説明

発光領域推定システム、発光領域推定装置、発光領域推定方法および発光領域推定プログラム

【課題】有機ELデバイスにおける発光層内の発光領域を推定することができるという発光位置領域システムを得ること。
【解決手段】有機ELデバイス1の出射角ごとの分光放射強度である角度スペクトルを測定することにより測定角度スペクトルを取得する回転ステージ2および分光放射輝度計4と、有機ELデバイス1の積層方向の複数の発光領域ごとに、有機ELデバイス1の光学特性と仮定した発光領域モデル(発光分布)とに基づいて角度スペクトルを計算した計算値データベースと測定角度スペクトルとに基づいて推定発光領域を求める機器制御装置5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL(Electro−Luminescence)デバイス等の自発光デバイスの発光層内の発光領域を推定する発光領域推定システム、発光領域推定装置、発光領域推定方法および発光領域推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELデバイスでは、発光層を含む様々な機能を有する薄膜層が積層されている(例えば、下記特許文献1参照)。有機ELデバイスでは、発光層において電子と正孔が再結合することによって発光が促される。ここで、発光層内において発光する領域は電子と正孔とのバランスから決まり、この領域を発光領域(平面方向ではなく、積層方向の発光分布)と呼ぶ。有機ELデバイスの発光領域は、材料やデバイス構造、製造プロセスの状態等に依存して変化することが知られている。この発光領域の変化は輝度、色度、発光効率や寿命等のデバイス性能に大きく影響する。
【0003】
有機ELデバイスの輝度・色度調整および製造プロセス最適化のための解析結果のフィードバック、さらには高効率化、長寿命化を図るためには発光層における発光領域を推定することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−35286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機ELデバイスの発光層は数10nmのオーダーと非常に薄く、有機ELデバイスにおける発光層内の発光領域を直接的に測定するのは困難である。このため、発光層内の発光領域を把握することができない、という問題があった。また能動的に発光領域を決定する手法も確立されておらず、所望の発光位置となるよう材料やデバイス構造、製造プロセス手順等を調整することができない、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、有機ELデバイスにおける発光層内の発光領域を推定することができる発光領域推定システム、発光領域推定装置、発光領域推定方法および発光領域推定プログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、発光層を有する積層構造の発光デバイスの出射角ごとの分光放射強度である角度スペクトルを取得する角度スペクトル測定装置と、前記発光デバイスの前記発光層内の積層方向の複数の発光領域ごとに、前記発光デバイスの光学特性と仮定した発光領域モデル(発光分布)とに基づいて角度スペクトルを計算した計算結果と前記測定角度スペクトルとに基づいて推定発光領域を求める発光領域推定装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機ELデバイスにおける発光層内の発光領域を推定することができるという効果を奏する。また、発光領域を推定することにより、材料や製造プロセス手順等と発光領域の関係を把握することができ、所望の発光領域となるよう材料や製造プロセス手順等を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、発光領域推定システムの構成例を示す図である。
【図2】図2は、一般的な有機ELデバイスの構成例を示す図である。
【図3】図3は、発光領域推定方法の概念を示す図である。
【図4】図4は、発光領域推定手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、発光領域推定装置(機器制御装置)の機能構成例を示す図である。
【図6】図6は、評価関数フィルタの一例を説明するための図である。
【図7】図7は、発光領域をデルタ関数と仮定した場合とガウス分布とした場合との計算結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる発光領域推定システム、発光領域推定装置、発光領域推定方法および発光領域推定プログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明にかかる発光領域推定システムの構成例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態の発光領域推定システムは、有機ELデバイス1を保持する回転ステージ2と、偏光素子3と、分光放射輝度計4と、機器制御装置(発光領域推定装置)5と、コントローラー6と、電源7と、を備える。
【0012】
回転ステージ2は、有機ELデバイス1の積層方向10が回転面に垂直な方向となるよう有機ELデバイス1を固定する機構を有する。有機ELデバイス1には、直流安定化電源等である電源7から電力が供給される。
【0013】
機器制御装置(発光領域推定装置)5は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)等の制御装置であり、コントローラー6経由で回転ステージ2の回転を制御し、分光放射輝度計4に対して測定の開始や測定条件を設定し、分光放射輝度計4から測定値を取得する等の動作を行うことにより、発光領域推定システム内の各機器を制御する。また、発光領域推定装置5は、自身が計算した、または他の計算機等により計算された計算値データベースを有し、計算値データベースには、S/P偏光、発光領域の分布モデルの種類等を条件として計算した分光放射強度の角度依存(角度スペクトル)計算結果が格納されている。
【0014】
コントローラー6は、機器制御装置5からの指示に基づいて回転ステージ2を回転されることにより、回転ステージ2に固定されている有機ELデバイス1を回転させる。
【0015】
なお、本実施の形態では、発光領域の推定対象のサンプルとして有機ELデバイス1を例に説明するが、発光領域の推定対象のサンプルは、例えば無機発光デバイス等でもよく、発光層を有する積層された発光デバイスであればよい。
【0016】
図2は、一般的な有機ELデバイスの構成例を示す図である。図2では、図1の積層方向10に相当する方向を紙面の上下方向としている。図2は、一般的な例であり、本実施の形態の発光領域の測定対象とする有機ELデバイス2の構成は図2の構成例に限定されない。ここでは、一例として測定対象の有機ELデバイス1が図2の構成例であるとして説明する。
【0017】
図2の例では、有機ELデバイスは、ガラス基板11、ITO(インジウム・スズ酸化物)陽極12、ホール注入層13、ホール輸送層14、発光層15、電子輸送層16、電子注入層17および金属陰極18で構成される。
【0018】
本実施の形態では、発光層15内の発光領域を推定する。以下では、発光領域を、発光層15の電子注入側(紙面の下側)を0とし、発光層15のホール注入側(紙面の上側)を1として正規化して説明する。
【0019】
図3は、本実施の形態の発光領域推定方法の概念を示す図である。図3の左に示すように、機器制御装置5は、計算値データベースを保持する。そして、図3の右に示すように、機器制御装置5からの制御に基づいて回転ステージ2および分光放射輝度計4を制御することにより、有機ELサンプル1について出射角θごとの分光放射強度を測定する。なお、偏光素子3のS偏光とP偏光の切替えは、手動で行ってもよいし、機器制御装置5からの指示により自動で切替えられるような機構を備えるようにしてもよい。
【0020】
ここで、計算値データベースに格納されている分光放射強度の角度依存計算結果の算出方法について説明する。有機ELデバイス2からの出射光の出射角に応じた分光放射強度は、発光層15内の発光領域に依存する。有機ELデバイス2からの出射光の出射角に応じた分光放射強度の算出は、一般的な多層膜に関する光学シミュレーションソフトウェア等を用いて算出することができる。
【0021】
光学シミュレーションソフトウェアの入力項目は、例えば、各層の光学定数(屈折率等)、有機ELデバイス1の構造、各層の膜厚、発光層の発光の分光特性(一例として、PL(Photoluminescence)スペクトル)、発光領域の分布モデル(変化させるパラメータ)等である。発光領域の分布モデルとしては、例えば、デルタ関数、ガウス分布、指数関数分布等、あるいはそれらの組み合わせのうち適切と思われるものを1つ、または複数設定して、それぞれ計算を行っておく。
【0022】
この光学シミュレーションソフトウェア等としては、どのようなアルゴリズムを用いたものを使用してもよいが、例えば以下のような計算方法を用いることができる。
【0023】
N(Nは1以上の整数)層からなる多層薄膜のj(j=1,…,N)層におけるマトリクス成分をMjとすると全層のマトリクス成分Mは、Mjを以下の式(1)で表す場合に、以下の式(2)で表すことができる。ここで、λjはj層の波長、njはj層の屈折率、djはj層の膜厚である。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
基板(有機ELデバイス1)のマトリクス成分をηsubとすると、多層膜のフレネル反射係数ρは、B,Cを以下の式(3)のように仮定して、式(4)で表すことができる。
【0027】
【数3】

【0028】
【数4】

【0029】
そして、位相変化Φは以下の式(5)で表すことができる。
【0030】
【数5】

【0031】
以上から基板から空気中に放射される発光強度は以下の式(6)で表わすことができる。
【0032】
【数6】

【0033】
ここで、|ρ0|2、|ρ1|2は発光層15の両端の各層における界面のエネルギー反射率、Φ0、Φ1は両端の各層における反射時の位相シフト、δ0、δ1はそれぞれ発光層全体における位相シフトと発光点と発光層最下面における位相シフトである。
【0034】
上記の式(6)中のδ0とδ1は有機ELデバイスからの発光の出射角θを用いて式(7)で表わすことができる。なお、zは発光層における発光点の位置を示している。
【0035】
【数7】

【0036】
なお、以上述べた出射角θに応じた分光放射強度の算出方法は一例であり、上記の算出方法に限らず薄膜発光デバイスの光学特性を考慮した算出方法であればどのような算出方法を用いてもよい。
【0037】
図3の左側の計算値データベースの図、および右側の測定値の図では、横軸は出射角(Angle)θを示し、縦軸は正規化した分光放射強度を示している。ここでは、出射角θが0[deg]のときの波長590nmの分光放射強度を1として正規化している。なお、正規化の基準は、一例であり、他の波長等を基準として正規化してもよい。
【0038】
また、図3の左側の計算値データベースの図では、上側がP偏光についての計算結果を示し下側がS偏光についての計算結果を示している。また、図3の左側の計算値データベースの図では、発光領域を分布の無い、点で示される位置とするデルタ関数で仮定し、発光層15内の電子注入側を0としホール注入側を1とした場合の正規化した発光位置(発光領域)を0.1刻みで計算しておくとし、発光位置0.1,0.2,…,0.9をそれぞれNO1,NO2,…,NO9と番号を付け、NO1,NO5,NO9についてグラフ化している。なお、図3では、図の簡略化のため3つの発光位置のみを示しているがデータベースとしてはこれら以外の番号の位置のデータも格納されている。また、波長については、560、570、590、610、640nmについてそれぞれグラフ化している。計算値データベースとして計算しておく波長範囲は、測定対象の有機ELデバイス1の発光する波長を含むように余裕をもって適切に設定しておく。なお、ここでは、有機ELデバイス1の発光波長が可視光の例を示しているが、有機ELデバイス1の発光波長は可視光に限定されない。また、計算値データベースとして計算しておく波長刻み、および発光位置の刻みは、データベースの容量や要求される発光位置の推定精度等に応じて設定すればよく、図3に例示した値に限定されない。
【0039】
また、図3の右側の測定値の図は、上側がS偏光についての測定結果を示し下側がP偏光についての測定結果を示しており、570、580、600、610、620、630、640nmの分光放射強度を正規化した値を示している。なお、図3では、横軸を出射角とした図を示しているが、実際には、測定結果としては、まず、各出射角において、波長ごとの分光放射強度が得られる。そして、出射角を変えて、それぞれ分光放射強度を測定し、それらの測定結果から図3に示したように、出射角ごとの分光放射強度を波長ごとに求める。
【0040】
そして、計算値データベースのうち、発光位置(領域)推定のために最適な波長/偏光成分に対応する値を抽出し、抽出した値と測定結果とを比較してフィッティングすることにより、発光位置(領域)を推定する。すなわち、抽出した値と測定結果とが最も近くなるような発光位置(領域)を求める。
【0041】
図3の中央に示した図では、P偏光について計算値データベースの値として波長590nmのNO1,NO3,NO5,NO7,NO9の発光位置に対応する値をグラフ化しており、点線は590nmの測定結果を示している。なお、図3では、一例としては発光分布をデルタ関数で示される位置として計算例を示している。図3の例では、測定結果は、上から3番目の計算値であるNO5の発光位置とした計算値に最も近く、この例では、発光位置としてNO5に対応する位置が発光位置(領域)の推定結果として求められる。
【0042】
図4は、本実施の形態の発光領域推定手順の一例を示すフローチャートである。また、図5は、機器制御装置5の機能構成例を示す図である。図5に示すように、機器制御装置5は、記憶部51と、CPU(Central Processing Unit)等の制御部52と、を備える。記憶部51には、計算値データベース53が格納される。制御部52は、計算値データベースを生成するデータベース生成部54と、回転ステージ2や分光放射輝度計4等を制御する測定制御部55と、最適波長抽出部56と、フィッティング部57と、発光領域推定部58と、を備える。データベース生成部54、測定制御部55、最適波長抽出部56、フィッティング部57および発光領域推定部58は、外部記憶やネットワーク回線等によりプログラムがインストールされることにより、制御部52上で機能する。
【0043】
以下、図4および図5を用いて本実施の形態の発光領域推定手順を説明する。図4に示すように、機器制御装置5のデータベース生成部54または他の計算機等は、有機ELデバイス1の発光領域をパラメータとした出射角に応じた分光放射強度(角度スペクトル特性)を計算し、計算結果を計算値データベースに格納する(ステップS1)。他の計算機等で計算を行った場合は、データベース生成部54は計算結果を取得して計算値データベースに格納する。
【0044】
次に、機器制御装置5の測定制御部55は、回転ステージ2および分光放射輝度計4等を制御することにより測定値(S/P偏光ごとの角度スペクトル特性)を取得する(ステップS2)。そして、最適波長抽出部56は、計算値データベースに基づいて、フィッティング処理で用いる最適な波長および偏光成分を、評価関数フィルタを用いて抽出する(ステップS3)。この際、最適な波長および偏光成分は1つ抽出してもよいし複数抽出してもよい。なお、ステップS2とステップS3の順序は逆であってもよい。また、ステップS3をステップS1の前に実施してもよい。
【0045】
ここで、ステップS3の抽出処理に用いる評価関数フィルタについて説明する。図6は、評価関数フィルタの一例を説明するための図である。ここでは、評価関数フィルタを、計算値データベースに格納されている角度スペクトル特性の分散値を求め、分散値の積分値が最も大きい波長を選択するようなフィルタとする。
【0046】
図6では、波長460nm、発光領域をデルタ関数で仮定した場合の発光位置0.1,0.5,0.9(NO1,NO5,NO9)の例を図示している。図6に示すように、S偏光成分(左側の上図)について、角度(出射角)ごとに分散値を求める(左側の下図)。同様に、P偏光成分(右側の上図)について、角度(出射角)ごとに分散値を求める(右側の下図)。そして、分散値の角度に関する積分値(面積)を求める。偏光成分ごとに各波長について、この積分値を求め、積分値が大きくなる波長および偏光成分の組み合わせを最適な波長および偏光成分として抽出(選択)する。この際、この積分値が大きくなる1つの波長および偏光成分の組み合わせを最適な波長および偏光成分として選択してもよいが、例えば積分値の大きい順に複数の波長や偏光成分を最適な波長および偏光成分として選択してもよい。また、最適な波長および偏光成分を選択する際に、必ずしも積分値の大きい順に選択する必要はない。例えば、最適な波長および偏光成分として選択された波長で分光放射強度の値が小さい場合には測定値の精度が低くなるため、発光領域の推定精度も低下する可能性がある。従って例えば、分光放射強度における測定値の絶対値精度も考慮して最適な波長および偏光成分を選択してもよい。
【0047】
なお、ここでは、分散値の積分値に基づいて最適波長を選択する例を説明したが、発光領域の差の影響を受けやすい波長を最適波長として選択する方法であれば、これに限らずどのような方法で選択してもよい。
【0048】
図4の説明に戻り、最適な波長および偏光成分(以下、偏光成分も含めて最適波長という)を抽出した後、フィッティング部57は、測定値に対する計算値のフィッティングを行い(測定値に最も近い計算値を選び)、最適波長ごとの発光位置(領域)を推定する(ステップS4)。この際のフィッティングの具体的方法としては、例えば、最適波長ごとに、計算値データベースの各発光位置(計算で仮定した発光領域モデル)について測定値と計算値との相関値等の評価係数を求めて、例えば相関値の大きい(最も相関が強い)発光位置を当該最適波長の推定発光位置とする。なお、フィッティングの具体的方法はこれに限定されない。また、本実施の形態では、計算した発光位置の刻みを最小分解能として発光位置を求めているが、補間等の適切な方法により計算した刻みより小さい分解能で発光位置を求めてもよい。
【0049】
次に、フィッティング部57は、全ての最適波長についてフィッティング処理を実施したか否かを判断し(ステップS5)、フィッティングを実施していない最適波長がある場合(ステップS5 No)、ステップS4へ戻る。
【0050】
発光領域推定部58は、全ての最適波長についてフィッティング処理を実施した場合(ステップS5 Yes)、最適波長ごとの推定した発光位置(領域)に基づいて推定発光位置を求める(ステップS6)。具体的には、例えば、多数決により推定発光位置を求める。多数決により推定発光位置をする場合、具体的には例えば3つの最適波長を抽出するとしたとき、最適波長ごとに推定された3つの発光位置のうち2つ以上が一致していれば、その一致した発光位置を推定発光位置とする。なお、最適波長ごとの推定した発光位置に基づいて推定発光位置を求める方法はこれに限らず、例えば、平均値を用いる等どのような方法としてもよい。
【0051】
以上では、発光領域をデルタ関数として分布の無い発光位置のみを推定する例を説明したが、発光位置だけでなく分布を持つモデルについても推定を行ってもよい。この場合、計算値データベースとして、分布を持つ発光領域モデルについても複数のモデルについて計算しておく。
【0052】
図7は、発光領域を点とした(デルタ関数)場合とガウス分布とした場合との計算結果の一例を示す図である。図7では、上側に発光分布を幅5nmのガウス分布(exp(−((z−z0)/W)2/2):z=発光層における発光点の位置、z0=発光分布中心、W=5nm)とした場合の角度スペクトルの計算結果を示し、下側に発光分布を点とした(デルタ関数状の分布)場合の計算結果を示している。いずれの場合も、波長590nm、発光位置を0.1刻みで計算した例を示している。このように、発光位置は同じでも発光分布が異なると角度スペクトルも異なる。従って、例えば、発光分布の幅を固定して発光(中心)位置を推定した後に、分布モデルが異なる計算データベースの計算値に基づいて測定値に対してさらにフィッティングを行い、測定値に最も近い発光領域を求めるようにしてもよい。
【0053】
また、さらに分布の幅を変更して、測定値に対してさらにフィッティングを行い、測定値に最も近い幅を求めるようにしてもよい。
【0054】
なお、本実施の形態では、回転ステージ2、偏光素子3、分光放射輝度計4およびコントローラー6を用いて、有機ELデバイス1の角度スペクトルを取得している。すなわち、有機ELデバイスの角度スペクトル(出射角ごとの分光放射強度)を取得する角度スペクトル測定装置が、回転ステージ2、偏光素子3、分光放射輝度計4およびコントローラー6で構成されている。角度スペクトル測定装置は、この構成に限らず、角度スペクトルが測定できる構成であればどのような構成でもよい。
【0055】
以上のように、本実施の形態では、発光領域をパラメータとして発光領域ごとに角度スペクトルを計算した結果を計算値データベースとして保持し、一方で、測定対象の有機ELデバイス1について偏光成分ごとに角度スペクトルを測定して測定結果を取得する。そして、計算値データベースから評価関数フィルタを用いて最適波長を抽出して、抽出した波長に対応する計算値データベース上の計算値と測定値とをフィッティングすることにより、推定発光領域を求めるようにした。そのため、有機ELデバイスにおける発光層内の発光領域を推定することができる。また、評価関数フィルタを用いて最適波長を抽出して、抽出した波長に対応する計算値を用いていることにより、計算値データベースの全てのケースの計算結果と測定値との比較を実施しなくてすみ、計算負荷を抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 有機ELデバイス
2 回転ステージ
3 偏光素子
4 分光放射輝度計
5 機器制御装置
6 コントローラー
7 電源
10 積層方向
51 記憶部
52 制御部
53 計算値データベース
54 データベース生成部
55 測定制御部
56 最適波長抽出部
57 フィッティング部
58 発光領域推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を有する積層構造の発光デバイスの出射角ごとの分光放射強度である角度スペクトルを測定することにより測定角度スペクトルを取得する角度スペクトル測定装置と、
前記発光デバイスの前記発光層内の積層方向の複数の発光領域ごとに、前記発光デバイスの光学特性と仮定した発光領域に基づいて角度スペクトルを計算した計算結果と前記測定角度スペクトルとに基づいて推定発光領域を求める発光領域推定装置と、
を備えることを特徴とする発光領域推定システム。
【請求項2】
前記発光領域推定装置は、前記計算結果として計算した波長のうちから最適波長を選択し、前記最適波長に対応する前記計算結果に基づいて前記推定発光領域を求める、ことを特徴とする請求項1に記載の発光領域推定システム。
【請求項3】
前記角度スペクトルを偏光成分ごとに測定し、前記計算結果を偏光成分ごとに計算する、ことを特徴とする請求項1に記載の発光領域推定システム。
【請求項4】
前記発光領域推定装置は、前記計算結果として計算した波長および偏光成分のうちから最適な波長および偏光成分の組み合わせを最適波長として選択し、前記最適波長に対応する前記計算結果に基づいて前記推定発光領域を求める、ことを特徴とする請求項3に記載の発光領域推定システム。
【請求項5】
前記最適波長を1つとする、ことを特徴とする請求項2または4に記載の発光領域推定システム。
【請求項6】
前記最適波長を複数とする、ことを特徴とする請求項2または4に記載の発光領域推定システム。
【請求項7】
前記発光領域推定装置は、波長ごとに前記計算結果の分散値を求め、前記分散値に基づいて前記最適波長を選択する、ことを特徴とする請求項2、4〜6のいずれか1つに記載の発光領域推定システム。
【請求項8】
前記発光領域推定装置は、前記分散値の前記出射角についての積分値に基づいて前記最適波長を選択する、ことを特徴とする請求項7に記載の発光領域推定システム。
【請求項9】
前記発光領域推定装置は、前記最適波長ごとに前記計算結果と前記測定角度スペクトルとに基づいて発光領域を求め、前記最適波長ごとに求めた発光領域のうち発光領域が一致した前記最適波長が多い発光領域を前記推定発光領域とする、ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の発光領域推定システム。
【請求項10】
前記発光領域推定装置は、前記計算結果と前記測定角度スペクトルとの差に基づいて前記推定発光領域を求める、ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の発光領域推定システム。
【請求項11】
前記発光領域推定装置は、前記計算結果と前記測定角度スペクトルとの相関値を求め、前記相関値に基づいて前記推定発光領域を求める、ことを特徴とする請求項10に記載の発光領域推定システム。
【請求項12】
発光層を有する積層構造の発光デバイスの出射角ごとの分光放射強度である角度スペクトルを測定することにより測定角度スペクトルを取得する角度スペクトル測定装置を制御し、前記角度スペクトルの測定値である測定角度スペクトルを前記角度スペクトル測定装置から取得する測定制御部と、
前記発光デバイスの前記発光層内の積層方向の複数の発光領域ごとに、前記発光デバイスの光学特性と仮定した発光領域モデル(発光分布)とに基づいて角度スペクトルを計算した計算結果を保持する記憶部と、
前記計算結果と前記測定角度スペクトルとに基づいて推定発光領域を求めるフィッティング部と、
を備えることを特徴とする発光領域推定装置。
【請求項13】
発光層を有する積層構造の発光デバイスの出射角ごとの分光放射強度である角度スペクトルを測定することにより測定角度スペクトルを取得する角度スペクトル測定ステップと、
前記発光デバイスの前記発光層内の積層方向の複数の発光領域ごとに、前記発光デバイスの光学特性と仮定した発光領域モデル(発光分布)とに基づいて角度スペクトルを計算した計算結果と前記測定角度スペクトルとに基づいて推定発光領域を求める発光領域推定ステップと、
を含むことを特徴とする発光領域推定方法。
【請求項14】
請求項13に記載の発光領域推定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする発光領域推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−204240(P2012−204240A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69378(P2011−69378)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(503354044)財団法人21あおもり産業総合支援センター (27)
【Fターム(参考)】