説明

発光素子

【課題】共振器構造の発光素子において、例えば膜厚が設計値から外れて共振器光路長が増減したとしても、輝度変動を抑制することのできる技術を提供する
【解決手段】第1反射部材と、第2反射部材と、前記第1反射部材および第2反射部材の間に配置される発光層を有し、前記第1反射部材と前記第2反射部材との間で共振される光の一部を前記第1反射部材又は前記第2反射部材で透過する共振器構造を備え、前記共振器構造からの共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、前記発光層の内部発光スペクトルの最大値となる発光強度の90%〜50%の範囲に位置し、前記内部発光スペクトルの最大値となる波長が、450nm〜480nmの範囲内にある構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ装置や照明装置などの表示装置を構成する発光素子として、電圧を印加するとエレクトロルミネッセンス(EL)現象によって自己発光する物質を利用したEL素子が知られている。EL素子は、上部電極と下部電極の間に有機材料又は無機材料からなる発光層を形成した薄膜状の発光素子であり、上部及び下部電極で発光層に電圧を印加して発光させる構造である。
【0003】
近年においては、上部電極及び下部電極の一方を全反射ミラーとし、他方を一部の波長を透過する半透過ミラーとすることによって、発光層で発光した光を共振させる共振器構造(いわゆる、マイクロキャビティー構造)の発光素子が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
特許文献1には、内部発光スペクトルのピーク波長と共振部による多重干渉スペクトルのピーク波長を互いにずらして白色の視野角依存性を減少させる発光素子が開示されている。赤色(R)の多重干渉スペクトルのピーク波長は長波長側(+10nm)にずらし、緑色(G)の多重干渉スペクトルのピーク波長は長波長側(+4nm)にずらし、青色(B)の多重干渉スペクトルのピーク波長は短波長側(−10nm)にずらすことによって白色の視野角依存性を減少させている。
【0005】
特許文献2にも、内部発光スペクトルのピーク波長と共振部による多重干渉スペクトルのピーク波長を互いにずらして視野角依存性を減少させる発光素子が開示されている。但し、特許文献1とは異なり、赤色(R)と青色(B)の多重干渉スペクトルのピーク波長については、内部発光スペクトルのピーク波長と一致させるようにしている。
【0006】
特許文献1及び2に開示されている技術は、例えば大型ディスプレイ等のような広い視野角特性が要求される表示装置に対しては有効であるかも知れないが、例えば、携帯端末,パーソナルコンピュター,カーナビゲーションシステム等のもっぱら個人的に使用される小型ディスプレイの場合には、正面方向の輝度のバラツキが許容できなくなる場合がある。
【0007】
すなわち、共振器構造にした場合、そのフィルタ特性と発光出力の強い指向性により、正面方向の輝度が増大する。広い視野角特性を必要としない例えば個人的に使用される表示装置は、この指向性を利用するものであり、従って広い視野角を必要とするテレビなどに比べて、正面方向の輝度にバラツキが少ないことが要求される。しかしながら、共振器構造の薄膜発光素子は、そのフィルタ特性がミラー間距離(共振器光路長)に敏感であり、製造過程における製作誤差によって共振器光路長にバラツキが生じると、正面方向の色座標(色純度)や輝度変動が許容できなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−367770号公報
【特許文献2】特開2007−316611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、本発明が解決しようとする課題には、上述した問題が一例として挙げられる。よって本発明の目的は、共振器構造の発光素子及び表示装置において、例えば膜厚が設計値から外れて共振器光路長が増減したとしても、輝度変動を抑制することのできる技術を提供することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発光素子は、請求項1に記載のように、第1反射部材と、第2反射部材と、前記第1反射部材および第2反射部材の間に配置される発光層を有し、前記第1反射部材と前記第2反射部材との間で共振される光の一部を前記第1反射部材又は前記第2反射部材で透過する共振器構造を備え、前記共振器構造からの共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、前記発光層の内部発光スペクトルの最大値となる発光強度の90%〜50%の範囲に位置し、前記内部発光スペクトルの最大値となる波長が、450nm〜480nmの範囲内にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の表示装置は、請求項6に記載の通り、第1反射部材と、第2反射部材と、前記第1反射部材および第2反射部材の間に配置される発光層を有し、前記第1反射部材と前記第2反射部材との間で共振される光の一部を前記第1反射部材又は前記第2反射部材で透過する共振器構造を備え、前記共振器構造からの共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、前記発光層の内部発光スペクトルの最大値となる発光強度の95%〜50%の範囲に位置し、前記内部発光スペクトルの最大値となる波長が、600nm〜640nmの範囲内にあることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好ましい第1の実施形態による発光素子の縦断面図である。
【図2】本発明の好ましい第1の実施形態による発光素子の平面図である。
【図3】青色(B)を対象としたときの光スペクトルを示す図である。
【図4】青色(B)を対象としたときの発光強度の変化率Rと輝度変化率の関係を示す図である。
【図5】青色(B)を対象としたときの膜厚変化と正面輝度値の関係を示す図である。
【図6】青色(B)を対象としたときの光スペクトルを示す図である。
【図7】赤色(R)を対象としたときの光スペクトルを示す図である。
【図8】赤色(R)を対象としたときの光スペクトルを示す図である。
【図9】赤色(R)を対象としたときの膜厚変化と正面輝度値の関係を示す図である。
【図10】本発明の好ましい第4の実施形態による発光素子の縦断面図である。
【図11】本発明の好ましい第5の実施形態による発光素子の縦断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1 基板
2 陽極
3 有機層
31 ホール注入層
32 ホール輸送層
33 発光層
34 電子輸送層
4 陰極
5 隔壁部
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態による発光素子及び表示装置について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。以下の説明では、赤色(R),緑色(G),青色(B)にそれぞれ発光する発光素子を備えた表示装置を一例に挙げて説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0015】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、共通の基板1に赤色(R),緑色(G),青色(B)に発光する3個の発光素子(R,G,B)を配置してRGBユニットを形成した一例を示す。図1は、発光素子(R,G,B)の縦断面図であり、図2は、平面図である。なお、実際の表示装置は、基板1に多数の発光素子(R,G,B)を配列して表示領域を形成し、図示しない表示領域外に配置された駆動回路によってパッシブ駆動又は素子毎にも駆動回路を配置してアクティブ駆動される構成である。
【0016】
本実施形態による発光素子(R,G,B)は、図1に示すように、第1反射部材としての陽極2、有機層3、第2反射部材としての陰極4を基板上に積層し、成膜面側から発光を取り出すいわゆるトップエミッション構造である。これらRGBの発光素子は、バンクと称する隔壁部5によって区画されている。なお、陰極4上にさらに封止膜などの有機層あるいは無機層を積層する場合がある。さらに、図示は省略するが、外光反射を防止するためのフィルムや基板をさらに積層するようにしてもよい。
【0017】
陽極2は、反射電極21と透明電極22の2層構造である。陽極2のホール注入層31に接する材料としては、仕事関数の高い材料が用いられる。具体的には、反射電極21の材料として、例えばAl、Cr、Mo、Ni、Pt、Au、Agなどの金属またはそれらを含む合金や金属間化合物などを用いることができる。反射電極21の厚みは、例えば100nmである。反射電極21は、400〜700nmの波長の光に対する反射率の平均値が例えば80%以上であり高い反射率が望ましい。また、透明電極22の材料として、例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの金属酸化物などを用いることができる。透明電極22の厚みは、例えば75nmである。なお、図1及び図2では図示を省略しているが、陽極2には引き出し電極(配線電極)が接続されている。なお、陽極2は、反射電極21の単層構造であってもよい。
【0018】
有機層3は、一部の層が無機材料で構成されることもあり得る。また、更に分割して多層化すること、或いは単一の層で複数の層の機能を有するように積層数を減らすこともできる。図1に示す有機層3は、陽極2側から順に、ホール注入層31、ホール輸送層32、発光層33、電子輸送層34が積層された多層構造である。有機層3は、少なくとも発光層33を有していればよいが、効率的にエレクトロルミネッセンス現象を促進させるために、ホール注入層31、ホール輸送層32、電子輸送層34などを配置することが好ましい。
【0019】
共振器構造とする場合、RGBの各発光素子にはそれぞれ好ましい共振器光路長がある。図1の構造の場合は、反射電極21と陰極4の反射面の離間距離が共振器光路長である。一例として、赤色(R)の好ましい共振器光路長を得るための積層膜厚は300nmであり、緑色(G)の好ましい共振器光路長を得るための積層膜厚は235nmであり、青色(B)の好ましい共振器光路長を得るための積層膜厚は200nmである。これら共振器光路長は、例えば有機層3の膜厚によって調整する。但し、既述したように、製作工程において膜厚が設計値から外れることを完全に防止することは困難である。特に、塗布法によって有機層3を成膜する場合に膜厚制御が難しい。例えば、インクジェット法で成膜する場合、素子間に5%以上の膜厚のバラツキが生じる場合がある。
【0020】
図1に示す構造は、一例として、ホール注入層31の厚みを変えて共振器光路長を調整している。具体的には、赤色(G)のホール注入層31の厚み(設計値)は、例えば125nmであり、緑色(G)のホール注入層31の厚み(設計値)は、例えば65nmであり、青色(B)のホール注入層31の厚み(設計値)は、例えば20nmである。ホール輸送層32、発光層33、電子輸送層34については、RGBの共振器構造で同じ厚みにしている。ホール輸送層32の厚み(設計値)は、例えば30nmであり、発光層33の厚み(設計値)は、例えば30nmであり、電子輸送層34の厚み(設計値)は、例えば40nmである。
【0021】
ホール注入層31及びホール輸送層32としては、正孔の輸送特性が高い材料で形成されていればよく、一例として、銅フタロシアニン(CuPc)などのフタロシアニン化合物、m−MTDATA等のスターバースト型アミン、ベンジジン型アミンの多量体、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]−ビフェニル(NPB)、N−フェニル−p−フェニレンジアミン(PPD)等の芳香族第三級アミン、4−(ジ−P−トリルアミノ)−4’−[4−(ジ−P−トリルアミノ)スチリル]スチルベンゼン等のスチルベン化合物、トリアゾール誘導体、スチリルアミン化合物、バッキーボール、C60等のフラーレンなどの有機材料が用いられる。また、ポリカーボネート等の高分子材料中に低分子材料を分散させた高分子分散系の材料を使用してもよい。但し、これらの材料に限定されることはない。
【0022】
発光層33としては、赤色(R),緑色(G),青色(B)のエレクトロルミネッセンス現象を発生する材料を用いることができる。発光層33の材料の一例としては、(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq)などの蛍光性有機金属化合物、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)などの芳香族ジメチリディン化合物、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼンなどのスチリルベンゼン化合物、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)などのトリアゾール誘導体、アントラキノン誘導体、フルオノレン誘導体等の蛍光性有機材料、ポリパラフィニレンビニレン(PPV)系、ポリフルオレン系、ポリビニルカルバゾール(PVK)系などの高分子材料、白金錯体やイリジウム錯体などの燐光性有機材料を用いることができる。但し、これらの材料に限定されることはない。また、有機材料でなくともよく、エレクトロルミネッセンス現象を発生する無機材料を用いてもよい。
【0023】
電子輸送層34としては、電子の輸送特性が高い材料で形成されていればよく、一例として、PyPySPyPy等のシラシクロペンタジエン(シロール)誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体などの有機材料、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq)などの8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、3−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)などのトリアゾール系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチル)−1,3,4−オキサジアゾ−ル(PBD)などのオキサジアゾール系化合物、バッキーボール、C60、カーボンナノチューブなどのフラーレンを使用することができる。但し、これらの材料に限定されることはない。
【0024】
陰極4の材料としては、電子輸送層34に接する領域の仕事関数が低く陰極全体の反射及び透過の損失が小さい材料を用いることができる。具体的には、陰極4の材料として、Al、Mg、Ag、Au、Ca、Liなどの金属またはその化合物、あるいはそれらを含む合金などを単層あるいは積層して用いることができる。また、電子輸送層34に接する領域に薄いフッ化リチウムや酸化リチウムなどを形成し、電子注入特性を制御することもある。陰極4の厚みは、例えば10nmである。前述したように、本実施形態は、成膜面側すなわち陰極側から光を出力するトップエミッション構造である。従って、陰極4は、400〜700nmの波長の光に対する透過率の平均値が例えば20%以上の半透過性の電極である。透過率は、例えば電極の膜厚などによって調整することができる。なお、図1及び図2では図示を省略しているが、陰極4には引き出し電極(配線電極)が接続されている。
【0025】
陰極4上にさらに封止膜を積層する場合には、例えば水蒸気や酸素の透過率が小さい透明の無機材料で形成することができる。封止膜の材料としては、一例として窒化ケイ素(SiNx)、窒化酸化ケイ素(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlOx)、窒化アルミニウム(AlNx)などを用いることができる。
【0026】
バンクと称する隔壁部5の材料としては、一例としてフッ素成分を含有する感光性樹脂を用いることができる。フッ素成分を含有することにより、液状材料に対して撥液性を発揮することができるので、塗布法を用いて成膜する場合の液流れ(いわゆるオーバーラップ)を抑制することができる。さらに、隔壁部5は、遮光性を有する材料で形成するのが好ましい。
【0027】
ここで、青色(B)や赤色(R)の発光素子の正面方向の輝度は、緑色(G)の発光素子に比べて、ピーク波長のシフトによる視感度の増減によって、許容できない輝度変動となり易い。その中でも、青色(B)の方が、赤色(R)よりも共振器光路長の変動に対する輝度変動が大きい。従って、本実施形態では、青色(B)の発光素子を対象として、製作過程において膜厚が設計値から外れて共振器光路長に増減が生じたとしても、正面方向の輝度が変動することを抑制する。そのための構造として、内部発光スペクトル,比視感度スペクトルおよび共振器出力スペクトルが下記の条件を満たすようにする。なお、内部発光スペクトルとは、発光材料のフォトルミネセンス(PL)スペクトルに対応する。また、共振器出力スペクトルとは、共振器構造から透過される光のスペクトルに対応する。一方、比視感度スペクトルの最大値となる波長は、明所視標準で555nmである。
【0028】
すなわち、図3に示すように、内部発光スペクトルS1のピーク波長(λS1)と、公知であるため図示を省略する比視感度スペクトルのピーク波長(すなわち、555nm)との間に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)が位置するようにする。なお、説明の便宜上、発光強度が最大となる波長をピーク波長と称する場合がある。
【0029】
既述したように、図1に示す構造の場合には、青色(B)に好ましい共振器光路長とするための有機層3の積層膜厚(設計値)を決めているので、これに従い共振器出力スペクトルS2のピーク波長(目標値)も決まってくる。例えば、共振器光路長(設計値)を200nmにした場合のピーク波長(目標値)は470nmである。また、比視感度スペクトルのピーク波長は、明所視標準で555nmである。従って、本実施形態では、スペクトルが上記位置関係となる内部発光スペクトルS1を発現する発光材料を、例えば一例として上述した発光材料の中から選定し、その発光材料で発光層33を形成するようにする。すなわち、一例として上述した発光材料の中から所望のスペクトルを示す発光層を用いることができた。好ましくは、内部発光スペクトルS1のピーク波長が450nm〜480nmの範囲内である発光材料であって、且つ、共振器出力スペクトルS2のピーク波長が内部発光スペクトルS1のピーク波長に対して長波長側に位置するようにする。さらに、内部発光スペクトルS1の長波長側のスロープ形状が、比視感度スペクトルの短波長側のスロープの概ね逆数に比例する形状になっていることが好ましい。特に、青色(B)の場合は、内部発光スペクトルS1の長波長側の裾が急峻化して、共振器出力スペクトルS2のピーク波長がその急峻となっている領域に位置するのが好ましい。
【0030】
より好ましい例としては、図4及び図5に示すように、共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)における内部発光スペクトルS1の発光強度の変化率Rが−0.03[1/nm]以下、好ましくは−0.05[1/nm]以下となるように設定する。図4は、ピーク波長λS2が470nm(設計値)のときの前記発光強度の変化率Rと、膜厚変動に対する輝度変化率RL(%)の関係をシミュレーションした結果である。また、図5は、例えば発光層33の膜厚が設計値付近で増減した場合の、正面輝度の変化をシミュレーションした結果である。図5には、一例として、図4のプロット点の中の変化率Rが−0.017[1/nm],−0.034[1/nm],−0.054[1/nm]のときのシミュレーション結果を示す。
【0031】
なお、前記発光強度の変化率Rは、共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)における内部発光スペクトルS1の勾配を、波長(λS2)の発光強度で除したものであり、R[1/nm]=〔dE(λS2)/dλ〕/E(λS2)の計算式によって算出する。また、輝度変化率RL(%)は、NTSC色純度を満たす最適膜厚をd0としたときに、d0±2nmの膜厚ズレに対する輝度の変化率である。より詳しくは、輝度変化率RL[%]=〔d0±2nmにおける輝度最大〜最少の差〕/〔d0における輝度〕×100によって算出した値である。図4及び図5から分かるように、青色(B)の発光素子における発光強度の変化率Rは、輝度変動の抑制効果が発生し始めている−0.03[1/nm]以下とするのが好ましく、輝度変動を強く抑制することができている−0.05[1/nm]以下とするのがさらに好ましい。
【0032】
本実施形態では、共振器出力スペクトルS2のピーク波長λS2における内部発光スペクトルS1の発光強度の変化率Rが上記条件を満たしていることが好ましいが、変化率Rが上記条件を満たすことに加えて、或いは変化率Rが上記条件を満たすことに代えて、図6に示す条件を満たすように設定してもよい。すなわち、内部発光スペクトルS1の長波長側の裾において、内部発光スペクトルS1の発光強度の最大値の90%〜50%の範囲(図6の実線の範囲)にあたる波長の間(λ90〜λ50)に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長λS2が位置するように設定する。
【0033】
なお、上述した種々の条件を満たすためには、発光材料の選定による制御に限られず、例えば色純度が許容される範囲内において共振器出力スペクトルS2のピーク波長(目標値)を調節して上記関係となるようにしてもよい。共振器出力スペクトルS2のピーク波長(目標値)を調節は、有機層3の膜厚(設計値)を調節することによって行うことができる。さらには、発光材料の選定および有機層3の膜厚(設計値)の調節の両方によって上記条件を満たすようにしてもよい。
【0034】
共振器構造においては、色純度は比較的余裕のある設計が可能である。一方、青色(B)や赤色(R)の発光素子の輝度は、共振器出力スペクトルS2のピーク波長のシフトによって許容できない輝度変動となる場合がある。例えば、ミラー間距離に対応する膜厚(光路長に相当)が5nm程度(全体の素子膜厚の5%程度)変化すると、ピーク波長も5nm程度変化する場合がある。例えば青色発光素子の場合、ピーク波長の設計値を470nmとしたときに膜厚が5nm増加すると、シフトしたピーク波長(例えば475nm)における視感度が20%以上も変化し、大きな輝度変化ひいては画質低下(輝度ムラ)の原因となる。
【0035】
すなわち、正面方向の画質低下(輝度ムラ)を引き起こす原因が、共振器出力スペクトルS2のピーク波長のシフトと比視感度スペクトルとの関係にあることから、本実施形態では、内部発光スペクトルS1のピーク波長と、比視感度スペクトルのピーク波長(すなわち、明所視標準で555nm)との間に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長が位置するようにする。このようにすることで、製作誤差によって共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)が高視感度側にシフトする場合は発光出力が減少し、反対にピーク波長(λS2)が低視感度側にシフトする場合は発光出力が増加して、これにより正面方向の輝度変動を抑制することができるのである。実際にシミュレーションしたところ、青色(B)の場合は、共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)が±2nmの範囲内でシフトしたときの正面方向の輝度変動が概ね±5%以内であることを確認している。
【0036】
なお、図1に示した発光素子は、反射電極及び半透過電極によって第1及び第2の反射部材を構成しているが、これに限定されることはなく、電極とは別の反射膜を形成するようにしてもよい。この場合、電極とは別の反射膜の素子側の陽極及び陰極は、透明電極とするのが好ましい。
【0037】
(第2の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、青色(B)の発光素子に代えて、赤色(R)の発光素子を対象とした実施形態である。
【0038】
すなわち、赤色(R)の発光素子の場合、図7に示すように、内部発光スペクトルS1のピーク波長(λS1)と、比視感度スペクトルのピーク波長(すなわち、555nm)との間に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)が位置するようにする。
【0039】
既述したように、図1に示す構造の場合には、赤色(R)に好ましい共振器光路長とするための有機層3の積層膜厚(設計値)を決めているので、これに従い共振器出力スペクトルS2のピーク波長(目標値)も決まってくる。例えば、共振器光路長(設計値)を300nmにした場合のピーク波長(目標値)は620nmである。また、比視感度スペクトルのピーク波長は、明所視標準で555nmである。従って、本実施形態では、スペクトルが上記位置関係となる内部発光スペクトルS1を発現する発光材料を、例えば一例として上述した発光材料の中から選定し、その発光材料で発光層33を形成するようにする。好ましくは、内部発光スペクトルS1のピーク波長が600nm〜640nmの範囲内である発光材料であって、且つ、共振器出力スペクトルS2のピーク波長が内部発光スペクトルS1のピーク波長に対して短波長側に位置するようにする。さらに、内部発光スペクトルS1の短波長側のスロープ形状が、比視感度スペクトルの長波長側のスロープの概ね逆数に比例する形状になっていることが好ましい。特に、赤色(R)の場合は、内部発光スペクトルS1の短波長側の立ち上がりの裾の発光強度が急峻に変化する領域に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長が位置するのが好ましい。
【0040】
より好ましい例としては、図4及び図5のシミュレーション結果と同様の理由により、共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)における内部発光スペクトルS1の発光強度の変化率Rが+0.03[1/nm]以上、好ましくは+0.05[1/nm]以上となるように設定する。
【0041】
さらに、本実施形態では、共振器出力スペクトルS2のピーク波長λS2における内部発光スペクトルS1の発光強度の変化率Rが上記条件を満たしていることが好ましいが、変化率Rが上記条件を満たすことに加えて、或いは変化率Rが上記条件を満たすことに代えて、図8に示す条件を満たすように設定してもよい。すなわち、内部発光スペクトルS1の短波長側の裾において、内部発光スペクトルS1の発光強度の最大値の95%〜50%の範囲(図8の実線の範囲)にあたる波長の間(λ95〜λ50)に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長λS2が位置するように設定する。
【0042】
また、青色(B)の場合と同様に、上記条件を満たすためには、発光材料の選定によることに限られず、例えば色純度が許容される範囲内において共振器出力スペクトルS2のピーク波長(目標値)を調節して上記関係となるようにしてもよい。共振器出力スペクトルS2のピーク波長(目標値)を調節は、有機層3の膜厚(設計値)を調節することによって行うことができる。さらには、発光材料の選定および有機層3の膜厚(設計値)の調節の両方によって上記条件を満たすようにしてもよい。
【0043】
このように、赤色(R)の発光素子を対象とした場合であっても、内部発光スペクトルS1のピーク波長と、比視感度スペクトルのピーク波長(すなわち、明所視標準で555nm)との間に、共振器出力スペクトルS2のピーク波長が位置するようにすることで、製作誤差によって共振器出力スペクトルS2のピーク波長(λS2)が高視感度側にシフトする場合は発光出力が減少し、反対にピーク波長(λS2)が低視感度側にシフトする場合は発光出力が増加して、これにより正面方向の輝度変動を抑制することができる。実際にシミュレーションしたところ、図9に示すように、赤色(R)の場合は、共振器出力スペクトルS2のピーク波長が±2nmの範囲内でシフトしたときの正面方向の輝度変動が±5%以内であることを確認している。
【0044】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では青色(B)の発光素子を対象とし、第2の実施形態では赤色(R)の発光素子を対象とした。しかしながら、RGB発光素子の多数によって表示領域を形成する表示装置においては、第1及び第2の実施形態で説明した青色(B)及び赤色(R)の発光素子の両方を備えることができ、青色(B)及び赤色(R)の両方の輝度変動を抑制することができる。
【0045】
(第4の実施形態)
なお、第1〜第3の実施形態では、ホール注入層31の厚みを変えてRGBの共振器光路長を調整した一例を説明した。但し、これに限定されることはなく、図10に示すように、発光層33の厚みを変えてRGBの共振器光路長を調整するようにしてもよい。
【0046】
(第5の実施形態)
さらに、第1〜第4の実施形態では、トップエミッション構造の発光素子を一例に挙げて説明した。しかし、この構造に限定されることはなく、図11に示すように、ボトムエミッション構造であってもよい。図11は、図1の反射電極21を半透過電極とし、陰極4を反射電極とすることによって、ボトムエミッション構造とした例を示す。但し、図11の構造に限定されることはない。
【0047】
(第6の実施形態)
続いて、図1に示したRGB発光素子を製造する手順について、一例を説明する。
まず、例えば蒸着やスパッタ法などを用いて反射電極21、透明電極22を順に成膜する。これら電極21,22のパターニングは、例えばフォトリソグラフィー法によって行うことができる。次に、例えばフッ素成分を含有する感光性樹脂を基板1上に塗布し、乾燥させて成膜した後、例えばフォトリソグラフィー法によって図1に示すようなパターンを有する隔壁部5を形成する。例えばパッシブ型の場合は、電極21,22をストライプ状に形成した後、隔壁部5を形成する。一方、例えばアクティブ型の場合は、駆動回路毎に接続されたアイランド状に電極21,22を形成した後、隔壁部5を形成する。
【0048】
次に、ホール注入層32の液体材料を、例えばインクジェットノズルなどを用いて隔壁部5によって区画された領域内に塗布し、乾燥させて成膜する。ホール輸送層32、発光層33についても、同様に塗布法によって各素子毎に塗り分けて成膜する。膜厚は、例えば液体材料の塗布量によって調節することができる。次に、蒸着法を用いて電子輸送層34及び陰極4を順に形成する。陰極4のパターニングは、メタルマスクなどのマスクを用いるか、又は隔壁部5のバンク形状を利用して行うことができる。例えばパッシブ型の場合、陰極4をストライプ状にパターニングすることができる。一方、例えばアクティブ型の場合は、パターニングを行わずに、いわゆるベタ電極とすることができる。このような手順を通じて図1及び図2に示したRGB発光素子を製造することができる。
【0049】
以上のように、第1〜第6の実施形態によれば、共振器構造を有する発光素子において、内部発光スペクトルのピーク波長と、比視感度スペクトルのピーク波長との間に、共振器出力スペクトルのピーク波長が位置するようにすることにより、共振器光路長のバラツキに起因する輝度変動を抑制することができる。換言すると、膜厚が設計値から外れても、輝度変動が少ないので、ひいては膜厚バラツキをある程度許容することが可能となり、歩留まりの向上及び低コスト化を実現することができる。
【0050】
上記実施形態に従う技術は、有機薄膜発光素子の他、積層素子構造を有する無機薄膜発光素子(電場発光、発光ダイオード)に適用することができる。また発光素子を面上にアレイ化して配置した発光型表示装置に適用することができる。また、第1及び第2反射部材の両方から発光を取り出す構造であってもよい。さらに、RGBの三色に限定されることもなく、一色又は二色あるいは他の色を含んでいてもよい。
【0051】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反射部材と、第2反射部材と、前記第1反射部材および第2反射部材の間に配置される発光層を有し、前記第1反射部材と前記第2反射部材との間で共振される光の一部を前記第1反射部材又は前記第2反射部材で透過する共振器構造を備え、
前記共振器構造からの共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、前記発光層の内部発光スペクトルの最大値となる発光強度の90%〜50%の範囲に位置し、
前記内部発光スペクトルの最大値となる波長が、450nm〜480nmの範囲内にあることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、
前記内部発光スペクトルの最大値となる波長に対して長波長側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記共振器出力スペクトルの最大値となる波長における前記内部発光スペクトルの発光強度の変化率Rが−0.03以下であることを特徴とする請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記発光強度の変化率Rが−0.05以下であることを特徴とする請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記共振器出力スペクトルの最大値となる波長が±10nmの範囲内でシフトしたときの正面方向の輝度変動が±5%以内であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
第1反射部材と、第2反射部材と、前記第1反射部材および第2反射部材の間に配置される発光層を有し、前記第1反射部材と前記第2反射部材との間で共振される光の一部を前記第1反射部材又は前記第2反射部材で透過する共振器構造を備え、
前記共振器構造からの共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、前記発光層の内部発光スペクトルの最大値となる発光強度の95%〜50%の範囲に位置し、
前記内部発光スペクトルの最大値となる波長が、600nm〜640nmの範囲内にあることを特徴とする発光素子。
【請求項7】
前記共振器出力スペクトルの最大値となる波長が、
前記内部発光スペクトルの最大値となる波長に対して短波長側に位置していることを特徴とする請求項6に記載の発光素子。
【請求項8】
前記共振器出力スペクトルの最大値となる波長における前記内部発光スペクトルの発光強度の変化率Rが+0.03以上であることを特徴とする請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光強度の変化率Rが+0.05以上であることを特徴とする請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記共振器出力スペクトルの最大値となる波長が±5nmの範囲内でシフトしたときの正面方向の輝度変動が±10%以内であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−18939(P2012−18939A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233830(P2011−233830)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【分割の表示】特願2011−518078(P2011−518078)の分割
【原出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】