が高いイオン液体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−6758号公報
【特許文献2】特開2010−6765号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc., 144 (1997) 3881
【非特許文献2】「イオン性液体の機能創成と応用」,エヌ. ティー. エス,(2004)
【非特許文献3】A. Paul, P. K. Mandel and A. Samanta, Chem. Phys. Lett., 402, 375-379 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献1及び2に開示のイオン液体は、上記非特許文献3に開示のイオン液体よりも高温での発光効率が高いものの、発光性能の温度依存性が大きく、高温での発光効率に依然として改良の余地が有ることが分かった。そこで、本発明は、発光性イオン液体の高温での発光効率を更に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、カチオン部分に環状ホスファゼン構造を含む発光性イオン液体を樹脂に配合し、発光性イオン液体と樹脂の混合物をフィルム化して得られた発光性フィルムが、発光性イオン液体単独に比べて、高温での発光効率が高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明による発光性フィルムは、
・環状ホスファゼン構造を含むカチオンを有するイオン液体と、
・樹脂と
を含むことを特徴とする。ここで、環状ホスファゼン構造とは、リン−窒素間二重結合(P=N)を含む環状構造を指す。
【0009】
本発明の発光性フィルムの好適例においては、前記イオン液体が、下記一般式(I):
(NPR12n ・・・ (I)
[式中、R1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR1は、下記一般式(II):
−N+23- ・・・ (II)
(式中、R2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素で、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよく;X-は一価のアニオンを表す)で表されるイオン性置換基であり;nは3〜6を表す]で表される。
【0010】
本発明の発光性フィルムの他の好適例においては、前記イオン液体が、ハロゲン元素を含むアニオンを有する。ここで、該イオン液体は、フッ素を含むアニオンを有することが更に好ましく、該イオン液体のアニオンが、(CF3SO22-又はPF6-であることが特に好ましい。
【0011】
本発明の発光性フィルムにおいては、前記イオン液体の含有量が0.5〜50質量%であることが好ましい。また、本発明の発光性フィルムにおいては、前記樹脂の含有量が50〜99.5質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の発光性フィルムにおいて、前記樹脂は、前記イオン液体の吸収波長の短波長側の吸収端よりも長波長側に吸収を有さないことが好ましい。また、該樹脂は、400nm以上におけるモル吸光係数の最大値が100 mol-1 dm3 cm-1以下であることも好ましく、50 mol-1 dm3 cm-1以下であることが更に好ましい。また、該樹脂は、320〜399nmにおけるモル吸光係数が1000 mol-1 dm3 cm-1以下であることも好ましい。
【0013】
本発明の発光性フィルムの他の好適例においては、前記樹脂が、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カチオン部分に環状ホスファゼン構造を含むイオン液体と樹脂とを含み、高温での発光効率の低下が抑制された発光性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】イオン液体AとPMMAからなる発光性フィルムのDSCチャートである。
【図2】イオン液体BとPMMAからなる発光性フィルムのDSCチャートである。
【図3】イオン液体AとPMMAからなる発光性フィルムの蛍光スペクトルである。
【図4】イオン液体Aの蛍光スペクトルである。
【図5】イオン液体AとPMMAからなる発光性フィルムと、イオン液体A自体の蛍光強度の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の発光性フィルムは、環状ホスファゼン構造を含むカチオンを有するイオン液体と、樹脂とを含むことを特徴とする。本発明者らが検討したところ、上記イオン液体は、発光性能の温度依存性が大きく、該イオン液体単独では、高温での発光効率の低下が大きかったが、驚くべきことに、該イオン液体を樹脂に配合することで、高温での発光効率の低下が抑制できることを見出した。そのため、上記イオン液体と樹脂を含む本発明の発光性フィルムは、高温での発光効率の低下が抑制されており、種々の用途に適用できる。
【0017】
また、上記イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、カチオン部分が環状ホスファゼン構造を含むため、燃焼時に分解して、窒素ガスやリン酸エステル等を発生し、該窒素ガスやリン酸エステル等が燃焼の進行を抑制するため、上記イオン液体を含む本発明の発光性フィルムは、燃焼の危険性が低い。また、上記イオン液体のカチオン部分が環状ホスファゼン構造に加えてハロゲンを含む場合、万が一の燃焼時にはハロゲンが活性ラジカルの捕捉剤として機能し、燃焼の危険性を更に低減する。更に、上記イオン性化合物が環状ホスファゼン構造に加えて有機置換基を含む場合、燃焼時に炭化物(チャー)を生成するため酸素の遮断効果もある。従って、上記イオン液体を含む本発明の発光性フィルムは、燃焼の危険性が極めて低い。
【0018】
一方、上記イオン液体のアニオン部分は、ハロゲン元素を含むことが好ましく、フッ素を含むことが更に好ましく、(CF3SO22-又はPF6-であることが特に好ましい。上記イオン液体のアニオン部分がハロゲンを含む場合、万が一の燃焼時にはハロゲンが活性ラジカルの捕捉剤として機能し、発光性フィルムの燃焼の危険性を更に低減することができる。
【0019】
本発明の発光性フィルムに用いるイオン液体としては、上記一般式(I)で表されるイオン液体が好ましい。式(I)のイオン液体は、リン−窒素間二重結合を複数有する環状ホスファゼン化合物の一種であると共に、R1の少なくとも一つが上記式(II)のイオン性置換基であるため、イオン性を有する。そして、ホスファゼン骨格を有するため、燃焼時に分解して、窒素ガスやリン酸エステル等を発生し、該窒素ガスやリン酸エステル等が燃焼の進行を抑制するため、燃焼の危険性が低い。また、式(I)中のR1がハロゲンを含む場合、万が一の燃焼時にはハロゲンが活性ラジカルの捕捉剤として機能し、燃焼の危険性を更に低減する。更に、式(I)中のR1が有機置換基を含む場合、燃焼時に炭化物(チャー)を生成するため酸素の遮断効果もある。
【0020】
上記一般式(I)中のR1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基であり、但し、少なくとも一つのR1は、上記一般式(II)で表されるイオン性置換基である。ここで、R1におけるハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素等が好適に挙げられ、これらの中でも、フッ素が特に好ましい。また、R1における一価の置換基としては、アルコキシ基、アルキル基、アリールオキシ基、アリール基、カルボキシル基、アシル基等が挙げられる。上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、プロポキシ基等や、二重結合を含むアリルオキシ基やビニルオキシ基等、更にはメトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基等が挙げられ、上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、上記アリールオキシ基としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基等が挙げられ、上記アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、上記アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基等が挙げられる。なお、上記一価の置換基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されていることが好ましく、ハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素等が好適に挙げられる。
【0021】
上記一般式(I)のnは、3〜6であり、原料物質の入手容易性の観点から、3〜4が好ましく、3が特に好ましい。
【0022】
上記一般式(II)で表される置換基は、−NR23とXとが主として静電気的引力によって結合してなる。そのため、式(II)のイオン性置換基を有する式(I)の化合物は、イオン性を有する。
【0023】
上記一般式(II)中のR2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素であり、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよい。ここで、R2における一価の置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、上記アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、複数のR2が互いに結合して環を形成する場合において、3つのR2のいずれか2つが結合して形成する環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環等のアザシクロアルカン環や、該アザシクロアルカン環のメチレン基がカルボニル基に置き換わった構造のアザシクロアルカノン環等が挙げられ、3つのR2が結合して形成する環としては、ピリジン環等が挙げられる。なお、上記一価の置換基中の水素元素は、ハロゲン元素等で置換されていてもよい。
【0024】
上記一般式(II)中のX-は一価のアニオンを表す。式(II)のX-における一価のアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオンや、ハロゲン元素を含む一価のアニオンが好ましく、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-、(CF3SO22-、(C25SO22-、(C37SO22-、(CF3SO2)(C25SO2)N-、(CF3SO2)(C37SO2)N-、(C25SO2)(C37SO2)N-等のフッ素を含む一価のアニオンが更に好ましく、これらの中でも、(CF3SO22-及びPF6-が特に好ましい。
【0025】
上記式(I)のイオン液体において、R1は、少なくとも一つが上記式(II)のイオン性置換基であるが、イオン液体の難燃性の観点から、その他がフッ素であることが好ましい。かかる難燃性の高いイオン液体を使用することで、発光性フィルムの難燃性を更に向上させることができる。
【0026】
上記式(I)のイオン液体の製造方法は、特に限定されず、例えば、特開2010−6765号公報(特許文献2)に開示の方法に従って製造できる。具体的には、有機溶媒中で、下記化学式(III):
(NPR32n ・・・ (III)
[式中、R3は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR3は塩素であり;nは3〜6を表す]で表される環状ホスファゼン化合物と、下記一般式(IV):
NR23 ・・・ (IV)
[式中、R2は、上記と同義である]で表される1級、2級又は3級のアミンとを反応させることで、下記一般式(V):
(NPR42n ・・・ (V)
[式中、R4は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR4は、下記一般式(VI):
−N+23Cl- ・・・ (VI)
(式中、R2は上記と同義である)で表されるイオン性置換基であり;nは上記と同義である]で表されるイオン性化合物(即ち、上記一般式(I)で表され、上記一般式(II)中のX-がCl-であるイオン性化合物)を生成させ、次に、上記一般式(V)で表わされるイオン性化合物と下記一般式(VII):
+- ・・・ (VII)
[式中、A+はLi+、Ag+等一価のカチオンを表し、X-は一価のアニオンを表す]で表される塩とを反応させることで、上記一般式(I)で表されるイオン液体を生成させることができる。
【0027】
本発明の発光性フィルム中の上記イオン液体の含有量は、0.5〜50質量%の範囲が好ましい。発光性フィルム中の上記イオン液体の含有量が0.5質量%未満では、フィルムの発光が弱く、一方、発光性フィルム中の上記イオン液体の含有量が50質量%を超えると、フィルムが軟化する。なお、本発明の発光性フィルムにおいて、上記イオン液体は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上述した本発明の発光性フィルムに用いるイオン液体は、少なくとも融点が50℃以下であり、好ましくは融点が25℃以下である。
【0029】
本発明の発光性フィルムに用いる樹脂は、上記イオン液体の高温での発光効率の低下を抑制する役割を果たす。理由は必ずしも明らかではないが、本発明の発光性フィルムにおいては、樹脂マトリックス内にイオン液体が閉じ込められることによって、イオン液体の分子運動による無放射失活が減少するため、イオン液体の高温での発光効率の低下を抑制できるものと考えられる。
【0030】
本発明の発光性フィルムに用いる樹脂は、上記イオン液体の吸収波長の短波長側の吸収端よりも長波長側に吸収を有さないことが好ましい。この場合、励起光が樹脂に吸収されることによって、イオン液体からの発光を妨げることがなくなる。
【0031】
また、本発明の発光性フィルムに用いる樹脂は、400nm以上におけるモル吸光係数の最大値が100 mol-1 dm3 cm-1以下であることが好ましく、50 mol-1 dm3 cm-1以下であることが更に好ましい。この場合、可視光が樹脂に吸収されることによるイオン液体からの発光強度の低下を妨げることがなくなる。
【0032】
本発明の発光性フィルムに用いる樹脂は、320〜399nmにおけるモル吸光係数が1000 mol-1 dm3 cm-1以下であることが好ましい。この場合、励起光として紫外線を使用した際、樹脂が励起光(紫外線)を吸収する割合が小さく、効率的にイオン液体を励起して、発光させることができる。
【0033】
本発明の発光性フィルムに用いる樹脂として、具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等のいわゆる透明樹脂が好ましい。これら樹脂は、紫外領域に吸収を有さず、励起光の進入を妨げないことに加え、可視光領域にも吸収を有さないため、発光性フィルムの発光効率が大きくなる。
【0034】
本発明の発光性フィルム中の樹脂の含有量は、50〜99.5質量%の範囲が好ましい。発光性フィルム中の樹脂の含有量が99.5質量%を超えると、フィルムの発光が弱く、一方、発光性フィルム中の樹脂の含有量が50質量%未満では、フィルムが軟化する。なお、本発明の発光性フィルムにおいて、上記樹脂は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の発光性フィルムは、上記イオン液体と樹脂を溶媒に溶解させて溶液とし、該溶液をガラス等の基材上に塗布し、乾燥することで容易に製造できる。ここで、イオン液体及び樹脂を含む混合溶液の塗布方法としては、例えば、キャスティング法、ディッピング法、スプレー法、スピンコーティング法、ロールコーティング法などが挙げられる。また、混合溶液の調製に使用する溶媒としては、公知の種々の溶媒を使用でき、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素が好ましく、該溶媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、塗布後の乾燥は、自然乾燥でも、加温して乾燥してもよい。なお、上記環状ホスファゼン構造を含むカチオンを有するイオン液体は、蒸気圧が殆どないため、蒸着法で本発明の発光性フィルムを作製することは難しい。
【0036】
本発明の発光性フィルムは、上記イオン液体及び樹脂のみから構成されていてもよいが、必要に応じて、上記イオン液体及び樹脂の他に種々の添加剤を含むこともできる。なお、本発明の発光性フィルムは、特に限定されるものではないが、厚さが1〜500μmの範囲であることが好ましく、塗布用の混合溶液中のイオン液体及び樹脂の濃度や、塗布する混合溶液の単位面積当たりの量を調節することにより、所望の厚さとすることができる。
【0037】
上述した本発明の発光性フィルムは、励起光を照射することで、発光し、例えば、励起光として紫外光を照射することで、可視光を発光することができる。また、本発明の発光性フィルムは、高温での発光効率の低下が小さいため、高温で加工することができる。そのため、本発明の発光性フィルムは、発光材料を使用する種々の用途に適用でき、例えば、安全帯、デザイン壁紙、照明器具、各種ディスプレイ、広告宣伝用媒体等に加工して利用できる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(イオン液体A)
特開2010−6765号公報(特許文献2)の実施例2に記載の方法に従って、下記化学式(a):
【化1】

で表わされるイオン液体Aを合成した。
【0040】
(イオン液体B)
特開2010−6765号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って、下記化学式(b):
【化2】

で表わされるイオン液体Bを合成した。
【0041】
<発光性フィルムの作製>
10mlのサンプル管に、ポリメチルメタクリレート(PMMA、アルドリッチ社製、400nm以上におけるモル吸光係数の最大値=50 mol-1 dm3 cm-1、365nmでのモル吸光係数=1000 mol-1 dm3 cm-1、上記イオン液体A及びイオン液体Bの吸収波長の短波長側の吸収端よりも長波長側に吸収を有さない)を0.5〜0.9g、上記イオン液体A又はイオン液体Bを0.5〜0.1g量り採り、クロロホルム3.6ml中に溶解して、混合溶液を調製した。次に、サンプル管を振とう機にかけ、1000rpmで24時間振とうし、得られた混合溶液をキャスティング法によりガラス上に均一に塗布した後、室温で24時間自然乾燥させて、厚さ500μmの発光性フィルムを作製した。
【0042】
次に得られた発光性フィルムのガラス転移温度を以下の条件で測定した。なお、2回目の昇温で得られたDSCチャートからガラス転移温度を(Tg)を求めた。結果を図1及び図2、表1及び表2に示す。
【0043】
〔測定条件〕
基準物質;Al23
2流速;100ml/min
熱処理 設定温度;200℃ 昇温速度;10℃/min
2回目昇温 設定温度;200℃ 昇温速度;10℃/min
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
<熱安定性の評価>
上記のようにして作製したイオン液体Aを50質量%、PMMAを50質量%含む発光性フィルム(実施例5)に対して、共焦点レーザー走査型顕微鏡にて350〜385nmの紫外光を照射して、蛍光スペクトルを測定した。結果を図3に示す。なお、測定は、窒素雰囲気下で、25℃、50℃、100℃、150℃で行った。また、昇温速度は10℃/minとし、設定温度に達した後5分間保持し、自然放熱により冷却した。
【0047】
また、比較として、イオン液体Aの25℃、50℃、100℃、150℃での蛍光スペクトルを測定した。結果を図4に示す。
【0048】
更に、上記発光性フィルム、イオン液体Aの25℃での発光強度を1とした時の各温度での発光強度比をプロットしたグラフを図5に示す。
【0049】
図3〜5から、イオン液体単独に比べて、イオン液体と樹脂を複合化してフィルムとすることで、高温での蛍光強度の低下を抑制できることが分かる。これは、樹脂マトリックス内にイオン液体が閉じ込められたことによって、分子運動による無放射失活が減少したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上述した本発明の発光性フィルムは、例えば、安全帯、デザイン壁紙、照明器具、各種ディスプレイ、広告宣伝用媒体等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ホスファゼン構造を含むカチオンを有するイオン液体と、樹脂とを含む発光性フィルム。
【請求項2】
前記イオン液体が、下記一般式(I):
(NPR12n ・・・ (I)
[式中、R1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR1は、下記一般式(II):
−N+23- ・・・ (II)
(式中、R2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素で、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよく;X-は一価のアニオンを表す)で表されるイオン性置換基であり;nは3〜6を表す]で表されることを特徴とする請求項1に記載の発光性フィルム。
【請求項3】
前記イオン液体が、ハロゲン元素を含むアニオンを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の発光性フィルム。
【請求項4】
前記イオン液体が、フッ素を含むアニオンを有することを特徴とする請求項3に記載の発光性フィルム。
【請求項5】
前記イオン液体のアニオンが、(CF3SO22-又はPF6-であることを特徴とする請求項4に記載の発光性フィルム。
【請求項6】
前記イオン液体の含有量が0.5〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の発光性フィルム。
【請求項7】
前記樹脂は、前記イオン液体の吸収波長の短波長側の吸収端よりも長波長側に吸収を有さないことを特徴とする請求項1に記載の発光性フィルム。
【請求項8】
前記樹脂は、400nm以上におけるモル吸光係数の最大値が100 mol-1 dm3 cm-1以下であることを特徴とする請求項1又は7に記載の発光性フィルム。
【請求項9】
前記樹脂は、320〜399nmにおけるモル吸光係数が1000 mol-1 dm3 cm-1以下であることを特徴とする請求項1、7又は8に記載の発光性フィルム。
【請求項10】
前記樹脂が、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1及び7〜9のいずれか一項に記載の発光性フィルム。
【請求項11】
前記樹脂の含有量が50〜99.5質量%であることを特徴とする請求項1及び7〜10のいずれか一項に記載の発光性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−41478(P2012−41478A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185467(P2010−185467)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構「重点地域研究開発推進プログラム(シーズ発掘試験)」、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】