説明

発振装置

【課題】広い周波数帯域において安定した音圧を生み出すことができ、かつ十分な機械的強度を有する発振装置を提供する。
【解決手段】発振装置100は、圧電振動子10と、一面側において圧電振動子10を拘束する振動部材20と、振動部材20の縁を支持する振動部材25と、振動部材25の周囲に位置し、振動部材25を支持する支持部材30と、を備え、振動部材25は、樹脂母材に炭素繊維を分散して形成される複合材料により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を用いた発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器などの電気音響変換器として、動電型電気音響変換器がある。動電型電気音響変換器は、磁気回路の作用を利用して振動振幅を発生させる。しかし、磁気回路は永久磁石やボイスコイル等の多数の部材によって構成されるため、動電型電気音響変換器では薄型化に限界があった。
【0003】
動電型電気音響変換器に代わる電気音響変換器として、圧電型電気音響変換器がある。圧電型電気音響変換器は、圧電振動子に電界を印加することにより発生する伸縮運動を利用して、振動振幅を発生させるものである。圧電型電気音響変換器は、振動振幅を発生させるために多数の部材を必要としないため、薄型化に有利である。
【0004】
電気音響変換器の性能を向上させるため、その振動部材等に関して様々な技術が検討されてきた。特許文献1に記載の技術は、樹脂フィルムを表裏表皮基材とし、この中間層に集成マイカシート等を積層して振動部材を形成するというものである。特許文献2では、音放射方向に対して前後に設けられた隣り合う伸縮部に、互いに逆相の電界を印加する圧電膜スピーカが開示されている。
【0005】
特許文献3に記載の技術は、圧電振動子を搭載した振動部材を任意に分割するというものである。特許文献4に記載の技術は、圧電振動子が貼り付けられた台座を、台座よりも低剛性な振動膜を介して支持部材へ接続するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−247686号公報
【特許文献2】特開2005−286690号公報
【特許文献3】特開2003−158795号公報
【特許文献4】再表WO2007/083497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電振動子を用いることにより、電気音響変換器の薄型化を図ることができる。一方で、圧電振動子を構成するセラミック材料は、機械品質係数(Q値)が高い。このため圧電型電気音響変換器では、基本共振周波数近傍において音圧が大きく、それ以外の帯域では音圧が著しく減衰してしまう。また電気音響変換器には、十分な機械的強度を有することが求められる。
【0008】
本発明の目的は、広い周波数帯域において安定した音圧を生み出すことができ、かつ十分な機械的強度を有する発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、圧電振動子と、
一面側において前記圧電振動子を拘束する第1の振動部材と、
前記第1の振動部材の縁を支持する第2の振動部材と、
前記第2の振動部材の周囲に位置し、前記第2の振動部材を支持する支持部材と、
を備え、
前記第2の振動部材は、樹脂母材に炭素繊維を分散して形成される複合材料により構成される発振装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、広い周波数帯域において安定した音圧を生み出すことができ、かつ十分な機械的強度を有する発振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る発振装置を示す断面図である。
【図2】図1に示す圧電振動子を示す断面図である。
【図3】第2の実施形態に係る発振装置を示す断面図である。
【図4】第3の実施形態に係る発振装置を示す断面図である。
【図5】第4の実施形態に係る圧電振動子を示す斜視図である。
【図6】携帯通信端末の構成を示す概略図である。
【図7】ラップトップ型PCの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る発振装置100を示す断面図である。発振装置100は、圧電振動子10と、振動部材20と、振動部材25と、支持部材30とを備えている。発振装置100は、例えばスピーカ、又は音波センサの発振源として使用される。また圧電体の焦電効果を利用することで温度センサとして機能することもできる。発振装置100をスピーカとして使用する場合、例えば電子機器(携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、小型ゲーム機器等)の音源として用いられる。
【0014】
振動部材20は、一面側において圧電振動子10を拘束している。振動部材25は、振動部材20の縁を支持している。また振動部材25は、樹脂母材に炭素繊維を分散して形成される複合材料により構成されている。支持部材30は、振動部材25の周囲に位置しており、振動部材25を支持している。以下図1、及び図2を用いて、発振装置100の構成について詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、発振装置100は、制御部90と、信号生成部95をさらに備えている。信号生成部95は、圧電振動子10に入力する電気信号を生成する。制御部90は、外部から入力された情報に基づいて信号生成部95を制御する。発振装置100をスピーカとして使用する場合、制御部90に入力される情報は音声信号である。また発振装置100を音波センサとして使用する場合、制御部90に入力される信号は、音波を発振する旨の指令信号である。そして発振装置を音波センサとして使用する場合、信号生成部95は圧電振動子10に圧電振動子10の共振周波数の音波を発生させる。
【0016】
また圧電振動子10、振動部材20、振動部材25が複数組設けられている場合、発振装置100はパラメトリックスピーカとして使用することができる。この場合、制御部90は信号生成部95を介してパラメトリックスピーカとしての変調信号を入力する。パラメトリックスピーカとして用いる場合、圧電振動子10は、20kHz以上、例えば100kHzの音波を信号の輸送波として用いる。
【0017】
図2は、図1に示す圧電振動子10を示す断面図である。図2に示すように圧電振動子10は、上部電極40と、下部電極45と、圧電体50からなる。また圧電振動子10は、円形、又は楕円形を有する。圧電体50は、上部電極40と下部電極45に挟まれている。また圧電体50には、厚み方向に分極処理が施されている。圧電体50は、圧電効果を示す機能性材料により構成され、例えば電気機械変換効率が高い材料として結晶構造ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等により構成される。上部電極40及び下部電極45に交流電流が印加され、交番的な電界が付与されると、圧電振動子10の上面及び下面は半径方向の伸縮運動を行う。
【0018】
振動部材20は、圧電振動子10の伸縮運動を、上下方向の振動に変換する。振動部材20は、弾性体によって構成され、例えば圧電体50を構成するセラミック材料より低剛性なアルミ合金、リン青銅、チタン、若しくはチタン合金等の金属、又はエポキシ、アクリル、ポリイミド、若しくはポリカーボネート等の樹脂材料等により構成される。
【0019】
振動部材25は、外周部の縁において支持部材30により固定されている。振動部材25を構成する炭素繊維は、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、又はカーボンファイバー等である。炭素繊維の延伸方向は、例えば振動部材20が楕円形である場合、樹脂母材中において振動部材20の長手方向に沿っている。また炭素繊維の代わりに、例えば黒鉛を使用してもよい。炭素繊維の代わりに黒鉛を使用する場合、粒子にカルボキシル基等の親水基を導入し、表面改質をしてもよい。これにより樹脂分散液中での黒鉛の分散特性が向上し、製造容易性が向上する。また分散媒として界面活性剤を使用してもよい。振動部材25を構成する樹脂母材は、例えばポリエチレンテレフタレート、ウレタン、又はポリエチレン等により構成される。樹脂母材のヤング率は、10GPa以下であることが好ましい。樹脂母材のヤング率が10GPaを超える場合、炭素繊維の分散性が悪くなる。振動部材25の厚みは、5um〜500umであることが好ましい。特に振動部材25がシート形状を有する場合、30um〜180umであることが好ましい。
【0020】
次に、本実施形態に係る圧電振動子10を用いた圧電型電気音響変換器における、振動発生のメカニズムについて説明する。まず、電圧が印加されていない中立の状態から圧電振動子10に所定の電圧を印加すると、圧電振動子10は半径方向に伸縮運動を行う。ここで、圧電振動子10の下面は振動部材20により拘束されているため、圧電振動子10の上面と下面との間に変形量の差が生じる。これにより圧電振動子10に凹凸状の変形が生じる。その結果、圧電振動子10を拘束している振動部材20、及び振動部材20を支持している振動部材25も凹凸状に変形する。そして凹状の変形と凸状の変形を交互に繰り返すことにより、圧電振動子10、振動部材20、及び振動部材25が上下方向に振動する。
【0021】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態に係る発振装置100において、圧電振動子10を拘束する振動部材20は、樹脂母材に炭素繊維を分散して形成される複合材料により構成される振動部材25を介して支持部材30により支持されている。炭素繊維は、高い内部損失を有するため、発振装置100の機械品質係数を低減させる。また樹脂母材は、高い柔軟性を有する。従って、広い周波数帯域において安定した音圧を生み出すことができ、かつ十分な機械的強度を実現することができる。
【0022】
また炭素繊維は、高い熱伝導率を有する。従って圧電振動子の発熱を抑制し、圧電振動子の安定した動作を実現することができる。さらに樹脂母材は安価であることから、製造コストを抑制することができる。
【0023】
図3は、第2の実施形態に係る発振装置102を示す断面図であり、第1の実施形態に係る図1に対応している。本実施形態に係る発振装置102は、振動部材25が開口部80を有する点を除いて、第1の実施形態に係る発振装置100と同様である。
【0024】
図3に示すように、振動部材25は、振動部材20と重なる部分において開口部80を有する。開口部80は、平面視で振動部材20よりも小さい。振動部材25は、内周部の縁において振動部材20により固定されている。
【0025】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また振動部材25の、振動部材20に対する拘束力が緩和される。このため発振装置の振動振幅を増大させることができる。さらに振動部材の剛性が低下するため、発振装置の基本共振周波数を低減することもできる。
【0026】
図4は、第3の実施形態に係る発振装置104を示す断面図であり、第2の実施形態に係る図3に対応している。本実施形態に係る発振装置104は、圧電振動子を2つ備えたバイモルフ構造を有する点を除いて、第2の実施形態に係る発振装置102と同様である。
【0027】
発振装置104は、圧電振動子10と同一の形状を有する圧電振動子15を備えている。圧電振動子15は、振動部材20の他面において拘束されており、開口部80内に位置する。また圧電振動子15は、振動部材20を挟んで圧電振動子10と対称に位置する。圧電振動子10と圧電振動子15は、分極方向が互いに逆である。
【0028】
本実施形態においても、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また圧電振動子10と圧電振動子15は、分極方向が互いに逆である。このため一方を縮めた場合、他方は伸びることとなる。従って、より大きな振動振幅を有する発振装置を実現することができる。
【0029】
図5は、第4の実施形態に係る圧電振動子110を示す斜視図である。本実施形態に係る発振装置は、圧電振動子の構成を除いて第1の実施形態に係る発振装置100と同様である。また本実施形態に係る圧電振動子110は、積層構造を有する点を除いて、第1の実施形態に係る圧電振動子10と同様である。
【0030】
図5に示すように圧電振動子110は、複数の圧電体と複数の電極を交互に積層して構成されている。圧電体60、61、62、63、64の間には、電極70、71、72、73が1層ずつ形成されている。電極70と電極72、及び電極71と電極73は、それぞれ互いに接続している。各圧電体の分極方向は、1層ごとに逆向きとなっている。また各電極間に生じる電界の向きも、交互に逆向きとなっている。
【0031】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また圧電振動子110は積層構造を有しているため、電極層間に生じる電界強度が高い。これにより圧電振動子110の駆動力を向上させることができる。なお、圧電振動子110の積層数は任意に増減できる。
【0032】
第5の実施形態に係る発振装置として、第1の実施形態に係る発振装置100の圧電振動子10を矩形としたものがある(図示せず)。本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また圧電振動子10が矩形であるため、圧電振動子10を加工する際に、デッドスペースが生じない。従って、製造コストを抑制することができる。
【0033】
第1〜第5の実施形態に係る発振装置を作成した(実施例1〜5)。また比較例として、振動部材25を有さず、振動部材20が支持部材30と直接接合する発振装置を作成した。そして各実施例及び比較例に係る発振装置を、図6に示す携帯通信端末120のスピーカ122として使用した場合の特性を調べた。スピーカ122は、携帯通信端末120の筐体の内面に取り付けた。その結果を、表1に示す。なお共振周波数の測定は、交流電流1V入力時の基本共振周波数を測定した。音圧レベル周波数特性の測定では、交流電圧1V入力時の音圧レベルを、圧電振動子から10cm離れた位置に配置したマイクロホンにより測定した。周波数特性の平坦性の測定では、周波数の測定範囲は10Hz〜10kHzとした。2kHz〜10kHzの測定範囲において、最大音圧レベルと最小音圧レベルの差が20dB以内なら○とした。また落下衝撃安定性の測定では、発振装置を備える電気音響変換器を搭載した携帯通信端末を50cmの高さから、5回自然落下させた。その後、携帯通信端末の破損等を目視で確認した。さらに、音圧特性を測定し、試験前後において音圧レベル差が3dB以内の場合、○とした。
【0034】
【表1】

【0035】
この表から、各実施例に係る携帯通信端末120は、比較例と比べて、音圧レベルが高く、周波数特性が平坦であることが示された。また比較例と比べて、落下衝撃安定性が高いことも示された。
【0036】
また、図7に示すように、ラップトップ型PC130のスピーカとして、実施例1〜5に係る発振装置を使用した場合の特性を調べた。その結果を、表2に示す。なお測定条件は、表1と同様である。
【0037】
【表2】

【0038】
この表から、各実施例に係るラップトップ型PC130は、周波数特性が平坦であることが示された。また落下衝撃安定性が高いことが示された。
【0039】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0040】
10 圧電振動子
15 圧電振動子
20 振動部材
25 振動部材
30 支持部材
40 上部電極
45 下部電極
50 圧電体
60〜64 圧電体
70〜73 電極
80 開口部
90 制御部
95 信号生成部
100 発振装置
102 発振装置
104 発振装置
110 圧電振動子
120 携帯通信端末
122 スピーカ
130 ラップトップ型PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、
一面側において前記圧電振動子を拘束する第1の振動部材と、
前記第1の振動部材の縁を支持する第2の振動部材と、
前記第2の振動部材の周囲に位置し、前記第2の振動部材を支持する支持部材と、
を備え、
前記第2の振動部材は、樹脂母材に炭素繊維を分散して形成される複合材料により構成される発振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発振装置において、
前記樹脂母材のヤング率は10GPa以下である発振装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発振装置において、
前記第1の振動部材は楕円形、または長方形であり、
前記樹脂母材中における前記炭素繊維の延伸方向は、前記第1の振動部材の長手方向に沿っている発振装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の発振装置において、
前記第2の振動部材は、前記第1の振動部材と重なる部分において、平面視で前記第1の振動部材よりも小さい開口部を有する発振装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の発振装置において、
前記発振装置は、音波センサの発信源である発振装置。
【請求項6】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の発振装置において、
前記発振装置は、スピーカである発振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate