説明

発泡性耐火塗料

【解決手段】合成樹脂をバインダーとして含むと共に、難燃剤として粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を含むことを特徴とする発泡性耐火塗料。
【効果】疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を添加した本発明の発泡性耐火塗料は、耐水性、耐火性及び耐候性に優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤として粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を含有してなる耐火性、耐水性、耐候性に優れた発泡性耐火塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの構造体に対して火炎の影響を遅らせるために様々な塗料が適用されている。それらの塗料は、それが適用された基材の温度上昇の速度を遅らせ、構造体が火炎の熱によって破損するまでの時間を引き延ばす機能を持つものである。一般的にはセメント等の無機質にロックウール、アスベスト、ガラス繊維等の無機質繊維状物質やバーミキュライト等の軽量骨材等を混合した塗料を厚付けする湿式耐火被覆材がある。しかし、これらの被覆材は1〜3cm程度の被覆が必要であり、作業工程上、又は美観上好ましくない。
【0003】
このような問題を解決する技術として、火災等の温度上昇時に塗膜を発泡させ耐火性を付与する発泡性耐火塗料が提案されている。例えば、特開平5−86310号公報(特許文献1)には、発泡性耐火塗料として、発泡剤としてのポリリン酸アンモニウムと炭素生成材料としてのペンタエリスリトール、メラミン等を含有した一液変成エポキシ樹脂よりなる発泡性耐火塗料が開示されている。また、特開平5−70540号公報(特許文献2)には、膨張性黒鉛、リン又はリン化合物、分枝型多価アルコール、含窒素化合物系発泡剤を配合した厚塗り発泡性耐火組成物が開示されている。更に、特開平6−16975号公報(特許文献3)には、チャー形成剤としてポリリン酸アンモニウムを配合した防火塗料が開示されている。しかしながら、上記公報に記載の耐火塗料、耐火組成物、もしくは防火塗料は、その成分であるポリリン酸アンモニウムあるいはリン化合物の水溶性が高いことに起因し、該耐火塗料又は耐火組成物を鉄筋やコンクリートあるいは木材等に塗布した乾燥後の塗膜の耐水性が満足できるものではないという問題点を含んでいる。
【0004】
一方、特開平5−65436号公報(特許文献4)には、水性の合成樹脂ビヒクルと混合した場合に、水抽出に対し、抵抗性の高いメラミン樹脂でマイクロカプセル化した高分子量のポリリン酸アンモニウムを配合した発泡性耐火塗装剤が開示されている。しかしながら、樹脂によってマイクロカプセル化されたポリリン酸アンモニウムは、上記公報で開示されているように、水抽出に対し抵抗性が高いが、まだ十分な耐水性を有していない。また、該ポリリン酸アンモニウムはマイクロカプセル化される過程で粒子径の増大を招き、結果として合成樹脂バインダー中での分散性を低下させることになり、耐火性の低下を引き起こす原因となっていた。
【0005】
また、特開平6−263416号公報(特許文献5)においては、粉末状ポリリン酸アンモニウム粒子表面にメラミンが付加及び/又は付着されていることを特徴とするメラミン被覆ポリリン酸アンモニウムが開示されている。更に、特開平7−277713号公報(特許文献6)では、該メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム粒子表面のメラミンと、メラミン分子中のアミノ基の活性水素と反応しうる官能基を有する架橋剤とで、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム粒子表面が架橋されていることを特徴とする不溶性ポリリン酸アンモニウム粒子が開示されている。これらのメラミン被覆ポリリン酸アンモニウム及び/又は不溶性ポリリン酸アンモニウムは、ポリリン酸アンモニウムの粒子径を増大させることなく、水に対する抵抗性が高いものということになっており、それを応用した技術が特開平8−253710号公報(特許文献7)、特開平9−286875号公報(特許文献8)に開示されている。
しかし、この技術でもまだ、合成樹脂バインダー中での分散性も今ひとつであるばかりでなく、耐水性も不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−86310号公報
【特許文献2】特開平5−70540号公報
【特許文献3】特開平6−16975号公報
【特許文献4】特開平5−65436号公報
【特許文献5】特開平6−263416号公報
【特許文献6】特開平7−277713号公報
【特許文献7】特開平8−253710号公報
【特許文献8】特開平9−286875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐火性、耐水性、耐候性に優れた発泡性耐火塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、合成樹脂をバインダーとし、難燃剤として粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を使用することにより、従来の発泡性耐火塗料と同等の物性を有し、更に合成樹脂バインダー中での分散性が向上し、耐水性ばかりでなく、耐火性、耐候性が向上することを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記発泡性耐火塗料を提供する。
[1]合成樹脂をバインダーとして含むと共に、難燃剤として粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を含むことを特徴とする発泡性耐火塗料。
[2]粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子の含有量が、バインダーである合成樹脂100質量部に対して50〜400質量部であることを特徴とする[1]記載の発泡性耐火塗料。
[3]合成樹脂がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、又はアルキッド樹脂であることを特徴とする[1]又は[2]記載の発泡性耐火塗料。
[4]合成樹脂が酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル酸エステル系樹脂エマルジョン、バーサチック酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン系樹脂エマルジョンから選ばれる合成樹脂エマルジョンであることを特徴とする[1]又は[2]記載の発泡性耐火塗料。
[5]ポリリン酸アンモニウム粒子が、メラミンで表面を被覆したポリリン酸アンモニウム粒子であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の発泡性耐火塗料。
[6]ポリリン酸アンモニウム粒子が、ケイ素化合物で表面を被覆したポリリン酸アンモニウムであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の発泡性耐火塗料。
[7]疎水性無機酸化物微粒子が、疎水性のシリカ微粒子であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の発泡性耐火塗料。
[8]疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウムの平均粒子径が3〜35μmである[1]〜[7]のいずれかに記載の発泡性耐火塗料。
[9]疎水性無機酸化物微粒子の平均粒子径が0.001〜5μmである[1]〜[8]のいずれかに記載の発泡性耐火塗料。
[10]更に、発泡剤及び炭素形成剤を含有する[1]〜[9]のいずれかに記載の発泡性耐火塗料。
【発明の効果】
【0010】
疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を添加した本発明の発泡性耐火塗料は、耐水性、耐火性及び耐候性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の発泡性耐火塗料に用いられる難燃剤は、ポリリン酸アンモニウム粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆した難燃剤である。
【0012】
ポリリン酸アンモニウムは、製造方法により、I型、II型、III型,IV型及びV型があるが、それらのいずれも使用することができる。ポリリン酸アンモニウムは市販品を使用することもでき、該市販品としては、エキソリット(Exolit)−422(商品名、ヘキスト社製)、エキソリット(Exolit)−700(商品名、ヘキスト社製)、フォスチェク(Phos−chek)−P/30(商品名、モンサント社製)、フォスチェク(Phos−chek)−P/40(商品名、モンサント社製)、スミセーフ−P(商品名、住友化学(株)製)、テラージュ(TERRAJU)−S10(登録商標、チッソ(株)製)、テラージュ(TERRAJU)−S20(登録商標、チッソ(株)製)、ペコフレーム204P(商品名、クラリアント社製)、ペコフレーム203PDR(商品名、クラリアント社製)等を挙げることができる。また、そのような表面無処理の粉末状ポリリン酸アンモニウムだけでなく、予め表面をメラミンあるいはケイ素化合物で被覆されたものでもよい。
【0013】
その市販品としては、メラミン被覆されたテラージュ(TERRAJU)−C30(登録商標、チッソ(株)製)などを挙げることができる。またケイ素化合物による表面被覆は、従来公知の方法でシランカップリング剤やシリコーン樹脂で処理したものを使用することができる。また、疎水性無機酸化物微粒子で被覆すべきポリリン酸アンモニウム粒子として平均粒子径3〜25μm、特に5〜18μmのものを用いることが好ましい。なお、本発明において、平均粒子径は、例えばレーザー光回折法などにより、粒度分布測定装置等を用いて、重量平均値(又はメジアン径)として求めることができる。
【0014】
本発明は、上記ポリリン酸アンモニウム粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したものを使用するもので、これにより、良好な撥水性が発現するという効果が得られるものである。
【0015】
本発明で使用される疎水性無機酸化物微粒子は、疎水性の無機酸化物ならば特に限定されず、疎水性の酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミ、酸化セリウム等が挙げられる。特に好適には疎水性の酸化ケイ素(シリカ)がコスト面や性能の面で最も好ましい。
【0016】
用いるシリカは、大別してハロゲン化ケイ素の分解により得る方法やケイ砂を加熱還元した後、空気により酸化して得る方法等に代表される乾式法シリカとケイ酸ナトリウムを硫酸等の鉱酸により直接分解して得る方法に代表される湿式法シリカの2種類がある。また、アルコキシシランの加水分解によって得られるゾルゲル法シリカでもよく、どのシリカもメチル基その他のアルキル基等の疎水基を持っていればよい。
【0017】
疎水性の目安としては、疎水化度という尺度で45以上の値を示すことが好ましい。ここで疎水化度とは、後述するメタノール滴定試験により求められる。水に添加されたシリカ微粒子が湿潤されたときの、メタノールと水との混合物中におけるメタノールの百分率により表される値で、この数値が大きいほど疎水性が高く、数値が小さいほど親水性が高いことを示す。
【0018】
また、疎水性の酸化ケイ素(シリカ)の平均粒子径は、ポリリン酸アンモニウム粒子を十分コーティングする大きさがよく、0.001〜5μmの範囲が好ましい。更には0.001〜1μmの範囲がより好ましく、その形状は真球状でも不定形状でもよく、特に限定はされないが、ポリリン酸アンモニウム粒子の平均粒子径より小さい平均粒子径のものを使用する。
【0019】
また、ポリリン酸アンモニウム粒子への疎水性無機酸化物微粒子の被覆方法としては、ポリリン酸アンモニウム粒子100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部の疎水性無機酸化物微粒子をボールミル、V型混合機、リボン型混合機、スクリュウ混合機等の混合機を利用した高速撹拌手段により、ポリリン酸アンモニウム粒子の表面に疎水性無機酸化物微粒子を被覆させる。この量が0.1質量部よりも少ないと、十分な疎水性を付与できない場合がある。また、この量が20質量部より多いと、耐火性が劣化するおそれがあり、またコスト的に好ましくないおそれがある。
【0020】
疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子は、平均粒子径が3〜35μm、特に5〜20μmであることが好ましい。この平均粒子径が35μmよりも大きいと合成樹脂への分散性が悪くなるおそれがある。
【0021】
本発明に用いられる合成樹脂バインダーは、当業者によって通常知られている樹脂を用いることができる。例えばウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂等であり、あるいは、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル酸エステル系樹脂エマルジョン、バーサチック酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン系樹脂エマルジョン等の合成樹脂エマルジョンであってもよい。
【0022】
ウレタン樹脂としては、ポリオール成分とポリイソシアネート成分からなる常温硬化型二液性ポリウレタン樹脂として通常使用されているものを任意に選択することができる。ポリオール類としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールが挙げられる。更に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,2’−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール等、グリコール単独あるいはこれらの混合物とコハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸及びこれらの酸エステル、酸ハライドと重縮合することによって得られたポリエステルポリオールが挙げられる。
【0023】
ポリイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等及びこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂としては、脂肪族、芳香族、環式、非環式、脂環式又は複素環式として通常使用されているものを任意に選択することができる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ビスフェノール−A、及びビスフェノール−Fの如き多価アルコールから誘導されるポリグリシジルエーテルを挙げることができる。更に、蓚酸、コハク酸、グルタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸及び二量価リノール酸の如き脂肪族又は芳香族ポリカルボン酸とエピクロロヒドリンとの反応生成物であるカルボン酸のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0025】
アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上の組み合わせの(共)重合体を挙げることができる。
【0026】
アルキッド樹脂としては、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和多塩基酸、又はマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和多塩基酸とエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセロール、トリグリセロール、ペンタエリスリトール等から任意に選択されるポリオールとの反応生成物を挙げることができる。
【0027】
合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸、スチレン等の単量体から合成されるアクリル酸エステル系樹脂エマルジョンが挙げられる。その他の例としては、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレンコポリマエマルジョン、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニルコポリマエマルジョン、酢酸ビニル−アクリレートコポリマエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを挙げることができる。
【0028】
上記合成樹脂バインダーに対する粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子の添加量は、合成樹脂バインダー100質量部に対して50〜400質量部、好ましくは100〜300質量部である。50質量部を下回る添加量では、耐火性がなお不十分な場合があり、400質量部を超える添加量では、耐火性の効果の向上がほとんど見られない場合がある。
【0029】
本発明の発泡性耐火塗料には、粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子以外に発泡剤及び炭素形成剤を同時に配合することができる。発泡剤としては、メラミン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、炭素数4〜9のメチロールメラミン、シアヌル酸メラミンなどのメラミン誘導体、(チオ)尿素、(チオ)尿素−ホルムアルデヒド樹脂、炭素数2〜5のメチロール(チオ)尿素などの尿素誘導体、ベンゾグアナミン、フェニルグアナミン、アセトグアナミン、サクシニルグアナミンなどのグアナミン類及び該グアナミン類とホルムアルデヒドとの反応生成物、ジシアンジアミド、グアニジン及びスルファミン酸グアニジンなどの窒素含有化合物を挙げることができる。その配合量は、合成樹脂バインダー100質量部に対し20〜150質量部、特に40〜120質量部が好ましい。
【0030】
炭素形成剤としては、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスルトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、トリエチレングリコール、ソルビトール、レゾルシノール、グリセリン、トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、イノシトールなどの多価アルコール及びデンプン、グルコース、蔗糖、スターチ等の炭水化物を挙げることができる。その配合量は、合成樹脂バインダー100質量部に対し20〜200質量部、特に40〜150質量部が好ましい。
【0031】
本発明の発泡性耐火塗料には、難燃助剤、発煙抑制剤あるいは充填剤として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機金属水和物や、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水珪酸、ほう酸亜鉛、カーボンブラック、炭素繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、マイカ、酸化チタン、ベントナイト、カオリン、モンモリナイト、ウォラストナイト、ロックウール、ガラスファイバー、アスベスト、ハイドロタルサイト、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカアルミナ、マグネシア、ゼオライト等の無機化合物、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維等の耐熱性有機繊維の任意量を配合することができる。その他に、接着性付与剤としてビニルトリメトキシシラン、アミノトリメトキシシランなどのシランカップリング剤やエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ロジン、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂等も配合することができる。
【0032】
本発明の発泡性耐火塗料を使用するに際し、希釈剤として、トルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解又は分散させて使用することができる。この場合、この有機溶剤溶液又は分散液中の固形分量が50〜80質量%、特に60〜80質量%となるように希釈することが好ましい。
【0033】
本発明の発泡性耐火塗料は、例えば、建築物、土木構築物などの構造物における耐火構造とすべき部分に適用可能であり、例えば壁、柱、床、梁、屋根、階段等の各部位が挙げられる。このような部位は、コンクリート、金属等の基材で形成されているのがほとんどであるが、このようにコンクリート、金属だけでなく、木質部材、樹脂系部材等への基材にも適用可能である。
【0034】
本発明の発泡性耐火塗料は、従来と同様の方法で塗工、適用でき、その塗膜は適宜選定できるが、通常0.2〜5mmの厚さ、特に1〜3mmの厚さにて使用することが好ましい。
なお、本発明の塗膜は、火炎等の温度上昇時、通常250℃以上で発泡するが、この発泡はポリリン酸アンモニウム及び発泡剤が熱により分散、分解し、NH3、N2等のガス発生による発泡に基づいて起こるものである。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
<疎水化度の測定方法>
(1)500mLの三角フラスコにサンプル0.2gを秤量する。
(2)イオン交換水50mLを(1)に加え、スターラーにて撹拌する。
(3)撹拌をしたまま、ビュレットよりメタノールを滴下させ、試料の全量がイオン交換水に懸濁された時の滴下量を読む。
(4)次式より疎水化度を求める。
疎水化度=(メタノール滴下量(mL))×100/(メタノール滴下量(mL)+イオン交換水量(mL))
【0037】
[調製例1]
比表面積120m2/gの乾式法シリカを窒素と水蒸気で希釈した状態のジメチルジクロロシランに500℃で接触させ、単位表面積当たりのカーボン換算量6.0〜7.0×10-5g/m3範囲の疎水化処理した疎水性シリカを製造した。このものの平均粒子径は0.016μmであり、疎水化度は60であった。
【0038】
[調製例2]
ポリリン酸アンモニウム(クラリアント社製:ペコフレームTC204P、平均粒子径8μm)100質量部と調製例1で製造した疎水性シリカ10質量部をリボン型混合機に入れて1分間高速で撹拌混合処理を行った。その処理操作により、シリカで被覆された被覆ポリリン酸アンモニウムを得た。この被覆ポリリン酸アンモニウムをSEMにより観察したところ、シリカがポリリン酸アンモニウム粒子表面上に密に付着し、被覆されていることが確認できた。このものの平均粒子径は10μmであり、疎水化度は55であった。
【0039】
[調製例3]
調製例2の疎水性シリカ10質量部を5質量部に変えた以外は同様に処理した。この被覆ポリリン酸アンモニウムをSEMにより観察したところ、シリカがポリリン酸アンモニウム粒子表面上に密に付着し、被覆されていることが確認できた。このものの平均粒子径は9μmであり、疎水化度は50であった。
【0040】
[調製例4]
調製例2のポリリン酸アンモニウム(クラリアント社製:ペコフレームTC204P、平均粒子径8μm)をメラミン被覆ポリリン酸アンモニウム(チッソ(株)製テラージュC−30、平均粒子径15.0μm)に代えた以外は同様に処理した。この被覆ポリリン酸アンモニウムをSEMにより観察したところ、シリカがポリリン酸アンモニウム粒子表面上に密に付着し、被覆されているのが確認できた。このものの平均粒子径は17μmであり、疎水化度は60であった。
【0041】
[調製例5]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた500mLの四つロフラスコにメタノール100g及びポリメチルハイドロシロキサン10gを添加し、撹拌しているところにポリリン酸アンモニウム(クラリアント社製ペコフレーム204P、平均粒子径8.0μm)100gを投入し、よく撹拌して均一に懸濁させた。次いで3−アミノプロピルトリエトキシシランを1g添加した。撹拌を続けながら昇温し、還流温度で1時間反応させた。その後、水15gをゆっくり滴下した。更に還流温度で1時間反応させた後、室温まで冷却した。次にこの反応物を濾過し、メタノールで洗浄後、100℃で乾燥することにより、ケイ素化合物で被覆されたポリリン酸アンモニウム粉末を得た。
このケイ素化合物被覆ポリリン酸アンモニウム100質量部、調製例1の疎水性シリカ10質量部をクッキングミキサーに入れて30秒間高速で撹拌混合処理を行った。その処理操作により、シリカで被覆された被覆ポリリン酸アンモニウムを得た。この被覆ポリリン酸アンモニウムをSEMにより観察したところ、シリカがポリリン酸アンモニウム粒子表面上に密に付着し、被覆されているのが確認できた。このものの平均粒子径は12μmであり、疎水化度は60であった。
【0042】
実施例及び比較例における評価は次の方法により行った。
1)塗膜の調製:鋼板(JIS G3141 SPCC−SD 寸法0.8mm厚×70mm×150mm)に下記の処方の耐火塗料を固形分換算で約300g/m2の割合で塗布し、室温で7日間乾燥させたものを用いた。
2)耐火性塗装:鋼板を垂直に立て、この塗装板の表面に1000±50℃の酸素混合プロパンガス炎をブンゼンバーナーにより10分間あて、塗装鋼板の裏面温度を熱電対により測定した。
3)耐水性塗装:鋼板を50℃の温水に7日間浸漬した後、50℃で3日間乾燥し、温水浸漬後の耐火性と浸漬前の耐火性を鋼板裏面温度の測定により比較した。また、50℃の温水に7日間浸漬した後の塗膜外観の変化や表面ヌメリ性も観察した。
4)耐候性:耐候性の評価をJIS K5400 サンシャインカーボンアーク灯式に準拠して行った。塗布鋼板をウェザーメータ(ブラックパネル温度計60℃、降雨周期;120分周期−18分降雨)に600時間暴露し、暴露後の耐火性と暴露前の耐火性を鋼板裏面温度の測定により比較した。
また暴露後の塗膜外観の変化や表面ヌメリ性も観察した。
【0043】
[実施例1]
合成樹脂バインダーとして、常乾型アルキッド樹脂ベッコゾールES−5004−50(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)100質量部に、調製例2のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム250質量部、発泡剤としてメラミン50質量部、炭素形成剤としてジペンタエリスルトール100質量部、二酸化チタン60質量部、希釈剤としてのトルエン200質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について耐火性、耐水性、耐候性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
合成樹脂バインダーとして、アクリル樹脂アクリディック52−204(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)100質量部に、調製例3のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム300質量部、発泡剤としてジシアンジアミド50質量部、炭素形成剤としてトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート80質量部、二酸化チタン50質量部、更に希釈剤としてのトルエン180質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について実施例1に準拠して評価を行い、その結果を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
合成樹脂バインダーとして、アクリル樹脂アクリディック52−204(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)100質量部に、調製例4のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム300質量部、発泡剤としてジシアンジアミド50質量部、炭素形成剤としてトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート80質量部、二酸化チタン50質量部、更に希釈剤としてのトルエン180質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について実施例1に準拠して評価を行い、その結果を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
合成樹脂バインダーとして、ポリエステルポリオール バーノックD−220(商品名 大日本インキ化学工業(株)製)49質量部とポリイソシアネート バーノックDN−980S(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)51質量部に、調製例5のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム60質量部、発泡剤としてのメラミン100質量部、炭素形成剤としてのジペンタエリスリトール100質量部、アルミナ50質量部、希釈剤としてのキシレン150質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について実施例1に準拠して評価を行い、その結果を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
合成樹脂バインダーとして、エポキシ樹脂アデカレジンEP−4520(商品名、旭電化工業(株)製)60質量部と変成脂肪族ポリアミン アデカハドナーEH−220(商品名、旭電化工業(株)製)40質量部に、調製例5のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム250質量部、発泡剤としてのメラミン50質量部、炭素形成剤としてのトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート100質量部、二酸化チタン60質量部、希釈剤としてのキシレン200質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について実施例1に準拠して評価を行い、その結果を表1に示す。
【0048】
[実施例6]
合成樹脂バインダーとして、アクリル共重合系エマルジョン ヨドゾールAD51(商品名、カネボウ・エヌエスシー(株)製、固形分43%)232質量部に、調製例2のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム150質量部、発泡剤としてのメラミン100質量部、炭素形成剤としてのペンタエリスリトール100質量部、二酸化チタン60質量部、希釈剤としての水50質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について実施例1に準拠して評価を行い、その結果を表1に示す。
【0049】
[実施例7]
合成樹脂バインダーとして、アクリル共重合系エマルジョン ヨドゾールAD51(商品名、カネボウ・エヌエスシー(株)製、固形分43%)232質量部に、調製例4のシリカ被覆ポリリン酸アンモニウム150質量部、発泡剤としてのメラミン100質量部、炭素形成剤としてのペンタエリスリトール100質量部、二酸化チタン60質量部、希釈剤としての水50質量部を予め混合した後に、三本ロールにて十分に混練したものを塗料として鋼板に塗布した。塗布鋼板について実施例1に準拠して評価を行い、その結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
シリカ被覆ポリリン酸アンモニウムに替えてスミセーフPM(商品名、住友化学工業(株)製)を用いた以外は実施例1に準拠して行い、得られた塗布鋼板についても実施例1に準拠して評価を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
シリカ被覆ポリリン酸アンモニウムに替えてTERRAJU C60(商品名、チッソ(株)製)を用いた以外は実施例1に準拠して行い、得られた塗布鋼板についても実施例1に準拠して評価を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
シリカ被覆ポリリン酸アンモニウムに替えてTERRAJU C60(商品名、チッソ(株)製)を用いた以外は実施例6に準拠して行い、得られた塗布鋼板についても実施例6に準拠して評価を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
*)評価 ◎:裏面温度<270
○:裏面温度270〜280℃
△:裏面温度281〜300℃
×:裏面温度>300℃、塗膜膨潤
【0055】
疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を配合した本発明の発泡性耐火塗料は、表1から明らかなように、温水浸漬試験後、更に耐候性試験後においても、該試験前の耐火性評価における裏面温度を維持していることが明らかである。しかし、比較例については、温水浸漬試験後、あるいは促進耐候性試験後の耐火性評価において裏面温度の上昇が見られ、耐火性能が低下していると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂をバインダーとして含むと共に、難燃剤として粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子を含むことを特徴とする発泡性耐火塗料。
【請求項2】
粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウム粒子の含有量が、バインダーである合成樹脂100質量部に対して50〜400質量部であることを特徴とする請求項1記載の発泡性耐火塗料。
【請求項3】
合成樹脂がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、又はアルキッド樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の発泡性耐火塗料。
【請求項4】
合成樹脂が酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル酸エステル系樹脂エマルジョン、バーサチック酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン系樹脂エマルジョンから選ばれる合成樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1又は2記載の発泡性耐火塗料。
【請求項5】
ポリリン酸アンモニウム粒子が、メラミンで表面を被覆したポリリン酸アンモニウム粒子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の発泡性耐火塗料。
【請求項6】
ポリリン酸アンモニウム粒子が、ケイ素化合物で表面を被覆したポリリン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の発泡性耐火塗料。
【請求項7】
疎水性無機酸化物微粒子が、疎水性のシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の発泡性耐火塗料。
【請求項8】
疎水性無機酸化物微粒子で被覆したポリリン酸アンモニウムの平均粒子径が3〜35μmである請求項1乃至7のいずれか1項記載の発泡性耐火塗料。
【請求項9】
疎水性無機酸化物微粒子の平均粒子径が0.001〜5μmである請求項1乃至8のいずれか1項記載の発泡性耐火塗料。
【請求項10】
更に、発泡剤及び炭素形成剤を含有する請求項1乃至9のいずれか1項記載の発泡性耐火塗料。

【公開番号】特開2007−169496(P2007−169496A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369985(P2005−369985)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】