説明

発光装置及び面発光モジュール

【課題】蛍光体膜と反射板開口部との位置決めを容易にして製造工程を簡素化するとともに、発光効率を向上させることができる発光装置を提供する。
【解決手段】アノードガラス板10を円板状に形成して中心部に円形の蛍光体膜15を形成し、アノードガラス板10とカソードガラス板11との間に配設される反射板9の中心部に蛍光体膜15と対向する開口部9aを形成するとともに、円筒ガラス材12に対して外縁を内接させた状態で反射板9を装入し、当該円筒ガラス材12の両端部をアノードガラス板10とカソードガラス板11によって真空封止する。これにより、蛍光体膜15に対し、反射板9の開口部9aを容易且つ高精度に位置決めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極電子放出源から電界放出された電子によって蛍光体を励起発光させる発光装置及び面発光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱電球や蛍光灯といった従来の発光装置に対し、真空中で冷陰極電子放出源から電界放出された電子を高速で蛍光体に衝突させることにより、蛍光体を励起発光させる冷陰極電界放出型の発光装置が開発されており、電界放出型照明ランプ(Field Emission Lamp:FEL)や電界放出型表示装置(Field Emission Display:FED)としての用途が見込まれている。
【0003】
これら発光装置のうち、特に、ランプ用の光源等に用途が特化されるFELは、ガラス基板が所定間隔で対向配置された真空容器内に、カソード電極やアノード電極等を配置した簡単な構成で実現することができる。
【0004】
この種のFELとして、例えば、特許文献1には、直方体形状の真空容器内に投光面側から基底面側に向かって、アノード電極、ゲート電極、カソード電極を順に配置し、アノード電極の上層に蛍光体膜を形成すると共に、ゲート電極上のアノード電極との対向領域に複数の円孔からなるゲート開口部を穿設した技術が開示されている。さらに、蛍光体膜から真空容器内に放射された光についても有効利用するため、特許文献1に開示されたFELでは、蛍光体膜に対向する領域に開口部を有する反射板が、アノード電極とゲート電極との間に配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】2007−329118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のようなFELにおいて、カソード側から放出された電子によって蛍光体膜を効率よく発光させるためには、ゲート開口部や反射板開口部等を蛍光体膜に対して精度良く位置決めすることが重要となる。しかしながら、上述のようなFELの製造には、各電極等を真空容器内に封止するための熱工程を必要とする。また、一般に、真空容器はガラス等で構成され、反射板等はアルミニウム等の金属で構成されるため、これらの線膨張係数は互いに異なる。従って、FELの製造に際しては、反射板等を真空容器側に対して直接的に接着等することができず、各部の位置決めが極めて困難となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、蛍光体膜と反射板開口部との位置決めを容易にして製造工程を簡素化するとともに、発光効率を向上させることができる発光装置及び面発光モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発光装置は、中心部に円形の蛍光体膜が塗布された円板状のアノードガラス板と、前記蛍光体膜に対向する電子放出源を備えたカソード板と、前記アノードガラス板と前記カソード板との間に配設され、中心部に前記蛍光体膜に対向する開口部を有すると共に当該開口部の周部に前記蛍光体膜で発光した光を反射する反射部を有する反射板と、前記反射板の外縁が内接する円筒材とを備え、前記反射板を装入した円筒材の両端部を、前記アノードガラス板と、前記カソード板によって真空封止したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の面発光モジュールは、前記発光装置を光源として複数配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蛍光体膜と反射板開口部との位置決めを容易にして製造工程を簡素化するとともに、発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】発光装置の要部を示す分解斜視図
【図2】電極ユニットの要部を示す分解斜視図
【図3】アノードガラス板を取り除いて発光装置の要部を示す平面図
【図4】発光装置を図3のIV−IV線に沿って示す要部断面図
【図5】図4のV−V線に沿う要部断面図
【図6】発光装置の組立工程を示す説明図
【図7】(a)はブレーキランプの要部断面図であり(b)は(a)のB−B線に沿う要部断面図
【図8】カソード板の変形例を示す要部断面図
【図9】カソード板の変形例を示す要部断面図
【図10】反射板の保持構造の変形例を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1において符号1は、発光装置を示し、本実施形態においては、例えば、平面状の投光面を有する電界放出型照明ランプを示す。この発光装置1は、高真空状態に維持された真空容器5内に、アノード電極6と、ゲート電極7と、カソード電極8とが投光面側から基底面側に向かって順に配置された基本構成を有し、さらに、アノード電極6とゲート電極7との間に反射板9が介装されている。
【0013】
真空容器5は、例えば、複数のガラス部材の接合体で構成されている。具体的には、真空容器5は、投光面側に配置されるアノードガラス板10と、このアノードガラス板10に対向して基底面側に配置されるカソード板としてのカソードガラス板11と、これらのガラス板10,11間に介装される円筒材としての円筒ガラス材12とを有する。
【0014】
図示のように、アノードガラス板10は、円筒ガラス材12の外径と略同径の円板状のガラス基板で構成されている。また、カソードガラス板11は、円筒ガラス材12の外径よりも大径の円板状のガラス基板で構成されている。このカソードガラス板11の縁辺部には、放射状に延在する複数(例えば、4本)の配線パターン11aが回転対称位置(例えば、1/4回対称位置)毎に形成され、各配線パターン11aの先端側には、電極ピン11bが固設されている。また、円筒ガラス材12の両端部には、例えば、450℃〜500℃で融解する低融点ガラス層12a,12bがそれぞれ形成されている。そして、例えば、高真空引きされた真空炉内において、ガラス板10,11と円筒ガラス材12とが低融点ガラス層12a,12bを介して同心上に融着されることにより、内部が高真空に維持された真空容器5が形成される。その際、低融点ガラス層12bとカソードガラス板11との融着部を各配線パターン11aが貫通することにより、真空容器5の内外が電気的に導通される。なお、真空容器5を構成するアノードガラス板10、カソードガラス板11、及び、円筒ガラス材12は、市場において広く安価に流通しているソーダライムガラス等を加工することにより好適に構成される。
【0015】
アノード電極6は、例えば、アノードガラス板10の内面上に成膜された透明導電膜(例えば、ITO膜)によって構成されている。ここで、本実施形態において、例えば、図1,6(a)に示すように、このアノード電極6は、円筒ガラス材12の内径よりも小径の円形に形成され、アノードガラス板10と同心上に配設されている。
【0016】
また、アノード電極6の上層には、カソード電極8側から放出される電子によって励起発光する蛍光体膜15が塗布されている。この蛍光体膜15は、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法、フォトグラフィ法、沈殿法、電着法等によって円形に成膜され、アノードガラス板10の中心部(同心上)に配置されている。
【0017】
さらに、アノード電極6の上層には、当該アノード電極6と後述する反射板9との的確な導通を実現するための導電膜16が形成されている。この導電膜16は、例えば、スクリーン印刷法等によって銀ペースト等を塗布することにより、蛍光体膜15と同心の略円環形状に成膜され、蛍光体膜15の周囲を所定間隔隔てて囲繞する。なお、アノードガラス板10の外面側において、導電膜16よりも内側の領域は、蛍光体膜15からの励起光を外部に投光するための投光面10aとして機能し、特に、導電膜16と蛍光体膜15とで囲まれた領域は、蛍光体膜15から真空容器5内(反射板9側)に放射された励起光を反射板9で反射して外部に放出させるための透明窓として機能する。
【0018】
ゲート電極7は、例えば、円板状の導電部材で構成され、その中央部に、蛍光体膜15に対応する開口部7aを有する。本実施形態において、この開口部7aは、蛍光体膜15と相似形状をなすものであり、より具体的には、蛍光体膜15の外径と同径或いは電子の拡散等を考慮したやや小径の円孔(例えば、φ=2.0mmの円孔)で構成されている。また、ゲート電極7の周部からは、カソードガラス板11上の配線パターン11aと電気接続するための端子部7bが突設されている。
【0019】
ここで、ゲート電極7は、線膨張係数の小さい導電材料で構成されることが好ましく、具体的には、ステンレス材若しくはインバー材からなる金属板で構成されることが好ましい。本実施形態において、ゲート電極7には、例えば、42%ニッケル鉄からなる板厚0.2mmの薄板部材が好適に用いられている。
【0020】
図2に示すように、カソード電極8は、例えば、導電部材で構成された基材20上に、冷陰極電子放出源21が実装されて要部が構成されている。さらに、基材20上には、冷陰極電子放出源21の周囲を囲繞する環状のスペーサ22が重畳配置され、このスペーサ22上には、冷陰極電子放出源21に所定の微小間隔隔てて対向する環状のエミッタマスク23が重畳配置されている。
【0021】
基材20は、例えば、ゲート電極7と同等の外径を有する円板状の部材で構成され、その周部からは、カソードガラス板11上の配線パターン11aと電気接続するための一対の端子部20aが回転対称位置(例えば、1/2回対称位置)毎に突設されている。さらに、各端子部20aには、カソード電極8をカソードガラス板11上に固定するための電極固定用ワイヤ20bがスポット溶接等によって固設されている(図5参照)。ここで、基材20は、ゲート電極7と同様に、線膨張係数の小さい導電材で構成されることが好ましく、具体的には、ステンレス材若しくはインバー材からなる金属板で構成されることが好ましい。本実施形態において、基材20には、例えば、42%ニッケル鉄からなる板厚0.2mmの薄板部材が好適に用いられている。また、電極固定用ワイヤ20bは、所定の弾性を有していることが好ましく、例えば、ニッケルワイヤが好適に用いられている。
【0022】
冷陰極電子放出源21は、例えば、表面にND−CNW(ナノダイヤ−カーボンナノウォール)層21bが一様に形成された板厚0.5mmの円板状をなすN型シリコン基板21aで構成されている。そして、この冷陰極電子放出源21は、基材20上に実装された際に、N型シリコン基板21aの裏面側が基材20と電気的に接続される。
【0023】
スペーサ22は、例えば、ゲート電極7と同等の外径を有する円環状の部材で構成されている。このスペーサ22は、線膨張係数の小さい導電材で構成されることが好ましく、例えば、基材20と同種の導電材料(例えば、42%ニッケル鉄)からなる、板厚0.75mmの薄板部材で構成されている。
【0024】
エミッタマスク23は、例えば、ゲート電極7と同等の外径を有する円板状の部材で構成され、その中央部に、蛍光体膜15(及びゲート電極7の開口部7a)に対応する開口部23aを有する。本実施形態において、この開口部23aは、蛍光体膜15(及びゲート電極7の開口部7a)と相似形状をなすものであり、より具体的には、ゲート電極7の開口部7aと同径或いは電子の拡散等を考慮したやや小径の円孔(例えば、φ=1.8mmの円孔)で構成されている。そして、エミッタマスク23は、スペーサ22を介して基材20と電気的に接続されることで基材20と同電位となり、これにより、開口部23aと対向する領域以外での冷陰極電子放出源21からの電子の電界放出が抑制される。従って、冷陰極電子放出源21は、エミッタマスク23の開口部23aと対向する領域のみが電子を放出可能な領域として規定される。このエミッタマスク23は、線膨張係数の小さい導電材で構成されることが好ましく、例えば、基材20及びスペーサ22と同種の導電材料(例えば、42%ニッケル鉄)からなる、板厚0.2mmの薄板部材で構成されている。
【0025】
図2,4に示すように、カソード電極8は、ゲート電極7の下部にスペーサ24を介して重畳配置され、電極ユニット3を構成する。そして、カソード電極8は、このように電極ユニット3として一体化された状態で、カソードガラス板11上に保持されている。
【0026】
具体的に説明すると、カソード電極8上において、開口部23aの周部には、エミッタマスク23及びスペーサ22を貫通する複数(例えば、4個)の孔部8hが回転対称位置(例えば、1/4回対称位置)毎に穿設されている。また、ゲート電極7上において、開口部7aの周部には、カソード電極8側の孔部8hに対応する複数(例えば、4個)の貫通孔7hが回転対称位置(例えば、1/4回対称位置)毎に穿設されている。
【0027】
また、スペーサ24は、ゲート電極7と同等の外径を有する円環状の部材で構成されている。スペーサ24の中心部に開口する開口部24aは、ゲート電極7の開口部7aよりも大径の円孔で構成され、その周部には、貫通孔7h及び孔部8hに対応する複数(例えば、4個)の貫通孔24hが回転対称位置(例えば、1/4回対称位置)毎に穿設されている。このスペーサ24は、ゲート電極7とカソード電極8との電気的な短絡を防止するため、例えば、絶縁性を有するセラミック部材で構成され、その板厚は、ゲート電極7とカソード電極8との対向距離を規定の下限値以上に設定すべく、例えば、1.0mmに設定されている。なお、下限値は、ゲート電極7からカソード電極8への有害な金属スパッタの発生を防止可能な距離であると同時に、ゲート電極7とカソード電極8との距離が近すぎて電界が有効に発生せず冷陰極電子放出源21から放出される電子が極端に少なくなることを防止可能な距離であり、例えば、0.1mm〜5mmの範囲に設定される。
【0028】
このようにスペーサ24を介してカソード電極8上にゲート電極7が重畳配置された積層体において、互いに位置決めされた各貫通孔7h,24h及び各孔部8hには、ピン25が挿入されると共に、セラミック系の無機接着剤26が充填されている。そして、ピン25が無機接着剤26を介して各貫通孔7h,24h及び孔部8hの内周に接着されることにより、カソード電極8は、ゲート電極7を一体的に保持し、電極ユニット3を構成する。
【0029】
ここで、カソード電極8とゲート電極7との電気的な短絡を防止するため、ピン25は、例えば、絶縁性を有するセラミックピンで構成されている。また、無機接着剤26は、アルミナ、マイカ、ソーダライムガラス、ニッケル、ニッケル鉄、ステンレス鋼等を好適に接着可能な接着剤である。
【0030】
図5に示すように、この電極ユニット3は、真空容器5内において、カソードガラス板11の中心部に配置されている。そして、カソード電極8の各端子部20aに設けられた電極固定用ワイヤ20bの端部がセラミック接着剤27を介してカソードガラス板11に接着されることにより、電極ユニット3は、熱膨張時等における所定の弾性変位が許容された状態で、カソードガラス板11上に位置決め保持されている。また、カソード電極8の各端子部20aには、カソードガラス板11上の4本の配線パターン11aのうちの2本が、ボンディングワイヤ28を介して電気的に接続されている。さらに、ゲート電極7の端子部7bには、他の1本の配線パターン11aが、ボンディングワイヤ29を介して電気的に接続されている。
【0031】
反射板9は、例えば、導電性を有する板金部材で構成され、その中央部に蛍光体膜15に対応する開口部9aを有する。この開口部9aは、蛍光体膜15(及びゲート電極7の開口部7a)と相似形状をなすものであり、より具体的には、蛍光体膜15と同径或いはやや小径の円孔であって、ゲート電極7の開口部7aよりもやや大径或いは同径の円孔で構成されている。
【0032】
また、開口部9aの周部には反射部9bが設けられ、この反射部9bには、アノードガラス板10との対向面側に、例えば、回転放物面形状の反射面9cが形成されている。
【0033】
さらに、反射部9bの外周部には、アノードガラス板10上の導電膜16と略同形状をなす略円環状の外向フランジ部9dが設けられ、この外向フランジ部9dの周部には、開口部9aと同心の回転対称位置(例えば、1/4回対称位置)から外周方向に放射状に延在する複数(例えば、4本)の脚部9eが設けられている。各脚部9eは、先端部が円筒ガラス材12の内周面に当接可能な互いに等長の部材で構成され、その中途には、円筒ガラス材12側からの応力に対して弾性変形を許容するための湾曲部9fが形成されている。
【0034】
図4に示すように、反射板9は、外向フランジ部9dがアノードガラス板10上の導電膜16に当接するとともに、各脚部9eの先端が円筒ガラス材12に内接した状態で、真空容器5内に配置されている。ここで、真空容器5内には、円筒ガラス材12の内周に摺接する内筒部材35が設けられ、この内筒部材35は、先端部がアノードガラス板10側に付勢された状態で、円筒ガラス材12の内周にフリットガラス36を介して固定されている。そして、この内筒部材35の先端部とアノードガラス板10との間に各脚部9eが挟持されることにより、反射板9は、真空容器5内に保持されている。なお、内筒部材35は、円筒ガラス材12と同一の材料で構成されることが好ましく、例えば、ソーダライムガラス等を加工することにより好適に構成されている。
【0035】
また、図1,4,5に示すように、カソードガラス板11上の4本の配線パターン11aのうち、端子部7b,20aが接続されていない残り1本の配線パターン11a上には、バネ性電極37の基部がセラミック接着剤38を介して固設されている。このバネ性電極37は、円筒ガラス材12及び内筒部材35の内面に沿って反射板9側に延在され、内筒部材35の内方に湾曲形成された先端部が反射部9bに弾性接触されている。これにより、反射板9は、アノード電極6と共に、配線パターン11aに対して電気的に接続されている。
【0036】
次に、上述の発光装置1製造方法について、図6を参照して説明する。
この製造工程では、例えば、図6(a)に示すように、先ず、アノードガラス板10に対し、円筒ガラス材12が、低融点ガラス層12aを介して融着される。この場合において、アノードガラス板10及び円筒ガラス材12は共に外周形状が円形をなし、しかも、アノード電極6、蛍光体膜15、及び、導電膜16はアノードガラス板10の中心を基準とする円形或いは略円環形状に形成されているため、アノードガラス板10と円筒ガラス材12とを融着する際の位置決めを容易且つ正確に行うことができる。特に、本実施形態においては、アノードガラス板10の外径と円筒ガラス材12の外径とが互いに等しく設定されているため、より容易に位置決めを行うことができる。
【0037】
次いで、例えば、図6(b)に示すように、円筒ガラス材12内に、反射板9が挿入される。この場合において、反射板9は、中心部に円形の開口部9aを有し、且つ、反射板9の中心に対して回転対称に形成された複数の脚部9eの先端が円筒ガラス材12に内接する構成であるため、円筒ガラス材12内に挿入するだけの簡単な作業により、蛍光体膜15に対して開口部9aを的確に位置決めすることができる。
【0038】
さらに、円筒ガラス材12内に内筒部材35が挿入され、当該内筒部材35がアノードガラス板10側に付勢された状態でフリットガラス36を介して円筒ガラス材12の内周に固設される。これにより、反射板9の脚部9eは、円筒ガラス材12内において、アノードガラス板10と内筒部材35との間で挟持される。その際、反射板9の外向フランジ部9dが導電膜16に押し当てられることにより、反射板9とアノード電極6とが電気的に接続される。
【0039】
次いで、例えば、図6(c)に示すように、カソードガラス板11の中心部に電極ユニット3が実装される。すなわち、電極ユニット3がカソードガラス板11の中心部に位置決めされた状態で、電極固定用ワイヤ20bの端部がセラミック接着剤27を介してカソードガラス板11上に接着されるとともに、カソード電極8の各端子部20a及びゲート電極7の端子部7bがボンディングワイヤ28,29を介して各配線パターン11aに電気的に接続される。この場合において、カソードガラス板11及び電極ユニット3は共に外周形状が円形をなし、しかも、冷陰極電子放出源21及び各開口部7a,24a,23a,22a等は電極ユニット3の中心を基準とする円形に形成されているため、カソードガラス板11と電極ユニット3との位置決めを容易且つ正確に行うことができる。
【0040】
さらに、各端子部20a或いは7bが接続されていない配線パターン11a上には、バネ性電極37がセラミック接着剤38を介して固定され、電気的に接続される。この場合、例えば、図4,5に示したように、バネ性電極37は、端部の1箇所のみがセラミック接着剤38を介してカソードガラス板11側に固定される。
【0041】
次いで、例えば、図6(d)に示すように、真空炉40内において、電極ユニット3及びバネ性電極37が実装されたカソードガラス板11に対し、アノードガラス板10が固着された円筒ガラス材12が、低融点ガラス層12bを介して融着(真空封止)される。この場合において、アノードガラス板10、カソードガラス板11、及び、円筒ガラス材12は共に外周形状が円形をなし、しかも、蛍光体膜15、電極ユニット3、及び、反射板9等は、何れも各円の中心を基準として配置された円形形状或いは回転対称形状等をなすため、カソードガラス板11と円筒ガラス材12とを融着する際の位置決めを容易且つ正確に行うことができる。すなわち、蛍光体膜15、反射板9の開口部9a、ゲート電極7の開口部7a、カソード電極8の開口部23a、及び、冷陰極電子放出源21等を、精度良く同軸上で対向配置することができる。なお、このとき、バネ性電極37は反射板9に当接され、これらが電気的に接続される。
【0042】
この工程においては、低融点ガラス層12bを融解させるための熱処理を伴うが、脚部9eに形成された湾曲部9fの弾性変形によって反射板9の熱変形による歪み等が均等に吸収されることにより、反射板9は、蛍光体膜15等に対して同軸上に対向させたまま維持される。同様に、電極固定用ワイヤ20bの弾性変形によって電極ユニット3の熱変形による歪み等が均等に吸収されることにより、電極ユニット3は、蛍光体膜15等に対して同軸上に対向させたまま維持される。また、バネ性電極37は、カソードガラス板11側に対して1箇所のみで固定されているため、熱変形等が発生した場合にも脱落されることがない。
【0043】
このような構成による発光装置1は、カソード電極8に対してアノード電極6を正の高電位に維持し、ゲート電極7でカソード電極8に印加するゲート電圧を制御して蛍光体膜15を発光させ、アノードガラス板10から外部へ光を出射させる。すなわち、冷陰極電子放出源21に電界が印加され、冷陰極電子放出源21を形成する固体の表面に電界が集中すると、固体表面から電子が真空中に放出され、この電界放出された電子がアノード電極6に向かって加速され、ゲート電極7及び反射板9の各開口部7a,9aを通過した電子線が蛍光体膜15に照射される。そして、この電子線の照射により、蛍光体膜15が励起され発光する。
【0044】
このとき、発光装置1の投光面10aから外部に放射される光は、発光体膜15からアノードガラス板10に向けて直接放射される光と、発光体膜16から真空容器5内に放射され、反射面9cで反射された後に放射される光とで構成される。そして、このように真空容器5内に放射された光を有効利用することにより、大幅な光量の増加と消費電力の抑制とを両立することができる。
【0045】
このような実施形態によれば、アノードガラス板10を円板状に形成して中心部に円形の蛍光体膜15を形成し、アノードガラス板10とカソードガラス板11との間に配設される反射板9の中心部に蛍光体膜15と対向する開口部9aを形成するとともに、円筒ガラス材12に対して外縁を内接させた状態で反射板9を装入し、当該円筒ガラス材12の両端部をアノードガラス板10とカソードガラス板11によって真空封止することにより、蛍光体膜15に対し、反射板9の開口部を9aを容易且つ高精度に位置決めすることができる。従って、冷陰極電子放出源21から放出された電子を、反射板9の位置ズレ等に起因して損失させることなく蛍光体膜15に到達させることができ、発光効率を向上させることができる。
【0046】
この場合において、円筒ガラス材12に対する反射板9の内接は、開口部9aと同心の回転対称形状をなす弾性変形可能な複数の脚部9eによって行うことにより、製造時の熱変形等に対しても、蛍光体膜15と開口部9aとの相対位置を的確に維持することができる。
【0047】
ところで、上述の発光装置1は、例えば、車両用のヘッドランプやテールランプ等の各種面発光モジュールの光源として好適に用いることが可能である。例えば、複数の発光装置1をテールランプ50の光源として適用する場合、図7に示すように、テールランプ50のレンズ部51に意匠上要求される曲面形状に対応させて各実装面52を段状に形成し、これら実装面52に各発光装置1を実装することにより、任意の外観形状をなすテールランプ50を容易に実現することができる。
【0048】
すなわち、例えば、大型な単一の発光装置を用いてテールランプ等を構成した場合、所望の形状に応じた大容量の真空容器を形成する必要があるが、このような大容量の真空容器は、耐久性等を確保するため各部の板厚等を厚くする必要があり、重量及びコストが増加する。また、テールランプに要求される形状に応じてアノードガラス板を湾曲等させることは、製造上、現実的でない。これに対し、上述のように、複数の小型な発光装置1を光源として採用することにより、テールランプ50等の面発光モジュールを容易に実現することができる。すなわち、円筒形状を基本形状とする小型の発光装置1を光源とすることにより、重量増加等を招くことなく真空容器5の耐久性を確保することができる。しかも、各発光装置1のアノードガラス板10を、テールランプ等の形状に拘束されることなく平坦に形成することができるため、製造上も有利なものとなる。
【0049】
ここで、本実施形態のカソードガラス板11は、円板状のものに限定されるものではなく、例えば、図8に示すように矩形のものを採用してもよい。このように構成すれば、面発光モジュールを構成する際の実装効率を向上することができる。
【0050】
さらに、カソードガラス板11を、アノードガラス板10及び円筒ガラス材12と同径の円板状の部材で構成することも可能である。この場合、例えば、図9に示すように、配線パターン11aに対応するカソードガラス板11上の要所に貫通孔11cを設け、電極ピン11bが貫通された貫通孔11cを低融点ガラス11d等によって封止することにより、真空容器5を構成することも可能である。
【0051】
また、蛍光体膜15に対して反射板9の開口部9aを位置決めするための構成は、上述のように、脚部9eの内接によるものに限定されるものではなく、例えば、円筒ガラス材12等に対して反射板9の熱変形量が小さい場合には、脚部9eを廃止し、外向フランジ部9dの外周を円筒ガラス材12に内接させる構成を採用することも可能である。さらに、例えば、内筒部材35等を用いることなく、円筒ガラス材12に形成した段部12cによって反射板9を保持する構成を採用することも可能である。
【0052】
なお、上述の実施形態において、円筒ガラス材12に脚部9eを内接させることによって反射材9の位置決めを行う場合、脚部9eの本数は上述の4本に限定されるものではなく、2本以上、より好ましくは、3本以上であってもよいことは勿論である。
【0053】
また、上述の実施において、真空容器5は、カソードガラス板11及び円筒ガラス材12に代えて、例えば、セラミック製のカソード板及び円筒材等を用いて構成することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 … 発光装置
3 … 電極ユニット
5 … 真空容器
6 … アノード電極
7 … ゲート電極
7a … 開口部
7b … 端子部
7h … 貫通孔
8 … カソード電極
8h … 孔部
9 … 反射板
9a … 開口部
9b … 反射部
9c … 反射面
9d… 外向フランジ部
9e … 脚部
9f … 湾曲部
10 … アノードガラス板
10a … 投光面
11 … カソードガラス板
11a … 配線パターン
11b … 電極ピン
11c … 貫通孔
11d … 低融点ガラス
12 … 円筒ガラス材
12a … 低融点ガラス層
12b … 低融点ガラス層
12c … 段部
15 … 蛍光体膜
16 … 導電膜
20 … 基材
20a … 端子部
20b … 電極固定用ワイヤ
21 … 冷陰極電子放出源
21a … N型シリコン基板
21b … ナノダイヤ−カーボンナノウォール層
22 … スペーサ
23 … エミッタマスク
23 … カソード電極
23a … 開口部
24 … スペーサ
24a … 開口部
24h … 貫通孔
25 … ピン
26 … 無機接着剤
27 … セラミック接着剤
28 … ボンディングワイヤ
29 … ボンディングワイヤ
35 … 内筒部材
36 … フリットガラス
37 … バネ性電極
38 … セラミック接着剤
40 … 真空炉
50 … テールランプ(面発光モジュール)
51 … レンズ部
52 … 実装面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に円形の蛍光体膜が塗布された円板状のアノードガラス板と、
前記蛍光体膜に対向する電子放出源を備えたカソード板と、
前記アノードガラス板と前記カソード板との間に配設され、中心部に前記蛍光体膜に対向する開口部を有すると共に当該開口部の周部に前記蛍光体膜で発光した光を反射する反射部を有する反射板と、
前記反射板の外縁が内接する円筒材とを備え、
前記反射板を装入した円筒材の両端部を、前記アノードガラス板と、前記カソード板によって真空封止したことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記反射板は、前記開口部と同心の回転対称位置から外周方向に延在する弾性変形可能な複数の脚部を有し、前記各脚部の先端が前記円筒材に内接することを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記反射板は、前記開口部と同心の円環状の外向フランジ部を有し、当該外向フランジ部の外周が前記円筒材に内接することを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項4】
前記アノードガラス板は、前記蛍光体膜の下層に形成された透明電極膜と導通する環状の導電パターンを有し、
前記反射板は、前記反射部の外周側が前記導電パターに当接することにより前記透明電極膜と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の発光装置を光源として複数配置したことを特徴とする面発光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−225319(P2010−225319A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68479(P2009−68479)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 電気自動車用の超高効率な省エネ型ランプの研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】