説明

発光装置

【課題】低消費電力化、高発光効率化、および長寿命化が可能な発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置10は、ガスが封入された気密容器1と、ガス中へ電子を供給する電子エミッタ2と、気密容器1内に形成された蛍光体層3と、電子を回収する電子回収電極4と、電極に電圧を印加する電圧印加部5とを備えている。電圧印加部5は、電子エミッタ2の表面電極22−下部電極21間に駆動電圧を印加することにより、電子エミッタ2から電子を放出させる。また、電圧印加部5は、電子回収電極4−表面電極22間に電子回収電極4を高電位側とする回収電圧を印加することによって、電子を電子回収電極4に回収させる。電圧印加部5は、表面電極22−下部電極21間に印加される駆動電圧と、電子回収電極4−表面電極22間に印加される回収電圧との大小関係が交互に入れ替わるように、印加する電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器内に封入されているガスの発光過程で放射される励起光を蛍光体により波長変換して励起光よりも長波長の光を出力する発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心が高まっており、水銀を用いずにたとえばキセノンガスなどの希ガスを透光性の気密容器内に封入した希ガス蛍光ランプのような発光装置が注目されている。
【0003】
しかしながら、希ガス蛍光ランプは、希ガスのグロー放電の安定性や、高圧パルス駆動等について解決すべき課題が多く、さらに水銀を用いた従来の蛍光ランプに比べて発光効率が低い。そのため、希ガス蛍光ランプにおいて従来の蛍光ランプと同等の明るさを実現するためには、透光性の気密容器内に配置された一対の放電用電極により高い放電開始電圧(始動電圧)および放電維持電圧を印加しなければならないという問題がある。
【0004】
これに対し、キセノンガスなどの希ガスからなるガスが封入された透光性の気密容器内に、一対の放電用電極とは別に電界放射型の電子エミッタ(電子源)を配置した発光装置が提案されている(たとえば特許文献1参照)。この発光装置では、一対の放電用電極間に電圧を印加する前に電子エミッタを駆動して電子を放出させることにより、放電開始電圧を低下させることができる。なお、特許文献1記載の発光装置では、気密容器の内面の適宜部位に、ガスの放電により発生した紫外線光(励起光)により励起されて発光する蛍光体からなる蛍光体層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−150944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記発光装置では、気密容器内にキセノンガスのイオン化エネルギ(12.13eV)以上の電子を供給する必要があるが、キセノンガスのイオン化エネルギはキセノンガスから紫外線を発生させるのに必要な励起エネルギ(8.44eV)よりも大きい。そのため、電子エミッタの駆動用電極間に印加する電圧が大きくなり、低消費電力化および単位入力電力当たりの発光効率の高効率化が制限されるとともに、電子エミッタの寿命が短くなるという懸念がある。
【0007】
また、特許文献1記載の発光装置では、放電プラズマのイオンが電子エミッタや蛍光体に衝突することにより電子エミッタや蛍光体にダメージを与え、結果的に発光装置の寿命が短くなるという問題もある。
【0008】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、低消費電力化、高発光効率化、および長寿命化が可能な発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために第1の発明では、真空紫外から可視光の波長域で発光可能なガスが封入され少なくとも一部が透光性材料により形成された気密容器と、一対の駆動用電極を有し当該駆動用電極間へ駆動電圧が印加されると少なくとも前記ガスの励起エネルギ以上のエネルギを有する電子を含む高エネルギ電子を前記ガス中へ供給する電子エミッタと、前記気密容器内に配置され励起された前記ガスの発光過程で放射される励起光によって励起されて発光する蛍光体層と、前記気密容器内において前記電子エミッタに対向配置され、前記電子エミッタとの間に回収電圧が印加されることにより電子を回収する電極であって前記回収電圧が高くなるほど電子の回収量が増加する電子回収電極と、前記電子エミッタの前記駆動用電極間に印加する前記駆動電圧および前記電子エミッタと前記電子回収電極との間に印加する前記回収電圧のそれぞれを制御する電圧印加部とを備え、前記電圧印加部は、前記駆動電圧が高い期間に前記回収電圧を低くし、前記駆動電圧が低い期間に前記回収電圧を高くすることを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、前記電圧印加部は、前記駆動電圧と前記回収電圧とが同時に印加されることがないように、前記駆動電圧を印加する期間と前記回収電圧を印加する期間とを時間軸方向において異ならせていることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、第1または第2の発明において、前記電圧印加部は、前記駆動電圧および前記回収電圧として矩形波状の電圧を印加することを特徴とする。
【0012】
第4の発明では、第1の発明において、前記電圧印加部は、前記駆動電圧および前記回収電圧として三角波状または正弦波状の電圧を印加し、前記駆動電圧と前記回収電圧とは、同時に印加されている期間に放電が生じないように、それぞれの大きさが設定されていることを特徴とする。
【0013】
第5の発明では、第1の発明において、前記電圧印加部は、前記駆動電圧として矩形波状の電圧を印加し、前記回収電圧として三角波状または正弦波状の電圧を印加することを特徴とする。
【0014】
第6の発明では、第1ないし第5のいずれかの発明において、前記気密容器は、前記電子エミッタから放射された電子が照射する面側に前記蛍光体層が形成された基台を有し、前記電子回収電極は、前記基台に形成されていることを特徴とする。
【0015】
第7の発明では、第1ないし第5のいずれかの発明において、前記電子回収電極は、前記電子エミッタから放出された電子および前記ガスを通過させる透孔が形成されており、前記電子エミッタと前記蛍光体層との間であって前記電子エミッタ寄りの位置に配置されていることを特徴とする。
【0016】
第8の発明では、第7の発明において、前記電子回収電極は、メッシュ状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
第9の発明では、第1ないし第8のいずれかの発明において、前記電子エミッタは、互いに対向する一対の前記駆動用電極を有し、両駆動用電極間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶と、前記各半導体微結晶それぞれの表面に形成され前記半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子ドリフト層とをさらに備えた弾道電子面放出型電子源からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、低消費電力化、高発光効率化、および長寿命化が可能になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1の発光装置の概略構成図である。
【図2】同上に用いる電子源の要部説明図である。
【図3】同上の動作説明図である。
【図4】同上の特性説明図である。
【図5】同上の他の例を示す動作説明図である。
【図6】実施形態2の発光装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態1)
本実施形態の発光装置10は、図1に示すように、ガスが封入された気密容器1と、気密容器1内のガス中へ電子を供給する電子エミッタ2と、気密容器1の内面側に形成された蛍光体層3とを備えている。さらに、発光装置10は、ガス中に供給された電子を回収する電子回収電極4と、電子エミッタ2の駆動用電極(21,22)間および電子エミッタ2−電子回収電極4間にそれぞれ電圧を印加する電圧印加部5とを備えている。
【0021】
気密容器1は、矩形板状のリヤプレート11と、リヤプレート11の一表面側に対向して配置された矩形板状のフェースプレート12と、リヤプレート11とフェースプレート12との間に介在する矩形枠状のスペーサ13とを有する。リヤプレート11およびフェースプレート12は、いずれも透光性材料(たとえばガラス)からなり、スペーサ13と共にガスが封入される気密空間を形成する。フェースプレート12は、電子エミッタ2から放射された電子が照射する面側に蛍光体層3が形成された基台を構成する。
【0022】
リヤプレート11におけるフェースプレート12との対向面側には電子エミッタ2が配置され、フェースプレート12における電子エミッタ2との対向面側には電子回収電極4が配置される。さらに、電子回収電極4における電子エミッタ2との対向面側には蛍光体層3が形成されている。なお、気密容器1の形状は特に限定するものではない。また、リヤプレート11、フェースプレート12、スペーサ13の材料はガラスに限らず、たとえば透光性セラミックなどでもよい。また、本実施形態では気密容器1は全体が透光性材料により形成されているが、これに限らず、少なくとも一部が透光性材料により形成されていればよい。
【0023】
気密容器1に封入されるガスは、電子エミッタ2から供給される電子により励起されることによって真空紫外〜可視光域の光を発生するガスであって、本実施形態では一例としてキセノンガスとする。ガスが励起されることにより発光過程で放射する光は、蛍光体層3を励起して可視光を発生する。つまり、電子エミッタ2からガスに電子が供給されてガスが励起されると、ガスで発生した光が蛍光体層3で可視光に波長変換され気密容器1を通して放射されることになる。なお、図1中、直線の矢印は電子エミッタ2から放出される電子を表し、波線の矢印は励起されたガスの発光過程で放射される光を表している。
【0024】
電子エミッタ2は、弾道電子面放出型電子源(Ballistic electronSurface-emitting Device:BSD)からなる。この電子エミッタ2は、互いに対向する一対の駆動用電極を構成する下部電極21および表面電極22と、下部電極21と表面電極22との間に介在する電子ドリフト層23とを有する。下部電極21は、リヤプレート11におけるフェースプレート12との対向面側に形成された金属膜(たとえばタングステン膜)から構成され、表面電極22は、膜厚が10〜15nm程度の導電性薄膜(たとえばAu膜)などにより構成される。ただし、下部電極21、表面電極22の材料は特に限定するものではなく、いずれも単層膜に限らず多層膜であってもよい。
【0025】
電子ドリフト層23は、図2に示すように、少なくとも下部電極21の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)24と、グレイン24の表面側に形成された薄いシリコン酸化膜25とを有する。さらに、電子ドリフト層23は、グレイン24間に存在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)26と、各シリコン微結晶26の表面に形成された多数のシリコン酸化膜27とを有している。このシリコン酸化膜27は、シリコン微結晶26の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である。ここに、各グレイン24は、下部電極21の厚み方向(つまりリヤプレート11の厚み方向)に延びている。
【0026】
上述の電子エミッタ2から電子を放出させるには、表面電極22が下部電極21に対して高電位側となるように表面電極22−下部電極21間に電圧印加部5の駆動用電源51(図1参照)から電圧を印加する。これにより、下部電極21から電子ドリフト層23へ注入された電子が電子ドリフト層23をドリフトし、表面電極22を通して放出される。
【0027】
上述の電子エミッタ2は、表面電極22と下部電極21との間に印加する電圧を10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができる。なお、本実施形態の電子エミッタ2は、電子放出特性の真空度依存性が小さく、且つ電子放出時にポッピング現象が発生せず安定して、高い電子放出効率で電子を放出することができるという特徴を有する。
【0028】
上記電子エミッタ2の基本構成は周知であり、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極22と下部電極21との間に表面電極22を高電位側として電圧を印加することにより、下部電極21から電子ドリフト層23へ電子eが注入される。一方、電子ドリフト層23に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜27にかかるから、注入された電子eはシリコン酸化膜27にかかっている強電界により加速される。そのため、電子eは電子ドリフト層23におけるグレイン24の間の領域を表面に向かって図2中の矢印の向き(図2の上向き)へドリフトし、表面電極22をトンネルし放出される。しかして、電子ドリフト層23では下部電極21から注入された電子がシリコン微結晶26でほとんど散乱されることなく、シリコン酸化膜27にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極22を通して放出される(弾道型電子放出現象)。さらに、電子ドリフト層23で発生した熱はグレイン24を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。
【0029】
なお、上述の電子ドリフト層23では、シリコン酸化膜27が絶縁膜を構成しており絶縁膜の形成に酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスないし酸窒化プロセスを採用してもよい。窒化プロセスを採用した場合には、各シリコン酸化膜25,27がいずれもシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜25,27がいずれもシリコン酸窒化膜となる。また、本実施形態では、電子エミッタ2をリヤプレート11の一表面側に直接形成してあるが、電子エミッタ2の下部電極21をシリコン基板とシリコン基板の裏面側のオーミック電極とで構成し、リヤプレート11の一表面側に配置してもよい。
【0030】
電子回収電極4は、蛍光体層3からの可視光を透過させる透明電極(たとえばITO膜など)からなる。電子回収電極4は、気密容器1内において電子エミッタ2と対向するようにフェースプレート12の内面側(リヤプレート11との対向面側)に形成されている。図1の例では、電子回収電極4はスペーサ13で囲まれた気密空間にのみ形成されているが、これに限らずフェースプレート12のリヤプレート11との対向面の全面に形成されていてもよい。なお、電子エミッタ2の下部電極21についても同様に、リヤプレート11のフェースプレート12との対向面の全面に形成されていてもよい。
【0031】
電圧印加部5は、電子エミッタ2の表面電極22−下部電極21間に電圧を印加する駆動用電源51と、電子回収電極4−表面電極22間に電圧を印加する回収用電源52と、駆動用電源51および回収用電源52それぞれを制御する制御部53とを有する。制御部53は、マイクロコンピュータなどで構成されている。
【0032】
制御部53は、駆動用電源51から表面電極22−下部電極21間に表面電極22側を高電位とする電圧(以下、「駆動電圧」という)を印加することにより、電子エミッタ2から電子を放出させる。このとき、制御部53は、電子のエネルギ分布のピークエネルギが、気密容器1内に封入されているキセノンガスの励起エネルギよりも大きく、且つキセノンガスのイオン化エネルギよりも小さくなるように駆動電圧を制御する。本実施形態では、電子エミッタ2の駆動時に表面電極22−下部電極21間に印加する駆動電圧を20Vとしており、電気エネルギ分布のピークエネルギを10eV程度としてある。これにより、電子エミッタ2は、キセノンガスを放電させずにキセノンガスを励起させることができる。なお、駆動電圧が高くなるほど、電子エミッタ2から放出される電子の運動エネルギおよび電子の数が増加するため、キセノンガスが励起される確率は高くなる。
【0033】
また、制御部53は、回収用電源52から電子回収電極4−表面電極22間に電子回収電極4を高電位側とする電圧(以下、「回収電圧」という)を印加することによって、電子エミッタ2から放出された電子を電子回収電極4に回収させる。電子回収電極4は、回収電圧が高くなるほど電子の回収量が増加する。このように電子を回収することにより、気密容器1内に電子が溜まってしまうことを回避することが可能になる。
【0034】
すなわち、電子エミッタ2から放出された電子が気密容器1内のガス中に溜まってくると、溜まった電子が新たに電子エミッタ2から放出される電子を妨げるバリアとなることがある。言い換えれば、気密容器1内に溜まった電子と新たに電子エミッタ2から放出される電子とが反発し合うことにより、電子エミッタ2からの電子の放出が妨げられることになる。電子エミッタ2からの電子の放出効率が低下すると、キセノンガスが励起される確率が低下して発光効率が低下することになる。なお、気密容器1内に溜まった電子自体は運動エネルギを持たないため、ガスの発光には寄与しない。
【0035】
そこで、本実施形態では、上述のように電子回収電極4−表面電極22間に回収電圧を印加することによって気密容器1内に溜まった電子を電子回収電極4にて回収し、電子エミッタ2からの電子の放出効率を向上させ、発光効率を向上させている。
【0036】
さらに、本実施形態の発光装置10では、電子エミッタ2−電子回収電極4間の間隔をパッシェンミニマムよりも大きな1cmとしてあり、ガスの放電が生じにくいものとなっている。なお、電子エミッタ2−電子回収電極4間の間隔は1cmに限定されるものではない。
【0037】
ところで、制御部53は、表面電極22−下部電極21間に印加される駆動電圧と、電子回収電極4−表面電極22間に印加される回収電圧との大小関係が交互に入れ替わるように、駆動用電源51および回収用電源52のそれぞれを制御する。要するに、電圧印加部5は、駆動電圧が高い期間に回収電圧を低くし、駆動電圧が低い期間に回収電圧を高くするように、駆動電圧および回収電圧のそれぞれを制御する。
【0038】
本実施形態では、制御部53は、駆動電圧と回収電圧とを同時に印加することがないように、駆動電圧を印加する期間と回収電圧を印加する期間とを時間軸方向において異ならせている。具体的には、図3に示すように交互にオンとなる矩形波状のパルス電圧を駆動電圧V1、回収電圧V2として用いている。図3の例では、駆動電圧V1がオフしてから回収電圧V2がオンするまでに若干の時間ずれがあり、同様に、回収電圧V2がオフしてから駆動電圧V1がオンするまでに若干の時間ずれがある。つまり、表面電極22−下部電極21間と電子回収電極4−表面電極22間とに同時に電圧が印加されることはなく、いずれか一方にのみ電圧が印加されることになる。
【0039】
したがって、駆動電圧が印加されている期間には、電子エミッタ2からキセノンガス中に電子が供給されることになり、この電子が電子回収電極4−表面電極22間の電界により加速されることはない。一方、回収電圧が印加されている期間には、電子エミッタ2からの電子の供給が停止し、電子回収電極4で電子が回収される。駆動用電源51および回収用電源52は、同時に電圧を印加すると放電を生じるが単独で電圧を印加しても放電を生じないように、印加する電圧(駆動電圧、回収電圧)の大きさが設定されるものとする。
【0040】
ここにおいて、回収電圧が印加されている期間には、電子回収電極4−表面電極22間の電子が電子回収電極4側に吸引されるため、電子回収電極4−表面電極22間に存在するガスの原子(ここではキセノン原子)に電子が衝突することがある。このとき、電子が電子回収電極4−表面電極22間の電界により得るエネルギは、電子回収電極4と表面電極22との間の電界強度とガス中における電子の平均自由行程との積に依存する。電界強度は、電子回収電極4―表面電極22間に印加される電圧と電子回収電極4−表面電極22間の距離とに依存する。平均自由行程は、気密容器1内のガスの種類やガス圧に依存する。
【0041】
本実施形態では、ガス圧を5kPaに設定してあり、電子の平均自由行程が短く、電子エミッタ2から放出された電子が電界により得るエネルギは、電子エミッタ2から放出される電子のエネルギ分布のピークエネルギに比べて小さい。そのため、回収電圧が印加されている期間においても、駆動電圧が印加されている期間と同様に放電が生じることはない。
【0042】
電子回収電極4と表面電極22との距離を1cm、ガス圧を5kPaとして、回収電圧(電子回収電極4−表面電極22間の電圧)を変化させたときの紫外光の発光強度を光電子増倍管により測定した結果を図4に示す。図4からは、回収電圧を増加させることにより紫外線の発光強度が増加する傾向にあることが分かる。これは、回収電圧の増加に伴い電子のエネルギ分布のピークエネルギが高エネルギ側へシフトし、キセノンガスが励起される確率が増加するためであると推測される。
【0043】
以上説明した構成により、発光装置10は、電圧印加部5にて駆動電圧を制御することにより、ガスを放電させずに励起させ、励起されたガスの発光過程で放射される光(以下「励起光」という)を蛍光体層3の蛍光体で可視光に波長変換して出力する。そのため、ガスを放電させて蛍光体層3を発光させる場合に比べて、電子エミッタ2に印加する電圧を低減でき低消費電力化を図ることができる。さらに、放電プラズマのイオンに起因して電子エミッタ2や蛍光体層3がダメージを受けることもないので、長寿命化を図れる。
【0044】
また、本実施形態では、電圧印加部5は駆動電圧と回収電圧とを交互に印加するので、駆動電圧と回収電圧とを同時に印加する場合に比べて、放電の発生を確実に防止できるという利点がある。つまり、駆動電圧と回収電圧とを同時に印加すると、駆動電圧により電子エミッタ2から放出された電子が電子回収電極4−表面電極22間の電界により加速され、放電が生じやすくなる。これに対して、駆動電圧と回収電圧とを交互に印加した場合、電子エミッタ2から放出された電子が電子回収電極4−表面電極22間の電界により加速されることはなく、駆動電圧および回収電圧のそれぞれを比較的大きくしながらも放電を確実に防止できる。
【0045】
しかも、電圧印加部5は、電子エミッタ2から電子が周期的に供給されるように、駆動用電源51から電子エミッタ2に対し、オン期間とオフ期間とを周期的に繰り返す矩形波状の駆動電圧を印加している。つまり、発光装置10は、電子エミッタ2を間欠的に駆動するので、電子エミッタ2を連続駆動する場合に比べて低消費電力化を図ることができる。さらに、電圧印加部5は、電子回収電極4−表面電極22間に印加する回収電圧についても、オン期間とオフ期間とを周期的に繰り返す矩形波状の電圧としている。これにより、電子回収電極4−表面電極22間に一定電圧を印加する場合に比べ、低消費電力化を図ることができる。
【0046】
ここにおいて、キセノンガスは、電子エミッタ2への駆動電圧の印加を停止してもすぐに紫外線光の発光強度がゼロになるのではなく、電子エミッタ2への駆動電圧の印加停止から、20μsec程度の残光時間は残光が生じる。そこで、電圧印加部5では、矩形波状の駆動電圧の1周期において電子エミッタ2からの電子の供給を停止させるオフ期間を、電子エミッタ2から電子を供給させるオン期間からオフ期間への移行時のキセノンガスの残光時間よりも短く設定してある。つまり、発光装置10は、電子エミッタ2からの電子の供給が停止するオフ期間にも紫外線光の発光が持続されるので、発光効率を向上させることができる。
【0047】
また、電子回収電極4を、蛍光体層3が形成された基台を構成するフェースプレート12に設けたことにより、電子回収電極4が電子エミッタ2から放出された電子の妨げとならないようにしながらも、効率よく気密容器1内の電子を回収可能となる。
【0048】
さらに、この発光装置10は、電子エミッタ2として、上述の弾道電子面放出型電子源を採用しているので、ガス中でも安定して動作可能で、キセノンガスの励起エネルギである8.44eV以上の初期エネルギを有する電子を放出することができる。そのため、電子エミッタ2としてスピント型電子源を採用する場合に比べ、電子エミッタ2から放出される電子の初期エネルギが高くなる。したがって、この発光装置10では、電子エミッタ2の駆動電圧(表面電極22−下部電極21間の電圧)や電子回収電極4−表面電極22間に印加する回収電圧を低減でき、低消費電力化を図ることができる。
【0049】
なお、本実施形態の発光装置10では、気密容器1内に封入するガスとしてキセノンガスを採用し、キセノンガスの圧力を5kPaに設定してあるが、ガス圧は5kPaに限定されるものではない。ガス圧を2kPa〜20kPaの範囲内で設定すれば、キセノンガスの放電を防止できるとともに発光効率の向上を図れることが確認されている。
【0050】
ところで、電圧印加部5が駆動電圧、回収電圧として用いるのは、矩形波状のパルス電圧に限るものではなく、図5に示すように三角波状の電圧を用いてもよい。図5の例では、駆動電圧V1が小さくなるのと入れ替わりで回収電圧V2が大きくなり、回収電圧V2が小さくなるのと入れ替わりで駆動電圧V1が大きくなるように、三角波状の両電圧は重複する。この場合、駆動用電源51および回収用電源52は、表面電極22−下部電極21間と電子回収電極4−表面電極22間とに同時に電圧が印加される期間にも放電が生じないように、駆動電圧V1および回収電圧V2の大きさが設定されるものとする。なお、駆動電圧V1、回収電圧V2としてたとえば正弦波状の電圧を用いることも可能である。
【0051】
さらに、制御部53は、電子エミッタ2の表面電極22−下部電極21間には矩形波状の電圧を印加し、電子回収電極4−表面電極22間には三角波状あるいは正弦波状の電圧を印加するようにしてもよい。この場合、駆動電圧と回収電圧とは一部が重複するので、駆動用電源51および回収用電源52は、表面電極22−下部電極21間と電子回収電極4−表面電極22間とに同時に電圧が印加される期間にも放電が生じないように、各電圧の大きさが設定される。なお、駆動電圧、回収電圧としてたとえば正弦波状の電圧を用いることも可能である。
【0052】
このように、駆動電圧、回収電圧に矩形波ではなく三角波または正弦波を用いることにより、電圧印加時に生じる損失を低減することができ、発光装置10の高効率化を図ることができる。
【0053】
また、キセノン原子をイオン化して放電させるには12.13eVのエネルギが必要であるのに対し、波長147nmの紫外線光を放射させるためには8.44eVの励起エネルギでよい。エキシマ(ここでは励起状態のキセノン分子)を生成することにより、147nmよりも長波長である172nmの発光を得ることができる。本実施形態では、ガスとして希ガスの一種であるキセノンガスを採用し、気密容器1内のガス圧をエキシマの生成が可能な圧力である5kPaに設定してある。そのため、気密容器1内に電子エミッタ2から電子を供給することにより、エキシマ(励起状態の分子)を生成することができ、蛍光体層3の蛍光体でのストークス損失を低減することができて発光効率の向上を図れる。
【0054】
さらにまた、電圧印加部5が電子エミッタ2に印加する駆動電圧を交流電圧とすれば、表面電極22−下部電極21間に順バイアス電圧が印加される順バイアス期間と、逆バイアス電圧が印加される逆バイアス期間とが繰り返されることになる。順バイアス期間には、電子エミッタ2から気密容器1内へ電子が供給され、逆バイアス期間には、順バイアス期間に電子エミッタ2の電子ドリフト層23中のトラップに捕獲されていた電子を電子ドリフト層23外の下部電極21へ放出できる。したがって、電子ドリフト層23中のトラップに捕獲された電子に起因した電界の緩和を抑制することができ、電子エミッタ2の長寿命化を図ることができる。
【0055】
なお、上記実施形態では、気密容器1内に封入するガスをキセノンガスとしたが、これに限らずたとえばヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガスやそれらの混合ガスなどとしてもよい。
【0056】
ところで、上記実施形態の応用として、発光色を変化させる調色が可能な発光装置10を構成することも考えられる。この発光装置10では、真空紫外〜可視光域において複数の波長で発光可能なガスとしてキセノンガスを用い、蛍光体層3が光強度の励起エネルギ依存性の異なる複数の蛍光体を有するものとする。なお、蛍光体としては、周知の蛍光体を適宜採用すればよい。
【0057】
これにより、電圧印加部5による駆動電圧の制御によって、電子のエネルギ分布のピークエネルギを変えて、ガスから発光させる各波長の光の相対的な割合を変え、調色することが可能となる。たとえば、蛍光体として、赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体それぞれについて光強度の励起エネルギ依存性の異なる2種類の蛍光体を有するようにすれば、白色系での調光が可能となる。
【0058】
ここにおいて、気密容器1に封入されるガスを混合ガスとすれば、気密容器1内に互いに異なるガス原子(若しくはガス分子)が存在するので、ガスで発光可能な波長の設計自由度が高くなる。このような混合ガスとしては、たとえば2種類の希ガスの混合ガスを用いればよい。2種類の希ガスは、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスの群から適宜選択すればよい。この場合、各希ガスそれぞれにより決まる複数の波長で発光可能となる。つまり、相対的に励起準位の低いガス原子(たとえばキセノン原子)の励起準位により決まる波長と、相対的に励起準位の高いガス原子(たとえばクリプトン原子)の励起準位により決まる波長とのそれぞれで発光可能となる。
【0059】
また、上述の混合ガスは、希ガスと希ガスを除く不活性ガス(たとえばNガス、COガス、COガス)とで構成してもよく、この場合は、希ガスおよび不活性ガスそれぞれにより決まる複数の波長で発光可能となる。なお、Nガスとしては、フォーミングガス(たとえば、97%のNと3%のHとで構成されるフォーミングガスや、95%のNと5%のHとで構成されるフォーミングガス等)を用いてもよい。
【0060】
また、上述の混合ガスは、希ガスとハロゲンがストで構成してもよい。この場合、希ガスおよびハロゲンガス、希ガスの原子のハロゲン化物それぞれにより決まる複数の波長で発光可能となる。すなわち、相対的に励起準位の低いガス原子(たとえばキセノン原子)の励起準位、励起準位の高いガス原子(たとえば要素原子)の励起準位、希ガスの原子のハロゲン化物(たとえばヨウ化キセノン)の励起準位のそれぞれにより決まる波長で発光可能となる。さらにまた、上述の混合ガスは、上記組み合わせに限らず、たとえばハロゲンガス同士の組み合わせ、不活性ガス同士の組み合わせ、ハロゲンガスと不活性ガスとの組み合わせでもよく、不活性ガスは希ガスやハロゲンガスに比べて安価という利点がある。
【0061】
(実施形態2)
本実施形態の発光装置10は、図6に示すように電子回収電極4がフェースプレート12に代えて、電子エミッタ2と蛍光体層3との間であって電子エミッタ2寄りの位置に配置されている点が実施形態1の発光装置10と相違する。
【0062】
本実施形態では、電子回収電極4は、導電性材料(たとえばニッケル、アルミニウム、ステンレスなど)によりメッシュ状に形成されており、メッシュの各網目部分がそれぞれ電子エミッタ2から放出された電子およびガスを通す透孔(図示せず)となる。すなわち、電子回収電極4には電子およびガスを通過させる透孔が多数形成されており、電子回収電極4が電子エミッタ2から放出された電子の妨げとならないようにしてある。なお、電子回収電極4は、メッシュ状に限らず、たとえば平板状の導電性基材に透孔を形成したものであってもよい。
【0063】
上記構成の発光装置10では、電子回収電極4を電子エミッタ2に近接して配置することができるので、電子回収電極4−表面電極22間に印加する回収電圧を小さく抑えながらも、気密容器1内の電子を電子回収電極4で効率的に回収することができる。また、電子エミッタ2から一旦は放出されたものの電子エミッタ2に引き戻された電子などについても、電子回収電極4で効率よく回収可能となる。
【0064】
なお、本実施形態では電子エミッタ2と蛍光体層3との間の電子エミッタ2寄りの位置にのみ電子回収電極4を設ける例を示したが、この電子回収電極4と、実施形態1で説明したフェースプレート12側の電子回収電極との両方を備えていてもよい。この場合、電圧印加部5は、両方の電子回収電極4−表面電極22間に回収電圧を印加する構成とする。
【0065】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0066】
1 気密容器
2 電子エミッタ
3 蛍光体層
4 電子回収電極
5 電圧印加部
10 発光装置
12 フェースプレート(基台)
21 下部電極(駆動用電極)
22 表面電極(駆動用電極)
23 電子ドリフト層
26 シリコン微結晶(半導体微結晶)
27 シリコン酸化膜(絶縁膜)
V1 駆動電圧
V2 回収電圧


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空紫外から可視光の波長域で発光可能なガスが封入され少なくとも一部が透光性材料により形成された気密容器と、一対の駆動用電極を有し当該駆動用電極間へ駆動電圧が印加されると少なくとも前記ガスの励起エネルギ以上のエネルギを有する電子を含む高エネルギ電子を前記ガス中へ供給する電子エミッタと、前記気密容器内に配置され励起された前記ガスの発光過程で放射される励起光によって励起されて発光する蛍光体層と、前記気密容器内において前記電子エミッタに対向配置され、前記電子エミッタとの間に回収電圧が印加されることにより電子を回収する電極であって前記回収電圧が高くなるほど電子の回収量が増加する電子回収電極と、前記電子エミッタの前記駆動用電極間に印加する前記駆動電圧および前記電子エミッタと前記電子回収電極との間に印加する前記回収電圧のそれぞれを制御する電圧印加部とを備え、前記電圧印加部は、前記駆動電圧が高い期間に前記回収電圧を低くし、前記駆動電圧が低い期間に前記回収電圧を高くすることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記電圧印加部は、前記駆動電圧と前記回収電圧とが同時に印加されることがないように、前記駆動電圧を印加する期間と前記回収電圧を印加する期間とを時間軸方向において異ならせていることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記電圧印加部は、前記駆動電圧および前記回収電圧として矩形波状の電圧を印加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記電圧印加部は、前記駆動電圧および前記回収電圧として三角波状または正弦波状の電圧を印加し、前記駆動電圧と前記回収電圧とは、同時に印加されている期間に放電が生じないように、それぞれの大きさが設定されていることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項5】
前記電圧印加部は、前記駆動電圧として矩形波状の電圧を印加し、前記回収電圧として三角波状または正弦波状の電圧を印加することを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項6】
前記気密容器は、前記電子エミッタから放射された電子が照射する面側に前記蛍光体層が形成された基台を有し、前記電子回収電極は、前記基台に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記電子回収電極は、前記電子エミッタから放出された電子および前記ガスを通過させる透孔が形成されており、前記電子エミッタと前記蛍光体層との間であって前記電子エミッタ寄りの位置に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記電子回収電極は、メッシュ状に形成されていることを特徴とする請求項7記載の発光装置。
【請求項9】
前記電子エミッタは、互いに対向する一対の前記駆動用電極を有し、両駆動用電極間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶と、前記各半導体微結晶それぞれの表面に形成され前記半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子ドリフト層とをさらに備えた弾道電子面放出型電子源からなることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−204640(P2011−204640A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73568(P2010−73568)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】