説明

発光成分用積層体

本発明は、発光成分用積層体、具体的には、互いが発光領域に接続した、ホール注入コンタクト及び電子注入コンタクトを有する燐光有機発光ダイオードであり、上記発光領域では、1つの発光層が物質(M1)から作製され、他の発光層は物質(M2)から作製され、物質(M1)は両極性であり、ホールを優先的に輸送し、物質(M2)は両極性であり、電子を優先的に輸送し、上記発光領域における物質(M1)と物質(M2)とからへテロ遷移を形成し、物質(M1)と物質(M2)との間の界面は、ねじれタイプIIによるものであり、物質(M1)及び物質(M2)は、それぞれ少なくとも1つの三重項エミッタドーパントが添加されており、物質(M1)から物質(M2)へのホール輸送のエネルギー障壁、及び物質(M2)から物質(M1)への電子輸送のエネルギー障壁が、それぞれ約0.5eV未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光成分用積層体、具体的には有機燐光発光ダイオード(OLED)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機層積層体を有する成分について、例えば、特許文献1に記載されている。このような成分の典型的なものとして、マトリックス物質と燐光ドーパントとの混合物を含むシンプルな発光層(EML)をベースとしたものが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
非特許文献1(Ir(ppy)(fac トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム)でドープした、CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾリルビフェニル若しくは4,4’−ビス(カルバゾール−9−イルビフェニル)を含むEML)や非特許文献2(Ir(ppy)でドープした、TCTA(4,4’,4”−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニル−アミン)を含むEML)のように、上記成分が主としてホール輸送特性を有している場合、非常に高いイオン化エネルギーを有する物質からなるホールブロッキング層(HBL)(即ち、非特許文献1の場合では、BCP(バトクプロイン、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、非特許文献2の場合ではペルフルオロ化スターバースト型物質)が発光層と電子輸送層若しくは陽極との間に要求される。
【0004】
一方、非特許文献3(電子輸送物質 エミッタドーパントであるIr錯体でドープした、電子輸送物質であるTAZ(3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾールのような1,2,4−トリアゾール誘導体)から成るEML)のように、EMLが主として電子伝導特性を有している場合、特許文献3で使用している、4,4’−ビス[N,N’−(3−トリル)アミノ]−3,3’−ジメチルビフェニル(HM−TPD)のような、非常に低い電子親和性を有する物質からなる電子ブロッキング層(EBL)が要求される。しかし、これらは、特に高輝度の場合に、ホール/電子ブロッキング層においてホール/電子の蓄積が起こり、輝度の増加に伴い効率の低下を引き起こすという問題を生じる。
【0005】
更には、電荷キャリアの蓄積により、OLEDの劣化が促進されるという問題がある。加えて、良好なホールブロッキング物質は電気化学的に不安定であることが多い。例えば、ホールブロッキング物質として広く知られた、バトクプロイン(BCP)、バトフェナントロリン(BPhen)及び2,2’,2”−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール](TPBI)(非特許文献4参照)の使用において当てはまる。
【0006】
特許文献1において、以下に示すように、両極発光層(EML)EML1及びEML2が、有機燐光発光ダイオード(陽極=ITO/ホール輸送層(HTL)1=MeO−TPDでドープしたF4−TCNQ/HTL2=スピロ−TAD/EML1=TCTA:Ir(ppy)/EML2=BPhen:Ir(ppy)/電子輸送層(ETL)ETL2=BPhen/ETL1=CsドープしたBPhen/陰極=Al)用の積層体に使用されている。EML2からEML1への電子注入障壁は、この場合、約0.5eVである。
【0007】
また、有機燐光発光ダイオードについても開示されている(特許文献2参照)。この公知の発光ダイオードでは、発光領域は同じ三重項エミッタドーパントでそれぞれドープされた、ホール輸送/電子輸送体と共に2つの発光層を有している。
〔特許文献1〕国際公開第03/100880号パンフレット
〔特許文献2〕国際公開第02/071813号パンフレット
〔非特許文献1〕Baldo et al. Appl. Phys. Lett., 75 (1), 4-6 (1999)
〔非特許文献2〕Ikai et al. (Appl. Phys. Lett., 79 (2), 156-158 (2001)
〔非特許文献3〕Adachi et al. (Appl. Phys., 90 (10), 5048-5051 (2001)
〔非特許文献4〕Kwong et al., Appl. Phys. Lett., 81, 162 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記公知の成分では、ホール輸送物質と電子輸送物質との間のエネルギー障壁が高いため、発光領域において、電荷キャリアによる励起子のクエンチ(三重項−ポーラロンクテンチング)の確率を高くする、電荷キャリアの蓄積が生じるという問題に悩まされる。加えて、励起子の生成は、上記成分における、ホール輸送部分と電子輸送部分との間の界面で起こる。これは、上記領域において局在化した三重項励起子の密度(local triplet exciton density)が高くなり、三重項−三重項消滅(triplet-triplet annihilation)の確率が高くなることによる。上記三重項−ポーラロンクエンチング、及び三重項−三重項消滅は、比較的高い電流密度における量子効率の低下を導く。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、発光特性(特に、高輝度の燐光の量子効率、及び寿命)が改善された、発光成分用積層体(特に、有機燐光発光ダイオード)を提供することである。
【0010】
上記目的は、独立請求項1に係る発光成分用積層体の発明により達成される。
【0011】
上記発明は、少なくとも2つの両極性(アンバイポーラ)層(1つは、優先的に電子を輸送し、もう1つは優先的にホールを輸送する)を、発光帯としても呼ばれる、上記積層体の発光領域に配置するというアイデアを基礎としている。
【0012】
層中のある種類の電荷キャリア(即ち、電子若しくはホール)の電荷キャリア移動度が、もう一方の種類の電荷キャリアの電荷キャリア移動度よりも大きい場合、及び/又は上記種類の電荷キャリアの注入障壁がもう一方の種類の電荷キャリアの注入障壁よりも低い場合には、上記種類の電荷キャリアの優先的な輸送が発光成分の層の中で起こる。
【0013】
ヘテロ遷移は、ねじれへテロ遷移(staggered heterotransition)、または、物質(M1)のHOMO(highest occupied orbital)及びLUMO(lowest unoccupied orbital)の両方が、物質(M2)の場合よりも、真空準位に近いことを意味する、優先的にホールを輸送する物質(M1)のイオン化エネルギー及び電子親和性の両方が電子を優先的に輸送するもう1つの物質(M2)よりも低い場合における、有機物質(M1)ともう1つの有機物質(M2)との間のねじれタイプII(staggered type II)のへテロ遷移と呼ばれる。これは、物質(M1)から他方の物質(M2)への電子注入のエネルギー障壁と、物質(M2)から他方の物質(M1)への電子注入のエネルギー障壁となる。
【0014】
有機物質ベースの層における電子移動度とホール移動度との差が2桁未満であり、当該層の有機物質は、有機物質のラジカルアニオン及びラジカルカチオンの電気化学的安定性に基づいて、可逆的に還元及び酸化可能であるので、当該有機物質ベースの層は、本願の目的を達成するため、両極層とされる。
【0015】
上記両極特性は、ホール注入を可能とするため、通常のホール輸送物質のホール輸送準位より低い約0.4eV以下、好ましくは約0.3eV以下であるホール輸送準位(HOMO)によって、より顕著とすることができる。通常のホール輸送物質としては、例えば、N,N’−ジ(ナフタレン−2−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)が挙げられる。基準物質NPDのHOMOエネルギーは、真空準位より低い、約5.5eVから約5.7eVであることが報告されている。
【0016】
これらに加えて、若しくはHOMOエネルギーを含む先に述べた特性の替わりとして、上記両極特性は、Alqのような通常の電子輸送物質の電子輸送準位よりも高い約0.4eV以下、好ましくは約0.3eV以下である、両極層の有機物質の電子輸送準位によって実現される。上記判断基準は、当業者に知られているLUMOエネルギーの評価方法により確認することができる。具体的には、
(a)イオン化エネルギー(IP)(例えば、光電子分光計による方法)、及び光吸収端Eoptの測定、並びにIP−Eoptとしての真空におけるLUMOエネルギーの評価。Alqの場合、LUMOエネルギーは、真空準位より低い約2.9eVから約3.1eVとなる。
(b)第一還元電位の電気化学的測定。ここで、Alqの電位はフェロセン/フェロセン比較で−2.3Vであり、これは約3.5eVの電子親和性に対応する。
(c)Alqの場合における、両極層で用いられる有機物質のLUMOエネルギー準位の上記界面を横切るAlqへの電子移動障壁の試験による評価
、を含んでいる。
【0017】
両極特性を有する有機層は、例えば以下のようにして得られる。
(i)単極有機マトリックス物質を、補完的な輸送特性を有するエミッタ物質と共に用いる。例えば、マトリックス物質が電子輸送性である場合、エミッタ物質はホール輸送性であり、その逆もまた同様である。本実施形態では、ホール移動度と電子移動度との比率は、エミッタ物質のドーパント濃度により設定することができる。単極ホール輸送性マトリックス物質からなるマトリックスは、「ホール・オンリー」マトリックと呼ばれ、「エレクトロン・オンリー」マトリックスは、単極電子輸送性マトリックス物質からなるマトリックスである。
(ii)両極マトリックス物質を用いることができる。
(iii)更なる実施形態では、2つのマトリックス物質(1つのマトリックス物質はホール輸送性、もう1つのマトリックス物質は電子輸送性)とエミッタ物質との混合物を用いる。ホール移動度と電子移動度との比率は、上記混合比によって設定することができる。分子混合比は、1:10から10:1の範囲内である。
【0018】
従来技術と比べて上記発明の有利な点は、電子注入とホール注入との要求されるバランスを自己調和する特性を、発光領域における複数の層からなる積層体が有することである。界面における電荷キャリアの蓄積は、隣接部若しくはブロッキング層への輸送の両方に対して回避される。このことは、特に、公知の発光成分(Adachi et al. (Appl. Phys., 90 (10), 5048-5051 (2001)))と比べて有利である。また、発光領域における層間の内部界面においても、特に、従来技術(国際公開第02/071813号パンフレット)と比べて有利となる。高度に局在化した電荷キャリア密度による劣化工程、並びに電荷キャリアと励起子との間及び励起子間の効率低下クエンチング工程のどちらについても、この手段により最小限に抑制される。
【0019】
特許文献1(国際公開第03/100880号パンフレット)に記載されているように、発光領域は、2以上の発光層を含ませることが可能である。尚、この特許文献1の内容は、参考のため本特許出願に組み込まれるものとする。
【0020】
複数の発光層における上記三重項エミッタドーパントは、同一のものであってもよいし、異ならせることもできる。
【0021】
電荷キャリア輸送層及び/又はホール若しくは電子ブロッキング層は、発光層が積層体の発光領域における接点(陽極、陰極)若しくは(ドープした)電荷キャリア輸送層と直接隣接するように、電子側及び/又はホール側で省略することができる。これらのことは、他の励起子が金属コンタクトにおいて、若しくはドーパントと共に接点上でクエンチされるため、又は電荷キャリアがOLEDを経て横に流れ、他の接点若しくはドープした輸送層において発光放射することなく再結合するため、発光帯における層システムの自己調和特性により可能となる。
【0022】
〔実施例〕
図面を参照しながら、実施例を挙げて以下に本発明を説明する。尚、実施例の記載において、以下の略称を用いる。
HTL:ホール輸送層
ETL:電子輸送層
EML:発光領域における層
EBL:電子ブロッキング層
HBL:ホールブロッキング層
【0023】
〔実施例1〕
第一の実施例では発光成分として、以下の積層体を準備する。
陽極=ITO/
HTL1=層の厚さが約30nm〜500nm(好ましくは約50nm〜200nm)である、0.1mol%〜10mol%の混合比でF4−TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)によりドープしたN,N,N’,N’−テトラキス(4−メトキシフェニル)ベンジジン(MeO−TPD)/
HTL2=層の厚さが約1nm〜30nm(好ましくは3nm〜15nm、HTL2は好ましくはHTL1より薄い)である、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン(スピロ−TAD)/
EML1=層の厚さが約2nm〜約30nm(好ましくは約3nm〜約15nm)であり、Ir(ppy)の濃度が約1mol%〜約50mol%(好ましくは約3mol%〜約30mol%)である、TCTA:Ir(ppy)
EML2=層の厚さが約2nm〜約30nm(好ましくは約3nm〜約15nm)であり、Ir(ppy)の濃度が約1mol%〜約50mol%(好ましくは約3mol%〜約30mol%)である、TPBI:Ir(ppy)
ETL2=層の厚さが約1nm〜30nm(好ましくは3nm〜15nm、ETL2は好ましくはETL1より薄い)である、ビス(2−メチル−8−キノリノレート)−4−(フェニルフェノレート)アルミニウム(III)(BAlq)(同等の特性は、ETL2としてBAlqの替わりにBPhenを用いることにより得られる)
ETL1=層の厚さが約30nm〜約500nm(好ましくは約50nm〜約200nm)であり、Csの濃度が約1mol%から1:1のモル比でドープした、BPhen:Cs/
陰極=Al
【0024】
EML1での電子輸送は、例えば、46%/46%/8%の混合比でTCTA、TPBI及びIr(ppy)の3つの成分の混合物から得られる層により任意に補助することができる。EML2からEML1への電子注入障壁は、この場合、約0.3eV未満である。EML1からEML2へのホール注入障壁は、EML1及びEML2でのホール輸送が、Ir(ppy)へのホッピングとして起こるため約0eVである。即ち、EML2におけるTCTA状態からIr(ppy)状態へとホールが進む場合、EML2からEML1への電子注入障壁は負となり得る。F4−TCNQのようなアクセプター、Csのようなドナー、並びにエミッタドーパント(即ち、本実施例におけるIr(ppy))のような酸化還元ドーパントの組み込みは、例えば、減圧下で2つの独立した制御可能な熱昇華源から混合気化させる手段、又は連続的な物質の塗布のような他の適切な方法による手段によって実行される。連続的な物質の塗布は、例えば、特定の温度−時間図(profile)により適切に支援する場合には、減圧下での気化、及びその後のお互いへの拡散により実行することができる。
【0025】
第一の実施例における、EML2の両極性は、電子輸送物質TPBI及びBPhenにおけるIr(ppy)のホール輸送性により達成される。ホール輸送を援助するため、少量のTCTAを、EML2へ任意に混合することができるが、EML2中のTCTA濃度は常にEML1の濃度より低くするべきである。
【0026】
〔実施例2〕
第2の実施例では、ETL2をAlqとしたこと以外は上述した実施例1と同様構造である。つまり、陽極=ITO/HTL1=F4−TCNQドープしたMeO−TPD/HTL2=スピロ−TAD/EML1=TCTA:Ir(ppy)/EML2=TPBI:Ir(ppy)/ETL2=Alq/ETL1=ドープしたBPhen:Cs/陰極=Alである。
【0027】
本実施例では、必要に応じて、ホール及び/又は電子ブロッキング層を完全に無くすことを可能とする、上記構造の自己調和の特徴を実証する。Alqはホールブロッキング作用は有していないが、BCPのような典型的なホールブロッキング物質よりも安定である。本実施例では、AlqはBPhen:CsからEML2への電子注入を援助する。
【0028】
〔実施例3〕
第3の実施例では、電子ブロッキング層もホールブロッキング層もどちらも設けられていない、シンプルな構造であるが、本件では、ブロッキング層の1つのみを省略することも可能である。
陽極=ITO/HTL1=F4−TCNQドープしたMeO−TPD/EML1=TCTA:Ir(ppy)/EML2=TPBI;Ir(ppy)/ETL1=ドープしたBPhen:Cs/陰極=Al
【0029】
〔実施例4〕
改良した実施例3から構成される本実施例では、以下の構造を有する。
陽極=ITO/HTL1=F4−TCNQドープしたMeO−TPD/HTL2=スピロ−TAD/EML1=TCTA:Ir(ppy)/EML2=TPBI:Ir(ppy)/ETL1=ドープしたBPhen:Cs/陰極=Al
【0030】
図3に、実施例4(三角形)及び実施例5(円)における輝度の関数とした電流効率の実験結果を示す。
【0031】
上記記載の実施例は、アクセプターがホール輸送層に取り込まれ、ドナーが電子輸送層に取り込まれた、p−i−n構造を有している。電子輸送層ETL1及びETL2におけるドナーを除いた場合、p−i−i構造が得られる。ホール輸送層HTL1及びHTL2におけるアクセプターを除いた場合、i−i−i構造が形成される。全ての構造は、発光帯におけるEML1及びEML2の上記構造と組み合わせることができる。
【0032】
〔実施例5〕
更なる実施例では、ホール注入コンタクトと、任意の1以上のホール注入及びホール輸送層と、発光領域と、任意の1以上の電子注入及び電子輸送層と、電子注入コンタクトとを含む積層体を含む発光成分を準備する。この場合、発光領域における少なくとも1つの層は、燐光エミッタドーパントとマトリックス物質との混合物から作製されており、上記マトリック物質は、二極性(バイポーラ)若しくは電子輸送構造及び二極性若しくはホール輸送構造から成る、共有結合したダイアドであり、当該ダイアド物質は独立したπ電子系を有する複数のサブユニットを含む。
【0033】
実施例5の上記発光成分は、HOMO波動関数が2つのサブユニットの1つに集中するように、上記ダイアドのサブユニットの1つが追加されるホールを優先的に利用することができ、且つLUMO波動関数がドナー−アクセプターダイアドに集中するように、上記ダイアドのサブユニットの他方が、追加される電子を優先的に利用することができるように、作り上げられていることが好ましい。
【0034】
両極性は通常、発生帯(generation zone)を広げ、両極性はもはや直ぐ隣の界面に排他的に集中していないため、発光領域におけるこのような輸送の両極性もまた改善される。非常にバランスの良い状態及びEMLの中心での優先的な発生を達成するため、電荷キャリア移動度が、物質において互いに無関係に設定される場合に、このことは特に当てはまる。サブユニットは電子輸送及びホール輸送について個別に最適化され得るため、補完的な輸送特性を有する2つの部分から作り上げられるドナー−アクセプターダイアド(DADs)の使用によりこれらは達成される。
【0035】
加えて、ダイアドの上記使用は、燐光OLEDsの効率に関して以下の有利な点を有する。OLEDsの原理上、低い作動電圧が望ましい。発光帯の上記輸送物質(マトリックス)における電荷キャリア対のエネルギーは、理想的には燐光ドーパントの三重項エネルギーよりもやや大きくすべきである。同時に、発光帯の上記輸送物質の最低三重項準位は、上記エミッタの他の三重項励起子がマトリックス物質によりクエンチされるため、エミッタドーパントの三重項準位よりも高いエネルギーでなければならない。これら2つの必要条件は、上記三重項エネルギーが一重項エネルギー(光学的エネルギーギャップ)若しくは交換相互作用による自由電荷キャリア対(電気的エネルギーギャップ)よりもかなり低い範囲において相反する。
【0036】
ここで、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの間の差は、HOMOとLUMOとの空間的重なりと相互に関連している。HOMOがLUMOよりも異なるサブユニットに制限されているダイアドにおける上記差は、無視できる程小さい。サブユニットのHOMOエネルギー間及びLUMOエネルギー間の差が十分に大きい場合、光学的及び電気的エネルギーギャップが互いに接近するように、DADの最低一重項励起状態は、分子フレンケル励起子よりも低い励起子結合エネルギーを有する電荷移動励起子である。互いに大きく重なっているHOMO及びLUMOを有する物質と比較して、DADを用いた場合では、全体として、上記マトリックスの電気的エネルギーギャップと燐光ドーパントの三重項エネルギーとの間の差をかなり減少させることができる。
【0037】
このようなDADは、図4に示すようなCBP及びTAZユニットから作り上げられるスピロ結合分子によって実現することができる。最低一重項及び三重項励起状態は上記2つの成分の値に対応し、上記電気的エネルギーギャップは、CBPのHOMO及びTAZのLUMOによって形成される。
【0038】
〔エネルギー準位図〕
少なくとも部分的には上述した実施例、及び更なる実施形態を含む各種実施形態のエネルギー準位図を、図5〜図12を参照して以下に記載する。
【0039】
図5では、(a)隣接するπ電子系を有する単一物質、(b)サブユニットのHOMO準位若しくはLUMO準位間の少なくとも1つのエネルギーの違いが小さいことにより(好ましくは約0.5eV未満)、最低一重項励起状態が、サブユニットの1つにおけるフレンケル励起子である、DADのサブユニットD(ドナーユニット)及びA(アクセプターユニット)、(c)サブユニットのHOMO準位若しくはLUMO準位間の少なくとも1つのエネルギーの違いが大きいことにより(好ましくは約0.4eVより大きく)、最低一重項励起状態が、サブユニットA上の電子及びサブユニットD上のホールから成る電荷移動励起子である、DADのサブユニットD(ドナーユニット)及びA(アクセプターユニット)、のエネルギー準位を概略的に示す。
【0040】
図5における(c)の実施例は、最低作動電圧を導く、エネルギー的に最適な状態を示す。しかしながら、エネルギー移動効率を改善するため、若しくは、重要な振電緩和プロセス(vibronic relaxation process)へと導く、電荷移動励起子のクエンチングプロセスを回避するため、図5における(b)に規定する、最低励起状態が上記サブユニットの1つにおけるフレンケル励起子である、エネルギー的により小さい最適な状態へと移ることは、エネルギーの違い(offset)の1つがフレンケル励起子の結合エネルギーよりも小さいため好都合である。空間的HOMO−LUMOの重なりが大きい単一物質と比較した、作動電圧に関する有利な点は、それでもなお維持される。つまり、一重項及び三重項励起間の差はここでは減少していないが、光学的及び電気的エネルギーギャップは互いにより接近する。
【0041】
単一粒子準位と励起状態のエネルギーとの間の混乱を避けるため、図5における電子/ホール準位は、E/Eにより表示する。LUMOの語は、上記文献における一様な方法では特に用いられないが、電子/ホール準位は、本質的にサブユニットのHOMO/LUMOエネルギーに相当する。また、上記励起エネルギーは、スピン多重度に依存し、S若しくはTにより表示される。CTは、サブユニットAにおける電極とサブユニットDにおけるホールとから形成され、大部分はスピン多重度から独立した電荷移動励起子のエネルギーを示す。図5における(b)及び(c)の場合、上記マトリックスは、より小さい、三重項エネルギーと同程度の電気的エネルギーギャップ(Egel)を有するため、燐光発光ダイオードはより低い作動電圧で動作させることができる。
【0042】
図6は、発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、二極性の単一成分物質と、「エレクトロン・オンリー」マトリックス及びホール輸送エミッタドーパントを含む、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【0043】
上側の線はLUMO準位(つまり、それぞれの電子輸送準位)を示す。下側の線はHOMO準位(つまり、ホール輸送準位)を示す。更には、フェルミ準位により記号で表された、陽極A及び陰極Kを示す。本実施例では、HTL1はpドープされ、HTL2はnドープされていると仮定する。図6における発光層EML1及びEML2において破線として示されるエネルギー準位は、エミッタドーパントの準位を示す。矢印60、61は、電荷キャリア移動が起こるエネルギー準位を示している。矢印62、63は物質系の優先する輸送形式を示す。上記EMLにおけるHOMOエネルギーとLUMOエネルギーとのエネルギー的配置は重要であり、HTL2とEML1との間のHOMOオフセット、並びにETL2とEML2との間のLUMOオフセットがあまり大きくないことも重要である。このオフセットは、好ましくは約0.5eV未満であり、より好ましくは約0.3eV未満である。
【0044】
図7では、発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、ホール輸送物質と電子輸送物質と三重項エミッタドーパントとの混合物と、「エレクトロン・オンリー」マトリックスを含む、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含み、ドーパント状態間のホッピングによりホール輸送が起こり得る実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。破線は、エミッタドーパントのエネルギー準位を示す。鎖線(stroke-dot line)はEML1における電子輸送成分のエネルギーを示す。そして、EML1における実線は、ホール輸送成分のエネルギー準位を示す。
【0045】
図8では、発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、ドーパント状態間のホッピングにより電子輸送が生じる「ホール・オンリー」マトリックスと、両極性の単一成分物質を含む、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【0046】
図9では、発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、ドーパント状態間のホッピングにより電子輸送が生じる「ホール・オンリー」マトリックスと、ホール輸送物質と電子輸送物質と三重項エミッタドーパントとの混合物を含む、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。破線は、前と同様に、三重項エミッタドーパントのエネルギー準位を示す。図9の鎖線(stroke-dot line)はEML2における電子輸送成分のエネルギーを示す。そして、EML2における実線は、ホール輸送成分のエネルギー準位を示す。
【0047】
図10では、発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)及び発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)が、単一成分、両極物質若しくはホール輸送物質と電子輸送物質と三重項エミッタドーパントとの混合物からそれぞれ成る実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。輸送における重要な、EML1層及びEML2層における輸送物質の唯一のエネルギー準位を示し、混合物質の場合における非関与型(nonparticipating energy level)エネルギー準位は示していない。
【0048】
図11では、発光帯における層EML1、EML2における両物質(M1)及び(M2)でのホール輸送が、三重項エミッタドーパントの状態間でのホッピングにより起こる実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。このホール輸送では、物質(M1)におけるマトリックス物質のHOMO準位が他の物質(M2)よりも三重項エミッタドーパントのHOMO準位へ接近することにより、EML1の物質(M1)における三重項ドーパント間のホッピングに対するトンネリング障壁がEML2における他の物質(M2)のドーパント間のホッピングに対するトンネリング障壁よりも小さくなり、物質(M1)における実効ホール移動度が、他の物質(M2)における実効ホール移動度と比べて大きくなる。
【0049】
輸送にとって重要である、層EML1及びEML2における上記輸送物質の唯一のエネルギー準位を示し、混合物質の場合における非関与型エネルギー準位(nonparticipating energy level)は示していない。ここでは上記エネルギー準位は、輸送が層EML1の三重項エミッタドーパント間のホッピングによるものと仮定しており、図6に対応する実施例のエネルギー準位と同様に配置される。輸送が三重項エミッタドーパント間のホッピングにより起こるか、トラップとしてのドーパントと上記マトリックスとにおける輸送として起こるかどうかは、上記ドーパント濃度とトラップの深さに依存する。上記トラップの深さは、マトリックスのHOMOエネルギー準位と三重項エミッタドーパントのHOMOエネルギー準位との間のエネルギー差である。
【0050】
図12では、層EML1の物質(M1)における電子輸送が発光帯で起こり、発光帯における層EML2の他の物質(M2)の電子輸送は、三重項エミッタドーパントの状態間でのホッピングにより起こる実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。この場合、他の物質(M2)のマトリックス物質のLUMO準位は、物質(M1)よりも上記三重項エミッタドーパントのLUMO準位に近づき、他の物質(M2)における三重項エミッタドーパント間の電子のホッピングのトンネリング障壁は、物質(M1)におけるドーパント間のホッピングのトンネリング障壁よりも小さくなり、他の物質(M2)における実効電子移動度は、物質(M1)における実効電子移動度よりも大きくなる。
【0051】
輸送において重要な、層EML1及びEML2中の輸送物質における唯一のエネルギー準位を図12に示し、混合物質の場合における非関与型エネルギー準位(nonparticipating energy level)は示していない。
【0052】
上記エネルギー準位は、ドーパント間の直接ホッピングにより層EML2における電子輸送が生じていることが図9とは異なっており、図9の実施例と同様に配置される。
【0053】
〔物質の更なる例〕
記載した各種実施形態に用いることができる物質の更なる例を以下に示す。
【0054】
記載した実施例において、発光帯におけるホール輸送マトリックス物質として以下の物質を優先的に若しくは排他的に使用することができる。
(1)トリアリルアミンユニットを含む分子、特にTPD、NPD若しくはこれらスピロ結合ダイアドの誘導体(スピロ結合は、例えば、US5840217に記載されている);m−MTDATA、TNATA等のTDATAの誘導体;TDAB(Y.Shirota, J.Mater.Chem., 10(1), 1-25(2000)参照)の誘導体
【0055】
【化1】

スターバースト=TDAB
1,3,5−トリス(ジフェニルアミノ)ベンゼン
【0056】
更なる芳香族アミンは、US2002/098379及びUS6406804の文献に記載されている。
(2)チオフェンユニットを含む分子
(3)フェニレン−ビニレンユニットを含む分子
発光帯における層EMLの電子輸送マトリックス物質として、以下の物質を優先的に若しくは排他的に使用することができる。
(1)オキサジアゾール類
【0057】
【化2】

【0058】
(2)トリアゾール類
【0059】
【化3】

【0060】
(3)ベンゾチアジアゾール類
【0061】
【化4】

【0062】
(4)ベンズイミダゾール類
【0063】
【化5】

【0064】
特に、TPBIのようなN−アリルベンズイミダゾール類
【0065】
【化6】

【0066】
(5)ビピリジン類
【0067】
【化7】

【0068】
(6)シアノビニル基を有する分子(K.Naito, M.Sakurai, S.Egusa, J.Phys.Chem.A, 101, 2350(1997)参照)、特に、7−若しくは8−シアノ−パラ−フェニレン−ビニレン誘導体
【0069】
【化8】

【0070】
(7)キノリン類
【0071】
【化9】

【0072】
(8)キノキサリン類(M.Redecker, D.D.C.Brandley, M.Jandke, P.Strohriegl, Appl.Phys.Lett., 75(1), 109-111(1999)参照)
【0073】
【化10】

【0074】
(9)トリアリルボリル誘導体(Y.Shirota, J.Mater.Chem., 10(1), 1-25(2000)参照)
【0075】
【化11】

【0076】
(10)シロール誘導体、特に2,5−ビス(2(’),2(’)ビピリジン−6−イル)−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシラシクロペンタジエン
【0077】
【化12】

【0078】
若しくは、1,2−ビス(1−メチルー2,3,4,5−テトラフェニルシラシクロペンタジエニル)エタン(H.Murata, Z.H.Kafafi, M.Uchida, Appl.Phys.Lett., 80(2), 189-191(2002)参照)
【0079】
【化13】

【0080】
のようなシラシクロペンタジエン
(11)シクロオクタテトラエン類(P.Lu, H.P.Hong, G.P.Cai, P.Djurovich, W.P.Weber, M.E.Thompson, J.Amer.Chem.Soc., 122(31), 7480-7486(2000)参照)
【0081】
【化14】

【0082】
(12)キノイダルチオフェン誘導体を含むキノイド構造
(13)ピラゾリン類(Z.M.Zhang, R.F.Zhang, F.Wu, Y.G.Ma, G.W.Li, W.J.Tian, J.C.Shen, Chin.Phys.Lett., 17(6), 454-456(2000)参照)
【0083】
【化15】

【0084】
(14)ヘテロ原子として少なくとも1つの窒素原子若しくは酸素原子有する、他の複素環式化合物
(15)ケトン類
(16)シクロペンタジエニルをベースとしたフリーラジカル電子輸送体、特にペンタアリルシクロペンタジエン誘導体(US5811833参照)
【0085】
【化16】

【0086】
(17)ベンゾチアジアゾール類(R. Pacios, D.D.C.Bradley, Synth.Met., 127(1-3), 261-265(2002)参照)
【0087】
【化17】

【0088】
(18)ナフタレンジカルボン酸無水物類
【0089】
【化18】

【0090】
(19)ナフタレンジカルボキシミド類
【0091】
【化19】

【0092】
及びナフタレンジカルボキシミダゾール類
【0093】
【化20】

【0094】
(20)ペルフルオロ化オリゴ−パラ−フェニル類(A.J.Campbell, D.D.C.Bradley, H.Antoniadis, Appl.Phys.Lett., 79(14), 2133-2135(2001)参照)
【0095】
【化21】

【0096】
更なる、電子輸送を促進する構造ユニットの有力な候補は、US20002/098379に記載されている。
【0097】
発光成分の更なる実施形態における、上記二極性の単一成分物質は、以下の物質の種類の1つに属する。
(1)独立したπ電子系を含む基礎構造を有し、二極性若しくは電子輸送構造及び二極性若しくはホール輸送構造から構成される共有結合したダイアド
このような構造は、例えば、ドナーユニットとアクセプターユニットとのスピロ結合(例えば、DE4446818A1、R.Pudzich, J.Salbeck, Synthet.Metal., 138, 21(2003)、及びT.P.I.Saragi, R.Pudzich, T.Fuhrmann, J.Salbeck, Appl.Phys.Lett., 84, 2334(2004)参照)として実現されている。Pudzich及びSalbeckの上記研究の関心の的は、電荷キャリア移動、1分子内での効率的な発光、並びに光に敏感なトランジスタの実現の組み合わせである。電気的バンドギャップと最低三重項準位との間の好ましい関係の結果である、燐光エミッタドーパントのマトリックスとしてこのような化合物の、見込まれる特に有利な使用については、著者により言及されていない。
【0098】
電子伝導及びホール伝導構造を含むダイアドもまた、US6406804で言及されている。この特許によれば、蛍光エミッタ分子のマトリックとして利用することを意図している。
(2)一般的なπ電子系の適切な構造要素として、追加されるホールを優先的に利用し、その結果、HOMO波動関数が集中する第一のサブユニットと、追加される電子を優先的に利用し、その結果、LUMO波動関数が集中する第2のサブユニットとを含む分子(例えば、Y. Shirota, M. Kinoshita, T. Noda, K. Okumoto, T. Ohara, J. Amer. Chem. Soc., 122 (44), 11021-11022 (2000)若しくはR. Pudzich, J. Salbeck, Synthet. Metal., 138, 21 (2003)参照)
(3)プッシュ−プル置換分子(適切な電子プリング及び電子プッシング置換基として、追加されるホールを優先的に利用し、その結果、HOMO波動関数が集中するサブユニットと、追加される電子を優先的に利用し、その結果、LUMO波動関数が集中するその他のサブユニットとを有する分子)
(4)カルバゾールユニット、特にCBP
【0099】
【化22】

【0100】
を含む分子
(5)フルオレンユニット
【0101】
【化23】

【0102】
を含む分子(A.J. Campbell, D.D.C. Bradley, H. Antoniadis, Appl. Phys. Lett., 79 (14), 2133-2135 (2001)参照)
(6)ポルフィリン若しくはフタロシアニンユニットを含む分子(A. Ioannidis, J.P. Dodelet, J. Phys. Chem. B, 101 (26), 5100-5107 (1997)参照)
(7)パラ位で結合した、3以上のフェニルユニットを有するパラ−オリゴフェニルユニットを含む分子
【0103】
【化24】

【0104】
(8)アントラセン、テトラセン若しくはペンタセンユニットを含む分子
【0105】
【化25】

【0106】
(9)ペリレンを含む分子
【0107】
【化26】

【0108】
(10)ピレンを含む分子
【0109】
【化27】

【0110】
上述した明細書並びに請求項に記載した本発明の特徴は、これら各種実施形態を単独で、若しくは組み合わせて本発明を実施することにおいて重要となる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】第一の実施形態における発光成分の輝度の関数とした電流効率及び出力効率のグラフを示す。
【図2】第二の実施形態における発光成分の輝度の関数とした出力効率のグラフを示す。
【図3】第四の実施形態における発光成分の輝度の関数とした出力効率のグラフを示す。
【図4】CBPのスピロ結合分子とTAZユニット(このような分子は、DAD(ドナー−アクセプターダイアド)として上記言及された)とから作り上げられたダイアド(二分子)を示す。
【図5】(a)隣接するπ電子系を有する単一物質、(b)サブユニットのHOMO準位若しくはLUMO準位間の少なくとも1つのエネルギーの違いが小さいことにより、最低一重項励起状態が、サブユニットの1つにおけるフレンケル励起子である、DADのサブユニットD(ドナーユニット)及びA(アクセプターユニット)、(c)サブユニットのHOMO準位若しくはLUMO準位間の少なくとも1つのエネルギーの違いが大きいことにより、最低一重項励起状態が、サブユニットA上の電子及びサブユニットD上のホールから成る電荷移動励起子である、DADのサブユニットD及びA、のエネルギー準位を概略的に示す。
【図6】発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、二極性の単一成分物質と、「エレクトロン・オンリー」マトリックス及びホール輸送エミッタドーパントから成る、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。尚、破線はエミッタドーパントのエネルギー準位を表す。
【図7】発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、ホール輸送物質と電子輸送物質と三重項エミッタドーパントとの混合物と、「エレクトロン・オンリー」マトリックスから成る、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【図8】発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、ドーパント状態間のホッピングにより電子輸送が生じる「ホール・オンリー」マトリックスと、両極及び単一成分物質から成る、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【図9】発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)が、ドーパント状態間のホッピングにより電子輸送が生じる「ホール・オンリー」マトリックスと、ホール輸送物質、電子輸送物質及び三重項エミッタドーパントの混合物を含む、発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)とを含む実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【図10】発光帯における層の1つであるEML1の物質(M1)及び発光帯における他の層EML2の他の物質(M2)が、単一成分、両極物質若しくはホール輸送物質と電子輸送物質と三重項エミッタドーパントとの混合物からそれぞれ成る実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【図11】発光帯における層EML1の物質(M1)及び発光帯における層EML2の他の物質(M2)におけるホール輸送が、三重項エミッタドーパント(M2と比較してより大きいM1のホール移動度は、ここではマトリックスのホール輸送準位へのエネルギー項(energy term)における距離がより小さいことに起因しており、M1のドーパント状態間のトンネル現象は起こり易くなる)の状態間でのホッピングにより起こる実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。
【図12】発光帯における層EML1の物質(M1)及び発光帯における層EML2の他の物質(M2)における電子輸送が、三重項エミッタドーパント(M1と比較してより大きいM2の電子移動度は、ここではマトリックスの電子輸送準位へのエネルギー項(energy term)における距離がより小さいことに起因しており、M2のドーパント状態間のトンネル現象は起こり易くなる)の状態間でのホッピングにより起こる実施例のエネルギー準位図を概略的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いが発光領域に接続した、ホール注入コンタクト及び電子注入コンタクトを有する燐光有機発光ダイオードであり、
上記発光領域では、1つの発光層が物質(M1)から作製され、他の発光層は物質(M2)から作製され、
物質(M1)は両極性であり、且つホールを優先的に輸送し、
物質(M2)は両極性であり、且つ電子を優先的に輸送し、
上記発光領域における物質(M1)と物質(M2)とからへテロ遷移を形成し、
物質(M1)と物質(M2)との間の界面は、ねじれタイプII(staggered type II)によるものであり、
物質(M1)及び物質(M2)は、それぞれ1以上の三重項エミッタドーパントが添加されており、
物質(M1)から物質(M2)へのホール輸送のエネルギー障壁、及び物質(M2)から物質(M1)への電子輸送のエネルギー障壁が、それぞれ約0.4eV未満である発光成分用積層体。
【請求項2】
物質(M1)から物質(M2)へのホール輸送の上記エネルギー障壁、及び/又は物質(M2)から物質(M1)への電子輸送のエネルギー障壁が、それぞれ約0.3eV未満であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記物質(M1)は両極性の単一成分物質を含み、
上記物質(M2)は、三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングによりホール輸送が生じるエレクトロン−オンリーマトリックスを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
上記物質(M1)は、優先的にホール輸送する物質と優先的に電子輸送する物質と三重項エミッタドーパントとの混合物を含み、
上記物質(M2)は、三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングによりホール輸送が生じるエレクトロン−オンリーマトリックスを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
上記物質(M1)は、三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングにより電子輸送が生じるホール−オンリーマトリックスを含み、
上記物質(M2)は、両極性の単一成分物質を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
上記物質(M1)は、三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングにより電子輸送が生じるホール−オンリーマトリックスを含み、
上記物質(M2)は、優先的にホール輸送する物質と優先的に電子輸送する物質と三重項エミッタドーパントとの混合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
上記物質(M1)及び物質(M2)は、単一成分、両極性物質、又は優先的にホール輸送する物質と優先的に電子輸送する物質とを含む混合物からそれぞれ作製されることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
上記物質(M1)から作製される発光層と上記物質(M2)から作製される他の発光層とは、優先的にホール輸送する物質と優先的に電子輸送する物質と三重項エミッタドーパントとからなる同じ混合物をそれぞれ含み、
上記混合物の混合比を変化させることにより、一方の上記発光層は優先的にホールを輸送し、他の上記発光層は優先的に電子を輸送するように作製されることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
上記混合比のグラジエント法により、発光領域における優先的にホール輸送する性質と、優先的に電子輸送する性質との間のスムーズな移行が行われることを特徴とする請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
物質(M1)中の三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングのトンネリング障壁が、物質(M2)中の三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングのトンネリング障壁よりも小さくなり、物質(M1)のホール移動度が物質(M2)のホール移動度よりも大きくなるように、
物質(M1)及び物質(M2)におけるホール輸送が、物質(M2)中よりも物質(M1)中の三重項エミッタドーパントのHOMO準位に近づく、マトリックス物質のHOMO準位と共に、三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングとして起こることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項11】
物質(M2)中の三重項エミッタドーパントの状態間の電子のホッピングのトンネリング障壁が、物質(M1)中の三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングのトンネリング障壁よりも小さくなり、物質(M2)の電子移動度が物質(M1)の電子移動度よりも大きくなるように、
物質(M1)及び物質(M2)における電子輸送が、物質(M1)中よりも物質(M2)中の三重項エミッタドーパントのLUMO準位に近づく、マトリックス物質のLUMO準位と共に、三重項エミッタドーパントの状態間のホッピングとして起こることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項12】
物質(M1)及び/又は物質(M2)におけるマトリックス物質は、両極性若しくは電子輸送性の構造と両極性若しくはホール輸送性の構造とを含む、共有結合したダイアドであり、
上記ダイアドは、個別のπ電子系を有するサブユニットを有することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の積層体。
【請求項13】
上記ダイアドのサブユニットの1つは、HOMO波動関数が当該サブユニットに集中するように、追加されるホールを優先的に利用することができ、
上記ダイアドの他のサブユニットは、LUMO波動関数が当該他のサブユニットに集中するように、追加される電子を優先的に利用することができ、
上記ダイアドは、ドナーアクセプターダイアドを形成することを特徴とする請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
上記サブユニットのHOMO準位間若しくはLUMO準位間のエネルギー差(offset)の少なくとも1つは、サブユニットの1つの最低一重項励起状態がフレンケル励起子となるように、好ましくは約0.5eV未満と小さいことを特徴とする請求項12又は13に記載の積層体。
【請求項15】
上記サブユニットのHOMO準位間及びLUMO準位間の両方のエネルギー差(offset)は、上記サブユニットの最低一重項励起状態がアクセプターサブユニットの電子及びドナーサブユニットのホールからなる電荷移動励起子となるように、好ましくは約0.4eVより大きいことを特徴とする請求項12又は13に記載の積層体。
【請求項16】
追加されるホールを優先的に利用する1つのサブユニットが、以下の物質分類における1以上の物質を含むことを特徴とする請求項13に記載の積層体。
・TPD、NPD、及びこれらのスピロ結合ダイアドの誘導体、m−MTDATA、TNATA等のTDATAの誘導体、若しくはTDABの誘導体等のトリアリルアミンユニットを含む分子;
・チオフェンユニットを含む分子;及び/又は
・フェニレン−ビニレンユニットを含む分子
【請求項17】
追加される電子を優先的に利用する上記他のサブユニットが、以下の物質分類における1以上の物質を含むことを特徴とする請求項13に記載の積層体。
・オキサジアゾール類;
・トリアゾール類;
・ベンゾチアジアゾール類;
・TPBIのようなN−アリルベンジミダゾール等のベンジミダゾール類;
・ビピリジン類;
・7−若しくは8−シアノ−パラ−フェニレン−ビニレン誘導体等のシアノビニル基を有する分子;
・キノリン類;
・キノキサリン類;
・トリアリルボリル誘導体;
・2,5−ビス(2(’),2(’)ビピリジン−6−イル)−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシラシクロペンタジエン、若しくは、1,2−ビス(1−メチルー2,3,4,5−テトラフェニルシラシクロペンタジエニル)エタン等のシラシクロペンタジエンの誘導体のようなシロール誘導体;
・シクロオクタテトラエン類;
・キノイド構造;
・ピラゾリン類;
・ケトン類;
・ペンタアリルシクロペンタジエン誘導体等のシクロペンタジエニルをベースとしたフリーラジカル電子輸送体;
・ベンゾチアジアゾール類;
・ナフタレンジカルボン酸無水物類、ナフタレンジカルボキシミド類、及びナフタレンジカルボキシミダゾール類;
・ペルフルオロ化オリゴ−パラ−フェニル類;
・K. Naito, M. Sakurai, S. Egusa, J. Phys. Chem. A, 101, 2350 (1997)における物質;及び
・L.S. Hung, C.H. Chen, Mater. Sci. Engineering Reports, 39, 143-222 (2002) における物質
【請求項18】
ダイアドの上記サブユニットは、スピロ化合物により結合していることを特徴とする請求項12〜17の何れか1項に記載の積層体。
【請求項19】
p−i−n構造が形成されていることを特徴とする請求項1〜18の何れか1項に記載の積層体。
【請求項20】
p−i−i構造が形成されていることを特徴とする請求項1〜18の何れか1項に記載の積層体。
【請求項21】
i−i−n構造が形成されていることを特徴とする請求項1〜18の何れか1項に記載の積層体。
【請求項22】
優先的にホール輸送する物質と優先的に電子輸送する物質と三重項エミッタドーパントとの上記混合物は、優先的にホール輸送する成分として、以下の物質分類における1以上の物質を含むことを特徴とする請求項4,6及び7の何れか1項に記載の積層体。
・TPD、NPD、及びこれらのスピロ結合ダイアドの誘導体、m−MTDATA、TNATA等のTDATAの誘導体、若しくはTDABの誘導体等のトリアリルアミンユニットを含む分子;
・チオフェンユニットを含む分子;及び/又は
・フェニレン−ビニレンユニットを含む分子
【請求項23】
優先的にホール輸送する物質と優先的に電子輸送する物質と三重項エミッタドーパントとの上記混合物は、優先的に電子輸送する成分として、以下の物質分類における1以上の物質を含むことを特徴とする請求項4,6及び7の何れか1項に記載の積層体。
・オキサジアゾール類;
・トリアゾール類;
・ベンゾチアジアゾール類;
・TPBIのようなN−アリルベンジミダゾール等のベンジミダゾール類;
・ビピリジン類;
・7−若しくは8−シアノ−パラ−フェニレン−ビニレン誘導体等のシアノビニル基を有する分子;
・キノリン類;
・キノキサリン類;
・トリアリルボリル誘導体;
・2,5−ビス(2(’),2(’)ビピリジン−6−イル)−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシラシクロペンタジエン、若しくは、1,2−ビス(1−メチル−2,3,4,5−テトラフェニルシラシクロペンタジエニル)エタン等のシラシクロペンタジエンの誘導体のようなシロール誘導体;
・シクロオクタテトラエン類;
・キノイド構造;
・ピラゾリン類;
・ケトン類;
・ペンタアリルシクロペンタジエン誘導体等のシクロペンタジエニルをベースとしたフリーラジカル電子輸送体;
・ベンゾチアジアゾール類;
・ナフタレンジカルボン酸無水物類、ナフタレンジカルボキシミド類、及びナフタレンジカルボキシミダゾール類;
・ペルフルオロ化オリゴ−パラ−フェニル類;
・K. Naito, M. Sakurai, S. Egusa, J. Phys. Chem. A, 101, 2350 (1997)における物質;及び
・L.S. Hung, C.H. Chen, Mater. Sci. Engineering Reports, 39, 143-222 (2002) における物質
【請求項24】
上記両極性の単一成分物質が、以下の1以上の物質分類の1つに属することを特徴とする請求項3,5及び7の何れか1項に記載の積層体。
・両極性若しくは電子輸送性の構造、及び両極性若しくはホール輸送性の構造と、別個のπ電子系を有する基礎構造とを含む共有結合したダイアド;
・追加されるホールを優先的に利用し、HOMO波動関数が集中している第一のサブユニットと、追加される電子を優先的に利用し、LUMO波動関数が集中している第二のサブユニットとを、共有のπ電子系を有する適切な構造要素により含む分子;
・プッシュ−プル置換した分子;
・CBPのようなカルバゾールユニットを含む分子;
・フルオレンユニットを含む分子;
・ポルフィリン若しくはフタロシアニンユニットを含む分子;
・パラ位で結合した、3より多いフェニルユニットを有するパラ−オリゴフェニルを含む分子;
・アントラセン、テトラセン若しくはペンタセンユニットを含む分子;
・ペリレンを含む分子
・ピレンを含む分子
【請求項25】
上記発光層及び他の発光層の層の厚さが、それぞれ約30nm未満であることを特徴とする請求項1〜24の何れか1項に記載の積層体。
【請求項26】
少なくとも1以上の発光層が、発光領域に存在することを特徴とする請求項1〜25の何れか1項に記載の積層体。
【請求項27】
電子輸送層、ホール輸送層、電子ブロッキング層及びホールブロッキング層からなる群から選択される1つ若しくは全ての層が、ホール注入コンタクトと電子注入コンタクトとの間の発光領域の外側に存在することを特徴とする請求項1〜26の何れか1項に記載の積層体。
【請求項28】
上記他の発光層の実効ホール輸送準位から、隣接した電子輸送層の実効ホール輸送準位へのホール注入のエネルギー障壁は、隣接した当該電子輸送層が無効力のホールブロッキング層となるように、約0.4eV未満であることを特徴とする請求項27に記載の積層体。
【請求項29】
上記発光層の実効電子輸送準位から、隣接したホール輸送層の実効電子輸送準位への電子注入のエネルギー障壁は、隣接した当該ホール輸送層が無効力の電子ブロッキング層となるように、約0.4eV未満であることを特徴とする請求項27又は28に記載の積層体。
【請求項30】
pドープしたホール輸送層が存在し、
上記pドープしたホール輸送層と上記発光領域との間の層領域には、非ドープの中間層が存在していないことを特徴とする請求項1〜29の何れか1項に記載の積層体。
【請求項31】
上記発光層は、上記ホール注入コンタクトに直接接していることを特徴とする請求項1〜29の何れか1項に記載の積層体。
【請求項32】
nドープした電子輸送層が存在し、
上記nドープした電子輸送層と上記発光領域との間の層領域には、非ドープの中間層が存在していないことを特徴とする請求項1〜31の何れか1項に記載の積層体。
【請求項33】
上記他の発光層は、上記電子注入コンタクトに直接接していることを特徴とする請求項1〜32の何れか1項に記載の積層体。
【請求項34】
請求項1〜33の何れか1項に記載の積層体であることを特徴とする発光成分。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2008−509565(P2008−509565A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525155(P2007−525155)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001076
【国際公開番号】WO2006/015567
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(503180100)ノヴァレッド・アクチエンゲゼルシャフト (47)
【出願人】(507045199)
【Fターム(参考)】