発光素子およびその製造方法、ならびに発光パネルおよび発光装置
【課題】素子寿命や製造コストの点で有機EL素子よりも有利であり、かつ有機EL素子と同様に構造が単純で、軽量化や薄型化に向いた新たな発光素子およびその製造方法、ならびにそのような発光素子を備えた発光パネルおよび発光装置を提供する。
【解決手段】発光素子1は、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を基板10側から順に備えている。第1導電層12および第2導電層13は互いに接しており、pn接合層を構成している。第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素を添加して構成されている。これにより、pn接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって生じたエネルギーで希土類元素が励起され、希土類元素が励起状態から基底状態に戻るときに放出するエネルギーに相当する波長で発光が生じる。
【解決手段】発光素子1は、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を基板10側から順に備えている。第1導電層12および第2導電層13は互いに接しており、pn接合層を構成している。第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素を添加して構成されている。これにより、pn接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって生じたエネルギーで希土類元素が励起され、希土類元素が励起状態から基底状態に戻るときに放出するエネルギーに相当する波長で発光が生じる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pn接合またはpin接合を有する発光素子およびその製造方法、ならびにそのような発光素子を備えた発光パネルおよび発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、フラットパネルディスプレイの主流は液晶である。しかし、液晶は自発光型ではないので、液晶ディスプレイでは、光源(バックライト)や、偏光板、カラーフィルタなどの多くの部品が必要となり、構造が複雑化せざるを得ない。そこで、近年、液晶ディスプレイに代わる表示装置として、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイが実用化されている(特許文献1参照)。有機ELディスプレイでは、自発光型の有機EL素子が用いられている。そのため、光源や偏光板、カラーフィルタなどが必要ないので、構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−052932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、有機EL素子は、水分や酸素の僅かな混入によって劣化する。そのため、素子寿命が短いという問題があった。また、製造工程において、水分や酸素が混入するのを防止するために、各発光色に対応した有機EL素子を真空中で別個に形成するという特殊なプロセスが必要であり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、素子寿命や製造コストの点で有機EL素子よりも有利であり、かつ有機EL素子と同様に構造が単純で、軽量化や薄型化に向いた新たな発光素子およびその製造方法、ならびにそのような発光素子を備えた発光パネルおよび発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発光素子は、基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備えたものである。pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものである。導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである。
【0007】
本発明の第1の発光パネルは、2次元配置された複数の発光素子を備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第1の発光素子と同一の構成要素を有している。本発明の第1の発光装置は、2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、発光素子を駆動する駆動回路部とを備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第1の発光素子と同一の構成要素を有している。
【0008】
本発明の発光素子の製造方法は、基板の上に、蒸着法またはミストCVD法を用いて、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を形成する工程を含むものである。ここで、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものである。導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである。
【0009】
本発明の第1の発光素子、第1の発光パネルおよび第1の発光装置、ならびに発光素子の製造方法では、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層が、上で示した導電性酸化物に、上で示した希土類元素を添加して構成されている。ここで、導電性酸化物は、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、しかも素子の経時的な劣化がほとんどない。また、発光機構として、有機EL素子と同様の単純な積層構造が用いられている。
【0010】
本発明の第2の発光素子は、基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備えたものである。基板は、pn接合層側またはpin接合層側の最表面にグラファイトシートを有している。pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである。
【0011】
本発明の第2の発光パネルは、2次元配置された複数の発光素子を備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第2の発光素子と同一の構成要素を有している。本発明の第2の発光装置は、2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、発光素子を駆動する駆動回路部とを備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第2の発光素子と同一の構成要素を有している。
【0012】
本発明の第2の発光素子、第2の発光パネルおよび第2の発光装置では、pn接合層またはpin接合層は、グラファイトシートを介して基板上に形成されている。pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層が、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されている。ここで、酸化亜鉛は、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、しかも素子の経時的な劣化がほとんどない。また、pn接合層またはpin接合層の材料および、pn接合層またはpin接合層の下地として、六方晶系の材料が用いられているので、グラファイトシート上に酸化亜鉛の層を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。さらに、発光機構として、有機EL素子と同様の単純な積層構造が用いられており、積層構造の成長条件、または積層構造にドープする材料を変えることにより、例えば、赤色、緑色または青色などの光を発生させることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の発光素子、第1の発光パネルおよび第1の発光装置、ならびに発光素子の製造方法によれば、導電性酸化物に希土類元素を添加したものを、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層の材料として用いるようにした。これにより、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、有機EL素子と同様に構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【0014】
本発明の第2の発光素子、第2の発光パネルおよび第2の発光装置によれば、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まない材料を、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層の材料として用いるようにした。これにより、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、有機EL素子と同様に構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る発光素子の断面図である。
【図2】図1の発光素子の一変形例の断面図である。
【図3】図1の発光素子の他の変形例の断面図である。
【図4】図2の発光素子の他の変形例の断面図である。
【図5】図1の発光素子の発光特性の一例を表した特性図である。
【図6】図1の発光素子の透過率の一例を表した特性図である。
【図7】図1の発光素子の吸収係数の一例を表した特性図である。
【図8】図1の発光素子の抵抗率の一例を表した特性図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る発光素子の断面図である。
【図10】図9の発光素子の一変形例の断面図である。
【図11】図1の発光素子の一適用例に係る表示装置の上面図である。
【図12】図11の画素の断面図である。
【図13】図11の画素の一変形例の断面図である。
【図14】図11の画素の他の変形例の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(希土類元素を含む導電性酸化物で構成された発光素子)
2.第1の実施の形態の変形例
3.第1の実施の形態の実施例
4.第2の実施の形態(希土類元素を含まない導電性酸化物で構成された発光素子)
5.第2の実施の形態の変形例
6.適用例(実施の形態の発光素子を複数備えた表示装置)
7.適用例の変形例
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子1の断面構成の一例を表したものである。この発光素子1は、表示装置の画素や、バックライト、照明装置などに好適に用いられるものである。この発光素子1は、例えば、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を基板10側から順に積層して構成されている。第1導電層12および第2導電層13は互いに接しており、pn接合層を構成している。
【0018】
第1導電層12および第2導電層13のいずれか一方が本発明の「p型導電層」の一具体例に相当する。第1導電層12および第2導電層13のうち本発明の「p型導電層」の一具体例に相当しない方が本発明の「n型導電層」の一具体例に相当する。また、互いに接合された第1導電層12および第2導電層13が本発明の「pn接合層」の一具体例に相当する。
【0019】
基板10は、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を形成する際の高温(例えば数百度程度)に耐え得る耐熱性を有しており、例えば、ガラス基板、石英ガラス基板、シリコン(Si)基板などにより構成されている。発光素子1が基板10側から光を射出するタイプ(ボトムエミッション型)である場合には、基板10は、発光した光(発光光)に対して透明な材料によって構成されていることが好ましい。発光素子1が基板10とは反対側から光を射出するタイプ(トップエミッション型)である場合には、基板10は、発光光に対して透明な材料によって構成されている必要はなく、発光光を反射したり吸収したりする材料によって構成されていてもよい。基板10は、絶縁性であってもよいし、導電性であってもよい。
【0020】
電極層11,14は、pn接合層(第1導電層12および第2導電層13)に電圧を印加するためのものである。電極層11,14は、導電性材料、例えば、金属や、ITO(Indium Tin Oxide;スズ添加酸化インジウム)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタンなどの透明導電膜によって構成されている。発光素子1がボトムエミッション型である場合には、電極層11は、発光光に対して透明な材料(例えば、上で例示した透明導電膜)によって構成されていることが好ましい。このとき、電極14は、発光光に対して透明な材料によって構成されている必要はなく、発光光を反射する材料(例えば金属)によって構成されていてもよい。一方、発光素子1がトップエミッション型である場合には、電極14は、発光光に対して透明な材料(例えば、上で例示した透明導電膜)によって構成されていることが好ましい。このとき、電極層11は、発光光に対して透明な材料によって構成されている必要はなく、発光光を反射する材料(例えば金属)によって構成されていてもよい。
【0021】
第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものである。第1導電層12および第2導電層13のうち、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成された層以外の層は、希土類の添加されていない導電性酸化物によって構成されている。第1導電層12および第2導電層13は、互いに異なる導電型となっている。例えば、第1導電層12がn型の導電型となっており、第2導電層13がp型の導電型となっている。また、例えば、第1導電層12がp型の導電型となっており、第2導電層13がn型の導電型となっている。
【0022】
導電性酸化物の導電性は、例えば、p型不純物やn型不純物をドープすることにより付与することが可能である。p型不純物としては、例えば、母材がIV族元素である場合には、III属元素が挙げられる。n型不純物としては、例えば、母材がIV族元素である場合には、V属元素が挙げられる。なお、酸化物の材料によってはn型不純物になりやすい性質を有しているものがある。そのような材料に対しては、不純物のドーピングは不要である。
【0023】
導電性酸化物としては、例えば、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、スズ添加酸化インジウムなどが挙げられる。なお、導電性酸化物として、ドーピングにより導電性を発現する酸化物、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化ニッケル(NiO)、Ga2O3などが用いられてもよい。希土類元素としては、例えば、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)またはガドリニウム(Gd)などが挙げられる。希土類元素の種類に応じて発光色が異なる。母材によっても発光波長は変化するので一概には言えないが、例えば、Teの場合には緑色帯の波長で発光が生じ、Euの場合には赤色帯の波長で発光が生じ、Ceの場合には青色帯の波長で発光が生じ、Gdの場合には紫外帯の波長で発光が生じる。
【0024】
第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップは、発光波長に相当するエネルギーよりも大きくなっていることが必要である。例えば、発光波長が紫外から赤外の範囲内にある場合には、導電性酸化物のバンドギャップが、3〜4eV程度あることが好ましい。
【0025】
この発光素子1は、例えば次のようにして製造することができる。なお、以下では、電極層11,14を、スズ添加酸化インジウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタンなどの透明導電膜で形成する場合について説明する。
【0026】
まず、基板10上に、例えば、蒸着法を用いて、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dを積層する。蒸着方法としては、例えば、酸素ガス中で金属を蒸着することにより導電性酸化物を成膜したり、導電性酸化物自体を蒸着することにより導電性酸化物を成膜したりする方法を採ることが可能である。このとき、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dからなる積層体は、例えば、基板10の上面全体に形成されている。なお、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dは、この後の工程を経ることにより、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14になるものであり、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14となる前段階のものであることを意味している。
【0027】
次に、電極層14上に、所定の開口を有するレジスト層(図示せず)を形成したのち、例えば、ドライエッチング法を用いて、レジスト層をマスクとして、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dを選択的にエッチングする。その結果、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14からなる積層体が形成される。このようにして、発光素子1が製造される。
【0028】
なお、上記の製造工程において、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dの中で1つまたは複数の層を、ミストCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成してもよい。ここで、ミストCVD法とは、以下に例示したような方法のことを指す。まず、成膜しようとする材料の構成元素を含む化合物水溶液と、成膜用の基板を大気圧下のチャンバ内に載置する。次に、基板を所定の温度にまで加熱した上で、化合物水溶液に超音波を印加することにより、成膜しようとする材料の構成元素を含む霧状の微粒子(ミスト)を形成すると共に、チャンバ内に母ガスを供給し、ミストをガス流に乗せて基板上に輸送する。その結果、ミストが基板表面と化学反応し、基板表面上に、所望の膜が形成される。このミストCVD法は、大気圧下、かつ低温で成膜することが可能であることから、簡易、安価かつ安全な成膜方法と言える。
【0029】
また、上記の製造工程において、蒸着法の代わりに、ミストCVD法を用いて、基板10上に、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dを積層してもよい。このとき、これらの層の中で1つまたは複数の層を、蒸着法を用いて形成してもよい。
【0030】
なお、電極層11または電極層14を金属で形成する場合には、金属で形成する層については、蒸着法またはスパッタ法を用いて成膜すればよい。
【0031】
次に、本実施の形態の発光素子1の作用および効果について説明する。
【0032】
本実施の形態では、pn接合層(第1導電層12および第2導電層13)の少なくとも一方が、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されている。さらに、pn接合層のうち、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成された層以外の層は、希土類の添加されていない導電性酸化物によって構成されている。これにより、pn接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって生じたエネルギーで希土類元素が励起され、希土類元素が励起状態から基底状態に戻るときに放出するエネルギーに相当する波長で発光が生じる。
【0033】
ここで、導電性酸化物は、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、例えば、水蒸気を用いた大気プロセスを用いて成膜することが可能である。また、真空装置を用いる場合であっても、有機EL素子の製造に際して用いられるような特殊な真空装置を用いる必要がないので、真空装置の操作や保守が簡単である。また、導電性酸化物が水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有していることから、素子の経時的な劣化がほとんどない。
【0034】
以上のことから、本実施の形態では、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、発光機構として単純な積層構造が用いられており、有機EL素子と同様に構造が単純であることから、発光素子1は軽量化や薄型化に向いている。また、本実施の形態では、上記した蒸着法やミストCVD法を用いて発光素子1を製造することが可能であることから、発光素子1を安価に提供することが可能である。
【0035】
<変形例>
上記実施の形態では、第1導電層12および第2導電層13が互いに接していたが、例えば、図2に示したように、これらの間に、発光層15が設けられていてもよい。この場合には、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が、酸化物に希土類元素を添加して構成されている。ここで、発光層15は、ノンドープ(またはアンドープ)の酸化物(希土類添加の酸化物)によって構成されている。第1導電層12および発光層15は互いに接しており、かつ第2導電層13および発光層15が互いに接している。従って、第1導電層12、第2導電層13および発光層15は、pin接合層を構成している。
【0036】
なお、発光層15が本発明の「i型導電層」の一具体例に相当する。また、第1導電層12、第2導電層13および発光層15が本発明の「pin接合層」の一具体例に相当する。
【0037】
第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップは、上記実施の形態と同様、発光波長に相当するエネルギーよりも大きくなっていることが必要である。例えば、発光波長が紫外から赤外の範囲内にある場合には、導電性酸化物のバンドギャップが、3〜4eV程度あることが好ましい。
【0038】
発光層15のバンドギャップが、第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップよりも小さくなっている方が好ましい。このように、pin接合層がダブルへテロ構造となっている場合には、電子および正孔の閉じ込め性を良くすることができ、発光効率を高くすることができる。バンドギャップを狭くするためには、例えば、バンドギャップが狭くなるような材料を添加すればよい。なお、発光層15のバンドギャップが、第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップと等しいか、またはほとんど等しくなっていてもよい。
【0039】
また、上記第1の実施の形態およびその変形例では、電極層11が基板10の表面に直接形成されていたが、何らかの層を介して基板上に形成されていてもよい。例えば、図3、図4に示したように、基板10と電極層11との間に、下地層16が設けられていてもよい。下地層16は、例えば、グラファイトシート、シリコン薄膜によって構成されている。グラファイトシートは六方晶系であるので、例えば酸化亜鉛などの六方晶系の酸化膜を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。そのため、グラファイトシート上に、酸化亜鉛などの六方晶系の材料を含む積層体(電極層11、第1導電層12、第2導電層13、電極層14など)を形成した場合に、第1導電層12が電極層14と短絡したり、第2導電層13が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。また、シリコン薄膜は、正方晶系であるので、例えば酸化スズなどの正方晶系の酸化膜を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。そのため、シリコン薄膜上に、酸化スズなどの正方晶系の材料を含む積層体(電極層11、第1導電層12、第2導電層13、電極層14など)を形成した場合に、第1導電層12が電極層14と短絡したり、第2導電層13が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。なお、シリコン薄膜は、例えば、シリコン基板の表面全体に所定のエネルギーで水素イオンを注入してシリコン基板内に水素濃度の高い剥離層を形成したのち、剥離層の上に形成されたシリコン薄膜を、剥離層を利用してシリコン基板から剥離することにより形成可能である。このように、基板10上に下地層16を設けた場合には、電極層11などの材料に依らず、表示装置1を容易に大面積化することが可能である。例えば、まず、大面積のガラス基板や石英ガラス基板を基板10として用意し、基板10の表面に、例えば、多数のグラファイトシートまたはシリコン薄膜を敷きつめて下地層16を形成する。続いて、その上に、下地層16の材料と同一の結晶構造を有する材料を含む電極層11などを積層する。このようにすれば、電極層11などの材料に依らず、表示装置1を容易に大面積化することができる。
【0040】
なお、基板10がシリコン基板であり、かつ、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14が、正方晶系の材料(例えば酸化スズ)を含んで構成されている場合には、上記のような下地層16は不要である。シリコン基板は、正方晶系の材料によって構成されており、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を、少ない結晶欠陥で形成することができるからである。従って、この場合においても、シリコン基板上に、第1導電層12、第2導電層13、電極層14などを形成したときに、第1導電層12が電極層14と短絡したり、第2導電層13が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。
【0041】
<実施例>
以下に、上記実施の形態の発光素子1の実施例について説明する。
【0042】
図5(A),(B)は、石英ガラス基板上に、SnO2にTbを濃度3%で添加した層を形成し、その表面に325nm、8mWのHe−Cdレーザのレーザ光を照射したときに得られたフォトルミネッセンスのスペクトルである。図5(A)はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中でアニールを施した場合のスペクトルを、図5(B)はSnO2にTbを添加した層に対してアルゴンガス中でアニールを施した場合のスペクトルをそれぞれ示したものである。このとき、基板10の温度を500℃、基板10の厚さを500μm、酸素ガス中でのアニール温度を600℃、700℃または800℃として、スペクトルを計測した。励起光の波長が325nmとなっているのは、SnO2のバンドギャップ(約3.3eV)よりも大きなエネルギーに相当する波長の光をSnO2に照射し、SnO2からのエネルギー移動によりTb3+を間接的に励起させるためである。
【0043】
図5(A)から、酸素ガス中でアニールを行った場合には、アニール温度が700℃以上となっているときに、545nmの緑色の発光が得られることがわかった。図5(B)からは、アルゴンガス中でアニールを行った場合には、全てのサンプルにおいて、545nmの緑色の発光が得られるものの、発光光にはそれ以外の波長成分もかなりの割合で含まれていることがわかった。なお、このような発光特性が得られた理由については、後述する。
【0044】
図6(A),(B)は、ガラス基板上に、SnO2にTbを濃度3%で添加した層を形成し、その層の光透過率を、紫外可視分光光度計を用いて測定することにより得られた結果を示したものである。図6(A)はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中でアニールを施した場合の結果を、図6(B)はSnO2にTbを添加した層に対してアルゴンガス中でアニールを施した場合の結果をそれぞれ示したものである。
【0045】
図6(A)から、酸素ガス中で、600℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約400nmと大きいことがわかった。一方、酸素ガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約300nm前後と小さいことがわかった。また、700℃、800℃のサンプルにおける透過率が、600℃のサンプルにおける透過率よりも良くなっていることもわかった。これは、600℃のサンプルでは、アニール工程において、酸化が十分に行われず、可視光域では透明であるSnO2が十分に形成されていなかったと考えられる。
【0046】
図6(B)から、アルゴンガス中で、600℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約400nmと大きいことがわかった。一方、アルゴンガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約300nm付近と小さいことがわかった。また、700℃、800℃のサンプルにおける透過率は、酸素ガス中でアニールを行った場合と同様、600℃のサンプルにおける透過率よりも良くなっていることがわかった。
【0047】
図7(A),(B)は、図6(A),(B)の光透過率から導出した吸収係数を示したものである。図7(A)はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中でアニールを施した場合の結果を、図7(B)はSnO2にTbを添加した層に対してアルゴンガス中でアニールを施した場合の結果をそれぞれ示したものである。
【0048】
図7(A)から、酸素ガス中で、600℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約2.45eVであり、Tb3+の励起準位である5D4のエネルギー(約2.60eV)よりも低くなっていることがわかった。従って、図5(A)に示したように、SnO2を介したTb3+の間接励起が行われなかったと考えられる。一方、酸素ガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約3.3eV、約3.5eVであり、Tb3+の励起準位である5D4のエネルギーよりも高くなっていることがわかった。従って、図5(A)に示したように、SnO2を介したTb3+の間接励起が行われ、緑色で発光したものと考えられる。
【0049】
図7(B)から、アルゴンガス中で、600℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約2.7eVであり、アルゴンガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約3.3eVであった。つまり、アルゴンガス中でアニールを行った場合には、全てのサンプルにおいて、バンドギャップがTb3+の励起準位である5D4のエネルギーよりも高くなっていることがわかった。従って、図5(B)に示したように、SnO2を介したTb3+の間接励起が行われ、緑色で発光したものと考えられる。
【0050】
以上のことから、アニール温度を700℃〜800℃と高温にした場合には、SnO2にTbを添加した層から545nmの緑色光を得ることができることがわかった。また、アニール温度を700℃にして、酸素ガス中でアニールを行った場合には、SnO2にTbを添加した層から545nmの緑色光を高強度で得ることができることがわかった。
【0051】
図8は、ガラス基板上に、SnO2にTbを濃度3%で添加した層を形成し、その層の抵抗率の測定結果を示したものである。図8はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中またはアルゴンガス中でアニールを施した場合の結果を示したものである。図8から、抵抗率がアニール温度およびアニールガスによって異なっているが、600℃〜800℃であれば、0.1Ωcm未満と、十分に小さいことがわかった。
【0052】
以上のことから、アニール温度を700℃〜800℃と高温にした場合には、透過率、干渉縞および抵抗率の点で、良好な特性が得られることがわかった。従って、アニール温度を700℃〜800℃と高温にすることにより、良質なデバイスを得ることができることがわかった。
【0053】
<第2の実施の形態>
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る発光素子2の断面構成の一例を表したものである。この発光素子2は、表示装置の画素や、バックライト、照明装置などに好適に用いられるものである。この発光素子2は、例えば、基板40上に、グラファイト層41、電極層11、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43および電極層14を基板40側から順に積層して構成されている。第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43は互いに接しており、pn接合層を構成している。
【0054】
第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43のいずれか一方が本発明の「p型導電層」の一具体例に相当する。第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43のうち本発明の「p型導電層」の一具体例に相当しない方が本発明の「n型導電層」の一具体例に相当する。また、互いに接合された第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43が本発明の「pn接合層」の一具体例に相当する。
【0055】
グラファイト層41は、電極層11に接しており、電極層11、第1導電層41、第2導電層42および電極層14を結晶成長させる際の下地(成長基板)としての役割を有している。グラファイト層41は、例えば、グラファイトシートによって構成されている。グラファイトシートは六方晶系であるので、例えばZnOなどの六方晶系の酸化膜を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。また、現在、大面積(数十cm角)のグラファイトシートが市販されており、大面積での単結晶成長が可能である。
【0056】
第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43は、ZnOを主に含んで構成されたものである。第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43は、互いに異なる導電型となっている。例えば、第1導電ZnO層42がn型の導電型となっており、第2導電導電ZnO層43がp型の導電型となっている。また、例えば、第1導電ZnO層42がp型の導電型となっており、第2導電導電ZnO層43がn型の導電型となっている。
【0057】
ZnOの導電性は、例えば、p型不純物やn型不純物をドープすることにより付与することが可能である。p型不純物としては、例えば、窒素(N)などのV属元素が挙げられる。n型不純物としては、例えば、アルミニウム(Al)やガリウム(Ga)などのIII属元素が挙げられる。ZnOの発光色は、成長条件、またはドープする材料を変えることにより調整することが可能である。例えば、成長条件を適宜、設定することにより、ZnOから赤色や緑色の光を発生させることが可能である。また、例えば、ZnOにカドミウム(Cd)をドープすることにより、ZnOから青色の光を発生させることが可能である。
【0058】
本実施の形態では、pn接合層(第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43)が、例えば、適宜に設定された成長条件によって作製されたZnO、またはCdのドープされたZnOを主に含んで構成されている。これにより、pn接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって発光が生じる。
【0059】
ここで、ZnOは、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、例えば、水蒸気を用いた大気プロセスを用いて成膜することが可能である。また、真空装置を用いる場合であっても、有機EL素子の製造に際して用いられるような特殊な真空装置を用いる必要がないので、真空装置の操作や保守が簡単である。また、ZnOが水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有していることから、素子の経時的な劣化がほとんどない。また、pn接合層またはpin接合層の材料および、pn接合層またはpin接合層の下地として、六方晶系の材料が用いられているので、グラファイトシート上に酸化亜鉛の層を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。そのため、グラファイトシート上に電極層11、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43、電極層14などを形成した場合に、第1導電ZnO層42が電極層14と短絡したり、第2導電導電ZnO層43が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。
【0060】
以上のことから、本実施の形態では、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、発光機構として単純な積層構造が用いられており、有機EL素子と同様に構造が単純であることから、発光素子1は軽量化や薄型化に向いている。また、本実施の形態では、上記第1の実施の形態と同様、蒸着法やミストCVD法を用いて発光素子2を製造することが可能であることから、発光素子2を安価に提供することが可能である。
【0061】
<変形例>
上記第2の実施の形態では、第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43が互いに接していたが、例えば、図10に示したように、これらの間に、発光層45が設けられていてもよい。この場合には、発光層45は、第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43と同様に、ZnOを主に含んで構成されている。第1導電ZnO層42および発光層45は互いに接しており、かつ第2導電導電ZnO層43および発光層45が互いに接している。従って、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43および発光層45は、pin接合層を構成している。
【0062】
なお、発光層45が本発明の「i型導電層」の一具体例に相当する。また、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43および発光層45が本発明の「pin接合層」の一具体例に相当する。
【0063】
<適用例>
次に、上記第1の実施の形態およびその変形例の一適用例について説明する。図11は、上記実施の形態および上記変形例の発光素子1を用いた表示装置3(発光装置)の上面構成の一例を表したものである。この表示装置3は、例えば、表示パネル20と、後述するように表示パネル20内に形成された発光素子1を駆動する駆動回路部(図示せず)とを備えたものである。
【0064】
表示パネル20は、表示領域に複数の発光素子1がマトリクス状に配置されたものである。複数の発光素子1が、例えば、3種類の発光素子からなっている。例えば、一の発光素子1が赤色の光を発生する発光素子1Rとなっている。また、他の発光素子1が緑色の光を発生する発光素子1Gとなっており、さらに、残りの発光素子1が青色の光を発生する発光素子1Bとなっている。そして、発光素子1R,1G,1Bによって一つの画素30が構成されている。
【0065】
図12は、図11の表示パネル4のA−A矢視方向の断面構成の一例を表したものである。図12には、一つの画素30の断面構成の一例が示されている。なお、図12には、発光素子1として図1に例示した構成を有するものが示されているが、発光素子1として他の構成(図2、図3または図4に例示した構成)を有するものが用いられていてもよい。
【0066】
画素30は、例えば、図12に示したように、基板10上に、3種類の発光素子1R,1G,1Bを有している。発光素子1R,1G,1Bは、例えば、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を基板10側から順に積層して構成されている。第1導電層12および第2導電層13は互いに接しており、pn接合層を構成している。なお、発光素子1として図2または図4に例示した構成を有するものが用いられている場合には、第1導電層12、第2導電層13および発光層15は互いに接しており、pin接合層を構成している。
【0067】
ここで、発光素子1Rでは、第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素(Eu)を添加して構成されている。また、発光素子1Gでは、第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素(Tb)を添加して構成されている。また、発光素子1Bでは、第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素(Ce)を添加して構成されている。
【0068】
なお、発光素子1として図2または図4に例示した構成を有するものが用いられている場合には、発光素子1Rでは、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が酸化物に希土類元素(Eu)を添加して構成されている。また、発光素子1Gでは、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が酸化物に希土類元素(Tb)を添加して構成されている。また、発光素子1Bでは、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が酸化物に希土類元素(Ce)を添加して構成されている。
【0069】
各発光素子1R,1G,1Bの電極層11は、例えば、図12に示したように、互いに別個に形成されていてもよいし、例えば、図13に示したように、互いに一体に形成されていてもよい。基板10が絶縁性を有している場合には、各発光素子1R,1G,1Bの電極層11は、それぞれ、例えば、図14に示したように、第1導電層12と直接に接しない領域11Aを有していることが好ましい。その場合には、領域11Aを外部のデバイスと接続する電極パッドとして用いることが可能である。また、基板10が導電性を有している場合であっても、電極層11に、第1導電層12と直接に接しない領域11Aを設け、領域11Aを外部のデバイスと接続する電極パッドとして用いることが可能である。基板10が導電性を有している場合には、基板10の裏面に金属層(図示せず)を新たに設け、その金属層を各発光素子1R,1G,1Bの共通電極として用いることも可能である。
【0070】
本適用例に係る表示装置3では、各発光素子1R,1G,1Bにおいて、pn接合層(第1導電層12および第2導電層13)の少なくとも一方、またはpin接合層(第1導電層12、第2導電層13および発光層15)のうち少なくとも発光層15が、酸化物に希土類元素を添加して構成されている。これにより、pn接合層またはpin接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって生じたエネルギーで希土類元素が励起され、希土類元素が励起状態から基底状態に戻るときに放出するエネルギーに相当する波長で発光が生じる。従って、例えば、Euの添加された発光素子1Rでは赤色の光が生じ、Tbの添加された発光素子1Rでは緑色の光が生じ、Ceの添加された発光素子1Bでは青色の光が生じる。
【0071】
ここで、各発光素子1R,1G,1Bに用いられている導電性酸化物は、上述したように、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。さらに、各発光素子1R,1G,1Bにおいて、発光機構としてヘテロ構造が用いられている。従って、本適用例では、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、有機EL素子と同様に構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【0072】
<変形例>
上記適用例では、基板上に、各色を発光する発光素子1R,1G,1Bが設けられていたが、単一色を発光する発光素子1が設けられていてもよい。例えば、単一色を発光する発光素子1として白色を発光するものが設けられていてもよい。この場合に、例えば、発光素子1の光射出側にRGB3色のカラーフィルタを設けることも可能である。このカラーフィルタは、一の発光素子1の光射出面に赤色用のフィルタを有し、他の発光素子1の光射出面に緑色用のフィルタを有し、残りの発光素子1の光射出面に青色用のフィルタを有している。
【0073】
また、例えば、単一色を発光する発光素子1として青色を発光するものが設けられていてもよい。この場合に、例えば、発光素子1の光射出側にRGB3色の色変換フィルタを設けることも可能である。この色変換フィルタは、一の発光素子1の光射出面に青色を赤色に変換する変換層を有し、他の発光素子1の光射出面に青色を緑色に変換する変換層を有し、残りの発光素子1の光射出面に青色光を透過する無変換層を有している。
【0074】
また、上記適用例およびその変形例では、上記実施の形態および上記変形例の発光素子1を表示装置に適用した場合が例示されていたが、バックライト、照明装置などの他のデバイスに適用することももちろん可能である。
【0075】
また、上記適用例およびその変形例では、表示装置3の光源として発光素子1を用いた場合について説明したが、第2の実施の形態の発光素子2を用いることももちろん可能である。
【符号の説明】
【0076】
1,1R,1G,1B,2…発光素子、3…表示装置、10,40…基板、11,14…電極層、11A…領域、12…第1導電型層、13…第2導電型層、15,44…発光層、16…下地層、20…表示パネル、30…画素、41…グラファイト層、42…第1導電導電ZnO層、43…第2導電導電ZnO層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、pn接合またはpin接合を有する発光素子およびその製造方法、ならびにそのような発光素子を備えた発光パネルおよび発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、フラットパネルディスプレイの主流は液晶である。しかし、液晶は自発光型ではないので、液晶ディスプレイでは、光源(バックライト)や、偏光板、カラーフィルタなどの多くの部品が必要となり、構造が複雑化せざるを得ない。そこで、近年、液晶ディスプレイに代わる表示装置として、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイが実用化されている(特許文献1参照)。有機ELディスプレイでは、自発光型の有機EL素子が用いられている。そのため、光源や偏光板、カラーフィルタなどが必要ないので、構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−052932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、有機EL素子は、水分や酸素の僅かな混入によって劣化する。そのため、素子寿命が短いという問題があった。また、製造工程において、水分や酸素が混入するのを防止するために、各発光色に対応した有機EL素子を真空中で別個に形成するという特殊なプロセスが必要であり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、素子寿命や製造コストの点で有機EL素子よりも有利であり、かつ有機EL素子と同様に構造が単純で、軽量化や薄型化に向いた新たな発光素子およびその製造方法、ならびにそのような発光素子を備えた発光パネルおよび発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発光素子は、基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備えたものである。pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものである。導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである。
【0007】
本発明の第1の発光パネルは、2次元配置された複数の発光素子を備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第1の発光素子と同一の構成要素を有している。本発明の第1の発光装置は、2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、発光素子を駆動する駆動回路部とを備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第1の発光素子と同一の構成要素を有している。
【0008】
本発明の発光素子の製造方法は、基板の上に、蒸着法またはミストCVD法を用いて、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を形成する工程を含むものである。ここで、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものである。導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである。
【0009】
本発明の第1の発光素子、第1の発光パネルおよび第1の発光装置、ならびに発光素子の製造方法では、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層が、上で示した導電性酸化物に、上で示した希土類元素を添加して構成されている。ここで、導電性酸化物は、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、しかも素子の経時的な劣化がほとんどない。また、発光機構として、有機EL素子と同様の単純な積層構造が用いられている。
【0010】
本発明の第2の発光素子は、基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備えたものである。基板は、pn接合層側またはpin接合層側の最表面にグラファイトシートを有している。pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである。
【0011】
本発明の第2の発光パネルは、2次元配置された複数の発光素子を備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第2の発光素子と同一の構成要素を有している。本発明の第2の発光装置は、2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、発光素子を駆動する駆動回路部とを備えたものである。この発光パネルに設けられた複数の発光素子は、上記の第2の発光素子と同一の構成要素を有している。
【0012】
本発明の第2の発光素子、第2の発光パネルおよび第2の発光装置では、pn接合層またはpin接合層は、グラファイトシートを介して基板上に形成されている。pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層が、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されている。ここで、酸化亜鉛は、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、しかも素子の経時的な劣化がほとんどない。また、pn接合層またはpin接合層の材料および、pn接合層またはpin接合層の下地として、六方晶系の材料が用いられているので、グラファイトシート上に酸化亜鉛の層を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。さらに、発光機構として、有機EL素子と同様の単純な積層構造が用いられており、積層構造の成長条件、または積層構造にドープする材料を変えることにより、例えば、赤色、緑色または青色などの光を発生させることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の発光素子、第1の発光パネルおよび第1の発光装置、ならびに発光素子の製造方法によれば、導電性酸化物に希土類元素を添加したものを、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層の材料として用いるようにした。これにより、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、有機EL素子と同様に構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【0014】
本発明の第2の発光素子、第2の発光パネルおよび第2の発光装置によれば、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まない材料を、pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、またはpin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層の材料として用いるようにした。これにより、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、有機EL素子と同様に構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る発光素子の断面図である。
【図2】図1の発光素子の一変形例の断面図である。
【図3】図1の発光素子の他の変形例の断面図である。
【図4】図2の発光素子の他の変形例の断面図である。
【図5】図1の発光素子の発光特性の一例を表した特性図である。
【図6】図1の発光素子の透過率の一例を表した特性図である。
【図7】図1の発光素子の吸収係数の一例を表した特性図である。
【図8】図1の発光素子の抵抗率の一例を表した特性図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る発光素子の断面図である。
【図10】図9の発光素子の一変形例の断面図である。
【図11】図1の発光素子の一適用例に係る表示装置の上面図である。
【図12】図11の画素の断面図である。
【図13】図11の画素の一変形例の断面図である。
【図14】図11の画素の他の変形例の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(希土類元素を含む導電性酸化物で構成された発光素子)
2.第1の実施の形態の変形例
3.第1の実施の形態の実施例
4.第2の実施の形態(希土類元素を含まない導電性酸化物で構成された発光素子)
5.第2の実施の形態の変形例
6.適用例(実施の形態の発光素子を複数備えた表示装置)
7.適用例の変形例
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子1の断面構成の一例を表したものである。この発光素子1は、表示装置の画素や、バックライト、照明装置などに好適に用いられるものである。この発光素子1は、例えば、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を基板10側から順に積層して構成されている。第1導電層12および第2導電層13は互いに接しており、pn接合層を構成している。
【0018】
第1導電層12および第2導電層13のいずれか一方が本発明の「p型導電層」の一具体例に相当する。第1導電層12および第2導電層13のうち本発明の「p型導電層」の一具体例に相当しない方が本発明の「n型導電層」の一具体例に相当する。また、互いに接合された第1導電層12および第2導電層13が本発明の「pn接合層」の一具体例に相当する。
【0019】
基板10は、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を形成する際の高温(例えば数百度程度)に耐え得る耐熱性を有しており、例えば、ガラス基板、石英ガラス基板、シリコン(Si)基板などにより構成されている。発光素子1が基板10側から光を射出するタイプ(ボトムエミッション型)である場合には、基板10は、発光した光(発光光)に対して透明な材料によって構成されていることが好ましい。発光素子1が基板10とは反対側から光を射出するタイプ(トップエミッション型)である場合には、基板10は、発光光に対して透明な材料によって構成されている必要はなく、発光光を反射したり吸収したりする材料によって構成されていてもよい。基板10は、絶縁性であってもよいし、導電性であってもよい。
【0020】
電極層11,14は、pn接合層(第1導電層12および第2導電層13)に電圧を印加するためのものである。電極層11,14は、導電性材料、例えば、金属や、ITO(Indium Tin Oxide;スズ添加酸化インジウム)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタンなどの透明導電膜によって構成されている。発光素子1がボトムエミッション型である場合には、電極層11は、発光光に対して透明な材料(例えば、上で例示した透明導電膜)によって構成されていることが好ましい。このとき、電極14は、発光光に対して透明な材料によって構成されている必要はなく、発光光を反射する材料(例えば金属)によって構成されていてもよい。一方、発光素子1がトップエミッション型である場合には、電極14は、発光光に対して透明な材料(例えば、上で例示した透明導電膜)によって構成されていることが好ましい。このとき、電極層11は、発光光に対して透明な材料によって構成されている必要はなく、発光光を反射する材料(例えば金属)によって構成されていてもよい。
【0021】
第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものである。第1導電層12および第2導電層13のうち、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成された層以外の層は、希土類の添加されていない導電性酸化物によって構成されている。第1導電層12および第2導電層13は、互いに異なる導電型となっている。例えば、第1導電層12がn型の導電型となっており、第2導電層13がp型の導電型となっている。また、例えば、第1導電層12がp型の導電型となっており、第2導電層13がn型の導電型となっている。
【0022】
導電性酸化物の導電性は、例えば、p型不純物やn型不純物をドープすることにより付与することが可能である。p型不純物としては、例えば、母材がIV族元素である場合には、III属元素が挙げられる。n型不純物としては、例えば、母材がIV族元素である場合には、V属元素が挙げられる。なお、酸化物の材料によってはn型不純物になりやすい性質を有しているものがある。そのような材料に対しては、不純物のドーピングは不要である。
【0023】
導電性酸化物としては、例えば、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、スズ添加酸化インジウムなどが挙げられる。なお、導電性酸化物として、ドーピングにより導電性を発現する酸化物、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化ニッケル(NiO)、Ga2O3などが用いられてもよい。希土類元素としては、例えば、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)またはガドリニウム(Gd)などが挙げられる。希土類元素の種類に応じて発光色が異なる。母材によっても発光波長は変化するので一概には言えないが、例えば、Teの場合には緑色帯の波長で発光が生じ、Euの場合には赤色帯の波長で発光が生じ、Ceの場合には青色帯の波長で発光が生じ、Gdの場合には紫外帯の波長で発光が生じる。
【0024】
第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップは、発光波長に相当するエネルギーよりも大きくなっていることが必要である。例えば、発光波長が紫外から赤外の範囲内にある場合には、導電性酸化物のバンドギャップが、3〜4eV程度あることが好ましい。
【0025】
この発光素子1は、例えば次のようにして製造することができる。なお、以下では、電極層11,14を、スズ添加酸化インジウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタンなどの透明導電膜で形成する場合について説明する。
【0026】
まず、基板10上に、例えば、蒸着法を用いて、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dを積層する。蒸着方法としては、例えば、酸素ガス中で金属を蒸着することにより導電性酸化物を成膜したり、導電性酸化物自体を蒸着することにより導電性酸化物を成膜したりする方法を採ることが可能である。このとき、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dからなる積層体は、例えば、基板10の上面全体に形成されている。なお、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dは、この後の工程を経ることにより、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14になるものであり、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14となる前段階のものであることを意味している。
【0027】
次に、電極層14上に、所定の開口を有するレジスト層(図示せず)を形成したのち、例えば、ドライエッチング法を用いて、レジスト層をマスクとして、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dを選択的にエッチングする。その結果、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14からなる積層体が形成される。このようにして、発光素子1が製造される。
【0028】
なお、上記の製造工程において、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dの中で1つまたは複数の層を、ミストCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成してもよい。ここで、ミストCVD法とは、以下に例示したような方法のことを指す。まず、成膜しようとする材料の構成元素を含む化合物水溶液と、成膜用の基板を大気圧下のチャンバ内に載置する。次に、基板を所定の温度にまで加熱した上で、化合物水溶液に超音波を印加することにより、成膜しようとする材料の構成元素を含む霧状の微粒子(ミスト)を形成すると共に、チャンバ内に母ガスを供給し、ミストをガス流に乗せて基板上に輸送する。その結果、ミストが基板表面と化学反応し、基板表面上に、所望の膜が形成される。このミストCVD法は、大気圧下、かつ低温で成膜することが可能であることから、簡易、安価かつ安全な成膜方法と言える。
【0029】
また、上記の製造工程において、蒸着法の代わりに、ミストCVD法を用いて、基板10上に、電極層11D、第1導電層12D、第2導電層13Dおよび電極層14Dを積層してもよい。このとき、これらの層の中で1つまたは複数の層を、蒸着法を用いて形成してもよい。
【0030】
なお、電極層11または電極層14を金属で形成する場合には、金属で形成する層については、蒸着法またはスパッタ法を用いて成膜すればよい。
【0031】
次に、本実施の形態の発光素子1の作用および効果について説明する。
【0032】
本実施の形態では、pn接合層(第1導電層12および第2導電層13)の少なくとも一方が、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されている。さらに、pn接合層のうち、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成された層以外の層は、希土類の添加されていない導電性酸化物によって構成されている。これにより、pn接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって生じたエネルギーで希土類元素が励起され、希土類元素が励起状態から基底状態に戻るときに放出するエネルギーに相当する波長で発光が生じる。
【0033】
ここで、導電性酸化物は、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、例えば、水蒸気を用いた大気プロセスを用いて成膜することが可能である。また、真空装置を用いる場合であっても、有機EL素子の製造に際して用いられるような特殊な真空装置を用いる必要がないので、真空装置の操作や保守が簡単である。また、導電性酸化物が水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有していることから、素子の経時的な劣化がほとんどない。
【0034】
以上のことから、本実施の形態では、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、発光機構として単純な積層構造が用いられており、有機EL素子と同様に構造が単純であることから、発光素子1は軽量化や薄型化に向いている。また、本実施の形態では、上記した蒸着法やミストCVD法を用いて発光素子1を製造することが可能であることから、発光素子1を安価に提供することが可能である。
【0035】
<変形例>
上記実施の形態では、第1導電層12および第2導電層13が互いに接していたが、例えば、図2に示したように、これらの間に、発光層15が設けられていてもよい。この場合には、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が、酸化物に希土類元素を添加して構成されている。ここで、発光層15は、ノンドープ(またはアンドープ)の酸化物(希土類添加の酸化物)によって構成されている。第1導電層12および発光層15は互いに接しており、かつ第2導電層13および発光層15が互いに接している。従って、第1導電層12、第2導電層13および発光層15は、pin接合層を構成している。
【0036】
なお、発光層15が本発明の「i型導電層」の一具体例に相当する。また、第1導電層12、第2導電層13および発光層15が本発明の「pin接合層」の一具体例に相当する。
【0037】
第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップは、上記実施の形態と同様、発光波長に相当するエネルギーよりも大きくなっていることが必要である。例えば、発光波長が紫外から赤外の範囲内にある場合には、導電性酸化物のバンドギャップが、3〜4eV程度あることが好ましい。
【0038】
発光層15のバンドギャップが、第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップよりも小さくなっている方が好ましい。このように、pin接合層がダブルへテロ構造となっている場合には、電子および正孔の閉じ込め性を良くすることができ、発光効率を高くすることができる。バンドギャップを狭くするためには、例えば、バンドギャップが狭くなるような材料を添加すればよい。なお、発光層15のバンドギャップが、第1導電層12および第2導電層13のバンドギャップと等しいか、またはほとんど等しくなっていてもよい。
【0039】
また、上記第1の実施の形態およびその変形例では、電極層11が基板10の表面に直接形成されていたが、何らかの層を介して基板上に形成されていてもよい。例えば、図3、図4に示したように、基板10と電極層11との間に、下地層16が設けられていてもよい。下地層16は、例えば、グラファイトシート、シリコン薄膜によって構成されている。グラファイトシートは六方晶系であるので、例えば酸化亜鉛などの六方晶系の酸化膜を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。そのため、グラファイトシート上に、酸化亜鉛などの六方晶系の材料を含む積層体(電極層11、第1導電層12、第2導電層13、電極層14など)を形成した場合に、第1導電層12が電極層14と短絡したり、第2導電層13が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。また、シリコン薄膜は、正方晶系であるので、例えば酸化スズなどの正方晶系の酸化膜を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。そのため、シリコン薄膜上に、酸化スズなどの正方晶系の材料を含む積層体(電極層11、第1導電層12、第2導電層13、電極層14など)を形成した場合に、第1導電層12が電極層14と短絡したり、第2導電層13が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。なお、シリコン薄膜は、例えば、シリコン基板の表面全体に所定のエネルギーで水素イオンを注入してシリコン基板内に水素濃度の高い剥離層を形成したのち、剥離層の上に形成されたシリコン薄膜を、剥離層を利用してシリコン基板から剥離することにより形成可能である。このように、基板10上に下地層16を設けた場合には、電極層11などの材料に依らず、表示装置1を容易に大面積化することが可能である。例えば、まず、大面積のガラス基板や石英ガラス基板を基板10として用意し、基板10の表面に、例えば、多数のグラファイトシートまたはシリコン薄膜を敷きつめて下地層16を形成する。続いて、その上に、下地層16の材料と同一の結晶構造を有する材料を含む電極層11などを積層する。このようにすれば、電極層11などの材料に依らず、表示装置1を容易に大面積化することができる。
【0040】
なお、基板10がシリコン基板であり、かつ、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14が、正方晶系の材料(例えば酸化スズ)を含んで構成されている場合には、上記のような下地層16は不要である。シリコン基板は、正方晶系の材料によって構成されており、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を、少ない結晶欠陥で形成することができるからである。従って、この場合においても、シリコン基板上に、第1導電層12、第2導電層13、電極層14などを形成したときに、第1導電層12が電極層14と短絡したり、第2導電層13が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。
【0041】
<実施例>
以下に、上記実施の形態の発光素子1の実施例について説明する。
【0042】
図5(A),(B)は、石英ガラス基板上に、SnO2にTbを濃度3%で添加した層を形成し、その表面に325nm、8mWのHe−Cdレーザのレーザ光を照射したときに得られたフォトルミネッセンスのスペクトルである。図5(A)はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中でアニールを施した場合のスペクトルを、図5(B)はSnO2にTbを添加した層に対してアルゴンガス中でアニールを施した場合のスペクトルをそれぞれ示したものである。このとき、基板10の温度を500℃、基板10の厚さを500μm、酸素ガス中でのアニール温度を600℃、700℃または800℃として、スペクトルを計測した。励起光の波長が325nmとなっているのは、SnO2のバンドギャップ(約3.3eV)よりも大きなエネルギーに相当する波長の光をSnO2に照射し、SnO2からのエネルギー移動によりTb3+を間接的に励起させるためである。
【0043】
図5(A)から、酸素ガス中でアニールを行った場合には、アニール温度が700℃以上となっているときに、545nmの緑色の発光が得られることがわかった。図5(B)からは、アルゴンガス中でアニールを行った場合には、全てのサンプルにおいて、545nmの緑色の発光が得られるものの、発光光にはそれ以外の波長成分もかなりの割合で含まれていることがわかった。なお、このような発光特性が得られた理由については、後述する。
【0044】
図6(A),(B)は、ガラス基板上に、SnO2にTbを濃度3%で添加した層を形成し、その層の光透過率を、紫外可視分光光度計を用いて測定することにより得られた結果を示したものである。図6(A)はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中でアニールを施した場合の結果を、図6(B)はSnO2にTbを添加した層に対してアルゴンガス中でアニールを施した場合の結果をそれぞれ示したものである。
【0045】
図6(A)から、酸素ガス中で、600℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約400nmと大きいことがわかった。一方、酸素ガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約300nm前後と小さいことがわかった。また、700℃、800℃のサンプルにおける透過率が、600℃のサンプルにおける透過率よりも良くなっていることもわかった。これは、600℃のサンプルでは、アニール工程において、酸化が十分に行われず、可視光域では透明であるSnO2が十分に形成されていなかったと考えられる。
【0046】
図6(B)から、アルゴンガス中で、600℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約400nmと大きいことがわかった。一方、アルゴンガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、吸収端波長が約300nm付近と小さいことがわかった。また、700℃、800℃のサンプルにおける透過率は、酸素ガス中でアニールを行った場合と同様、600℃のサンプルにおける透過率よりも良くなっていることがわかった。
【0047】
図7(A),(B)は、図6(A),(B)の光透過率から導出した吸収係数を示したものである。図7(A)はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中でアニールを施した場合の結果を、図7(B)はSnO2にTbを添加した層に対してアルゴンガス中でアニールを施した場合の結果をそれぞれ示したものである。
【0048】
図7(A)から、酸素ガス中で、600℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約2.45eVであり、Tb3+の励起準位である5D4のエネルギー(約2.60eV)よりも低くなっていることがわかった。従って、図5(A)に示したように、SnO2を介したTb3+の間接励起が行われなかったと考えられる。一方、酸素ガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約3.3eV、約3.5eVであり、Tb3+の励起準位である5D4のエネルギーよりも高くなっていることがわかった。従って、図5(A)に示したように、SnO2を介したTb3+の間接励起が行われ、緑色で発光したものと考えられる。
【0049】
図7(B)から、アルゴンガス中で、600℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約2.7eVであり、アルゴンガス中で、700℃、800℃でアニールを行った場合には、バンドギャップが約3.3eVであった。つまり、アルゴンガス中でアニールを行った場合には、全てのサンプルにおいて、バンドギャップがTb3+の励起準位である5D4のエネルギーよりも高くなっていることがわかった。従って、図5(B)に示したように、SnO2を介したTb3+の間接励起が行われ、緑色で発光したものと考えられる。
【0050】
以上のことから、アニール温度を700℃〜800℃と高温にした場合には、SnO2にTbを添加した層から545nmの緑色光を得ることができることがわかった。また、アニール温度を700℃にして、酸素ガス中でアニールを行った場合には、SnO2にTbを添加した層から545nmの緑色光を高強度で得ることができることがわかった。
【0051】
図8は、ガラス基板上に、SnO2にTbを濃度3%で添加した層を形成し、その層の抵抗率の測定結果を示したものである。図8はSnO2にTbを添加した層に対して酸素ガス中またはアルゴンガス中でアニールを施した場合の結果を示したものである。図8から、抵抗率がアニール温度およびアニールガスによって異なっているが、600℃〜800℃であれば、0.1Ωcm未満と、十分に小さいことがわかった。
【0052】
以上のことから、アニール温度を700℃〜800℃と高温にした場合には、透過率、干渉縞および抵抗率の点で、良好な特性が得られることがわかった。従って、アニール温度を700℃〜800℃と高温にすることにより、良質なデバイスを得ることができることがわかった。
【0053】
<第2の実施の形態>
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る発光素子2の断面構成の一例を表したものである。この発光素子2は、表示装置の画素や、バックライト、照明装置などに好適に用いられるものである。この発光素子2は、例えば、基板40上に、グラファイト層41、電極層11、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43および電極層14を基板40側から順に積層して構成されている。第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43は互いに接しており、pn接合層を構成している。
【0054】
第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43のいずれか一方が本発明の「p型導電層」の一具体例に相当する。第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43のうち本発明の「p型導電層」の一具体例に相当しない方が本発明の「n型導電層」の一具体例に相当する。また、互いに接合された第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43が本発明の「pn接合層」の一具体例に相当する。
【0055】
グラファイト層41は、電極層11に接しており、電極層11、第1導電層41、第2導電層42および電極層14を結晶成長させる際の下地(成長基板)としての役割を有している。グラファイト層41は、例えば、グラファイトシートによって構成されている。グラファイトシートは六方晶系であるので、例えばZnOなどの六方晶系の酸化膜を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。また、現在、大面積(数十cm角)のグラファイトシートが市販されており、大面積での単結晶成長が可能である。
【0056】
第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43は、ZnOを主に含んで構成されたものである。第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43は、互いに異なる導電型となっている。例えば、第1導電ZnO層42がn型の導電型となっており、第2導電導電ZnO層43がp型の導電型となっている。また、例えば、第1導電ZnO層42がp型の導電型となっており、第2導電導電ZnO層43がn型の導電型となっている。
【0057】
ZnOの導電性は、例えば、p型不純物やn型不純物をドープすることにより付与することが可能である。p型不純物としては、例えば、窒素(N)などのV属元素が挙げられる。n型不純物としては、例えば、アルミニウム(Al)やガリウム(Ga)などのIII属元素が挙げられる。ZnOの発光色は、成長条件、またはドープする材料を変えることにより調整することが可能である。例えば、成長条件を適宜、設定することにより、ZnOから赤色や緑色の光を発生させることが可能である。また、例えば、ZnOにカドミウム(Cd)をドープすることにより、ZnOから青色の光を発生させることが可能である。
【0058】
本実施の形態では、pn接合層(第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43)が、例えば、適宜に設定された成長条件によって作製されたZnO、またはCdのドープされたZnOを主に含んで構成されている。これにより、pn接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって発光が生じる。
【0059】
ここで、ZnOは、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。そのため、水分や酸素が混入するのを防止するプロセスを用いる必要がなく、例えば、水蒸気を用いた大気プロセスを用いて成膜することが可能である。また、真空装置を用いる場合であっても、有機EL素子の製造に際して用いられるような特殊な真空装置を用いる必要がないので、真空装置の操作や保守が簡単である。また、ZnOが水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有していることから、素子の経時的な劣化がほとんどない。また、pn接合層またはpin接合層の材料および、pn接合層またはpin接合層の下地として、六方晶系の材料が用いられているので、グラファイトシート上に酸化亜鉛の層を形成する際に、結晶欠陥の少ない単結晶を成長させることが可能である。そのため、グラファイトシート上に電極層11、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43、電極層14などを形成した場合に、第1導電ZnO層42が電極層14と短絡したり、第2導電導電ZnO層43が電極層11と短絡したりする虞をなくすることができる。
【0060】
以上のことから、本実施の形態では、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、発光機構として単純な積層構造が用いられており、有機EL素子と同様に構造が単純であることから、発光素子1は軽量化や薄型化に向いている。また、本実施の形態では、上記第1の実施の形態と同様、蒸着法やミストCVD法を用いて発光素子2を製造することが可能であることから、発光素子2を安価に提供することが可能である。
【0061】
<変形例>
上記第2の実施の形態では、第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43が互いに接していたが、例えば、図10に示したように、これらの間に、発光層45が設けられていてもよい。この場合には、発光層45は、第1導電ZnO層42および第2導電導電ZnO層43と同様に、ZnOを主に含んで構成されている。第1導電ZnO層42および発光層45は互いに接しており、かつ第2導電導電ZnO層43および発光層45が互いに接している。従って、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43および発光層45は、pin接合層を構成している。
【0062】
なお、発光層45が本発明の「i型導電層」の一具体例に相当する。また、第1導電ZnO層42、第2導電導電ZnO層43および発光層45が本発明の「pin接合層」の一具体例に相当する。
【0063】
<適用例>
次に、上記第1の実施の形態およびその変形例の一適用例について説明する。図11は、上記実施の形態および上記変形例の発光素子1を用いた表示装置3(発光装置)の上面構成の一例を表したものである。この表示装置3は、例えば、表示パネル20と、後述するように表示パネル20内に形成された発光素子1を駆動する駆動回路部(図示せず)とを備えたものである。
【0064】
表示パネル20は、表示領域に複数の発光素子1がマトリクス状に配置されたものである。複数の発光素子1が、例えば、3種類の発光素子からなっている。例えば、一の発光素子1が赤色の光を発生する発光素子1Rとなっている。また、他の発光素子1が緑色の光を発生する発光素子1Gとなっており、さらに、残りの発光素子1が青色の光を発生する発光素子1Bとなっている。そして、発光素子1R,1G,1Bによって一つの画素30が構成されている。
【0065】
図12は、図11の表示パネル4のA−A矢視方向の断面構成の一例を表したものである。図12には、一つの画素30の断面構成の一例が示されている。なお、図12には、発光素子1として図1に例示した構成を有するものが示されているが、発光素子1として他の構成(図2、図3または図4に例示した構成)を有するものが用いられていてもよい。
【0066】
画素30は、例えば、図12に示したように、基板10上に、3種類の発光素子1R,1G,1Bを有している。発光素子1R,1G,1Bは、例えば、基板10上に、電極層11、第1導電層12、第2導電層13および電極層14を基板10側から順に積層して構成されている。第1導電層12および第2導電層13は互いに接しており、pn接合層を構成している。なお、発光素子1として図2または図4に例示した構成を有するものが用いられている場合には、第1導電層12、第2導電層13および発光層15は互いに接しており、pin接合層を構成している。
【0067】
ここで、発光素子1Rでは、第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素(Eu)を添加して構成されている。また、発光素子1Gでは、第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素(Tb)を添加して構成されている。また、発光素子1Bでは、第1導電層12および第2導電層13の少なくとも一方が酸化物に希土類元素(Ce)を添加して構成されている。
【0068】
なお、発光素子1として図2または図4に例示した構成を有するものが用いられている場合には、発光素子1Rでは、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が酸化物に希土類元素(Eu)を添加して構成されている。また、発光素子1Gでは、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が酸化物に希土類元素(Tb)を添加して構成されている。また、発光素子1Bでは、第1導電層12、第2導電層13および発光層15のうち少なくとも発光層15が酸化物に希土類元素(Ce)を添加して構成されている。
【0069】
各発光素子1R,1G,1Bの電極層11は、例えば、図12に示したように、互いに別個に形成されていてもよいし、例えば、図13に示したように、互いに一体に形成されていてもよい。基板10が絶縁性を有している場合には、各発光素子1R,1G,1Bの電極層11は、それぞれ、例えば、図14に示したように、第1導電層12と直接に接しない領域11Aを有していることが好ましい。その場合には、領域11Aを外部のデバイスと接続する電極パッドとして用いることが可能である。また、基板10が導電性を有している場合であっても、電極層11に、第1導電層12と直接に接しない領域11Aを設け、領域11Aを外部のデバイスと接続する電極パッドとして用いることが可能である。基板10が導電性を有している場合には、基板10の裏面に金属層(図示せず)を新たに設け、その金属層を各発光素子1R,1G,1Bの共通電極として用いることも可能である。
【0070】
本適用例に係る表示装置3では、各発光素子1R,1G,1Bにおいて、pn接合層(第1導電層12および第2導電層13)の少なくとも一方、またはpin接合層(第1導電層12、第2導電層13および発光層15)のうち少なくとも発光層15が、酸化物に希土類元素を添加して構成されている。これにより、pn接合層またはpin接合層に対して電圧印加によって電子と正孔が注入されると、注入された電子と正孔の結合によって生じたエネルギーで希土類元素が励起され、希土類元素が励起状態から基底状態に戻るときに放出するエネルギーに相当する波長で発光が生じる。従って、例えば、Euの添加された発光素子1Rでは赤色の光が生じ、Tbの添加された発光素子1Rでは緑色の光が生じ、Ceの添加された発光素子1Bでは青色の光が生じる。
【0071】
ここで、各発光素子1R,1G,1Bに用いられている導電性酸化物は、上述したように、有機材料と比べて、水分や酸素による劣化が極めて少ない性質を有している。さらに、各発光素子1R,1G,1Bにおいて、発光機構としてヘテロ構造が用いられている。従って、本適用例では、有機EL素子と比べて、素子寿命が長く、製造コストを低く抑えることができる。また、有機EL素子と同様に構造が単純であり、軽量化や薄型化に向いている。
【0072】
<変形例>
上記適用例では、基板上に、各色を発光する発光素子1R,1G,1Bが設けられていたが、単一色を発光する発光素子1が設けられていてもよい。例えば、単一色を発光する発光素子1として白色を発光するものが設けられていてもよい。この場合に、例えば、発光素子1の光射出側にRGB3色のカラーフィルタを設けることも可能である。このカラーフィルタは、一の発光素子1の光射出面に赤色用のフィルタを有し、他の発光素子1の光射出面に緑色用のフィルタを有し、残りの発光素子1の光射出面に青色用のフィルタを有している。
【0073】
また、例えば、単一色を発光する発光素子1として青色を発光するものが設けられていてもよい。この場合に、例えば、発光素子1の光射出側にRGB3色の色変換フィルタを設けることも可能である。この色変換フィルタは、一の発光素子1の光射出面に青色を赤色に変換する変換層を有し、他の発光素子1の光射出面に青色を緑色に変換する変換層を有し、残りの発光素子1の光射出面に青色光を透過する無変換層を有している。
【0074】
また、上記適用例およびその変形例では、上記実施の形態および上記変形例の発光素子1を表示装置に適用した場合が例示されていたが、バックライト、照明装置などの他のデバイスに適用することももちろん可能である。
【0075】
また、上記適用例およびその変形例では、表示装置3の光源として発光素子1を用いた場合について説明したが、第2の実施の形態の発光素子2を用いることももちろん可能である。
【符号の説明】
【0076】
1,1R,1G,1B,2…発光素子、3…表示装置、10,40…基板、11,14…電極層、11A…領域、12…第1導電型層、13…第2導電型層、15,44…発光層、16…下地層、20…表示パネル、30…画素、41…グラファイト層、42…第1導電導電ZnO層、43…第2導電導電ZnO層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備え、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記基板は、ガラス基板、石英ガラス基板またはシリコン基板である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記基板は、前記pn接合層または前記pin接合層に接するグラファイトシートを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
基板の上に、蒸着法またはミストCVD法を用いて、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を形成する工程を含み、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項5】
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備え、
前記基板は、前記pn接合層側または前記pin接合層側の最表面にグラファイトシートを有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである
ことを特徴とする発光素子。
【請求項6】
2次元配置された複数の発光素子を備え、
前記発光素子は、
p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする表示パネル。
【請求項7】
2次元配置された複数の発光素子を備え、
前記発光素子は、
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記基板は、前記pn接合層側または前記pin接合層側の最表面にグラファイトシートを有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである
ことを特徴とする表示パネル。
【請求項8】
2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、
前記発光素子を駆動する駆動回路部と
を備え、
前記発光素子は、
p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、
前記発光素子を駆動する駆動回路部と
を備え、
前記発光素子は、
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記基板は、前記pn接合層側または前記pin接合層側の最表面にグラファイトシートを有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである
ことを特徴とする発光装置。
【請求項1】
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備え、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記基板は、ガラス基板、石英ガラス基板またはシリコン基板である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記基板は、前記pn接合層または前記pin接合層に接するグラファイトシートを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
基板の上に、蒸着法またはミストCVD法を用いて、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を形成する工程を含み、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項5】
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を備え、
前記基板は、前記pn接合層側または前記pin接合層側の最表面にグラファイトシートを有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである
ことを特徴とする発光素子。
【請求項6】
2次元配置された複数の発光素子を備え、
前記発光素子は、
p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする表示パネル。
【請求項7】
2次元配置された複数の発光素子を備え、
前記発光素子は、
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記基板は、前記pn接合層側または前記pin接合層側の最表面にグラファイトシートを有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである
ことを特徴とする表示パネル。
【請求項8】
2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、
前記発光素子を駆動する駆動回路部と
を備え、
前記発光素子は、
p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層の少なくとも一方、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層のうち少なくともi型導電層は、導電性酸化物に希土類元素を添加して構成されたものであり、
前記導電性酸化物は、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、スズ添加酸化インジウムまたは酸化インジウムであり、
前記希土類元素は、テルビウム、ユウロピウム、セリウムまたはガドリニウムである
ことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
2次元配置された複数の発光素子を有する発光パネルと、
前記発光素子を駆動する駆動回路部と
を備え、
前記発光素子は、
基板上に、p型導電層およびn型導電層を互いに接合することにより構成されたpn接合層、またはp型導電層、i型導電層およびn型導電層をこの順に接合することにより構成されたpin接合層を有し、
前記基板は、前記pn接合層側または前記pin接合層側の最表面にグラファイトシートを有し、
前記pn接合層に含まれるp型導電層およびn型導電層、または前記pin接合層に含まれるp型導電層、i型導電層およびn型導電層は、酸化亜鉛を主に含み、かつ希土類元素を含まずに構成されたものである
ことを特徴とする発光装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−197723(P2010−197723A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42539(P2009−42539)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
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