説明

発光素子、発光装置、車両用前照灯、照明装置及び発光素子の製造方法

【課題】励起光のコヒーレント性を低減させる。
【解決手段】発光部4は、レーザ素子2から出射される励起光を受けて蛍光を発するものである。発光部4は、金属基板45上に層状に堆積された単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子40からなり、複数の蛍光体粒子40における個々の蛍光体粒子40の表面には、コーティング層42が設けられている。そして、そのコーティング層42が、発光部4の表面において凹凸形状43をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光を蛍光体粒子に照射することで蛍光を発する発光素子及びその製造方法、当該発光素子を備えた発光装置、車両用前照灯及び照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光源として発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)や半導体レーザ(LD;Laser Diode)等の半導体発光素子を用い、これらの励起光源から生じた励起光を、蛍光体層に照射することによって蛍光を発する技術の研究が盛んになってきている。一般に、発光装置の励起光源としては、陰極線の放射等に広く用いられている電子銃、放電により発生する紫外線を放射する蛍光ランプ、上記の半導体発光素子等が挙げられる。いずれの発光装置においても、蛍光体層から得られる蛍光を効率よく外に取り出すための蛍光体の製膜の工夫がなされている。そのような蛍光体層を有する発光装置及び陰極線管の一例が、特許文献1〜4に開示されている。
【0003】
特許文献1及び2には、発光素子の表面あるいはガラス管の内面に、蛍光体粒子を含む蛍光体層を備える発光装置が開示されている。また、特許文献3及び4には、フェースガラスの表面あるいはパネル基板上に、蛍光体粒子を含む蛍光体層を備える陰極線管が開示されている。また、非特許文献1の技術においても、ITO基板に蛍光体粒子を含む蛍光体層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−210491号公報(2006年8月10日公開)
【特許文献2】特開平10−188899号公報(1998年7月21日公開)
【特許文献3】特開平7−21949号公報(1995年1月24日公開)
【特許文献4】特開平5−54820号公報(1993年3月5日公開)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Kitabatake, T. Uchikoshi, F. Munakata, Y. Sakka, and N. Hiroshaki, "The optical and mechanical properties of Eu doped Ca-α-SiAlON phosphor-SiO2composite films", Transactions of Materials Research Society of Japan 35 [3] 713-716 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、電気泳動法を用いて蛍光体粒子を沈着させた場合、溶液中に水素ガスの気泡が残存し、それにより蛍光体層の表面に凹凸が生じるのを防ぐために、蛍光体粒子を有機金属材料からなる結着材により内包させることで、均一な形状の蛍光体層を形成している。また、特許文献4の技術では、無機コーティング剤を蛍光体層の表面に塗布し、蛍光体粒子間の空隙に屈折率が小さい材料を充填することにより、当該蛍光体層の表面の凹凸をなくしている。
【0007】
したがって、特許文献1及び4の技術は、蛍光体層の表面に凹凸が生じないようにするものである。特に、特許文献4の技術では、凹凸をなくすことによって、その表面での光の散乱を防止している。
【0008】
さらに、特許文献2の技術では、各蛍光体粒子の空隙に蛍光体粒子の屈折率とほぼ等しい屈折率を有する透明材料を充填している。また、特許文献3の技術では、電気泳動法を利用する際の電極としての導電性の高屈折率材料層を備えることにより、高密度でかつ均一な蛍光面の形成を実現している。また、非特許文献1の技術においても、各蛍光体粒子の空隙にSiOゾルゲルが注入されている。
【0009】
しかし、これらの文献の技術では、励起光源として、電子銃、蛍光ランプ、LEDが使用されているが、レーザ光源の使用については開示されていない。このため、当該技術において、励起光として、コヒーレント性が高い光、例えばレーザ光を使用し、当該レーザ光を蛍光体粒子を含む蛍光体層に照射した場合、蛍光体層表面にてレーザ光が反射され、そのレーザ光のコヒーレント性が高いまま外部に放出されてしまう可能性がある。この場合、コヒーレント性の高いレーザ光を見てしまい、目に損傷を与えるなど、人体に被害を与える可能性が高く、危険である。なお、コヒーレント性の高い光とは、換言すれば、指向性が強く、干渉性が高い光のことである。
【0010】
換言すれば、これらの文献の技術においては、励起光のコヒーレント性低減の必要性については一切開示されていない。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、その目的は、励起光のコヒーレント性を低減させることが可能な発光素子、発光装置、車両用前照灯、照明装置及び発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る発光素子は、上記の課題を解決するために、励起光源から出射される励起光を受けて蛍光を発する発光素子であって、上記発光素子は、基板上に層状に堆積された単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子からなり、上記複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面には、コーティング層が設けられており、上記コーティング層が、上記発光素子の表面において凹凸形状をなすことを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る発光素子の製造方法は、上記の課題を解決するために、励起光源から出射される励起光を受けて蛍光を発する発光素子の製造方法であって、基板上に単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子を層状に堆積させる工程と、上記発光素子の表面において凹凸形状をなすよう、上記複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面に、コーティング層を設ける工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、基板上に層状に堆積された単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面にはコーティング層を設けている。このため、蛍光体粒子間の空隙が完全に埋められるわけではないので、発光素子の表面に凹凸形状を作り出すことができる。そして、そのコーティング層が発光素子の表面に凹凸形状をなすことによって、発光素子に照射される励起光を散乱させることができる。これにより、励起光がコヒーレント性の高い場合であっても、その励起光のコヒーレント性を低減させることができるので、安全性の高い発光素子を実現することができる。
【0015】
また、コーティング層を設けることにより、蛍光体粒子間の密着性、あるいは蛍光体粒子と基板との密着性を向上させることができるため、発光素子の耐久性を高めることができる。
【0016】
また、コーティング層を設けることにより、蛍光体粒子と基板との接触面積が増加するので、蛍光体粒子の発熱を効率よく基板から放熱することができる。そのため、発光素子の熱伝導性を向上させることができるので、発光素子の温度上昇を抑制し、発光素子の長寿命化を図ることができる。
【0017】
また、本発明に係る発光素子では、上記凹凸形状は、算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上であり、最大高さ(Ry)が1μm以上であることが好ましい。また、本発明に係る発光素子では、上記コーティング層の膜厚が、上記蛍光体粒子の粒径に対して、30%以下の範囲に設定されていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、励起光のコヒーレント性を十分低減させることが可能な凹凸形状を形成することができる。
【0019】
なお、上記蛍光体粒子の粒径は、堆積させる前の粉末状の蛍光体粒子をレーザ回折・散乱法を用いて測定されたメジアン径(d50)とする。また、蛍光体粒子にバインダーが形成されている場合、上記コーティング層の膜厚は、そのバインダーの膜厚を含めたものとする。
【0020】
また、本発明に係る発光装置は、上記に記載の発光素子と、励起光を出射する励起光源と、を含む構成である。
【0021】
上記構成によれば、励起光源から出射される励起光のコヒーレント性が高い場合でも、上述の発光素子を備えているので、当該発光素子と同様、安全性の高い発光装置を実現することができる。
【0022】
また、本発明に係る車両用前照灯及び照明装置は、上記に記載の発光装置を含む構成である。このため、上記の発光装置と同様、安全性の高い車両用前照灯及び照明装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る発光素子は、以上のように、基板上に層状に堆積された複数の蛍光体粒子からなり、上記複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面には、コーティング層が設けられており、上記コーティング層が、上記発光素子の表面において凹凸形状をなす構成である。
【0024】
また、本発明に係る発光素子の製造方法は、以上のように、基板上に複数の蛍光体粒子を層状に堆積させる工程と、上記発光素子の表面において凹凸形状をなすよう、上記複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面に、コーティング層を設ける工程とを含む方法である。
【0025】
それゆえ、本発明の発光素子は、長寿命化を図り、耐久性及び安全性を高めることができるという効果を奏する。また、本発明の発光素子の製造方法は、長寿命で、耐久性及び安全性の高い発光素子を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光部の断面図の一例であり、(a)は蛍光体粒子が金属基板に堆積している様子を示す図であり、(b)はその蛍光体粒子の表面にコーティング層が設けられた発光部と、その発光部における入射光及び出射光の様子を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るヘッドランプが備えるパラボラミラーの回転放物面を示す概念図である。
【図4】図3に示すパラボラミラーの形状を説明する図であり、(a)はパラボラミラー5の上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図5】発光部における反射光の配光特性を測定するときの実験系の一例を示す概略図である。
【図6】(a)は図5の実験系で測定した反射光の配光特性を示す図であり、(b)は(a)を拡大した図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る発光部の製造工程を示すフローチャートの一例である。
【図8】発光部の表面をSEM(scanning electron microscope)を用いて観測したときの画像(SEM画像)の一例を示す図であり、(a)はコーティング層を設ける前の発光部の表面のSEM画像であり、(b)はその表面の一部を拡大したSEM画像であり、(c)はコーティング層を設けた後の発光部の表面のSEM画像であり、(d)はその発光部の表面の一部を拡大したSEM画像である。
【図9】本発明の一実施形態に係るヘッドランプを自動車(車両)の前照灯に適用した場合の、ヘッドランプの配設方向を示す概念図である。
【図10】本発明の一実施例のヘッドランプを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の一形態について図1〜図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0028】
<ヘッドランプ1の構成>
図2は、本発明の一実施形態に係るヘッドランプ1の概略構成を示す断面図である。図2に示すように、ヘッドランプ1は、レーザ素子(励起光源、半導体レーザ)2、レンズ3、発光部4(発光素子)、パラボラミラー(反射鏡)5、金属ベース7、フィン8を備えている。
【0029】
(レーザ素子2)
レーザ素子2は、励起光を出射する励起光源として機能する発光素子である。このレーザ素子2は、複数設けられていてもよい。この場合、複数のレーザ素子2のそれぞれから励起光としてのレーザ光が発振される。レーザ素子2を1つのみ用いてもよいが、高出力のレーザ光を得るためには、複数のレーザ素子2を用いる方が容易である。
【0030】
レーザ素子2は、1チップに1つの発光点を有するものであってもよく、1チップに複数の発光点を有するものであってもよい。レーザ素子2のレーザ光の波長は、例えば、405nm(青紫色)または450nm(青色)であるが、これらに限定されず、発光部4に含める蛍光体の種類に応じて適宜選択されればよい。
【0031】
(レンズ3)
レンズ3は、レーザ素子2から出射したレーザ光が発光部4に適切に照射されるように、当該レーザ光の照射範囲を調節(例えば、拡大)するためのレンズであり、レーザ素子2のそれぞれに配設されている。
【0032】
(発光部4)
発光部4は、レーザ素子2から出射されたレーザ光を受けて蛍光を発するものであり、レーザ光を受けて発光する蛍光体(蛍光物質)を含んでいる。発光部4は、レーザ光を蛍光に変換するため、波長変換素子であると言える。
【0033】
具体的には、発光部4は、図1(b)又は図5に示すように、基板(金属基板45)上に複数の蛍光体粒子40を層状に堆積させたものである。また、個々の蛍光体粒子40の表面には、TEOS(テトラエトキシシラン、珪酸エチル)等を含むバインダー41を介して、TiO等の無機物からなるコーティング層42が設けられており、当該コーティング層42が、発光部4の表面において凹凸形状43をなしている。なお、発光部4の具体的構成及び製造方法については後述する。
【0034】
この発光部4は、金属ベース7の上かつパラボラミラー5のほぼ焦点位置に配置されている。そのため、発光部4から出射した蛍光及び発光部4の表面で散乱した散乱光は、パラボラミラー5の反射曲面に反射することで、その光路が制御される。
【0035】
発光部4の蛍光体粒子40として、例えば、酸窒化物系蛍光体(例えば、サイアロン蛍光体)またはIII−V族化合物半導体ナノ粒子蛍光体(例えば、インジュウムリン:InP)を用いることができる。これらの蛍光体は、レーザ素子2から発せられた高い出力(および/または光密度)のレーザ光に対しての熱耐性が高く、レーザ照明光源に最適である。ただし、発光部4の蛍光体は、上述のものに限定されず、窒化物蛍光体など、その他の蛍光体であってもよい。
【0036】
また、ヘッドランプの照明光は、所定の範囲の色度を有する白色にしなければならないことが、法律により規定されている。そのため、発光部4には、照明光が白色となるように選択された蛍光体が含まれている。
【0037】
例えば、青色、緑色および赤色の蛍光体を発光部4に含め、405nmのレーザ光を照射すると白色光が発生する。または、黄色の蛍光体(または緑色および赤色の蛍光体)を発光部4に含め、450nm(青色)のレーザ光(または、440nm以上490nm以下の波長範囲にピーク波長を有する、いわゆる青色近傍のレーザ光)を照射することでも白色光が得られる。このように、発光部4は、数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子40を含むものである。
【0038】
なお、上記白色光を実現可能であれば、あるいは白色光を照射しなくてもよい発光装置であれば、発光部4に含まれる蛍光体粒子40は、単一種類の蛍光体からなるものであってもよい。
【0039】
(パラボラミラー5)
パラボラミラー5は、発光部4が発生させた蛍光及び散乱光を反射し、所定の立体角内を進む光線束(照明光)を形成する。このパラボラミラー5は、例えば、金属薄膜がその表面に形成された部材であってもよいし、金属製の部材であってもよい。
【0040】
図3は、パラボラミラー5の回転放物面を示す概念図であり、図4(a)はパラボラミラー5の上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。図4(a)〜(c)は、図面をわかりやすく例示するよう直方体の部材の内部をくり抜くことでパラボラミラー5を形成した例を示している。
【0041】
図3に示すように、パラボラミラー5は、放物線の対称軸を回転軸として当該放物線を回転させることによって形成される曲面(放物曲面)を、上記回転軸を含む平面で切断することによって得られる部分曲面の少なくとも一部をその反射面に含んでいる。図4(a)および(c)において、符号5aで示す曲線が放物曲面を示している。また、図4(b)に示すように、パラボラミラー5を正面から見た場合、その開口部5b(照明光の出口)は半円である。
【0042】
このような形状のパラボラミラー5が、発光部4の、側面よりも面積の広い上面の上方にその一部が配置されている。すなわち、パラボラミラー5は、発光部4の上面を覆う位置に配置されている。別の観点から説明すれば、発光部4の側面の一部は、パラボラミラー5の開口部5bの方向を向いている。
【0043】
発光部4とパラボラミラー5との位置関係を上述のものにすることで、発光部4が発生させた蛍光および散乱光を狭い立体角内に効率的に投光することができ、その結果、蛍光及び散乱光の利用効率を高めることができる。
【0044】
また、レーザ素子2は、パラボラミラー5の外部に配置されており、パラボラミラー5には、レーザ光を透過または通過させる窓部6が形成されている。この窓部6は、開口部であってもよいし、レーザ光を透過可能な透明部材を含むものであってもよい。例えば、レーザ光を透過し、白色光(発光部4が発生させた蛍光及び散乱光を含む光)を反射するフィルターを設けた透明板を窓部6として設けてもよい。この構成では、発光部4が発生させた蛍光及び散乱光が窓部6から漏れることを防止できる。
【0045】
窓部6は、複数のレーザ素子2に共通のものが1つ設けられていてもよいし、各レーザ素子2に対応した複数の窓部6が設けられていてもよい。
【0046】
なお、パラボラミラー5の一部にパラボラではない部分を含めてもよい。また、本発明の発光装置が有する反射鏡は、閉じた円形の開口部を有するパラボラミラーまたはその一部を含むものであってもよい。また、上記反射鏡は、パラボラミラーに限定されず、楕円面ミラーや半球面ミラーであってもよい。すなわち、上記反射鏡は、回転軸を中心として図形(楕円、円、放物線)を回転させることによって形成される曲面の少なくとも一部をその反射面に含んでいるものであればよい。
【0047】
(金属ベース7)
金属ベース7は、発光部4を支持する板状の支持部材であり、金属(例えば、銅や鉄)からなっている。それゆえ、金属ベース7は熱伝導性が高く、発光部4の発熱を効率的に放熱することができる。なお、発光部4を支持する部材は、金属からなるものに限定されず、金属以外の熱伝導性が高い物質(ガラス、サファイアなど)を含む部材でもよい。
【0048】
金属ベース7は、パラボラミラー5によって覆われているため、金属ベース7は、パラボラミラー5の反射曲面(放物曲面)と対向する面を有していると言える。金属ベース7の発光部4が設けられている側の表面は、パラボラミラー5の回転放物面の回転軸と概ね平行であり、当該回転軸を概ね含んでいることが好ましい。
【0049】
(フィン8)
フィン8は、金属ベース7を冷却する冷却部(放熱機構)として機能する。このフィン8は、複数の放熱板を有するものであり、大気との接触面積を増加させることにより放熱効率を高めている。金属ベース7を冷却する冷却部は、冷却(放熱)機能を有するものであればく、後述するように、ヒートパイプ、水冷方式や、空冷方式のものであってもよい。
【0050】
<発光部4の具体的構成及び製造方法>
(発光部4の具体的構造)
次に、図1及び図5〜8に基づいて、発光部4の具体的構成及び製造方法について説明する。まず、図1を用いて、発光部4の具体的構成を説明する。図1は、発光部4の断面図の一例であり、(a)は蛍光体粒子40が金属基板45に堆積している様子を示す図であり、(b)はその蛍光体粒子40の表面にコーティング層が設けられた発光部4と、発光部4における入射光及び出射光の様子を示す図である。
【0051】
図1(b)に示すように、発光部4は、バインダー41及びコーティング層42が設けられた蛍光体粒子40と金属基板45とを備える。なお、発光部4の機能及び蛍光体粒子40については上述したので、ここではその説明を省略する。
【0052】
バインダー41は、電気泳動法を用いて金属基板45に蛍光体粒子40を層状に堆積させるときに、蛍光体粒子40どうしを付着するために使用するものである。バインダー41は、例えば、エタノールに、TEOS又はTEMOS(テトラメトキシシラン)、水及び酸(例えば濃塩酸)を添加し、加水分解することにより得られ、乾燥、焼成を経ることで最終的にはシリカとなる。図1(a)は、バインダー41が蛍光体粒子40の表面に設けられている様子を示している。このバインダー41を個々の蛍光体粒子40の表面に付着させることにより、例えば電気泳動法を用いて、蛍光体粒子40を金属基板45上に層状に堆積させることができる。
【0053】
コーティング層42は、蛍光体粒子40どうしを、及び蛍光体粒子40と金属基板45とをより強固に付着させるものであり、複数の蛍光体粒子40における個々の蛍光体粒子40の表面に設けられるものである。コーティング層42は、例えばTiO、SiO等の無機材料(無機コーティング材料)からなる。
【0054】
バインダー41は、電気泳動法を用いて金属基板45上に堆積させるときに必要となるものであるが、その密着性はそれほど高くない。なぜなら、例えば図1(a)に示すように、蛍光体粒子40間には空隙44aが形成されてしまうためである。本実施形態では、蛍光体粒子40の表面上に設けられたバインダー41の層上に、さらにコーティング層42が設けられる。すなわち、バインダー41を介して、蛍光体粒子40の表面にコーティング層42が設けられる。これにより、図1(b)に示すように、空隙44aの大きさが空隙44bまで小さくなるので、蛍光体粒子40どうしの密着性、及び蛍光体粒子40と金属基板45との密着性を高めることができる。なお、バインダー41は、電気泳動法を用いずに、例えば沈降法により蛍光体粒子40を堆積させる場合には必ずしも必要ではなく、この場合、蛍光体粒子40の表面に直接コーティング層42が設けられることになる。
【0055】
ここで、コーティング層42の膜厚が大きくすると、それだけ空隙44bを小さくすることができるが、あまりに大きくすると空隙44bが消失してしまう。また、空隙44bが消失する程度に膜厚を大きくすると、層状となっている蛍光体粒子40の表面(金属基板45側ではない発光部4の表面)の凹凸も消失し、その表面は平坦化される可能性が高い。この場合、上記の密着性や熱伝導性等を高くすることはできるが、例えば図1(b)の場合には、その平坦化された表面にレーザ光L0が照射され、そのレーザ光L0がそのまま反射してしまうことになる。つまり、蛍光体粒子の表面を無機材料等でコーティングし、蛍光体粒子どうしの空隙を完全に埋めてしまうと、発光部の表面を完全に覆ってしまうことにもなり、その結果、その表面に照射されたレーザ光L0が高いコヒーレント性を含んだまま反射されてしまう可能性がある。
【0056】
レーザ光L0はコヒーレント性が高いため、そのコヒーレント性が失われないままレーザ光L0が照明光としてヘッドランプ1の外部に出射されると、その照明光を見た人間の目に損傷を与える可能性が非常に高い。このため、レーザ光L0を励起光として用いる発光装置においては、レーザ光L0を発光部4に照射することにより、レーザ光L0を蛍光に変換、あるいは散乱させることにより、人間の目に損傷を与える可能性が低いインコヒーレントな照明光として出射する必要がある。
【0057】
本実施形態では、空隙44bが存在する程度(空隙44bが消失しない程度)に、蛍光体粒子40の表面にコーティング層42を設けることにより、蛍光体粒子40どうし、及び蛍光体粒子40と金属基板45との密着性を高めることができる。それとともに、空隙44bが存在する程度のコーティング層42の膜厚により、発光部4の表面において蛍光体粒子40及びコーティング層42が凹凸形状43を形成しているので、レーザ光L0を散乱させることができ、レーザ光L0のコヒーレント性を低減させることができる。
【0058】
つまり、発光部の表面が十分に平坦である場合には、レーザ光が鏡面反射となるため、その発光パターンは強い角度依存性を有することとなる。これに対し、本実施形態のように、発光部4の表面に凹凸形状43が形成されている場合には、入射されるレーザ光は様々な方向に反射されるため、その発散角が大きくなり、発光パターンの角度依存性が低くなる。その結果、本実施形態では、発光部4の表面において、コヒーレント性の高い入射光(レーザ光)からコヒーレント性の低い散乱光(インコヒーレントな照明光)を得ることができる。
【0059】
また、レーザ光が蛍光体に照射し、蛍光に変換されずに反射する光の分布は、レーザ光の発光部4への入射角度に依存する。その入射角度と反射光の配光特性との関係について、図5及び図6を用いて説明する。図5は、発光部4における反射光の配光特性を測定するときの実験系の一例を示す概略図である。図5では、電気泳動法を用いて蛍光体粒子40を金属基板45上に堆積させ、その蛍光体粒子40(バインダー41を含む)をTiOでコートすることにより蛍光体粒子40にコーティング層42を設けた蛍光体層に、レーザ光L0を照射している。同図では、蛍光体として、β−SiAlON:Eu蛍光体が用いられており、その粒径は1〜10μmである。また、バインダー41とコーティング層42とを含む蛍光体層全体の膜厚は130μmであり、レーザ素子2の出力は50mWである。
【0060】
また、同図では、入射角度θを変更可能なようにレーザ素子2が配置できる構成となっている。この例では、入射角度θが4°、14°、32°、46°及び58°となるようにレーザ素子2の配置位置を変更可能である。この入射角度θはこの5段階に限られたものではなく、その測定条件に応じて変更可能なものである。
【0061】
また、図6は、発光部4における反射光の配光特性を説明するための図であり、(a)は図5に示す実験系におけるレーザ光の入射角度θと反射光の配光特性とを示す図であり、(b)は(a)を拡大した図である。図6では、入射角度θが4°、14°、32°、46°及び58°のときの反射光の配光特性が、それぞれ示されている。
【0062】
図6(a)及び(b)は、上記の出力等の条件下における上記の入射角度θごとの反射光の配光特性を示している。
【0063】
これらの図に示すように、入射角度θが4°及び14°の場合(低角度の場合)には反射光に入射角度への依存性が見られることがわかる。この場合、入射角度に依存した分布内の反射光は、均一で一様な平面における鏡面反射に近い反射となるので、当該分布内の反射光については凹凸形状43においてもコヒーレント性の低い散乱光に変換されにくい。
【0064】
一方、入射角度θが32°以上(32°、46°及び58°)の場合、それぞれの配光特性はほぼ同じで、反射光に入射角度への依存性が見られないことがわかる。この場合、低角度の場合のような鏡面反射に近い反射をする反射光がほとんど存在しない。これは、凹凸形状43においてコヒーレン性の高い入射光から、より安全なコヒーレント性の低い散乱光を得ることができるといえる。
【0065】
したがって、上記の条件下において、コヒーレント性の高い入射光からよりコヒーレント性の低い散乱光を得るためには、レーザ光L0は、入射角度θ=32°以上で入射されることが好ましい。ただし、これは一例であり、コヒーレント性の低い散乱光を得るための適当な入射角度θは、作製される発光部4の蛍光体粒子40の粒径やコーティング層42の膜厚に応じて適宜変更できる値である。
【0066】
以上のように、本実施形態では、コーティング層42が、発光部4の表面において凹凸形状43をなすことにより、上記の密着性を高めて耐久性を向上させるとともに、レーザ光のコヒーレント性を低減させて安全性を向上させることが可能な発光部4を実現することができる。
【0067】
また、発光部4の表面において凹凸形状43の算術平均粗さが0.5μm以上であり、最大高さが1μm以上であれば、発光部4の表面に入射するコヒーレント性の高い励起光から、十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができ、上記のような安全性の高い発光部4を実現することができる。
【0068】
一般に、蛍光体粒子の粒径(メジアン径)は5〜40μmであり、その粒径分布には幅がある。このため、蛍光体粒子40の粒径に対してコーティング層42の膜厚が30%以下に設定されていれば、発光部4の表面の凹凸形状43は、算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上、最大高さ(Ry)が1μmであることを満たすことになり、発光部4においてコヒーレント性の高い入射光から十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができる。
【0069】
金属基板45は、蛍光体粒子40を層状に堆積させるための基板であり、その厚さは例えば1mmである。また、金属基板45は、反射面としての機能を有することが好ましい。この場合、発光部4の上面から入射したレーザ光が蛍光に変換された後に、当該反射面で反射させることができる。または、発光部4の上面から入射したレーザ光を上記反射面で反射させて、再度発光部4の内部に向かわせて蛍光に変換することができる。さらに、金属基板45は、発光部4にレーザ光L0が照射されることによって発生する熱を、金属ベース7からフィン8へと逃がすヒートスプレッダの機能を有する。また、金属基板45は、導電性を有するので、電気泳動法を用いて金属基板45に蛍光体粒子40を堆積させる場合には、電極としての機能を有することもできる。
【0070】
このように、発光部4は、金属基板45上に複数の蛍光体粒子40が堆積され、堆積された個々の蛍光体粒子40の表面にコーティング層42が設けられている。そして、発光部4は、そのコーティング層42の膜厚を調整することにより、発光部4の表面において凹凸形状43をなしている。
【0071】
図1(b)に示すように、発光部4にレーザ光L0が照射されると、その一部は蛍光体粒子40内で蛍光L2に変換され、それ以外の成分は発光部4の表面に形成された凹凸形状43により散乱光L1として出射される。つまり、凹凸形状43が存在することにより、発光部4の表面上でレーザ光L0が反射されることを防ぎ(すなわち、反射光として出射されることを防ぎ)、散乱光L1として出射させることができる。本実施形態のように、発光部4の表面における凹凸の程度が十分であれば、散乱光L1及び蛍光L2からなる照明光は、インコヒーレントな光となり、人体に被害を与えることがなく、安全性の高い発光部4を実現することができる。
【0072】
つまり、本実施形態では、レーザ光L0のコヒーレント性が高い場合であっても、そのレーザ光L0のコヒーレント性を低減させることができるので、安全性の高い発光部4を実現することができる。また、上記のように、コーティング層42を設けることにより、蛍光体粒子40間の密着性、あるいは蛍光体粒子40と金属基板45との密着性、及び発光部4の熱伝導性を向上させることができる。その密着性の向上により発光部4の耐久性を高めることができる。また、熱伝導性の向上により発光部4の温度上昇を防ぐことができ、発光部4の長寿命化を図ることができる。
【0073】
このため、ヘッドランプ1は、本実施形態に係る発光部4を備えることにより、発光部4と同様の効果、すなわち長寿命化を図ることができるとともに、耐久性及び安全性を高めることができる。
【0074】
(発光部4の製造方法)
次に、図7及び図8を用いて、発光部4の製造方法(製造工程)について説明する。図7は、発光部4の製造工程を示すフローチャートの一例である。また、図8は、発光部の表面をSEM(scanning electron microscope)を用いて観測したときの画像(SEM画像)の一例を示す図であり、(a)はコーティング層42を設ける前の発光部の表面のSEM画像であり、(b)はその表面の一部を拡大したSEM画像であり、(c)はコーティング層42を設けた後の発光部の表面のSEM画像であり、(d)はその発光部の表面の一部を拡大したSEM画像である。
【0075】
図7に示すように、まず、蛍光体粒子40にバインダー41を付着させるために、蛍光体粒子40をエタノール(分散媒)に加え、分散した溶液を準備する(S1)。この分散には、例えば超音波ホモジナイザーが用いられる。一方で、エタノールに、TEOS、水及び酸を添加し、加水分解することによりシリカの前駆体を含む溶液を生成する(S2)。S1及びS2の処理は、S3の処理の前に完了していればよく、その順序は問わない(S1及びS2の処理が並行して行われていてもよい)。
【0076】
次に、S1及びS2の処理でそれぞれ得られた溶液を混合し、例えばスターラーで攪拌する(S3)。これにより、個々の蛍光体粒子40の表面にバインダー41を均一に付着させることができる。
【0077】
次に、S3で得られた溶液を材料に電気泳動法を用いて蛍光体粒子40を金属基板45上に堆積させる(S4)。なお、金属基板45上に蛍光体粒子40が堆積した状態が、図1(a)に示されている。電気泳動法を用いることにより、金属基板45の表面全体に、一様に、かつほぼ一定の厚さに薄く複数の蛍光体粒子40を堆積させることができる。例えば、封止材を用いて、ガラスや透明基板等に蛍光体粒子を封止させることにより発光部を形成する場合、励起時に封止材が発熱することにより発光効率が低下することがあるが、電気泳動法では封止材を用いないため、その低下を防ぐことができる。
【0078】
なお、上記S4の処理では、電気泳動法を用いて、金属基板45に蛍光体粒子40を堆積させる場合について説明したが、これに限らず、沈降法を用いて堆積させることもできる。沈降法の場合、蛍光体粒子40が重力により金属基板45上に堆積されるので、その堆積のために、電気泳動法のように電圧を印加する必要がない。また、バインダー41を準備する工程(S2)が必ずしも必要とならない。
【0079】
蛍光体粒子40が堆積された金属基板45を自然乾燥させた後(S5)、スピンコート法によって個々の蛍光体粒子40の表面にコーティング層42を設ける(S6)。この方法は、TiO2等の無機材料を蛍光体粒子40の表面に塗布して行われる。なお、電気泳動法を用いる場合には、上述のように蛍光体粒子40の表面にバインダー41を付着させているので、そのバインダー41上にコーティング層42が設けられる。また、電気泳動法を用いた場合であっても、蛍光体粒子40の堆積後にバインダー41を除去した場合には、蛍光体粒子40に直接コーティング層42が設けられる。その後、例えばオーブンを用いて、コーティング層42が設けられた蛍光体粒子40を焼成することにより、発光部4が完成する(S7)。なお、金属基板45上に堆積した蛍光体粒子40にコーティング層42が設けられた状態が、図1(b)に示されている。
【0080】
ここで、S4及びS7の処理後に得られた複数の蛍光体粒子40からなる蛍光体膜の表面をそれぞれ、SEMを用いて観測したときの画像を図8に示す。
【0081】
S4の処理後に得られた蛍光体膜の場合、蛍光体粒子40の表面にはバインダー41が付着している。そのときの蛍光体膜の表面を撮像したものが図8(a)及び(b)のSEM画像である。一方、S4の処理後に得られた蛍光体膜の場合、蛍光体粒子40の表面にバインダー41を介してコーティング層42が付着している。そのときの蛍光体膜の表面を撮像したものが図8(c)及び(d)のSEM画像である。なお、図8(a)及び(c)のSEM画像はそれぞれ同じレンズ倍率で撮像され、図8(b)及び(d)のSEM画像はそれぞれ、図8(a)及び(c)のSEM画像撮像時のレンズ倍率より大きいレンズ倍率で、かつ、同じレンズ倍率で撮像されている。
【0082】
なお、図8では、蛍光体として、β−SiAlON:Eu蛍光体が用いられており、図8(a)及び(b)のバインダー41を含む蛍光体膜全体の膜厚は90μm程度、図8(c)及び(d)のバインダー41とコーティング層42とを含む蛍光体膜全体の膜厚は80μm程度である。また、焼成温度は200℃であり、焼成時間は5分である。
【0083】
図8(c)及び(d)のSEM画像では、図8(a)及び(b)のSEM画像と比べ、蛍光体膜の表面が均一であるが、空隙が残っているため、その蛍光体膜の表面に凹凸形状が残ったままとなっていることがわかる。つまり、蛍光体粒子40の表面にコーティング層42を設けることにより、コーティング層42を設けていない場合に比べ、上記の密着性及び熱伝導性を高めると同時に、図8(c)及び(d)に示すように、コーティング層42が設けられても凹凸形状はそのまま残っているため、照射されるレーザ光のコヒーレント性を失わせることができるということがわかる。
【0084】
このように、発光部4は、金属基板45上に単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子40を層状に堆積させる工程(S4)と、複数の蛍光体粒子40における個々の蛍光体粒子40の表面に、コーティング層42を設ける工程(S6)とを含むものである。そして、S6の処理では、図8(c)及び(d)からわかるように、発光部4の表面において凹凸形状43をなすようにコーティング層42が設けられる。これらの工程を踏まえることによって、長寿命で、耐久性及び安全性の高い発光部4を製造することができる。
【0085】
<ヘッドランプ1の配設方法>
図9は、ヘッドランプ1を自動車(車両)10の前照灯(車両用前照灯)に適用した場合の、ヘッドランプ1の配設方向を示す概念図である。図9に示すように、ヘッドランプ1は、パラボラミラー5が鉛直下側に位置するように自動車10のヘッドに配設されてもよい。この配設方法では、上述のパラボラミラー5の投光特性により、自動車10の正面が十分に明るく照らされるとともに、自動車10の前方下側も明るくなる。
【0086】
また、この自動車10は、本実施形態に係るヘッドランプ1を備えるので、ヘッドランプ1と同様の効果、すなわち長寿命化を図ることができるとともに、耐久性及び安全性を高めることができる。
【0087】
なお、ヘッドランプ1を自動車用の走行用前照灯(ハイビーム)に適用してもよいし、すれ違い用前照灯(ロービーム)に適用してもよい。
【0088】
<本発明の適用例>
本発明の発光素子(発光部4)は、車両用前照灯のみならず、その他の照明装置に適用されてもよい。本発明の照明装置の一例として、ダウンライトを挙げることができる。ダウンライトは、家屋、乗物などの構造物の天井に設置される照明装置である。その他にも、本発明の照明装置は、車両以外の移動物体(例えば、人間・船舶・航空機・潜水艇・ロケットなど)のヘッドランプとして実現されてもよいし、サーチライト、プロジェクタ、ダウンライト以外の室内照明器具(スタンドランプなど)として実現されてもよい。
【0089】
<実施例1>
次に本発明のより具体的な実施例について図10に基づいて説明する。なお、上述の実施形態における部材と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。また、ここに記載された材質、形状、および各種の数値は、あくまで一例であり、本発明を限定するものではない。
【0090】
図10は、本発明の一実施例のヘッドランプ20を示す概略図である。図10に示すように、ヘッドランプ20は、複数のレーザ素子2と集光レンズ11とのセット、複数の光ファイバー(導光部材)12、レンズ13、反射ミラー14、発光部4、パラボラミラー5、金属ベース7およびフィン8を備えている。
【0091】
集光レンズ11は、レーザ素子2から発振されたレーザ光を、光ファイバー12の一方の端部である入射端部に入射させるためのレンズである。レーザ素子2と集光レンズ11とのセットは、複数の光ファイバー12のそれぞれと一対一で対応付けられている。すなわち、レーザ素子2は、集光レンズ11を介して光ファイバー12と光学的に結合されている。
【0092】
光ファイバー12は、レーザ素子2が発振したレーザ光を発光部4へと導く導光部材である。この光ファイバー12は、中芯のコアを、当該コアよりも屈折率の低いクラッドで覆った2層構造を有しており、入射端部から入射したレーザ光は、光ファイバー12の内部を通り、他方の端部である出射端部から出射する。光ファイバー12の出射端部はフェルール等により束ねられている。
【0093】
光ファイバー12の出射端部から出射から出射したレーザ光は、レンズ13によって、直径2mmの上面を有する発光部4の全体に照射されるように拡大される。拡大されたレーザ光は、反射ミラー14によって反射されることで光路を変更し、パラボラミラー5の窓部6を通って発光部4へ導かれる。
【0094】
(レーザ素子2の詳細)
レーザ素子2は、405nmのレーザ光を出射する1W出力のものであり、合計8個設けられている。そのため、レーザ光の総出力は8Wとなる。
【0095】
(発光部4の詳細)
発光部4は、白色で発光するように、3種類のRGB蛍光体が混合されている。赤色蛍光体は、CaAlSiN:Euであり、緑色蛍光体は、β−SiAlON:Euであり、青色蛍光体は(BaSr)MgAl1017:Euである。これら蛍光体の粉末が例えば電気泳動法により製膜されている。また、発光部4の形状は、例えば、2mm四方で、厚さ100μmの薄膜である。
【0096】
なお、この実施例では、レーザ光が窓部6を透過して発光部4の上面側から入射されるので、発光部4は、図1(b)に示すように蛍光及び散乱光を発生させている。
【0097】
(パラボラミラー5の詳細)
パラボラミラー5の開口部5bは、半径30mmの半円であり、パラボラミラー5の奥行きは30mmである。発光部4は、パラボラミラー5の焦点位置に配置されている。
【0098】
(金属ベース7の詳細)
金属ベース7は、銅からなるものであり、発光部4が配置される側の表面にアルミニウムが蒸着されている。その裏側には、長さ30mm、幅1mmのフィン8が、5mm間隔で設けられている。なお、金属ベース7とフィン8とは、一体として形成されていてもよい。
【0099】
(ヘッドランプ20の効果)
ヘッドランプ20では図1(b)に示す発光部4が用いられる。このため、ヘッドランプ20においても、発光部4と同様の効果、すなわち長寿命化を図ることができるとともに、耐久性及び安全性を高めることができる。
【0100】
<本発明の別の表現>
本発明は、以下のようにも表現できる。
【0101】
すなわち、本発明に係る灯具(発光素子)は、電気泳動又は沈降によって金属基板上に蛍光体粒子を堆積させた後、蛍光体粒子の凹凸を残した状態で透明な無機コーティング材料でコーティングして作製した蛍光体膜に、LD光(レーザ光)を照射して蛍光体からの発光を得る構成である。
【0102】
また、本発明に係る灯具は、上記の灯具において、蛍光体からの発光と、蛍光体を励起せずに、表面で散乱されたLD光を同時に利用するものであってもよい。
【0103】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、発光装置や照明装置、特に車両用等のヘッドランプに適用することができ、長寿命化を図り、耐久性及び安全性を高めることができる。
【符号の説明】
【0105】
1 ヘッドランプ(発光装置、車両用前照灯、照明装置)
2 レーザ素子(励起光源)
4 発光部(発光素子)
40 蛍光体粒子
42 コーティング層
43 凹凸形状
45 金属基板(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源から出射される励起光を受けて蛍光を発する発光素子であって、
上記発光素子は、基板上に層状に堆積された単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子からなり、
上記複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面には、コーティング層が設けられており、
上記コーティング層が、上記発光素子の表面において凹凸形状をなすことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
上記凹凸形状は、算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上であり、最大高さ(Ry)が1μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
上記コーティング層の膜厚が、上記蛍光体粒子の粒径に対して、30%以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の発光素子と、
励起光を出射する励起光源と、を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発光装置を含むことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項6】
請求項4に記載の発光装置を含むことを特徴とする照明装置。
【請求項7】
励起光源から出射される励起光を受けて蛍光を発する発光素子の製造方法であって、
基板上に単一または数種類の蛍光体からなる複数の蛍光体粒子を層状に堆積させる工程と、
上記発光素子の表面において凹凸形状をなすよう、上記複数の蛍光体粒子における個々の蛍光体粒子の表面に、コーティング層を設ける工程とを含むことを特徴とする発光素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162600(P2012−162600A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22021(P2011−22021)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】