説明

発光装置およびその製造方法

【課題】
可撓性に優れた発光装置を提供する。
【解決手段】
発光装置の透明電極層を、網目状の金属層と透明導電性高分子層からなる積層構造で形成することにより、発光装置から十分な輝度の発光が得られ、かつ可撓性に優れた発光装置を形成することができる。網目状の金属層は、導電性金属を網目状に配列したものであり、印刷技術、あるいは金属ナノコロイダル粒子の自己組織化によって得られる。また、網目状の金属層と透明導電性高分子層からなる透明電極層は低抵抗である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光層を有する発光装置に係り、特に陽極および陰極の間に設けられた有機発光層を有する発光装置、いわゆる有機EL素子を用いた発光装置、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光材料を有機発光層として用いる発光装置は、有機発光層とそれを挟む陰極層および陽極層の2つの電極層からなるサンドイッチ構造が基本構造であり、陰極層から電子が、陽極層から正孔がそれぞれ有機発光層に注入され、注入された電子と正孔が再結合して発光する。
【0003】
有機発光材料は、アルミニウムキノリノール錯体などの低分子系発光材料とポリフェニレンビニレンなどの高分子系発光材料がある。低分子系発光材料は真空蒸着法によって発光素子が製造されるが、高分子系発光材料は、溶媒に溶かして、コーティングやインクジェットプリントなどの印刷技術を用いて製造することが可能であるため、製造コストを抑えることができ、また、ガラスだけでなく樹脂シートを基板とすることも可能である。
【0004】
下記特許文献1には、高分子系発光材料を用いた発光装置が開示されている。また、下記特許文献2には、低分子系発光材料を溶液塗布により製造可能な有機発光装置が開示されている。
【特許文献1】特開平10−077467号公報
【特許文献2】特開平11−273859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機発光材料を有機発光層として用いる発光装置においては、有機発光層で発光した光を外に取り出すため、片方の電極層(陽極)は透明電極層とする必要がある。従来、そのような透明電極層としては、特許文献1あるいは特許文献2に示されるように、インジウム−スズ−オキサイド(ITO)や酸化すず(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性の金属酸化物や、透明導電性高分子を用いた有機透明導電膜が用いられていた。
【0006】
ITOなどの金属酸化物は導電性が高く、また透明性に優れるため、発光装置から十分な発光量が得られる。しかしながら、ITOなどは真空蒸着やスパッタなどを用いて製造されるので高価であり、また陽極層形成の前あるいは後に、高分子系発光材料を用いて有機発光層を印刷する場合、大気圧下で行われるため手間がかかる。また、有機発光層との密着性が低いため、陽極層と有機発光層の間で剥離が起こり、ダークスポットを生じるなどの問題があった。
【0007】
さらに、例えば、有機発光層を有する発光装置を携帯電話のテンキー内の照光として用いる場合、陽極層も可撓性や機械的強度に優れることが必要である。しかしながら、ITOなどの金属酸化物は硬くて脆いので、可撓性や機械的強度が高くない。よって、有機発光層を有する発光装置を可撓性や機械的強度が必要な携帯電話のテンキーなどに用いることができず、発光装置の適用範囲を狭めていた。
【0008】
一方、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)などの導電性ポリマーを用いた有機透明電極層は、製造が容易でしかも可撓性を有しているが、導電性が低く、発光装置の発光量が十分ではない。
【0009】
透明電極層を、有機透明電極層の上または下にITOなどの金属酸化物を蒸着させた積層構造とすることもできる。しかしながら、ITOなどの金属酸化物は硬くて脆いので、外部からの機械的な力に弱い。
【0010】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来に比べて、可撓性および機械的強度に優れる透明電極(陽極)層を有する、有機発光層を用いた発光装置およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、透明基板上に、順に透明電極層と、有機発光層および対向電極層とが積層された発光装置において、
前記透明電極層は、網目状に配列した金属と透明導電性高分子とで形成されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、基板上に、順に下部電極層と、有機発光層および透明電極層とが積層された発光装置において、
前記透明電極層は、網目状に配列した金属と透明導電性高分子とで形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明の発光装置は、透明電極層が網目状に配列した金属と透明導電性高分子で形成されているため、可撓性および機械的強度を有している。よって、可撓性や機械的強度が要求される、例えば、携帯電話テンキー内のコンタクトフィルム照光などに適用することができる。
【0014】
本発明では、前記透明基板上または前記透明電極層上に、バンクで囲まれた発光機能領域が形成され、前記発光機能領域内部に前記透明電極層、有機発光層および対向電極層が形成されたものとすることができる。また、前記基板上または前記下部電極層上に、バンクで囲まれた発光機能領域が形成され、前記発光機能領域内部に前記下部電極層、有機発光層および透明電極層が形成されていてもよい。このようにバンクを形成し、その内部に有機発光層を有する発光素子を形成することにより、発光機能領域を規定することができる。
【0015】
また、前記網目状に配列した金属は、金属粒子を溶媒に分散させた溶液を印刷して形成することができる。印刷技術を用いることで、真空蒸着やスパッタなど真空中での製造が不要であり、またエッチングなどの複雑な工程を用いることなく、透明電極層を容易に形成することができる。
【0016】
前記網目状に配列した金属は、金属のナノ粒子が網目状に配列したものとすることもできる。この場合、金属ナノ粒子が分散したコロイダルインクを用い、インクを塗布、乾燥することで金属が網目状に配列した金属を形成することができるので、製造が容易である。また、金属粒子を溶媒に分散させた溶液を印刷したものであっても、金属のナノ粒子を網目状に配列させたものであっても、いずれも金属が網目状に配列しているため、導電性に優れる。
【0017】
さらに、前記金属は、銀であることが好ましい。銀は導電性に優れ、安定であり、かつ安価である。
【0018】
前記対向電極層または前記下部電極層は、銀のナノコロイダル粒子から形成された銀層とすることが好ましい。前記対向電極層または前記下部電極層は透明性を要しないので、導電性の高い金属で形成することができる。導電性の高い金属としては銀が好ましい。さらに、銀のナノコロイダル粒子から形成された銀層は、表面粗さが小さく平滑であるため、その上または下に接して形成される有機発光層を薄くすることができる。よって、発光層内の電子や正孔の移動距離が少ないのでエネルギー損失が少なく、発光効率が高い。しかも銀層は、銀のナノコロイダル粒子を大気圧下で塗布、乾燥させることで形成されるので、製造が容易である。
【0019】
前記基板または透明基板は樹脂フィルムまたは樹脂基板とすることができる。樹脂フィルムまたは樹脂基板は可撓性を有しており、本発明の可撓性および機械的強度に優れる透明電極層を用いることで、フレキシブルな発光装置とすることが可能である。
【0020】
また本発明は、有機発光層を用いた発光装置の製造方法において、
(a)透明基板上に、金属粒子を溶媒に分散させた溶液を網目状に印刷して網目状の金属層を形成する工程と、
(b)前記網目状の金属層上に透明導電性高分子層を形成する工程と、
(c)前記透明導電性高分子層の上に有機発光層を形成する工程と、
(d)前記有機発光層の上に対向電極層を形成する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の有機発光層を用いた発光装置の製造方法は、
(e)下部電極層を形成する工程と、
(f)前記下部電極層の上に有機発光層を形成する工程と、
(g)前記有機発光層の上に透明導電性高分子層を形成する工程と、
(h)前記透明導電性高分子層の上に金属粒子を溶媒に分散させた溶液を網状に印刷して網目状の金属層を形成する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、前記(a)工程の代わりに、
(i)透明基板上に、金属のナノ粒子を塗布、乾燥させて、網目状の金属層を形成する工程、
を有するものとすることもできる。
【0023】
さらに、前記(h)工程の代わりに、
(j)前記透明導電性高分子層の上に金属のナノ粒子を塗布、乾燥させて、網目状の金属層を形成する工程、
を有するものとすることもできる。
【0024】
また、前記(b)工程の後に、
(k)透明基板上または前記透明導電性高分子層の上に、発光機能領域を囲むバンクを形成する工程、
を有し、前記発光機能領域に前記有機発光層および前記対向電極層を形成してもよい。
【0025】
さらに、前記(e)工程の後に、
(l)基板上または前記下部電極層の上に、発光機能領域を囲むバンクを形成する工程、
を有し、前記発光機能領域に前記有機発光層および前記透明導電性高分子層および前記網目状の金属層を形成することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の発光装置は、透明電極層が網目状に配列した金属と透明導電性高分子で形成されているため、可撓性および機械的強度に優れている。よって、可撓性や機械的強度が要求される、例えば、携帯電話テンキー内のコンタクトフィルム照光へ適用することが可能である。また、本発明の発光装置は、透明電極層が網目状に配列した金属で形成されているため、導電性に優れ、発光量及び発光効率の高い発光装置が得られる。さらに前記金属は印刷技術を用いて、あるいはナノ粒子の自己組織化法により容易に形成することができるので製造工程が複雑ではなく、また材料費も安いので安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す斜視図である。図1の発光装置1では封止層31,32を省略して記載している。図2は、図1に示す発光装置1のI−I線における断面を矢印の方向から見た断面図である。また、図3は、透明電極層を模式的に示した斜視図である。
【0028】
本実施の形態の発光装置1は、図1に示すように、基板11上の一部にバンク(封止壁)30が円形に形成され、その内部が発光層と電極層を積層した発光機能領域3で、全体が図2に示す下側封止層31および上側封止層32からなる封止層で封止されている。外部から電極層に電気を通じることで発光層が発光し、発光機能領域3全体から光が発光する。図1に示すバンク30は円形に形成され、発光機能領域3が円形であるが、発光機能領域の形状は特に円形に限られず、楕円形、三角形や長方形、正方形などの四角形、または多角形の形状にすることもできる。
【0029】
本実施の形態では、図2に示すように、基板11の表面に下側封止層31が形成されている。下側封止層31の上に透明電極層14が形成され、さらにその上にバンク30が形成されて、発光する領域を規定している。そして、バンク30に囲まれた発光機能領域3内に、発光層15および対向電極層16が積層されて発光積層体を形成し、対向電極層16上の一部からバンクを越えて発光機能領域の外側へ延びるリード電極33が形成されている。そしてさらに上側封止層32によって発光装置全体が封止される。
【0030】
図2に示す発光装置は、下側封止層31および上側封止層32の2層で発光装置が封止されているが、下側封止層31は形成されなくてもよい。ただし、下側封止層31を形成すると確実に発光装置を封止することができる。特に、基板11が樹脂で形成されている場合、樹脂はガラスに比べて気密性が低いので、酸素や水分などのガスが基板を通して発光装置内に入り込みやすいが、基板上に予め下側封止層31が形成されていると、酸素や水分の浸入を防ぐことができ、封止性が高まる。
【0031】
発光装置1のリード電極33および透明電極層14に外部から通電されると発光層15が発光する。図2に示す実施の形態は、発光層で発光した光が基板および基板側の透明電極層14を通して下側に取り出される、いわゆるボトムエミッションタイプの発光装置である。
【0032】
本実施の形態の発光装置について、用いられる材料などを説明する。
基板11は、ガラス基板、樹脂基板、またはプラスチックフィルムが用いられる。中でも、可撓性を有することから、プラスチックフィルムが好適に用いられる。プラスチックフィルムあるいは樹脂基板の樹脂材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、アクリル、ポリイミド、ポリアラミドなどの樹脂が用いられる。中でも、透明性、可撓性、耐熱性の面からPETが特に好ましく用いられる。基板11は、厚さ約100μmのものが好適に使用される。
【0033】
基板上には、シラン化合物を用いて形成されるガラスにより下側封止層31が形成される。前記ガラスは、後述する金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル法、あるいはポリシラザン化合物を用いて形成することができる。
【0034】
前記下側封止層31上には透明電極層14が形成される。前記透明電極層14は、図3に示すように、網目状の金属層12の上に透明導電性高分子層13が積層された積層構造である。なお、前記透明電極層14は、網目状の金属層12と透明導電性高分子層13との積層構造であれば、透明導電性高分子層13の上に網目状の金属層12が積層されていてもよいし、2層の透明導電性高分子層13の間に網目状の金属層12が挟まれた構造とすることもできる。
【0035】
図2に示す断面図では、前記網目状の金属層12を模式的に表しているため、網目状の金属層12が個々に独立している様子が示されているが、金属層は網目状であるので、個々の金属層12は縦横にお互いにつながっている。
【0036】
前記網目状の金属層12を形成する金属はどのような金属を用いてもよいが、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、インジウム、イットリウム、ハフニウム、ジルコニウム、マグネシウム、マンガン、バナジウム、チタン、鉄、タングステンなどを用いることができる。特に、例えば銀などの導電性が高い金属を用いることが好ましい。
【0037】
前記網目状の金属層12は、上記したような金属の粉末をバインダである溶媒に分散させた金属ペーストを網目状に印刷して形成することができる。
【0038】
金属粉末の粒径は、0.1〜10μmである。粒径が小さいほうが、網目状の金属層を薄く形成することができるので好ましい。金属粉末を分散させる溶媒は、水系、非水系の溶媒のいずれも用いることができる。例えば、水、アルコールや樹脂が用いられる。
【0039】
前記金属ペーストを、網目状のスクリーンを用いて塗布、あるいは印刷し、乾燥させると、例えば、図3に示すような規則的な網目状の金属層12が形成される。網目の開口率(全体の面積に対する、金属がない部分の面積の割合)は70%〜99%である。開口率が99%より大きいと全体の金属量が少ないので導電性が低く、また開口率の大きさが70%より小さいと、透明性が低下するので、装置から取り出せる発光量が少なくなり、いずれも好ましくない。
【0040】
また、前記網目状の金属層12は、金属ナノコロイダル粒子を自己組織化させて形成することもできる。
【0041】
金属のナノコロイダル粒子を自己組織化させると、図4に模式的に示すように、多数の金属粒子が数珠状に不規則的につながった網目が形成される。このような不規則的な網目状の金属層を図3に示す網目状の金属層12として用いることもできる。
【0042】
この場合、金属はナノコロイダル粒子を形成できるものであればどのような金属も用いることができるが、導電性が高いことから金、あるいは銀を好適に用いることができる。
【0043】
金属のナノコロイダル粒子を水やアルコールなどの溶媒に分散させて塗布すると、溶媒の周囲に金属ナノコロイダル粒子が配置し、さらに溶媒が揮発するに従って溶媒周囲に配置した粒子同士の結合が起こり、図4に示すような不規則的な網目状の金属層が形成される。
【0044】
このようにして形成された網目状の金属層は、金属ナノコロイダル粒子の塗布および乾燥によって得られるので、金属ペーストを印刷する場合のように網目状のスクリーンを用いる必要がなく、さらに容易に形成させることができる。また、網目形状は自己組織化によって得られるのでばらつきがあるが、網目の開口部(金属のない部分)の大きさは直径径約10〜1000nmで形成され、スクリーンを用いて印刷するよりも開口部の小さい網目状の金属層が得られる。従って、より可撓性に優れ、さらにより小型の発光装置においても網目状の金属層を用いることができる。
【0045】
前記網目状の金属層12は、上記の他、金属が縦横に網目状に配列した薄膜であれば、例えば繊維状の金属を縦横に配置して網目状としたものを用いることができる。また、金属膜または金属層に網目を形成したものでもよい。例えば、金属箔に切り込みあるいは開孔を多数入れて縦および横方向に引っ張って網目を形成したもの、金属箔に開孔を多数設けて網目状にしたものなどを用いることができる。また、ITOなどを形成した後網目状とすることもできる。しかし、ITOなどを網目状にパターニングするには、ITOなどの金属酸化物膜を形成した後にエッチングする必要があり、製造コストが高くなる。
【0046】
金属ペーストを網目状に印刷したもの、あるいは金属ナノコロイダルを自己組織化させたものは、エッチングなど金属層に網目を形成する工程を必要とせず、印刷や塗布により金属を網目状に容易に形成することができるので好ましい。
【0047】
前記網目状の金属層12上には、透明導電性高分子を用いて透明導電性高分子層13が形成される。透明導電性高分子層13は、透明導電性高分子をウェットコーティングすることにより形成される有機透明電極層である。透明導電性高分子にドープ剤を添加してもよい。また、コーティングに用いる透明導電性高分子溶液の粘度が低いと、透明導電性高分子層を均一に、かつ薄く形成することができるので好ましい。
【0048】
前記透明導電性高分子の溶液を、塗布あるいは印刷により前記網目状の金属層12上にコーティングする。前記透明導電性高分子の溶液を塗布する方法としては、例えば、バーコータ、スプレー、ロールコータを用いた塗布を行うことができる。また、前記透明導電性高分子溶液を印刷する方法としては、例えば、インクジェット、ディスペンサ、グラビア印刷、あるいはスクリーン印刷などの印刷方式を用いることができる。塗布あるいは印刷により透明導電性高分子溶液をコーティング後、乾燥空気中で乾燥させると透明導電性高分子層13が得られる。
【0049】
図3あるいは図4に示すように、前記網目状の金属層12は金属のない部分(開口部)が多く存在しており、その部分は導電性を有していない。しかし前記網目状の金属層12の上に透明導電性高分子をコーティングすると、金属のない部分が透明導電性高分子コーティングによって埋められるので、透明導電性高分子層13表面は全て導電性を有している。また、網目状の金属層12は金属のある部分とない部分とで断面に凹凸が生じているが、金属のない部分が透明導電性高分子によって埋められるので、透明導電性高分子層13の表面は平滑である。よって、その上に形成される発光層15を薄く、均一に形成することができる。
【0050】
前記透明導電性高分子は、導電性を有し、透明な高分子であれば特に制限はないが、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が特に好適に用いられる。PEDOTを導電性高分子に用いた場合、ドープ剤としてポリスチレンスルホン酸(PPS)も用いることが好ましい。
【0051】
このように、網目状の金属層12の上に透明導電性高分子層13を積層した透明電極層14の膜厚は100nm〜10μmが好適である。膜厚が100nmより小さいと発光層15に加えられる電圧が十分でなく、膜厚が10μmより大きいと発光層からの発光が弱くなり好ましくない。より好ましくは、200nm〜5μmである。
【0052】
前記下側封止層31上および前記透明電極層14上に、スクリーン印刷によってバンク(封止壁)30が円形に形成される。図1および図2に示すように、バンク30は一部が前記透明電極層14上に形成され、一部が前記透明電極層14に隣り合うように形成されており、バンク30の内部に形成された前記透明電極層14の一部がバンク30の下側から延出しているかたちとなっている。
【0053】
バンク30は絶縁性を有しているものであれば特に材質は限られないが、印刷が可能である樹脂が好ましく、特に半導体製造用などに用いられる熱硬化型レジストが好適に用いられる。バンク30は透明でも透明でなくてもよいが、透明な材料を用いると発光層からの光、特に横方向へ発光する光がバンク30の内部を透過し、発光装置1からの発光量を多くすることができる。
【0054】
本実施の形態では、バンク30はスクリーン印刷によって形成されるが、印刷・塗工方法であれば、スクリーン印刷に限られず、スピンコータ、インクジェット、グラビア印刷、ロールコータなどの印刷・塗工技術を用いることもできる。バンク30の高さは、その内部に形成される発光層および電極層を積層したものとほぼ同じか、やや高めとする。本発明では、バンク30の高さは、1〜20μmとした。また、前記バンク30を硬化レジスト層で形成し、現像とエッチング工程によって壁状に形成することも可能である。
【0055】
バンク30の内部の前記透明電極層14の上に発光層15が形成される。発光層15は、前記発光機能領域3の全域に形成される。発光層15は、有機発光材料をジクロロエタンなどの有機溶媒に溶解し、インクジェット法、あるいはディスペンサ、さらに好ましくはチュービングディスペンサを用いて塗布することにより形成される。発光層15は、電子および正孔の移動距離を短くするため、できるだけ薄いことが好ましい。ただし、あまり薄くしすぎると、下側の前記透明電極層14の凹凸の影響を受けて、短絡しやすくなる。本発明では発光層15の厚みが100〜200nmであることが好ましい。
【0056】
前記有機発光材料は、外部電界によって自発光する、いわゆる有機EL(エレクトロルミネッセンス)材料として用いられるものであればどのような材料でも好適に用いられる。中でも、溶液にして印刷可能な点から、ポリフローレン(例えばADS108G(アメリカン・ダイ・ソース製))、ポリフェニレンビニレン(例えばADS100RE(アメリカン・ダイ・ソース製))および高分子系発光材料が好適であるが、低分子系発光材料を用いてもよいし、高分子系発光材料と低分子系発光材料を混合して用いてもよい。例えば、高分子系発光材料のホール輸送性材料のポリビニルカルバゾール(PVK)に、低分子の2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4―オキサジアゾール(BND)(電子輸送性材料)、3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン−6)(発光材料)、を混合して用いることができる。高分子系発光材料塗布後は、乾燥空気中で乾燥させることが好ましい。
【0057】
前記発光層15の上に対向電極層16が形成される。発光層15同様、対向電極層16も前記発光機能領域3の全域に形成される。対向電極層16は、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、インジウム、イットリウム、ハフニウム、ジルコニウム、マグネシウム、マンガン、バナジウム、チタン、鉄、タングステンなどの導電性金属で形成される。特に仕事関数の小さい金属は、電子注入エネルギーを下げ、有機発光層の発光効率を上げることができるので好ましい。本実施の形態では銀を用いている。また、金属のナノコロイダル粒子を分散させた溶液を用いることが好ましい。
【0058】
前記対向電極層16は、銀のナノコロイダル粒子を溶媒に分散させた溶液を発光層15上に塗布した後、所定の温度で乾燥させて形成される。銀のナノコロイダル粒子は、粒子径が数十nm以下(100nm未満)の銀ナノ粒子の表面を保護コロイドで覆い、ナノ粒子の凝集を防止している。銀のナノコロイド粒子の溶液を塗布した状態では、銀のナノ粒子表面を保護コロイドが覆ったナノコロイダル粒子が溶媒間に分散しているが、加熱によって溶媒および保護コロイドが除去されると、銀のナノ粒子となる。銀のような金属をナノ粒子のようなナノメートルオーダーに微細化すると、反応性が非常に高まり、室温でも粒子がお互いに結合することが可能となるため、保護コロイドや溶媒が除去された銀ナノ粒子どうしは結合し、非常に緻密な均一層を形成する。なお銀層の一部には、加熱により分解しなかった分散剤が一部残るが、分散剤の濃度は無視できるほど小さいので、対抗電極層16の仕事関数には影響を与えない。
【0059】
銀ナノ粒子を分散させる分散剤である保護コロイドは櫛型ブロックコポリマーが好適であり、銀ナノ粒子の粒子径は、数十nm以下、より好ましくは平均粒子径が約20nm以下または10nm以下のものが好適である。銀のナノコロイダル粒子を分散させる溶媒は、水あるいはアルコールが好適に用いられるが、アルコールの中でもエタノールがさらに好適である。溶媒として水あるいはアルコールを用いても、仕事関数の小さい対向電極層16が形成されるが、水を溶媒として用いた場合、乾燥温度が低くても対向電極層16の表面抵抗が低いので、水を用いることが好ましい。
【0060】
溶媒である水あるいはエタノールが、他にアルカリ金属からなる化合物およびアルカリ土類金属からなる化合物、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含むと、仕事関数の低い対向電極層16を形成することができる。金属自体の仕事関数が低い金属、例えば、セシウム、ルビジウム、カリウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、カルシウム、リチウムの化合物あるいは塩が好適に用いられる。例えば、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸リチウム、リチウムアセチルアセトナド、カルシウムアセチルアセトナド、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)のいずれかまたはその組合せが挙げられる。
【0061】
銀のナノコロイダル粒子を上記溶媒に分散し、銀の含有率を10〜50重量%に調製し、発光層15上に塗布、乾燥させて前記対向電極層16が形成される。さらに銀の含有率を30重量%とすることがより好ましいが、銀の含有率を30重量%に調製すると、保護コロイドである分散剤の含有率は2重量%となる。
【0062】
調製した溶液を、ディスペンサより好ましくはチュービングディスペンサで発光層15の上に滴下し、均一層とする。チュービングディスペンサは、エアー式ディスペンサと異なり、無脈動の微量塗出が可能であるので、より好適に用いられる。乾燥前の前記対向電極層16の膜厚は約40μmであるが、所定温度で乾燥させた後は、膜厚約1μmの均一層となる。また、銀のナノコロイダル粒子の溶液は、インクジェット法により印刷することもできる。
【0063】
対向電極層16を乾燥させるときの加熱温度は、室温〜200℃が好ましい。200℃より高いと、基板11に樹脂フィルムや樹脂基板を用いた場合に変形を生じやすい。また室温より低いと、乾燥時間が長くなり、製造に時間がかかる。
【0064】
前記発光層15または前記対向電極層16のいずれか、または両方が形成されていない部分は、発光しないので、前記発光層15および前記対向電極層16は、前記発光機能領域3内の全域に形成されることが好ましい。
【0065】
前記対向電極層16の上にリード電極33が形成される。前記リード電極33は、導電性フィラーとバインダ樹脂を、印刷、例えばスクリーン印刷することにより形成される。リード電極33は、対向電極層16の一部に重なるように形成され、さらに発光機能領域3の外部に導かれる。
【0066】
バインダ樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、など、印刷に適する樹脂を用いることができる。導電性フィラーは、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、インジウム、イットリウム、ハフニウム、ジルコニウム、マグネシウム、マンガン、バナジウム、チタン、鉄、タングステンなどの金属の粒子であるが、仕事関数が小さい、例えば銀が好適に用いられる。
【0067】
形成される対向電極層16は緻密であるが、薄いので、前記リード電極33を前記対向電極層16上の全域に形成して、保護層とすることもできる。
【0068】
前記透明電極層14、発光層15、対向電極層16およびリード電極33で形成される発光素子積層体は上側封止層32により封止される。前記上側封止層32は、金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル法、あるいはポリシラザン化合物を用いて形成されるガラスを用いる。下側封止層31も上側封止層32と同じガラスで形成される。
【0069】
金属アルコキシドは、少なくとも1つのM−O−C結合(M:金属)を持つ化合物であり、金属として、例えばアルミニウム、バリウム、ホウ素、ビスマス、カルシウム、鉄、ガリウム、ゲルマニウム、ハフニウム、インジウム、カリウム、ランタン、リチウム、マグネシウム、モリブデン、ナトリウム、ニオブ、鉛、リン、アンチモン、ケイ素、すず、ストロンチウム、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、イットリウム、亜鉛、ジルコニウムを含む金属アルコキシドが好適に用いられる。その中でも、ゾル−ゲル法によってケイ酸ガラスが得られるので、特にケイ素の金属アルコキシド(シリコンアルコキシド)が好ましい。
【0070】
シリコンアルコキシドとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フルオロアルキル−iプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどを用いることができる。特にトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、フルオロアルキル−iプロポキシシランが好適に用いられる。
【0071】
シリコンアルコキシドの中でも、1つの分子中に反応性の異なる2種類の官能基を持つシランカップリング剤を用いることもできる。シランカップリング剤としては、例えばビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシロプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシロプロピルメチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、アミノシランが挙げられる。特に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのエポキシ基を含むものが好適に用いられる。
【0072】
例えば、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(TEOS)を用いる場合、TEOS、エタノール、水を混合し、保持するとTEOSが加水分解し、シラノールが生成され、さらに脱水縮合反応によりシリカの透明なゲルが得られる。得られたゲルからエタノール、水を蒸発させ、120〜150℃で熱処理を行うとガラスが得られる。得られるガラスはシリカガラスで、ガスバリア性を有しており、酸素や水分を透過させないので、封止層内部にこれら酸素や水分が入り込むのを防止することができる。エタノールの代わりに、他のアルコールを用いてもよく、また、他のシリコンアルコキシドを用いても、テトラエトキシシランと同様の反応によりシリカガラスが得られる。
【0073】
TEOSを用いて封止を行う場合、基板11上に積層された透明電極層14、発光層15、対向電極層16およびリード電極33からなる発光素子積層体全体を覆うようにTEOS溶液をディスペンサ、より好ましくはチュービングディスペンサを用いて塗布する。TEOS溶液は、酢酸または硫酸を1重量%含む溶液を用いる。塗布後、100〜200℃、より好ましくは120〜170℃で加熱するとガラスが生成される。
【0074】
より好ましくは、前述のように、予め基板11上にTEOS溶液から形成されるシリカガラスにより下側封止層31を形成しておくと、発光装置全体が封止され、より封止性が高まる。またシリカガラスは透明性に優れるので、発光層15からの発光を阻害することもない。
【0075】
前記上側封止層32は、ポリシラザン化合物から生成されるガラスを用いることができる。ポリシラザン化合物はSi−N結合を有する高分子シラン化合物であり、例えば、パーヒドロポリシラザン(例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)社製、アクアミカNP110)を用いることができる。
【0076】
パーヒドロポリシラザンは、水と反応してシリカ(SiO)を生成する。この反応は室温〜450℃で起こる。パーヒドロポリシラザンは高温下、あるいは高湿度下において反応が速く進行するが、室温でも徐々に大気中の水と反応して、シリカを形成する。また、酸素が存在すると反応がより速く進行する。このように、パーヒドロポリシラザンは周囲の酸素あるいは水と反応しながら形成されるので、酸素や水の捕捉剤として機能することができる。
【0077】
パーヒドロポリシラザンが反応して得られるシリカガラスは、金属アルコキシドから得られるシリカガラスと同様、緻密でガスバリア性を有し、酸素や水分を透過させないので、封止層内部にこれら酸素や水分が入り込むのを防止することができる。また耐熱性が高く、透明であるので、下側封止層31として用いても、発光層15からの発光を阻害しない。
【0078】
ポリシラザン化合物は、例えばキシレン、ジブチルエーテル、ターペンなどの有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。さらに前記溶液は触媒を含むことが好ましい。
【0079】
透明電極層14、発光層15、対向電極層16およびリード電極33の発光素子積層体を形成した後、図2に示すように、その全体を覆うようにポリシラザン化合物を含む溶液を、スプレー、あるいはディスペンサや刷毛などを用いて塗布し、放置する。ポリシラザン化合物を含む溶液は、大気中の水分あるいは酸素と反応し緻密なシリカガラスを形成する。このとき、高温あるいは湿度が高いと反応がより速く進行する。生成されたシリカガラスは前記発光素子積層体を封止する封止層であるが、ポリシラザン化合物は、前記発光素子積層体に侵入しようとする水分や酸素と反応するので、反応途中において捕捉剤としての機能も有している。
【0080】
より好ましくは、最初に基板11上に、前述のようにしてポリシラザン化合物を用いてガラスの下側封止層31を形成しておくと、発光装置全体が封止され、より封止性が高まる。特に、基板11にプラスチックフィルムや樹脂基板を用いた場合、樹脂は酸素や水分などのガスを透過するが、前記のように基板11上に下側封止層31を設けることで、基板からのガスの透過を防止することができる。
【0081】
金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル法によっても、ポリシラザン化合物を用いてもガラスが形成されるので、下側封止層31が透明なガラスであれば、いずれのガラスで下側封止層31および上側封止層32を形成してもよい。例えば、下側封止層31を金属アルコキシドから形成されるガラスとし、上側封止層32をポリシラザン化合物から形成されるガラスとしてもよく、逆に下側封止層31をポリシラザン化合物から形成されるガラスとし、上側封止層32を金属アルコキシドから形成されるガラスとしてもよい。また、下側封止層31および上側封止層32を金属アルコキシドから形成されるガラスとしてもよいし、下側封止層31および上側封止層32をポリシラザン化合物から形成されるガラスとしてもよい。ポリシラザン化合物から形成されるガラスは、水分や酸素の捕捉機能も有していることから、ポリシラザン化合物を用いて上側封止層32を形成することがより好ましい。
【0082】
図5は第2の実施形態を示す発光装置であり、発光層で発光した光が透明電極層を通して基板と反対側(上側)に取り出される、いわゆるトップエミッションタイプの発光装置である。図2と同じ番号を付した箇所は、同じ材料が用いられる。
【0083】
第2の実施形態では、基板11上に、ガラスにて下側封止層31が形成され、さらにその上に下部電極層22が形成される。発光装置からの光は上側から取り出されるので、基板11は透明でなくてもかまわない。下部電極層22は、前記対向電極層16と同様、金属のナノコロイダル粒子を分散させた溶液から形成される。また、金属のナノコロイダル粒子から形成される金属層は緻密で薄いので、導電性フィラーとバインダ樹脂を印刷した上に、前記金属のナノコロイダル粒子から形成される金属層を形成することもできる。
【0084】
前記下部電極層22上、または下側封止層31上に、バンク30が形成され、発光機能領域3が規定される。前記発光機能領域3内の前記下部電極層22の上に、発光層15、さらに透明電極層24が形成される。
【0085】
前記透明電極層24は、発光層15上に形成される透明導電性高分子層13および前記透明導電性高分子層13上に形成される網目状の金属層12からなる。前記網目状の金属層12上にさらに透明導電性高分子層13を形成し、透明導電性高分子層の間に網目状の金属層が挟まれた透明電極層としてもよい。
【0086】
前記透明電極層24上の一部に重なるようにリード電極33が形成される。リード電極33はバンク30を越えて、バンク30の外側に延出される。
【0087】
前記下部電極層22、発光層15、透明電極層24およびリード電極33を積層した発光素子積層体は、上側封止層32により封止される。前記上側封止層32、および前記下側封止層31は、金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル法、あるいはポリシラザン化合物を用いて形成されるガラスによって形成される。
【0088】
前記第1の実施形態と同様、前記下側封止層31は形成されなくてもよい。また、前記下側封止層31および上側封止層32は、金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル法で形成されるガラス、あるいはポリシラザン化合物を用いて形成されるガラスのいずれで形成されてもよい。
【0089】
図6は第3の実施形態を示す発光装置であり、図7は図6に示す発光装置をII−II線で切断した断面を矢印方向から見た断面図である。
【0090】
第3の実施形態では、図1に示すバンク30が周囲に形成されておらず、発光層および電極層の積層体表面が発光機能領域3である。また、第1の実施形態と同様、ボトムエミッションタイプの発光装置である。図1および図2と同じ番号を付した箇所は、同じ材料が用いられる。
【0091】
基板11上に、下側封止層31および網目状の金属層12および透明導電性高分子層13からなる透明電極層14が形成される。次に、バンクは形成されずに、前記透明電極層14の上に、発光層15および対向電極層16が形成される。前記対向電極層16の一部に重なるようにリード電極33が形成され、上側封止層32によって封止される。
【0092】
本実施の形態ではバンクが形成されていないが、前記透明電極層14、発光層15および対向電極層16が全て重なっている部分で発光が起こり、発光機能領域となる。前記透明電極層14、発光層15および対向電極層16のいずれかが形成されていない部分は発光しないため、前記透明電極層14、発光層15および対向電極層16が重なる部分は、できるだけ位置ずれしないよう、かつ同じ形状に形成されることが好ましい。
【0093】
図6において、前記透明電極層14、発光層15および対向電極層16が重なる部分は円形であるが、前記透明電極層14、発光層15および対向電極層16が重なる部分の形状が円形に限られず、楕円形、三角形や長方形、正方形などの四角形、または多角形の形状にすることもできるのは、バンク30を形成する場合と同様である。
【0094】
さらに、第2の実施形態のいわゆるトップエミッションタイプの発光装置において、第3の実施形態に示すようなバンク30を形成しない発光装置とすることも可能である。
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限られない。
【実施例1】
【0096】
以下に示す手順に従って、図1および図2に示す発光装置を作成した。
厚さ100μmの透明なPETフィルム(東レ(株)製、商品名 ルミラーU94)を基板11として用い、前記基板11の上に、銀粒子を溶媒に分散させた銀ペーストを用いて印刷により網目状の銀電極層12を形成した。
【0097】
銀ペーストは、ポリエステル樹脂系のバインダに銀粒子を分散させた、(株)アサヒ化学研究所 LS−415−NF3を用い、400メッシュステンレス製スクリーン印刷版を用いて、基板11上にスクリーン印刷した。その後140℃の乾燥空気中で15分乾燥させて網目状の金属層12を形成した。
【0098】
形成された網目状の金属層12の上に、透明導電性高分子層13を形成した。透明導電性高分子は、PSSを含むPEDOT(アグファ−ゲバルト社 TYPE EL−P5020)を用い、250メッシュポリエステル製スクリーン印刷版を用いて、前記網目状の金属層12上にスクリーン印刷した。その後140℃の乾燥空気中で15分乾燥させた。透明導電性高分子層13を形成することにより、網目状の金属の凹部が埋められ、前記透明導電性高分子層13の表面は平滑であった。
【0099】
次に、円形の発光機能領域3(直径5〜10mm)となるよう、バンク(封止壁)30をスクリーン印刷で形成した。バンク30は(株)アサヒ化学研究所 フレキシブル回路用熱硬化型透明レジスト CR−18G−KT1を用い、200メッシュステンレス製スクリーン印刷版を用いて形成した。その後、140℃の乾燥空気中で15分間乾燥させた。
【0100】
前記透明導電性高分子層13上で、形成したバンク30で囲まれる部分に、発光層15を形成した。有機発光材料は、PVK(ポリビニルカルバゾール)、BND(2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4―オキサジアゾール)、クマリン−6(3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン)を用い、PVK:BND:クマリン−6の重量比が160:40:1の混合物を用い、ジクロロエタン(溶媒)に前記混合物が2重量%となるように溶解した溶液を用いた。なお、PVKはホール輸送材、BNDは電子輸送材、クマリン−6は発光材としての機能を果たす。
【0101】
有機発光材料溶液をチュービングディスペンサを用いてバンク30内に滴下し、140℃の乾燥空気中で15分間乾燥させた。
【0102】
前記発光層15上に、対向電極層16を形成した。銀のナノコロイダルインク(日本ペイント(株) ファインスフェア SVW102)を、チュービングディスペンサを用いて、前記発光層15上に滴下し、140℃の乾燥空気中で15分間乾燥させ、対向電極層16を形成した。なお、銀粒子の平均粒径は約10nm、銀のナノコロイダルインクの溶媒は水である。
【0103】
前記対向電極層16の一部に重なるように、リード電極33を銀ペーストを用いて形成した。銀ペーストは網目状の金属層12を形成したものと同じ銀ペーストを用い、前記対向電極層16の一部から、バンクを越えて外側に導かれるように予め設定した配線形状となるようにスクリーン印刷により形成した。
【0104】
バンク30とその内側が全て覆われるように、ポリシラザン化合物を用いてガラスを形成し、上側封止層32を形成した。上側封止層32は、図2に示すように、透明電極層14およびリード電極33の一部を除いた部分が覆われるように形成される。
【0105】
チュービングディスペンサを用いて、バンク30とその内側が全て覆われるように、パーヒドロポリシラザンを含む溶液(アクアミカNP110(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)))を塗布し、室温で放置し、ガラスの上側封止層32を形成した。
【0106】
得られた発光装置を、透明電極層14を陽極、対向電極層16を陰極として印加電圧を20V加えたところ、輝度10cd(カンデラ)/mの緑色の発光が得られた。
【実施例2】
【0107】
実施例1と同様にして、図1および図2に示す発光装置を作成した。ただし、網目状の金属層12を金属ナノコロイダル粒子の自己組織化によって形成した。それ以外は実施例1と同様である。
【0108】
金属ナノコロイダル粒子は、金−銀のナノ粒子コロイダルインク(住友金属鉱山(株) 透明導電塗料(Au−Agインク) CKRシリーズ)を用い、チュービングディスペンサで基板上に塗布し、120℃乾燥空気中で15分乾燥させた。乾燥後の基板は透明であるが、TEM観察したところ、図4に示すような、金、銀のナノ粒子が網目状に配列した金属層が確認された。
【0109】
網目状の金属層12以外は実施例1と同じように作成された発光装置を、透明電極層14を陽極、対向電極層16を陰極として印加電圧を20V加えたところ、輝度10cd(カンデラ)/mの緑色の発光が得られた。
【実施例3】
【0110】
透明導電性高分子層13を低粘度の溶液を用いて形成した以外は、実施例1と同様にして、図1および図2に示す発光装置を作成した。
【0111】
透明導電性高分子は、PSSを含むPEDOT(アグファ−ゲバルト社 Orgacon S−300)を用い、バーコータによって塗布し、140℃の乾燥空気中で15分乾燥させた。用いたアグファ−ゲバルト社 Orgacon S−300は、実施例1で用いた、TYPE EL−P5020より粘度が低く、透明導電性高分子層13をより薄く形成することができる。
【0112】
得られた発光装置は、実施例1と同様、輝度10cd(カンデラ)/mの緑色の発光が得られた。
【0113】
(比較例1)
網目状の金属層12の代わりにITOを用いた以外は、実施例1と同様にして、図1および図2に示す発光装置を作成した。
【0114】
基板上にITOを形成させた市販のITO付きPETフィルム(東レ ハイビームNX01)を用いた。ITO付きPETフィルムのITOの上に、実施例1と同じ、PSSを含むPEDOT(アグファ−ゲバルト社 TYPE EL−P5020)を用い、250メッシュポリエステル製スクリーン印刷版を用いてスクリーン印刷して透明導電性高分子層13を形成し、透明電極層14を作成した。その後実施例1と同様にして、バンク30、発光層15、対向電極層16、リード電極33および上側封止層32を形成した。
【0115】
得られた発光装置を、透明電極層14を陽極、対向電極層16を陰極として印加電圧を20V加えたところ、輝度20cd(カンデラ)/mの緑色の発光が得られた。
【0116】
実施例1で形成された、網目状の金属層12と透明導電性高分子層13からなる透明電極層14のシート抵抗を測定したところ、1.5Ω/□であった。一方、比較例1でITO付きPETフィルムに透明導電性高分子層13を形成した透明電極層14のシート抵抗は、100Ω/□であり、本発明の透明電極層は抵抗が低いものであった。
【0117】
また、実施例1の発光装置は、輝度10cd(カンデラ)/mの発光(印加電圧:20V)が得られ、比較例1のITOを使用した透明電極を有する発光装置に比べて約半分の輝度の発光が得られた。
【0118】
さらに、発光装置の可撓性を以下のようにして評価した。
実施例1の発光装置が形成されている基板および比較例1の発光装置が形成されている基板に、それぞれ、(1)図8に示すようなφ5mmの丸棒を当てて180度折り曲げを与え、(2)平らな状態に戻し発光させる手順を1回とし、(1)と(2)を繰り返す試験を行った。
【0119】
実施例1の発光装置は、折り曲げを1000回与えた後、ところどころ発光ムラが発生したものの、発光装置はまだ発光していた。
【0120】
一方、比較例1の発光装置は、折り曲げを2回与えたところで、発光ムラが発生し、折り曲げを計10回与えたところで全く発光しなくなった。
以上から、実施例1および比較例1の発光装置の性能を表1に比較して示す。
【0121】
【表1】

【0122】
表1からわかるように、本発明の発光装置は、ITOを用いた透明電極を有する発光装置に比べて、約半分の輝度の発光が得られる一方、非常に優れた可撓性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の第1の形態の発光装置を示す斜視図、
【図2】本発明の第1の形態の発光装置を示す、図1のI−I線における断面図、
【図3】本発明の透明電極層を示す斜視図、
【図4】金属ナノコロイダル粒子の自己組織化によって得られる網目状の金属層を模式的に示す図、
【図5】本発明の第2の形態の発光装置を示す、図1のI−I線における断面図、
【図6】本発明の第3の形態の発光装置を示す斜視図、
【図7】本発明の第3の形態の発光装置を示す、図6のII−II線における断面図、
【図8】発光装置の可撓性を評価する試験方法を示す断面図、
【符号の説明】
【0124】
1,2 発光装置
3 発光機能領域
11 基板
12 網目状の金属層
13 透明導電性高分子層
14,24 透明電極層
15 発光層
16 対向電極層
22 下部電極層
30 バンク(封止壁)
31 下側封止層
32 上側封止層
33 リード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、順に透明電極層と、有機発光層および対向電極層とが積層された発光装置において、
前記透明電極層は、網目状に配列した金属と透明導電性高分子とで形成されることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
基板上に、順に下部電極層と、有機発光層および透明電極層とが積層された発光装置において、
前記透明電極層は、網目状に配列した金属と透明導電性高分子とで形成されることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
前記透明基板上または前記透明電極層上には、バンクで囲まれた発光機能領域が形成され、前記発光機能領域内部に前記透明電極層、有機発光層および対向電極層が形成されている請求項1記載の発光装置。
【請求項4】
前記基板上または前記下部電極層上には、バンクで囲まれた発光機能領域が形成され、前記発光機能領域内部に前記下部電極層、有機発光層および透明電極層が形成されている請求項2記載の発光装置。
【請求項5】
前記網目状に配列した金属は、金属粒子を溶媒に分散させた溶液を印刷して形成されたものである請求項1ないし4のいずれかに記載の発光装置。
【請求項6】
前記網目状に配列した金属は、金属のナノ粒子が網目状に配列したものである請求項1ないし4のいずれかに記載の発光装置。
【請求項7】
前記金属は銀である請求項1ないし6のいずれかに記載の発光装置。
【請求項8】
前記対向電極層または前記下部電極層は、銀のナノコロイダル粒子から形成された銀層である請求項1ないし7のいずれかに記載の発光装置。
【請求項9】
前記基板または透明基板は樹脂フィルムまたは樹脂基板である請求項1ないし8のいずれかに記載の発光装置。
【請求項10】
有機発光層を用いた発光装置の製造方法において、
(a)透明基板上に、金属粒子を溶媒に分散させた溶液を網目状に印刷して網目状の金属層を形成する工程と、
(b)前記網目状の金属層上に透明導電性高分子層を形成する工程と、
(c)前記透明導電性高分子層の上に有機発光層を形成する工程と、
(d)前記有機発光層の上に対向電極層を形成する工程と、
を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項11】
有機発光層を用いた発光装置の製造方法において、
(e)下部電極層を形成する工程と、
(f)前記下部電極層の上に有機発光層を形成する工程と、
(g)前記有機発光層の上に透明導電性高分子層を形成する工程と、
(h)前記透明導電性高分子層の上に金属粒子を溶媒に分散させた溶液を網状に印刷して網目状の金属層を形成する工程と、
を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項12】
前記(a)工程の代わりに、
(i)透明基板上に、金属のナノ粒子を塗布、乾燥させて、網目状の金属層を形成する工程、
を有する請求項10記載の発光装置の製造方法。
【請求項13】
前記(h)工程の代わりに、
(j)前記透明導電性高分子層の上に金属のナノ粒子を塗布、乾燥させて、網目状の金属層を形成する工程、
を有する請求項11記載の発光装置の製造方法。
【請求項14】
前記(b)工程の後に、
(k)透明基板上または前記透明導電性高分子層の上に、発光機能領域を囲むバンクを形成する工程、
を有し、前記発光機能領域に前記有機発光層および前記対向電極層を形成する請求項10または12記載の発光装置の製造方法。
【請求項15】
前記(e)工程の後に、
(l)基板上または前記下部電極層の上に、発光機能領域を囲むバンクを形成する工程、
を有し、前記発光機能領域に前記有機発光層および前記透明導電性高分子層および前記網目状の金属層を形成する請求項11または13記載の発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−130449(P2008−130449A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315943(P2006−315943)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】