説明

発光素子

【課題】
本発明は、従来にはない高い量子収率を得た発光素子を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の発光素子は、核となるナノ粒子の表面が有機分子により不動態化された非酸化シリコンナノ粒子からなる発光素子であって、核となるナノ粒子の直径が1nm〜3nmの範囲内にあること特徴とし、前記の発光素子において、量子収率10%以上であることを特徴とする。
本発明は、前記の発光素子において、300〜350 nmの紫外波長領域においてピーク発光することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核となるナノ粒子の表面が有機分子により不動態化された非酸化シリコンナノ粒子からなる発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
1.1 eVのバンドギャップをもつバルクシリコンは、間接遷移型バンド構造を有するために、その近赤外領域における発光は極めて弱く、発光素材として使用できない(特許文献1、非特許文献1、2)。
一方、バルクシリコンを多孔質化したポーラスシリコンが赤色発光を示し、その量子収率が1.0%(対バルク10,000倍)であることが知られている。さらに、水素終端化、酸化膜被覆、または、有機物被覆シリコンナノ粒子において、可視波長領域においてフォトルミネッセンス特性を示すことが知られている。
水素終端化したシリコンナノ粒子における量子収率は一般的に1〜6%であると報告されている(非特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような実情に鑑み、従来にはない高い量子収率を得た発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の発光素子は、核となるナノ粒子の表面が有機分子により不動態化された非酸化シリコンナノ粒子からなる発光素子であって、核となるナノ粒子の直径が1nm〜3nmの範囲内にあること特徴とする。
発明2は、発明1の発光素子において、量子収率10%以上であることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2の発光素子において、300〜350 nmの紫外波長領域においてピーク発光することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、量子サイズ効果を顕著化させることによって、従来にはない高輝度の発光を得られることとなったものと思われる。
しかし、そのナノ粒子の構造は不明だが、ダイヤモンド構造を持つ結晶体では、このような発光は見られないとするのが技術常識とされていることから、ナノ粒子の構造にも影響されている可能性を否定できない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の高輝度紫外発光シリコンナノ粒子の製造過程を模式的に示したものである。(A)は、逆ミセル中で、四塩化ケイ素の1塩素原子がアルコール分子と置換した状態、(B)は、これを還元することで、当該ミセル中において粒子構造が構築された状態、(C)は、精製によりアルコキシ終端シリコンナノ粒子を得た状態をそれぞれ示す図である。
【図2】実験No.1で作製されたシリコンナノ粒子からのFT−IRスペクトル。
【図3】実験No.1で作製されたシリコンナノ粒子のTEM像。
【図4】実験No.1で作製されたシリコンナノ粒子のPLスペクトル。
【図5】実験No.12で作製されたシリコンナノ粒子のPLスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の実施例より、量子収率を10%以上とするには、核となるナノ粒子の直径が5nm以下、より好ましくは2nm以下とするのが望ましい。
下記実施例より明らかなとおり、発光素子を構成する非酸化シリコンナノ粒子(C)は、シリコン化合物をキャッピング材からなる有機溶媒に溶解した状態で、界面活性剤により無水トルエン中に分散させて、エマルジョン化して、図1に示すような液粒(A)を形成することにはじまる。
この場合、このエマルジョン化されたときの液粒(A)の大きさとその液粒(A)内に存在するシリコン分子の数により、核となるナノ粒子(C)の大きさが概ね決定されることとなる。
そして、この液粒(A)の大きさは、従来の界面活性剤によるエマルジョン化の手法に基づき調整しているので、実施例に限らず、従来公知のエマルジョン化技術を適用することでも同様に液粒(A)の大きさを調整し得ると考えられる。
また、下記実施例ではアルコキシ基をキャッピング材として用いたが、アルキル基をキャッピング材に用いても同様の効果をもたらすと考えられる。
例えば、キャッピング材としては、アルキル基、アルコキシル基であれば良く、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられ、またこれらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、アミノ基等で置換した基であってもよい。また、逆末端に官能基を持たせることもできる。そのような官能基としては、例えばアミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基である。炭化水素基の長さは、炭素数3〜22までの光物性に影響を与えないものが好ましい。
また、無水トルエンに限らず、前記シリコン化合物に非親和性の無水液であれば用いることが可能である。例えば、無水のオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、メシチレン、トリメチルペンタン、エチルへキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、キシレン類などが利用可能である。
【0008】
次に前記液粒(A)をシリコンと有機体との複合体粒子(B)に変換するのに、下記実施例では塩化反応を利用し、シリコンよりも塩素に反応し易い還元剤を投入して、塩化シリコンから塩素を除去する手段を採用している。
しかし、この原理は、塩素に限らず、シリコンと結合する元素であって、シリコンよりもさらにこの元素に結合し易い化合物(還元剤)があれば、いずれも当該現象を生じさせることができるものと考えられる。
前記還元剤は、電子移動反応剤とアルカリ金属の反応物からなり、下記実施例に示す他、例えば、電子移動反応剤としては、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン等が好適に使用される。
さらに、これら電子移動反応剤に組み合わせるアルカリ金属としては、ナトリウム、リチウムが一般的であり、カリウムナフタレニドの使用も考えられる。
【0009】
還元後は、溶媒である無水トルエンを除去した後、精製工程に入るが、この精製により、前記複合体粒子(B)は、その内部のシリコン同士が結合して核となるナノ粒子を形成し、その周囲に有機体を位置させた非酸化シリコンナノ粒子(C)を生成することとなる。
下記実施例では、シリカゲルクロマトグラフィー法(SC)と昇華法(SUB)を連続して用いたが、具体的には以下のようにして、濾過後の複合体粒子(B)を精製して非酸化シリコンナノ粒子(C)を生成した。
シリカゲルクロマトグラフィー法(SC)では、ジクロロメタンを展開溶媒として、未反応1−アルコール分子および界面活性剤を除去した。次に、シクロヘキサンを展開溶媒として、前記電子移動反応剤の大半を除去した。
なお、前記SCと同様な展開溶媒を用いて、非特許文献4のP75〜79に示されたカラム精製法によっても、同様な精製が可能である。
次の昇華法(SUB)に供した。
昇華法(SUB)では、10hPa以下、好ましくは1hPa、より好ましくは0.1hPa以下の真空条件下で、50℃以上〜120℃未満、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下にサンプルを熱することで、電子移動反応剤を昇華除去した。
具体的には、内圧0.1hPaに維持したチャンバー内において、シリカゲルクロマトグラフィー法(SC)にて得た粒子を60℃に加熱して4時間放置した。
なお、加熱温度が低すぎる場合、あるいは不十分な真空下では、昇華が発生しにくく、わずかに残った電子移動反応剤を除去することは困難であり、また、加熱温度が過剰であると、粒子周りに形成された有機分子(キャッピング材)が破壊される虞がある。
非酸化シリコンナノ粒子(C)の量子収率は、表1の実験例より明らかなとおり、エマルジョン組成、電子移動反応剤の使用量などにより、変化するものであるが、これを10%以上とすることで、従来のものとの機能上の差異が生じ、好ましくは、12%以上、15%以上、17%以上、さらに好ましくは20%以上とするのが望ましい。
【実施例1】
【0010】
四塩化ケイ素(0.01M)を界面活性剤共存下、無水トルエン中において、脱水・脱酸素した1−アルコールと撹拌後、脱水1,2−ジメトキシエタン中で調整した還元剤を用い還元した。
精製は、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法、および昇華法を用いた(実験No.1−8)(作製後の評価)
作製した試料を、日立ダブルビーム分光光度計U−2900(商品名)を用いた紫外―可視吸収測定、266nmで励起することによるPL(Photoluminescence:フォトルミネッセンス)測定、FT−IR(フーリエ赤外分光法)測定、量子収率測定、及び、TEM(Transmission Electron Microscopy)によって評価した。相対量子収率測定は、トリプトファンと比して見積もられた。
【比較例1】
【0011】
四塩化ケイ素(≧0.025M)をジメチルジオクチルアンモニウムブロミド共存下、無水トルエン中において、脱水・脱酸素した1−ヘキサデカノールと撹拌後、脱水1,2−ジメトキシエタン中で調整したナトリウムビフェニリドを用い還元した。精製は、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法、および昇華法を用いた(実験No.10、11)。
【比較例2】
【0012】
四塩化ケイ素(0.01 M)を界面活性剤未使用条件下、無水トルエン中において、脱水・脱酸素した1−オクタノールと撹拌後、脱水1,2−ジメトキシエタン中で調整したナトリウムナフタレニドを用い還元した。精製は、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法、および昇華法を用いた(実験No.9)。
【比較例3】
【0013】
四塩化ケイ素(0.01M)をジメチルジオクチルアンモニウムブロミド共存下、無水トルエン中において、脱水・脱酸素していない1−オクタノールと撹拌後、脱水1,2−ジメトキシエタン中で調整したナトリウムビフェニリドを用い還元した。精製は、濾過後、シリカゲルクロマトグラフィー法、および昇華法を用いた(実験No.12)。
【比較例4】
【0014】
実験No.5で作製したヘキサデカノキシ基終端シリコンナノ粒子を450℃で3h、大気中で熱処理して、キャッピング材を酸化除去した、FT−IR及びPL測定を行った(実験No.13)。
【0015】
以上の実施例と4つの比較例で作製したサンプルを相互比較したところ、実験No.1−8で作製したサンプルは、高い分子密度を有するアルコキシ単分子膜にキャッピングされ、平均粒子サイズが2nm程度以下の非酸化シリコンナノ粒子から構成されており、300〜350nmの紫外波長領域で蛍光発光した(図3参照)。
さらに、当該紫外発光の相対量子収率は20%以上と高い値を示した。実験No.9で作製したサンプルは、逆ミセルを使用しなかったために、粒度分布が極めて広かった。
それゆえ、PL測定から300〜600nmに渡る幅広い波長領域において蛍光発光を示した。
また、量子サイズ効果発現に寄与するサイズ径(≦5nm)よりも大きな粒子を多数含むことから、量子収率は低かった。
実験No.10,11で作製したサンプルは、有機単分子による被覆密度が低いため、未被覆領域が大気暴露により部分的に酸化されたシリコンナノ粒子を多く含んでいた。
また、広い粒度分布をもつ影響もあり、紫外〜可視域にわたり幅広い波長領域において蛍光発光を示した。
さらに、発光に寄与しない多数の粒子が存在することから相対量子効率が5%以下と低かった。実験No.12で作製したサンプルは、添加した1−アルコールが脱水・脱酸素処理されていなかったために、反応系に酸素および水分子が混入した結果、有機単分子による被覆密度が低くなり、未被覆領域が大気暴露により部分的に酸化したシリコンナノ粒子を多く含有していた。
酸化膜被覆ナノ粒子の混在により、PLスペクトルは、300〜600nmに渡る幅広い波長領域で蛍光発光を示した。
実験No.13で作製されたサンプルは、高温での酸化反応により、有機分子膜が酸化除去され、ナノ粒子が酸化シリコン膜で覆われたため、可視波長領域においてPL発光した。
【0016】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0017】
ソフトマテリアル材料としての蛍光発光素材は、π共役系の有機分子を中心に研究が進められているが、紫外波長領域における当該素材はほとんど知られていない。さらに、有機分子に特有の易退色性や低耐紫外線特性の観点から 有機分子における紫外発光材料の開発は進んでいない。ケイ素原子が、炭素、窒素、酸素など有機物を構成する主要元素とのケミカルアフィニティーが高いことから、紫外波長領域でフォトルミネッセンス特性を示すシリコンナノ粒子の表面を有機化学的に修飾可能な本発明は、紫外波長領域で活躍できるソフトマテリアル材料としての効果を発揮可能であると期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−12702
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】ナノ粒子の創製と応用展開、フロンティア出版p73〜p79、白幡
【非特許文献2】Chemical Communications 2006, 4160. Veinot
【非特許文献3】Physical Review 60, 1999, 2704. Wilcoxonら
【非特許文献4】第2版機器分析のてびき第2集(化学同人)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核となるナノ粒子の表面が有機分子により不動態化された非酸化シリコンナノ粒子からなる発光素子であって、核となるナノ粒子の直径が1nm〜3nmの範囲内にあること特徴とする発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子において、量子収率10%以上であることを特徴とする発光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光素子において、300〜350 nmの紫外波長領域においてピーク発光することを特徴とする発光素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−205686(P2010−205686A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52779(P2009−52779)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月9日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集(57巻2号〔2008〕)」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】