説明

発光素子

【課題】外部量子効率が高い発光素子を提供する。また、寿命の長い発光素子を提供する。
【解決手段】燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、第1の有機化合物及び第2の有機化合物が、励起錯体(エキサイプレックス)を形成する組み合わせである発光素子を提供する。該発光素子は、励起錯体の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高い。したがって、外部量子効率が高い発光素子を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)現象を利用した発光素子(以下、有機EL素子とも記す)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の研究開発が盛んに行われている。有機EL素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の有機化合物を含む層(以下、発光層とも記す)を挟んだものであり、薄型軽量化できる・入力信号に高速に応答できる・直流低電圧駆動が可能であるなどの特性から、次世代のフラットパネルディスプレイ素子として注目されている。また、このような発光素子を用いたディスプレイは、コントラストや画質に優れ、視野角が広いという特徴も有している。さらに、有機EL素子は面光源であるため、液晶ディスプレイのバックライトや照明等の光源としての応用も考えられている。
【0003】
有機EL素子の発光機構は、キャリア注入型である。すなわち、電極間に発光層を挟んで電圧を印加することにより、電極から注入された電子およびホール(正孔)が再結合して発光物質が励起状態となり、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。そして、励起状態の種類としては、一重項励起状態(S)と三重項励起状態(T)が可能である。また、発光素子におけるその統計的な生成比率は、S:T=1:3であると考えられている。
【0004】
発光性の有機化合物は通常、基底状態が一重項状態である。したがって、一重項励起状態(S)からの発光は、同じスピン多重度間の電子遷移であるため蛍光と呼ばれる。一方、三重項励起状態(T)からの発光は、異なるスピン多重度間の電子遷移であるため燐光と呼ばれる。ここで、蛍光を発する化合物(以下、蛍光性化合物と記す)は室温において、通常、燐光は観測されず蛍光のみが観測される。したがって、蛍光性化合物を用いた発光素子における内部量子効率(注入したキャリアに対して発生するフォトンの割合)の理論的限界は、S:T=1:3であることを根拠に25%とされている。
【0005】
一方、燐光を発する化合物(以下、燐光性化合物と記す)を用いれば、内部量子効率は100%にまで理論上は可能となる。つまり、蛍光性化合物に比べて高い発光効率を得ることが可能になる。このような理由から、高効率な発光素子を実現するために、燐光性化合物を用いた発光素子の開発が近年盛んに行われている。特に、燐光性化合物としては、その燐光量子収率の高さゆえに、イリジウム等を中心金属とする有機金属錯体が注目されており、例えば、特許文献1には、イリジウムを中心金属とする有機金属錯体が燐光材料として開示されている。
【0006】
上述した燐光性化合物を用いて発光素子の発光層を形成する場合、燐光性化合物の濃度消光や三重項−三重項消滅による消光を抑制するために、他の化合物からなるマトリクス中に該燐光性化合物が分散するようにして形成することが多い。この時、マトリクスとなる化合物はホスト材料、燐光性化合物のようにマトリクス中に分散される化合物はゲスト材料と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第00/70655号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一般に、有機EL素子における光取り出し効率は20%〜30%程度と言われている。したがって、反射電極や透明電極による光の吸収を考慮すると、燐光性化合物を用いた発光素子の外部量子効率の限界は、25%程度と考えられている。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、外部量子効率が高い発光素子を提供することを目的の一とする。また、本発明の一態様は、寿命の長い発光素子を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、第1の有機化合物及び第2の有機化合物が、励起錯体を形成する組み合わせである発光素子である。
【0011】
また、本発明の一態様は、燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、第1の有機化合物及び第2の有機化合物が、励起錯体を形成する組み合わせであり、励起錯体が燐光性化合物に作用して、燐光性化合物が燐光を発光する発光素子である。
【0012】
また、本発明の一態様は、燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、第1の有機化合物の一重項励起子から、励起錯体が形成される発光素子である。
【0013】
また、本発明の一態様は、燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、第1の有機化合物のアニオン及び第2の有機化合物のカチオンから、励起錯体が形成される発光素子である。
【0014】
上記発光素子において、励起錯体の励起エネルギーが燐光性化合物に移動して、該燐光性化合物が燐光を発することが好ましい。
【0015】
上記発光素子において、第1の有機化合物及び第2の有機化合物の少なくとも一方が蛍光性化合物であることが好ましい。
【0016】
上記発光素子において、燐光性化合物は、有機金属錯体であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様の発光素子は、発光装置、電子機器、及び照明装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様では、外部量子効率が高い発光素子を提供することができる。また、本発明の一態様では、寿命の長い発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図2】実施例2に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図3】実施例3の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図4】実施例3の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図5】実施例3の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図6】実施例3の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図7】実施例3の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図8】実施例3の発光素子の信頼性試験の結果を示す図。
【図9】実施例4の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図10】実施例4の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図11】実施例4の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図12】実施例4の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図13】実施例4の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図14】実施例4の発光素子の信頼性試験の結果を示す図。
【図15】実施例の発光素子の構成を示す図。
【図16】本発明の一態様の発光素子を示す図。
【図17】本発明の一態様で適用する励起錯体のエネルギー準位を説明する図。
【図18】実施例5に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図19】実施例6の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図20】実施例6の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図21】実施例6の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図22】実施例6の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図23】実施例6の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図24】実施例6の発光素子の信頼性試験の結果を示す図。
【図25】本発明の一態様の概念を説明する図。
【図26】実施例7に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図27】実施例8の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図28】実施例8の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図29】実施例8の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図30】実施例8の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図31】実施例8の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図32】実施例9に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図33】実施例10の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図34】実施例10の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図35】実施例10の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図36】実施例10の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図37】実施例10の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図38】実施例10の発光素子の信頼性試験の結果を示す図。
【図39】実施例11に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図40】実施例12の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図41】実施例12の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図42】実施例12の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図43】実施例12の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図44】実施例12の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図45】実施例12の発光素子の信頼性試験の結果を示す図。
【図46】実施例13に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図47】実施例14の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図48】実施例14の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図49】実施例14の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図50】実施例14の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図51】実施例14の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図52】実施例15に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図53】実施例16の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図54】実施例16の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図55】実施例16の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図56】実施例16の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図57】実施例16の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図58】実施例17に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図59】実施例18の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図60】実施例18の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図61】実施例18の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図62】実施例18の発光素子の輝度−外部量子効率特性を示す図。
【図63】実施例18の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図64】本発明の一態様に係る計算結果を示す図。
【図65】本発明の一態様に係る計算結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子について説明する。
【0022】
本実施の形態の発光素子は、発光物質であるゲスト材料と、第1の有機化合物と、第2の有機化合物とを発光層に有する。具体的には、ゲスト材料として燐光性化合物を用いる。なお、本明細書においては、第1の有機化合物及び第2の有機化合物のうち、発光層に含まれる割合が多い材料をホスト材料と言う。
【0023】
ゲスト材料をホスト材料に分散させた構成とすることにより、発光層の結晶化を抑制することができる。また、ゲスト材料の濃度が高いことによる濃度消光を抑制し、発光素子の発光効率を高くすることができる。
【0024】
なお、本実施の形態において、第1の有機化合物及び第2の有機化合物のそれぞれの三重項励起エネルギーの準位(T準位)は、ゲスト材料のT準位よりも高いことが好ましい。第1の有機化合物(又は第2の有機化合物)のT準位がゲスト材料のT準位よりも低いと、発光に寄与するゲスト材料の三重項励起エネルギーを第1の有機化合物(又は第2の有機化合物)が消光(クエンチ)してしまい、発光効率の低下を招くためである。
【0025】
<発光の素過程>
まず、燐光性化合物をゲスト材料として用いる発光素子における発光の一般的な素過程を説明する。
【0026】
(1)電子及びホールがゲスト分子において再結合し、ゲスト分子が励起状態となる場合(直接再結合過程)。
(1−1)ゲスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき
ゲスト分子は燐光を発する。
(1−2)ゲスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき
一重項励起状態のゲスト分子は三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0027】
つまり、上記(1)の直接再結合過程においては、ゲスト分子の項間交差効率、及び燐光量子収率さえ高ければ、高い発光効率が得られることになる。なお、上述した通り、ホスト分子のT準位はゲスト分子のT準位よりも高いことが好ましい。
【0028】
(2)電子及びホールがホスト分子において再結合し、ホスト分子が励起状態となる場合(エネルギー移動過程)。
(2−1)ホスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき
ホスト分子のT準位がゲスト分子のT準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が三重項励起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。なお、ゲスト分子の一重項励起エネルギーの準位(S準位)へのエネルギー移動も形式上あり得るが、多くの場合ゲスト分子のS準位の方がホスト分子のT準位よりも高エネルギー側に位置しており、主たるエネルギー移動過程になりにくいため、ここでは割愛する。
(2−2)ホスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき
ホスト分子のS準位がゲスト分子のS準位およびT準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が一重項励起状態又は三重項励起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。また、一重項励起状態となったゲスト分子は、三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0029】
つまり、上記(2)のエネルギー移動過程においては、ホスト分子の三重項励起エネルギー及び一重項励起エネルギーの双方が、いかにゲスト分子に効率良く移動できるかが重要となる。
【0030】
このエネルギー移動過程を鑑みれば、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動する前に、ホスト分子自体がその励起エネルギーを光又は熱として放出して失活してしまうと、発光効率が低下することになる。ここで本発明者等は、ホスト分子が一重項励起状態である場合(上記(2−2))は、三重項励起状態である場合(上記(2−1))に比べて、燐光性化合物であるゲスト分子へのエネルギー移動が起こりにくく、発光効率が低下しやすいことを見出し、課題として着目した。その理由は、以下の通り、より詳細にエネルギー移動過程を考慮することで導き出された。
【0031】
<エネルギー移動過程>
以下では、分子間のエネルギー移動過程について詳述する。
【0032】
まず、分子間のエネルギー移動の機構として、以下の2つの機構が提唱されている。ここで、励起エネルギーを与える側の分子をホスト分子、励起エネルギーを受け取る側の分子をゲスト分子と記す。
【0033】
≪フェルスター機構(双極子−双極子相互作用)≫
フェルスター機構は、エネルギー移動に、分子間の直接的接触を必要としない。ホスト分子及びゲスト分子間の双極子振動の共鳴現象を通じてエネルギー移動が起こる。双極子振動の共鳴現象によってホスト分子がゲスト分子にエネルギーを受け渡し、ホスト分子が基底状態になり、ゲスト分子が励起状態になる。フェルスター機構の速度定数k→gを数式(1)に示す。
【0034】
【数1】

【0035】
数式(1)において、νは、振動数を表し、f’(ν)は、ホスト分子の規格化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε(ν)は、ゲスト分子のモル吸光係数を表し、Nは、アボガドロ数を表し、nは、媒体の屈折率を表し、Rは、ホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表し、τは、実測される励起状態の寿命(蛍光寿命や燐光寿命)を表し、cは、光速を表し、φは、発光量子収率(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光量子収率、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光量子収率)を表し、Kは、ホスト分子とゲスト分子の遷移双極子モーメントの配向を表す係数(0〜4)である。なお、ランダム配向の場合はK=2/3である。
【0036】
≪デクスター機構(電子交換相互作用)≫
デクスター機構では、ホスト分子とゲスト分子が軌道の重なりを生じる接触有効距離に近づき、励起状態のホスト分子の電子と基底状態のゲスト分子の電子の交換を通じてエネルギー移動が起こる。デクスター機構の速度定数k→gを数式(2)に示す。
【0037】
【数2】

【0038】
数式(2)において、hは、プランク定数であり、Kは、エネルギーの次元を持つ定数であり、νは、振動数を表し、f’(ν)は、ホスト分子の規格化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε’(ν)は、ゲスト分子の規格化された吸収スペクトルを表し、Lは、実効分子半径を表し、Rは、ホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表す。
【0039】
ここで、ホスト分子からゲスト分子へのエネルギー移動効率ΦETは、数式(3)で表されると考えられる。kは、ホスト分子の発光過程(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光)の速度定数を表し、kは、ホスト分子の非発光過程(熱失活や項間交差)の速度定数を表し、τは、実測されるホスト分子の励起状態の寿命を表す。
【0040】
【数3】

【0041】
まず、数式(3)より、エネルギー移動効率ΦETを高くするためには、エネルギー移動の速度定数k→gを、他の競合する速度定数k+k(=1/τ)に比べて遙かに大きくすれば良いことがわかる。そして、そのエネルギー移動の速度定数k→gを大きくするためには、数式(1)及び数式(2)より、フェルスター機構、デクスター機構のどちらの機構においても、ホスト分子の発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)とゲスト分子の吸収スペクトルとの重なりが大きい方が良いことがわかる。
【0042】
ここで、本発明者等は、ホスト分子の発光スペクトルとゲスト分子の吸収スペクトルとの重なりを考える上で、ゲスト分子の吸収スペクトルにおける最も長波長(低エネルギー)側の吸収帯が重要であると考えた。
【0043】
本実施の形態では、ゲスト材料として燐光性化合物を用いる。燐光性化合物の吸収スペクトルにおいて、最も発光に強く寄与すると考えられている吸収帯は、一重項基底状態から三重項励起状態への直接遷移に相当する吸収波長とその近傍であり、それは最も長波長側に現れる吸収帯である。このことから、ホスト材料の発光スペクトル(蛍光スペクトル及び燐光スペクトル)は、燐光性化合物の吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯と重なることが好ましいと考えられる。
【0044】
例えば、有機金属錯体、特に発光性のイリジウム錯体において、最も長波長側の吸収帯は、500〜600nm付近にブロードな吸収帯として現れる場合が多い(無論、発光波長によっては、より短波長側やより長波長側に現れる場合もある)。この吸収帯は、主として、三重項MLCT(Metal to Ligand Charge Transfer)遷移に由来する。ただし、該吸収帯には三重項π−π遷移や一重項MLCT遷移に由来する吸収も一部含まれ、これらが重なって、吸収スペクトルの最も長波長側にブロードな吸収帯を形成していると考えられる。換言すれば、最低一重項励起状態と最低三重項励起状態の差は小さく、これらに由来する吸収が重なって、吸収スペクトルの最も長波長側にブロードな吸収帯を形成していると考えられる。したがって、ゲスト材料に、有機金属錯体(特にイリジウム錯体)を用いるときは、このように最も長波長側に存在するブロードな吸収帯と、ホスト材料の発光スペクトルが大きく重なる状態が好ましい。
【0045】
ここでまず、ホスト材料の三重項励起状態からのエネルギー移動を考えてみる。上述の議論から、三重項励起状態からのエネルギー移動においては、ホスト材料の燐光スペクトルとゲスト材料の最も長波長側の吸収帯との重なりが大きくなればよい。
【0046】
なお、通常、ホスト材料には蛍光性化合物を用いるため、燐光寿命(τ)はミリ秒以上と非常に長い(k+kが小さい)。これは、三重項励起状態から基底状態(一重項)への遷移が禁制遷移だからである。数式(3)から、このことはエネルギー移動効率ΦETに対して有利に働く。このことも考慮すると、ホスト材料の三重項励起状態からゲスト材料の三重項励起状態へのエネルギー移動は、総じて起こりやすい傾向にある。
【0047】
しかしながら、このとき問題となるのは、ホスト材料の一重項励起状態からのエネルギー移動である。三重項励起状態からのエネルギー移動に加え、一重項励起状態からのエネルギー移動も効率よく行おうとすると、上述の議論から、ホスト材料の燐光スペクトルだけでなく、蛍光スペクトルをもゲスト材料の最も長波長側の吸収帯と重ねるように設計しなければならない。換言すれば、ホスト材料の蛍光スペクトルが、燐光スペクトルと同じような位置に来るようにホスト材料を設計しなければ、ホスト材料の一重項励起状態及び三重項励起状態の双方からのエネルギー移動を効率よく行うことはできないということになる。
【0048】
ところが、一般に、S準位とT準位は大きく異なる(S準位>T準位)ため、蛍光の発光波長と燐光の発光波長も大きく異なる(蛍光の発光波長<燐光の発光波長)。例えば、燐光性化合物を用いた発光素子において、ホスト材料として良く用いられる4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)は、500nm付近に燐光スペクトルを有するが、一方で蛍光スペクトルは400nm付近であり、100nmもの隔たりがある。この例から考えてみても、ホスト材料の蛍光スペクトルが燐光スペクトルと同じような位置に来るようにホスト材料を設計することは、極めて困難である。したがって、ホスト材料の一重項励起状態からのゲスト材料へのエネルギー移動効率の向上は、大きな課題であると本発明者等は考えた。
【0049】
なお、ホスト材料として用いられる蛍光性化合物の蛍光寿命(τ)はナノ秒レベルと非常に短い(k+kが大きい)。これは、一重項励起状態から基底状態(一重項)への遷移が許容遷移だからである。数式(3)から、このことはエネルギー移動効率ΦETに対して不利に働く。このことも考慮すると、ホスト材料の一重項励起状態からゲスト材料へのエネルギー移動は、総じて起こりにくい傾向にある。
【0050】
本発明の一態様は、このようなホスト材料の一重項励起状態からのゲスト材料へのエネルギー移動効率に関する問題点を克服できる、有用な手法である。
【0051】
なおこれまで、燐光性化合物は、項間交差を利用すれば、一重項励起状態及び三重項励起状態の双方を発光に変換できるため(上述の「(1)直接再結合過程」参照)、燐光性化合物を用いた発光素子の内部量子効率は、理論的に100%が可能であるとされてきた。そして、光取り出し効率が20%という仮定の下に、外部量子効率が20%に達する発光素子は、内部量子効率もほぼ100%が達成できているという議論がなされてきた経緯がある。しかし、これら従来の発光素子においては、上述したホスト材料の一重項励起状態からのエネルギー移動が看過されてきたため、実は内部量子効率100%には達していないと考えられる。なぜならば、以下で述べる本発明の一態様を実施することにより、本発明者等は外部量子効率30%が達成できているためである。つまり、少なくとも外部量子効率30%以上が内部量子効率100%に相当するのであり、本発明の一態様はそれを達成するのに有用な手法である。なお、このことから、従来の外部量子効率20%というのは、内部量子効率にして70%以下に相当すると見積もられる。
【0052】
<本発明の一態様>
本発明の一態様は、燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、第1の有機化合物及び第2の有機化合物が、励起錯体を形成する組み合わせである発光素子である。
【0053】
第1の有機化合物と第2の有機化合物は、キャリアの再結合(又は一重項励起子)によって、励起錯体(エキサイプレックスとも言う)が形成される。形成された励起錯体が発光する場合、その発光波長は、第1の有機化合物と第2の有機化合物のそれぞれの発光波長(蛍光波長)に比べて、長波長側に存在する。換言すれば、励起錯体を形成することで、第1の有機化合物の蛍光スペクトルや第2の有機化合物の蛍光スペクトルを、より長波長側に位置する発光スペクトルに変換することができる。
【0054】
したがって、図25に示すように、第1の有機化合物(又は第2の有機化合物)の蛍光スペクトルが、たとえ燐光性化合物の最も長波長側に位置する吸収帯に比べて短波長側に位置し、該吸収帯との重なりがなかったとしても、励起錯体を形成することで、長波長の発光スペクトルが得られ、該吸収帯との重なりを大きくすることができる。本発明の一態様の発光素子は、この励起錯体の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高い。したがって、本発明の一態様では、外部量子効率が高い発光素子を実現することができる。
【0055】
また、励起錯体は励起状態でのみ存在するため、エネルギーを吸収できる基底状態が存在しない。したがって、燐光性化合物の一重項励起状態及び三重項励起状態が該励起錯体に逆エネルギー移動してしまい、燐光性化合物が発光する前に失活する(すなわち発光効率を損なう)という現象は、原理的に生じないと考えられる。このことも、外部量子効率を高くできる一因である。
【0056】
また、励起錯体は一重項励起エネルギーと三重項励起エネルギーの差が極めて小さいと考えられる。換言すれば、励起錯体の一重項状態からの発光スペクトルと三重項状態からの発光スペクトルは、極めて近接することになる。したがって、上述したように励起錯体の発光スペクトル(一般には、励起錯体の一重項状態からの発光スペクトル)を燐光性化合物の最も長波長側に位置する吸収帯に重ねるよう設計した場合、励起錯体の三重項状態からの発光スペクトル(常温では観測されず、低温でも観測されない場合が多い)も、燐光性化合物の最も長波長側に位置する吸収帯に重なることになる。このことはすなわち、励起錯体の一重項状態、及び三重項状態の双方から、燐光性化合物に対して効率よくエネルギー移動できることを意味する。
【0057】
実際に励起錯体がこのような特性を有しているかどうかに関し、以下では、分子軌道計算を用いて検証した。一般に、複素芳香族化合物と芳香族アミンとの組み合わせは、芳香族アミンの最低空分子軌道(LUMO:Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位に比べて深い複素芳香族化合物のLUMO準位(電子が入りやすい性質)と複素芳香族化合物の最高被占有軌道(HOMO:Hightest Occupied Molecular Orbital)準位に比べて浅い芳香族アミンのHOMO準位(ホールが入りやすい性質)の影響で、励起錯体を形成することが多い。そこで、複素芳香族化合物のLUMOを構成する代表的な骨格のジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:DBq)と、芳香族アミンのHOMOを構成する代表的な骨格のトリフェニルアミン(略称:TPA)との組み合わせを用いて計算した。
【0058】
まず、DBq単体とTPA単体の最低励起一重項状態(S)と最低励起三重項状態(T)における最適分子構造及び励起エネルギーを、時間依存密度汎関数法(TD−DFT)を用いて計算した。さらに、DBqとTPAの二量体についても励起エネルギーを計算した。DFTの全エネルギーはポテンシャルエネルギー、電子間静電エネルギー、電子の運動エネルギー、及び、複雑な電子間の相互作用を全て含む交換相関エネルギーの和で表される。DFTでは、交換相関相互作用を電子密度で表現された一電子ポテンシャルの汎関数(関数の関数の意)で近似しているため、計算は高速かつ高精度である。ここでは、混合汎関数であるB3LYPを用いて、交換と相関エネルギーに係る各パラメータの重みを規定した。また、基底関数として、6−311(それぞれの原子価軌道に三つの短縮関数を用いたtriple split valence基底系の基底関数)を全ての原子に適用した。上述の基底関数により、例えば、水素原子であれば、1s〜3sの軌道が考慮され、また、炭素原子であれば、1s〜4s、2p〜4pの軌道が考慮されることになる。さらに、計算精度向上のため、分極基底系として、水素原子にはp関数を、水素原子以外にはd関数を加えた。
【0059】
なお、量子化学計算プログラムとしては、Gaussian 09を使用した。計算は、ハイパフォーマンスコンピュータ(SGI社製、Altix4700)を用いて行った。
【0060】
まず、DBq単体、TPA単体、及びDBqとTPAの二量体に関し、HOMO準位及びLUMO準位を算出した。HOMO準位及びLUMO準位を図64に、HOMO及びLUMOの分布を図65に、それぞれ示す。
【0061】
図65(A1)に、DBq単体のLUMOの分布を示し、図65(A2)に、DBq単体のHOMOの分布を示し、図65(B1)に、TPA単体のLUMOの分布を示し、図65(B2)に、TPA単体のHOMOの分布を示し、図65(C1)に、DBqとTPAの二量体のLUMOの分布を示し、図65(C2)に、DBqとTPAの二量体のHOMOの分布を示す。
【0062】
図64に示すように、DBqとTPAの二量体は、TPAのLUMO準位に比べて深い(低い)DBqのLUMO準位(−1.99eV)とDBqのHOMO準位に比べて浅い(高い)TPAのHOMO準位(−5.21eV)の影響で、DBqとTPAの励起錯体を形成することが示唆される。実際、図65からわかるように、DBqとTPAの二量体のLUMOはDBq側に、HOMOはTPA側に分布している。
【0063】
次に、DBq単体のSとTにおける最適分子構造から得られた励起エネルギーを示す。ここで、SとTの励起エネルギーは、DBq単体が発する蛍光と燐光の波長にそれぞれ相当する。DBq単体のSの励起エネルギーは、3.294eVであり、蛍光波長は、376.4nmであった。また、DBq単体のTの励起エネルギーは、2.460eVであり、燐光波長は、504.1nmであった。
【0064】
また、TPA単体のSとTにおける最適分子構造から得られた励起エネルギーを示す。ここで、SとTの励起エネルギーは、TPA単体が発する蛍光と燐光の波長にそれぞれ相当する。TPA単体のSの励起エネルギーは、3.508eVであり、蛍光波長は、353.4nmであった。また、TPA単体のTの励起エネルギーは、2.610eVであり、燐光波長は、474.7nmであった。
【0065】
さらに、DBqとTPAの二量体のSとTにおける最適分子構造から得られた励起エネルギーを示す。SとTの励起エネルギーは、DBqとTPAの二量体が発する蛍光と燐光の波長にそれぞれ相当する。DBqとTPAの二量体のSの励起エネルギーは、2.036eVであり、蛍光波長は、609.1nmであった。また、DBqとTPAの二量体のTの励起エネルギーは、2.030eVであり、燐光波長は、610.0nmであった。
【0066】
以上のことから、DBq単体、TPA単体のいずれにおいても、蛍光波長に比べて燐光波長が100nm近く長波長シフトしていることがわかる。これは、上述したCBP(実測値)と同様の傾向であり、計算の妥当性を支持する結果である。
【0067】
一方、DBqとTPAの二量体の蛍光波長は、DBq単体やTPA単体の蛍光波長に比べ、より長波長側に存在することがわかる。これは、後述する実施例(実測値)でも同様の傾向であり、計算の妥当性を支持する結果である。そして、DBqとTPAの二量体の蛍光波長と燐光波長の差はわずか0.9nmであり、ほぼ同じ波長であることがわかる。
【0068】
この結果から、励起錯体は一重項励起エネルギーと三重項励起エネルギーをほぼ同じエネルギーに集約することができると言える。したがって、上述したように、励起錯体はその一重項状態、及び三重項状態の双方から、燐光性化合物に対して効率よくエネルギー移動できることが示唆された。
【0069】
このような効果は、励起錯体をエネルギー移動の媒体に用いることによる特異な効果である。一般的には、ホスト材料の一重項励起状態あるいは三重項励起状態から、燐光性化合物へのエネルギー移動が考慮されている。一方、本発明の一態様では、ホスト材料と他の材料との励起錯体(第1の有機化合物と第2の有機化合物との励起錯体)をまず形成させ、その励起錯体からのエネルギー移動を用いている点で従来と大きく異なる。そして、この相違点により、従来にない高い発光効率が得られているのである。
【0070】
なお、一般に、励起錯体を発光素子の発光層に用いると、発光色を制御できるなどの利用価値はあるものの、発光効率は大きく低下するのが常である。したがって、励起錯体を用いた発光素子は、高効率な発光素子を得るには適さないと従来は考えられてきた。しかしながら、本発明の一態様で示すように、励起錯体を燐光性化合物へのエネルギー移動の媒体に用いることで、逆に極限まで発光効率を高めることができることを本発明者等は見出した。これは、従来の固定概念とは相反する技術思想である。
【0071】
なお、励起錯体の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの十分に重ねるためには、発光スペクトルのピークのエネルギー値と、吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が0.3eV以内であることが好ましい。より好ましくは0.2eV以内であり、最も好ましいのは0.1eV以内である。
【0072】
また、本発明の一態様において、第1の有機化合物又は第2の有機化合物の一重項励起子から、励起錯体が形成される。
【0073】
本発明の一態様の発光素子では、第1の有機化合物及び第2の有機化合物の一方が一重項励起子を形成した後、基底状態の他方と相互作用することで励起錯体を形成する素過程が考えられる。上述した通り、励起錯体の発光スペクトルと、燐光性化合物の吸収スペクトルを大きく重ねることができるため、エネルギー移動効率を高くすることができる。よって、外部量子効率が高い発光素子を実現することができる。
【0074】
また、一重項励起子は先に述べた通り、励起寿命が短い(τが小さい)ため、一重項励起子からゲスト材料に励起エネルギーが移動する前に、励起エネルギーの一部は失活(発光または熱失活)するという問題がある(数式(3)におけるΦETが小さくなりがちな傾向にある)。しかしながら、本発明の一態様では、一重項励起子が速やかに励起錯体を形成するため、このような励起エネルギーの失活を抑制することができる。しかも、励起錯体の励起寿命は比較的長いため、エネルギー移動効率ΦETに有利であると考えられる。したがって、素子の効率だけでなく寿命にも影響すると考えられるホスト材料の一重項励起エネルギーの失活を、本発明の一態様を適用することにより抑制することができ、寿命の長い発光素子を実現することができる。
【0075】
また、本発明の一態様の発光素子において、励起錯体の励起エネルギーは燐光性化合物に十分にエネルギー移動し、励起錯体からの発光は実質的に観察されないことが好ましい。したがって、励起錯体を介して燐光性化合物にエネルギーを移動して、該燐光性化合物が、燐光を発することが好ましい。
【0076】
また、上述したエネルギー移動の概念から、第1の有機化合物および第2の有機化合物の少なくとも一方が蛍光性化合物(すなわち、一重項励起状態から発光や熱失活が起こりやすい化合物)である場合に、本発明の一態様が有効となる。したがって、第1の有機化合物および第2の有機化合物の少なくとも一方が蛍光性化合物であることが好ましい。
【0077】
なお、ホスト材料に用いる有機化合物に燐光性化合物を用いると、該有機化合物自体が発光しやすくなり、ゲスト材料にエネルギー移動されにくくなる。この場合、該有機化合物が効率よく発光すればよいが、ホスト材料である該有機化合物は濃度消光の問題が発生するため、高い発光効率を達成するのは困難である。したがって、該有機化合物は、蛍光性化合物であり、上述の構成によりエネルギー移動することが好ましい。
【0078】
また、本発明の一態様において、燐光性化合物が、有機金属錯体であることが好ましい。
【0079】
以下に、本発明の一態様で利用する励起錯体に関して詳説する。
【0080】
<励起錯体>
励起錯体(エキサイプレックス、exciplex)は、励起状態における異種分子間の相互作用によって形成される。励起錯体は、比較的深いLUMO準位をもつ材料と、浅いHOMO準位をもつ材料との間で形成しやすいことが一般に知られている。
【0081】
発光波長は、HOMO準位とLUMO準位間のエネルギー差に依存する。エネルギー差が大きいと発光波長は短くなり、エネルギー差が小さいと発光波長は長くなる。
【0082】
ここで、本発明の一態様で適用する第1の有機化合物と第2の有機化合物のHOMO準位及びLUMO準位は異なる。具体的には、エネルギー準位は、第1の有機化合物のHOMO準位<第2の有機化合物のHOMO準位<第1の有機化合物のLUMO準位<第2の有機化合物のLUMO準位という順で高い(図17参照)。
【0083】
そして、この2つの有機化合物により励起錯体が形成された場合、励起錯体のLUMO準位は、第1の有機化合物に由来し、HOMO準位は、第2の有機化合物に由来する(図17参照)。したがって、励起錯体のエネルギー差は、第1の有機化合物のエネルギー差、及び第2の有機化合物のエネルギー差よりも小さくなる。つまり、第1の有機化合物と第2の有機化合物のそれぞれの発光波長に比べて、励起錯体の発光波長は長波長となる。
【0084】
本発明の一態様で利用する励起錯体の形成過程は大きく分けて2つの過程が考えられる。
【0085】
≪エレクトロプレックス(electroplex)≫
本明細書において、エレクトロプレックスとは、基底状態の第1の有機化合物及び基底状態の第2の有機化合物から、直接、励起錯体が形成されることを指す。
【0086】
前述の通り、一般には、電子及びホールがホスト材料中で再結合した場合、励起状態のホスト材料からゲスト材料に励起エネルギーが移動し、ゲスト材料が励起状態に至り、発光する。
【0087】
ここで、ホスト材料からゲスト材料に励起エネルギーが移動する前に、ホスト材料自体が発光する、又は励起エネルギーが熱エネルギーとなることで、励起エネルギーの一部を失活する。特に、ホスト材料が一重項励起状態である場合は、三重項励起状態である場合に比べて励起寿命が短いため、一重項励起エネルギーの失活が起こりやすい。励起エネルギーの失活は、発光素子の寿命の低下につながる要因の一つである。
【0088】
しかし、本発明の一態様では、第1の有機化合物及び第2の有機化合物がキャリアを持った状態(カチオン又はアニオン)から、エレクトロプレックスを形成するため、励起寿命の短い一重項励起子の形成を抑制することができる。つまり、一重項励起子を形成することなく、直接励起錯体を形成する過程が存在しうる。これにより、上記一重項励起エネルギーの失活も抑制することができる。したがって、寿命が長い発光素子を実現することができる。
【0089】
例えば、第1の有機化合物が電子トラップ性の化合物であり、第2の有機化合物がホールトラップ性の化合物である場合、第1の有機化合物のアニオンと第2の有機化合物のカチオンから、直接エレクトロプレックスが形成されることになる。このようにしてホスト材料の一重項励起状態の発生を抑制し、エレクトロプレックスからゲスト材料にエネルギー移動を行って発光効率が高い発光素子を得る概念は、従前にない。なお、ホスト材料の三重項励起状態の発生も同様に抑制され、直接エレクトロプレックスが形成されるため、該エレクトロプレックスからゲスト材料にエネルギー移動すると考えられる。この機構も従前にはない。
【0090】
また、形成されたエレクトロプレックスの発光スペクトルは、第1の有機化合物と第2の有機化合物のそれぞれの発光波長に比べて、長波長側に存在する。
【0091】
第1の有機化合物(又は第2の有機化合物)の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりよりも、エレクトロプレックスの発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりは大きくなる。本発明の一態様の発光素子は、エレクトロプレックスの発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高い。したがって、本発明の一態様では、外部量子効率が高い発光素子を実現することができる。
【0092】
≪励起子による励起錯体の形成≫
もう一つの過程としては、第1の有機化合物及び第2の有機化合物の一方が一重項励起子を形成した後、基底状態の他方と相互作用して励起錯体を形成する素過程が考えられる。エレクトロプレックスとは異なり、この場合は一旦、第1の有機化合物又は第2の有機化合物の一重項励起状態が生成してしまうが、これは速やかに励起錯体に変換されるため、やはり一重項励起エネルギーの失活を抑制することができる。したがって、第1の有機化合物又は第2の有機化合物が励起エネルギーを失活することを抑制することができる。このため、本発明の一態様では、寿命の長い発光素子を実現することができる。なお、ホスト材料の三重項励起状態についても、速やかに励起錯体に変換され、該励起錯体からゲスト材料にエネルギー移動すると考えられる。
【0093】
また、形成された励起錯体の発光スペクトルは、第1の有機化合物と第2の有機化合物のそれぞれの発光波長に比べて、長波長側に存在する。
【0094】
第1の有機化合物(又は第2の有機化合物)の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりよりも、励起錯体の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりは大きくなる。本発明の一態様の発光素子は、励起錯体の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高い。したがって、本発明の一態様では、外部量子効率が高い発光素子を実現することができる。
【0095】
例えば、第1の有機化合物が電子トラップ性の化合物であり、一方で第2の有機化合物がホールトラップ性の化合物であり、これら化合物のHOMO準位の差、及びLUMO準位の差が大きい場合(具体的には差が0.3eV以上)、電子は選択的に第1の有機化合物に入り、ホールは選択的に第2の有機化合物に入る。この場合、一重項励起子を経て励起錯体が形成される過程よりも、エレクトロプレックスが形成される過程の方が優先されると考えられる。
【0096】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0097】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子について図16を用いて説明する。
【0098】
図16(A)は、第1の電極103と第2の電極108との間にEL層102を有する発光素子を示した図である。図16(A)における発光素子は、第1の電極103の上に順に積層した正孔注入層701、正孔輸送層702、発光層703、電子輸送層704、電子注入層705と、さらにその上に設けられた第2の電極108から構成されている。
【0099】
第1の電極103としては、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、導電性化合物、及びこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素又は酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)等が挙げられる。これらの導電性金属酸化物膜は、通常スパッタリング法により成膜されるが、ゾル−ゲル法などを応用して作製しても構わない。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛膜は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、IWZO膜は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。この他、グラフェン、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0100】
但し、EL層102のうち、第1の電極103に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いて形成される場合には、第1の電極103に用いる物質は、仕事関数の大小に関わらず、様々な金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、アルミニウムを含む合金(例えば、Al−Si)等も用いることもできる。
【0101】
第1の電極103は、例えばスパッタリング法や蒸着法(真空蒸着法を含む)等により形成することができる。
【0102】
第2の電極108は、仕事関数の小さい(好ましくは3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物などを用いて形成することが好ましい。具体的には、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウムやセシウム等のアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、マグネシウム、およびこれらを含む合金(例えば、Mg−Ag、Al−Li)、ユーロピウム、イッテルビウム等の希土類金属およびこれらを含む合金の他、アルミニウムや銀などを用いることができる。
【0103】
但し、EL層102のうち、第2の電極108に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いる場合には、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ等様々な導電性材料を用いることができる。
【0104】
なお、第2の電極108を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
【0105】
EL層102は、少なくとも発光層703を有する。EL層102の一部には公知の物質を用いることもでき、低分子系化合物および高分子系化合物のいずれを用いることもできる。なお、EL層102を形成する物質には、有機化合物のみからなるものだけでなく、無機化合物を一部に含む構成も含めるものとする。
【0106】
EL層102は、発光層703の他、図16(A)に示すように正孔注入性の高い物質を含んでなる正孔注入層701、正孔輸送性の高い物質を含んでなる正孔輸送層702、電子輸送性の高い物質を含んでなる電子輸送層704、電子注入性の高い物質を含んでなる電子注入層705などを適宜組み合わせて積層することにより形成される。
【0107】
正孔注入層701は、正孔注入性の高い物質を含む層である。正孔注入性の高い物質としては、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸化物を用いることができる。また、フタロシアニン(略称:HPc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc)等のフタロシアニン系の化合物を用いることができる。
【0108】
また、低分子の有機化合物である4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’−ビス(N−{4−[N’−(3−メチルフェニル)−N’−フェニルアミノ]フェニル}−N−フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5−トリス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3−[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等を用いることができる。
【0109】
さらに、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)を用いることもできる。例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N−(4−{N’−[4−(4−ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル−N’−フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly−TPD)などの高分子化合物が挙げられる。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物を用いることができる。
【0110】
また、正孔注入層701として、有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子受容体によって有機化合物に正孔が発生するため、正孔注入性および正孔輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した正孔の輸送に優れた材料(正孔輸送性の高い物質)であることが好ましい。
【0111】
複合材料に用いる有機化合物としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)など、種々の化合物を用いることができる。なお、複合材料に用いる有機化合物としては、正孔輸送性の高い有機化合物であることが好ましい。具体的には、10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。以下では、複合材料に用いることのできる有機化合物を具体的に列挙する。
【0112】
複合材料に用いることのできる有機化合物としては、例えば、TDATA、MTDATA、DPAB、DNTPD、DPA3B、PCzPCA1、PCzPCA2、PCzPCN1、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)等の芳香族アミン化合物や、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9−[4−(N−カルバゾリル)]フェニル−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)、1,4−ビス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−2,3,5,6−テトラフェニルベンゼン等のカルバゾール誘導体を用いることができる。
【0113】
また、2−tert−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:t−BuDNA)、2−tert−ブチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、2−tert−ブチル−9,10−ビス(4−フェニルフェニル)アントラセン(略称:t−BuDBA)、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10−ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、2−tert−ブチルアントラセン(略称:t−BuAnth)、9,10−ビス(4−メチル−1−ナフチル)アントラセン(略称:DMNA)、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]−2−tert−ブチルアントラセン、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]アントラセン、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0114】
さらに、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,9’−ビアントリル、10,10’−ジフェニル−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス(2−フェニルフェニル)−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス[(2,3,4,5,6−ペンタフェニル)フェニル]−9,9’−ビアントリル、アントラセン、テトラセン、ルブレン、ペリレン、2,5,8,11−テトラ(tert−ブチル)ペリレン、ペンタセン、コロネン、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(略称:DPVBi)、9,10−ビス[4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル]アントラセン(略称:DPVPA)等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0115】
また、電子受容体としては、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(略称:F−TCNQ)、クロラニル等の有機化合物や、遷移金属酸化物を挙げることができる。また、元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため好ましい。
【0116】
なお、上述したPVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPD等の高分子化合物と、上述した電子受容体を用いて複合材料を形成し、正孔注入層701に用いてもよい。
【0117】
正孔輸送層702は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質としては、NPB、TPD、BPAFLP、4,4’−ビス[N−(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0118】
また、正孔輸送層702には、CBP、CzPA、PCzPAのようなカルバゾール誘導体や、t−BuDNA、DNA、DPAnthのようなアントラセン誘導体を用いても良い。
【0119】
また、正孔輸送層702には、PVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPDなどの高分子化合物を用いることもできる。
【0120】
発光層703は、発光物質を含む層である。本実施の形態の発光層703は、燐光性化合物と、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、を有する。燐光性化合物は、発光物質(ゲスト材料)である。第1の有機化合物及び第2の有機化合物のうち、発光層703に含まれる量が多い方がホスト材料である。具体的には実施の形態1を参照することができる。
【0121】
燐光性化合物としては、有機金属錯体が好ましく、イリジウム錯体が特に好ましい。なお、上述のフェルスター機構によるエネルギー移動を考慮すると、燐光性化合物の最も長波長側に位置する吸収帯のモル吸光係数は、2000M−1・cm−1以上が好ましく、5000M−1・cm−1以上が特に好ましい。このような大きなモル吸光係数を有する化合物としては、例えば、ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppr−Me)(dpm)])や、(アセチルアセトナト)ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(dppm)(acac)])、ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(tppr)(dpm)])、(アセチルアセトナト)ビス(6−メチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppm)(acac)])、(アセチルアセトナト)ビス(6−tert−ブチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(tBuppm)(acac)])などが挙げられる。特に、[Ir(dppm)(acac)]のように、モル吸光係数が5000M−1・cm−1以上に達する材料を用いると、外部量子効率が30%程度に達する発光素子が得られる。
【0122】
第1の有機化合物及び第2の有機化合物としては、例えば、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2CzPDBq−III)、7−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:7mDBTPDBq−II)、及び、6−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:6mDBTPDBq−II)、2−[4−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]−1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール(略称:DBTBIm−II)等のような電子を受け取りやすい化合物(代表的には、複素芳香族化合物)のうちいずれか一と、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)、及び、4、4’−ジ(1−ナフチル)−4’’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)、4−(1−ナフチル)−4’−フェニルトリフェニルアミン(略称:αNBA1BP)、2,7−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]−スピロ−9,9’−ビフルオレン(略称:DPA2SF)、4,4’,4’’−トリス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:1’−TNATA)、9−フェニル−9H−3−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)カルバゾール(略称:PCCP)等のようなホールを受け取りやすい化合物(代表的には、芳香族アミン化合物やカルバゾール化合物)のうちいずれか一と、を組み合わせることが好ましい。このような構成とすることで、励起錯体からのエネルギー移動による発光効率及び寿命の向上の効果だけでなく、発光層内でのホール輸送と電子輸送のキャリアバランスを整えることによる発光効率及び寿命の向上の効果も得られる。ただし、これらに限定されることなく、励起錯体を形成できる組み合わせであればよい。
【0123】
なお、励起錯体は、二層の界面において形成されていても良い。例えば、第2の有機化合物を含む層と第1の有機化合物を含む層を積層すれば、その界面近傍では励起錯体が形成されるが、この二層をもって本発明の一態様における発光層としても良い。この場合、燐光性化合物は、該界面近傍に添加されていれば良い。また、二層のうち、少なくともいずれか一方、または双方に添加されていれば良い。
【0124】
電子輸送層704は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送性の高い物質としては、Alq、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)、BAlq、Zn(BOX)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))などの金属錯体が挙げられる。また、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン(略称:BzOs)などの複素芳香族化合物も用いることができる。また、ポリ(2,5−ピリジン−ジイル)(略称:PPy)、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(ピリジン−3,5−ジイル)](略称:PF−Py)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(2,2’−ビピリジン−6,6’−ジイル)](略称:PF−BPy)のような高分子化合物を用いることもできる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質である。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を電子輸送層として用いてもよい。
【0125】
また、電子輸送層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0126】
電子注入層705は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入層705には、リチウム、セシウム、カルシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、リチウム酸化物等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を用いることができる。また、フッ化エルビウムのような希土類金属化合物を用いることができる。また、上述した電子輸送層704を構成する物質を用いることもできる。
【0127】
あるいは、電子注入層705に、有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子供与体によって有機化合物に電子が発生するため、電子注入性および電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層704を構成する物質(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す物質であればよい。具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属や希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
【0128】
なお、上述した正孔注入層701、正孔輸送層702、発光層703、電子輸送層704、電子注入層705は、それぞれ、蒸着法(真空蒸着法を含む)、インクジェット法、塗布法等の方法で形成することができる。
【0129】
EL層は、図16(B)に示すように、第1の電極103と第2の電極108との間に複数積層されていても良い。この場合、積層された第1のEL層800と第2のEL層801との間には、電荷発生層803を設けることが好ましい。電荷発生層803は上述の複合材料で形成することができる。また、電荷発生層803は複合材料からなる層と他の材料からなる層との積層構造でもよい。この場合、他の材料からなる層としては、電子供与性物質と電子輸送性の高い物質とを含む層や、透明導電膜からなる層などを用いることができる。このような構成を有する発光素子は、エネルギーの移動や消光などの問題が起こり難く、材料の選択の幅が広がることで高い発光効率と長い寿命とを併せ持つ発光素子とすることが容易である。また、一方のEL層で燐光発光、他方で蛍光発光を得ることも容易である。この構造は上述のEL層の構造と組み合わせて用いることができる。
【0130】
また、それぞれのEL層の発光色を異なるものにすることで、発光素子全体として、所望の色の発光を得ることができる。例えば、2つのEL層を有する発光素子において、第1のEL層の発光色と第2のEL層の発光色を補色の関係になるようにすることで、発光素子全体として白色発光する発光素子を得ることも可能である。また、3つ以上のEL層を有する発光素子の場合でも同様である。
【0131】
EL層102は、図16(C)に示すように、第1の電極103と第2の電極108との間に、正孔注入層701、正孔輸送層702、発光層703、電子輸送層704、電子注入バッファー層706、電子リレー層707、及び第2の電極108と接する複合材料層708を有していても良い。
【0132】
第2の電極108と接する複合材料層708を設けることで、特にスパッタリング法を用いて第2の電極108を形成する際に、EL層102が受けるダメージを低減することができるため、好ましい。複合材料層708は、前述の、正孔輸送性の高い有機化合物にアクセプター性物質を含有させた複合材料を用いることができる。
【0133】
さらに、電子注入バッファー層706を設けることで、複合材料層708と電子輸送層704との間の注入障壁を緩和することができるため、複合材料層708で生じた電子を電子輸送層704に容易に注入することができる。
【0134】
電子注入バッファー層706には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))等の電子注入性の高い物質を用いることが可能である。
【0135】
また、電子注入バッファー層706が、電子輸送性の高い物質とドナー性物質を含んで形成される場合には、電子輸送性の高い物質に対して質量比で、0.001以上0.1以下の比率でドナー性物質を添加することが好ましい。なお、ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセン等の有機化合物を用いることもできる。なお、電子輸送性の高い物質としては、先に説明した電子輸送層704の材料と同様の材料を用いて形成することができる。
【0136】
さらに、電子注入バッファー層706と複合材料層708との間に、電子リレー層707を形成することが好ましい。電子リレー層707は、必ずしも設ける必要は無いが、電子輸送性の高い電子リレー層707を設けることで、電子注入バッファー層706へ電子を速やかに送ることが可能となる。
【0137】
複合材料層708と電子注入バッファー層706との間に電子リレー層707が挟まれた構造は、複合材料層708に含まれるアクセプター性物質と、電子注入バッファー層706に含まれるドナー性物質とが相互作用を受けにくく、互いの機能を阻害しにくい構造である。したがって、駆動電圧の上昇を防ぐことができる。
【0138】
電子リレー層707は、電子輸送性の高い物質を含み、該電子輸送性の高い物質のLUMO準位は、複合材料層708に含まれるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層704に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位との間となるように形成する。また、電子リレー層707がドナー性物質を含む場合には、当該ドナー性物質のドナー準位も複合材料層708におけるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層704に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位との間となるようにする。具体的なエネルギー準位の数値としては、電子リレー層707に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位は−5.0eV以上、好ましくは−5.0eV以上−3.0eV以下とするとよい。
【0139】
電子リレー層707に含まれる電子輸送性の高い物質としてはフタロシアニン系の材料又は金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体を用いることが好ましい。
【0140】
電子リレー層707に含まれるフタロシアニン系材料としては、具体的にはCuPc、SnPc(Phthalocyanine tin(II) complex)、ZnPc(Phthalocyanine zinc complex)、CoPc(Cobalt(II)phthalocyanine, β−form)、FePc(Phthalocyanine Iron)及びPhO−VOPc(Vanadyl 2,9,16,23−tetraphenoxy−29H,31H−phthalocyanine)のいずれかを用いることが好ましい。
【0141】
電子リレー層707に含まれる金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としては、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体を用いることが好ましい。金属−酸素の二重結合はアクセプター性(電子を受容しやすい性質)を有するため、電子の移動(授受)がより容易になる。また、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体は安定であると考えられる。したがって、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体を用いることにより発光素子を低電圧でより安定に駆動することが可能になる。
【0142】
金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としてはフタロシアニン系材料が好ましい。具体的には、VOPc(Vanadyl phthalocyanine)、SnOPc(Phthalocyanine tin(IV) oxide complex)及びTiOPc(Phthalocyanine titanium oxide complex)のいずれかは、分子構造的に金属−酸素の二重結合が他の分子に対して作用しやすく、アクセプター性が高いため好ましい。
【0143】
なお、上述したフタロシアニン系材料としては、フェノキシ基を有するものが好ましい。具体的にはPhO−VOPcのような、フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体が好ましい。フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体は、溶媒に可溶である。そのため、発光素子を形成する上で扱いやすいという利点を有する。また、溶媒に可溶であるため、成膜に用いる装置のメンテナンスが容易になるという利点を有する。
【0144】
電子リレー層707はさらにドナー性物質を含んでいても良い。ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属及びこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウムなどの酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウムなどの炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、又は希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセンなどの有機化合物を用いることができる。電子リレー層707にこれらドナー性物質を含ませることによって、電子の移動が容易となり、発光素子をより低電圧で駆動することが可能になる。
【0145】
電子リレー層707にドナー性物質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質としては上記した材料の他、複合材料層708に含まれるアクセプター性物質のアクセプター準位より高いLUMO準位を有する物質を用いることができる。具体的なエネルギー準位としては、−5.0eV以上、好ましくは−5.0eV以上−3.0eV以下の範囲にLUMO準位を有する物質を用いることが好ましい。このような物質としては例えば、ペリレン誘導体や、含窒素縮合芳香族化合物などが挙げられる。なお、含窒素縮合芳香族化合物は、安定であるため、電子リレー層707を形成する為に用いる材料として、好ましい材料である。
【0146】
ペリレン誘導体の具体例としては、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(略称:PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンゾイミダゾール(略称:PTCBI)、N,N’−ジオクチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:PTCDI−C8H)、N,N’−ジヘキシル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:Hex PTC)等が挙げられる。
【0147】
また、含窒素縮合芳香族化合物の具体例としては、ピラジノ[2,3−f][1,10]フェナントロリン−2,3−ジカルボニトリル(略称:PPDN)、2,3,6,7,10,11−ヘキサシアノ−1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン(略称:HAT(CN))、2,3−ジフェニルピリド[2,3−b]ピラジン(略称:2PYPR)、2,3−ビス(4−フルオロフェニル)ピリド[2,3−b]ピラジン(略称:F2PYPR)等が挙げられる。
【0148】
その他にも、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(略称:TCNQ)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(略称:NTCDA)、パーフルオロペンタセン、銅ヘキサデカフルオロフタロシアニン(略称:F16CuPc)、N,N’−ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:NTCDI−C8F)、3’,4’−ジブチル−5,5’’−ビス(ジシアノメチレン)−5,5’’−ジヒドロ−2,2’:5’,2’’−テルチオフェン)(略称:DCMT)、メタノフラーレン(例えば、[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル)等を用いることができる。
【0149】
なお、電子リレー層707にドナー性物質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質とドナー性物質との共蒸着などの方法によって電子リレー層707を形成すれば良い。
【0150】
正孔注入層701、正孔輸送層702、発光層703、及び電子輸送層704は前述の材料を用いてそれぞれ形成すれば良い。
【0151】
以上により、本実施の形態のEL層102を作製することができる。
【0152】
上述した発光素子は、第1の電極103と第2の電極108との間に生じた電位差により電流が流れ、EL層102において正孔と電子とが再結合することにより発光する。そして、この発光は、第1の電極103または第2の電極108のいずれか一方または両方を通って外部に取り出される。従って、第1の電極103または第2の電極108のいずれか一方、または両方が可視光に対する透光性を有する電極となる。
【0153】
なお、第1の電極103と第2の電極108との間に設けられる層の構成は、上記のものに限定されない。発光領域と金属とが近接することによって生じる消光を防ぐように、第1の電極103及び第2の電極108から離れた部位に正孔と電子とが再結合する発光領域を設けた構成であれば上記以外のものでもよい。
【0154】
つまり、層の積層構造については特に限定されず、電子輸送性の高い物質、正孔輸送性の高い物質、電子注入性の高い物質、正孔注入性の高い物質、バイポーラ性の物質(電子及び正孔の輸送性の高い物質)、又は正孔ブロック材料等から成る層を、発光層と自由に組み合わせて構成すればよい。
【0155】
本実施の形態で示した発光素子を用いて、パッシブマトリクス型の発光装置や、トランジスタによって発光素子の駆動が制御されたアクティブマトリクス型の発光装置を作製することができる。また、該発光装置を電子機器又は照明装置等に適用することができる。
【0156】
以上のように、本発明の一態様の発光素子を作製することができる。
【0157】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0158】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図1を用いて説明する。
【0159】
本実施例で用いる燐光性化合物は、ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppr−Me)(dpm)])である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)である。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、4、4’−ジ(1−ナフチル)−4’’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。
【0160】
【化1】

【0161】
<吸収スペクトル>
図1(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(mppr−Me)(dpm)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0162】
<発光スペクトル>
また、図1(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル1)、第2の有機化合物であるPCBNBBの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル2)、及び2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル3)を示す。図1(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図1(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0163】
図1(A)の吸収スペクトルから、[Ir(mppr−Me)(dpm)]が、520nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0164】
発光スペクトル3は、発光スペクトル1、2よりも長波長(低エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル3のピークは、発光スペクトル1、2のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。図1(A)(B)より、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル3であることがわかった。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(520nm付近のショルダーピーク)と発光スペクトル3のピークの差は0.04eVであった。
【0165】
2mDBTPDBq−II及びPCBNBBの混合材料の発光スペクトルは、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0166】
該混合材料の発光スペクトルは、[Ir(mppr−Me)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例2】
【0167】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図2を用いて説明する。
【0168】
本実施例で用いる燐光性化合物は、(アセチルアセトナト)ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(dppm)(acac)])である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、PCBNBBである。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、実施例1で用いた材料の化学式は省略する。
【0169】
【化2】

【0170】
<吸収スペクトル>
図2(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(dppm)(acac)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0171】
<発光スペクトル>
また、図2(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル4)、第2の有機化合物であるPCBNBBの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル5)、及び2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル6)を示す。図2(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図2(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0172】
図2(A)の吸収スペクトルから、[Ir(dppm)(acac)]が、520nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0173】
発光スペクトル6は、発光スペクトル4、5よりも長波長(低エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル6のピークは、発光スペクトル4、5のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。図2(A)(B)より、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル6であることがわかった。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(515nm)と発光スペクトル6のピークの差は0.02eVであった。
【0174】
2mDBTPDBq−II及びPCBNBBの混合材料の発光スペクトルは、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0175】
該混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(dppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料、及び[Ir(dppm)(acac)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例3】
【0176】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0177】
【化3】

【0178】
以下に、本実施例の発光素子1及び比較発光素子2の作製方法を示す。
【0179】
(発光素子1)
まず、ガラス基板1100上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0180】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0181】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0182】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)と酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0183】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0184】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBNBB、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBNBB:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0185】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0186】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、バソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0187】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0188】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子1を作製した。
【0189】
(比較発光素子2)
比較発光素子2の発光層1113は、2mDBTPDBq−II及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、1:0.05(=2mDBTPDBq−II:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。発光層1113以外は、発光素子1と同様に作製した。
【0190】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0191】
以上により得られた発光素子1及び比較発光素子2の素子構造を表1に示す。
【0192】
【表1】

【0193】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0194】
発光素子1及び比較発光素子2の電流密度−輝度特性を図3に示す。図3において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図4に示す。図4において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図5に示す。図5において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図6に示す。図6において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0195】
また、発光素子1及び比較発光素子2における輝度1000cd/m付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表2に示す。
【0196】
【表2】

【0197】
また、発光素子1及び比較発光素子2に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図7に示す。図7において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表2に示す通り、1200cd/mの輝度の時の発光素子1のCIE色度座標は(x,y)=(0.56,0.44)であり、960cd/mの輝度の時の比較発光素子2のCIE色度座標は(x,y)=(0.55,0.44)であった。この結果から、発光素子1及び比較発光素子2は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0198】
表2及び図3乃至図6からわかるように、発光素子1は、比較発光素子2に比べて、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0199】
本実施例の発光素子1では、実施例1に示した2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を発光層に用いた。実施例1より、2mDBTPDBq−II、PCBNBB単体の発光スペクトルに比べて、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]の吸収スペクトルとの重なりが大きい。本実施例の発光素子1は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、比較発光素子2に比べて、外部量子効率が高いと考えられる。
【0200】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0201】
次に、発光素子1及び比較発光素子2の信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を図8に示す。図8において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0202】
信頼性試験は、初期輝度を5000cd/mに設定し、電流密度一定の条件で発光素子1及び比較発光素子2を駆動した。
【0203】
比較発光素子2は、120時間後の輝度が、初期輝度の58%であった。また、発光素子1は、630時間後の輝度が、初期輝度の65%であった。この結果から、発光素子1は、比較発光素子2に比べて、寿命の長い素子であることがわかった。
【0204】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例4】
【0205】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料は先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0206】
以下に、本実施例の発光素子3の作製方法を示す。
【0207】
(発光素子3)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0208】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0209】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0210】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0211】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0212】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBNBB、及び[Ir(dppm)(acac)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(dppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBNBB:[Ir(dppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0213】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0214】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0215】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0216】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子3を作製した。
【0217】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0218】
以上により得られた発光素子3の素子構造を表3に示す。
【0219】
【表3】

【0220】
発光素子3を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0221】
発光素子3の電流密度−輝度特性を図9に示す。図9において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図10に示す。図10において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図11に示す。図11において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図12に示す。図12において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0222】
また、発光素子3における輝度1100cd/mのときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表4に示す。
【0223】
【表4】

【0224】
また、発光素子3に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図13に示す。図13において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表4に示す通り、1100cd/mの輝度の時の発光素子3のCIE色度座標は(x,y)=(0.54,0.46)であった。この結果から、発光素子3は、[Ir(dppm)(acac)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0225】
表4及び図9乃至図12からわかるように、発光素子3は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。特に、1100cd/mの輝度の時の外部量子効率が28%と極めて高い値を示した。先に記したとおり、外部量子効率の限界は25%程度と言われている。しかしながら、今回の結果はそれを上回っている。
【0226】
本実施例の発光素子では、実施例2に示した2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(dppm)(acac)]を発光層に用いた。実施例2より、2mDBTPDBq−II、PCBNBB単体の発光スペクトルに比べて、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(dppm)(acac)]の吸収スペクトルとの重なりが大きい。本実施例の発光素子は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、従来にはない高い外部量子効率を得られたと考えられる。
【0227】
また、実施例2の結果では、発光素子3に用いたゲスト材料の吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯において、ピークが発光スペクトルのピークと近い、かつ、ピークのモル吸光係数が大きかった(>5000M−1・cm−1)。これらから、発光素子3はエネルギー移動効率が特に高いため、外部量子効率が従来にはない高い値を示したと考えられる。
【0228】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0229】
次に、発光素子3の信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を図14に示す。図14において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0230】
信頼性試験は、初期輝度を5000cd/mに設定し、電流密度一定の条件で発光素子3を駆動した。
【0231】
320時間後の輝度について、発光素子3は、初期輝度の92%を保っていた。
【0232】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例5】
【0233】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図18を用いて説明する。
【0234】
本実施例で用いる燐光性化合物は、[Ir(dppm)(acac)]である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0235】
【化4】

【0236】
<吸収スペクトル>
図18(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(dppm)(acac)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0237】
<発光スペクトル>
また、図18(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル7)、第2の有機化合物であるPCBA1BPの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル8)、及び2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル9)を示す。図18(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図18(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0238】
図18(A)の吸収スペクトルから、[Ir(dppm)(acac)]が、520nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0239】
発光スペクトル9は、発光スペクトル7、8よりも長波長(低エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル9のピークは、発光スペクトル7、8のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。図18(A)(B)より、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル9であることがわかった。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(515nm)と発光スペクトル9のピークの差は0.02eVであった。
【0240】
2mDBTPDBq−II及びPCBA1BPの混合材料の発光スペクトルは、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0241】
該混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(dppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPの混合材料、及び[Ir(dppm)(acac)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例6】
【0242】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いる材料は、先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0243】
以下に、本実施例の発光素子4の作製方法を示す。
【0244】
(発光素子4)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0245】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0246】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0247】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0248】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0249】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBA1BP、及び[Ir(dppm)(acac)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBA1BP及び[Ir(dppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.1(=2mDBTPDBq−II:PCBA1BP:[Ir(dppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0250】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚15nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0251】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚15nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0252】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0253】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子4を作製した。
【0254】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0255】
以上により得られた発光素子4の素子構造を表5に示す。
【0256】
【表5】

【0257】
発光素子4を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0258】
発光素子4の電流密度−輝度特性を図19に示す。図19において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図20に示す。図20において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図21に示す。図21において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図22に示す。図22において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0259】
また、発光素子4における輝度1100cd/mのときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表6に示す。
【0260】
【表6】

【0261】
また、発光素子4に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図23に示す。図23において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表6に示す通り、1100cd/mの輝度の時の発光素子4のCIE色度座標は(x,y)=(0.57,0.43)であった。この結果から、発光素子4は、[Ir(dppm)(acac)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0262】
表6及び図19乃至図22からわかるように、発光素子4は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。特に、1100cd/mの輝度の時の外部量子効率が31%と極めて高い値を示した。先に記したとおり、外部量子効率の限界は25%程度と言われている。しかしながら、今回の結果はそれを上回っている。
【0263】
本実施例の発光素子では、実施例5に示した2mDBTPDBq−II、PCBA1BP及び[Ir(dppm)(acac)]を発光層に用いた。実施例5より、2mDBTPDBq−II、PCBA1BP単体の発光スペクトルに比べて、2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(dppm)(acac)]の吸収スペクトルとの重なりが大きい。本実施例の発光素子は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、従来にはない高い外部量子効率を得られたと考えられる。
【0264】
また、実施例5の結果では、発光素子4に用いたゲスト材料の吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯において、ピークが発光スペクトルのピークと近い、かつ、ピークのモル吸光係数が大きかった(>5000M−1・cm−1)。これらから、発光素子4はエネルギー移動効率が特に高いため、外部量子効率が従来にはない高い値を示したと考えられる。
【0265】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、高い外部量子効率の素子を実現できることが示された。
【0266】
次に、発光素子4の信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を図24に示す。図24において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0267】
信頼性試験は、初期輝度を5000cd/mに設定し、電流密度一定の条件で発光素子4を駆動した。
【0268】
170時間後の輝度について、発光素子4は、初期輝度の95%を保っていた。
【0269】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例7】
【0270】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図26を用いて説明する。
【0271】
本実施例で用いる燐光性化合物は、[Ir(dppm)(acac)]である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0272】
【化5】

【0273】
<吸収スペクトル>
図26(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(dppm)(acac)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0274】
<発光スペクトル>
また、図26(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル10)、及び2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル11)を示す。図26(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図26(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0275】
図26(A)の吸収スペクトルから、[Ir(dppm)(acac)]が、520nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0276】
発光スペクトル11は、発光スペクトル10よりも長波長(低エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル11のピークは、発光スペクトル10のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。また、第2の有機化合物であるNPBの発光スペクトルのピークは、430nm付近にあることが知られている。このことから、発光スペクトル11は、NPBの発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有すると言える。そして、発光スペクトル11のピークは、NPBの発光スペクトルのピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在すると言える。以上のことから、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル11であることがわかった。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(515nm)と発光スペクトル11のピークの差は0.09eVであった。
【0277】
2mDBTPDBq−II及びNPBの混合材料の発光スペクトルは、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとNPBを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0278】
該混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(dppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料、及び[Ir(dppm)(acac)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例8】
【0279】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0280】
【化6】

【0281】
以下に、本実施例の発光素子5及び比較発光素子6の作製方法を示す。
【0282】
(発光素子5)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0283】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0284】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0285】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、4,4’,4’’−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリ(ジベンゾチオフェン)(略称:DBT3P−II)と酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、DBT3P−IIと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=DBT3P−II:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0286】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0287】
さらに、2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(dppm)(acac)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(dppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:NPB:[Ir(dppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0288】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0289】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0290】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0291】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子5を作製した。
【0292】
(比較発光素子6)
比較発光素子6の発光層1113は、2mDBTPDBq−II及び[Ir(dppm)(acac)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II及び[Ir(dppm)(acac)]の重量比は、1:0.05(=2mDBTPDBq−II:[Ir(dppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。発光層1113以外は、発光素子5と同様に作製した。
【0293】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0294】
以上により得られた発光素子5及び比較発光素子6の素子構造を表7に示す。
【0295】
【表7】

【0296】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0297】
発光素子5及び比較発光素子6の電流密度−輝度特性を図27に示す。図27において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図28に示す。図28において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図29に示す。図29において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図30に示す。図30において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0298】
また、発光素子5及び比較発光素子6における輝度1000cd/m付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表8に示す。
【0299】
【表8】

【0300】
また、発光素子5及び比較発光素子6に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図31に示す。図31において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表8に示す通り、1100cd/mの輝度の時の発光素子5のCIE色度座標は(x,y)=(0.57,0.43)であり、830cd/mの輝度の時の比較発光素子6のCIE色度座標は(x,y)=(0.56,0.44)であった。この結果から、発光素子5及び比較発光素子6は、[Ir(dppm)(acac)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0301】
表8及び図27乃至図30からわかるように、発光素子5は、比較発光素子6に比べて、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0302】
発光素子5は、実施例7に示した2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(dppm)(acac)]を発光層に用いた。実施例7より、2mDBTPDBq−II単体の発光スペクトルに比べて、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(dppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯との重なりが大きい。発光素子5は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、比較発光素子6に比べて外部量子効率が高いと考えられる。
【0303】
また、実施例7の結果では、発光素子5に用いた燐光性化合物の吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯において、ピークが発光スペクトルのピークと近い、かつ、ピークのモル吸光係数が大きかった(>5000M−1・cm−1)。これらから、発光素子5はエネルギー移動効率が特に高いため、外部量子効率が従来にはない高い値を示したと考えられる。
【0304】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【実施例9】
【0305】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図32を用いて説明する。
【0306】
本実施例で用いる燐光性化合物は、ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(tppr)(dpm)])である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、NPBである。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0307】
【化7】

【0308】
<吸収スペクトル>
図32(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(tppr)(dpm)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.094mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0309】
<発光スペクトル>
また、図32(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル12)、及び2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル13)を示す。図32(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図32(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0310】
図32(A)の吸収スペクトルから、[Ir(tppr)(dpm)]が、530nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0311】
発光スペクトル13は、発光スペクトル12よりも長波長(低エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル13のピークは、発光スペクトル12のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。また、第2の有機化合物であるNPBの発光スペクトルのピークは、430nm付近にあることが知られている。このことから、発光スペクトル13は、NPBの発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有すると言える。そして、発光スペクトル13のピークは、NPBの発光スペクトルのピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在すると言える。以上のことから、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル13であることがわかった。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(530nm付近のショルダーピーク)と発光スペクトル13のピークの差は0.01eVであった。
【0312】
2mDBTPDBq−II及びNPBの混合材料の発光スペクトルは、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとNPBを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0313】
該混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(tppr)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料、及び[Ir(tppr)(dpm)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例10】
【0314】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料は先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0315】
以下に、本実施例の発光素子7及び比較発光素子8の作製方法を示す。
【0316】
(発光素子7)
発光素子7の発光層1113は、2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(tppr)(dpm)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(tppr)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:NPB:[Ir(tppr)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。発光層1113以外は、実施例8に示した発光素子5と同様に作製した。
【0317】
(比較発光素子8)
比較発光素子8の発光層1113は、2mDBTPDBq−II及び[Ir(tppr)(dpm)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II及び[Ir(tppr)(dpm)]の重量比は、1:0.05(=2mDBTPDBq−II:[Ir(tppr)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。発光層1113以外は、実施例8に示した発光素子5と同様に作製した。
【0318】
以上により得られた発光素子7及び比較発光素子8の素子構造を表9に示す。
【0319】
【表9】

【0320】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0321】
発光素子7及び比較発光素子8の電流密度−輝度特性を図33に示す。図33において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図34に示す。図34において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図35に示す。図35において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図36に示す。図36において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0322】
また、発光素子7及び比較発光素子8における輝度1000cd/m付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表10に示す。
【0323】
【表10】

【0324】
また、発光素子7及び比較発光素子8に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図37に示す。図37において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表10に示す通り、1100cd/mの輝度の時の発光素子7のCIE色度座標は(x,y)=(0.66,0.34)であり、1000cd/mの輝度の時の比較発光素子8のCIE色度座標は(x,y)=(0.66,0.34)であった。この結果から、発光素子7及び比較発光素子8は、[Ir(tppr)(dpm)]に由来する赤色発光が得られたことがわかった。
【0325】
表10及び図33乃至図36からわかるように、発光素子7は、比較発光素子8に比べて、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0326】
発光素子7では、実施例9に示した2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(tppr)(dpm)]を発光層に用いた。実施例9より、2mDBTPDBq−II単体の発光スペクトルに比べて、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(tppr)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯との重なりが大きい。発光素子7は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、比較発光素子8に比べて、外部量子効率が高いと考えられる。
【0327】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0328】
次に、発光素子7及び比較発光素子8の信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を図38に示す。図38において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0329】
信頼性試験は、初期輝度を5000cd/mに設定し、電流密度一定の条件で発光素子7及び比較発光素子8を駆動した。
【0330】
比較発光素子8は、97時間後の輝度が、初期輝度の63%であった。また、発光素子7は、98時間後の輝度が、初期輝度の87%であった。この結果から、発光素子7は、比較発光素子8に比べて、寿命の長い素子であることがわかった。
【0331】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例11】
【0332】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図39を用いて説明する。
【0333】
本実施例で用いる燐光性化合物は、(アセチルアセトナト)ビス(6−メチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppm)(acac)])である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、PCBA1BP及び4−(1−ナフチル)−4’−フェニルトリフェニルアミン(略称:αNBA1BP)の2種類である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0334】
【化8】

【0335】
<吸収スペクトル>
図39(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(mppm)(acac)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.10mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0336】
<発光スペクトル>
また、図39(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル14)、第2の有機化合物であるPCBA1BPの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル15)、第2の有機化合物であるαNBA1BPの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル16)、2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル17)、及び2mDBTPDBq−IIとαNBA1BPの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル18)を示す。図39(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図39(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0337】
図39(A)の吸収スペクトルから、[Ir(mppm)(acac)]が、490nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0338】
2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル17)、及び2mDBTPDBq−IIとαNBA1BPの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル18)は、それぞれ、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。また、2mDBTPDBq−IIとαNBA1BPを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0339】
上記混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(mppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとPCBA1BPの混合材料、及び[Ir(mppm)(acac)]を用いた発光素子や、2mDBTPDBq−IIとαNBA1BPの混合材料、及び[Ir(mppm)(acac)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【0340】
ここで、発光スペクトル18は、発光スペクトル17よりも短波長(高エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル18のピークは、発光スペクトル17のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(490nm付近のショルダーピーク)と発光スペクトル17のピークの差は0.15eVであり、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピーク(490nm付近のショルダーピーク)と発光スペクトル18のピークの差は0.01eVであった。
【0341】
発光スペクトル17と発光スペクトル18のピークの差は、PCBA1BPとαNBA1BPのHOMO準位の差によるものと考えられる。具体的には、PCBA1BPのHOMO準位が−5.43eVであるのに対し、αNBA1BPのHOMO準位は−5.52eVであった(いずれもサイクリックボルタンメトリ(CV)測定により算出した値)。PCBA1BPに比べてαNBA1BPは、HOMO準位が低い(深い)ため、発光スペクトル18のピークは、発光スペクトル17よりも短波長(高エネルギー)になったと考えられる。
【実施例12】
【0342】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料は先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0343】
以下に、本実施例の発光素子9及び発光素子10の作製方法を示す。
【0344】
(発光素子9)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0345】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0346】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0347】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0348】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0349】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBA1BP及び[Ir(mppm)(acac)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBA1BP及び[Ir(mppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBA1BP:[Ir(mppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0350】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0351】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0352】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0353】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子9を作製した。
【0354】
(発光素子10)
発光素子10の発光層1113は、2mDBTPDBq−II、αNBA1BP及び[Ir(mppm)(acac)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、αNBA1BP及び[Ir(mppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:αNBA1BP:[Ir(mppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。発光層1113以外は、発光素子9と同様に作製した。
【0355】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0356】
以上により得られた発光素子9及び発光素子10の素子構造を表11に示す。
【0357】
【表11】

【0358】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0359】
発光素子9及び発光素子10の電流密度−輝度特性を図40に示す。図40において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図41に示す。図41において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図42に示す。図42において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図43に示す。図43において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0360】
また、発光素子9及び発光素子10における輝度1000cd/m付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表12に示す。
【0361】
【表12】

【0362】
また、発光素子9及び発光素子10に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図44に示す。図44において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表12に示す通り、1100cd/mの輝度の時の発光素子9のCIE色度座標は(x,y)=(0.43,0.56)であり、860cd/mの輝度の時の発光素子10のCIE色度座標は(x,y)=(0.43,0.56)であった。この結果から、発光素子9及び発光素子10は、[Ir(mppm)(acac)]に由来する黄緑色発光が得られたことがわかった。
【0363】
表12及び図40乃至図43からわかるように、発光素子9及び発光素子10は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0364】
発光素子9及び発光素子10は、実施例11に示したPCBA1BP又はαNBA1BPと、2mDBTPDBq−IIと、[Ir(mppm)(acac)]と、を発光層に用いた。実施例11より、2mDBTPDBq−IIと、PCBA1BP又はαNBA1BPとの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(mppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯との重なりが大きい。発光素子9及び発光素子10は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、外部量子効率が高いと考えられる。
【0365】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0366】
次に、発光素子9及び発光素子10の信頼性試験を行った。信頼性試験の結果を図45に示す。図45において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0367】
信頼性試験は、初期輝度を5000cd/mに設定し、電流密度一定の条件で発光素子9及び発光素子10を駆動した。
【0368】
発光素子9は、260時間後の輝度が、初期輝度の74%であった。また、発光素子10は、260時間後の輝度が、初期輝度の75%であった。この結果から、発光素子9及び発光素子10は、寿命の長い素子であることがわかった。
【0369】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例13】
【0370】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図46を用いて説明する。
【0371】
本実施例で用いる燐光性化合物は、(アセチルアセトナト)ビス(6−tert−ブチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(tBuppm)(acac)])である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、NPB及び2,7−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]−スピロ−9,9’−ビフルオレン(略称:DPA2SF)の2種類である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0372】
【化9】

【0373】
<吸収スペクトル>
図46(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(tBuppm)(acac)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0374】
<発光スペクトル>
また、図46(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル19)、第2の有機化合物であるDPA2SFの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル20)、2mDBTPDBq−IIとDPA2SFの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル21)及び2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル22)を示す。図46(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図46(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0375】
図46(A)の吸収スペクトルから、[Ir(tBuppm)(acac)]が、490nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0376】
2mDBTPDBq−IIとDPA2SFの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル21)は、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとDPA2SFを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0377】
また、NPBの単体の発光スペクトルのピークは、430nm付近にあることが知られている。図46(A)より、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル22)は、430nmよりも長波長側にピークを有するため、2mDBTPDBq−IIとNPBを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0378】
上記混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(tBuppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとDPA2SFの混合材料、及び[Ir(tBuppm)(acac)]を用いた発光素子や、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料、及び[Ir(tBuppm)(acac)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【0379】
ここで、発光スペクトル22は、発光スペクトル21よりも短波長(高エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル22のピークは、発光スペクトル21のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。以上のことから、図46において、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル22であることがわかった。具体的には、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピークと発光スペクトル21のピークの差は0.39eVであり、吸収スペクトルにおける該吸収帯のピークと発光スペクトル22のピークの差は0.19eVであった。
【0380】
発光スペクトル21と発光スペクトル22のピークの差は、第2の有機化合物として用いたDPA2SFとNPBのHOMO準位の差によるものと考えられる。具体的には、DPA2SFのHOMO準位が−5.09eVであるのに対し、NPBのHOMO準位は−5.38eVであった(いずれもCV測定により算出した値)。DPA2SFに比べて、NPBはHOMO準位が低い(深い)ため、発光スペクトル22のピークは、発光スペクトル21よりも短波長(高エネルギー)になったと考えられる。
【0381】
以上のことから、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料、及び[Ir(tBuppm)(acac)]を用いた発光素子は、2mDBTPDBq−IIとDPA2SFの混合材料、及び[Ir(tBuppm)(acac)]を用いた発光素子に比べて、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとのより大きな重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率がより高いことが示唆された。したがって、外部量子効率がより高い発光素子を得られることが示唆された。
【0382】
また、本実施例から、第1の有機化合物を変更することなく、第2の有機化合物を変更するだけで、第1の有機化合物と第2の有機化合物の混合材料の発光スペクトルと、燐光性化合物の吸収スペクトルの重なりを大きくできることがわかった。つまり、燐光性化合物の発光色(吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯の位置)を変更する場合であっても、第2の有機化合物を変更するだけで、該重なりを大きくする組み合わせを得ることができ、外部量子効率や寿命の高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例14】
【0383】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料は先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0384】
以下に、本実施例の発光素子11及び発光素子12の作製方法を示す。
【0385】
(発光素子11)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0386】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0387】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0388】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、DBT3P−IIと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、DBT3P−IIと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=DBT3P−II:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0389】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0390】
さらに、2mDBTPDBq−II、DPA2SF及び[Ir(tBuppm)(acac)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、DPA2SF及び[Ir(tBuppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:DPA2SF:[Ir(tBuppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0391】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0392】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0393】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0394】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子11を作製した。
【0395】
(発光素子12)
発光素子12の発光層1113は、2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(tBuppm)(acac)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、NPB及び[Ir(tBuppm)(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:NPB:[Ir(tBuppm)(acac)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。発光層1113以外は、発光素子11と同様に作製した。
【0396】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0397】
以上により得られた発光素子11及び発光素子12の素子構造を表13に示す。
【0398】
【表13】

【0399】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0400】
発光素子11及び発光素子12の電流密度−輝度特性を図47に示す。図47において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図48に示す。図48において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図49に示す。図49において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図50に示す。図50において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0401】
また、発光素子11及び発光素子12における輝度1000cd/m付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表14に示す。
【0402】
【表14】

【0403】
また、発光素子11及び発光素子12に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図51に示す。図51において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表14に示す通り、890cd/mの輝度の時の発光素子11のCIE色度座標は(x,y)=(0.43,0.56)であり、820cd/mの輝度の時の発光素子12のCIE色度座標は(x,y)=(0.42,0.57)であった。この結果から、発光素子11及び発光素子12は、[Ir(tBuppm)(acac)]に由来する黄緑色発光が得られたことがわかった。
【0404】
表14及び図47乃至図50からわかるように、発光素子11及び発光素子12は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0405】
発光素子11及び発光素子12は、実施例13に示したDPA2SF又はNPBと、2mDBTPDBq−IIと、[Ir(tBuppm)(acac)]と、を発光層に用いた。実施例13より、2mDBTPDBq−IIとDPA2SF又はNPBとの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(tBuppm)(acac)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯との重なりが大きい。発光素子11及び発光素子12は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、外部量子効率が高いと考えられる。特に、2mDBTPDBq−IIとNPBの混合材料の発光スペクトルは、2mDBTPDBq−IIとDPA2SFの混合材料の発光スペクトルに比べて、該吸収帯との重なりが大きい。したがって、発光素子12は、該大きな重なりを利用してエネルギー移動をするため、発光素子11に比べてエネルギー移動効率が高く、外部量子効率が高いと考えられる。また、実施例13の結果を合わせて参照することで、励起錯体の発光スペクトルのピークのエネルギー値と、吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差は、0.3eV以内であると好ましいことがわかる。
【0406】
本実施例では、第1の有機化合物(2mDBTPDBq−IIに相当)を変更することなく、第2の有機化合物を変更する(DPA2SFの代わりにNPBを用いる)だけで、さらに外部量子効率の高い発光素子を得られた。
【0407】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【実施例15】
【0408】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図52を用いて説明する。
【0409】
本実施例で用いる燐光性化合物は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−II及び2−[4−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]−1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール(略称:DBTBIm−II)の2種類である。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、4,4’,4’’−トリス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:1’−TNATA)である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0410】
【化10】

【0411】
<吸収スペクトル>
図52(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(mppr−Me)(dpm)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0412】
<発光スペクトル>
また、図52(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル23)、第1の有機化合物であるDBTBIm−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル24)、第2の有機化合物である1’−TNATAの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル25)、2mDBTPDBq−IIと1’−TNATAの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル26)、及びDBTBIm−IIと1’−TNATAの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル27)を示す。図52(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図52(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0413】
図52(A)の吸収スペクトルから、[Ir(mppr−Me)(dpm)]が、520nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0414】
2mDBTPDBq−IIと1’−TNATAの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル26)、及びDBTBIm−IIと1’−TNATAの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル27)は、それぞれ、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIと1’−TNATAを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。また、DBTBIm−IIと1’−TNATAを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0415】
上記混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(mppr−Me)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIと1’−TNATAの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子や、DBTBIm−IIと1’−TNATAの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【0416】
ここで、発光スペクトル27は、発光スペクトル26よりも短波長(高エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル27のピークは、発光スペクトル26のピークに比べて、該吸収帯と近い位置に存在する。以上のことから、図52において、吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯と最も重なりが大きい発光スペクトルは、発光スペクトル27であることがわかった。具体的には、該吸収帯の吸収スペクトルのピーク(520nm付近のショルダーピーク)と発光スペクトル26のピークの差は0.35eVであり、該吸収帯の吸収スペクトルのピーク(520nm付近のショルダーピーク)と発光スペクトル27のピークの差は0.01eVであった。
【0417】
発光スペクトル26と発光スペクトル27のピークの差は、第1の有機化合物として用いた2mDBTPDBq−IIとDBTBIm−IIのLUMO準位の差によるものと考えられる。具体的には、2mDBTPDBq−IIのLUMO準位が−2.95eVであるのに対し、DBTBIm−IIのLUMO準位は−2.52eVであった(いずれもCV測定により算出した値)。2mDBTPDBq−IIに比べて、DBTBIm−IIはLUMO準位が高い(浅い)ため、HOMO準位が高い1’−TNATAと混合しても、混合材料の発光スペクトルのピークは長波長になりすぎなかった(つまり、発光スペクトル27が、発光スペクトル26に比べて短波長側にピークを有した)と考えられる。
【0418】
以上のことから、DBTBIm−IIと1’−TNATAの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子は、2mDBTPDBq−IIと1’−TNATAの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子に比べて、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとのより大きな重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率がより高いことが示唆された。したがって、外部量子効率がより高い発光素子を得られることが示唆された。
【0419】
また、本実施例から、第2の有機化合物を変更することなく、第1の有機化合物を変更するだけで、第1の有機化合物と第2の有機化合物の混合材料の発光スペクトルと、燐光性化合物の吸収スペクトルの重なりを大きくできることがわかった。つまり、燐光性化合物の発光色(吸収スペクトルの発光に強く寄与する吸収帯の位置)を変更する場合であっても、第1の有機化合物を変更するだけで、該重なりを大きくする組み合わせを得ることができ、外部量子効率や寿命の高い発光素子を得られることが示唆された。
【実施例16】
【0420】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料は先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0421】
以下に、本実施例の発光素子13及び発光素子14の作製方法を示す。
【0422】
(発光素子13)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0423】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0424】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0425】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0426】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0427】
さらに、2mDBTPDBq−II、1’−TNATA及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、1’−TNATA及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:1’−TNATA:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は20nmとした。
【0428】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−IIを膜厚30nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0429】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0430】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0431】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子13を作製した。
【0432】
(発光素子14)
発光素子14の発光層1113は、DBTBIm−II、1’−TNATA及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着することで形成した。ここで、DBTBIm−II、1’−TNATA及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=DBTBIm−II:1’−TNATA:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は20nmとした。
【0433】
発光素子14の第1の電子輸送層1114aは、DBTBIm−IIを膜厚30nmとなるように成膜することで形成した。発光層1113及び第1の電子輸送層1114a以外は、発光素子13と同様に作製した。
【0434】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0435】
以上により得られた発光素子13及び発光素子14の素子構造を表15に示す。
【0436】
【表15】

【0437】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0438】
発光素子13及び発光素子14の電流密度−輝度特性を図53に示す。図53において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図54に示す。図54において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図55に示す。図55において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図56に示す。図56において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0439】
また、発光素子13及び発光素子14における輝度860cd/mのときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表16に示す。
【0440】
【表16】

【0441】
また、発光素子13及び発光素子14に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図57に示す。図57において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表16に示す通り、860cd/mの輝度の時の発光素子13及び発光素子14のCIE色度座標は(x,y)=(0.53,0.46)であった。この結果から、発光素子13及び発光素子14は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0442】
表16及び図53乃至図56からわかるように、発光素子13及び発光素子14は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0443】
発光素子13及び発光素子14は、実施例15に示した2mDBTPDBq−II又はDBTBIm−IIと、1’−TNATAと、[Ir(mppr−Me)(dpm)]と、を発光層に用いた。実施例15より、2mDBTPDBq−II又はDBTBIm−IIと、1’−TNATAとの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯との重なりが大きい。発光素子13及び発光素子14は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、外部量子効率が高いと考えられる。特に、DBTBIm−IIと1’−TNATAの混合材料の発光スペクトルは、2mDBTPDBq−IIと1’−TNATAの混合材料の発光スペクトルに比べて、該吸収帯との重なりが大きい。したがって、発光素子14は、該大きな重なりを利用してエネルギー移動をするため、発光素子13に比べてエネルギー移動効率が高く、外部量子効率が高いと考えられる。また、実施例15の結果を合わせて参照することで、励起錯体の発光スペクトルのピークのエネルギー値と、吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差は、0.3eV以内であると好ましいことがわかる。
【0444】
本実施例では、第2の有機化合物(1’−TNATAに相当)を変更することなく、第1の有機化合物を変更する(2mDBTPDBq−IIの代わりにDBTBIm−IIを用いる)だけで、さらに外部量子効率の高い発光素子を得られた。
【0445】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【実施例17】
【0446】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子に適用することができる、第1の有機化合物、第2の有機化合物、及び燐光性化合物の組み合わせの一例について図58を用いて説明する。
【0447】
本実施例で用いる燐光性化合物は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]である。また、本実施例で用いる第1の有機化合物は、2mDBTPDBq−IIである。また、本実施例で用いる第2の有機化合物は、PCBNBB及び9−フェニル−9H−3−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)カルバゾール(略称:PCCP)の2種類である。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0448】
【化11】

【0449】
<吸収スペクトル>
図58(A)(B)に燐光性化合物である[Ir(mppr−Me)(dpm)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(以下、単に吸収スペクトルと記す)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定を行った。
【0450】
<発光スペクトル>
また、図58(A)(B)に、第1の有機化合物である2mDBTPDBq−IIの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル28)、第2の有機化合物であるPCBNBBの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル29)、第2の有機化合物であるPCCPの薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル30)、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル31)、及び2mDBTPDBq−IIとPCCPの混合材料の薄膜の発光スペクトル(発光スペクトル32)を示す。図58(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。図58(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M−1・cm−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0451】
図58(A)の吸収スペクトルから、[Ir(mppr−Me)(dpm)]が、500nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0452】
2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル31)、及び2mDBTPDBq−IIとPCCPの混合材料の発光スペクトル(発光スペクトル32)は、それぞれ、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。また、2mDBTPDBq−IIとPCCPを混合することで、励起錯体が形成されることが示唆された。
【0453】
上記混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(mppr−Me)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きいことがわかった。よって、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子や、2mDBTPDBq−IIとPCCPの混合材料、及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を用いた発光素子は、該混合材料の発光スペクトルと燐光性化合物の吸収スペクトルとの重なりを利用して、エネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高いことが示唆された。したがって、外部量子効率が高い発光素子を得られることが示唆された。
【0454】
また、本実施例から、励起錯体を形成する第1の有機化合物及び第2の有機化合物の一方としては、芳香族アミン系の化合物だけでなく、カルバゾール化合物も用いることができることが示唆された。
【実施例18】
【0455】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について、図15を用いて説明する。本実施例で用いた材料は先の実施例で用いた材料であるため、化学式は省略する。
【0456】
以下に、本実施例の発光素子15及び発光素子16の作製方法を示す。
【0457】
(発光素子15)
まず、ガラス基板1100上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0458】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0459】
その後、10−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を30分程度放冷した。
【0460】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0461】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0462】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBNBB:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は20nmとした。
【0463】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着し、発光層1113上に第1の電子輸送層1114aを形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBNBB:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、第1の電子輸送層1114aの膜厚は40nmとした。
【0464】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、BPhenを膜厚10nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0465】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0466】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子15を作製した。
【0467】
(発光素子16)
発光素子16の発光層1113は、2mDBTPDBq−II、PCCP及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCCP及び[Ir(mppr−Me)(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCCP:[Ir(mppr−Me)(dpm)])となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は20nmとした。発光層1113以外は、発光素子15と同様に作製した。
【0468】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0469】
以上により得られた発光素子15及び発光素子16の素子構造を表17に示す。
【0470】
【表17】

【0471】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0472】
発光素子15及び発光素子16の電流密度−輝度特性を図59に示す。図59において、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、電圧−輝度特性を図60に示す。図60において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m)を表す。また、輝度−電流効率特性を図61に示す。図61において、横軸は輝度(cd/m)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を図62に示す。図62において、横軸は、輝度(cd/m)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0473】
また、発光素子15及び発光素子16における輝度1200cd/mのときの電圧(V)、電流密度(mA/cm)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表18に示す。
【0474】
【表18】

【0475】
また、発光素子15及び発光素子16に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、図63に示す。図63において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表18に示す通り、1200cd/mの輝度の時の発光素子15のCIE色度座標は(x,y)=(0.54,0.45)であり、1200cd/mの輝度の時の発光素子16のCIE色度座標は(x,y)=(0.54,0.46)であった。この結果から、発光素子15及び発光素子16は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0476】
表18及び図59乃至図62からわかるように、発光素子15及び発光素子16は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。
【0477】
発光素子15及び発光素子16は、実施例17に示した2mDBTPDBq−IIと、PCBNBB又はPCCPと、[Ir(mppr−Me)(dpm)]と、を発光層に用いた。実施例17より、2mDBTPDBq−IIと、PCBNBB又はPCCPとの混合材料の発光スペクトル(励起錯体の発光スペクトル)は、[Ir(mppr−Me)(dpm)]の吸収スペクトルにおいて発光に強く寄与すると考えられる吸収帯との重なりが大きい。発光素子15及び発光素子16は、該重なりを利用してエネルギー移動をするため、エネルギー移動効率が高く、外部量子効率が高いと考えられる。
【0478】
また、本実施例から、芳香族アミン系の化合物(PCBNBB)だけでなく、カルバゾール化合物(PCCP)を用いても、励起錯体を形成することができ、かつ、外部量子効率が高い発光素子を得られることがわかった。
【0479】
以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0480】
(参考例1)
上記実施例で用いた有機金属錯体、(アセチルアセトナト)ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(別名:ビス[2−(6−フェニル−4−ピリミジニル−κN3)フェニル−κC](2,4−ペンタンジオナト−κO,O’)イリジウム(III))(略称:[Ir(dppm)(acac)])の合成例を示す。なお、[Ir(dppm)(acac)]の構造を以下に示す。
【0481】
【化12】

【0482】
<ステップ1;4,6−ジフェニルピリミジン(略称:Hdppm)の合成>
まず、4,6−ジクロロピリミジン5.02g、フェニルボロン酸8.29g、炭酸ナトリウム7.19g、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(略称:Pd(PPhCl)0.29g、水20mL、アセトニトリル20mLを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、内部をアルゴン置換した。この反応容器にマイクロ波(2.45GHz 100W)を60分間照射することで加熱した。ここで更にフェニルボロン酸2.08g、炭酸ナトリウム1.79g、Pd(PPhCl0.070g、水5mL、アセトニトリル5mLをフラスコに入れ、再度マイクロ波(2.45GHz 100W)を60分間照射することで加熱した。その後この溶液に水を加え、ジクロロメタンにて有機層を抽出した。得られた抽出液を水で洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。乾燥した後の溶液を濾過した。この溶液の溶媒を留去した後、得られた残渣を、ジクロロメタンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ピリミジン誘導体Hdppmを得た(黄白色粉末、収率38%)。なお、マイクロ波の照射は、マイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。以下にステップ1の合成スキーム(a−1)を示す。
【0483】
【化13】

【0484】
<ステップ2;ジ−μ−クロロ−ビス[ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)](略称:[Ir(dppm)Cl])の合成>
次に、2−エトキシエタノール15mL、水5mL、上記ステップ1で得たHdppm1.10g、塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)0.69gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、ナスフラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を1時間照射し、反応させた。溶媒を留去した後、得られた残渣をエタノールで濾過し、次いで洗浄し、複核錯体[Ir(dppm)Cl]を得た(赤褐色粉末、収率88%)。以下にステップ2の合成スキーム(a−2)を示す。
【0485】
【化14】

【0486】
<ステップ3;(アセチルアセトナト)ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(dppm)(acac)])の合成>
さらに、2−エトキシエタノール40mL、上記ステップ2で得た[Ir(dppm)Cl]1.44g、アセチルアセトン0.30g、炭酸ナトリウム1.07gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、ナスフラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 120W)を60分間照射し、反応させた。溶媒を留去し、得られた残渣をジクロロメタンに溶解して濾過し、不溶物を除去した。得られた濾液を水、次いで飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。乾燥した後の溶液を濾過した。この溶液の溶媒を留去した後、得られた残渣を、ジクロロメタン:酢酸エチル=50:1(体積比)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。その後、ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒にて再結晶することにより、目的物である橙色粉末を得た(収率32%)。以下にステップ3の合成スキーム(a−3)を示す。
【0487】
【化15】

【0488】
上記ステップ3で得られた橙色粉末の核磁気共鳴分光法(H NMR)による分析結果を下記に示す。この結果から、有機金属錯体[Ir(dppm)(acac)]が得られたことがわかった。
【0489】
H NMR.δ(CDCl):1.83(s,6H),5.29(s,1H),6.48(d,2H),6.80(t,2H),6.90(t,2H),7.55−7.63(m,6H),7.77(d,2H),8.17(s,2H),8.24(d,4H),9.17(s,2H).
【0490】
(参考例2)
上記実施例で用いた有機金属錯体、(アセチルアセトナト)ビス(6−メチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(別名:ビス[2−(6−メチル−4−ピリミジニル−κN3)フェニル−κC](2,4−ペンタンジオナト−κO,O’)イリジウム(III))(略称:[Ir(mppm)(acac)])の合成例を具体的に示す。なお、[Ir(mppm)(acac)]の構造を以下に示す。
【0491】
【化16】

【0492】
<ステップ1;4−メチル−6−フェニルピリミジン(略称:Hmppm)の合成>
まず、4−クロロ−6−メチルピリミジン4.90g、フェニルボロン酸4.80g、炭酸ナトリウム4.03g、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(略称:Pd(PPhCl)0.16g、水20mL、アセトニトリル10mLを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、内部をアルゴン置換した。この反応容器にマイクロ波(2.45GHz 100W)を60分間照射することで加熱した。ここでさらにフェニルボロン酸2.28g、炭酸ナトリウム2.02g、Pd(PPhCl0.082g、水5mL、アセトニトリル10mLをフラスコに入れ、再度マイクロ波(2.45GHz 100W)を60分間照射することで加熱した。その後この溶液に水を加え、ジクロロメタンにて抽出した。得られた抽出液を飽和炭酸ナトリウム水溶液、水、次いで飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。乾燥した後の溶液を濾過した。この溶液の溶媒を留去した後、得られた残渣を、ジクロロメタン:酢酸エチル=9:1(体積比)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的のピリミジン誘導体Hmppmを得た(橙色油状物、収率46%)。なお、マイクロ波の照射はマイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。以下にステップ1の合成スキーム(b−1)を示す。
【0493】
【化17】

【0494】
<ステップ2;ジ−μ−クロロ−ビス[ビス(6−メチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)](略称:[Ir(mppm)Cl])の合成>
次に、2−エトキシエタノール15mL、水5mL、上記ステップ1で得たHmppm1.51g、塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)1.26gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、ナスフラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を1時間照射し、反応させた。溶媒を留去した後、得られた残渣をエタノールで洗浄し、濾過することにより複核錯体[Ir(mppm)Cl]を得た(暗緑色粉末、収率77%)。以下にステップ2の合成スキーム(b−2)を示す。
【0495】
【化18】

【0496】
<ステップ3;(アセチルアセトナト)ビス(6−メチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppm)(acac)])の合成>
さらに、2−エトキシエタノール40mL、上記ステップ2で得た複核錯体[Ir(mppm)Cl]1.84g、アセチルアセトン0.48g、炭酸ナトリウム1.73gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、ナスフラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 120W)を60分間照射し、反応させた。溶媒を留去し、得られた残渣をジクロロメタンに溶解して濾過し、不溶物を除去した。得られた濾液を水、次いで飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。乾燥した後の溶液を濾過した。この溶液の溶媒を留去した後、得られた残渣を、ジクロロメタン:酢酸エチル=4:1(体積比)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。その後、ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒にて再結晶することにより、目的物を黄色粉末として得た(収率22%)。以下にステップ3の合成スキーム(b−3)を示す。
【0497】
【化19】

【0498】
上記ステップ3で得られた黄色粉末の核磁気共鳴分光法(H NMR)による分析結果を下記に示す。この結果から、有機金属錯体[Ir(mppm)(acac)]が得られたことがわかった。
【0499】
H NMR.δ(CDCl):1.78(s,6H),2.81(s,6H),5.24(s,1H),6.37(d,2H),6.77(t,2H),6.85(t,2H),7.61−7.63(m,4H),8.97(s,2H).
【0500】
(参考例3)
上記実施例で用いた有機金属錯体、(アセチルアセトナト)ビス(6−tert−ブチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(別名:ビス[2−(6−tert−ブチル−4−ピリミジニル−κN3)フェニル−κC](2,4−ペンタンジオナト−κO,O’)イリジウム(III))(略称:[Ir(tBuppm)(acac)])の合成例を示す。なお、[Ir(tBuppm)(acac)]の構造を以下に示す。
【0501】
【化20】

【0502】
<ステップ1;4−tert−ブチル−6−フェニルピリミジン(略称:HtBuppm)の合成>
まず、4,4−ジメチル−1−フェニルペンタン−1,3−ジオン22.5gとホルムアミド50gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、内部を窒素置換した。この反応容器を加熱することで反応溶液を5時間還流させた。その後、この溶液を水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ、ジクロロメタンにて有機層を抽出した。得られた有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。乾燥した後の溶液を濾過した。この溶液の溶媒を留去した後、得られた残渣を、ヘキサン:酢酸エチル=10:1(体積比)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ピリミジン誘導体HtBuppmを得た(無色油状物、収率14%)。ステップ1の合成スキームを下記(c−1)に示す。
【0503】
【化21】

【0504】
<ステップ2;ジ−μ−クロロ−ビス[ビス(6−tert−ブチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)](略称:[Ir(tBuppm)Cl])の合成>
次に、2−エトキシエタノール15mLと水5mL、上記ステップ1で得たHtBuppm1.49g、塩化イリジウム水和物(IrCl・HO)1.04gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 100W)を1時間照射し、反応させた。溶媒を留去した後、得られた残渣をエタノールで吸引濾過、洗浄し、複核錯体[Ir(tBuppm)Cl]を得た(黄緑色粉末、収率73%)。ステップ2の合成スキームを下記(c−2)に示す。
【0505】
【化22】

【0506】
<ステップ3;(アセチルアセトナト)ビス(6−tert−ブチル−4−フェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(tBuppm)(acac)]の合成>
さらに、2−エトキシエタノール40mL、上記ステップ2で得た複核錯体[Ir(tBuppm)Cl] 1.61g、アセチルアセトン0.36g、炭酸ナトリウム1.27gを、還流管を付けたナスフラスコに入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。その後、マイクロ波(2.45GHz 120W)を60分間照射し、反応させた。溶媒を留去し、得られた残渣をエタノールで吸引濾過し、水、エタノールで洗浄した。この固体をジクロロメタンに溶解させ、セライト(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:531−16855)、アルミナ、セライトの順で積層した濾過補助剤を通して濾過した。溶媒を留去して得られた固体をジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒にて再結晶することにより、目的物を黄色粉末として得た(収率68%)。ステップ3の合成スキームを下記(c−3)に示す。
【0507】
【化23】

【0508】
上記ステップ3で得られた黄色粉末の核磁気共鳴分光法(H NMR)による分析結果を下記に示す。この結果から、有機金属錯体[Ir(tBuppm)(acac)]が得られたことがわかった。
【0509】
H NMR.δ(CDCl):1.50(s,18H),1.79(s,6H),5.26(s,1H),6.33(d,2H),6.77(t,2H),6.85(t,2H),7.70(d,2H),7.76(s,2H),9.02(s,2H).
【0510】
(参考例4)
上記実施例で用いた2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)の合成方法について説明する。
【0511】
【化24】

【0512】
≪2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)の合成≫
2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)の合成スキームを(d−1)に示す。
【0513】
【化25】

【0514】
2L三口フラスコに2−クロロジベンゾ[f,h]キノキサリン5.3g(20mmol)、3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニルボロン酸6.1g(20mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)460mg(0.4mmol)、トルエン300mL、エタノール20mL、2Mの炭酸カリウム水溶液20mLを加えた。この混合物を、減圧下で攪拌することで脱気し、三口フラスコ内を窒素置換した。この混合物を窒素気流下、100℃で7.5時間攪拌した。室温まで冷ました後、得られた混合物を濾過して白色の濾物を得た。得られた濾物を水、エタノールの順で洗浄した後、乾燥させた。得られた固体を約600mLの熱トルエンに溶かし、セライト、フロリジールを通して吸引濾過し、無色透明の濾液を得た。得られた濾液を濃縮し、約700mLのシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。クロマトグラフィーは、熱トルエンを展開溶媒に用いて行った。ここで得られた固体にアセトンとエタノールを加えて超音波を照射した後、生じた懸濁物を濾取して乾燥させたところ、白色粉末を収量7.85g、収率80%で得た。
【0515】
上記目的物は、熱トルエンには比較的可溶であったが、冷めると析出しやすい材料であった。また、アセトン、エタノールなど他の有機溶剤には難溶であった。そのため、この溶解性の差を利用して、上記の様に、簡便な方法で収率よく合成することができた。具体的には、反応終了後、室温に戻して析出させた固体を濾取することで、大部分の不純物を簡便に除くことができた。また、熱トルエンを展開溶媒とした、カラムクロマトグラフィーにより、析出しやすい目的物も簡便に精製することができた。
【0516】
得られた白色粉末4.0gをトレインサブリメーション法により昇華精製した。昇華精製は、圧力5.0Pa、アルゴン流量5mL/minの条件で、白色粉末を300℃で加熱して行った。昇華精製後、目的物の白色粉末を収量3.5g、収率88%で得た。
【0517】
核磁気共鳴分光法(H NMR)によって、この化合物が目的物である2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)であることを確認した。
【0518】
得られた物質のH NMRデータを以下に示す。
H NMR(CDCl,300MHz):δ(ppm)=7.45−7.52(m,2H)、7.59−7.65(m,2H)、7.71−7.91(m,7H)、8.20−8.25(m,2H)、8.41(d,J=7.8Hz,1H)、8.65(d,J=7.5Hz,2H)、8.77−8.78(m,1H)、9.23(dd,J=7.2Hz,1.5Hz,1H)、9.42(dd,J=7.8Hz,1.5Hz,1H)、9.48(s,1H)。
【符号の説明】
【0519】
102 EL層
103 第1の電極
108 第2の電極
701 正孔注入層
702 正孔輸送層
703 発光層
704 電子輸送層
705 電子注入層
706 電子注入バッファー層
707 電子リレー層
708 複合材料層
800 第1のEL層
801 第2のEL層
803 電荷発生層
1100 基板
1101 第1の電極
1103 第2の電極
1111 正孔注入層
1112 正孔輸送層
1113 発光層
1114a 第1の電子輸送層
1114b 第2の電子輸送層
1115 電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐光性化合物、第1の有機化合物、及び第2の有機化合物を含む発光層を一対の電極間に有し、
前記第1の有機化合物及び前記第2の有機化合物が、励起錯体を形成する組み合わせである発光素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の有機化合物の一重項励起子から、前記励起錯体が形成される発光素子。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1の有機化合物のアニオン及び前記第2の有機化合物のカチオンから、前記励起錯体が形成される発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記励起錯体の励起エネルギーが前記燐光性化合物に移動して、前記燐光性化合物が燐光を発する発光素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記第1の有機化合物及び前記第2の有機化合物の少なくとも一方が、蛍光性化合物である発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記燐光性化合物が、有機金属錯体である発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【公開番号】特開2012−186461(P2012−186461A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29033(P2012−29033)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】