説明

発光色可変な有機発光素子

【課題】光学デバイスの製造に使用可能な有機発光材料の発光色を所望の波長に制御するための簡便な方法、および、同一基板上に複数の異なる発光色領域を有する有機発光材料の薄膜を作成するための簡便な方法の提供。
【解決手段】大気成分との接触下で有機発光材料に光を照射することにより有機発光材料の発光色を制御する方法。更に、光照射後に有機発光材料を大気成分から遮断すること更を含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光材料の発光色および/または吸光色を制御する方法、並びに該方法によって発光色/吸光色が制御された有機発光材料および有機発光素子に関する。また、本発明は、該制御方法を利用した有機発光材料膜上へのパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光材料は、エレクトロルミネッセンス、フォトルミネッセンスなどの発光特性に応じて、電解発光型素子(EL素子)、光−光変換型素子などの発光素子の材料として、表示装置、照明装置などに幅広く利用されている。
【0003】
光学素子の材料として使用される有機発光材料は、通常、基板上で薄膜に加工成形される。従来の有機発光物質の基板上への成膜方法は、おおよそ(1)真空蒸着法、(2)塗布法、(3)インクジェット法などに大別される。高分子ではない発光物質(例えば、色素分子、低重合度のオリゴマーを含む;低分子発光物質とも称する)を用いる場合には、蒸着法により成膜を行う方法が一般的に利用されてきた。他方、高分子の発光物質(高分子発光物質とも称する)を用いる場合には、発光物質を含む溶液を塗布することにより成膜が行われてきた。
【0004】
従来の成膜方法では、同一基板上に複数の発光色領域を有する薄膜を作成する場合、あらかじめ発光色の異なる複数種類の有機発光物質を準備し、各領域ごとに塗り分けるプロセスが採用されていた。例えば、カラーディスプレーの画素の作製では、複数の異なる発光区画を設けることが必要となるが、低分子の発光材料を用いる場合には、真空蒸着によって金属マスクを使用して、各区画に発光色の異なる原料物質を選択的に成膜し、あるいは、選択的に成膜しないことにより、原料物質を塗り分けていた。他方、高分子を使用する場合には、インクジェット法により各発光区画に選択的に別々の高分子材料を成膜するか、もしくは選択的に成膜しないことによって塗り分けていた。しかし、このような成膜方法では、発光色の数の増加に伴い成膜工程数も増加することになるため、製造プロセス全体が複雑化するという難点があった。
【0005】
ところで、有機発光物質の中には、分子集合状態の変化や他の多孔性材料との組み合わせによって、発光色(スペクトル)を変化させるものが存在することが報告されている。例えば、T.P.Nguyenらは、多孔性のアルミナ基板上に作成した有機発光材料[ポリ(2−メトキシー5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−フェニレン ビニレン)(以下、MEH−PPVと略記する)]の薄膜に関して、アルミナの細孔サイズとフォトルミネッセンス(PL)スペクトルのピーク波長との間の相関関係について報告を行っている(T.P.Nguyen,et al., Composites: Part A 36(2005)515-519)。しかし、これまでの報告の中には有機発光材料の発光色を異なる色に変化させる簡便な手段を見出すことはできなかった。
【0006】
また、J.A.DeAroらは、酸素雰囲気下でMEH−PPV膜上にアルゴンイオンレーザーを照射すると、照射部分の光酸化によって膜上にパターンが形成されることを走査近接場光学顕微鏡によって確認している(J.A.DeAro, et al., Synthetic Metals, 102(1999), 865-868)。この報告によれば、パターンニングは光照射された有機材料の劣化に起因し、単色パターンしか形成できないことになる。
【0007】
【非特許文献1】T.P.Nguyen,et al., Composites: Part A 36(2005), 515-519
【非特許文献2】J.A.DeAro, et al., Synthetic Metals, 102(1999), 865-868
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明は、光学デバイスの製造に使用可能な有機発光材料の発光色を制御するための簡便な方法を提供することを目的とする。また、本発明は、同一基板上に複数の異なる発光色領域を有する有機発光材料の薄膜を作成するための簡便な方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、有機発光材料は大気雰囲気下で光照射を受けると短時間のうちに光酸化を受けて劣化し、使用に適さなくなると認識されていた。しかし、出願人らは、有機発光材料が大気雰囲気下での光照射によっても劣化することなく、しかも発光色を変化させながら安定に連続発光するという現象を見出した。
【0010】
出願人は、上記知見に基づき、大気雰囲気下で有機発光材料に光を照射することにより有機発光材料の発光スペクトルおよび/また吸光スペクトルの形状を変化させることを特徴とする、有機発光材料の発光色および/または吸光色の制御方法を完成させた。さらに、本発明の発光色/吸光色制御方法は、光照射後に有機発光材料を大気成分から遮断する工程を更に含み得るものである。
【0011】
本発明の方法によれば、例えば、特定波長の光を特定強度に調節して有機発光材料に照射し、その照射時間(すなわち照射量)を変更するだけで、同一材料を使用して所望の発光色および/または吸光色を簡便に作り出すことが可能となる。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記方法により発光色を制御して得られた有機発光材料をも包含する。さらに、本発明の別の態様は、上記方法により得られた有機発光材料を基板上に形成して得られる有機発光素子を包含する。加えて、本発明の別の態様は、上記方法により得られた有機発光素子を含む有機電解発光素子、蛍光表示装置用の発光素子および光−光変換型素子を包含する。
【0013】
他方、本発明は、有機発光材料膜の光の非照射部分と照射部分とで有機発光材料の発光色および/または吸光色を異ならせて、該有機発光材料膜上にパターンを形成する方法に関する。すなわち、該パターン形成方法は(a)有機発光材料を基板上に成膜する工程、(b)該有機発光材料を大気雰囲気下に置く工程、(c)パターンが描かれたフォトマスクを膜上に設置する工程、(d)有機発光材料の膜のマスクされていない部分にのみ光を照射する工程、(e)光照射後に上記フォトマスクを取り除く工程、および(f)有機発光材料を大気成分から遮断する工程を含む方法である。本発明の更なる態様は、上記パターン形成方法によりパターンを形成された有機材料膜表面を含む有機発光素子を包含する。
[発明の実施の形態]
【0014】
本明細書中に使用される「発光色」および「吸光色」という用語は、視覚によって認識される色調のみならず、可視波長領域の発光・吸収スペクトル自体をも意味するものとする。したがって、「発光色」および「吸光色」は、具体的には分光学的測定によって得られたスペクトルの形状ないしはピーク波長によって特徴づけられる。
【0015】
本明細書中の「発光色の制御」という用語は、発光色を所望の異なる色に変化させることを意味し、より具体的には発光スペクトルに所望の形状変化ないしピークシフトを生ぜしめることを意味する。
【0016】
本明細書中の「吸光色の制御」という用語は、吸光色を所望の異なる色に変化させることを意味し、より具体的には吸光スペクトルに所望の形状変化ないしピークシフトを生ぜしめることを意味する。
【0017】
本発明に使用可能な有機発光材料は蛍光性有機化合物全般を意味し、高分子化合物および低分子化合物のいずれも含まれる。該有機材料には、使用時にドーパント色素を添加して使用されるものも含まれる。
高分子系材料となる化合物は、特に限定するわけではないが、典型的には、以下の化合物系に属する化合物であり、基本構造からの誘導体も包含される:ポリフェニレン系、ポリフェニレンビニレン系、ポリアニリン系、ポリアセチレン系、ポリアセン系、ポリチアジル系、ポリアリレンエチニレン系、ポリフルオレン系、およびポリマー鎖中の5員環の構成原子の中の1個が窒素、酸素、硫黄、セレンなどで置換されたヘテロアロマティック系(例えば、ポリピロール系、ポリフラン系、ポリセレノフェン系、ポリチオフェン系)のポリマー;ならびに上記系の中のいずれか2つ以上を構成単位として含むコポリマー。
また、低分子化合物としては、特に限定するものではないが、たとえば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキシジアゾール誘導体、キノリン誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン誘導体、ピリジン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、フマニルアミン誘導体、ピラリゾン誘導体、アントラセン誘導体、フェナンスレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ジフェニルベンジジン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、テトラシアノエチレン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ジフェニルヒドラゾン誘導体、テトラチアフルバレン誘導体、ジアミノナフタレン誘導体、テトラメチルベンジジン誘導体、クロラニル誘導体などが挙げられる。
【0018】
本願発明に好ましく使用される有機発光材料は、ポリフェニレンビニレン(PPV)系ポリマーであり、更に好ましくは、ポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルへキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン](以下、MEH−CN−PPVと略記する)などのCNPPV誘導体である。
【0019】
本発明の有機発光材料は、光照射時に大気成分との接触が完全に遮断されることがない限りは、光照射前にいかなる形態に加工ないし成形されていてもよい。
例えば、材料は光照射前にあらかじめ基板上に成膜されていてもよい。成膜方法は、有機発光材料に通常採用されるいずれの方法でもよく、特に限定するわけではないが、例えば加熱蒸着、真空蒸着、電子線蒸着などの蒸着法、スピンコート法、キャスト法などの塗布方法、インクジェット法、グラビア印刷のような印刷技術を応用した成膜方法などである。膜厚は光が透過することが可能な厚さに調節されていることが好ましいが、材料の発光色/吸光色の変化は光照射の強度と時間に依存するから、膜厚に特に制限を設ける必要はない。有機材料の用途に応じて、通常1nm〜10μm程度の膜厚での実施が可能であるが、膜厚が10μmを上回る場合でも照射強度が十分に強く、および/または照射時間が十分に長ければ、本発明方法の適用は可能である。
【0020】
また、基板上に成膜しない場合には、有機発光材料を粉末状態のまま使用することも可能である。さらに、光の透過が可能な任意のマトリクス中に分散させて使用してもよい。マトリクス中に大気成分が含有されている場合には、有機材料成分はマトリックス表面に限らず、内部に分散された状態で存在してもよい。マトリックスは、樹脂のような有機物マトリクスまたはガラス若しくはシリカ、アルミナなどのメゾポーラス材料を含む無機材料でもよい。
本願明細書に使用される「大気成分」という用語は、大気を構成する各気体成分を意味し、特定成分に限定はしないが、例えば、酸素、水、二酸化炭素などである。また、本明細書中、「大気雰囲気下に置く」とは、有機材料を上記大気成分と継続的に接触を保った状態に置くことをいう。
【0021】
本発明に利用される光の波長は、有機発光材料の発光色および/または吸光色を変化させるものであればよく、具体的には赤外〜可視〜紫外の幅広い波長領域から当該材料に良好に吸収され得る限り、任意の波長を選択してよい。
【0022】
本発明において、光の照射時間は所望の発光色が得られるように任意に設定可能であるが、膜厚が一定の場合、照射される光の強度によってピークのシフト速度は可変であることから、照射時間は照射光強度との相関により決定されると考えるべきである。具体的には、本発明で典型的な膜厚(1nm〜10μm)を採用した場合に、本発明の実施に好適な照射強度は約0.1μW〜約100mW、特に好ましくは約1μW〜約30mWであり、好適な照射時間は約1秒〜約10日、より好ましくは約2秒〜約3日である。
【0023】
本発明の方法は、光照射後に有機発光材料を大気成分から遮断することを更に含んでよい。この工程は、有機発光材料の発光色を長時間安定化させるために有効である。すなわち、有機発光材料は、大気成分との接触が遮断されない間は、通常の室内用蛍光灯に由来する紫外線によっても発光色を変化させ続ける傾向がある。また、有機発光材料の中には大気中の酸素、水蒸気により酸化されやすい化合物も存在する。そこで、材料の発光色を安定化させ、また酸化を防止する場合や、厳密な発光色の制御を望む場合には当該工程を追加することが好ましい。具体的には、有機材料の周囲の雰囲気から大気成分を除去すること、特に限定するわけではないが、例えば有機発光材料を減圧ないし真空状態下におくなどの方法がある。この減圧状態は、通常、市販のロータリー真空ポンプで排気して作り出すことできる程度のもので足り、好ましくは100Pa未満、より好ましくは10Pa未満、最も好ましくは1Pa未満である。
【0024】
本発明では大気成分の除去を、有機発光素子の製造プロセスで通常採用される封止処理の一工程として、または封止工程と一連の作業として行ってもよい。封止処理は有機発光素子を大気成分から保護するために封止材料からなる封止管や封止膜で有機発光材料を、必要に応じて、吸湿剤および/または脱酸素剤とともに閉じ込める操作であり、長期間安定に有機発光材料を保持することが可能となる。
【0025】
また、光照射前に有機発光材料を取り扱う際(例えば、成膜などの加工・成形工程)は、同様に大気成分に起因する有機発光材料の劣化や、その後の発光色制御に対する悪影響を避けるために、必要に応じて、大気雰囲気中であれば遮光下で、さらに好ましくは、遮光下で且つ大気成分を除去した雰囲気下で操作を行う。具体的な遮光方法としては、特に限定するわけではないが、例えば、室内用蛍光灯からの紫外線の影響を除去したイエロールームの利用が挙げられる。
【0026】
本発明の一態様は、上記方法によって発光色を制御して得られた有機発光材料を、更に異なる発光色を示す一種以上の有機発光材料と混合して得られる有機発光材料を包含する。こうして得られる材料は、複数の発光色成分の混合によって当該成分に固有の発光色とは異なる発光色を示し得るため、新規な発光素子の開発・製造に役立つ。
【0027】
有機発光材料は、光照射後に、所望の用途に応じて、基板上に前述した成膜方法により、有機薄膜ないし有機層に成形し、有機発光素子を製造することが可能である。
本発明に使用される基板は、膜状ないし層状の有機材料をその表面上に安定に保持できる支持体であって、その形状は有機発光素子の用途に応じて、2次元に限らず、3次元にもなり得る。また、基板の材質には、用途に応じてプラスティック樹脂、ガラス、セラミックス、半導体、金属など、絶縁性物質から電気伝導性物質まで幅広く採用することができる。本発明で基板材料に使用し得る電気伝導性物質には電極材料物質も含まれる。
【0028】
本発明に基板材料としてEL素子に利用可能な電極材料物質を使用する場合には、有機発光材料層と基板からなる素子がそれ自体で有機電解発光素子の一部を構成することも可能である。有機EL素子は、基本的に、陽極・陰極の電極、正孔および電子の注入層、正孔および電子輸送層、発光層の構成要素からなるが、本発明の有機発光素子においても有機発光層は、必要に応じて、電極となる基板との間に輸送層、注入層を挟み込むことが可能である。
【0029】
また、本発明に使用する基板を電極とし、対極側から放出される帯電性の物質(例えば、電子、イオンなどの荷電粒子線)を有機発光材料層に衝突するように配置された場合には、有機発光材料層から励起発光が放出され得る。このような系は、例えばCRT、FED、VFDなどの表示装置、測定装置の検出器などの一部を構成し得るから、本発明の有機発光素子はこれらの装置の蛍光体素子として利用することが可能である。
【0030】
さらに、本発明の有機発光素子は光−光変換型素子に利用可能である。すなわち、本発明の有機発光材料を成膜して有機発光層を形成し、該発光層にバックライト光源から特定波長の入力光を照射すると、有機発光層に光子が供給され、その吸収時に発光(蛍光または燐光)が生ずる。この発光を取り出すことによって、入力光と出力光の間の波長変換を実現することが可能となる。
【0031】
本発明の別の態様は、上記発光色制御方法により得られた有機発光材料からなる有機発光層ないし有機発光素子を、該材料とは発光色の異なる有機発光材料からなる1つ以上の有機発光層ないし有機発光素子と重ね合わせて使用する方法に関する。当該態様は、異なる発光色の光を重ね合わせて有機発光材料に固有の発光色とは異なる色の光を作り出すための簡便な方法を提供する。
【0032】
本発明は、上記のような有機発光材料における発光色の制御方法を利用した、材料膜へのパターン形成方法を提供する。すなわち、本発明は、有機発光材料膜上にフォトマスクをかけて光を照射することによって、光の非照射部分と照射部分とで有機発光材料の発光色を異ならせて、該有機発光材料膜上に発光パターンを形成する方法に関する。具体的には、(a)有機発光材料を基板上に成膜する工程、(b)該有機発光材料を大気雰囲気下に置く工程、(c)パターンが描かれたフォトマスクを膜上に設置する工程、(d)有機発光材料の膜のマスクされていない部分にのみ光を照射する工程、(e)光照射後に上記フォトマスクを取り除く工程、および(f)有機発光材料を大気成分から遮断する工程を含むことを特徴とする。
【0033】
上記パターン形成方法では、有機材料膜上に異なる3種類以上の発光色を示す領域を設定するために、各発光色領域に対応させて照射領域を制限できるフォトマスクを複数準備してもよい。この場合には、フォトマスクを交換するたびに工程(c)〜(e)を一連の操作として繰り返し、光照射時間を変更しながら照射領域の発光色を制御することができる。
【0034】
本発明に使用するフォトマスクには、材料膜上に形成される発光色領域に対応して区分化されたパターンが描かれており、同一色に発光させたい領域のみをマスキング・シートから除去しておくことができる。これにより、同時に光照射を受けた材料膜部分が同一色の発光領域を形成することが可能となる。
【0035】
本発明のパターン形成方法では、原則として、成膜は単一の発光材料(混合材料でもよい)を用いて行う。
パターンの使用目的に応じて、有機材料層のサイズ、形状、フォトマスクを自由に変更して使用することができる。したがって、例えば、パターンが広告表示などの表示目的である場合には、大画面や立体形状などが採用され得る。また、CRT、液晶、ELディスプレーなどの画素を作成する場合には、微小区域内で発光色の異なる複数の発光色領域を設けることが可能となる。
【0036】
さらに、本発明は該パターン形成方法により表面上にパターンを形成された有機発光材料膜を含む有機発光素子を提供する。この有機発光素子は、有機EL関連技術との組み合わせにより表示装置、照明装置に利用することが可能である。
【0037】
本発明は更に、本発明の発光制御方法と同じ工程によって実施することができる有機発光材料の吸光色制御方法に関し、具体的には、(A)有機発光材料を大気成分と接触させること、および、(B)必要に応じて、有機発光材料に対し光を照射し又は照射しないことにより、有機発光材料の吸光スペクトルの形状を変化させることを特徴とする、有機発光材料の吸光色の制御方法であって、場合により、光照射後に有機発光材料を大気成分から遮断する工程を更に含んでよい前記方法に関する。この吸光色制御方法は、光の非照射部分と照射部分とで有機発光材料の吸光色を異なる有機発光材料膜を形成することを可能にするから、この方法を利用することにより有機発光材料膜上にパターン形成することも可能である。
【0038】
したがって、本発明の一態様は、(a)有機発光材料を基板上に成膜する工程、(b)該有機発光材料を大気雰囲気下に置く工程、(c)パターンが描かれたフォトマスクを膜上に設置する工程、(d)有機発光材料の膜のマスクされていない部分にのみ光を照射する工程、(e)光照射後に上記フォトマスクを取り除く工程、および(f)有機材料を大気成分から遮断する工程を含むことを特徴とする、有機発光材料膜の光の非照射部分と照射部分とで有機発光材料の吸光色を異ならせて、該有機発光材料膜上にパターンを形成する方法を包含する。本発明の吸光制御方法に好適な有機発光材料、光照射の諸条件、フォトマスクなどは、本発明の発光色制御方法に述べたものを使用することができる。
【0039】
出願人は本発明の十分な理解を図るために、以下に実施例および添付図面を参照しつつ説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更、改変を加えて実施し得るものと理解すべきである。
[実施例]
【0040】
実施例A-1 MEH-CN-PPV薄膜の調製
以下の操作は蛍光灯からの紫外線の影響を排除するためにイエロールームで行った。
クロロホルム中にMEH-CN-PPV(W.H.SANDS社製品、ゲル透過クロマトグラフィーでポリスチレンを標準として約35,000の分子量)を加え0.25wt%溶液を調製した。基板となるスライドガラスを用意し、2-プロパノールで10分間超音波洗浄にかけた。MEH-CN-PPVのクロロホルム溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜フィルターでろ過した後、大気雰囲気下スピンコート法により基板となるスライドガラス上に塗布した。1時間以上かけて減圧下で塗布した溶液を乾燥させて、膜厚約15nmの薄膜を得た。
【0041】
実施例A-2 大気雰囲気下で紫外線照射後のMEH-CN-PPV薄膜の発光スペクトル
実施例A-1で得られた薄膜に対して、大気雰囲気下、常温で水銀ランプを使用して紫外線照射を行った(図1)。照射強度7mW/cmであった。PLスペクトルの測定には日本分光社製FP−6300蛍光分光計を使用した。励起光の波長は480nmであった。紫外線照射時間の異なるMEH-CN-PPVの発光スペクトルの比較を図2に示す。
大気雰囲気下で照射時間を0、120、180、240秒と変化させることにより、595nm(赤)から545nm(緑)までの発光色が得られた。
【0042】
実施例B-2 MEH-PPV薄膜に対する紫外線照射
実施例A−1と同様の方法に従って、膜厚約15nmのMEH-PPVの薄膜を調製した。紫外線照射は実施例A−2と同一の条件で測定した。大気雰囲気下で照射時間を0〜2分まで変化させると発光スペクトルのピーク波長は595nm(赤)から495nm(青)まで変化することを確認した。
【0043】
実施例A-3 異なる雰囲気下でのMEH-CN-PPV薄膜に対する紫外線照射
実施例A-1と同様の方法に従って得られた膜厚約15nmの薄膜に対して、異なる減圧状態の下で同一の露光強度で紫外線を照射してPLスペクトルを測定した。照射時間はいずれも90秒である。照射の前後の発光スベクトルを図3に示す。真空ポンプを2分作動後の減圧状態下で紫外線照射後に得られたスペクトルでは、大気雰囲気下で紫外線照射した場合とピーク波長が一致した。これに対し、佐藤真空社製ロータリー真空ポンプ(型番BST−50)を60分作動後の減圧状態で紫外線照射を行った場合のスペクトルでは、照射前のスペクトルのピーク波長に近い位置にピークを有し、低波長側へのシフトの幅は2分間真空ポンプを作動させた場合に比べてわずかであった。
この結果から、有機材料を大気成分が十分に除去された場所に置くことによって発光スペクトルの変化が抑制され得ることが確認された。
【0044】
実施例A−4 大気雰囲気下で紫外線照射後のMEH-CN-PPV薄膜の吸光スペクトル
実施例A−1と同様の方法によって得られたMEH-CN-PPV薄膜に大気雰囲気下で0、1、2、4、5、8分の各照射時間で紫外線を照射して、日立社製UV−VIS分光計(U−4100)で吸光スペクトルを測定した。測定結果を図4に示す。ピーク波長は480nmから440nmまでシフトし、薄膜の色調の変化が確認された。
【0045】
実施例A−5 MEH-CN-PPV薄膜上への異なる発光色領域の形成
実施例A-1と同様の方法に従って得られた膜厚約15nmのMEH-CN-PPV薄膜に、同一半径で円形に4個の穴を空けたフォトマスクをかけ、大気雰囲気下、実施例A−2で使用した水銀ランプを光源として0〜12分の照射時間で紫外線を照射した。その後、ロータリー真空ポンプを作動させて薄膜周囲の雰囲気を減圧状態にして、スライドガラス越しに365nmの励起光を薄膜に照射したところ、図5(写真)に示す発光色が得られた。発光はほぼ同一の強度で、その色は照射時間0分で赤色、12分で緑色、その中間の照射時間では橙色、黄色であった。
本実施例から、大気雰囲気下で光の照射時間を変更することによって、同一の有機材料から連続的に波長の異なる色の発光を取り出すことができることが示された。また、入力光の波長とは異なる、複数の波長の出力光を取り出すことができるから、光-光変換型素子への利用可能な発光材料が製造できることが示された。
【0046】
実施例A-6 フォトパターニング
紫外線の照射部と非照射部でフォトリソグラフィなどで用いられるフォトパターニングについて検討した。市販のレーザープリンタでOHPシートに印刷してフォトマスクを作成した。実施例A-1と同様の方法で膜厚約15nmのMEH-CN-PPV薄膜を作成し、図6(a)に示すフォトマスクをかけて、実施例A-2で使用した水銀ランプを光源として照射強度7mW/cmで2分間紫外線を照射した。その後、ロータリー真空ポンプを作動させて薄膜周囲の雰囲気を減圧状態にして、スライドガラス越しに365nmの励起光を薄膜に照射したところ、図6(b)(写真)に示すフォトパターンが得られた。
この結果から照射部と非照射部の発光色を異ならせることによってパターニングができることが判明した。
【発明の効果】
【0047】
以上に説明したように、本発明によれば、有機発光材料を大気雰囲気下で光照射し、その照射時間を変化させだけで、材料の発光色を異なる色に変化させることが可能となるため、極めて簡単に同一基板上に異なる発光色の領域を有する薄膜を形成することができる。さらに、光照射に有機材料を安定に保存し得る手段も併せて提供することにより、光学素子作成への応用が可能となった。
【0048】
また、光の照射領域と非照射領域の発光色の違いを利用して、材料薄膜上に容易にパタ-ンを形成できる。このパターニング方法を利用することにより、単一の有機発光材料を使用して、発色光の異なる複数の領域を有する薄膜を同一基板上に簡易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は本発明による有機材料の発光色/吸光色制御方法における照射工程を示す概略図である。
【図2】図2は大気雰囲気下で紫外線照射後のMEH-CN-PPVの発光スペクトルを示す。
【図3】図3は異なる雰囲気下で紫外線照射されたMEH-CN-PPVの発色スペクトルの比較を示す。
【図4】図4は大気雰囲気下で紫外線照射後のMEH-CN-PPVの吸光スペクトルを示す。
【図5】図5は同一基板上に異なる発光色領域を有する有機発光材料の薄膜の写真である。
【図6】図6(a)は実施例A−6で使用したフォトマスク(「TOKYO」のパターン入り)の図であり、図6(b)は該フォトマスクを利用して光照射し、作成した発光パターンの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機発光材料を大気成分と接触させること、および、(B)必要に応じて、有機発光材料に対し光を照射し又は照射しないことにより、有機発光材料の発光スペクトルの形状を変化させることを特徴とする、有機発光材料の発光色の制御方法。
【請求項2】
光照射後に有機発光材料を大気成分から遮断することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機発光材料がポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルへキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン]である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3項のいずれか1項に記載の方法により発光色を制御して得られる有機発光材料。
【請求項5】
基板および、請求項4に記載の有機発光材料を該基板上に成膜して得られる有機発光層を含む有機発光素子。
【請求項6】
基板が電気伝導性物質であることを特徴とする、請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
有機電解発光素子である、請求項6に記載の有機発光素子。
【請求項8】
荷電粒子線励起により発光する蛍光体素子である、請求項5または6に記載の有機発光素子。
【請求項9】
光−光変換型素子である、請求項5または6に記載の有機発光素子。
【請求項10】
有機発光材料膜の光の非照射部分と照射部分とで有機発光材料の発光色を異ならせて、該有機発光材料膜上に発光パターンを形成する方法であって、
(a)有機発光材料を基板上に成膜する工程、
(b)有機発光材料を大気雰囲気下に置く工程、
(c)パターンが描かれたフォトマスクを膜上に設置する工程、
(d)有機発光材料の膜のマスクされていない部分にのみ光を照射する工程、
(e)光照射後に上記フォトマスクを取り除く工程、および
(f)有機発光材料を大気成分から遮断する工程
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項11】
有機発光材料がポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルへキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン]である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法により膜表面上にパターンを形成された有機発光材料膜を含む有機発光素子。
【請求項13】
(A)有機発光材料を大気成分と接触させること、および、(B)必要に応じて、有機発光材料に対し光を照射し又は照射しないことにより、有機発光材料の吸光スペクトルの形状を変化させることを特徴とする、有機発光材料の吸光色の制御方法。
【請求項14】
光照射後に有機発光材料を大気成分から遮断することを更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有機発光材料がポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルへキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン]である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
有機発光材料膜の光の非照射部分と照射部分とで有機発光材料の吸光色を異ならせて、該有機発光材料膜上にパターンを形成する方法であって、
(a)有機発光材料を基板上に成膜する工程、
(b)有機発光材料を大気雰囲気下に置く工程、
(c)パターンが描かれたフォトマスクを膜上に設置する工程、
(d)有機発光材料の膜のマスクされていない部分にのみ光を照射する工程、
(e)光照射後に上記フォトマスクを取り除く工程、および
(f)有機材料を大気成分から遮断する工程
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項17】
有機発光材料がポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルへキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン]である、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−149468(P2007−149468A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341269(P2005−341269)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】