説明

発光素子

【課題】 高輝度、高発光効率、かつ駆動耐久性が良好な発光素子を提供する。
【解決手段】 一対の電極間に少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する発光素子であって、前記発光層にホスト材料および少なくとも一種の燐光発光材料を含み、前記発光層の膜厚が60nm以上300nm以下であって、前記燐光発光材料の濃度が発光層の10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換して発光できる発光素子(以下、「有機電界発光素子」、又は「有機EL素子」ともいう。)に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、種々の表示素子に関する研究開発が活発であり、中でも有機電界発光(EL)素子は、低電圧で高輝度の発光を得ることができるため、有望な表示素子として注目されている。
一般に有機EL素子は、発光層もしくは発光層を含む複数の有機層を挟んだ対向電極から構成されており、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が発光層において再結合し、生成した励起子からの発光を利用するもの、又は前記励起子からエネルギー移動によって生成する他の分子の励起子からの発光を利用するものである。
【0003】
有機EL素子は自発光の面光源であることから、照明光源、液晶ディスプレイのバックライトなどが有機EL素子の用途として挙げられる。これらの用途として用いる場合、高輝度で発光することが必要となる。
ところが、有機EL素子の発光材料として燐光材料を用いると、数千cd/m2以上の高輝度で発光させた場合、低輝度時と比較して、外部量子効率が大きく減少することが一般的に知られている。例えば、発光材料としてIr(ppy)3(トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム)を用いた場合、数百cd/m2の輝度で発光させた場合と比較して、数千cd/m2の輝度で発光させた場合の効率は大きく減少する。(例えば、非特許文献1参照。)
すなわち、燐光材料を含む有機EL素子を高輝度光源として用いると、高輝度で効率が低下するため、消費電力が上昇し、改善が望まれていた。
また、上記の用途で用いた場合、白色光源として用いることとなる。Commission Internationale d’Eclairage(CIE)により定義されているように、理想的な白色光源は(0.33、0.33)の座標を有する。白色発光は、青色,緑色,赤色の3色の発光材料、あるいは補色関係にある2色の発光材料の発光により得ることができる。
【0004】
白色発光素子としては、500〜700nmの発光波長ピークを有する第1の発光層、10〜40質量%の濃度のエキシマーを形成する燐光材料を用いた方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1では、白色発光を得るために用いる複数の発光材料のうち、発光材料の濃度をある一定の濃度範囲とすることにより、白色発光における色のバランス(ホワイトバランス)を容易に制御できることが開示されているにとどまっており、輝度、発光効率や耐久性の点でいまだ不十分であり、更なる改良が望まれていた。
【非特許文献1】Applied Physics Letters Vol.75,No.1 (1999) 4−6
【特許文献1】特開2004−327432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高輝度、高発光効率、かつ駆動耐久性が良好な発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記実情に鑑み本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、発光層の膜厚をある特定の厚さにし、かつ特定の濃度とすることにより、上記課題を解決しうることを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明は下記の手段により達成されるものである。
【0007】
<1> 一対の電極間に少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する発光素子であって、前記発光層にホスト材料および少なくとも一種の燐光発光材料を含み、前記発光層の膜厚が60nm以上300nm以下であって、前記燐光発光材料の濃度が発光層に対して10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする発光素子。
<2> 前記燐光発光材料の発光ピーク波長が400nm以上500nm以下である青色発光材料であることを特徴とする上記<1>に記載の発光素子
<3> 前記発光層に隣接する少なくとも1層の有機化合物層を有し、該少なくとも1層の有機化合物層の膜厚が0.1nm以上3nm以下であることを特徴とする上記<1>又は<2>に記載の発光素子。
【0008】
<4> 一対の電極間に二層以上の発光層を含む有機化合物層を有する有機電界発光素子であって、前記発光層間に電荷発生層を有することを特徴とする上記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の発光素子。
<5> 前記二層以上の発光層がそれぞれ異なる発光材料を含有することを特徴とする上記<4>に記載の発光素子。
<6> 前記異なる発光材料からのそれぞれ異なる発光色の発光により白色発光が得られることを特徴とする上記<5>に記載の発光素子。
【0009】
<7> 500cd及び50000cdの輝度における外部量子効率の比が1:0.8〜1:1.5であることを特徴とする上記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の発光素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高輝度で発光効率が向上し、かつ駆動耐久性が良好な発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[有機電界発光素子]
以下、本発明の有機電界発光素子(以下、適宜「有機EL素子」と称する場合がある。)について詳細に説明する。
本発明の発光素子は、一対の電極間に少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する発光素子であって、前記発光層にホスト材料および少なくとも一種の燐光発光材料を含み、前記発光層の膜厚が60nm以上300nm以下であって、前記燐光発光材料の濃度が発光層に対して10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする。
本発明の有機電界発光素子は、上記構成としたことにより、最高輝度が高く、かつ高輝度における発光効率の低下が少なく、優れた駆動耐久性を持つという効果を、総て申し分なく発揮することができる。更には、適切な2種以上のドーパントを組合せることにより、良好な色純度を発揮するという効果も有する。
本発明における厚さ及び膜厚は、透過型電子顕微鏡で測定した値で規定する。
本発明における少なくとも一層の発光層の膜厚は、60〜300nmであることが必要であり、高輝度での発光効率の観点から、更に、60〜200nmが好ましく、60〜150nmがより好ましく、60〜100nmが特に好ましい。
本発明の発光層中における燐光発光材料の濃度が発光層全体の10〜30質量%であることが本発明の効果を得るために必要であり、中でも、高輝度の発現の観点から、10〜25質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましく、10〜15質量%が特に好ましい。
【0012】
本発明の有機電界発光素子の構成に関して詳細に説明する。
本発明の有機電界発光素子は、陽極、陰極の一対の電極間に、少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有して構成され、前記発光層にホスト材料及び少なくとも1種の燐光発光材料を含み、前記発光層の膜厚が60〜300nmで、前記燐光発光材料の濃度が、発光層の10〜30質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明に使用できる燐光発光材料は、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2004−221068号の[0051]から[0057]等に記載のものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0014】
発光層に含有される燐光発光材料は、特に限定されるものではないが、一般に、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体である。
【0015】
遷移金属原子としては、特に限定されないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、及び白金である。
ランタノイド原子としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、及びガドリニウムが好ましい。
【0016】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry, Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
【0017】
具体的な配位子としては、好ましくは、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、フェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子であり、より好ましくは、含窒素ヘテロ環配位子である。上記錯体は、化合物中に遷移金属原子を一つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
また、燐光発光材料は、単独で用いてもまた複数併用してもよい。
【0018】
本発明の有機電界発光素子は、前記一対の電極間に二層以上の発光層を有する場合、該発光層間に電荷発生層を有することも好ましい。
【0019】
本発明の有機電界発光素子は、前記発光層の他の有機化合物層(正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層)、保護層などを有していてもよく、さらに、2層以上の発光層を有するとき、電荷発生層、中間層を有しても良い。またこれらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであってもよい。
本発明の有機電界発光素子の好ましい態様としては、例えば、(1)陽極、有機化合物層、陰極、(2)陽極、有機化合物層1、電荷発生層、有機化合物層2、陰極、(3)陽極、有機化合物層1、電荷発生層、有機化合物層2、電荷発生層、有機化合物層3、陰極、が挙げられ、中でも、一層の高輝度の発現、及び、発光色の調整のためには、(2),(3)が好ましく、(3)が特に好ましい。
ここで、発光層を含む有機化合物層としては、前述の好ましい形態(ホール輸送層、発光層、電子輸送層)が挙げられるが、特に限定されるものではない。
各層の形成にはそれぞれ種々の材料を用いることができる。
【0020】
本発明の有機電界発光素子は、システム、駆動方法、利用形態などは特に問わない。
また、本発明の有機電界発光素子は、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。例えば、基板表面形状を加工する(例えば微細な凹凸パターンを形成する)、基板・ITO層・有機化合物層の屈折率を制御する、基板・ITO層・有機化合物層の膜厚を制御すること等により、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
【0021】
本発明の有機電界発光素子は、陰極側から発光を取り出す、所謂、トップエミッション方式(特開2003−208109号、同2003−248441号、同2003−257651号、同2003−282261号の各公報などに記載)であってもよい。
【0022】
本発明の有機電界発光素子における、基板、電極、各有機層、その他の層、等の他の構成要素については、例えば、特開2004−221068号の[0013]から[0082]、特開2004−214178号の[0017]から[0091]、特開2004−146067号の[0024]から[0035]、特開2004−103577号の[0017]から[0068]、特開2003−323987号の[0014]から[0062]、特開2002−305083号の[0015]から[0077]、特開2001−172284号の[0008]から[0028]、特開2000−186094号の[0013]から[0075]、特表2003−515897号の[0016]から[0118]等に記載のものが本発明においても同様に適用することができる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明における発光層は、既述の如く、少なくとも1種の燐光発光材料を含むドーパントと、ホスト材料とを含む。ホスト材料としては、特に限定されるものではないが、電荷輸送材料を含むことが好ましい。また、電荷輸送に寄与しない、例えばバンドギャップが大きな材料を含んでいてもよい。
また、発光層はお互い異なる材料を含む複数の2次層に分かれていてもよい。
【0024】
また、本発明における発光層に含有されるホスト材料としては、例えば、カルバゾール骨格を有するもの、ジアリールアミン骨格を有するもの、ピリジン骨格を有するもの、ピラジン骨格を有するもの、トリアジン骨格を有するもの及びアリールシラン骨格を有するもの等が挙げられ、特に限定されるものではないが、中でも、素子耐久性の観点から、カルバゾール骨格(カルバゾール基ともいう)を有するものが好ましい。
【0025】
ホスト材料のT1(最低多重項励起状態のエネルギーレベル)は、ドーパント材料のT1レベルより大きいことが好ましい。なお、ホスト材料とドーパント材料とを共蒸着することによって、ドーパント材料がホスト材料にドープされた発光層を好適に形成することができる。
【0026】
発光層に含まれるホスト材料のイオン化ポテンシャルは、素子の発光効率の向上、及び駆動電圧を低下させる観点から、5.4eV以上、6.3eV以下であることが好ましく、5.5eV以上、6.25eV以下であることがより好ましく、5.6eV以上6.2eV以下であることがさらに好ましい。
ここで、イオン化ポテンシャルはAC−1(理研計器社)を用いて室温・大気下で測定した値で規定する。AC−1の測定原理については、安達千波矢等著「有機薄膜仕事関数データ集」シーエムシー出版社2004年発行に記載されている。
【0027】
本発明における発光層に含まれるホスト材料、後述の電子輸送層に含まれる電子輸送材料、及び、後述のホール輸送層に含まれるホール輸送材料のガラス転移点は、素子の熱安定性を向上させる観点から、90℃以上400℃以下であることが好ましく、100℃以上380℃以下であることがより好ましく、120℃以上370℃以下であることがさらに好ましく、140℃以上360℃以下であることが特に好ましい。
【0028】
また、本発明の有機電界発光素子を青色発光に適用する場合には、以下の態様であることが好ましい。
前記燐光発光材料としては、青色色純度の観点から、燐光発光材料の発光ピーク波長が400〜500nmである青色発光材料が好ましく、400〜495nmが更に好ましく、400〜490nmが特に好ましい。
【0029】
発光のCIE色度値のx値は、青色色純度の観点から、好ましくは0.22以下であり、より好ましくは0.20以下である。
【0030】
発光のCIE色度値のy値は、青色色純度の観点から、好ましくは0.25以下であり、より好ましくは0.20以下であり、さらに好ましくは0.15以下である。
【0031】
発光スペクトルの半値幅は、青色色純度の観点から、100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましく、70nm以下が特に好ましい。
【0032】
発光層中のりん光発光材料のT1レベル(最低三重項励起状態のエネルギーレベル)は、青色発光の発光効率を向上させる観点から、60kcal/mol 以上(251.4kJ/mol以上)、90kcal/mol以下(377.1kJ/mol以下)が好ましく、62kcal/mol以上(259.78kJ/mol以上)、85kcal/mol 以下(356.15kJ/mol 以下)がより好ましく、65Kcal/mol以上(272.35kJ/mol以上)、80kcal/mol以下(335.2kJ/mol以下)がさらに好ましい。
【0033】
発光層中のホスト材料のT1レベル(最低三重項励起状態のエネルギーレベル)は、青色発光の発光効率を向上させる観点から、60kcal/mol 以上(251.4kJ/mol以上)、90kcal/mol以下(377.1kJ/mol以下) が好ましく、62kcal/mol 以上(259.78kJ/mol以上)、85kcal/mol 以下(356.15kJ/mol以下)がより好ましく、65kcal/mol 以上(272.35kJ/mol以上)、80kcal/mol 以下(335.2kJ/mol 以下)がさらに好ましい。
【0034】
発光層に隣接する層(ホール輸送層、電子輸送層、電荷ブロック層、励起子ブロック層など)のT1レベル(最低三重項励起状態のエネルギーレベル)は、青色発光の発光効率を向上させる観点から、60kcal/mol 以上(251.4kJ/mol以上)、90kcal/mol 以下(377.1kJ/mol以下) が好ましく、62kcal/mol 以上(259.78kJ/mol 以上)、85kcal/mol以下(356.15kJ/mol以下)がより好ましく、65kcal/mol 以上(272.35kJ/mol以上)、80kcal/mol以下(335.2kJ/mol以下)がさらに好ましい。
【0035】
本発明におけるホスト材料は、発光層中に、50〜90質量%含有されることが好ましく、70〜90質量%含有されることがより好ましく、80〜90質量%含有されることが特に好ましい。
【0036】
発光層の形成方法は、特に限定されるものではないが、前述した有機化合物層の形成方法の中でも、抵抗加熱蒸着、電子ビーム、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法、LB法、転写法などの方法が用いられ、好ましくは抵抗加熱蒸着、コーティング法である。
【0037】
本発明における発光素子は、発光層を少なくとも一層を必要とするが、二層以上の発光層を有するとき、該発光層間に電荷発生層を有することが好ましい。
前記二層以上の発光層のそれぞれの発光層は、単独層の機能と同様の機能を有し、それぞれ同じ構成であっても異なる構成であってもよく、好ましい態様も同様である。
【0038】
本発明における発光素子が前記二層以上の発光層を有するとき、前記二層以上の発光層がそれぞれ異なる発光材料を含有することが好ましい。前記異なる発光材料としては、前記燐光発光材料を挙げることができる。更に、前記異なる発光材料からのそれぞれ異なる発光色の発光により白色発光が得られることが好ましい。
白色発光を得るための発光材料としては、青色発光材料と橙色発光材料の組み合わせにより得ることができるが、高発光効率及び高発光輝度であり、且つ、色度に優れた白色発光素子とするためには、構造の相異なる3種以上の発光材料を適切に選ぶことが好ましい。このような発光材料としては、発光波長400〜500nmの青色発光材料、500〜570nmの緑色発光材料、580〜670nmの赤色発光材料から、それぞれ選ぶことが好ましい。これらの発光材料を、それぞれ別個の発光層に含ませることにより白色発光素子を得ることができる。これらの発光材料は前述の例より適切に選ぶことができる。
また、青色発光する素子と、緑色、赤色で発光する蛍光体を用いて、白色発光素子を得ることもできる。
【0039】
発光層が複数の場合は、少なくとも一層の発光層には前記ホスト材料及び少なくとも一種の燐光発光材料を含有することが好ましい。その他の発光層がホスト材料及び/又は燐光発光材料の単一材料で形成されていてもよいし、複数の化合物で形成されていてもよい。これらの中でも、いずれの発光層にもホスト材料及び燐光発光材料を含有することが好ましい。
【0040】
発光層は、複数のドメイン構造を有していてもよい。発光層中に他のドメイン構造を有していてもよい。例えば、発光層が、ホスト材料A及びリン光発光材料Bの混合物からなる約1nm3の領域と、ホスト材料C及びリン光発光材料Dの混合物からなる約1nm3の領域で構成されていてもよい。各ドメインの径は、0.2nm以上10nm以下が好ましく、0.3nm以上5nm以下がより好ましく、0.5nm以上3nm以下がさらに好ましく、0.7nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0041】
発光層は、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、燐光材料と共に蛍光材料が含まれていてもよい。
本発明に使用できる蛍光発光材料の例としては、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2004−146067号の[0027]、特開2004−103577号の[0057]等に記載のものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
また、青色蛍光化合物を含有する青色発光素子と、本発明の有機電界発光素子とを同時に用いて、マルチカラー発光デバイス、フルカラー発光デバイスを作製してもよい。
【0042】
前記電荷発生層に含まれる材料としては、電界印加時に電荷(正孔及び電子)を発生する機能を有すると共に、発生した電荷を電荷発生層と隣接する層に注入させる機能を有する層を形成することができるものであれば何でもよい。
電荷発生層は単一化合物で形成されてもよいし、複数の化合物で形成されてもよい。また、単層であっても積層構造を有していてもよい。
【0043】
電荷発生層に含まれる材料としては、導電性を有するものであっても、ドープされた有機層のように半導電性を有するものであっても、また、電気絶縁性を有するものであってもよく、特開平11−329748の段落番号(0024)〜(0025)の記載や、特開2003−272860の段落番号(0018)〜(0021)の記載や、特開2004−39617の段落番号(0027)〜(0034)の記載にある材料が挙げられ、具体的には、ITO、IZOなどの透明導電材料、Ca、Ag、Al、Mg:Ag合金、Al:Li合金、Mg:Li合金などの金属材料、F4−TCNQをドープした2−TNATA、V25などが挙げられる。
【0044】
また、正孔伝導性材料と、電子伝導性材料を組み合わせたものでもよい。前記正孔伝導性材料は、正孔輸送有機材料にF4−TCNQ、TCNQ、FeCl3などの電子求引性を有する酸化剤をドープさせたものや、P型導電性高分子、P型半導体などが挙げられ、前記電子伝導性材料は電子輸送有機材料に4.0eV未満の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物をドープしたものや、N型導電性高分子、N型半導体が挙げられる。N型半導体としては、N型Si、N型CdS、N型ZnSなどが挙げられ、P型半導体としては、P型Si、P型CdTe、P型CuOなどが挙げられる。
更にまた、透明伝導材料や金属材料などの導電性を有する材料と正孔伝導性材料、または、電子伝導性材料を組み合わせたものでも良い。
【0045】
前記電荷発生層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.5〜200nmが好ましく、1〜100nmがより好ましく、3〜50nmがさらに好ましく、5〜30nmが特に好ましい。
電荷発生層の形成方法は、特に限定されるものではないが、前述した有機化合物層の形成方法の中でも、形成真空蒸着法やLB法、前記電荷発生層の材料を溶媒に溶解又は分散させてコーティングする方法、インクジェット法、印刷法、転写法が用いられる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解又は分散することができ、樹脂成分としては例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などが挙げられる。
【0046】
電荷発生層は、前記発光層のような複数のドメイン構造を有していてもよい。電荷発生層中に他のドメイン構造を有していても良い。
【0047】
電荷発生層は前記二層以上の発光層間に形成するが、電荷発生層の陽極側および陰極側には、隣接する層に電荷を注入する機能を有する材料を含んでいても良い。陽極側に隣接する層への注入性を上げるため、例えば、BaO、SrO、Li2O、LiCl、LiF、MgF2、MgO、CaF2などの電子注入性化合物を電荷発生層の陽極側に積層させてもよい。
【0048】
また、発光効率を上げる目的で、前述の層に加えて、機能層を前記発光層に隣接させて設けてもよい。前記機能層は耐久性の観点から、0.1nm〜3nmであることが好ましく、0.3〜2nmがより好ましく、0.5〜2nmが更に好ましい。
前記機能層としては、電子ブロック層、正孔ブロック層と同様の物質が挙げられる。
【0049】
本発明における発光素子は、高輝度における高発光効率の観点から、500cd及び50000cdの輝度における外部量子効率の比が1:0.8〜1:1.5であることが好ましく、1:0.85〜1:1.5であることがより好ましく、1:0.9〜1:1.5であることが特に好ましい。
【0050】
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
【0051】
本発明における有機電界発光素子の駆動耐久性は、特定の輝度における輝度半減時間(耐久性半減時間)により測定することができる。例えば、KEITHLEY社製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加し発光させ、初期輝度500cd/m2の条件で連続駆動試験をおこない、輝度が250cd/m2になった時間を耐久性半減時間T(1/2)として、該半減時間を従来発光素子と比較することにより求めることができる。本発明においては、この数値を用いた。
この有機電界発光素子の重要な特性値として、外部量子効率がある。外部量子効率は、「外部量子効率φ=素子から放出されたフォトン数/素子に注入された電子数」で算出され、この値が大きいほど消費電力の点で有利な素子と言える。
【0052】
また、有機電界発光素子の外部量子効率は、「外部量子効率φ=内部量子効率×光取り出し効率」で決まる。有機化合物からの蛍光発光を利用する有機EL素子においては、内部量子効率の限界値が25%であり、光取り出し効率が約20%であることから、外部量子効率の限界値は約5%とされている。
【0053】
本発明においては、KEITHLEY社製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流定電圧をEL素子に印加し発光させ、その輝度、発光ピーク波長及び発光スペクトルの波形は、トプコン社製の分光放射計SR−3を用いて測定した。これより500cd/m2及び50000cd/m2における外部量子効率を算出することができる。本発明においてはこの値を用いる。
【0054】
また、発光素子の外部量子効率は、発光輝度、発光スペクトル、電流密度を測定し、その結果と比視感度曲線から算出することができる。すなわち、電流密度値を用い、入力した電子数を算出することができる。そして、発光スペクトルと比視感度曲線(スペクトル)を用いた積分計算により、発光輝度を発生したフォトン数に換算することができる。これらから外部量子効率(%)は、「(発生したフォトン数/素子に入力した電子数)×100」で計算することができる。
【0055】
本発明の有機電界発光素子の内部量子効率としては、内部量子効率=外部量子効率/光取り出し効率で算出される。通常の有機EL素子では光取り出し効率は約20%であるが、本発明の有機電界発光素子では、基板の形状、電極の形状、有機層の膜厚、無機層の膜厚、有機層の屈折率、無機層の屈折率等を工夫することにより、光取り出し効率を20%以上にすることが可能である。
【0056】
本発明の有機電界発光素子の用途は特に限定されないが、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等の分野に好適に使用できる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
洗浄したITO基板を蒸着装置に入れ、銅フタロシアニン(CuPC)を10nm蒸着し、この上に、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPD)を30nm蒸着した。この上に、4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(mCP)とイリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナート−N,C2]ピコリネート(Firpic)との比率(質量比)を100:16(%)で60nm共蒸着し、この上に、アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナト)4−フェニルフェノレート(BAlq)を10nm蒸着し、この上に、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム錯体(Alq)を40nm蒸着した。この上に、フッ化リチウムを3nm蒸着した後、アルミニウム60nmを蒸着し、有機電界発光素子を作製した。
【0059】
次に、得られた素子を空気に晒すことなく、窒素ガスで置換したグローブボックス内に入れた。内側に凹部を設けたステンレス製の封止カバーに、前記グローブボックス内で水分吸収剤(サエスゲッターズ製)を貼り付け、接着剤として紫外線硬化型接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ製)を用いて、この封止カバーで素子を封止した。
以上のようにして、実施例1の有機EL素子を得た。
得られた有機電界発光素子に、KEITHLEY社製ソースメジャーユニット2400を用いて、直流定電圧を印加し、発光させ、その輝度、発光ピーク波長及び発光スペクトルの波形は、トプコン社製の分光放射計SR−3を用いて測定した。
その結果、発光ピーク波長が474nmの青色発光が得られ、最高輝度は130000cd/m2であった。
更に、この発光スペクトルの波形と測定時の電流・輝度から外部量子効率を計算した。500Cd及び50000Cdにおける外部量子効率(η(@500Cd)[%]、η(@50000Cd)[%])はそれぞれ6.8、6.3%であった。
【0060】
駆動耐久性試験は、KEITHLEY社製ソースメジャーユニット2400型を用いて、初期輝度500cd/m2になるように直流電圧を発光素子に印加し、連続駆動試験をおこない、輝度が250cd/m2になった時間を輝度半減時間T(1/2)とした。該輝度半減時間を下記の評価基準に従い評価した。
【0061】
上記で用いた、CuPC、mCP、Firpic、BAlq、Alq、CBPの構造を以下に示す。
【0062】
【化1】

【0063】
(実施例2〜4)
実施例1において、mCPとFirpicとからなる発光層の厚み60nmをそれぞれ100nm、200nm、300nmに変更した以外は、実施例1と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例1と同様に測定評価した。
【0064】
(実施例5、6、比較例1、3)
実施例2において、mCPとFirpicとの比率(質量比)100:16(%)を100:10、100:30、100:5、100:40に変更した以外は、実施例2と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例2と同様に測定評価した。
【0065】
(比較例2)
実施例1において、mCPとFirpicとの比率(質量比)100:16(%)を100:5(%)とし、更に、発光層の厚み60nmを30nmに変更した以外は、実施例1と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例1と同様に測定評価した。
【0066】
(実施例7)
実施例2において、Balqの10nmを下記化合物Aの1nmに変更した以外は、実施例2と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例2と同様に測定評価した。
【0067】
【化2】

【0068】
(実施例8)
実施例7において、AlqをBalqに変更した以外は、実施例7と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例7と同様に測定評価した。
【0069】
(実施例9)
実施例2において、Firpicを下記化合物Bに変更し、mCPとFirpicとの比率(質量比)100:16(%)を、mCPと化合物Bとの比率(質量比)100:12(%)に変更した以外は、実施例2と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例2と同様に測定評価した。
【0070】
【化3】

【0071】
(実施例10、比較例4)
実施例9において、mCPと化合物Bとの比率(質量比)100:20(%)を、100:12(%)、100:5(%)に変更し、発光層の厚み100nmを60nm,30nmに変更した以外は、実施例9と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例9と同様に測定評価した。
【0072】
【表1】

【0073】
(実施例11)(有機電界発光素子の作製)
−第1ユニットの形成−
洗浄したITO基板を蒸着装置に入れ、CuPCを10nm蒸着し、この上に、NPDを30nm蒸着した。この上に、mCPとFirpicとの比率(質量比)を100:16(%)で100nm共蒸着し、この上に、BAlqを10nm蒸着し、この上に、Alqを40nm蒸着した。CuPCからAlq蒸着までの層を第1ユニットとする。
−電荷発生層の形成−
続いて、Mg−Ag(質量比、10:1)で5nm共蒸着し、この上に、Agを5nm蒸着し、更に、スパッタにてITO20nmの層を設けて電荷発生層を形成した。
−第2ユニットの形成−
この上に前記第1ユニットの形成と同様にして、CuPCを10nm蒸着し、この上に、NPDを50nm蒸着した。この上に、mCPとFirpicとの比率(質量比)を100:16(%)で100nm共蒸着し、この上に、BAlqを10nm蒸着し、この上に、Alqを40nm蒸着して、発光素子の第2ユニットを作製した。
この上に、フッ化リチウムを3nm蒸着した後、アルミニウム60nmを蒸着し、発光素子を形成する2つのユニットを有する有機電界発光素子を作製した。
【0074】
得られた有機電界発光素子について、実施例1と同様に測定評価した。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例12)
実施例11の第1ユニットの形成におけるAlqの厚み40nmを30nmに変更し、Mg−Ag(10:1)5nmをBCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−フェナントロリン)−Cs(1:1)10nmに変更した以外は、実施例11と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例11と同様に測定評価した。
【0076】
(実施例13)
実施例12において、Mg−Ag(10:1)5nmをAlq−Li(1:1)10nmに変更した以外は、実施例11と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例11と同様に測定評価した。
【0077】
(実施例14)
実施例11において、ITO20nmの代わりに2TNATA−F4TCNQ(0.3%)30nmを蒸着して形成した以外は、実施例11と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例11と同様に測定評価した。
【0078】
【化4】

【0079】
(実施例15)
実施例13において、ITO20nmの代わりにV25を20nm蒸着し、第2ユニットのCuPCを用いないこと以外は、実施例13と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例13と同様に測定評価した。
【0080】
(実施例16)
実施例11において、第2ユニットの発光層mCP−Firpic(100:16)をmCP−化合物C(100:10)に変更した以外は、実施例11と同様に行い、有機電界発光素子を得た。得られた有機電界発光素子を実施例11と同様に測定評価した。
【0081】
【化5】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
表3から明らかなとおり、実施例の全てにおいて高輝度、駆動耐久性に優れた、かつ高い発光効率を示す素子を得ることができることが分かった。さらに、500及び50000cd/m2の輝度における外部量子効率の比が極めて小さいことが分かった。特に、発光層を2層以上有する実施例11〜16においては、輝度及び発光効率が極めて優れた発光素子を得ることができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する発光素子であって、前記発光層にホスト材料および少なくとも一種の燐光発光材料を含み、前記発光層の膜厚が60nm以上300nm以下であって、前記燐光発光材料の濃度が発光層に対して10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記燐光発光材料の発光ピーク波長が400nm以上500nm以下である青色発光材料であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光層に隣接する少なくとも1層の有機化合物層を有し、該少なくとも1層の有機化合物層の膜厚が0.1nm以上3nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
一対の電極間に二層以上の発光層を含む有機化合物層を有する有機電界発光素子であって、前記発光層間に電荷発生層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記二層以上の発光層がそれぞれ異なる発光材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記異なる発光材料からのそれぞれ異なる発光色の発光により白色発光が得られることを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
500cd及び50000cdの輝度における外部量子効率の比が1:0.8〜1:1.5であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光素子。

【公開番号】特開2006−351638(P2006−351638A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172872(P2005−172872)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】