説明

発泡樹脂組成物及びこれを用いた発泡樹脂体並びに発泡絶縁電線

【課題】気泡径が小さく、発泡度が高く、発泡度が均一で低誘電率な発泡絶縁体を製造可能な発泡樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ベース樹脂に対して異種の高分子材料を混練した発泡樹脂組成物であって、異種の高分子材料の融点がベース樹脂の融点と発泡樹脂組成物の加工温度の範囲内にあるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース樹脂に異種の高分子材料を混練した発泡樹脂組成物及びこれを用いた発泡樹脂体並びに発泡絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信網の発達に伴い、通信用電線は高速化、大容量化が求められている。
【0003】
高速化、大容量化を実現するため、高速伝送用電線では、外来ノイズに強い2芯1組の電線に正と負の電圧をかける差動伝送方式が採用されることが多い。
【0004】
このような高速伝送用電線では、高周波での遅延時間差などの特性を向上させるため、絶縁体の低誘電率化が求められており、絶縁体を発泡させて、誘電率を低くする方法が一般に用いられている。
【0005】
発泡絶縁体の誘電率は発泡度が高いほど低くなるため、高い発泡度が要求されている。
【0006】
差動伝送方式では、2本の芯線が信号を伝達するのに要する時間の差(遅延時間差:スキュー)を小さくすることが求められている。
【0007】
2本の芯線が信号を伝達する速度は、導体を被覆している発泡絶縁体の誘電率に依存するため、誘電率が均一すなわち発泡度が均一であることが必要になる。
【0008】
理想的な発泡体は、気泡径が均一な気泡が均等に分布しているものである。
【0009】
発泡度が同じならば、気泡径が小さいほど、発泡数は大きくなるため、個々の気泡の発泡度に対する寄与が小さくなる。
【0010】
すなわち気泡径が小さく、気泡数が多い発泡体であれば、わずかな気泡数の変動は無視し得ることになる。
【0011】
そのため、気泡径を均一に小さく揃えた気泡で構成された発泡体ほど、発泡度が均一なすなわち誘電率が均一な発泡絶縁体が得られると考えられている。
【0012】
副次的な効果として、発泡径を均一に小さく揃えるほど、屈曲時の応力が分散しやすいため、機械的強度の安定性も向上すると期待できる。
【0013】
以上のように、差動伝送方式に用いる電線用の発泡絶縁体は気泡径を小さく揃えて、発泡度を均一にすることが有効である。
【0014】
上述のように、高速伝送のためには、導体を被覆する発泡絶縁体の誘電率が低いことが求められ、差動伝送方式では誘電率が均一であることを求められる。
【0015】
更に、電線は曲げて使われることが多いため、発泡絶縁体には機械的強度が求められる。
【0016】
以上から、差動伝送方式を採用する高速伝送用電線に用いられる発泡絶縁体は発泡度が高く、発泡度が均一で、気泡径が小さいことが求められる。
【0017】
発泡絶縁体を形成する際の発泡方式としては、一般に、化学発泡剤を用いる方法(化学発泡)と、成形機(発泡押出機)の中で溶融樹脂中にガスを注入して成形機内外の圧力差によって発泡させる方法(物理発泡)がある。
【0018】
化学発泡は簡便に発泡度変動の少ない発泡絶縁体が得られる利点はあるが、高い発泡度を達成することが困難なこと、発泡剤の残渣は誘電率が高いことが多いため発泡度に比較して発泡絶縁体の誘電率が大きくなるなどの問題がある。
【0019】
このため、高速伝送用の電線やケーブルでは、物理発泡方式で製造された発泡絶縁体を用いることが多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2005−271504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
物理発泡においては、発泡核剤と呼ばれる有機物・無機物の粒子をベース樹脂中に混合することが多いが、発泡核剤は、ベース樹脂よりも誘電率が高いことが多く、発泡度に比較して発泡絶縁体の誘電率が大きくなる、微粒子の発泡核剤は凝集力が強く、ベース樹脂中で凝集したまま存在するため、添加量と比較して、発泡核剤の粒子数が減少する、などの問題がある。
【0022】
そのため、添加量に比較して気泡径が大きく、発泡度が低く、発泡度が不均一になってしまう問題が生じてしまうことがあった。
【0023】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、気泡径が小さく、発泡度が高く、発泡度が均一で低誘電率な発泡絶縁体を製造可能な発泡樹脂組成物及びこれを用いた発泡樹脂体並びに発泡絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を達成するために、前記発泡核剤に比べて低誘電率であり、混練によってベース樹脂中に均一に分散する異種の高分子材料をベース樹脂に混練し、両者の物性の違いを利用しその界面で気泡を発生させ、気泡径が小さく、発泡度が高く、発泡度が均一で低誘電率である発泡絶縁体を製造することを鋭意検討し、本発明に至ったものである。
【0025】
請求項1の発明は、ベース樹脂に対して異種の高分子材料を前記ベース樹脂に混練してなり、所定の加工温度で加工すると共に発泡ガスを注入することで、前記ベース樹脂中に分散した前記異種の高分子材料の周囲から発泡させて発泡体を形成するための発泡樹脂組成物であって、前記異種の高分子材料の融点が前記ベース樹脂の融点と前記加工温度の範囲内にある発泡樹脂組成物である。
【0026】
請求項2の発明は、ベース樹脂に対して異種の高分子材料を前記ベース樹脂に混練してなり、所定の加工温度で加工すると共に発泡ガスを注入することで、前記ベース樹脂中に分散した前記異種の高分子材料の周囲から発泡させて発泡体を形成するための発泡樹脂組成物であって、前記異種の高分子材料のガラス転移点が前記ベース樹脂の融点と前記加工温度の範囲内にある発泡樹脂組成物である。
【0027】
請求項3の発明は、前記ベース樹脂と前記異種の高分子材料全体100mass%に対して、前記異種の高分子材料が0.1mass%以上45mass%以下である請求項1又は2に記載の発泡樹脂組成物である。
【0028】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発泡樹脂組成物を発泡させてなる発泡樹脂体である。
【0029】
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発泡樹脂組成物を発泡押出し、導体の外周に発泡絶縁体を被覆したことを特徴とする発泡絶縁電線である。
【0030】
請求項6の発明は、前記発泡絶縁体の発泡度が50%以上90%以下である請求項5に記載の発泡絶縁電線である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、気泡径が小さく、発泡度が高く、発泡度が均一で低誘電率な発泡絶縁体を製造可能な発泡樹脂組成物及びこれを用いた発泡樹脂体並びに発泡絶縁電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発泡絶縁電線の横断面図である。
【図2】本発明の発泡樹脂組成物を用いて発泡絶縁体を形成した同軸ケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0034】
まず、本発明の発泡樹脂組成物を説明する。
【0035】
本実施の形態に係る発泡樹脂組成物は、ベース樹脂に対して異種の高分子材料を混練したものである。
【0036】
ベース樹脂としては、ポリオレフィン樹脂やフッ素系樹脂を用いるとよい。
【0037】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、インプラント型TPO、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−ペンテン共重合体などを用いるとよい。
【0038】
PEとしては、超高分子PE、高密度PE、中密度PE、低密度PE、直鎖状低密度PE、超低密度PEなどが挙げられる。PPとしては、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、イソタクチックポリプロピレンなどが挙げられる。
【0039】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリビニルフロライド(PVF)が挙げられる。これらを単独または複数種類組み合わせて用いるとよい。
【0040】
特に低密度PEと高密度PEを混合した樹脂が好適である。
【0041】
ベース樹脂としては、例えば、全樹脂組成物に対してHDPE10〜90mass%程度、LDPE90〜10mass%程度を混合したものを用いるとよい。
【0042】
本実施の形態では、全樹脂組成物に対してHDPE0〜99.9mass%、LDPE99.9〜0mass%を混合したものを用いた。
【0043】
ベース樹脂には、電気絶縁用途として添加可能な着色剤、酸化防止剤、粘度調整剤、補強材、充填剤、可塑剤(軟化剤)、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、架橋助剤、発泡助剤、加工助剤、老化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、界面活性剤、相容化剤(相溶化剤)、その他の添加剤を適宜加えてもよい。
【0044】
難燃剤としては、金属水酸化物、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ酸化合物、モリブデン化合物などを挙げることができ、環境配慮の観点から金属水酸化物が好適である。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムが挙げられ、難燃化効果の高い水酸化マグネシウムが好適である。
【0045】
ベース樹脂をポリオレフィン樹脂とした場合には、異種の高分子材料としては、ポリブチレン、セルロース、酢酸セルロース、酪酢酸セルロース、ポリ乳酸が挙げられるが、これら以外であってもガラス転移点または融点がベース樹脂の融点から発泡樹脂組成物の加工温度の範囲内にあるものであれば用いることができる。
【0046】
ここで、発泡樹脂組成物の加工温度とは、発泡押出機のネック部に穴を開け、熱電対を挿入して測定した押出機内の樹脂の温度のことである。
【0047】
異種の高分子材料は、混合される全樹脂組成物100mass%に対して、0.1mass%以上45mass%以下添加されるとよい。
【0048】
これは、異種の高分子材料の添加量(濃度)が0.1mass%未満であると、気泡径および発泡度が異種の高分子材料未添加の場合と同等となることが多く、45mass%を超えると、電気特性や機械的強度に悪影響を与えることが多いためである。
【0049】
異種の高分子材料の添加量は、全樹脂組成物に対して、好ましくは0.5mass%以上40mass%以下であり、より好ましくは1mass%以上25mass%以下であるが、これに限られず、発泡樹脂組成物を用いて作製する発泡絶縁体の厚さ、発泡度、要求される各種特性に応じて適宜選択するようにすればよい。
【0050】
本実施の形態に係る発泡樹脂組成物の製造方法を説明する。
【0051】
本実施の形態に係る発泡樹脂組成物の製造方法では、異種の高分子材料を、ベース樹脂に混練する。
【0052】
異種の高分子材料のベース樹脂への添加方法については多数の方法が考えられるが、一例として、ドライブレンド方式、マスターバッチ(MB)方式やフルコンパウンド方式が挙げられる。
【0053】
ドライブレンド方式では、異種の高分子材料とベース樹脂を直接、成形機(例えば、発泡押出機)へ供給する。
【0054】
MB方式では、例えば、異種の高分子材料をベース樹脂の一部またはベース樹脂を構成する樹脂材料の一部またはベース樹脂と全く別の樹脂に混練機などを用いて混合してMBを作製し、作製したMBと異種の高分子材料を含まないベース樹脂とを成形機(例えば、発泡押出機)内で混合して発泡樹脂組成物を得る。
【0055】
フルコンパウンド方式では、任意の方法でベース樹脂に異種の高分子材料が所定量混練されたフルコンパウンドを作製し、作製したフルコンパウンドを成形機(例えば、発泡押出機)へ供給する。
【0056】
以上に挙げたものが代表的な異種の高分子材料とベース樹脂の混練方法であるが、異種の高分子材料とベース樹脂の混練方法について特に規定するものではない。
【0057】
本実施の形態に係る発泡樹脂組成物の作用を説明する。
【0058】
異種の高分子材料とベース樹脂を混練することで、ベース樹脂と異種の高分子材料の界面が生じる。
【0059】
発泡樹脂組成物の加工時には、発泡ガスが異種の高分子材料とベース樹脂に溶解する。
【0060】
発泡樹脂組成物が発泡押出機から押し出されて冷却される際には、異種の高分子材料のガラス化または結晶化はベース樹脂の結晶化よりも早く生じる。
【0061】
異種の高分子材料のガラス化または結晶化に伴い、異種の高分子材料に溶解していた発泡ガスは異種の高分子材料から追い出される。
【0062】
その結果、異種の高分子材料との界面付近のベース樹脂の発泡ガス濃度が高まる。そのため、この領域において気泡が発生しやすくなり、界面が気泡の発生する起点となると考えられる。
【0063】
すなわち、従来有機物・無機物の微粒子を発泡核剤に用いていた場合に生じていた微粒子の添加量に比較して気泡径が大きく、発泡度が不均一で、発泡度が低くなってしまう問題が生じることなく、気泡径が小さく、発泡度が均一で、発泡度が高く、低誘電率である、発泡樹脂体(発泡絶縁体)を製造することが可能である。
【0064】
次に、本発明の発泡樹脂組成物を用いた発泡絶縁電線を説明する。
【0065】
図1は、本実施の形態に係る発泡絶縁電線の横断面図である。
【0066】
図1に示すように、発泡絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周に被覆された発泡絶縁体3とからなる。
【0067】
導体2は、単線あるいは撚線の銅線からなる。導体2としては、銅線以外にもアルミニウム線、銀線、各種合金線や、場合によってはチューブ状導体も用いることができる。また、表面にアルミニウム、銀、錫、その他任意の種類のめっきを施してもよい。アルミニウム線の表面に銅を被覆した銅被覆アルミニウム線を用いることも可能である。
【0068】
発泡絶縁体3は、本発明の発泡樹脂組成物を成形機(例えば、発泡押出機)に投入すると共に、発泡ガスを成形機の内部に圧入して発泡押出をして、導体2の外周に押出被覆したものであり、多数の気泡を含有する。
【0069】
発泡絶縁体3は、単一層でも複数の発泡層を組み合わせてもかまわない。更に、発泡絶縁体3の内周部、外周部に、発泡していない、または発泡層と比較して発泡度が小さい被覆層を形成してもよい。
【0070】
発泡絶縁体3の発泡度は、50%以上90%以下であるとよい。これは、発泡絶縁体3の発泡度が50%未満であると、発泡絶縁体3の誘電率が高くなってしまい、90%を超えると機械的強度が低くなることが多いためである。しかしながら、本発明はこれに限らず、発泡絶縁体3の要求される各種特性に応じて適宜変更可能である。
【0071】
本実施の形態に係る発泡絶縁電線1では、発泡絶縁体3は、本発明の発泡樹脂組成物からなるため、気泡径が小さく、発泡度が均一で、発泡度が高く、低誘電率である。
【0072】
すなわち、本実施の形態に係る発泡絶縁電線1は、低スキューであり、高速伝送用電線として好適である。
【0073】
また、本発明は、発泡絶縁電線1に限らずケーブル(例えば、同軸ケーブル)にも適用である。
【0074】
図2に示すように、本実施の形態に係る同軸ケーブル21は、発泡絶縁体3の内周部、外周部に、発泡していないまたは発泡絶縁体3と比較して発泡度が小さい内部スキン層22、外部スキン層23をそれぞれ形成し、外部スキン層23の外周に外部導体24、シース25を順次形成したものである。
【0075】
外部導体24は、用途や必要性能に応じて極細金属線による横巻、編組、金属微粒子の焼付け、あるいは金属箔・金属板の巻付けなどを任意に選択することができる。
【0076】
また、内部スキン層22、あるいは外部スキン層23を省略することも可能である。
【0077】
シース25の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレンといったポリオレフィンやフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなど任意の材料を用いることができ、必要に応じて着色剤、酸化防止剤、粘度調整剤、補強材、充填剤、可塑剤(軟化剤)、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、架橋助剤、発泡助剤、加工助剤、老化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、界面活性剤、相容化剤(相溶化剤)、その他の添加剤を適宜加えてもよい。
【0078】
本実施の形態に係る同軸ケーブル21は、その発泡絶縁体3に本発明の発泡樹脂組成物を用いているため、図1の発泡絶縁電線1と同様に、低スキューである。
【0079】
ここでは、一例として同軸ケーブル21を説明したが、これに限定されるものではなく、その構造は任意である。
【実施例】
【0080】
本発明の実施例と比較例を以下に示す。
【0081】
実施例および比較例で試作した発泡絶縁電線の製造条件と目標値を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例、比較例で使用している単軸混練機については、以下の通りである。
口径:40mm
L/D:29
【0084】
「気泡径」については、まず、試作した発泡絶縁電線から、十分に間隔(1000m以上)を空けて採取した5試料断面をSEM(日立ハイテクノロジーズ社製:SN−3000)にて撮影する。
【0085】
その後、画像解析ソフト(三谷商事製:WinROOF)に基準スケールを読み込ませて、画素(ピクセル)あたりの長さを算出させた上で、撮影したSEM画像を読み込ませ、主に手動で気泡外郭を指定し、気泡面積を算出させると共に、同面積の円を仮定した場合の直径(円相当径)を計算した。
【0086】
撮影した5枚のSEM画像のそれぞれに含まれる気泡の平均円相当径と、5枚のSEM画像全てに含まれる気泡の平均円相当径を算出した。
【0087】
気泡径100μm以下を合格(○)とし、それ以外を不合格(×)とした。
【0088】
「発泡度変動」については、電線試作時の発泡度データから、全て同一の長さ(10000m)部分の発泡度の変動値を比較した。
【0089】
具体的には、発泡絶縁電線の試作時に、静電容量と外径を1s間隔で測定しておき、導体径、外径、静電容量、ベース樹脂の比誘電率より、各瞬間の発泡度を算出する。
【0090】
算出した発泡度の最大値と最低値が、平均値に対してどの程度変動しているかを求め、これを発泡度の変動値とした。
【0091】
実施例と比較例では、平均発泡度が60%になるように製造していることから、変動値のみを表示した。
【0092】
発泡度59.0〜61.0%を合格(○)とし、それ以外を不合格(×)とした。
【0093】
実施例、比較例の構成と評価結果を表2、表3に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
ベース樹脂の融点が異種の高分子材料の融点を下回る実施例1とベース樹脂の融点が異種の高分子材料の融点を上回る比較例1とを比べると気泡径、発泡度変動の全てにおいて実施例1が優れている。
【0097】
これは実施例1では、樹脂の押出成形の際に、異種の高分子材料の結晶化がベース樹脂の結晶化よりも早く生じ、異種の高分子材料から発泡ガスが追い出されて、異種の高分子材料との界面付近のベース樹脂の発泡ガス濃度が高まり、気泡が発生するのに対し、比較例1では、異種の高分子材料とベース樹脂の結晶化の順序が逆であるために界面付近で気泡が発生しなかったためであると考えられる。
【0098】
樹脂核剤濃度を1mass%とした実施例2と比較例2,樹脂核剤濃度を20mass%とした実施例3と比較例3、樹脂核剤濃度を45mass%とした実施例4と比較例4を比較しても、同様のことが言える。
【0099】
発泡樹脂組成物の加工温度が異種の高分子材料の融点を上回る実施例5と発泡樹脂組成物の加工温度が異種の高分子材料の融点を下回る比較例5とを比べると気泡径、発泡度変動の全てにおいて実施例5が優れている。
【0100】
これは実施例5では、樹脂の押出成形の際に、異種の高分子材料に発泡ガスが溶解し、気泡が発生するのに対して、比較例5では、異種の高分子材料に発泡ガスが溶解せず気泡が発生しないためであると考えられる。
【0101】
樹脂核剤濃度を1mass%とした実施例6と比較例6、樹脂核剤濃度を20mass%とした実施例7と比較例7、樹脂核剤濃度を45mass%とした実施例8と比較例8を比較しても、同様のことが言える。
【0102】
以上から、混練によってベース樹脂中に均一に分散する異種の高分子材料をベース樹脂に混練し、両者の物性の違いを利用してその界面で気泡を発生させる本発明によれば、簡便な方法で、低コストで、発泡度が高く、気泡径が小さい発泡樹脂(発泡絶縁体)を製造可能な発泡樹脂組成物が得られることがわかる。
【0103】
したがって、本発明の発泡樹脂組成物を用いて発泡絶縁体を形成することにより、高速伝送用電線を製造することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 発泡絶縁電線
2 導体
3 発泡絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂に対して異種の高分子材料を前記ベース樹脂に混練してなり、所定の加工温度で加工すると共に発泡ガスを注入することで、前記ベース樹脂中に分散した前記異種の高分子材料の周囲から発泡させて発泡体を形成するための発泡樹脂組成物であって、前記異種の高分子材料の融点が前記ベース樹脂の融点と前記加工温度の範囲内にあることを特徴とする発泡樹脂組成物。
【請求項2】
ベース樹脂に対して異種の高分子材料を前記ベース樹脂に混練してなり、所定の加工温度で加工すると共に発泡ガスを注入することで、前記ベース樹脂中に分散した前記異種の高分子材料の周囲から発泡させて発泡体を形成するための発泡樹脂組成物であって、前記異種の高分子材料のガラス転移点が前記ベース樹脂の融点と前記加工温度の範囲内にあることを特徴とする発泡樹脂組成物。
【請求項3】
前記ベース樹脂と前記異種の高分子材料全体100mass%に対して、前記異種の高分子材料が0.1mass%以上45mass%以下である請求項1又は2に記載の発泡樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の発泡樹脂組成物を発泡させてなることを特徴とする発泡樹脂体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の発泡樹脂組成物を発泡押出し、導体の外周に発泡絶縁体を被覆したことを特徴とする発泡絶縁電線。
【請求項6】
前記発泡絶縁体の発泡度が50%以上90%以下である請求項5に記載の発泡絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162721(P2011−162721A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29298(P2010−29298)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】