説明

発光素子

【課題】本願発明は、ディスク状の光共振器を備えた発光素子において、発光のメカニズムを解明することによって、新たな構造を提案してレーザ発振の可能な発光素子を実現することを目的とする。
【解決手段】本願発明は、基板上に積層されたディスク状の光共振器を備える発光素子であって、前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、前記コアは少なくともディスク外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、前記クラッドはディスク外周側の一部が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われていることを特徴とする発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、リング状の光共振器を利用して発光させる発光素子に関する。特に、半導体技術を利用したレーザ発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の半導体集積回路では、一層の高速信号処理が必要となり回路間の信号伝達にはレーザ発光素子が用いられるようになってきた。特に、半導体集積回路はSiやGeをベースとする半導体基板上で構成することのできるSiやGeのレーザ発光素子の実現への要望が強い。このため、Siナノ結晶を利用したり(特許文献1参照。)、Si基板上でSi導波路を利用して発光させようとする試みもなされている。
【0003】
しかし、いずれも、Si結晶からの自発発光が確認できる程度で、Si結晶を利用したレーザ発振には至っていない。
【特許文献1】特開2001−040348
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、リング状の光共振器を備えた発光素子において、発光のメカニズムを解明することによって、新たな構造を提案してレーザ発振の可能な発光素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、発明者らは、Siを導波路のコアとするリング状の光共振器を作製し、初めてレーザ発振を確認することができた。このような構造はSiをコア導波路とするリング状あるいはディスク状の光共振器のみならず、半導体をコア導波路とするリング状あるいはディスク状の光共振器に拡張できる。本願発明はレーザ発振の可能な発光素子の構造を提案するものである。
【0006】
具体的には、本願発明は、基板上に積層されたリング状の光共振器を備える発光素子であって、前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、前記コアは少なくともリング内周側及びリング外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、前記クラッドはリング内周側及びリング外周側の一部が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われていることを特徴とする発光素子である。
本願発明により、リング状の光共振器の半導体コアで発光したレーザ光がコアやクラッドから放射モードに変換されて放出される割合を低減することができる。
【0007】
本願他の発明は、前記クラッドはリング内周側及びリング外周側の空間又は前記透明体に接している部分の積層方向の厚さが、前記コアからのエバネッセント波の電界強度が前記コアと前記クラッドとの境界面での電解強度の1/e(eは自然対数)以下になる厚さであることを特徴とする発光素子である。
リング内周側及びリング外周側の空間又は透明体に接している部分のクラッドの厚さがエバネッセント波の電界強度が1/e以下になる程度であれば、コアからクラッドへ滲入したエバネッセント波が放射モードに変換される割合を十分に低減することができる。
【0008】
本願他の発明は、前記クラッドは前記基板面に平行な方向の幅が、前記コア側よりも前記コアの反対側の方が狭いことを特徴とする発光素子である。
コアからクラッドへのエバネッセント波の滲入を低減することができ、エバネッセント波が放射モードに変換されて損失となることを減少させることができる。
【0009】
本願他の発明は、基板上に積層されたリング状の光共振器を備える発光素子であって、
前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、前記コアは少なくともリング内周側及びリング外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、前記基板に平行な方向の幅が、前記基板の側よりも前記基板の反対側の方が広いことを特徴とする発光素子である。
本願他の発明により、コア内を伝搬している光がクラッドから離れた位置に偏るため、クラッドへのエバネッセント波の滲入を減少させることができる。
【0010】
本願他の発明は、前記コアは一部に有効屈折率の特異点を有することを特徴とする発光素子である。
コアに有効屈折率の特異点を持たせることにより、光の位相が揃い、コヒレントな発光が得られる。
【0011】
本願他の発明は、基板上に積層されたリング状の光共振器を備える発光素子であって、
前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、前記コアは少なくともリング内周側及びリング外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、一部に有効屈折率の特異点を有することを特徴とする発光素子である。
本願他の発明により、リング状の光共振器の半導体コアで発光したレーザ光がコアから放射モードに変換されて放出される割合を低減することができる。また、コアに有効屈折率の特異点を持たせることにより、光の位相が揃い、コヒレントな発光が得られる。
【0012】
本願他の発明は、前記有効屈折率の特異点は、前記コアのリング内周面に形成された溝であることを特徴とする発光素子である。
溝であれば容易に形成することができ、溝により光の位相が揃い、コヒレントな発光が得られる。
【0013】
本願他の発明は、前記有効屈折率の特異点は、前記コアのリング内周面に形成された凸部であることを特徴とする発光素子である。
凸部であれば容易に形成することができ、凸部により光の位相が揃い、コヒレントな発光が得られる。
【0014】
本願他の発明は、前記光共振器は入れ子構造のリング状の多重光共振器であることを特徴とする発光素子である。
複数のリングに共通の共振周波数で発振するため、発光する光の縦モードを減少させることができる。
【0015】
本願他の発明は、前記コアのリング内周部及びリング外周部の前記クラッド上に電荷を供給する電極をそれぞれ有することを特徴とする発光素子である。
コアに効率的に電荷を注入することができる。
【0016】
本願他の発明は、前記コアのリング内周部の前記クラッド上に電荷を供給する複数の電極を有することを特徴とする発光素子である。
コアへの電荷の注入を局在化させることにより、発光する光の縦モードを減少させることができる。
【0017】
本願他の発明は、基板上に積層されたディスク状の光共振器を備える発光素子であって、前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、前記コアは少なくともディスク外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、前記クラッドはディスク外周側の一部が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われていることを特徴とする発光素子である。
本願他の発明により、ディスク状の光共振器の半導体コアで発光したレーザ光がコアから放射モードに変換されて放出される割合を低減することができる。
【0018】
本願他の発明は、前記コアの前記基板と反対側の面と前記コアのディスク外周部の前記クラッド上に、電荷を供給する電極をそれぞれ有することを特徴とする発光素子である。
コアに効率的に電荷を注入することができる。
【0019】
本願他の発明は、前記基板上の前記光共振器の周囲に、前記光共振器から放射された出射光を前記基板の上面方向に反射する反射壁を有することを特徴とする発光素子である。
反射壁により光共振器から放射された出射光を基板の上面方向に反射することができる。
【0020】
本願他の発明は、前記反射壁は複数に分割されており、前記コアのリング外周円の接線方向に放射された出射光が前記分割された反射壁に入射角45度で入射し、入射した前記出射光が前記基板の上面直角方向に反射するような反射面を有することを特徴とする発光素子である。
反射壁により光共振器から放射された出射光を基板の上面直角方向に反射することができる。
【0021】
本願他の発明は、前記基板上の前記光共振器の周囲に、前記光共振器から放射された出射光を前記基板の上面方向に回折する回折格子を有することを特徴とする発光素子である。
回折格子により光共振器から放射された出射光を基板の上面方向に回折することができる。
【0022】
本願他の発明は、前記回折格子は複数に分割されており、前記コアのリング外周円の接線方向に放射された出射光が前記分割された回折格子の格子に対して直角に入射し、入射した前記出射光が前記基板の上面直角方向に回折するような格子配置であることを特徴とする発光素子である。
回折格子により光共振器から放射された出射光を基板の上面直角方向に回折することができる。
【0023】
本願他の発明は、前記光共振器にエバネッセント結合して入力光を前記光共振器に結合させる入力導波路を有することを特徴とする発光素子である。
平面光回路内で光共振器に入力光を入力することができる。
【0024】
本願他の発明は、前記光共振器にエバネッセント結合して前記光共振器から放射された出射光を結合させる出力導波路を有することを特徴とする発光素子である。
平面光回路内で光共振器から出力光を出射することができる。
【0025】
本願他の発明は、前記コアの材料は、Si、Ge又はSiとGeの混晶体を主体とする半導体であることを特徴とする発光素子である。
既存の半導体技術との整合性がよく、既存の半導体プロセスを利用することができる。
【0026】
本願他の発明は、基板上に、前記発光素子及び半導体回路を備えることを特徴とする半導体集積回路である。
本願他の発明により、発光素子と半導体回路を同一基板上に構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明の発光素子は、半導体をコアとする光共振器で容易にレーザ発振させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、具体的に実施形態を示して本願発明を詳細に説明するが、本願の発明は以下の記載に限定して解釈されない。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態は、基板上に積層されたリング状の光共振器を備える発光素子であって、光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと、コアに対して積層方向の基板側又はその反対側のうち少なくとも基板側に積層されたクラッドとを有し、コアは少なくともリング内周側及びリング外周側が空間又はクラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、クラッドはリング内周側及びリング外周側の一部が空間又はクラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われていることを特徴とする発光素子である。
【0030】
本実施の形態に係る発光素子の斜視図を図1(a)に、図1(a)の斜視図のA−B線を通る断面図を図1(b)に示す。31は基板、11は光を伝搬させる半導体からなるリング状のコア、21はコア11に対して積層方向の基板側に接するように積層されたリング状のクラッドである。コア11はリング内周側、リング外周側及びクラッド21と反対側の上面が空間である。コア11の上面にコア11よりも屈折率の低いクラッドが積層されていてもよい。クラッド21はコア11よりも屈折率が低く、コア内を伝搬する光の閉じ込め機能を有する。図1では、クラッド21はコア11に接するように積層されているが、クラッド21がコア内を伝搬する光の閉じ込め機能を発揮すれば、クラッド21とコア11の間に超格子層等の他の層が積層されてもよい。コア11に注入された正孔と電子が半導体からなるコア内で結合して光が発生する。コア11は空間又はクラッド21で囲まれているため、発生した光はコア11内を伝搬する。コア11のクラッド21と反対側の上面にコア11よりも屈折率の低いクラッドが積層されていても同様である。クラッド21は、図1に示すようにリング内周側及びリング外周側の全部が空間となっていてもよいし、一部が空間となっていてもよい。つまり、基板31上に積層されたクラッド層は、コア11の下部を除いて全部を除去してもよいし、クラッド層の上部だけを除去して作製してもよい。また、コア11の上面、リング外周側、リング内周側、及びクラッド21のリング外周側、リング内周側は、クラッド21よりも屈折率の低い透明体で覆われていてもよい。
【0031】
コア11の材料としては、例えば、Si、Ge又はSiとGeの混晶体を主体とする半導体が例示できる。クラッド21やコア11の上面に積層可能な材料はコア11の材料よりも屈折率が低くなければならない。コア11がSiの場合は、クラッド21の材料として、例えば、SiO、Si、SiON、SiCが例示できる。コア11がGeの場合は、クラッド21の材料として、例えば、SiGe、Si、SiO、Si、SiON、SiCが例示できる。コア11がSiとGeの混晶体の場合は、クラッド21の材料として、例えば、コアのSiGeよりもGeの比率の少ないSiGe、Si、SiO、Si、SiON、SiCが例示できる。透明体の材料はクラッド21の材料よりも屈折率が低くなければならない。クラッド21がSiの場合、透明体の材料として例えばSiOが例示できる。SiOの透明体はSiの表面再結合を抑制するパッシベーション膜であってもよい。以下の実施の形態で説明する光共振器のコア、クラッド及び透明体の材料でも同様である。
【0032】
基板31の材料としては、例えば、Si、SiGe、Ge、SiO、Si、SiON、SiCが例示できる。基板31の材料として半導体を使用してもよいし、絶縁体を使用してもよい。あるいは、Siの表面を酸化させてSiとSiOの二重構造を基板として使用してもよい。また、SiOの表面のコア11の下部になる一部を残して除去し、残ったSiOをクラッド21としてもよい。このような基板の材料は既存の半導体技術との整合がよく、既存の半導体集積回路の製造プロセスを利用することができる。また、同一の基板上に本願発明の発光素子と半導体回路を形成した半導体集積回路を作製することも容易となる。半導体回路とは、例えば、増幅回路、ディジタル論理回路、変復調回路等の電子回路をいう。以下の実施の形態で説明する発光素子の基板の材料でも同様である。
【0033】
(実施例)
本実施例の発光素子は図1に示すような基板31上のコア11とクラッド21をリング状の光共振器とした構造を持つ。基板31としてSi、コア11としてSi、クラッド21としてSiOを使用した。コア11及びクラッド21のリング外周側及びリング内周側並びにコア11の上面は空間とした。リングの半径は300nm、コアの幅は300nm、コアの厚さは340nmであった。この構造と外部から電子と正孔を注入する電極構造からなる。図1では、電極構造を省略している。基本動作を説明するためリング状の光共振器に局所的にこれら電荷を注入しその発光強度の波長依存性を測定した結果を図2に示す。図2において、上側がリング状の光共振器、下側が直線導波路での発光スペクトルである。リング状の光共振器では、発光スペクトルに鋭いピークが多数発生した。このピークは、リング内を伝搬する光が定在波状態を作り、その波長で発光強度が増強するパーセル効果が生じてレーザ発振したことを示すものである。さらに、上記発光素子にアルゴンレーザ光を励起光として注入した入出力特性の測定結果を図17に示す。図17において、励起光のレベルを増大させた場合、閾値に達すると、急激に発光強度が増大し、その後、直線的に増大した。この結果から、閾値付近から発光強度が増強するパーセル効果が生じてレーザ発振したことを示すものである。
【0034】
リング半径をr、リング状の光共振器の有効屈折率をneffとすると発光波長λは式(1)により表現できる。
λ=(2πr/m)・neff (1)
ここでmは伝搬モードの縦モード次数である。この時、リング状の光共振器の共振Q値をQ、体積をVとするとパーセル効果による増強係数FはQ/Vに比例するため、高いQ値と微小な体積Vの実現が増強に必要である。
【0035】
この増光の一般的な原理は知られていたが、Siをコアとする新たな構造のリング状の光共振器を提案することによって実験的にレーザ発振することを立証した。発光過程は以下のようである。Siコアに電子及び正孔を注入しつづけると、これら電荷の再結合による発光のうち、式(1)を満たす波長を持つ光は定在波としてリング状の光共振器のコア内を伝搬する。ここで、無限大のQ値を持つコアでは光の電界強度が時間と共に高まる。このとき、定在波状態をとる光の電界強度はコアの外の空間にもエバネッセント波として存在し、コアからの距離に応じて指数関数的に減少する。このため、コア内に蓄積された光の電界強度が高まれば、エバネッセント波の電界強度も高まる。このエバネッセント波の一部が放射モードに結合する結果、コアから空間に光が放出される。これは導光路曲げ損失と呼ばれる。この損失としてコアから空間に放出される光の強度は、コアに注入された電子及び正孔の再結合による発光強度と釣り合うとき、定常状態が形成される。実際には、リング状の光共振器はコア内での散乱、吸収等の散逸過程で減衰するため、有限のQ値を持つ。このため、常に電子及び正孔の再結合発光よりもコアから放射される光の強度は低くなる。散逸過程が同じ場合には発光の積分強度は同一であるが、発光のピーク強度は共振器のQ値が高いほど高い。
【0036】
コアからのエネルギーの散逸過程としては、
A.発光なしに注入電荷が再結合して消失する非発光再結合過程
B.注入発光のコア材料による光吸収
C.同じくコアの上面あるいは下面から抜ける自発発光
D.コア表面の凹凸によるコア内を伝搬する光の散乱
E.コア上面あるいは下面からクラッドにしみ出すエバネッセント波放射
F.導光路曲げ損失
などが主たる要因である。以下にそれぞれを極小にするリング状の光共振器の構造を説明する。ここで、注意すべきことは、リング状の光共振器は進行波型の共振器であり、定在波型の共振器と異なり、発光の位相をそろえる働きをそれ自体が持たない。このため、本質的に発光は非コヒレントである。コヒレントとするためには、後述するように構造上に特異点を導入することが有効である。ここでは、便宜上、コアの一部に電荷を注入し、それにより光の位相が整合することを利用し、散逸過程の極小化を行う。
【0037】
Aの非発光再結合を促進する要因はコア内およびコア表面に存在する欠陥である。リング状の光共振器を加工する際にドライエッチングなどによりコア材料である例えばSiに欠陥が導入される。表面の欠陥は未結合手が存在するため再結合欠陥として作用する。これらの欠陥を抑制するためには、加工後に高温の熱処理をしたり、表面の欠陥には酸化膜を形成することが有効である。Siを硫酸と過酸化水素水の混合液で洗浄するピラニア洗浄で表面を薄くエッチングし、その酸化膜をフッ酸により除去することで欠陥層がなくなる。この欠陥層とは別にドライエッチング時に加工側面に形成されるフッ素系の保護膜も再結合中心として作用するため、ピラニア洗浄及びフッ酸処理により除去することも有効である。
【0038】
Bの光吸収は発光が吸収の逆過程であることを考えれば、吸収のない材料では発光も起こらないので、完全に吸収のない材料をコアとして用いることはできない。一方、光共振器を形成するためには光がリングを一周し、一周した光と干渉することが前提となる。従って、リングを周回できない程、吸収係数の高い波長は対象にならない。言い換えれば、パーセル効果により増強できる波長は材料によって決まる。Siは、波長が1.0、1.1及び1.2μmの時、吸収係数は4.0e−4/cm、3.1e−5/cm、1.2e−6/cmとなる。強度が1/eになる距離はいずれも10m以上となる。従って、1.1μm以上の光は、周長が約15μmのコア内に定在波が生じるに十分なほど、Siは透明であることがわかる。一方、長波長側は吸収係数が低く、発光強度も弱くなるため、1.1μm程度にピークを持つことになる。図2に示すシャープなスペクトルピーク群が1.1μmに最大ピークを持つことはこのためである。
【0039】
SiにGeを添加したSiGe混晶は常に間接遷移半導体であり、バンド端近接の吸収係数はSiと同様に小さい。しかし、禁制帯は1.1μmから1.8μmまで混晶のGe組成とともに長波長化する。従って、特定の組成を用いることによりこの波長帯の発光素子を実現することができる。
【0040】
Cのコア11の上面あるいは下面から抜ける自発発光は原理的に抑制できない。コア11としてSiを用いると屈折率が高いため、内部全反射が効率よく起こる。このため空間となっているコア11の上面から抜ける光は所定の角度の円錐に入った光のみが、クラッド21に接する下面からはこれより大きい角度の光のみが損失となる。コア11の上面にもクラッドが積層されていれば、所定の角度は大きくなる。この自発発光成分は定在波を形成していないため、図2の直線導波路のような連続スペクトルを持つ波長成分である。
【0041】
Dの光の散乱を生じる凹凸については、コアの上面と下面は側面に比べると平坦性が高い。このため、本発明ではリング状の光共振器の加工時に生じる側面の凹凸を低減する構造を取り入れる。製作法にて具体的に示すが、上記で述べた湿式のエッチング法を適用することができる。電子線露光で使われる最小のパターン寸法から凹凸は2nm程度と考えられる。処理回数を増加することにより、発光ピーク強度が増すことがわかる。
【0042】
Eは、コアの上面あるいは下面からクラッドにしみ出したエバネッセント波成分が導光路曲げにより放射モードに結合することによる散逸である。特に、図1において、コア11にSi、クラッド21にSiOとすると、SiコアとSiOクラッド間の屈折率差は上面の空間とSiとの屈折率差に比して小さい。このため、下面のクラッド21にしみ出したエバネッセント波成分が放射モードに結合しないよう、リング状の光共振器の側面に沿ってクラッド21もエバネッセント波の到達深さまで空間となるよう加工して、クラッドのリング内周側及びリング外周側の一部を空間とする。リング内周側及びリング外周側のクラッド21の空間に接している部分の積層方向の厚さは、コア11からのエバネッセント波の電界強度がコア11とクラッド21との境界面での電解強度の1/e以下になる厚さが望ましい。この程度の厚さまでクラッド21のリング内周側及びリング外周側が空間に囲まれていると、エバネッセント波成分が放射モードに結合することを低減する効果が得られる。
【0043】
Fの曲げ損失はコアとコアの外周側の空間又は透明体との屈折率差の関数であり、リング半径を大きくすれば抑制できる。
【0044】
以上は、SiコアとSiOクラッドのリング状の光共振器を備える発光素子の実施例を説明したが、他の波長で発光するSiGeやGe等の半導体をコアとするリング状の光共振器を備える発光素子についてもSiO上に形成されている場合には同じ方針が成立する。
【0045】
次に、クラッド21の材料がSiの場合を説明する。SiクラッドはSiOクラッドと異なり、Siをコアとするリング状の光共振器には用いることができないが、SiGeあるいはGeのリング状の光共振器には用いることができる。言い換えれば、Siでなくとも屈折率がコア材料より低い組成のSiGe混晶はクラッドとして用いることができる。このクラッドのメリットは、半導体であるため電流を流すことができ、電極の形成が容易になることを挙げられる。
【0046】
(実施の形態2)
本実施の形態は、GeコアとSiクラッドの組み合わせたリング状の光共振器を備える発光素子である。GeコアとSiクラッドとの屈折率差が小さいことから、Cの自発発光した光がコアから抜けることによる損失が大きい。また、コアからクラッドへのエバネッセント波放射も大きい。Eのエバネッセント波放射による損失をクラッドのオーバエッチにより低減する。このような構造の発光素子の斜視図を図3(a)に、図3(a)の斜視図のA−B線を通る断面図を図3(b)に示す。クラッド22の基板面に平行な方向の幅がコア11側よりもコア11の反対側の方が狭い。このような構造とすることにより、コア11からクラッド22へのエバネッセント波の滲入を低減することができ、エバネッセント波の滲入自体が小さいため、エバネッセント波が放射モードに結合して損失となる曲げ損失を減少させることができる。図3(b)のT字状のクラッドであると伝搬モードが安定する。また、クラッド22の幅がコア11の側からコア11の反対側に向けて漸次低減する形状でもよい。このような構造は、GeコアとSiクラッドの組み合わせに限らず、前述したコア材料とクラッド材料の組み合わせにも適用することができる。Siクラッドの表面にSiOのパッシベーション膜を透明体として形成してもよい。また、基板31の上面がSiの場合はその表面にSiOのパッシベーション膜を形成してもよい。
【0047】
(実施の形態3)
本実施の形態に係る発光素子の斜視図を図4(a)に、図4(a)の斜視図のA−B線を通る断面図を図4(b)に示す。エバネッセント波のクラッドへの滲入を低減するには、図4に示すようなリング状の光共振器の構造でも有効である。基板32の上面はクラッド23となっている。クラッド23に接するようにリング状のコア13が積層されている。例えば、Si基板32とSiの上面を酸化させたSiOクラッド23の上面にSiコア13を積層する。Siコア13をエッチングする際に、オーバエッチすることにより、コア13は基板32に平行な方向の幅が基板32の側よりも基板32の反対側の方が広い。
【0048】
図4に示すように、コア13は基板32に平行な方向の幅が、基板32の側よりも基板32の反対側の方が広いと、コア13内を伝搬する光はクラッド23から離れた位置に偏るため、クラッド23へのエバネッセント波の滲入を減少させることができる。この結果、クラッド23内のエバネッセント波の滲入自体が小さいため、Eのエバネッセント波放射による損失を低減することができる。図4(b)のT字状のコアであると伝搬モードが安定する。また、コア13の幅が上面から基板32の側に向けて漸次低減する形状でもよい。
【0049】
図4では、クラッド23はエッチングで除去されていないが、クラッド23のリング内周側及びリング外周側の一部が空間となるよう、エッチングによりコア13の下面以外のクラッド23の一部又は全部を除去してもよい。クラッド23のリング内周側及びリング外周側の一部が空間となるようにコア13の下面以外のクラッド23の一部又は全部を除去すると、クラッド23に滲入したエバネッセント波が放射モードに結合して放出される割合を低減することができる。図4では、クラッド23はコア13に接するように積層されているが、クラッド23がコア内を伝搬する光の閉じ込め機能を発揮すれば、クラッド23とコア13の間に超格子層等の他の層が積層されてもよい。
【0050】
また、コア13の上面にクラッドを積層してもよい。Siコア13については、表面にSiOパッシベーション膜を透明体として形成してもよい。ここでは、SiコアとSiOクラッドの組み合わせで説明したが、前述したコア材料とクラッド材料の組み合わせにも適用することができる。
【0051】
(実施の形態4)
リング状の光共振器でコヒレント発光を得るため、実施の形態1〜3では局所的な電流注入を用いた。しかし、電荷の反転分布を形成しレーザ発振させるためには、吸収係数が高い方が有利である。このため、コア全面に電流注入をする場合でもコヒレント化が可能な構造を以下に説明する。基本はコアの少なくとも一カ所に有効屈折率の特異点を形成することである。
【0052】
例えば、コアのリング内周面の一部に縦溝を形成し、有効屈折率を他の部分より小さくすると、その部分がきっかけになってコヒレントな発光が得られる。図5に実施の形態1の光共振器のコアのリング内周面の一部に縦溝を形成した例を示す。本実施の形態に係る発光素子の斜視図を図5(a)に、図5(a)の斜視図のA−B線を通る断面図を図5(b)に示す。図5において、31は基板、14は光を伝搬させる半導体からなるコア、21はコア14に対して積層方向の基板側に積層されたクラッドである。コア14は、リング内周側、リング外周側及びクラッド21と反対側の上面が空間である。コア14の基板側はコア14よりも屈折率の低いクラッド21に接している。51は、コア14のリング内周面に形成された縦溝である。縦溝51の部分はコアの有効屈折率が小さくなり、有効屈折率の特異点により光の位相が揃い、コヒレントな発光が得られる。
【0053】
逆に、コアのリング内周面の一部に凸部を形成し、有効屈折率を他の部分より大きくすると、その部分がきっかけになってコヒレントな発光が得られる。図6に実施形態1の光共振器のコアのリング内周面の一部に縦凸部を形成した例を示す。図6において、31は基板、15は光を伝搬させる半導体からなるコア、21はコア15に対して積層方向の基板側に積層されたクラッドである。コア15は、リング内周側、リング外周側及びクラッド21と反対側の上面が空間である。コア15の基板側はコア15よりも屈折率の低いクラッド21に接している。52は、コア14のリング内周面に形成された縦凸部である。縦凸部52の部分はコアの有効屈折率が大きくなり、有効屈折率の特異点により光の位相が揃い、コヒレントな発光が得られる。
【0054】
図5、図6では、クラッド21はコアの下部にのみ存在するよう、コア14あるいは15の周辺のクラッド層が除去されているが、クラッド層を全面的に残しておいた場合にも、このような有効屈折率の特異点によりコヒレントな発光が得られる。
【0055】
本実施の形態ではコアのリング内周面に有効屈折率の特異点となるような細工をほどこしたが、コアのリング外周面に有効屈折率の特異点となるような細工をほどこしてもよい。
【0056】
実施の形態2〜3についてもコヒレントな発光を得るために、このような有効屈折率の特異点を施す細工は有効である。
【0057】
このように有効屈折率の特異点を偶数箇所に形成すると偶数モードのみが励起され、奇数箇所に形成すると奇数モードのみが励起され、モード数が減少するため、電荷の光発生への寄与が向上する。精密な計算により有効屈折率の特異点の数と配置を設計すると、リング状の光共振器に発生する縦モードを一つにすることも可能である。
【0058】
(実施の形態5)
リング状の光共振器に発生する縦モードを減少させるのに、入れ子構造のリング状の多重光共振器も有効である。例えば、図7に入れ子構造のリング状の多重光共振器を備える発光素子の例を示す。本実施の形態に係るリング状の二重光共振器を備える発光素子の斜視図を図7(a)に、図7(a)の斜視図のA−B線を通る断面図を図7(b)に示す。図7において、リング状の二重光共振器の外側の光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコア11とコア11に対して積層方向の基板31側又はその反対側のうち少なくとも基板31側に積層されたクラッド21とを有し、二重光共振器の内側の光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコア16とコア16に対して積層方向の基板31側又はその反対側のうち少なくとも基板31側に積層されたクラッド26とを有する。コア11、16はリング内周側及びリング外周側が空間であり、クラッド21、26はリング内周側及びリング外周側の全部が空間となっている。クラッド21、26はリング内周側及びリング外周側の一部が空間となっていてもよい。コア11、16の基板31と反対側の上面に、コア11、16よりも屈折率の低いクラッドが積層されていても同様である。
【0059】
また、実施の形態1〜4で説明した光共振器を入れ子構造の多重光共振器としてもよい。リング状の多重光共振器では、複数のリングに共通の共振周波数で発振するため、リング状の光共振器で発生する縦モードを減少させることができる。
【0060】
(実施の形態6)
リング状の光共振器を構成するコアに効率的に電荷を注入するために、出来る限りコアに接する面を広くとれるような電極を構成することが望ましい。
【0061】
例えば、図8に電極を備える発光素子の例を示す。電極を備える発光素子の平面図を図8(a)に、図8(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図8(b)に示す。図8において、基板31上にリング内周側及びリング外周側が空間となったクラッド21が積層され、クラッド21上にコア11、外周電極41及び内周電極42が形成されている。
【0062】
コア11に電荷を効率的に注入するため、クラッド21はSiO等の不導体が好ましい。コア11の両側の外周電極41及び内周電極42からコア11に電荷が注入されるため、コア11内で正孔と電子が最短走行距離で結合して発光する。
【0063】
電極の構造を工夫すると、コアへの電荷注入を局在化することにより、発光の均一性がくずれ、コヒレントな発光が得られる。
【0064】
例えば、図9に電極を備える発光素子の例を示す。電極を備える発光素子の平面図を図9(a)に、図9(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図9(b)に示す。図9において、基板31上にリング内周側及びリング外周側が空間となったクラッド21が積層され、クラッド21上にコア11、クラッド21上のコア11のリング内周側に第一電極43及び第二電極44が形成されている。
【0065】
第一電極43と第二電極44から電荷が注入されるため、電荷が局在化され、偶数モードのみが励起され、モード数が減少して、電荷の光発生への寄与が向上する。ここでは、2つの電極に分割したが、例えば、電極をn分割すると、n次とその高次モードが励起される。複数電極に分割すると、モード数がさらに減少するため、電荷の光発生への寄与が一層向上する。
【0066】
(実施の形態7)
発光素子のリング状の光共振器をディスク状の光共振器に替えた場合にも、これまで説明したと同様の発光素子を構成することができる。例えば、図10にディスク状の光共振器を有する発光素子の例を示す。本実施の形態に係る発光素子の斜視図を図10(a)に、図10(a)の斜視図のA−B線を通る断面図を図10(b)に示す。基板31上にディスク状のクラッド27とディスク状のコア17が積層されている。クラッド27及びコア17のディスク外周面は空間に接している。図10ではコア17の上面は空間であるが、コア17の上面にさらにコア17よりも屈折率の低いクラッドが積層されていてもよい。
【0067】
コア17の外周面が空間に接していると、コア17内で発生した光の閉じ込め効果が得られる。また、クラッド27の外周面が空間に接していると、コア17から滲入したエバネッセント波が放射モードに変換されて放出される割合を低減することができる。
【0068】
図11に電極を備えたディスク状の光共振器を有する発光素子の例を示す。電極を備える発光素子の平面図を図11(a)に、図11(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図11(b)に示す。基板31上にディスク状のクラッド27とディスク状のコア17が積層されている。クラッド27及びコア17のリング外周面は空間に接している。コア17の上面に上部電極45、コア17の外周側面側に下部電極46を備え、上部電極45及び下部電極46から電荷が注入される。
【0069】
クラッド27がSiO等の不導体であれば、図11の構造が好ましいが、クラッド27を半導体で構成する場合は、クラッド27を下部電極としてもよい。
【0070】
ディスク状の光共振器の場合には、Whispering Galleryモードが生じるため、図2で説明した発光スペクトラムよりも多くの発光ピークが生じる。発光ピークが多くなると注入した電荷の不要なモードでの再結合の確率が増す問題が生じるが、コアのリング外周面に有効屈折率の特異点となるような、複数の縦溝や縦凸部を形成することによって、縦モードの数を減少させると有効である。
【0071】
あるいは電極を分割して、発生する縦モードを減少させてもよい。例えば、図11において、下部電極46を廃して、上部電極45を複数に分割したり、逆に上部電極45を廃して、下部電極46を複数に分割したりすることによって縦モードを減少させることができる。例えば、電極をn分割すると、n次とその高次モードが励起される。
【0072】
(実施の形態8)
リング状の光共振器を有する発光素子のレーザ発振はリングのコア内で生じるため、コアから出射する光は、リングの接線方向に放射される。垂直出射素子では、この放射された光を基板の上面方向に出射する構造が必要である。
【0073】
図12に反射壁を備える発光素子の例を示す。本実施の形態に係る反射壁を備える発光素子の平面図を図12(a)に、図12(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図12(b)に示す。光共振器の構成は実施の形態1〜7で説明したものでよい。例えば、図12に示すように、基板31上にリング状のクラッド21とコア11が積層されている。クラッド21及びコア11の外周面は空間に接している。光共振器の外周外側に反射壁61を備え、光共振器から放射された出射光を基板31の上面方向に反射する。
【0074】
反射壁61はエッチングにより形成することができる。エッチングは垂直エッチングではなく、等方性のエッチングを用いることによって45度の角度を持たせることができる。
【0075】
リング状の光共振器から出射する光は、リングの接線方向に放射される。光共振器と反射壁61が近い場合は、放射された出射光が基板31の上面直角方向に反射されず、斜め方向に反射される。そのため、反射壁61は光共振器から離れていることが望ましい。例えば、光共振器の接線と反射壁61を形づくる外周円の中心線とのなす角度が10度以下である。
【0076】
リング状の光共振器からの出射光は、リングの外周円の接線方向に放射される。接線方向に放射された出射光を基板の上面直角方向に反射するためには、反射壁を分割することが望ましい。図13にリング状の光共振器と分割された反射壁を備える発光素子の例を示す。本実施の形態に係る反射壁を備える発光素子の平面図を図13(a)に、図13(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図13(b)に示す。光共振器の構成は実施の形態1〜7で説明したものでよい。例えば、図13に示すように、基板31上にリング状のクラッド21とコア11が積層されている。クラッド21及びコア11の外周面は空間に接している。光共振器のリング外側に反射壁62を備え、光共振器から放射された出射光を基板31の上面方向に反射する。反射壁62と基板31との交線はコア11の外周面の接線に対して直角になるような曲線で構成されている。さらに、反射壁62は光共振器からの出射光に対して、常に基板の上面直角方向に反射するように構成されている。このような構成の発光素子は、放射された出射光が基板31の上面直角方向に反射される。
【0077】
図14に回折格子を備える発光素子の例を示す。本実施の形態に係る回折格子を備える発光素子の平面図を図14(a)に、図14(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図14(b)に示す。光共振器の構成は実施の形態1〜7で説明したものでよい。例えば、図14に示すように、基板31上にリング状のクラッド21とコア11が積層されている。クラッド21及びコア11の外周面は空間に接している。光共振器のリング外側に回折格子63を備え、光共振器から放射された出射光を基板31の上面方向に回折させる。
【0078】
出射光の波長をλとすると、回折格子63は光共振器からの出射光の進行方向に対して、λ/4の周期を持たせればよい。
【0079】
リング状の光共振器からの出射光は、リングの接線方向に放射される。光共振器と回折格子63が近い場合は、放射された出射光が基板31の上面直角方向に回折されず、斜め方向に回折される。そのため、回折格子63は光共振器から離れていることが望ましい。例えば、光共振器の接線と回折格子63を形づくる外周円の中心線とのなす角度が10度以下である。
【0080】
リング状の光共振器からの出射光は、リングの外周円の接線方向に放射される。接線方向に放射された出射光を基板の上面直角方向に回折するためには、回折格子を分割することが望ましい。図15にリング状の光共振器と分割された回折格子を備える発光素子の例を示す。本実施の形態に係る回折格子を備える発光素子の平面図を図15(a)に、図15(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図15(b)に示す。光共振器の構成は実施の形態1〜7で説明したものでよい。例えば、図15に示すように、基板31上にリング状のクラッド21とコア11が積層されている。クラッド21及びコア11の外周面は空間に接している。光共振器のリング外側に回折格子64を備え、光共振器から放射された出射光を基板31の上面方向に回折させる。回折格子64はコア11の外周面の接線に対して直角になるような曲線で構成されている。出射光の波長をλとすると、回折格子64は光共振器からの出射光の進行方向に対して、常にλ/4の周期とすることができる。このような構成の発光素子は、放射された出射光が基板31の上面直角方向に回折される。
【0081】
放射された光を基板の上面方向に出射する構造の垂直出射発光素子では、同一の基板上に本願発明の発光素子と半導体回路を形成した半導体集積回路を作製することも容易となる。
【0082】
(実施の形態9)
リング状の光共振器を有する発光素子の共振はリングのコア内で生じるため、リングからの出射光は、リングの接線方向に放射される。平面光回路では、この放射された出射光を基板面上で出力したり、基板面上で導波された入力光をリング状の共振器に結合する構造が必要である。
【0083】
図16に入力導波路及び出力導波路を備えた発光素子の例を示す。本実施の形態に係る入力導波路及び出力導波路を備える発光素子の斜視図を図16(a)に、図16(a)の平面図のA−B線を通る断面図を図16(b)に示す。光共振器の構成は実施の形態1〜7で説明したものでよい。例えば、図16に示すように、基板31上にリング状のクラッド21とコア11が積層されている。クラッド21及びコア11のリング外周面は空間に接している。
【0084】
光共振器のリング外側にコア71とクラッド72とからなる入力導波路を備え、入力導波路からの入力光を光共振器にエバネッセント結合させる。光共振器のリング外側にコア73とクラッド74とからなる出力導波路を備え、光共振器から放射された出射光を出力導波路にエバネッセント結合させる。入力導波路の入力光の向き、光共振器の伝搬する光の向き、出力導波路の出射光の向きは図16に示すように、それぞれが結合できる向きである。例えば、入力導波路から図16の矢印の方向に光を入力し、光共振器を光増幅器として機能させることもできる。この場合、図16の光共振器では矢印の方向に光が増幅されることになる。
【0085】
ここでは、入力導波路と出力導波路の両方を備えているが、光共振器に入力するだけであれば入力導波路だけ、光共振器から出力するだけであれば出力導波路だけを備えてもよい。
【0086】
放射された光を基板上の導波路で入射したり出射したりする平面光回路を有する発光素子では、同一の基板上に本願発明の発光素子と半導体回路を形成した半導体集積回路を作製することも容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の発光素子はレーザ発振させることができるため、半導体集積回路で発光や増幅の機能を有する素子として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図2】本実施例に係る発光素子のスペクトラム例である。
【図3】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図4】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図5】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図6】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図7】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図8】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図9】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図10】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図11】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図12】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図13】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図14】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図15】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図16】本実施形態に係る発光素子の外観図である。
【図17】本実施例に係る発光素子の入出力特性例である。
【符号の説明】
【0089】
11、13、14、15、16、17:コア
21、22、23、26、27:クラッド
31、32:基板
51:縦溝
52:縦凸部
41:外周電極
42:内周電極
43:第一電極
44:第二電極
45:上部電極
46:下部電極
61、62:反射壁
63、64:回折格子
71、73:コア
72、74クラッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に積層されたディスク状の光共振器を備える発光素子であって、
前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、
前記コアは少なくともディスク外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、
前記クラッドはディスク外周側の一部が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記クラッドはディスク外周側の空間又は前記透明体に接している部分の積層方向の厚さが、前記コアからのエバネッセント波の電界強度が前記コアと前記クラッドとの境界面での電解強度の1/e(eは自然対数)以下になる厚さであることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記クラッドは前記基板面に平行な方向の幅が、前記コア側よりも前記コアの反対側の方が狭いことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
基板上に積層されたディスク状の光共振器を備える発光素子であって、
前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、
前記コアは少なくともディスク外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、前記基板に平行な方向の幅が、前記基板の側よりも前記基板の反対側の方が広いことを特徴とする発光素子。
【請求項5】
前記コアはディスク外周面に有効屈折率の特異点を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
基板上に積層されたディスク状の光共振器を備える発光素子であって、
前記光共振器は光を伝搬させる半導体からなるコアと前記コアに対して積層方向の前記基板側又はその反対側のうち少なくとも前記基板側に積層されたクラッドとを有し、
前記コアは少なくともディスク外周側が空間又は前記クラッドよりも屈折率の低い透明体で覆われており、ディスク外周面に有効屈折率の特異点を有することを特徴とする発光素子。
【請求項7】
前記有効屈折率の特異点は、前記コアのディスク外周面に形成された溝であることを特徴とする請求項5又は6に記載の発光素子。
【請求項8】
前記有効屈折率の特異点は、前記コアのディスク外周面に形成された凸部であることを特徴とする請求項5又は6に記載の発光素子。
【請求項9】
前記コアの前記基板と反対側の面と前記コアのディスク外周部の前記クラッド上に、電荷を供給する電極をそれぞれ有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項10】
前記電極は複数に分割されていることを特徴とする請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
前記基板上の前記光共振器の周囲に、前記光共振器から放射された出射光を前記基板の上面方向に反射する反射壁を有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の発光素子。
【請求項12】
前記反射壁は複数に分割されており、前記コアのディスク外周円の接線方向に放射された出射光が前記分割された反射壁に入射角45度で入射し、入射した前記出射光が前記基板の上面直角方向に反射するような反射面を有することを特徴とする請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
前記基板上の前記光共振器の周囲に、前記光共振器から放射された出射光を前記基板の上面方向に回折する回折格子を有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の発光素子。
【請求項14】
前記回折格子は複数に分割されており、前記コアのディスク外周円の接線方向に放射された出射光が前記分割された回折格子の格子に対して直角に入射し、入射した前記出射光が前記基板の上面直角方向に回折するような格子配置であることを特徴とする請求項13に記載の発光素子。
【請求項15】
前記光共振器にエバネッセント結合して入力光を前記光共振器に結合させる入力導波路を有することを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の発光素子。
【請求項16】
前記光共振器にエバネッセント結合して前記光共振器から放射された出射光を結合させる出力導波路を有することを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の発光素子。
【請求項17】
前記コアの材料は、Si、Ge又はSiとGeの混晶体を主体とする半導体であることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の発光素子。
【請求項18】
基板上に、請求項1から17のいずれかに記載の発光素子及び半導体回路を備えることを特徴とする半導体集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−42192(P2013−42192A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−263451(P2012−263451)
【出願日】平成24年11月30日(2012.11.30)
【分割の表示】特願2007−241408(P2007−241408)の分割
【原出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】