説明

発光素子

【課題】量子ドットを含む発光層を備えた発光素子において、電荷(ホール、エレクトロン)をトラップして再結合し易く、且つその再結合によって生じた励起子を効果的に発光現象に変換できる発光層を備えた発光素を提供する。
【解決手段】少なくとも、陽極3と、量子ドット11を有する発光層5と、陰極4とをその順で有する発光素子1であって、その発光層5は、量子ドット11よりもバンドギャップが大きい半導体微粒子12を含み、その半導体微粒子12の粒径が量子ドット11の粒径よりも大きいように構成して、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関し、更に詳しくは、量子ドットを含む発光層を備えた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)は、陽極と陰極との間に有機発光層を挟んだ積層構造を有する発光素子であり、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが発光層内で起こる再結合に起因して生じる発光を利用した自発光デバイスである。こうした有機EL素子の課題は、有機発光層を構成する発光材料の長寿命化と発光効率の向上であり、現在、その課題克服のための研究が活発に行われている。
【0003】
一方、粒径によって発光色を調整できる半導体微粒子(「量子ドット」と呼ばれている。)をEL発光材料として用いた発光デバイスが提案されている(例えば、非特許文献1及び特許文献1を参照)。これらの文献には、量子ドットの代表例として、CdSeからなるコアと、その周囲に設けられたZnSシェルと、さらにその周囲に設けられたキャッピング化合物とで構成されたコアシェル構造のものが例示されている。この量子ドットを発光材料として用いた発光素子は、上記の有機EL材料を用いた発光素子よりも長寿命であるという利点がある。
【0004】
しかし、非特許文献1の図1に示されているように、同文献で提案された発光素子が有する発光層は量子ドット単分子膜であるので、両電極から供給された電荷が再結合して生じた励起子がその単分子膜に到達してEL発光に消費される機会が乏しく、十分な輝度と発光効率を達成できないという問題がある。なお、同文献では、発光層と電子輸送層との間に正孔ブロック層を設けて発光層内での再結合の確率を上げようとした例も提案されているが、十分に高い輝度と発光効率をもたらしてはいない。
【0005】
こうした量子ドット単分子膜が有する弱点を解決するため、下記特許文献2,3には、量子ドットをホスト材料内に分散させてなる発光層を有し、その発光層内での電荷の再結合の確率を上げようとした発光素子の例が提案されている。この発光素子は、生じた励起子が発光層内を移動して量子ドットをEL発光させようとするものである。また、特許文献4には、発光中心となる量子ドットと、その量子ドットよりも粒径の小さい半導体微粒子からなる充填材とを混合して発光層領域を形成し、その後に300℃以上の高温で細かい充填材を溶融固化して発光層を形成した発光素子が提案されている。この発光層は、粒径の小さい充填材が容易に溶融しやすいという特徴を利用し、量子ドットを充填材内に溶融固化して導電性の向上と、それに基づく発光効率の向上を図ったものである。
【非特許文献1】Seth Coe et.al., Nature, 420, 800-803(2002)
【特許文献1】特表2005−522005号公報
【特許文献2】特表2005−502176号公報
【特許文献3】特表2007−513478号公報
【特許文献4】特表2007−520077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の発光素子においては、発光層に正孔を供給するための正孔輸送材料の正孔移動度は、発光層に電子を供給するための電子輸送材料の電子移動度よりも大きい場合が多く、その結果、陽極から供給された正孔が発光層を突き抜けてしまい、発光層での再結合の機会が少ないという問題がある。こうした問題は、量子ドットをホスト材料内に分散させた比較的厚い発光層を有する上記特許文献2,3の発光素子においても同様である。
【0007】
また、量子ドットを充填材内に溶融固化してなる発光層は、ある程度、正孔をトラップして電子との再結合の機会を増しているものと考えられるが、発光層を形成する際に、加熱処理や加圧処理が加わるので、例えば有機系薄膜を有する発光素子やプラスチック基材を使用した発光素子では、その加熱処理や加圧処理によってダメージが生じやすく、結果として発光効率が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、量子ドットを含む発光層を備えた発光素子において、電荷(ホール、エレクトロン)を効果的にトラップして再結合し易くし、且つその再結合によって生じた励起子を効果的に発光現象に変換できる発光層を備えた発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の発光素子は、少なくとも、陽極と、量子ドットを有する発光層と、陰極とをその順で有する発光素子であって、前記発光層は、前記量子ドットよりもバンドギャップが大きい半導体微粒子を含み、該半導体微粒子の粒径が前記量子ドットの粒径よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、発光層が、発光中心となる量子ドットと、その量子ドットよりも粒径が大きく且つバンドギャップも大きい半導体微粒子とを有するので、両電極から注入された正孔と電子は粒径の大きな半導体微粒子でトラップされて再結合し、その再結合によって生じた励起子は、半導体微粒子の周囲に存在するエネルギーの低い量子ドットに容易に移動し、発光中心である量子ドットを発光させる。その結果、注入された電荷が発光現象に効率的に利用されるので、良好な発光効率を実現可能な発光素子となる。
【0011】
本発明の発光素子の好ましい態様として、前記半導体微粒子の粒径が、前記量子ドットの粒径の1.1倍〜40倍であるように構成する。
【0012】
この発明によれば、半導体微粒子の粒径が量子ドットの粒径の1.1倍〜40倍であるので、多くの量子ドットが半導体微粒子の周囲に存在することになる。その結果、再結合により半導体微粒子で生じた励起子を、周囲の量子ドットに効率的に分配することができる。
【0013】
本発明の発光素子の好ましい態様として、前記半導体微粒子のバンドギャップと、前記量子ドットのバンドギャップとの差が、0.1eV以上2eV以下であるように構成する。
【0014】
この発明によれば、半導体微粒子で生じた励起子を、半導体微粒子の周囲に存在するエネルギーの低い量子ドットに容易に移動させることができる。
【0015】
本発明の発光素子の特に好ましい一例として、前記半導体微粒子が酸化亜鉛であり、前記量子ドットがCdSe/ZnS型のコアシェル構造からなるように構成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の発光素子によれば、両電極から注入された正孔と電子は粒径の大きな半導体微粒子でトラップされて再結合し、その再結合によって生じた励起子が半導体微粒子の周囲に存在するエネルギーの低い量子ドットに容易に移動するので、発光中心である量子ドットを容易に発光させることができる。その結果、注入された電荷が発光現象に効率的に利用されるので、良好な発光効率を実現可能な発光素子となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の発光素子の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施形態及び図面に限定解釈されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の発光素子の一例を示す模式断面図であり、図2は、本発明の発光素子の発光原理を説明するための模式図である。本発明の発光素子1は、少なくとも陽極3と量子ドット11を有する発光層5と陰極4とをその順で有し、一例として、図1に示すように、少なくとも、陽極3と、正孔注入輸送層6と、量子ドット11を有する発光層5と、電子注入輸送層7と、陰極4とをその順で有する発光素子1を例示できる。そして、その発光層5は、量子ドット11よりもバンドギャップが大きい半導体微粒子12を含み、その半導体微粒子12の粒径が量子ドット11の粒径よりも大きいように構成されている。
【0019】
なお、発光素子1を構成する下記の構成要素を選択し、また、反射層等を設けることにより、トップエミッション型の素子として構成してもよいし、ボトムエミッション型の素子として構成してもよい。
【0020】
次に、本発明の発光素子1の構成要素について詳しく説明するが、以下の具体例のみに限定解釈されるものではない。なお、以下において、「上」「下」との表現を使う場合、図1を平面視した場合における上側が「上」の意味であり、下側が「下」の意味である。
【0021】
(基材)
基材2は、図1の例では陽極3の下地基材として設けられているが、特に図1の例に限定されず、陰極4の上側に設けられていてもよいし、その両方に設けられていてもよい。基材2の透明性は光の出射方向によって任意に選択され、ボトムエミッション型の発光素子とする場合には、図1に示す基材2は透明である必要がある。基材の種類や形状、大きさ、厚さ等の構造は特に限定されるものではなく、発光素子1の用途や基材上に積層する各層の材質等により適宜決めることができる。例えば、Al等の金属、ガラス、石英又は樹脂等の各種の材料からなるものを用いることができる。具体的には、例えば、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。また、基材2の形状としては、枚葉状でも連続状でもよく、具体的には、例えばカード状、フィルム状、ディスク状、チップ状等を挙げることができる。特にフレキシブルなプラスチック基材は、照明用の白色光源素子のフレキシブル基材として、また、カラーフィルターと組み合わせたRGBフレキシブルパネルの基材として、また、LCD−OLEDやLCD−LEDのバックライトのフレキシブル基材として好ましく用いられる。
【0022】
(電極)
陽極3,陰極4は、EL発光材料である量子ドット11を発光させるための正孔と電子を供給するための電極であり、通常は、図1に示すように、陽極3は基材2上に設けられ、陰極4は、少なくとも発光層5を陽極3との間に挟んだ状態で、その陽極3に対向して設けられる。
【0023】
陽極3としては、金属、導電性酸化物、導電性高分子等の薄膜が用いられる。具体的には、例えば、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO、ZnO等の透明導電膜、金、クロムのようなホール注入性が良好な仕事関数の大きな金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子等を挙げることができる。こうした陽極3は、真空蒸着、スパッタリング、CVD等の真空プロセスあるいは塗布により形成することができ、その膜厚は使用する材料等によっても異なるが、例えば10nm〜1000nm程度であることが好ましい。
【0024】
陰極4としては、金属、導電性酸化物、導電性高分子等の薄膜が用いられる。具体的には、例えば、アルミ、銀等の単体金属、MgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Caをはじめとするアルカリ金属類、それらアルカリ金属類の合金のような電子注入性が良好な仕事関数の小さな金属等を挙げることができる。陰極4は、上述した陽極3の場合と同様、真空蒸着、スパッタリング、CVD等の真空プロセスあるいは塗布により形成され、その膜厚は使用する材料等によっても異なるが、例えば10nm〜1000nm程度であることが好ましい。
【0025】
(発光層)
発光層5は、陽極3と陰極4とに挟まれた態様で設けられ、発光中心となる量子ドット11と、その量子ドット11よりも粒径が大きく且つバンドギャップも大きい半導体微粒子12とを有している。
【0026】
こうして構成された発光層5での発光原理は、先ず、電極3,4から注入された正孔と電子は粒径の大きな半導体微粒子12でトラップされて再結合し、そして、その再結合によって生じた励起子は半導体微粒子12の周囲に存在するエネルギーの低い量子ドット11に容易に移動し、発光中心である量子ドット11が発光する。こうした発光原理の発光素子は、陽極3と発光層5との間に通常設けられる正孔注入輸送層6の正孔移動度が陰極4と発光層5との間に通常設けられる電子注入輸送層7の電子移動度よりも大きいという通常の場合において、発光層5への電子の供給が不足するとともに正孔の一部は発光層5を突き抜けてしまい、注入された電荷(正孔、電子)量に対する発光効率が低いという傾向があったが、本発明においては、従来、発光層5を突き抜けていた一部の正孔は粒径の大きな半導体微粒子12でトラップされ、トラップされた正孔はその半導体微粒子12で電子と再結合するので、注入された電荷を効率的に再結合させることができ、しかも生じた励起子を、その半導体微粒子の周囲に存在する多数の量子ドット11に配分するので、量子ドットによる発光現象を効率的に行わせることができ、良好な発光効率を実現可能となる。
【0027】
用いる量子ドット(Quantum dot)11は、粒径によって発光色を調整できる半導体微粒子である。この量子ドット11は、ナノ粒子(Nanoparticle)、ナノ結晶(Nanocrystal)とも呼ばれるものであり、その代表例としては、CdSeからなるコアと、その周囲に設けられたZnSシェルと、さらにその周囲に設けられたキャッピング化合物とで構成されたものを例示できる。この量子ドット11は、その粒径により発光色を異にするものであり、例えば青色発光する粒径は1.0nm〜1.9nmの範囲であり、緑色発光する粒径は2.0nm〜2.4nmの範囲であり、赤色発光する粒径は4.2nm〜6.0nmの範囲である。
【0028】
量子ドット11としては、半導体のナノメートルサイズの微粒子(半導体ナノ結晶)であり、量子閉じ込め効果(量子サイズ効果)を生じる発光材料であれば特に限定されない。具体的には、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe及びHgTeのようなII−VI族半導体化合物、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaAs、GaP、GaN、GaSb、InN、InAs、InP、InSb、TiN、TiP、TiAs及びTiSbのようなIII−V族半導体化合物、Si、Ge及びPbのようなIV族半導体等を含有する半導体結晶の他、InGaPのような3元素以上を含んだ半導体化合物が挙げられる。或いは、上記半導体化合物に、Eu3+、Tb3+、Ag、Cuのような希土類金属のカチオン又は遷移金属のカチオンをドープしてなる半導体結晶を用いることができる。
【0029】
中でも、作製の容易性、可視域での発光を得られる粒径の制御性、蛍光量子収率の観点から、CdS,CdSe,CdTe、InGaP等の半導体結晶が好適である。
【0030】
量子ドット11は、1種の半導体化合物からなるものであっても、2種以上の半導体化合物からなるものであってもよく、例えば、半導体化合物からなるコアと、該コアと異なる半導体化合物からなるシェルとを有するコアシェル型構造を有していてもよい。コアシェル型の量子ドットとしては、励起子が、コアに閉じ込められるように、シェルを構成する半導体化合物として、コアを形成する半導体化合物よりもバンドギャップの高い材料を用いることで、量子ドットの発光効率を高めることができる。このようなバンドギャップの大小関係を有するコアシェル構造(コア/シェル)としては、例えば、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/CdS、CdTe/CdS、InP/ZnS、GaP/ZnS、Si/ZnS、InN/GaN、InP/CdSSe、InP/ZnSeTe、GaInP/ZnSe、GaInP/ZnS、Si/AlP、InP/ZnSTe、GaInP/ZnSTe、GaInP/ZnSSe等が挙げられる。
【0031】
量子ドット11のサイズは、所望の波長の光が得られるように、量子ドットを構成する材料によって、半導体微粒子12の大きさとの関係を考慮しつつ、適宜制御すればよい。量子ドットは粒径が小さくなるに従い、エネルギーバンドギャップが大きくなる。すなわち、結晶サイズが小さくなるにつれて、量子ドットの発光は青色側へ、つまり、高エネルギー側へとシフトする。そのため、量子ドットのサイズを変化させることにより、紫外領域、可視領域、赤外領域のスペクトルの波長領域にわたって、その発光波長を調節することができる。
【0032】
一般的には、量子ドット11の粒径(直径)は0.5〜20nmの範囲であり、1〜10nmの範囲であることが好ましい。なお、量子ドットのサイズ分布が狭いほど、より鮮明な発光色を得ることができる。
【0033】
また、量子ドット11の形状は特に限定されず、球状、棒状、円盤状、その他の形状であってもよい。量子ドットの粒径は、量子ドットが球状でない場合、同体積を有する真球状であると仮定したときの値とすることができる。
【0034】
量子ドット11の粒径、形状、分散状態等の情報については、透過型電子顕微鏡(TEM)により得ることができる。また、量子ドットの結晶構造、また粒径については、X線結晶回折(XRD)により知ることができる。さらには、UV−Vis吸収スペクトルによって、量子ドットの粒径、表面に関する情報を得ることもできる。なお、本願でいう「粒径」とは、平均粒径のことである。
【0035】
量子ドット11の一例としては、例えば、CdSeからなるコアと、その周囲に設けられたZnSシェルと、さらにその周囲に設けられたキャッピング化合物とを基本構造としたCdSe/ZnS型のコアシェル構造からなるものを好ましく例示できる。こうしたコアシェル構造において、コアは半導体化合物からなり、シェルは該コアと異なる半導体化合物からなり、コアを形成する半導体化合物よりもバンドギャップの高い材料を用いることで、励起子がコアに閉じ込められるように作用する。また、キャッピング化合物は分散剤として作用する。こうしたキャッピング化合物の具体例としては、例えば、TOPO(トリオクチルフォスフィンオキシド)、TOP(トリオクチルホスフィン)、TBP(トリブチルホスフィン)等が挙げられ、そうした材料により、有機溶媒中に分散することができる。
【0036】
一方、半導体微粒子12は、量子ドット11よりも粒径が大きく且つバンドギャップも大きい粒子である。半導体微粒子12の粒径は、量子ドット11の粒径(0.5〜20nm)よりも大きく、且つ1nm以上100nm以下の範囲、好ましくは1nm以上40nm以下の範囲である。半導体微粒子12の粒径が量子ドット11の粒径と同じ又は小さい場合には、この半導体微粒子11の周囲に多くの量子ドット11を配置できない。また、半導体微粒子12の粒径が大きすぎると、半導体微粒子12で生じた励起子の移動が困難になることがある。こうした半導体微粒子12と粒径は、量子ドット11の粒径の1.1倍〜40倍であるように選択することが好ましい。この範囲内の半導体微粒子12と量子ドット11とを選択すれば、量子ドット11は「半導体微粒子12の周囲に多数配置させることができ、その結果、半導体微粒子12で生じた励起子を多くの量子ドット11に配給することができる。
【0037】
半導体微粒子12は、量子ドット11よりもバンドギャップが大きい粒子である。そうした半導体微粒子12は、組み合わせる量子ドット11のバンドギャップをも考慮して選択する必要がある。そのバンドギャップの差の程度は、半導体微粒子12のバンドギャップと、量子ドット11のバンドギャップとの差が、’0.1eV以上2eV以下であることが好ましく、0.3eV以上2eV以下であることが特に好ましい。こうしたバンドギャップの差によって、半導体微粒子12で生じた励起子をその周囲に存在する量子ドット11に容易に移動させることができ、量子ドット11でのEL発光を容易にする。
【0038】
半導体微粒子12の具体例としては、例えば、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe及びHgTeのようなII−VI族半導体化合物、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaAs、GaP、GaN、GaSb、InN、InAs、InP、InSb、TiN、TiP、TiAs及びTiSbのようなIII−V族半導体化合物、Si、Ge及びPbのようなIV族半導体等を含有する半導体結晶の他、InGaPのような3元素以上を含んだ半導体化合物等が挙げられる。なお、バンドギャップは、半導体微粒子12に必要に応じてドーパントをドープして調整することも可能である。より具体的には、ZnO、ZnS、ZnSe等を好ましく用いることができる。
【0039】
発光層5の形成は各種の方法で行うことができる。一例としては、粒径とバンドギャップとを考慮して選択された量子ドット11と半導体微粒子12とをホスト材料とともに混合して混合溶液を調整し、その混合溶液を正孔注入輸送層6上に塗布し、乾燥硬化する方法を例示できる。このときに用いるホスト材料としては、一般的な発光層のホスト材料として使用されている蛍光材料や燐光材料を用いることができ、具体的には、色素系材料や金属錯体系材料を挙げることができる。
【0040】
色素系材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。また、これらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。具体的には、トリフェニルアミン誘導体としては、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPDと略す)や、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATAと略す)等が挙げられ、アリールアミン類としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPDと略す)等が挙げられ、オキサジアゾール誘導体としては、(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBDと略す)等が挙げられ、アントラセン誘導体としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNAと略す)等が挙げられ、カルバゾール誘導体としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBPと略す)や、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBiと略す)等が挙げられ、フェナントロリン類としては、バソキュプロインや、バソフェナントロリン等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0041】
金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは、中心にAl、Zn、Be等の金属又は、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。具体的には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3と略す)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlqと略す)、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体(BeBqと略す)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、上記の色素系材料や金属錯体系材料等の低分子系のホスト材料を分子内に直鎖、側鎖若しくは官能基として導入した中分子系又は高分子系材料を使用することができる。具体的には、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、及びそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0043】
なお、上記以外の方法でも発光層5を形成してもよい。こうして形成された発光層5の厚さは、例えば1nm以上100nm以下で形成される。特にその厚さは、半導体微粒子12の粒径に近い厚さであることが好ましい。得られた発光層5内には、図2に示すように、半導体微粒子12が横方向に均一に分散し、さらにその半導体微粒子12の周囲には量子ドット11が満遍なく分散している。
【0044】
(正孔注入輸送層)
正孔注入輸送層6は、発光素子1の用途により必要に応じて設けられるものであって、通常は陽極3上に設けられる。この「正孔注入輸送層6」は、正孔注入性と正孔輸送性を兼ねる単一層(図1及び図2参照)として設けてもよいし、正孔注入層と正孔輸送層との積層形態からなるものであってもよい。いずれにおいても、本発明においては、この正孔注入輸送層6が、陽極3から供給された正孔(ホール)を発光層5側に輸送するように作用する。
【0045】
正孔注入輸送層6の形成材料としては、正孔輸送材料を用いることができる。例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。上記の発光層5との同時形成を考慮して、上記したN,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)を好ましく用いることができるが、これに限らず、例えば、アリールアミン誘導体の具体的としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、コポリ[3,3´−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)等を挙げることができる。カルバゾール類の具体例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体類の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4´−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。スピロ化合物の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9´−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。また、例えばポリ(3、4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(略称PEDOT/PSS、バイエル社製、商品名;Baytron P CH8000、水溶液として市販。)等も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0046】
こうした正孔注入輸送層6は、各種の方法で成膜でき、その厚さは使用する材料等によっても異なるが、例えば1nm〜50nm程度の範囲内であることが好ましい。
【0047】
(電子注入輸送層)
電子注入輸送層7は、発光素子1の用途により必要に応じて設けられるものであって、発光層5と陰極4との間に設けられる。この「電子注入輸送層7」は、電子注入性と電子輸送性を兼ねる単一層(図1及び図2参照)として設けてもよいし、電子注入層と電子輸送層との積層形態からなるものであってもよい。いずれにおいても、電子注入輸送層7は、陰極4から供給された電子を発光層5側に輸送するように作用する。
【0048】
電子注入輸送層7の形成材料としては、電子輸送材料を用いることができる。例えば、金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、シリル化合物、フラーレン等が挙げられる。具体的には、フェナントロリン類の具体例としては、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、金属錯体の具体例としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq2)等が挙げられる。オキサジアゾール誘導体としては、(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられる。こうした電子注入輸送層7は、真空蒸着法あるいは上記材料を含有した電子注入輸送層形成用塗工液を用いた塗布法により形成される。
【0049】
こうした電子注入輸送層7は、各種の方法で成膜でき、その厚さは使用する材料等によっても異なるが、例えば1nm〜100nm程度の範囲内であることが好ましい。
【0050】
(その他の層)
電子注入層(図示しない)は、陰極4と電子注入輸送層7との間に、さらに電子注入性を高めようとする場合に、必要に応じて設けられ、陰極4から電子が注入され易いように作用する。電子注入層の形成材料としては、アルミニウム、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、カルシウム、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム、リチウム、セシウム、フッ化セシウム等のようにアルカリ金属類、及びアルカリ金属類のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体等を挙げることができる。こうした電子注入層は、各種の方法で成膜でき、その厚さは使用する材料等によっても異なるが、例えば0.1nm〜200nm程度の範囲内であることが好ましい。
【0051】
正孔注入層(図示しない)は、陽極3と正孔注入輸送層6との間に、さらに正孔注入性を高めようとする場合に、必要に応じて設けられ、陽極3から正孔(ホール)が注入され易いように作用する。正孔注入層の形成材料としては、例えばポリ(3、4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(略称PEDOT/PSS、バイエル社製、商品名;Baytron P CH8000、水溶液として市販。)等、従来から正孔注入層形成用材料として知られているものを用いることができる。こうした正孔注入層は、各種の方法で成膜でき、その厚さは使用する材料等によっても異なるが、例えば0.1nm〜200nm程度の範囲内であることが好ましい。
【0052】
パッシペーション層(図示しない)も必要に応じて設けられ、形成した発光層5や電子注入輸送層7等が、水蒸気や酸素で劣化しないようにするために、素子全体を覆うように設けられる層である。こうしたパッシペーション層の形成材料としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等を挙げることができる。その厚さは、形成材料によっても異なるが、水蒸気や酸素で劣化しない程度の厚さで形成される。
【0053】
反射層(図示しない)も必須の層ではないが、発光層5で生じた光を効率的に外部に取り出すための層であり、発光効率を高めるために設けられる層である。
できるので好ましく設けられる。この反射層は独立の層として単独で設けてもよいし、全反射層と半透明反射層とのペアで構成した共振器構造として設けてもよい。こうした反射層は、通常、透明導電膜や、金、クロムのような金属層が好ましく用いられる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定解釈されるものではない。
【0055】
(実施例1)
先ず、陽極として厚さ150nmのITO膜が形成されたガラス基材上に、正孔注入輸送層として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)薄膜(厚さ:80nm)を、PEDOT−PSS溶液を大気中でスピンコート法により塗布して成膜した。PEDOT−PSS成膜後、水分を蒸発させるために大気中でホットプレートを用いて乾燥させた。
【0056】
次に、赤色発光する量子ドット(粒径:5.6nm、エビデントテクノロジー社製、バンドギャップ:2eV)と、ZnOからなる半導体微粒子(粒径:10nm、バンドギャップ:3.4eV)からなる混合溶液を調整し、その混合溶液を正孔注入輸送層上に塗布して厚さ40nmの発光層を形成した。次に、その発光層上に、電子注入輸送層として、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)(厚さ:20nm)を、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱蒸着法により成膜し、次に、その上にさらに電子注入層としてLiF(厚さ:0.5nm)を成膜し、さらにその上にAl(厚さ:100nm)を真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0057】
こうして発光素子を形成した後、グローブボックス内にて、その発光素子を、無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止して、実施例1の発光素子を作製した。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、発光層に赤色発光する量子ドットのみを用いて、厚さ40nmの発光層を形成した他は、実施例1と同様にして、比較例1の発光素子を作製した。
【0059】
(膜厚の測定)
本発明で記述される各層の厚さは、特に記載がない限り、洗浄済みのITO付きガラス基板(三容真空社製)上へ各層を単膜で形成し、作製した段差を測定することによって決定した。膜厚測定には、プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、Nanopics1000)を用いた。
【0060】
(バンドギャップ)
量子ドットと半導体微粒子のバンドギャップは、光学吸収スペクトルの値からバンドギャップEgを算出した。吸収スペクトルは、洗浄済みの石英基板上に、測定しようとする材料で形成した層を単層として形成し、この薄膜付基板とリファレンスの石英基板との光学吸収の差を、UV−3100PC(日立製)を用いて測定した。
【0061】
(粒径)
量子ドットと半導体微粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線結晶回折(XRD)により評価し、平均粒径で表した。
【0062】
(有機EL素子の電流効率と電力効率)
実施例1及び比較例1の発光素子の電流効率と寿命特性を評価した。電流効率と電力効率は、電流−電圧−輝度(I−V−L)測定により算出した。I−V−L測定は、陰極を接地して陽極に正の直流電圧を100mV刻みで走査(1sec./div.)して印加し、各電圧における電流と輝度を記録して行った。輝度はトプコン社製輝度計BM−8を用いて測定した。得られた結果をもとに、発光効率(cd/A)は発光面積と電流と輝度から計算して算出した。その結果、実施例1の発光素子の発光効率は、比較例1の発光素子の発光効率よりも高い値であった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の発光素子の発光原理を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1 発光素子
2 基材
3 陽極
4 陰極
5 発光層
6 正孔注入輸送層
7 電子注入輸送層
11 量子ドット
12 半導体微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、陽極と、量子ドットを有する発光層と、陰極とをその順で有する発光素子であって、
前記発光層は、前記量子ドットよりもバンドギャップが大きい半導体微粒子を含み、該半導体微粒子の粒径が前記量子ドットの粒径よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記半導体微粒子の粒径が、前記量子ドットの粒径の1.1倍〜40倍である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記半導体微粒子のバンドギャップと、前記量子ドットのバンドギャップとの差が、0.1eV以上2eV以下である、請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記半導体微粒子が酸化亜鉛であり、前記量子ドットがCdSe/ZnS型のコアシェル構造からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−87756(P2009−87756A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256566(P2007−256566)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】