説明

発光素子

【課題】 外光防止機能に優れた発光素子を提供する。
【解決手段】 上部電極に接する保護層に円偏光部材を接して配置する発光素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以下有機EL素子)等の発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子の開発が盛んである。特許文献1は有機EL素子ディスプレイ(OLEDディスプレイ)に関する発明である。
【0003】
図1は特許文献1に記載のOLEDディスプレイを示す図である。
【0004】
符号1は光透過性基板、2は第1の電極、6は有機膜、9は第2の電極、10はDLC膜、12は保護膜、13は第1の保護膜、15は第2の保護膜、18は光学補償フィルムである。この図は特許文献1の実施の形態3に対応する図である。
【0005】
特許文献1によればDLC膜とはダイアモンドライクカーボン膜のことである。
【0006】
図中、符号13と17が図示する色が濃い個所と符号15と18とが図示する白抜きの長方形との間にある白抜きの個所で、且つ上記色が濃い個所とほぼ同形状の個所が記載されているがこれがDLC膜である。
【0007】
光学補償フィルム18として段落番号〔0013〕に透明で反射防止機能やレンズ集光機能などが挙げられている。そして同段落に光学補償フィルム18は第2の保護膜15に張り付ける構成が記載されている。
【0008】
また段落番号〔0011〕に保護膜13としての透明アクリル樹脂17が記載されており、保護層13が即ち透明アクリル樹脂17であることが記載されている。
【0009】
光は図中破線の矢印が示すように紙面上方に取り出される。
【特許文献1】特開2003−234179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光学補償フィルム18の機能として反射防止機能が挙げられているが、具体的な説明が何ら無い。当業者であればこの反射防止機能とは、外光が光学補償フィルムに到達する際の反射を防止する機能のことであると考える。
【0011】
ところで本発明者は有機EL素子の開発に際して次のことに気付いた。
【0012】
有機EL素子を表示面として利用する場合、外光によって表示面の視認性が低下するが、このことは外光が素子内に侵入し、観察者に遠い側の電極において反射し、そして再び素子外に出てくるためである。
【0013】
即ち表示面の視認性を向上させるためには、素子の外側の表面において外光が反射することを防止するよりも、外光が素子内部において反射して再び素子外に出て行くことを防ぐことが重要であると本発明者は気付いた。
【0014】
一方特許文献1では素子内部に侵入した外光が再び素子外に出て行くことを防ぐ手段が何らとられていない。もし仮に特許文献1の素子において外光が素子内に侵入することを完全に防ぐとしたらこの光学補償フィルムは光不透過性の部材でなければならず、その場合素子自体が発光する光も素子外に取り出せなくなる。
【0015】
よって本発明は、外光が素子内部において反射して再び素子外に出て行くことを防ぐ工夫を施した発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
よって本発明は、
下部電極、発光層、上部電極、保護層、を有し、前記保護層が前記上部電極に接して配置されている発光素子において、
円偏光部材を有し、
前記円偏光部材は、前記上部電極、前記保護層、前記円偏光部材の順に配置されており、且つ前記保護層に接して設けられていることを特徴とする発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の発光素子は、円偏光部材が保護層に接して設けられているので両者の間には界面が最小限数であり、外光が素子外に出て行くことを防ぐことができる薄型の発光素子を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る発光素子は、下部電極、発光層、上部電極、保護層、を有し、保護層が上部電極に接して配置されている発光素子において、
円偏光部材を有し、
円偏光部材は、上部電極、保護層、円偏光部材の順に配置されており、且つ保護層に接して設けられていることを特徴とする発光素子である。
【0019】
つまり、円偏光部材が保護層に接して設けられており、また保護層から下部電極までは空間層(空気、ガス、真空等の雰囲気層)を含まない。その結果大きな屈折率差が生じないため外光が素子外に出て行くことを防ぐことができる薄型の発光素子を提供することが出来る。
【0020】
また円偏光部材は、保護層に対して接着剤を介して設けられていることが好ましく、接着剤により保護層の凹凸を埋めることが出来る。接着剤の厚みは円偏光部材を有する有機発光素子において、保護層の凹凸の長さに相当する厚み、例えば1μm以上の厚みがあればよい。
【0021】
また上部電極は光取り出し側電極であることが好ましい。
【0022】
また保護層はケイ素と窒素とから少なくとも構成されることが好ましく、水分の透過を防止する意味で好ましい。更に保護層は酸窒化ケイ素であってもよい。
【0023】
また円偏光板より光取り出し側に更に保護部材を有することも好ましい。外部からの力から素子を保護することが出来る。
【0024】
また発光層は単一の層であってもよいし、あるいは発光層は第1の層と第2の層とからなり、両層の界面において発光する積層体であってもよい。
【0025】
発光層は有機化合物層であることが好ましい。なお本発明の発光素子は発光層が無機化合物である無機EL素子にも適用できる。
【0026】
また本発明の発光素子はディスプレイの表示部に用いることが好ましい。
【0027】
また本発明の発光素子は撮像部を有する撮像装置に用いることが好ましい。撮像装置とはデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等を挙げることが出来る。
【0028】
また本発明の発光素子は例えば携帯電話の表示部や照明装置にも用いることが出来る。
【0029】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る発光素子は、円偏光板が保護層に接して配置されていることを特徴とする。
【0030】
図2は本実施の形態に係る発光素子を説明する模式図である。紙面上方に光が取り出される。
【0031】
符号101は基材、102は下部電極、103は発光層、104は上部電極、105は保護層、そして106は円偏光部材である。
【0032】
基材101は可撓性があるものでもよいしリジッドな部材でもよい。例えばガラス基板などを挙げることが出来る。
【0033】
基材には更に素子の発光非発光を制御するスイッチング素子を設けてもよい(不図示)。スイッチング素子はたとえばTFT等のトランジスタである。スイッチング素子を設ける場合、その上に発光素子を配置してもよく、その場合は両者の間に平坦化膜を配置してもよい。
【0034】
下部電極102は例えば反射電極でもよくあるいは透明電極でもよい。透明電極の場合、反射部材を別途設けてもよい。下部電極として例えばAgやAlからなるあるいは少なくとも何れか一方を含む電極でもよい。あるいは下部電極としてITOやIZOを用いてもよい。
【0035】
発光層103は一層でもよい。あるいは2層から構成されていてもよくその場合は両層の界面において発光する層でもよい。
【0036】
また不図示ではあるが下部電極102と上部電極104との間に発光層以外の層が発光層と共に配置されていてもよい。これは発光効率を向上するために設けられる層であり、たとえば正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等と称される層である。そしてこれら層を適宜配置してもよい。なおこれらの層のうち少なくとも1層が発光するのであればそれは本発明の発光層であるということができる。
【0037】
本実施形態の発光素子が有機ELに用いられる場合、発光層は例えばホストとゲストから少なくとも構成される層であってもよい。また発光層は燐光発光する層であっても蛍光発光する層であってもよい。
【0038】
本発明において下部電極と発光層と上部電極は必ずしも互いに接して配置されている必要は無い。
【0039】
例えば下部電極と発光層との間や発光層と上部電極との間には発光効率を高めるため上記各層を設けたり、あるいは干渉による光の強め合いを高めるために透明部材や光半透過膜を設けたりすることが適宜可能である。
【0040】
上部電極104は光取り出し側電極であることが好ましい。上部電極としてITOやIZOを用いることが出来る。この場合発光素子は上部電極を光取り出し側電極とすることが出来る。
【0041】
また上部電極と下部電極が共に光取り出し側電極であってもよい。
【0042】
本実施形態において光取り出し側電極は、光透過率が高い(80%以上)いわゆる透明電極であってもよいし、ハーフミラー電極であってもよい。光取り出し側電極がハーフミラー電極である場合、電極にはAl等の薄膜を用いてもよい。
【0043】
保護層105は上部電極104に直接配置される層であり、より好ましくは水分から素子を守る窒化ケイ素である。さらに保護層は酸素を有してもよく、保護層が酸窒化ケイ素も好ましい。より好ましい保護層の構成は、上部電極側から酸窒化ケイ素の層次いで窒化ケイ素の2層構成である。この場合前者の酸窒化ケイ素が上部電極と良好に密着したりあるいは良好にカバレッジすることができ、後者の窒化ケイ素が高い防湿性能で水分から素子を守ることが出来る。保護層はスパッタ法やCVD法等の例えば真空成膜法により得ることが出来る。
【0044】
保護層の透湿度は0.01gHO/day(測定法:JIS K7126準拠(モコン法))以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
また保護層の光透過率は80%以上あることが好ましい。
【0046】
円偏光部材106は保護層105に直接配置される層である。円偏光部材は例えば偏光部材(例えば直線偏光部材)と位相差部材(例えばλ/4位相シフト部材)とから構成される。本実施形態において各部材は板であるものを利用することが出来る。例えば円偏光部材は直線偏光板とλ/4板とから構成される円偏光板を好ましく用いることができる。
【0047】
円偏光部材はロールラミネータ等を用いて保護層に配置してもよい。
【0048】
円偏光部材により外光は以下のようにして素子外に出なくなる。まずはじめに外光は円偏光部材により円偏光に変換されて素子内部に入る。そして素子内部において反射すると円偏光が逆向きの円偏光になる。そして逆向きの円偏光は円偏光部材により素子外部に出ることができない。よって外光は素子内部に入っても円偏光部材により外部に出て行くことが出来ず発光素子としては視認性の高さを保証することが出来る。
【0049】
本実施形態に係る発光素子において保護層は上部電極と接して配置されており且つ円偏光部材が保護層に接して配置されている。
【0050】
このことは発光素子が円偏光部材を単に有しているのではなく、発光素子自体に円偏光部材が直接設けられているということを意味する。その結果素子としての薄型化が達成できるだけでなく保護層から円偏光部材までの間で屈折率差を生じてしまう界面数を最低限数に留めることが出来るので有効な外光反射防止が達成できることを意味する。
【0051】
発光素子自体に円偏光部材が直接設けられているということは、円偏光部材が発光素子と離間して配置されている構成とは異なり離間して配置されていないという意味である。
【0052】
円偏光部材が発光素子と離間して配置されている構成とは、円偏光部材と発光素子とが規定された空間(真空な空間、空気や窒素等の不活性ガスが充満された空間、液状あるいはゲル状の流体が充満された空間等)を介して配置されている構成のことを指す。
【0053】
規定された空間とは、円偏光部材と発光素子とを接した状態で使用することを想定しないために生じる空間のことである。例えば封止キャップと呼ばれる部材の収容空間内に発光素子が配置され、円偏光部材はその封止キャップに配置されている場合において、収容空間内の素子と円偏光部材との間に存在する空間のことである。また他にはカバーガラスと呼ばれる板状の部材を発光素子に対向して配置し、カバーガラスと発光素子との間に封止樹脂が充填されている空間のことでもある。この場合円偏光部材はカバーガラスに配置される。
【0054】
本発明者は円偏光部材は封止キャップ面やカバーガラス面に設けて用いるという常識的な概念にとらわれず、保護層に円偏光部材を直接設けることで上部電極から円偏光部材までの界面数を最低限数に留めつつ外光反射防止を達成することに成功した。
【0055】
更に外光反射防止を達成した発光素子において、封止キャップやカバーガラスや上記離間領域の厚みは発光素子としての厚みに含まれないため発光素子の薄型化が達成できる。
【0056】
このことは封止キャップやカバーガラスを設けて円偏光部材を設けた上で初めて外光防止機能が達成できる素子と比べて発光素子の適用可能範囲が有利に広がる。
【0057】
本実施形態に係る発光素子において、円偏光部材は保護層に対して接着剤を介して設けるが、これは円偏光部材を保護層に簡便に貼りつけることができるので好ましい。接着剤としては光透過率の高い接着剤が好ましく、その場合アクリル系やシリコン系原料の接着剤を用いてもよい。
【0058】
本実施形態に係る発光素子において、この接着剤の厚みは保護層と円偏光部材とが離間して配置されているといえるような距離に相当しない厚みであり、より具体的には接着剤が凝集破壊しない厚さである5μm以上100μm以下の範囲の厚みである。
【0059】
本実施形態に係る発光素子において、製品使用者が触れたりするような場合の外部からの力から発光素子を保護するために例えば発光素子の円偏光部材の上方に保護板を配置してもよい。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
図1に示す断面形状の有機EL素子を作製した。
【0061】
まず0.7mm厚さのガラス基板上にTFT回路と下部電極102を配置して、その上に発光層あるいは発光層を一部含む有機EL層103を蒸着法により成膜し、その上に上部電極104をスパッタ法により形成した。
【0062】
次に、SiNからなる保護層をCVD法により成膜した。CVDでの成膜方法は、材料ガスとして、NH、SiH、Nの混合ガスを成膜チャンバーに導入し、圧力100Pa、RFパワー100Wにて成膜を行った。膜厚が5000Åとなったところで成膜を終了し、保護層とした。
【0063】
次に、円偏光部材として厚さ25μmのアクリル系の粘着剤を設けた円偏光板を発光素子部領域より0.5mm程度大きめの寸法に切断し、淀川メデック社製偏光板貼り合わせ機により位置合わせを行い上記円偏光板と保護層とを貼り合わせた。
【0064】
貼り合わせの条件としては、速度50mm/sec、圧力0.2Mpaで行った。
【0065】
以上により、有機EL素子部上に保護層と円偏光部材とが接した有機EL素子が作製できた。
【0066】
(実施例2)
実施例1で作製した有機EL素子の円偏光板側の上に、さらに接着層を介してガラス基板を積層した。
【0067】
実施例1に示す有機EL素子に、円偏光板と同一の大きさで厚さ0.3mmのガラス基板(コーニング社製:商品名#1737)を保護基板として用意した。
【0068】
上記保護基板の上に接着剤として厚さ25μmのアクリル系粘着剤(綜研科学製:商品名 SK−1831)を配置し、貼り合わせ装置(石井表記社製:商品名 SH−mini)により保護基板と接着剤との貼り合わせを行った。この際の貼り合わせ圧力は0.2MPaで行った。
【0069】
次に接着剤付きの保護基板と実施例1の有機EL素子とを平行平板によるプレス装置により真空度10Paの環境下で、貼り合わせ温度が室温、圧力が0.3MPaの条件で貼り合わせを行い、有機EL素子パネルを作製した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】背景技術に係る有機EL素子の断面模式図である。
【図2】第1の実施の形態に係る発光素子の断面模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 光透過性基板
2 第1の電極
6 有機膜
9 第2の電極
10 DLC膜
12 保護膜
13 第1の保護膜
15 第2の保護膜
18 光学補償フィルム
101 基材
102 下部電極
103 発光層
104 上部電極
105 保護層
106 円偏光部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極、発光層、上部電極、保護層、を有し、前記保護層が前記上部電極に接して配置されている発光素子において、
円偏光部材を有し、
前記円偏光部材は、前記上部電極、前記保護層、前記円偏光部材の順に配置されており、且つ前記保護層に接して設けられていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記円偏光部材は前記保護層に対して接着剤を介して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記上部電極は光取り出し側電極であることを特徴とする請求項1乃至2の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項4】
前記保護層はケイ素と窒素とから少なくとも構成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記円偏光部材より光取り出し側に更に保護部材を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記発光層は単一の層であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記発光層は第1の層と第2の層とからなり、前記第1の層と前記第2の層との界面において発光する積層体であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記発光層は有機化合物層であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の前記発光素子を表示部に有するディスプレイ。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の前記発光素子と撮像部を有する撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate