説明

発泡性繊維

【課題】カーディング工程やエアレイド工程のような乾式の不織布化工程、または、抄造工程等の湿式の不織布化工程等の何れの不織布化工程においても、繊維集合体に均一に発泡剤を固定化することができる発泡性繊維を提供する。
【解決手段】熱膨張性微小球1を含有する、ポリプロピレン樹脂組成物を用いて得られた発泡性繊維であって、該熱膨張性微小球が、カルボキシル基含有単量体を含む重合性成分を重合することによって得られる熱可塑性樹脂からなる外殻2と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤3とから構成され、平均粒子径が1〜100μmの範囲にあり、膨張開始温度が170℃以上であり、該繊維質量に対して1〜65質量%の割合で混合され、さらに、該繊維横断面の最外層から2μm以上内側に配されている、発泡性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡性繊維に関する。さらに詳しくは、繊維及び不織布加工時に一定温度以上に加熱することにより、含有される熱膨張性微小球が内包する発泡剤で膨張することで、気泡部を形成する発泡性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂を含んだ成形品において、環境問題の高まりに対して、廃棄量及び材料の使用量の削減や、さらには、車両用部品で使用する際は、燃費の向上を目的に、原料部材の省力化や軽量化の要望が高まっている。
従来、熱可塑性樹脂を用いたシートやフィルムの押出加工品や、射出成形加工品等の原料部材においては、熱可塑性樹脂の加工時に発泡剤や気体等を混練する事で、加工品の発泡化を行い、原料部材を軽量化したり、熱可塑性樹脂の使用量を削減する技術が多く利用されてきている。
【0003】
そして、原材料部材の一つである繊維基材は、一般にステープル繊維やショートカット繊維を、カーディング法やエアレイド法等の不織布加工方法によって繊維集合体であるウェブ状に加工した後、熱融着や物理的な交絡によって不織布化またはシート化することで得られる。そして、これまでは、それらを軽量化したり、その使用量自体を削減するためには、不織布化工程で、その繊維集合体中に発泡剤である熱膨張性カプセル剤を散布したのち、これを熱処理し、カプセル剤を発泡させることによって、繊維基材の軽量化や原料繊維の使用量の削減を達成してきた(特許文献1)。更に、保温性や柔軟性を付与できることも知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−97749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、不織布化工程時での散布では、採用する不織布化工程の違いによって、均一分散性の程度に差が生じたり、一般に、繊維集合体中で均一に発泡剤を固定化することが困難であり、繊維基材が均一な物性を維持するには、高い不織布加工技術が必要とされていた。
従って、本発明は、カーディング工程やエアレイド工程のような乾式の不織布化工程、または、抄造工程等の湿式の不織布化工程等の何れの不織布化工程においても、繊維集合体に均一に発泡剤を固定化することが可能であって、その結果、得られる繊維基材が軽量化され、または、原料繊維の使用量が削減されて、かつ、均一な物性を有する繊維基材を得る為の発泡性繊維を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、予め熱膨張性微小球が練り込まれたポリプロピレン繊維を安定に生産することができ、そして、得られた繊維を用いることで、不織布化方法の違いに影響されることなく、繊維集合体に均一に熱膨張性微小球を固定化することが可能であり、これを熱処理して熱膨張性微小球を発泡させることによって、均一に発泡した繊維基材が得られることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の構成を有する。
【0007】
1.熱膨張性微小球を含有する、ポリプロピレン樹脂組成物を用いて得られた発泡性繊維であって、該熱膨張性微小球が、カルボキシル基含有単量体を含む重合性成分を重合することによって得られる熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤とから構成され、平均粒子径が1〜100μmの範囲にあり、膨張開始温度が170℃以上であり、該繊維質量に対して1〜65質量%の割合で混合され、さらに、該繊維横断面の最外層から2μm以上内側に配されている、発泡性繊維。
2.発泡性繊維の繊維直径が10μm以上であることを特徴とする前記1に記載の発泡性繊維。
3.発泡性繊維の繊維長が1〜200mmであることを特徴とする前記1または2に記載の発泡性繊維。
4.発泡性繊維は、天然繊維と混合して繊維基材を構成してなる前記1〜3のいずれか1つに記載の発泡性繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発泡性繊維は、含有される熱膨張性微小球の膨張開始温度が170℃以上であることから、ポリプロピレン繊維製造工程においては含有する微小球が膨張することなく、また、繊維横断面の最外層から少なくとも2μm以上内側に熱膨張性微小球が含まれることにより、該微小球が繊維表面に露出することで発生する繊維製造工程や不織布化工程における糸切れやちぎれ、削れ等のトラブルなく得ることができる。その結果、不織布化工程で得られた繊維集合体中には、熱膨張性微小球が均一に分散され、該繊維集合体を膨張開始温度以上に熱処理し発泡させることにより得られた繊維基材は、不織布化工程で熱膨張性微小球を散布して得られた繊維基材に比べて、均一な発泡による均一な物性を有することが可能となる。また、軽量化されていない繊維基材、または原料繊維の使用量が削減されていない繊維基材と比べても、同等以上の物性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で用いられる熱膨張性微小球の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1]熱膨張性微小球
本発明で使用する熱膨張性微小球は、熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤とから構成される熱膨張性微小球である。熱膨張性微小球1は、図1に示すように、熱可塑性樹脂からなる外殻2と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤3とから構成される。
【0011】
熱膨張性微小球の平均粒子径については、熱膨張性微小球が繊維横断面の最外層から2μm以上内側に配されるという条件の下で、好ましくは1〜100μm、より好ましくは5〜80μm、さらに好ましくは10〜60μmのものを選択できる。
熱膨張性微小球の膨張開始温度は、好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上である。熱膨張性微小球の膨張開始温度の上限値は、好ましくは300℃である。
【0012】
発泡剤は、加熱することで気化する物質であれば特に限定されないが、たとえば、(イソ)ブタン、(イソ)ペンタン、(イソ)ヘキサン、(イソ)オクタン、デカン、(イソ)ドデカン、の炭化水素、;それらのハロゲン化物;テトラアルキルシラン;加熱により熱分解してガスを生成する化合物等を挙げることができる。これらの発泡剤は、1種または2種以上を併用してもよい。上記発泡剤は、直鎖状、分岐状、脂環状のいずれでもよく、脂肪族であるものが好ましい。
【0013】
熱膨張性微小球に封入された発泡剤の内包率については特に限定されないが、熱膨張性微小球の質量に対して、好ましくは2〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは8〜45質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。
【0014】
前記熱可塑性樹脂は、カルボキシル基含有単量体を含む重合性成分を重合することによって得られる(共)重合体から構成される。
重合性成分は、重合することによって熱膨張性微小球の外殻を形成する熱可塑性樹脂となる成分であり、好ましくは重合開始剤存在下で重合する成分である。重合性成分は、単量体成分を必須とし、架橋剤を含むことがある成分である。単量体成分は、一般には、重合性二重結合を1個有する重合性単量体またはラジカル重合性単量体と呼ばれている成分であり、本発明では、該単量体成分としてカルボキシル基含有単量体を少なくとも含有する。
【0015】
カルボキシル基含有単量体は、遊離カルボキシル基を1分子当たり1個以上有するものであれば特に限定はないが、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸;不飽和ジカルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチル等の不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられる。これらのカルボキシル基含有単量体は、1種または2種以上を併用してもよい。カルボキシル基含有単量体は、一部または全部のカルボキシル基が重合時に中和されていてもよい。上記カルボキシル基含有単量体のうち、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、ガスバリア性が高いためメタクリル酸が特に好ましい。
【0016】
単量体成分は、カルボキシル基含有単量体を必須成分とし、その他の単量体成分を1種または2種以上を含有してもよい。その他の単量体成分としては、特に限定はないが、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0017】
単量体成分は、カルボキシル基含有単量体と、ニトリル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体、ビニルエステル系単量体、アクリルアミド系単量体およびハロゲン化ビニリデン系単量体から選ばれる少なくとも1種とをさらに含むと好ましい。
【0018】
カルボキシル基含有単量体の質量割合は、得られる熱膨張性微小球の耐熱性や耐溶剤性を高める観点からは、単量体成分に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%であり、さらに好ましくは30〜70質量%であり、特に好ましくは35〜60質量%である。カルボキシル基含有単量体が10質量%未満の場合は、耐熱性が不十分であり、安定した膨張性能が得られないことがある。また、カルボキシル基含有単量体が90質量%超の場合は、熱膨張性微小球の膨張性能が低くなることがあり好ましくない。
【0019】
単量体成分がニトリル系単量体をさらに含むと、外殻を構成する熱可塑性樹脂のガスバリア性が向上するために好ましい。単量体成分がニトリル系単量体を必須成分として含む場合、カルボキシル基含有単量体およびニトリル系単量体の合計の質量割合は単量体成分に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
このとき、カルボキシル基含有単量体およびニトリル系単量体の合計中におけるカルボキシル基含有単量体の比率は、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%であり、さらに好ましくは30〜70質量%であり、特に好ましくは35〜60質量%である。上記比率が10質量%未満であると耐熱性、耐溶剤性の向上が不十分で、高温の広い温度域や時間域で安定した膨張性能が得られないことがある。また、カルボキシル基含有単量体が90質量%超の場合は、熱膨張性微小球の膨張性能が低くなることがあり好ましくない。
【0020】
重合性成分は、上記単量体成分以外に、重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでいてもよい。架橋剤を用いて重合させることにより、熱膨張後の内包された発泡剤の保持率(内包保持率)の経時的な低下が抑制され、効果的に熱膨張させることができる。
【0021】
架橋剤としては、特に限定はないが、たとえば、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニル化合物;メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサアクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物等を挙げることができる。これらの架橋剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0022】
架橋剤の量については、特に限定はないが、単量体成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部、特に好ましくは0.2〜1質量部である。
【0023】
熱膨張性微小球の製造方法については、特に限定されないが、たとえば、重合性成分および発泡剤を含有する油性混合物を分散させた水性分散媒中で、前記重合性成分を重合させる方法を挙げることができる。ここで、重合性成分を重合開始剤の存在下で重合させることが好ましく、油性混合物が重合開始剤を含有するとさらに好ましい。
【0024】
重合開始剤としては、特に限定はないが、過酸化物やアゾ化合物等を挙げることができる。過酸化物としては、たとえば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネートおよびジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル;ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド等を挙げることができる。アゾ化合物としては、たとえば、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。上記重合開始剤のなかでも、パーオキシジカーボネートが好ましい。
これらの重合開始剤は、1種または2種以上を併用してもよい。重合開始剤としては、単量体成分に対して可溶な油溶性の重合開始剤が好ましい。
【0025】
重合開始剤の量については、特に限定はないが、前記単量体成分100質量部に対して0.3〜8.0質量部であると好ましい。
【0026】
重合開始剤がパーオキシジカーボネートと共に他の開始剤を含む場合、パーオキシジカーボネートが重合開始剤に占める割合は、60質量%以上が好ましい。
【0027】
水性分散媒の使用量については、特に限定はないが、重合性成分100質量部に対して、100〜1000質量部の水性分散媒を使用するのが好ましい。
【0028】
水性分散媒は、電解質をさらに含有してもよい。電解質としては、たとえば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。これらの電解質は、1種または2種以上を併用してもよい。電解質の含有量については、特に限定はないが、水性分散媒100質量部に対して0.1〜50質量部含有するのが好ましい。
【0029】
水性分散媒は、水酸基、カルボン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基から選ばれる親水性官能基とヘテロ原子とが同一の炭素原子に結合した構造を有する水溶性1,1−置換化合物類(たとえば、エチレンジアミン四酢酸・4Na塩)、重クロム酸カリウム、亜硝酸アルカリ金属塩、金属(III)ハロゲン化物、ホウ酸、水溶性アスコルビン酸類、水溶性ポリフェノール類、水溶性ビタミンB類および水溶性ホスホン酸(塩)類から選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物を含有してもよい。なお、本発明における水溶性とは、水100gあたり1g以上溶解する状態であることを意味する。
【0030】
水性分散媒中に含まれる水溶性化合物の量については、特に限定はないが、重合性成分100質量部に対して、好ましくは0.0001〜1.0質量部である。水溶性化合物の量が少なすぎると、水溶性化合物による効果が十分に得られないことがある。また、水溶性化合物の量が多すぎると、重合速度が低下したり、原料である重合性成分の残存量が増加することがある。
【0031】
水性分散媒は、電解質や水溶性化合物以外に、分散安定剤や分散安定補助剤を含有していてもよい。分散安定剤としては、特に限定はないが、たとえば、コロイダルシリカ、アルミナゾル等を挙げることができる。これらの分散安定剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0032】
分散安定剤の配合量は、重合性成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部である。
【0033】
分散安定補助剤としては、特に限定はないが、たとえば、高分子タイプの分散安定補助剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の界面活性剤を挙げることができる。これらの分散安定補助剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0034】
水性分散媒は、たとえば、水(イオン交換水)に、水溶性化合物とともに、必要に応じて分散安定剤および/または分散安定補助剤等を配合して調製される。重合時の水性分散媒のpHは、水溶性化合物、分散安定剤、分散安定補助剤の種類によって適宜決められる。
【0035】
所定粒子径の球状油滴が調製されるように油性混合物を水性分散媒中に乳化分散させるために、油性混合物を乳化分散させる方法としては、たとえば、ホモミキサー(たとえば、特殊機化工業株式会社製)等により攪拌する方法や、スタティックミキサー(たとえば、株式会社ノリタケエンジニアリング社製)等の静止型分散装置を用いる方法、膜乳化法、超音波分散法等の一般的な分散方法を挙げることができる。
【0036】
次いで、油性混合物が球状油滴として水性分散媒に分散された分散液を加熱することにより、懸濁重合を開始する。重合反応中は、分散液を攪拌するのが好ましく、その攪拌は、たとえば、単量体の浮上や重合後の熱膨張性微小球の沈降を防止できる程度に緩く行えばよい。
【0037】
重合温度は、重合開始剤の種類によって自由に設定されるが、好ましくは30〜100℃の範囲で制御される。反応温度を保持する時間は、0.1〜20時間程度が好ましい。重合初期圧力については特に限定はないが、ゲージ圧で好ましくは0〜5.0MPaの範囲である。
【0038】
[2]発泡性繊維
本発明の発泡性繊維は、紡糸可能なポリプロピレン樹脂に前記[1]記載の熱膨張性微小球を練りこませてなるポリプロピレン樹脂組成物を用いて得られるポリプロピレン繊維である。
【0039】
本発明の発泡性繊維に用いられる繊維素材は、単独または2種類以上の均一に混合されたポリプロピレン樹脂と、熱膨張性微小球を含むポリプロピレン樹脂組成物を用いて溶融紡糸された繊維であってもよく、2種類以上の種類の異なるポリプロピレン樹脂を用いて複合紡糸した繊維であって、少なくとも1種類のポリプロピレン樹脂と膨張性微小球を混合してなるポリプロピレン樹脂組成物を用いて得られた複合繊維であってもよい。
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合のポリプロピレン、プロピレンとエチレンや他のαオレフィンとの2元または3元系共重合体等のポリオレフィン類、及び上記樹脂の混合物等を挙げることができる。
【0040】
本発明の発泡性繊維において、繊維表面の凹凸や抵抗を軽減する為に、前記[1]記載の熱膨張性微小球は、該繊維の横断面における最外層から少なくとも2μm以上内側に、長さ方向に沿って連続して分散してなる。熱膨張性微小球は、含有される微小球の形状やその寸法によっても異なるが、前記最外層から5μm以上内側に含まれるのが好ましく、10μm以上内側に含まれることが繊維表面への凹凸や抵抗を軽減するのにより好ましい。
【0041】
本発明の発泡性繊維においては、十分に繊維を発泡させる為に必要な所要量の熱膨張性微小球を、容易に含有させることができる。一般的には該繊維の質量に対して熱膨張性微小球を1〜65質量%含有することができ、5〜50質量%含有することが好ましく、特に10〜40質量%含有することがより好ましい。
【0042】
熱膨張性微小球は、加熱により軟化する外殻と、この外殻に内包された加熱することによって気化する発泡剤とを有し、加熱されて体積膨張を生じる材料である。この外殻の材質及び低沸点液体の種類等については、前記[1]記載の通りである。
【0043】
熱膨張性微小球の形状は、発泡性繊維の用途等によっても、特に限定されるものではない。形状は、球形、楕円形、直方体形等であってもよく、横断面が扁平形状(長方形)、正方形等の多角形、円形、楕円形、星形等であり、径に対して長さ方向の寸法が大きい長尺体であってもよい。更に、長尺体や円形であることが好ましく、特に球形であることがより好ましい。
【0044】
熱膨張性微小球は通常球形であり、その寸法は特に限定されないが、1〜100μm、より好ましくは5〜80μm、さらに好ましくは10〜60μmである。平均径が1μm以上であれば、熱膨張による発泡する寸法への効果が大きくなり、軽量化に大きく寄与する。また、100μm以下であれば、本発明の発泡性繊維において、溶融紡糸時の糸切れが少なく、製糸行程上の糸切れが少なく、容易に生産することができる。
【0045】
熱膨張性微小球の膨張開始温度は、特に限定されないが、好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上である。熱膨張性微小球の膨張開始温度の上限値は、好ましくは300℃である。
熱膨張性微小球の膨張開始温度が、170℃以上であれば、本発明の発泡性繊維を構成する樹脂であるポリプロピレンの融点が130〜170℃の範囲であることから、繊維の製造に支障をきたす繊維製造工程中の発泡が抑制されうる。
【0046】
本発明の発泡性繊維に用いられる繊維が複合繊維の場合、同心鞘芯型、偏心鞘芯型、3層以上の多層型、中空多層型、異形多層型等の複合形態を用いることができる。このとき、繊維を構成する熱可塑性樹脂の組み合わせは、融点差が異なる樹脂を適宜用いることができる。さらに繊維を構成するポリプロピレン樹脂のうち低融点成分が繊維表面の少なくとも一部に露出し、さらに繊維の長さ方向に沿って連続している構造となることが好ましく、これにより、低融点樹脂の軟化点または融点以上、高融点熱可塑性樹脂の融点未満の温度で熱処理することで、複合繊維の低融点熱可塑性樹脂が溶融され、繊維の交点が熱接着された三次元網目状構造の熱接着性不織布を形成させることができる。
【0047】
本発明の発泡性繊維に用いられる繊維が複合繊維であり、低融点樹脂と高融点樹脂との2種類のポリプロピレン樹脂からなる場合、その組み合わせの例としては、プロピレンとエチレンや他のαオレフィンとの2元または3元共重合体、例えば、プロピレン−エチレン−ブテン−1結晶性共重合体/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレン等が例示できる。特に、繊維を不織布化加工や加熱工程における融着を伴なう加工を行った際、低融点側のポリプロピレン系樹脂が融着を開始する温度で、高融点側のポリプロピレン系樹脂の変形を伴わない為に、融点差を持たせる点でエチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレンの組み合わせが好ましい。
高融点側のポリプロピレンとしては、融点が155〜170℃、MFRが5〜50のものを使用できるが、これに限定されない。繊維を紡出する時に繊維形状を維持させる溶融張力を適度に持たせる点で好ましいのは、MFRが10〜40である。
低融点側のプロピレン系樹脂としては、プロピレン−エチレン−ブテン−1結晶性共重合体及びエチレン−プロピレン共重合体の、融点もしくは軟化点が80℃〜155℃、MFRが5〜50のものを使用できるが、これに限定されない。繊維を紡出する時に繊維形状を維持させる溶融張力を適度に持たせる点で好ましいのは、MFRが10〜40である。
エチレン−プロピレン共重合体としては、融点もしくは軟化点、MFRの点から、エチレン単位の含有量が3.5質量%のものが好ましく使用できるが、これに限定されない。
【0048】
本発明の発泡性繊維に用いられる繊維が複合繊維であって、低融点樹脂と高融点樹脂との2種類のポリプロピレン樹脂からなる場合、低融点ポリプロピレン系樹脂と高融点ポリプロピレン系樹脂の質量比は、低融点樹脂が10〜90質量%、高融点樹脂が10〜90質量%であり、好ましくは低融点熱可塑性樹脂が30〜70質量%、高融点樹脂が70〜30質量%である。低融点樹脂が10質量%未満の場合、熱接着性が不充分になり不織布に加工したときの不織布強力が低下する。また、逆に低融点樹脂が90質量%を越えた場合、芯成分である高融点樹脂が繊維形態を維持できにくくなる。
【0049】
本発明の発泡性繊維に用いられる繊維が複合繊維の場合、熱膨張性微小球が該繊維の横断面における最外層から少なくとも2μm以上内側に、長さ方向に沿って連続して分散していれば、含有される樹脂層は、構成する低融点ポリプロピレン系樹脂と高融点ポリプロピレン系樹脂の質量比には限定されない。
熱膨張性微小球が、繊維の横断面における最外層から少なくとも2μm以上内側に分散してなる繊維は、好適には、熱膨張性微小球を含むポリプロピレン樹脂組成物を、鞘芯型複合繊維の芯成分として使用することによって比較的容易に製造することができる。
【0050】
本発明の発泡性繊維を構成するポリプロピレン樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲内で酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、顔料、可塑剤及び他の熱可塑性樹脂等を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の発泡性繊維の繊度は特に限定されないが、0.2〜200dtexの範囲が好ましく用いられる。軽量化を目的とする場合には、繊維基材の軽量化の効率を高める観点から、該発泡性繊維中の熱膨張性微小球の含有量を増量すべく、繊維の繊度は1.7dtex以上と比較的太い繊維であるのが好ましい。さらに繊維基材を形成する際には、該発泡性繊維と混繊するケナフ等の天然繊維と同程度の太さを有する繊維である方が、均一に分散させることが可能である点から好ましく、特に1.7〜100dtexの範囲であるのが好ましい。
【0052】
本発明の発泡性繊維は、例えば、以下の工程によって製造することができる。
含有される熱膨張性微小球の発泡開始温度より低い押出温度にて、ポリプロプレン樹脂組成物等を口金より紡出する。このとき、口金直下をクエンチにより送風し、半溶融状態の熱可塑性樹脂を冷却することによって、未延伸状態の発泡性繊維を製造する。このとき、溶融した樹脂の吐出量及び未延伸糸の引取速度を任意に設定し、目標繊度に対して1〜3倍程度の繊維径の未延伸糸とする。なお、得られる繊維の横断面における最外層より2μm以上は内側に、熱膨張性微小球を含有される層が配されるように繊維が紡糸されれば、必ずしもこの方法に限定されない。得られた未延伸糸は、通常用いられる延伸機により延伸することによって、延伸糸(捲縮加工前の繊維)とすることができる。なお、通常の場合、40〜120℃に加熱したロールとロールの間を、ロール間の速度比が1:1〜1:3の範囲となるように延伸処理を施す。得られた延伸糸は、ボックス型の捲縮加工機により捲縮が付与されトウとする。
繊維処理剤の付着工程については、未延伸糸の引き取り時にキスロールにて付着する方法や、延伸時/後にタッチロール法、浸漬法、噴霧法等で付着する方法があり、これらの方法の少なくとも一種の工程にて付着される。該トウは乾燥機を用いて60〜120℃で乾燥し、押し切りカッターを用いて用途に合わせた任意の繊維長に切断し、使用される。
【0053】
本発明の発泡性繊維の捲縮数は特に制限されないが、カード機で梳綿する場合には、3〜20山/25mmの範囲がウェブの形成が良好となり好ましい。このとき、捲縮数が3山/25mm以上だと得られた不織布は十分な強力を有し、20山/25mm以下だと繊維間の絡みが生じにくく繊維の開繊性が良好で、均一な地合いのウェブさらには不織布が得られやすい。また、捲縮形状はジグザグ型の二次元捲縮やスパイラル型、オーム型等の立体三次元捲縮等、いずれの形状も用いることができる。
【0054】
本発明の発泡性繊維の捲縮数は特に制限されないが、エアレイド法でウェブ化する場合には、0〜15山/25mmの範囲がウェブの形成が良好となり好ましい。このとき、捲縮数が15山/25mm以下であると繊維間の絡みが少なく、繊維の開繊性が良好で、均一な地合いのウェブさらには不織布が得られやすい。また、捲縮形状はジグザグ型の二次元捲縮やスパイラル型、オーム型等の立体三次元捲縮等、いずれの形状も用いることができる。
【0055】
〔3〕発泡性繊維を用いた不織布又は複合化繊維基材の製造
本発明の発泡性繊維は、単独もしくはたとえばケナフのような植物性の天然繊維と混合して、カード法、エアレイド法等の既知の加工法でウェブを形成し、それをニードルパンチ法やウォータージェット法等で繊維を機械的に交絡することや、スルーエアー型熱処理機等で繊維の交点を熱融着することで不織布とすることができる。また、本発明の発泡性繊維は、他の不織布、フィルム、パルプシート、編物、織物等に堆積させて複合化繊維基材とすることもできる。得られた複合化繊維基材は170℃以上に加熱することにより発泡性繊維中の熱膨張性微小球を発泡させることができる。
【0056】
本発明の発泡性繊維を用いた不織布や前記の複合繊維基材は、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブロー法等の加工法によって得られる他の不織布、繊維、フィルム、パルプシート、編物、織物、木質板、金属板等の他のシートと積層して複合化繊維基材とすることができる。
【0057】
本発明の発泡性繊維を用いてエアレイド法により不織布化加工を行う場合、繊維を篩、またはスクリーンを通して繊維が均一分散したウェブとなるよう降り積もらせることが望ましい。このためには、繊維長が3〜40mmの範囲の短繊維を用いることが好ましい。繊維長が40mm以下だと均一分散が達成され易く、さらに不織布に地合斑ができにくい。繊維長が3mm以上だと、不織布に加工したときの不織布強力が良好で、エアレイド法の特徴である嵩高性が得られやすい。
【0058】
エアレイド法に用いられるウェブ製造装置としては、例えば、前後、左右、上下、水平円状等のいずれかに振動し短繊維をふるいの目から分散落下させる箱形篩いタイプの装置が使用できる。また、ネット状の金属多孔板が円筒状に成形され、且つその側面に繊維の投入口を有し、繊維をそのふるいの目から分散・落下させるネット状円筒型タイプの装置も使用できる。
【0059】
本発明の発泡性繊維をカード機で梳綿する場合には、繊維長が32〜200mmの繊維を用いることが好ましい。繊維長を200mm以下にすることで、カード機のシリンダーやワーカー等のローラーへの繊維の巻き付き等を回避し、良好な加工性が得られる。さらに、繊維長を32mm以上にすることで、ウェブに適度な繊維交絡による強度を有することができ、ウェブの形成時のフライやウェブの切断を回避し、良好な加工性が得られる。
【0060】
本発明の発泡性繊維を用いてエアレイド法、またはカード法によって得られたウェブは繊維交点の熱処理や機械交絡によって不織布に加工される。熱処理は低融点樹脂成分の軟化点または融点以上、高融点樹脂成分の融点未満の温度に加熱して繊維の交点を融着する装置を用い、スルーエアー型熱処理機、エンボスロール型熱処理機、フラットロール型熱処理機等が使用できる。特にエアレイド法により得られたウェブはスルーエアー型熱処理機を用いることで嵩高な不織布が得られるため好適である。また、機械交絡は高圧水流やニードルによって機械的にウェブを絡ませる方法であり、柔らかい風合いの不織布を得るのに好適である。
【0061】
本発明の発泡性繊維を用いた不織布は、前述のごとく、例えばエアレイド法やカード法によって得ることができる。該不織布の目付は特に限定されないが、車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野及び建築関連分野等における内装材、外装材、構造材等に用いる場合は750〜1000g/m範囲の目付が好ましい。
【0062】
本発明の発泡性繊維を用いた繊維基材は、用途に応じて、繊維集合体、ウェブ、不織布、繊維トウ、紙状物、編物または織物等の様々な形態をとることができる。中でも、特に前述の不織布、複合化不織布を用いて製造されたものが好ましく、前記の様々な分野において、軽量化、原料使用量の低減化を目的に、使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
〔使用した熱膨張性微小球の平均粒子径と粒度分布の測定〕
レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製 HEROS&RODOS)を使用した。乾式分散ユニットの分散圧は5.0bar、真空度は5.0mbarで乾式測定法により測定し、D50値を平均粒子径とした。
【0065】
〔使用した熱膨張性微小球の含水率の測定〕
測定装置として、カールフィッシャー水分計(MKA−510N型、京都電子工業株式会社製)を用いて測定した。
【0066】
〔使用した熱膨張性微小球に封入された発泡剤の内包率の測定〕
熱膨張性微小球1.0gを直径80mm、深さ15mmのステンレス製蒸発皿に入れ、その質量(W)を測定した。DMFを30ml加え均一に分散させ、24時間室温で放置した後に、130℃で2時間減圧乾燥後の質量(W)を測定した。発泡剤の内包率は、下記の式により計算される。
内包率(質量%)=(W−W)(g)/1.0(g)×100−含水率(質量%)
(式中、含水率は、上記方法で測定される。)
【0067】
〔使用した熱膨張性微小球の膨張開始温度(Ts)および最大膨張温度(Tmax)の測定〕
測定装置として、DMA(DMA Q800型、TA instruments社製)を使用した。熱膨張性微小球0.5mgを直径6.0mm(内径5.65mm)、深さ4.8mmのアルミカップに入れ、熱膨張性微小球層の上部にアルミ蓋(直径5.6mm、厚み0.1mm)をのせて試料を準備した。その試料に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態でサンプル高さを測定した。加圧子により0.01Nの力を加えた状態で、20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量を測定した。正方向への変位開始温度を膨張開始温度(Ts)とし、最大変位量を示したときの温度を最大膨張温度(Tmax)とした。
【0068】
[得られた繊維の物性]
(1)捲縮数:JIS−L−1015に準じて測定した。
(2)単糸繊度:JIS−L−1015に準じて測定した。
(3)単糸強度:JIS−L−1015に準じて測定した。
(4)繊維処理剤付着量(%):乾燥した繊維2gから、繊維に付着した繊維処理剤をメタノール25mlで抽出し、抽出メタノールからメタノールを蒸発させて残った残渣を秤量し、繊維に対する質量比を算出した値(%)。
(5)熱膨張性微小球非含有層の厚み:繊維横断面について、電子顕微鏡(日本電子株式会社製 走査電子顕微鏡JSM−5400)により撮影した面画像より平均距離を測定した。
(6)繊維加工性:発泡性繊維の溶融紡糸時の加工性について、糸切れ状況や得られた繊維の状態から官能的に比較評価した値。加工時の糸切れが少なく、得られた繊維の形状が良好なものから◎(良い)、○(普通)、×(悪い)で評価した。
【0069】
[得られた繊維基材の物性]
(1)目付:繊維基材を50cm角に切った成形体全体の質量を秤量し、単位面積当たりの質量(g/m)で示した。
(2)曲げ強さ(MPa):繊維基材の機械的特性を評価する為に、JIS−K−7171に準じて測定した。この測定には、含水率約10質量%の繊維基材の試験片(長さ:150mm、幅:50mm、厚さ:5mm)を用いた。
(3)曲げ弾性率(MPa):繊維基材の機械的特性を評価する為に、JIS−K−7171に準じて測定した。この測定には、含水率約10質量%の繊維基材の試験片(長さ:150mm、幅:50mm、厚さ:5mm)を用いた。
【0070】
熱膨張性微小球Aの製造例1
イオン交換水600gに、塩化ナトリウム150g、シリカ有効成分20質量%であるコロイダルシリカ70g、ポリビニルピロリドン1.0gおよびエチレンジアミン四酢酸・4Na塩の0.5gを加えた後、得られた混合物のpHを2.8〜3.2に調整し、水性分散媒を調製した。これとは別に、アクリロニトリル80g、メタクリロニトリル70g、メタクリル酸150g、エチレングリコールジメタクリレート1.0g、イソオクタン80gおよび有効成分50%のジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート含有液8gを混合して油性混合物を調製した。
【0071】
水性分散媒と油性混合物を混合し、得られた混合液をホモミキサー(特殊機化工業社製、TKホモミキサー)により分散して、縣濁液を調製した。この懸濁液を容量1.5リットルの加圧反応器に移して窒素置換をしてから反応初期圧0.5MPaにし、80rpmで攪拌しつつ重合温度60℃で20時間重合した。重合後に得られた重合液を濾過、乾燥して、熱膨張性微小球Aを得た。得られた熱膨張性微小球の平均粒子径は30μm、内包率は20%、膨張開始温度は200℃であった。
【0072】
実施例1〜2及び比較例1では、前記の製造例1で得た熱膨張性微小球Aを用いた。
【0073】
実施例1
繊維の最外層側に、100質量%のポリプロピレン樹脂(日本ポリプロピレン社製、商品名「ノバテックSA2E、MFR(230℃)=16.0g/10min」)を繊維質量に対して50質量%配し、繊維の内層側に上記製造例1で得た熱膨張性微小球Aを10質量%、ポリプロピレン樹脂1(プライムポリマー社製、商品名「プライムポリプロH−700、MFR(230℃)=8.0g/10min」)を40質量%、ポリプロピレン樹脂2(日本ポリプロピレン社製、商品名「ノバテックSA04D、MFR(230℃)=40.0g/10min」)を50質量%混練したポリプロピレン樹脂組成物を、繊維質量に対して50質量%配した繊維を紡糸した。得られた未延伸糸繊維を延伸比1.1倍で延伸し、捲縮付与工程を経て、繊維の捲縮数が10〜14山/25mmの繊維を得た。得られた繊維は76mmのカッターローターにて切断し、目的とする熱膨張性微小球を繊維質量に対し5質量%含有した発泡性繊維を得た。繊維処理剤の付着方法は紡糸工程でのキスロール方式を用いた。得られた繊維の物性等を表1に記す。
【0074】
実施例2
繊維の最外層側に、100質量%のポリプロピレン樹脂(日本ポリプロピレン社製、商品名「ノバテックSA2E、MFR(230℃)=16.0g/10min」)を繊維質量に対して50質量%配し、繊維の内層側に上記製造例1で得た熱膨張性微小球Aを20質量%、ポリプロピレン樹脂1(プライムポリマー社製、商品名「プライムポリプロH−700、MFR(230℃)=8.0g/10min」)を20質量%、ポリプロピレン樹脂2(日本ポリプロピレン社製、商品名「ノバテックSA04D、MFR(230℃)=40.0g/10min」)を60質量%混練したポリプロピレン樹脂組成物を、繊維質量に対して50質量%配した繊維を紡糸した。得られた未延伸糸繊維を延伸比1.1倍で延伸し、捲縮付与工程を経て、繊維の捲縮数が10〜14山/25mmの繊維を得た。得られた繊維は76mmのカッターローターにて切断し、目的とする熱膨張性微小球を繊維質量に対し10質量%含有した発泡性繊維を得た。繊維処理剤の付着方法は紡糸工程でのキスロール方式を用いた。得られた繊維の物性等を表1に記す。
【0075】
比較例1
上記製造例1で得た熱膨張性微小球Aを10質量%、ポリプロピレン樹脂1(プライムポリマー社製、商品名「プライムポリプロH−700」)を10質量%、ポリプロピレン樹脂2(日本ポリプロピレン社製、商品名「ノバテックSA04D、MFR(230℃)=40.0g/10min」)を80質量%混練した組成物を溶融紡糸し、繊維の最外層まで熱膨張性微小球が配する形状で繊維を得たが、単糸切れの多発や、繊維の引き取りきや、加工機に接触したところで、単糸の切れが見られ、延伸出来る繊維が得られなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例3
実施例1で得られた発泡性繊維を繊維基材質量の50質量%と、ケナフ繊維(平均繊維長70mm、平均繊維径80μm)50質量%の比率で混合し、カード加工機にて混繊したカードウェブを形成した。次いで、このウェブを針密度70本/cm、針深度10mm及びパンチング速度1〜2回/secの条件でニードリングした。その後、ニードリングされたウェブを再度逆サイドから同条件でニードリングして、目付1200g/mの繊維マットを試作した。
繊維マットを長さ1200mm、幅700mmの寸法に裁断し、この裁断マットを厚さ0.6mmのテフロンシートにより挟持し210℃に調温された加熱プレスにより、圧力8.1kPaで120秒間加熱圧縮した。その後25℃に調温された冷却プレスにより、圧力4.5×10kPaで60秒間加圧冷却し、厚さ2.5mm、目付1200g/mの予備成形体を作製した。次いでこの予備成形体を235℃に調温されたオーブン内に収容し、180秒加熱後(予備成形体の厚さ方向の中心部の温度は235℃であり、熱膨張性微小球の発泡を確認した。)取り出し、直ち25℃に調温された冷却プレスにより、圧力4.5×10kPaで60秒間加圧冷却し、厚さ4.0mm、目付1200g/mの繊維成形体を作製した。
【0078】
比較例2
熱膨張性微小球を含まないポリプロピレン樹脂からなる単一繊維(平均繊維長51mm、平均繊維径29μm)を繊維基材質量の50質量%と、ケナフ繊維(平均繊維長70mm、平均繊維径80μm)50質量%の比率で混合し、カード加工機にて混繊したカードウェブを形成した。次いで、このウェブを針密度70本/cm、針深度10mm及びパンチング速度1〜2回/secの条件でニードリングした。その後、ニードリングされたウェブを再度逆サイドから同条件でニードリングして、目付1200g/mの繊維マットを試作した。繊維マットを長さ1200mm、幅700mmの寸法に裁断し、この裁断マットを厚さ0.6mmのテフロンシートにより挟持し210℃に調温された加熱プレスにより、圧力8.1kPaで120秒間加熱圧縮した。その後25℃に調温された冷却プレスにより、圧力4.5×10kPaで60秒間加圧冷却し、厚さ2.5mm、目付1200g/mの予備成形体を作製した。次いでこの予備成形体を235℃に調温されたオーブン内に収容し、180秒加熱後取り出し、直ち25℃に調温された冷却プレスにより、圧力4.5×10kPaで60秒間加圧冷却し、厚さ4.0mm、目付1200g/mの繊維成形体を作製した。
【0079】
上記のようにして製造した繊維基材の機械的特性を比較評価する為、最大曲げ荷重、曲げ弾性率を測定した。そして、試験片を支点間距離(L)100mmの二個の支点(曲率半径5.0mm)で支持し、支点間中心に配置した作用点(曲率半径3.2mm)から速度50m/minの条件で荷重を負荷させ、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
本発明の発泡性繊維を用いた繊維基材は、同等の密度の、熱膨張性微小球を含まない単一のポリプロピレン繊維を用いた繊維基材より、最大曲げ強度及び、曲げ弾性率で表される機械特性において、優れた特性示すことが確認できた。すなわち、本発泡性繊維を用いることで、同等の強度を有する繊維基材を構成する場合、従来の繊維より合成繊維の使用量の削減及び、基材の軽量が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の発泡性繊維は、その製造において、含有される熱膨張性微小球の膨張を抑えながら、安定した生産性を維持することが出来る。さらに、本発明の発泡性繊維を用いることにより、熱膨張性微小球を繊維自体が含有してなることから、エアレイド機やカード機等の既存の加工法を用いて、均一に不織布中に熱膨張性微小球を分散、固定化することができ、熱膨張開始温度以上で発泡して得られた繊維基材は均一な機械物性を有することができ、車両関連分野や、船舶関連分野、建築関連分野等の広範な技術分野において、軽量化材等として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 熱膨張性微小球
2 外殻
3 発泡剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性微小球を含有する、ポリプロピレン樹脂組成物を用いて得られた発泡性繊維であって、該熱膨張性微小球が、カルボキシル基含有単量体を含む重合性成分を重合することによって得られる熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤とから構成され、平均粒子径が1〜100μmの範囲にあり、膨張開始温度が170℃以上であり、該繊維質量に対して1〜65質量%の割合で混合され、さらに、該繊維横断面の最外層から2μm以上内側に配されている、発泡性繊維。
【請求項2】
該発泡性繊維の繊維直径が10μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の発泡性繊維。
【請求項3】
該発泡性繊維の繊維長が1〜200mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡性繊維。
【請求項4】
該発泡性繊維は、天然繊維と混合して繊維基材を構成してなる請求項1〜3のいずれか1つに記載の発泡性繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256479(P2011−256479A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131008(P2010−131008)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】